ところで、特許文献1に記載の技術は、炉水の温度反応度係数である減速材温度係数が負であることを前提としている。減速材温度係数が負である炉心では、臨界到達直後や温度一定状態から昇温昇圧を開始する場合、その初期の段階では原子炉周期の大きさに相当する正の反応度を有しているが、燃料温度の上昇に伴うドップラー効果により負の反応度が徐々に加わり、燃料の熱が減速材でもある冷却材の温度を上昇させる段階に至っては、減速材温度係数が負であることによって、さらに負の反応度が加わり、一旦上昇した中性子束は極大値を経て降下した後に平定する。そして、炉水温度変化率も中性子束に対する時間遅れを伴って極大値をとり降下して平定するような振る舞いをする。特許文献1に記載の技術では、上記のような振る舞いを前提として原子炉出力を制御している。
このことをより具体的に説明すると以下の通りである。
例えば臨界到達後になされる昇温昇圧操作であれば、臨界到達後の状態から炉水温度変化率を上昇させて目標の炉水温度変化率に近づける制御がなされ、この制御で炉水温度変化率が炉水温度変化率目標値に近づいた後には、炉水温度変化率目標値と測定した炉水温度変化率との差分に基づいて制御棒の挿入や引抜きを行うことによって炉水温度変化率を目標値に安定的に維持する制御がなされる。ここでは前者の制御を仮に「初期制御」と呼び、後者の制御を仮に「一定昇温制御」と呼ぶ。特許文献1に記載の制御法は、主に上記のような昇温昇圧過程における初期制御に適用されるが、この初期制御において、上記のように減速材温度係数が負であるとことを前提としている。すなわち初期制御が開始されるまでに炉水温度変化率が管理基準を超えることなく極大値を経て減少に移行することを前提にしている。そしてこのような前提が許されることで、中性子束と炉水温度変化率それぞれの極大値を測定し、この両極大値から中性子束の目標値を求めることが可能となる。
一方、減速材温度係数が正である炉心状態において昇温昇圧操作を行うと、正の反応度フィードバックによって冷却材温度の上昇と中性子束の上昇が加速する状態が起こる。このため、臨界到達時の制御棒挿入状態で放置しておくと加熱源である中性子束が必要以上に高くなることによって温度変化率が管理基準を超過してしまうことが理論上あり得る。しかし、ここで、減速材温度係数が正であっても、それが充分に小さければ、燃料温度変化に対するドップラー反応度係数が負であることによって、出力上昇に対しては即時に負の反応度が印加される。従って原子炉の安全上で問題となることはない。
このように減速材温度係数が負であるとことを前提として中性子束と炉水温度変化率それぞれの極大値の測定をなす制御法を減速材温度係数が正の炉心状態に適用すると、中性子束や炉水温度変化率の極大値が現れる前、つまり極大値から求められる中性子束の目標値による初期制御が開始される前に炉水温度変化率が炉水温度変化率監視上の基準としている管理基準を大きく超えてしまう可能性がある。このため運転員は、中性子束が必要以上に過大にならないように絶えず監視しながら適切に制御棒の挿入操作を行う必要がある。
また、減速材温度係数が正の炉心では、初期制御によって目標とする炉水温度変化率に近接させ、一定昇温制御に移行した後においても、減速材温度係数が負の場合のように中性子束の低下を待ってからさらに制御棒を引抜くという制御を行うことができない。すなわち、中性子束の上昇に伴って炉水温度変化率が上昇してしまうため、減速材温度係数が負の場合のように中性子束の低下を待ってさらに制御棒を引抜くという制御を適用すると、中性子束が過大化し、炉水温度変化率が管理基準を超過してしまう。このような炉心で炉水温度変化率を管理基準以内に維持して昇温昇圧するには、積極的に制御棒を挿入しなければならない。これに対し、制御棒の挿入タイミングが早過ぎると原子炉昇温に必要な適度な正の反応度を与えることができず、昇温昇圧に多くの時間を要してしまう。逆に制御棒の挿入が遅れると炉水温度変化率が過大になってしまう。このため運転員は、中性子束が必要以上に過大にならないように絶えず監視しながら適切に制御棒の挿入操作を行う必要がある。
しかし、中性子束の監視は起動領域中性子モニタなどの較正を必要とする中性子検出器の指示値にて行われることから、その絶対値を正確に把握することは容易でない。また、炉水温度変化率を指標として中性子束を制御しようとしたときにも次のような難しさがある。まず、炉水温度変化率を算出する元になる炉水温度に関して、沸騰水型原子炉では炉心内の冷却材温度を直接測定できないことから原子炉圧力容器から引き出した配管内の水の温度を測定し、この測定された温度を炉水温度としている。そのため、計測した温度は炉水温度に対して時間遅れを持っている。加えて、炉水温度検出器での計測における時間遅れもある。また、炉水温度変化率は、変化率演算に必要な一定時間のデータを必要とすることことから、この時間に起因する時間遅れもあり、これらが累積されると、中性子束の挙動に対して相当な時間遅れを伴うことになる。このような理由から、上記のような中性子束過大化防止のための操作は、運転員に対して大きな負担を強いることになる。
また、減速材温度係数が正であるか負であるかは、中性子束や炉水温度変化率などの監視に用いることが可能な限られた情報からだけで判断することは容易ではなく、これらを連続的且つ複合的に監視することによって行う必要がある。そのため、運転員が減速材温度係数が正であることを瞬時に判断し、中性子束が必要以上に過大にならないように適切なタイミングで制御棒の挿入操作を行うには熟練を要する。これも、運転員の負担を大きくしている。
本発明は、以上のような知見に基づいてなされたものであり、その目的は、減速材温度係数が正の状態にあっても所定の炉水温度変化率を維持しながら好適に原子炉の昇温を行うことを可能とする原子炉出力制御方法及びこの方法を実施する原子炉出力制御装置を提供するにある。
上記目的を達成するため、第1の手段は、原子炉内の炉水温度に関する炉水温度変化率が所定の基準を満足させるように制御棒の操作をなして原子炉の出力を制御する原子炉出力制御方法において、検出された中性子束から原子炉周期を算出し、検出された炉水温度から炉水温度変化率を算出するとともに炉水温度変化の加速度である昇温加速度を算出し、
前記原子炉周期の逆数が予め設定しておく設定値以上にあること、前記炉水温度変化率が予め設定しておく設定値以上にあること、前記昇温加速度が予め設定しておく設定値以上にあること、及び制御棒駆動停止の状態が一定時間以上継続していることを条件として前記制御棒の炉心への挿入を行うようにした。
第1の手段は、初期制御に有効である。この第1の手段では、次の4つの条件、すなわち、
1)まず、制御棒駆動停止状態が一定時間以上継続していることによって制御棒操作による反応度印加の応答時間の目安を過ぎていることをみる。
2)原子炉周期の逆数が設定値以上であることによって中性子束が上昇中であることをみる。
3)炉水温度変化率が炉水温度変化率設定値以上であることによって、炉水温度が上昇中であることをみる。前記炉水温度変化率設定値は管理基準に達する前に制御棒挿入を判断する目安として設定しておくものであり、前記設定値を超えると炉水温度変化率がその目安を超えたと推定する。
4)昇温加速度が正の設定値以上であることによって、炉水温度変化率がさらに上昇中であることをみる。
が同時に成立したときに制御棒挿入を行う。
上記1)ないし4)の4条件が成立するときは、制御棒以外の要因すなわち炉水温度の上昇による正の反応度印加によって中性子束が継続して上昇中であり、炉水温度変化率もさらに上昇中で管理基準を超える兆候にあるとみなすことができる。さらに上記4条件が成立するときは、炉水温度変化率が制御棒挿入の目安として設定しておく設定値以上になったとみなすことができる。
この第1の手段は原子炉出力制御装置として、検出された中性子束から原子炉周期を算出する手段と、検出された炉水温度から炉水温度変化率及び炉水温度変化の加速度である昇温加速度を算出する手段と、前記制御棒の駆動停止時間を計測する手段と、前記各算出する手段により算出された前記原子炉周期の逆数、前記炉水温度変化率及び前記昇温加速度がそれぞれ予め設定された値以上であり、制御棒駆動停止の状態が一定時間以上継続しているときに前記制御棒を炉心に挿入させる手段とから構成することができる。
この場合、後述の実施形態では、中性子束は中性子束検出器12によって検出され、原子炉周期を算出する手段は中性子束モニタ26に、炉水温度変化率及び昇温加速度を算出する手段は温度変化率算出器22に、制御棒の駆動停止時間を計測する手段は停止時間カウンタ23に、制御棒を炉心に挿入させる手段は制御棒駆動制御器34に、原子炉出力制御装置は符号18にそれぞれ対応する。
この第1の手段によれば、上記4条件が成立したときに制御棒挿入を行うことによって、時間遅れを伴って炉水温度変化率が過大となり管理基準を超えるのを有効に抑制する制御を実現することができる。
第2の手段は、原子炉内の炉水温度に関する炉水温度変化率が所定の基準を満足させるように制御棒の操作をなして原子炉の出力を制御する原子炉出力制御方法において、検出された中性子束から原子炉周期を算出し、検出された炉水温度から炉水温度変化率を算出し、制御棒駆動停止の状態が継続している間に検出された炉水温度に生じた炉水温度差を算出し、前記原子炉周期の逆数が予め設定しておく設定値以上にあること、前記炉水温度変化率が予め設定しておく設定値以上にあること、前記炉水温度差が予め設定しておく設定値以上にあること、及び制御棒駆動停止の状態が一定時間以上継続していることを条件として前記制御棒の挿入を行うようにしている。
この第2の手段も初期制御に有効である。この第2の手段では、次の4つの条件、すなわち、
1)まず、制御棒駆動停止状態が一定時間以上継続していることによって制御棒操作による反応度印加の応答時間の目安を過ぎていることをみる。
2)原子炉周期の逆数が設定値以上であることによって中性子束が上昇中であることをみる。
5)制御棒駆動が停止を開始してからの炉水温度差が設定値(ただし正値)以上であることによって、減速材温度の上昇による反応度が印加されていることをみる。
6)炉水温度変化率が管理基準に達する前に制御棒挿入を判断する目安として設定された炉水温度変化率設定値との比較によって炉水温度変化率がその目安を超えたとみる。
が同時に成立したときに制御棒挿入を行う。
上記1)、2)、5)、6)の4条件が成立するときは、炉水温度差による正の反応度印加によって中性子束が継続して上昇中であり、炉水温度変化率が制御棒挿入の目安として設定しておく設定値以上になったとみなすことができる。
この第2の手段は原子炉出力制御装置として、検出された中性子束から原子炉周期を算出する手段と、検出された炉水温度から炉水温度変化率を算出する手段と、前記制御棒の駆動停止時間を計測する手段と、前記制御棒の駆動停止状態が継続している間に検出された炉水温度に生じた炉水温度差を算出する手段と、前記算出する手段により算出された前記原子炉周期の逆数、前記炉水温度変化率及び前記炉水温度差がそれぞれ予め設定された値以上であり、前記計測する手段により前記制御棒駆動停止の状態が一定時間以上継続していることが計測されたときに前記制御棒を炉心に挿入させる手段とから構成することができる。
この場合、後述の実施形態では、原子炉周期を算出する手段は中性子束モニタ26に、炉水温度変化率を算出する手段は温度変化率算出器22に、制御棒の駆動停止時間を計測する手段は停止時間カウンタ23に、炉水温度差を算出する手段は炉水温度差算出器29に、制御棒を炉心に挿入させる手段は制御棒駆動制御器34に、原子炉出力制御装置は符号18にそれぞれ対応する。
この第2の手段によれば、上記4条件が成立したときに制御棒挿入を行うことによって、時間遅れを伴って炉水温度変化率が過大となり管理基準を超えるのを有効に抑制する制御を実現することができる。
第3の手段は、原子炉内の炉水温度に関する炉水温度変化率が所定の基準を満足するように制御棒を操作して原子炉の出力を制御する原子炉出力制御方法において、検出された中性子束から原子炉周期を算出し、検出された炉水温度から炉水温度変化率を算出するとともに炉水温度変化の加速度である昇温加速度を算出し、前記原子炉周期の逆数が予め設定された値以上であること、前記炉水温度変化率が予め設定された上限設定値以上であることを条件として前記制御棒を挿入し、あるいは、前記原子炉周期の逆数が予め設定された値以上であること、前記炉水温度変化率が予め設定された前記上限設定値よりも低い別の設定値以上であること、前記昇温加速度が予め設定された値以上であることを条件として前記制御棒を挿入し、前記原子炉周期の逆数が予め設定された値より低いこと、前記炉水温度変化率が予め設定された下限設定値より低いことを条件として前記制御棒を引抜きし、あるいは前記原子炉周期の逆数が予め設定された値より低いこと、前記炉水温度変化率が予め設定された前記下限設定値よりも高い別の設定値より低いこと、前記昇温加速度が予め設定された値より低いことを条件として前記制御棒の引抜きを行うこととしている。
この第3の手段は、一定昇温制御に有効である。この方法では、制御棒の炉心への挿入と炉心からの引抜きのタイミングを中性子束の状態、炉水温度変化率の大きさ、昇温加速度の正負で判断している。
まず、炉心への制御棒の挿入は、
1)原子炉周期の逆数が設定値以上であり炉水温度変化率が挿入判定目安の設定値a以上にあるとき、
2)原子炉周期の逆数が設定値以上であり炉水温度変化率が前記aとは別の挿入判定の設定値b(ただしb<a)を超え昇温加速度が設定値以上であるとき
のいずれかの場合に行う。
ここで、炉水温度変化率が目安である設定値aを超えたときに挿入する方法は、もっとも簡略な方法であるが、この方法だけでは炉水温度変化率が時間遅れを伴うため制御が遅れることが避けられない。このため、第3の手段では、昇温加速度を用いて制御棒の制御遅れを補っている。すなわち、原子炉周期が正であり炉水温度変化率が設定値aを超え明らかに高い場合には直ちに挿入することとし、炉水温度変化率が低めの値(b程度)であっても昇温加速度が正であるならば以後の中性子束上昇を抑制するために先行して制御棒を挿入する。
一方、制御棒の引抜きは、
3)原子炉周期の逆数が設定値未満であり炉水温度変化率が引抜き判定下限値dを下回ったとき、
4)原子炉周期の逆数が設定値未満であり炉水温度変化率が前記dとは別の引抜き判定の設定値c(ただしc>d)を下回り昇温加速度が設定値未満であるとき、
のいずれかの場合に行う。
ここで、炉水温度変化率が目安である下限値を下回ったときに引抜く方法は、もっとも単純な方法であるが、炉水温度変化率が時間遅れを伴うため制御が遅れることが避けられない。このため、昇温加速度を用いて制御棒の制御遅れを補っている。すなわち、原子炉周期が負であり炉水温度変化率が明らかに低い場合には直ちに引抜きを行うこととし、炉水温度変化率がやや高めの値であっても昇温加速度が負であるならば速やかに中性子束を上昇させて炉水温度変化率が目標値近くで維持できるように先行して制御棒を引抜くようにしている。
この第3の手段によれば、上記条件で制御棒操作を行うことによって、時間遅れを伴って炉水温度変化率が過大となり管理基準を超えるのを有効に抑制しながら、炉水温度変化率を目標値近傍に維持した制御を実現することができる。
この第3の手段は原子炉出力制御装置として、検出された中性子束から原子炉周期を算出する手段と、検出された炉水温度から炉水温度変化率及び炉水温度変化の加速度である昇温加速度を算出する手段と、前記原子炉周期の逆数が予め設定された値以上及び前記炉水温度変化率が予め設定された上限設定値以上であるとき、又は、前記原子炉周期の逆数が予め設定された値以上、前記炉水温度変化率が予め設定された前記上限設定値よりも低い予め設定された値以上、及び前記昇温加速度が予め設定された値以上であるときのいずれかのときに前記制御棒を炉心に挿入させる手段と、前記原子炉周期の逆数が予め設定された値未満及び前記炉水温度変化率が予め設定された下限設定値未満であるとき、又は、前記原子炉周期の逆数が予め設定された値未満、前記炉水温度変化率が予め設定された前記下限設定値以上の予め設定された値未満、及び前記昇温加速度が予め設定された値未満であるときのいずれかのときに前記制御棒を炉心から引抜かせる手段とから構成することができる。
この場合、後述の実施形態では、原子炉周期を算出する手段は中性子束モニタ26に、炉水温度変化率及び昇温加速度を算出する手段は温度変化率算出器22に、制御棒を炉心に挿入させる手段又は炉心から引抜かせる手段は制御棒駆動制御器34に、原子炉出力制御装置は符号18にそれぞれ対応する。
本発明によれば、原子炉の臨界操作や昇温昇圧操作において、減速材温度係数が正値の場合にも適切なタイミングで制御棒操作を自動的に行うことができ、炉水温度変化率が監視基準を大きく超えることなく安全性をより高めた制御を効率的に行うことが可能となる。
以下、本発明を実施する上での最良の形態について説明する。
<第1の実施形態>
図1は本発明の第1の実施形態に係る原子炉及び原子炉出力制御装置のシステム構成の概略を示す図である。このシステムは本発明における第1の手段と第3の手段と組み合わせた原子炉出力制御装置の例である。
図1において、第1の実施形態に係るシステムは原子炉10と原子炉出力制御装置18と制御棒駆動制御器8とから基本的に構成されている。原子炉10には、中性子束検出器12、圧力検出器14及び熱電対16を含む測定系が設けられ、また、炉心2に対して制御棒4が挿入、引抜き可能に設けられている。
原子炉出力制御装置18は、前記測定系で得られる測定値を入力として制御棒駆動制御器8へ出力する制御信号を生成させるもので、温度検出器20、温度変化率算出器22、停止時間カウンタ23、中性子束モニタ26、入力部30、制御棒自動制御器34及び表示装置36を備えている。
前記測定系における熱電対16は、原子炉10に接続された配管10a内に設置されており、配管10a内の炉水の温度を検出し、検出温度に対応した信号を温度検出器20へ出力する。温度検出器20は、熱電対16からの信号に応じた温度を算出し、算出された温度を制御棒自動制御器34と温度変化率算出器22へ出力する。すなわち熱電対16と温度検出器20は、原子炉10内の炉水の温度を検出する炉水温度検出手段として機能する。
温度変化率算出器22は、炉水温度変化率算出手段及び昇温加速度算出手段として機能するものであり、温度検出器20の検出信号を順次記憶し、炉水温度の時間的変化から炉水温度の単位時間あたりの変化率である炉水温度変化率と炉水温度変化の加速度である昇温加速度を算出し、その算出した炉水温度変化率及び昇温加速度を制御棒自動制御器34へ出力する。
中性子束検出器12は、中性子束検出手段として機能するものであり、原子炉10の炉心2内に設置されている。この中性子束検出器12は、単位時間あたりの中性子束の数を計数し、その計数値を中性子束検出信号として中性子束モニタ26へ出力する。中性子束モニタ26は、中性子束検出器12の出力信号を中性子束レベル(中性子束の検出値と炉心の定格出力との割合を示すレベル=%定格)に変換するとともに、中性子束の時間変化率を表す指標である前述の原子炉周期を演算する。そして中性子束レベルと原子炉周期を制御棒自動制御器34へ出力する。従って中性子束モニタ26は、原子炉周期算出手段としても機能することになる。
入力部30は、炉水温度変化率目標値入力手段として機能するものであり、例えば制御操作盤上のコンソールなどで構成され、運転員の操作により、炉水温度変化率目標値として、例えば30℃/hという値が入力され、それを制御棒自動制御器34へ出力する。
制御棒自動制御器34は、温度検出器20で検出された炉水温度、温度変化率算出器22から出力された炉水温度変化率及び昇温加速度、中性子束モニタ26から出力された中性子束レベルと原子炉周期、停止時間カウンタ23から出力された制御棒駆動停止時間、及び入力部30から取り込んだ炉水温度変化率目標値を入力とし、自動制御時に、制御棒駆動制御器8に適切なタイミングで制御棒駆動信号を出力する。一方、手動制御時には、運転員に対して制御棒4の炉心2への挿入あるいは炉心2からの引抜き操作を実施させるための指示を表示装置36を介して実行する。
制御棒駆動制御器8は、制御棒4の炉心2に対する挿入と引抜き動作を行う制御棒駆動装置6に対する駆動制御を行う。そのために制御棒駆動制御器8は、複数の制御棒4をどの順番で操作するかを予め定めたリストを保有し、また複数ある駆動モードに対して1回の制御棒駆動信号でどれだけの量を操作するかを予め定めたリストを保有しており、制御棒自動制御器34から出力された制御棒駆動信号(挿入開始又は引抜き開始信号、及び駆動モード情報)に基づいて制御棒駆動装置6に制御棒駆動信号を出力する。また、制御棒自動制御器34に対しては、制御棒4の状態(制御棒挿入中、制御棒引抜き中、制御棒駆動完了、制御棒の現在位置)に関する信号を出力する。
停止時間カウンタ23は、制御棒駆動停止時間算出手段として機能するものであり、制御棒駆動制御器8が出力する制御棒4の状態信号を入力として制御棒4が駆動停止状態を継続している時間をカウントし、これを制御棒駆動停止時間として制御棒自動制御器34に対して出力する。制御棒4の駆動信号が入力されると制御棒駆動停止時間を0にリセットする。
制御棒駆動装置6は、水圧駆動装置やモータによる電動駆動装置からなり、制御棒駆動制御器8からの信号により制御棒4を炉心2に挿入し、あるいは炉心2から引抜く動作を行う。
CRTで代表される表示装置36には、温度変化率目標値と実際の温度変化率を並べて表示したり、目標とする炉水温度の時間変化や実際の炉水温度の時間変化をグラフ表示したりすることができる。また、中性子束レベルや原子炉周期あるいは原子炉周期の逆数についても時間変化をグラフ表示でき、予め入力あるいは内部計算される設定値と比較できるように表示することもできる。さらに、制御棒4の現在位置を表示することもできる。また、制御棒操作を運転員が手動で行う手動操作時には、運転員に対して制御棒4を操作すべきタイミングに挿入あるいは引抜きを行うよう操作ガイドを提供する。運転員は、その操作ガイドに従って操作するだけで、適切な制御棒操作を容易に行うことができる。
図2、図3、図4及び図5に、制御棒自動制御器34に内蔵させてある制御ロジック(制御手段あるいは制御装置)の例を示す。図2及び図3は初期制御における制御棒挿入の判定をなす制御ロジック(本発明における第1の手段に対応する制御ロジック)であり、図4及び図5は一定昇温制御における制御棒挿入の判定をなす制御ロジック及び制御棒引抜の判定をなす制御ロジック(本発明における第3の手段に対応する制御ロジック)である。
図2の初期制御制御棒挿入条件の判定ロジックは、4つの条件すなわち第1の制御棒駆動停止時間比較器41、第1の原子炉周期逆数比較器42、第1の昇温加速度比較器43、及び第1の炉水温度変化率比較器44の判定がすべて満足されて第1のAND回路40が成立するとき、初期制御制御棒挿入条件成立信号70を発生させる。この初期制御制御棒挿入条件成立信号70に続いて図3の制御棒挿入要求信号85が図1の制御棒駆動制御器8に出力されることによって制御棒4の挿入操作がなされる。
前記4つの条件について具体的に説明する。
1)第1の条件: まず、第1の制御棒駆動停止時間比較器41では、停止時間カウンタ23から入力される制御棒駆動停止時間T1が予め設定しておく経過時間の設定値j以上にあることを判定し、これを満たすときはON信号を第1のAND回路40に出力する。この経過時間の設定値jは、制御棒操作による反応度印加の応答時間を過ぎていることを判断する目安値(例えば15分間程度)であり、この時間を過ぎているときは制御棒4以外の反応度要因によって中性子束の状態が変化する状態にあるものとみなすことができる。
2)第2の条件: 第1の原子炉周期逆数比較器42は、中性子束モニタ26が出力する原子炉周期の逆数N1が原子炉周期逆数の設定値f以上となることを判定し、これを満たすときはON信号を第1のAND回路40に出力する。この設定値fは原子炉周期が正であることを確実に判定できればよいので、その判定が確実に行われる値に設定されている。原子炉周期の逆数N1が設定値f以上にあるとき、中性子束は上昇中であり炉心2に正の反応度が印加された状態にあるとみなすことができる。
3)第3の条件: 第1の昇温加速度比較器43は、温度変化率算出器22が出力した昇温加速度A1が予め設定してある昇温加速度の設定値w以上になることを判定し、これを満たすときはON信号を第1のAND回路40に出力する。この昇温加速度設定値wは、正値であって炉水温度変化率D1が上昇中であることを判定するのに充分な大きさであればよい。昇温加速度A1が昇温加速度設定値w以上であることによって、炉水温度変化率D1はさらに上昇中であるとみなすことができる。
4)第4の条件: さらに、第1の炉水温度変化率比較器44は、温度変化率算出器22が出力した炉水温度変化率D1が予め設定された炉水温度変化率の設定値s(ただし正値)以上になることを判定し、これを満たすときはON信号を第1のAND回路40に出力する。炉水温度変化率D1が炉水温度変化率設定値s以上であることによって、炉水温度が上昇中であることが判断できる。また、炉水温度変化率設定値sは管理基準に達する前に制御棒挿入を判断する目安値(例えば15℃/h程度)として設定しておくものであり、炉水温度変化率D1がその目安値を超えたと判断することができる。
上記1)ないし4)の4条件がすべて満足されて第1のAND回路40のアンド条件が成立するときは、制御棒4以外の要因すなわち炉水温度の上昇による正の反応度印加によって中性子束が継続して上昇中であることから、初期制御制御棒挿入条件成立信号70を出力する。初期制御制御棒挿入条件成立信号70は、自己保持回路72及び第1のOR回路73によって保持され、回路71がOFFされるまで出力される。
初期制御制御棒挿入条件成立信号70が出力されると図3の制御ロジックに従って制御棒4の挿入が行われる。図2における初期制御制御棒挿入条件成立信号70は図3における第2のAND回路84に入力される。この第2のAND回路84には前記初期制御制御棒挿入条件成立信号70に加え、第2の原子炉周期逆数比較器81及び第2の制御棒駆動停止時間比較器82からの信号が入力され、論理積が取られる。第2の原子炉周期逆数比較器81は原子炉周期逆数N2が設定値g以上にあることを判定し、第2の制御棒駆動停止時間比較器82は制御棒駆動停止時間T2が設定値k(数秒から数十秒程度)以上であることを判定する。信号70と第2の原子炉周期逆数比較器81及び第2の制御棒駆動停止時間比較器82の出力がすべて成立するときに第2のAND回路84が成立し、制御棒挿入要求信号85が図1の制御棒駆動制御器8に出力され、制御棒4が挿入される。
回路71による初期制御制御棒挿入条件成立信号70の解除は、第2の炉水温度変化率比較器74において炉水温度変化率D2が後述の炉水温度変化率設定値bと同値以上となったとき、あるいは第2の昇温加速度比較器75において昇温加速度A2が昇温加速度設定値z未満となり第3のAND回路77が成立したときにOR回路78から出力される信号によってなされる。ここで、第3のAND回路77には前記初期制御制御棒挿入条件成立信号70が入力される。回路71による初期制御制御棒挿入条件成立信号70の解除と同時に一定昇温制御移行条件成立信号79が出力され、図4及び図5の制御ロジックによる制御に移行する。
図4の制御棒挿入判定ロジックは、第3のOR回路58によって第4の又は第5のAND回路53、57のいずれかが成立しているときに制御棒挿入要求信号85を出力する。第4のAND回路53は、第2の原子炉周期逆数比較器81と第3の炉水温度変化率比較器52の2つの判定が満足されるときに成立する。また、第5のAND回路57は、第2の原子炉周期逆数比較器54、第2の炉水温度変化率比較器74、及び昇温加速度比較器56の3つの判定がすべて満足されたとき成立する。そしてこの制御棒挿入要求信号85が図1の制御棒駆動制御器8に出力されることによって制御棒4の挿入操作がなされる。以下、前記5つの条件について具体的に説明する。
1)第1の条件: 第2の原子炉周期逆数比較器81は、中性子束モニタ26が出力する原子炉周期の逆数N2が原子炉周期逆数の設定値g以上となることを判定し、これを満たすときはON信号を第4のAND回路53に出力する。この設定値gは原子炉周期逆数N2が正で且つある程度の大きさをもっていることを判定するのに用いる。原子炉周期逆数N2が設定値以上にあるとき、中性子束は上昇中であり、炉心2に正の反応度が印加された状態にあるとみなすことができる。
2)第2の条件: 第3の炉水温度変化率比較器52は、温度変化率算出器22が出力した炉水温度変化率D3が予め設定してある炉水温度変化率設定値a(例えば目標炉水温度変化率と同程度の値など)以上にあることを判定し、これを満たすときはON信号を第4のAND回路53に出力する。炉水温度変化率D3が炉水温度変化率設定値a以上であることによって炉水温度が上昇中であること、及び炉水温度変化率D3の過大化を抑制するための制御棒挿入が必要な状態に達したことが判断できる。炉水温度変化率設定値aは、例えば、運転員が図1の入力部30から直接入力することに予め設定しておくことができる。また、入力部30から入力された目標炉水温度変化率に一定の加算処理を行って自動的に設定することもできる。炉水温度変化率設定値aは炉水温度変化率D3の過大化を抑制するための制御棒挿入を判断する目安であり、解析や運転実績から得られるデータに基づいて適切に設定することができる。第5のAND回路57には第2の原子炉周期逆数比較器81、第2の炉水温度変化率比較器74及び第2の昇温加速度比較器56の各比較出力が入力される。
3)第3の条件: 第2の原子炉周期逆数比較器81は、中性子束モニタ26が出力する原子炉周期の逆数N2が原子炉周期逆数の設定値g以上となることを判定し、これを満たすときはON信号を第5のAND回路57に出力する。
4)第4の条件: 第2の炉水温度変化率比較器74は、温度変化率算出器22が出力した炉水温度変化率D2が予め設定してある炉水温度変化率設定値b以上になることを判定し、これを満たすときはON信号をAND回路57に出力する。
5)第5の条件: 第2の昇温加速度比較器56は、温度変化率算出器22が出力した昇温加速度A2が予め設定してある昇温加速度設定値x(正値)以上になることを判定し、これを満たすときはON信号を第5のAND回路57に出力する。
ここで、炉水温度変化率設定値bは、前述のように第3の炉水温度変化率比較器52の判定に用いた炉水温度変化率設定値aよりも低めの値として、例えば炉水温度変化率設定値aより5℃/h程度低めの値に設定する。設定は、運転員による図1の入力部30からの直接入力、入力部30から入力された目標炉水温度変化率に一定の加算処理を行って自動的に設定するなどによって行うことができる。炉水温度変化率設定値bは、第2の昇温加速度比較器56で昇温加速度が明らかに正であることが判定されるのと相まって炉水温度変化率の過大化を抑制するための制御棒挿入を判断する目安であり、解析や運転実績から得られるデータに基づいて適切に設定することができる。
上記第4のAND回路53は炉水温度変化率D3が高めであることをもって直ちに制御棒挿入をなすものである。これに対して第5のAND回路57では炉水温度変化率D2が多少低めであっても昇温加速度が正であるならば制御棒挿入を行うものである。これらのいずれかによって制御棒挿入を行うことにより制御棒挿入の操作遅れを最小限にすることができる。
図5の制御棒引抜判定ロジックは、第4のOR回路68によって第6のAND回路63又は第7のAND回路67のいずれかが成立しているときに制御棒引抜要求信号69を出力する。第6のAND回路63は、第3の原子炉周期逆数比較器61と第4の炉水温度変化率比較器62の2つの判定が満足されるときに成立する。また、第7のAND回路67は、第3の原子炉周期逆数比較器64、第5の炉水温度変化率比較器65、及び第3の昇温加速度比較器66の3つの判定がすべて満足されて成立する。そしてこの制御棒引抜要求信号69が図1の制御棒駆動制御器8に出力されることによって制御棒の引抜操作がなされる。以下、前記5つの条件について具体的に説明する。
1)第1の条件: 第3の原子炉周期逆数比較器61は、中性子束モニタ26が出力する原子炉周期の逆数N3が原子炉周期逆数の設定値h未満となることを判定し、これを満たすときはON信号を第6のAND回路63に出力する。この設定値hは原子炉周期が負値又は正値であっても非常に長い原子炉周期(例えば数千秒)であることを判定するのに用いる。原子炉周期の逆数N3が設定値h未満であるとき、中性子束は下降中、一定、僅かに上昇中であり昇温の加熱源が増加する見込みがないとみなすことができる。
2)第2の条件: 第4の炉水温度変化率比較器62は、温度変化率算出器22が出力した炉水温度変化率D4が目標炉水温度変化率よりも低い値として予め設定してある炉水温度変化率設定値d未満になることを判定し、これを満たすときはON信号を第6のAND回路63に出力する。炉水温度変化率D4が炉水温度変化率設定値d(例えば目標炉水温度変化率より10℃/h程度低めの値)未満であることによって炉水温度変化率が目標値よりも低い昇温速度で昇温されていることが判断できる。炉水温度変化率設定値dは、例えば、運転員が図1の入力部30から直接入力し、予め設定することができる。また、入力部30から入力された目標炉水温度変化率に一定の加算処理を行って自動的に設定することもできる。炉水温度変化率設定値dは炉水温度変化率D4が目標炉水温度変化率から大きく低下して昇温操作が遅れることを防止するための制御棒引抜きを判断する目安であり、解析や運転実績から得られるデータに基づいて適切に設定することができる。第7のAND回路67には、第3の原子炉周期逆数比較器61、第5の炉水温度変化率比較器65及び第3の昇温加速度比較器66の比較出力が入力される。
3)第3の条件: 第3の原子炉周期逆数比較器61は、前述の第6のアンド回路63に入力される比較器と同一のもので、原子炉周期の逆数N3が原子炉周期逆数の設定値h未満となることを判定し、これを満たすときはON信号を第7のAND回路67に出力する。
4)第4の条件: 第5の炉水温度変化率比較器65は、温度変化率算出器22が出力した炉水温度変化率D5が予め設定してある炉水温度変化率設定値c未満になることを判定し、これを満たすときはON信号を第7のAND回路67に出力する。
5)第5の条件: 第3の昇温加速度比較器66は、温度変化率算出器22が出力した昇温加速度A3が予め設定してある昇温加速度設定値y(負値)未満になることを判定し、これを満たすときはON信号を第7のAND回路67に出力する。
なお、炉水温度変化率設定値cは、前記第4の炉水温度変化率比較器62に用いた炉水温度変化率設定値dよりも高めの値として、例えば炉水温度変化率設定値dより5℃/h程度高めの値を設定する。設定は、運転員による図1の入力部30からの直接入力、入力部30から入力された目標炉水温度変化率に一定の加算処理を行って自動的に設定するなどによって行うことができる。炉水温度変化率設定値cは、第3の昇温加速度比較器66で昇温加速度A3が明らかに負であることが判定されるのと相まって炉水温度変化率D5が目標値を大きく下回った状態で昇温操作が遅れるのを防止するための制御棒引抜きを判断する目安であり、解析や運転実績から得られるデータに基づいて適切に設定することができる。
上記第6のAND回路63は炉水温度変化率D4が目標値に対してかなり低めであることをもって直ちに制御棒4の引抜きを行わせるものである。これに対して第7のAND回路67では炉水温度変化率だけでは引抜き判断がつかないときに昇温加速度A3が負であることを条件として制御棒4の引抜操作を遅れることなく行うものである。これらのいずれかによって制御棒引抜きを行うことにより制御棒引抜きの操作遅れを最小限にすることができる。
以上のように、図2及び図3の制御ロジックに図4及び図5の制御ロジックを組み合わせることによって、昇温昇圧過程の初期制御時などに起こり得る炉水温度変化率の過大化の抑制に重点をおいた制御を行うことができ、またそれ以後の一定昇温制御時においても目標とする炉水温度変化率から大きく変動しない安定した制御を行うことが可能となる。その結果、炉水温度変化率の管理基準を遵守しながら好適な昇温昇圧操作を容易に行うことができる。
図6は、本実施形態に係るシステムの評価例を示す図である。同図に示した特性は、沸騰水型原子炉について、臨界操作直後からの昇温昇圧の過程における中性子束レベルと炉水温度変化率の時間的な挙動をシミュレーションして評価したものである。動作条件は、初期の炉水温度が80℃、臨界過程終了直後の原子炉周期が約150秒、炉心の減速材温度反応度係数は制御棒の挿入引抜き双方向の操作が必要になるよう僅かに正の値とし、目標とする炉水温度変化率は30℃/hである。
図6において、曲線A1は本実施形態に係る出力制御方法による制御棒操作で制御棒4の挿入及び引抜きがなされた場合の中性子束の時間変化を示し、曲線B1はこの場合の炉水温度変化率の時間変化を示す。直線(破線)Cは目標炉水温度変化率であり、この目標炉水温度変化率Cは図4の第3の炉水温度変化率比較器52における炉水温度変化率設定値aでもある。この評価例では目標炉水温度変化率Cは30℃/hに設定されている。直線(1点鎖線)Dは炉水温度変化率の管理基準であり、この評価例では55℃/hに設定されている。直線(破線)Fは図4の第2の炉水温度変化率比較器74における炉水温度変化率設定値bであり、また図5における第5の炉水温度変化率比較器65における炉水温度変化率設定値cでもある。この評価例では25℃/hに設定されている。直線(破線)Gは図5の第4の炉水温度変化率比較器62における炉水温度変化率設定値dであり、この評価例では20℃/hに設定されている。直線Hは制御棒引抜量を表すものであり、制御棒4を引抜くとステップ状に上昇し、挿入するとステップ状に低下する様子を示している。本評価例では、約20分頃から炉水温度変化率B1の上昇が始まり、昇温の開始点となっている。
このとき図2の第1の制御棒駆動停止時間比較器41、第1の原子炉周期逆数比較器42及び第1の昇温加速度比較器43の判定が満たされている。時刻t1(約30分)に炉水温度変化率B1が設定値s(15℃/h)以上となり第1の炉水温度変化率比較器44の判定が満たされ、第1のAND回路40が成立して初期制御制御棒挿入条件成立信号70が出力され、図3の制御ロジックに従って制御棒挿入操作がなされている。
この制御棒挿入後、約34分に炉水温度変化率B1が炉水温度変化率設定値bである図中Fに達し、図2の第2の炉水温度変化率比較器74成立によって回路71をOFFにして初期制御を終了し、信号79を発生させて一定昇圧制御に適用する図4及び図5の制御ロジックに移行する。
時刻約54分には図4の第2の原子炉周期逆数比較器81、第2の炉水温度変化率比較器74及び第2の昇温角度比較器56が満たされ、第5のAND回路57が成立することによって制御棒挿入が行われる。その後、時刻約61分には図5の第3の原子炉周期逆数比較器61、第5の炉水温度変化率比較器65及び第3の昇温加速度比較器66が満たされ、第7のAND回路67が成立することによって制御棒引抜きが行われ、時刻約71分には図4の第2の原子炉周期逆数比較器81、第2の炉水温度変化率比較器74及び第2の昇温角度比較器56が満たされ第5のAND回路57が成立することによって制御棒挿入が行われている。
このような制御がなされた結果、炉水温度変化率B1は目標炉水温度変化率Cに対してやや低い推移をしているが、概ね目標炉水温度変化率Cに沿った制御を実現できている。また本評価例からは、上記それぞれの回路に設定する設定値をさらに最適化することによって、より目標値にそった制御を実現できることが予想できる。
図6の評価例では減速材温度係数が僅かに正の値とした。図7には、本実施形態形態で実施した場合の効果がより分かりやすいように減速材温度係数が大きい場合の評価例を示す。この評価例では、制御棒操作が挿入方向のみとなるが、その操作タイミングを適切にすることが示される。以下に具体的に説明する。
前記図6の評価例と同じく初期の炉水温度は80℃、臨界過程終了直後の原子炉周期は約150秒、目標とする炉水温度変化率は30℃/hである。図7の曲線A2は本発明による出力制御方法による制御棒操作で制御棒の挿入がなされた場合の中性子束の時間変化であり、中性子束の時間的変化A2が急激に低下しているタイミングは制御棒が挿入されたタイミングであることを表している。曲線B2はこの場合の炉水温度変化率の時間変化である。一方、曲線A3は従来から実施されている操作で動作させたときの炉水温度上昇開始後の初期制御時において制御棒挿入の判断が遅れ、目標炉水温度変化率(30℃/h)に達した時点で制御棒挿入を行ったと仮定した場合の中性子束の時間変化を示すもので、曲線B3はこの場合の炉水温度変化率の時間変化である。いずれの場合も約20分頃から炉水温度変化率B2及びB3が上昇し始め、昇温の起点となっている。
制御棒の挿入が遅れた場合の評価例では、炉水温度変化率B2が目標炉水温度変化率に達した時点t2(約35分)を制御棒挿入を開始する判断目安とした。その後も制御棒4の挿入を行って中性子束A3を適正な大きさに近づけているが、制御棒挿入開始した時点で加熱源である中性子束A3が上昇し過ぎていたことによってその後の炉水温度変化率B3の過大化が避けられず、約43分に炉水温度変化率B3は最大となり48℃/hに達している。これは目標値30℃/hに対して18℃の超過である。
一方、本実施形態による評価例では、約20分頃から炉水温度変化率B2が上昇し始めると図2の第1の制御棒駆動停止時間比較器41、第1の原子炉周期逆数比較器42及び第1の昇温加速度比較器43の判定が条件を満たすことになる。さらに時刻t1(約30分)に炉水温度変化率が設定値(15℃/h)以上となり第1の炉水温度変化率比較器44の判定が満たされ、第1のAND回路40が成立して初期制御制御棒挿入条件成立信号70が出力され、図3の制御ロジックに従って制御棒挿入操作がなされる。この制御棒挿入後、約33分に炉水温度変化率が炉水温度変化率設定値bである図中Fに達し、図2の回路74成立によって回路71をOFFにして初期制御を終了し、信号79を発生させて一定昇圧制御に適用する図4及び図5の制御ロジックに移行する。
時刻約35分には図4の第2の原子炉周期逆数比較器81、第2の炉水温度変化率比較器74及び第2の昇温角度比較器56が満たされ、第5のAND回路57が成立することによって制御棒挿入が行われている。その後、時刻約41分には図4の第2の原子炉周期逆数比較器81及び第3の炉水温度変化率比較器52が満たされ、第4のAND回路53が成立することによって制御棒挿入が行われ、時刻約58分には図4の第2の原子炉周期逆数比較器81、第2の炉水温度変化率比較器74及び第2の昇温角度比較器56が満たされ、第5のAND回路57が成立することによって制御棒挿入が行われている。
このような制御がなされた結果、炉水温度変化率B1は管理基準Dを超えることなく、目標炉水温度変化率Cにそった制御を実現している。
制御棒挿入が遅れたこの評価例では、本実施形態の場合に比べて制御棒4の操作遅れは約5分にすぎない。つまり数分間の操作遅れが炉水温度変化率に大きく影響することが分かる。逆に、制御棒挿入が早過ぎると炉水温度変化率が低下し過ぎて、起動操作が遅れることについても前述の通りである。このことからも、減速材温度係数が正の場合には制御棒操作のタイミングが非常に重要な意味を持つことが分かる。減速材温度係数が正である炉心のこのような特性は、運転員に大きな負担をかけることになるが、本実施形態のように制御すれば、炉水温度変化率の過大化を有効に抑えることができ、安全で適切な原子炉臨界操作や昇温昇圧操作を容易に行うことができる。
<第2の実施形態>
図8は本発明の第2の実施形態に係る原子炉及び原子炉出力制御装置のシステム構成の概略を示す図である。この第2の実施形態は本発明における第2の手段と第3の手段とを組み合わせた原子炉出力制御装置の例である。
本実施形態では、図8に示すように第1の実施形態において温度検出器20の出力側に炉水温度差検出器29を並列に設けたことを特徴としている。そして、この炉水温度差検出器29を設けたことから、図9に示すように図2における第1の昇温加速度比較器43に代えて炉水温度差比較器48としている。その他の各部は前述の第1の実施形態と同一なので、異なる点についてのみ説明し、重複する説明は省略する。
図8において、原子炉10に接続された配管10a内に設置された熱電対16によって検出された配管10a内の温度は、検出温度に対応した信号として温度検出器20へ出力される。温度検出器20は、熱電対16からの信号に応じた温度を算出し、それを制御棒自動制御器34と温度変化率算出器22及び炉水温度差算出器29へ出力する。すなわち熱電対16と温度検出器20は、原子炉10内の炉水の温度を検出する炉水温度検出手段として機能する。
炉水温度差算出器29は炉水温度差算出手段として機能する。具体的には、温度検出器20からの検出信号を入力し、制御棒駆動制御器8が制御棒自動制御器34に出力する制御棒の状態(制御棒挿入中、制御棒引抜き中、制御棒駆動完了、制御棒の現在位置)に関する信号を制御棒自動制御器34から入力し、制御棒4の状態が制御棒駆動完了となって継続している間は制御棒駆動完了となったときを基準とした炉水温度の差分を一定周期で計算し、その計算結果すなわち炉水温度差(正なら炉水温度上昇、負なら炉水温度低下)を制御棒自動制御器34へ出力する。
制御棒自動制御器34は、温度検出器20で検出した炉水温度、温度変化率算出器22が出力する炉水温度変化率及び昇温加速度、中性子束モニタ26の出力する中性子束レベルと原子炉周期、停止時間カウンタ23が出力する制御棒駆動停止時間、炉水温度差算出器29が出力する炉水温度差、及び入力部30から運転員により設定された炉水温度変化率目標値を入力とし、自動制御時には制御棒駆動制御器8に適切なタイミングで制御棒駆動信号を出力する。一方、手動制御時には、運転員に対して制御棒の挿入あるいは引抜き操作を実施するように指示する表示を表示装置36で行う。制御棒自動制御器34は、炉水温度差算出器29に対して、制御棒駆動制御器8から得られる制御棒の状態(制御棒挿入中、制御棒引抜き中、制御棒駆動完了、制御棒の現在位置)に関する信号を出力する。
図9、図3、図4及び図5に、制御棒自動制御器34に内蔵させてある制御ロジックの例を示す。図9及び図3は初期制御における制御棒挿入の判定をなす制御ロジック(本発明における第2の手段に対応する制御ロジック)であり、図4及び図5は一定昇温制御における制御棒挿入の判定をなす制御ロジック及び制御棒引抜の判定をなす制御ロジック(本発明における第3の手段に対応する制御ロジック)である。
図9の初期制御制御棒挿入条件の判定ロジックは、4つの条件すなわち第1の制御棒駆動停止時間比較器41、第1の原子炉周期逆数比較器42、第1の炉水温度差比較器48、及び第1の炉水温度変化率比較器44の判定がすべて満足されてAND回路45が成立するとき、初期制御制御棒挿入条件成立信号70を発生させる。この初期制御制御棒挿入条件成立信号70に続いて図3の制御棒挿入要求信号85が図8の制御棒駆動制御器8に出力されることによって制御棒4の炉心2への挿入操作がなされる。以下、前記4つの条件について具体的に説明する。
1)第1の条件: まず、第1の制御棒駆動停止時間比較器41は、停止時間カウンタ23から入力される制御棒駆動停止時間T1が予め設定された経過時間の設定値j以上にあることを判定し、これを満たすときはON信号を第1のAND回路45に出力する。この経過時間の設定値jは、制御棒操作による反応度印加の応答時間を過ぎていることを判断する目安値(例えば15分間程度)であり、この時間を過ぎているときは制御棒以外の反応度要因によって中性子束の状態が変化する状態にあるものとみなすことができる。
2)第2の条件: 第1の原子炉周期逆数比較器42は、中性子束モニタ26が出力する原子炉周期の逆数N1が原子炉周期逆数の設定値f以上となることを判定し、これを満たすときはON信号を第1のAND回路45に出力する。この設定値fは原子炉周期が正であることを確実に判定できればよい。原子炉周期の逆数N1が設定値f以上であるとき、中性子束は上昇中であり炉心に正の反応度が印加された状態にあるとみなすことができる。
3)第3の条件: 第1の炉水温度差比較器48は、炉水温度差算出器29において制御棒停止開始からの制御棒停止継続時間に生じた炉水温度差W1が予め設定された炉水温度差設定値u(正値)以上にあることを判定し、これを満たすときはON信号を第1のAND回路45に出力する。これによって、減速材温度の上昇による反応度が印加されていることをみる。
4)第4の条件: さらに第1の炉水温度変化率比較器44は、温度変化率算出器22が出力した炉水温度変化率D1が予め設定された炉水温度変化率の設定値s(ただし正値)以上になることを判定し、これを満たすときはON信号を第1のAND回路45に出力する。炉水温度変化率D1が炉水温度変化率設定値s以上であることによって、炉水温度が上昇中であることが判断できる。また、炉水温度変化率設定値sは管理基準に達する前に制御棒挿入を判断する目安値(例えば15℃/h程度)として設定しておくものであり、炉水温度変化率D1がその目安値を超えたと判断することができる。
上記1)ないし4)の4条件がすべて満足されて第1のAND回路45が成立するときは、制御棒4以外の要因すなわち炉水温度の上昇による正の反応度印加によって中性子束が継続して上昇中であることから、初期制御制御棒挿入条件成立信号70を出力する。初期制御制御棒挿入条件成立信号70は、自己保持回路72及び第1のOR回路73によって保持され、回路71がOFFされるまで出力される。初期制御制御棒挿入条件成立信号70が出力されると図3の制御ロジックに従って制御棒挿入が行われる。図3の初期制御制御棒挿入条件成立信号70は図9の初期制御制御棒挿入条件成立信号70と同じ信号であり、同時に原子炉周期が設定値以上にあって制御棒駆動停止時間T1が設定値(数秒から数十秒程度)以上にあるときに図3の第2のAND回路84が成立し、制御棒挿入要求信号85が図8の制御棒駆動制御器8に出力され、制御棒4が挿入される。
回路71による初期制御制御棒挿入条件成立信号70の解除は、第2の炉水温度変化率比較器74において炉水温度変化率D2が後述の炉水温度変化率設定値bと同値以上となったとき、あるいは回路75において昇温加速度が昇温加速度設定値z未満となり第3のAND回路77が成立したときになされる。ここで、第3のAND回路77に入力される信号70は前記第1のAND回路45から第1のOR回路73を経て出力される初期制御制御棒挿入条件成立信号70と同じである。回路71による初期制御制御棒挿入条件成立信号70の解除と同時に一定昇温制御移行条件成立信号79が出力され、図4及び図5の制御ロジックによる制御に移行する。
以上のように、図9及び図3の制御ロジックに図4及び図5の制御ロジックを組み合わせることによって、昇温昇圧過程の初期制御時などに起こり得る炉水温度変化率の過大化の抑制に重点をおいた制御を行うことができ、またそれ以後の一定昇温制御時においても目標とする炉水温度変化率から大きく変動しない安定した制御を行うことが可能となる。これにより、炉水温度変化率D1の管理基準を遵守しながら好適な昇温昇圧操作を容易に行うことができる。
図10は第2の実施形態に係るシステムの評価例を示す図である。同図に示した特性は、沸騰水型原子炉について、臨界操作直後からの昇温昇圧の過程における中性子束レベルと炉水温度変化率の時間的な挙動をシミュレーションして評価したものである。動作条件は、初期の炉水温度が80℃、臨界過程終了直後の原子炉周期が約150秒、炉心の減速材温度反応度係数は正値で、その絶対値は第1の実施形態の評価で用いた大きい方のものと同じとしている。目標とする炉水温度変化率は30℃/hである。
図10の曲線A4は本実施形態に係る出力制御方法による制御棒操作で制御棒4の挿入及び引抜きがなされた場合の中性子束の時間変化を示し、曲線B4はこの場合の炉水温度変化率の時間変化を示す。一方、曲線A5は本発明の実施の形態を用いず炉水温度上昇開始後の初期制御時において制御棒挿入の判断が遅れ目標炉水温度変化率(30℃/h)に達した時点で制御棒挿入を行ったと仮定した場合の中性子束の時間変化を示し、曲線B5はこの場合の炉水温度変化率の時間変化を示す。前記直線C、D、F及びGは前述の第1の実施形態と同様であり、直線Jは図8の炉水温度差算出器29によって算出された炉水温度差である。
制御棒の挿入が遅れた場合の評価例は、前記第1の実施形態と同じであり、制御棒挿入開始した時刻t3(約35分)で既に加熱源である中性子束A5が上昇し過ぎていたことによって約43分に炉水温度変化率B5は最大となり48℃/hに達している。一方、図10の評価例では、約20分ころから炉水温度変化率B4が上昇し始め、このとき図9の第1の制御棒駆動停止時間比較器41及び第1の原子炉周期逆数比較器42が条件を満たしている。さらに時刻t1(約27分)に炉水温度差が設定値(1.5℃)以上となり第1の炉水温度差比較器48が満たされ、時刻t2(約30分)に炉水温度変化率が設定値(15℃/h)以上となり第1の炉水温度変化率比較器44が満たされ、第1のAND回路45が成立して初期制御制御棒挿入条件成立信号70が出力され、図3の制御ロジックに従って制御棒挿入操作がなされる。
この制御棒挿入後、約33分に炉水温度変化率D2が炉水温度変化率設定値bである図中Fに達し、図9の第2の炉水温度変化率比較器74が成立することによって回路71をOFFにして初期制御を終了し、同時に信号79を発生させて一定昇圧制御に適用する図4及び図5の制御ロジックに移行する。
時刻約35分には図4の第2の原炉周期逆数比較器81、第2の炉水温度変化率比較器74及び第2の昇温加速度比較器56が満たされ第5のAND回路57が成立することによって制御棒挿入が行われている。その後、時刻約41分には図4の第2の原炉周期逆数比較器81及び第3の炉水温度変化率比較器52が満たされ第4のAND回路53が成立することによって制御棒挿入が行われ、時刻約58分には図4の第2の原炉周期逆数比較器81、第2の炉水温度変化率比較器74及び第2の昇温加速度比較器56が満たされ第5のAND回路57が成立することによって制御棒挿入が行われている。
その他、特に説明しない各部は前述の第1の実施形態と同等に構成され、同等に機能する。
このような制御がなされた結果、炉水温度変化率B4は管理基準Dを超えることなく、目標炉水温度変化率Cにそった制御を実現できる。すなわち本発明による制御法を用いることで、炉水温度変化率の過大化を有効に抑えることができ、安全で適切な原子炉臨界操作や昇温昇圧操作を容易に行うことができる。