JP4593451B2 - マイクロリアクターシステム及び送液方法 - Google Patents

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Description

本発明は、生化学物質を固定化し、それに特異的に吸着あるいは結合する酵素、抗体、たんぱく質、ホルモン、糖鎖、化合物などの化学物質を測定するためのディスポーサブル型マイクロチップを備えて化学物質の測定を行うマイクロリアクターシステム及び分析用溶液を反応槽に送液する送液方法に関する。
近年、Lab−on−a−chip、バイオマイクロチップ、あるいはマイクロリアクターなどと称される、バイオ検査用マイクロリアクター及びこれを備えたマイクロリアクターシステムの開発が盛んになってきている。これらのマイクロリアクターは、コンパクトで安価なため、例えば家庭内で人の健康状態を少量の検体で定期的に検査したりすることが可能である。また、ディスポーサブルが前提であるため、コンタミなどの心配もなく手軽に検査することが可能である。このマイクロリアクターに反応物質の質量を直接測定することのできるセンサとして、特許文献1に記載されているQCMバイオセンサを組み込んだもの、非特許文献1及び2に記載されている表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Prasmon Resonance)現象を利用して検知するものなど、様々な方式が検討されている。
QCMバイオセンサを用いる場合、水晶振動子の電極上での反応物質の吸着・結合による質量変化を水晶振動子の発振周波数シフトを利用して測定することができる。QCMバイオセンサの一例として、例えば特開2003−307481号公報(図6)に記載されているが、これを図6に示す。この図6に示すように、サンプル溶液103に含まれる分析対象のみを捕獲する感応膜を固定化した検出用チャネル101と、その近傍に配置した感応膜が無い補正用チャネル102とが複数形成されたQCMバイオセンサ100を設けることにより、両チャネル101、102の電気的特性の変化を利用して、サンプル溶液103の粘度及び密度に影響されずに反応の過程を逐次モニタできるといった方式が提案されている。
さらに、上述したQCMバイオセンサをマイクロリアクターに組み込み、ポンプなどの送液手段を用いて、サンプル溶液をフローさせることによって、サンプル溶液をフローさせない従来の方式(ウェル型セル構造)よりも反応速度を速くすることができるため、反応全体のリアルタイム測定が短時間で可能となる。従って、マイクロリアクターシステムとしては、緩衝溶液やサンプル溶液といった反応させるために必要な溶液を測定時に順次マイクロリアクターに供給する仕組みを備えている。
特開2003−307481号公報 森本香織、「プラズモン共鳴分析タイプの分析装置」、臨床検査、株式会社医学書院、2003年10月、vol.47,no.11,2003年増刊号,p.1319〜1327 永田和宏、半田宏、「生体物質相互作用のリアルタイム解析実験法」、シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社、1998年11月
上述したようなQCMバイオセンサをマイクロリアクターに組み込む方式は、サンプル溶液の短時間での反応測定が可能であるが、反応させるために数種類のサンプル溶液や緩衝液を送液するとき、それぞれの溶液が混ざらないように送液する必要がある。しかしながら、従来のマイクロリアクターシステムでは、各溶液が切り目無く流路内を流れるため、どうしても溶液の境界で内容物の拡散が起こり、サンプル溶液の混合や濃度の変化が発生してしまうという問題があった。
そこで本発明は、上記課題を解決するために、サンプル溶液同士や緩衝液がマイクロリアクターの流路内部で、拡散混合すること無く反応槽部まで流れ込み、流入時と全く同じ状態で反応させ、結合定数や解離定数などの測定が可能であるマイクロリアクターシステムを提供することを目的とするものである。
本発明のマイクロリアクターシステムは、反応槽部と、該反応槽部に分析用の溶液を供給する供給路と、前記反応槽部から前記溶液を排出する廃液路とを有するマイクロリアクターと、前記マイクロリアクターの前記供給路に接続されて前記溶液を供給する供給手段とを有するマイクロリアクターシステムにおいて、前記供給手段は、前記供給路に種類が異なる複数の前記溶液とガスとを供給する供給部と、該供給部からの送液を制御する制御部と、前記溶液とガスを貯留する貯留部とからなり、また、前記供給路は、前記反応槽に至る所定の位置で前記ガスを抜き取るガス除去手段が設けられていることを特徴とするものである。
また、前記供給部は、前記貯留部からの前記溶液を受けて加圧しながら送出する加圧式供給ポンプと、該加圧ポンプから送液された種類が異なる前記溶液を種類ごとに仕切るように互いの前記溶液の間に前記ガスを介在させながら前記溶液と前記ガスとを順次切り替えて前記供給路に供給するバルブとからなることを特徴とするものである。
また、前記ガス除去手段は、前記所定の位置で前記供給路から分岐し、外部または大気に連通するガス抜き用分岐流路からなることを特徴とするものである。
また、本発明の送液方法は、供給路を介して種類が異なる複数の溶液を反応槽に送液する送液方法であって、種類が異なる前記溶液を種類ごとに仕切るように互いの前記溶液の間にガスを介在させて前記溶液を前記供給路に流すステップと、前記反応槽に至る所定の位置で前記ガスを抜き取るステップと、前記ガスを抜き取って前記ガスによる仕切りが排除された状態で前記溶液を前記種類ごとに前記反応槽に順次供給するステップとからなることを特徴とするものである。
本発明によると、供給される緩衝液または反応に必要なサンプル溶液は、供給時にガスで区切られて送液されるため、溶液同士の境界が無く、溶液の拡散や混合が起こりえない。また、反応槽部にガスが導入してしまうと、QCMなどのセンサはガスの影響で異常な信号を出力するが、本発明では流路は反応槽部手前に供給路から分岐するように接続されたガス抜き分岐路を有する構造となっているため、溶液を区切っていたガスは反応槽部直前でガス抜き分岐路に排出され、この時点で溶液のみが反応槽部に入る。従って、マイクロリアクター内部では、溶液供給時に溶液の拡散混合も無い、センサへのガスの影響も無い、精度の良い結合定数や解離定数などの測定が可能となる。
(実施の形態の概要)
供給手段によってマイクロリアクター1に緩衝液とサンプル溶液を順次供給し、反応槽部2に固定した抗体42と送液したサンプル溶液に含まれる抗原43の結合定数や解離定数を測定する。緩衝液とサンプル液が拡散混合しないように溶液は空気によって仕切られて送液され、反応槽部2手前で仕切っていた空気をガス抜き分岐路8経由で取り除く。空気を取り除くための構造として、供給路3と接続した反応槽部2の入り口近傍から空気を流せるようにガス抜き分岐路8を接続し、その先は大気に開放されている構造となっている。
(実施の形態の詳細)
以下、本発明について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明のマイクロリアクターシステムの構成を説明する図である。先ず、マイクロリアクター1の構成について説明する。マイクロリアクター1の基坂部は樹脂基板21からなる。樹脂基板21は、シリコンゴムの一種であるPDMS(ポリジメチルシロキサン)に凹部を形成し、これを積層して張り合わせた構造となっている。そして、凹部は流体が流れる部分となり、ガス抜き分岐路8は反応槽部2手前の供給路3から分岐し、開放口9に接続されている。その他、溶液供給口5、反応槽部2からの排出路7、排出口4が形成されている。
次に、マイクロリアクターシステム14の構成について説明する。本マイクロリアクターシステムは上記のマイクロリアクター1とこれに溶液を供給する供給手段とからなり、この供給手段は供給路に種類が異なる複数の前記溶液とガスとを供給する供給部17と、該供給部からの送液を制御する制御部23と、前記溶液とガスを貯留する貯留部(タンク)10、11、12とから構成されている。マイクロリアクター1の供給口5にはチューブ20を用いて供給部17が接続されており、この接続手段17には第1の溶液用容器11と第2の溶液用容器12とガス容器10から延びたそれぞれの配管13、25、24が接続されている。また、排出口4にもチューブ20が取り付けられ、廃液タンク16に接続されている。供給部17は信号線22を介して制御手段23が接続されており、制御手段23が送液の制御を行う構成となっている。ただし、QCMバイオセンサの駆動・検出用回路は図中では省略している。
マイクロリアクター1の一例として、溶液供給口5と溶液排出口4は直径約3mm、供給路3と排出路7は幅約300μm、深さ50μmに作製した。また、反応槽部2は最大幅が6mmとなるように作製した。そして、ガス抜き分岐路8は供給路との接続部の幅5μm以下に、流路幅を50μm以下に製作した。また、樹脂基板21の凹部は溶液を均一に流すために、表面に親水化処理コーティング処理を行った。ただし、ガス抜き分岐路8は流路内の表面に親水化処理コーティングを施さず疎水の状態を保持している。
ここでは疎水性の材質をもつ樹脂を用いてマイクロリアクター1を形成したために、ガス抜き分岐路8以外の流路に親水化処理を行ったが、親水性の素材(例えばガラス)を用いてマイクロリアクター1を作る場合は、ガス抜き分岐路8に溶液が流れ込まないように、図1に横線で示した分岐路の分岐部近傍に疎水化処理を施し、疎水領域50を形成しても良い。このように形成されたガス抜き分岐流路8には、水溶液系の液体は流れ込むことは無く、ガスのみが通過できる状態の流路となる。また、反応槽部2には生化学物質の吸着・結合反応を測定するために反応槽部底面の一部にQCMバイオセンサ6を配置している。QCMバイオセンサ6の電極や配線は図1では省略している。本実施の形態1ではバイオセンサとして水晶振動子からなるQCMバイオセンサを用いた。
次に、本発明の送液方法については図2のフローチャートに基づいて、供給部17については図5を用いて説明する。供給部17は内部には加圧して送液できるポンプ26、例えばローラーポンプやダイヤフラムポンプが配置され、溶液を押し流すことができる構成を持っており、先ず、供給部17から第1の溶液19を供給する(図2、ステップS1)。
そして、マイクロリアクター1内部が第1の溶液19により満たされた後、供給部17は第1の溶液19から第2の溶液15に、双方の溶液の間にガス18が介在するように供給液を切り替える(図2、ステップS2)。
この切り替えは制御手段23により制御されたバルブ(スライド式開閉バルブ)27によって行う。供給部17は、送液が切り替わる瞬間に、バルブ27が一瞬ガス配管口28を経由して切り替わる構造となっているため、第1の溶液19と第2の溶液15の間に少量のガス18が挟まる。このとき、ガス18は圧縮されて配管24内に存在するため、溶液がガス配管24に逆流することは無い。従って、第2の溶液15は先に流していた第1の溶液19との間にガス18を介在して送液されることとなる。
さらに、供給部17が送液を続けることにより、マイクロアクター1内の供給路3に第2の溶液15が流れ込む状態となる。間にガス18を介在した第1の溶液19と第2の溶液15は反応槽部2へと向かって流れて行き、第1の溶液19の最後部が反応槽部2手前のガス抜き分岐路8を通り過ぎたとき、第1の溶液19と第2の溶液15間に介在するガス18がガス抜き分岐路8に押し出される(図2、ステップS3)。
このとき初めて第1の溶液19と第2の溶液15の液界面が接する。この状態で第2の溶液15が反応槽部2に流れ混む(図2、ステップS4)ため、反応槽部2へのガス流入は発生しない。以上が本発明の送液方法である。
次に、本実施の形態1のマイクロリアクターシステム14を用いて、抗原―抗体反応の測定を行ったので説明する。本実施の形態1では第1の溶液19としてリン酸などの緩衝液を、第2の溶液15として抗原を含んだサンプル溶液を用意し、ガス18には圧縮された空気を用いた。
まず、QCMバイオセンサ6の表面に、SAM膜41を介して抗体42を修飾しておく(図4(a))。次に、リン酸などの緩衝液(第1の溶液19)を供給部17により送液する。緩衝液(第1の溶液19)は供給口5を通過してマイクロリアクター1に送液され、供給路3から反応槽部2、排出路7、排出口4、廃液タンク16へと流れる。
緩衝液(第1の溶液19)がマイクロリアクター1内の流路を満たし、流量を1μL/min程度に安定させた後、供給する溶液を抗原43を含むサンプル溶液(第2の溶液15)に切り替えた。ここで、サンプル液(第2の溶液15)は全部で約20μL送液する。緩衝液(第1の溶液19)とサンプル液(第2の溶液15)は、間に空気(ガス18)を挟んだ状態で供給路3を流れ(図3参照)、1μL/minの速度で反応槽部2に向かって進み、サンプル液(第2の溶液15)が反応槽部2手前に差し掛かったときに、緩衝液(第1の溶液19)との境に介在した空気(ガス18)がガス抜き流路8に排出された。
そして、緩衝液(第1の溶液19)は、緩衝液(第1の溶液19)界面とサンプル液(第2の溶液15)界面が接すると同時に反応槽部2へと流れ込んだ。そして、サンプル溶液(第2の溶液15)中の抗原43がQCMバイオセンサ6表面に固定化されている抗体42と結合反応(抗原―抗体反応)を生じた(図4(b)参照)と思われる信号がQCMバイオセンサ6より検出された。この信号には空気(ガス18)が混入したような特異的な信号変化は見られなかった。
そして、サンプル液(第2の溶液15)の送液開始から約20分後(20μLを流した後)に、供給部17により再び緩衝液(第1の溶液19)の供給に切り替えた。すると、サンプル液(第2の溶液15)と緩衝液(第1の溶液19)の間に空気(ガス18)が介在した状態でマイクロリアクター1に溶液が送液され、先程と同様に、緩衝液(第1の溶液19)が反応槽部2手前に差し掛かったときに、サンプル液(第2の溶液15)との境に介在した空気(ガス18)がガス抜き流路8に排出され、サンプル液(第2の溶液15)が、サンプル液(第2の溶液15)界面と緩衝液(第1の溶液19)界面が接すると同時に反応槽部2へと流れ込んだ。そして、抗体42に吸着していた抗源43が解離したと思われる信号がQCMセンサより検出された。この信号にも空気(ガス18)が混入したような特異的な信号変化は見られなかった。
このように、本実施の形態1では、反応槽部2にサンプル液が入る直前まで、他の溶液との接触が起こらず、しかも空気のようなガスが反応槽部2に入ることも無い送液が可能である。したがって、抗原―抗体反応をリアルタイムで計測でき、反応の定量化だけではなく結合定数や解離定数などの反応速度に関するアフィニティー特性をも計測することが可能となる。本実施の形態1では抗原―抗体反応に関して述べたが、DNAのハイブリダイゼーション反応、蛋白質の結合、酵素反応など様々な生化学反応に用いることができる。
また、本実施の形態1ではバイオセンサにQCMバイオセンサを用いたが、光を利用したSPRバイオセンサ、エバネッセント波励起型センサを用いても構わない。また、バルブとしてスライド式バルブを用いたが回転式のバルブでも良いし、ガスを介在して供給できるバルブであればどんなバルブでも構わない。
本発明のマイクロリアクターシステムのブロック構成図である。 本発明の送液方法を示すフローチャート図である。 本発明の送液方法を説明するための説明図である。 本発明のマイクロリアクターの動作を説明するための説明図であり、(a)は抗体を固定した状態、(b)は抗原を送液している状態を示す図である。 本発明の供給手段の動作を説明するための説明図である。 従来のQCMバイオセンサの構造を示す概観図であり、(a)は上面図、(b)はB−B´断面図である。
符号の説明
1 マイクロリアクター
2 反応槽部
3 供給路
4 排出口
5 供給口
6 QCMバイオセンサ
7 排出路
8 ガス抜き分岐路
9 開放口
10 ガス容器
11 第1の溶液用容器
12 第2の溶液用容器
13 配管
14 マイクロリアクターシステム
15 第2の溶液
16 廃液タンク
17 供給部
18 ガス
19 第1の溶液
20 チューブ
21 樹脂基板
22 信号線
23 制御手段
24 配管
25 配管
26 ポンプ
27 バルブ
28 ガス配管口
41 SAM膜
42 抗体
43 抗原
50 疎水領域
100 QCMセンサ
101 検出用チャネル
102 補正用チャネル
103 サンプル溶液

Claims (5)

  1. 反応槽部と、該反応槽部に分析用の溶液を供給する供給路と、前記反応槽部から前記溶液を排出する廃液路とを有するマイクロリアクターと、前記マイクロリアクターの前記供給路に接続されて前記溶液を供給する供給手段とを有するマイクロリアクターシステムにおいて、
    前記供給手段は、
    前記供給路に種類が異なる複数の前記溶液と、前記溶液のそれぞれの間に介在するものであり前記溶液同士の混合を防止するために用いられるガスとを供給する供給部と、
    前記供給部からの送液を制御する制御部と、
    前記溶液とガスを貯留する貯留部と
    を備え
    前記供給路には、前記反応槽に至る所定の位置で前記ガスを抜き取るガス除去手段が設けられていることを特徴とするマイクロリアクターシステム。
  2. 前記供給部は、
    前記貯留部からの前記溶液を受けて加圧しながら送出する加圧式供給ポンプと、
    前記加圧ポンプから送液された種類が異なる前記溶液を種類ごとに仕切るように互いの前記溶液の間に前記ガスを介在させながら前記溶液と前記ガスとを順次切り替えて前記供給路に供給するバルブと
    を備えることを特徴とする請求項1に記載のマイクロリアクターシステム。
  3. 前記ガス除去手段は、前記所定の位置で前記供給路から分岐し、外部または大気に連通するガス抜き用分岐流路からなることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロリアクターシステム。
  4. 前記ガス抜き用分岐流路は、分岐流路内の表面全体または分岐部近傍の流路内表面が疎水性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロリアクターシステム。
  5. 供給路を介して種類が異なる複数の溶液を反応槽に送液する送液方法であって、
    種類が異なる前記溶液を種類ごとに仕切るように互いの前記溶液の間に配置されるものであり、前記溶液同士の混合を防止するために用いられるガスを介在させて前記溶液を前記供給路に流すステップと、
    前記反応槽に至る所定の位置で前記ガスを抜き取るステップと、
    前記ガスを抜き取って前記ガスによる仕切りが排除された状態で前記溶液を前記種類ごとに前記反応槽に順次供給するステップと
    を備えることを特徴とする送液方法。
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