以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
〔第1の実施形態;インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は、本発明の第1の実施形態に係る画像形成装置としてのインクジェット記録装置の概略を示す全体構成図である。図1に示すように、このインクジェット記録装置10は、インクの色毎に設けられた複数の印字ヘッド12K、12C、12M、12Yを有する印字部12と、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置されている。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコードあるいは無線タグ等の情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻き癖が残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラー31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が平面をなすように構成されている。
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラー31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバー34が設けられており、この吸着チャンバー34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。
ベルト33が巻かれているローラー31、32の少なくとも一方にモータ(不図示)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1において、時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は、図1の左から右へと搬送される。
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、あるいはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラー線速度を変えると清掃効果が大きい。
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラー・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラー・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面にローラーが接触するので、画像が滲み易いという問題がある。従って、本例のように、印字領域では画像面と接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹きつけ、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
印字部12は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図2参照)。
図2に示すように、印字部12を構成する各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yは、本インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
記録紙16の搬送方向(紙搬送方向)に沿って上流側(図1の左側)から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応した印字ヘッド12K、12C、12M、12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドがインク色毎に設けられてなる印字部12によれば、紙搬送方向(副走査方向)について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(すなわち、一回の副走査で)記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、印字ヘッドが紙搬送方向と直交する方向(主走査方向)に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
なお本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態には限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタ等のライト系インクを吐出する印字ヘッドを追加する構成も可能である。
図1に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは図示を省略した管路を介して各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段等)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサ(ラインセンサ等)を含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
本例の印字検出部24は、少なくとも各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列とからなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が二次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
印字検出部24は、各色の印字ヘッド12K、12C、12M、12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各ヘッドの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定等で構成される。
印字検出部24の後段には、後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹きつける方式が好ましい。
多孔質のペーパに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラー45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
このようにして生成されたプリント物は、排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える選別手段(不図示)が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に、本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成されている。
また、図示を省略したが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられている。
なおインク色毎に設けられている各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によって印字ヘッドを表すものとする。
〔インク供給系の構成〕
図3はインクジェット記録装置10におけるインク供給系の構成を示した概要図である。インク供給タンク60は印字ヘッド50にインクを供給するための基タンクであり、図1で説明したインク貯蔵/装填部14に設置される。インク供給タンク60の形態には、インク残量が少なくなった場合に、不図示の補充口からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を代える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じて吐出制御を行うことが好ましい。なお、図3のインク供給タンク60は、先に記載した図1のインク貯蔵/装填部14と等価のものである。
図3に示すように、インク供給タンク60と印字ヘッド50の中間には、異物や気泡を除去するためにフィルタ62が設けられている。フィルタ・メッシュサイズは、ノズル径と同等若しくはノズル径以下とすることが好ましい。図3には示さないが、印字ヘッド50の近傍又は印字ヘッド50と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクは、ヘッドの内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する機能を有する。
またインクジェット記録装置10には、ノズル51の乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止する手段としてのキャップ64と、ノズル面50Aの清掃手段としてのクリーニングブレード66とが設けられている。これらキャップ64及びクリーニングブレード66を含むメンテナンスユニットは、不図示の移動機構によって印字ヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置から印字ヘッド50下方のメンテナンス位置に移動される。
キャップ64は、図示せぬ昇降機構によって印字ヘッド50に対して相対的に昇降変位される。電源OFF時や印刷待機時にキャップ64を所定の上昇位置まで上昇させ、印字ヘッド50に密着させることにより、ノズル面50Aをキャップ64で覆う。
クリーニングブレード66は、ゴムなどの弾性部材で構成されており、図示せぬブレード移動機構により印字ヘッド50のノズル面50Aに摺動可能である。ノズル面50Aにインク滴又は異物が付着した場合、クリーニングブレード66をノズル面50Aに摺動させることでノズル板表面を拭き取り、ノズル面50Aを清浄する。
印字中又は待機中において、特定のノズル51の使用頻度が低くなり、ノズル近傍のインク粘度が上昇した場合、その劣化インクを排出すべくキャップ64に向かって予備吐出が行われる。
また、印字ヘッド50内のインク(圧力室内)に気泡が混入した場合、印字ヘッド50にキャップ64を当て、吸引ポンプ67で圧力室内のインク(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを回収タンク68へ送液する。この吸引動作は、初期のインクの印字ヘッド50への装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも粘度上昇(固化)した劣化インクの吸い出しが行われる。
印字ヘッド50は、ある時間以上吐出しない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してノズル近傍のインクの粘度が高くなってしまい、吐出駆動用の圧電素子(図3中不図示、図6中符号58として記載)が動作してもノズル51からインクが吐出しなくなる。従って、この様な状態になる手前で(圧電素子58の動作によってインク吐出が可能な粘度の範囲内で)、インク受けに向かって圧電素子58を動作させ、粘度が上昇したノズル近傍のインクを吐出させる「予備吐出」が行われる。また、ノズル面50Aの清掃手段として設けられているクリーニングブレード66等のワイパーによってノズル面50Aの汚れを清掃した後に、このワイパー摺擦動作によってノズル51内に異物が混入するのを防止するためにも予備吐出が行われる。なお、予備吐出は、「空吐出」、「パージ」、「唾吐き」などと呼ばれる場合もある。
また、ノズル51や圧力室52に気泡が混入したり、ノズル51内のインクの粘度上昇があるレベルを超えたりすると、上記予備吐出ではインクを吐出できなくなるため、以下に述べる吸引動作を行う。
すなわち、ノズル51や圧力室52のインク内に気泡が混入した場合、或いはノズル51内のインク粘度があるレベル以上に上昇した場合には、圧電素子58を動作させてもノズル51からインクを吐出できなくなる。このような場合、印字ヘッド50のノズル面50Aに、キャップ64を当てて圧力室52内の気泡が混入したインク又は増粘インクを吸引ポンプ67で吸引する動作が行われる。
ただし、上記の吸引動作は、圧力室52内のインク全体に対して行われるためインク消費量が大きい。従って、粘度上昇が少ない場合はなるべく予備吐出を行うことが好ましい。
〔制御系の説明〕
図4は、インクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB、IEEE1394、イーサネット、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦画像メモリ74に記憶される。画像メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなどの磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ72は、通信インターフェース70、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御する制御部である。システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、ホストコンピュータ86との間の通信制御、画像メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒーター89を制御する制御信号を生成する。
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示に従ってモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示に従って後乾燥部42等のヒーター89を駆動するドライバである。
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、画像メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字制御信号(印字データ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ84を介して印字ヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図4において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、画像メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
ヘッドドライバ84はプリント制御部80から与えられる印字データに基づいて各色の印字ヘッド50の圧電素子(図4中不図示、図6中符号58として記載)を駆動する。ヘッドドライバ84にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
印字検出部24は、図1で説明したように、ラインセンサー(不図示)を含むブロックであり、記録紙16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供するものである。
プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部24から得られる情報に基づいて印字ヘッド50に対する各種補正を行うようになっている。
〔印字ヘッドの構造〕
次に、印字ヘッド50の構造について説明する。図5は、印字ヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図6は、図5に示した印字ヘッド50の一部を拡大した詳細図である。なお図5は、印字ヘッド50の全体の概略構成の理解を容易にするために詳細部分を省略して表示しており、図6にその詳細部分を表示してある。
印字ヘッド50は、図5及び図6に示すように、インク滴を吐出するノズル51及びノズル51に対応する圧力室52を千鳥でマトリクス状に配列させた構造を有し、ノズル51の高密度化が図られている。
圧力室52は、その平面形状は概略正方形となっており、図6に示すように、その対角線上の一方の隅部にはノズル51が設けられ、他方の隅部外側には圧力室52に隣接するように形成されたインク供給口53が設けられている。
図7は、図6中A7−A7線に沿う断面図である。同図に示すように、ノズル51が形成されるノズルプレート94、圧力室52が形成される流路プレート96、及びインク供給口53が形成される振動板56は積層状に接合されている。
振動板56上には、個別電極57を備えた圧電素子(圧電アクチュエータ)58が接合されている。振動板56はSUS材等の導電性部材により構成されており、圧電素子58に対する共通電極となっている。
振動板56の図7中上方には、非導電性部材から成る絶縁基板98が設けられている。絶縁基板98には、振動板56上に積層した場合に圧電素子58の外周を覆うような凹部が形成されている。
絶縁基板98の図7中上方には、共通液室55が構成されている。絶縁基板98及び振動板56には、インク供給口53に対応する貫通孔が形成されており、共通液室55は、インク供給口53を介して圧力室52と連通している。
このように本実施形態における印字ヘッド50では、圧力室52のノズル51が形成される側とは反対側に共通液室55及び圧電素子58が設けられている。
共通液室55の上面は、非導電性部材から成る絶縁基板99が設けられており、さらにその上方には、配線層92が設けられている。配線層92は、各圧電素子58を駆動するためのヘッドドライバ(図7中不図示、図4中符号84として記載)と接続されている。
各圧力室52に対応して設けられる圧電素子58は、図6に示すように、各圧力室52と略同じ概略正方形の平面形状を有する。各圧電素子58の図6中右下隅部には、外側に突出した突起部58aが形成されている。
図8は、図6中A8−A8線に沿う断面図である。同図に示すように、圧電素子58のの突起部58a上には、配線部材100が設けられる。
配線部材100は、振動板56に対して略垂直方向に、共通液室55を上下に貫通するテーパ付き柱状の構造を有する。配線部材100は、導電性部材から成る電極102を内部に有し、その外周部は絶縁膜104により覆われている。電極102の下端部及び上端部には、それぞれ半田106、108が設けられており、電極102は、半田106を介して個別電極57と電気的に接続されると共に、半田108を介して配線層92に形成される不図示の電極と電気的に接続されている。配線部材100は、その形状及び機能からエレキ柱と呼ぶこととする。
このように配線部材100を振動板56に対して略垂直方向に設けたことにより、圧電素子58を駆動するための駆動用配線のスペースを配線層92に十分確保することができ、ノズル51の高密度化が可能となる。
また圧力室52のノズル51が形成される側とは反対側に共通液室55を配置したことにより、共通液室55のサイズを大きくすることが可能となり、また圧力室52とノズル51間の流路の長さが短くなり、さらに、共通液室55と各圧力室52の間の流路を真っ直ぐに構成することが可能になるので、インクのリフィル性能が向上する。従って、高粘度インク(例えば、20cp〜50cp程度)の吐出が可能となると共に、高密度化された各ノズル51の高周波駆動が可能になる。
本実施形態における印字ヘッド50には、さらに、図6に示すように、圧電素子58の図6中左上隅部の外側に、ダミーの配線部材(以下、ダミー配線部材という)110が設けられている。
図9は、図6中A9−A9線に沿う断面図である。同図に示すように、ダミー配線部材110は、配線部材100と同様に、電極112の外周部が絶縁膜114により覆われたテーパ付き柱状の形状を有するが、ダミー配線部材110の電極112の上端部は、配線層92の不図示の電極と電気的に接続されていない点で異なる。また電極112の下端部は、絶縁基板98と半田116によって接合されており、個別電極57とは電気的に接続されていない。
このようにダミー配線部材110は、圧電素子58の駆動に寄与しない構造物である。なお、ダミー配線部材110の電極112の上端部及び下端部の接続形態は、図9に示した例に限定されず、例えば、電極112の上端部又は下端部のいずれか一方が電気的に接続されていてもよい。
また配線部材100とダミー配線部材110は、形状、材質等の構造が略同一であり、これらは後述する印字ヘッド50の製造方法によって製造される。なお本発明の実施に際しては、配線部材100とダミー配線部材110は略同一の構造に限定されず、共通液室55を貫通する配線部材100と略平行に形成されていればよい。
本実施形態では、図6に示すように、各インク供給口53の副走査方向上流側及び下流側に配線部材100が配置され、さらに各インク供給口53の主走査方向上流側及び下流側にダミー配線部材110が配置される。すなわち各インク供給口53の4方向に配線部材100、ダミー配線部材110が配置される。さらに、このような配線部材100、ダミー配線部材110は、それぞれの方向に隣接するインク供給口53との間に設けられている。なおインク供給口53が、印字ヘッド50の端部に位置する場合は、主走査方向上流側若しくは下流側、又は副走査方向上流側若しくは下流側のいずれかの方向には、配線部材100、ダミー配線部材110が配置されない。
図10は、図6中A10−A10線に沿う断面図である。同図に示すように、図10中左側の圧力室52に対してインク吐出のための圧力が加えられると、図10中実線矢印のように、圧力波が共通液室55に伝播するが、ダミー配線部材110によって、その圧力波は弱められるので、図10中右側の圧力室52に対する圧力波の影響が防止される。また図示は省略するが、配線部材100の場合も同様である。
このように配線部材100、ダミー配線部材110は圧力波干渉防止手段として機能し、インク吐出によって共通液室55内に伝播する圧力波を弱め、主走査方向及び副走査方向に存在する他のインク供給口53を介して、そのインク供給口53と連通する圧力室52に圧力波の影響が及ぶのを防止する。このようにしてクロストークが防止されるので、各ノズル51は安定したインク吐出を行うことが可能となる。
また配線部材100だけでなく、さらにダミー配線部材110を設けたことによって、共通液室55の剛性が高くなるので、共通液室55の大型化も可能となり、リフィル性能が向上する。
図11は、図5に示した印字ヘッド50の拡大図である。図11は、図5と同様に、詳細部を省略して表示してある。図11に示すように、ノズル51に対応する圧力室52は、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向とに沿って一定の配列パターンで格子状に配列させた構造になっている。主走査方向に対してある角度θの方向に沿って圧力室52を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd× cosθとなる。
すなわち、主走査方向については、各ノズル51が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
なお、印字可能幅の全幅に対応した長さのノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動する、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動する、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動する等が行われ、用紙の幅方向(用紙の搬送方向と直交する方向)に1ライン又は1個の帯状を印字するようなノズルの駆動を主走査と定義する。
特に、図11に示すようなマトリクス状に配置されたノズル51を駆動する場合は、上記(3)のような主走査が好ましい。すなわち、ノズル51-11 、51-12 、51-13 、51-14 、51-15 、51-16 を1つのブロックとし(他にはノズル51-21 、…、51-26 を1つのブロック、ノズル51-31 、…、51-36 を1つのブロック、…として)、記録紙16の搬送速度に応じてノズル51-11 、51-12 、…、51-16 を順次駆動することで記録紙16の幅方向に1ラインを印字する。
一方、上述したフルラインヘッドと用紙とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットからなるライン)の印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。
次に、印字ヘッド50の作用について説明する。
共通液室55に貯留されたインクは、インク供給口53を通って、圧力室52に供給される。ヘッドドライバ84(図4参照)が、圧電素子58に対する駆動信号を送ると、その駆動信号は配線部材100の電極102を通って、個別電極57に供給される。これにより圧電素子58は変形し、圧力室52の天面を構成する振動板56が変形する。そして圧力室52の体積は減少し、圧力室52内に充填されているインクが、ノズル51からインク滴として吐出される。
このとき圧力室52内のインクに加えられた圧力波の一部は、インク供給口53を通って共通液室55側に伝播する。インク供給口53の四方向、すなわち主走査方向上流側及び下流側、副走査方向上流側及び下流側に隣接するインク供給口53との間にそれぞれ配置された配線部材100、ダミー配線部材110によって、共通液室55に伝播してきた圧力波は弱められ、クロストークが防止される。
ノズル51からインク滴が吐出されると、共通液室55からインク供給口53を通って新しいインクが圧力室52に供給され、次のインク吐出が行われる。
〔印字ヘッド50の製造方法〕
次に、印字ヘッド50の製造方法について説明する。
図12(a)〜(d)は、印字ヘッド50の製造工程を示した説明図である。
まず図12(a)に示すように、ポリイミド等に対してノズル51に相当する微細孔51aを穿設したノズルプレート94と、SUS材に対するエッチング加工やSiエッチング加工等により圧力室52に相当する凹部等を形成した流路プレート96を接着剤等により接合する。
次に図12(b)に示すように、導電性部材から成る振動板56に、インク供給口53に相当する貫通孔53aを形成しておき、この振動板56を流路プレート96上に接合する。そして、振動板56上の圧力室52に対応する位置に、AD法(エアロゾルデポジション法)あるいはスパッタ法等によって薄膜状の圧電体58aを形成し、さらに、その圧電体58a上に個別電極57を形成する。なお薄膜状の圧電体58aをバルクの圧電体を研磨して形成してもよい。また振動板56を圧電素子58の共通電極とする。
次に図12(c)に示すように、圧電素子58の外周を囲むような凹部の形成された絶縁基板98を振動板56上に積層して接合する。そして共通液室層155を絶縁基板98上に接合する。
ここで共通液室層155の製造方法について、図13(a)〜(e)を用いて説明する。まず図13(a)に示すように、絶縁基板99の上面に銅層120を形成後、図13(b)に示すように、銅層120をエッチング等によって削り、複数のテーパ付きの柱状部材200を形成する。各柱状部材200は、配線部材100の電極102又はダミー配線部材110の電極112に相当する。そして図13(c)に示すように、電極102、112の側面に対して絶縁膜104、114を形成する。
次に、図13(d)に示すように、絶縁基板99上の配線部材100の形成位置に図13(d)中下側から貫通孔99aを加工する。なお貫通孔99aは、図13(a)で示した絶縁基板99上に銅層120を形成する前に加工しておいてもよい。そして図13(e)に示すように、貫通孔99aに対して半田108を流し込む。また配線部材100、ダミー配線部材110の上面にも、それぞれ半田106、116を設ける。
図12(c)では、このようにして形成された共通液室層155を絶縁基板99が図12(c)中上方になるように配置して、絶縁基板98上に接合する。
なお絶縁基板98上の配線部材100に対応する位置には貫通孔を形成しておき、これらの接合時には、圧電素子58の個別電極57と、配線部材100の電極102とが電気的に接続されるように、半田106(図13(e)参照)によって接合を行う。なお接合後、その接合部周辺部を絶縁処理しておく。
一方、ダミー配線部材110は、その先端部(図12(c)中下端部)に設けられた半田116により絶縁基板98との接合を行う。
次に、図12(d)に示すように、絶縁基板99上に配線層92を接合する。このとき配線層92に形成されている不図示の電極と、配線部材100の電極102とが電気的に接続されるように、絶縁基板99aに設けられた半田108によって接合を行う。
このようにして、共通液室55を貫通するようにして形成される配線部材100、ダミー配線部材110を備えた印字ヘッド50を製造することができる。このような印字ヘッド50では、配線部材100とダミー配線部材110が略同じ構造を有するので、印字ヘッド50の製造を容易化することができる。
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係る印字ヘッド50の構成について説明する。
図14は、第2の実施形態に係る印字ヘッド50を一部拡大した詳細図である。同図に示すように、本実施形態における印字ヘッド50は、圧力室52から図14中斜め右上方向に、副走査方向に隣接する圧力室52との間の略中央に対応する位置まで延びた個別流路153と、個別流路153の先端に形成されるインク供給口53と、圧電素子58の一端から主走査方向上流側に延びるように形成された延設部58bと、延設部58bの先端に形成された配線部材100と、主走査方向に隣接するインク供給口53の間に形成されたダミー配線部材110と、を備えている。
図15は、図14中A15−A15線に沿う断面図である。同図に示すように、共通液室55に貯留されたインクは、インク供給口53から個別流路153を通って、圧力室52に供給される。
図16は、図14中A16−A16線に沿う断面図である。同図に示すように、延設部58bは、圧電素子58と一体的に形成されている。延設部58b上には、第1の実施形態と同様の構造を有する配線部材100が、共通液室55を貫通するように設けられている。
図17は、図14中A17−A17線に沿う断面図である。同図に示すように、第1の実施形態と同様に、ダミー配線部材110が共通液室55を貫通するように設けられている。
図14に示した印字ヘッド50は、図6に示した第1の実施形態の印字ヘッド50と同様に、各インク供給口53の主走査方向上流側及び下流側、副走査方向上流側及び下流側に隣接するインク供給口53との間に配置される配線部材100、ダミー配線部材110は、圧力波干渉防止手段として、クロストークを防止し、各ノズル51の安定したインク吐出を可能とする。
また圧電素子58の主走査方向上流側及び下流側、副走査方向の上流側及び下流側に、配線部材100、ダミー配線部材110が略均等に配置されており、圧電素子58の撓みの拘束条件に不均一がなく、圧電素子58の撓み形状が均一で駆動時における圧力波の歪みがないため、飛翔曲がりのない安定したインク吐出を可能とする。
〔第3の実施形態〕
図18は、本発明の第3の実施形態に係る印字ヘッド50を一部拡大した詳細図である。同図に示すように、本実施形態における印字ヘッド50には、副走査方向に隣接する圧電素子58の間に、2つのダミー配線部材110A、110Bが設けられている。なお、ダミー配線部材110の数は図18に示した例に限定されるものでない。
このように配置されたダミー配線部材110A、110Bは、より大きな流体抵抗となるので、インク吐出によって共通液室55に伝播してきた圧力波をより弱めることができ、クロストークを確実に防止することができる。
〔第4の実施形態〕
図19は、本発明の第4の実施形態に係る印字ヘッド50の側面断面図である。第4の実施形態に係る印字ヘッド50の平面形状は、図6に示した第1の実施形態と同様であるので図示を省略する。図19は、図6中A9−A9線に沿う断面図に相当する。
図19に示すように、本実施形態の印字ヘッド50には、第1の実施形態と同様の形状を有する配線部材100と、配線部材100の略半分の高さを有するダミー配線部材110とが設けられている。
ダミー配線部材110は、圧力波干渉防止手段として、クロストークを防止する一方、ダミー配線部材110の上端部は絶縁基板99に接しない構成であるため、共通液室55内のインク流れを確保でき、リフィル性能がさらに向上する。
図20(a)〜(d)は、第4の実施形態に係る印字ヘッド50の製造方法の説明図である。なお同図では、説明の便宜上、図19と若干異なる構成を表示する。
まず図20(a)に示すように、ノズルプレート94、流路プレート96及び振動板56を積層状に接合後、振動板56上に圧電素子58を形成して、さらに、その上に、絶縁基板98を積層する。これらの工程は、第1の実施形態の印字ヘッド50の工程(図12(a)〜(c)参照)と同様であるので、その説明を省略する。
次に、図20(b)に示すように、絶縁基板98上に、共通液室層255を積層する。
ここで、共通液室255の製造方法について、図21(a)〜(d)を用いて説明する。まず図21(a)に示すように、Si基板130を用意する。そして、図21(b)に示すように、Si基板130に対して、ダミー配線部材110の高さに相当する溝状の非貫通孔130a、130bを異方性エッチング等により複数形成する。なお、溝部130aは配線部材100に対応する位置に形成されており、溝部130bはダミー配線部材110に対応する位置に形成されている。
非貫通孔130aに対しては、さらに異方性エッチング等を行い、図21(c)に示すように、Si基板130を貫通する貫通孔130a’を形成する。そして、貫通孔130a’及び非貫通孔130bに対して、図21(d)に示すように、それぞれメッキ等の金属を流し込む。なお貫通孔130a’の金属は、配線部材100の電極102に相当し、非貫通孔130bの金属は、ダミー配線部材110の電極112に相当する。その後、電極102の上面及び下面にそれぞれ半田106、108を設け、電極112の上面に半田116を設けておく。
このようにして形成された共通液室層255を図21(d)に示した状態から上下逆にして、図20(b)に示すように、絶縁基板98と接合を行う。このとき配線部材100及びダミー配線部材110と絶縁基板98との接合方法は、第1の実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
次に、異方性エッチング等によって、図20(b)に示した共通液室層255のSiを除去すると、図20(c)に示すように、配線部材100の電極102と、ダミー配線部材110の電極112が共通液室55内を振動板56に対して略垂直方向に立設するように形成される。その後、電極102の側面、及び電極112の上面と側面に対して絶縁膜104、114を形成し、図20(d)に示すように、共通液室層255の上方に、絶縁基板99及び配線層92を接合する。
このように第4の実施形態は、第1の実施形態と同様に、配線部材100とダミー配線部材110を略同じ工程で製造できるので、印字ヘッド50の製造を容易化することができる。
以上、本発明の液体吐出ヘッド及び画像形成装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
10…インクジェット記録装置、50…印字ヘッド、50A…ノズル面、51…ノズル、52…圧力室、53…インク供給口、55…共通液室、56…振動板、57…個別電極、58…圧電素子、92…配線層、100…配線部材、102…電極、104…絶縁膜、110…ダミー配線部材、112…電極、114…絶縁膜