磁気記録において記録密度を高めるためには、記録ビットサイズを低減する必要がある。また、微小な記録ビット情報を熱的に安定に保持するには、異方性磁界(或いは保磁力)の大きな磁性材料を用いて磁気記録媒体を構成する必要がある。しかしながら、現行磁気記録ヘッドの最大記録磁界は10 kOe(796 kA/m)程度と言われており、現行記録ヘッドでは異方性磁界10 kOe超の媒体に書き込み動作を行うことができない。そこで、マイクロ波アシスト磁気記録や熱アシスト磁気記録など、記録を行う時のみ一時的に媒体の異方性磁界を低減して記録を行う記録方式が検討されている。
以下にマイクロ波アシスト磁気記録素子の概略、および動作原理を説明する。
まず、マイクロ波アシスト磁気記録素子の概略を説明する。例えば、IEEE Trans. Magn., 44, 125 (2008)(非特許文献1)によると、マイクロ波アシスト磁気記録素子は、主磁極と磁気シールドの間に、下部電極と、垂直磁化膜で構成される回転ガイド層と、面内磁化膜で構成される高周波磁界発生層と、スピン伝導層と、垂直磁化膜で構成され、且、前記回転ガイド層とは反対方向の磁化ベクトルを保有する固定層と、上部電極とを順次積層した層を含み構成されることが、開示されている。
次に、非特許文献1記載のマイクロ波アシスト磁気記録素子を使って動作原理を説明する。媒体に下向き記録を行う場合を例として説明する。
非特許文献1によると、まず、下部電極から上部電極に向けて直流通電される。主磁極からは、下向き記録のための記録磁界が発せられる。当該記録磁界の漏れ磁界(主磁極磁界の垂直成分)により、回転ガイド層の磁化は上向きに向けられる。高周波磁界発生層の面内磁化もやや上向きに向けられる。固定層の磁化については、強い垂直磁気異方性を利用し、予め、下向きに向けられる。
直流通電により、固定層よりスピン伝導層を介して高周波磁界発生層に偏極スピンが注入される。このことにより、高周波磁界発生層の面内磁化には、その磁化を下側へ向けようとするスピントルクが働く(作用1)。一方、上でも述べたとおり、主磁極からの漏れ磁界は、高周波磁界発生層の面内磁化を上側へ向けようとする(作用2)。回転ガイド層の発する上向き磁界も、高周波磁界発生層の面内磁化を上側へ向けようとする(作用3)。高周波磁界発生層の磁化の向きはこれら作用1、2、3のバランスで決定されるが、非特許文献1では、面内よりやや上向きに保持されるよう設計されている。なお、高周波磁界発生層の磁化の向きは面内方向にあるのが望ましく、面内方向にあるとき最も高い高周波発振磁界が得られる。
固定層から偏極スピンが注入されると、高周波磁界発生層の磁気モーメントは、面内方向のある円状軌道上で歳差運動(回転運動)を始める。この回転スピードは、電流密度を大きくし偏極スピン注入量を増やすことにより、速められる。また、回転スピードは、高周波磁界発生層に印加されている面直方向の有効磁界Heffにも依存し、ω=γHeffの関係に則して更に速められる(ω:回転の周波数、γ:ジャイロ磁気定数)。非特許文献1記載の主磁極磁界は強いので、Heffは、概ね、作用2、作用3を与えている上向き磁界の和で決定される。このように回転スピードは、偏極スピン注入量を増やすことにより速められ、Heffにより更に速められる。その結果、高周波磁界発生層の磁気モーメントは、高速回転させられ、当該高周波磁界発生層から高周波磁界を発振させられる。発振磁界の大きさについては、高周波磁界発生層の磁気モーメントが面内方向、若しくは面内よりやや上向き方向にある場合には、Heffが大きいほど大きい。したがって、面内よりやや上向き方向に保持される範囲内で、偏極スピン注入量を増やすことにより下向きの作用1を強め、この作用1を凌駕するよう作用2、作用3を与えている上向き磁界(Heffに該当)を強めることにより、発振磁界を強められる。この高周波の大きな記録磁界と主磁極からの記録磁界とを媒体にほぼ同タイミングで印加し、媒体に磁気共鳴状態を励起させながら記録を行う、というのがマイクロ波アシスト磁気記録素子の動作原理である。
マイクロ波アシスト磁気記録素子を用い、更なる超高密度磁気記録を行うためには、例えばL10 FePt、L10 CoPt、L11 CoPtなどの超高磁気異方性媒体に記録ができなければならない。そのためには、上で述べた偏極スピン注入量を更に増やし、且、Heffを更に大きくして高周波磁界発生層からの最大発振周波数・最大記録磁界(最大磁界発振周波数)を高める必要がある。しかしながらIEEE Trans. Magn., 44, 125 (2008)記載の高周波磁界発生層は、面内磁化膜で構成されている。面内磁化膜の結晶磁気異方性は、105 erg/cm3(104 J/m3)のオーダと小さい。そのため、最大磁界発振周波数を高めるため偏極スピン注入量を増やし作用1を強めたり、Heffを大きくし作用2、作用3を強めると、面内磁化膜の面内磁化拘束が難しくなり、発振動作が不安定になってしまう問題が生じた。
この問題を解決するため、上記面内磁化膜を負の高磁気異方性膜(−Ku膜)に変えると良い旨、WO09-133786号公報およびWO10-053187号公報に開示がなされている。同公報には、高周波磁界発生層に−Ku膜を用いると、作用1、作用2および作用3を強めても面内磁化拘束は安定であり、最大磁界発振周波数を高めても発振動作を安定に維持できる旨、記載がなされている。また、−Kuの大きさが大きい方が、発振動作をより一層安定させられる旨、記載がなされている。
また、J. Phys.: Condens. Matter, 11, L485 (1999)には、−Ku膜として、Co−Ir合金膜が開示されている。
また、J. Magn. Soc. Jpn., 33, 451 (2009)には、−Ku膜として、[Fe/Co]n(001)超格子積層膜が開示されている。なお、(001)は結晶配向面を表している。
さらに、Appl. Phys. Lett., 89, 092502 (2006)には、−Ku膜として、[Fe/Co]n(110)超格子積層膜が開示されている。
しかしながら、本発明者らが、安定発振させるための仕様を検討した結果、この仕様は厳しく、(1)飽和磁化Ms≧1472 emu/cm3(飽和磁束密度Bs≧1.85T)、好ましくは、Ms≧1510 emu/cm3(飽和磁束密度Bs≧1.9 T)、(2)−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3(0.9×106 J/m3)、好ましくは、−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)、(3)製膜温度≦250℃を満足させる必要がある。
上記従来例に記載のJ. Phys.: Condens. Matter, 11, L485 (1999)は、(3)の製膜温度は室温であるが、(1)の飽和磁化は約1114 emu/cm3(飽和磁束密度約1.4 T)であり(2)の−Kuの大きさも約0.7×107 erg/cm3(約0.7×106 J/m3)と仕様を満たせない。
また、J. Magn. Soc. Jpn., 33, 451 (2009)では、(1)の飽和磁化は約1751 emu/cm3(飽和磁束密度約2.2 T)であり(2)の−Kuの大きさも約1.0×107 erg/cm3(約1.0×106 J/m3)と大きいが、(3)の製膜温度が300℃必要であり仕様を満たせない。
Appl. Phys. Lett., 89, 092502 (2006)では、(1)の飽和磁化は約1830 emu/cm3(飽和磁束密度約2.3 T)と大きく(3)の製膜温度も室温であるが、(2)の−Kuの大きさは約0.8×107 erg/cm3(約0.8×106 J/m3)であり仕様を満たせない。
そのほかの−Ku膜として、α´-FeC膜やMnSb膜などが知られているが、−Kuの大きさは1〜2×106 erg/cm3(1〜2×105 J/m3)程度であり、仕様にはほど遠い。
以上のように、上述の(1)、(2)、および(3)の安定発振するための仕様を満たす材料はない。
そこで、本発明の目的は、(1)飽和磁化Ms≧1472 emu/cm3(飽和磁束密度Bs≧1.85T)、好ましくは、飽和磁化Ms≧1510 emu/cm3(飽和磁束密度Bs≧1.9 T)、(2)−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3(0.9×106 J/m3)、好ましくは、−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)、(3)製膜温度≦250℃を満たす「新しい−Ku材料膜」を開発・提供し、高周波磁界発生層にその「新しい−Ku材料膜」を適用したマイクロ波アシスト磁気記録ヘッド、およびそれを用いた磁気記録再生装置を提供することにある。
J. Phys.: Condens. Matter, 11, L485(1999)に記載のあるCo−Ir膜にFeを添加し、実験を行った。Fe添加量を増やすとbcc構造になってしまう恐れがあり、そのため多く入れたくないと思われていたが、本願では敢えてFe添加量を振り、多く入れてみた。その結果、上述の安定発振するための仕様を満たす新材料CoFe−Ir3元合金膜の開発に成功した。Fe添加量を増やすとbcc構造になってしまうのではなかろうかという心配も払拭され、負の高磁気異方性を得る上で必要不可欠なhcp構造を維持していた。
CoFe−Ir3元合金膜の開発結果(実施例で詳述)を踏まえ、以下に課題を解決するための手段を列挙する。
(1)マイクロ波アシスト磁気記録ヘッドの高周波磁界発生層を、負の磁気異方性を有するCoFe−Ir系合金膜で構成した。
(2)上記CoFe−Ir系合金膜が六方晶(hcp)であるものを用いることとした。
(3)上記六方晶hcpがc軸配向しているものを用いることとした。
(4)前記高周波磁界発生層が負の磁気異方性を有する(Co1−XFeX)1−y−Iry合金膜で構成され、組成比x、yをat.%比で0.6≦x≦0.8、0.18≦y≦0.25の範囲とした。
(5)前記高周波磁界発生層が負の磁気異方性を有する(Co1−XFeX)1−y−Iry合金膜で構成され、組成比x、yをat.%比で0.67≦x≦0.77、0.2≦y≦0.22の範囲とした。
(6)CoFe−Ir系合金膜に接して、面心立方晶(fcc)、若しくは六方晶(hcp)の結晶構造を保有するシード層を設け、前記高周波磁界発生層が負の磁気異方性を有する(Co1−XFeX)1−y−Iry合金膜で構成され、組成比x、yをat.%比で、0.60≦x≦0.80かつ0.17≦y≦0.25の範囲とした。
または、0.65≦x≦0.78、且、0.18≦y≦0.20、若しくは、0.62≦x≦0.8、且、0.18≦y≦0.19、の範囲の何れかとした。
(7)CoFe−Ir系合金膜に接して、面心立方晶(fcc)、若しくは六方晶(hcp)の結晶構造を保有するシード層を設け、前記高周波磁界発生層が負の磁気異方性を有する(Co1−XFeX)1−y−Iry合金膜で構成され、組成比x、yをat.%比で、0.67≦x≦0.77かつ0.18≦y≦0.22の範囲とした。
または、0.58≦x≦0.8、且、0.17≦y≦0.22、
0.55≦x≦0.8、且、0.17≦y≦0.2、若しくは、
0.5≦x≦0.8、且、0.17≦y≦0.19、
の何れかの範囲とした。
なお、マイクロマグネティクスの計算によると、xが0.67≦x≦0.77、yが0.20≦y≦0.22の場合、最大磁界発振周波数は少なくとも52 GHz、最大安定発振周波数は少なくとも40 GHzであった。xが0.6≦x≦0.8、yが0.18≦y≦0.25の場合については、最大磁界発振周波数は少なくとも50 GHz、最大安定発振周波数は少なくとも37 GHzであった。ここで、マイクロマグネティクスの計算とは、磁性膜の磁化が一斉回転モデルにしたがって反転するものとし、その磁化挙動をLandau-Lifschitz-Gilbert方程式を用いコンピュータ解析させる計算手法である。
したがって、xを0.67≦x≦0.77、yを0.20≦y≦0.22の組成構成とすることにより、最大磁界発振周波数を少なくとも52 GHzまで高められ、且、数GHz〜40 GHz程度まで安定発振させることができる。また、xを0.6≦x≦0.8、yを0.18≦y≦0.25と組成範囲を広めて構成しても、0.67≦x≦0.77、0.20≦y≦0.22と比べ少し劣るものの、最大磁界発振周波数を少なくとも50 GHzまで高められ、且、数GHz〜37 GHz程度まで安定発振させることができる。
なお、同計算によると、40 GHz程度まで安定発振させられる場合には、高磁気異方性媒体Hk≒40 kOe(3184 kA/m)までの記録が可能となる。37 GHz程度まで安定発振させられる場合には、高磁気異方性媒体Hk≒37 kOe(2945 kA/m)までの記録が可能となる。
(8)前記高周波磁界発生層が負の磁気異方性を有するCoFe−Ir系合金膜で構成され、且、当該CoFe−Ir系合金膜の下側に面心立方晶(fcc)、若しくはhcpの結晶構造を保有する下地膜が設けられ、前記CoFe−Ir系合金膜のhcp(002)面の稠密六方格子の一辺の長さxと、前記下地膜のfcc(111)面、若しくはhcp(002)面の稠密六方格子の一辺の長さyとの関係が、y>xの関係にあり、且、y−x≧0.15Å(0.15×10−10 m)の関係とした。
(9)情報を記録する磁気記録媒体と、前記情報を書き込みする上述のいずれかに記載のマイクロ波アシスト磁気記録ヘッドと、トンネル磁気抵抗効果型ヘッド、若しくは巨大磁気抵抗効果型ヘッドなどの再生ヘッドを含む磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上の所定の位置へ移動させるアクチュエータと、前記磁気ヘッドが読み取りまたは書き込みする前記情報の送受信と前記アクチュエータの移動を制御する制御手段と、を有することを特徴とする磁気記録再生装置、とした。
本発明に係る負の高磁気異方性膜(−Ku膜)としての新材料CoFe−Ir系合金膜を高周波磁界発生層に適用することにより、最大磁界発振周波数を高めても安定発振動作する実用的マイクロ波アシスト磁気記録ヘッド、およびそれを用いた磁気記録再生装置を提供できる。
このことにより、L10 FePt、L10 CoPt、L11 CoPtなどの超高面記録密度対応の超高磁気異方性媒体へのマイクロ波アシスト磁気記録が可能となる。
以下、図面を参照して本発明の代表的な実施例について説明する。
図1は、本発明に係る新材料CoFe−Ir膜を高周波磁界発生層に適用したマイクロ波アシスト磁気記録素子のABS面から見た拡大断面図である。発振・発振原理は、下向き記録を行う場合を例として説明するものとする。したがって、通電方向は矢印2の方向、主磁極からの漏れ磁界は矢印3の方向にある。横方向から見た図については、実施例3の磁気ヘッド詳細図に図示した(図16C)。
少なくとも、主磁極100と、下部電極200(201、202)と、CoFe−Ir系合金膜300と、スピン伝導層400と、固定層500と、上部電極600(602、601)と、磁気シールド700とを含み、順次積層して構成される。CoFe−Ir系合金膜300の製膜には、スパッタリング法を用いた。また、主磁極100、下部電極200(201、202)、スピン伝導層400、固定層500、上部電極600(602、601)、および磁気シールド700を構成する各膜、各層の製膜も、スパッタリング法により行った。
下部電極201はTa膜、202はCu膜で構成され、膜厚はともに50 Å(5 nm)
である。ここで、Ta膜は主磁極100からの偏極スピンの注入を遮蔽するための層をも兼ねる。また、Ta膜上にCu膜を製膜すると、Cu膜は面心立方晶(fcc)のCu(111)稠密面配向が得られることから、Ta/Cu膜はその上方膜の結晶配向面をfcc(111)、若しくはhcp(002)稠密配向面とさせるためのシード層効果を兼ねる。
高周波磁界発生層としてのCoFe−Ir系合金膜300の膜厚は、200 Åである。負の高磁気異方性を有しており、面内方向の磁気異方性が極めて強い膜である(詳細は後述)。スピン伝導層400はCu膜で構成され、膜厚は20 Åである。固定層500は、[Co/Pd]n(111)超格子積層膜の垂直磁化膜で構成され、膜厚は100 Åである。
上部電極602はCu膜、601はTa膜で構成され、膜厚はともに50 Åである。下部電極201のTa膜と同様に、上部電極601のTa膜は、磁気シールド700からの偏極スピンの注入を遮蔽するための層をも兼ねる。
以上の、主磁極100、下部電極200、CoFe−Ir系合金膜300、スピン伝導層400、固定層500、上部電極600、および磁気シールド700の製膜温度は、いずれも室温であり、すでに述べた仕様(3)の最大製膜温度≦250℃を満たす。
図2Aは、本発明に係るTa/Cu膜上の高周波磁界発生層300としての(Co1−XFeX)0.79−Ir0.21膜の飽和磁化MSのFe添加比X(at.%比)依存性である。図2Bは、その拡大図である。Fe添加比依存性を示すため、(Co1−XFeX)0.79−Ir0.21膜と表記した。飽和磁束密度Bsに換算するには、MSに4πを乗じれば良い(Msの単位1 emu/cm3≒Bsの単位0.00126 T)。Fe添加量を増やすとMsが向上し、Fe添加比を0.67〜0.77とすることにより、Ms≧1510 emu/cm3 (Bs≧1.9 T)が得られ、すでに述べた仕様(1)を満たすことが分かった。
図3Aは、本発明に係るTa/Cu膜上の高周波磁界発生層300としての(Co1−XFeX)0.79−Ir0.21膜の磁気異方性エネルギーKuのFe添加比X(at.%比)依存性である。図3Bは、その拡大図である。なお、1 erg/cm3=10−1 J/m3である。−Kuの大きさも、Fe添加量を増やすと向上する。上述のMsの仕様を満たしたFe添加比0.67〜0.77では、−Kuの大きさは1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)を超えており、すでに述べた仕様(2)を満たすことが分かった。
図4は、本発明に係るTa/Cu膜上の高周波磁界発生層300としての(Co0.3Fe0.7)1−y−Iry膜のMsのIr添加比y(at.%比)依存性である。Ir添加比依存性を示すため、(Co0.3Fe0.7)1−y−Iry膜と表記した。Ir添加比を0.22以下とすることにより、Ms≧1510 emu/cm3 (Bs≧1.9 T)が得られ、すでに述べた仕様(1)を満たすことが分かった。
図5は、本発明に係るTa/Cu膜上の高周波磁界発生層300としての(Co0.3Fe0.7)1−y−Iry膜のKuのIr添加比y(at.%比)依存性である。Ir添加比を0.20≦y≦0.22とすることにより、−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)が得られており、すでに述べた仕様(2)を満たすことが分かった。
図4、図5の結果から、Ms≧1510 emu/cm3 (Bs≧1.9 T)、かつ−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)を得るためのIr添加比は、0.20≦y≦0.22であることが分かる。
以上、Fe添加比Xについては0.67≦X≦0.77の範囲で、Ir添加比yについては0.20≦y≦0.22の範囲で、安定発振するための仕様(1)Ms≧1510 emu/cm3 (Bs≧1.9 T)、(2)−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)を満たす。また、製膜温度は室温であり、当該仕様(3)製膜温度≦250℃をも満たしている。したがって、本発明に係る(Co1−XFeX)1−y−Iry合金膜のFe添加比Xについては0.67≦X≦0.77の範囲で、Ir添加比yについては0.20≦y≦0.22の範囲で構成される。
また、図1の固定層500からスピン伝導層400を介して高周波磁界発生層300に偏極スピンが注入され、高周波磁界発生層300の面内磁化には、その磁化を下側へ向けようとするスピントルクが働いている(作用1)。一方、主磁極100からの漏れ磁界は、高周波磁界発生層300の面内磁化を上側へ向けようとする(作用2)。上記仕様、特に(2)の仕様を満たすCoFe−Ir系合金膜を高周波磁界発生層300に用いた場合には、面内方向の磁気異方性が極めて強いため、スピン注入量を増やすために下向きの作用1をかなり強めても、主磁極磁界を強めて上向きの作用2がかなり強まっても、CoFe−Ir系合金膜の磁化は、面内方向に安定保持させられる。したがって、CoFe−Ir系合金膜の磁化を面内方向に保持しつつ偏極スピン注入量も主磁極磁界もかなり大きくさせることができる。偏極スピン注入量を増やすことにより、CoFe−Ir系合金膜の磁気モーメントの回転スピードをより一層速めることができる。また、主磁極磁界が大きい場合には、Heffは、概ね作用2を与えている上向き磁界、すなわち主磁極からの漏れ磁界で決定される(Heff:FGL層(高周波磁界発生層)に印加されている面直方向の有効磁界)。したがって、主磁極磁界を強くすることにより、主磁極からの漏れ磁界が強まって、Heffを高めることができる。Heffが高まれば、ω=γHeffの関係に則し、CoFe−Ir系合金膜の磁気モーメントの回転スピードを更に速めることができる。発振磁界の大きさについては、FGL層300の磁気モーメントが面内方向にある場合には、Heffが大きいほど大きい。CoFe−Ir系合金膜の大きな磁化を面内方向に保持しつつ、主磁極磁界を強くさせられ、Heffに対応する主磁極からの漏れ磁界を強くさせることができるので、発振磁界もより一層強くすることができる。したがって、高周波磁界発生層300としてCoFe−Ir系合金膜を用いた場合には、より一層高い高周波の磁界、より一層大きな磁界を励起・発振させられる。マイクロマグネティクスの計算によると、最大磁界発振周波数は52GHzにも達し、且、数GHz〜40 GHzの帯域で安定発振する。
したがって、本発明に係る負の高磁気異方性膜としての新材料CoFe−Ir系合金膜を高周波磁界発生層に適用することにより、最大磁界発振周波数を高められ、且、低周波帯域〜高周波帯域の広い範囲で安定発振させられる実用的マイクロ波アシスト磁気記録ヘッドを提供できる。
また、CoFe−Ir系合金膜の磁気モーメントを面内方向で高速回転させるためには、CoFe−Ir膜はhcpの結晶構造を有していて、且、hcp(002)稠密面配向、すなわちc軸配向していなければならない。hcpでない場合には非磁性層が出現して発振磁界が弱められ、最悪の場合、磁気モーメントを失って発振できなくなり、hcp(002)稠密面配向していない場合には他方位面により高速回転にブレーキがかけられてしまうためである。そこで、下部電極200を構成するTa膜201/Cu膜202上のCoFe−Ir膜300についてX線回折(XRD)実験を行い、結晶構造および結晶配向性を調査した。その結果を図6に示す。Ta膜201は非晶質、Cu膜202はfccの結晶構造を有していてCu(111)稠密面単独配向、CoFe−Ir膜300はhcpの結晶構造を有していてCoFe−Ir(002)稠密面単独配向していることが分かった。Fe添加比を多くするとbccになってしまうのではなかろうかという心配は、図6の結果により払拭された。したがって、発振磁界を強くする上での結晶構造上、結晶配向性の問題はなく、高速回転させるための結晶構造上、結晶配向性の問題もない。
さらに、安定発振するための仕様(1)Ms≧1510 emu/cm3 (Bs≧1.9 T)、(2)−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)は、かなり厳しい仕様である。マイクロマグネティクスの計算によると、Ms≒1510 emu/cm3 (Bs≒1.9 T)、−Ku≒1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)の場合、最大磁界発振周波数、最大安定発振周波数は、それぞれ52 GHz、40 GHzであった。仕様を少し下げたMs≒1472 emu/cm3 (Bs≒1.85 T)、−Ku≒0.9×107 erg/cm3(0.9×106 J/m3)の場合は、それぞれ50 GHz、37 GHzであった。これらの値は、Ms≒1510 emu/cm3、−Ku≒1×107 erg/cm3の場合と比べると低いが、最大磁界発振周波数を高めても高周波帯域まで安定発振する、と言えるレベルに踏み止まっているものと考えられる。したがって、Ms≧1472 emu/cm3 (Bs≧1.85 T)、−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3(0.9×106 J/m3)であれば、最大磁界発振周波数も発振の安定性も、問題のないレベルに保持されるものと考えられる。
図2および図3を見ると、Fe添加比xについては0.6≦x≦0.8の範囲で、これらのMs値(Bs値)、−Ku値をともに満たしていることが分かる。
図4を見ると、Ir添加比を0.25以下とすることにより、Ms≧1472 emu/cm3 (Bs≧1.85 T)を満たしていることが分かる。図5を見ると、Ir添加比を0.18≦y≦0.25とすることにより、−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3(0.9×106 J/m3)を満たしていることが分かる。これらの結果から、Ms≧1472 emu/cm3 (Bs≧1.85 T)、かつ―Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3(0.9×106 J/m3)を満たすIr添加比は、0.18≦y≦0.25であることが分かる。
以上のように、Fe添加比xについては0.6≦x≦0.8の範囲で、Ir添加比yについては0.18≦y≦0.25の範囲で、Ms≧1472 emu/cm3 (Bs≧1.85 T)、かつ−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3(0.9×106 J/m3)を満たす。したがって、本発明に係る(Co1−XFeX)1−y−Iry合金膜のFe添加比xについては0.6≦x≦0.8の範囲で、Ir添加比yについては0.18≦y≦0.25の範囲で構成されても問題はないものと考えられる。
最後に、実施例1のマイクロ波アシスト磁気記録ヘッドの代替構造を下記に簡単に列挙する。
まず、図1の主磁極100の位置に磁気シールド、且、磁気シールド700の位置に主磁極を配置した構造としても良い。
また、図1の高周波磁界発生層300を構成するCoFe−Ir膜、スピン伝導層400、固定層500の積層順序を逆にし、固定層、スピン伝導層、CoFe−Ir膜の順番で構成しても構わない。
さらに、高周波磁界発生層300を構成するCoFe−Ir膜と電極との間に、垂直磁化膜より構成される回転ガイド層が設けられていても良い。
さらに、図1の下部電極200を主磁極100の下側に、且、上部電極600を磁気シールド700の上側に設けた構成としても良い。
さらには、図1の主磁極100が下部電極を兼ね、且、磁気シールド700が上部電極を兼ねた構成としても良い。
上記説明では、(Co1−XFeX)1−y−Iry膜中のIr組成比yが0.21の場合、Fe組成比xを0.67以上0.77以下で構成することにより、Ms≧1510 emu/cm3 (Bs≧1.9 T)、−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3 (1×106 J/m3)を満たす旨、説明した。また、Fe組成比xが0.7の場合、Ir組成比yを0.20以上0.22以下で構成することにより、Ms≧1510 emu/cm3、−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3を満たす旨、説明した。しかしながら、前者はyが0.21の場合に限定されず、後者もxが0.70の場合に限定されない。
同様に、Ir組成比yが0.21の場合、Fe組成比xを0.6以上0.8以下で構成することにより、Ms≧1472 emu/cm3 (Bs≧1.85 T)、−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3 (0.9×106 J/m3)を満たす旨、説明した。また、Fe組成比xが0.7の場合、Ir組成比yを0.18以上0.25以下で構成することにより、Ms≧1472 emu/cm3 (Bs≧1.85 T)、−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3 (0.9×106 J/m3)を満たす旨、説明した。しかしながら、前者はyが0.21の場合に限定されず、後者もxが0.70の場合に限定されない。
図18Aは、Ta膜201/Cu膜202膜上の(Co1−XFeX)1−y−Iry膜300のMsのFe組成比x、Ir組成比y(at.%比)依存性である。図18Bは、Ms=1470、1510 emu/cm3付近の拡大図である。図18Bの一点鎖線は、飽和磁化≧1510 emu/cm3を満たす代表的なx、yの組成領域を示し、点線は、飽和磁化≧1472 emu/cm3を満たす代表的なx、yの組成領域を示す。x=0.6、y=0.25のとき、Ms≒1462 emu/cm3であった。同様に、x=0.8、y=0.25のとき、Ms≒1468 emu/cm3であった。前者の値も、後者の値も、実験を行った場合には、測定誤差範囲内の値である。このことにより、y=0.25の場合には、0.60≦x≦0.80の範囲で点線を引いてある。同様に、x=0.60の場合、x≦0.25に点線を引いてある。
図19Aは、Ta膜201/Cu膜202膜上の(Co1−XFeX)1−y−Iry膜300の―Kuの大きさのFe組成比x、Ir組成比y依存性である。図19Bは、−Ku=0.9×107、1×107 erg/cm3付近の拡大図である。図19Bの一点鎖線は、負の磁気異方性エネルギーの大きさ≧1.0×107 erg/cm3を満たす代表的なx、yの組成領域を示し、点線は、負の磁気異方性エネルギーの大きさ≧0.9×107 erg/cm3を満たす代表的なx、yの組成領域を示す。
なお、図18、図19は、以下の簡易な行列表の作成、比率計算を行うことにより作図した。
(1)Fe組成比xを0.50≦x≦0.80の範囲で0.05間隔にてある列に入力し、Ir組成比yを0.15≦y≦0.30の範囲で0.01間隔にて適切な行に入力し、空欄のセルに、各々の(x, y)に対応するMs値、−Kuの大きさの値を入力できる行列表を2つ作った。ひとつは、Ms値入力用、もうひとつは−Kuの大きさ値入力用である。
(2)図2、図3より、(x=0.50, 0.55,......,0.80, y=0.21)のときのMs、−Kuの大きさの実測値を入力した。
(3)同様に、図4、図5より、(x=0.70, y=0.15, 0.16,……,0.30)のときのMs、−Kuの大きさの実測値を入力した。
(4)「y=0.21の場合のMs、−Kuの大きさ vs. x」曲線(図2、図3)も、「y=0.21以外のMs、−Kuの大きさ vs. x」曲線も、ともに「スレーターポーリング曲線の磁気モーメント vs. x(x≒0.70〜0.75で最大)」曲線にほぼ比例していた、若しくは、ほぼ比例するものと考えられた。このことにより、「空欄の(x, y)セルに対応するMs、−Kuの大きさ値」:「(x, y=0.21)セルにあるMs、−Kuの大きさの実測値」=「(x=0.70, y)セルにあるMs、−Kuの大きさの実測値」:「(x=0.70, y=0.21)セルにあるMs、−Kuの大きさの実測値」の比率計算式を立てることができ、空欄の(x, y)セルに対応するMs、−Kuの大きさ値を算出した。
(5)Fe組成比をx軸に、Ir組成比をy軸に、各々の(x, y)セルに対応するMs、−Kuの大きさ値をz軸に取り、Ms、−Kuの大きさのx、y依存性を作図した(図18、図19)。
なお、スレーターポーリング曲線とは、磁気モーメントの1原子あたりの電子数依存性を示す曲線であり、CoFe2元合金の場合には、磁気モーメントは、xが増すと大きくなり、x≒0.70〜0.75で飽和し、以降は徐々に小さくなる曲線となる。
図18Bの一点鎖線に示すように、yは0.21の場合に限定されず、yを0.22以下とし、xを0.67以上0.77以下で構成しても、Ms≧1510 emu/cm3を満たしている旨、分かる。図19Bの一点鎖線に示すように、yは0.21の場合に限定されず、yを0.2以上0.22以下とし、xを0.67以上0.77以下で構成しても、−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3を満たしている旨、分かる。したがって、xが0.67以上0.77以下、且、yが0.2以上0.22以下で、Ms≧1510 emu/cm3(Bs≧1.9 T)、且、−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)を満たす。
したがって、本発明に係る(Co1−XFeX)1−y−Iry膜300のFe組成比x、Ir組成比yとしては、0.67≦x≦0.77、且、0.2≦y≦0.22で構成されても良い。
同様に、図18Bの点線に示すように、yは0.21の場合に限定されず、yを0.25以下とし、xを0.6以上0.8以下で構成しても、Ms≧1472 emu/cm3を満たしている旨、分かる。図19Bの点線に示すように、yは0.21の場合に限定されず、yを0.18以上0.25以下とし、xを0.6以上0.8以下で構成した場合には、−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3を満たしている旨、分かる。したがって、xが0.6以上0.8以下、且、yが0.18以上0.25以下で、Ms≧1472 emu/cm3(Bs≧1.85 T)、且、−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3(1×106 J/m3)を満たす。
したがって、本発明に係る(Co1−XFeX)1−y−Iry膜300のFe組成比x、Ir組成比yとしては、0.6≦x≦0.8、且、0.18≦y≦0.25で構成されても良い。
図7は、本発明に係る新材料CoFe−Ir膜を高周波磁界発生層に適用したマイクロ波アシスト磁気記録素子のABS面から見た拡大断面図である。発振・発振原理は、下向き記録を行う場合を例として説明するものとする。したがって、通電方向は矢印2の方向、主磁極からの漏れ磁界は矢印3の方向にある。横方向から見た図については、実施例3の磁気ヘッド詳細図に図示した(図16D)。
少なくとも、主磁極100と、下部電極200(201、202)と、Ruシード層800と、CoFe−Ir系合金膜300と、スピン伝導層400と、固定層500と、上部電極600(602、601)と、磁気シールド700とを含み、順次積層して構成される。CoFe−Ir系合金膜300の製膜には、スパッタリング法を用いた。また、主磁極100、下部電極200(201、202)、Ruシード層800、スピン伝導層400、固定層500、上部電極600(602、601)、および磁気シールド700を構成する各膜、各層の製膜も、スパッタリング法により行った。
下部電極201はTa膜、202はCu膜で構成され、膜厚はともに50 Å(5 nm)
である。ここで、Ta膜は主磁極100からの偏極スピンの注入を遮蔽するための層をも兼ねる。また、Ta膜上にCu膜を製膜すると、Cu膜は面心立方晶(fcc)のCu(111)稠密面配向が得られることから、Ta/Cu膜はその上方膜の結晶配向面をfcc(111)、若しくはhcp(002)稠密配向面とさせるためのシード層効果を兼ねる。
Ruシード層800の膜厚は、50 Å(5 nm)である。Ruシード層800は、その上方に積層される高周波磁界発生層としてのCoFe−Ir系合金膜300の負の高磁気異方性を向上させるための層である(詳細は後述)。
高周波磁界発生層としてのCoFe−Ir系合金膜300の膜厚は、200 Åである。負の高磁気異方性を有しており、面内方向の磁気異方性が極めて強い膜である(詳細は後述)。スピン伝導層400はCu膜で構成され、膜厚は20 Åである。固定層500は、[Co/Pd]n(111)超格子積層膜の垂直磁化膜で構成され、膜厚は100 Åである。
上部電極602はCu膜、601はTa膜で構成され、膜厚はともに50 Åである。下部電極201のTa膜と同様に、上部電極601のTa膜は、磁気シールド700からの偏極スピンの注入を遮蔽するための層をも兼ねる。
以上の、主磁極100、下部電極200、Ruシード層800、CoFe−Ir系合金膜300、スピン伝導層400、固定層500、上部電極600、および磁気シールド700の製膜温度は、いずれも室温であり、すでに述べた仕様(3)の最大製膜温度≦250℃を満たす。
図8Aは、本発明に係るTa/Cu/Ru膜上の高周波磁界発生層300としての(Co1−XFeX)0.79−Ir0.21膜の飽和磁化MSのFe添加比X(at.%比)依存性である。図8Bは、その拡大図である。Fe添加比依存性を示すため、(Co1−XFeX)0.79−Ir0.21膜と表記した。飽和磁束密度Bsに換算するには、MSに4πを乗じれば良い(Msの単位1 emu/cm3≒Bsの単位0.00126 T)。Fe添加量を増やすとMsが向上し、Fe添加比を0.67〜0.77とすることにより、Ms≧1510 emu/cm3 (Bs≧1.9 T)が得られ、すでに述べた仕様(1)を満たすことが分かった。
図9Aは、本発明に係るTa/Cu/Ru膜上の高周波磁界発生層300としての(Co1−XFeX)0.79−Ir0.21膜の磁気異方性エネルギーKuのFe添加比X(at.%比)依存性である。図9Bは、その拡大図である。なお、1 erg/cm3=10−1 J/m3である。−Kuの大きさも、Fe添加量を増やすと向上する。上述のMsの仕様を満たしたFe添加比0.67〜0.77では、−Kuの大きさは1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)を越えており、すでに述べた仕様(2)を満たすことが分かった。
また、Ta/Cu/Ru膜上のCoFe−Ir膜の―Kuの大きさは、図3のTa/Cu膜上と比べ向上することが分かった。しかも、Fe添加比0〜0.8の範囲で−Kuの大きさが1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)を超えていることが分かる。このRuシード層800配置による―Kuの大きさの向上理由は、Ru(002)/Co−Ir(002)界面、Ru(002)/CoFe−Ir(002)界面格子ミスマッチ起因でCo−Ir<002>、CoFe−Ir<002>方向に圧縮歪み・格子歪みが生じ、異方性の根源であるLS結合が高まったことにある(L:軌道角運動量、S:スピン角運動量)。詳細は、後述する。
図10は、本発明に係るTa/Cu/Ru膜上の高周波磁界発生層300としての(Co0.3Fe0.7)1−y−Iry膜のMsのIr添加比y(at.%比)依存性である。Ir添加比依存性を示すため、(Co0.3Fe0.7)1−y−Iry膜と表記した。Ir添加比を0.22以下とすることにより、Ms≧1510 emu/cm3 (Bs≧1.9 T)が得られ、すでに述べた仕様(1)を満たすことが分かった。
図11は、本発明に係るTa/Cu/Ru膜上の高周波磁界発生層300としての(Co0.3Fe0.7)1−y−Iry膜のKuのIr添加比y(at.%比)依存性である。Ir添加比を0.18≦y≦0.27とすることにより、−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)が得られており、すでに述べた仕様(2)を満たすことが分かった。
図10、図11の結果から、Ms≧1510 emu/cm3 (Bs≧1.9 T)、かつ−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)を得るためのIr添加比は、0.18≦y≦0.22であることが分かる。
以上、Fe添加比Xについては0.67≦X≦0.77の範囲で、Ir添加比yについては0.18≦y≦0.22の範囲で、安定発振するための仕様(1)Ms≧1510 emu/cm3 (Bs≧1.9 T)、(2)−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)を満たす。また、製膜温度は室温であり、当該仕様(3)製膜温度≦250℃をも満たしている。したがって、本発明に係るRuシード層800を設け、その上に(Co1−XFeX)1−y−Iry合金膜が設けられた場合には、(Co1−XFeX)1−y−Iry合金膜のFe添加比Xについては0.67≦X≦0.77の範囲で、Ir添加比yについては0.18≦y≦0.22の範囲で構成される。実施例1記載のRuシード層800なしの場合と比べ、Ir組成構成範囲が広まることを強調しておく。
また、図7の固定層500からスピン伝導層400を介して高周波磁界発生層300に偏極スピンが注入され、高周波磁界発生層300の面内磁化には、その磁化を下側へ向けようとするスピントルクが働いている(作用1)。一方、主磁極100からの漏れ磁界は、高周波磁界発生層300の面内磁化を上側へ向けようとする(作用2)。上記仕様、特に(2)の仕様を満たすCoFe−Ir系合金膜を高周波磁界発生層300に用いた場合には、面内方向の磁気異方性が極めて強いため、スピン注入量を増やすために下向きの作用1をかなり強めても、主磁極磁界を強めて上向きの作用2がかなり強まっても、CoFe−Ir系合金膜の磁化は、面内方向に安定保持させられる。したがって、CoFe−Ir系合金膜の磁化を面内方向に保持しつつ偏極スピン注入量も主磁極磁界もかなり大きくさせることができる。偏極スピン注入量を増やすことにより、CoFe−Ir系合金膜の磁気モーメントの回転スピードをより一層速めることができる。また、主磁極磁界が大きい場合には、Heffは、概ね作用2を与えている上向き磁界、すなわち主磁極からの漏れ磁界で決定される(Heff:FGL層に印加されている面直方向の有効磁界)。したがって、主磁極磁界を強くすることにより、主磁極からの漏れ磁界が強まって、Heffを高めることができる。Heffが高まれば、ω=γHeffの関係に則し、CoFe−Ir系合金膜の磁気モーメントの回転スピードを更に速めることができる。発振磁界の大きさについては、高周波磁界発生層300の磁気モーメントが面内方向にある場合には、Heffが大きいほど大きい。CoFe−Ir系合金膜の大きな磁化を面内方向に保持しつつ、主磁極磁界を強くさせられ、Heffに対応する主磁極からの漏れ磁界を強くさせることができるので、発振磁界もより一層強くすることができる。したがって、高周波磁界発生層300としてCoFe−Ir系合金膜を用いた場合には、より一層高い高周波の磁界、より一層大きな磁界を励起・発振させられる。マイクロマグネティクスの計算によると、最大磁界発振周波数は52GHzにも達し、且、数GHz〜40 GHzの帯域で安定発振する。
Ruシード800層を配置することによる最大のメリットは、この低周波帯域〜高周波帯域での発振動作がより一層安定になることにある。すでに述べたとおり、Ruシード層800を配置することにより、CoFe−Ir膜の−Kuの大きさは向上する(図9、図11)。このことは、CoFe−Ir膜の面内磁気異方性が実施例1記載のそれと比べて強くなっていることを意味している。面内磁気異方性が強いほど発振動作の安定性は向上する。したがって、Ruシード層800を配置することにより、上記数GHz〜40 GHzの帯域での発振動作をより一層安定なものとさせられる。
したがって、本発明に係る負の高磁気異方性膜としての新材料CoFe−Ir系合金膜をRuシード層上に積層し、このCoFe−Ir系合金膜を高周波磁界発生層に適用することにより、最大磁界発振周波数を高められ、且、低周波帯域〜高周波帯域の広い範囲でより一層安定発振させられる実用的マイクロ波アシスト磁気記録ヘッドを提供できる。
また、CoFe−Ir系合金膜の磁気モーメントを面内方向で高速回転させるためには、CoFe−Ir膜はhcpの結晶構造を有していて、且、hcp(002)稠密面配向、すなわちc軸配向していなければならない。hcpでない場合には非磁性層が出現して発振磁界が弱められ、最悪の場合、磁気モーメントを失って発振できなくなり、hcp(002)稠密面配向していない場合には他方位面により高速回転にブレーキがかけられてしまうためである。そこで、下部電極200を構成するTa膜201/Cu膜202上、そしてその上方に積層されているRuシード層800上のCoFe−Ir膜300についてX線回折(XRD)実験を行い、結晶構造および結晶配向性を調査した。その結果を図12に示す。Ta膜201は非晶質、Cu膜202はfccの結晶構造を有していてCu(111)稠密面単独配向、Ruシード層800はhcpの結晶構造を有していてRu(002)稠密面単独配向、CoFe−Ir膜300はhcpの結晶構造を有していてCoFe−Ir(002)稠密面単独配向していることが分かった。Fe添加比を多くするとbccになってしまうのではなかろうかという心配は、図12の結果により払拭された。したがって、発振磁界を強くする上での結晶構造上、結晶配向性の問題はなく、高速回転させるための結晶構造上、結晶配向性の問題もない。
さらに、安定発振するための仕様(1)Ms≧1510 emu/cm3 (Bs≧1.9 T)、(2)−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)は、かなり厳しい仕様である。マイクロマグネティクスの計算によると、Ms≒1510 emu/cm3 (Bs≒1.9 T)、−Ku≒1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)の場合、最大磁界発振周波数、最大安定発振周波数は、それぞれ52 GHz、40 GHzであった。仕様を少し下げたMs≒1472 emu/cm3 (Bs≒1.85 T)、−Ku≒0.9×107 erg/cm3(0.9×106 J/m3)の場合は、それぞれ50 GHz、37 GHzであった。これらの値は、Ms≒1510 emu/cm3 、−Ku≒1×107 erg/cm3の場合と比べると低いが、最大磁界発振周波数を高めても高周波帯域まで安定発振する、と言えるレベルに踏み止まっているものと考えられる。したがって、Ms≧1472 emu/cm3 (Bs≧1.85 T)、−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3(0.9×106 J/m3)であれば、最大磁界発振周波数も発振の安定性も、問題のないレベルに保持されるものと考えられる。
図8および図9を見ると、Fe添加比xについては0.6≦x≦0.8の範囲で、これらのMs値(Bs値)、−Ku値をともに満たしていることが分かる。
図10を見ると、Ir添加比を0.25以下とすることにより、Ms≧1472 emu/cm3 (Bs≧1.85 T)を満たしていることが分かる。図11を見ると、Ir添加比を0.17≦y≦0.285とすることにより、−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3(0.9×106 J/m3)を満たしていることが分かる。これらの結果から、Ms≧1472 emu/cm3 (Bs≧1.85 T)、かつ−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3(0.9×106 J/m3)を満たすIr添加比は、0.17≦y≦0.25であることが分かる。
以上のように、Fe添加比xについては0.6≦x≦0.8の範囲で、Ir添加比yについては0.17≦y≦0.25の範囲で、Ms≧1472 emu/cm3 (Bs≧1.85 T)、かつ−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3(0.9×106 J/m3)を満たす。したがって、本発明に係るRuシード層800を設け、その上に(Co1−XFeX)1−y−Iry合金膜が設けられた場合には、(Co1−XFeX)1−y−Iry合金膜のFe添加比xについては0.6≦x≦0.8の範囲で、Ir添加比yについては0.17≦y≦0.25の範囲で構成されても問題はないものと考えられる。実施例1記載のRuシード層800なしの場合と比べると、Ir組成構成範囲が広まることを強調しておく。
図13は、Ta/Cu膜上のCoFe−Ir膜300のXRDプロファイル(図6)とTa/Cu/Ru膜上のCoFe−Ir膜300のXRDプロファイル(図12)とを重ね合わせ、CoFe−Ir(002)ピーク付近を拡大した図である。Ruシード層800を配置することにより、CoFe−Ir(002)ピーク強度が強くなり、且、CoFe−Ir(002)ピークが高角側へ約0.2°シフトしているのが確認できる。前者はCoFe−Ir膜300の結晶性が向上していることを意味し、後者はCoFe−Ir<002>方向(c軸方向)に圧縮歪み・格子歪みが生じていることを意味している。約0.2°の高角側へのシフトは、CoFe−Ir膜300のc軸が約0.02Å短縮させられていることに対応する。したがって、図9や図11に示したように、Ruシード層800を配置することにより、−Kuの大きさが向上した理由は、CoFe−Ir膜300の結晶性が向上したこと、および、CoFe−Ir<002>方向に圧縮歪み・格子歪みが生じて異方性の根源であるLS結合が高まったことにあり(L:軌道角運動量、S:スピン角運動量)、特には、圧縮歪み・格子歪みが生じたことにある。
この圧縮歪み・格子歪みの主因は、Ruシード層800/CoFe−Ir膜300界面で生じる格子ミスマッチにある。図14Aに、Ru(002)六方格子と、その上方に配置されているCoFe−Ir(002)六方格子の立体模型を示す。図14Bに示すように、hcp-CoFe−Ir(002)面の稠密六方格子の一辺の長さxは、x=2.55Åであった。一方、図14Cに示すように、hcp-Ru(002)面の稠密六方格子の長さyは、y=2.70Åである。y>xの関係により、Ru(002)六方格子上のCoFe−Ir(002)六方格子の面内方向には格子ミスマッチ起因圧縮応力5が生じ、その結果、面直方向には引張応力6が生じる(図14A)。この面直方向の引張応力6により、CoFe−Ir<002>方向([00-2]方向および[002]方向)に圧縮歪み6がもたらされる。
なお、圧縮応力の方向と引張歪みの方向が同じ、引張応力の方向と圧縮歪みの方向が同じになっている理由は、圧縮応力は法線力が負となる「← →」で定義され、引張応力は法線力が正となる「→ ←」で定義されているためである。
図14Bおよび図14Cより、CoFe−Ir<002>方向、いいかえるとc軸方向に圧縮歪み・格子歪みを付与し、その結果として−Kuの大きさを向上させるためには(図9、図11参照)、y>xの関係を満たし、且、y−x≧0.15Å(0.15×10−10m)の関係を満たせば良いことが分かる。いいかえると、Ruシード層800配置のみならず、y>xの関係を満たし、且、y−x≧0.15Å(0.15×10−10m)の関係を満たしていれば、他のマテリアルシード層配置であっても、Ruシード層配置と同様の―Kuの大きさの向上が見込まれる。但し、他のマテリアルシード層は、格子ミスマッチ起因応力を有効に効かせるため、硬さがRuと同程度である必要がある。且、Ruと同様に偏極スピンの伝導を遮蔽させる効果を有している必要がある。以上を満たすRuシード層800の代替マテリアルシード層を、図15に示した。図15には、fccの結晶構造を有しているものも含まれているが、これについては、fcc(111)面とhcp(002)面はともに稠密面であり、且、稠密六方格子の形状もまったく同じのためで、hcp−CoFe−Ir(002)面との格子ミスマッチを考える上ではfcc(111)面稠密六方格子とhcp(002)面稠密六方格子とは同じように扱えるためである。図15を見ると、Ruシード層800の代替マテリアルシード層として、Reシード層、Irシード層、およびPtシード層であっても良いことが分かる。
最後に、実施例2のマイクロ波アシスト磁気記録ヘッドの代替構造を下記に簡単に列挙する。
まず、図7の主磁極100の位置に磁気シールド、且、磁気シールド700の位置に主磁極を配置した構造としても良い。
また、Ruシード層800と電極との間に、垂直磁化膜より構成される回転ガイド層が設けられていても良い。
さらに、図7の下部電極200を主磁極100の下側に、且、上部電極600を磁気シールド700の上側に設けた構成としても良い。
さらには、図7の主磁極100が下部電極を兼ね、且、磁気シールド700が上部電極を兼ねた構成としても良い。
上記説明では、(Co1−XFeX)1−y−Iry膜中のIr組成比yが0.21の場合、Fe組成比xを0.67以上0.77以下で構成することにより、Ms≧1510 emu/cm3 (Bs≧1.9 T)、−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3 (1×106 J/m3)を満たす旨、説明した。また、Fe組成比xが0.7の場合、Ir組成比yを0.18以上0.22以下で構成することにより、Ms≧1510 emu/cm3、−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3を満たす旨、説明した。しかしながら、前者はyが0.21の場合に限定されず、後者もxが0.70の場合に限定されない。
同様に、Ir組成比yが0.21の場合、Fe組成比xを0.6以上0.8以下で構成することにより、Ms≧1472 emu/cm3(Bs≧1.85 T)、−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3(0.9×106 J/m3)を満たす旨、説明した。また、Fe組成比xが0.7の場合、Ir組成比yを0.17以上0.25以下で構成することにより、Ms≧1472 emu/cm3(Bs≧1.85 T)、−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3(0.9×106 J/m3)を満たす旨、説明した。しかしながら、前者はyが0.21の場合に限定されず、後者もxが0.70の場合に限定されない。
図20Aは、Ta膜201/Cu膜202/Ruシード層800上の(Co1−XFeX)1−y−Iry膜300のMsのFe組成比x、Ir組成比y(at.%比)依存性である。図20Bは、Ms=1470、1510 emu/cm3付近の拡大図である。図21Aは、Ta膜201/Cu膜202/Ruシード層800上の(Co1−XFeX)1−y−Iry膜300の−Kuの大きさのFe組成比x、Ir組成比y依存性である。図21Bは、−Ku=0.9×107、1×107 erg/cm3付近の拡大図である。図21Bの一点鎖線は、負の磁気異方性エネルギーの大きさ≧1.0×107 erg/cm3を満たす代表的なx、yの組成領域を示し、点線は、負の磁気異方性エネルギーの大きさ≧0.9×107 erg/cm3を満たす代表的なx、yの組成領域を示す。なお、図20Bの一点鎖線は、飽和磁化≧1510 emu/cm3を満たす代表的なx、yの組成領域を示し、点線は、飽和磁化≧1472 emu/cm3を満たす代表的なx、yの組成領域を示す。x=0.6、y=0.25のとき、Ms≒1462 emu/cm3であった。同様に、x=0.8、y=0.25のとき、Ms≒1468 emu/cm3であった。前者の値も、後者の値も、実験を行った場合には、測定誤差範囲内の値である。このことにより、y=0.25の場合には、0.60≦x≦0.80の範囲で点線を引いてある。同様に、x=0.60の場合、x≦0.25に点線を引いてある。
なお、図20、21は、実施例1と同様の行列表の作成、比率計算を行うことにより、作図した。詳細説明は、実施例1で述べたので省略する。
図20Bの一点鎖線に示すように、yは0.21の場合に限定されず、yを0.22以下とし、xを0.67以上0.77以下で構成しても、Ms≧1510 emu/cm3を満たしている旨、分かる。図21Bの一点鎖線に示すように、yは0.21の場合に限定されず、yを0.18以上0.22以下とし、xを0.67以上0.77以下で構成しても、−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3を満たしている旨、分かる。したがって、xが0.67以上0.77以下、且、yが0.18以上0.22以下で、Ms≧1510 emu/cm3(Bs≧1.9 T)、且、−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)を満たす。
したがって、本発明に係る(Co1−XFeX)1−y−Iry膜300のFe組成比x、Ir組成比yとしては、0.67≦x≦0.77、且、0.18≦y≦0.22で構成されても良い。
同様に、図20Bの点線に示すように、yは0.21の場合に限定されず、yを0.25以下とし、xを0.60以上0.80以下で構成しても、Ms≧1472 emu/cm3を満たしている旨、分かる。図21Bの点線に示すように、yは0.21の場合に限定されず、yを0.17以上0.25以下とし、xを0.60以上0.80以下で構成した場合には、−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3を満たしている旨、分かる。したがって、xが0.60以上0.80以下、且、yが0.17以上0.25以下で、Ms≧1472 emu/cm3(Bs≧1.85 T)、且、−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3(0.9×106 J/m3)を満たす。
したがって、本発明に係る(Co1−XFeX)1−y−Iry膜300のFe組成比x、Ir組成比yとしては、0.60≦x≦0.80、且、0.17≦y≦0.25で構成されても良い。
更に、図20、図21より、
(1)0.65≦x≦0.78、且、0.18≦y≦0.20、若しくは、
(2)0.62≦x≦0.8、且、0.18≦y≦0.19、
であっても、Ms≧1510 emu/cm3(Bs≧1.9 T)、且、−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)を満たしている旨、分かる。
更に、図20、図21より、
(3)0.58≦x≦0.8、且、0.17≦y≦0.22、
(4)0.55≦x≦0.8、且、0.17≦y≦0.2、若しくは、
(5)0.5≦x≦0.8、且、0.17≦y≦0.19、
であっても、Ms≧1472 emu/cm3(Bs≧1.85 T)、且、−Kuの大きさ≧0.9×107 erg/cm3(0.9×106 J/m3)を満たしている旨、分かる。
したがって、本発明に係る(Co1−XFeX)1−y−Iry膜300のFe組成比x、Ir組成比yとして、上記(1)〜(5)のいずれかの範囲で構成させても、目標は達成される。
なお、実施例1、2では、固定層、スピン伝導層を設けることを記載したが、FGL層に偏極スピンを注入する作用を有する層であれば良く、原理的には、1層でも構わない。
図16Aおよび図16Bは、本発明に係る磁気ヘッドの基本構成を示す図である。
図16Aは、磁気ヘッドスライダ20と磁気記録媒体1の相対位置関係を模式的に示した図である。磁気ヘッドスライダ20は、サスペンション30により、媒体1に対向して支持される。図16Aにおいては、媒体1は紙面右方向に回転し、対向する磁気ヘッドスライダ20は、媒体1に対して相対的に紙面左方向に移動しているものとする。したがって、図16Aにおいては、磁気ヘッド部10はスライダ20のトレーリング側に配置される。磁気ヘッド部10の各構成要素の駆動電流は配線40によって給電され、端子50によって各構成要素に供給される。
図16Bは、図16Aに示された磁気ヘッド部10の拡大図である。磁気ヘッド部10は、記録ヘッド部と再生ヘッド部より構成されており、記録ヘッド部は、主磁極100と磁気シールド700、これらの間に配置されたマイクロ波アシスト磁気記録素子11、主磁極100を励磁するコイル80等により構成される。再生ヘッド部は、下部シールド60と上部シールド70の間に配置された巨大磁気抵抗効果型磁気センサやトンネル磁気抵抗効果型磁気センサ等の再生センサ12等により構成される。図示されていないが、コイルの励磁電流や再生センサの駆動電流およびマイクロ波アシスト磁気記録素子への印加電流は、各々の構成要素毎に設けられた電流供給端子により供給される。
図16Bに示すように、磁気シールド700は図面上方にて主磁極100の方へ延び、互いに磁気的な回路を構成している。ただし、図面上方においては電気的にはほぼ絶縁されているものとする。磁気的な回路は、磁力線が閉路を形成するものであり、磁性体のみで形成されている必要はない。主磁極100と磁気シールド700には、電極又は電極に電気的に接触する手段が備わっており、主磁極100から磁気シールド700側へ、或いはその逆の高周波励起電流がマイクロ波アシスト磁気記録素子11を通して流せるよう構成されている。
図16Cおよび図16Dは、記録ヘッド部であるマイクロ波アシスト磁気記録素子部11を更に拡大した図である。図16Cと図16Dは、それぞれ実施例1、実施例2記載のマイクロ波アシスト磁気記録素子に対応している。したがって、記録ヘッド部としてのマイクロ波アシスト磁気記録ヘッドとしては、図16C、若しくは図16Dが選択され構成される。
図16Cは、実施例1記載の図1のマイクロ波アシスト磁気記録素子部を横方向から見た拡大図でもある。主磁極100と磁気シールド700との間に、下部電極200、高周波磁界発生層300としてのCoFe−Ir膜、スピン伝導層400、固定層500、および上部電極600とが形成されている。下部電極200と上部電極600の間には、図示した矢印2の向きに電流が流れており、ヘッドの相対移動方向は紙面左方向である。なお、図16C記載のマイクロ波アシスト磁気記録素子を構成している各々の膜厚と役割、CoFe−Ir膜の組成と結晶構造、および発振原理等は、実施例1において詳述してあるので省略する。
図16Dは、実施例2記載の図7のマイクロ波アシスト磁気記録素子部を横方向から見た拡大図でもある。主磁極100と磁気シールド700との間に、下部電極200、Ruシード層800、高周波磁界発生層300としてのCoFe−Ir膜、スピン伝導層400、固定層500、および上部電極600とが形成されている。下部電極200と上部電極600の間には、図示した矢印2の向きに電流が流れており、ヘッドの相対移動方向は紙面左方向である。なお、図16D記載のマイクロ波アシスト磁気記録素子を構成している各々の膜厚と役割、CoFe−Ir膜の組成と結晶構造、および発振原理等は、実施例2において詳述してあるので省略する。
図17Aおよび図17Bは、本発明に係る磁気記録再生装置の全体構造を示す図である。図17Aが上面図、図17BはそのA−A´での断面図である。磁気記録媒体1は回転軸受け36に固定され、モーター38により回転する。図17では3枚の磁気ディスク、6本の磁気ヘッドを搭載した例を用いて説明してあるが、磁気ディスクは1枚以上、磁気ヘッドは1本以上あれば良い。媒体1は、円盤状をしており、その両面に記録層を形成している。スライダ20は、回転する媒体面上を略半径方向に移動し、リーディング側ないしトレーリング側先端部に磁気ヘッドを有する。サスペンション30は、アーム31を介してロータリーアクチュエータ―32に支持される。サスペンション30は、スライダ20を媒体1に所定の荷重で押しつけるあるいは引き離そうとする機能を有する。磁気ヘッドの各構成要素を駆動するための電流はICアンプ33から配線40を介して供給される。記録ヘッド部に供給される記録信号や再生ヘッド部から検出される再生信号の処理は、図17Bに示されたリードライト用のチャネルIC37により実行される。また、磁気記録再生装置全体の制御動作は、メモリ35に格納されたディスクコントロール用プログラムをプロセッサ34が実行することにより実現される。すなわち、プロセッサ34とメモリ35とがいわゆるディスクコントローラを構成する。
図17の記録ヘッドは、実施例1、若しくは実施例2記載のマイクロ波アシスト磁気ヘッドが搭載され、構成される。すなわち、高周波磁界発生層として、負の高磁気異方性膜としての新材料CoFe−Ir系合金膜、若しくはRuシード層を配置しその負の高磁気異方性を向上させた新材料CoFe−Ir系合金膜を適用し、構成される。これらのCoFe−Ir系合金膜は、安定発振するための仕様(1)飽和磁化≧1510 emu/cm3(飽和磁束密度≧1.9 T)、(2)−Kuの大きさ≧1×107 erg/cm3(1×106 J/m3)、(3)製膜温度≦250℃を満たし、当初心配された体心立方晶(bcc)構造ではなく六方晶(hcp)構造で構成され、且、hcp-CoFe−Ir(002)単独配向・c軸配向を有していた。以上のような仕様を満たせる材料は、今のところ、これらCoFe−Ir系合金膜しかない。また、CoFe−Ir系合金膜を高周波磁界発生層に適用することにより、最大磁界発振周波数を高められ、低周波帯域〜高周波帯域の広い範囲で安定発振させられる。
したがって、本発明に係る負の高磁気異方性膜としての新材料CoFe−Ir系合金膜を高周波磁界発生層に適用することにより、最大磁界発振周波数を高められ、且、低周波帯域〜高周波帯域の広い範囲で安定発振させられる実用的マイクロ波アシスト磁気記録ヘッド、およびそれを用いた磁気記録再生装置を提供できる。