本発明を実施するための最良の形態について添付図面を参照しながら説明する。
以下では、本発明のシリンダヘッドを自動車用V型8気筒エンジン(内燃機関)に適用した例について説明する。
まず、V型エンジン(以下、エンジンとも言う)の概略構成について説明する。図1は、クランク軸Cの軸心に沿った方向(気筒配列方向)でクランク軸Cの後端側から見たV型エンジンEの概略構成を示す図である。
エンジンEは、シリンダブロック1の上部にV型に突出した一対のバンク(気筒群)2L,2Rを有している。各バンク2L,2Rは、シリンダブロック1の上端部に設置されたシリンダヘッド3L,3Rと、その上端に取り付けられたヘッドカバー4L,4Rとをそれぞれ備えている。シリンダブロック1には、複数のシリンダ(気筒)5L,5R,・・・(例えば、各バンク2L,2Rに4つずつ)が所定の挟み角(例えば、90°)をもって配設されている。これらシリンダ5L,5R,・・・の内部には、ピストン51L,51R,・・・が往復移動可能に収容されている。各ピストン51L,51R,・・・は、コネクティングロッド52L,52R,・・・を介してクランク軸Cに動力伝達可能に連結されている。シリンダブロック1の下側には、クランクケース6が取り付けられている。シリンダブロック1内の下部からクランクケース6の内部に亘る空間がクランク室61となっている。また、クランクケース6のさらに下側にはオイル溜まり部となるオイルパン62が配設されている。
この例では、シリンダヘッド3L,3Rは分割構造となっている。詳しくは、シリンダブロック1の上面に取り付けられるシリンダヘッド本体37L,37Rと、このシリンダヘッド本体37L,37Rの上側に組み付けられるカムシャフトハウジング38L,38Rとによりシリンダヘッド3L,3Rが構成されている。
シリンダヘッド3L,3Rのシリンダヘッド本体37L,37Rには、各燃焼室76L,76Rに連通する吸気ポート31L,31Rと排気ポート33L,33Rとが形成されている。吸気ポート31L,31Rは、各シリンダ5L,5Rごとに一対ずつ形成されている。また、排気ポート33L,33Rは、各シリンダ5L,5Rごとに一対ずつ形成されている。各燃焼室76L,76Rの頂部には、点火プラグ(図示略)がそれぞれ配設されている。
シリンダヘッド本体37L,37Rには、吸気ポート31L,31Rを開閉するための吸気バルブ32L,32R、および、排気ポート33L,33Rを開閉するための排気バルブ34L,34Rがそれぞれ組み付けられている。また、シリンダヘッド本体37L,37Rには、吸気バルブ32L,32Rの開閉作動をガイドする吸気バルブガイド81L,81R、および、排気バルブ34L,34Rの開閉作動をガイドする排気バルブガイド82L,82Rがそれぞれ設けられている。
吸気バルブ32L,32Rのバルブステムの上端部と、ラッシュアジャスタ43L,43Rとの間には、ローラロッカアーム44L,44Rが揺動可能に配置されている。また、吸気バルブ32L,32Rのバルブステムの周囲には、バルブスプリング45L,45Rが設けられており、バルブスプリング45L,45Rの弾性力によって吸気バルブ32L,32Rが吸気ポート31L,31Rを閉じる方向に付勢されている。排気バルブ34L,34Rについても同様に、ローラロッカアーム48L,48R、バルブスプリング49L,49R、ラッシュアジャスタ47L,47Rが設けられており、バルブスプリング49L,49Rの弾性力によって排気バルブ34L,34Rが排気ポート33L,33Rを閉じる方向に付勢されている。
そして、シリンダヘッド3L,3Rのカムシャフトハウジング38L,38Rとヘッドカバー4L,4Rとの間に形成されたカム室41L,41Rに配置されたカムシャフト35L,35R,36L,36Rの回転によって、ローラロッカアーム44L,44R,48L,48Rが揺動され、各バルブ32L,32R,34L,34Rの開閉動作が行われるようになっている。
シリンダヘッド本体37L,37Rの各バンク2L,2Rの内側(バンク間側)の上部には、各バンク2L,2Rに対応する吸気マニホールド7L,7Rがそれぞれ装着されており、各吸気ポート31L,31Rに吸気マニホールド7L,7Rの下流端が連通している。一方、シリンダヘッド本体37L,37Rの各バンク2L,2Rの外側には、各バンク2L,2Rに対応する排気マニホールド(図示略)がそれぞれ取り付けられており、各排気ポート33L,33Rに排気マニホールドの上流端が連通している。
シリンダヘッド本体37L,37Rの吸気ポート31L,31Rには、ポート噴射インジェクタ(ポート噴射燃料噴射弁)75L,75Rがそれぞれ設けられている。ポート噴射インジェクタ75Lは、シリンダ5Lごとの一対の吸気ポート31Lに対しそれぞれ1つずつ設けられている。ポート噴射インジェクタ75Rについても同様である。ポート噴射インジェクタ75L,75Rからの燃料噴射時にあっては、このポート噴射インジェクタ75L,75Rから噴射された燃料が吸気マニホールド7L,7R内に導入された空気と混合されて混合気となり、その混合気が吸気バルブ32L,32Rの開弁にともなって燃焼室76L,76Rに導入されることになる。また、この例では、シリンダヘッド本体37L,37Rに筒内直噴インジェクタ(筒内直噴燃料噴射弁)78L,78Rがそれぞれ設けられている。筒内直噴インジェクタ78L,78Rからの燃料噴射時にあっては、燃焼室76L,76Rへ燃料が直接噴射されるようになっている。
なお、ポート噴射インジェクタ75L,75Rおよび筒内直噴インジェクタ78L,78Rの燃料噴射形態の一例として、エンジンEの低中負荷時には、両インジェクタ75L,75R,78L,78Rからの燃料噴射を行って均質な混合気を生成し、燃費の改善および低エミッション化を図るようにする。また、エンジンEの高負荷時には、筒内直噴インジェクタ78L,78Rのみからの燃料噴射を行って吸気冷却効果による充填効率の向上およびノッキングの抑制を図るようにしている。ただし、これらインジェクタ75L,75R,78L,78Rの燃料噴射形態としてはこれに限るものではない。
次に、エンジンEに備えられるシリンダヘッド3L,3Rのシリンダヘッド本体37L,37Rについて詳しく説明する。シリンダヘッド本体37L,37Rの構成は同様であるので、ここでは一方のバンク2Lのシリンダヘッド本体37Lについて代表して説明する。図2は、一方のバンク2Lのシリンダヘッド本体37Lの燃焼室側の部分を拡大して示す断面図である。図3は、シリンダヘッド本体37Lを上下方向に沿った方向で下側から見た図、図4は、シリンダヘッド本体37Lを短手方向に沿った方向で吸気ポート側から見た図である。図5は、シリンダヘッド本体37Lの吸気ポート31L周辺を示す斜視図、図6は、図3におけるX−X線で切断した断面の一部を示す部分断面図である。図7は、シリンダヘッド本体37Lの吸気ポート31Lを長手方向に沿った方向から見た図、図8は、シリンダヘッド本体37Lの吸気ポート31Lを短手方向に沿った方向から見た図である。なお、図2〜図8では、シリンダヘッド本体37Lの上下の面39L,40Lを水平な状態とした場合のシリンダヘッド本体37L、吸気ポート31L等を示している。また、シリンダヘッド本体37Lの上面(カムシャフトハウジング38Lの取付面)39Lに直交する方向を「上下方向」、気筒配列方向に沿った方向を「長手方向」、上下方向および長手方向に直交する方向を「短手方向」として説明する。
シリンダヘッド本体37Lには、上述したように、シリンダ5Lごとに一対の吸気ポート31Lと一対の排気ポート33Lが設けられている。シリンダ5Lごとの一対の吸気ポート31Lは、二股形状に形成されている。具体的には、一対の吸気ポート31Lの上流側(吸気マニホールド7L側)の部分は共通の通路になっているが、途中で分岐されており、下流側(燃焼室76L側)の部分は別々の通路になっている。そして、一対の吸気ポート31Lの長手方向の中心位置に対し、これら一対の吸気ポート31Lは互いに対称な形状になっている。また、シリンダ5Lごとの一対の排気ポート33Lも同様に二股形状になっている。吸気ポート31Lおよび排気ポート33Lの下流端には、バルブシート42L,46Lがそれぞれ設けられている。
吸気ポート31Lは、各バンク2L,2Rの内側の上部に設けられる吸気マニホールド7Lに連通するように、図1ではほぼ上方に向けて延びている。各吸気ポート31Lの上流側の部分が、各バンク2L,2Rの内側に向けて張り出すように形成された張り出し部となっている。そして、この張り出し部が、吸気ポート31Lの上流側に接続される吸気マニホールド7Lが装着される吸気マニホールド装着部71Lとなっている。一方、排気ポート33Lは、各バンク2L,2Rの外側に設けられる排気マニホールドに連通するように、図1では斜め下方に向けて延びている。
また、シリンダヘッド本体37Lには、上述したように、吸気バルブガイド81Lと排気バルブガイド82Lとが設けられている。吸気バルブガイド81Lは、筒状の部材であって、バルブガイドボス部83Lに形成されたバルブガイド孔85L内に挿入されて取り付けられている。吸気バルブガイド81L内には、吸気バルブ32Lのバルブステムが摺動可能な状態で挿入されるようになっている。そして、バルブガイドボス部83Lの下部には、吸気ポート31Lの下流側の部分に連通する凹部(空間)91Lが形成されている。凹部91L内には、吸気バルブガイド81Lの先端部が突出されている。凹部91Lの詳細については後述する。
排気バルブガイド82Lも同様に、筒状の部材であって、バルブガイドボス部84Lに形成されたバルブガイド孔86L内に挿入されて取り付けられており、この排気バルブガイド82L内に排気バルブ34Lのバルブステムが摺動可能な状態で挿入される。また、バルブガイドボス部84Lの下部には、排気ポート33Lに連通する凹部(空間)92Lが形成されており、凹部92L内には、排気バルブガイド82Lの先端部が突出されている。
シリンダヘッド本体37Lには、ポート噴射インジェクタ75Lを支持する支持部87Lが形成されている。支持部87Lは、二股形状の一対の吸気ポート31Lの分岐位置よりも上流側であって、吸気ポート31Lの上方に設けられている。支持部87Lの下方には、吸気ポート31Lに連通する凹部(空間)88Lが形成されている。凹部88L内には、ポート噴射インジェクタ75Lの先端部が突出されている。また、シリンダヘッド本体37Lには、筒内直噴インジェクタ78Lを支持する支持部89Lが形成されている。支持部89Lは、吸気ポート31Lの下方に設けられている。
上述の吸気バルブガイド81Lのバルブガイドボス部83Lの凹部91Lは、後述するポート位置検査用の凹部として設けられている。凹部91Lは、バルブガイドボス部83Lの内側に配置され、吸気ポート31Lの下流側の部分に開口されている。凹部91Lは、4つの内壁面からなるほぼ三角柱状に形成されており、長手方向に沿った方向から見た形状がほぼ三角形になっている。具体的には、凹部91Lの長手方向両側の内壁面93L,94Lは、ほぼ平行に設けられており、ほぼ三角形の平面になっている。外側の内壁面93Lは、クランク軸Cの軸心に直交する平面に対し平行な平面になっている。一方、内側の内壁面94Lは、型抜きのための抜き勾配を考慮して、内壁面93Lに対し若干傾斜して設けられており、クランク軸Cの軸心に直交する平面に対しほぼ平行な平面になっている。また、凹部91Lの上側の内壁面95Lは、ほぼ矩形の平面になっている。内壁面95Lは、シリンダヘッド本体37Lの上面39Lに平行な面になっている。また、凹部91Lのもう1つの内壁面、つまり、図8で手前側に見える内壁面96Lは、ほぼ矩形の平面になっている。内壁面96Lは、クランク軸Cの軸心に平行な面になっている。
凹部91Lの内壁面93L,95L,96Lには、ポート位置検査用の測定箇所97L,98L,99Lが設けられている。ポート位置検査用の測定箇所97L,98L,99Lは、後述する3次元測定機111による位置測定を行う際(図9)、3次元測定機111のプローブ(触針)112を当てる箇所になっている。そして、測定箇所97Lに3次元測定機111のプローブ112を当てることによって、後述するポート位置検査用の基準位置に対する測定箇所97Lの長手方向の位置を測定することができる。測定箇所98Lに3次元測定機111のプローブ112を当てることによって、基準位置に対する測定箇所98Lの上下方向の位置を測定することができる。測定箇所99Lに3次元測定機111のプローブ112を当てることによって、基準位置に対する測定箇所99Lの短手方向の位置を測定することができる。
ここで、シリンダヘッド本体37Lに設けられるポート位置検査用の基準位置について、図3〜図6により説明する。ポート位置検査用の基準位置は、シリンダヘッド本体37Lのポート位置検査の際、シリンダヘッド本体37Lの吸気ポート31Lの3次元位置を測定するための基準となる位置であり、シリンダヘッド本体37Lの粗材基準となる位置である。この例では、ポート位置検査用の基準位置は、長手方向、短手方向および上下方向についてそれぞれ設けられている。具体的には、次に述べる凹部101Lの内壁面102Lが長手方向の基準位置(基準面)になっており、平面部103Lの側面104Lが短手方向の基準位置(基準面)になっており、凹部105Lの内壁面106Lが上下方向の基準位置(基準面)になっている。
凹部101Lは、シリンダヘッド本体37Lの吸気ポート31Lの吸気マニホールド装着部71L側の内壁を窪ませて形成されている。この例では、凹部101Lは、シリンダヘッド本体37Lの長手方向の中央部に位置する2つの吸気ポート31Lにそれぞれ1つずつ設けられている。そして、長手方向の基準位置である凹部101Lの内壁面102Lは、長手方向に直交する面になっている。
凹部105Lは、シリンダヘッド本体37Lの下面(シリンダブロック1への取付面)40Lの周縁部を上方に窪ませて形成されている。この例では、凹部105Lは、シリンダヘッド本体37Lの下面40Lの吸気ポート31側に2つ、排気ポート33側に1つ、それぞれ設けられている。そして、上下方向の基準位置である凹部105Lの内壁面106Lは、上下方向に直交する面になっている。
平面部103Lの側面104Lは、シリンダヘッド本体37Lの下面40Lから垂直に立ち上がる面に形成されている。この例では、平面部103Lは、シリンダヘッド本体37Lの吸気ポート31側に2つ設けられている。平面部103Lは、凹部105Lに連続して設けられている。そして、短手方向の基準位置である平面部103Lの側面104Lは、短手方向に直交する面になっている。
上述したような構成のシリンダヘッド本体37Lは、例えば、アルミニウム合金等からなり、鋳造によって成形される。このとき、吸・排気ポート31L,33Lおよび上述の凹部91L,92Lは、砂型等のポート中子によって形成される。この場合、吸気ポート31Lを形成するポート中子としては、図7、図8に示す吸気ポート31Lの形状に対応した形状のものが用いられる。またこのとき、上述した凹部101L,105L、および、平面部103Lもシリンダヘッド本体37Lに形成される。
そして、シリンダヘッド本体37Lの鋳造後、シリンダヘッド本体37Lのポート位置検査を行って、その結果、良品と判定されたシリンダヘッド本体37Lに対し、各種の加工、例えば、バルブシート42L,46Lを形成する加工、バルブガイド81L,82Lを形成する加工等の各種の加工を行う。この場合、バルブガイドボス部83Lに設けられるバルブガイド孔85Lは、ドリル加工によって燃焼室76L側から開口されるが、凹部91Lの内壁面95Lが平面であるため、その加工を精度よく行うことが可能になる。
なお、ポート位置検査後、各種の加工に先立って、良品と判定されたシリンダヘッド本体37Lに各種加工の基準位置となる基準孔108Lを形成する。基準孔108Lは、上述したポート位置検査用の基準位置を基準にして、具体的には、長手方向の基準位置である凹部101Lの内壁面102Lおよび短手方向の基準位置である平面部103Lの側面104Lを基準にして形成される。この例では、基準孔108Lは、シリンダヘッド本体37Lの上部の長手方向両端部に1つずつ設けられている。基準孔108Lの上面は、シリンダヘッド本体37Lの上面39Lと同一平面となっており、各種加工の上下方向の基準位置(基準面)となっている。また、一方の基準孔108Lの中心位置109Lは、各種加工の長手方向および短手方向の基準位置となっている。
次に、シリンダヘッドの検査方法について説明する。ここで言うシリンダヘッドの検査は、シリンダヘッドにおけるポートの位置精度の検査(ポート位置検査)のことであり、ここでは、ポート位置検査をシリンダヘッド本体37L,37Rにおける吸気ポート31L,31Rについて行う場合について説明する。シリンダヘッド本体37L,37Rの構成は同様であるので、ここでは一方のバンク2Lのシリンダヘッド本体37Lについて代表して説明する。
ポート位置検査は、鋳造後のシリンダヘッド本体37Lが良品であるか、不良品であるかを選別するために行う検査である。図9に示すように、ポート位置検査を行うための検査装置110は、シリンダヘッド本体37Lの吸気ポート31Lの位置を測定する測定装置、ポート位置検査に関する各種の処理を制御する制御装置113等を有している。以下では、ポート検査装置における測定装置を3次元測定機111とした場合について説明する。3次元測定機111では、そのプローブ(触針)112を移動させて被検査物(ここでは、シリンダヘッド本体37L)に当てると、プローブが当たった位置、言い換えれば、プローブが移動した距離に応じて被検査物の位置を測定するようになっている。
ポート位置検査は、シリンダヘッド本体37Lの鋳造後、シリンダヘッド本体37Lへの各種の加工に先立って行う。以下では、鋳造後、各種の加工前のシリンダヘッド本体37Lを、シリンダヘッド本体37Lの粗材と言う。ポート位置検査は、鋳造された全てのシリンダヘッド本体37Lの粗材に対して行う。また、ポート位置検査は、シリンダヘッド本体37Lの粗材の全ての吸気ポート31Lに対して行う。シリンダヘッド本体37Lの粗材には、吸気ポート31Lが8つ設けられているので、例えば、長手方向の一端に位置する吸気ポート31Lから順にポート位置検査を行う。
ポート位置検査では、3次元測定機111によってシリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの位置を測定し、この3次元測定機111の測定結果に基づいてシリンダヘッド本体37Lの粗材が良品であるか、不良品であるかを選別する。以下、詳しく説明する。
3次元測定機111によるシリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの位置の測定は、バルブガイドボス部83Lの凹部91Lを利用して行う。具体的には、まず、3次元測定機111による測定を行うにあたり、シリンダヘッド本体37Lの粗材の基準位置(内壁面102L,側面104L,内壁面106L)と3次元測定機111の基準位置との位置合わせを行いながらシリンダヘッド本体37Lの粗材を3次元測定機111にセットする。この場合、シリンダヘッド本体37Lの粗材の基準位置は、上述したように、長手方向、短手方向および上下方向についてそれぞれ設けられているので、長手方向、短手方向および上下方向についてそれぞれ3次元測定機111の基準位置との位置合わせを行う。このとき、シリンダヘッド本体37Lの2箇所に設けられた凹部101Lの内壁面102Lを治具で挟むことによって長手方向の位置合わせを行う。また、シリンダヘッド本体37Lの2箇所に設けられた平面部103Lの側面104L、および、3箇所に設けられた凹部105Lの内壁面106Lを、3次元測定機111の測定ステージに設けられた位置決め用の面にそれぞれ押し付けることによって、短手方向および上下方向の位置合わせを行う。そのセット後、プローブ112を移動させ、シリンダヘッド本体37Lの粗材の長手方向の一端に位置する吸気ポート31Lの燃焼室76L側からプローブ112を挿入する。そして、プローブ112を凹部91Lの内壁面93L,96L,95Lに設けられているポート位置検査用の測定箇所97L,99L,98Lにそれぞれ当接させる。
この場合、プローブを凹部91Lの内壁面93Lの測定箇所97Lに当接させて、この測定箇所97Lの長手方向の基準位置である内壁面102Lに対する長手方向の位置を測定する。これにより、測定箇所97Lの長手方向の位置の情報が得られる。このとき、得られた測定箇所97Lの長手方向の位置の情報は、制御装置113に送られる。
また、プローブを凹部91Lの内壁面96Lの測定箇所99Lに当接させて、この測定箇所99Lの短手方向の基準位置である側面104Lに対する短手方向の位置を測定する。これにより、測定箇所99Lの短手方向の位置の情報が得られる。このとき、得られた測定箇所99Lの短手方向の位置の情報は、制御装置113に送られる。
また、プローブを凹部91Lの内壁面95Lの測定箇所98Lに当接させて、この測定箇所98Lの上下方向の基準位置である内壁面106Lに対する上下方向の位置を測定する。これにより、測定箇所98Lの上下方向の位置の情報が得られる。得られた測定箇所98Lの上下方向の位置の情報は、制御装置113に送られる。
以上より、バルブガイドボス部83Lの凹部91Lの3次元位置(長手方向の位置,短手方向の位置,上下方向の位置)の情報が求められ、また、シリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの3次元位置の情報が求められる。このように、バルブガイドボス部83Lの凹部91Lを形成する3平面93L,96L,95Lが、シリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの3次元位置の情報を求めるための測定用の面になっている。
そして、3次元測定機111によるシリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの位置の測定結果に基づいて、制御装置113は、シリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの位置が適正であるか否かを判定する。つまり、シリンダヘッド本体37Lの粗材における吸気ポート31Lの位置精度が良いか否かが判定される。ここでは、3次元測定機111によって測定されたシリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの位置(測定上の位置)を、設計上、予め定められたシリンダヘッド本体37Lの吸気ポート31Lの位置(設計上の位置)と対比する。その対比の結果、シリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの測定上の位置の設計上の位置に対するずれ量が予め定められた許容範囲に含まれている場合には、ずれ量が小さくシリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの位置が適正であると判定する。逆に、シリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの測定上の位置の設計上の位置に対するずれ量が予め定められた許容範囲に含まれていない場合には、ずれ量が大きくシリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの位置が適正ではないと判定する。
なお、シリンダヘッド本体37Lの設計上の位置に関する情報、および、測定上の位置のずれ量の許容範囲に関する情報は、制御装置113に記憶されている。ここでは、制御装置113に、バルブガイドボス部83Lの凹部91Lの内壁面93Lの測定箇所97Lの長手方向の位置、凹部91Lの内壁面96Lの測定箇所99Lの短手方向の位置、および、凹部91Lの内壁面95Lの測定箇所98Lの上下方向の位置について、設計上の位置に関する情報、および、測定上の位置のずれ量の許容範囲に関する情報が記憶されている。
上述のシリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの測定上の位置と設計上の位置との対比は、長手方向、短手方向、および、上下方向についてそれぞれ行われる。具体的には、長手方向については、凹部91Lの内壁面93Lの測定箇所97Lの測定上の位置が、設計上の位置とが対比される。対比の結果、凹部91Lの内壁面93Lの測定箇所97Lの測定上の位置の設計上の位置に対するずれ量が許容範囲に含まれていない場合には、ずれ量が大きくシリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの位置が適正ではないと判定される。
短手方向については、凹部91Lの内壁面96Lの測定箇所99Lの測定上の位置が、設計上の位置とが対比される。対比の結果、凹部91Lの内壁面96Lの測定箇所99Lの測定上の位置の設計上の位置に対するずれ量が許容範囲に含まれていない場合には、ずれ量が大きくシリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの位置が適正ではないと判定される。
上下方向については、凹部91Lの内壁面95Lの測定箇所98Lの測定上の位置が、設計上の位置とが対比される。対比の結果、凹部91Lの内壁面95Lの測定箇所98Lの測定上の位置の設計上の位置に対するずれ量が許容範囲に含まれていない場合には、ずれ量が大きくシリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの位置が適正ではないと判定される。
このように、長手方向、短手方向、および、上下方向のいずれかの方向について、シリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの位置が適正ではないと判定された場合には、この吸気ポート31Lの位置精度が悪く、このシリンダヘッド本体37Lの粗材は不良品であると選別する。不良品であると選別したシリンダヘッド本体37Lの粗材に対しては、以降の吸気ポート31Lに対するポート位置検査、その後の各種の加工を行わないようにする。
一方、凹部91Lの内壁面93Lの測定箇所97Lの測定上の位置の設計上の位置に対するずれ量が許容範囲に含まれている場合、かつ、凹部91Lの内壁面96Lの測定箇所99Lの測定上の位置の設計上の位置に対するずれ量が許容範囲に含まれている場合、かつ、凹部91Lの内壁面95Lの測定箇所98Lの測定上の位置の設計上の位置に対するずれ量が許容範囲に含まれている場合には、シリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの位置が適正であると判定される。この場合、この吸気ポート31Lの位置精度が良く、この吸気ポート31Lに対するポート位置検査を終了して、次の吸気ポート31Lに対するポート位置検査を開始する。
次の吸気ポート31Lに対するポート位置検査は、上述した吸気ポート31Lの場合と同様にして行い、残りの吸気ポート31Lに対しても同様のポート位置検査を順次行う。このようにしてシリンダヘッド本体37Lの粗材の全ての吸気ポート31Lに対してポート位置検査を行う。その結果、シリンダヘッド本体37Lの粗材の全ての吸気ポート31Lの位置が適正であれば、このシリンダヘッド本体37Lの粗材は良品であると選別する。良品であると選別したシリンダヘッド本体37Lの粗材に対しては、各種加工の基準位置となる基準孔108Lを形成し、その後、各種の加工を行うようにする。シリンダヘッド本体37Lの粗材が複数ある場合には、上述のようなシリンダヘッド本体37Lに対するポート位置検査を、全てのシリンダヘッド本体37Lについて順次行うようにする。
ここで、上述したように、シリンダヘッド本体37Lには、バルブガイドボス部83Lの凹部91Lの内壁面のうち、ポート位置検査に利用される内壁面93L,95L,96Lが全て平面になっているので、3次元測定機111のプローブ112による測定箇所97L,98L,99Lの位置の測定を容易かつ精度よく行うことができる。これにより、シリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの位置が適正であるか否かの判定を容易かつ精度よく行うことが可能になる。したがって、その判定をシリンダヘッド本体37Lの粗材の全ての吸気ポート31Lに対して行う場合であっても、短時間で済ませることが可能になり、不良品のシリンダヘッド本体37Lの粗材の選別を短時間で済ませることが可能になる。また、鋳造によって量産される全てのシリンダヘッド本体37Lの粗材に対してポート位置検査を行う場合であっても、短時間で済ませることが可能になる。
そして、鋳造によって量産される全てのシリンダヘッド本体37Lの粗材に対してポート位置検査を行うので、シリンダヘッド本体37Lの粗材のうち、吸気ポート31Lの位置精度が所定範囲外である不良品のシリンダヘッド本体37Lの粗材を各種の加工を行う前に廃却することができる。このため、不良品のシリンダヘッド本体37Lの粗材に対して、無駄な加工を行うことがなくなり、その分、コストの低減や、生産効率の向上を図ることができる。
また、シリンダヘッド本体37Lの鋳造に用いる型へのフィードバックが可能になり、これにともなってシリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lの位置精度の維持および向上を図ることができるようになる。そして、これにより、シリンダヘッド本体37Lの吸気ポート31Lの位置を高精度に管理することができ、流入空気量、タンブル等を高精度に管理できるようになり、エンジンEの高性能化に寄与できる。また、流入空気量、タンブル等のエンジン間でのバラツキ(基差)を低減することができる。さらに、凹部91Lをバルブガイドボス部83Lに形成しているので、吸気ポート31Lにおける吸気流れに影響を与えることはない。
上述した例では、ポート位置検査をシリンダヘッド本体37Lの粗材の吸気ポート31Lについて行う場合について説明したが、シリンダヘッド本体37Lの粗材の排気ポート33Lについても、同様のポート位置検査を行ってもよい。この場合、排気バルブガイド82Lのバルブガイドボス部84Lの下部に形成された凹部92Lにシリンダヘッド本体37Lの粗材の排気ポート33Lの3次元位置を求めるための測定用平面を形成して、この測定用平面を利用して、ポート位置検査を行うことができる。ここで、流入空気量、タンブル等の高精度に管理するには、少なくともシリンダヘッド本体37Lの粗材の全ての吸気ポート31Lに対して行うことが好ましい。
ポート位置検査用の測定箇所97L,98L,99Lが設けられている凹部91Lの内壁面93L,95L,96Lの全領域が平面になっている場合について説明したが、凹部91Lの内壁面93L,95L,96Lのうち、測定箇所97L,98L,99Lの周囲の一部の領域だけを平面に形成してもよい。つまり、凹部91Lの内壁面93L,95L,96Lの一部に測定用平面を形成してもよい。
また、上述した例では、シリンダヘッド本体37Lのポート位置検査用の基準位置がシリンダヘッド本体37Lの粗材基準(内壁面102L,側面104L,内壁面106L)である場合について説明した。言い換えれば、シリンダヘッド本体37Lの粗材基準を利用してシリンダヘッド本体37Lの吸気ポート31Lの3次元位置を測定する場合について説明したが、加工基準である基準孔108Lを利用してシリンダヘッド本体37Lの吸気ポート31Lの3次元位置を測定してもよい。
この場合、シリンダヘッド本体37Lの鋳造後、ポート位置検査およびシリンダヘッド本体37Lへの各種加工に先立って、ポート位置検査および各種加工の基準位置となる基準孔108Lを形成する。基準孔108Lは、シリンダヘッド本体37Lの粗材の長手方向の基準位置である内壁面102Lおよび短手方向の基準位置である側面104Lを基準にして形成される。基準孔108Lの上面が、シリンダヘッド本体37Lの粗材の上面39Lと同一平面となっており、ポート位置検査および各種加工の上下方向の基準位置(基準面)となる。また、一方の基準孔108Lの中心位置109Lが、ポート位置検査および各種加工の長手方向および短手方向の基準位置となる。このように、シリンダヘッド本体37Lの粗材に基準孔108Lを開けた後、シリンダヘッド本体37Lの粗材のポート位置検査を行って、その結果、良品と判定されたシリンダヘッド本体37Lに対し各種加工を行う。
また、上述した例では、検査装置110の3次元測定機111が接触式のプローブを有する場合について説明したが、X線やレーザ光をプローブとして用いる非接触式の3次元測定機を備えた検査装置によってポート位置検査を行ってもよい。
シリンダヘッド3L,3Rがシリンダヘッド本体37L,37Rとカムシャフトハウジング38L,38Rとの分割構造となっている場合について説明したが、シリンダヘッドを分割構造とせずに、カムシャフトハウジングを備えない構造としてもよい。
シリンダヘッド本体37L,37Rにポート噴射インジェクタ75L,75Rおよび筒内直噴インジェクタ78L,78Rが設けられた場合について説明したが、いずれか一方のインジェクタだけをシリンダヘッド本体37L,37Rに設ける構成としてもよい。
エンジンがV8エンジンである場合について説明したが、V型エンジンの気筒数は特に限定されず、例えば、V6エンジンであってもよい。また、V型エンジン以外の型式のエンジン、例えば、直列型エンジンや水平対向型エンジンであってもよい。