上記従来技術は、測定した複数の原子炉データから減速材温度係数の値を精度高く算出する方法について提案しているが、次の制御棒操作に備えて、減速材温度係数が正であるか負であるかを可能な限り早く把握する点については配慮がされていない。
しかしながら、原子炉の運転操作にあたる運転員にとって、減速材温度係数の値が高い精度であるか否かは特に必要なことではなく、次の制御棒操作に備えて、減速材温度係数が正であるか負であるかを可能な限り早く把握することが重要事項である。
ここで減速材温度係数が負になっている炉心の場合、臨界到達直後や温度一定状態から昇温昇圧を開始したとすると、その初期の段階では原子炉周期の大きさに相当する正の反応度を有しているが、やがて燃料温度の上昇に伴うドップラー効果により負の反応度が徐々に加わるようになる。
そして、燃料の熱が、減速材でもある冷却材の温度を上昇させる段階に至ると、減速材温度係数が負であることにより更に負の反応度が加わり、一旦、上昇した中性子束は極大値を経て降下した後に平定する。このとき炉水温度変化率も中性子束に対する時間遅れを伴って極大値をとり、次いで降下して平定するような振る舞いをする。
ところで、このような減速材温度係数が負の場合の昇温昇圧操作では、制御棒引抜き後に中性子束が極大値を経て低下するので、炉水温度変化率が極端に過大になるようなこともないことから、運転員は、中性子束の低下を待って更に制御棒を引抜くような操作を行えばよく、従って、中性子束の監視は比較的容易に行うことができる。また、このとき、炉水温度変化率を目標値近くで制御することについても、制御棒引抜き操作の間隔を調整することで比較的容易に行うことができる。
一方、減速材温度係数が正である炉心の場合、昇温昇圧操作を行うと、炉水温度上昇に伴う正の反応度フィードバックによって中性子束が更に上昇する状態が起こってしまい、このため、臨界到達時の制御棒挿入状態で放置したとすると、加熱源である中性子束が必要以上に高くなってしまい、この結果、炉水温度変化率が管理基準を超過してしまう虞があり、従って、減速材温度係数が正の場合には、運転員による制御棒挿入操作により強制的に中性子束の極大値を発生させる必要がある。
しかしながら、ここのときの制御棒挿入操作にはタイミングが大きな要素になり、タイミングが早すぎると原子炉昇温に必要な適度に正である反応度を与えることができず、昇温昇圧に多くの時間を要してしまい、反対に制御棒の挿入が遅れると炉水温度変化率が過大になってしまう。
このため運転員に対しては、中性子束が必要以上に過大にならないように絶えず監視しながら、操作タイミングを適切に判断して制御棒操作を行うことが求められるが、しかし、次のような理由から、制御棒の挿入操作を適切なタイミングで行うのは容易ではない。
すなわち、中性子束の監視は起動領域中性子モニタなどの中性子検出器の指示値に基づいて行われるので、このときに中性子束の絶対値を把握するには、中性子検出器の指示値について予め適切な較正が必要である。
また、炉水温度変化率を判断指標として制御棒操作を判断しようとしたときにも以下のような難しさがある。まず、炉水温度変化率を算出する基となる炉水温度に関して、沸騰水型原子炉では炉心内の冷却材温度を直接測定することができない。このため原子炉圧力容器から引き出した配管内の水の温度を測定し炉水温度としているが、この場合、計測した温度は炉水温度に対して時間遅れを持ち、且つ炉水温度検出器での計測における時間遅れもあるので、判断に遅れが生じて、制御棒の挿入操作タイミングに間に合わせられない。
また、炉水温度変化率は、変化率演算に必要な一定時間のデータを必要とすることから、これに起因する時間遅れもあり、中性子束の挙動に対して相当な時間遅れを伴うので、タイミング合わせは更に困難になる。
また、前述のように昇温昇圧開始後の初期の段階では、中性子束は炉水を加熱するのに充分なレベルではないため、中性子束が充分なレベルまで上昇して炉水温度変化率を目標値に近接させるまでには時間を要する。この場合も炉水温度変化率が中性子束の変化に対して時間遅れを伴う。
従って、従来技術の場合、現在の中性子束に基づいて数分から十数分後の炉水温度変化率を予想しながら制御棒を操作する必要があり、このため運転員には高度の熟練が要求される。
このとき、減速材温度係数が負正の何れであるのか判断が難しい場合には、中性子束が適度なレベルで極大値をとるのか、或いは上昇し過ぎてしまうのかの判断がつかないので、熟練した運転員でも制御棒操作が遅れてしまう可能性があり、このような理由から、上記のような中性子束過大化防止のための操作は、運転員の負担を大きくしている。
このように減速材温度係数が正の場合と負の場合とでは、昇温昇圧操作の難易度が相違する。また、減速材温度係数が正であるか負であるかは、中性子束や炉水温度変化率などの監視に用いることが可能な限られた情報から判断することは容易ではなく、これらを連続的かつ複合的に監視することによって行なう必要がある。
従って、運転員が減速材温度係数が正であることを瞬時に判断し、必要な制御棒の挿入操作を行うには更に熟練を要することになり、これも、運転員の負担を大きくしているが、しかし、従来技術では、減速材温度係数が負正の何れであるのかの判断については配慮がされていなかった。
本発明は、以上のような知見に基づいてなされたもので、その目的は、制御棒操作による出力制御が必要となる前に減速材温度係数の正負を判定する方法及び装置を提供することにある。
上記目的は、原子炉から検出された中性子束から原子炉周期を算出し、前記原子炉の制御棒駆動停止状態が継続している間に検出された炉水温度に生じた炉水温度差を算出し、前記原子炉周期の逆数が予め設定してある設定値b以上にあること、前記炉水温度差が予め設定してある設定値d以上にあること、及び前記制御棒駆動停止状態が予め設定してある設定値a以上継続していることを条件として減速材温度係数が正値であると判定する際、前記設定値bとして、中性子束が上昇中で炉心に正の反応度が印加された状態にあるものと見做すことができる原子炉周期の逆数値を設定し、前記設定値dとして、炉水温度の上昇が前記原子炉の減速材の温度上昇によって反応度が印加された結果と見做すことができる炉水温度の上昇値を設定し、前記設定値aとして、制御棒以外の反応度要因によって中性子束が変化している状態にあるものと見做すことができる時間を設定したことにより達成される。
これを実施形態に則していえば、原子炉から検出された中性子束から原子炉周期を算出し、制御棒駆動停止の状態が継続している間に検出された炉水温度に生じた炉水温度差を算出し、前記原子炉周期の逆数が予め設定しておく設定値以上にあること、前記炉水温度差が予め設定しておく設定値以上にあること、及び制御棒駆動停止の状態が一定時間以上継続していることを条件として減速材温度係数が正値であると判定することにより上記目的が達成されるようにしている。
このとき、第1の判定方法としては、まず、制御棒駆動停止状態が一定時間(例えば10分程度)以上継続していることによって制御棒操作による反応度印加の応答時間の目安を過ぎていることをみる。原子炉周期の逆数が設定値以上であることによって中性子束が上昇中であることをみる。制御棒駆動が停止を開始してからの炉水温度差が設定値(ただし正値)以上であることによって、減速材温度の上昇による反応度が印加されていることをみる。
上記3条件が成立するときは、炉水温度差による正の反応度印加によって中性子束が継続して上昇中であり、従って、減速材温度係数が正であると判定するのである。
上記目的は、原子炉から検出された中性子束から原子炉周期を算出し、制御棒駆動停止状態が継続している間に検出された炉水温度に生じた炉水温度差を算出し、前記原子炉周期の逆数が予め設定してある設定値c未満であること、前記炉水温度差が予め設定してある設定値d以上にあること、前記制御棒駆動停止状態が予め設定してある設定値a以上継続していること、及び制御棒の停止前最終駆動方向が予め設定してある設定値g方向であったことを条件として減速材温度係数が負値であると判定する際、前記設定値cとして、中性子束が下降中で炉心に負の反応度が印加された状態にあるものと見做すことができる原子炉周期の逆数値を設定し、前記設定値dとして、炉水温度の上昇が前記原子炉の減速材の温度上昇によって反応度が印加された結果と見做すことができる炉水温度の上昇値を設定し、前記設定値aとして、制御棒以外の反応度要因によって中性子束が変化している状態にあるものと見做すことができる時間を設定し、前記設定値gとして、制御棒が引き抜き方向にあることを表わす値を設定したことによっても達成される。
これを実施形態に則していえば、原子炉から検出された中性子束から原子炉周期を算出し、制御棒駆動停止の状態が継続している間に検出された炉水温度に生じた炉水温度差を算出し、前記原子炉周期の逆数が予め設定しておく設定値より低いこと、前記炉水温度差が予め設定しておく設定値以上にあること、制御棒駆動停止の状態が一定時間以上継続していること、及び停止継続している制御棒の停止前最終駆動が引抜き方向であったことを条件として減速材温度係数が負値であると判定するのである。
この方法では、まず、制御棒駆動停止状態が一定時間(例えば10分程度)以上継続していることによって制御棒操作による反応度印加の応答時間の目安を過ぎていることをみる。制御棒駆動が停止を開始してからの炉水温度差が設定値(ただし正値)以上であることによって、減速材温度の上昇による反応度が印加されていることをみる。原子炉周期の逆数が設定値より小さいことによって中性子束が下降中、すなわち負の反応度が印加されていることをみる。制御棒の停止前最終駆動が引抜き方向にあることによって一旦制御棒による正の反応度印加がなされた後に中性子束が降下しているということをみる。
そして、上記4条件が成立するときは、炉水温度が上昇するのに伴って負の反応度印加によって中性子束が下降中であり、従って、減速材温度係数が負であると判定するのである。
上記目的は、原子炉から検出された中性子束から原子炉周期を算出し、検出された炉水温度から炉水温度変化率を算出し、前記原子炉周期の逆数が予め設定してある設定値b以上にあること、前期炉水温度変化率が予め設定してある設定値f以上であること、及び制御棒駆動停止状態が予め設定してある設定値a以上継続していることを条件として減速材温度係数が正値であると判定する際、前記設定値bとして、中性子束が上昇中で炉心に正の反応度が印加された状態にあるものと見做すことができる原子炉周期の逆数値を設定し、前記設定値fとして、炉水温度の上昇が前記原子炉の減速材の温度上昇によって反応度が印加された結果と見做すことができる炉水温度変化率を設定し、前記設定値aとして、制御棒以外の反応度要因によって中性子束が変化している状態にあるものと見做すことができる時間を設定したことによっても達成される。
これを実施形態に則していえば、原子炉から検出された中性子束から原子炉周期を算出し、検出された炉水温度から炉水温度変化率を算出し、前記原子炉周期の逆数が予め設定しておく設定値以上にあること、前期炉水温度変化率が予め設定しておく設定値以上であること、及び制御棒駆動停止の状態が一定時間以上継続していることを条件として減速材温度係数が正値であると判定するのである。
この判定方法では、まず、制御棒駆動停止状態が一定時間(例えば10分程度)以上継続していることによって制御棒操作による反応度印加の応答時間の目安を過ぎていることをみる。原子炉周期の逆数が設定値以上であることによって中性子束が上昇中であることをみる。炉水温度変化率が設定値以上であることによって、炉水が昇温されて正の反応度が印加されていることをみる。
そこで、これら3条件が成立するときは、減速材温度係数が正であると判定するのである。
上記目的は、原子炉から検出された中性子束から原子炉周期を算出し、検出された炉水温度から炉水温度変化率を算出し、前記原子炉周期の逆数が予め設定してある設定値より低いこと、前期炉水温度変化率が予め設定してある設定値以上であること、制御棒駆動停止状態が一定時間以上継続していること、及び制御棒の停止前最終駆動が引抜き方向であったことを条件として減速材温度係数が負値であると判定することによっても達成される。
これを実施形態に則していえば、原子炉から検出された中性子束から原子炉周期を算出し、検出された炉水温度から炉水温度変化率を算出し、前記原子炉周期の逆数が予め設定しておく設定値より低いこと、前期炉水温度変化率が予め設定しておく設定値以上であること、制御棒駆動停止の状態が一定時間以上継続していること、および停止継続している制御棒の停止前最終駆動が引抜き方向であったことを条件として減速材温度係数が負値であると判定するのである。
この方法では、まず、制御棒駆動停止状態が一定時間(例えば10分程度)以上継続していることによって制御棒操作による反応度印加の応答時間の目安を過ぎていることをみる。炉水温度変化率が設定値(ただし正値)以上であることによって、減速材温度の上昇による反応度が印加されていることをみる。原子炉周期の逆数が設定値より小さいことによって中性子束が下降中、すなわち負の反応度が印加されていることをみる。制御棒の停止前最終駆動が引抜き方向にあることによって一旦制御棒による正の反応度印加がなされた後に中性子束が降下しているということをみる。
上記4条件が成立するときは、炉水温度が上昇するのに伴って負の反応度印加によって中性子束が下降中であり、従って、減速材温度係数が負であると判定するのである。
次に、上記目的は、上記の第1の方法に用いられる温度係数判定装置を、中性子束検出手段、炉水温度検出手段、原子炉周期算出手段、炉水温度差算出手段、及び制御棒駆動停止時間算出手段を備えた構成とすることによっても達成される。
また、上記目的は、上記の第2の方法に用いられる温度係数判定装置を、中性子束検出手段、炉水温度検出手段、原子炉周期算出手段、炉水温度差算出手段、制御棒駆動停止時間算出手段、及び制御棒の停止前最終駆動方向を記憶する手段を備えた構成とすることによっても達成される。
同じく、上記目的は、上記の第3の方法に用いられる温度係数判定装置を、中性子束検出手段、炉水温度検出手段、原子炉周期算出手段、炉水温度変化率算出手段、及び制御棒駆動停止時間算出手段を備えた構成とすることによっても達成される。
そして、更に上記目的は、上記の第4の方法に用いられる温度係数判定装置を、中性子束検出手段、炉水温度検出手段、原子炉周期算出手段、炉水温度変化率算出手段、制御棒駆動停止時間算出手段、及び制御棒の停止前最終駆動方向を記憶する手段を備えた構成とすることによっても達成される。
本発明によれば、原子炉の昇温昇圧操作において、制御棒操作による出力制御が必要となる前に減速材温度係数の正負が判定でき、従って、運転員の負担を軽減させることができる。
以下、本発明による減速材温度係数の正負判定方法と装置について、図示の実施の形態により詳細に説明する。ここで、まず、図1は本発明の第1の実施形態で、図示のように、この実施形態は、原子炉1の炉心2に対して制御棒4を挿入したり引抜いたりする制御棒駆動装置6と、この制御棒駆動装置6を制御する制御棒駆動制御器8を備えている。
このとき、制御棒駆動装置6は、水圧による流体圧駆動機構やモータによる電動駆動機構により構成されていて、制御棒駆動制御器8から与えられる信号に応じて動作し、制御棒4を炉心2に挿入したり、或いは炉心2から引抜いたりする働きをする。
そこで、制御棒駆動制御器8は、どのような順番で複数の制御棒4を操作するかを予め定めたリストと、複数ある駆動モードに対して1回の制御棒駆動信号では制御棒4をどれだけの量だけ操作するかを予め定めたリストを保有しており、運転員による操作スイッチ7からの操作指令入力に従って制御棒駆動装置6に制御棒駆動信号を出力する。
また、この実施形態では、原子炉1の炉心2に配置した中性子束検出器12と炉水の通路に配置した熱電対16を含む測定系から測定値を入力し、て減速材温度係数の正負を判定する温度係数判定器18が備えられていて、この温度係数判定器18は、温度検出器20と停止時間カウンタ23、駆動方向メモリ24、中性子束モニタ26、炉水温度差算出器29、正負判定器35、表示器36、それに報知器37を備えている。
そして、まず、温度検出器20には熱電対16から温度検出値が入力され、次に中性子束モニタ26には中性子束検出器12から中性子の検出値が入力される。また、停止カウンタ23と駆動方向メモリ24、それに炉水温度差算出器29には、制御棒駆動制御器8から制御棒の状態(制御棒挿入中、制御棒引抜き中、制御棒駆動完了、制御棒の現在位置)に関する信号が入力される。
このとき中性子束検出器12は、中性子束検出手段として機能するものであり、このため原子炉1の炉心2内に設置されている。そして、この中性子束検出器12は、単位時間当りの中性子束の数を計数し、その計数値を中性子束検出信号として中性子束モニタ26に出力する。
そこで、この中性子束モニタ26は、中性子束検出器12から入力された信号(計数値)を中性子束レベル(中性子束の検出値と炉心の定格出力の割合を%で表わしたもの=%定格)に変換すると共に、中性子束検出器12から入力された信号(計数値)から中性子束の時間変化率を表す指標である原子炉周期を演算する。そして、変換した中性子束レベルと演算した原子炉周期は正負判定器35に出力される。従って、この中性子束モニタ26は、原子炉周期算出手段としても機能することになる。
熱電対16は、原子炉10に接続されている配管内に設置されており、配管内の炉水の温度を検出し、検出温度に対応した信号を温度検出器20に出力する。そこで、温度検出器20は、熱電対16からの信号に対応した温度を算出し、それを正負判定器35と炉水温度差算出器29に出力する。従って、熱電対16と温度検出器20は、原子炉10内の炉水の温度を検出する炉水温度検出手段として機能する。
このとき停止時間カウンタ23は、制御棒駆動停止時間算出手段として機能する。そこで制御棒駆動制御器8が出力する制御棒の状態信号を入力し、制御棒が駆動停止状態を継続している時間をカウントして、このカウント結果を制御棒駆動停止時間として正負判定器35に出力する。そして、この制御棒駆動停止時間は、制御棒の駆動信号が入力されたとき0にリセットされる。
次に、駆動方向メモリ24は、制御棒の停止前最終駆動方向を記憶する手段として機能するもので、制御棒駆動制御器8から制御棒挿入中の状態信号、或いは制御棒引抜き中の状態信号が入力されるとメモリ内の駆動方向に関する状態値を最新状態に書き換え、これにより制御棒の最終駆動方向が挿入であったか引抜きであったかという情報を記憶する。そして、この記憶結果は正負判定器35に供給される。
また、炉水温度差算出器29は、炉水温度差算出手段として機能する。具体的には、温度検出器20の検出信号と制御棒駆動制御器8から出力される制御棒の状態信号を入力し、制御棒の状態が駆動完了となって、それが継続しているとき、制御棒駆動完了となったときを基準として炉水温度の差分を一定周期で計算し、その計算結果を炉水温度差(正なら炉水温度上昇、負なら炉水温度低下)として正負判定器35に出力する働きをする。
そして、ここで正負判定器35により、減速材温度係数の正負が判定されることになり、このため正負判定器35は、温度検出器20から供給される炉水温度と、炉水温度差算出器29から供給される炉水温度差、中性子束モニタ26から供給される中性子束レベルと原子炉周期、停止時間カウンタ23から供給される制御棒駆動停止時間、それに駆動方向メモリ24から供給される制御棒の停止前最終駆動方向を夫々入力とし、内蔵させてある判定ロジックにより減速材温度係数の正負を判定する。
このとき表示器36は、正負判定器35により判定された減速材温度係数の正負判定結果を表示する働きをするが、更に原子炉周期、炉水温度差、制御棒駆動停止時間、制御棒の停止前最終駆動方向を表示することもできる。
また、報知器37は、正負判定器35により判定された減速材温度係数の正負判定結果に基づき、減速材温度係数が正であるか負であるかを報知する働きをするが、このときの報知器37による報知の態様は、チャイム音の発生、監視パネルの点灯、音声によるガイドなどによって行う。
次に、正負判定器35に内蔵させてある判定ロジック(判定手段又は判定装置)について説明する。ここで、まず図2は、減速材温度係数が正値であることを判定するための判定ロジック(本発明における第1の判定方法又は判定装置)であり、次に図3は、減速材温度係数が負値であることを判定する場合の判定ロジック(本発明における第2の判定方法又は判定装置)である。
まず、図2の判定ロジックについて説明すると、これは、次の3つの判定による条件、すなわち制御棒駆動停止時間比較器41の判定と原子炉周期逆数比較器42の判定、及び炉水温度差比較器43の判定の3つの判定の全てが満足され、AND回路44によるアンド出力条件が成立したとき、温度係数「正」条件成立信号40を発生させるものである。
そして、表示器36と報知器37は、この温度係数「正」条件成立信号40を入力として動作し、減速材温度係数が正値であることを運転員に報知することになる。そこで、次に、前述の3つの条件について具体的に説明する。
まず、制御棒駆動停止時間比較器41では、停止時間カウンタ23から入力される制御棒駆動停止時間を、予め設定してある経過時間の設定値aと比較する。そして、制御棒駆動停止時間が設定値a以上であると判定されたとき、ON信号をAND回路44に出力するのである。
このときの設定値aは、制御棒操作による反応度印加の応答時間を過ぎていることを判断する目安となる値で、例えば10分間程度に設定されている。これは、この時間を過ぎているときは制御棒以外の反応度要因によって中性子束が変化する状態にあるものと見做すことができるからである。
次に、原子炉周期逆数比較器42では、中性子束モニタ26が出力する原子炉周期の逆数を、予め設定してある原子炉周期逆数の設定値bと比較し、原子炉周期逆数が設定値b以上であると判定されたとき、ON信号をAND回路44に出力する。
この原子炉周期逆数比較器42による判定は、原子炉周期が正であることを判定するものであり、これは、原子炉周期の逆数が設定値b以上にあるとき、中性子束は上昇中であり、炉心に正の反応度が印加された状態にあると見做すことができるからである。
また、炉水温度差比較器43では、炉水温度差算出器29が出力した炉水温度差を、予め設定してある炉水温度差の設定値dと比較し、炉水温度差が設定値d以上であると判定されたとき、ON信号をAND回路44に出力する。これは、炉水温度差の上昇が、減速材の温度上昇によって反応度が印加された結果と見做すことができるからである。
次に、図3の判定ロジック、つまり減速材温度係数が負値であることを判定するロジックについて説明すると、これは、次の4つの条件、すなわち制御棒駆動停止時間比較器41の判定と原子炉周期逆数比較器46の判定、炉水温度差比較器43の判定、それに制御棒最終駆動方向比較器47の判定の4つが全て満足され、AND回路48によるアンド出力条件が成立したとき、温度係数「負」条件成立信号45を発生させるものである。
そして、表示器36と報知器37は、この温度係数「負」条件成立信号45を入力として動作し、減速材温度係数が負値であることを運転員に報知することになる。そこで、次に、前記4つの条件について具体的に説明する。
ここで、制御棒駆動停止時間比較器41の判定と炉水温度差比較器43の判定は、図2の場合と同じである。すなわち、まず、制御棒駆動停止時間比較器41は、制御棒駆動停止時間が設定値a以上であると判定されたとき、ON信号をAND回路48に出力し、次に炉水温度差比較器43は、炉水温度差が設定値d以上であると判定されたとき、ON信号をAND回路48に出力するものである。
次に、原子炉周期逆数比較器46では、中性子束モニタ26が出力する原子炉周期の逆数を、予め設定してある原子炉周期逆数の設定値cと比較し、原子炉周期逆数が設定値c未満であると判定されたとき、ON信号をAND回路48に出力する。
この原子炉周期逆数比較器46による判定は、原子炉周期が負であることを判定するもので、これは、原子炉周期の逆数が設定値c未満にあるとき、中性子束は下降中であり、炉心に負の反応度が印加された状態にあると見做すことができるからであり、従って、設定値cは、原子炉周期が負であることが確実に判定できるものであればよい。
次に、制御棒最終駆動方向比較器47では、駆動方向メモリ24(図1)から制御棒最終駆動方向を読込み、予め設定してある引き抜き方向を表わす設定値gと比較し、駆動方向メモリ24から読込んだ制御棒最終駆動方向が設定値gと等しいと判定されたとき、ON信号をAND回路48に出力する。
従って、図2の判定ロジックによれば、減速材温度係数が正であることが判定でき、図3の判定ロジックによれば、減速材温度係数が負であることが判定できることになり、よって、これら図2と図3の判定ロジックを組み合わせてやれば、減速材温度係数の正負が判定できることになる。
既に説明したように、原子炉の昇温昇圧開始後の初期の段階では、中性子束が必要なレベルまで上昇して、炉水温度変化率が目標値に近接するまでには時間がかかることから、その間に減速材温度係数が負であるか正であるかの判断が難しい場合があるので、この場合には、中性子束の上昇を待つべきか制御棒挿入操作を行うべきかの判断がつかず、制御棒操作が遅れてしまう可能性がある。
このとき、上記第1の実施形態によれば、制御棒挿入操作が必要となるタイミングより前に減速材温度係数が正であることを運転員に報知することができる。そして、これにより、運転員は制御棒挿入操作に備えることができるので、制御棒挿入遅れによる炉水温度変化率の過大化を未然に防ぐことができ、運転員に係る監視のための負担も軽減される。
一方、このとき減速材温度係数が負であると判定され、それが報知された場合、運転員は、このことが早期に把握されたことにより、その後の昇温昇圧操作には、炉心の挙動に対して迅速性を要しないものであることが判り、このときも監視にあたっての負担が軽減されることになる。
そこで、次に、この実施形態により得られるタイミングの報知について、図4の評価例により説明する。ここで、この図4は、沸騰水型原子炉について、臨界操作直後の時点を時間の起点0として、これからの昇温昇圧の過程における中性子束レベルと炉水温度変化率の時間的な挙動をシミュレーションして評価したものである。
このとき、初期の炉水温度は80℃で、臨界過程終了直後の原子炉周期を約150秒、炉心の減速材温度反応度係数は正の値としている。そして、目標とする炉水温度変化率については30℃/hとしている。
そして、まず、図4の特性線A1は、この実施形態による減速材温度係数の正負判定結果を運転員が受けて、制御棒挿入操作が適切なタイミングでなされた場合の中性子束の時間変化特性であり、ここで中性子束が鋭角に低下している時点t2は、制御棒が挿入された時点であることを表している。ここで、特性線B1は、この場合の炉水温度変化率の時間変化で、特性線Eは図1の炉水温度差算出器29によって算出された炉水温度差である。
一方、特性線A2は、上記実施形態によらず、炉水温度上昇開始後において制御棒挿入の判断が遅れ、目標炉水温度変化率(30℃/h)に達してしまった時点t3において制御棒挿入を開始したと仮定した場合の中性子束の時間変化であり、特性線B2はこの場合の炉水温度変化率の時間変化である。
ここで破線Cによるレベルは、このときの炉水温度変化率の目標値である30℃/hを表わし、一点鎖線Dによるレベルは、炉水温度変化率の管理基準を表わしていて、この評価例では55℃/hを表わしている。
また、特性線Fは正負判定器35の判定ロジックにあるAND回路44(図2)のON/OFF出力で、初期から一定で推移している間はOFFであり、この値から上昇したときにONとなり、このとき温度係数「正」成立信号40が出力されることを表わしている。一方、特性線Gは、正負判定器35に内蔵された図3のAND回路48のON/OFF出力であり、これも、初期から一定で推移している間はOFFであり、この値から上昇したときにONとなり、このとき温度係数「負」成立信号45が出力されることを表わすが、ここではOFFのままである。
この図4の評価例によれば、起点0から約20分経過したところから特性線B1による炉水温度変化率が上昇し始めている。つまり、このとき図2の制御棒駆動停止時間比較器41と原子炉周期逆数比較器42が判定条件を満たしていることになる。
そして、更に約27分経過後の時刻t1において、炉水温度差が設定値(この例では1.5℃とした)以上となり、ここで炉水温度差比較器43の判定条件が満たされ、AND回路44のアンド条件が成立して温度係数「正」条件成立信号40が出力され、図1の表示器36と報知器37により、運転員に報知が可能になっていることが判る。
そうすると、この図4では、運転員が温度係数「正」の報知により制御棒挿入操作が必要であることを理解し得たのが時点t1であり、この報知時点t1から約3分後の時刻t2(約30分経過後)で運転員が制御棒挿入操作を開始したものとしてシミュレーションされていることになる。
従って、この実施形態によれば、制御棒挿入操作遅れが回避され、その後の昇温昇圧操作においても、特性線B1により表されているように、炉水温度変化率は管理基準Dを超えることなく、目標炉水温度変化率Cに沿った制御が、確実に実現できることが判る。
一方、本発明の実施形態によらず、炉水温度上昇開始後において、制御棒挿入の判断が遅れた場合の例では、特性線B2で表されている炉水温度変化率が破線Cで示されている目標炉水温度変化率に達した時点t3(約35分経過後)で、やっと制御棒挿入が必要であると判断できることになり、ここで操作を開始したものとなってしまう。
この場合、その後も制御棒の挿入を行ない、特性線A2で示してある中性子束を適正な大きさに近づけてゆくようにしているが、しかし、制御棒挿入開始した時点で既に加熱源である中性子束が上昇し過ぎていたことから、特性線B2で示されているように、その後の炉水温度変化率の過大化が避けられず、約43分経過後には最大となり、この場合、48℃/hにも達してしまう。そして、これは目標値30℃/hに対して18℃/hの超過になる。
しかして、この制御棒挿入が遅れた場合の評価例でも、その制御棒の操作遅れは、本発明の実施形態による場合に比べて約5分にすぎない。つまり、数分間の操作遅れでも炉水温度変化率に大きく影響してしまうことが判る。
一方、制御棒挿入のタイミングが早すぎた場合は、炉水温度変化率が低下しすぎてしまい、かえって起動操作が遅れてしまうことについては前述のとおりであり、従って、このことからも、減速材温度係数が正の場合には制御棒操作のタイミングが極めて重要な意味を持つことが判る。
このような減速材温度係数が正である炉心の特性は、前述の通り、操作を行う運転員に大きな負担をかけることになるが、この第1の実施形態によれば、制御棒操作が必要になる前に減速材温度係数の正負が判定されるため、制御棒操作遅れによる炉水温度変化率の過大化が未然に防止され、安全且つ適切な昇温昇圧操作を容易に行なうことができる。
ところで、この図4では減速材温度係数が正の場合の評価例を示したが、次に別の評価例として、図5に減速材温度反応度係数が負の場合の中性子束レベルと炉水温度変化率の時間的な挙動をシミュレーションした場合の評価例を示す。
この図5において、特性線H以外の他の特性や条件は、図4の場合と同じであるが、一応、簡単に説明すると、まず、特性線A1は、上記実施形態による減速材温度係数の正負判定を受けた結果、制御棒挿入操作が適切なタイミングでなされた場合の中性子束の時間変化であり、次に特性線B1は、この場合の炉水温度変化率の時間変化であり、特性線Eは炉水温度差算出器29(図1)によって算出された炉水温度差である。
なお、ここでも破線Cは炉水温度変化率の目標値30℃/hを表わすレベルで、一点鎖線Dは炉水温度変化率の管理基準を表わすレベルで、この評価例では55℃/hを表わすレベルになっている。そして、特性線Fが図2のAND回路44のON/OFF出力であり、特性線Gは、図3のAND回路48のON/OFF出力である。
そして、この図5の評価例において、特性線Hは、炉心から制御棒を引抜き操作した量、つまり制御棒引抜操作量を表したものであり、ここで階段状に上昇している部分は、制御棒の引抜き操作が行われたことを意味している。
そうすると、この図5の評価例では、特性線B1で示す炉水温度変化率が上昇し始める時点、つまり約20分経過後の時点では原子炉周期は正であり、従って、図2の判定ロジックの場合、制御棒駆動停止時間比較器41と原子炉周期逆数比較器42は判定条件を満たしている。しかし、その後の炉水温度の上昇に伴って原子炉周期は長くなり、従って原子炉周期逆数比較器42の出力がOFFとなる。
一方、図3の判定ロジックの場合、原子炉周期が負側に転じてからは、制御棒駆動停止時間比較器41と原子炉周期逆数比較器46が判定条件を満たすことになる。また、このときは、制御棒の停止前駆動方向が引抜き方向であったことから、制御棒最終駆動方向比較器47の条件も満たされている。
そこで、更に約27分経過後の時点t1になると、炉水温度差が設定値(この例では1.5℃とした)以上となり、ここで炉水温度差比較器43の判定条件が満たされ、AND回路48によるアンド条件が成立して温度係数「負」条件成立信号45が出力され、従って、図1の表示器36と報知器37により運転員に報知が可能になることが判る。
この図5の評価例では、温度係数「負」の報知により、運転員が制御棒挿入操作を急ぎ行う必要がないと判断して、既に極大値を経て低下中の中性子束と上昇中の炉水温度変化率を監視している状況を想定しているので、開始から約35分が経過するまでの間は特に制御棒操作を行っていないことになる。
そして、この図5の場合、開始から約35分が経過して、温度係数「負」の報知がなされた時点t1から約8分後の時点、つまり上記した開始から約35分が経過した時点t2で、炉水温度変化率が極大値を経て低下傾向に移行するのを待って制御棒引抜き操作を開始したものとしてシミュレーションされているので、このときは、減速材温度係数が負であり、このため制御棒操作遅れによる炉水温度変化率の過大化の虞は無く、従って、上記実施形態によれば安定した制御が実現できることが判る。
ところで、この図5の評価例の場合、温度係数「負」の判定がなされた時刻t1は、約27分経過後になっている。そうすると、これは、図4の減速材温度係数が正の場合の評価例と同等の時刻であり、従って、このことから、上記実施形態によれば、減速材温度係数の正負に関わらず、常に制御棒操作が必要なタイミングより前に、確実に減速材温度係数の正負判定が得られることが判る。
次に、本発明の他の実施形態について説明すると、図6は、本発明の第2の実施形態で、これは、図1に示した第1の実施形態のブロック図における炉水温度差算出器29に代えて炉水温度変化率算出器22を設けたもので、これに応じて、正負判定器35に内蔵させるべき判定ロジックとして、図2の判定ロジックに代えて図7の判定ロジックを用い、図3の判定ロジックに代えては図8の判定ロジックを用いたものであり、従って、これらの点を除き、他の構成ば、既に説明した第1の実施形態と同じであるから、以下の説明では、相違する部分に重点をおいて説明する。
そこで、まず、温度変化率算出器22は、炉水温度変化率算出手段として機能するもので、このため温度検出器20の検出信号を順次記憶し、炉水温度の時間変化から炉水温度の単位時間当りの変化率である炉水温度変化率を計算する。そして、算出した炉水温度変化率は正負判定器35に出力されるのであるが、そのための構成については、上記したように、図1の実施形態と同じである。
そこで、次に、図7と図8により、正負判定器35に内蔵させてある判定ロジック(判定手段ないし判定装置)について説明すると、ここで、まず図7は、減速材温度係数が正値であることを判定するための判定ロジック(本発明における第3の判定方法ないし判定装置)であり、図8は減速材温度係数が負値であることを判定するための判定ロジック(本発明における第4の判定方法ないし判定装置)である。
まず、図7の判定ロジックについて説明すると、これは、次の3つの判定による条件、すなわち制御棒駆動停止時間比較器41の判定と原子炉周期逆数比較器42の判定、及び温度変化率比較器53の判定の3つの判定の全てが満足され、AND回路54によるアンド出力条件が成立したとき、温度係数「正」条件成立信号50を発生させるものである。
そして、表示器36と報知器37は、この温度係数「正」条件成立信号50を入力として動作し、減速材温度係数が正値であることを運転員に報知することになる。そこで、次に、前述の3つの条件について具体的に説明すると、ここで、まず、制御棒駆動停止時間比較器41と、原子炉周期逆数比較器42については、図2の判定ロジックの場合と同じである。
すなわち、まず制御棒駆動停止時間比較器41では、停止時間カウンタ23から入力される制御棒駆動停止時間を、予め設定してある経過時間の設定値aと比較して制御棒駆動停止時間が設定値a以上であると判定されたとき、ON信号をAND回路54に出力し、次に、原子炉周期逆数比較器42では、中性子束モニタ26が出力する原子炉周期の逆数を、予め設定してある原子炉周期逆数の設定値bと比較し、原子炉周期逆数が設定値b以上であると判定されたとき、ON信号をAND回路54に出力するのである。
一方、炉水温度変化率比較器53は、この図7の判定ロジックで新たに備えられたもので、これは、温度変化率算出器22が出力した炉水温度変化率を、予め設定してある炉水温度変化率の設定値fと比較し、炉水温度変化率が設定値f以上であると判定されたとき、ON信号をAND回路54に出力するものである。これは、減速材の温度上昇によって反応度が印加された結果と見做すことができるからである。
次に、図8の判定ロジック、つまり減速材温度係数が負値であることを判定するロジックについて説明すると、これは、次の4つの条件、すなわち制御棒駆動停止時間比較器41の判定と原子炉周期逆数比較器46の判定、炉水温度変化率比較器53の判定、それに制御棒最終駆動方向比較器47の判定の4つが全て満足され、AND回路58によるアンド出力条件が成立したとき、温度係数「負」条件成立信号55を発生させるものである。
そして、表示器36と報知器37は、この温度係数「負」条件成立信号55を入力として動作し、減速材温度係数が負値であることを運転員に報知することになる。そこで、次に、前記4つの条件について具体的に説明すると、ここで、まず、制御棒駆動停止時間比較器41の判定と炉水温度差比較器43の判定、それに炉水温度変化率比較器53は、図7の場合と同じで、既に説明した通りである。
すなわち、まず、制御棒駆動停止時間比較器41は、制御棒駆動停止時間が設定値a以上であると判定されたとき、ON信号をAND回路48に出力し、次に炉水温度差比較器43は、炉水温度差が設定値d以上であると判定されたとき、ON信号をAND回路58に出力するもので、次に、炉水温度変化率比較器53は、炉水温度変化率が設定値f以上であると判定されたとき、ON信号をAND回路58に出力するものである。
また、制御棒最終駆動方向比較器47は、図3の場合と同じで、既に説明した通りである。すなわち、駆動方向メモリ24(図1)から制御棒最終駆動方向を読込み、制御棒最終駆動方向が設定値gと等しいと判定されたとき、ON信号をAND回路58に出力するのである。
従って、図7の判定ロジックによれば、減速材温度係数が正であることが判定でき、図8の判定ロジックによれば、減速材温度係数が負であることが判定できることになり、よって、これら図7と図8の判定ロジックを組み合わせてやれば、減速材温度係数の正負が判定できることになる。
既に説明したように、原子炉の昇温昇圧開始後の初期の段階では、中性子束の上昇を待つべきか制御棒挿入操作を行うべきかの判断がつかず、制御棒操作が遅れてしまう可能性がある。このとき、上記第2の実施形態によれば、制御棒挿入操作が必要となるタイミングより前に減速材温度係数が正であることを運転員に報知することができる。
従って、この第2の実施形態によっても、運転員は制御棒挿入操作に備えることができるので、制御棒挿入遅れによる炉水温度変化率の過大化を未然に防ぐことができ、運転員に係る監視のための負担も軽減されることは、既に説明した第1の実施形態の場合と同じである。
また、この第2の実施形態でも、減速材温度係数が負であると判定され、それが報知された場合、運転員は、このことが早期に把握されたことにより、その後の昇温昇圧操作には、炉心の挙動に対して迅速性を要しないものであることが判り、このときも監視にあたっての負担が軽減されることになる。
そこで、次に、この第2の実施形態により得られるタイミングの報知について、図9の評価例により説明する。ここで、この図9は、沸騰水型原子炉について、臨界操作直後の時点を時間の起点0として、これからの昇温昇圧の過程における中性子束レベルと炉水温度変化率の時間的な挙動をシミュレーションして評価したものである。
そして、この図9の評価例でも、図4の場合と同じく、初期の炉水温度は80℃で、臨界過程終了直後の原子炉周期を約150秒、炉心の減速材温度反応度係数は正の値とし、目標とする炉水温度変化率については30℃/hとしている。
そして、まず、図9の特性線A1は、この第2の実施形態による減速材温度係数の正負判定結果を運転員が受けて、制御棒挿入操作が適切なタイミングでなされた場合の中性子束の時間変化特性であり、ここで中性子束が鋭角に低下している時点t2は、制御棒が挿入された時点であることを表している。ここで、特性線B1は、この場合の炉水温度変化率の時間変化である。
一方、特性線A2は、上記実施形態によらず、炉水温度上昇開始後において制御棒挿入の判断が遅れ、目標炉水温度変化率(30℃/h)に達してしまった時点t3において制御棒挿入を開始したと仮定した場合の中性子束の時間変化であり、特性線B2はこの場合の炉水温度変化率の時間変化である。
なお、ここでも、破線Cによるレベルは、このときの炉水温度変化率の目標値である30℃/hを表わし、一点鎖線Dによるレベルは、炉水温度変化率の管理基準を表わしていて、この評価例では55℃/hを表わしているものである。
次に、特性線Fは正負判定器35の判定ロジックにあるAND回路54(図7)のON/OFF出力で、初期から一定で推移している間はOFFであり、この値から上昇したときにONとなり、このとき温度係数「正」成立信号50が出力されることを表わしている。
一方、特性線Gは、正負判定器35に内蔵された図8のAND回路58のON/OFF出力であり、これも、初期から一定で推移している間はOFFであり、この値から上昇したときにONとなり、このとき温度係数「負」成立信号55が出力されることを表わすが、ここではOFFのままである。
そして、この図9において、一点鎖線Jで示されているのは、図7及び図8の炉水温度変化率比較器53に設定されている比較値fのレベルを表わしている。
この図9の評価例によれば、起点0から約20分経過したところから特性線B1による炉水温度変化率が上昇し始めている。つまり、このとき図7の制御棒駆動停止時間比較器41と原子炉周期逆数比較器42が判定条件を満たしていることになる。
そして、更に約27分経過後の時刻t1において、炉水温度差が設定値(この例では10℃とした)以上となり、ここで炉水温度変化率比較器53の判定条件が満たされ、AND回路44のアンド条件が成立して温度係数「正」条件成立信号50が出力され、図6の表示器36と報知器37により、運転員に報知が可能になっていることが判る。
そうすると、この図7では、運転員が温度係数「正」の報知により制御棒挿入操作が必要であることを理解し得たのが時点t1であり、この報知時点t1から約2分後の時刻t2(約30分経過後)で運転員が制御棒挿入操作を開始したものとしてシミュレーションされていることになる。
従って、この第2の実施形態によれば、制御棒挿入操作遅れが回避され、その後の昇温昇圧操作においても、特性線B1により表されているように、炉水温度変化率は管理基準Dを超えることなく、目標炉水温度変化率Cに沿った制御が、確実に実現できることが判る。
一方、本発明の実施形態によらず、炉水温度上昇開始後において、制御棒挿入の判断が遅れた場合の例では、特性線B2で表されている炉水温度変化率が破線Cで示されている目標炉水温度変化率に達した時点t3(約35分経過後)で、やっと制御棒挿入が必要であると判断できることになり、ここで操作を開始したものとなってしまう。
この場合、その後も制御棒の挿入を行ない、特性線A2で示してある中性子束を適正な大きさに近づけてゆくようにしているが、しかし、制御棒挿入開始した時点で既に加熱源である中性子束が上昇し過ぎていたことから、特性線B2で示されているように、その後の炉水温度変化率の過大化が避けられず、約43分経過後には最大となり、この場合、48℃/hにも達してしまう。
このような減速材温度係数が正である炉心の特性は、前述の通り、操作を行う運転員に大きな負担をかけることになるが、この第2の実施形態によれば、制御棒操作が必要になる前に減速材温度係数の正負が判定されるため、制御棒操作遅れによる炉水温度変化率の過大化が未然に防止され、安全且つ適切な昇温昇圧操作を容易に行なうことができる。
次に別の評価例として、図10に減速材温度反応度係数が負の場合の中性子束レベルと炉水温度変化率の時間的な挙動をシミュレーションした場合の評価例を示す。
この図10においても、特性線H以外の他の特性や条件は、図9の場合と同じであるが、一応、簡単に説明すると、まず、特性線A1は、上記実施形態による減速材温度係数の正負判定を受けた結果、制御棒挿入操作が適切なタイミングでなされた場合の中性子束の時間変化であり、次に特性線B1は、この場合の炉水温度変化率の時間変化である。
なお、ここでも破線Cは炉水温度変化率の目標値30℃/hを表わすレベルで、一点鎖線Dは炉水温度変化率の管理基準を表わすレベルで、この評価例では55℃/hを表わすレベルになっている。そして、特性線Fは、図7のAND回路54のON/OFF出力であり、特性線Gは、図8のAND回路58のON/OFF出力である。
そして、この図10の評価例において、特性線Hは、炉心から制御棒を引抜き操作した量、つまり制御棒引抜操作量を表したものであり、ここで階段状に上昇している部分は、制御棒の引抜き操作が行われたことを意味している。
この図10の評価例では、特性線B1で示す炉水温度変化率が上昇し始める時点、つまり約20分経過後の時点では原子炉周期は正である。
しかし、その後の炉水温度の上昇に伴って原子炉周期は長くなり、原子炉周期が負側に転じてからは、制御棒駆動停止時間比較器41と原子炉周期逆数比較器46が判定条件を満たすことになる。また、このときは、制御棒の停止前駆動方向が引抜き方向であったことから、制御棒最終駆動方向比較器47の条件も満たされている。
そこで、更に約27分経過後の時点t1になると、炉水温度差が設定値(この例では10℃とした)以上となり、ここで炉水温度変化率比較器53の判定条件が満たされ、AND回路58によるアンド条件が成立して温度係数「負」条件成立信号55が出力され、この時点で図6の表示器36と報知器37により運転員に報知が可能になることが判る。
ここで、この図10の評価例の場合、温度係数「負」の判定がなされた時刻t1は、約28分経過後になっている。そうすると、これは、図9の減速材温度係数が正の場合の評価例と同等の時刻であり、従って、このことから、上記第2の実施形態によっても、減速材温度係数の正負に関わらず、常に制御棒操作が必要なタイミングより前に、確実に減速材温度係数の正負判定が得られることが判る。