JP3875838B2 - 原子炉始動時の出力上昇を監視するための方法および装置 - Google Patents
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Description
本発明は炉の個々の範囲内の局部的な出力が、例えば国際特許出願第96/21929号およびヨーロッパ特許第 0 496 551号明細書に記載されているように、正規動作中にいわゆる“出力範囲チャネル”内の測定信号により捕捉される原子炉始動時の出力上昇を監視または制限するための方法および装置に関する。
【0002】
原子炉始動時には、核分裂により発生する炉の出力に比例した中性子束レベルが、定格出力の約10-9である中性子束源レベルから、先ず例えば定格出力の約10-3の加熱出力に達するまで高められる。炉出力の中間範囲内では、中性子束密度の上昇は炉心内の熱的な状況、特に核燃料の温度を実際上変化させないので、中性子束密度の上昇率に影響を与えるであろう反応性帰還結合効果は殆ど生じない。中間範囲の上側で、即ち炉出力のパーセント範囲(最も下の出力範囲)内で、核燃料のその場合に検出可能な温度上昇およびその結果としての(燃料時定数だけ遅れた)冷却材内へのエネルギー流入に基づいて炉心の反応性係数に相応する反応性帰還結合が始まる。この反応性帰還結合は一般に、それが完全に機能停止に至るまで、出力上昇の連続的な減速を生じさせる。
【0003】
中間範囲の数10倍におよぶ中性子束密度の上昇は、軽度に過臨界的な炉心状態の設定により生じさせられる。即ち炉心配置の実効増倍率keffが僅かに1を越えて高められる。そのために、中性子に対する吸収作用が炉心からの引き抜きの度合いにより合目的的に減ぜられる適当な反応性操作手段、ここで特に考察されている沸騰水炉形式の場合には一般に制御棒が用いられる。中性子束密度は過臨界的な炉心状態に到達後、指数関数的に上昇する。上昇レートはいわゆる炉周期を示すことにより特徴付けられる。炉周期は、炉心内中性子束密度が係数e=2.718…だけ変化する時間スパンである。
【0004】
核分裂により放出される中性子は、一部が分裂した核から直ちに放出される“即発”中性子であり、一部は不安定な娘核から生ずる“遅発”中性子である。
【0005】
正常な始動過程では炉心の過剰反応性、即ち実効増倍率keffの値1を越える部分は、遅発中性子が中性子束密度の上昇レートへの特定の影響を保ち続けるように設定される。良好な可制御性を保証するため、炉周期が30秒よりも大きい値であるように始動を行うのが通常である。
【0006】
しかし誤操作または故障に基づき原子炉始動時の過剰反応性は、中性子束密度の上昇レートが非常に速く続発的に発生する即発中性子により専ら決定され、また遅発中性子が上昇レートに全く影響しなくなるように大きくなり得る。この炉状態は“即発臨界的”と呼ばれる。その炉周期は1秒よりはるかに短い。始動過程はその場合に、炉出力の定格値超過が内在的な反応性帰還結合により食い止められる前に、過剰反応性に応じて炉出力の定格値が短時間超過する“エクスカーション”に移行する。即発臨界以下の始動過程の際と違って、エクスカーション時の出力上昇は、最も下の出力範囲内ででも食い止められない。
【0007】
原子炉の核計装に対しては、エクスカーションの生起の際に確実に、かつ少なくとも考えられる続発エクスカーションが阻止されるように、適時に炉急速停止を自動的に開始するという課題が設定される。
【0008】
以下では、好ましい例として沸騰水炉および従来の技術による監視および制御のための通常の計装システムを考察する。
【0009】
図1は種々の核計装システムにおける検出器の典型的な配置を概要図で示す。炉心1の横断面にわたって配分された燃料要素は、共通の十字状制御棒3の周りに配置された、それぞれ4つの燃料要素のセル2にまとめられている。この計装は3つのシステム、即ち始動範囲AD(炉が指定されている正規中性子束の約10-5までに達する中性子束Pに対する)、移行範囲UD(Pが約10-6〜10-1)および出力範囲(Pが約10-2から)に対するシステムを含んでおり、それらに対応する検出器および評価装置の測定感度が合わされている。通常それぞれ多くの検出器が燃料要素間の炉心内部の測定ランス中に配置されており、その際システムの評価装置はそれぞれ冗長性を持って動作するチャネルに、検出器またはその評価装置または電流供給源の故障の際に高々チャネルが故障するように、まとめられている。その際にチャネルへの検出器および測定ランスの対応付けは直線的であってよい。例えば図3によれば始動範囲ADまたは移行範囲UDのシステムに対するそれぞれ3つの測定ランス5および7が設けられており、それらの検出器および評価装置がそれぞれチャネルを形成する。しかし各々の測定ランス内に多くの検出器を設け、また評価装置を、各々のチャネルに異なる測定ランスの検出器、評価装置および電流供給源が対応するように、網目状に結合することも可能である。
【0010】
この網目状の結合は、出力範囲のシステムに対して行われる。炉心の全横断面にわたって配分された測定ランス9は、3つの監視チャネルを形成するためにそれぞれ少なくとも3つの出力配分検出器を備え、これらの出力配分検出器はそれぞれ異なるレベルに配置されており、またそれらの測定信号は、炉内のローカルの出力を測定し、また三次元の出力配分を3つの独立した出力配分チャネルにより冗長性を持って求めるために利用される。炉の制御または調節のために全出力の実際値(測定信号)を取得すべく、LDシステムは3つの出力範囲チャネルを含んでおり、それら内で出力配分検出器9からの測定信号が合計される。その際に、不良の検出器または評価装置を出力配分信号及び/又は出力範囲信号の形成から除外し、またそれにより生ずる信号の歪みを、相応するチャネル内の別の検出器信号を追加または除去することにより補償するように構成してもよい。
【0011】
図1において、システムは冗長性の理由から、互いに独立しかつ互いに等しい形式の多くの測定チャネルを有している。図1に示す例では、システムあたり3つの測定チャネルが設けられている。
【0012】
図2はこれら核計装システムの各々について、典型的な測定範囲を示す。始動範囲検出器(AD)は中性子源レベル(完全停止された炉心中性子束)から定格出力の10-5のオーダーまでの炉出力に至る中性子束Pを測定する。中性子源レベル10は、照射された炉心の場合典型的に定格出力の約10-9に位置しているが、特別な場合で、炉心の多くの又は全部の燃料要素が新鮮であるか、僅かしか照射されていないならば、それは明らかにより低い値であってもよい。
【0013】
停止された(臨界未満の)炉心の始動の際には、制御棒を繰り返し部分的に引き抜くことにより中性子源レベルが、ADの測定範囲内で最後に臨界的な状態(自ら持続する連鎖反応)に達するまで、連続的にゆっくりと上昇する。制御棒のその後の引き抜きにより、続いて中性子束密度の所望の上昇レート(正の炉周期)が設定され、従ってADの測定信号は中性子束密度の指数関数的な上昇を示す。ADに対し選ばれた対数的な信号指示に基づき、炉運転者は信号の上昇を広範囲にわたって見守り、またその制御課題に対する基礎として利用できる。
【0014】
中性子束密度が定格出力の約10-6の大きさを超過して上昇すると、移行範囲検出器(UD)の測定範囲に到達し、かつその測定チャネルはAD測定チャネルに対して追加的に中性子束密度のそのつどの大きさおよび傾向を指示する。UD測定範囲も広範囲にわたり出力範囲まで延びる。測定精度を高めるため、この大きい範囲は一連の部分範囲に分割されている。これらの部分範囲は、図2中に示すように、互いに強い測定範囲の重なりを持って相続いており、また相続く部分範囲の間にそれぞれ101/2:1の感度段階をおかれている。
【0015】
信号がまさに設定された部分範囲の上側測定範囲端に近づいたとき、部分範囲の切換は中性子束密度の上昇の際に各々のUDチャネルに対して別々に手動で人により行われる。上側測定範囲端の近くには、UDチャネルの各々の部分範囲に対して警告マークが設けられている。これを測定信号が超過すると、超過が続いている間は、当該UDチャネルにより自動的に炉保護システムの警報信号が発せられる。別のこのような警報信号が他のUDチャネルから到来すると、炉保護システム内にそのために設けられている評価回路の規範に従って炉急速停止(RESA)が開始される。即ち部分的または完全に引き抜かれた全ての制御棒が急速に炉心内に挿入される。炉心はその際に臨界未満の状態に移行し、また中性子束密度は中性子源レベルに低下する。
【0016】
3つの冗長性を有する図1に示す例では、RESAの開始は一般に、全体で3つのUDチャネル内の、2つの任意のUDチャネル内で警告マークを超過しているときに行われる(“2アウトオブ3”評価回路)。
【0017】
考察しているプランどおりの始動過程の際、炉出力が定格出力の約10-5であるADチャネルの測定範囲上限に近づくと、AD検出器は測定範囲拡張のために下方に炉心から引き抜かれ、また炉心の下側で炉心内部に比べて小さな中性子束密度を有する反射器位置に置かれる。図2から、1ディケードよりも大きなADおよびUD測定範囲の相互の重なりに基づいてAD検出器の引き抜きが、UDシステムによる中性子束密度の監視が確実に行われたときに初めて開始されなければならないことは明らかである。適当なインターロックにより、AD検出器がより早く炉心から引き出されないように保証している。
【0018】
より新しい実施例では、ADチャネルおよびUDチャネルの機能はいわゆる“広範囲チャネル”にまとめられ、また単一の広範囲検出器(WD)から供給されてもよい。その場合、このようなWDチャネルは、図2中でADおよびUDに分割されている全ての範囲を含んでいる。
【0019】
炉出力が定格出力の約10-2を超過すると、それは追加的に出力範囲チャネル(LDチャネル)により捕捉され(図2)、また各チャネルに対し直線的な目盛の上に指示される。その測定範囲は、典型的には定格出力の0%から125%まで延びている。通常、互いに独立しており、かつ互いに等しい形式の少なくとも3つのLDチャネルが存在している。各LDチャネルは、実際上均等に炉心全域にわたり配分された、中性子に敏感な測定ランス(出力配分検出器9、“LVD”)を検出器として利用し、それらの局部的な出力密度に応じて較正された信号分をLDチャネル内で合算する。これらのチャネルは、適当な出力負荷点において熱収支の助けをかり炉出力として較正される。この方法で、炉出力に対するLDチャネルの指示精度、いわゆる“トレース忠実度”を、出力の高さならびに炉心内での出力配分の任意の変化時にも非常に高くすることができる。
【0020】
ローカルに炉心内に配置された個別検出器を使用するため、炉出力をLDチャネルと比較可能な高いトレース忠実度で測定し得ないUD測定チャネルは、炉出力がLDシステムによる炉出力の正常な捕捉を保証する最小値を超過した後および超過している間は不要である。この最小値はしばしば定格出力の5%に定められる。それを超過していると、UDチャネルは例えば炉心からの検出器の引き抜きにより及び/又はそれらの警告機能の橋絡により、不動作とされる。
【0021】
LDシステム内には一連の警告マークが含まれており、それらの内エクスカーション時の対策を顧慮し、無遅延のRESA警告が固定の、典型的に中性子束定格値の約120%に設けられた過負荷限界マークが重要である。種々の互いに冗長なLDチャネルによるこの限界値の警告は、UDシステムの場合のように、予め定められた評価回路に従って対策の開始を指示する。例えば3チャネルのLDシステムの場合、これは通常同じく、又は既に述べた“2アウトオブ3”評価回路である。
【0022】
以上、例として説明した従来の技術による原子炉の核計装により、エクスカーションの下記の経過が生ずる。例えば制御棒の誤った引き抜きにより、始動範囲内または移行範囲内で即発臨界的な炉状態に到達した後に、炉心内の中性子束密度は、UD部分範囲の切換えを人間が試みようとする限り、それともはや歩調を合わせ得ない程急速に上昇する。その結果として直ちにUDチャネルがそのそれぞれの設定された部分範囲のRESA限界値を超過し、また予め定められた評価回路に従って炉急速停止を開始する。信号処理装置内および急速停止システムの電気的、機械的および流体圧的な構成要素内の不可避なむだ時間に基づき制御棒は短いむだ時間の後に初めて炉心内に入る。UDチャネルによる急速な出力上昇の捕捉を冗長性を持って行うので、チャネルの故障は対策の開始を妨げない。
【0023】
最も危険な、極端な場合をも考慮に入れるため(“保守的な”考察)、中性子束レベルがこの時間中に既にオーダーとして定格出力の範囲に上昇していると仮定する(“一次エクスカーション”)。それと結び付けられる燃料温度上昇は、次いで即発的に作用する燃料温度反応性係数を介し、過剰反応性に伴なう内在的な崩壊を生じさせるので、制御棒が実際に炉心内に入り始めるとすぐ、炉出力は低下する。即ち炉急速停止は保守的な考察方法の場合、一次エクスカーションの生起を妨げないし、その経過を決定的に減衰もしない。しかしその目的は、故障をひき起こした制御棒の引き続く引き抜きと、反応性帰還結合を決定する熱エネルギーの流出とにより生じると考えられる続発エクスカーションを阻止することである。
【0024】
本発明の課題は、出力範囲チャネルを設けられた炉を始動する際の出力上昇を監視または制限するための他の方法であって、適当な対策を開始する信頼性を一層高めるため、続発エクスカーションの監視方法を実現することである。特に追加的な対策を多角的な、即ち他の方法に従って動作し、かつUDシステムに完全に無関係な監視システムを介して実現しなければならない。
【0025】
UDシステムに無関係であり、また好ましくは多角的であるこのような監視装置として、おそらく基本的に同じく冗長性の持って構成されたLDシステムは考慮に値しない。なぜならば、LDシステムの過負荷限界マークは、反応性エクスカーション監視に課すべき要求条件を満足しないからである。即ち、このような故障に対して典型的な、炉心内中性子束密度の非常に急峻な配分に基づき、このLDシステムのエクスカーションの中心付近に位置し、LDチャネルに対して主信号を与える検出器が飽和状態に入り、またそれらの測定範囲を少なからず超過する信号を完全な高さでLDチャネル内に供給し得ない。即ちLDチャネルのさもなければ非常に良いトレース忠実度が、対応付けられたLVD信号の飽和時にはもはや与えられず、またLD信号が、たとえ炉出力が実際上はるかに高いとしても、過負荷限界マークに達しない。さらに過負荷限界マークはこの出力に全く達せず、同じく反対作用をしないエクスカーションを弱める。
【0026】
これに対し本発明は、エクスカーションの場合にも確実に監視できる限界値を利用すれば、LDシステムが使用できると言う観点から出発する。即ち原子炉のLDシステムに対する限界値規範として、エクスカーション時にも確実に応答し、かつUSシステム又はWDシステムから導き出されたRESA警告には応答しない限界値規範を利用する。対策を開始すべき限界は、LDチャネルの測定範囲内でLDシステムの検出器の飽和がそこで一般にはまだ生起しないか、高々無視可能な影響しか有さないかの低い出力にセットされる。従ってこの限界値は、本発明により一般に炉出力の定格値のはるか下に設定され、より弱いエクスカーションにも応答する。エクスカーションを捕捉するため、この限界値の下に位置する出力帯域が、上昇速度にのみ応答するフィルタとして、即ち、対策を開始することなく、正常な遅い出力帯域の通過を許すフィルタとして使用する。
【0027】
従って本発明によれば、その正規動作中の出力が出力範囲チャネル内の出力範囲検出器からの測定信号により捕捉される原子炉において、始動時の出力上昇が既に少なくとも1つの出力範囲チャネルの測定信号の使用の下に監視される。炉急速停止(RESA)または類似の対策に対する開始規範として、その際この対策が、この出力範囲チャネルの測定範囲の下側部分内の出力帯域が予め定められた最小時間よりも速く通過されるときに初めて必要と見なされることを利用する。
【0028】
既に説明したように、一次エクスカーションは、それが阻止できないほど速く進行する。このことは、一次エクスカーションが直ちに再び、長時間の出力上昇に通じる続発エクスカーションを開始することなしに安定化するなら必要ない。このような続発エクスカーションを阻止するため、即ちこのような原子炉始動時の出力上昇を長時間制限するため、本発明によれば同じく、出力範囲チャネルの測定信号が監視される。原子炉の始動は、炉出力に関連するこの測定信号が、出力範囲チャネルの下側部分内に位置する出力帯域の下限マークを最後に超過した後、予め定めた最小時間の継続中に出力帯域の上限マークを超過しないときにのみ継続される。
【0029】
本発明はこのような炉心の始動過程を監視するための装置であって、少なくとも1つの出力範囲チャネルに接続された論理回路を含み、この論理回路は出力範囲チャネルの下側部分内に位置する出力帯域の下限マークを超過した際に予め定められた最小時間にわたって能動化される。この論理回路は次いで、炉出力に対する出力範囲チャネルの測定信号が出力帯域の上限マークを超過するときに、対策を開始するための信号を発信する。
【0030】
本発明の他の実施の形態は従属請求項にあげてある。
【0031】
炉出力および出力範囲検出器の測定信号の監視時に時間窓を使用することは、流体動力学的な不安定性により惹起され、また同じく動作故障の原因となる振動と結び付けて、既に提案されてはいる。しかしこの時間窓は等しい測定信号の監視の際に別の時間窓を始動させる役割を果たし、又は測定信号から導き出された他の能動化信号により始動される。本発明はこのような振動とかかわり合う必要がなく、むしろ本発明による方法および装置は、既にこのような先行の、測定信号から導き出された能動化信号なしに能動的であり、かつ測定信号の監視のために利用される別の監視または時間窓を始動するために使用しない利点がある。
【0032】
2つの実施例および多くの図面により本発明を一層詳細に説明する。
【0033】
炉急速停止(RESA)またはそもそも例えば始動プログラムにより制御される計画された始動過程への干渉は、始動段階で、即ち始動過程が行われた後に炉出力がLD検出器の典型的な測定範囲に到達する前に、炉出力が故障、例えばエクスカーションに基づき、LDシステムの検出器の測定範囲内に位置する限界値Mgに達するときにのみ行うべきである(例えば定格出力Pの30%)。これは図3のように、炉出力S(t)、例えばLDチャネルの少なくとも1つ内の信号が限界値報知器Ggに供給され、この限界値報知器が設定された限界値Mgを超過した際に対抗処置を開始するための相応の信号Aを発することにより捕捉される。しかし始動時の限界値Mgの非正常な超過は、始動が計画どおりに進行し、または既に正規動作に達している正常な動作状態から区別しなければならない。従って図3のように、正常な動作状態の際のこのような対抗処置を阻止するフィルタとして作用するアンドゲートAND1が設けられている。従って警告限界(限界値Mg)の下に、その下限が限界マークMuにより定められる出力帯域がおかれる。その際に出力信号Sgは、その下に位置している出力帯域を予め定めた最小時間ΔtBよりも速く通過したときにのみ、対策に対する警告信号Aを生ずる(出力帯域のフィルタ作用)。
【0034】
この過程は一般に、炉内に設けた監視、調節および制御に対するソフトウェアとして実現される。図3は出力帯域のこのフィルタ作用を示す。その際、限界値報知器Guがそこに設けた下限マークMuを超過したとき、双安定マルチバイブレータKを状態反転させる信号を発する。この双安定マルチバイブレータKは最小時間ΔtBに等しい時定数を有し、かつこの時間中に相応のパルスをアンドゲートAND2の一方の入力端に与える。このゲートの他方の入力端は、第2限界値報知器Goと接続されている。この第2限界値報知器Goは、炉出力に対する測定信号S(t)が設定された上限マークMoを超過したとき、信号を発する。
【0035】
即ち信号S(t)が上限マークMoを超過したとき、その後に初めて時間ΔtB(“準備時間スパン”)が経過する双安定マルチバイブレータK(タイマー要素)は既に再び休止状態にあり、かつ両ゲートAND1およびAND2が閉塞するので、信号Sgによる警告信号Aの発信は阻止される。しかしエクスカーションの結果として出力帯域が速く通過される場合、即ち上限マークMoが準備時間スパンΔtB内に超過される場合には、信号Sgは警告信号Aを発信する。
【0036】
2つのアンドゲートおよびMg、Muについて別々の値を有する実施例は、警告信号Aにより例えばRESA警告を開始し、それよりもより弱い対策を開始する他の警告A′をゲートAND2の出力信号により開始することを可能にする。即ち信号A′のみが応答し、信号Aが応答しないならば、それは、例えばプログラムされた始動過程のみが遅らされ、または停止されるならば、炉停止なしでも自ら再び安定化する故障である。
【0037】
しかし、MgおよびMuに対して等しい上限マークが使用されるならば、簡単化が達成され、その際ハードウェア回路の場合には、限界値報知器GgおよびゲートAND1が省略される。その場合、出力帯域(Mo−Mu)が時間ΔtB中よりも速く通過され,警告限界Mgも超過される強いエクスカーション間の区別はされず、上昇規範のみは満足されるが、警告限界は到達されない弱いエクスカーションとの区別がされる。
【0038】
限界マークは、各運転プログラム(即ち例えば選ばれた制御棒)または出力信号S(t)に関係し、又は他の方法で動作に関係して予め定められる。限界値報知器GuおよびGo内で出力帯域の制限のための、各限界値Mu及び/又はMoを動作と無関係にするとよい。その際、出力帯域が炉の定格出力の下側3分の1、好ましくは4分の1内に位置していると有利である。出力帯域の幅、即ち差Mo−Mu及び/又は最小時間ΔtBを動作と無関係に予め定めておくと好ましい。それは一般に定格出力の3分の1未満、好ましくは5分の1未満である。
【0039】
上記の多角的なエクスカーション監視は、好ましくは各LDチャネルに対して別々に構成される。種々の互いに冗長なLDチャネルから場合により発せられる警告に伴ない、そのために準備された電子的評価の規範に従い、エクスカーション対策が始まる。このような対策として、好ましくは炉急速停止が考慮される。
【0040】
出力帯域の位置および幅ならびに準備時間スパンΔtB決定の際には、エクスカーションと、計画どおりの、場合によっては加速された始動過程との間を一義的に区別するため、下記の観点が重要である。出力帯域は、計画どおりの始動過程の出力上昇がその際重要な反応性帰還結合効果により、あらゆる場合に既に出力帯域の下側で安定化し終わっているか、遅くとも出力帯域の内側で安定化し終わっているか、全てのエクスカーションの際十分に減衰されずに通過される間に遅くとも出力帯域の内側で安定化するかの何れかに決定するのがよい。この条件を、限界マークを定めるために利用可能なLDチャネルの測定範囲の最も下の部分が最も良く満足する。出力帯域の幅(即ち出力差Mo−Mu)は、出力帯域が高々この出力範囲内で正規動作の際に実現可能な負荷変化速度により通過されるときに、オーダーとして約1分の時間がかかるように大きくなければならない。次いで比較的大きい時間範囲1秒<Δt<1分から、エクスカーションと計画どおりの始動過程との間を一義的に区別するために適した準備時間スパンΔtBの大きさを選ぶ。それを運転技術的に守るため、高い精度要求を課す必要はない。
【0041】
例として、一般に前記の最適化規範を満足する
MU=定格出力の5%
MO=定格出力の20%
ΔtB=20秒
を有するパラメータ組み合わせが示されている。
【0042】
その際、1秒の僅か数分の1の内に再び安定化し、従って例えばハードウェア(検出器)およびソフトウェア(電子的評価)の不可避の慣性およびむだ時間により実際上検出されない一次エクスカーションが生起することは無害であろう。このことは、より長い(例えば1秒を越える)時間にわたって出力の測定可能な上昇が起こるときにのみ対策を開始すればよいので、必要でもない。このことは図3中に信号S(t)に対するフィルタ、例えばGuの入力端における平滑フィルタFによりシンボル的に示されている。
【0043】
図4は先ずM(LD)により、正規動作中に、例えば流体圧の不安定性により生ずる出力振動の際または類似の障害の際に炉停止を行うため、従来の技術で既に出力配分チャネルの相応の信号S(t)に対して予め定めた限界値を示す。典型的な限界値M(LD)は、例えば炉の定格出力Pの120%である。
【0044】
さらに図4は、出力帯域が上限マークMoおよび下限マークMuにより示す。さらに、時点t1で一次エクスカーションおよび場合によってはそれにより開始される続発エクスカーションが、炉が本来計画どおりの始動過程に基づいて定格出力の約5%の出力に達するべきでない内に、炉内の出力S(t)の上昇に通ずることが仮定されている。即ち炉は、UDシステムが従来の技術により炉の監視を引き受ける状態にある。しかし本発明ではLDチャネルの信号S(t)を監視するために利用する。そのために先ず準備時間スパンΔtBの間に下限マークMuを超過したとき監視論理が始動し、この監視論理が、同時に対策に対する警告限界を表す上限マークMoを超過した際に相応の監視信号を発し、この監視信号により対策が始まる。この対策(例えば全ての制御棒を再び完全に炉内に挿入する停止)の結果として出力は危険な値に達することなく、再び減衰する。運転者は次いで対策を終了し、再度新しい始動過程を一層良好な計画プログラムに従って開始し、又は対策により中断された始動過程を計画どおりに再開始する。
【0045】
この計画どおりの始動過程時には、次いで炉出力が計画に沿って増大し、かつLDシステムが炉出力の正確な追跡結果を与え、従ってまた信号S(t)がLDシステムにより従来の技術に従って監視される値に達する。その際LD信号S(t)は時点t2で新たに下限マークMuを超過する。しかしこの下限マークは、計画どおりに始動されまた相応に加熱された炉がエクスカーションをもはや示さない出力範囲(例えば≧5%)内に位置している。計画どおりの加熱の際には、信号S(t)は出力帯域を相応の僅かな上昇速度で通過し、時点t3で初めて、即ち準備時間スパンΔtB経過のずっと後で、上限マークMoを超過する。
【0046】
図5は先ず始動範囲に対して用いられるADチャネルの検出器および測定ランス5を示す。それらの信号は、例えば始動監視装置51内で評価され、ドキュメント化され、またモニターに指示される。
【0047】
ランスおよび検出器7を有する移行範囲チャネルは同じく相応のモニター52を有し、これらのチャネルは、チャネルの測定感度を段階的に減ずるための装置53をも有する。この装置53は図5中に除算器のシンボルにより示してあり、感度に対する相応の減少係数は、UDチャネルの相応の信号が現在設定されている感度範囲(図2を参照)を超過することがモニター52において認識可能になると直ちに、操作者により変更される。UDチャネルによる始動過程の従来通常の監視は、それぞれ感度範囲を超過(例えば3つの示されているUDチャネルの各々に対するそれぞれ限界値報知器55により測定可能)した際に信号を発する論理54を含んでいる。数n(ここではn=3)のUDチャネルが設けられている場合、少なくとも予め定められた数m(ここではm=2)のUDチャネルがこのような範囲超過を報知すると、相応の“mアウトオブn”回路(ここでは“2アウトオブ3”回路56)が炉の制御を行う信号aを発する。
【0048】
この炉制御を、図5に調節器61および実際値計算回路62を有する相応の制御および調節装置60として象徴的に示す。例えば炉出力に対するディスプレイ又はモニター83を有するコントロールセンターを設けることができ、+/−スイッチは、より低いまたはより高い出力目標値が望まれる場合、制御要素を炉に挿入し、又は炉から引き抜くべく人間により操作される。この装置60では、炉の計画どおりの制御に対する全ての目標値およびパラメータが設定される。炉運転の相応の操作量に対応する操作信号は、装置60内で十分にプログラム制御され、また自動的に図5中にLDチャネルのセンサおよび検出器により形成される実際値S1、S2およびS3により象徴化された、炉内で求められた多数の実際値および操作要素帰還報知を用いて形成される。操作信号自体は、他の操作装置、例えば冷却材ループに対する冷却材ポンプの他に、特に炉内の制御棒の挿入および引き抜きのための駆動装置を制御する相応の操作装置70に伝達される。
【0049】
従来の技術で、UDチャネルの監視装置54が相応の信号aを供給する場合、例えば調節器60が停止プログラムに移行し、又は装置70内で計算機60による制御棒のプログラム制御により、直接制御棒の挿入による炉の停止に移行することにより、装置60によって制御される炉運転が適合せしめられる。
【0050】
LDチャネルは、図5中に相応の測定ランスおよび検出器9により示されている。相応の電子的評価装置80内で、故障しているセンサの信号は、相応の信号接続回路81内で炉心の全域にわたり配分されたセンサの蓋然性のある測定信号のみを網目結合し、またその後方に接続した加算回路82内で、各LD信号に対し炉内の出力の局部的な配分をそれぞれ炉の出力に対する信号S1、S2およびS3として捕捉する各合計信号を形成すべく、蓋然性規範に従って除外する。
【0051】
これら冗長性の出力範囲チャネルの各信号S1、S2およびS3は、限界値報知器84内で限界値M(LD)の超過を監視される。3つの信号の内少なくとも2つ(一般的には数nの限界値報知器信号の内の少なくとも数mの限界値報知器信号)がこの限界値を超過すると、相応の評価回路85、即ち“2アウトオブ3”回路(一般的には“mアウトオブn”回路)が相応の信号bを発し、それにより制御装置60内で、正規な始動過程を中断し、場合によっては急速停止を開始するため、停止プログラム(または他の適当な対策)が始動され、又は図5中に示すように、直接に制御要素のための操作装置70に供給される。
【0052】
信号接続回路81により出力配分チャネル内でまとめられた信号を、三次元的な出力配分検出のため、信号bも発する局部的な発信の3つの冗長的な回路内においても同様に、測定ランス9の検出器により監視することは図示してない。
【0053】
評価装置80による出力範囲監視は、連続的に多くの出力範囲チャネルにより形成され、かつ局部的な出力を捕捉する相応の測定信号を従来の技術に従って冗長性を持って監視する役割をする。しかし信号S1、S2およびS3によるこのような冗長性は、始動範囲内の本発明による監視のためにも設けられている。操作装置70は相応の入力端Aを含んでおり、この入力端から操作装置70に相応の装置から供給される警告信号が少なくとも始動動作の間に与えられる。
【0054】
従って図6によればこれらの信号S1、S2およびS3の各々に、図3に相応する装置C1、C2およびC3が対応している。従って、信号A1、A2およびA3も、また場合によってはそれらの信号A′1、A′2およびA′3も、同じく“mアウトオブn”回路91または92により信号A0またはA′0にまとめられ、この信号により警告信号Aがセットされる。こうして炉出力が連続的に多くの出力範囲チャネルの測定信号により捕捉され、冗長性を持って監視される。
【0055】
本発明に従い、信号aによる始動の通常の監視は信号A、即ちA1、A2、A3またはA0による監視により、即ち他のセンサおよび他のチャネルを利用する監視により置換される。しかし始動のこの監視を多角的な監視として使用することは有利である。その場合には、出力範囲チャネルおよびそれらの検出器9による監視しに加えて、信号aによっても中性子束検出器7の信号を監視し、また場合によっては出力上昇を制限するための対策に利用できる。これらの追加的に利用される中性子束検出器は、図2において示す方法で既に従来の技術に従って、炉心中性子束が、制御棒が炉心から引き抜かれ、かつ炉出力がなお移行範囲内に位置しているかぎり、動作に関係して予め定められる現在の最大値を守ることを監視する。この最大値は実際上、図2中にそれぞれ各々の感度段階に対して予め定められている測定範囲の上限である。
【0056】
本発明によれば、予め定めた冗長性に基づき始動範囲内の高い信頼性を達成できる。このような冗長性は例えば図5のように、多くの冗長性を持って動作し、評価回路に接続されている論理が出力範囲チャネルの信号を処理することにより成り立っている。監視装置54に対する多角的なシステムとしての使用によるそれ以上の冗長性は重要である。例えば制御棒に対する操作要素70は、図3または6による監視装置の信号によって始動可能なだけでなく、追加的に、中性子束検出器7に接続されている、他の物理的原理および検出器により構成された監視装置54によっても始動可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 始動範囲、移行範囲および出力範囲に対する検出器を有する測定ランスに対する位置を示す炉心の図。
【図2】 始動範囲、移行範囲および出力範囲に対する測定範囲を示す図。
【図3】 本発明による出力帯域のフィルタ作用を説明するため回路図。
【図4】 一次エクスカーション、続発エクスカーションおよび正常な始動の際の限界マークおよび信号経過を示す図。
【図5】 従来の技術による炉の監視および制御の原理的な構成を示す図。
【図6】 多角的なエクスカーション監視のための、図5に対する本発明による補足を示す図。
Claims (15)
- 原子炉の出力を出力範囲チャネル内で捕捉することにより原子炉始動時の出力上昇を監視するための方法において、出力範囲チャネルの下側部分内の出力帯域(Mu、Mo)を、原子炉出力が予め定められた最小時間(ΔtB)よりも速く通り抜けるとき対策を開始するために、少なくとも1つの出力範囲チャネルの測定信号(S(t))を監視することを特徴とする原子炉始動時の出力上昇を監視するための方法。
- 原子炉の出力を出力範囲チャネル内で捕捉することにより原子炉始動時の出力上昇を監視するための方法において、少なくとも炉出力に対する出力範囲チャネルの測定信号(S(t))を監視し、炉出力に対する測定信号(S(t))が出力範囲チャネルの下側部分内に位置している出力帯域(Mu、Mo)の下限マーク(Mu)を最後に超過した後、予め定められた最小時間(ΔtB)の継続中に出力帯域(Mu、Mo )の上限マーク(Mo)を超過しないときにのみ、原子炉の始動を継続することを特徴とする原子炉始動時の出力上昇を監視するための方法。
- 炉出力に対する各出力範囲チャネルの測定信号(S(t))を、炉心の全域にわたり配分して配置した出力配分検出器の測定信号の合計により形成することを特徴とする請求項1または2記載の方法。
- 出力帯域に関し、動作に無関係な下限及び/又は上限マーク(Mu、Mo)を決めることを特徴とする請求項1ないし3の1つに記載の方法。
- 出力帯域(Mu、Mo)を炉の定格出力の下側3分の1内に位置させることを特徴とする請求項1ないし4の1つに記載の方法。
- 出力帯域(Mu、Mo)の幅(Mo−Mu)及び/又は最小時間(ΔtB)を動作に無関係に予め定めることを特徴とする請求項1ないし5の1つに記載の方法。
- 出力帯域(Mu、Mo)の幅(Mo−Mu)が定格出力の3分の1未満であることを特徴とする請求項1ないし6の1つに記載の方法。
- 最小時間(ΔtB)が1分未満であることを特徴とする請求項1ないし7の1つに記載の方法。
- 炉出力を連続的に多くの出力範囲チャネルの測定信号(S1、S2、S3)により捕捉し、かつ冗長性を持って監視することを特徴とする請求項1ないし8の1つに記載の方法。
- 炉の始動の際にその炉心から制御棒を引き出し、追加的な中性子束検出器からの信号を監視することを特徴とする請求項1ないし9の1つに記載の方法。
- 追加的な中性子束検出器により炉心の出力を現在の最大値を守るべく監視し、その際に現在の最大値を始動の際に動作に関係して変更することを特徴とする請求項10記載の方法。
- 信号が出力範囲チャネル内で処理される出力検出器を有する原子炉の始動を監視するための装置において、少なくとも1つの出力範囲チャネルに接続されている論理を含み、この論理が出力範囲チャネルの下側部分内に位置している出力帯域(Mu、Mo)の下限マーク(Mu)の超過時に予め定められた最小時間(ΔtB)にわたって能動化され、かつ炉出力に対する出力範囲チャネルの測定信号(S(t))が出力帯域(Mu、Mo)の上限(Mo)を超過するとき、対策を開始するための信号をセットすることを特徴とする原子炉の始動を監視するための装置。
- 出力範囲チャネルと多くの冗長性を持って動作する論理が接続されており、これらの論理が評価回路に接続されていることを特徴とする請求項12記載の装置。
- 炉心内に制御棒を挿入し、又は炉を停止させるため、対策
を開始するための信号により警告される操作要素が設けられていることを特徴とする請求項12または13記載の装置。 - 操作要素が追加的に、追加の中性子束検出器に接続された監視装置によっても能動化可能であることを特徴とする請求項14記載の装置。
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