図1は、本発明に係る第1の実施例としての無線応答温度測定システム100の構成例を示す概念図である。
この実施例では、被測定対象の物理量を無線応答測定するスペクトラム拡散通信方式の無線送受信装置に干渉波補償手段を備え、送信時の変調信号の位相と、受信時の応答信号を成す変調信号の位相とを比較し、送信時の変調信号の位相に同期しない変調信号による応答信号を当該比較結果に基づいて除去するようにして、信号応答体以外の物体から反射される変調波及び位相がずれた応答信号を消去できるようにすると共に、1当該信号応答体から輻射される最適な応答信号に基づいて被測定対象の温度や圧力等の物理量を高精度に測定できるようにしたものである。
図1に示した無線応答温度測定システム100は、被測定対象の物理量の一例となる温度を無線測定するシステムである。このシステム100で、被測定対象4には、信号応答体の一例となるSAW(Surface Acoustic Wave)型の無線応答温度センサ(以下単に温度センサ10という)が取付けられ、スペクトラム拡散通信方式により直接拡散変調された無線応答測定用の変調信号を受けて当該被測定対象4の温度に従った応答信号を放射するようになされる。
温度センサ10は、例えば、アンテナ体3と、結晶構造のセンサ基板1と、表面波変換器2と、2つの反射器#1、#2とを備える。センサ基板1は縦が1乃至3cm、横が2乃至5cm程度の大きさを有している。センサ基板1には、水晶(石英)、LiNbO3、LiTaO系の部材が使用される。
表面波変換器2は、センサ基板1上に配置され、アンテナ体3に接続される。アンテナ体3にはループ状のアンテナが使用される。表面波変換器2にはくし形変換器(励振電極)が使用される。この表面波変換器2から所定の距離を隔てた当該基板1上の位置であって、弾性波である表面波の伝播進路には、例えば、2つの反射器#1、#2が配置される。各々の反射器#1,#2は、複数の反射電極から構成される。反射電極は所定の配置ピッチにより並設される。
温度センサ10は、アンテナ体3によって変調信号Soutを受信して表面波変換器2に供給する。このアンテナ体3から供給されたスペクトラム拡散通信方式の変調信号Soutは、表面波変換器2によって弾性波の表面波に変換される。表面波変換器2から伝播される表面波は、反射器#1、#2によって反射する。この反射器#1、#2から反射される表面波は、表面波変換器2によってスペクトラム拡散通信方式の変調信号に変換され、応答信号Sinとなってアンテナ体3から輻射するようになる。
また、システム100は温度センサ10の他に、無線応答温度読取り機能を有したリーダとしての無線送受信装置が備えられる。無線送受信装置40は、温度センサ10に変調信号Soutを輻射すると共に、当該温度センサ10から戻ってきた応答信号Sinを受信して信号処理をするようになされる。無線送受信装置40は、温度センサ10に輻射する変調信号Soutと当該温度センサ10から放射される応答信号Sinであって干渉波除去後の応答信号Sinとに基づいて該温度センサ10を伝播する表面波の伝播遅延時間(以下反射遅延時間という)を検出するようになされる。
この例で無線送受信装置40は、送信部21、送信用のアンテナ体26A,受信用のアンテナ体26B、受信部30、制御装置31、メモリ部32、表示部33及び、操作部34を備えている。送信部21は、アンテナ体26Aに接続され、所定の周波数の搬送波信号をDS(Direct Sequence)−SS(Spread Spectrum)拡散変調して得られた無線応答測定用の変調信号(送信波)Soutを送信するように動作する(スペクトラム拡散通信方式=SS通信方式)。
送信部21は、第1、第2の発振器22,23、PN(Pseudorandom Noise)符号系列発生器(以下単にPN発生器25ともいう)及び乗算器24を備えている。発振器22は、所定の周波数の一例となる2,45GHzの搬送波信号(cosωt)を発生する。発振器22には変調器の一例となる乗算器24が接続される。
発振器23は、所定の周波数でスペクトラム拡散用のクロック信号(SS CLOCK)を発生する。発振器23にはPN発生器25が接続され、発振器23から出力されるクロック信号に基づいて拡散符号系列を発生する。PN発生器25には、上述の乗算器24が接続され、発振器22から出力される搬送波信号をPN発生器25から出力される拡散符号系列に基づいてスペクトラム拡散変調するように動作する。スペクトラム拡散変調後の変調信号(送信波)Soutは、アンテナ体26Aから輻射される。このようにすると、送信波のスペクトル拡散信号の拡散符号発生タイミングとPN発生器25のクロック位相によって、温度センサ10における表面波の反射遅延時間(温度や圧力等)を取得できるようになる。
受信部30は、アンテナ体26Bに接続され、温度センサ10から戻ってきた応答信号Sinであって、その干渉波を除去した後の応答信号Sinを逆拡散して復調し、当該温度センサ10を伝播する表面波の反射遅延時間を検出するように動作する。受信部30は、例えば、干渉波補償手段60、第1及び第2の遅延固定ループ回路27,28と、位相比較回路29とを備える。
干渉波補償手段60は、アンテナ体26Bに接続され、温度センサ10以外の物体から反射される変調信号Sf’、及び、温度センサ10から輻射される位相がずれた応答信号Sf’(τ1+τ2)を消去するような機能を有している。例えば、干渉波補償手段60は、送信時の変調信号Sfの位相と、受信時の応答信号Sinを成す変調信号Sf’の位相とを比較し、送信時の変調信号Sfの位相に同期しない変調信号Sf’による応答信号Sf’(τ1+τ2)を当該比較結果に基づいて除去するように動作する。干渉波補償手段60の内部構成例については、図6及び図7で説明をする。
干渉波補償手段60には、遅延固定ループ回路(DLL(τ1))27及び遅延固定ループ回路(DLL(τ2))28が接続される。遅延固定ループ回路(DLL(τ1))27は、例えば、温度センサ10に2つの反射器#1,#2が設けられる場合であって、当該温度センサ10の反射器#1から戻ってきた応答信号Sinから、その干渉波を除去した後の応答信号Sinの拡散符号系列のコード同期を採るように動作する。遅延固定ループ回路(DLL(τ2))28は、温度センサ10の反射器#2から戻ってきた応答信号Sinであって、その干渉波を補償した後の応答信号Sinの拡散符号系列のコード同期を採るように動作する。
遅延固定ループ回路27及び28には、位相比較回路29が接続され、遅延固定ループ回路27から得られる位相情報(τa+τ1)と、遅延固定ループ回路28から得られる位相情報(τa+τ2)とを入力して位相差を検出するように動作する。このようにすると、反射器相互間の干渉および温度センサ10以外の物体からの反射を分離することができ、当該反射遅延時間の差τεに基づいて被測定対象4の温度や圧力等を高精度に測定することができる。しかも、搬送波信号の位相を精度良く連続して測定できるようになる。
この例で位相比較回路29には制御装置31が接続される。制御装置31にはCPUが使用される。制御装置31にはメモリ部32(記憶装置)が接続され、被測定対象4の温度を参照テーブル化した温度データD1が記憶される。メモリ部32にはEEPROM等の不揮発メモリが使用される。制御装置31では、位相比較回路29から出力される位相差に基づいてメモリ部32から温度データD1を読出すように動作する。温度データD1は、予め反射遅延時間の差τεと温度T℃とを関連付けたデータである。
制御装置31には、メモリ部32の他に表示部33や操作部34等が接続される。表示部33には、被測定対象4の温度T℃を例えば、デジタル表示あるいはアナログ表示するようになされる。温度表示は、制御装置31から出力される表示データD2に基づいて表示される。操作部34は、被測定対象4の温度を測定する際に制御装置31に対して測定指示をするように操作される。操作部34から制御装置31には、測定指示を示す操作データD3が出力される。制御装置31は、操作データD3に基づいてPN発生器25を制御する。例えば、制御装置31は、PN発生器25にクロック信号及びリセット信号を出力する。
図2は、PN発生器25の内部構成例を示す回路図である。図2に示すPN発生器25は、14個のD型フリップフロップ回路501〜514、2個のNOT(インバータ)回路52,53、10入力AND論理回路54、10入力NOR論理回路55、2入力XOR論理回路56及び、2入力OR論理回路57を備えている。
第1番〜第10番目の10個のD型のフリップフロップ回路501〜510の各々は、その出力端子(Q)が次段のフリップフロップ回路の入力端子(D)に接続されると共に、10入力AND論理回路54及び10入力NOR論理回路55の各々の入力に接続される。10入力AND論理回路54は、10個の入力端子を有しており、上から順に第1番〜第10番目の10個のフリップフロップ回路501〜510の出力端子(Q)が接続される。10入力NOR論理回路55も、10個の入力端子を有しており、上から順に第1番〜第10番目の10個のフリップフロップ回路501〜510の出力端子(Q)が接続される。10入力AND論理回路54は、10個のフリップフロップ回路501〜510の出力論理積を採って同期信号(Sync)を受信部30等に出力する。10入力NOR論理回路55の出力は、2入力OR論理回路57の一方の入力に接続される。
第7番目及び第10番目のフリップフロップ回路507及び510の出力は、2入力XOR論理回路56に接続される。2入力XOR論理回路56の出力は、2入力OR論理回路57の他方に接続される。2入力OR論理回路57の出力は第1番目のフリップフロップ回路501の入力端子(D)に接続される。10個のフリップフロップ回路501〜510のクロック端子には、クロック信号(CLK)が供給されると共に、クリア(CLR)端子には、リセット信号が各々供給される。これら10個のフリップフロップ回路501〜510、10入力NOR論理回路55、2入力XOR論理回路56及び、2入力OR論理回路57によって「0」,「1」を出力するカウンタを構成する。
残りの4個のフリップフロップ回路511〜514の各々は、その出力端子(Q)が次段のフリップフロップ回路の入力端子(D)に接続される。第11番目のフリップフロップ回路511の入力端子(D)には、第8番目のフリップフロップ回路508の出力端子(Q)が接続される。第11番目のフリップフロップ回路511のクロック端子には、NOT回路52が接続され、反転クロック信号を供給するようになされる。同様にして、第13番目のフリップフロップ回路513のクロック端子には、NOT回路53が接続され、反転クロック信号を供給するようになされる。この4個のフリップフロップ回路511〜514のクロック端子にも、クロック信号(CLK)が供給されると共に、クリア端子には、リセット信号が各々供給される。
この例で、第12番目のフリップフロップ回路512の出力端子(Q)から拡散コード[(0,1)to(−1、1):E]を出力する。第13番目のフリップフロップ回路513の出力端子(Q)から拡散コード[(0,1)to(−1、1):D]を出力する。第14番目のフリップフロップ回路514の出力端子(Q)から拡散コード[(0,1)to(−1、1):L]を出力する。これらの拡散コードは、PN符号系列を構成する拡散信号C(t)であり、乗算器24に出力される。
図3A〜Cは、送信部21における動作例を示す波形図である。この例では、入力情報信号が存在せず、搬送波信号(cosωt:正弦波)を直接、拡散符号系列に基づいてスペクトラム拡散変調する構成を採るので、一次変調が行われない。これはスペクトル拡散信号を連続して温度センサ10に送信し直接注入するためである。
図3Aに示す周波数f=2.45GHzの搬送波信号は、発振器22によって発生され、乗算器24へ出力される。図3Bに示す拡散信号C(t)は、チップ幅Tcで、所定の周期で振幅±1のPN信号を成し、乗算器24に出力される。図3Cに示す変調信号(送信波)Soutは、発振器22から出力される搬送波信号をPN発生器25から出力される拡散符号系列に基づいてスペクトラム拡散変調した信号である。このスペクトラム拡散変調後の変調信号Soutは、アンテナ体26Aから輻射される。
図4は、温度センサ10における表面波変換器2および反射器#1及び#2の配置例を示す図である。この例で温度センサ10には、2つの反射器#1及び#2が設けられ、搬送波の空間での遅延時間を補正し、反射遅延時間の差を精度良く測定できるようになされる。
この例では、スペクトラム拡散変調された変調信号(搬送波)Soutを温度センサ10に送信し、その搬送波が周囲の物体から反射して戻ってくる時間と、温度センサ10の反射器#1及び#2から反射して無線送受信装置40に戻ってくる反射遅延時間の差を1チップ(拡散コードのデータレート)以上になるように、反射器#1での反射遅延時間τ1を設定すると共に、反射器#2での反射遅延時間τ2を設定するようになされる。これは反射遅延時間の差をτεとしたとき、τε=τ2−τ1により算出するためである。
同様に、反射器#1と反射器#2の反射遅延時間の差も、1チップ以上に設定すれば、反射器#1で反射された反射波と、反射器#2で反射された反射波を干渉なしに受信することができる。しかも、受信部30によって、1チップ異なる拡散符号コード、すなわち、遅延量の異なるキャリアを逆拡散によって減衰させることができる。
図4に示す表面波変換器2から所定の距離を隔てた当該基板1上の位置であっ
て、表面波の伝播進路には、2つの反射器#1、#2がずれる形で配置される。各々の反射器#1,#2は、例えば、5本の反射電極から構成される。図4において、L1は表面波変換器2と反射器#1との間の離隔距離である。L2は表面波変換器2と反射器#2との間の離隔距離である。この例では、L1<L2に設定されている。離隔距離L1は、センサ基板1がLiNbO3系で、表面波の速度VがV=3800m/s、波長λ=12μm、周期=3.16nsとすると、L1=3630μm程度、L2=5310μm程度である。
また、反射波が表面波変換器2から反射器#1へ伝播する時間を反射遅延時間τ1としたとき、上述の例で、反射遅延時間τ1は1870ns程度である。同様にして、反射波が表面波変換器2から反射器#2へ伝播する時間を反射遅延時間τ2としたとき、上述の例で、反射遅延時間τ2は2750ns程度である。
図5A及びBは、温度センサ10における表面波の動作例を示す図である。図5A及びBにおいて、横軸が時間tであり、縦軸が振幅である。
上述した表面波の速度V、伝播時間、中間周波数は、例えば、センサ基板1の材質、当該センサ基板1に加わる温度、湿度、圧力(膨張、剪断、曲げ等)によって変わる。従って、結晶構造の基板1が被測定対象4の温度や圧力によって変化すると、弾性波である表面波の反射遅延時間が変化する。この表面波の反射遅延時間を測定することで、被測定対象4の温度や圧力の変化を離れた場所で読み取ることができる。
図5Aに示す反射パルス#P1は、表面波が反射器#1に反射して生じたものである。図5Bに示す反射パルス#P2は、表面波が反射器#2に反射して生じたものである。これらの反射パルス#P1、#P2は、スペクトラム拡散通信方式の変調信号(送信波)Soutの搬送波の位相を進めたり、反対に、遅らせたりするようになる。これら2つの反射パルス#P1、#P2の反射遅延時間の差τεである。この反射遅延時間の差τεを含んだ反射パルス#P1、#P2は、表面波変換器2によってスペクトラム拡散通信方式の変調信号に変換され、その応答信号に含まれて、アンテナ体3から輻射するようになる。この反射遅延時間の差τεを含んだ応答信号を無線送受信装置40で受信して検出するようにすればよい。
図6及び図7は、干渉波補償手段60の内部構成例を示すブロック図である。図6に示す干渉波補償手段60は、2個の反射器#1、#2が温度センサ10に設けられる場合、3つの干渉波補償回路61〜63から構成される。
図6において第1の干渉波補償回路61は、その入力部がアンテナ体26Bに接続され、温度センサ10以外の周囲の物体、例えば、周囲の金属板から反射される変調信号Sf’を除去する機能を有している。第1の干渉波補償回路61は、例えば、送信時の変調信号Sfの位相と、受信時の応答信号Sinを成す変調信号Sf’の位相とを比較し、送信時の変調信号Sfの位相に同期しない変調信号Sf’による位相のずれた応答信号Sf’(τ1+τ2)を当該比較結果に基づいて除去するように動作する。
第2の干渉波補償回路62は、その入力部が第1の干渉波補償回路61の出力に接続され、空間における遅延時間τaを考慮したとき、温度センサ10の反射器#2から反射される応答信号Sf(τ2+τa)を除去する機能を有している。これは、温度センサ10の反射器#1から反射される応答信号Sf(τ1+τa)を通過させるためである。例えば、第2の干渉波補償回路62は、送信時の変調信号Sfの位相と、受信時の応答信号Sinの位相とを比較し、送信時の変調信号Sfの位相に同期しない応答信号Sf(τ2+τa)を当該比較結果に基づいて除去するように動作する。これによって、温度センサ10の反射器#1からの応答信号Sf(τ1+τa)のS/Nが向上する。
第3の干渉波補償回路63は、その入力部が第1の干渉波補償回路61の出力に接続され、温度センサ10の反射器#1から反射される応答信号Sf(τ1+τa)を除去する機能を有している。これは、温度センサ10の反射器#2から反射される応答信号Sf(τ2+τa)を通過させるためである。例えば、第3の干渉波補償回路63は、送信時の変調信号Sfの位相と、受信時の応答信号Sinの位相とを比較し、送信時の変調信号Sfの位相に同期しない応答信号Sf(τ1+τa)を当該比較結果に基づいて除去するように動作する。これによって、温度センサ10の反射器#2からの応答信号Sf(τ2+τa)のS/Nが向上する。
図7は、第1の干渉波補償回路61等の内部構成例を示すブロック図である。図7に示す干渉波補償回路61等は、位相同期検出部64及び振幅制御部65を有している。干渉波補償回路61は、従来、受信時の応答信号Sinから取り除けなかった雑音成分を取り除くように動作する。受信時の応答信号Sinは、周囲の物体から反射してくる変調信号Sf’と、温度センサ10からの応答信号Sf(τ1+τ2)と、変調信号Sf’を温度センサ10でスペクトラム拡散変調した温度センサ10からの応答信号Sf’(τ1+τ2)とを含んだ合成波と考えられる。
受信時の応答信号中の雑音成分は、無変調の変調信号Sf’及びその変調信号Sf’をスペクトラム拡散変調した後のSAW変調信号(以下応答信号Sf’(τ1+τ2)という)から生成されると考えられる。また、変調信号Sf’の位相及び応答信号Sf’(τ1+τ2)の位相とは、同相(同期している)と考えられ、これらの信号Sf’及びSf’(τ1+τ2)と、変調信号Sfを温度センサ10でスペクトラム拡散変調した温度センサ10からの応答信号Sf(τ1+τ2)とは、反射物体が存在する場合に位相がずれる(同期していない)と考えられる。
従って、この無線応答温度測定システム100において、変調信号Sfをスペクトラム拡散変調して得られる本来の応答信号Sf(τ1+τ2)を取り出すには、受信時の応答信号Sinから、変調信号Sf’及び応答信号Sf’(τ1+τ2)を取り除き、当該応答信号SinからSf(τ1)とSf(τ2)とを分離できればよいことになる。
位相同期検出部64は、周囲の物体から反射してくる変調信号Sf’と、温度センサ10からの応答信号Sf(τ1+τ2)+Sf’(τ1+τ2)との合成波の位相に追尾する回路であって、受信時の応答信号Sinの位相を再生するようになされる。例えば、位相同期検出部64は、送信時の変調信号Sfの位相と、受信時の応答信号Sinの位相とを比較して、送信時の変調信号Sfの位相に同期した応答信号Sf(τ1+τ2)及び、当該位相に同期しない応答信号Sf’(τ1+τ2)とを検出する。
位相同期検出部64は、位相検出回路41、位相差比較回路42、LPF回路43及び位相差出力回路44を有している。位相検出回路41は、送信部12及び受信用のアンテナ体16Bに接続され、受信時の応答信号Sinと、送信時の変調信号Sfとを入力して位相差を検出するようになされる。位相検出回路41では変調信号Sfに関して、送信部12から変調信号Sfの周波数成分が参照(カンニング)され、受信時の応答信号Sinの変調信号Sf(τ1+τ2)の位相と、送信部12からの変調信号Sfの位相とが比較される。
位相検出回路41には位相差比較回路42が接続される。位相差比較回路42は、位相差出力回路44の出力と、位相検出回路41による位相差とを比較して送信時の変調信号Sfの位相に同期した応答信号Sf(τ1+τ2)及び当該位相に同期しない応答信号Sf’(τ1+τ2)に関する同期検出信号を出力するようになされる。位相検出回路41及び位相差比較回路42には、例えば、乗算器が使用される。
位相差比較回路42にはLPF回路43が接続される。LPF回路43は、同期検出信号をフィルタ処理して送信時の変調信号Sfの位相に同期した応答信号Sf(τ1+τ2)及び当該位相に同期しない応答信号Sf’(τ1+τ2)に関する変調信号Sfの位相差を推定するための位相差信号を出力する。
LPF回路43には、位相差出力回路44が接続され、位相差出力回路44は、位相差信号を位相差比較回路42及び振幅制御部65に出力するようになされる。これにより、位相同期検出部64で、送信時の変調信号Sfと受信時の変調信号Sf(τ1+τ2)との位相差を比較し、1次ループにより位相差を推定し、その位相差推定値を振幅制御部65の位相差比較回路93及び振幅調整回路95に出力することができる。
振幅制御部65は、周囲の物体から反射してくる変調信号Sf’と、温度センサ10からの応答信号[Sf(τ1+τ2)+Sf’(τ1+τ2)]との合成波の変調信号[Sf’+Sf(τ1+τ2)+Sf’(τ1+τ2)]の振幅に追尾する回路であって、受信時の応答信号の変調信号Sf(τ1+τ2)の振幅を再生するようになされる。振幅制御部65は、位相同期検出部64によって検出された送信時の変調信号Sfの位相に同期しない変調信号[Sf’+Sf’(τ1+τ2)]による応答信号を除去する。例えば、振幅制御部65は、ここで再生された受信時の変調信号[Sf’+Sf(τ1+τ2)+Sf’(τ1+τ2)]を逆相にして、これを応答信号[Sf(τ1+τ2)+Sf’(τ1+τ2)](温度センサ10のスペクトラム拡散変調信号)に加算することにより、受信時の応答信号から周囲の物体から反射してきた変調信号[Sf’ +Sf’(τ1+τ2)]による応答信号を除去し、温度センサ10からの応答信号Sf(τ1+τ2)を得るようになされる。
振幅制御部65は、例えば、演算回路91、位相検出回路92、位相差比較回路93、LPF回路94、振幅(レベル)調整回路95及び位相制御回路96を有している。演算回路91は、受信用のアンテナ体16B及び位相制御回路96に接続され、受信時の応答信号Sin=[Sf’+Sf(τ1+τ2)+Sf’(τ1+τ2)]から、位相制御回路96によって位相制御された変調信号Sf’+応答信号Sf’(τ1+τ2)を差し引く(減算する)ように動作する。なお、変調信号Sf’は受信時に周囲の物体から反射されてきた、送信時の変調信号Sfと位相がずれた成分信号である。
応答信号Sf’(τ1+τ2)は、温度センサ10で変調信号Sf’をスペクトラム拡散変調され送信されてきた、送信時の変調信号Sfと位相がずれた成分信号であって、振幅調整回路95で振幅調整された信号である。この例で、演算回路91によって、受信時の合成応答信号から、周囲物体反射を原因とする変調信号Sf’及び、その変調信号Sf’による応答信号成分を除去された温度センサ10の応答信号Sf(τ1+τ2)は、遅延固定ループ回路27及び28に出力される。
演算回路91には、位相検出回路92が接続される。位相検出回路92は、送信時の変調信号Sfと演算回路91の出力とを入力して受信時の応答信号Sinから送信時の変調信号Sfの周波数成分を取り除くように動作する。位相検出回路92には、位相差比較回路93が接続される。位相差比較回路93は、位相同期検出部64から位相差推定値と、位相検出回路92の出力信号とを入力し、この位相差推定値と出力信号とに基づいて受信時の応答信号Sinの位相差を取り除くように動作する。
位相差比較回路93にはLPF回路94が接続される。LPF回路94は、位相差比較回路93の出力信号をフィルタ処理して送信時の変調信号Sfの位相に同期しない応答信号Sf’(τ1+τ2)に関する干渉雑音の振幅値を推定するための振幅推定値(信号)を出力する。
LPF回路94には振幅調整回路95が接続される。振幅調整回路95は、LPF回路94から出力される振幅推定値及び位相差出力回路44から出力される位相差推定値を入力し、受信時の応答信号Sinに含まれる雑音成分の振幅を調整し、調整後の雑音成分を位相制御回路96に出力する。受信時の応答信号Sinには、位相同期検出部64によって検出された送信時の変調信号Sfの位相に同期しない変調信号Sf’による応答信号Sf’(τ1+τ2)が雑音成分として含まれる。この干渉波補償回路61で、変調信号Sf’による応答信号Sf’(τ1+τ2)を取り除くようにすればよい。
振幅調整回路95には位相制御回路96が接続される。位相制御回路96は、送信部12から送信時の変調信号Sfを入力すると共に、振幅調整回路95から送信時の変調信号Sfの位相に同期しない変調信号Sf’による応答信号の周波数成分と振幅成分とを入力し、周囲の物体から反射してくる変調信号Sf’と、変調信号Sf’によりスペクトラム拡散変調された温度センサ10からの応答信号Sf’(τ1+τ2)との合成波の振幅と位相を制御する。この制御によって、位相制御回路96は、演算回路91に変調信号Sf’+応答信号Sf’(τ1+τ2)を出力する。なお、位相検出回路92、位相差比較回路93、振幅調整回路95及び位相制御回路96には、例えば、乗算器が使用される。
演算回路91は、受信時の応答信号Sinから、上述の変調信号Sf’+応答信号Sf’(τ1+τ2)を差し引く(減算する)ように動作するので、送信時の変調信号Sfによってスペクトラム拡散変調された応答信号Sf(τ1+τ2)を遅延固定ループ回路27及び28に出力することができる。
なお、図示せずも、第2及び第3の干渉波補償回路62、63は、図7に示した位相同期検出部64及び振幅制御部65を有している。上述した干渉波補償回路61の出力段には、干渉波補償回路62及び63の各々の位相検出回路41が接続され、変調信号Sf’及び応答信号Sf’(τ1+τ2)を除去した後の応答信号Sf(τ1+τ2)が入力される。
干渉波補償回路62では、図7で説明した位相同期検出部64により、送信時の変調信号Sfの位相と、受信時の応答信号Sinの位相とが位相同期検出部64によって比較され、振幅制御部65により、応答信号Sf(τ1+τ2)から送信時の変調信号Sfの位相に同期しない応答信号Sf(τ2)が除去される。これにより、温度センサ10の反射器#2から反射される応答信号Sf(τ2)が除去され、その反射器#1から反射される干渉雑音の少ない、すなわち、S/Nの高い応答信号Sf(τ1)を干渉波補償回路62から遅延固定ループ回路27に出力することができる。
干渉波補償回路63では、図7で説明した位相同期検出部64により、送信時の変調信号Sfの位相と、受信時の応答信号Sinの位相とが位相同期検出部64によって比較され、振幅制御部65により、応答信号Sf(τ1+τ2)から送信時の変調信号Sfの位相に同期しない応答信号Sf(τ1)が除去される。これにより、温度センサ10の反射器#1から反射される応答信号Sf(τ1)が除去され、その反射器#2から反射される干渉雑音の少ない、すなわち、S/Nの高い応答信号Sf(τ2)を干渉波補償回路63から遅延固定ループ回路28に出力することができる。
図8は、遅延固定ループ回路27の構成例を示すブロック図である。この例では、温度センサ10から連続して応答信号Sinを受信し、拡散コード・トラッキング・ループ制御を実行するようになされる。ここで、温度センサ10から反射されてくる応答信号Sinの遅延時間(以下空間における遅延時間ともいう)をτaとし、反射器#1による表面波の反射パルス#P1の反射遅延時間をτ1とし、反射器#2による表面波の反射パルス#P2の反射遅延時間をτ2とすると、干渉波補償回路61は、τa+τ1の遅延時間成分を含んだ応答信号と、τa+τ2の遅延時間成分を含んだ応答信号Sinとを出力するようになされる。遅延固定ループ回路27では、τa+τ1だけ遅れたタイミングで受信された応答信号Sinが拡散コード・トラッキング・ループ制御するようになされる。
図8に示す遅延固定ループ回路27は、PN発生器71、3個の乗算器72A〜72C、3個のバンドパスフィルタ(BPF)73A〜73C、2個の2乗検波器74A,74B、復調器75、減算器76、ループフィルタ77、電圧可変発振器(VCO)78を備えている。
遅延固定ループ回路27は入力端子37を有している。入力端子37は、干渉波補償回路62に接続されると共に、3個の乗算器72A〜72Cに接続される。入力端子37には、τa+τ1だけ遅れたタイミングで応答信号Sinが入力される。PN発生器71は、クロック端子38に接続され、クロック信号が供給される。PN発生器71は、上述の3個の乗算器72A〜72Cに接続される。PN発生器71には図2に示したPN符号系列発生器25が使用される。
例えば、PN発生器71は、D符号列(Out)と、このD符号列を中心に1/2チップ(Chip)だけ速いE符号列と、1/2チップ遅いL符号列を発生する。PN発生器71によるE符号列は、乗算器72Aに出力される。乗算器72AはE符号列をτa+τ1の応答信号Sinに乗算するように動作する。乗算器72Aにはバンドパスフィルタ73Aが接続され、乗算後の応答信号Sinが帯域フィルタ処理するようになされる。バンドパスフィルタ73Aには2乗検波器74Aが接続され、バンドパスフィルタ73Aを通過した乗算後の応答信号Sinが2乗検波される。2乗検波器74Aには減算器76が接続され、第1の2乗検波後の応答信号Sinが入力される。
また、PN発生器71によるL符号列は、乗算器72Bに出力される。乗算器72BはL符号列をτa+τ1の応答信号Sinに乗算するように動作する。乗算器72Bにはバンドパスフィルタ73Bが接続され、乗算後の応答信号Sinが帯域フィルタ処理するようになされる。バンドパスフィルタ73Bには2乗検波器74Bが接続され、バンドパスフィルタ73Bを通過した乗算後の応答信号Sinが2乗検波される。2乗検波器74Bには上述した減算器76が接続され、第2の2乗検波後の応答信号Sinが入力される。
減算器76は、第1の2乗検波後の応答信号Sinから第2の2乗検波後の応答信号Sinを減算して差信号を出力する。減算器76には、ループフィルタ77が接続され、減算後の差信号がフィルタ処理される。この差信号には、τa+τ1の遅延時間成分を含んでいる。
ループフィルタ77には電圧可変発振器78が接続され、フィルタ処理後の差信号に基づいてクロック信号の発振周波数を可変するようになされる。これはPN発生器71のクロックジェネレータとするためである。この例で、電圧可変発振器78は送信部21のクロックジェネレータの発信周波数を参照(カンニング)し、位相のみを制御するようになされる。
この電圧可変発振器78には上述のPN発生器71が接続され、当該電圧可変発振器78から出力されるクロック信号に基づいて拡散符号系列を発生するようになされる。これにより、遅延固定ループ回路27において、温度センサ10の反射器#1から戻ってきた応答信号Sinの拡散符号系列のコード同期を採ることができる。
このように、遅延固定ループ回路27では、応答信号SinのE符号列とL符号列の相関を採り、すなわち、スペクトラム拡散信号の逆拡散を行い、E符号列とL符号列の相関値が等しい、すなわち、送信波のスペクトラム拡散符号と、受信波のスペクトラム拡散符号とが一致したタイミングでロック(追尾)するようになされる。これにより、送信波のスペクトル拡散信号の拡散符号発生タイミングとPN発生器71のクロック位相によって、温度センサ10における表面波の反射遅延時間(温度や圧力等)を取得できるようになる。
また、PN発生器71によるD符号列(Out)は、乗算器72Cに出力される。乗算器72CはD符号列をτa+τ1の応答信号Sinに乗算するように動作する。乗算器72Cにはバンドパスフィルタ73Cが接続され、乗算後の応答信号Sinが帯域フィルタ処理するようになされる。バンドパスフィルタ73Cには復調器75が接続され、乗算後の応答信号Sinが復調処理される。復調器75からは、搬送波の振幅レベルと位相情報が出力される。
このように、応答信号(受信波)SinにD符号列を掛け合わせることによって、逆拡散され、送信時の搬送波が再生される。ここで再生された搬送波の位相は、ロックしている遅延波の搬送波の位相であり、遅延固定ループ回路27は、反射器#1から反射された反射パルス#P1の影響を受けた搬送波の位相を再生するようになる。
図9A〜Cは、遅延固定ループ回路27における動作例を示す波形図である。図9Aに示す応答信号Sinは、空間における遅延時間τaと、反射器#1による表面波の反射パルス#P1の反射遅延時間τ1との影響を受けている。このような応答信号Sinは、送信波に比べてτa+τ1だけ遅れたタイミングで遅延固定ループ回路27に入力され、拡散コード・トラッキング・ループ制御するようになされる。
図9Bに示す拡散信号C(t)は、チップ幅Tcで、所定の周期で振幅±1のPN信号を成し、第1〜第3の乗算器72A〜72Cに各々出力される。この例では、PN発生器71のE符号列は、乗算器72Aに出力される。乗算器72AはE符号列をτa+τ1の応答信号Sinに乗算するように動作する。PN発生器71のL符号列は、乗算器72Bに出力される。乗算器72BはL符号列をτa+τ1の応答信号Sinに乗算するように動作する。
図9Cに示す反射器#1による表面波の反射パルス#P1は、2乗検波後の応答信号Sinである。縦軸は振幅であり、横軸は周波数fである。アンテナ体26Bで受信され、干渉波が除去された後の応答信号Sinは逆拡散され、他の物体から反射されてきた雑音信号成分が拡散される。この反射パルス#P1は、被測定対象4の温度測定に必要となる位相情報(反射遅延時間τ1)を含んでいる。空間における遅延時間τaを含めた反射パルス#P1の位相情報(τa+τ1)は位相比較回路29に出力される。
図10は、遅延固定ループ回路28の構成例を示すブロック図である。この例で遅延固定ループ回路28では、τa+τ2だけ遅れたタイミングで入力された応答信号Sinが拡散コード・トラッキング・ループ制御するようになされる。
図10に示す遅延固定ループ回路28は、PN発生器81、3個の乗算器82A〜82C、3個のバンドパスフィルタ(BPF)83A〜83C、2個の2乗検波器84A,84B、復調器85、減算器86、ループフィルタ87を備えている。遅延固定ループ回路27と異なる点は、電圧可変発振器78を省略している点である。遅延固定ループ回路28は入力端子47を有している。入力端子47は、干渉波補償回路63に接続されると共に、3個の乗算器82A〜82Cに接続される。入力端子47には、τa+τ2だけ遅れたタイミングで応答信号Sinが入力される。PN発生器81は、クロック端子48に接続され、クロック信号が供給される。PN発生器81は、上述の3個の乗算器82A〜82Cに接続される。PN発生器81には図2に示したPN符号系列発生器25が使用される。
例えば、PN発生器81のE符号列は、乗算器82に出力される。乗算器82AはE符号列をτa+τ2の応答信号Sinに乗算するように動作する。乗算器82Aにはバンドパスフィルタ83Aが接続され、乗算後の応答信号Sinが帯域フィルタ処理するようになされる。バンドパスフィルタ83Aには乗検波器84Aが接続され、バンドパスフィルタ83Aを通過した乗算後の応答信号Sinが2乗検波される。2乗検波器84Aには減算器86が接続され、第1の2乗検波後の応答信号Sinが入力される。
また、PN発生器81のL符号列は、乗算器82Bに出力される。乗算器82BはL符号列をτa+τ2の応答信号Sinに乗算するように動作する。乗算器82Bにはバンドパスフィルタ83Bが接続され、乗算後の応答信号Sinが帯域フィルタ処理するようになされる。バンドパスフィルタ83Bには2乗検波器84Bが接続され、バンドパスフィルタ83Bを通過した乗算後の応答信号Sinが2乗検波される。2乗検波器84Bには上述した減算器86が接続され、第2の2乗検波後の応答信号Sinが入力される。
減算器86は、第1の2乗検波後の応答信号Sinから第2の2乗検波後の応答信号Sinを減算して差信号を出力する。減算器86には、ループフィルタ87が接続され、減算後の差信号がフィルタ処理される。この差信号には、τa+τ2の遅延時間成分を含んでいる。
ループフィルタ87にはPN発生器81が接続され、フィルタ処理後の差信号に基づいて拡散符号系列を発生するようになされる。これにより、遅延固定ループ回路28において、温度センサ10の反射器#2から戻ってきた応答信号Sinの拡散符号系列のコード同期を採ることができる。また、PN発生器81のD符号列は、乗算器82Cに出力される。乗算器82CはD符号列をτa+τ2の応答信号Sinに乗算するように動作する。乗算器82Cにはバンドパスフィルタ83Cが接続され、乗算後の応答信号Sinが帯域フィルタ処理するようになされる。バンドパスフィルタ83Cには復調器85が接続され、乗算後の応答信号Sinが復調処理される。復調器85からは、搬送波の振幅レベルと位相情報(τa+τ2)が出力される。
図11A〜Cは、遅延固定ループ回路28における動作例を示す波形図である。図11Aに示す応答信号Sinは、空間における遅延時間τaと、反射器#2による表面波の反射パルス#P2の反射遅延時間τ2との影響を受けている。このような応答信号Sinは、送信波に比べてτa+τ2だけ遅れたタイミングで遅延固定ループ回路28に入力され、拡散コード・トラッキング・ループ制御するようになされる。
図11Bに示す拡散信号C(t)は、チップ幅Tcで、所定の周期で振幅±1のPN信号を成し、第1〜第3の乗算器82A〜82Cに各々出力される。この例では、PN発生器81のE符号列は、乗算器82Aに出力される。乗算器82AはE符号列をτa+τ2の応答信号Sinに乗算するように動作する。PN発生器81のL符号列は、乗算器82Bに出力される。乗算器82BはL符号列をτa+τ2の応答信号Sinに乗算するように動作する。
図11Cに示す反射器#2による表面波の反射パルス#P2は、2乗検波後の応答信号Sinである。縦軸は振幅であり、横軸は周波数fである。アンテナ体26Bで受信され、干渉波が除去された後の応答信号Sinは逆拡散され、他の物体から反射されてきた雑音信号成分が拡散される。この反射パルス#P2は、被測定対象4の温度測定に必要となる位相情報(反射遅延時間τ2)を含んでいる。空間における遅延時間τaを含めた反射パルス#P2の位相情報(τa+τ2)は位相比較回路29に出力される。
図12A〜Cは、位相比較回路29における動作例を示す波形図である。この例で、温度センサ10に2つの反射器#1,#2が設けられる場合であって、図1に示した位相比較回路29には、遅延固定ループ回路27から得られる位相情報(τa+τ1)と、遅延固定ループ回路28から得られる位相情報(τa+τ2)とが入力され、反射遅延時間の差(位相差)を検出するようになされる。
図12Aに示す波形は、基準クロック信号である。ここで、図8に示した遅延固定ループ回路27による拡散コード・トラッキング・ループ制御によって、図12Bに示す反射パルス#P1と、図10に示した遅延固定ループ回路28による拡散コード・トラッキング・ループ制御によって、図12Cに示す反射パルス#P2とが同期する。
また、図12Aに示した基準クロック信号に対して任意のサイプリング時刻を設定し、この時刻を基準にすると、反射器#1による反射パルス#P1は、この基準時刻からτa+τ1だけ遅延して遅延固定ループ回路27によって検出される。同様にして、反射器#2による反射パルス#P2は、この基準時刻からτa+τ2だけ遅延して遅延固定ループ回路28によって検出される。
従って、温度センサ10の反射器#1と反射器#2の反射遅延時間の差τεは、位相比較回路29によって、(1)式、すなわち、
τε={(τa+τ1)−(τa+τ2)}・・・・・(1)
によって検出される。この空間の遅延時間τaは相殺されて消去されてしまう。このことから、反射遅延時間(伝播遅延時間)の差τεは、(2)式、すなわち、
τε=(τ1−τ2) ・・・・・(2)
となる。この測定原理を使用することにより、空間の遅延時間τaの影響なしに温度センサ10の中を伝播する表面波の反射パルス#P1と#P2の反射遅延時間の差τεを測定することができる。この反射遅延時間の差τεから温度センサ10が検知した被測定対象4の温度を求めることができる。これにより、反射器相互間の干渉および温度センサ10以外の物体からの反射を分離することができ、当該反射遅延時間の差τεに基づいて被測定対象4の温度や圧力等を高精度に測定することができる。
なお、復調器85から搬送波のレベル及び位相情報が得られるので、この搬送波の位相情報によって、反射遅延時間の差τεを求めれば、これによっても、温度を測定できるようになる。例えば、搬送波を再生し、受信搬送波の位相θ1、θ2と送信搬送波の位相θ1r、θ2rとを検出し、これらの位相差(θ1−θ1r)、(θ2−θ2r)を求める。
また、反射器#1で基準反射遅延時間をτ1rとし、反射器#2で基準反射遅延時間をτ2rとして、これら基準反射遅延時間τ1r、τ2rを検出し、これらの時間差(τ1−τ1r)、(τ2−τ2r)を求める。これらの位相差(θ1−θ1r)、(θ2−θ2r)と、反射遅延時間の差(τ1−τ1r)、(τ2−τ2r)と、温度変化との間には、(3)、(4)式のような関係にある。
(θ1−θ1r)∝(τ1−τ1r)∝ 温度変化 ・・・・・(3)
(θ2−θ2r)∝(τ2−τ2r)∝ 温度変化 ・・・・・(4)
この(3),(4)式からも、詳細な精度で温度を測定できるようになる。
図13A〜Cは、位相比較回路29における反射遅延時間の差τεの検出例を示す波形図である。
この例で被測定対象4の温度上昇によって、反射器#1による反射パルス#P1と、反射器#2による反射パルス#P2との反射遅延時間の差τεが大きくなり、反対に、温度降下によって、これらの反射遅延時間の差τεが小さくなる場合を想定する。このような温度センサ10には、温度上昇によって基板1が膨張し、表面波変換器2から反射器#1や#2等に至る離隔距離が伸び、反対に、温度降下によって、基板1が縮小し、表面波変換器2から反射器#1や#2等に至る離隔距離が縮む性質のセンサ基板1を使用するとよい。
図13Aに示す例では、反射パルス#P1と反射パルス#P2との反射遅延時間の差τεがτε’−Δτの関係に有る場合である。この場合の被測定対象4の温度をT1とする。また、図13Bに示す反射パルス#P1と反射パルス#P2との反射遅延時間の差τεがτε’の関係に有る場合である。この場合の被測定対象4の温度をT2とする。更に、図13Bに示す反射パルス#P1と反射パルス#P2との反射遅延時間の差τεがτε’+Δτの関係に有る場合である。この場合の被測定対象4の温度をT3とする。上述の例で、被測定対象4の温度はT1<T2<T3なる関係にある。このようなセンサ基板1に与える温度の変化に対して、基板1が伸縮する量との関係を予め見出して参照テーブル化して準備して置くと良い。
この例で、センサ基板1にLiNbO3系(YZ断面)の結晶基板1を使用すると、その直線形の温度係数が約90ppm/℃であることから、±1℃の精度で温度を測定できるようになる。
図14は、メモリ部32における温度Tx対反射遅延時間の差τεの関係例を示す図である。図14において、縦軸はセンサ基板1に与える温度(被測定対象4の温度に比例)であり、横軸は、基板1の伸縮量を反映した反射遅延時間の差τεである。この例では、Tx対τεの特性グラフが直線的(一次関数的)に変化する場合を示している。
上述の例で、センサ基板1の温度がT2(例えば、常温)のとき、反射遅延時間の差τεはτε’である。センサ基板1の温度がT2からΔTだけ下がったとき、反射遅延時間の差τεはτε’−Δτとなる。反対に、センサ基板1の温度がT2からΔTだけ上昇したとき、反射遅延時間の差τεはτε’+Δτとなる。このような関係を予めセンサ基板1を構成する部材毎に見出し、図1に示したメモリ部32に格納して置き、反射遅延時間の差τεをアドレスにしてこの温度データD1を読み出すようにすればよい。温度データD1で足りない部分は補間にして算出するようにしてもよい。
なお、温度データD1は、制御装置31により、実時間に算出するようにしてもよい。例えば、温度T℃における表面波の速度をV(T)とし、温度To℃における表面波の速度をV(To)とし、温度係数をTkとしたとき、(5)式、すなわち、
V(T)=V(To)・[1−Tk(T−To)]・・・・(5)
により計算する。具体的には、反射遅延時間の差τεから、温度T℃における表面波の速度をV(T)を求め、温度係数Tkを(5)式に代入して、被測定対象4の温度T℃を算出するようになされる。
又は、温度T℃における表面波の中間周波数をfo(T)とし、温度To℃における表面波の中間周波数をfo(To)としたとき、(6)式、すなわち、
fo(T)=fo(To)・[1−Tk(T−To)]・・・・(6)
により計算する。この場合には、反射遅延時間の差τεから、温度T℃における表面波の中間周波数fo(T)を求め、温度係数Tkを(6)式に代入して、被測定対象4の温度T℃を算出するようになされる。
又は、温度T℃における表面波の伝播時間τ(T)とし、温度To℃における表面波の伝播時間τo(To)としたとき、(7)式、すなわち、
τ(T)=τ(To)・[1−Tk(T−To)]・・・・(7)
により計算する。この場合には、反射遅延時間の差τεから、温度T℃における表面波の伝播時間τ(T)を求め、温度係数Tkを(7)式に代入して、被測定対象4の温度T℃を算出するようになされる。
続いて、本発明に係る無線応答温度測定システム100を利用した体温測定例を説明する。図15は、無線応答温度測定システム100における体温測定例を示すフローチャートである。
この実施例では、患者さんの体温を無線測定するスペクトラム拡散通信方式の無線送受信装置40に干渉波補償手段60を備え、送信時の変調信号Sfの位相と、受信時の応答信号Sinの位相とを比較し、送信時の変調信号Sfの位相に同期しない変調信号Sf’による応答信号Sf’(τ1+τ2)を当該比較結果に基づいて除去する場合を例に挙げる。このシステム100では、図1〜図14に示した温度センサ10と無線送受信装置40が予め準備される。温度センサ10は、スペクトラム拡散通信方式により拡散変調される無線応答測定用の変調信号を受けて当該被測定対象4の温度に従った応答信号Sinを放射するものである。この例では、図14に示したような温度Tx対反射遅延時間の差τεの関係例を記憶した参照テーブルがメモリ部32に準備されている場合を想定する。
これを体温測定条件にして、図15に示すフローチャートのステップA1で温度センサ10を被測定対象4である患者の体の一部に取付ける。例えば、患者の腕等に温度センサ10を貼るようになされる。そして、ステップA2で患者に取付けられた温度センサ10に対して、例えば、看護婦は、無線送受信装置40を温度センサ10に向け、操作部34を操作して無線送受信装置40から変調信号Sfを輻射する。これと共に、ステップA3で無線送受信装置40は、当該温度センサ10から戻ってくる応答信号Sinを受信する。このとき、図6に示した干渉波補償手段60では、温度センサ10以外の物体から反射される変調信号Sf’、及び、温度センサ10から輻射される位相がずれた応答信号Sf’(τ1+τ2)を消去するように動作する。例えば、干渉波補償回路61においては、図7で説明した位相同期検出部64により、送信時の変調信号Sfの位相と、受信時の応答信号Sinを成す変調信号Sf’の位相とが比較され、振幅制御部65により、送信時の変調信号Sfの位相に同期しない変調信号Sf’による応答信号Sf’(τ1+τ2)を当該比較結果に基づいて除去するようになされる。
また、干渉波補償回路62では、図7で説明した位相同期検出部64により、送信時の変調信号Sfの位相と、受信時の応答信号Sinの位相とが位相同期検出部64によって比較され、振幅制御部65により、応答信号Sf(τ1+τ2)から送信時の変調信号Sfの位相に同期しない応答信号Sf(τ2)が除去される。この結果、温度センサ10の反射器#1から反射される応答信号Sf(τ1)が、干渉波補償回路62から遅延固定ループ回路27に出力される。
更に、干渉波補償回路63では、図7で説明した位相同期検出部64により、送信時の変調信号Sfの位相と、受信時の応答信号Sinの位相とが位相同期検出部64によって比較され、振幅制御部65により、応答信号Sf(τ1+τ2)から送信時の変調信号Sfの位相に同期しない応答信号Sf(τ1)が除去される。この結果、温度センサ10の反射器#2から反射される応答信号Sf(τ2)が、干渉波補償回路63から遅延固定ループ回路28に出力される。
遅延固定ループ回路(DLL(τ1))27は、当該温度センサ10の反射器#1から戻ってきた応答信号Sinであって、その干渉波を除去した後の応答信号Sinの拡散符号系列のコード同期を採るように動作する。遅延固定ループ回路(DLL(τ2))28は、温度センサ10の反射器#2から戻ってきた応答信号Sinであって、その干渉波を補償した後の応答信号Sinの拡散符号系列のコード同期を採るように動作する。
そして、ステップA4で無線送受信装置40は、温度センサ10に輻射する変調信号と当該温度センサ10から受信した応答信号Sinとに基づいて該温度センサ10を伝播する表面波の反射遅延時間の差τεを検出する。このとき、位相比較回路29は、遅延固定ループ回路27から得られる位相情報(τa+τ1)と、遅延固定ループ回路28から得られる位相情報(τa+τ2)とを入力して位相差を検出するように動作する。ここで検出された反射遅延時間の差τεに基づいて無線送受信装置40は、ステップA5で患者の体温T℃を演算する。このとき、制御装置31は、図14に示したメモリ部32の参照テーブルにおいて、反射遅延時間の差τεをアドレスにして、温度データD1を読み出すようになされる。
その後、ステップA6に移行して制御装置31は、表示データD2に基づいて患者の体温T℃を表示部33に表示するようになされる。表示部33における体温T℃の表示はデジタルでもアナログ表示でも、どちらでもかまわない。このとき、体温の記録をプリントアウト可能なように無線送受信装置40にプリント機能を持たせてもよい。
そして、ステップA7で体温測定終了を判断する。この際の判断は、無線送受信装置40を取り扱うオペレータ(この場合、看護婦)である。電源をオフして測定終了する。また、継続して患者の体温を測定する場合は、ステップA2に戻って上述した処理を繰り返すようになされる。なお、温度センサ10は、患者の腕等に貼り放しても、その都度、取り外すようにしてもどちらでもかまわない。
このように、本発明に係る第1の実施例としての無線応答温度測定システム及び無線応答温度測定方法によれば、患者の体温等を無線測定する場合に、無線送受信装置40には干渉波補償手段60が備えられ、送信時の変調信号Sfの位相と、受信時の応答信号Sinの位相とを比較し、送信時の変調信号Sfの位相に同期しない変調信号Sf’による応答信号Sf’(τ11+τ2)を当該比較結果に基づいて除去するようになされる。そして、当該無線送受信装置40は、温度センサ10に輻射する変調信号Soutと当該温度センサ10から放射される応答信号Sinとに基づいて該温度センサ10を伝播する表面波の反射遅延時間の差τεを検出するようになされる。
従って、信号応答体以外の物体から反射される変調波及び、当該信号応答体から輻射される位相がずれた応答信号を消去することができ、当該信号応答体から輻射される最適な反射遅延時間の差τεに基づいて患者の体温等を高精度に測定することができる。この実施例では、患者の温度等を測定する場合について説明したが、これに限られることはなく、被測定対象4の圧力を測定することもできる。この場合は、上述の温度係数Tkに代えて圧力係数を各々の式に代入すればよい。
1・・・基板、2・・・表面波変換器、10・・・温度センサ(信号応答体)、10’・・・信号応答体、21・・・送信部、22,23・・・発振器、24,72A〜72C,82A〜82C・・・乗算器、25,71,81・・・PN発生器、26A,26B・・・アンテナ体、27,28・・・第1,第2の遅延固定ループ回路、29・・・位相比較回路、30・・・受信部、31・・・制御装置、32・・・メモリ部、33・・・表示部、34・・・操作部、60・・・干渉波補償手段、61〜63・・・第1〜第3の干渉波補償回路、75,85・・・復調器、78・・・電圧可変発振器、100・・・無線応答温度測定システム(無線応答測定システム)、100’・・・無線応答測定システム