JP4581181B2 - 炭素繊維強化樹脂複合体および成形品、ならびに炭素繊維の回収方法 - Google Patents
炭素繊維強化樹脂複合体および成形品、ならびに炭素繊維の回収方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭素繊維強化樹脂複合体(組成物、成形材料等)や、成形品に関する。さらに詳しくは、力学的特性および導電性に優れ、成形が容易で、使用後は自然環境下で分解し環境への負荷が少ない炭素繊維強化樹脂組成物および成形材料等の複合体、これらを成形してなる電子機器用筐体などの成形品に関する。また、本発明は、炭素繊維の力学的特性や電気的特性を高く保ったまま炭素繊維を回収する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
炭素繊維を強化繊維とする繊維強化複合材料は、剛性や耐衝撃性など力学的特性に優れ、宇宙・航空分野、自動車工業分野、エネルギー分野、スポーツ用品分野、レジャー用品分野などの各種の産業分野に幅広く使用されている。また、炭素繊維は基質が導電性であることから、電磁波シールド性や制電性が要求されるICトレーやパソコンなどの電子機器用筐体などにおいても幅広く使用されている。
【0003】
繊維強化複合材料のマトリックス樹脂に使用されている樹脂には、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂がある。特に、熱可塑性樹脂を用いた繊維強化複合材料は、溶融成形による製品のリサイクルが可能なため注目を集めている。しかし、製品が廃棄された場合、樹脂は一般に自然環境下での分解速度が極端に遅いため、埋没処理をしても半永久的に地中に残留する問題が生じる。
【0004】
このような問題に対し、近年、生分解性を有する樹脂がいくつか開発され、注目を集めている。これらの樹脂は、動物の体内では数カ月から1年以内に100%生分解し、また、土壌や海水中に置かれた場合、湿った環境下では数週間で分解を始め、約1年から数年で消滅し、さらに、分解生成物は人体に無害な二酸化炭素と水になるという特性を有する。例えば、でんぷんとポリビニルアルコールを含む樹脂組成物、でんぷんとポリカプロラクトンを含む樹脂組成物、セルロースアセテート、1,4−ブタンジオールとコハク酸との脱水縮合物、ポリカプロラクトン、ヒドロキシ吉草酸とヒドロキシ酪酸との共重合体、ポリ乳酸等がその例である。
【0005】
このような生分解性を有する樹脂をマトリックス樹脂として用いることにより、廃棄物の問題は解決できると考えられるが、炭素繊維を強化繊維とする複合材料の場合、強度、剛性、耐衝撃性、疲労特性などの力学特性や、電磁波シールド性、導電性、制電性などの電気的特性等の要求特性が非常に高いレベルにあることが多い。しかし、このような生分解性を有する樹脂をマトリックス樹脂に用いた場合は、高い力学的特性や電気的特性を実現することが難しく、実用性に乏しいのが現状である。
【0006】
また、熱可塑性樹脂を用いた成形品は、再度の溶融成形が可能であり、リサイクルの面で優れる。しかし、射出成形などによる成形を再度行うと、炭素繊維が短く切断されてしまうため、最初の成形品と同等の力学的特性、電気的特性を保つことは難しく、用途が限定される。また、成形品から樹脂を除去して炭素繊維のみを抽出して回収、再利用する方法も検討されている。具体的には、樹脂を高温で分解して除去する方法や、酸、アルカリ、有機溶媒などに樹脂を溶解あるいは分解して除去する方法などがある。しかし、樹脂を高温で分解する方法は、高温が必要なためにエネルギーの消費が多かったり、炭素繊維が高温に長時間さらされるために炭素繊維の力学的特性、電気的特性が低下する可能性がある。また、酸、アルカリ、有機溶媒などを用いる方法は、廃液の処理などの問題が残る。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、生分解性を有し環境負荷が小さいとともに、優れた力学的特性、優れた導電性を実現する炭素繊維強化樹脂複合体(組成物、成形材料等)、および成形品を得ることを課題とする。また、エネルギーの消費を少なく押さえつつ、炭素繊維の力学的特性、電気的特性を高く保ったまま成形品から炭素繊維を回収する方法を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定の結晶サイズを有する炭素繊維とポリ乳酸とを組み合わせることにより、生分解性を有し環境負荷が少なく、かつ優れた力学的特性と優れた電気的特性を有する成形品が得られる炭素繊維強化樹脂複合体(組成物および成形材料等)を提供できること、また、生分解樹脂を用いた成形品から、エネルギーの消費を少なく押さえつつ、炭素繊維の力学的特性、電気的特性を高く保ったまま炭素繊維を回収する方法を提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の炭素繊維強化樹脂複合体は次の構成を有する。すなわち、結晶サイズが1.4〜4.5nmの範囲内である炭素繊維と、ポリ乳酸を含んでなることを特徴とする炭素繊維強化樹脂複合体。
【0010】
又は、結晶サイズが1.4〜4.5nmの範囲内である炭素繊維とポリ乳酸を含んでなる炭素繊維強化樹脂複合体またはその成形品から樹脂を除去することによる炭素繊維の回収方法である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の形態を説明する。
【0012】
本発明で用いる炭素繊維は、で結晶サイズが1.4〜4.5nmの範囲内である。結晶サイズが1.4nmより小さいと、炭素繊維の導電性が低下する結果、成形品の電磁波シールド性や導電性が低いものになる。また、結晶構造が十分に発達しない状態となることから、引張、曲げ強度など、炭素繊維に本来期待されている力学特性が低下する。一方、4.5nmを越えると、炭素繊維の弾性率が高くなり、引張、曲げなどの応力により破壊にいたるまでのひずみ量が小さくなるため、例えば射出成形の際などにスクリュー等で混練したときに、炭素繊維が切断されやすくなる結果、成形品中の繊維長が短くなり、電磁波シールド性や制電性が低くなる。より好ましい炭素繊維の結晶サイズは1.5〜3.5nm、さらに好ましくは1.7〜2.5nmである。尚、結晶サイズの測定方法としては、広角X線回折法が好適であり、より詳細な測定方法は後述するが、何らこれらに限定されるものではない。
【0013】
また、炭素繊維は、繊維断面の直径の平均(平均繊維径)が3〜15μmの範囲内であることが好ましい。平均繊維径が3μm未満では、炭素繊維束中への樹脂の含浸が困難となり、成形品中での炭素繊維の分散性に劣るなどの問題を生じる。一方、平均繊維径が20μmを超えると、力学的特性に優れる炭素繊維を得ることが困難になり、所望の補強効果が得られにくい。より好ましくは5〜11μmであり、さらに好ましくは6〜9μmである。
【0014】
また、本発明で使用する炭素繊維としては、次の特性(A)および/または特性(B)を満たすものがさらに好ましい。
【0015】
(A):ラマン散乱強度比Rs1が0.6〜0.93の範囲であること。
(B):ラマン散乱強度比Rs2が0.03〜0.72の範囲であること。
ここで、Rs1=I1/I3、Rs2=I2/I3である。
【0016】
ただし、I1:ラマンシフト1360cm-1付近に現れる炭素繊維表面のラマン散乱強度の極大値、
I2:ラマンシフト1480cm-1付近に現れる炭素繊維表面のラマン散乱強度の極小値、
I3:ラマンシフト1580cm-1付近に現れる炭素繊維表面のラマン散乱強度の極大値である。
【0017】
なお、前記I1、I2 、I3は、ベースライン補正後のラマン散乱強度についてのものである。上記ベースライン補正とは、600cm-1〜2200cm-1のラマンシフト範囲において、ラマンスペクトルのベースラインを直線近似し、その近似直線からの距離をラマン散乱強度とし、測定時のベースラインの傾きを補正する操作のことをいう。又、前記ラマン散乱強度の極値の波数(cm-1)は炭素繊維表面の黒鉛の微細構造の差などにより±20cm-1程度変動することがあるので「付近」なる表現を用いた。
【0018】
このような特性を有する炭素繊維を用いた場合、特異的に高い導電性、薄肉成形性(特に成形時の流動性)、および外観品位を兼ね備えた炭素繊維強化樹脂複合体を提供することができる。すなわち、特定のラマンスペクトルを有する炭素繊維が、上記の高導電性、薄肉成形性、および外観品位を同時に満足するという優れた効果を有する。前記ラマンスペクトルによる選定は、炭素繊維の様々な特性を各々測定することなく、簡便に、かつ、正確に選定することができることから、工業的見地からも非常に有意義である。
【0019】
かかる炭素繊維としては、その一つの選択要件は、Rs1(I1 /I3)が、0.6〜0.93である。Rs1が0.6未満である炭素繊維は、炭素繊維自体の導電性は高いが、射出成形での混練によって炭素繊維が切断されやすいことがあり、成形品の導電性や力学特性が低下する場合がある。好ましくは0.66〜0.9、さらに好ましくは0.67〜0.85の範囲にあるものを使用するのがよい。すなわち、このRs1 が、0.6〜0.93の範囲外の炭素繊維を用いた場合には、導電性が悪くなり、成形品の力学的特性も劣るものとなる。
【0020】
また、かかる炭素繊維としての別の選択方法の一つは、ラマンシフト1480cm-1付近に現れるラマン散乱強度の極小値I2 と、ラマンシフト1580cm-1付近に現れるラマン散乱強度の極大値I3 とのラマン散乱強度比Rs2(I2/I3)が、0.03〜0.72、望ましくは0.05〜0.7、更に望ましくは0.07〜0.68の範囲にある炭素繊維を選択して使用するのがよい。
【0021】
かかる炭素繊維、つまりRs2 が、0.03〜0.72の範囲にある炭素繊維と、その範囲外の炭素繊維との効果的な違いは、前記方法で選択したもの場合と同様であり、Rs2が0.03以下の場合は、炭素繊維自体の導電性は高いが射出成形での混練によって、炭素繊維が切断されやすく、従って成形品の導電性や力学特性が低下し好ましくない。また、0.72以上では炭素繊維自体の導電性が悪く、また、炭素繊維の力学特性も劣るため、成形品の剛性が低くなり、導電性と薄肉成形性を兼ね備えた炭素繊維強化樹脂複合体を得ることが困難になる。 本発明において、さらに好ましい構成要素の炭素繊維として、特性(C)および/または(D)を満たすものがあげられる。
(C):炭素繊維表面と内層のラマン散乱強度比の比Rs1/Ri1が0.7〜1.3の範囲である。
(D):炭素繊維表面と内層のラマン散乱強度比の比Rs2/Ri2が0.7〜1.3の範囲である。
【0022】
ここで、Ri1=I4/I6、Ri2=I5/I6である。
【0023】
ただし、I4:ラマンシフト1360cm-1付近に現れる炭素繊維表面から2μmの深さの位置のラマン散乱強度の極大値、
I5:ラマンシフト1480cm-1付近に現れる炭素繊維表面から2μmの深さの位置のラマン散乱強度の極小値、
I6:ラマンシフト1580cm-1付近に現れる炭素繊維表面から2μmの深さの位置のラマン散乱強度の極大値である。
【0024】
なお、前記I4、I5、I6は、ベースライン補正後のラマン散乱強度についてのものである。上記ベースライン補正とは、600cm-1〜2200cm-1のラマンシフト範囲において、ラマンスペクトルのベースラインを直線近似し、その近似直線からの距離をラマン散乱強度とし、測定時のベースラインの傾きを補正する操作のことをいう。
【0025】
また、電流は炭素繊維表面を選択的に流れる傾向にあることから、できるだけ炭素繊維表面の電気抵抗は低いことが好ましい。さらに、炭素繊維と炭素繊維が接触したときに、その接触抵抗が低いことが成形品の導電性向上に必要である。接触抵抗は、炭素繊維表面の導電性や凹凸、断面形状、サイジング剤等の表面状態で大きく変化し、これが成形品の導電性の程度を左右する場合が多い。一方、炭素繊維は、焼成終了時においては、炭素繊維表面に近くなるほど黒鉛化の結晶性が高く、遠くなるほど結晶性が低くなる傾向がある。これは焼成工程において、繊維表面から繊維内部への熱伝導が遅れるためとか、繊維内部で発生する分解ガスの拡散による影響を受けるためにこのような傾向になると推測している。ところが、炭素繊維の製造工程では、焼成工程の次に、酸またはアルカリ電解質水溶液中で電解表面処理を、さらにはサイジング剤処理が通常行われている。これは、コンポジットの力学的特性を改善するために行われる処理であるが、処理後の表面の結晶性は低下している場合が多く、このように結晶性が低くなることは、導電性低下をもたらすものであり好ましくない。本発明は表面処理などによる結晶性低下の程度を炭素繊維表面と内部をラマン散乱強度比で比較し、上述の数値を満足するものを採用することにより、良好な導電性を安定して得ることができることを見いだしたものである。すなわちRs1/Ri1および/またはRs2/Ri2が0.7〜1.3の範囲であることが好ましいが、より好ましくは0.8〜1.2の範囲、さらに好ましくは0.9〜1.1の範囲にある炭素繊維である。すなわち、Rs1/Ri1および/またはRs2/Ri2が、0.7〜1.3の範囲外の炭素繊維を用いた場合には、導電性低下の原因になることがあるため好ましくない。0.7未満の炭素繊維は、元々の炭素繊維の基質が2層構造に近いものであることから、成形工程での混練等によって炭素繊維が切断されやすく成形品の導電性や力学特性が低くなり得るため好ましくない。繊維表面から2μmの深さの内層の黒鉛構造は表面処理などによって実質的に変化しないため、炭素繊維内層の黒鉛構造を記述するのに好適であり、これが深さ2μmのラマンスペクトルを選択した理由である。
【0026】
上記特性のすべてを満たす特定の炭素繊維は、さらに優れた高導電性と高薄肉成形性を兼ね備えた炭素繊維強化樹脂複合体を確実に提供することができるものであるため一層好ましい。結晶サイズと表面のラマン強度さらには炭素繊維内層のラマン散乱強度で選択した炭素繊維を用いた場合は、確実に本発明の課題を満足する炭素繊維強化樹脂複合体を提供することができる利点がある。
【0027】
本発明の炭素繊維はアクリル系繊維、ピッチ、レーヨン等を原料とすることができるが、特にアクリロニトリルを主成分としたアクリル系繊維から製造された炭素繊維が工業的な生産性に優れ、かつ力学特性にも優れており好ましい。アクリル系繊維としては耐炎化反応を促進するモノマー成分を共重合したものが好ましく、このような成分としてイタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸およびそれらのメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、あるいはアリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、およびそれらのアルカリ金属塩等を上げることができるがこの限りではない。紡糸方法は湿式紡糸法や乾湿式紡糸法を適用することが好ましいが特に限定されるものではない。
【0028】
アクリル系炭素繊維は、アクリロニトリルを主成分として重合し、それを紡糸して得たアクリル系繊維を200〜400℃の空気雰囲気中で加熱して耐炎化繊維に転換する耐炎化工程と、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性雰囲気中でさらに高温で加熱して炭化する炭化工程を経ることで得られる(耐炎化工程と炭化工程をあわせて焼成工程と呼ぶ)。アクリル系繊維の紡糸には、湿式紡糸、乾湿式紡糸、乾式紡糸、溶融紡糸などの方法が用いられる。本発明で使用する炭素繊維は、アクリル系繊維を耐炎化し、次いで炭化する温度としては1000℃〜2300℃を採用することが好ましい。好ましくは1200〜1900℃である。1000℃より低い温度では、目的とする結晶サイズが小さく、炭素繊維自体の導電性が低下することがあり、しかも力学特性が低くなることがあり、2300℃より高い温度では、結晶サイズが大きくなり、炭素繊維自体の導電性は良好であるが、炭素繊維がもろくなり射出成形の混練時の剪断力で細かく切れて成形品の導電性が低下することがあるためである。
【0029】
また、本発明で用いる炭素繊維は、ストランド引張弾性率が200〜450GPaであることが好ましい。ストランド引張弾性率が200GPaより低い場合は、得られる成形品の力学的特性(特に衝撃強度)が不足することがあり、450GPaより高い場合は、例えば射出成形などの際にスクリュー等で混練したときに炭素繊維が切断されたり、樹脂複合体、およびその成形品の導電性を安定して制御することが困難になったり成形品の力学的特性が低下し目標の力学的特性を達成することが困難になることがある。好ましくは220GPa以上350GPa以下である。
【0030】
また、本発明で用いられる炭素繊維は、炭素繊維強化樹脂複合体中に10〜60重量%の範囲で含まれていることが好ましい(より好ましくは10〜40重量%、更に好ましくは15〜35重量%、最も好ましくは18〜33重量%)。10重量%より低いと樹脂複合体、およびその成形品の強度、剛性、導電性、特に電磁シールド性が低下することがあり、また60重量%を越えると、成形時の流動性が低下し、例えば射出成形時に金型キャビティに樹脂複合体が完全に充填できないことがあるためである。
【0031】
高い力学的特性を付与するためには、好ましくは引張破断伸度が1.5%以上、より好ましくは引張破断伸度が1.7%以上、更に好ましくは引張破断伸度が1.9%以上の炭素繊維を用いるのがよい。本発明で使用する炭素繊維の引張破断伸度に上限はないが、一般的には5%未満であることが好ましい。
【0032】
炭素繊維の表面処理方法には、電解処理、薬液処理、プラズマ処理など、各種の方法があるが、電解処理が好ましい。電解処理に用いられる電解液としては、硫酸、硝酸、塩酸等の無機酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウムなどの無機水酸化物、アンモニア、または、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩類、酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム等の有機塩類の水溶液、さらにこれらのカリウム塩、バリウム塩あるいは他の金属塩、およびアンモニウム塩、またはヒドラジンやヒドラジンの塩化物、臭化物、硫酸塩などの水溶液が挙げられる。この中でも電解液として無機酸が好ましく、硫酸、硝酸が好ましく使用される。
【0033】
炭素繊維のサイジング剤としては特に制限がなく、通常炭素繊維に用いられているものが好ましく、マトリックス樹脂に用いるのと同種あるいはマトリックス樹脂と相溶性を有する生分解性を有する樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等が好ましい。
【0034】
本発明の炭素繊維強化樹脂複合体においてマトリックス樹脂として用いるのは、ポリ乳酸である。このようなポリ乳酸には、市販品も使用できる。例えば、エコプレイ(登録商標、カーギル製)、ラクティ(登録商標、(株)島津製作所製)、レイシア(登録商標、三井化学(株)製)などが挙げられる。
【0036】
また、優れた力学的特性を有するためには、炭素繊維との接着性にすぐれる樹脂が必要となるが、この点ではエステル結合を有する樹脂が好ましく、このような点でもポリ乳酸が好ましい。
【0037】
本発明において用いる「ポリ乳酸」という語の概念には、ポリ乳酸、乳酸−ヒドロキシカルボン酸共重合体等のコポリ乳酸、及び、ポリ乳酸及び乳酸−ヒドロキシカルボン酸共重合体の混合物等のポリマーブレンドやポリマーアロイを包含する。ポリ乳酸の原料としては、乳酸類及びヒドロキシカルボン酸類等が用いられる。乳酸類の具体例としては、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸又はそれらの混合物、又は、乳酸の環状2量体であるラクタイドを挙げることができる。また、乳酸類と併用できるヒドロキシカルボン酸類の具体例としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカルボン酸を挙げることができ、さらに、ヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、グリコール酸の2量体であるグリコライドや6−ヒドロキシカプロン酸の環状エステルであるε−カプロラクトンを挙げることができる。ここで、コポリ乳酸は、ランダム共重合体であっても、ブロック重合体であっても、両者の混合物であってもよい。これらの態様のポリ乳酸は、単独で用いることもできるし、任意の2種類以上の組合せで用いることもできる。
【0038】
ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)や分子量分布は、実質的に、成形加工が可能であれば特に制限されない。本発明で使用するポリ乳酸の分子量は、実質的に充分な機械物性を示すものであれば特に制限されないが、一般的には、重量平均分子量(Mw)として、1万〜50万が好ましく、3万〜40万がより好ましく、5万〜30万がさらに好ましい。一般的には、重量平均分子量(Mw)が1万より小さい場合、機械物性が充分でなかったり、逆に分子量が50万を超える場合、取扱困難となったり、不経済となったりする場合がある。
【0039】
本発明では、炭素繊維を充填することによって優れた導電性を付与することができるが、さらに他の導電性フィラー、例えば、カーボンブラック、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、パラジウム、鉄、ステンレス鋼、酸化錫、酸化インジウム、酸化鉛、炭化ケイ素、炭化ジルコニウム、炭化チタンなどを、任意の形態(例えば、粉末、フレーク、顆粒、ビーズ、繊維、ウィスカー等の形状)で、単一または複数種を合わせて用いることも可能である。
【0040】
また、ポリ乳酸に、改質剤として、エラストマー、熱可塑性エラストマー、エラストマー粒子、熱可塑性樹脂粒子、無機粒子などを配合することも可能である。エラストマー、熱可塑性エラストマー、エラストマー粒子、熱可塑性樹脂粒子は、成形品の耐衝撃性を向上させる目的で配合される場合が多い。また、無機粒子は、成形品の剛性を向上させる目的で配合される場合が多い。また、ポリ乳酸に、難燃剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、結晶核剤、滑剤、離型剤、着色剤、相溶化剤などを配合することも可能である。
【0041】
本発明の炭素繊維強化樹脂複合体とは、炭素繊維とマトリクス樹脂よりなるものであり、両者が均一或いはランダムに混合された形態や、マトリクス樹脂中に炭素繊維が実質上一定方向に配向した形態、又は、その配向した炭素繊維近傍に第3の成分が局在して配置された形態などが挙げられるが特に限定されるものではない。尚、1番目の形態は、一般には樹脂組成物と呼称されていることが多く、又、第2、3の形態は成形材料に好適に用いられるものであるが、特に限定されるものではない。
【0042】
本発明の成形材料は、加熱成形、圧縮成形、射出成形、ブロー成形、押出成形などの公知の方法で成形品を得るための材料である。成形材料を構成する炭素繊維、ポリ乳酸としては、前記した炭素繊維強化樹脂複合体の詳細な説明において好ましいとしたものを用いるのが良い。成形材料には、本発明の炭素繊維強化樹脂複合体からなる射出成形用ペレット、引き揃えた炭素繊維束、織物、マット、不織布、ニット、組み紐などにポリ乳酸を含浸あるいは付着させたプリプレグ、ポリ乳酸を紡糸して得られるフィラメントと炭素繊維フィラメントとを混繊した混繊糸、ポリ乳酸を紡糸して得られる繊維束と炭素繊維束とから得られる交織布など、様々な材料が挙げられるが、短いサイクルの成形が可能で大量生産に向く点で射出成形用ペレットが好ましい。
【0043】
射出成形用ペレットとしては、炭素繊維とポリ乳酸および添加剤などを1軸または2軸の押出機で溶融混練して押し出し、さらに必要に応じてカットしたコンパウンドペレットや、炭素繊維束をポリ乳酸で被覆または含浸させ、成形材料の長手方向はほぼ同一の断面形状で適宜ある長さにカットした長繊維ペレットがある。
【0044】
本発明の炭素繊維強化樹脂複合体および成形材料、特に射出成形用ペレットを成形してなる成形品が、優れた導電性と力学的特性(強度、剛性、衝撃強度等)を兼ね備えるためには、成形品中の炭素繊維の長さを長くすることが有効であるが、コンパウンドペレットでは得られない導電性と力学特性を得るためには、前述のペレットの中でも長繊維ペレットの形態をとることが望ましい。
【0045】
また、長繊維ペレットを構成する炭素繊維の長さは、1〜10mmの範囲であることが好ましい(より好ましくは3〜10mm、更に好ましくは5〜9mm)。1mmより短い場合は成形品中の炭素繊維の長さが短く、導電性、力学的特性が低下することがあり、10mmより長い場合は射出成形するときの流動性が悪く成形品の外観不良や炭素繊維の分散性低下による導電性、力学的特性低下をおこすことがあるためである。
【0046】
本発明でいう長繊維ペレットとは、例えば特公昭63−37694号公報に示されるような、繊維がペレットの長手方向にほぼ平行に配列し、ペレット中の繊維の長さがペレット長さとほぼ同一、もしくはそれ以上であるペレットが含まれるものを指す。
【0047】
含浸された長繊維ペレットの場合、例えば、
(1)樹脂のエマルジョン、サスペンジョン、溶液あるいは溶融物の入った含浸槽中を強化繊維束を通して、樹脂など本発明の各成分を含浸させる方法、
(2)樹脂粉末などを振動や気体で分散させた状態のところへ強化繊維束を通して粉末を強化繊維束に浸透させた後に加熱して、樹脂など本発明の各成分を含浸させる方法、
(3)溶融樹脂を押し出したクロスヘッドダイを用いて、強化繊維束を引き抜きながら、樹脂など本発明の各成分を含浸させる方法、
などの公知の含浸方法を利用することができるが、本発明の成分を均一かつ所望量配合するためには、上記(3)に記載の含浸方法を利用することが好ましい。
【0048】
さらに好ましくは、特開平10−138379号公報に示されたような、少なくとも強化繊維束に、ポリ乳酸よりも低粘度の成分を含浸させた複合体からなる芯部と、ポリ乳酸からなる鞘部とからなる芯鞘型の長繊維ペレットである。前記芯鞘型の長繊維ペレットの場合、強化繊維束は、ポリ乳酸中で最も配合量が多い樹脂よりも溶融粘度が低い成分で予め含浸され、炭素繊維と前記溶融粘度が低い成分との複合体を形成した後に、少なくともポリ乳酸で被覆されていることが好ましい。
【0049】
ここで「前記ポリ乳酸よりも溶融粘度が低い成分」とは、炭素繊維に前記熱可塑性のポリ乳酸が含浸するのを促進させる成分であり、例えば前記ポリ乳酸よりも低分子量の生分解性を有する樹脂、エポキシ樹脂、アルコール可溶性ポリアミド樹脂、水可溶性ポリアミド樹脂、あるいはフェノール化合物などが挙げられる。
【0050】
フェノール化合物は、フェノール性水酸基すなわち芳香族環に結合した水酸基を有する化合物である。1分子中に水酸基を1個有するフェノール化合物としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ブチルフェノールなどのフェノール類、1−ナフトール、2−ナフトールなどのナフトール類などが挙げられる。フェノール化合物としては1分子中に水酸基を2個以上有するものが好ましい。水酸基を2個有するフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールB、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、メチルカテコールなどのフェノール類、ジヒドロキシナフタレンなどのナフトール類などが挙げられる。また、水酸基を2個以上有するフェノール化合物としては、フェノール類および/またはナフトール類とアルデヒド類との縮合物、フェノール類および/またはナフトール類とキシリレングリコールとの縮合物、フェノール類および/またはナフトール類とイソプロペニルアセトフェノンとの縮合物、トリヒドロキシナフタレン、ピロガロールなどが挙げられる。ここで、アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ベンズアルデヒド、グリオキザール、アジピンアルデヒド、グルタルアルデヒド、セバシンアルデヒド、サリチルアルデヒドなどが用いられる。
【0051】
また、フェノール化合物と、二重結合を2個有する脂肪族炭化水素の縮合反応により得られる重合体なども好ましく用いることができる。フェノール化合物(前駆体a)と、二重結合を2個有する脂肪族炭化水素(前駆体b)の縮合反応は、強酸、もしくはルイス酸の存在下に行うことができる。また、前駆体aと、系内で前駆体bを生成する化合物を同様の条件で反応させて得ることもできる。
【0052】
該前駆体aとして、前記したフェノール化合物が用いられるが、複数種の化合物を用いてもよい。特に好ましいフェノール化合物としては、フェノール、クレゾールが挙げられる。
【0053】
該前駆体bとしては、環状構造を有していなくても、有していてもよい。環状構造を有していないものとしては、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、ヘキサジエンなどの例を挙げることができる。環状構造を有するものとしては、単環性の化合物では、シクロヘキサジエン、ビニルシクロヘキセン、シクロヘプタジエン、シクロオクタジエン、C10H16の分子式で表される単環式モノテルペン(ジペンテン、リモネン、テルピノレン、テルピネン、フェランドレン)など、二環性の化合物では、2,5−ノルボルナジエン、テトラヒドロインデン、C15H24の分子式で表される二環式セスキテルペン(カジネン、セリネン、カリオフィレン)、三環性の化合物としては、ジシクロペンタジエンなどの例を挙げることができ、これらを複数種用いてもよい。該前駆体bとしては、炭素数6〜15のものが好ましく、また環状構造を有するものが好ましい。環状構造を有するものは、分子鎖が比較的剛直になり、力学的特性に対して有利に寄与する。特に好ましいものとしては、C10H16の分子式で表される単環式モノテルペン、ジシクロペンタジエンが挙げられる。また、系内で前駆体bを生成する化合物としては、異性化によりジペンテンを生成するピネン、カンフェンなどの例を挙げることができ、これらを複数種用いてもよい。
【0054】
本発明の構成要素である前記ポリ乳酸よりも溶融粘度が低い樹脂として、特に優れたものとしては、前駆体aを2分子に対して、前駆体bを1分子付加した、極性の比較的高いものが挙げられる。
【0055】
前記ポリ乳酸よりも溶融粘度が低い成分としては、重量平均分子量が200以上1000以下であることが好ましい。分子量が200未満であると、熱安定性に劣るため、成形中に揮発し、成形品中にボイドなどの欠点を発生させることがある。一方、分子量が1000を超えると、薄肉成形性(成形時の流動性)に劣り、本発明の効果を充分に発現できないことがある。
【0056】
また、本発明の炭素繊維強化樹脂複合体において、複合体全体を100重量部とした場合のポリ乳酸の配合量は、複合体の形態により異なるが、好ましくは10〜99重量部、より好ましくは20〜95重量部、さらに好ましくは30〜90重量部である。
【0057】
本発明の成形材料の配合形態は特に制限されないが、前記の溶融粘度が低い成分で強化繊維束(炭素繊維)を含浸し、複合体を形成した後、ポリ乳酸で、前記複合体を被覆した長繊維ペレットと、ポリ乳酸と同種類あるいは別の種類の樹脂を含む成形材料、例えば、ポリ乳酸のペレットとを、ドライブレンドしてもよい。この場合、ポリ乳酸の配合量は、ペレット中にすでに含まれるポリ乳酸の含有量を考慮した上で、最終的に得られる成形品100重量部中、ポリ乳酸が好ましくは10〜99重量部、より好ましくは20〜95重量部、さらに好ましくは30〜90重量部になるようにドライブレンドするのがよい。
【0058】
また、前記ポリ乳酸よりも溶融粘度が低い成分の配合量としては、ポリ乳酸100重量部に対して、0.01〜20重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。かかる成分は、前記したように強化繊維束に含浸し、その後、ポリ乳酸で被覆して長繊維ペレットの形態で用いることも、ポリ乳酸に混練して用いることも、あるいはかかる成分を含まない複合体とドライブレンドして用いることも可能である。前記溶融粘度が低い樹脂の配合量が、該範囲を超えて少なすぎたり、多すぎたりする場合、薄肉成形品における成形性、且つ耐衝撃性、強度などの力学的特性のバランスのとれた材料が得られないことがある。同様に、射出成形用長繊維ペレットに、液晶性樹脂が混合されていても、本発明の一つの効果である薄肉成形性(成形時の流動性)をより高く発現することができる。液晶性樹脂とは、溶融時に異方性を形成しうる樹脂を意味する。液晶性樹脂としては、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリカーボネート、液晶ポリエステルエラストマー、液晶ポリアミドなどの例が挙げられ、なかでも分子鎖中にエステル結合を有するものが好ましく、特に液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミドが好ましく、中でも液晶ポリエステルがさらに好ましい。また、優れた薄肉成形性を実現するためには、液晶性樹脂、液晶性樹脂とポリ乳酸が実質的に反応しない条件で成形を行うか、反応を防止するために、液晶性樹脂および/またはポリ乳酸の末端基を封止しておくのが好ましい。
【0059】
また、長繊維ペレットは、それを構成する炭素繊維のフィラメント数が3,000〜800,000本の範囲が好ましい。3,000本未満では生産性が低くコストアップの原因になったり、炭素繊維束を被覆する工程においてその細さから被覆工程において毛羽等による工程トラブルの原因になることがある。800,000本を超えると、ストランドが太くなるので、ポリ乳酸よりも溶融粘度が低い樹脂による含浸をしにくくなって、成形品の表面性や力学的特性および導電性が低下することがある。より好ましくは10,000本以上500,000本以下、さらに好ましくは200,000本以下、さらに望ましくは100,00本以下である。
【0060】
次に、本発明の成形材料の態様の1つの射出成形用ペレットの特徴である電気抵抗について述べる。射出成形用ペレットにおいては、ペレットの長手方向の電気抵抗値RL(特性(E))が、1×102Ω以下であることが好ましい。RLが、1×102Ωを越える場合には、得られる成形品の力学的特性に劣るだけでなく、導電性にも劣る場合がある。これは、ペレット中における炭素繊維の長さが短い、または炭素繊維が良好に分散していないことを意味し、これを成形してなる成形品も同様に、炭素繊維の長さが更に短い、または炭素繊維が良好に分散していないことに起因する。好ましくはRLが15Ω以下であり、更に好ましくは3Ω以下である。とりわけ、RLが2Ω以下であるのが好ましい。
【0061】
ここで、かかるペレットの長手方向とは、ペレットの製造単位が引き取られる、または押し出される方向を指し、特にペレットが柱状の形態を有した場合は、その柱軸方向に相当する。また、かかる製造単位とは、製造工程において引き取られるまたは押し出される形態、例えば、ストランド、ガット、シートなどの1単位を指し、特に成形材料が長繊維ペレットである場合は、1本のストランドに相当する。
【0062】
また、射出成形用ペレットにおいては、ペレットの長手方向と直交する平面内における任意方向の電気抵抗値RT(特性(F))が、1×103Ω以上であることが好ましい。RTが、1×103Ω未満である場合には、炭素繊維強化成形材料の製造単位当たりの生産性に劣るだけでなく、炭素繊維強化成形材料からの導電性繊維の脱落も多い場合がある。これは、ペレットの表面に、炭素繊維が必要以上に存在していることを意味し、炭素繊維を必要以上に存在させたくない成形材料の表面に、炭素繊維を必要量を超えて配置することに起因する。好ましくはRTが1×104Ω以上であり、更に好ましくは1×105Ω以上である。とりわけ、RTが1×106Ω以上であるのが好ましい。
【0063】
また、射出成形用ペレットは、次の態様、すなわち、少なくとも炭素繊維と生分解性を有する樹脂とからなる射出成形用ペレットにおいて、さらに少なくとも次の特性(G)および/または(H)を満たすことも好ましい。
(G)成形材料の長手方向の体積固有電気抵抗値VRLが、1Ω・cm以下であること。
(H)RLとRTとの比であるRL/RTが、1×10-3以下であること。
【0064】
VRLが、1Ω・cmを越える場合には、得られる成形品の力学的特性に劣るだけでなく、導電性にも著しく劣ることがある。これは、射出成形用ペレット中における炭素繊維の長さが短い、または炭素繊維が良好に分散していないことを意味し、これを成形してなる成形品も同様に、炭素繊維の長さが更に短い、または炭素繊維が良好に分散していないことに起因する。より好ましくはVRLが5×10-2Ω・cm以下であり、更に好ましくは7×10-3Ω・cm以下である。とりわけ、VRLが6×10-3Ω・cm以下であるのが好ましい。ここで、ペレットの長手方向の体積電気抵抗値VRLとは、RLに成形材料端面の面積を乗じ、ペレットの長手方向の長さで除した値にて代表させたものである。
【0065】
また、ペレットの長手方向の電気抵抗値RLと成形材料の長手方向と直交する平面内における任意方向の電気抵抗値RTとの比であるRL/RTが、1×10-3以下であることも好ましい。RL/RTが1×10-3を越える場合には、得られる成形品の導電性、力学的特性に劣るだけでなく、成形材料からの炭素繊維の脱落も多くなるためことがある。また、特に、射出成形用ペレットが長繊維ペレットの形態を有している場合、RL/RTが1×10-3を越える場合は、生産性の面からも好ましくないことがある。これは、成形材料中の炭素繊維の長さ、分散、および配置位置が適当ではないことに起因する。より好ましくはRL/RTが1×10-4以下であり、更に好ましくは1×10-5以下である。とりわけ、RL/RTが1×10-6以下であるのが好ましい。なお、RL/RTの算出は、上記RLを、上記RTで除したもので代表させた。
【0066】
特性(G)または(H)により、得られる成形品の導電性、力学的特性が優れ、生産性の高い射出成形用ペレットを得ることができる。本発明においては、さらに好ましい成形材料として、上記(E)、(F)、(G)、(H)のすべてを満たす成形材料を挙げることができる。該条件すべてを満たす射出成形用ペレットは、さらに優れた力学的特性、導電性を有する成形品が得られ、かつ生産性にさらに優れ、炭素繊維の脱落が少ない射出成形用ペレットを確実に提供することができる。
【0067】
さらに射出成形用ペレットおよび成形品においては、炭素繊維の接触抵抗Rcが230Ω/mm2以下であるとさらに好ましい。これは、成形材料中において炭素繊維同士が接触することにより導電パスが形成されたとき、当然成形品中の導電パスが多ければ多いほど導電性は良好になることに起因する。しかし、同程度の導電パスが存在しても、炭素繊維の接触抵抗が大きくなれば、その結果、成形品の導電性は低下する。この観点で、炭素繊維束の接触抵抗値は、成形品の導電性を予測するきわめて便利なパラメーターである。接触抵抗を決める要因は、炭素繊維表面の性状にあり、たとえば表面の導電性は高いほど接触抵抗値は低くなる傾向にある。そのほかに表面の被覆物、凹凸、断面形状がこの要因となり得る。本発明は基質として前記の結晶サイズ、ラマン散乱強度比で選定することを提案したが、表面性状から起因する接触抵抗値を満足する炭素繊維を使用することがさらに好ましい。
【0068】
なお、ここでいう接触抵抗Rcは、炭素繊維束の両端を一定圧で圧着した端子に通電したときの電気抵抗値から求めることができる。測定法の詳細は実施例で記述した。
【0069】
本発明の成形品は、本発明の炭素繊維強化樹脂複合体あるいは本発明の成形材料を用いて得られる成形品である。本発明の炭素繊維強化樹脂複合体あるいは本発明の成形材料の態様としては、上述の射出成形用ペレットが好ましく、中でも上述した長繊維ペレットがさらに好ましい。この場合、所望の炭素繊維含有量にするため、ポリ乳酸を射出成形用ペレットとドライブレンドして調整することも好ましい。
【0070】
射出成形した成形品は、導電性、力学的特性(特に強度、衝撃強度)を同時に達成するためには、成形品中の炭素繊維の長さを長くすることが有効であることは前述の通りであるが、この場合、特に成形条件および射出成形機、さらに金型の影響を考慮しなければならない。成形条件に関していえば、背圧が低いほど、射出速度が遅いほど、スクリュー回転数が遅いほど、成形品中の炭素繊維の長さが長くなる傾向があり、特に背圧は、計量性が不安定にならない程度に、できるだけ低く設定するのが好ましい。望ましい背圧は0.1〜1MPaである。射出成形機については、ノズル径が太く、ノズルのテーパー角度が小さく、スクリュー溝深さが深く、圧縮比が低いほど成形品中の強化材の長さが長くなる傾向がある。金型については、スプルー径を大きくするほど、ゲート径を大きくするほど、成形品中の強化材の長さが長くなる傾向がある。
【0071】
上述のように、本発明の成形品が、高い導電性、力学的特性を兼ね備えるためには、該成形品中に含まれる強化材である炭素繊維の重量平均繊維長(lw)が0.25〜1mm、好ましくは0.3〜1mm、更に好ましくは0.35〜1mmであることが好ましい。また、炭素繊維総量の少なくとも3重量%の繊維長が1〜15mmの範囲であることが好ましい。より好ましくは、炭素繊維総量の少なくとも5重量%が1〜10mmの範囲であり、一層好ましくは炭素繊維総量の少なくとも5重量%が1〜7mmの範囲である。とりわけ好ましくは、炭素繊維総量の少なくとも8重量%が1〜7mmの範囲である。
【0072】
本発明の成形品は、プレス成形機や射出成形機で成形した成形品、特に射出成形した成形品の体積固有電気抵抗VRが100Ω・cm以下であることが好ましい。これは、長繊維ペレットを射出成形する事により成形品中での炭素繊維の長さを長く維持することができるため、力学的特性の他に、特に、高い導電性を有する成形品を提供するものである。特に、炭素繊維の配合量が20重量%以下のような低い配合率の場合には、通常のペレットに比べて導電性の発現効果は顕著であり、このような範囲の炭素繊維の配合率で長繊維ペレットを用いることは、高い導電性を達成するためには非常に有効である。もちろん、力学的特性に関しても、同様にその向上効果は絶大である。より望ましい体積固有電気抵抗値は50Ω・cm以下である。特に炭素繊維の配合率が20重量%以上において体積固有電気抵抗が10Ω・cm以下となる特徴がある。好ましくは5Ω・cm以下である。
【0073】
本発明の成形品は、このときの電磁波シールド性として20dB以上であることが好ましくさらに好ましくは25dB以上である。尚、電磁波シールド性はアドバンテスト法に準じて測定し、厚さ1mmの平板に1GHzの電磁波を照射した時に平板で減衰する減衰量をデシベル(単位dB)で表した数値である。
【0074】
本発明の成形品は、炭素繊維に起因する高い剛性を備えているため、ASTMD 790規格(スパン間距離L/板厚D=16)において、板厚6mmでの曲げ剛性が8〜40GPaの範囲が望ましく、さらに望ましくは10〜30GPaの範囲、特に望ましくは15〜25GPaの範囲の成形品として用いるのがよい。
【0075】
本発明の炭素繊維強化樹脂複合体および成形材料、特に射出成形用ペレットは、薄肉成形性(成形時の流動性)、導電性を兼ね備えているので、従来の成形品より肉厚を薄くすることが可能であり、肉厚が0.3〜4mmの範囲である薄肉成形品として用いるのが最適である。より好ましくは、肉厚0.5〜3mm、さらに好ましくは0.6〜2mmの範囲である薄肉成形品として用いるのが、本発明の効果をより発揮できる。とりわけ好ましくは、肉厚0.7〜1.6mmの範囲である薄肉成形品として用いることである。ここでいう成形品の肉厚とは、成形品のうち、リブ部分やボス部分などの突起物などを除いた平板部分の肉厚を指す。
【0076】
本発明における成形品の用途としては、薄肉成形品における、成形性、力学的特性(特に剛性)が求められる電子・電気機器用部材などが挙げられる。本発明の成形品は、高い剛性、軽量化、電磁波シールド性などが達成できるため、携帯用の電子・電気機器のハウジングなどの用途に有効である。より具体的には、大型ディスプレイ、ノート型パソコン、携帯用電話機、PHS、PDA(電子手帳などの携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯用ラジオカセット再生機などのハウジングなどに好んで使用される。これらの成形品は、生分解性を有しているため、廃棄物の問題を生じることが少なく、環境負荷が小さい。
【0077】
また、高い導電性を有しているため、炭素繊維の少量添加で帯電/放電防止性を付与することができ、それらの特性が必要とされる部材、例えばICトレー、シリコンウェーハー運搬用バスケットなどへの適応にも有用である。
【0078】
また、成形材料として、プリプレグ、混繊糸、交織布などを用いることにより、剛性や耐久性などの優れた力学的特性を有し、かつ生分解性を有するため、用済み後廃棄しても環境への負荷が小さいゴルフシャフト、釣竿、ラケットなどを得ることもできる。
【0079】
また、本発明の炭素繊維の回収方法は、炭素繊維とポリ乳酸を含んでなる炭素繊維強化樹脂複合体(組成物又は成形材料等)または成形品から樹脂を除去することによるものである。樹脂を除去する方法には、高温で樹脂を分解する熱的処理方法、酸、アルカリ、有機溶媒などの化学物質で樹脂を溶解あるいは分解除去する化学的処理方法、樹脂を生分解により除去する生分解的処理方法などがある。勿論、これらの方法を任意に組み合わせても良い。ポリ乳酸は比較的燃焼エネルギーが小さいこと、酸やアルカリ、有機溶媒などで分解、溶解しやすい。このため、熱分解法でもエネルギー消費が少なく、炭素繊維の力学的特性や電気的特性も比較的高く保ったまま炭素繊維を回収できる。また、酸やアルカリなどを用いる方法でも廃液の問題が生じにくい。特に、本発明の炭素繊維強化樹脂複合体成形品からは、力学的特性や電気的特性を高く保ったまま炭素繊維を回収できる。しかし、エネルギー消費、廃液の問題が生じず、炭素繊維の力学的特性や電気的特性をほとんど低下することなしに樹脂を除去できるために最も好ましいのは、生分解による方法である。生分解による具体的な樹脂の除去方法は、土壌中に埋没する、水中に浸漬するなどの方法がある。これらの方法では数週間後程度から分解を始め、1年〜数年で完全に分解される。微生物を繁殖させた土壌中や、微生物を繁殖させた培養液中では樹脂の分解が促進されるために好ましい。
【0080】
【実施例】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。炭素繊維や成形品の評価項目、およびその方法を以下に記す。
【0081】
(a)炭素繊維の結晶サイズ
日本学術振興会第117委員会、炭素、36巻、25頁(1963年刊)に記載された方法を基本とし下記の装置および条件で測定した。
【0082】
・試料調整:炭素繊維を長さ4cmに切り、20mgを秤量し、金型とコロジオン・アルコール溶液で長さ3cm、幅1mm、深さ1mmの角柱を作製し測定試料とした。
【0083】
・透過法により広角X線回折法で下記の条件で測定した。
・X線発生装置: 理学電気社(株)製
X線源 ;CuKα(Niフィルター使用)
出力 ;40kV20mA
・ゴニオメータ: 理学電気社(株)製
スリット系;2mmφピンホールコリメーター
たてスリット 1゜、横スリット 1゜
検出器;シンチレーションカウンター
・赤道方向測定:
スキャン方式(2θ/θ);ステップ
測定範囲 ;10〜40゜
積算時間 ;1秒
・解析方法:
透過法により得られた面指数(002)のピークの半値幅からScherrerの式を用いて結晶サイズを求めた。
L(hkl)=Kλ/β0COSθB
但し、L(hkl);微結晶(hkl)面に垂直な方向の平均の大きさ;結晶サイズ[nm]
K:1.0(形状因子、定数)
λ :X線の波長[nm]
β0:(βE 2−β1 2)1/2[rad]
βE:見かけの半値幅(測定値)[rad]
β1:1.05×10-2[rad]
θB:ブラッグ角[rad]。
【0084】
(b)炭素繊維の平均繊維径
下記式によって算出した。
Df=[(W×4)/(N×ρf×100×3.14)]1/2×10000
Df:平均繊維径(μm)
W :1mあたりの繊維束重量[g]
N :繊維束中のフィラメント数[本]
ρf :繊維の比重
また、上記炭素繊維の平均繊維径は下記の方法でも測定した。この方法は成形品中の炭素繊維の断面を観察して求める方法である。
・無作為に抽出した200本の繊維断面からコンピューターによる画像処理により面積をもとめ、その面積から下記式により直径[μm]を算出した。
Df=(S×4/π)1/2
Df:平均繊維径[μm]
S :繊維の平均断面積[μm2]。
【0085】
(c)ラマン散乱強度比
炭素繊維のラマンスペクトルは、レーザーラマン分光法により測定した。
【0086】
ラマンスペクトルの測定は、成形品をエポキシ樹脂中に包埋し、研磨して研磨面に露出する炭素繊維について測定した。また、炭素繊維表面からの深さ方向のラマンスペクトルは、研磨面に露出した炭素繊維の断面にレーザーをスキャンすることにより測定した。
【0087】
(c)体積固有電気抵抗VR
ファンゲートにて射出成形した幅12.7mm×長さ65mm×厚さ2mmの試験片を、絶乾状態(水分率0.1%以下)で測定に供した。まず、幅×厚さ面に導電性ペースト(藤倉化成(株)製ドータイト)を塗布し、十分に導電性ペーストを乾燥させてから、その面を電極に圧着し、電極間の電気抵抗値をデジタルマルチメーター(FLUKE社製)にて測定する。前記電気抵抗値から測定機器、治具等の接触抵抗を減じた値に、導電性ペースト塗布面の面積を乗じ、次いで、その値を試験片長さで除したものを体積固有電気抵抗値とした(単位はΩ・cm)。なお射出成形は、シリンダ温度260℃、金型温度70℃にて行った。
【0088】
(d)電気抵抗値RL
5つの成形材料について、下記の手順に従い測定した電気抵抗値の平均値にて代表させたものをいう。
(1)まず、成形材料の長手方向の各々の端面を、それぞれサンドペーパー(#400以下)で平面になるまで少なくとも0.2mm研磨する。
【0089】
(2)次いで、研磨した各々端面に、導電ペースト(日本アチソン(株)製Electrodag415)を塗布し、25℃、湿度50%、約30分の条件で乾燥させる。
【0090】
(3)最後に、その端面の2点間抵抗値をデジタルマルチテスター((株)アドバンテスト製R3581)にて3回測定し、その平均値をその導電性繊維強化成形材料の長手方向の電気抵抗値RLとする。
【0091】
(e)電気抵抗RT
5つの成形材料について、下記の手順に従い測定した電気抵抗値の平均値にて代表させたものをいう。
【0092】
(1)成形材料の長手方向と直交する平面内における任意方向の各々の端面の2点間抵抗値をデジタルマルチテスター((株)アドバンテスト製R3581)にて測定する。
【0093】
(2)同様に、異なる位置にて少なくとも3回測定し、その平均値をその導電性繊維強化成形材料の長手方向と垂直方向の電気抵抗値RTとする。
(f)体積固有抵抗値VR
直方体形状を有している試験片の導電ペーストを塗布された両端部の電気抵抗値から、測定機器、治具などの接触抵抗値を減じた値について、前記試験片の端部面積を乗じ、試験片長さで除すことにより算出する。本発明では、単位はΩ・cmを用いた。
【0094】
(g)炭素繊維の接触抵抗Rc
任意に選択した炭素繊維束について、下記の手順に従い測定した電気抵抗の平均値から求めた。
(1)炭素繊維束の長手方向の2点間電気抵抗値をデジタルマルチテスター(株)アドバンテスト製R3581)にて測定する。
(2)2点間距離を50,100,150cmに変更した電気抵抗を測定する。
(3)3点の電気抵抗をグラフにプロットし2点間が0cmになる電気抵抗を外挿する。
(4)0cmの電気抵抗を炭素繊維束の断面積で除した値をRc[Ω/mm2]とした。
【0095】
なお、炭素繊維束を把持する部分は直径20mmの金属性のチャックで0.05MPaのチャック圧で炭素繊維束を把持した。炭素繊維束の形状は市販されているボビンから糸束の厚みや幅が変化しないように取り出してそのままの状態でチャックに把持した。
【0096】
(h)曲げ剛性E
ASTM D 790規格(スパン間距離L/板厚D=16)に準拠した曲げ剛性にて評価した(単位はGPa)。用いた試験片の板厚は6mm厚で、水分率0.1%以下で試験に供した。なお射出成形は、シリンダ温度260℃、金型温度70℃にて行った。
【0097】
(i)ノッチ付きアイゾット衝撃
ASTM D 256規格に準拠したモールドノッチ有りIZOD衝撃強度にて評価した(単位はJ/m)。用いた試験片の板厚は3mm厚で、水分率0.1%以下で試験に供した。なお射出成形は、シリンダ温度260℃、金型温度70℃にて行った。
【0098】
(j)繊維長lw
算出は、成形品から炭素繊維のフィラメントを、任意に少なくとも400以上抽出し、その長さを1μm単位まで光学顕微鏡にて測定して、下記の(数式2)を用いて算出した。但し、lwは繊維長、Wiは長さliの炭素繊維の重量、Niは長さliの成分(F)の数とする。
(数式1) lw=Σ(Wi×li)/ΣWi
(数式1)は一定直径の炭素繊維に対しては、(数式2)の様に表すことができる。
(数式2) lw=Σ(Ni×li2)/Σ(Ni×li)
炭素繊維の抽出は、成形品を70%硝酸に浸漬して80℃に加熱し、炭素繊維以外の成分を分解除去することにより行った。
【0099】
以下、実施例および比較例について説明する。これらの結果は、表1にまとめて示した。
【表1】
[実施例1]
アクリロニトリル99.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重合体を用いて、湿式紡糸方法により短繊維デニール1d、フィラメント数24000本のアクリル系繊維を得た。得られた繊維束を240〜280℃の範囲内の温度管理条件下にて空気中で、延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、ついで窒素雰囲気中で300〜1300℃と昇温しながら延伸比1.00で加熱して焼成し炭素繊維を得た。さらにこの炭素繊維を濃度0.1モル/lの硫酸水溶液で電解処理し、さらにアルコール可溶ナイロン(アミランCM4000、登録商標、東レ(株)製)をサイジング剤として付与させた。サイジング剤付与はCM4000の1%メタノール溶液中に炭素繊維束を通した後、乾燥してメタノールを除去することにより行った。付着量は1.2%であった。このようにして得られた炭素繊維は、ストランド強度5000MPa、弾性率240GPa、繊維断面直径は7μm、炭素繊維の目付1.6g/m、比重1.80であった。
【0100】
130℃に加熱されたロール上で、テルペンフェノール重合体(単環式モノテルペンフェノールとフェノールの付加物、YP902、製品名、ヤスハラケミカル(株)製、重量平均分子量460)を炭素繊維に連続的に付与し、さらに180℃に加熱した雰囲気でしごきを加えて重合体を炭素繊維束中に含浸させた。炭素繊維と重合体からなる複合体全体に対する重合体の量は、15重量%であった。
【0101】
この連続した複合体を、直径40mmの単軸押出機の先端に設置された電線被覆用のコーティングダイ中に通し、押出機からダイ中に230℃で溶融させたポリ乳酸(ラクティー#9000、登録商標、(株)島津製作所製)を吐出させて、複合体の周囲を被覆するようにポリ乳酸を連続的に配置した。これを常温近くまで冷却後、ストランドカッターにより長さ7mm長にカットし、長繊維ペレットを作製した。ここまでの成形材料製造は連続した工程によりなされ、炭素繊維束の引き取り速度は30m/分であった。長繊維ペレットの構成重量比は、炭素繊維:テルペンフェノール重合体:ポリ乳酸=35:6:59であった。
【0102】
得られた長繊維ペレットと、ポリ乳酸ペレットを、成形品中の炭素繊維の重量分率が30重量%となるようにドライブレンドし、(a)〜(j)項記載の各試験の射出成形に供した。試験結果を表1にまとめて示す。
【0103】
[実施例2]
アクリロニトリル99.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重合体を用いて、湿式紡糸方法により短繊維デニール0.8d、フィラメント数24000本のアクリル系繊維を得た。得られた繊維束を240〜280℃の範囲内の温度管理条件下にて空気中で、延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、ついで窒素雰囲気中で300〜1800℃と昇温しながら延伸比1.03で加熱して焼成し炭素繊維を得た。さらにこの炭素繊維を濃度0.1モル/lの硫酸水溶液で電解処理し、さらにサイジング剤を実施例1と同様な方法で付与した。このようにして得られた炭素繊維は、ストランド強度5500MPa、弾性率300GPa、繊維断面直径は約5.6μm、炭素繊維の目付1.00g/m、比重1.74であった。
【0104】
実施例1と同様な方法にて長繊維ペレットを得、さらに実施例1と同様に射出成形して評価した結果を表1に示す。
【0105】
[実施例3]
実施例2において窒素雰囲気中での焼成温度を300〜2200℃で延伸比1.05で加熱しながら焼成し炭素繊維を得た。さらに実施例2と同様な方法にて電解処理とサイジング剤付与した。このようにして得られた炭素繊維は、ストランド強度4300MPa、弾性率360GPa、繊維断面直径は5.2μm、炭素繊維の目付0.93g/m、比重1.76であった。
【0106】
実施例1と同様な方法にて長繊維ペレットを得、さらに実施例と同様に射出成形して評価した結果を表1に示す。
【0107】
[比較例1]
アクリロニトリル99.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重合体を用いて、湿式紡糸方法により短繊維デニール1d、フィラメント数24000本のアクリル系繊維を得た。得られた繊維束を240〜280℃の範囲内の温度管理条件下にて空気中で、延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、ついで窒素雰囲気中で300〜900℃と昇温しながら延伸比1.03で加熱して焼成し炭素繊維を得た。さらにこの炭素繊維を濃度0.1モル/lの硫酸水溶液で電解処理し、さらにサイジング剤を実施例1と同様な方法で付与した。このようにして得られた炭素繊維は、ストランド強度1500MPa、弾性率110GPa、繊維断面直径は約7μm、炭素繊維の目付1.7g/m、比重1.70であった。
【0108】
実施例1と同様な方法にて長繊維ペレットを得、さらに実施例1と同様に射出成形して評価した結果を表1に示す。
【0109】
[比較例2]
アクリロニトリル99.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重合体を用いて、湿式紡糸方法により短繊維デニール0.8d、フィラメント数24000本のアクリル系繊維を得た。得られた繊維束を240〜280℃の温度管理条件下にて空気中で、延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、ついで窒素雰囲気中で300〜2400℃と昇温しながら延伸比1.03で加熱して焼成し炭素繊維を得た。さらにこの炭素繊維を濃度0.1モル/lの硫酸水溶液で電解処理し、さらにサイジング剤を実施例1と同様な方法で付与した。このようにして得られた炭素繊維は、ストランド強度4000MPa、弾性率470GPa、繊維断面直径は約5.2μm、炭素繊維の目付1.0g/m、比重1.80であった。
【0110】
実施例1と同様な方法にて長繊維ペレットを得、さらに実施例1と同様に射出成形して評価した結果を表1に示す。
【0111】
実施例1〜3とも、結晶サイズおよびラマン強度比が最適な範囲の炭素繊維を使用することにより、導電性は良好でかつ力学的特性の高い成形品を得ることができた。これに対して、比較例1、2では導電性、力学的特性に劣る成形品した得られなかった。
【0112】
【発明の効果】
本発明によれば、生分解性を有し、廃棄されても環境負荷が小さいことに加えて、高い導電性と力学的特性を有する成形品が得られる炭素繊維強化樹脂複合体および成形材料成形品を提供することができる。さらに、本発明の成形品は、特に電子機器類のハウジングなどを始め、前記特性を必要とする幅広い産業分野に好適に用いることができ、さらに生分解性を有するため、用済み後の廃棄物の問題が少なく、環境負荷が小さい。
【0113】
また、結晶サイズが1.4〜4.5nmの炭素繊維とポリ乳酸を含んでなる成形品などから樹脂を除去すること、特に、樹脂を生分解により除去することにより、エネルギー消費を少なく押さえつつ、力学的特性および電気的特性を高く保ったまま、炭素繊維を回収することが出来る。
Claims (6)
- 結晶サイズが1.4〜4.5nmの範囲内である炭素繊維と、ポリ乳酸を含んでなることを特徴とする炭素繊維強化樹脂複合体。
- 炭素繊維が、次の特性(A)および/または特性(B)を満たすものである請求項1に記載の炭素繊維強化樹脂複合体。
(A):ラマン散乱強度比Rs1が0.6〜0.93の範囲であること。
(B):ラマン散乱強度比Rs2が0.03〜0.72の範囲であること。
(ここで、Rs1=I1/I3、Rs2=I2/I3とする。ただし、I1はラマンシフト1360cm−1付近に現れる炭素繊維表面のラマン散乱強度の極大値、I2はラマンシフト1480cm−1付近に現れる炭素繊維表面のラマン散乱強度の極小値、I3はラマンシフト1580cm−1付近に現れる炭素繊維表面のラマン散乱強度の極大値を表す。) - 炭素繊維が、1000℃〜2300℃で炭化したものである請求項1または2に記載の炭素繊維強化樹脂複合体。
- 炭素繊維強化樹脂複合体中の炭素繊維が、10〜60重量%含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維強化樹脂複合体。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維強化樹脂複合体を成形してなる成形品。
- 結晶サイズが1.4〜4.5nmの範囲内である炭素繊維とポリ乳酸を含んでなる炭素繊維強化樹脂複合体またはその成形品から樹脂を熱的処理、化学的処理及び/又は生分解的処理により除去することによる炭素繊維の回収方法。
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