本発明を詳細に説明する。本発明のポリカーボネート樹脂成形材料は、少なくともポリカーボネート樹脂[A]、強化繊維束[B]にエポキシ樹脂[C]を溶融含浸してなる樹脂含浸強化繊維[D]、難燃剤[E]および/または液晶性樹脂[H]から構成される。まず、これらの構成成分について詳細に記す。なお、本発明において「成形材料」とは、成形品を射出成形などで成形する際に用いる原材料を意味する。
本発明におけるポリカーボネート樹脂[A]は、力学特性や熱安定性、難燃性にバランス良く優れた樹脂であり、強化繊維による補強効果や、難燃剤および/または液晶性樹脂による難燃性向上効果がより効果的に作用するため、好ましく用いられる。本発明においてポリカーボネート樹脂[A]とは、主鎖中に炭酸エステル構造を有する重合体であり、脂肪族ポリカーボネート、脂肪族−芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。特に耐衝撃特性に優れるといった観点から、4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン(ビスフェノールA)の炭酸エステル構造を有する芳香族ポリカーボネートが特に好ましく用いられる。
また、ポリカーボネート樹脂[A]の粘度平均分子量(Mv)は10,000〜50,000が好ましく、より好ましくは15,000〜40,000、さらに好ましくは18,000〜35,000である。粘度平均分子量(Mv)が10,000以上であると耐衝撃特性などの力学特性により優れることから好ましい。また、粘度平均分子量(Mv)が50,000以下であると、成形時の流動性に優れ、成形性が高いことから好ましい。
ここで、粘度平均分子量(Mv)は、以下の方法により求めることができる。まず、塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂[A]0.7gを20℃で溶解した溶液について、次式にて算出される比粘度(ηSP)を、20℃でオストワルド粘度計を用いて求める。
比粘度(ηSP)=(t−t0)/t0
[t0は塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
続いて、求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mvを算出することができる。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−4M0.83
c=0.7
ポリカーボネート樹脂[A]を得る手法としては特に限定されるものではなく、公知の製造方法を用いることができ、例えば、ホスゲン法、エステル交換法あるいは固相重合法などが挙げられる。また、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製「ユーピロン」「ノバレックス」(商品名)、帝人化成(株)製「パンライト」(商品名)、出光石油化学(株)製「タフロン」(商品名)などとして上市されているものを入手して用いることもできる。
本発明において強化繊維束[B]を構成する強化繊維は、特に限定はされないが、例えば炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度、高弾性率繊維が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。
本発明における強化繊維[B]は、ポリカーボネート樹脂[A]に対する繊維補強効果により、力学特性を向上し得るものである。さらに、強化繊維が導電性や熱伝導性など、固有の特性を有する場合、ポリカーボネート樹脂[A]単体では為し得ない、それらの性質も付与することができる。こうした観点から、強化繊維の中でもPAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が、力学特性のさらなる向上、成形品の軽量化効果の観点から好ましく、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。また、導電性を付与する目的においては、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆した強化繊維も好ましく用いられる。
さらに炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比[O/C]が0.05〜0.5であるものが好ましく、より好ましくは0.08〜0.4であり、さらに好ましくは0.1〜0.3である。表面酸素濃度比が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の官能基量を確保でき、ポリカーボネート樹脂[A]とより強固な接着を得ることができ、強度をより向上させることができる。また、表面酸素濃度比の上限には特に制限はないが、炭素繊維の取扱い性、生産性のバランスから一般的に0.5以下とすることが例示できる。
炭素繊維の表面酸素濃度比は、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めるものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去した炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせる。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
ここで、表面酸素濃度比とは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用いる場合には、感度補正値を1.74とする。
表面酸素濃度比[O/C]を0.05〜0.5に制御する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法をとることができ、中でも電解酸化処理が好ましい。
また、強化繊維束[B]を構成する強化繊維の平均繊維径は特に限定されないが、得られる成形品の力学特性と表面外観の観点から、1〜20μmの範囲内であることが好ましく、3〜15μmの範囲内であることがより好ましい。
強化繊維束[B]の単繊維数には、特に制限はなく、100〜350,000本の範囲内で使用することができ、とりわけ1,000〜250,000本の範囲内で使用することが好ましい。また、本発明によれば、単繊維数が多い強化繊維束であっても、エポキシ樹脂[C]が十分に含浸された樹脂含浸強化繊維[D]を得ることができるため、20,000〜100,000本の範囲で使用することが、生産性の観点からも好ましい。
また、本発明に用いられる強化繊維束[B]はサイジング剤が付与されてなることが、集束性、耐屈曲性や耐擦過性を改良し、高次加工工程において、毛羽、糸切れの発生を抑制でき、いわゆる糊剤、集束剤として高次加工性を向上させることもでき、好ましい。特に、炭素繊維の場合、サイジング剤を付与することで、炭素繊維表面の官能基等の表面特性に適合させて接着性およびコンポジット総合特性を向上させることができる。
本発明において用いられるサイジング剤の成分としては特に限定されず、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリエステル、乳化剤あるいは界面活性剤などが挙げられる。中でもマトリックス樹脂との接着性を発揮しやすいエポキシ樹脂が好ましい。これらは1種または2種以上を併用してもよい。
さらに、サイジング剤に用いるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも力学特性向上の観点から、脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。通常、エポキシ樹脂はエポキシ基を多数有すると、架橋反応後の架橋密度が高くなるために、靭性の低い構造になる傾向にあり、強化繊維とマトリックス樹脂間に介在させても、脆いために剥離しやすく、繊維強化による強度向上効果が発現しない場合がある。一方、脂肪族エポキシ樹脂は、柔軟な骨格のため、架橋密度が高くとも靭性の高い構造になりやすい。強化繊維とマトリックス樹脂間に介在させた場合、柔軟で剥離しにくくさせるため、繊維強化による強度向上効果が発現しやすく、好ましい。
脂肪族エポキシ樹脂の具体例としては、例えば、ジグリシジルエーテル化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル類、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類等が挙げられる。また、ポリグリシジルエーテル化合物としては、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ソルビトールポリグリシジルエーテル類、アラビトールポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパングリシジルエーテル類、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル類、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル類等が挙げられる。
脂肪族エポキシ樹脂の中でも、3官能以上の多官能脂肪族エポキシ樹脂を用いることが好ましく、さらには、反応性の高いグリシジル基を3個以上有する脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物を用いることがより好ましい。これらの中でも、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル類、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル類がさらに好ましい。脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物は、柔軟性、架橋密度、マトリックス樹脂との相溶性のバランスがよく、効果的に接着性を向上させることから好ましい。
ここで、サイジング剤にエポキシ樹脂を用いる場合、強化繊維束[B]に溶融含浸させるエポキシ樹脂[C]と必ずしも異なる成分である必要はないが、サイジング剤に用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量が、上記成分[C]のエポキシ当量よりも小さいものを選定して用いることがより好ましい。ここでエポキシ当量が小さいとは、分子量あたりのエポキシ基の数が多いことを示す。より具体的には、サイジング剤に用いるエポキシ樹脂は、エポキシ当量が100g/eq以上300g/eq未満の範囲であることが好ましく、上記成分[C]は後述するように、エポキシ当量が300〜3000g/eqの範囲であることが好ましい。かかる好ましい範囲において、界面接着性、繊維分散性、力学特性をよりバランス良く向上させることができる。
サイジング剤の付着量は特に限定しないが、強化繊維束[B]100重量%中におけるサイジング剤の占める割合は、0.01〜10重量%が好ましく、0.05〜5重量%がより好ましく、0.1〜2重量%がさらに好ましい。0.01重量%以上であれば、接着性向上効果が十分に奏される。一方、10重量%以下であれば、ポリカーボネート樹脂[A]の物性を十分維持することができる。
サイジング剤の付与手段としては特に限定されるものではないが、例えばサイジング剤を溶媒(分散させる場合の分散媒含む)中に溶解(分散も含む)したサイジング処理液を調製し、該処理液を強化繊維に付与した後に、溶媒を乾燥・気化させ、除去することにより、サイジング剤を強化繊維に付与することが一般的に行われる。該処理液を強化繊維に付与する方法としては、ローラーを介して強化繊維をサイジング処理液に浸漬する方法、サイジング処理液の付着したローラーに強化繊維を接する方法、サイジング処理液を霧状にして強化繊維に吹き付ける方法などがある。また、バッチ式、連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましい。この際、強化繊維束[B]に対するサイジング剤有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング処理液濃度、温度、糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に強化繊維束[B]を超音波で加振させることはより好ましい。
乾燥温度と乾燥時間は化合物の付着量によって調整すべきであるが、サイジング剤の付与に用いる溶媒の完全な除去、乾燥に要する時間を短くし、一方、サイジング剤の熱劣化を防止し、サイジング処理された強化繊維束[B]が固くなって束の拡がり性が悪化することを防止する観点から、乾燥温度は、150℃以上350℃以下であることが好ましく、180℃以上250℃以下であることがより好ましい。
サイジング処理液に使用する溶媒は、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメリルアセトアミド、アセトン等が挙げられるが、取扱いが容易である点および防災の観点から水が好ましい。従って、水に不溶、もしくは難溶の化合物をサイジング剤として用いる場合には、乳化剤、界面活性剤を添加し、水分散して用いることが好ましい。具体的には、乳化剤、界面活性剤としては、スチレン−無水マレイン酸共重合体、オレフィン−無水マレイン酸共重合体、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ポリアクリル酸ソーダ等のアニオン系乳化剤、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾリン等のカチオン系乳化剤、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンエーテルエステル共重合体、ソルビタンエステルエチルオキサイド付加物等のノニオン系乳化剤等を用いることができるが、相互作用の小さいノニオン系乳化剤が多官能化合物の接着性効果を阻害しにくく好ましい。
本発明において、エポキシ樹脂[C]は、マトリックス樹脂であるポリカーボネート樹脂[A]と高い相溶性を示し、強化繊維束[B]の樹脂中への分散性を向上する効果がある。ここで、本発明に用いるエポキシ樹脂[C]としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも粘度と耐熱性のバランスに優れているという観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂がより好ましく、さらに好ましくはビスフェノールA型エポキシ樹脂である。かかる樹脂を用いることで、強化繊維と馴染みやすく、含浸し易いだけでなく、強化繊維束[B]のポリカーボネート樹脂[A]への分散性を向上し易いため好ましい。
また、本発明において、エポキシ樹脂[C]の溶融粘度は特に限定されないが、好ましくは、200℃における溶融粘度が0.01〜10Pa・sであり、より好ましくは0.05〜5Pa・s、さらに好ましくは0.1〜2Pa・sである。200℃における溶融粘度が0.01Pa・s以上であれば、エポキシ樹脂[C]を起点とする破壊を低減し、成形品の力学特性をより向上させることができる。また、10Pa・s以下であれば、エポキシ樹脂[C]が強化繊維束[B]の内部まで含浸させやすい。このため、本発明で得られる樹脂含浸強化繊維[D]を用いて成形加工や混練などを行う際に、エポキシ樹脂[C]がポリカーボネート樹脂[A]、強化繊維束[B]およびエポキシ樹脂[C]の混合物内を流動し、移動しやすくなる。
本発明において、エポキシ樹脂[C]は、200℃にて2時間加熱後の溶融粘度変化率が2以下であることが好ましい。ここで、溶融粘度変化率とは、次式から得られる。
(溶融粘度変化率)[%]={(200℃にて2時間加熱後の200℃における溶融粘度)/(200℃にて2時間加熱前の200℃における溶融粘度)}×100
かかる溶融粘度変化率は、好ましくは、1.5以下であり、より好ましくは、1.3以下である。かかる溶融粘度変化率を2以下にすることで、長時間にわたり樹脂含浸強化繊維[D]を製造する場合においても、付着むらなどを抑制し、樹脂含浸強化繊維[D]の安定した製造を確保できる。
なお、一連の溶融粘度は粘弾性測定器を用いて、40mmのパラレルプレートを使用し、0.5Hz、200℃の条件下で測定を行い求めることができる。また、溶融粘度変化率を算出する際は、200℃の熱風乾燥機にて2時間放置後の被測定試料の粘度測定を同様に行い、算出する。
また、エポキシ樹脂[C]は、10℃/min昇温(空気中)の300℃における加熱減量が5%以下であることが好ましい。より好ましくは、3%以下である。かかる加熱減量が5%以下であれば、含浸時の分解ガスの発生を抑制し、樹脂含浸強化繊維[D]内部のボイド発生を抑制することができる。また、得られる樹脂含浸強化繊維[D]を用いた成形時に、揮発分を低減し、成形品内部の揮発分に由来する欠陥を抑制することができる。
なお、本発明において「加熱減量」とは、加熱前のエポキシ樹脂[C]の重量を100%とし、前記加熱条件における加熱前後でのエポキシ樹脂[C]の重量減量率を表し、下記式により求めることができる。
(加熱減量)[%]={(加熱前重量−加熱後重量)/加熱前重量}×100
また、エポキシ樹脂[C]のエポキシ当量が300〜3000g/eqであることが好ましい。より好ましくは、500〜2000g/eqであり、さらに好ましくは、800〜1500g/eqである。エポキシ当量が300g/eq以上であれば、反応性を適度に抑え、成形加工時における自己反応や強化繊維束[B]、ポリカーボネート樹脂[A]との反応を抑制して繊維分散性をより向上させることができる。また、エポキシ当量が3000g/eq以下であれば、強化繊維束との相互作用により含浸時に強化繊維と馴染みやすく、含浸しやすいため、成形加工時に繊維分散性をより向上させることができる。なお、エポキシ樹脂[C]のエポキシ当量は、JIS K7236試験法に準拠して求めることができる。
また、エポキシ樹脂[C]の数平均分子量は、500〜5000であることが好ましい。より好ましくは、800〜3000であり、さらに好ましくは、1000〜2000である。数平均分子量が500以上であれば、成形品の力学特性をより向上させることができる。また、5000以下であれば、含浸性をより向上させることができる。本発明における樹脂含浸強化繊維[D]を用いて成形加工や混練などを行う際に、エポキシ樹脂[C]の数平均分子量を500〜5000にすることで、エポキシ樹脂[C]がポリカーボネート樹脂[A]、強化繊維束[B]およびエポキシ樹脂[C]の混合物内をより流動し、移動しやすくなる。なお、エポキシ樹脂[C]の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
前記強化繊維束[B]に前記エポキシ樹脂[C]を溶融含浸させ、樹脂含浸強化繊維[D]となす。
本発明において、強化繊維束[B]にエポキシ樹脂[C]を溶融含浸させ、樹脂含浸強化繊維[D]を得る方法は、特に限定されないが、次の様な方法を例示できる。すなわち、強化繊維束[B]にエポキシ樹脂[C]を供給し、エポキシ樹脂[C]を100〜300℃の溶融状態で強化繊維束[B]と接触させる工程(I)と、エポキシ樹脂[C]と接触している強化繊維束[B]を加熱して含浸させる工程(II)を有する方法が挙げられる。
工程(I)では、特に限定されないが、繊維束に油剤、サイジング剤、マトリックス樹脂を付与するような公知の製造方法を用いることができ、中でも、ディッピング、もしくは、コーティングが好ましく、具体的なコーティングとしては、リバースロール、正回転ロール、キスロール、スプレイ、カーテンが好ましく用いられる。
ここで、ディッピングとは、ポンプにてエポキシ樹脂[C]を溶融バスに供給し、該溶融バス内で強化繊維束[B]を通過させる方法をいう。強化繊維束[B]をエポキシ樹脂[C]の溶融バスに浸すことで、確実にエポキシ樹脂[C]を強化繊維束[B]に付着させることができる。また、リバースロール、正回転ロール、キスロールとは、ポンプで溶融させたエポキシ樹脂[C]をロールに供給し、強化繊維束[B]にエポキシ樹脂[C]の溶融物を塗布する方法をいう。さらに、リバースロールは、2本のロールが互いに逆方向に回転し、ロール上に溶融したエポキシ樹脂[C]を塗布する方法であり、正回転ロールは、2本のロールが同じ方向に回転し、ロール上に溶融したエポキシ樹脂[C]を塗布する方法である。通常、リバースロール、正回転ロールでは、強化繊維束[B]を挟み、さらにロールを設置し、エポキシ樹脂[C]を確実に付着させる方法が用いられる。一方で、キスロールは、強化繊維束[B]とロールが接触しているだけで、エポキシ樹脂[C]を付着させる方法である。そのため、キスロールは比較的粘度の低い場合の使用が好ましいが、いずれのロール方法を用いても、加熱溶融したエポキシ樹脂[C]の所定量を塗布させ、強化繊維束[B]を接着させながら走らせることで、繊維束の単位長さ当たりに所定量のエポキシ樹脂[C]を付着させることができる。スプレイは、霧吹きの原理を利用したもので、溶融したエポキシ樹脂[C]を霧状にして強化繊維束[B]に吹き付ける方法であり、カーテンは、溶融したエポキシ樹脂[C]を小孔から自然落下させ塗布する方法、または溶融槽からオーバーフローさせ塗布する方法である。塗布に必要な量を調節しやすいため、エポキシ樹脂[C]の損失を少なくできる。
また、エポキシ樹脂[C]を供給する際の溶融温度(溶融バス内の温度)としては、100〜300℃が好ましい。より好ましくは、150〜250℃である。100℃以上であれば、エポキシ樹脂[C]の粘度を適度に抑え、付着むらを抑制することができる。また、300℃以下であれば、長時間にわたり製造した場合にも、エポキシ樹脂[C]の熱分解を抑制することができる。100〜300℃の溶融状態で強化繊維束[B]と接触させることで、エポキシ樹脂[C]を安定して供給することができる。
次いで、工程(II)として、工程(I)で得られた、エポキシ樹脂[C]と接触した状態の強化繊維束[B]を加熱して含浸させる。具体的には、エポキシ樹脂[C]と接触した状態の強化繊維束[B]に対して、エポキシ樹脂[C]が溶融する温度において、ロールやバーで張力をかける、拡幅、集束を繰り返す、圧力や振動を加えるなどの操作でエポキシ樹脂[C]を強化繊維束[B]の内部まで含浸するようにする工程である。より具体的な例として、加熱された複数のロールやバーの表面に繊維束を接触するように通して拡幅などを行う方法を挙げることができ、中でも、絞り口金、絞りロール、ロールプレス、ダブルベルトプレスを用いて含浸させる方法が好適に用いられる。ここで、絞り口金とは、進行方向に向かって、口金径の狭まる口金のことであり、強化繊維束[B]を集束させながら、余分に付着したエポキシ樹脂[C]を掻き取ると同時に、含浸を促す口金である。また、絞りロールとは、ローラーで強化繊維束[B]に張力をかけることで、余分に付着したエポキシ樹脂[C]を掻き取ると同時に、含浸を促すローラーのことである。また、ロールプレスは、2つのロール間の圧力で連続的に強化繊維束[B]内部の空気を除去するのと同時に、含浸を促す装置であり、ダブルベルトプレスとは、強化繊維束[B]の上下からベルトを介してプレスすることで、含浸を促す装置である。
また、工程(II)において、エポキシ樹脂[C]の供給量の80〜100重量%が強化繊維束[B]に含浸されていることが好ましい。収率に直接影響するため、経済性、生産性の観点から供給量に対する含浸量が高いほど好ましい。より好ましくは、85〜100重量%であり、さらに好ましくは90〜100重量%である。また、80重量%以上であれば、経済性の観点に加えて、工程(II)におけるエポキシ樹脂[C]に起因する揮発成分の発生を抑制し、樹脂含浸強化繊維[D]内部のボイド発生を抑制することができる。
また、工程(II)において、エポキシ樹脂[C]の最高温度が150〜400℃であることが好ましい。好ましくは180〜380℃であり、より好ましくは200℃〜350℃である。150℃以上であれば、エポキシ樹脂[C]を十分に溶融してより効果的に含浸させることができる。400℃以下であれば、エポキシ樹脂[C]の分解反応などの好ましくない副反応を抑制することができる。
工程(II)における加熱方法としては、特に限定しないが、具体的には、加熱したチャンバーを用いる方法や、ホットローラーを用いて加熱と加圧を同時に行う方法が例示できる。
また、エポキシ樹脂[C]の架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制する観点から、非酸化性雰囲気下で加熱することが好ましい。ここで、非酸化性雰囲気とは酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を含有しない雰囲気、すなわち、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性および取り扱いの容易さの面から、窒素雰囲気が好ましい。
また、前記工程(I)、(II)の前段階で、強化繊維束[B]を予め開繊してもよい。開繊とは収束された強化繊維束[B]を分繊させる操作であり、エポキシ樹脂[C]の含浸性をさらに高める効果が期待できる。開繊により、強化繊維束[B]の厚みは薄くなり、開繊前の強化繊維束[B]の幅をb1(mm)、厚みをa1(μm)、開繊後の成分(A)の幅をb2(mm)、厚みをa2(μm)とした場合、開繊比=(b2/a2)/(b1/a1)を2.0以上とすることが好ましく、2.5以上とすることがさらに好ましい。
強化繊維束[B]の開繊方法としては、特に制限はなく、例えば凹凸ロールを交互に通過させる方法、太鼓型ロールを使用する方法、軸方向振動に張力変動を加える方法、垂直に往復運動する2個の摩擦体による強化繊維束[B]の張力を変動させる方法、強化繊維束[B]にエアを吹き付ける方法などを利用できる。
図1は、本発明に用いられる樹脂含浸強化繊維[D]の横断面形態の一例を示す概略図である。なお、本発明において、横断面とは、軸心方向に直交する面での断面を意味する。本発明において用いられる樹脂含浸強化繊維[D]は、強化繊維束[B]にエポキシ樹脂[C]を塗布、含浸せしめた複合体として形成されている(以下、樹脂含浸強化繊維[D]を複合体とも称す)。この複合体の形態は図1に示すようなものであり、強化繊維束[B]の各単繊維1間にエポキシ樹脂[C]2が満たされている。すなわち、エポキシ樹脂[C]2の海に、強化繊維束[B]の各単繊維1が島のように分散している状態である。
上記複合体において、エポキシ樹脂[C]が強化繊維束[B]に良好に含浸した複合体とすることで、例えば、ポリカーボネート樹脂[A]と共に射出成形すると、射出成形機のシリンダー内で溶融混練されたエポキシ樹脂[C]が、ポリカーボネート樹脂[A]に拡散し、強化繊維束[B]がポリカーボネート樹脂[A]に分散することを助け、同時にポリカーボネート樹脂[A]が強化繊維束[B]に置換、含浸することを助ける、いわゆる含浸助剤・分散助剤としての役割を持つ。
上記複合体に含まれる強化繊維束[B]とエポキシ樹脂[C]の重量比([B]/[C])は87/13〜50/50である。好ましくは85/15〜60/40であり、さらに好ましくは83/17〜70/30である。強化繊維束[B]とエポキシ樹脂[C]の重量比において、強化繊維束[B]の重量比率が50未満では、得られる成形品の力学特性が不十分であったり、難燃性が低下する場合があり、87を超えるとポリカーボネート樹脂[A]に対する分散性や、射出成形などの成形加工の際に流動性が低下する場合がある。
ここで、強化繊維[B]にサイジング剤としてエポキシ樹脂が付与されてなる場合、上記エポキシ樹脂[C]にはサイジング剤としてのエポキシ樹脂は含まず、サイジング剤を付与した強化繊維全体を強化繊維束[B]とし、上記重量比になるよう、エポキシ樹脂[C]を溶融含浸して複合体を得ることが、界面接着性および繊維分散性の発現の観点から好ましい。
また、強化繊維束[B]にサイジング剤が付与されてなる場合、サイジング剤とエポキシ樹脂[C]との重量比が0.001〜0.5/1であることが好ましい。より好ましくは0.005〜0.1/1であり、さらに好ましくは0.01〜0.05/1である。各成分をかかる範囲内で用いることで、界面接着性、繊維分散性、力学特性をよりバランス良く向上することができるため好ましい。
また強化繊維束[B]には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の添加剤をエポキシ樹脂[C]と共に溶融含浸してもよい。添加剤の例としては、下記に述べる難燃剤の他に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、無機充填材、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤などが挙げられる。この際、複合体に含まれる強化繊維束[B]とエポキシ樹脂[C]の重量比は上記の範囲を維持していることが好ましい。
また、複合体においては、強化繊維束[B]がエポキシ樹脂[C]によって完全に含浸されていることが望ましいが、現実的にそれは困難であり、複合体にはある程度の空隙(強化繊維束[B]もエポキシ樹脂[C]も存在しない部分)が存在する。特に強化繊維束[B]の含有率が大きい場合には空隙が多くなるが、ある程度の空隙が存在する場合でも本発明の含浸・繊維分散促進の効果は示される。含浸・繊維分散促進効果をより向上させる観点から、空隙率は40%未満が好ましい。より好ましい空隙率の範囲は20%以下である。空隙率は、複合体をASTM D2734(1997)試験法により測定するか、または複合体の横断面において、強化繊維束[B]とエポキシ樹脂[C]により形成される複合部の全面積と空隙部の全面積とから次式を用いて算出することができる。
(空隙率)[%]={(空隙部の全面積)/(複合部の全面積+空隙部の全面積)}×100
さらに、得られた複合体の揮発分が少ないほど、成形時の揮発分が少なく、好ましい。200℃にて2時間乾燥させた後の重量減量率が5%未満であることが好ましく、より好ましくは、3%未満であり、さらに好ましくは1%未満である。
本発明において、ポリカーボネート樹脂成形材料中に含有される樹脂含浸強化繊維[D]は、ポリカーボネート樹脂成形材料を構成するポリカーボネート樹脂[A]100重量部に対して、5〜250重量部である。好ましくは10〜200重量部、さらに好ましくは15〜150重量部である。樹脂含浸強化繊維[D]が5重量部未満では、強化繊維による補強効果が得られず、十分な力学特性が発現しないことがあるため好ましくない。また、樹脂含浸強化繊維[D]が250重量部より多い場合、成形時の流動性が著しく低下し、強化繊維束[B]の分散不良が起きたり、成形品が得られない場合があるので好ましくない。
本発明のポリカーボネート樹脂成形材料は、さらに難燃剤[E]および/または液晶性樹脂[H]を含む。難燃剤[E]および液晶性樹脂[H]は、いずれも成形品の難燃性向上に寄与する。また、液晶性樹脂[H]は、成形品の難燃性向上に加え、力学特性向上にも寄与する。液晶性樹脂[H]の難燃性向上効果は、燃焼時に液晶性樹脂[H]が成形品表面に緻密なチャーをすることが主な発現因子であると推定している。また、液晶性樹脂[H]の力学特性向上効果は、液晶性樹脂[H]が成形時の流動性向上に寄与し、それに伴い、強化繊維の分散性が向上するため、強化繊維による補強効果をより引き出すことができるためと推定している。本発明においては、難燃剤[E]または液晶性樹脂[H]のいずれか一方を用いてもよいし、両方を併用してもよいが、難燃性および力学特性向上の観点から、併用することがより好ましい。
本発明において用いられる難燃剤[E]は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、金属塩系難燃剤などが挙げられる。
ハロゲン系難燃剤の代表的なものとしては、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールS、1,2−ビス(2’,3’,4’,5’,6’−ペンタブロモフェニル)エタン、1,2−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)エタン、2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン、2,6−または2,4−ジブロモフェノール、臭素化ポリスチレン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ヘキサブロモシクロドデカン、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモベンジルアクリレート、2,2−ビス[4’(2’’,3’’−ジブロモプロポキシ)−,3’,5’−ジブロモフェニル]−プロパン、ビス(3,5−ジブロモ,4−ジブロモプロポキシフェニル)スルホン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートなどの臭素含有化合物を含む臭素系難燃剤、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、パークロロペンタシクロデカン、ドデカクロロドデカヒドロジメタノジベンゾシクロオクテン、ドデカクロロオクタヒドロジメタノジベンゾフランなどの塩素含有化合物を含む塩素系難燃剤が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、熱安定性や、成形品の力学特性のバランスの観点から、テトラブロモビスフェノールAのポリカーボネートオリゴマー類が特に好ましい。
ハロゲン系難燃剤は成形品中で分解し、ラジカルトラップ効果により、燃焼場において活性なHラジカルやOHラジカルを安定化することにより、難燃性を発現する。
また、リン系難燃剤の代表的なものとしては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、その他芳香族リン酸エステル等のリン酸エステル系化合物や、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリスクロロエチルホスフェート、トリスクロロプロピルホスフェート等の含ハロゲンリン酸エステル化合物、縮合リン酸エステル化合物、ポリリン酸塩類、赤リン系化合物などが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
リン系難燃剤は、脱水炭化促進作用により、成形品表面に緻密なチャーが形成され、熱や酸素を遮断し、炎の伝播を阻止する。また、熱分解におけるラジカル連鎖反応に対し、ラジカルトラップ効果により燃焼場において活性なHラジカルやOHラジカルを安定化することで難燃性を発現する。
金属塩系難燃剤としては、三酸化アンチモンや、五酸化アンチモンに代表される一部の無機塩をハロゲン系難燃剤と併用し、難燃助剤として用いるものや、有機スルホン酸塩に代表される有機アルカリ金属塩が挙げられる。前者の酸化アンチモンをハロゲン系難燃剤と併用した場合、アンチモンのオキシハライドによる表面遮蔽効果と気層での熱分解反応阻止効果により難燃性を発現する。後者の有機アルカリ金属塩は、燃焼時に分子間エステル交換、および異性化転位反応を起こし、ポリカーボネート分子が多岐化することによって、炭化が促進され難燃性を発現する。
本発明において、上記種々の難燃剤の中でも、難燃性の発現や、有毒ガスの発生懸念の有無、難燃剤添加による比重の増加、ポリカーボネート樹脂[A]と難燃剤[E]との相溶性といった観点からリン系難燃剤を用いることが特に好ましい。さらに、リン系難燃剤を用いた場合、成形品の強度を向上する効果が見られることがある。本原因については明らかではないが、リン系難燃剤によってマトリックスであるポリカーボネート樹脂[A]が可塑化され、成形品の破断伸度が向上し、それに伴い破断応力も増大するためと考えている。この効果は後述の難燃剤[E]の好ましい含有量の範囲で特に顕著に表れる。
本発明において、ポリカーボネート樹脂成形材料中に難燃剤[E]を含む場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂成形材料を構成するポリカーボネート樹脂[A]100重量部に対して、1〜100重量部である。好ましくは3〜90重量部であり、さらに好ましくは5〜80重量部である。後述の液晶性樹脂[H]を含む場合を除き、難燃剤[E]が1重量部未満の場合、成形品において十分な難燃性が得られない場合があり、好ましくない。また、100重量部より多い場合、成形品の力学特性が低下したり、比重が増加する場合があるため好ましくない。
本発明において、難燃剤[E]は、ポリカーボネート樹脂成形材料として、成形時に用いる原材料の中のいずれかに含まれていればよい。ここで、本発明において、原材料の中のいずれかに含まれる好ましい例を具体的に挙げると、例えば、ポリカーボネート樹脂[A]と難燃剤[E]を溶融混練した、いわゆるポリカーボネート樹脂組成物として、上記樹脂含浸強化繊維[D]を被覆する樹脂中に含まれていたり、上記樹脂含浸強化繊維[D]を得る工程において、強化繊維束[B]中にエポキシ樹脂[C]と共に難燃剤[E]を溶融含浸し、上記樹脂含浸強化繊維[D]に含まれていることが好ましい。また、上記樹脂含浸強化繊維[D]をポリカーボネート樹脂[A]で被覆したものと、ポリカーボネート樹脂[A]と難燃剤[E]を溶融混練した、いわゆるポリカーボネート樹脂組成物からなる成形材料をドライブレンドして、ポリカーボネート樹脂成形材料混合物としたものも、成形前に成形品に含まれる強化繊維や難燃剤の量を容易に調整することができることから好ましい。ここで、本発明においてドライブレンドとは、溶融混練とは異なり、2種の材料を樹脂成分が溶融しない温度で撹拌・混合し、実質的に均一な状態とすることを言い、主に射出成形や押出成形の際等にペレット形状の材料を用いる場合に好ましく用いられる。
本発明において用いられる液晶性樹脂[H]とは、異方性溶融相を形成し得る樹脂であり、例えば、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド、液晶性ポリカーボネート、液晶性ポリエステルエラストマーなどが挙げられる。なかでも分子鎖中にエステル結合を有するものが好ましく、本発明においては、力学特性、および難燃性をバランスよく向上させる観点から、液晶性ポリエステルが特に好ましく用いられる。
上記液晶性ポリエステルの構造単位としては、例えば、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、脂肪族ジオキシ単位、芳香族ジカルボニル単位などが挙げられる。
芳香族オキシカルボニル単位としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などから生成した構造単位が挙げられる。芳香族ジオキシ単位としては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルなどから生成した構造単位が挙げられる。脂肪族ジオキシ単位としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどから生成した構造単位が挙げられる。芳香族ジカルボニル単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’ジフェニルエーテルジカルボン酸などから生成した構造単位が挙げられる。
また、本発明において用いられる液晶性樹脂[H]は、成形品の難燃性をより向上させる観点から、全芳香族液晶性ポリエステルが好ましい。ここで全芳香族液晶性ポリエステルとは、液晶性ポリエステルを構成する構造単位が脂肪族系の構造単位を含まず、全て芳香族系の構造単位であるものを指す。
本発明において、好ましい液晶性ポリエステルの例としては、例えば、下記一般式(I)で表される構造単位(以下、構造単位(I)とする)、下記一般式(II)で表される構造単位(以下、構造単位(II)とする)、下記一般式(IV)で表される構造単位(以下、構造単位(IV)とする)からなるポリエステル、構造単位(I)、下記式(III)で表される構造単位(以下、構造単位(III)とする)、構造単位(IV)からなるポリエステル、構造単位(I)、構造単位(II)、構造単位(III)、構造単位(IV)からなるポリエステルなどが挙げられる。難燃性をより向上させる観点から、構造単位(I)、構造単位(II)、構造単位(IV)からなるポリエステル、構造単位(I)、構造単位(II)、構造単位(III)、構造単位(IV)からなるポリエステルがより好ましく、構造単位(I)、構造単位(II)、構造単位(IV)からなるポリエステルがさらに好ましい。
(ただし、一般式(II)中のR1は下記(a)〜(j)から選ばれた1種以上の基を示し、一般式(IV)中のR2は下記(A)〜(F)から選ばれた1種以上の基を示す。また、式中Xは水素原子または塩素原子を示す。)
上記構造単位(I)はp−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位であり、構造単位(II)は4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルから選ばれた一種以上の芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位を、構造単位(III)はエチレングリコールから生成した構造単位を、構造単位(IV)はテレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸および4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸から選ばれた一種以上の芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位を各々示す。
さらに、これらのうち、R1が上記(a)および/または(c)であり、R2が上記(A)、(B)および/または(D)であることが特に好ましい。
上記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)の共重合量は任意である。しかし、本発明の特性をより発揮させるためには次の共重合量であることが好ましい。
すなわち、上記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)からなる共重合体の場合、上記構造単位(I)および(II)の合計は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して30〜95モル%であることが耐熱性および成形性の観点から好ましく、40〜90モル%がより好ましい。また、構造単位(III)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して5〜70モル%であることが長期耐熱性の観点から好ましく、10〜60モル%がより好ましい。また、構造単位(I)の、構造単位(II)に対するモル比[(I)/(II)]は、耐熱性および成形性のバランスの観点から、好ましくは75/25〜95/5であり、より好ましくは78/22〜93/7である。また、構造単位(IV)は構造単位(II)および(III)の合計と実質的に等モルであることが好ましい。
また、上記構造単位(III)を含まず、上記構造単位(I)、(II)、(IV)からなる共重合体の場合、構造単位(I)の構造単位(II)に対するモル比[(I)/(II)]は、上記と同様に好ましくは75/25〜95/5であり、より好ましくは78/22〜93/7である。また、構造単位(IV)は構造単位(II)と実質的に等モルであることが好ましい。
構造単位(III)を含まず、上記構造単位(I)、(II)、(IV)からなる共重合体について、さらに好ましい例としては、構造単位(II)において、R1が上記(a)であるもの(構造単位II1とする)と、上記(c)であるもの(構造単位II2とする)とを含み、構造単位(IV)においては、R2が上記(A)であるもの(構造単位IV1とする)と、(B)であるもの(構造単位IV2とする)とを含むものである。ここで、構造単位(I)は、構造単位(I)、(II1)および(II2)の合計に対して、68〜80モル%が好ましい。また、構造単位(II1)は構造単位(II1)および(II2)の合計に対して55〜75モル%が好ましい。さらに、構造単位(IV1)は構造単位(IV1)および(IV2)の合計に対して60〜85モル%が好ましい。ここで、構造単位(II1)および(II2)の合計と、構造単位(IV1)および(IV2)の合計が実質的に等モルであることが好ましい。
なお、本発明において、「実質的に等モル」とは、末端を除くポリマー主鎖を構成する構造単位が等モルであることを示す。このため、末端を構成する構造単位まで含めた場合に必ずしも等モルとならない態様も、「実質的に等モル」の要件を満たしうる。
上記好ましく用いることができる液晶性ポリエステルは、上記構造単位(I)〜(IV)を構成する成分以外に、3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、クロルハイドロキノン、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,4’−ジヒドロキシビフェニルなどの芳香族ジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオール、m−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸およびp−アミノ安息香酸などを、液晶性および難燃性を損なわない範囲でさらに共重合せしめることができる。
液晶性樹脂[H]の融点は、特に限定されないが、ポリカーボネート樹脂[A]への分散性の観点から、220〜350℃が好ましく、より好ましくは270℃〜340℃である。
また、同様の観点から、液晶性樹脂[H]の溶融粘度は、特に限定されるものではないが、1〜200Pa・sが好ましく、10〜200Pa・sがより好ましく、10〜100Pa・sがさらに好ましい。なお、本発明における液晶性樹脂[H]の溶融粘度は、液晶性樹脂[H]の融点+10℃の条件で、ずり速度1,000/秒の条件下で高化式フローテスターによって測定される値である。
本発明において使用される上記液晶性ポリエステルの製造方法は、特に制限がなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。具体的には、例えば、次の製造方法が好ましく挙げられる。
(1)p−アセトキシ安息香酸および4,4’−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のジアシル化物と2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸から脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
(2)p−ヒドロキシ安息香酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
(3)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステルおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸のジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により製造する方法。
(4)p−ヒドロキシ安息香酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれジフェニルエステルとした後、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により製造する方法。
(5)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルのポリマー、オリゴマーまたはビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートなど芳香族ジカルボン酸のビス(β−ヒドロキシエチル)エステルの存在下で(1)または(2)の方法により製造する方法。
液晶性ポリエステルの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
本発明において、ポリカーボネート樹脂成形材料中に液晶性樹脂[H]を含む場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂成形材料を構成するポリカーボネート樹脂[A]100重量部に対して、1〜100重量部である。より好ましくは3〜90重量部であり、さらに好ましくは5〜80重量部である。前述の難燃剤[E]を含む場合を除き、液晶性樹脂[H]が1重量部未満の場合、成形品において十分な難燃性や力学特性向上効果が得られない場合があり、好ましくない。また、100重量部より多い場合、成形品の力学特性が低下したり、成形時の溶融粘度が低下してバリが生じ、均質な成形品が得られない場合があるため好ましくない。
本発明において、液晶性樹脂[H]はポリカーボネート樹脂成形材料として、成形時に用いる原材料の中のいずれかに含まれていればよいが、エポキシ樹脂[C]の繊維分散効果をより向上させ、さらに、液晶性樹脂[H]をポリカーボネート樹脂[A]中により均一に分散させるために、液晶性樹脂[H]はポリカーボネート樹脂[A]と溶融混練された形で成形材料に含まれることがより好ましい。具体的には、例えば、ポリカーボネート樹脂[A]と液晶性樹脂[H]を溶融混練した、いわゆるポリカーボネート樹脂組成物として、上記樹脂含浸強化繊維[D]を被覆する樹脂に含まれていることが好ましい。また、上記樹脂含浸強化繊維[D]をポリカーボネート樹脂[A]で被覆したものと、ポリカーボネート樹脂[A]と液晶性樹脂[H]を溶融混練したポリカーボネート樹脂組成物からなる成形材料をドライブレンドして、ポリカーボネート樹脂成形材料混合物としたものも、成形前に成形品に含まれる各成分の量を容易に調整することができることから好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂成形材料は、上記成分の他に、さらに機能性を付与する目的で導電性フィラー[F]や、耐光安定剤[G]を含有することが好ましい。
本発明における導電性フィラー[F]とは、それ自身が導電性を有し、成形品中に分散させることによって、成形品の導電特性を向上することができ、本発明の効果を損なわないものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、カーボンブラックや、金、銀、ニッケル、銅、アルミニウムなどに代表される金属粉や、炭素繊維や導電性金属繊維などの強化繊維などが挙げられる。樹脂含浸強化繊維[D]のポリカーボネート樹脂[A]中への分散性をより向上させる観点から、好ましい導電性フィラー[F]の形態は、微粉末、あるいはフレーク状の粒状固体であり、中でも導電性向上効果と比重とのバランスの観点から、カーボンブラックが好ましい。
本発明においては、強化繊維に炭素繊維や金属繊維のような導電性繊維を用いた場合、成形品は導電性を発現するが、更なる導電性を要する場合にさらに導電性フィラー[F]を含有することが好ましい。導電性フィラー[F]の含有量は、ポリカーボネート樹脂成形材料を構成するポリカーボネート樹脂[A]100重量部に対して、1〜25重量部が好ましい。より好ましくは3〜20重量部、さらに好ましくは5〜15重量部である。導電性フィラー[F]の含有量が1重量部以上であれば、導電性向上効果が十分に発現する。一方、25重量部以下であれば、ポリカーボネート樹脂成形材料から得られる成形品の比重を低減することができる。また、導電性フィラー[F]を破壊の起点とする力学特性の低下を抑制することができる。
本発明における耐光安定剤[G]には公知のものを用いることができ、例えば、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、シュウ酸アニリド系などの紫外線吸収剤や、ヒンダードアミン系、ベンゾエート系などのラジカル捕捉剤が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。特にヒンダードアミン系の耐光安定剤は紫外線吸収剤と高い相乗効果を示すため、これらを同時に用いることがより好ましい。ここで、ヒンダードアミン系の耐光安定剤とは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン骨格を分子内に含む構造を有するものである。
また、ポリカーボネート樹脂[A]は塩基性成分に対して不安定であり、ヒンダードアミン系光安定剤によって加水分解を受ける場合があることから、ヒンダードアミン系の光安定剤の中でも、アミノエーテル型ヒンダードアミン系光安定剤を用いることが特に好ましい。ここでアミノエーテル型ヒンダードアミン系光安定剤とは、下記構造式(V)で示されるような、前記2,2,6,6−テトラメチルピペリジン骨格における、窒素原子に結合する水素原子が置換された構造を化合物内に有するヒンダードアミン系光安定剤を指す。市販されている代表的なものとして、例えば、BASFジャパン(株)製Tinuvin123、Tinuvin 152、Tinuvin NOR 371 FF、TinuvinXT850 FF、Tinuvin XT855 FF、Flamestab NOR 116 FF、(株)ADEKA製アデカスタブLA−81などが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
(上記構造式(V)中、R3、R4はアルキル基および/またはシクロアルキル基を示す。好ましくは、R3、R4は炭素数5〜12のアルキル基および/またはシクロアルキル基である。)
アミノエーテル型ヒンダードアミン光安定剤は、酸素、紫外線などにより酸化され、ニトロオキサイドラジカルを生成し、マトリックス樹脂中に生成したラジカルを捕捉して、アミノエーテル(−NOR)の構造をとり、さらにアルキルラジカルおよび過酸化物ラジカルを捕獲することで耐候性を保持する。
一方、NHまたはNR(R:アルキル基)構造をもつ非アミノエーテル型ヒンダードアミン系光安定剤は、アミン系化合物であるため酸による攻撃があった際に中和反応を起こし耐候性発現の効果が低下することがある。また、構造上、ニトロオキサイドラジカル生成に時間がかかるものがあり、マトリックス樹脂中において過酸化物ラジカルを捕獲できない場合があるため、アミノエーテル型ヒンダードアミン光安定剤を用いることがより好ましい。
本発明において、ポリカーボネート樹脂成形材料中における耐光安定剤[G]の含有量は、ポリカーボネート樹脂成形材料を構成するポリカーボネート樹脂[A]100重量部に対して、0.1〜10重量部が好ましい。より好ましくは0.3〜5重量部、さらに好ましくは0.5〜3重量部である。耐光安定剤[G]が0.1重量部以上であれば、十分な耐候性が得られる。一方、10重量部以下であれば、光安定剤に由来する分解ガスの発生を抑制し、難燃性および力学特性をより向上させることができる。
次に本発明におけるポリカーボネート樹脂成形材料について詳細に説明する。
本発明において、ポリカーボネート樹脂成形材料は、樹脂含浸強化繊維[D](複合体)が、少なくともポリカーボネート樹脂[A]によって被覆された構造を有することが好ましい。ここで本発明において、「被覆された構造」とは、上記の様にして得られた複合体がポリカーボネート樹脂[A]と適宜配置されて接着されてなるものであり、その接着方法としては、溶融したポリカーボネート樹脂[A]を複合体に接する様に配置し、冷却・固化する方法が好ましい。その手法については特に限定されないが、より具体的には、押出機と電線被覆法用のコーティングダイを用いて、連続的に複合体の周囲にポリカーボネート樹脂[A]を被覆するように配置していく方法や、ロール等で扁平化した複合体の片面あるいは両面から押出機とTダイを用いて溶融したフィルム状のポリカーボネート樹脂[A]を配置し、ロール等で一体化させる方法を挙げることができる。
図2は、本発明のポリカーボネート樹脂成形材料の好ましい縦断面形態の一例を示す概略図である。なお、本発明において、縦断面とは、軸心方向を含む面での断面を意味する。本発明のポリカーボネート樹脂成形材料の一例は、図2に示すように、強化繊維束[B]の各繊維1が成形材料の軸心方向にほぼ平行に配列され、かつ強化繊維束[B]の長さは成形材料の長さと実質的に同じ長さである。
ここで言う、「ほぼ平行に配列されている」とは、強化繊維束[B]の長軸の軸線と、ポリカーボネート樹脂成形材料の長軸の軸線とが、同方向を指向している状態を示し、軸線同士のなす角度が、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。また、「実質的に同じ長さ」とは、例えばペレット状の成形材料において、ペレット内部の途中で強化繊維束[B]が切断されていたり、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束[B]が実質的に含まれたりしないことである。特に、そのペレット全長よりも短い強化繊維束[B]の量について規定されているわけではないが、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維束[B]の含有量が30質量%以下である場合には、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束[B]が実質的に含まれていないと評価する。さらに、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維束[B]の含有量は20質量%以下であることが好ましい。なお、ペレット全長とはペレット中の強化繊維束[B]配向方向の長さである。強化繊維束[B]が成形材料と同等の長さを持つことで、成形品中の強化繊維長を長くすることができるため、優れた力学特性を得ることができる。
図3a、4a、5a、6aはそれぞれ、本発明のポリカーボネート樹脂成形材料の縦断面形態の一例を模式的に表したものであり、図3b、4b、5b、6bはそれぞれ、前記図3a〜6aに対応するポリカーボネート樹脂成形材料の横断面形態の一例を模式的に表したものである。
ポリカーボネート樹脂成形材料の断面形態は、強化繊維束[B]とエポキシ樹脂[C]からなる複合体に、ポリカーボネート樹脂[A]が接着するように配置されていれば図に示されたものに限定されないが、好ましくは図3a〜5aの縦断面形態に示されるように、複合体が芯材となりポリカーボネート樹脂[A]で層状に挟まれて配置されている構成が好ましい。
また図3b〜5bの横断面形態に示されるように、複合体を芯構造として、その周囲をポリカーボネート樹脂[A]が被覆するような芯鞘構造に配置されている構成が好ましい。また、図7に示されるような複数の複合体をポリカーボネート樹脂[A]が被覆するように配置する場合、複合体の数は2〜6程度が望ましい。
複合体とポリカーボネート樹脂[A]の境界は接着され、境界付近で部分的にポリカーボネート樹脂[A]が複合体の一部に入り込み、複合体を構成するエポキシ樹脂[C]と相溶しているような状態、あるいは強化繊維に含浸しているような状態になっていてもよい。
本発明のポリカーボネート樹脂成形材料は、例えば射出成形やプレス成形などの手法により混練されて最終的な成形品となる。成形材料の取扱性の点から、複合体とポリカーボネート樹脂[A]は成形が行われるまでは接着されたまま分離せず、前述したような形状を保っていることが重要である。複合体とポリカーボネート樹脂[A]では、形状(サイズ、アスペクト比)、比重、質量が全く異なるため、成形までの材料の運搬、取り扱い時、成形工程での材料移送時に分級し、成形品の力学特性にバラツキを生じたり、流動性が低下して金型詰まりを起こしたり、成形工程でブロッキングする場合がある。
かかる観点から、前記したような、図3b〜5bに例示されるような芯鞘構造に配置されている構成が好ましい。このような配置であれば、ポリカーボネート樹脂[A]が複合体を拘束し、より強固な複合化ができる。また、図3b〜5bに例示されるような芯鞘構造にするか、図6bに例示されるような層状配置とするか、いずれが有利であるかについては、製造の容易さと、材料の取り扱いの容易さから、芯鞘構造とすることがより好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂成形材料は、その軸心方向には、ほぼ同一の断面形状を保っていれば、連続であってもよいし、成形方法によっては連続のものをある長さに切断されてなっていてもよい。好ましくは1〜50mmの範囲の長さに切断されてなっているのが良い。この長さに調製することにより、成形時の流動性、取扱性を十分に高めることができる。このように適切な長さに切断されてなる成形材料としてとりわけ好ましい態様は、射出成形用の長繊維ペレットが例示できる。
また、本発明のポリカーボネート樹脂成形材料は、連続、長尺のままでも成形法によっては使用可能である。例えば、熱可塑性ヤーンプリプレグとして、加熱しながらマンドレルに巻き付け、ロール状成形品を得たりすることができる。このような成形品の例としては、液化天然ガスタンクなどが挙げられる。また本発明の成形材料を、連続のまま、複数本一方向に引き揃えて加熱・融着させることにより一方向熱可塑性プリプレグを作製することも可能である。このようなプリプレグは、軽量性、高強度、弾性率、耐衝撃性が要求されるような分野、例えば自動車部材などに適用が可能である。
本発明において、ポリカーボネート樹脂成形材料は、必ずしも単一の成形材料から構成されている必要はなく、いくつかの成形材料の混合物において、種々の成分の含有量が本発明の範囲になるように混合されていてもよい。
したがって、本発明において、ポリカーボネート樹脂成形材料の製造方法として好ましい例を挙げると、例えば、(i)少なくともポリカーボネート樹脂[A]、および強化繊維束[B]にエポキシ樹脂[C]を溶融含浸した樹脂含浸強化繊維[D]を含む成形材料(ブレンド成分1と称する)、ならびに、(ii)少なくともポリカーボネート樹脂[A]と、難燃剤[E]および/または液晶性樹脂[H]とを溶融混練してなる樹脂組成物からなる成形材料(ブレンド成分2と称する)を、各成分の含有量が前記範囲になるよう、ドライブレンドする方法が挙げられる。
ここで、ブレンド成分1と2の好ましい混合比率は、[ブレンド成分1/ブレンド成分2]=75/25〜25/75(重量比)であり、より好ましくは70/30〜30/70、さらに好ましくは67/33〜33/67である。混合比率をかかる範囲内にすることで、成形時に強化繊維束[B]、難燃剤[E]および/または液晶性樹脂[H]がより均一に分散しやすいため、好ましい。かかる好ましい範囲でドライブレンドして得られたポリカーボネート樹脂成形材料混合物において、各種成分の含有量が前記好ましい範囲に収まるように、ブレンド成分1および2の組成を調整することが好ましい。
本発明で得られるポリカーボネート樹脂成形材料の成形方法としては、特に限定しないが、射出成形、オートクレーブ成形、プレス成形、フィラメントワインディング成形、スタンピング成形などの生産性に優れた成形方法に適用でき、これらを組み合わせて用いることもできる。また、インサート成形、アウトサート成形などの一体化成形も容易に実施できる。さらに、成形後にも加熱による矯正処置や、熱溶着、振動溶着、超音波溶着などの生産性に優れた接着工法を活用することもできる。
上記成形方法により得られる成形品としては、インストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、ランプハウジング、ペダルハウジング、ラジエータサポート、スペアタイヤカバー、フロントエンドなどの各種モジュール、シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナ、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品、部材および外板、ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、フェイリング、リブなどの航空機関連部品、部材および外板、モンキー、レンチ等の工具類、さらに電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、レーザーディスク(登録商標)、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品も挙げられる。またパーソナルコンピューター、携帯電話などに使用されるような筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材も挙げられる。本発明において、強化繊維束[B]として、導電性を有する炭素繊維を使用した場合、このような電気・電子機器用部材では、電磁波シールド性が付与されるためにより好ましい。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定するものではない。
[成形品の評価手法]
(1)成形品の繊維分散性
100mm×100mm(3mmt)の成形品を成形し、表裏それぞれの面に存在する未分散の強化繊維束の個数を目視でカウントした。評価は50枚の成形品について行い、以下の基準に基づき、その合計個数について繊維分散性の判定を行った(A〜Cが合格)。
A:未分散CF束が1個以下
B:未分散CF束が1個以上5個未満
C:未分散CF束が5個以上10個未満
D:未分散CF束が10個以上。
(2)曲げ強度
ISO 178に準拠し、3点曲げ試験冶具(圧子半径5mm)を用いて支点距離を64mmに設定し、試験速度2mm/minの試験条件にて曲げ強度を測定した。試験機として、“インストロン(登録商標)”万能試験機5566型(インストロン社製)を用いた。
(3)難燃性
125mm×13mm(3mmt)の成形品(試験片)を成形し、UL−94に準拠して難燃性評価を実施した。具体的には、垂直に支持した上記試験片の下端にバーナー炎をあてて10秒間保ち、その後バーナー炎を試験片から離した。炎が消えた後、再びバーナー炎をあて、同様の操作を行った。そして、1回目の接炎終了後の有炎燃焼持続時間、2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼持続時間の合計、ならびに燃焼落下物の有無により判定を行った。UL94における各等級の基準は概略下記の通りである。
V−0:1回目、2回目の有炎燃焼持続時間が各10秒以内、5本の試験片の1、2回目の有炎燃焼持続時間の合計が50秒以内、2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼持続時間の合計が30秒以内であり、燃焼落下物がなかった。
V−1:1回目、2回目の有炎燃焼持続時間が各10秒超30秒以内、5本の試験片の1、2回目の有炎燃焼持続時間の合計が250秒以内、2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼持続時間の合計が30秒超60秒以内であり、燃焼落下物がなかった。
V−2:1回目、2回目の有炎燃焼持続時間が各10秒超30秒以内、5本の試験片の1、2回目の有炎燃焼持続時間の合計が250秒以内、2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼持続時間の合計が30秒超60秒以内であり、燃焼落下物があった。
さらに、上記1回目、2回目の接炎終了後の有炎燃焼持続時間の合計値を求めた。
(4)体積抵抗値
ISO型引張ダンベル試験片をダイヤモンドカッターにて80mm×10mm(4mmt)の寸法に切断・研磨した後、両端面に導電性ペースト(藤倉化成(株)製ドータイト)を塗布して体積抵抗測定用試験片を得た。JIS K 6271に準拠し、抵抗計HIOKI3541を用いて、四端子法にて体積抵抗値を測定した。
(5)耐候性
紫外線ロングライフフェードメーター(スガ試験機械(株)製)を用いて、83℃、水スプレーサイクルなしの条件下、寸法100mm×100mm(3mmt)の成形品に光照射し、光照射時間が500時間を経過した際の試験片表面をデジタルマイクロスコープ(キーエンス(株)製 型式:VHX−900)で観察した。評価は以下の基準に基づき、表面の状態から耐候性の判定を行った(A〜Cが合格)。
A:クラック、表面荒れなし。
B:計数可能な量のクラックが発生しているが、表面の触感に平滑性が保たれている。
C:試験片表面全面に渡って微小なクラックが生じており、表面の触感にざらつきがある炭素繊維は露出していない。
D:試験片表面全面に無数のクラックが生じ、表面の炭素繊維が露出している。
(参考例1−1)炭素繊維の作製(1)
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数24,000本、単繊維径7μm、単位長さ当たりの質量1.6g/m、比重1.8g/cm3、表面酸素濃度[O/C]0.06の炭素繊維を得た。この炭素繊維のストランド引張強度は4880MPa、ストランド引張弾性率は225GPaであった。
ここで、表面酸素濃度比は、表面酸化処理を行ったあとの炭素繊維を用いて、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めた。まず、炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保った。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせた。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出した。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とした。
(参考例1−2)炭素繊維の作製(2)
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数24,000本、単繊維径7μm、単位長さ当たりの質量1.6g/m、比重1.8g/cm3、表面酸素濃度[O/C]0.12の炭素繊維を得た。この炭素繊維のストランド引張強度は4880MPa、ストランド引張弾性率は225GPaであった。なお、表面酸素濃度比は(参考例1−1)と同様に求めた。
(参考例2)サイジング剤の付与
サイジング剤として、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(エポキシ当量:140g/eq)を2重量%になるように水に溶解させたサイジング処理液を調製し、付着量が1.0重量%になるよう、浸漬法により炭素繊維にサイジング剤を付与し、230℃で乾燥を行った。
(参考例3)樹脂含浸強化繊維[D]および[d]の作製
塗布温度に加熱されたロール上に、エポキシ樹脂[C]またはテルペンフェノール重合体[c]を加熱溶融した液体の被膜を形成させた。ロール上に一定した厚みの被膜を形成するためリバースロールを用いた。このロール上を連続した強化繊維束[B]を接触させながら通過させてエポキシ樹脂[C]またはテルペンフェノール重合体[c]を付着させた。次に、含浸温度に加熱されたチャンバー内にて、5組の直径50mmのロールプレス間を通過させた。この操作により、エポキシ樹脂[C]またはテルペンフェノール重合体[c]を強化繊維束の内部まで含浸させ、所定の配合量とした樹脂含浸強化繊維[D]または[d]を形成した。
(参考例4)ポリカーボネート樹脂組成物の作製
JSW製TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、ダイス直径5mm、バレル温度290℃、スクリュー回転数150rpm)を使用し、ポリカーボネート樹脂[A]と難燃剤[E]および/または液晶性樹脂[H]をドライブレンドしたものをメインホッパーから供給し、下流の真空ベントより脱気を行いながら、溶融樹脂をダイス口から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してポリカーボネート樹脂組成物の溶融混練ペレットを得た。
(参考例5)液晶性ポリエステルの作製(1)
撹拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸932重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル251重量部、ハイドロキノン99重量部、テレフタル酸284重量部、イソフタル酸90重量部および無水酢酸1252重量部(フェノール性水酸基合計の1.09当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で1時間反応させた後、ジャケット温度を145℃から270℃までを平均昇温速度0.68℃/分で昇温させ、270℃から350℃までを平均昇温速度1.4℃/分で昇温させた。昇温時間は4時間であった。その後、重合温度を350℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、撹拌に要するトルクが20kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm2(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズして、液晶性ポリエステル[H−1](融点=330℃)を得た。
得られた液晶性ポリエステル[H−1]をNMR試料管に50mg秤量し、溶媒(ペンタフルオロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン−d2=65/35(重量比)混合溶媒)800μLに溶解して、UNITYINOVA500型NMR装置(バリアン社製)を用いて観測周波数500MHz、温度80℃で1H−NMR測定を実施した。7〜9.5ppm付近に観測される各構造単位由来のピーク面積比から組成を分析したところ、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位(I−1)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(II1−1)およびハイドロキノン由来の構造単位(II2−1)の合計に対する構造単位(I−1)の割合は、75モル%であった。また、構造単位(II1−1)と構造単位(II2−1)の合計に対する構造単位(II1−1)の割合は60モル%であった。さらに、テレフタル酸由来の構造単位(IV1−1)と、イソフタル酸由来の構造単位(IV2−1)の合計に対する構造単位(IV1−1)の割合は76モル%であった。また、構造単位(II1−1)、および構造単位(II2−1)の合計と、構造単位(IV1−1)および構造単位(IV2−1)の合計とは実質的に等モルであった。
また、得られた液晶性ポリエステル[H−1]について、高化式フローテスターCFT−500D(オリフィス0.5φ×10mm)(島津製作所製)を用いて、温度:液晶性ポリエステルの融点+10℃、剪断速度:1000/秒の条件で溶融粘度を測定したところ、28Pa・sであった。
(参考例6)液晶性ポリエステルの作製(2)
撹拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸995重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート216重量部および無水酢酸969重量部を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で2時間反応させた後、325℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を325℃に保持し、0.1MPaに窒素加圧し、20分間加熱撹拌した。その後、放圧し1.0時間で133Paに減圧し、更に120分間反応を続け、トルクが12kg・cmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズして、液晶性ポリエステル[H−2](融点=314℃)を得た。
得られた液晶性ポリエステル[H−2]について、上記参考例5と同様に組成分析を行なったところ、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位(I−2)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(II−2)、およびポリエチレンテレフタレート由来のエチレンジオキシ単位(III−2)の合計に対して、構造単位(I−2)および構造単位(II−2)の合計が80モル%、構造単位(I−2)、(II−2)および(III−2)の合計に対して、構造単位(III−2)が12.5モル%であり、構造単位(I−2)の構造単位(II−2)に対するモル比[(I)/(II)]は91.5/8.5であり、テレフタル酸、およびポリエチレンテレフタレート由来の芳香族ジカルボン酸単位(IV−2)は、構造単位(II−2)および(III−2)の合計と等モルであった。
また、得られた液晶性ポリエステル[H−2]について、上記参考例5と同様に溶融粘度を測定したところ、12Pa・sであった。
[使用原料]
・ポリカーボネート樹脂[A]
[A−1]帝人化成(株)製 ビスフェノールAの炭酸エステル構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂“パンライトL−1225L”(粘度平均分子量:19,500)を使用した。
・強化繊維[B]
[B−1]参考例1−1および参考例2に従い得られたサイジング剤を付与した炭素繊維を用いた。
[B−2]参考例1−2および参考例2に従い得られたサイジング剤を付与した炭素繊維を用いた。
・エポキシ樹脂[C]、テルペンフェノール重合体[c]
[C−1]三菱化学(株)製 ビスフェノールA型エポキシ樹脂”jER1003”(溶融粘度:0.5Pa・s、加熱減量率:2%、エポキシ当量:700g/eq、数平均分子量:1300、溶融粘度変化率:1.1%)を用いた。
[C−2]三菱化学(株)製 ビスフェノールA型エポキシ樹脂”jER1004AF”(溶融粘度:1Pa・s、加熱減量率:1%、エポキシ当量:900g/eq、数平均分子量:1700、溶融粘度変化率:1.1%)を用いた。
[C−3]三菱化学(株)製 ビスフェノールA型エポキシ樹脂”jER1006FS”(溶融粘度:9Pa・s、加熱減量率:0.5%、エポキシ当量:1300g/eq、数平均分子量:2300、溶融粘度変化率:1.1%)を用いた。
[C−4]三菱化学(株)製 ビスフェノールF型エポキシ樹脂”jER4005P”(溶融粘度:0.9Pa・s、加熱減量率:2%、エポキシ当量:1050g/eq、数平均分子量:1800、溶融粘度変化率:1.2%)を用いた。
[c−5]ヤスハラケミカル(株)製 テルペンフェノール重合体”YP90L”(非エポキシ樹脂)を用いた。
・樹脂含浸強化繊維[D]、[d]
[d−0]上記成分[B−1]にエポキシ樹脂[C]を含浸させていないものを用いた。
[D−1]参考例3に従い、塗布温度150℃、含浸温度250℃にて、上記成分[B−1]に上記成分[C−1]を含浸して得られた樹脂含浸強化繊維を用いた。
[D−1’]参考例3に従い、塗布温度150℃、含浸温度250℃にて、上記成分[B−1]に上記成分[C−1]および上記成分[E−1]を含浸して得られた樹脂含浸強化繊維を用いた。
[D−2]参考例3に従い、塗布温度150℃、含浸温度250℃にて、上記成分[B−1]に上記成分[C−2]を含浸して得られた樹脂含浸強化繊維を用いた。
[D−3]参考例3に従い、塗布温度150℃、含浸温度250℃にて、上記成分[B−1]に上記成分[C−3]を含浸して得られた樹脂含浸強化繊維を用いた。
[D−4]参考例3に従い、塗布温度150℃、含浸温度250℃にて、上記成分[B−1]に上記成分[C−4]を含浸して得られた樹脂含浸強化繊維を用いた。
[d−5]参考例3に従い、塗布温度150℃、含浸温度250℃にて、上記成分[B−1]に上記成分[c−5]を含浸して得られた樹脂含浸強化繊維を用いた。
・難燃剤[E]
[E−1]大八化学工業(株)製 縮合リン酸エステル系難燃剤”PX−200”を用いた。
[E−2]帝人化成(株)製 臭素化ポリカーボネート”ファイヤガードFG8500”20重量部、および、鈴裕化学(株)製 三酸化アンチモン”FCP−AT3”5重量部の混合物を用いた。
・導電性フィラー[F]
[F−1]三菱化学(株)製 カーボンブラック”#3050B”を用いた。
・耐光安定剤[G]
[G−1]BASFジャパン(株)製 アミノエーテル型ヒンダードアミン系光安定剤”Tinuvin123”を用いた。
・液晶性樹脂[H]
[H−1]参考例5に従い得られた液晶性ポリエステル[H−1]を用いた。
[H−2]参考例6に従い得られた液晶性ポリエステル[H−1]を用いた。
(実施例1、実施例4〜13、実施例16〜20、比較例1〜8)
表1〜3に記載の強化繊維束[B]、エポキシ樹脂[C]の組み合わせにて、成分[B]とエポキシ樹脂[C]の重量比[B]/[C]が表中に示す値となるように含浸量を調整し、参考例3に従い、樹脂含浸強化繊維[D]を得た。
次いで、表1〜3に示すポリカーボネート樹脂[A]と難燃剤[E]および/または液晶性樹脂[H]をドライブレンドしたものを用いて、参考例4に従い、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。この際、上記各成分のドライブレンド時の混合比率は、上記成分[A]、[E]、[H]のポリカーボネート樹脂成形材料中の配合量、および成形品中での重量含有率が表1〜3に示した所定の値となるように調整した。
上記で得られた樹脂強化繊維[D]を日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイ中に通し、押出機から上記ポリカーボネート樹脂組成物を溶融した状態でダイ内に吐出させ、樹脂含浸強化繊維[D]の周囲を被覆するように連続的に配置した。ここで、樹脂含浸強化繊維[D]の周囲をポリカーボネート樹脂組成物で被覆する工程において、樹脂含浸強化繊維[D]のポリカーボネート樹脂成形材料中の配合量、および成形品中の強化繊維の重量含有率Wfが表1〜3に示した所定の値となるように上記ポリカーボネート樹脂組成物の吐出量を調整した。得られた連続状の成形材料を冷却後、カッターで切断して、7mmの長繊維ペレット状のポリカーボネート樹脂成形材料を得た。
得られた長繊維ペレット状のポリカーボネート樹脂成形材料を、住友重機械工業社製SE75DUZ−C250型射出成形機を用いて、射出時間:10秒、保圧力:成形下限圧+10MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:300℃、金型温度:80℃で特性評価用試験片(成形品)を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片(成形品)を上記(1)〜(5)に示した射出成形品評価方法に従い評価した。評価結果をまとめて表1〜3に示した。
(実施例2)
参考例3の樹脂含浸工程において、強化繊維[B]にエポキシ樹脂[C]に加えて、さらに上記難燃剤[E]を加熱溶融して強化繊維[B]に含浸させ、樹脂含浸強化繊維[D]を得た。この際、塗布温度は150℃、含浸温度は250℃とし、強化繊維[B]、エポキシ樹脂[C]、難燃剤[E]の重量比[B]/[C]/[E]=80/20/50になるように調整した。
次いで、得られた樹脂含浸強化繊維[D]を日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイ中に通し、押出機からポリカーボネート樹脂[A]を溶融した状態でダイ内に吐出させ、樹脂含浸強化繊維[D]の周囲を被覆するように連続的に配置した。この際、成形品中の強化繊維、および難燃剤の重量含有率が表1に示した所定の値となるように、ポリカーボネート樹脂成形材料において、成分[A]100重量部に対する樹脂含浸強化繊維[D]の配合量が60重量部となるよう、ポリカーボネート樹脂[A]の吐出量を調整した。得られた連続状の成形材料を冷却後、カッターで切断して、7mmの長繊維ペレット状のポリカーボネート樹脂成形材料を得た。
得られた長繊維ペレット状のポリカーボネート樹脂成形材料を、住友重機械工業社製SE75DUZ−C250型射出成形機を用いて、射出時間:10秒、保圧力:成形下限圧+10MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:300℃、金型温度:80℃で特性評価用試験片(成形品)を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片(成形品)を上記(1)〜(5)に示した射出成形品評価方法に従い評価した。評価結果をまとめて表1に示した。
(実施例3)
実施例1と同様にして得た樹脂含浸強化繊維[D]を日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイ中に通し、押出機からポリカーボネート樹脂[A]を溶融した状態でダイ内に吐出させ、樹脂含浸強化繊維[D]の周囲を被覆するように連続的に配置した。この際、各成分が所望の配合量になるよう、樹脂含浸強化繊維[D]の量と、ポリカーボネート樹脂[A]の吐出量を調整した。得られた連続状の成形材料を冷却後、カッターで切断して、7mmの長繊維ペレット状のポリカーボネート樹脂成形材料とした。
次いで、表1に示すポリカーボネート樹脂[A]と難燃剤[E]をドライブレンドしたものを用いて、参考例4に従い、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。
得られた長繊維ペレット状のポリカーボネート樹脂成形材料と上記ポリカーボネート樹脂組成物を、ポリカーボネート樹脂[A]、樹脂含浸強化繊維[D]、難燃剤[E]の組成が表1に示した値になるよう、混合比を調整してドライブレンドし、住友重機械工業社製SE75DUZ−C250型射出成形機を用いて、射出時間:10秒、保圧力:成形下限圧+10MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:300℃、金型温度:80℃で特性評価用試験片(成形品)を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片(成形品)を上記(1)〜(5)に示した射出成形品評価方法に従い評価した。評価結果をまとめて表1に示した。
(実施例14)
実施例1と同様にして樹脂含浸強化繊維[D]を得た後、表2に示すポリカーボネート樹脂[A]、難燃剤[E]、導電性フィラー[F]をドライブレンドしたものを用いて、参考例4に従い、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。ここで得られた樹脂含浸強化繊維[D]とポリカーボネート樹脂組成物から、実施例1と同様に、長繊維ペレット状のポリカーボネート樹脂成形材料を得た。ここで、各成分の組成が表2に示した値となるよう、ポリカーボネート樹脂組成物作製時の各成分の混合比率、および、ポリカーボネート樹脂組成物の吐出量を調整した。
得られた長繊維ペレット状のポリカーボネート樹脂成形材料を、住友重機械工業社製SE75DUZ−C250型射出成形機を用いて、射出時間:10秒、保圧力:成形下限圧+10MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:300℃、金型温度:80℃で特性評価用試験片(成形品)を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片(成形品)を上記(1)〜(5)に示した射出成形品評価方法に従い評価した。評価結果をまとめて表2に示した。
(実施例15)
実施例1と同様にして樹脂含浸強化繊維[D]を得た後、表2に示すポリカーボネート樹脂[A]、難燃剤[E]、耐光安定剤[G]をドライブレンドしたものを用いて、参考例4に従い、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。ここで得られた樹脂含浸強化繊維[D]とポリカーボネート樹脂組成物から、実施例1と同様に、長繊維ペレット状のポリカーボネート樹脂成形材料を得た。ここで、各成分の組成が表2に示した値となるよう、ポリカーボネート樹脂組成物作製時の各成分の混合比率、および、ポリカーボネート樹脂組成物の吐出量を調整した。
得られた長繊維ペレット状のポリカーボネート樹脂成形材料を、住友重機械工業社製SE75DUZ−C250型射出成形機を用いて、射出時間:10秒、保圧力:成形下限圧+10MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:300℃、金型温度:80℃で特性評価用試験片(成形品)を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片(成形品)を上記(1)〜(5)に示した射出成形品評価方法に従い評価した。評価結果をまとめて表2に示した。
実施例1〜9いずれの材料も優れた分散性、力学特性、難燃性を示した。また、実施例10〜12のようにエポキシ樹脂[C]の種類を変更したものや、実施例13のように難燃剤[E]を変更したもの、実施例16のように炭素繊維の表面酸素濃度[O/C]を変更したものについても同様な優れた特性を示した。また、実施例14に示すように、導電性フィラー[F]を添加することで導電特性を、実施例15に示すように、耐光安定剤[G]を添加することで耐候性を向上することが可能であることを確認できた。
また、実施例17〜20のように、難燃剤[E]の代わりに液晶性樹脂[H]を添加、または難燃剤[E]と液晶性樹脂[H]を併用することによって、力学特性、および難燃性の向上が見られ、優れた特性を示した。特に、全芳香族液晶性樹脂を用いることで、難燃性向上効果が高いことが確認できた。
一方、比較例1ではエポキシ樹脂[C]を含浸しなかったために、強化繊維束[B]の分散性が悪く、評価に値する成形品が得られなかった。
比較例2ではエポキシ樹脂[C]の含浸量が少なかったため、強化繊維束[B]が分散せず、力学特性が十分に発現しなかった。また、比較例3ではエポキシ樹脂[C]の含浸量が多すぎたため、力学特性が低下し、さらに、マトリックス樹脂の粘度が低下したため、ドリップが見られた。
比較例4では強化繊維束[B]の量が少なかったため、十分な力学特性を発現せず、比較例5では強化繊維束[B]の量が多すぎたため、射出成形の際に金型に十分に充填できず、成形品が得られなかった。
比較例6では難燃剤[E]の量が少なかったため、十分な難燃性が発現されず、比較例7では難燃剤[E]の量が多すぎたため、力学特性の低下を招いた。
比較例7ではエポキシ樹脂[C]の代わりにテルペンフェノール重合体を用いたため、十分に強化繊維束[B]が分散せず、満足する力学特性が得られなかった。