マイクロ波アシスト記録において1平方インチ当たり1Tビットを超える記録密度を実現するためには、主磁極からの書き込み磁界が印加されているナノメートルオーダーの領域に、強力な高周波磁界を照射して磁気記録媒体を局所的に磁気共鳴状態にし、磁化反転磁界を低減して情報を記録する必要がある。
TMRC−B6(2007)に開示された技術は、強力な高周波磁界をナノメートルオーダーの領域に照射して記録媒体を局所的に磁気共鳴状態にし、磁化反転磁界を低減して情報を記録することが可能であるが、FGLの磁化の制御について何も考慮していないという問題がある。FGLの磁化は回転軸に対して垂直でないと大きな高周波磁界が得られないため、TMRC−B6(2007)に開示されるFGLの構成のままでは実用的な強度の高周波磁界を得ることが困難である。
MMM−GA02(2008)に開示された技術は、主磁極からFGLに入射する磁界のうち垂直に入射する磁界成分を利用してFGLの回転方向を制御する構造であるため、FGLが発生する高周波磁界の強度という問題点は解決される。しかし、FGLの回転面内に入射する主磁極からの漏洩磁界に対する対策が施されていない。従って、MMM−GA02(2008)に開示された技術では、FGLの磁化が主磁極からの漏れ磁界方向に固定され、高周波発振が持続しないという問題がある。
本発明の目的は、FGLの回転面内に入射する主磁極からの漏洩磁界(以下、横磁界と呼ぶ)に対する対策を講じることにより、信頼性が高く、結果としてコストを低減できる超高密度磁気記録に好適な情報記録装置を提供することにある。
以上の問題を解決する目的で、まず、横磁界をどの程度まで抑制すればよいかを計算機シミュレーションで検討した。LLG(Landau Lifschitz Gilbert)方程式にスピントルクの効果を考慮した次式(1)を用いて、図1に示すようなFGLの磁化mの挙動を解析した。
ここで、γはジヤイロ磁気定数、α(=0.01を仮定)はダンピング定数、Iは電流、μBはボーア磁子、eは素電荷、VはFGLの体積、Ms(=1.9Tを仮定)はFGLの磁化である。有効磁界Heffは、磁気異方性磁界Ha(=Hkcosθ、θは磁化と磁化容易軸のなす角)、反磁界Hd、及び外部磁界Hextの3成分の和で構成される。磁化容易軸をx軸方向とし、負の磁気異方性(Hk=−800kA/m)を仮定した。FGLの磁化が面内(θ=90度)となるように磁気異方性磁界Haが作用する。また、Polarization layerの磁化m1は、x方向を向き、分極率Pを0.244とした。Hextは、x方向からθh傾いた方向に印加した。
まず、簡単な定常解析解を求めておく。θh=0度とおくと、式(1)がdmx/dt=0を満たすのは、有効磁界Heffのx方向成分Heff-xが
を満たすときで、このとき、磁化が周波数fでx軸の周りを回転運動する。
2πf=γHeff-x (3)
このことから、FGLの面に垂直に印加される磁界が大きいほど、Heff-xが大きくなり高周波磁界の周波数が大きくなることがわかる。従って、主磁極からの漏洩磁界のうちFGLの磁化回転面に垂直な成分は、FGLの周波数向上に有効に作用する。30GHzの高周波磁界を得るには、約800kA/mの磁界が必要である。
外部磁界が、x軸から傾く場合には、直接式(1)を逐次的に解いて磁化の挙動を調べる必要がある。図2は、800kA/mの外部磁界をx方向から15度傾けた場合の、FGL磁化の挙動を示したものである。図2(A)は外部磁界印加時より0.5ns経過するまでの磁化の軌跡を3次元的に示したもので、軌道面が多少y−z面から傾いているが安定した回転が得られている。図2(B)は外部磁界印加時より2ns経過するまでの磁化の軌跡をy−z面に投影して示したもので、安定した回転が得られている。
図3は、800kA/mの外部磁界をx方向から25度傾けた場合の、FGL磁化の挙動を示したものである。図3(A)は外部磁界印加時より0.5ns経過するまでの磁化の軌跡を3次元的に示したもので、軌道面が多少y−z面から大きく傾いており、傾きが時間経過とともに増している。図3(B)は外部磁界印加時より2ns経過するまでの磁化の軌跡をy−z面に投影して示したもので、時間経過とともに軌道収縮していることがわかる。これは、FGL磁化の軌道が横磁界の方向に拘束されるためと考えられる。以上のことから、外部磁界がx方向から25度を超えて印加されるとFGLの磁化が安定に回転しないことがわかる。
次に、主磁極近傍の磁界について3次元磁界シミュレータを用いて解析した。主磁極5、対向磁極6、軟磁性下地層22からなる図4に示す条件において3次元磁界解析を行ったのが図5である。図4中のSLは、回転安定化層である。FGLを設置する部分には横磁界が印加されていることがわかる。図より、この横磁界の原因は、主磁極5の対向磁極側側面からの漏れ磁界が主因であることが推定される。このことから、主磁極5の対向磁極側側面の影響をFGL部分がなるべく受けないようにするため、(1)対向磁極の高さを磁化高速回転体(FGL)高さより十分高くする、(2)主磁極側面を磁化高速回転体から遠ざけるように傾ける、(3)主磁極側面近傍から対向磁極にバイパス磁路を形成する、といった横磁界低減構成が有効であることがわかる。
図6は、図5より、FGLを設置する位置における磁界の向きと大きさをグラフ化したものである。図の横軸は位置であり、ABS面の高さを原点として、記録媒体方向を正とした。図には、対向磁極を仮定した範囲をハッチングで示してある。図6(A)より、ABS面(位置=0)から上方(位置<0)に向かうと、磁界の角度は一旦極小値を取り、その後増加に転じており、対向磁極の端部(位置=−60nm)では、40度にまで達している。また、図6(B)より、磁界強度は、ABS面から上方に向かうと増加し、対向磁極の端部より少し手前で最大値1000kA/mをとっている。
以上のことから、対向磁極の範囲と同じ高さのFGLを用いると、大きな磁界の角度の悪影響を受け、安定な磁化回転が得られないと考えられる。ただし、ABS面近傍においては、比較的磁界の角度が小さいので、FGL高さが対向磁極の端部より十分低ければ、安定なFGLの回転が得られると考えられる。本計算では、主磁極5と対向磁極6との間隔40nmを仮定していることを考えると、主磁極5と対向磁極6との間隔の半分以上の余裕(FGL高さと対向磁極の端部の差)があれば、問題ない。ただし、対向磁極の端部がFGL高さよりも大きくなればなるほど、主磁極5先端部に磁束が達する前に対向磁極6に吸収されてしまうため、主磁極5からの記録磁界が小さくなってしまうので好ましくない。
図8は、図7に示す横磁界低減構成(2)の主磁極側面をFGLから遠ざけるように傾けた構造を仮定した場合の、FGLを設置する位置における磁界の向きと大きさをグラフ化したものである。図8(A)より、ABS面から上方に向かうと、磁界の角度は一旦極小値を取り、その後増加に転じる点は、図6(A)と共通である。しかし、対向磁極の範囲内において、磁界の角度が25度以内に収まっている。また、図8(B)に示すように、磁界強度は、ABS面から上方に向かうと増加し、対向磁極の中央で最大値の1000kA/mをとっている。以上のことから、主磁極をFGLから遠ざけるように傾けた構造では、主磁極からの漏洩磁界のうち、FGL面内方向成分が減少するため、FGLの安定な磁化回転が得られるものと考えられる。
図9は、主磁極5の対向磁極側側面の影響をFGL部分がなるべく受けないようにする主磁極5、高周波磁界発生素子201、対向磁極6のいくつかの位置関係を示したものである。図中の矢印は磁化方向を表している。図9(A)は、従来構造で、主磁極5の側面からの大きな漏洩磁界が高周波磁界発生素子201のFGL面内方向に印加されるため、安定な高周波磁界の発生が困難である。図9(B)は、上記(2)の主磁極5の高周波磁界発生素子201との接続部の素子高さ方向上方部分を高周波磁界発生素子201の反対側に傾けた横磁界低減構成で、図8に示すように、FGL面内方向に印加される磁界が大きく軽減されている。なお、上記(2)の主磁極側面を磁化高速回転体から遠ざけるように傾ける方法は、主磁極5の高周波磁界発生素子側側面が高周波磁界発生素子201から離れる構造であれば有効であるので、図9(G)に示すような主磁極5を通る磁束の流れの角度が、主磁極5と高周波磁界発生素子201との接続部付近において素子高さ方向上方から高周波磁界発生素子201の反対側に傾けた横磁界低減構成としてもよい。
図9(C)、(D)は、上記(1)の対向磁極の素子高さ方向高さを磁化高速回転体(FGL)高さより十分高くする横磁界低減構成で、対向磁極6の素子高さ方向高さと高周波磁界発生素子201の素子高さ方向高さの差Htを主磁極5と対向磁極6の間隔Lfの0.5倍から2倍程度とするのがよい。
図9(E)、(F)は、上記(3)のバイパス磁路を形成する横磁界低減方法で、対向磁極6から主磁極5に向かって磁路を形成し、主磁極5の側面から漏洩磁界を逃がす働きがある。バイパス磁路が主磁極5に接してしまうと、主磁極5先端部に磁束が達する前に対向磁極6に吸収されてしまい、主磁極5からの記録磁界が小さくなるので好ましくない。
以上の構成を取ることにより、FGL磁化回転面内に印加される主磁極からの漏れ磁界成分を低減することが可能となるため、記録動作中の安定なFGLの回転が得られ、記録媒体上に良好な記録パタンが形成され、情報記録装置における記録密度を増大できると同時に信頼性をも向上でき、結果としてコストを低減することが可能となる。
記録密度が1平方インチ当たり1Tビットを超える情報記録装置が実現できると同時に信頼性をも向上でき、結果としてコストを低減することが可能となる。
以下、図10から図14を用いて、高周波磁界が発生する原理について説明する。この原理は、後段で説明する各実施例に共通である。
図10及び図11には、磁化回転体とスピン整流素子及び磁束整流膜を備えたマイクロ波アシスト記録用磁気ヘッドの基本構成を示す。
図10は、磁気ヘッドスライダと磁気記録媒体の相対位置関係を模式的に示した図である。磁気ヘッドスライダ102は、サスペンション106により、記録媒体101に対向して支持される。図10において、記録媒体101は紙面右方向に回転し、対向する磁気ヘッドスライダは、記録媒体に対して相対的に紙面左方向に移動しているものとする。従って、図10においては、磁気ヘッド部109はスライダのトレーリング側に配置されていることになる。磁気ヘッド部109の各構成要素の駆動電流は配線108によって給電され、端子110によって各構成要素に供給される。
図11は、図10に示された磁気ヘッド部109の拡大図である。磁気ヘッド部109は、記録ヘッド部と再生ヘッド部により構成されており、記録ヘッド部は、補助磁極206、主磁極5と対向磁極6との間に配置された高周波磁界発生素子201、主磁極を励磁するコイル205等により構成される。再生ヘッド部は、下部シールド208と上部シールド210の間に配置された再生センサ207等により構成される。補助磁極206と上部シールド210は兼用される場合もある。図示されてはいないが、コイルの励磁電流や再生センサの駆動電流及び高周波磁界発生素子への印加電流は、各々の構成要素毎に設けられた電流供給端子により供給される。
図11に示すように、対向磁極6は素子高さ方向上方にて主磁極5の方へ延び、互いに磁気的な回路を構成している。ただし、素子高さ方向上方においては電気的にはほぼ絶縁されているものとする。磁気的な回路は、磁力線が閉路を形成するものであり、磁性体のみで形成されている必要はない。図では、主磁極5の対向磁極6と反対側に補助磁極等を配置し、別の磁気回路を形成している。この別の磁気回路では、主磁極5と補助磁極との間は電気的に絶縁されている必要はない。主磁極5と対向磁極6には、電極又は電極に電気的に接触する手段が備わっており、主磁極5側から対向磁極6側、あるいはその逆方向の高周波励起電流が磁化回転体層を通して流せるように構成されている。
図12は、図11に示された記録ヘッド部を更に拡大した図である。主磁極5と対向磁極6との間に高周波磁界発生素子201が形成されている。主磁極5と対向磁極6の間には、黒い矢印の向きに定常電流が流れており、ヘッドの相対移動方向は白抜き矢印で示される方向である。磁気記録媒体7としては、基板19上に下地層20を介して垂直記録膜16を積層した媒体を使用した。
高周波磁界発生素子201は、主磁極5の浮上面端部側面よりトレーリング側に向かって、磁束整流層8、非磁性スピン散乱体12、磁化回転層(FGL)2、回転安定化層(SL)11としての負の垂直磁気異方性層、金属非磁性スピン導電層15、対向磁極側磁束整流層13と積層され、対向磁極6に至る構造を有している。回転安定化層(SL)11の自発磁化は積層面内に安定であるため、これと接する磁化回転層2の自発磁化の向きも積層面内に留めようとする力が働き、回転が安定化する。金属非磁性スピン散乱体層12は、金属非磁性スピン導電層15を介して磁化回転体層2に流入するスピントルクの効果を打消す影響を及ぼす恐れのある磁束整流層8から磁化回転体層2に流入するスピンを散乱する作用がある。あるいは、磁化回転体層2側から磁束整流層8へのスピントルクの流出を防ぐ作用があるとも言える。したがって、金属非磁性スピン散乱体層12を用いると必要なスピントルクを得るための電流を小さくすることができる。金属非磁性スピン散乱体層12としてRuを用いるとこの効果は特に大きくなる。
このような構造の積層膜に対向磁極6から主磁極5の向きに電流を流した場合、電子は主磁極5から各層を経由して対向磁極6まで移動する。ここで、主磁極5が下向きに励磁されている場合には、磁束整流層8及び対向磁極側磁束整流層13が概ね右向きに磁化されるので、右向きのスピンを持つ電子だけが非磁性スピン導電層15を透過して対向磁極側磁束整流層13に達する。左向きのスピンを持つ電子は、対向磁極側磁束整流層13を透過できないため磁化回転層(FGL)2や回転安定化層(SL)11に残留し、磁化回転層2の磁化を左に向けようとするスピントルクとして作用する(作用1)。一方、主磁極5からの漏洩磁界は磁化回転層2の磁化を右に向けようと作用する(作用2)。さらに、負の垂直磁気異方性を有する回転安定化層(SL)11は、磁化回転層2の磁化が層内に留まるよう作用する(作用3)。磁化回転層2の自発磁化の向きは、作用1、作用2、作用3のバランスで決定されるが、作用2と、作用3で決定される方向に復元するようにトルクが発生し、膜面内で高速回転する。その結果、直流電流(以下、高周波励起電流と呼ぶ)にて交流磁界が発生する。発生する交流磁界は、磁化回転層2の向きが膜面内にあるときに最大となる。
電流一定のまま、主磁極5の磁化が逆転した場合でも、磁化回転層2の磁化を主磁極5の磁化と逆向きに向けようとするスピントルクが作用する状況に変わりはない。このとき磁化回転層2の磁化の回転方向は、主磁極5の磁化方向が逆転する前の回転方向と逆向きとなっている。記録密度が高くなって磁化回転体層2の幅が狭い場合には、磁化回転体層2の側面から発生する磁界が無視できなくなり、記録媒体7に印加される高周波磁界の向きが時間とともに回転する(回転振動磁界)ようになる。図12の構成の高周波磁界発生素子201を用いることにより、反転させようとする磁化に対して反時計回り振動磁界が印加されるようになり、効率の良いマイクロ波アシスト磁気記録が可能となる。
マイクロ波アシスト磁気記録においては、主磁極5からの記録磁界と磁化回転層2の高周波磁界をナノ領域に重ねる必要があるため、磁化回転層2は主磁極5からの漏洩磁界に曝されることになる。主磁極5からの漏洩磁界のうち、磁化回転層2の層面に垂直な成分は、式(3)より高周波磁界周波数を大きくするように作用する。一方、磁化回転層2の膜面に平行な漏洩磁界成分があると、磁化回転層2の自発磁化が当該方向に固定されてしまい、高周波発振が阻害される可能性がある。図12に示すようなABS面から離れるにしたがって高周波磁界発生素子201から遠ざかる構造を有する主磁極5を用いることにより、FGL面内方向に印加される磁界を大きく軽減することが可能となり、FGLの面内磁化回転が安定化する。磁束整流層8(リップ)は、主磁極5からの漏洩磁界の向きを整え、磁化回転層2の膜面に垂直な磁界成分を大きくする作用及び、平行な磁界成分をできるだけ少なくする作用を有している。
比較のため、主磁極5が傾いていない従来構造のヘッドを試作し特性を調査した。試作した従来構造の磁気ヘッドを図13に示す。3次元磁界解析ソフトを用いて計算すると、磁化回転層2の面内方向には、図12及び図13の構造で、最大256kA/m及び520kA/mの磁界が印加されることが分かっている。スピンスタンドを用い、磁気スペーシング5nm、トラックピッチ20nmとして磁気記録を行い、さらにこれをシールド間隔20nmのGMRヘッドにより再生した。主磁極励磁電流が弱い領域では、両者のヘッドに大きな差が見られなかったが、オーバーライト特性を向上させる目的で、主磁極励磁電流を強くすると、図13の従来ヘッドを用いると、電流増加とともにSNRが低下し、やがて再生出力が得られなくなるようになった。このとき、実際にマイクロ波磁界が発生しているかどうかを確認するため、高周波磁界発生素子201を挟んで記録媒体7の反対側に高周波磁界検出器を配置してマイクロ波磁界の強度をモニタしたが、高周波出力は得られなかった。これは、磁化回転体層2の磁化が主磁極5の漏れ磁界により、当該漏れ磁界方向に固定してしまった結果、高周波発振していないと考えられる。
図14は、高周波磁界発生器の構成例を示す図である。図12に示した記録ヘッド構造は、磁束整流層8及び対向磁極側磁束整流層13を有するが、図14(A)に示すように磁束整流層8と対向磁極側磁束整流層13は省略可能である。磁束整流層8を省略すると高周波磁界の発生源となる磁化回転層2を主磁極5に近づけることができるが、磁化回転層2の膜面に平行な主磁極5からの漏洩磁界成分が大きくなるというマイナス面もある。磁束整流層8を適当な厚さとするのがよい。本発明の磁化回転層2の膜面に平行な漏洩磁界成分が小さくなる構造を用いることにより、用いない場合に比べて、磁束整流層8の厚さを薄くすることができる。
また、図14(A)の磁化回転層(FGL)2と、回転安定化層(SL)11を入替えた図14(B)に示す構造、図14(A)や図14(B)の非磁性スピン散乱体12と金属非磁性スピン導電層15とを入れ替えた図14(C)や図14(D)に示す構造の高周波磁界発生素子201を用いても良い。図14(B)の構造の場合には、磁化回転層(FGL)2に比べて飽和磁化の小さな回転安定化層(SL)11が主磁極5に近くなるため、膜面に平行な主磁極5からの漏洩磁界成分の悪影響が小さくなる。加えて、磁化回転層2に、対向磁極側磁束整流層13(又は、対向磁極側磁束整流層13省略時には対向磁極6)よりスピントルクが非磁性スピン導電層15を介して伝えられるため、高周波磁界発生効率が向上する。金属非磁性スピン導電層15が主磁極側にある場合(図14(C)、図14(D))には、スピントルク源が磁束整流層8となるため、磁束整流層8は省略できない。主磁極5と磁束整流層8との界面には、交換相互作用を低減する目的で、非常に薄い化合物層や金属層、弱い磁性層を用いることにより、高周波磁界発生効率が向上する。
図14には、磁化回転層2と回転安定化層(SL)11とがそれぞれ単層膜の構造を示したが、複数の積層膜で構成しても構わない。或いは、高周波磁界発生素子201の中に離間して配置された層の全体の作用として磁化回転層とスピン整流素子としての機能が実現されていても構わない。更に、上の説明では、磁束整整流層8は、主磁極とは別に設けられた層であるとして説明したが、主磁極に付随する突出部として構成されていても良い。
以上、本発明の構成により、安定的に発振が可能なマイクロ波アシスト記録用磁気ヘッドが実現可能となる。以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。
図12は、記録ヘッド及び記録媒体を、記録媒体面に垂直(図中の上下方向)かつヘッド走行方向(図中の左又は右方向であるトラック方向)に平行な面で切断した記録機構周辺の断面模式図である。主磁極5と対向磁極6の材料は、飽和磁化が大きく、結晶磁気異方性がほとんどないCoFe合金とした。FGL2への漏れ磁界(FGL面内方向成分)を低減して高周波発振を安定化させる為に、主磁極5を高周波磁界発生素子201の反対側に傾けている。
主磁極5に隣接して層状に、磁束整流層8、金属非磁性スピン散乱体12、FGL(磁化高速回転体)2、負の垂直磁気異方性体(安定化層SL)11、金属非磁性スピン伝導層15、対向磁極側磁束整流層13を経て対向磁極6にいたる。尚、磁束整流層8から対向磁極側磁束整流層13までは、図面左右方向に伸びる柱状構造で、断面がABS面に沿った辺が対向辺に比べて短い台形をしている。当該台形形状とすることにより、FGL底面からの高周波磁界とFGL側面からの高周波磁界のバランスがとれ、マイクロ波アシスト反転効率の高い高周波回転磁界が得られる。この台形のABS面に沿った辺の長さwは、記録トラック幅を決定する重要な因子であり、本実施例では15nmとした。マイクロ波アシスト記録においては、主磁極5からの記録磁界とFGL2からの高周波磁界とが揃わないと記録できないような磁気異方性の大きい記録媒体を用いることになる為、主磁極5の幅と厚さ(ヘッド走行方向の長さ)は、記録磁界が大きく取れるよう大きめに設定することが可能である。本実施例では、幅80mと厚さ100nmとすることで、約0.9MA/mの記録磁界が得られている。磁束整流層8は、主磁極5と飽和磁化が同じ又はそれより大きな材料を用い、主磁極5からの磁界がFGL2の層方向にできるだけ垂直となるよう3次元磁界解析ソフトを用いて磁束整流層8の厚さ設計を行った。本実施例における磁束整流層8の厚さは10nmであったが、この値は、前述の台形の形状、対向磁極までの距離と状況、用いる媒体の状況、図面上方における磁気回路の状況に依存する。
FGL2は、飽和磁化が大きく、結晶磁気異方性がほとんどない厚さ20nmのCoFe合金とした。FGL2では、層に沿った面内で磁化が高速回転し、ABS面及び、側面に出現する磁極からの漏れ磁界が、高周波磁界として作用する。FGL2の磁化回転駆動力は、金属非磁性スピン伝導層15を介して対向磁極側磁束整流層13に反射されたスピンによるスピントルクである。このスピントルクは、主磁極5からの漏洩磁界によって発生するFGL2の磁化回転軸に平行な磁化成分が小さくなる方向に作用する。このスピントルクの作用を得るには、対向磁極6側から主磁極5側へ高周波励起(直流)電流を流す必要がある。主磁極5から磁界が流入する場合に、FGL2の磁化の回転方向は高周波励起(直流)電流の上流側から見て反時計周りとなっており、主磁極5からの磁界で反転する記録媒体の磁化の歳差運動方向と同じ向きの回転磁界を印加することができる。主磁極5へ磁界が流入する場合には、FGL2の磁化の回転方向は高周波励起(直流)電流の上流側から見て時計周りとなり、主磁極5への磁界で反転する記録媒体の磁化の歳差運動方向と同じ向きの回転磁界を印加することができる。したがって、FGL2から長じる回転高周波磁界は、主磁極5の極性によらず、主磁極5による磁化反転をアシストする効果がある。本効果は、主磁極5の極性によってスピントルクの向きが変わらない従来の高周波磁界発生器では得られない。
スピントルク作用は、高周波励起電流(電子流)が大きくなるほど大きくなり、また、金属非磁性スピン伝導層15と隣接する層との間に分極率の大きなCoFeB層を1nm程度挿入すると大きくなる。金属非磁性スピン伝導層15には、2nm−Cuを用いた。負の垂直磁気異方性体11は、六方晶CoIrのc軸方向が図中の左右方向となるようにし、磁気異方性の大きさは、6.0×105J/m3ものを用いた。負の垂直磁気異方性を有する磁性体をFGL2と隣接させることにより、FGL2の磁化方向を回転軸と垂直方向に留める作用が強化される。この作用により、比較的低い周波数で強い高周波磁界が得られる。この作用は、負の垂直磁気異方性を有する磁性体として知られているα’−FeC、dhcpCoFe、NiAs型MnSb等でも同様に期待できる。FGL2にCoFe合金を用いているので、α’−FeCやdhcpCoFeを用いてもCoIrと同様大きな交換相互作用が働き、磁化方向を回転軸と垂直方向に留める作用が強くなる。金属非磁性スピン散乱体12には、3nm−Ruを用いた。PdやPtを用いても同様な作用がある。対向磁極側磁束整流層13には、l5nmCoFe合金を用いた。記録媒体7には、基板19上に、下地層20として30nm−CoFe上に10nm−Ru層を形成した積層膜、記録層16として磁気異方性磁界が2.4MA/m(30kOe)で、膜厚が10nmのCoCrPt−SiOx層を用いた。強磁性共鳴による吸収線幅の測定の結果、記録層16のダンピングコンスタントαは、0.02であった。
本発明の高周波磁界発生源201を組み込んだ記録再生部109搭載のスライダ102をサスペンション106に取り付け(図10)、スピンスタンドを用いて記録再生特性を調べた。ヘッド媒体相対速度20m/s、磁気スペーシング7nm、トラックピッチ25nmとして磁気記録を行い、さらにこれをシールド間隔18nmのGMRヘッドにより再生した。高周波励起電流を変化させて1000kFCIでの信号/ノイズ比を測定したところ、最大13.0dBが得られ、1平方インチ当たり2Tビットを超える記録密度の記録再生が十分達成可能であることがわかった。このときの高周波周波数は35.0GHzであった。また、1000kFCIパタン上に125kFCIパタンを記録した場合のオーバーライト特性は32dBで、主磁極励磁電流を大きくすると更によくなった。これに対して主磁極5が傾いていない従来ヘッド(図13)を用いるとオーバーライト特性は最大25dBにとどまり、主磁極励磁電流を大きくするとともに信号/ノイズ比が著しく劣化し、記録できなくなった。
図15(A)、図15(B)に、磁極5の対向磁極側側面の影響をFGL部分がなるべく受けないようにする記録ヘッドの他の構成例を示す。比較のため、図15(C)に、図13に示す従来ヘッドの構成図を示した。図15(A)は、対向磁極6の高さを磁化高速回転体(FGL)2の高さより十分高くする構成で、対向磁極6の高さと高周波磁界発生素子201の高さの差Htは、主磁極5と対向磁極6の間隔Lfの0.5倍から2倍程度とするのがよい。
図20は、図9(C)の構造パラメータ間隔Lfと高さの差Htの大きさを表1のように設定し、3次元磁界解析ソフトを用いて主磁極の近傍の磁界解析結果を示したものである。最大磁界角度は、図6、図8と同様に、FGL位置でのx方向からの角度を求め、各構造での最大値を求めたものである。通常素子高さ方向で、ABS面から最も離れた位置が最大となる。
図20より、最大磁界角度は、比Ht/Lfが0.5近くで大きく減少している。最大磁界角度が30度を超えると図3の検討から、安定なFGL磁化の回転が得られない。従って、比Ht/Lfは0.5より大きな値を取ること必要となる。図20に最大磁界角度とともに示したグラフは、主磁極5と高周波磁界発生素子201の接合面とABS面の交わる直線から記録媒体側へ5nm下がった位置における磁界のz成分Hzの比Ht/Lfに対する依存性を示している。HzはMAMRにおける書込み磁界に相当する。Hzは、比Ht/Lfが小さいときは、比Ht/Lfの増加とともに僅かに増加する。対向磁極6が主磁極5より磁束を引っ張るように作用しているためと考えられる。比Ht/Lfが大きくなり過ぎると、この磁束を引っ張る作用が大きくなり過ぎて、主磁極5から対向磁極6へ直接磁束が流れ込むようになる。比Ht/Lfが2.0の近くで、Hzが大きく減少しており、必要な書込み磁界が得られない。以上の傾向は、Lfの大きさを変えても同様に得られた。ただし、Lfが小さいほどHzが大きくなるので好ましい。
図15(B)は、バイパス磁路を形成する構成例を示している。対向磁極6から主磁極5に向かってバイパス磁路211を形成し、主磁極5の側面からの漏洩磁界を、バイパス磁路211を通して対向磁極6に逃がす。バイパス磁路211が主磁極5に接してしまうと、主磁極5先端部に磁束が達する前に対向磁極6に吸収されてしまうため、主磁極5からの記録磁界が小さくなってしまい好ましくない。図15(A)、図15(B)のヘッドによっても、FGL磁化回転面内に印加される当該主磁極からの漏れ磁界成分を低減することが可能となり、記録動作中の安定なFGLの回転が得られ、記録媒体上に良好な記録パタンが形成され、情報記録装置における記録密度が増大できると同時に信頼性をも向上でき、結果としてコストを低減が達成された。
図16(A)、図16(B)を用いて、ヘッドスライダに対する磁気ヘッドの搭載位置と磁気ヘッド走行方向との関係について説明する。磁気ヘッドの磁気ヘッドスライダへの載置形態は2種類あり、1つは図16(A)に示すトレーリング側への配置、もう1つが図16(B)に示すリーディング側への配置である。ここで、トレーリング側、リーディング側は、記録媒体に対する磁気ヘッドスライダの相対的な移動方向によって決まり、記録媒体の回転方向が図16(A)及び図16(B)に示した向きと逆であれば、図16(A)がリーディング側への載置、図16(B)がトレーリング側への載置となる。なお原理的には、スピンドルモータの極性を逆にして記録媒体を逆向きに回転させれば、トレーリング側とリーディング側の関係を逆にすることが可能であるが、回転数を正確に制御する必要上、スピンドルモータの極性を変えるのは非現実的である。図15(A)、図15(B)のヘッドを用いた場合には、図16(A)(B)のどちらの配置を用いても、1平方インチ当たり2Tビットを超える記録密度の記録再生に十分な信号/ノイズ比とオーバーライト特性が得られた。
図17、図18は、本発明による記録ヘッド及び記録媒体の第2の構成例を示す図である。
図17(A)〜(D)は、主磁極5をABS面から離れるに従い高周波磁界発生素子201から遠ざける記録ヘッドの第2の構成例を示す図である。図17(A)は、図11と同じ構成で、図17(B)〜(D)と比較できるように再度示した。図17(B)には、本実施例の磁気ヘッドの別の構成例を示す。図17(B)に示す磁気ヘッドにおいては、主磁極5の励磁用コイルが横向きでは無く上向きに巻かれている。本構成の磁気ヘッドの場合、図17(A)の構造に比べて励磁位置がより主磁極浮上面から離れるので、図17(A)に比べて主磁極5から発生する磁界は弱くなるが、コイル205の設置スペースに余裕があり、対向磁極6を素子高さ方向上部で主磁極5側に曲げて磁気的な回路を構成しないので、簡便な構造となり、安価なヘッドが生産可能となる。
図17(C)には、記録ヘッド部をリーディング側に配置し、再生ヘッド部をトレーリング側に配置したマイクロ波アシスト記録用磁気ヘッドの構成例を示す。図17(C)に示す構成の磁気ヘッドにおいては、主磁極5がリーディング側最端部に配置され、対向磁極6は主磁極5に対してトレーリング側に配置される。図17(C)に示した例では対向磁極6と再生センサ用シールドを共用しているが、分離しても構わない。励磁コイル205の巻線方向は、図17(B)と同様に上巻きであるが、図17(D)に示すように横巻きにしても良い。高周波励起電流が高周波磁界発生素子201に流れるようにするために、主磁極5と対向磁極6とは電気的に絶縁されている必要がある。
なお、図17(A)〜(D)に示す構成の記録ヘッド部は、図16(A)(B)のいずれの構造の磁気ヘッドスライダに実装することも可能である。また、高周波発生器201の積層順序は、図14(A)〜(D)に示したどの積層順序としても良い。
図17(A)(C)(D)に示されたどの構造を用いてもほぼ同等の結果が得られたが、本実施例では、図17(C)を一例として、説明する。図18は、図17(C)の書込みヘッド部と用いた媒体の拡大図である。
記録媒体7には、基板19上に、下部記録層18として磁気異方性磁界が2.4MA/m(30kOe)、膜厚が10nmのCoCrPt−SiOx層、上部記録層17として磁気異方性磁界が1.4kA/m(l7kOe)の6nm−(Co/Pt)−SiOx人工格子層を用いた。強磁性共鳴による吸収線幅の測定の結果、上部記録層17と下部記録層18のダンピングコンスタントαは、それぞれ0.20と0.02であった。Pt層やPd層があるとαを大きくでき、磁化反転速度を速めることができる。スパッタリングにより連続膜を形成した後、ナノインプリント技術により、トラック方向の長さが15nmでダウントラック方向が6nmの磁性体パタンを、トラックピッチ20.0nm、ビットピッチ8.0nmで配置するように作製した。パタン間の間隙21にはSiOxを埋包した。スピンスタンドを用い、ヘッド媒体相対速度20m/s、磁気スペーシング5nm、トラックピッチ20.0nmで記録を行い、さらにこれをシールド間隔12nmのGMRヘッドにより再生した。高周波励起電流を変化させて1590kFCIでの信号/ノイズ比を測定したところ、最大13.0dBが得られ、1平方インチ当たり4Tビットを超える記録密度の記録再生が十分達成可能であることがわかった。このときの高周波周波数は27.0GHzであった。比較の為に、パタン加工する前の媒体について、ヘッド媒体相対速度30m/s、磁気スペーシング5nm、27.0GHzで記録再生特性を測定したところ、1250kFCIでの信号/ノイズ比が13.0dBより大きくなったのは、トラックピッチ40nmを超えた場合であり、連続媒体においても、1平方インチ当たり1.5Tビットを超える記録密度の記録再生が十分達成可能であることが分かった。
本発明による実施例1、実施例2の各構成例に示された記録ヘッド及び記録媒体を磁気ディスク装置に組み込んで、性能評価を行った。図19は本実施例の情報記録装置の全体構成を示す模式図であり、(A)は上面図、(B)はそのA−A′での断面図である。記録媒体101は回転軸受け104に固定され、モータ100により回転する。図19では3枚の磁気ディスク、6本の磁気ヘッドを搭載した例について示したが、磁気ディスクは1枚以上、磁気ヘッドは1本以上あれば良い。記録媒体101は、円盤状をしており、その両面に記録層を形成している。スライダ102は、回転する記録媒体面上を略半径方向移動し、先端部に磁気ヘッドを有する。サスペンション106は、アーム105を介してロータリアクチユエータ103に支持される。サスペンション106は、スライダ102を記録媒体101に所定の荷重で押しつける又は引き離そうとする機能を有する。磁気ヘッドの各構成要素を駆動するための電流はICアンプ113から配線108を介して供給される。記録ヘッド部に供給される記録信号や再生ヘッド部から検出される再生信号の処理は、リードライト用のチャネルIC112により実行される。また、情報処理装置全体の制御動作は、メモリ111に格納されたディスクコントロール用プログラムをプロセッサ110が実行することにより実現される。従って、本実施例の場合には、プロセッサ110とメモリ111とがいわゆるディスクコントローラを構成する。