JP4596557B2 - 複合熱可塑性エラストマー組成物および成形体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゴムの代替品に加えて、電子光学材料や医用材料、特種化学機能材料として、特に、加硫ゴムの代替品として使用される、スチレン系熱可塑性エラストマー中に液晶ポリマーを繊維状で分散させた複合熱可塑性エラストマー組成物および複合熱可塑性エラストマー成形体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
熱可塑性エラストマーは、加熱によって軟化し、外力によって変形するが、室温付近でゴム弾性を示し、加硫ゴム三次元網目の架橋点に相当する拘束相と、網目鎖としてエントロピー弾性を示すゴム成分とからなる多相高分子である。加硫ゴムに比べ成形が容易であり、再利用が可能なため、注目の材料である。
【0003】
熱可塑性エラストマーの用途は、ゴムの代替用途に加えて、電子光学材料や医用材料、特種化学機能材料としての用途が広がっている。特に、スチレン系熱可塑性エラストマーは、低硬度化が可能なため、加硫ゴムの代替えとして、広範に用いられている。
そして、熱可塑性エラストマーからなる成形体の機械的強度を上げるためには、熱可塑性エラストマーに炭素、ガラス、有機系等の短繊維や、炭素、無機系等の粉末などの補強剤を配合した組成物を用いていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、スチレン系熱可塑性エラストマー組成物に、炭素、ガラス、有機系等の短繊維や、炭素、無機系等の粉末などを配合すると、スチレン系熱可塑性エラストマー成形体の硬度が大きく上昇し、ゴム弾性がなくなり、スチレン系熱可塑性エラストマーの補強剤としては適切ではなかった。
【0005】
また、熱可塑性樹脂の補強方法として、液晶ポリマーを分散させた熱可塑性樹脂組成物を押出成形機にて押し出し、液晶ポリマーを熱可塑性樹脂成形体の中に繊維状に形成し、流動方向に配向させて補強する方法が知られている。
しかし、この方法をスチレン系熱可塑性エラストマーに用いた場合、繊維状に形成された液晶ポリマーのアスペクト比(繊維長と直径の比)が小さく、補強効果が少なかった。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かかる課題を解決したものであり、スチレン系熱可塑性エラストマー成形体の硬度の上昇を抑え、ゴム弾性を損なわずに、機械的強度が高いスチレン系熱可塑性エラストマー組成物およびスチレン系熱可塑性エラストマー成形体を提供するものである。
すなわち、スチレン系熱可塑性エラストマーと酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーとを混合してなる改質スチレン系熱可塑性エラストマーに、繊維状の液晶ポリマーを配合して複合熱可塑性エラストマー組成物とした。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明は、スチレン系熱可塑性エラストマー99〜75重量部と酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー1〜25重量部とを混合した改質スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に、アスペクト比100以上の繊維状の液晶ポリマーが5〜100重量部配合されている複合熱可塑性エラストマー組成物である。
【0008】
さらに、酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーが、無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー、アクリル酸誘導体グラフトスチレン系熱可塑性エラストマーあるいはメタクリル酸誘導体グラフトスチレン系熱可塑性エラストマーである複合熱可塑性エラストマー組成物である。
【0009】
さらに、前記複合熱可塑性エラストマー組成物から成形される複合熱可塑性エラストマー成形体である。
本発明は、酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーを、スチレン系熱可塑性エラストマーと液晶ポリマーの相溶化剤として混合したもので、両者の界面エネルギーを低下させ、両相への親和力により成形時の液晶ポリマーの繊維形状化を促進させ、液晶ポリマーがより細長く、アスペクト比の大きな繊維状の補強剤としてその流動方向に高度に配向され、スチレン系熱可塑性エラストマーと液晶ポリマーの界面接着力も良好となったスチレン系熱可塑性エラストマー組成物および成形体である。
【0010】
本発明の酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーは、水添スチレン系熱可塑性エラストマーに、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸やこれらの無水物、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレアミド酸などの酸およびこれらの誘導体を付加して変性したものが挙げられる。なかでも、無水マレイン酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体が好適である。
【0011】
これらの酸および酸誘導体のスチレン系熱可塑性エラストマーに付加される含有量については特定するものではないが、スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対し、酸および酸誘導体が0.1〜20重量部の範囲が好ましい。付加する方法は限定するものではなく、過酸化物を使用して付加反応させる方法などの公知の方法を採用できる。
【0012】
本発明の改質スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン系熱可塑性エラストマー99〜75重量部と酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー1〜25重量部とを混合したものが好ましい。酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーの配合量が25重量部を越えると、成形時の金型離型性がわるくなり、1重量部未満では相溶性の効果が少ない。
【0013】
本発明の液晶ポリマーは、改質スチレン系熱可塑性エラストマー組成物中でアスペクト比が100以上の繊維状になり、改質スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対し、液晶ポリマーの配合量が5〜100重量部のものが、スチレン系熱可塑性エラストマー成形体の硬度の上昇を抑え、ゴム弾性を損なわずに、機械的強度を上げることができので好ましい。アスペクト比が100未満では補強効果が少ない。また、液晶ポリマーの配合量が100重量部を越えると成形体の硬度が高くなりゴム弾性がなくなり、5重量部未満ではアスペクト比が100以上であっても補強効果が少ない。
【0014】
本発明のスチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレンと、ブタジエンやイソプレンなどのジエン系モノマーとのブロック共重合体を水添したものである。具体的には、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体を水添したスチレン(エチレンブチレン)スチレンブロック共重合体、スチレンブタジエンブロック共重合体を水添したスチレン(エチレンブチレン)ブロック共重合体、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体を水添したスチレン(エチレンプロピレン)スチレンブロック共重合体、スチレンイソプレンブロック共重合体を水添したスチレン(エチレンプロピレン)ブロック共重合体およびこれらの混合物が挙げられる。
【0015】
本発明の液晶ポリマーは、スチレン系熱可塑性エラストマーより融点が高いものであれば、特に限定するものではないが、具体例としては、ベクトラ、エコール、ザイダー、ロッドラン、ノバキュレート等の商品名で市販されている。
【0016】
また、本発明のスチレン系熱可塑性エラストマーの配合剤として、柔軟性や加工性などを付与する目的で、通常のオイルなどの可塑剤や無機充填剤、補強繊維、熱安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑剤、発泡剤、他の少量の高分子材料などの添加剤を配合することができる。
【0017】
本発明のスチレン系熱可塑性エラストマー組成物中で液晶ポリマーを繊維化させる製造方法は、通常の押出成形機および射出成形装置等によって製造することができる。所定の各種配合剤を計量した後に、リボンブレンダーやタンブラー、スーパーミキサーなどで混合してから、単軸押出成形機や二軸押出成形機、射出成形装置などで溶融混練して調製することができる。また、二軸押出成形機の場合、サイドフィードでシリンダー途中から液晶ポリマーを投入しスチレン系熱可塑性エラストマー組成物中で液晶ポリマーを繊維化させることも可能である。液晶ポリマーを混練途中から投入することはスチレン系熱可塑性エラストマー組成物への熱的負担を軽くし、劣化を防ぐ意味からも有効である。
【0018】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
【実施例1〜9】
表1に実施例1〜9の複合熱可塑性エラストマー組成物の配合を示す。それぞれスチレン系熱可塑性エラストマーと無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーと液晶ポリマーを40mmΦの単軸押出成形機で混練し、複合熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0019】
さらに、複合熱可塑性エラストマー組成物を用いて、厚さ2mmの板状に押出成形して、複合熱可塑性エラストマー成形体を得た。
【0020】
表1に、液晶ポリマーが配向した方向の引張り強度(JIS K6251準拠)、硬度(JIS K6253、タイプAデュロメータを使用)を測定した結果をまとめた。また複合熱可塑性エラストマー成形体の成形性として、流動性、離型性、表面状体の良好なものを○、不良なものを×として記し、また成形体内部の熱可塑性エラストマーと液晶ポリマーの界面状態を観察した。更に、各々の複合熱可塑性エラストマー組成物をトルエン溶剤に浸し、スチレン系熱可塑性エラストマーを溶解除去し、繊維状の液晶ポリマーのアスペクト比を測定した。
【0021】
【表1】
【0022】
【実施例10〜18】
表2に実施例10〜18の複合熱可塑性エラストマー組成物の配合を示す。それぞれスチレン系熱可塑性エラストマーとアクリル酸誘導体変性スチレン系熱可塑性エラストマーと液晶ポリマーを40mmΦの単軸押出成形機で混練し、複合熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0023】
さらに得られた複合熱可塑性エラストマー組成物を用いて、厚さ2mmの板状に押出成形して、熱可塑性エラストマー成形体を得た。
【0024】
表2に実施例1〜9と同様に測定評価した結果をまとめた。
【表2】
【0025】
【比較例1〜5】
表3に比較例1〜5の熱可塑性エラストマー組成物の配合を示す。それぞれスチレン系熱可塑性エラストマーと酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーと液晶ポリマーを40mmΦの単軸押出成形機で混練し、熱可塑性エラストマー組成物を得た。
さらに得られた組成物を用いて、厚さ2mmの板状に押出成形して、熱可塑性エラストマー成形体を得た。
【0026】
表3に上記実施例と同様に測定評価した結果をまとめた。
【表3】
本発明の実施例は、比較例よりも硬度の上昇を伴わずに強度が向上しており、さらに成形性も良好であった。
【0027】
【発明の効果】
本発明は、特別な加工をすることなく、スチレン系熱可塑性エラストマー組成物中に、アスペクト比が100以上の繊維状の液晶ポリマーを配合することができる。この組成物によって成形された成形体は、低硬度で高い機械的強度を示すものとなった。
Claims (4)
- スチレン系熱可塑性エラストマー99〜75重量部と酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー1〜25重量部とを混合した改質スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に、アスペクト比100以上の繊維状の液晶ポリマー5〜100重量部が配合されていることを特徴とする複合熱可塑性エラストマー組成物。
- 酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーが、無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー、アクリル酸誘導体グラフトスチレン系熱可塑性エラストマーあるいはメタクリル酸誘導体グラフトスチレン系熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項1に記載の複合熱可塑性エラストマー組成物。
- スチレン系熱可塑性エラストマーが水添したスチレン(エチレンブチレン)スチレンブロック共重合体であることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の複合熱可塑性エラストマー組成物。
- 請求項1、2あるいは3に記載の複合熱可塑性エラストマー組成物から成形されることを特徴とする複合熱可塑性エラストマー成形体。
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