本発明者らは前述した様な解決課題の下で、アノード支持基板として必要なガス通過・拡散性を確保しつつ、苛酷な使用条件、特に積層荷重を受けた状態で熱衝撃や酸化性雰囲気と還元性雰囲気に繰返し曝されたときの耐クラック性や耐割れ性(耐レドックス性)を高めるべく研究を進めてきた。その結果、上記要件を満たすものは、燃料電池用アノード支持基板として卓越した性能が発揮されることを確認し、本発明に想到したものである。
本発明のアノード支持基板は、前述の如く優れた導電性と十分なガス通過・拡散性を有すると共に、卓越した耐レドックス性を有する多孔質のものでなければならず、この様な要求を満足できるアノード支持基板の具体的構成について説明していく。
アノード支持基板は、導電性を与えるための導電成分と、支持基板の骨格成分となるセラミック質を主たる構成素材とする。上記導電成分は、低酸素濃度雰囲気下、つまり還元性雰囲気下でアノード支持基板に電子導電性を与える上で必須の成分であり、還元性雰囲気下で電子導電性が大きくなるセリア−希土類金属酸化物系固溶体(CeO2/RO1.5)またはセリア−アルカリ土類金属酸化物系固溶体(CeO2/MO)からなる導電成分(A)と、還元性雰囲気下で金属に還元され、骨格成分(C)と反応してサーメットを形成するNi,Fe,Coよりなる群から選ばれる1種以上の金属の酸化物からなる導電成分(B)からなる。
上記導電成分(A)を構成する固溶体(CeO2/RO1.5)のRで示される希土類金属としては、Y,La,Pr,Sm,Gdなどが例示され、これら希土類金属の酸化物が添加・固溶されたイットリアドープセリア、ランタナドープセリア、プラセアドープセリア、サマリアドープセリア、ガドリアドープセリアなどが好ましく使用される。また、(MO)のMで示されるアルカリ土類金属としてはCa,Srなどが例示され、これらアルカリ土類金属の酸化物が添加・固溶されたカルシアドープセリアやストロンチアドープセリアなどが好ましく使用される。これらの固溶体はそれぞれ単独で使用し得るほか、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用することもできる。
上記固溶体を構成する金属酸化物のセリアへの好ましい置換比率は、セリア−希土類金属酸化物系固溶体の場合、Ce/Rの原子比で0.65〜0.9/0.1〜0.35、より好ましくは0.7〜0.8/0.2〜0.3の範囲、セリア−アルカリ土類金属酸化物系固溶体の場合、Ce/Mの原子比で0.75〜0.95/0.05〜0.25、より好ましくは0.8〜0.9/0.1〜0.2の範囲である。
導電成分(A)として用いられる上記固溶体の中でも特に好ましいのは、イットリアドープセリア、サマリアドープセリア、ガドリアドープセリアであり、それらの好ましい組成は(CeO2)0.8(YO1.5)0.2、(CeO2)0.7(SmO1.5)0.3、(CeO2)0.8(GdO1.5)0.2である。
次に、導電成分(B)としては、還元性雰囲気下で金属に還元され、骨格成分と反応してサーメットを形成する酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルトが単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用される。
次に骨格成分(C)は、アノード支持基板として必要な強度、特に耐積層荷重強度や耐レッドクス性を確保する上で重要な成分であり、電解質との熱膨張を極力一致させるため、希土類金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物で安定化された酸化ジルコニウムおよび/またはアルミニウムスピネル複合酸化物が使用される。好ましい具体例としては、Sc,Y,Ceなどの希土類金属の酸化物2.5〜15モル%で安定化されたジルコニアや、Mg,Caなどのアルカリ土類金属の酸化物5〜20モル%で安定化されたジルコニアが挙げられ、これらは必要により2種以上を併用することも可能である。該安定化ジルコニアの中でも特に好ましいのは、3〜6モル%のイットリアで安定化されたジルコニア(YSZ),4〜6モル%のスカンジアで安定化されたジルコニア(ScSZ)である。
上記安定化ジルコニアには、分散強化成分としてTi,Nb,Al,Ga,In,Ge,Snなどの酸化物を含有させることも有効であり、中でも酸化チタン、酸化ニオブ、酸化アルミニウムを0.1〜2質量%程度含有させた分散強化ジルコニアは好ましい骨格成分として推奨される。
また、アルミニウムスピネル複合酸化物としては、マグネシウムアルミニウムスピネル(MgAl2O4)、ニッケルアルミニウムスピネル(NiAl2O4)、コバルトアルミニウムスピネル(CoAl2O4)等が例示されるが、これらの中でも特に好ましいのはマグネシウムアルミニウムスピネルである。
本発明においては、上記導電成分(A)と(B)を適正比率で併用すると共に、適量の骨格成分(C)と併用することが極めて重要となる。以下、それらの含有比率について説明する。
まず、前記導電成分(A)と(B)を併用する理由は下記の通りである。
燃料電池用アノード支持基板の導電成分として汎用されているのは、燃料電池の稼動時に還元性雰囲気で酸化ニッケルが還元されたニッケル金属であるが、該アノード支持基板は発電停止時には酸化性雰囲気に曝されるため、そのときニッケルは酸化ニッケルとなって20〜40%程度体積膨張を起こす(田川博章著「固体酸化物燃料電池と地球環境」、アグネ承風社、p.180、1998年)。
一方セリア系固溶体は、上記骨格成分のジルコニア系酸化物よりも1桁近く大きい酸素イオン導電性を有している(電気化学便覧第5版、2000)ことから、ジルコニアに代わる電解質材料としての使用が検討されている。ところがセリア系固溶体を電解質として使用する場合には、電解質の燃料側でCeイオンが還元されてイオン半径が増大するためと考えられる還元膨張を起こし、セルの破壊に繋がり易いといわれている。即ち、還元膨張するということは、逆にいえば酸化時には収縮することになる。
そこで本発明ではこうした現象を踏まえて、酸化時に大きく体積膨張を起こす導電成分(B)の近傍に、酸化時に収縮する導電成分(A)を存在させ、(酸化性雰囲気)⇔(還元性雰囲気)の変化に伴う(膨張)⇔(収縮)を相殺させることによって緩和し、酸化・還元の繰り返しによる歪やクラックの発生を抑制するところに大きな特徴を有している。
更に、セリア系固溶体は高温の還元性雰囲気下ではCeイオンが還元されて1〜10S/cm以上のかなりの電子導電性を示すことが知られている。
一方、発電効率を高める上ではアノード支持基板の導電率は高い方が好ましく、後述する耐レドックス性試験後においても少なくとも100S/cm以上、好ましくは300S/cm以上、更に好ましくは500S/cm以上の導電率を有していることが望ましい。導電率が低くなると、電池としての内部抵抗が増大し、発電性能が大きく低下するからである。
そして、前記導電成分(A)だけでは、燃料電池用アノード支持基板として100S/cm以上の導電率を確保し難い。また、導電成分(B)として酸化ニッケルを使用した場合、例えばNi/YSZサーメット中のニッケルの体積比と導電率の関係では、Niが25〜35体積%以上になると、0.1S/cmの導電率が100S/cm以上になることが明らかにされている(田川博章著「固体酸化物燃料電池と地球環境」、アグネ承風社、p.181、1998年)。該Ni量を酸化ニッケルの質量比に換算すると40〜45質量%に相当する。
そこで本発明では、これらの点を考慮し、前述した酸化・還元に伴う体積膨張・収縮によって生じる歪を抑えてクラックを抑制すると共に、耐レドックス性試験後の状態で導電率100S/cm以上を確保するため、前記セリア−希土類金属酸化物系固溶体あるいはセリア−アルカリ土類金属酸化物系固溶体からなる導電成分(A)と、Ni,Fe,Coの少なくとも1種の酸化物からなる導電成分(B)とを、支持基板全量中に占める比率で、前者5〜50質量%、後者30〜75質量%の範囲で併用すると共に、これら導電成分(A)と(B)の合計含量50〜80質量%に対して、骨格成分(C)を20〜50質量%の範囲で使用することを定めている。
ちなみに、導電成分(A)が5質量%を下回る場合は、酸化時の体積収縮が充分でなくなり、導電成分(B)の体積膨張によって生じる歪を十分に緩和・低減できなくなり、クラックを起こし易くなる。一方、導電成分(A)が50質量%を超えると、アノード支持基板の機械的強度が低下傾向を示すようになる。こうした傾向を考慮して、導電成分(A)のより好ましい配合量は10質量%以上、40質量%以下、さらに好ましくは15質量%以上、35質量%である。
また導電成分(B)が30質量%未満では、アノード支持基板としての導電率が不足気味となり、逆に75質量%を超えると、酸化時の体積膨張が大きくなり過ぎて、導電成分(A)の体積収縮では膨張による歪の緩和・抑制効果が不十分となり、クラック防止作用が不足気味となる。こうした観点から、導電成分(B)のより好ましい含有率は35質量%以上、65質量%以下、更に好ましくは40質量%以上、55質量%以下である。
こうした導電成分(A),(B)の併用効果をより一層有効に発揮させるには、導電成分(A)粉末と導電成分(B)粉末をボールミル等で予備混合し、導電成分(A)粉末に導電成分(B)粉末を分散・担持させ、あるいは導電成分(B)粉末に導電成分(A)粉末を分散・担持させておくことが望ましい。
もしくは、導電成分(A)粉末に、導電成分(B)となる前駆体化合物を予め分散・担持させておくことも有効である。つまり、導電成分(A)粉末に、導電成分(B)となる前駆体化合物、例えば熱分解などにより導電成分となる金属の有機もしくは無機化合物の溶液を含浸もしくは付着させ、乾燥して溶剤を揮発除去することによって、導電成分(A)粉末に導電成分(B)を担持させる方法も有効に活用できる。
更に本発明では、上記導電成分(A),(B)の合計含量を50〜80質量%の範囲に制御すると共に、骨格成分(C)量を20〜50質量%の範囲に設定することが必要であり、(A),(B)成分の合計含量が50質量%を下回る場合、つまり骨格成分(C)量が50質量%を超えると、アノード支持基板の耐積層荷重強度や耐レドックス性などは向上するものの、導電性不足となって満足な発電性能が得られ難くなり、逆に(A),(B)成分の合計含量が80質量%を超えると、骨格成分(C)量が20質量%未満となって耐積層荷重強度や耐レドックス性が乏しくなる。強度特性や耐クラック性、導電性を何れも満足せしめる上でより好ましい含有率は、(A),(B)の合計含量で55質量%以上、75質量%以下、骨格成分(C)量で25質量%以上、45質量%以下、更に好ましくは(A),(B)の合計含量で60質量%以上、70質量%以下、(C)量で30質量%以上、40質量%以下である。
尚、上記導電成分(A),(B)の使用のみではアノード支持基板としての導電率が不足気味になる場合は、Pt,Pd,Ru,Ag等の導電成分を別途配合することによって、200S/cm以上、好ましくは400S/cm以上の導電率を確保することが望ましい。
本発明に係るアノード支持基板の主体は、上記の如く導電成分(A),(B)と骨格成分(C)からなるもので、骨格成分(C)によって耐積層荷重強度や耐レドックス性が確保され、導電成分(A),(B)により導電性が与えられる。そして、これらにより構成されるアノード支持基板には、前述の如くメタンや水素などの燃料ガスや空気、或は燃焼排ガスや未燃焼ガスを通過・拡散させるための気孔が必要であり、これらガスを低圧損下に円滑に通過・拡散させるには、全体としての気孔率が酸化性雰囲気下で20%以上でなければならず、20%未満では、還元性雰囲気下で導電成分(B)の収縮によって気孔率が増加しても前記ガスが通過・拡散不足となり、発電効率の低下を招く恐れがある。しかもアノード支持基板内に存在する気孔は、導電成分(A),(B)の併用による膨張・収縮緩和効果では完全に阻止することのできない膨張・収縮が起こったときに、該気孔部が膨張・収縮の逃げ空間となって内部応力の増大を緩和する機能を発揮し、耐レドックス性の一層の向上に寄与する。こうした点も考慮すると、より好ましい気孔率は酸化性雰囲気下で25%以上、更に好ましくは酸化性雰囲気下で30%以上である。
但し、気孔率が大きくなり過ぎると、アノード支持基板としての耐積層荷重強度や耐熱衝撃性、耐熱ストレス性が低下し、スタックとして組付けたときの積層荷重などでアノード支持基板が割れたりクラックを生じ易くなり、あるいは更に、導電成分の分布状態が疎となって導電性不足になる傾向が生じてくるので、高くとも酸化性雰囲気下で50%以下、好ましくは45%以下、更に好ましくは40%以下に抑えるのがよい。
また本発明のアノード支持基板は、全体として均一なガス通過・拡散性を示すものがよいことは当然であり、そのためには基板全体に亘る気孔の分布状態が均一であることが望ましく、且つ気孔の好ましい平均径は3μm以上、20μm以下である。ちなみに、気孔の平均径が3μm未満ではガス通過・拡散性不足となったり、前記膨張・収縮の逃げ空間が不足気味となり、前記気孔率不足の場合と同様の問題を生じることがあり、逆に平均径が大き過ぎると、気孔率過剰の場合と同様に強度劣化や導電性不足になる傾向が生じてくるので、20μm以下に抑えるのがよい。気孔のより好ましい平均径は5μm以上、15μm以下である。
なお支持基板の気孔率は、自動ポロシメーターによって求めることができ、また気孔の平均径は、たとえば支持基板の縦断面のSEM写真からノギス等を用いた実測によって求めることができる。
なお支持基板としての上記気孔率や気孔の平均径は、アノード支持基板の製造に用いる気孔形成剤の種類や配合量、(A),(B),(C)原料粉末の粒度構成や基板の前駆体となるグリーンシートを焼成する際の温度などによって調整することができ、それらについては後述する。
ところで、本発明によって得られる耐レドックス性の評価法は特に制限されないが、例えば下記(a),(b)に示すような方法を採用すれば、燃料電池用として実用化する際の性能をより正確に評価できるので好ましい。
まずレドックス試験(a)では、耐レドックス性評価試験法として標準化するため、例えば図1(概略縦断面図)および図2(図1のA−A線断面相当図)に示す如く、実用サイズのアノード支持基板を想定して、直径34mm×厚さ0.4mmの円盤状の試験用基板1を使用し、該試験用基板1を、弓形で0.4mm幅の切込みを入れたジルコニア製の保持具2に差し込み、横置きにした内径40mm×長さ600mmの円筒管3の中央部にセットし、円筒管3の中央部を管状電気炉4内に取り付ける。そして、試験用基板1付近の温度が800℃となる様に電気炉を加熱し、該管状電気炉4内に、空気導入管5から空気流1500ml/minの酸化性雰囲気下に3時間と、水素ガス導入管6から水素流750ml/minの還元性雰囲気下に3時間、交互に5回繰り返して曝す。なお、空気流と水素流のガス切換え時には窒素を流し、直接酸素と水素が混じり合わないようにする。その後、室温まで冷却してから、試験用基板を目視観察することによってクラックや割れの有無を調べる。図中、7は多孔質の導入ガス分散板、8はガス排出管、9は熱電対を示している。
各ガスの流量は、室温(25℃)換算で、水素の場合100〜2000ml/min、空気の場合400〜10000ml/minの範囲とすればよく、ガスを流通させる時間は、試験用基板が確実に酸化性雰囲気と還元性雰囲気に交互に曝される条件であればそれ以上長くする必要はなく、3時間曝せば十分であるが、より確実にするため3時間以上、例えば6時間曝してもよい。また、酸化性雰囲気と還元性雰囲気の繰返し回数は多くするほど耐久性をより正確に評価できると考えられるが、多くの場合、クラックや割れの発生は繰返し初期に起こるので、5回の繰返しで問題なければ少なくとも20回の繰返しには耐え得ると判断される。
よってこのレドックス試験(a)では、室温(25℃)換算で、空気流は1500ml/minで3時間、水素流は750ml/minで3時間流し、酸化性雰囲気と還元性雰囲気との繰返し回数は5回とした。なお評価データの信頼性を高めるため、少なくとも5枚の試験用基板を用いて同様の評価試験を実施し、1枚でも基板表面にクラックや割れが検出された場合は耐レドックス性不良と評価した。なおクラックや割れの観察は、該レドックス試験(a)の後、供試基板の一方の表面全体を80カンデラの照度下に目視で光透過の有無を観察し、1ヵ所でも光透過が観察されたものはクラックまたは割れ有りと判断した。
上記レドックス試験(a)では、実用サイズを想定して試験用基板のサイズを規定しているが、上記サイズは飽くまでも供試基板としてのサイズを規定しているだけであって、アノード支持基板としては、必要に応じてサイズや形状、厚さなどを任意に変更し得ることはいうまでもない。
またレドックス試験(b)では、直径34mm×厚さ0.4mmの円盤状基板の代りに、試験用基板のサイズを32mm×9mm×厚さ0.4mmの短冊状とし、酸化性雰囲気下に3時間と還元性雰囲気下に3時間交互に5回繰り返し曝し、1サイクル後に還元性雰囲気で室温まで降温したときの導電率と、5サイクル後の還元性雰囲気に曝した後に室温まで降温したときの導電率の値によって評価する。そして、1サイクル後の還元性雰囲気での導電率が400S/cm以上であり、且つ5サイクル後の還元性雰囲気に曝した後の導電率が200S/cm以上を示すものは、耐レドックス性良好と判断する。
この評価法は、実物サイズのアノード支持基板としての性能評価ではないが、アノード支持基板として不可欠の特性である導電率と耐レドックス性の実質的な評価基準となるもので、1サイクル後の還元性雰囲気での導電率が400S/cm未満では、燃料電池用アノード支持基板として必要な導電性が元々不十分で実用に叶う発電性能が発揮され難くなる。また、5サイクル後の還元性雰囲気に曝した後の導電率が200S/cm未満であるということは、当該レドックス試験で基板にクラックや割れが生じて導電性が低下することを意味しており、耐久性不足で満足のいく発電性能が持続できないことを表わしている。よって上記レドックス試験(b)では、燃料電池としての稼動初期段階で十分な発電性能を確保するための要件として、1サイクル後の還元性雰囲気での導電率が400S/cm以上を示し、且つ発電性能の持続性を保障するための要件として、5サイクル後の還元性雰囲気に曝した後の導電率が200S/cm以上であることが望ましい。燃料電池としてより高レベルの発電性能を確保する上で好ましいのは、1サイクル後の還元性雰囲気での導電率が1000S/cm以上で、且つ5サイクル後の還元性雰囲気に曝した後の導電率が400S/cm以上を維持するものである。
尚、上記レッドクス試験(a),(b)で目標特性を満たすアノード支持基板を得る好ましい方法としては、導電成分(A)および/または(B)を気孔形成剤粉末に含有させ、これを骨格成分(C)とバインダーや分散媒と共に混合してスラリーを得、該スラリーをシート状に成形した後、空気雰囲気下で焼成することにより前記気孔形成剤をバインダーと共に分解・焼失させる方法が採用される。なお本発明で言う含有とは、分散、担持、付着、吸着、含浸、被覆、混合などを総称する。
この方法で気孔形成剤を使用する目的は、アノード支持基板製造時に該気孔形成剤の分解・焼失によってできた気孔部内で導電成分(A),(B)の膨張・収縮を行わせ、内部応力の増大を緩和することによって耐レドックス性の一層の向上に寄与させるためである。
そのためには、適切な気孔形成剤を選択すると共に、該気孔形成剤に予め導電成分(A)および/または(B)を含有させておくことが望ましい。該気孔形成剤の好ましい特性としては、
1)導電成分(A)および/または(B)を予め含有させることのできる十分な空間・場所を有すること、
2)他の原料との混合(ミリング)工程で細かく粉砕されない強度を有すること、
3)耐溶剤性を有すると共にスラリーへの分散性が良好であること、
4)焼成によって容易に分解・焼失し得る熱分解特性を有していること、
が挙げられる。
この様な特性を備えた気孔形成剤としては、本出願人が先に開発した特開平2000−53720号や同2001−81263号公報に開示されている架橋重合体粒子で、特に、平均粒子径0.01〜30μmの架橋重合体微粒子が集合してなる平均粒子径0.5〜100μmの微粒子集合体が好ましく使用される。この微粒子集合体は、架橋重合体微粒子の形状を保持しながら、該架橋重合体微粒子が相互に連結した集合体であり、比表面積が大きくて嵩比重が小さく、従来の微粒子集合体に比べて高強度を有しており、熱分解性にも優れている。
よって、この微粒子集合体に後述するような方法で導電成分(A)および/または(B)を含有させ、これを骨格成分(C)などと混合してスラリーとし、シート状に成形してから焼成すると、該微粒子集合体が分解・焼失してその跡に空間が形成されると共に、該微粒子集合体に含有させていた導電成分(A)および/または(B)は該空間の内壁面側に付着した状態になると予想される。その結果、導電成分(A)および/または(B)が前記酸化・還元の繰り返しで体積膨張・収縮を起こしたときには、該空間が膨張・収縮の逃げ空間となって内部応力の増大を緩和し、耐レドックス性の一層の向上に寄与する。
上記微粒子集合体からなる気孔形成剤に導電成分(A)および/または(B)を含有させる好ましい方法は、前記特開平2000−53720号や同2001−81263号に開示されている如く、平均粒子径が0.5〜100μmの架橋重合体微粒子集合体を製造する際に、平均粒子径が0.01〜30μmの架橋重合体微粒子のエマルションに前記導電成分(A)および/または(B)の前駆体水溶液(水溶性金属塩など)を配合しておき、これを噴霧乾燥することによって、該架橋重合体微粒子集合体を製造すると共に、その表面や内部に、焼成で導電成分(A)および/または(B)となる化合物を担持、含浸、もしくはコーティングさせる方法である。
しかし、気孔形成剤は上記架橋重合体微粒子集合体に限定されるわけではなく、要は適度の粒径を有し且つその内部もしくは表面に導電成分(A)および/または(B)を付着乃至担持することができ、しかも焼成によって分解・焼失し得るものであれば、後述する如き他の様々のものを使用することができる。そしてそれら他の気孔形成剤に導電成分(A)および/または(B)を付着乃至担持させる具体的な方法としては、例えば、
1)導電成分(A)および/または(B)と前記気孔形成剤を所定比率で配合し湿式混合もしくは乾式混合することによって、導電成分(A)および/または(B)を気孔形成剤表面に均一に付着させる方法、
2)気孔形成剤を導電成分(A)および/または(B)の表面に均一に付着させる方法、
3)気孔形成剤の細孔や隙間に導電成分(A)および/または(B)を含有させておく方法、
などの方法で、導電成分(A)および/または(B)含有気孔形成剤を作製しておき、これを骨格成分(C)などと配合してスラリーの調製、シート成形および加熱焼成を順次行うことが望ましい。
更には、特開2000−53720号や同2001−81263号公報に開示されている如く、(メタ)アクリル系等の重合性モノマー混合物を乳化重合して平均粒子径0.01〜30μmの架橋重合体微粒子が相互に付着し合った平均粒子径0.5〜100μmの微粒子集合体を製造し、この微粒子集合体を、熱分解により導電成分(A)および/または(B)となる金属の有機もしくは無機金属化合物溶液を混合し、該溶液を前記微粒子集合体の隙間に侵入させた後、乾燥して溶剤を揮発除去させる方法、などが好ましく採用される。
ところで本発明のアノード支持基板は、前述の如くスタックとして上下方向に多数積層して組付けられるので大きな積層荷重がかかり、しかも稼動時の熱によって熱衝撃や熱ストレスを受けるので、積層面に僅かなバリや突起が存在していても、その部分に応力が集中してクラックや割れを起こす原因になる。そしてアノード支持基板にその様なクラックや割れが発生すると、その表面に形成されるアノード電極層やカソード電極層にも割れが波及して導電性が阻害され、また固体電解質膜にクラックや割れが波及すると燃料ガスや空気などの遮蔽効果が失われ、そのセルは燃料電池として稼動し得なくなる。しかも、アノード支持基板表面のバリや突起が大きくなると、その表面に形成される電極膜や固体電解質層が不均一になるばかりでなく支持基板に対する密着性も乏しくなるので、該基板周縁のバリは極力小さくすると共に、該基板表面の突起やウネリも極力小さくし、積層状態で生じる局部的な応力集中を可及的に少なく抑えることが望ましい。
そして本発明者らが実験によって確認したところ、レーザー光学式3次元形状測定装置によって測定される周縁部のバリ高さが±400μm以下、より好ましくは±250μm以下、更に好ましくは±100μm以下であり、更に、同じくレーザー光学式3次元形状測定装置によって測定される最大突起高さが、シート厚さの1/3以下、好ましくは1/4以下、更に好ましくは1/5以下、同じくレーザー光学式3次元形状測定装置によって測定される最大ウネリ高さが、シート厚さの1/3以下、好ましくは1/4以下、更に好ましくは1/5以下であるものは、実用レベルの積層荷重や熱ストレスなどを受けた場合でも応力集中に起因する割れやクラックを生じることがなく、しかも該アノード支持基板上に電極や固体電解質膜を形成する際の印刷適性においても優れた性能が得られること、また焼成した後の電解質膜も緻密性が保たれることを確認している。
なお上記バリ高さとは、支持基板周縁部から内側3mmまでの半径方向区間の最大高さ部と最低高さ部との差を意味し、非接触式のレーザー光学式3次元形状測定装置によって求められる。ちなみに本発明の如く多孔質で表面にも無数の細孔が開口したアノード支持基板の場合、触針式などの接触式測定装置では、触針のプローブ径が細孔径より大きい場合は、その細孔の形状を正確に捉えることができなくなってバリ高さを正確に計測できないが、非接触式のレーザー光学式3次元形状測定装置ではレーザー光のプローブ径が非常に小さいため、バリ高さをより正確に計測できる。
なお上記突起とは、アノード支持基板の表面に基本的には独立して生じている凸部を意味し、またウネリとは、該基板の表面に波状に連続的に生じている歪みを言い、これらは、支持基板面にレーザー光を照射し、その反射光を3次元解析することによって求めることができる。
本発明に係るアノード支持基板の形状としては、円形、楕円形、角形、アールを有する角形など何れでもよく、これらの基板内に同様の円形、楕円形、角形、R(アール)を有する角形などの穴を1つ若しくは2以上有するものであってもよい。更にシートの面積は特に制限されないが、実用性を考慮して一般的なのは50cm2以上、より好ましくは100cm2以上である。なおこの面積とは、ドーナツ状の如く基板内に穴がある場合は、該穴の面積を含んだ総面積を意味する。
次に、本発明に係るアノード支持基板の製法について説明する。
本発明のアノード支持基板は、前記導電成分(A)および/または(B)を予め気孔形成剤に含有させて導電成分含有気孔形成剤を製造しておき、この粉末と骨格成分(C)、或いは必要により補充される導電成分粉末とを、バインダーと溶剤、および必要により分散剤や可塑剤などと共に均一に混合してスラリー状とし、これをドクターブレード法、カレンダーロール法、押出し法など任意の方法で平滑なシート(例えばポリエステルシートなど)上に適当な厚みで敷き延べ、乾燥して溶剤を揮発除去することによりグリーンシートを得る。
ここで用いられる気孔形成剤としては、上記焼成条件下で焼失するものであればその種類の如何は問わず、前記の(メタ)アクリル系樹脂等からなる架橋微粒子集合体、小麦粉、トウモロコシ澱粉(コーンスターチ)、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉などの天然有機質粉体、もしくは、メラミンシアヌレートなどの熱分解性もしくは昇華性の樹脂粉体、あるいはカーボンブラックや活性炭などの炭素質粉体などが使用される。
これら気孔形成剤粉体の形状は、導電成分(A)および/または(B)を多く担持・含有せしめ、焼成によって得られるセラミック質基板内への導電成分(A)および/または(B)の均一分布を増進させるため、少なくとも5m2/g以上の高い比表面積を有するものが望ましく、また、該粉体中あるいは架橋微粒子集合体内にも導電成分(A)および/または(B)を含有せしめ得る様、該粉体や架橋微粒子集合体自体も孔や細孔を有するものが好ましい。
気孔形成剤となる上記粉体や架橋微粒子集合体の粒径は、レーザー回折式粒度分布計で測定される平均粒径として0.5〜100μm、より好ましくは5〜30μmで、10%体積径が0.1〜10μm、より好ましくは1〜5μmの範囲である。
本発明のアノード支持基板を製造するに当たっては、前述した如く気孔形成剤と前記導電成分(A)および/または(B)を予め混合乃至複合しておいてから、他の原料と混合するのがよく、最初から気孔形成剤と導電成分(A)および/または(B)および骨格成分(C)などを混合したのでは、本発明で意図するような耐レドックス性に優れたアノード支持基板が得られ難い。
即ち優れた耐レドックス性を得るには、前述した如く酸化・還元によって体積変化を起こす導電成分(A)および/または(B)を、アノード支持基板内に形成される空孔に面して存在させるのがよく、そのためには、焼成後の空孔生成源となる気孔形成剤の表面もしくは内部に導電成分(A)および/または(B)を担持もしくは保持させておき、焼成により気孔形成剤が分解・焼失した時点で、空孔の内面側に導電成分(A)および/または(B)が存在する状態を確保することが望ましい。
この様に導電成分(A)および/または(B)を含有せしめた気孔形成剤を使用すると、気孔形成剤はグリーンシート焼成時に燃焼・焼失してその部分に気孔が形成されるため、焼成後は気孔の内周壁側に導電成分(A)および/または(B)粉末が存在することになり、燃料電池用アノード支持基板として実用化する際に、導電成分(A),(B)が多少の膨張・収縮を起こしても、上記気孔部分が体積膨張によって生じる歪を吸収するので、耐レドックス性の向上に寄与する。
なお上記気孔形成剤は、前述の如く加熱焼成時に分解・焼失して気孔を形成し、アノード支持基板にガス通過・拡散性を与えるための重要な成分であり、焼結体として本発明で求められる酸化性雰囲気下で20〜50%の気孔率を確保するには、該気孔形成剤の配合量を、前記導電成分(A)および/または(B)と骨格成分(C)の粉末の総和100質量部に対して3質量部以上、30質量部以下、より好ましくは5質量部以上、20質量部以下とすることが望ましい。ちなみに、気孔形成剤の配合量が不足すると、加熱焼成時の熱分解によって形成される気孔が不足気味となり、満足のいくガス通過・拡散性のアノード支持基板が得られ難くなり、逆に気孔形成剤の配合量が多過ぎると、加熱焼成時に形成される気孔が過度に多くなって基板が強度不足になると共に、平坦な基板が得られ難くなる。
グリーンシートを製造する際に用いるバインダーの種類にも格別の制限はなく、従来から知られた有機質もしくは無機質のバインダーを適宜選択して使用できる。有機質バインダーとしては、例えばエチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系またはメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロース類などが例示される。
これらの中でもグリーンシートの成形性や打抜き加工性、強度、焼成時の熱分解性などの観点からは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートの如き炭素数10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートの如き炭素数20以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート類;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートの如きヒドロキシアルキル基を有するアクリレートまたはメタクリレート類;ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートの如きアミノアルキルアクリレートまたはアミノアルキルメタクリレート類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、モノイソプロピルマレートの如きカルボキシル基含有モノマーの少なくとも1種を重合または共重合させることによって得られる重合体が例示され、これらは単独で使用し得る他、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用できる。
これらの中でも特に好ましいのは、数平均分子量が5,000〜200,000、より好ましくは10,000〜100,000の範囲のアクリレート系またはメタクリレート系共重合体であり、中でも、モノマー成分としてイソブチルメタクリレートおよび/または2−エチルヘキシルメタクリレートを60質量%以上含む共重合体は好ましいものとして推奨される。
前記原料粉末[導電成分(A)および/または(B)、骨格成分(C)および気孔形成剤の総和]とバインダーの使用比率は、前者100質量部に対して後者5〜30質量部、より好ましくは10〜20質量部の範囲が好適であり、バインダーの使用量が不足する場合は、グリーンシートの強度や柔軟性が不十分となり、逆に多過ぎる場合はスラリーの粘度調節が困難になるばかりでなく、焼成時のバインダー成分の分解放出が多く且つ激しくなり、表面性状の均質なグリーンシートが得られ難くなる。
また、グリーンシート製造時に使用される分散媒としては、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール、1−ヘキサノールなどのアルコール類;アセトン、2−ブタノン等のケトン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類などが適宜選択して使用できる。これらの分散媒も、単独で使用し得る他、必要に応じて2種以上を適宜組み合わせて使用できる。これら分散媒の中でも最も一般的なのは2−プロパノール、トルエン、酢酸エチルなどである。
グリーンシート製造用スラリーの調製に当たっては、前述した導電成分(A)および/または(B)を含有せしめた気孔形成剤や骨格成分(C)、或いは必要により補給される導電成分を、バインダー成分や、必要により原料粉末の解膠や分散促進用の分散剤、可塑剤、更には界面活性剤や消泡剤などと共に均一に混合し、均一分散状態のスラリーとされる。
ここで用いられる分散剤としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウムなどの高分子電解質;クエン酸、酒石酸などの有機酸;イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体やそのアンモニウム塩、アミン塩、ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体などが使用できる。また可塑剤は、グリーンシートの柔軟性を高める作用があり、その具体例としてはフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル類;プロピレングリコールなどのグリコール類やグリコールエステル類などが例示される。
本発明に係るアノード支持基板における導電成分(A),(B)の原料として用いる前記粉末は、平均粒子径が0.1〜15μmで90体積%の粒径が30μm以下の粉末、より好ましくは平均粒子径が0.3〜3μmで90体積%の粒径が20μm以下、更に好ましくは平均粒子径が0.5〜1.5μmで90体積%の粒径が10μm以下のものが好ましい。特に導電成分(B)の構成素材として酸化ニッケル等の金属酸化物粉末を使用する場合、90体積%の粒径が6μm以下、より好ましくは3μm以下で、粗大な粒子を極力含まないものを使用するのがよい。骨格成分(C)となる前記原料粉末は、平均粒子径が0.1〜3μmで90体積%の粒径が6μm以下、より好ましくは平均粒子径が0.1〜1.5μmで90体積%の粒径が3μm以下、更に好ましくは平均粒子径が0.2〜1μmで90体積%の粒径が2μm以下のものが好ましい。
導電成分(A),(B)の構成素材となる原料粉末として平均粒子径が15μmを上回り、90体積%の粒径が30μmを上回る粉末を使用し,骨格成分(C)を構成する原料粉末として、平均粒子径が3μmを上回り、90体積%の粒径が6μmを上回る粉末を使用した場合、仮焼による多孔質化だけでなく、粒子間間隙も空孔となっているため、所期の耐熱衝撃性や機械的強度が得られ難くなる。
なお本発明では、優れた印刷適性とより均質で高密着性の電極印刷層または固体電解質層を形成する上で、アノード支持基板表面の表面粗さを適正な範囲に調整することが望ましく、具体的には、レーザー光学式3次元形状測定装置によって測定される表面粗さで、平均化された粗さ深度(Rz:ドイツ規格「DIN4768」)を1〜10μm、算術的平均粗さ中間値(Ra:ドイツ規格「DIN4768」)を0.1〜4μmの範囲にすることが有効である。こうした好ましい要件を満たすアノード支持基板を確実に得るには、アノード支持基板となるセラミックの前駆体となるグリーンシートの製造に用いるスラリー状態での粒度分布が重要であり、グリーンシート製造用原料スラリーの粒度分布で、導電成分(A),(B)と骨格成分(C)に由来する0.1〜3μmの範囲に有するピーク(i)と、気孔形成剤に由来する1〜50μmの範囲に有するピーク(ii)があり、「ピーク(i)<ピーク(ii)」であるスラリーを使用することが望ましい。
即ち、最終的に得られる焼結体であるアノード支持基板の表面粗さは、使用する前記原料粉末の粒度構成によってある程度影響を受け、粗めのものを使用すると焼結体の表面粗さは相対的に粗くなり、微細なものを使用すると表面粗さは相対的に緻密となる。しかし、導電成分(A),(B)や気孔形成剤(C)の粉末および骨格成分素材粉末として前記好適粒度構成のものを使用すれば、前述した適正な気孔率を有すると共に、RzやRaについても好適範囲のものが得られ易い。
しかし本発明者らが更に研究を重ねたところでは、上記気孔率や、RzおよびRaを満たす焼結体を得る上でより効果的なのは、原料粉末自体の粒度構成ではなく、焼結原料となるセラミックス成形体を得る際のスラリー中に含まれる固形成分の粒度分布であり、該粒度分布が、骨格成分(C)素材に由来する0.1〜3μmの範囲に有するピーク(i)と、気孔形成剤に由来する1〜50μmの範囲に有するピーク(ii)を持ったスラリーを用いてグリーンシートを作製してから焼成すれば、気孔率が20〜50%で且つRzが1〜10μm、Raが0.1〜4μmの範囲に納まる焼結体(即ち、アノード支持基板)がより確実に得られることを確認している。
ちなみに、上記スラリーの調製に当たっては、原料粉末を含めた前記原料配合懸濁液をボールミル等にかけて均一に混練する方法が採用されるが、該混練条件(分散剤の種類や添加量などを含む)によっては、該スラリー調製過程で原料粉末や気孔形成材の一部が2次凝集を起こしたり、一部は更に破砕されるので、原料粉末の粒度構成がそのままスラリー中の固形成分の粒度構成と同じになるわけではない。よって、本発明のアノード支持基板を製造する際には、該基板の気孔率や表面粗さに最も影響を及ぼす要因として、未焼成のグリーンシートの製造に用いるスラリー状態での固形成分の粒度分布が、上記好適要件を満たす様に調整することが有益となるのである。
なお上記原料粉末およびスラリー中の固形成分の粒度分布とは、下記の方法で測定した値をいう。即ち原料粉末の粒度分布は、島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置「SALD−1100」を使用し、蒸留水中に分散剤として0.2質量%のメタリン酸ナトリウムを添加した水溶液を分散媒とし、該分散媒約100cm3中に各原料粉末0.01〜1質量%を加え、1分間超音波処理して分散させた後の測定値であり、またスラリー中の固形成分の粒度分布は、スラリー中の溶媒と同じ組成の溶媒を分散媒として使用し、該分散媒100cm3中に各スラリーを0.1〜1質量%となる様に加え、同様に1分間超音波処理して分散させた後の測定値である。
そして上記の如くスラリー状態での粒度分布で、好ましくは0.1〜3μmと1〜50μmの範囲に夫々1つのピークを有するスラリーを用いてグリーンシートを作製すると、相対的に粗大な1〜50μmの粒状物の間に、相対的に微細な0.1〜3μmの粒状物が充填されて緻密なグリーン体が形成され、これを焼成すると、スラリー状態で均一に微分散された気孔形成剤が全体から均一に万遍なく燃焼・焼失し、適度な気孔率と細孔径を有する焼結体を得ることができる。
そして本発明のアノード支持基板は、前述したセラミックス原料粉末とバインダーおよび分散媒からなるスラリーを、ドクターブレード法、カレンダー法、押出し法等によって支持板やキャリアシート上に適当な厚さとなる様に敷き延べてシート状に成形し、これを乾燥し分散媒を揮発させてグリーンシートを得、これを所定のサイズに打抜き加工した後、例えば前記再公表特許WO99/59936号に開示されている如く、棚板上の多孔質セッターに載置し、あるいはセッターで挟持した状態で、空気雰囲気下に1100〜1500℃、好ましくは1200〜1450℃程度、更に好ましくは1250〜1400℃の温度、最も一般的には1250〜1325℃程度で1〜5時間程度加熱焼成する方法が採用される。
なお多孔質セッターとしては、グリーンシートの焼結時に気孔形成剤に由来して大量に発生する分解ガスの放出が円滑に行われるよう、[NiO]単位を40〜90質量%含有するシート状セラミックス体からなる通気性の高い多孔質セラミックシート製造用セッターが好適に使用される。
ところで、本発明においてアノード支持基板が積層荷重などを受けたときのクラックや割れ防止に極めて重要となるバリ高さは、前記グリーンシートを所定サイズに打抜き加工する際に用いる打抜き刃の刃先形状によって著しく変わり、該刃先形状が波形の打抜き刃を使用すれば、通常の直線状打抜き刃を用いた場合に比べて、グリーンシートの打抜き線に形成されるバリ高さを著しく小さく抑え得ることが確認された。その理由は次のように考えられる。
即ち、刃先形状が直線状の打抜き刃を使用すると、グリーンシートが刃によって切断されるときに、刃先部全体が線状にグリーンシートに接触することになり、打抜き方向へ線状に同時に引っ張られる応力が生じ、グリーンシートの破断面が打抜き方向へカールするようになるため、大きなバリが形成され易くなる。これに対し刃先形状が波型の打抜き刃を使用すると、刃先の一部(即ち、波型の最高部)が点状にグリーンシートに接触するため、打抜き方向へ引っ張られる応力が緩和され、カールの程度が小さくなってバリ高さが著しく低められるものと考えられる。
このため打抜き刃は、最初にグリーンシート表面に接する部分が極力小さくなるよう、刃先が鋭いもの、具体的には刃先角度が90度以下のものを使用するのがよい。
この様に、特にグリーンシートを打抜き加工するための装置として、刃先部が波型のものを使用すれば、打抜き部に形成されるバリ高さを可及的に低くすることができ、それにより積層荷重などを受けたときの該バリ部への応力集中を可及的に抑え、クラックや割れの発生を最小限に抑えることが可能となる。
なお、積層荷重などを受けたときに起こるクラックや割れは、上記バリ以外にも、基板表面に存在する大きな突起やウネリなどによっても起こり得る。従って、耐クラック性や耐割れ性を一段と高めるには、上記バリ高さの低減に加えて突起やウネリも可及的に小さくすべきであり、その基準は、最大突起高さと最大ウネリ高さのいずれについても、シート厚さの1/3以下、より好ましくは1/4以下、更に好ましくは1/5以下である。
そして、本発明に係る多孔質のアノード支持基板を製造する際に該突起が生じる最大の原因は、焼成時に使用する棚板やセッター上に粒状の異物が存在したときに、その上に載置されたグリーンシートに対して該異物が引っ掛かりとなり、平坦なままでの均一な収縮が阻害されるためと考えられる。またウネリが生じる最大の原因は、バインダーや気孔形成剤が燃焼・焼失する際に、その含有量が多過ぎたり、或いはグリーンシートを重ね焼きした時に、燃焼が均等に進み難くなって単位時間当たりの分解燃焼量にばらつきが生じ、分解ガスの発生量にムラが生じるために起こると考えられる。
よって突起を最小限に抑えるための手段としては、焼成に用いる棚板やセッター上に付着粒子や欠落粒子などが存在しないように十分に除去・清掃しておき、またウネリを最小限に抑えるための具体的な手段としては、バインダーや気孔形成剤の使用量を最小限に抑えると共に、バインダー等からの分解ガスが均一に放散されるよう、特に重ね焼きする場合は多孔質のスペーサーをグリーンシート間に挟み込むと共に、最上部に重し用スペーサーを載置して焼成を行う等が有効な方法として挙げられる。
かくして得られる本発明のアノード支持基板を燃料電池用として実用化するには、耐レドックス性や要求強度を満たしつつ通電ロスを可及的に抑えるため、シート厚さを0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上で、3mm以下、より好ましくは1mm以下とするのが良い。
また、本発明のアノード支持基板を固体電解質型燃料電池用部材として使用するに当たっては、該支持基板の片面にアノード電極、その上に薄膜電解質、更にその上にカソード電極の形成が行われるが、それら電極や薄膜電解質の形成法は特に制限されず、VSPの如きプラズマ溶射法、フレーム溶射法、PVD(物理蒸着)法、マグネトロンスパッタリング法、電子ビームPVD法等の気相法;スクリーン印刷法、ゾル−ゲル法、スラリーコート法等の湿式法を適宜使用することができる。薄膜アノードや薄膜カソードの厚さは通常3〜300μm、好ましくは5〜100μmに、また薄膜電解質の厚さは通常3〜100μm、好ましくは5〜30μmに調整される。
実施例
(架橋重合体微粒子の製造例)
攪拌機、温度計および還流冷却器付きの3リットル容量のセパラブルフラスコに、純水650gとアニオン界面活性剤(第一工業製薬製、商品名「ハイテノールN08」)1.4gとを仕込み、窒素置換しながら、攪拌下に70℃まで昇温した。
70℃に昇温後、メチルメタクリレート86gを添加し、その5分後に過硫酸カリウムの2%水溶液105gを添加した。予め調製しておいたプレエマルション(メチルメタクリレート:912g、ジビニルベンゼン:53g、純水:1128g、「ハイテノールN08」:51g)を、過硫酸カリウム添加の20分後から、70℃にて等速度で4時間かけて添加した。添加終了後、75℃まで昇温して2時間熟成した後、40℃まで冷却してポリメチルメタクリレート(PMMA)系架橋重合体微粒子のエマルション[A]を得た。この微粒子の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布計で測定したところ、0.2μmであった。
(架橋重合体微粒子集合体の製造例)
上記で得たエマルション[A]を、スプレードライヤー(ヤマト科学製)により下記の条件で乾燥し、レーザー回折粒度分布計(島津製作所社製商品名「SALD−1100」)で測定した平均粒子径が33μm、比表面積が13m2/g、嵩比重が0.4g/mlのPMMA系架橋重合体微粒子集合体粉体[B]を得た。
供給速度:5ml/min
噴霧圧;2kg/cm3
風量:0.3m3/min
加熱部入口温度:150℃
加熱部出口温度:60℃。
上記で得た粉体[B]は、電子顕微鏡(SEM)観察によると、ほぼ球状の架橋重合体微粒子からなる原料微粒子がその形状を保持したままで相互に連結してなる微粒子集合体であった。
実施例1
前述のようにして得た架橋重合体微粒子のエマルション[A]に、バインダーとしてオキサゾリン基含有ポリマー(日本触媒社製、商品名「エポクロスK2020E」)を、上記エマルションの固形分に対し10質量%の割合で添加、混合して分散液を得た。この分散液に、導電成分前駆体化合物として酢酸ニッケル水溶液を加えた混合エマルションを、同様のスプレードライヤー条件で乾燥し、酢酸ニッケルが内部に配合された粉状の架橋重合体微粒子集合体を得た。
尚この粉体は、平均粒子径が8.5μm、比表面積が7.1m2/gであり、又この粉体を600℃で3時間焼成した後は、架橋重合体微粒子集合体は焼失し、酢酸ニッケルは分解・酸化されて酸化ニッケル粉末のみが残り、その配合量は55質量%であった。
これを導電成分含有気孔形成剤粉末として酸化ニッケル換算で11質量部、酸化ニッケル粉末(キシダ化学社製)39質量部とイットリアドープセリア粉末[セイミケミカル社製、(CeO2)0.8(YO1.5)0.2]15質量部が予備混合された混合粉末54質量部、3モル%イットリア安定化ジルコニア粉末(第一稀元素化学社製、商品名「HYS−3.0」)35質量部の合計100質量部に、バインダーとしてイソブチルメタクリレート79.5質量%、2−エチルヘキシルメタクリレート20質量%、およびメタクリル酸0.5質量%のモノマーを共重合して得たメタクリル系共重合体[数平均分子量;54,000、分散媒;トルエン/イソプロパノール(質量比;3/2)、固形分濃度;45%]を固形分換算で12質量部、溶剤としてトルエン/イソプロパノール(質量比;3/2)40質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2質量部を加え、ボールミルにより混練してから脱泡し、粘度調整して40ポイズのスラリーを得た。
このスラリーをドクターブレード法によりシート成形してグリーンシートを作製する。このグリーンシートを、刃先形状が波型で刃先角度が60度、刃高さが3mm、刃ピッチが3.5mmの打抜き刃(中山紙器材料社製)を用いて所定寸法の円形に打抜く。
この打抜きグリーンシートを、3モル%イットリア安定化ジルコニアと酸化ニッケル(60/40質量部)からなる気孔率が44%で厚さが0.5mmの多孔質セッターに載せ、交互にグリーンシートが合計5枚となる様に載せた後、更に多孔質セッターを載せて空気雰囲気下に1380℃で焼成することにより、イットリアドープセリア/酸化ニッケル/3モル%イットリア安定化ジルコニア(15/50/35質量%)からなる直径90mm、厚さ0.5mmの円形の燃料電池用アノード支持基板を得た。
この支持基板の気孔率を、水銀圧入法を採用した自動ポロシメーター(島津製作所製、商品名「オートポアIII9420」)で測定したところ29%であった。
また気孔の平均径を次の方法で測定した。即ち、支持基板の断面を1500番のサンドペーパーを用いて研磨した後、更に、平均粒子径が0.05μmのアルミナ粉体を研磨粉として用いて研磨する。その研磨面を走査型電子顕微鏡(日本電子社製、商品名「JSM−5410LV」)を用いて観察し、無作為に120×90μmに相当する部分を9.6×7.2cmに800倍拡大したSEM写真を撮影する。その写真から、目視で判別できる全ての気孔の直径をノギスで測定し、気孔径の平均値を求める。この方法で測定された気孔の平均径は8.4μmであった。更に、基板周縁のバリと表面の突起、うねり、Rz、Raをレーザー光学式非接触3次元形状測定装置(UBM社製、商品名「マイクロフォーカスエキスパートUBC−14型」)を用いてピッチ0.1nmで測定した。また、32mm×9mmで厚さが0.4mmの供試基板をJIS R−1601の方法に準拠して3点曲げ強度を測定した。
実施例2
前記実施例1で得た導電成分含有気孔形成剤粉末を酸化ニッケル換算で11質量部、酸化ニッケル粉末40質量部とイットリアドープセリア粉末20質量部が予備混合された混合粉末59質量部、3モル%イットリア安定化ジルコニア粉末30質量部の合計100質量部を用いた以外は、前記実施例1と同様にしてイットリアドープセリア/酸化ニッケル/3モル%イットリア安定化ジルコニア(20/50/30質量%)からなる直径34mm、厚さ0.4mmの円形の燃料電池用アノード支持基板を得た。
前記実施例1と同様にして測定した該支持基板の気孔率は31%、平均気孔径は7.3μmであった。
実施例3
平均粒子径が12μmの前記PMMA系架橋重合体微粒子集合体[B]200gと、導電成分前駆体化合物として酢酸ニッケル水溶液500gを1リットルのナス型フラスコに入れ、該フラスコをロータリーエバポレータに取り付けて80℃で加温・減圧しながら水を留出させることにより、酢酸ニッケルが架橋性重合体微粒子間の隙間や集合体の気孔内に配合された導電成分配合気孔形成剤粉末を得た。気孔形成剤に配合された導電成分は酸化ニッケル換算で40質量%であった。
前記実施例1で得た導電成分含有気孔形成剤粉末を酸化ニッケル換算で10質量部と酸化ニッケル粉末50質量部とイットリアドープセリア粉末10質量部が予備混合された混合粉末60質量部、および0.5質量%のアルミナを含有する4モル%スカンジア安定化ジルコニア粉末(第一稀元素化学社製、4ScSz)30質量部の合計100質量部を用いた以外は、前記実施例1と同様にしてイットリアドープセリア/酸化ニッケル/4モル%スカンジア安定化ジルコニア(10/60/30質量%)からなる直径34mm、厚さ0.4mmの円形の燃料電池用アノード支持基板を得た。
該支持基板の気孔率および平均気孔径を上記実施例1と同様にして測定したところ、気孔率は32%、平均気孔径は10.6μmであった。
実施例4
平均粒子径が33μmの前記PMMA系架橋重合体微粒子集合体[B]500gと、導電成分前駆体化合物として塩基性炭酸ニッケル粉末(和光純薬工業社製)2518gとを、直径3mmのジルコニアボールが装入されたボールミルで混合し、架橋重合体微粒子集合体の表面、内部に炭酸ニッケル粉末が配合された導電成分配合気孔形成剤粉末を得た。
この導電成分配合気孔形成剤粉末を酸化ニッケル換算で50質量部、酸化ニッケル粉末(キシダ化学社製)5質量部とサマリウムドープセリア粉末[セイミケミカル社製、(CeO2)0.7(SmO1.5)0.3]5質量部、3モル%イットリア安定化ジルコニア粉末40質量部の合計100質量部に、バインダーとして2−エチルヘキシルメタクリレート95質量%、ジメチルアミノエチルメタクリレート4質量%、およびヒドロキシプロピルアクリレート1質量%のモノマーから共重合して得たメタクリル系共重合体[数平均分子量;80,000、分散媒;トルエン/イソプロピルアルコール(質量比3/2)、固形分濃度;45%]を固形分換算で12質量部、溶剤としてトルエン/イソプロピルアルコール(質量比3/2)を40質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2質量部を加え、ボールミルにより混練してから脱泡し、粘度調整して45ポイズのスラリーを得た。
このスラリーを使用し、前記実施例1と同様にしてドクターブレード法によりシート成形してグリーンシートを作製し、同様にして打抜いてから1300℃で焼成することにより、サマリウムドープセリア/酸化ニッケル/3モル%イットリア安定化ジルコニア(5/55/40質量%)からなる直径34mm、厚さ0.4mmの円形の燃料電池用アノード支持基板を得た。
得られた支持基板の気孔率と平均気孔径を前記実施例1と同様にして測定したところ、気孔率は37%、平均気孔径は18.1μmであった。
比較例1
酸化ニッケル粉末(キシダ化学社製)85質量部、3モル%イットリア安定化ジルコニア粉末(第一稀元素化学社製、商品名「HYS−3.0」)15質量部の合計100質量部に、平均粒子径が33μmの前記架橋重合体微粒子集合体[B]35質量部、および、前記実施例1で用いたのと同様のバインダー、溶剤および可塑剤を同量加え、前記実施例1と同様にして酸化ニッケル/3モル%イットリア安定化ジルコニア(85/15質量%)からなる直径34mm、厚さ0.4mmの円形の燃料電池用アノード支持基板を得た。
前記実施例1と同様にして測定した該支持基板の気孔率は38%、平均気孔径は16.7μmであった。
比較例2
イットリアドープセリア粉末70質量部、3モル%イットリア安定化ジルコニア粉末(第一稀元素化学社製、商品名「HYS−3.0」)30質量部の合計100質量部に、平均粒子径が33μmの前記架橋重合体微粒子集合体[B]、および、前記実施例4で用いたのと同じバインダー、溶剤および可塑剤を同量加え、前記実施例4と同様にしてイットリアドープセリア/3モル%イットリア安定化ジルコニア(70/30質量%)からなる直径34mm、厚さ0.4mmの円形の燃料電池用アノード支持基板を得た。
前記実施例1と同様にして測定した該支持基板の気孔率は31%、平均気孔径は12.3μmであった。
レドックス試験(a):
1)前記実施例1〜4、比較例1〜2で得た直径34mm、厚さ0.4mmの円形燃料電池用アノード支持基板(供試用基板)1を、図1に示す如く弓形で0.4mm幅の切込みを入れたジルコニア製の保持具2に差し込んで、横置きにした内径40mm×長さ600mmの円筒管3の中央部にセットし、円筒管の中央部を管状電気炉4内に取り付ける。
2)供試用基板付近の温度が800℃となる様に電気炉を加熱し、同温度に保持しながら上記管状電気炉4内に、空気導入間5から空気を1500ml/minの速度で3時間流すことによって酸化性雰囲気に曝し、次いで水素ガス導入管6から水素ガスを750ml/minの速度で3時間流すことによって還元性雰囲気に曝し、これを交互に5回繰り返す。尚、該ガスの切換え時には、酸素と水素が直接混合することのないよう、窒素置換してガス切換えを行う。図中、7は多孔質の導入ガス分散板、8はガス排出管、9は測温用の熱電対を示している。
3)その後、空気、水素ガスを共に流さない状態で2℃/分の速度で室温付近まで降温してから、該供試基板を耐レドックス性評価装置から取り出し、目視で該供試基板表面のクラックの有無を観察する。
4)更に、直径34mm、長さ0.4mmの円形供試基板4を用いて同様の耐レドックス性評価を行い、合計5枚の目視評価でクラックが全て観察されないものを耐レドックス性良好とする。尚クラックの有無は、試験後の供試基板の一方の表面全体に80カンデラの照度の光を当てた時の光透過の有無を目視により判定した。
レドックス試験(b):
直流四端子法で下記の手順によって測定する。
1)前記実施例1〜4、比較例1〜2で得た直径34mm、厚さ0.4mmの円形燃料電池用アノード支持基板を、ダイヤモンド刃を取り付けた研削機(マルトー社製、型式「MX−833」)を用いて32mm×9mm、厚さ0.4mmの短冊状に切断し、導電率測定用テストピースを作製する。
2)上記レドックス試験(a)と同様に、テストピースを酸化性雰囲気下に3時間と還元性雰囲気下に3時間交互に5回繰り返して曝し、1サイクル後に還元性雰囲気で室温まで降温する。また、5サイクル後に還元性雰囲気に曝した後、室温まで降温する。
3)テストピースの短辺側2面に白金ペースト(田中マッセイ社製、商品名「TR−7603」)を塗り付け、2本の白金線(直径;0.15mm)の先端を夫々の面に同白金ペーストで接着して電流導入端子とする。
4)また、短冊面の表面に白金線先端間の距離が約30mmとなるように2本の白金線を上記2)と同様に接着固定して電圧測定端子とし、その間隔をノギスで測定する。
5)上記4端子から導いた4つの白金線を、デジタルマルチメーター(アドバンテスト社製、商品名「TR6845」)の電流端子・電圧端子に接続する。なお、外部電源には直流低電源装置(高砂社製、商品名「GPO16−20R」)を使用し、印加電圧は1Vとし、テストピースの導電率を測定した。
上記方法によって得たレドックス試験(a),(b)の結果を表1に示す。