JP2020132781A - 繊維強化プラスチックの分解方法 - Google Patents
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Abstract
Description
その一方で、プラスチックを含む廃棄物による環境汚染問題に対する意識の高まりから、その処理方法が問われている。従来、プラスチック廃棄物は、焼却、埋め立て等によって処理されているが、焼却処分には、エネルギーコストが高く、地球温暖化が促進され、ダイオキシン等の有害物質が発生する等の問題がある。また、埋め立て処理には、処理地が不足する、地下水が汚染される等の問題がある。繊維強化プラスチックは自然に分解される材料ではなく、使用後の分解処理が、一般的なプラスチックよりも困難であり、効率の良い分解処理方法やリサイクル方法が模索されている。
特許文献1には、Mn(II)依存性のパーオキシダーゼを用いて、Mn(II)の存在下で合成高分子化合物(ナイロン66又はポリエチレン)を分解する方法が開示されている。
特許文献2には、脂肪族ポリカーボネート樹脂に、シュードモナス属の細菌を含む微生物群を接触させる方法が開示されている。
また、特許文献3には、バイオサーファクタント(プラスチック結合性タンパク質)の存在下でプラスチックを分解する方法が開示されている。
更に、非特許文献1には、細菌(フラボバクテリウム sp. KI72)を用いてポリアミド系化合物を分解する方法が開示されている。
非特許文献2には、6−アミノカプロン酸オリゴマーを加水分解する微生物において、ny1C(エンド型オリゴマー分解酵素)が分解に関わる酵素であることが記載されている。
また、非特許文献3には、成長最適条件が55℃である、ゲオバチルス・サーモカテニュラタス属の好熱性バクテリアがナイロン12を分解可能であることが記載されている。
(1)繊維状の充填材が樹脂を含むマトリックスの中に分散されてなる繊維強化プラスチックに、アスペルギルス属の糸状菌を接触させ、上記樹脂を分解させることを特徴とする繊維強化プラスチックの分解方法。
(2)上記繊維強化プラスチックが、炭素繊維強化プラスチック又はガラス繊維強化プラスチックである上記(1)に記載の繊維強化プラスチックの分解方法。
(3)上記樹脂が熱可塑性樹脂である上記(1)又は(2)に記載の繊維強化プラスチックの分解方法。
(4)上記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂を含む上記(3)に記載の繊維強化プラスチックの分解方法。
本発明は、繊維状の充填材が樹脂を含むマトリックスの中に分散されてなる繊維強化プラスチックに、アスペルギルス属の糸状菌を接触させ、上記樹脂を分解させることを特徴とする、繊維強化プラスチックの分解方法である。
熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、芳香族ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。これらのうち、ポリアミド樹脂が好ましい。
硬化樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等を含む熱硬化性樹脂組成物に由来するものとすることができる。
上記培地は、窒素源(硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、燐酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等)、無機塩(硫酸マグネシウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等)、エキス類(酵母エキス等)等を含むことができる。
上記培地のpHは、好ましくは4〜7である。培養温度は、好ましくは20℃〜70℃、より好ましくは25℃〜37℃である。また、培養時間は、好ましくは20〜90日、より好ましくは30〜40日である。
(1)繊維強化プラスチックを土壌中に埋め、アスペルギルス属糸状菌を土壌に散布し、好ましくは25℃〜37℃で30〜40日放置する方法
(2)繊維強化プラスチックを、アスペルギルス属糸状菌を含む土壌中に埋め、好ましくは25℃〜37℃で30〜40日放置する方法
(3)培養装置内で、繊維強化プラスチック、培地及びアスペルギルス属糸状菌を併存させ、培地のpHを好ましくは4〜7とし、培養温度を好ましくは25℃〜37℃として、30〜40日培養する方法
各フィルムの製造原料は、以下の(1)〜(3)のペレットであり、各ペレット(1.0g)を、蓋付き試験管に入れた後、ギ酸を10mL程度加え、ペレットが溶解するまで撹拌し、次いで、溶液をシャーレに注ぎ込み、ドラフト内にて、乾燥(70℃、3時間)させ、その後、得られたフィルム状物を所定のサイズに裁断することによりフィルムを作製した。そして、このフィルムを試験管に入れた後、後述する液体培地5mLを分注し、次いで、加圧滅菌処理(121℃、15分間)させて、分解試験に供するフィルム試料を得た。
(1)東レ社製炭素繊維強化プラスチックのペレット「トレカ 3101T−20V」(商品名)
ポリアミド66からなるマトリックスに20質量%の炭素繊維を分散させてなるもの
(2)Du Pont社製ガラス繊維強化プラスチックのペレット「ザイテル 70G33HSIL」(商品名)
ポリアミド66からなるマトリックスに33質量%のガラス繊維を分散させてなるもの
(3)東レ社製ポリアミド66のペレット「アミランCM3006」(商品名)
水道水100mLに対して、0.2gのNH4NO3、0.1gのK2HPO4、0.1gのNaH2PO4、0.02gのMgSO4・7H2O及び0.01gの酵母エキスを添加して得られたもの(pH4)を用いた。
上記の液体培地5mLを収容した培養試験管に、各フィルム試料(サイズ:1cm×1cm)1枚を別々に入れ、岩手大学構内で採取した土壌をスクリーニング源として、30℃で3〜6か月の間、集積培養を行った。その後、すべての液体培地に収容したフィルム試料から菌体の付着が確認された。
ポリアミド66は吸水しやすいため、分解実験前後のフィルムの重量変化を正確に調べるには、十分な乾燥が必要であり、大気中、80℃で12時間の熱処理を行った。そして、上記の方法で加圧滅菌処理させたものを分解実験に供した。
このポリアミド66フィルムと、上記で得られた菌体付きフィルム試料と、上記の液体培地とを培養試験管に収容し、振とうさせながら継代培養を行った。30日経過後、ポリアミド66フィルムを取り出して、菌体を除去するために、アルカリSDS溶液にて約12時間浸漬させた。そして、超音波処理を1〜2時間行い、RO水で洗浄した。次いで、80℃で約12時間の乾燥を行い、菌体除去フィルムを作製し、その重量を測定した。
この分解実験を、別々の日に合計2回行い、分解率2.23質量%及び22.62質量%の結果を得た。分解率2.23質量%の菌体除去フィルムの表面を日本電子社製熱放出型走査電子顕微鏡「JSM−6510LA」(型式名)により、加速電圧5.0kV及び作動距離(ワーキングディスタンス)10mmの条件で撮影したところ、図1の画像を得た。分解処理前のポリアミド66フィルム(未処理フィルム)の表面の画像を示す図2と比較すると、図1では、菌体が付着した跡らしきものが確認された。
上記分解実験を行った各培養試験管より菌液を採取し、ポリアミド66オリゴマーと寒天とを用いて作製した寒天培地に植菌して30℃で培養した。6日後、クリアゾーンを形成する菌株が得られたため、本菌株を採取し、滅菌水で希釈後、HB寒天培地に再び播種した。7日経過後、HB培地のオモテ面とウラ面を光学顕微鏡により観察したところ、菌株が確認された(図3参照)。図3の(A)は培地のウラ面側を示し、(B)は培地のオモテ面側を示す。
水道水5mLを試験管に分注し、滅菌水を準備した。次いで、100mLのHB培地(水道水100mLに対して、15gのスクロース15g、0.3gのペプトン、0.5gのKH2PO4、0.2gのMgSO4・7H2O、0.01gのCaCl2・2H2O、0.1gの及び0.01gの酵母エキスを添加したもの)を坂口フラスコに入れ、加圧滅菌(121℃、15分間)を行った。滅菌後、クリーンベンチ内でスラントから白金耳で菌をかき取って、滅菌水で懸濁した。そして、懸濁液3mLをHB培地が入った坂口フラスコへ植菌し、30℃で2日間振とう培養を行った。
菌体は、東洋濾紙社製「ADVANTEC 定性濾紙 No.2」(商品名)を用いた吸引ろ過によって回収した。この濾紙を用いて全量をろ過させた後、菌体全量と培地の一部を回収した。菌体をRO水で洗浄し、再度、ろ過させた。この操作を3回行った。十分に水を吸引させた後、菌体を回収し、菌体重量と培地のpHを測定した。その後、菌体を−30℃で保存した。
次に、フェノールを用いて、菌体のゲノムDNA抽出を行った。約0.1gの菌体に、500μLのTEバッファーを加えて十分に撹拌し、1.2gのガラスビーズが入った破砕管に分注してフェノール+TE溶液のフェノール層(下層)を500μLずつ加えて、ビーズショッカーで破砕した。破砕後、破砕液10,000gの遠心分離を10分間行い、TE層(上層)を回収した。そして、得られたTE層をエタノール沈殿に供してゲノムDNAを精製した。
これにより、PCR産物のバンドが複数確認されたため、目的のサイズ(約1500bp)のバンドをQIAGEN社製のキット「QIA quick gel extraction kit」(商品名)を用いてゲル抽出した。その後、得られたDNA断片を、東洋紡社製「TArget Clone」(登録商標)を用いてTAクローニングした。尚、ライゲーションを行う前に、上記TAクローニングキットに付属の「10x A−attachment mix」によって3’末端のdA付加反応を行い、反応液をライゲーション反応に使用した。ライゲーション液の組成を表3に示す。ライゲーション反応は、15℃で30分である。その際、PCR産物の使用量を2μLとした。その後、Hanahan法で作製した大腸菌JM109のコンピテントセルを用いて形質転換を行い、FAVORGEN社製「Plasmid DNA Extraction Mini Kit」(商品名)を用いて、プラスミド抽出を行った。プラスミドに目的の配列がインサートされたことを確認し、シークエンス解析を行い、18S rDNA配列を得た。そして、この18S rDNA配列を用いてBLASTによる相同性検索を行い、属を推定した。
保存していたプレートからコロニー1つ分を、スパチュラを用いて寒天ごと切り出し、1.5mL容エッペンチューブに入れ、株式会社マクロジェン・ジャパンに委託した。得られた塩基配列をBLAST検索に供した。
シークエンス解析の結果、図5に示す配列(539bp)が得られた。D1/D2領域の配列は約600bpとのことなので、目的の配列が得られたと考えられる。この配列をBLAST検索に供したところ、多くのアスペルギルス属の微生物と100%の相同性を示したが、中でもAspergillus versicolorのいくつかと100%の相同性を示した(表5参照)。尚、表5に示した菌株の他に、100%の相同性を示した菌株が35種類あった。
次に、形態学的特徴の観点から微生物の属種の推定を試みた。
培地を形成する溶液として、蒸留水1000mLに対して、3gのNaNO3、1gのK2HPO4、0.5gのMgSO4・7H2O、0.5gのKCl、0.01gのFeSO4・7H2O、30gのスクロース及び15gの寒天を添加したツァペック培地用溶液と、蒸留水1000mLに対して、20gの麦芽エキス、20gのグルコース、1gのペプトン及び20gの寒天を添加したMalt extract培地用溶液とを用いた。尚、Malt extract培地の形成に用いる溶液として、予め、pHを6に調整したものを用いた。
これらの培地形成用溶液を、加圧滅菌(121℃、15分間)し、その後、シャーレに各溶液を流し込み、固化させてツァペック培地及びMalt extract培地を作製した。
白金耳を用いて、各培地に分解候補菌を3か所に植菌し、24℃〜26℃の条件下、10〜14日間に渡って静置培養を行った。そして、各培地で培養された菌体を粘着テープで採取し、スライドガラスに貼り付けて、プレパラートとした。これを光学顕微鏡で観察し、コロニーの色や形状の観察を行った(図6及び図7、表6及び表7参照)。
図6及び図7は、培養を開始してから10日経過後及び14日経過後のコロニーの様子を示す画像である。これらの画像を、THE GENUS Aspergillus(Kenneth B. Raperら、1965年初版、1977年重刷、以下、「文献1」という)に掲載されているAspergillus versicolorの特徴と比較した。その結果、ツァペック培地で生育したコロニー(図6、(A)は14日間培養後のオモテ面、(B)は14日間培養後のウラ面)は特徴がほぼ一致した一方で、Malt extract培地で生育したコロニー(図7、(A)は10日間培養後のオモテ面、(B)は10日間培養後のウラ面)は直径が小さかった。
図8は、アスペルギルス属の糸状菌を用いて作成したプレパラートを、光学顕微鏡を用いて600倍で拡大観察して得られた画像であり、分生子柄は滑面であり、分生子頭は放射状に広がっていた。頂のうは、楕円形で全面にメトレ、フィアライドを形成していた。分生子は球形であった。この特徴は、矢口貴志の論文(Medical Mycology Journal, vol.52, 193−197(2011))に記載されたAspergillus versicolorと一致していた。マイクロメーター(1目盛2.5μm、600倍)による菌体の各部位の計測結果については、頂のうの直径と分生子柄が短い結果となったが、他の部位は一致していた(表7参照)。これらの結果より、分解候補菌は、Aspergillus versicolorである可能性が高いと考えられる。
炭素繊維強化プラスチック及びガラス繊維強化プラスチックからなる各フィルム試料(サイズ:1cm×1cm、乾燥後重量:15〜20mg)を、上記液体培地5mLを収容した培養試験管の中に入れ、加圧滅菌(121℃、15分間)を行った。その後、培地にスラントから白金耳を用いて植菌し、30℃で振とう培養を行った。
次いで、各培養試験管から処理後のフィルム(菌体付着フィルム)を取り出し、その表面を日本電子社製熱放出型走査電子顕微鏡「JSM−6510LA」(型式名)により、加速電圧5.0kV及び作動距離10mmの条件で撮影した。
図9は、菌体が付着している炭素繊維強化プラスチックフィルムの表面を示す画像であり、図10は、付着した菌体を除去した炭素繊維強化プラスチックフィルムの表面を示す画像であり、図11は、分解処理に供した炭素繊維強化プラスチックフィルムの表面を示す画像である。また、図12は、菌体が付着しているガラス繊維強化プラスチックフィルムの表面を示す画像であり、図13は、付着した菌体を除去したガラス繊維強化プラスチックフィルムの表面を示す画像であり、図14は、分解処理に供したガラス繊維強化プラスチックフィルムの表面を示す画像である。
図9及び図12によれば、菌体がフィルムの表面に十分に付着していることが分かる。
Claims (4)
- 繊維状の充填材が樹脂を含むマトリックスの中に分散されてなる繊維強化プラスチックに、アスペルギルス属の糸状菌を接触させ、前記樹脂を分解させることを特徴とする繊維強化プラスチックの分解方法。
- 前記繊維強化プラスチックが、炭素繊維強化プラスチック又はガラス繊維強化プラスチックである請求項1に記載の繊維強化プラスチックの分解方法。
- 前記樹脂が熱可塑性樹脂である請求項1又は2に記載の繊維強化プラスチックの分解方法。
- 前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂を含む請求項3に記載の繊維強化プラスチックの分解方法。
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