JP4171334B2 - 固体酸化物形燃料電池用アノード支持基板およびその製法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は固体電解質形燃料電池用のアノード支持基板に関し、特に、電極膜と固体電解質膜を複合して得られるセルを多数枚積層しスタックとした燃料電池として実用化する際に、大きな積層荷重下に高温で且つ酸化性雰囲気と還元性雰囲気に交互に曝される苛酷な条件で使用した場合でも、クラックや割れなどを生じることのない優れた強度特性の固体酸化物形燃料電池用アノード支持基板とその製法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、燃料電池はクリーンエネルギー源として注目されており、その用途は家庭用発電から業務用発電、更には自動車用発電などを主体にして急速に改良研究および実用化研究が進められている。
【0003】
固体酸化物形燃料電池の代表的な構造は、平板状固体電解質膜の片面側にアノード電極、他方面側にカソード電極を設けた自立膜型セルを縦方向に多数積層したスタックが基本であり、燃料電池の発電性能を高めるには、固体電解質膜を緻密且つ薄肉化することが有効とされている。ちなみに固体電解質膜には、発電源となる燃料ガスと空気の混合を確実に阻止し得る緻密性と、導電ロスを極力抑えることのできる優れたイオン導電性が求められ、そのためには極力薄肉で且つ緻密質であることが求められるからである。しかも燃料電池は、前述の如くアノード電極/固体電解質膜/カソード電極を有するセルと、燃料ガスと空気を分離・流通させるためのセパレータとを交互に多数積層した構造を有しており、固体電解質膜には大きな積層荷重がかかる他、作動温度は700〜1000℃程度で相当の熱ストレスを受けるので、高レベルの強度と耐熱性が要求される。
【0004】
この様な要求特性から、固体酸化物形燃料電池用固体電解質膜の素材としては主としてジルコニア主体のセラミックシートが使用されており、該シートの両面にスクリーン印刷などによってアノード電極とカソード電極を形成したセルが使用されている。
【0005】
本発明者らは、こうした固体酸化物形燃料電池用の平板状固体電解質膜についてかねてより研究を進めており、積層荷重や熱ストレスに耐える物性と形状特性(ウネリや反り、バリなどの低減とそれに伴う局部応力による割れ防止)を確保しつつ、イオン導電ロスを低減するため極力薄肉化し、更には電極印刷の均一性と密着性を高めるため表面粗さを適正化する方向で研究を進め、先に特許文献1〜3などに開示の技術を提案している。
【0006】
これらの技術で、固体電解質膜を大幅に薄肉且つ緻密化し得ると共に、形状特性の改善、即ちウネリ、反り、バリなどの低減により、セルを積層したときの耐積層荷重強度や耐熱ストレス性、更には電極印刷の密着性や均質性も大幅に改善することができた。
【0007】
本発明者らはその後も燃料電池の性能向上を期して研究を進めており、その一環として特許文献4には、固体電解質膜として用いるセラミックシートの改良に代えて、支持膜型セル用の酸化ニッケル及び安定化ジルコニアを含有するアノード支持基板として利用可能な多孔質セラミックシートとその製法及び当該製法に用いるセッターを開示した。ちなみに固体電解質膜は、薄肉化するほど積層荷重によって割れを起こし易くなるため、薄肉化するにしても自ずと限度があり、導電ロスの低減にも限界があるので、固体電解質膜の薄膜化には上記支持膜型燃料電池セルの方が有利と考えられるからである。
【0008】
しかし、固体電解質膜を支持するための基板には、通電のための導電性が求められるが、前記固体電解質膜とは違って、発電源となる燃料ガスと空気、或は燃料の酸化によって生成するガス(炭酸ガスや水蒸気など)の通過・拡散を許す通気性が求められるため、多孔質のセラミック材によって構成される。しかもこの基板には、セル自体の強度を持たせるための支持機能も要求されるが、導電性の点では未だ十分とはいえず、また多孔質であることに由来して耐クラック性や耐衝撃性も十分とはいえず、改善の余地が残されている。
【0009】
そして最近では、気相法以外にも、多孔質の該支持基板にアノード電極をスクリーン印刷などによって形成し、その上に固体電解質膜をコーティング等で形成した後、更にその上にカソード電極をスクリーン印刷などによって形成する方法を採用することにより、固体電解質膜を一段と薄肉化し、導電ロスを更に低減させる方法も検討されている。
【0010】
また、追って詳述する本発明の構成に類似した固体電解質形燃料電池用材料として、特許文献5に開示された技術がある。これは、長時間安定した性能を維持することのできる燃料極材料として、粒径が20〜75μmのイットリア安定化ジルコニア粗粒子群と、粒径が0.1〜1μm程度のイットリア安定化ジルコニア微粒子群、および粒径が5〜20μm程度のNiO群を複合したものである。
【0011】
しかしこの技術は、あくまでも燃料極材料としての性能に着目したものであり、固体電解質を支持するための基板として要求される基板強度や耐レドックス安定性、耐サーマルサイクル安定性、電解質等の印刷適性等については十分な検討がなされているとは言えない。
【0012】
また、上記技術で粗粒子群と微粒子群に分けて粒度調整されるのは、骨格成分となるジルコニア粉末であるが、以下に詳述する本発明では、導電成分を粒度構成の異なる2成分に分けて粒度調整する点に最大の特徴を有するものであり、構成の違いに由来して作用効果も明らかに異なる。
【0013】
【特許文献1】
特開2000−281438号公報
【特許文献2】
特開2001−89252号公報
【特許文献3】
特開2001−10866号公報
【特許文献4】
再公表特許WO99/59936号公報
【特許文献5】
特開平8−306361号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは上記の様な状況の下で、アノード支持基板にアノード電極、固体電解質膜、カソード電極を順次コーティングして支持膜型の燃料電池用セルとするために用いられるアノード支持基板を対象として改良研究を進めており、耐熱衝撃性、機械的強度、ガス透過性、導電性などの特性に優れた多孔質セラミックシートの開発を進めている。
【0015】
該アノード支持基板の性能に重大な影響を及ぼす課題として、前述の如く多段積層構造のスタックからなる燃料電池装置を用いて高温条件下で稼動と中断を繰り返した時に、アノード電極側にN2などの空気パージ用不活性ガスを導入しない場合は、例えば特開平4−36962号公報に記載されている様に、支持基板にクラックや割れを生じることがある。その理由は次の様に考えられる。
【0016】
1)アノード支持基板は、燃料電池としての稼動時に600〜1000℃程度の高温条件下で水素などの燃料ガスにより還元性雰囲気に曝され、中断時には外部から空気の流入によって酸化性雰囲気に曝される。該酸化・還元の繰返しによってアノード支持基板の構成素材が状態変化を起こすと内部歪みや素材劣化が生じ、これがクラックや割れ発生の原因になることが考えられる。
【0017】
2)アノード支持基板の導電成分を構成する素材として酸化ニッケルなどを使用した場合、酸化ニッケルは還元性雰囲気で還元され金属ニッケルとなって導電性を示し、その時に約40体積%程度収縮する(田川博章著:「固体酸化物燃料電池と地球環境」アグネ承風社発行、1998年)。逆に酸化性雰囲気では再び酸化されて酸化ニッケルに変わるが、金属ニッケルが酸化ニッケルに酸化されるときには反対に約40%の体積膨張を起こす。こうした状態変化に伴う膨張・収縮の繰返しによって内部歪みが助長されると共に、この変化は基板の骨格成分の強度にも悪影響を及ぼし、クラックや割れの発生を誘発する。
【0018】
従って、燃料電池として実用可能な性能を保障するには、アノード支持基板として上記1),2)に示した様なアノード支持基板を構成する組成物の酸化・還元に伴うクラックや割れの発生を防止することが重要となる。
【0019】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、燃料電池用のアノード支持基板として重要な特性である通気性を確保しつつ、前記1)、2)などに起因するクラックや割れの発生を可及的に抑えたアノード支持基板とその製法を提供することにある。なお本明細書においては、前記1)、2)などを原因とするクラックや割れに耐える特性を、上記主たる要因を踏まえて「耐レドックス性」という。
【0020】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係る固体酸化物形燃料電池用アノード支持基板とは、導電成分(A)40〜80質量%と骨格成分(B)20〜60質量%とから構成され、気孔率が20〜50%である燃料電池用アノード支持基板であって、該基板断面を1000倍に拡大した90μm×120μmの領域を、エネルギー分散形X線分析装置を用いたエネルギー分散法(EDS)により観察したマッピング写真において、導電成分(A)と骨格成分(B)とが混在している箇所[AB]と、混在しておらず導電成分(A)しか存在しない箇所[A]とがあり、該箇所[A]が5箇所以上に点在すると共に、点在している該箇所[A]の最大長径が8〜100μm、平均長径が5〜50μmであり、且つ3点曲げ強度が200MPa以上であるところに特徴を有している。
【0021】
本発明に係る上記アノード支持基板の構成要素となる上記導電成分(A)の素材としては、Fe,Ni,Coよりなる群から選ばれる1種以上の元素の酸化物が好ましく、また骨格成分(B)の素材としては、2.5〜10モル%のイットリアで安定化されたジルコニアおよび/または3〜12モル%のスカンジアで安定化されたジルコニアが最適である。
【0022】
また本発明に係る製法とは、本発明に係る上記アノード支持基板を製造するための好ましい方法として位置付けられるもので、導電成分粉末(a)と、骨格成分粉末(b)、バインダー(c)および分散媒(d)を含むスラリーをシート状に形成した後、得られるシート状物を空気雰囲気下で焼成して固体酸化物形燃料電池用アノード基板を製造する方法において、前記導電成分粉末(a)として、平均粒子径が0.1〜3μmの微粒導電性粉末(a1)10〜50質量%と、平均粒子径が5〜50μm、比表面積が10〜100m2/g、気孔率が30〜80%である粗粒導電成分粉末(a2)を使用すると共に、骨格成分粉末(b)として平均粒子径が0.1〜3μmの粉末を使用するところに要旨を有している。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明者らは前述した様な解決課題の下で、アノード支持基板として必要なガス通過・拡散性を確保しつつ、苛酷な使用条件、特に積層荷重を受けた状態で熱衝撃や酸化性雰囲気と還元性雰囲気に繰返し曝されたときの耐クラック性や耐割れ性(耐レドックス性)を高めるべく研究を進めてきた。
【0024】
その結果、上述した如く、該支持基板を構成する導電成分(A)と骨格成分(B)の含有比率を特定範囲に選定すると共に、気孔率を特定範囲に設定し、しかも該支持基板の断面を1000倍に拡大した90μm×120μmの領域を、エネルギー分散形X線分析装置を用いたエネルギー分散法(EDS)により観察したマッピング写真)において、導電成分(A)と骨格成分(B)とが混在している箇所[AB]と、混在しておらず導電成分(A)しか存在しない箇所[A]とがあり、該箇所[A]が5箇所以上に点在すると共に、点在している該箇所[A]の最大長径と平均長径が特定範囲に納まるものは、固体酸化物形燃料電池用アノード支持基板としての前記要求特性を見事に満足し得るものになることを突き止め、上記本発明に想到したものである。
【0025】
従って本発明のアノード支持基板は、前述の如く優れた導電性と十分なガス通過・拡散性を有すると共に、卓越した耐レドックス性を有する多孔質のもので、この様な要求特性を満たすアノード支持基板の具体的構成について、以下詳細に説明していく。
【0026】
先ず本発明においては、アノード支持基板を構成する導電成分と骨格成分とが、粗粒子状と微粒子状の2種の導電成分と、骨格成分によって構成される。この骨格成分は、アノード支持基板として必要な骨格強度を確保する上で必須の成分であり、また導電成分粒子の局部的な凝集を防止して均一分散を促す上でも重要な機能を果たす。
【0027】
また、粗粒子状の導電成分は、導電性微粒子を弱く凝集させて粗粒子化した集合体であって、粗粒子間および粗粒子内に無数の気孔を有している。従って、該導電成分が燃料電池の作動時に還元性雰囲気に曝され金属として存在するときと、作動停止時における空気の混入により酸化性雰囲気に曝されて金属酸化物に酸化されたときに、当該粗粒子間および粗粒子内の気孔が酸化時の体積膨張と還元時の体積収縮の逃げ空間として機能し、骨格成分への影響(内部歪)を緩和する作用を発揮する。また、粗粒子状の導電成分は電流パスの中継基地としても作用し、支持基板内で局部的に電流パスが切断された状態になった場合でも、通電のためのパスネットワークを支えると共に、集電機能によってセパレータやインターコネクタへの導電をスムーズにする機能も果たす。
【0028】
これに対して微粒子状の導電成分は、従来材と同様に本来の電流パスを形成する作用を発揮すると共に、電極反応場としても作用する。
【0029】
本発明において、アノード支持基板内に粗粒子状の導電成分を生成させるには、該支持基板の製造に用いる原料成分のうち導電成分粉末(a)として、平均粒子径が0.1〜3μm、好ましくは0.3〜2μmである微粒導電成分粉末(a1)と、平均粒子径が5〜50μm、より好ましくは8〜20μmで、比表面積が10〜100m2/g、より好ましくは12〜50m2/g以上、気孔率が30〜80%、より好ましくは40〜70%である粗粒物を使用し、全導電成分粉末(a)中に占める前記微粒導電成分粉末(a1)の含有比率を10〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%の範囲とすると共に、前記粗粒導電成分粉末(a2)物を全導電成分粉末中に占める比率で50〜90質量%、より好ましくは60〜80質量%の範囲に調整すると共に、前記骨格成分粉末(b)として、平均粒子径が0.1〜3μm、好ましくは0.3〜1μmである微粉末を使用することが必要となる。
【0030】
上記の様な粗粒導電成分粉末(a1)や微粒導電成分粉末(a2)、骨格成分粉末(b)を得る具体的な方法については追って詳述する。
【0031】
アノード支持基板内における上記導電成分(A)と骨格成分(B)の分布は、エネルギー分散型X線分光法(EDS:Energy Dispersive Spectroscopy)によって求めることができる。即ち、被検体となるアノード支持基板の断面に電子線を照射すると、基板断面に存在する導電成分(A)と骨格成分(B)の構成元素に固有のエネルギーを持ったX線(特性X線)が発生するので、このX線をSi(Li)半導体検出器で検出し、そのエネルギーに比例した数の電子−正孔対を半導体中に作って電気信号を発生させ、増幅およびアナログ・デジタル変換の後、マルチチャンネルアナライザーを用いて識別することによりX線スペクトルを得、そのピークから元素を同定すると共にそのピーク値から各元素の量を定量し、更に、SEM像として得られる画像をマッピンクプログラムで処理することによりSEI像として対応させ、各元素の基板内分布像から判定される。
【0032】
上記分布を求めるに当っては、供試アノード支持基板の小片をエポキシ樹脂に埋め込んでから断面を研磨し、該研磨面に白金蒸着による前処理を施してから使用する。また、エネルギー分散型X線分析装置としては日本電子社製の商品名「JED−2200」を使用し、測定条件などは下記の通りとする。
【0033】
「測定条件」
加速電圧:20.00kV、電流:0.756nA
「検出特性X線エネルギー」
Fe=6.4KeV、Ni:Kα=7.47keV、Co=6.92KeV
Zr:Lα=2.04keV
「検出器」
ミニカップ型EDS検出器(日本電子社製商品名「EX−54013MHP」)、倍率:1000倍、検出条件:分解能0.01keV、PHAモード(Pulse Height Analyzer)T2
「元素マッピング」
ソフトウエア:日本電子社製のデジタルマッピングソフトウエア「EX−55020」、画素数(元素マッピング像の解像度):256×192、デュエルタイム:0.1ms、スイープ回数(処理積算回数):50回
「マッピング写真」
上記EDS検出器による1000倍に拡大した90μm×120μmの領域における導電成分のマッピング写真。
【0034】
この検出法で、導電成分(A)しか存在しない箇所[A]の殆どは楕円形や円形、もしくはそれらが連結した例えばダルマ形として表われ、上記領域内で5箇所以上、一般的には10箇所以上、最大で50箇所以上、通常は30箇所程度の点在状態で観察される。点在している箇所[A]の長径とは、マッピング写真で観察される箇所[A]の楕円やダルマ形の最大長径または円形の直径をいい、マッピング像からノギスによって実測する。
【0035】
本発明では、点在している該箇所[A]の最大長径のみを8〜100μmと定めているが、最小長径は1〜3μm程度であり、これら長径の平均値は5〜50μm、特に8〜40μmの範囲が好ましい。
【0036】
上記の様に本発明のアノード支持基板は、導電性を与えるための導電成分(A)と、支持基板の骨格成分(B)となるセラミック質を主たる構成素材とする。上記導電成分(A)は、支持基板に導電性を与える上で必須の成分であり、その素材となる導電成分粉末(a)とは、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルトの如き燃料電池稼動時の還元性雰囲気で導電性金属に変化する金属酸化物、或いはこれらの酸化物を2種以上含有するニッケルフェライトやコバルトフェライトの如き複合金属の酸化物が挙げられ、これらは単独で使用し得るほか、必要により2種以上を適宜組み合せて使用できる。これら導電成分粉末(a)の中でも、コストや導電特性などを考慮して汎用性の高いのは酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケルであり、最も一般的なのは酸化ニッケルである。
【0037】
本発明では、上記導電成分粉末(a)として、平均粒子径が0.1〜3μm、より好ましくは0.3〜2μmの範囲の微粒導電成分粉末(a1)と、以下に詳述する粗粒導電成分粉末(a2)を、前者:10〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%と、後者:50〜90質量%、より好ましくは60〜80質量%の範囲で併用する。
【0038】
上記微粒導電成分粉末(a1)は、本発明に係るアノード支持基板の全面に均一に分布し、燃料電池としての作動時の導電性を確保する上で重要な成分であり、その作用を有効に発揮させるには、前記好適粒度範囲のものを好適配合率範囲内で含むものでなければならない。ちなみに、該微粒導電成分粉末(a1)の平均粒径が微細に過ぎると経時的に凝集し易くなり、導電パスの切断や気孔の閉塞といった問題を生じることがあり、またその配合量が不足すると、導電性不足になる恐れが出てくる。また、平均粒径が大き過ぎると、導電のためのネットワークが粗くなって導電性不良になる傾向が生じ、その配合量が多くなり過ぎても、経時的に凝集し易くなり、導電パスの切断や気孔の閉塞といった問題を起こし易くなる。
【0039】
この様な微粒導電成分粉末(a1)は、例えば金属微粒子を流動床あるいは移動床で400〜600℃程度に加熱して酸化し、粉砕、分級する酸化加熱法;硝酸塩や炭酸塩などの金属化合物を500℃程度以上に加熱して分解した後、粉砕、分級する熱分解法;金属化合物の溶液をアルカリで中和して水酸化物とした後、500℃程度以上に加熱して分解させ、粉砕、分級する湿式法などによって容易に得ることができる。
【0040】
一方、上記微粒導電成分粉末(a1)と併用される粗粒導電成分粉末(a2)としては、レーザー散乱式粒度分布測定装置(島津製作所製商品名「SALD1100」)で測定される50体積%径(平均粒子径)が5〜50μm、好ましくは8〜30μm、BET法で測定される比表面積が10〜100m2/g、好ましくは15〜50m2/g、気孔率が30〜80%、より好ましくは40〜70%である粗粒導電成分粉末(a2)が、全導電成分粉末(a)中に占める比率で50〜90質量%の範囲で使用される。
【0041】
粗粒導電成分粉末(a2)の50体積%径(平均粒子径)が5μm未満では、導電成分(A)しか存在しない箇所ができ難くなって耐レドックス性が不十分となり、逆に50μmを超えると十分な導電パスが得られ難くなって導電性が低下傾向を示す様になる。また比表面積が10m2/g未満では、多孔性が不十分となって耐レドックス性が不足気味となり、逆に100m2、/gを超えて比表面積が大きくなり過ぎると、シート形成のためのバインダー量を多くしなければならず、焼成後に反りやウネリが発生し易くなるといった問題を生じ易くなる。更に気孔率が30%を下回ると、通気性やガス拡散性が悪くなり、80%を超えると、基板強度が低下傾向を示す様になる。
【0042】
なお、上記粗粒導電成分粉末(a 2 )として特に好ましいのは、水銀圧入法によるポロシティー測定で測定される細孔容積が1〜10cm3/g、より好ましくは2〜5cm3/gの範囲のもので、レーザー散乱式粒度分布測定装置(島津製作所製商品名「SALD1100」)で測定される90体積%径が20〜100μm、より好ましくは30〜80μmの範囲のものである。
【0043】
この様な粗粒導電成分粉末(a2)は、例えば、導電成分金属の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、クエン酸塩、塩化物、水酸化物などを使用し、これらを400〜1000℃、好ましくは600〜800℃で酸化性雰囲気下に熱分解し、必要に応じて分級することで容易に得ることができる。
【0044】
また粗粒導電成分粉末(a2)を得る他の方法として、粒径が0.1〜1μm程度の微粒子状の導電成分酸化物粉末をスプレードライすることによって、平均粒子径が5〜50μm、90体積%径が20〜100μmの顆粒とした後、該顆粒を200〜1000℃程度で仮焼する方法も有効であり、仮焼粉体として特に好ましいのは、炭酸塩や蓚酸塩を用いて熱分解した仮焼粉体である。
【0045】
そして本発明では、導電成分粉末(a)として、上記微粒導電成分粉末(a1)と粗粒導電成分粉末(a2)とを、前者10〜50質量部と後者50〜90質量部の比率で併用すると共に、所定粒度構成の骨材成分粉末(b)と適量併用することにより、アノード支持基板として、その断面のエネルギー分散形X線分析装置を用いたエネルギー分散法(EDS)による1000倍に拡大した90μm×120μmの領域における導電成分のマッピング写真において、導電成分(A)と骨格成分(B)とが混在している箇所[AB]と、混在しておらず導電成分(A)しか存在しない箇所[A]とがあり、該箇所[A]が5箇所以上に点在すると共に、点在している該箇所[A]の最大長径が8〜100μm、平均長径が5〜50μmという特性を満たす、耐レドックス性の卓越したものを得ることが可能となる。
【0046】
尚、上記箇所[A]の最大長径が8μmを下回り、その平均長径が5μmを下回ると、耐レドックス性が劣化気味となり、逆に最大長径が100μmを上回り、その平均長径が50μmを上回ると、基板としての強度および導電性が著しく低下する。
【0047】
上記粗粒導電成分粉末(a1)の割合が全導電成分粉末(a)中に占める比率で50質量%を下回る場合は、前掲のマッピング写真において、導電成分(A)しか存在しない箇所[A]が5箇所未満になり易く、5箇所未満の場合は明らかに耐レドックス性不足となる。逆に導電成分(a)中に占める粗粒導電成分粉末(a2)の比率が90質量%を上回る場合は、導電成分(A)しか存在しない箇所[A]は確実に5箇所以上となり耐レドックス性には優れたものとなるが、支持基板としての導電性が低下しアノード支持基板として使用し得なくなる。
【0048】
なお本発明において好ましく使用される前記導電成分粉末(a)がFe,Ni,Coから選択される1種以上の元素の酸化物であることは前述した通りであるが、これらの金属酸化物や複合金属酸化物に加えて、例えばセリア、イットリアドープセリア、サマリアドープセリア、プラセアドープセリア、ガドリアドープセリアの如く還元性雰囲気で導電性を示す金属酸化物;白金、パラジウム、ルテニウムの如き還元性雰囲気で導電性を示す貴金属などの1種以上を適量併用することも可能である。
【0049】
他の原料成分となる骨格成分(B)は、アノード支持基板として必要な強度、特に耐積層荷重強度と耐レドックス性を確保する上で重要な成分であり、ジルコニア、アルミナ、チタニア、セリア、アルミニウムマグネシウムスピネル、アルミニウムニッケルスピネルなどが、単独で或いは2種以上の混合物として使用される。これらの中で最も汎用性の高いのは安定化ジルコニアである。
【0050】
安定化ジルコニアとしては、ジルコニアに、安定化剤としてMgO、CaO、SrO、BaO等のアルカリ土類金属の酸化物;Y2O3、La2O3、CeO2、Pr2O3、Nd2O3、Sm2O3、Eu2O3、Gd2O3、Tb2O3、Dy2O3、Er2O3、Tm2O3、Yb2O3等の希土類元素の酸化物;Sc2O3、Bi2O3、In2O3等から選ばれる1種若しくは2種以上の酸化物を固溶させたもの、あるいは、これらに分散強化剤としてアルミナ、チタニア、Ta2O5、Nb2O5などが添加された分散強化型ジルコニア等が好ましいものとして例示される。
【0051】
CeO2やBi2O3にCaO,SrO,BaO,Y2O3,La2O3,Ce2O3,Pr2O3,Nb2O3,Sm2O3,Eu2O3,Gd2O3,Tb2O3,Dr2O3,Ho2O3,Er2O3,Yb2O3,PbO,WO3,MoO3,V2O5,Ta2O5,Nb2O5の1種もしくは2種以上を添加したセリア系またはビスマス系も使用可能である。これらの中でも特に好ましいのは、2.5〜12モル%のイットリアで安定化されたジルコニアおよび/または3〜12モル%のスカンジアで安定化されたジルコニアである。
【0052】
上記導電成分(A)と骨格成分(B)の比率は、得られるアノード支持基板に適度の導電性と強度特性を与える上で重要であり、導電成分(A)の量が相対的に多くなると、支持基板としての導電性は向上するが、骨格成分(B)の量が相対的に少なくなって強度特性や耐レドックス性が低下し、逆に導電成分(A)の量が相対的に少なくなると、骨格成分(B)量の増大により強度特性や耐レドックス性は高まるが、導電性が低下する。よって両者の配合比率は、これらの兼合いを考慮して適正に決めるべきであり、その比率は導電成分(A)の種類等によっても若干変わってくるが、通常は導電成分(A)40〜80質量%に対して骨格成分(B)60〜20質量%、より優れた耐レドックス性を得るには、導電成分(A)50〜70質量%に対して骨格成分(B)50〜30質量%の範囲が好ましい。
【0053】
なお、アノード支持基板としての導電性は高い方が好ましいが、実用性を考えると、一応の目安として少なくとも200S/cm以上であることが望ましい。これ未満では、基板内にクラック等が発現して導電パスの一部が遮断され、導電層としての内部抵抗が過大となって発電性能が低下する。他方、導電成分素材として酸化ニッケルを使用する場合、支持基板中に占める金属ニッケルとしての比率が約40質量%を超えると、還元性雰囲気下での導電率が急激に上昇し、0.1S/cmオーダーのものが、1000℃の還元性雰囲気では1000S/cmオーダーにまで上昇する。従って導電成分素材として酸化ニッケルを使用する場合は、導電成分(A)の比率を40質量%以上に高めることが望ましい。
【0054】
本発明のアノード支持基板は、上記の如く導電成分(A)と骨格成分(B)からなるもので、骨格成分(B)によって耐積層荷重強度や耐レドックス性が確保され、導電成分(A)により基板に導電性が与えられる。そして、これらにより構成される支持基板には、前述の如く燃料ガスや空気、或は燃焼排ガスを通過・拡散させるための気孔が必要であり、これらガスを円滑に通過・拡散させるには、全体としての気孔率が酸化性雰囲気下で20%以上が好ましく、20%未満では、還元性雰囲気下で導電成分(A)の収縮によって気孔率が増加しても前記ガスが通過・拡散不足となり、発電効率の低下を招く恐れがある。しかも支持基板内に存在する気孔は、導電成分(A)として酸化ニッケルなどの金属酸化物を使用したとき、前述した如く酸化・還元の繰返しによる金属酸化物⇔金属の変化によって膨張・収縮を起こしたときに、該気孔部が膨張・収縮の逃げ空間となって内部応力の増大を緩和する機能を発揮し、耐レドックス性の向上に寄与する。こうした点も考慮すると、より好ましい気孔率は酸化性雰囲気下で25%以上、更に好ましくは30%以上である。
【0055】
但し、気孔率が大きくなり過ぎると、アノード支持基板としての耐積層荷重強度や耐熱衝撃性、耐熱ストレス性が低下し、スタックとして組付けたときの積層荷重などで支持基板が割れたりクラックを生じ易くなり、あるいは更に、導電成分(A)の分布状態が疎となって導電性不足になる傾向が生じてくるので、高くとも酸化性雰囲気下で50%以下、好ましくは45%以下、更に好ましくは40%以下に抑えるのがよい。
【0056】
また本発明のアノード支持基板は、全体として均一なガス通過・拡散性を示すものがよいことは当然であり、そのためには基板全体に亘る気孔の分布状態が均一であることが望ましい。気孔の好ましい平均径は2μm以上、20μm以下である。ちなみに、気孔の平均径が2μm未満ではガスの通過・拡散性が不足気味になったり、酸化・還元による膨張・収縮の逃げ空間が不足気味となり、前記気孔率不足の場合と同様の問題を生じることがある。逆に平均径が大き過ぎると、気孔率過剰の場合と同様に強度不足や導電性不足になる傾向が生じてくるので、20μm以下に抑えるのがよい。気孔のより好ましい平均径は3μm以上、15μm以下である。
【0057】
なお支持基板の気孔率は、自動ポロシメーターによって求めることができ、また気孔の平均径は、支持基板の縦断面のSEM写真からノギスなどによる実測によって求めることができる。
【0058】
また、本発明のアノード支持基板はその3点曲げ強度が150MPa以上であることが必須であり、150MPaを下回る場合はハンドリング強度不足となり、基板上にアノード、電解質、カソードを形成するときに基板自体にクラックが入ったり割れ易くなり、基板としての機能を果たせなくなる。
【0059】
3点曲げ強度は高い方が好ましいが、ガス通過・拡散性を持たせるには気孔が必要であるので、より好ましくは200MPa以上とするのがよい。なお3点曲げ強度は、JIS R 1601に準拠し、供試基板として30mm×5mmの短冊状基板をスパン20mmで測定して求めた値である。
【0060】
次に、本発明で最も重要となる要求特性は耐レドックス性であり、その基準は、燃料電池のスタックとして積層状態で実用化する際の稼動状況を考慮し、後述するレドックス試験で基板表面にクラックが観察されず、あるいは後述する様な5回の繰返しレドックス試験後の状態で十分な導電率を保っていることが望ましい。
【0061】
ちなみに、本発明に係るアノード支持基板を燃料電池として実用化する際には、前述の如くスタックとして多数積層された状態で、稼動時には700〜1000℃の温度の還元性雰囲気に曝され、中断時には外部からの空気の流入によって酸化性雰囲気に曝され、これらが多数回繰り返される。従って、こうした実用条件に耐える特性を確保するには、実用条件を模擬した耐レドックス性評価試験法を明確にしておく必要がある。そこで後述するレドックス試験では、耐レドックス性評価試験法として標準化するため、実用サイズのアノード支持基板を想定して、直径34mm×厚さ0.4mmの円盤状の試験用基板を使用し、該試験用基板を、横置きにした直径40mmの円筒管の中央部に垂直に立ててから、980℃で酸化性雰囲気下に3時間と還元性雰囲気下に3時間、交互に5回繰り返し曝すレドックス試験後において、目視観察で該基板表面にクラックが観察されないものを合格と評価する。
【0062】
なお雰囲気調整は、試験用基板の一方の面側に水素を流したときを還元性雰囲気(発電時)、水素の流通を停止し空気を流したときを酸化性雰囲気(発電の中断時)とする。
【0063】
各ガスの流量は、室温(25℃)換算で、水素の場合75〜1500ml/min、空気の場合150〜3000ml/minの範囲とすればよく、ガスを流通させる時間は、該基板が確実に酸化性雰囲気と還元性雰囲気に交互に曝される条件であればそれ以上長くする必要はなく、基板の厚さや気孔率などの影響を受けるが、厚さが0.4mmで気孔率が20〜50%の範囲の場合は2時間曝せば十分である。しかしより確実にするため3時間以上、例えば6時間曝してもよい。また、酸化性雰囲気と還元性雰囲気の繰返し回数は多くするほど耐久性をより正確に評価できると考えられるが、多くの場合、クラックや割れの発生は繰返し初期に起こり易いと考えられるので、5回の繰返しで問題なければ少なくとも10回の繰返しには耐え得ると判断される。
【0064】
よって本発明で採用されるレドックス性評価試験では、室温(25℃)換算で、水素は750ml/min、空気は1500ml/min、流通時間は3時間、酸化性雰囲気と還元性雰囲気との繰返し回数は5回とした。なお評価データの信頼性を高めるため、少なくとも5枚の試験用基板を用いて同様の評価試験を実施し、1枚でもクラックや割れが検出された場合は耐レドックス性不良と評価した。なおクラックや割れの観察は、上記レドックス試験後の供試基板の一方の表面全体を80カンデラの照度下に目視で光透過の有無を観察し、1ヵ所でも光透過が観察されたものはクラックまたは割れ有りと判断した。
【0065】
なお上記試験では、あくまで試験用基板としてのサイズを規定しているだけであって、アノード支持基板としては、求められるスタック形状や耐積層荷重性、導電・発電性能などに応じてサイズや形状、厚さなどを任意に変更し得ることはいうまでもない。
【0066】
本発明に係るアノード支持基板の形状としては、円形、楕円形、角形、アールを有する角形など何れでもよく、これらの基板内に同様の円形、楕円形、角形、アールを有する角形などの穴を1つ若しくは2以上有するものであってもよい。更に基板の面積は特に制限されないが、実用性を考慮して一般的なのは50cm2以上、より好ましくは100cm2以上である。なおこの面積とは、ドーナツ形状などの如く基板シート内に穴がある場合は、該穴の面積を含んだ総面積を意味する。
【0067】
次に、本発明に係るアノード支持基板の製法について説明する。
【0068】
本発明のアノード支持基板は、前記微粒導電成分粉末(a1)と粗粒導電成分粉末(a2)および骨材成分粉末(b)の所定量を、バインダー(c)および分散媒(d)、必要により分散剤や可塑剤などと共に均一に混合してスラリー状とし、これをドクターブレード法、カレンダーロール法、押出し法など任意の手段で平滑なフィルム(例えばポリエステルフィルムなど)上に適当な厚みで塗布し、乾燥して分散媒(d)を揮発除去することによりグリーンシートを得る。
【0069】
グリーンシートを製造する際に用いるバインダー(c)の種類には格別の制限がなく、従来から知られた有機質バインダーを適宜選択して使用できる。有機質バインダーとしては、例えばエチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系またはメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロース類などが例示される。
【0070】
これらの中でもグリーンシートの成形性や打抜き加工性、強度、焼成時の熱分解性などの観点からは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートの如き炭素数10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートの如き炭素数20以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート類;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートの如きヒドロキシアルキル基を有するアクリレートまたはメタクリレート類;ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートの如きアミノアルキルアクリレートまたはアミノアルキルメタクリレート類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、モノイソプロピルマレートの如きカルボキシル基含有モノマーの少なくとも1種を重合または共重合させることによって得られる重合体が好ましいものとして例示され、これらは単独で使用し得る他、必要により2種以上を適宜組み合せて使用できる。
【0071】
これらの中でも特に好ましいのは、数平均分子量が5,000〜200,000、より好ましくは10,000〜100,000の範囲のアクリレート系またはメタクリレート系共重合体であり、中でも、モノマー成分としてイソブチルメタクリレートおよび/または2−エチルヘキシルメタクリレートを60質量%以上含む共重合体は最も好ましいものとして推奨される。
【0072】
前記原料粉末(導電成分粉末や骨格成分粉末)とバインダー(c)の使用比率は、前者100質量部に対して後者5〜30質量部、より好ましくは10〜20質量部の範囲が好適であり、バインダーの使用量が不足すると、グリーンシートの強度や柔軟性が不十分となり、逆に多過ぎるとスラリーの粘度調節が困難になるばかりでなく、焼成時のバインダー成分の分解放出が多く且つ激しくなり、表面性状の均質なグリーンシートが得られ難くなる。
【0073】
また、グリーンシート製造時に使用される分散媒(d)としては、水;メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール、1−ヘキサノールなどのアルコール類;アセトン、2−ブタノン等のケトン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類などが適宜選択して使用できる。これらの分散媒も、単独で使用し得る他、必要に応じて2種以上を適宜組み合せて使用できる。これら分散媒の中でも最も一般的なのは2−プロパノール、トルエン、酢酸エチルなどである。
【0074】
グリーンシート製造用スラリーの調製に当っては、前述した導電成分粉末(a)や骨格成分粉末(b)、バインダー(c)、分散媒(d)、必要により原料粉末の解膠や分散促進用の分散剤、可塑剤などと共に均一に混合し、均一分散状態のスラリーとされる。
【0075】
ここで用いられる分散剤としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウムなどの高分子電解質;クエン酸、酒石酸などの有機酸;イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体やそのアンモニウム塩、アミン塩、ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体などが使用できる。また可塑剤は、グリーンシートの柔軟性を高める作用があり、その具体例としてはフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル類;プロピレングリコールなどのグリコール類やグリコールエステル類などが例示される。
【0076】
なお本発明では、優れた印刷適性と、より均質で高密着性の電極印刷層または固体電解質層を形成する上で、基板表面の表面粗さを適正な範囲に調整することが望ましく、具体的には、レーザー光学式3次元形状測定装置によって測定される表面粗さで、平均化された粗さ深度(Rz:ドイツ規格「DIN4768」)を1〜10μm、算術的平均粗さ中間値(Ra:ドイツ規格「DIN4768」)を0.1〜4μmの範囲にすることが望ましい。
【0077】
なお上記原料粉末の粒度分布とは、下記の方法で測定した値をいう。即ち原料粉末の粒度分布は、島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置「SALD−1100」を使用し、蒸留水中に分散剤として0.2質量%のメタリン酸ナトリウムを添加した水溶液を分散媒とし、該分散媒約100cm3中に試料0.01〜1質量%を加え、1分間超音波処理して分散させた後の測定値である。
【0078】
そして本発明のアノード支持基板は、前述の原料素材からなるスラリーを、例えばポリエステルの如き樹脂シート上に適当な厚さとなる様に塗工し、乾燥してグリーンシートとした後、これを所定のサイズに打抜き加工した後、前記再公表特許WO99/59936号に開示されている如く、棚板上の多孔質セッターに載置し、あるいは多孔質セッターで挟持した状態で、空気雰囲気下に1100〜1500℃、好ましくは1200〜1450℃程度の温度、最も一般的には1250〜1400℃程度で1〜5時間程度加熱焼成する方法が採用される。
【0079】
なお多孔質セッターとしては、グリーンシートの焼結時にバインダー(c)などに由来して大量に発生する分解ガスの放出が円滑に行なわれる様、通気性の高い[NiO]単位を40〜90質量%含有するシート状セラミックス体からなる多孔質セラミックシート製造用セッターが好適に使用される。
【0080】
かくして得られる本発明のアノード支持基板を燃料電池用として実用化するには、耐レドックス性や要求強度およびガスの通気・拡散性を満たしつつ通電ロスを可及的に抑えるため、基板厚さを0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上で、3mm以下、より好ましくは1mm以下とするのが良い。
【0081】
また、本発明のアノード支持基板を固体酸化物形燃料電池用部材として使用するに当っては、該支持基板の片面にアノード電極、その上に薄膜電解質、更にその上にカソード電極の形成が行われるが、それら電極や薄膜電解質の形成法は特に制限されず、VSPの如きプラズマ溶射法、フレーム溶射法、PVD(物理蒸着)法、マグネトロンスパッタリング法、電子ビームPVD法等の気相法;スクリーン印刷法、ゾル−ゲル法、スラリーコート法等の湿式法を適宜使用することができる。薄膜アノードや薄膜カソードの厚さは通常3〜300μm、好ましくは5〜100μmに、また薄膜電解質の厚さは通常3〜100μm、好ましくは5〜30μmに調整される。
【0082】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0083】
実施例1
和光純薬社製の塩基性炭酸ニッケル粉末を、空気中において500℃で5時間熱分解することにより、比表面積が46m2/g、粒度分布が50体積%径で15μm、90体積%径が28μm、気孔率が68%の酸化ニッケル粗粒子粉末を得た。
【0084】
この粗粒子粉末40質量部と、キシダ化学社製の酸化ニッケル粉末(50体積%径0.5μm、90体積%径3.1μm)を酸化ニッケル微粒子粉末として25質量部、3モル%イットリア安定化ジルコニア(3YSZ)粉末(第一稀元素社製商品名「HSY−3.0」:平均粒子径0.45μm)35質量部に対し、メタクリル系共重合体からなるバインダー(分子量:30000、ガラス転移温度:−8℃)15質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2質量部、分散媒としてトルエン/イソプロパノール混合溶剤(質量比=3/2)50質量部を、直径15mmのジルコニアボールが装入されたナイロンポットに入れ、約60rpmで12時間混練してスラリーを調製した。
【0085】
得られた塗工用スラリーを濃縮脱泡して粘度を50ポイズに調整し、最後に100メッシュのフィルターに通してから、ドクターブレード法によりポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗工して乾燥し、厚さ0.5mmのNiO/3YSZ(65/35)グリーンシ−トを得た。
【0086】
このグリーンシートを所定の寸法に切断し、大気下1400℃で2時間焼成することにより、直径34mm×厚さ0.4mmの円盤状の試験用基板を得た。
【0087】
得られた基板の断面に表われるNiとZrの分布を、エネルギー分散形X線分析装置(日本電子社製商品名「JED−2200」)を用いて観察した。分布の解析には、日本電子社製のソフトウエア「デジタルマッピングソフトウエアEX−55020」を用いた。なお、測定条件は下記の通りとした。
【0088】
観察試料の作製:各試料基板をエポキシ樹脂に埋め込んでから断面を研磨、
試料前処理:白金蒸着、
加速電圧:20kV、倍率:1000倍、PHAモード:T2、画素数:256×256×192、
デュエルタイム:0.1ms、スイープ回数:50回
検出特性X線エネルギー Ni:Kα=7.41keV
Zr:Lα=2.04keV
上記分析の結果、試料断面内には、長径が5〜20μmの球形として18個点在し、その最大長径は27μmでそれらの平均径は13.4μmであり、該球状点在部分には、導電成分である酸化ニッケル成分のみが検出され、酸化ジルコニア成分は検出されなかった。一方、球状点在部分以外の部分には、導電成分である酸化ニッケルと骨格成分である3YSZが均一に混在していることが確認された。
【0089】
また、下記の評価法により耐レッドクス性と導電性を評価したところ、優れた耐レドックス性を有しており、初期導電率は800S/cmで、耐レドックス評価試験5回後の導電率は550S/cmであった。
【0090】
また、大気雰囲気下に1400℃で2時間焼成して得た直径34mm×厚さ0.4mmの円盤状基板を幅5mm間隔で切り出した30mm×5mmの短冊状の試験用基板を、JIS R1601に準拠して3点曲げ強度を測定したところ、240MPaであった。
【0091】
「レドックス性および導電性評価法」
直径34mm×厚さ0.4mmの円盤状の試験用基板を使用し、これを、弓形で0.4mm幅の切込みを入れたジルコニア製の保持具に差し込んで、横置きにした内径40mm×長さ600mmの円筒管の中央部にセットし、円筒管の中央部を管状電気炉内に取り付けて空気流1500ml/minの酸化性雰囲気下に3時間と、水素流750ml/minの還元性雰囲気下に3時間、交互に5回繰り返して曝す。尚、空気流と水素流のガス切換え時には窒素を流し、直接酸素と水素が混じり合わないようにした。その後室温まで冷却してから、試験用基板を目視観察することによって割れやヒビの有無を調べ、試験用基板に割れやヒビがない場合は、耐レドックス性有りと判断した。
【0092】
また、該試験用基板厚さ方向の端面に導電性ペーストを用いて白金線を接着し、還元性雰囲気下に2時間曝した後の導電率を初期導電率として求めると共に、耐レドックス性評価(5回の繰返し)後の導電率を還元性雰囲気中980℃で測定した。
【0093】
実施例2
キシダ化学社製の塩基性炭酸ニッケル粉末を、空気中において700℃で5時間熱分解することにより、比表面積が13m2/g、粒度分布が50体積%径で10μm、90体積%径が21μm、気孔率47%の酸化ニッケル粗粒子粉末を得た。
【0094】
この粗粒子粉末35質量部と、前記実施例1で用いたのと同じキシダ化学社製の酸化ニッケル微粒子粉末30質量部、4モル%スカンジア安定化ジルコニア(4ScSZ)粉末(第一稀元素社製商品名「4ScSZ」:平均粒子径0.45μm)35質量部に対し、メタクリル系共重合体からなるバインダー(分子量:30000、ガラス転移温度:−8℃)15質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2質量部、分散媒としてトルエン/イソプロパノール混合溶剤(質量比=3/2)50質量部を、直径15mmのジルニアボールが装入されたナイロンポットに入れ、約60rpmで8時間混練してスラリーを調製した。
【0095】
得られたスラリーを濃縮脱泡して粘度を50ポイズに調整し、最後に100メッシュのフィルターに通してから、ドクターブレード法によりポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗工して乾燥し、厚さ0.5mmのNiO/3YSZ(65/35)グリーンシートを得た。
【0096】
このグリーンシートを所定の寸法に切断し、大気雰囲気下に1300℃で2時間焼成することにより、直径34mm×厚さ0.4mmの円盤状試験用基板を得た。
【0097】
上記実施例1と同様にして、導電成分と骨格成分のEDX法による分布を求めると共に、耐レドックス性と導電率を評価し、結果を表1にまとめた。
【0098】
実施例3
上記実施例1で得た酸化ニッケル粗粒子粉末50質量部と、上記実施例1で使用したのと同じキシダ化学社製の酸化ニッケル微粒子粉末20質量%と、3モル%イットリア安定化ジルコニア(3YSZ)粉末(第一稀元素社製商品名「HSY−3.0」:平均粒子径0.45μm)30質量部に対し、メタクリル系共重合体からなるバインダー(分子量:30000、ガラス転移温度:−8℃)15質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2質量部、分散媒としてトルエン/イソプロパノール混合溶剤(質量比=3/2)50質量部を、直径15mmのジルコニアボールが装入されたナイロンポットに入れ、約60rpmで12時間混練してスラリーを調製した。
【0099】
該スラリーを用いて、前記実施例1と同様にしてグリーンシートを作製し、これを同様に焼成して試験用基板を得た後、実施例1と同様にして導電成分と骨格成分のEDX法による分布測定を行うと共に、耐レドックス性と導電率の評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
比較例1
前記実施例1で用いたのと同じキシダ化学社製の酸化ニッケル微粒子粉末60質量部と、3モル%イットリア安定化ジルコニア(3YSZ)粉末(第一稀元素社製商品名「HSY−3.0」:平均粒子径0.45μm)40質量部を使用した以外は前記実施例1と同様にして試験用基板を作製し、以下も実施例1と同様にして、導電成分と骨格成分のEDX法による分布測定と、耐レドックス性および導電率の評価を行った。
【0101】
EDS分析の結果、Niが球形状に局在化したものは観察されず、全体が酸化ニッケルと3YSZが均一に混在している断面構造を有していることが確認された。
【0102】
耐レドックス性試験では、2回目にクラックが観察された。また初期導電率は700S/cmであり、またレドックスサイクル2回後の導電率は180S/cmに低下していた。結果を表1に纏めて示す。
【0103】
比較例2
前記実施例1で得たのと同じ粗粒子酸化ニッケル粉末60質量部と、3モル%イットリア安定化ジルコニア(3YSZ)粉末(第一稀元素社製商品名「HSY−3.0」:平均粒子径0.45μm)40質量部を用いた以外は、前記実施例1と同様にして試験用基板を作製し、以下も実施例1と同様にして導電成分と骨格成分のEDX法による分布観察と、耐レドックス性および導電率の評価を行った。
【0104】
EDS分析の結果、Niが球形状に局在化したものとジルコニアのみの相が観察されたが、酸化ニッケルと3YSZが均一に混在している相は僅かしか観察されなかった。そのため、耐レドックス性試験では5回目でも問題なかったが、初期導電率は非常に低く、導電パスが十分に形成されていないことが確認された。また、強度も150MPa未満で弱いものであった。
【0105】
【表1】
【0106】
図1(a),(b),(c)は、上記実施例1で得たNi(導電成分)とZr(骨格成分)のマッピング写真(倍率1000倍)とSEI画像写真(倍率1000倍)であり、図2(a),(b),(c)は上記比較例1で得たNi(導電成分)とZr(骨格成分)のマッピング写真(倍率1000倍)とSEI画像写真(倍率1000倍)である。
【0107】
上記マッピング写真では、金属が存在する場合は点として表われ、存在量が多い場合は赤色点で、順次黄色点、黄緑色点、薄青色点となり、黒い点は存在していないことを表している。なお、基板断面には気孔が存在しており、この箇所も黒い点として表われる。
【0108】
図1(b)からは、円形状もしくは楕円形状のZrが存在しない箇所(写真では黒く表われている箇所)と、Zrが存在しているその他の箇所(写真では黄緑から赤い点が集まっている箇所)があり、図1(a)からは、Niが特に多く存在している箇所(写真では黄緑から赤い点が集まっている箇所)とその他の箇所(写真ではやや薄い黄緑の点の箇所)が観察される。従って、導電成分と骨格成分とが混在している箇所[AB]と、混在しておらず導電成分しか存在しない箇所[A]があることを確認できる。ただし、図1(b)では不定形状のZrが存在しない箇所があるが、その箇所は図1(c)の気孔と一致しているのでこの部分は除外した。
【0109】
一方、図2(a)からは、Niがほぼ均一に分散しており濃淡が少ない。図2(b)から気孔箇所を除くと、Zrもほぼ均一に分散しているといえる。即ちこれらの図からは、導電成分しか存在しない箇所[A]は観察されない。
【0110】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、電極印刷や固体電解質膜と複合し多数枚積層した状態で、大きな積層荷重下に高温で且つ酸化性雰囲気と還元性雰囲気に交互に曝される苛酷な条件で使用した場合でも、クラックや割れなどを生じることのない優れた耐レドックス性と強度特性を備え、初期発電性能及び発電性能の持続性に優れた固体電解質形燃料電池用のアノード支持基板を提供し得ることになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得たアノード支持基板のマッピング写真(1000倍)とSEI画像(1000倍)である。
【図2】比較例1で得たアノード支持基板のマッピング写真(1000倍)とSEI画像(1000倍)である。
Claims (4)
- Fe、NiおよびCoよりなる群から選択される1種以上の元素の酸化物を含有する導電成分粉末(a)、ジルコニア、アルミナ、チタニア、セリア、アルミニウムマグネシウムスピネルおよびアルミニウムニッケルスピネルよりなる群から選択される少なくとも一種を含有する骨格成分粉末(b)、バインダー(c)および分散媒(d)を含むスラリーをシート状に形成した後、得られるシート状物を空気雰囲気下で焼成して固体酸化物形燃料電池用アノード支持基板を製造する方法において、
前記スラリー中の前記導電成分粉末(a)と前記骨格成分粉末(b)との配合比率(合計100質量%)は、前記導電成分粉末(a)40質量%〜80質量%に対して、前記骨格成分粉末(b)60質量%〜20質量%であり、
前記導電成分粉末(a)として、平均粒子径が0.1〜3μmの微粒導電成分粉末(a1)を全導電成分粉末(a)に対して10〜50質量%と、平均粒子径が5〜50μm、比表面積が10〜100m2/g、気孔率が30〜80%である粗粒導電成分粉末(a2)を全導電成分粉末(a)に対して50〜90質量%使用すると共に、骨格成分粉末(b)として平均粒子径が0.1〜3μmの粉末を使用することを特徴とする固体酸化物形燃料電池用アノード支持基板の製法。 - 請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用アノード支持基板の製法によって得られる固体酸化物形燃料電池用アノード支持基板。
- 導電成分(A)40〜80質量%と骨格成分(B)20〜60質量%とから構成され、気孔率が20〜50%である請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池用アノード支持基板。
- 導電成分(A)がFe,Ni,Coよりなる群から選ばれる1種以上の元素の酸化物であり、骨格成分(B)が2.5〜12モル%のイットリアで安定化されたジルコニアおよび/または3〜12モル%のスカンジアで安定化されたジルコニアである請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池用アノード支持基板。
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