原子力発電プラント、例えば沸騰水型原子炉を用いた発電プラントの原子炉起動操作においては、低温状態での原子炉臨界と核反応加熱による昇温昇圧を経て定格圧力状態とし、その後、発電機併入して定格出力まで出力を上昇させる手順で操作が行われる。このうち昇温昇圧の過程では、制御棒の挿入・引抜き操作によって炉心内の制御棒挿入量を調整することで加熱源である炉心出力を調整し、炉水の温度変化率を、所定の管理基準(例えば55℃/h以下)を満足させるように制御する必要がある。なお、昇温昇圧過程のような低出力の領域では、炉心出力そのものの測定は難しく、中性子検出器で測定される中性子束によって炉心出力を監視しており、以後の説明では中性子束を加熱源の炉心出力とみなして説明する。
臨界到達後の昇温昇圧開始時においては、わずかに臨界超過の状態として100秒から200秒程度の安定した原子炉周期(中性子束が元の値の2.71倍になる時間)のもとで中性子束を緩やかに上昇させる。これにより燃料温度が上昇し、その熱が冷却材に伝わることによって原子炉系統全体の核加熱が開始する。ただ、臨界到達時の中性子束は冷却材を加熱するのに充分なレベルではない。このため、中性子束が充分なレベルまで上昇して冷却材の温度が上昇し始めるまでには数十分程度の時間を要する。ここで、原子炉周期には正と負があり、中性子束が元の値の2.71倍になる時間をいう場合が正であり、中性子束が元の値の1/2.71倍になる時間をいう場合は負である。
臨界到達後の昇温昇圧においては、運転員が中性子束を監視し、中性子束がある程度上昇したところで、中性子束をその目安(過去の運転実績から炉水の温度変化率が目標値付近となるとして得られた値)と比較し、中性子束が目安を超えそうなときには制御棒を挿入し、逆に中性子束が目安を大きく下回りそうなときには制御棒を引抜く操作を行う。
このような操作を行う過程で、炉水温度が上昇すると、水の密度が小さくなって核分裂に寄与する中性子束の数が減少し、中性子束が上昇から極大値を経て減少に移行する。また炉水温度変化率もある時間遅れを経た後、同様に上昇から極大値を経て減少に移行する。このとき、炉水温度変化率が上述の温度変化率管理基準との関係から導いた目標値に達していない場合には、再度制御棒を引抜いて温度変化率の上昇を待つことになる。
上記の操作を繰り返し、炉水温度変化率が目標値に達した後は、炉水温度変化率が目標値をある程度下回るのを待って、原子炉周期が十分長いことを確認し、制御棒を少量引抜く。このような操作を繰り返すことで平均の炉水温度変化率を目標値近くに保つ。
以上のような原子炉出力制御においては、中性子束と炉水温度変化率との間に時間遅れがある。このため熟練した運転員でも制御棒を操作する回数が多くなり、起動に多くの時間を要するとともに運転員の負担が大きくなる。このことから、効率的な制御を行え、運転員の負担も軽減できる制御手法が提案されている。
例えば、中性子束に基づいて制御棒を操作する方法として、炉水温度変化率の目標値を与える中性子束を評価し、その評価した中性子束目標値となるように制御棒を操作する方法が提案されている。この方法の原理は、中性子束φと炉心内の炉水温度変化率dT/dtの間に以下の熱収支式が成立することを利用している。
(数1)
M・Cv・(dT/dt)=α・φ−Qloss…(1)
ただし、M:冷却材の実効的な質量、Cv:冷却材の比熱、α:中性子束φから炉心出力への変換係数、Qloss:原子炉外部への熱損失。
この熱収支式は、中性子束φと炉水温度変化率dT/dtの間に対応性のあることが条件になる。しかし実際的には中性子束の測定に対し炉水温度変化率の測定が時間遅れを伴うのを避けられず、測定した中性子束φと測定した炉水温度変化率dT/dtの対応性を確定するのは困難である。この問題について、特許文献1に一つの解決法が提案されている。
特許文献1では、上記のように昇温昇圧過程において中性子束と炉水温度変化率それぞれに極大値が生じることを利用している。すなわち中性子束と炉水温度変化率それぞれの極大値に着目すると、特に昇温昇圧過程の初期の段階に生じる最初の中性子束の極大値φmaxと最初の炉水温度変化率の極大値dTmax/dtの間には時間遅れに関係なく対応性がある。したがって(1)式における中性子束φと炉水温度変化率dT/dtの代わりに中性子束の極大値φmaxと炉水温度変化率の極大値dTmax/dtを用いればよいことになり、次の(2)式が得られる。
(数2)
M・Cv・(dTmax/dt)=α・φmax−Qloss…(2)
(2)式において、昇温昇圧過程の初期ではQlossが比較的小さいという実測データの知見から、Qlossを0と近似することができ、(2)式は次の(3)式で表される。
(数3)
M・Cv/α=(中性子束極大値)/(炉水温度変化率極大値)…(3)
(3)式は、中性子束の極大値と炉水温度変化率の極大値との比例関係を表わしている。そして、この比例関係は炉水温度変化率の目標値とこれに対応する中性子束の目標値との比例関係とみなすことができる。このことから(4)式が得られる。
(数4)
(中性子束目標値)=[(中性子束極大値)/(炉水温度変化率極大値)]
×(炉水温度変化率目標値)…(4)
(4)式により炉水温度変化率目標値に対応する中性子束目標値を高い精度で求めることができるので、その求めた中性子束目標値に基づいて制御棒の位置を調整することで炉水温度変化率を迅速に目標値に近づけることでき、原子炉を迅速に昇温昇圧することができる。
なお、原子炉出力の制御については、特許文献1の他に特許文献2や特許文献3にも開示の例が知られている。
特開平9−145895号公報
特開平8−136693号公報
特開平1−217296号公報
特許文献1に記載の従来技術は、炉水の温度反応度係数が負であるとことを前提としている。すなわち臨界超過後の原子炉で、炉水温度が数十℃上昇すると自動的に中性子束の増加が停止し、中性子束および炉水温度変化率が自動的に極大値を持つことを前提としている。より具体的には、炉水の温度反応度係数である減速材温度係数が負の特性を持つ次のような炉心に適用することを前提としている。
減速材温度係数が負である炉心では、臨界到達直後や温度一定状態から昇温昇圧を開始する場合、その初期の段階では原子炉周期の大きさに相当する正の反応度を有しているが、燃料温度の上昇に伴うドップラー効果により負の反応度が徐々に加わり、燃料の熱が減速材でもある冷却材の温度を上昇させる段階に至っては、減速材温度変化に対する反応度係数である減速材温度係数が負であることによって、さらに負の反応度が加わり、一旦上昇した中性子束は極大値を経て降下した後に平定するような振る舞いをする。
一方、最近の沸騰水型原子炉燃料は、従来の燃料に比べて減速材温度係数を大きくした設計になってきている。このような燃料の装荷が進んだ炉心においては、減速材温度係数が正となる場合がある。減速材温度係数が正である炉心状態において昇温昇圧操作を行うと、正の反応度フィードバックによって冷却材温度の上昇と中性子束の上昇が加速する状態が起こる。このため、臨界到達時の制御棒挿入状態で放置しておくと加熱源である中性子束が必要以上に高くなることによって温度変化率が管理基準を超過してしまうことがありえる。
このことをより具体的に説明すると以下の通りである。例えば臨界到達後になされる昇温昇圧操作であれば、臨界到達後の状態から炉水温度変化率を上昇させて目標の炉水温度変化率に近づける制御がなされ、この制御で炉水温度変化率が炉水温度変化率目標値に近づいた後には、炉水温度変化率目標値と測定した炉水温度変化率との差分に基づいて制御棒の挿入や引抜きを行うことで炉水温度変化率を目標値に安定的に維持する制御がなされる。ここでは前者の制御を仮に「初期制御」と呼び、後者の制御を仮に「フィードバック制御」と呼ぶ。
特許文献1に記載の制御法は、主に上記のような昇温昇圧過程における初期制御に適用されるが、この初期制御において、上記のように減速材温度係数が負であるとことを前提としている。すなわち初期制御が開始されるまでに炉水温度変化率が管理基準を超えることなく極大値を経て減少に移行することを前提にしている。そしてこのような前提が許されることで、中性子束と炉水温度変化率それぞれの極大値を測定し、この両極大値から中性子束の目標値を求めることが可能となる。
このように減速材温度係数が負であるとことを前提として中性子束と炉水温度変化率それぞれの極大値の測定をなす制御法を減速材温度係数が正の炉心状態に適用すると、中性子束や炉水温度変化率の極大値が現れる前、つまり極大値から求められる中性子束の目標値による初期制御が開始される前に炉水温度変化率が炉水温度変化率監視上の基準としている管理基準を大きく超えてしまう可能性がある。このため運転員は、中性子束が必要以上に過大にならないように絶えず監視しながら適切に制御棒の挿入操作を行う必要がある。
しかし、中性子束の監視は起動領域中性子モニタなどの較正を必要とする中性子検出器の指示値にて行われることから、その絶対値を正確に把握することは容易でない。また、炉水温度変化率を指標として中性子束を制御しようとしたときにも以下のような難しさがある。まず、炉水温度変化率を算出する元になる炉水温度に関して、沸騰水型原子炉では炉心内の冷却材温度を直接測定できないため原子炉圧力容器から引き出した配管内の水の温度を測定し炉水温度としているので、計測した温度は炉水温度に対して時間遅れを持つ。炉水温度検出器での計測における時間遅れもある。また、炉水温度変化率は、変化率演算に必要な一定時間分のデータを必要とすることに起因する時間遅れもあり、中性子束の挙動に対して相当な時間遅れを伴う。このような理由から、上記のような中性子束過大化防止のための操作は、運転員の負担を大きくしている。
ここで炉水温度変化率の管理基準には、運転制限条件として必ず満足しなければならない安全上の基準値と、制御中の運転員による監視目安として用いる基準値があり、以下の説明では前者を「運転管理基準値」、後者を「監視基準値」と呼ぶことで区別する。運転管理基準値は、いかなる単位時間においても温度差が所定範囲(例えば55℃以内)を超えてはならないとする安全上の基準であり、必ず満足する必要がある。監視基準値は、数分間程度の平均変化率として算出された監視用の炉水温度変化率に対する基準値(例えば、数分間平均変化率としての「55℃/h以下」など)であり、運転管理基準値を満足させるための監視上の目安とするものである。したがって炉水温度変化率は、単位時間内の温度差が運転管理基準値以内であれば一時的に監視基準値を超過することが許容される。
以上のような減速材温度係数が正の炉心状態における問題を上記のような昇温昇圧過程と関連させて考えると以下のことがいえる。初期制御は、上記のように、その制御開始時点における炉水温度変化率をフィードバック制御における目標炉水温度変化率に適切に近づけることが目的である。初期制御で得られる炉水温度変化率が目標値に近ければ近いほどフィードバック制御での安定制御状態をより短時間で実現できる。しかし、減速材温度係数が正の炉心では、制御性や安全性を優先して、初期制御で得る炉水温度変化率制御の精度を低下させ、安全側に設定することは可能である。また極大値を利用する手法は、中性子束と炉水温度変化率における時間遅れの問題を避けるのに有効であるが、その時間遅れについても、適切に評価すれば、中性子束の測定値と炉水温度変化率の測定値の間に充分な対応性を与えることが可能である。つまり時間遅れの要因を適切に評価することで中性子束の測定値と炉水温度変化率の測定値の間に充分な対応性を与えることのできる遅れ時間を求めることは可能である。
これらのことから、減速材温度係数が正となる炉心状態があり得る最近の原子炉における昇温昇圧過程の初期制御にあっては、フィードバック制御における炉水温度変化率目標値への近接度や中性子束と炉水温度変化率の間の相関関係を適切に把握することにこだわらず、減速材温度係数が正であることによる炉水温度変化率の増加の抑制に重点をおき、必要時に適切に制御棒の挿入を行う制御とすることが適切である。
ここで、減速材温度係数が正であっても、それが充分に小さければ、燃料温度変化に対するドップラー反応度係数が負であることによって、出力上昇に対しては即時に負の反応度が印加される。したがって原子炉の安全上で問題となることはない。
本発明は、以上のような知見に基づいてなされたものであり、減速材温度係数が正の状態にあることなどによって炉水温度変化率が過大になるのを効果的に抑制することを可能とする原子炉出力制御方法およびそれに用いる原子炉出力制御装置の提供を目的としている。
上記目的は本発明による第1の原子炉出力制御方法によって達成することができる。本発明ではその第1の原子炉出力制御方法を以下のように構成するものとしている。すなわち、原子炉内の炉水温度に関する炉水温度変化率が所定の管理基準を満足させるように制御棒の操作をなして原子炉の出力を制御する原子炉出力制御方法において、検出された前記炉水温度から前記炉水温度変化率を算出するとともに、ある時刻における前記炉水温度変化率、前記炉水温度変化率に関する上限値として予め設定されている炉水温度変化率制限値、および前記ある時刻より一定時間前の時刻に検出された中性子束から中性子束制限値を算出し、そして前記ある時刻に検出された中性子束が前記中性子束制限値以上となったことを条件として前記制御棒の挿入を行うようにしている。
このような制御方法は、減速材温度係数が正の状態の場合に、昇温昇圧過程の初期制御において発生する可能性のある炉水温度変化率の過大化を抑制することに重点をおいた制御を実現する。その理由は以下の通りである。上述のように、中性子束と炉水温度変化率の間の時間遅れにおける遅れ時間は、時間遅れの要因を適切に評価することで充分に高い精度で求めることができる。そしてこの遅れ時間を介在させることで中性子束の測定値と炉水温度変化率の測定値の間に充分な対応性を与えることができる。すなわちある時刻の炉水温度変化率とそのある時刻から時間遅れ分の一定時間を遡った時刻における中性子束との比が、その時刻の中性子束と一定時間(これは時間遅れ分の一定時間と同じであるのが通常である)後の炉水温度変化率との比とほぼ同一であると仮定することができ、そのように仮定すると、炉水温度変化率制限値に対応する中性子束制限値について(5)式が得られる。
(数5)
(中性子束制限値)=(一定時間前の中性子束)/(炉水温度変化率)
×(炉水温度変化率制限値)…(5)
この(5)式から中性子束制限値を求め、その中性子束制限値を現在の中性子束が超えていれば、一定時間後に炉水温度変化率が炉水温度変化率制限値を超える可能性があると予測できる。そこである時刻において中性子束が中性子束制限値を超えることを条件に制御棒の挿入を行えるようにすることにより、炉水温度変化率の過大化を有効に抑制した制御を実現することができる。
上記の炉水温度変化率制限値には、必ずしも監視基準値と同等の値を与える必要はなく、監視基準値よりも大きい値(例えば60℃/h)、あるいは監視基準値と目標値の間にあって制御上の目安とすべき適切な制限値(例えば目標値30℃/hに対する制限値40℃/hなど)を与えることもできる。
以上のように、第1の制御方法では、中性子束が中性子束制限値を超えることを条件として制御棒の挿入を行う。この場合にその制御棒挿入を停止させるための基準も必要となる。本発明では、その基準として、炉水温度変化率目標値を設定し、この炉水温度変化率目標値に対応する中性子束目標値以下に中性子束がなることを条件として制御棒の挿入を停止するようにしている。すなわち本発明では、ある時刻における前記炉水温度変化率、前記炉水温度変化率に関して前記炉水温度変化率制限値より小さな値として予め設定されている炉水温度変化率目標値、および前記ある時刻から一定時間前の時刻に検出された中性子束から中性子束目標値を算出し、そして前記ある時刻に検出された中性子束が前記中性子束目標値以下となることを条件として前記制御棒の挿入を停止するようにしている。
この場合の中性子束目標値は以下のようにして求める。すなわち(5)式と同様の仮定をすると、炉水温度変化率目標値に相当する中性子束目標値として(6)式が得られるのでこの(6)式により中性子束目標値を算出する。
(数6)
(中性子束目標値)=(一定時間前の中性子束)/(炉水温度変化率)
×(炉水温度変化率目標値)…(6)
また本発明では、上記のような第1の制御方法について、前記中性子束から求められる原子炉周期などに基づいて前記中性子束の状態を判定し、前記中性子束が上昇中、一定、もしくは非常に緩やかに下降中のいずれかの状態にあることを前記制御棒挿入の他の条件とするようにしている。
このような条件を制御棒挿入の条件に加えることで、より精度の高い制御が可能となる。すなわち中性子束が中性子束制限値を超えたことで、一定時間後に炉水温度変化率が炉水温度変化率制限値を超えことになるのは、中性子束が上昇中であるか、あるいは一定の場合、さらに下降中であってもその下降の度合いが非常に緩やかである状態である。したがって中性子束の状態を原子炉周期などに基づいて判定し、それが上記のような状態にあることを制御棒挿入のもう一つの条件とすることで、より精度の高い制御とすることができる。
また本発明では上記のような第1の制御方法に用いる原子炉出力制御装置を、炉水温度検出手段、炉水温度変化率算出手段、および中性子束制限値算出手段を備えた構成としている。
また本発明では上記のような原子炉出力制御装置について、中性子束目標値算出手段をさらに備えさせるものとしている。
また本発明では上記のような原子炉出力制御装置について、原子炉周期算出手段をさらに備えさせるものとしている。
上記目的は本発明による第2の原子炉出力制御方法によっても達成することができる。本発明ではその第2の原子炉出力制御方法を以下のように構成するものとしている。すなわち、原子炉内の炉水温度に関する炉水温度変化率が所定の管理基準を満足させるように制御棒の操作をなして原子炉の出力を制御する原子炉出力制御方法において、検出された前記炉水温度から前記炉水温度変化率を算出し、前記炉水温度変化率が前記炉水温度変化率に関する上限値として予め設定されている炉水温度変化率制限値以上にあること、および制御棒駆動停止状態が一定時間以上継続していることを条件として制御棒の挿入を行えるようにしている。
前記炉水温度変化率制限値には、必ずしも監視基準値と同等の値を与える必要はなく、監視基準値と目標値の間にあって制御上の目安とすべき適切な制限値(例えば目標値30℃/hに対する制限値40℃/hなど)を与えることができる。
このような制御方法も、減速材温度係数が正の状態の場合に、昇温昇圧過程の初期制御において発生する可能性のある炉水温度変化率の過大化を抑制することに重点をおいた制御を実現することができる。ただ、炉水温度変化率が炉水温度変化率制限値を超えたことを制御棒挿入の条件にすることから、前記炉水温度変化率制限値の設定によっては第1の制御方法の場合よりも炉水温度変化率が若干高めの状態から制御棒の挿入が開始されることになる。したがってこの第2の制御方法は、例えば第1の制御方法に組み合わせ、第1の制御方法のバックアップ的に用いることも有効であるといえる。
本発明では、以上のような第2の制御方法について、第1の制御方法の場合と同様に、制御棒挿入を停止させるための基準として、炉水温度変化率目標値を設定し、この炉水温度変化率目標値に対応する中性子束目標値以下に中性子束がなることを条件として制御棒の挿入を停止するようにしている。すなわち、ある時刻における前記炉水温度変化率、前記炉水温度変化率に関して前記炉水温度変化率制限値より小さな値として予め設定されている炉水温度変化率目標値、および前記ある時刻から一定時間前の時刻に検出された中性子束から中性子束目標値を算出し、そして前記ある時刻に検出された中性子束が前記中性子束目標値以下となることを条件として前記制御棒の挿入を停止するようにしている。
また本発明では、上記のような第2の制御方法についても、第1の制御方法と同様に、前記中性子束から求められる原子炉周期などに基づいて前記中性子束の状態を判定し、前記中性子束が上昇中、一定、もしくは非常に緩やかに下降中のいずれかの状態にあることを前記制御棒挿入の他の条件とするようにしている。
また本発明では上記のような第2の制御方法に用いる原子炉出力制御装置を、炉水温度検出手段、炉水温度変化率算出手段、および制御棒駆動状態監視手段を備えた構成としている。
また本発明では上記のような原子炉出力制御装置について、中性子束目標値算出手段をさらに備えさせるものとしている。
また本発明では上記のような原子炉出力制御装置について、原子炉周期算出手段をさらに備えさせるものとしている。
本発明によれば、減速材温度係数が正である特性をもつ原子炉においても適切なタイミングでの制御棒操作を自動的に行うことができ、炉水温度変化率が監視基準値を大きく超えるようなことのない制御、つまり安全性をより高めた制御を臨界操作や昇温昇圧操作において効率的に行うことが可能となる。
以下、本発明を実施する上で好ましい形態について説明する。図1に本発明における第1の制御方法で用いられる原子炉出力制御装置の一実施形態(第1の実施形態)による構成をブロック図の形態で示す。図に見られるように、原子炉出力制御装置は、原子炉10に設置の中性子束検出器12、圧力検出器14および熱電対16を含む測定系を備え、さらにこれらの測定系で得られる測定値を入力として制御棒駆動制御器8へ出力する制御信号を生成させる原子炉出力制御器18を備えている。そしてその原子炉出力制御器18は、温度検出器20、温度変化率算出器22、中性子束モニタ26、中性子束制限値算出器27、中性子束目標値算出器28、入力部30、制御棒自動制御器34および表示装置36を備えている。
熱電対16は、原子炉10に接続の配管内に設置されており、配管内の炉水の温度を検出し、検出温度に対応した信号を温度検出器20へ出力する。温度検出器20は、熱電対16からの信号に応じた温度を算出し、それを制御棒自動制御器34と温度変化率算出器22へ出力する。すなわち熱電対16と温度検出器20は、原子炉10内の炉水の温度を検出する炉水温度検出手段として機能する。
温度変化率算出器22は、炉水温度変化率算出手段として機能するものであり、温度検出器20の検出信号を順次記憶し、炉水温度の時間的変化から炉水温度の単位時間あたりの変化率を算出し、その算出した炉水温度変化率を中性子束制限値算出器27、中性子束目標値算出器28および制御棒自動制御器34へ出力する。
中性子束検出器12は、中性子束検出手段として機能するものであり、原子炉10の炉心2内に設置されている。この中性子束検出器12は、単位時間あたりの中性子束の数を計数し、その計数値を中性子束検出信号として中性子束モニタ26へ出力する。中性子束モニタ26は、中性子束検出器12の出力信号を中性子束レベル(中性子束の検出値と炉心の定格出力との割合を示すレベル=%定格)に変換するとともに、中性子束の時間変化率を表す指標である前述の原子炉周期を演算する。そして中性子束レベルを中性子束制限値算出器27と中性子束目標値算出器28に出力し、中性子束レベルと原子炉周期を制御棒自動制御器34へ出力する。したがって中性子束モニタ26は、原子炉周期算出手段としても機能することになる。
中性子束制限値算出器27は中性子束制限値算出手段として機能する。具体的には、中性子束モニタ26が出力する中性子束レベルを一定周期(例えば1秒周期)で順次記憶し、また予め設定してある設定時間(Δt)だけ前の時刻の中性子束レベル、温度変化率算出器22が出力する炉水温度変化率、予め設定してある炉水温度変化率制限値および中性子束制限値調整係数を入力として、中性子束制限値を算出し、この中性子束制限値を制御棒自動制御器34へ出力する。
中性子束目標値算出器28は中性子束目標値算出手段として機能する。具体的には、中性子束モニタ26が出力する中性子束レベルを一定周期(例えば1秒周期)で順次記憶し、また予め設定してある設定時間(Δt)だけ前の時刻の中性子束レベル、温度変化率算出器22が出力する温度変化率、入力部30から制御棒自動制御器34を介して出力する温度変化率目標値および予め設定してある中性子束目標値調整係数を入力として、中性子束目標値を算出し、この中性子束目標値を制御棒自動制御器34へ出力する。
入力部30は、炉水温度変化率目標値入力手段として機能するものであり、例えば制御操作盤上のコンソールなどで構成され、運転員の操作により、炉水温度変化率目標値として、例えば30℃/hという値が入力され、それを制御棒自動制御器34へ出力する。
制御棒自動制御器34は、温度検出器20で検出した炉水温度、温度変化率算出器22が出力する炉水温度変化率、中性子束モニタ26の出力する中性子束レベルと原子炉周期、中性子束制限値算出器27が出力する中性子束制限値、中性子束目標値算出器28が出力する中性子束目標値、および入力部30から取り込んだ炉水温度変化率目標値を入力とし、自動制御時に、制御棒駆動制御器8に適切なタイミングで制御棒駆動信号を出力する。一方、手動制御時には、運転員に対して制御棒挿入操作を実施するように指示する表示を表示装置36で行う。
制御棒駆動制御器8は、制御棒4の炉心2に対する挿入と引抜きを駆動する制御棒駆動装置6に対する制御を行う。そのために制御棒駆動制御器8は、複数の制御棒をどの順番で操作するかを予め定めたリストを保有し、また複数ある駆動モードに対して一回の制御棒駆動信号でどれだけの量を操作するかを予め定めたリストを保有しており、制御棒自動制御器34から出力された制御棒駆動信号(挿入開始または引抜き開始信号および駆動モード情報)に基づいて制御棒駆動装置6に制御棒駆動信号を出力する。また、制御棒自動制御器34に対しては、制御棒の状態(制御棒挿入中、制御棒引抜き中、制御棒操作完了、制御棒の現在位置)に関する信号を出力する。
制御棒駆動装置6は、水圧駆動やステップモータによる電動駆動装置であり、制御棒駆動制御器8からの信号により制御棒4を炉心2に挿入あるいは炉心2から引抜く動作をする。
CRTで代表される表示装置36には、温度変化率目標値と実際の温度変化率を並べて表示したり、目標とする炉水温度の時間変化や実際の炉水温度の時間変化をトレンドとしてグラフ表示したりすることができる。また、中性子束レベルや原子炉周期あるいは原子炉周期の逆数についてもトレンドとしてグラフ表示でき、中性子束レベルは中性子束制限値算出器27が出力する中性子束制限値や中性子束目標値算出器28が出力する中性子束目標値と比較できるように表示することもできる。さらに、制御棒の現在位置を表示することもできる。制御棒の操作を運転員が行う手動操作時には、制御棒を挿入操作すべきタイミングに、運転員に対して制御棒挿入操作を実施するようなガイダンスを表示する。運転員は、そのガイダンスにしたがい、入力部30から制御棒操作指令を入力し、制御棒駆動制御器8によって制御棒4を操作する。
図2〜図4に、制御棒自動制御器34に内蔵させてある制御ロジック(制御手段ないし制御装置)の例を示す。図2は中性子束制限値超過の判定をなす制御ロジックであり、図3は温度変化率過大発生の判定をなす制御ロジックと温度変化率過大抑制完了の判定をなす制御ロジックであり、図4は制御棒挿入の制御ロジックである。
図2の中性子束制限値超過判定用制御ロジックは、3つの条件すなわち第1の条件66、第2の条件67、および第3の条件68がすべて満足されてAND回路69が成立するとき、中性子束制限値超過信号72を成立させる。そしてこの中性子束制限値超過信号72の成立に応じて図3の温度変化率過大発生判定用制御ロジックで温度変化率過大発生信号80が出力され、さらに温度変化率過大発生信号80を受けて図4の制御ロジックで制御棒挿入操作開始の判定がなされる。
第1の条件は、中性子束モニタ26が出力する中性子束が中性子束制限値算出器27によって次式で算出される中性子束制限値Φlim以上になることである。
(数7)
Φlim =a・ΦΔt・Tlim /T ………(7)
ここで、ΦΔt:ある時刻taより一定時間Δtだけ前の時刻における中性子束検出値、T:ある時刻taにおける炉水温度変化率検出値、Tlim:炉水温度変化率制限値、a:中性子束制限値調整係数。
原子炉臨界操作を行う低温時および炉水温度が比較的に低い昇温昇圧操作の過程では、上述のように、原子炉内で発生した熱のほとんどが原子炉外へ出ずに保存される。このため、ある時刻taにおける炉水温度変化率Tの大きさは、中性子束と炉水温度変化率との間の時間遅れに相当する一定時間Δtだけ時刻taより前の時刻における中性子束ΦΔtの大きさに概ね比例する関係にある。この原理を利用すれば、現在の温度変化率と一定時間前の中性子束の関係を現在の中性子束と一定時間後の温度変化率にあてはめることで、現在の中性子束から一定時間後の温度変化率を予想することができる。したがって、一定時間後の温度変化率が温度変化率制限値Tlim(例えば55℃/h)に達するのに対応する中性子束制限値Φlimを(7)式から算出し、この中性子束制限値を現在の中性子束が超えていれば、一定時間後の炉水温度変化率が炉水温度変化率制限値を超えることになると判定することができる。
中性子束制限値調整係数aは、中性子束制限値算出器27における中性子束制限値の算出精度および温度変化率制限値に対するマージンを調整するための設定値であり、例えば0.95といった値が設定される。
一定時間Δtは、中性子束と炉水温度変化率との間の時間遅れに対応しており、温度変化率算出器22が出力する温度変化率の挙動とΔt前に中性子束モニタ26が出力した中性子束の挙動とがよく一致するように、熱電対16の熱容量および設置位置、温度変化率算出器22による温度変化率の算出条件などを考慮し、例えば数分程度の値として、予め定められる。なおこの一定時間Δtは、上記の中性子束検出手段と温度変化率算出手段を適用した原子炉の運転データを用いて上記時間遅れを評価することによって決めることもできる。
温度変化率制限値Tlimは、昇温昇圧過程などにおける制御中に炉水温度変化率が過大になるのを抑制することに重点をおいて制御するための基本的な基準として設定されるものであり、入力部30から制御棒自動制御器34を介して入力される後述の温度変化率目標値Ttargetよりも一定程度大きめに設定される。この温度変化率制限値Tlimは、予め設定するだけでなく、温度変化率目標値Ttargetを用いる方法をとることもできる。この場合は、中性子束制限値調整係数aを温度変化率目標値Ttargetに対する制限値調整パラメータと位置づけて、例えば1.5などと、設定することもできる。また、温度変化率制限値Tlimは、予め設定の制限値調整値(例えば10〜20程度)を温度変化率目標値Ttargetに加算する方法をとることもできる。
以上の第1の条件として、現在の中性子束が(7)式により算出される中性子束制限値以上にあることが判定されたときは、その現在の中性子束レベルが維持されると、一定時間後の温度変化率が温度変化率制限値を超えることになると推定することができる。
第2の条件は、温度変化率算出器22が出力した炉水温度変化率が予め設定してある炉水温度変化率下限値(例えば数℃/h程度)以上になることである。これは、中性子束制限値算出器27における中性子束制限値の算出で用いている温度変化率算出器22からの炉水温度変化率が適切な大きさ、つまり熱電対16と温度検出器20で構成される炉水温度検出手段がもつ検出ノイズやフィルタ処理等の影響を有意に取り込まない程度の大きさに達していることを判定するための条件である。
第3の条件は、中性子束モニタ26が出力する原子炉周期の逆数が原子炉周期逆数設定値(例えば−500秒の逆数)以上となることである。これは第1の条件と第2の条件の他にこの第3の条件を加えることによって、原子炉周期の逆数が原子炉周期逆数設定値として設定される、ある値(例えば−500秒の逆数)未満になるまでは、中性子束が上昇中、一定、もしくは非常に緩やかに下降中のいずれかの状態にあり、炉水温度変化率の過大化を抑えるのには不十分な状態にあると見なすことができ、制御棒挿入の必要性をより精度高く判定するのに有効である。この第3の条件は、「原子炉周期が正値または負でその絶対値が原子炉周期設定値(例えば500秒)以上」というのと等価であり、したがってこれと代えることもできる。また第3の条件は、より簡単な方法として、中性子束モニタ26が出力する中性子束を一定周期(例えば1秒周期)で順次記憶しておき、現在の中性子束と一定時間(例えば数分程度)前の中性子束の比が設定値(例えば0.5〜0.8)以上にあることをもって代用することもできる。
以上の3条件を満足したときには、一定時間(通常は数分程度)後に炉水温度変化率が炉水温度変化率制限値を超過する恐れがあると判定して中性子束制限値超過信号72を出力し、これに応じて図3の温度変化率過大発生判定用制御ロジックが温度変化率過大発生信号80を出力し、さらに図4の制御ロジックにしたがって制御棒挿入操作が開始される。
ここで中性子束制限値超過信号72を出力する3条件のうち第3の条件は省略することができる。これは、第3の条件は制御棒挿入を開始させる前条件である中性子束制限値超過信号72の出力判定をより精度高くなすことに有効であるが、後述の図4におけるそれと同様の条件が制御棒挿入の判定に必要な要件をなすことによる。ただ、第3の条件を用いれば、中性子束制限値超過信号72によって制御棒挿入操作を開始すべき条件としての原子炉周期逆数設定値と、制御棒挿入を繰り返すときの判定に用いる図4の条件82の原子炉周期逆数設定値に対してそれぞれに最適な値を与えることができる。
図3の温度変化率過大発生判定用制御ロジックは、図2の制御ロジックによって中性子束制限値超過信号72が出力された場合に温度変化率過大発生信号80を出力する。温度変化率過大発生信号80は、図4の制御棒挿入制御ロジックにおいて制御棒挿入を判定するのに必要な条件の1つであり、これの成立が制御棒挿入の条件となる。
温度変化率過大発生判定用制御ロジックに入力した中性子束制限値超過信号72は、自己保持回路によって自己保持される。その自己保持回路は、ワイプアウト78、ワイプアウト78の下流で分岐生成される自己保持信号79、および中性子束制限値超過信号72と自己保持信号79を入力とするOR回路73で形成されている。この中性子束制限値超過信号72の自己保持は温度変化率過大抑制完了信号77の成立でワイプアウト78によって解除され、この解除により温度変化率過大発生信号80が停止するので温度変化率過大抑制のための制御棒の挿入が終了することになる。
温度変化率過大抑制完了信号77は、上記のように温度変化率過大抑制のための制御棒挿入操作を終了させるために出力されるものであり、温度変化率過大抑制完了判定用制御ロジックで生成される。温度変化率過大抑制完了判定用制御ロジックは、第1の条件である、温度変化率過大発生信号75(=温度変化率過大発生信号80)が出力されているときに、第2の条件が成立した場合、すなわち中性子束モニタ26からの中性子束値が、中性子束目標値算出器28によって次式(8)で算出される中性子束目標値Φtarget以下となった場合、より具体的には中性子束目標値Φtargetを若干下回った場合に、AND回路76が成立し、温度変化率過大抑制完了信号77を出力する。
(数8)
Φtarget =b・ΦΔt・Ttarget /T ………(8)
ここで、ΦΔt:温度変化率過大発生信号80が成立した時刻tcよりも一定時間Δt前の時刻tdにおける中性子束検出値、T:温度変化率過大発生信号80が成立した時刻tcにおける炉水温度変化率検出値、Ttarget:炉水温度変化率目標値、b:中性子束目標値調整係数。
炉水温度変化率過大化抑制のための制御棒の挿入は、炉水温度変化率を炉水温度変化率目標値Ttargetまで低下させ得る中性子束目標値Φtargetまで中性子束が低下したことをもって終了する。すなわち図2〜図4の制御ロジックでなされる制御は、上述の初期制御とフィードバック制御からなる昇温昇圧過程の場合であれば、そこにおける初期制御のための制御であり、炉水温度変化率の過大化が初期制御において発生するのを抑制することに重点をおいた制御である。そのため、フィードバック制御で用いる目標炉水温度変化率に対応する初期制御用の炉水温度変化率目標値Ttargetを設定し、これから炉水温度変化率と中性子束の比例関係を利用した式(8)により中性子束目標値Φtargetを求め、この中性子束目標値を若干下回った、つまり炉水温度変化率をフィードバック制御で用いる目標炉水温度変化率に適切な範囲で近づけ得たことをもって制御棒の挿入を終了させる。このことから、フィードバック制御用の目標炉水温度変化率と初期制御用の炉水温度変化率目標値Ttargetとは必ずしも同じでなくてもよい。
炉水温度変化率目標値Ttargetは入力部30から運転員によって入力され、制御棒自動制御器34を介して中性子束目標値算出器28に入力する。中性子束目標値の算出に際しては、中性子束目標値調整係数bを用いて調整することができる。具体的には中性子束目標値調整係数bを、例えば炉水温度変化率をフィードバック制御で用いる目標炉水温度変化率にある範囲内で近づけ得た段階で速やかにフィードバック制御に移行させる場合には1.2程度とし、例えば炉水温度変化率が一時的に炉水温度変化率目標値を超過していたことによる影響で平均炉水温度変化率が炉水温度変化率目標値より高くなるのを初期制御において抑える方法をとる場合には0.9程度とすればよい。
図4の制御ロジックは、図3の制御ロジックによって温度変化率過大発生80信号が出力されている状態において、制御棒駆動制御器8に対して制御棒挿入指令を出力するための制御棒挿入制御ロジックである。この制御ロジックは、次の3条件を満足したときにAND回路84が成立し、制御棒挿入指令85を図1の制御棒駆動制御器8に出力する。
第1の条件は、温度変化率過大発生信号80が成立している状態にあることである。第2の条件は、中性子束モニタ26が出力する原子炉周期の逆数が原子炉周期逆数設定値(例えば−500秒の逆数)よりも大きいことである。この条件は、図2の制御ロジックにおけるそれと同様の目的で用いるものである。この第2の条件は、「原子炉周期が正値または負でその絶対値が原子炉周期設定値(例えば500秒)以上」というのと等価であり、したがってこれと代えることもできる。また、第2の条件は、より簡単な方法として、中性子束モニタ26が出力する中性子束を一定周期(例えば1秒周期)で順次記憶し、中性子束と一定時間(例えば数分程度)前の中性子束の比が設定値(例えば0.5〜0.8)以上にあることをもって代用することもできる。
第3の条件は、制御棒駆動制御器8が出力する制御棒の状態信号が制御棒操作完了の状態で一定時間(例えば数十秒程度)以上継続していることである。制御棒駆動の直後は原子炉周期が安定していなので、一定時間経過するのを待ってから原子炉周期を判定することは不必要な制御棒操作を避けるのに有効である。
上記3条件をすべて満足したときに、制御棒駆動制御器8に制御棒挿入指令85を出力する。これを入力として制御棒駆動制御器8は、制御棒駆動装置6に対して制御棒駆動信号を出力し、制御棒駆動装置6が駆動することで制御棒4を動作させて炉心2に挿入する。制御棒駆動制御器8には制御棒4の操作順番のリスト、駆動モード、一回の制御棒駆動信号でどれだけの量の制御棒を操作するかなどを予め設定してあるので、一回あたりの制御棒挿入量はこの設定にしたがう。
以上の図2〜図4の制御ロジックにより、炉水温度変化率の過大化が初期制御において発生するのを抑制することに重点をおいた初期制御をなすことができる。そしてこの初期制御により炉水温度変化率が以後のフィードバック制御における目標炉水温度変化率に適切に近づけられたら、フィードバック制御に移る。フィードバック制御では、目標炉水温度変化率を設定し、この目標炉水温度変化率と測定した炉水温度変化率との偏差に基づいた制御がなされる。
図5にフィードバック制御における制御ロジックの例を示す。この制御ロジックは、フィードバック制御において目標とする炉水温度変化率を設定するための目標炉水温度変化率設定器51、目標炉水温度変化率設定器51で設定された目標炉水温度変化率を実測炉水温度変化率との関係で制限する変化率制限器52、目標炉水温度変化率を与える目標中性子束の算出をなす比例積分器53、比例積分器53からの中性子束目標値と現在の中性子束(中性子束レベル57)との偏差により制御棒操作を判定する制御棒動作判定器54、温度変化率算出器22から取り込む炉水温度変化率55の進み補償を行う進み補償機能56、および中性子束モニタ26から取り込む中性子束レベル57を対数化する対数変換器58を含んでなる。
このように構成された制御ロジックによる制御は以下のようになされる。まず目標炉水温度変化率設定器51に目標炉水温度変化率が運転員によって設定される。この設定された目標炉水温度変化率と現在の炉水温度変化率55との間の偏差が大きい場合には、変化率制限器52によって目標炉水温度変化率が抑制される。すなわち、設定された目標炉水温度変化率は、それが現在の炉水温度変化率に対して大きすぎる場合、変化率制限器52により規定のレ−トで徐々に上昇するように制限される。温度変化率算出器22から取り込まれる炉水温度変化率55については、温度変化率算出器22にデータを提供する熱電対16に検出器時定数がある他、制御棒4の引抜きによって温度が上昇した炉水が炉内の熱電対16の位置に到達してその温度が検出されるまで時間がかかることから、その補償が必要であり、そのために進み補償機能56にて、ある時間だけ先の炉水温度変化率を予測する。
変化率制限器52の出力と進み補償機能56の出力との間に偏差がある場合には、その偏差量を0とするように制御棒を動作させなければならない。制御棒動作量は、目標炉水温度変化率と比例関係にある目標中性子束レベルに対する実測中性子束レベルの偏差に基づいて決定される。その目標中性子束レベルの演算は比例積分器53でなされる。すなわち変化率制限器52の出力と進み補償機能56の出力の偏差は、比例積分回路53により、目標の中性子束レベルに換算される。比例積分器53により算出された目標中性子束レベルは、中性子束モニタ26の出力から対数変換した中性子束レベルと比較される。ここで、中性子束モニタ26の出力である中性子束レベル57を対数変換器58により対数化する理由は、中性子束モニタ26の出力は昇温昇圧制御過程において100倍程度変化するため、幅の広い変化を制御しやすいような値に変換するためである。
比例積分器53の出力と中性子束の対数変換器58の出力との偏差は制御棒動作判定回路54に入力される。そしてそのの偏差が規定値以上の場合に、制御棒の引抜き指令または挿入指令が制御棒動作判定回路54から出力される。この引抜き/挿入指令は制御棒駆動制御器8に入力され、これにより制御棒駆動装置6が駆動することで制御棒4が動作する。
以上のように、図2〜図4の制御ロジックに図5の制御ロジックを組み合わせることによって、臨界後の昇温昇圧開始時や温度一定状態からの昇温昇圧操作再開時つまり昇温昇圧過程の初期制御時などに起こり得る炉水温度変化率の過大化の抑制に重点をおいた制御を行うことができ、またそれ以後の安定した昇温昇圧過程つまりフィードバック制御時においても目標とする炉水温度変化率に対応した目標中性子束に中性子束を適合させる制御を行うことができ、炉水温度変化率の監視基準値超過を最小限に抑制する適切な昇温昇圧操作を容易に行うことができる。
図6に、以上のような形態で実施した場合の本発明による効果の評価例を示す。これは、沸騰水型原子炉について、臨界操作直後から昇温昇圧の初期制御の過程における中性子束レベルと炉水温度変化率の時間的な挙動をシミュレーションして評価したものである。初期の炉水温度は80℃、臨界過程終了直後の原子炉周期を約190秒、炉心の減速材温度反応度係数は正で絶対値はドップラー反応度によってわずかに打ち消される程度の反応度を与える大きさとしている。目標とする炉水温度変化率は30℃/hとしている。
曲線A1は本発明による炉水温度変化率過大化抑制の制御法による制御棒操作で制御棒の挿入がなされた場合の中性子束の時間変化であり、曲線B1はこの場合の炉水温度変化率の時間変化である。一方、曲線A2は炉水温度上昇開始後の初期制御時に制御棒の挿入がなされないと仮定した場合の中性子束の時間変化であり、曲線B2はこの場合の炉水温度変化率の時間変化である。
制御棒の挿入がなされない場合の炉水温度変化率B2は、中性子束の上昇から遅れて約20分ごろから有意に上昇し、約30分後に炉水温度変化率の監視基準値C(この例では55℃/h)を超過し、約40分後には監視基準値Cの2倍近い大きさに達している。実際には炉水温度変化率がこれほど高くなる前に警報が発生され、運転員が制御棒を挿入することになるので、このようなことは起こらない。しかしその制御棒操作では、適切なタイミングで適切な量の制御棒を挿入しないと炉水温度変化率が低下しすぎて、起動操作が遅れる恐れがあるなどの問題があり、運転員に大きな負担をかけることになる。
本発明による制御法の適用の場合は、時刻t1(約24分)に中性子束が炉水温度変化率制限値Tlim(設定値55℃/h)に相当する中性子束制限値Φlim以上に達して制御棒挿入操作が開始されて中性子束A1が低下し始め、時刻t2(約27分)に中性子束目標値Φtarget以下に達して制御棒挿入が終了する。このような制御がなされた結果、炉水温度変化率B1は監視基準値Cを超えることがない。すなわち本発明による制御法を用いることで、炉水温度変化率の過大化を有効に抑えることができ、平均炉水温度変化率の運転管理基準値を遵守した安全で適切な原子炉臨界操作や昇温昇圧操作を容易におこなうことができる。
以下では本発明にける第2の制御方法についての一実施形態(第2の実施形態)について説明する。第2の制御方法は、それに用いる装置構成などの基本的な構成については第1の実施形態におけるのと同様であり、第1の実施形態における図2の中性子束制限値超過判定用制御ロジックの代わりに温度変化率制限値超過判定用の制御ロジックを用いていること、およびこの温度変化率制限値超過判定用制御ロジックから出力される温度変化率制限値超過を第1の実施形態における図3の温度変化率過大発生判定用制御ロジックに対応する温度変化率過大発生判定用制御ロジックに用いていることで主に相違している。したがって以下ではそれらの制御ロジックについてだけ説明する。
図7に温度変化率制限値超過判定用制御ロジックの一例を示し、図8に温度変化率制限値超過判定用制御ロジックの他の例を示す。また図9に温度変化率過大発生判定用制御ロジックの例を示す。
図7の制御ロジックは、次の2条件を同時に満足するときにAND回路64が成立し、温度変化率制限値超過信号71を出力させる。これに応じて図9の温度変化率過大発生判定用制御ロジックが温度変化率過大発生信号80を出力し、さらに温度変化率過大発生信号80を受けて図4の制御ロジックと同様な論理で構成される制御ロジックで制御棒挿入操作開始の判定がなされる。
第1の条件は、図1の温度変化率算出器22から出力される炉水温度変化率が炉水温度変化率制限値(例えば55℃/h)以上となることである。第1の条件における温度変化率制限値には必ずしも監視基準値を設定する必要はない。監視基準値よりも大きい値(例えば60℃/h)、あるいは監視基準値と目標値の間にあって制御上の目安とすべき適切な制限値(例えば目標値30℃/hに対する40℃/h)を与えることもできる。
第1の条件における温度変化率制限値は、前述の温度変化率制限値Tlimと同様に、昇温昇圧過程などにおける制御中に炉水温度変化率が過大になるのを抑制することに重点をおいて制御するための基本的な基準として設定されるものであり、予め設定する方法の他に、上記の炉水温度変化率目標値Ttargetを利用して設定することもできる。具体的には、炉水温度変化率目標値Ttargetに対し、予め設定の制限値調整値(例えば10〜20程度)を加算、あるいは調整係数(例えば1.5)を乗じて設定する方法などである。
第2の条件は、制御棒駆動制御器8が出力する制御棒駆動信号が制御棒操作完了の状態を一定時間(例えば十数分程度)以上継続していることである。第2の条件を満足するときに第1の条件も満足する状態は、制御棒操作による反応度印加の応答時間つまり制御棒操作遅れ時間を経過しているにもかかわらず炉水温度変化率が加速している状態である。この状態は、炉水温度の上昇による反応度印加が正側になっているか、または負側であってもその反応度効果が極めて小さい状態であると見なすことができる。したがって、これ以後も炉水温度変化率が制限値を超過する状態が長く継続されるものと予測でき、制御棒挿入操作を開始するのに必要な条件を満たすことになる。
上記2条件を満たしているときは、温度変化率制限値超過信号71を出力し、これに応じて図9の制御ロジックで温度変化率過大発生信号80が出力され、第1の実施形態における図4の制御棒挿入制御ロジックと同様な制御ロジックにしたがって制御棒挿入操作が開始され、以後も第1の実施形態と同様な制御がなされる。
以上のような温度変化率制限値超過判定用制御ロジックは、図8の温度変化率制限値超過判定用制御ロジックで代替することもできる。図8の制御ロジックは、図7の制御ロジックにおける第1の条件61と第2の条件62に、さらに第3の条件63を加えた構成となっており、これら3条件が同時に満足されるとき、AND回路64が成立して温度変化率制限値超過信号71が出力される。
追加する第3の条件は、中性子束モニタ26が出力する原子炉周期の逆数が原子炉周期逆数設定値(例えば−500秒の逆数)以上となることである。すなわち第3の条件が成立するときは、充分に負の反応度が印加されていないので、以後も中性子束の高い状態が継続して炉水温度変化率が低下する見込みがないということになる。第1の条件と第2の条件の他に、この第3の条件を加えることで、温度変化率制限値超過の判定をより精度高くなすことができる。この第3の条件は、「原子炉周期が正値または負でその絶対値が原子炉周期設定値(例えば500秒)以上」というのと等価であり、したがってこれと代えることもできる。また、第3の条件は、より簡単な方法として、中性子束モニタ26が出力する中性子束を一定周期(例えば1秒周期)で順次記憶し、中性子束と一定時間(例えば数分程度)前の中性子束の比が設定値(例えば0.5〜0.8)以上にあることをもって代用することもできる。
上記3条件すべてを満たしているときは、炉水温度変化率が炉水温度変化率制限値を超過し、かつ中性子束が高いレベルに維持されているので温度変化率がさらに上昇するものとみなして温度変化率制限値超過信号71を出力し、これに応じて図9の制御ロジックで温度変化率過大発生信号80が出力され、第1の実施形態における図4の制御棒挿入制御ロジックと同様な制御ロジックにしたがって制御棒挿入操作が開始され、以後も第1の実施形態と同様な制御がなされる。
図9の制御ロジックは、温度変化率超過信号71を図3における中性子束超過信号72の代わりに用いていることを除いて図3の制御ロジックと同様である。したがって共通する部分に同一の符号を用い、それらについては上での説明を援用する。
本実施形態においても、図7または図8の制御ロジックと図9の制御ロジックに第1の実施形態における図5の制御ロジックと同様な制御ロジックを組み合わせることによって、臨界後の昇温昇圧開始時や温度一定状態からの昇温昇圧操作再開時つまり昇温昇圧過程における初期制御時などに起こり得る炉水温度変化率の過大化の抑制に重点をおいた制御を行うことができ、またそれ以後の安定した昇温昇圧過程つまりフィードバック制御時においても目標とする炉水温度変化率に対応した目標中性子束に中性子束を適合させる制御を行うことができ、炉水温度変化率の監視基準値超過を最小限に抑制する適切な昇温昇圧操作を容易に行うことができる。
図10に、以上のような形態で実施した場合の本発明による効果の評価例を示す。これは、図6の場合と同様で、沸騰水型原子炉について、臨界操作直後から昇温昇圧の初期制御の過程における中性子束レベルと炉水温度変化率の時間的な挙動をシミュレーションして評価したものであり、初期の炉水温度は80℃、臨界過程終了直後の原子炉周期を約190秒、炉心の減速材温度反応度係数は正で絶対値はドップラー反応度によってわずかに打ち消される程度の反応度を与える大きさとしてある。目標とする炉水温度変化率は30℃/hとしている。
曲線A3は本発明による炉水温度変化率過大化抑制の制御法による制御棒操作で制御棒の挿入がなされた場合の中性子束の時間変化であり、曲線B3はこの場合の炉水温度変化率の時間変化である。一方、曲線A4は炉水温度上昇開始後の初期制御時に制御棒の挿入がなされないと仮定した場合の中性子束の時間変化であり、曲線B4はこの場合の炉水温度変化率の時間変化である。
制御棒の挿入がなされない場合の炉水温度変化率B4は、中性子束の上昇から遅れて約20分ごろから有意に上昇し、約30分後に炉水温度変化率の監視基準値C(この例では55℃/h)を超過し、約40分後には監視基準値Cの2倍近い大きさに達している。実際には炉水温度変化率がこれほど高くなる前に警報が発生されて運転員による対応がなされることは上で説明したのと同様である。
本発明による制御法の適用の場合は、時刻t3(約28分)に炉水温度変化率制限値(設定値40℃/h)に達して制御棒挿入操作が開始されて中性子束A3が低下し始め、時刻t4(約33分)に中性子束が目標値以下に達して制御棒挿入が終了する。このような制御がなされた結果、炉水温度変化率B3は一時的に監視基準値Cを超えているが、その時間は曲線B4におけるそれと比べて大幅に短くて済む。また、1時間内の温度変化率の積分値としての温度差は運転管理基準値(この例では55℃)以内にとどまっている。すなわち本発明による制御法を用いることで、炉水温度変化率の過大化を有効に抑えることができ、平均炉水温度変化率の運転管理基準値を遵守した安全で適切な原子炉臨界操作や昇温昇圧操作を容易に行うことができる。