JP4580531B2 - 歯科充填用ガラスおよびそのガラス粒子を含む歯科用組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、歯科用分野における歯冠材料、充填材料、補綴材料および接着材料等の歯科用組成物において充填材として用いることのできる歯科充填用ガラスおよびそのガラス粒子を含む歯科用組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯科分野で近年多用されている複合修復材には以下のような特性が求められている。咀嚼時の高い咬合圧に耐え得る機械的強度、過酷な条件下での耐久性、歯質と同程度の熱膨張率、重合硬化時に歯質からの剥離を防ぐための低重合収縮率等の機械的特性、天然歯に適合する色調および透明性、研磨時に認められる表面滑沢性および光沢性等の光学的特性、さらには非毒性、非溶解性および低吸水性等の生体親和性などが挙げられる。また、特に最近では、歯質を強化しう蝕を予防するフッ素徐放性や治療後のう蝕の再発状況を確認し歯質のエナメル質と識別できるエックス線造影性等も要求されてきている。
【0003】
従来から歯牙欠損部の修復や補綴、人工歯根、その他の用途に重合可能な重合性単量体、重合開始剤および無機物、有機物または有機-無機複合物等の充填材等により構成される複合修復材が使用されている。これら構成成分の中でも充填材に関しては、これまで多くのが報告ある。これは複合修復材中に占める充填材の割合が多いことから充填材の特性が複合修復材の特性に影響を与えるものと考えられているからである。
【0004】
歯科診療において、治療直後の修復物の充填状態や二次う蝕の発生等を確認する手段として、一般にレントゲン撮影が行われている。この時、治療直後の修復物の充填状態や二次う蝕の発生状況等を的確に判断するためには、充填された複合修復材とその周囲の歯質がレントゲン写真上で明確に区別できることが必要である。そのためには、複合修復材がX線造影性を有していることが不可欠であり、また、その程度も高いレベルが必要とされる。歯質を構成しているエナメル質および象牙質よりも高いX線造影性を有していることが最低限の条件であり、より好ましくは窩洞の深さにも影響されない十分なX線造影性を複合修復材が有していることである。X線造影性を複合修復材に付与するためには、複合修復材を構成している重合性単量体等の有機成分または充填材のいずれかがX線造影性を有していなければならない。
有機成分へのX線造影性付与を目的として、特開平8−208417号公報および特許公報第2807641号には複合修復材の構成成分である重合性単量体をヨウ素化または臭素化することによりX線造影性を付与することが記載されている。しかし、複合修復材に必要な他の諸特性、例えば少ない重合収縮や高い機械的強度を維持するためには、複合修復材中に占める有機成分の割合が少なくなることから、高いレベルのX線造影性が期待できない。
【0005】
このため複合修復材にX線造影性を付与するためには、一般にX線造影性を有する充填材を用いることにより容易にX線造影性付与を達成することができる。
しかし、X線造影性充填材を用いることにより複合修復材へのX線造影性付与は可能になるものの、それに反して複合修復材の透明性が低下する傾向にある。これは、充填材にX線造影性を付与することにより、屈折率が高くなり、複合修復材に用いる有機成分との屈折率の差が大きくなるためである。複合修復材は半透明な天然歯の外観を模倣して設計されており、色調はもちろんのこと透明性も適合していなければならない。歯質に適合した透明性を得るためには、充填材および有機成分の両者の屈折率が近似していなければならない。
特公平3−17803号公報には希土類金属のフッ化物、欧州特許第0011735A2号公報には固体で溶解性の低い重金属化合物をそれぞれ含有する歯科用材料を開示している。これらの化合物を複合修復材中に多量配合することにより、高いX線造影性付与は可能であるが、複合修復材に必要な透明性を維持することは困難であり、不透明な材料になる等審美性において問題が生じる。そのためX線造影性を付与しつつ、ある程度の透明性を確保できるガラス系充填材が一般的に多種多様の歯科用材料において用いられている。
【0006】
歯科分野において、グラスアイオノマーセメントあるいはグラスポリアルケノートセメントと呼ばれるセメント材料がフッ素を徐放することにより、う蝕の予防または抑制および歯質強化等の効果があることが知られている。これらのセメント材料は酸反応性フッ素含有ガラスとポリカルボン酸水溶液を混和することにより硬化し、セメントとして要求される材料特性を発現する。この材料に用いる酸反応性フッ素含有ガラスに関しては多くの報告があり、例えば特公昭50−24328号公報にはシリカ、アルミナおよびフッ素を主成分としリンおよびナトリウム等の元素を含むフッ化アルミノケイ酸塩ガラスが、また、特開昭62−113749号公報にはカルシウム、アルミナ、シリカ、フッ素、リンおよびナトリウムからなるフルオロアルミノシリケートガラスがそれぞれ開示されている。
しかし、このガラスは複合修復材に含まれる充填用ガラスと比較して、フッ素が徐放するもののX線造影性、機械的強度および耐水性等においては大きな問題点を有している。これらの問題はガラスを構成する元素の種類およびその量に基因するものである。そのため、この材料においてもセメント材料に必要な要求特性を満たすことを目的として、酸反応性フッ素含有ガラスに種々の特徴を付与する試みがなされてきた。
X線造影性付与を目的とした歯科用グラスアイオノマーセメント用ガラスが報告されており、例えば特開昭63−201038号公報にはアルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちBe,MgおよびBaを含まないフルオロアルミノシリケートガラス、特開昭63−182238号公報にはストロンチウムを含むアルミノフルオロケイ酸塩アルカリ土類金属塩ガラスがそれぞれ開示されている。また、特開昭61−215234号公報には従来のグラスアイオノマーセメントの性能を凌ぎ、且つX線造影性を有するグラスアイオノマーセメント用ガラス組成物が開示されている。これらのガラスはガラス組成中にストロンチウムや他の重金属を含有させることによりX線造影性を付与している。グラスアイオノマーセメント用のこれらのガラスはポリカルボン酸水溶液と反応させるセメント組成物への使用が主用途である。これらのガラスにおける高いレベルのX線造影性付与はガラスの屈折率が高くなり、ポリカルボン酸水溶液との大きな屈折率差を生じるため、硬化したセメント組成物が不透明になる等、審美性に問題が生じる。そのためガラスへのX線造影性付与の程度は低くなり、臨床的に満足いくものではなかった。また、グラスアイオノマーセメント用のガラスは元来、耐水性に劣ることから、耐水性を低下させる元素、例えばホウ素やアルカリ金属元素等をガラス組成として少量しかまたは全く含んでいないものの、未だ耐水性は不充分である。
【0007】
一方、グラスアイオノマーセメントとは使用方法が異なるが、複合修復材中に含まれる歯科充填用ガラスにおいても、諸特性を付与する試みが多数報告されている。例えば
特開平8−225423号公報には
SiO2:50〜75重量% ZrO2:5〜30重量%
Li2O:0〜5重量% Na2O:0〜25重量%
K2O:0〜25重量%
アルカリ酸化物の合計:0〜25重量%
からなるバリウムを含まず良好なX線吸収を示す歯科用ガラス、
ドイツ特許第4443173C2号公報には
SiO2:50〜75重量% ZrO2:>12〜30重量%
Li2O:0〜5重量% Na2O:0〜25重量%
K2O:0〜25重量%
アルカリ酸化物の合計:0〜25重量%
からなる歯科用ガラス、
特開平7−33476号公報には
SiO2:45〜60重量% B2O3:5〜20重量%
Al2O3:5〜20重量% CaO:0〜10重量%
SrO:15〜35重量% F2:0〜2重量%
からなるバリウムを含まず、良好なX線吸収を示す歯科用ガラスを
それぞれ開示している。
これらのガラスはSiO2含有量が45重量%以上と高いために、ガラス製造時の溶融温度が高くなり、特殊な設備を必要とするなど作業性に問題がある。また、SiO2含有量の増加に伴いガラス硬度も高くなり、対合歯を摩耗させやすい特性を有する。これらのガラス組成において高いX線造影性付与のためにZrO2またはSrO含有量を増加させると、屈折率が高くなり、対応する屈折率を有する有機成分がなく、審美性に優れた複合修復材を得ることができない。
さらには、フッ素を含有しないかまたは少量しか含有しないため、フッ素徐放によるフッ素の効果が期待できない。
また特開2000−143430号公報には
SiO2:20〜45重量% Al2O3:5〜35重量%
B2O3:0〜10重量% Na2O:1〜10重量%
K2O:0〜8重量% Cs2O:0〜8重量%
Na2O+K2O+Cs2O:1〜15重量%
CaO:0〜8重量% SrO:0〜27重量%
ZnO:2〜20重量% ZrO2:2〜10重量%
P2O5:0〜10重量% La2O3:0〜10重量%
F:2〜20重量% B2O3+ZnO+ZrO2+La2O3>20重量%
からなるバリウムフリ−のX線不透過性歯科用ガラスを開示している。亜鉛は抗菌性があることが古くから知られており、ガラス組成への亜鉛の含有は溶出して、人体に悪影響を及ぼす危険性があるため、その使用は好ましくない。特に歯科用組成物への使用は避けるべきである。このガラスへのX線造影性付与は単一の元素成分ではなく複数の元素成分により可能にしているが、このガラス組成への複数元素成分の添加はガラス屈折率を上昇させるため、複合修復材に適度な半透明性を与えることができず、審美性に悪影響を与える。また、このガラス組成においてはX線造影性付与の必須成分であるZrO2およびZnO等を含有させてもその効果は未だ不充分である。
【0008】
米国特許第4215033号公報には、SiO2、Al2O3、B2O3を主成分とし、SrO、CaO、ZnO、ZrO2の中から少なくとも一つを含む二相からなるボロアルミノシリケートガラスが開示されている。このガラスはフッ素を含有していないためにフッ素徐放性を有していない。また、このガラス組成においては高いレベルのX線造影性を付与した場合、フッ素が存在しないことから低い屈折率を維持できず、その結果複合修復材が不透明になる等の問題が生じる。
米国特許第5304586号公報
SiO2:40〜56重量% Al2O3:4〜12重量%
B2O3:5〜12重量% BaO:15〜35重量%
F:2〜20重量% ZrO2:0〜7重量%
SrO:0〜18重量%
および米国特許第4920082号公報には
SiO2:41.1〜55.9重量% Al2O3:5.6〜11重量%
B2O3:6.5〜10.3重量% BaO:24.7〜33.6重量%
F:3〜6重量%
からなり、X線造影性を付与する必須元素としてBaOを含むフッ素含有ボロアルミノシリケートガラスが開示されている。BaOは毒性があることが一般的に知られており、生体に対する安全性が確立されていないことから、その使用は人体に悪影響を及ぼす危険性があるため避けるべきである。また、SiO2含有量が40重量%以上と多く含まれている反面、Al2O3およびB2O3含有量が12重量%以下と非常に少ない。その結果、ガラス骨格構造が脆性を有し、このガラスを複合修復材に充填材として用いた場合、咬合圧等の種々の応力に耐えきれず、辺縁破折や体部破折が起る等の問題がある。
【0009】
特公昭58−21887号公報にはポリエステル樹脂とガラス充填剤からなる歯科用充填組成物が開示されており、該ガラス充填剤がその融成時点でランタン、ハフニウム、ストロンチウム、タンタルの酸化物および炭酸塩またはフラックス剤としてNa3AlF6、CaF2、SrF2およびTaF3を用いることが記載されている。ガラス製造またはフッ素徐放性付与におけるフラックス剤の使用およびX線造影性付与を目的とした上記化合物の使用は確かに効果的である。しかし、高いフッ素徐放性、破折しない柔軟なガラス骨格構造、水や酸等に溶解しない耐久性および歯質に適合した透明性等のガラス特性を付与するためには上記化合物の使用だけでは全く不十分であり、単なるガラス特性の一部の特性付与にしか過ぎない。
歯科臨床で求められている種々の特性をガラスに付与するためにはガラスを形成する元素およびその量からなるガラス組成が重要であるが、このガラス組成だけでは高いフッ素徐放性、破折しない柔軟なガラス骨格構造、水や酸等に溶解しない耐久性および歯質に適合した透明性等のガラス特性を付与することはできない。これらの特性を有するためにはガラス骨格を形成する元素およびその量を制御することにより可能であるものの、未だそれを達成したガラスおよびそのガラス粒子を含む複合修復材はなかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、歯冠材料、充填材料、補綴材料、接着材料等の歯科用分野で用いられる歯科用組成物において充填材として使用することのできる歯科充填用ガラスであって、特に充填材料として要求されるX線造影性、透明性、フッ素徐放性、耐久性、研磨性および耐摩耗性を付与することのできる歯科充填用ガラスを提供することにある。さらには該歯科充填用ガラス粒子を含む歯科用組成物を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究の結果、特定のガラス組成を有するガラス粒子およびそのガラス粒子を含む歯科用組成物を提供することにより、この課題を解決するに至った。すなわち、本発明者らは本願において以下の発明を提供する。
ガラス骨格を形成する元素としてSi、BおよびAlを含むフッ素含有ボロアルミノシリケートガラスで
SiO2:15.0〜35.0重量%
B2O3:5.0〜20.0重量%
Al2O3:15.0〜30.0重量%
P2O5 :0〜10.0重量%
BeO :0〜10.0重量%
MgO :0〜10.0重量%
CaO :0〜10.0重量%
X線造影性元素酸化物:25.0〜50.0重量%
アルカリ金属酸化物:1.0〜10.0重量%
F:5.0〜15.0重量%
を含むガラス組成(酸化物基準)からなり、かつガラス骨格を形成するSi、BおよびAl元素のモル比(酸化物基準)が
Al2O3:SiO2:B2O3=
1.00:1.50〜2.50:0.50〜1.50
の範囲であることを特徴とする歯科充填用ガラスを提供する。
さらに好ましくは、X線造影性元素酸化物がSrOであり、アルカリ金属酸化物がNa2Oであり、かつガラス骨格を形成するSi、BおよびAl元素のモル比(酸化物基準)が
Al2O3:SiO2:B2O3=
1.00:1.60〜2.10:0.75〜1.25
の範囲であることを特徴とする歯科充填用ガラスを提供する。
該ガラスの屈折率が1.45〜1.70の範囲であることを特徴とする歯科充填用ガラスを提供する。
また、該ガラスの平均粒子径が0.01〜30μmの範囲であることを特徴とする歯科充填用ガラス粒子を提供する。
さらには、(a)上記の歯科充填用ガラス粒子、(b)重合性単量体および(c)重合触媒を含む歯科用組成物を提供する。
【0012】
上記の本発明により以下の諸効果がもたらされる
▲1▼本発明の歯科充填用ガラスは特定のガラス組成を有することで、高いフッ素徐放性能を有している。
▲2▼また、一般にバリウムは毒性あること、また亜鉛は抗菌性があること等が知られているが、本発明の歯科充填用ガラス組成中にはそのような毒性のあるまたは人体に悪影響を及ぼすと疑惑が持たれている元素を含まず、人体に対し非常に安全なガラスである。
▲3▼ガラスにX線造影性付与を目的として高濃度のX線造影性元素を含ませると屈折率が高くなり歯科用組成物への使用が困難になる。しかし、本発明の歯科充填用ガラスは特定のガラス組成の効果により、高濃度のX線造影性元素を含有させた場合においても、低い屈折率を維持した上で高いX線造影性を付与できる。特に高濃度に且つ単一成分のX線造影性元素を含有させた場合に優れた特徴が認められた。
▲4▼本発明の歯科充填用ガラスはガラス骨格構造中にSi、AlおよびBの3元素を含み、且つそれら3元素を特定モル比(酸化物基準)範囲内で設定することにより、エナメル質に近似した硬度が得ることができる。また、このガラス粒子を歯科用組成物中に含むことにより優れた耐摩耗性を付与できる。また、さらには透明性や光透過性等の優れた光学的特性も付与することができる。
▲5▼本発明のガラス組成から判断すると、一般にはガラスの耐久性は劣ったものになるのではあるが、予想に反し本発明のガラスは耐久性においても優れていることが判明した。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の歯科充填用ガラス(以下、ガラスと称す)はガラス骨格を形成する元素としてSi、BおよびAlを含むフッ素含有ボロアルミノシリケートガラスであり、酸化物基準で
SiO2:15.0〜35.0重量%
B2O3 :5.0〜20.0重量%
Al2O3:15.0〜30.0重量%
P2O5 :0〜10.0重量%
BeO :0〜10.0重量%
MgO :0〜10.0重量%
CaO :0〜10.0重量%
X線造影性元素酸化物:25.0〜50.0重量%
アルカリ金属酸化物:1.0〜10.0重量%
F:5.0〜15.0重量%
を含むガラス組成を有することが特徴である。
【0014】
本発明のガラスはガラス形成酸化物としてSiO2を15.0〜35.0重量%の範囲で含有する。ガラス中でのSiO2の存在はガラス骨格の形成に寄与し、ガラス溶融温度およびガラス強度に影響を与える。SiO2含有量が少ない場合は結晶化が起こりやすく、透明なガラスを生成することが困難である。またSiO2含有量が多い場合は、不都合にもガラスの融点が高くなると共に、他の元素の含有量を調整しなければならず、本発明のガラス特性に影響を及ぼす。また、SiO2含有量が増加すると、ガラス骨格構造が強固になり、ガラス硬度が高くなることから本発明のガラス特性とは異なったものになる。
【0015】
本発明のガラスはAl2O3を15.0〜30.0重量%の範囲で含有し、ガラス骨格の形成およびガラス骨格の修飾の両方に寄与する。
Al2O3はガラスの耐久性および硬度を向上させると共に、ガラスへのフッ素の取込みにも寄与する。
Al2O3含有量が少なくなるとガラスの耐久性が低下すると共に必要量のフッ素をガラス中に取り込むことができない。また、Al2O3含有量が多くなると溶融温度が高くなり、作業性等に問題が生じる。また、ガラスの失透傾向も増大させる。
【0016】
B2O3は一般に溶融温度を低下させるために融剤として用いられる。しかしB2O3は耐熱性、耐水性および耐薬品性等の耐久性を悪くする傾向があるため、融剤としての使用は少量に限られている。本発明のガラスはB2O3を5.0〜20.0重量%の範囲で含有し、ガラス骨格の形成およびガラス骨格の修飾の両方に寄与する。B2O3含有量が少なくなるとガラス骨格の骨格構造が強固になり、ガラスの機械的強度は強くなるものの、本発明の目的である対合歯を磨耗させない柔らかさを維持することが困難である。また、B2O3含有量が多くなると耐熱性、耐水性および耐薬品性等の耐久性を悪くする傾向がある。
【0017】
Al2O3およびB2O3はSiO2と比較すると、ガラス両性酸化物として作用し、ガラス骨格の形成およびガラス骨格の修飾の両方に寄与する。これらは全体的なガラス組成により寄与する割合が異なるため、その結果当然のことながらガラスの特性にも大きな影響を及ぼす。
本発明のガラスは、ガラス骨格を形成する元素としてAl、SiおよびBを含み、これら3元素のモル比(酸化物基準)が
Al2O3:SiO2:B2O3=
1.00:1.50〜2.50:0.50〜1.50
の範囲でなければならない。より好ましくは
Al2O3:SiO2:B2O3=
1.00:1.60〜2.10:0.75〜1.25
の範囲である。
Al2O3に対するSiO2およびB2O3のモル比がこの範囲未満または超えると、本発明の目的とする種々の特性をガラスに付与することができない。特にガラスの硬度に影響を及ぼし、本発明の目的である対合歯を磨耗させない柔らかさをガラスに付与することが困難である。本発明のガラスは従来から用いられているシリカ系充填材に比べ、歯質におけるエナメル質の硬度に近似した硬度を有することが特徴の一つである。
【0018】
X線造影性元素酸化物は本発明のガラス中に25.0〜50.0重量%の範囲で含有される。X線造影性元素酸化物の含有量が少ない場合は十分なX線造影性をガラスに付与することができない。また、X線造影性元素酸化物の含有量が多い場合は、結晶化する傾向が現れたり、屈折率が高くなったりまたは耐久性に問題が生じたりする。
本発明のガラスへのX線造影性付与はSrO、BaO、ZnO、ZrO2、La2O3および他の重金属元素酸化物を含有させることにより達成することができる。La2O3は他のX線造影性元素酸化物に比較してX線吸収能が顕著に劣るため、その効果があまり認められず好ましくない。また、BaOは溶出した場合に生体に対し毒性があることが一般に知られていること、またZnOは抗菌作用があるため、人体に対し悪影響を及ぼす疑惑が持たれているいること等から、それらの使用もまた好ましくない。より好ましくは高いレベルのX線造影性を有するSrOを単一成分として使用する。
【0019】
本発明のガラスはFを5.0〜15.0重量%の範囲で含有する。Fはガラスの溶融時における強力な融剤として働くことが一般に知られている。しかし、本発明においては、フッ素の存在はガラスの屈折率を低下させるのに効果的である。また、さらには本発明のガラスを歯科用組成物の充填材として用い、その組成物を歯質の窩洞に充填した場合、充填物の周囲の歯質に対し長期間持続的にフッ素を放出し、歯質を強化または二次う蝕を抑制する効果がある。
これらの効果をもたらすためには、最低でも5.0重量%以上のフッ素含有量が必要である。また、フッ素含有量が多くなると、溶融時に融液からフッ素が蒸発して外部に飛散する割合が大きくなりガラス中に取り込まれず効果的でない上に、耐久性が劣ったものになる。また、溶融時にガラスの分離および結晶化の傾向が顕著に現れるため避けるべきである。
【0020】
また、アルカリ金属酸化物は本発明のガラス中に1.0〜10.0重量%の範囲で含有される。アルカリ金属酸化物は溶融温度を下げる効果以外に、屈折率を低下させたり、透明性を向上させたりする効果がある。本発明においてはアルカリ金属酸化物の存在により、ガラスからのフッ素徐放を促進させる新しい効果が認められた。アルカリ金属酸化物としてはK2O、Na2O、Cs2OおよびLi2O等が挙げられるが、より好ましくはNa2Oである。
アルカリ金属酸化物の含有量が1.0重量%未満の場合は上述したアルカリ金属酸化物本来の効果が認められない。また、アルカリ金属酸化物の含有量が多い場合にはガラスの耐久性が減少する。
【0021】
任意成分として本発明のガラス中にBeO 、MgO、CaOおよびP2O5を含有させることができる。その含有量はそれぞれ0〜10重量%の範囲である。
それらの含有量が多いと、ガラスの分離傾向が強くなり、耐久性が悪くなることからその含有量は極力抑えるべきである。
また、本発明では上述した各元素酸化物を各々の含有量にて含むものであるが、本発明のガラス作用または効果を損なわない範囲で上述した以外の元素酸化物を含むことができる。例えば、着色性を有する元素酸化物等が挙げられる。
【0022】
本発明のガラスの屈折率は1.45〜1.70の範囲であり、より好ましくは1.50〜1.60の範囲である。歯質に形成したう蝕処置後の窩洞内に複合修復材を充填した時、複合修復材と充填した複合修復材の周囲にある歯質との透明性がお互い近似していなければならない。両者の透明性が異なっていると美的要求が満たされず、修復した部分が異物のように見え、審美性という観点において問題が生じる。複合修復材が歯質に近似した透明性を有するためには、複合修復材を構成する充填材と重合性単量体等の有機成分の屈折率を調整する必要がある。しかし、高いX線造影性を有する充填材を用いた場合、その充填材の屈折率が高いことから、歯科分野で一般に用いられている後述する重合性単量体等の有機成分との屈折率の差が大きくなり、適度な透明性を維持することが困難である。
そのため、適度な透明性を確保するためにX線造影性の程度を抑えなければならなかった。本発明のガラスは高いX線造影性を有しながらも、比較的低い屈折率を有しており、かつ公知である重合性単量体等の有機成分の屈折率と近似していることから、本発明のガラスを充填材に用いた場合、歯質に適合した適度な透明性を複合材料に付与することができる。
また、本発明のガラスは原則的には非晶質である。ガラス中に結晶構造が存在すると、光の透過性が悪くなり、複合修復材が不透明になる傾向がある。しかし、本発明のガラス作用または効果を損なわない範囲であれば、結晶構造を有していても何等問題はない。
【0023】
以上説明したガラス組成のガラス製造においては特に制限はなく、溶融法またはゾルーゲル法等のいずれの製造法でも行うことができる。また、ガラスを製造する際に用いる混合原料の種類においても特に制限はなく、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、フッ化物、有機金属化合物等のいずれの原料も用いることができる。一般には溶融炉を用いた溶融法で製造する方法がガラス設計のし易さおよび作業性等から好ましい。
溶融炉で製造するに際しては、混合した原料を高温度で溶融し、ガラス融液を形成した段階で、溶融炉外に流出させる必要があることから、溶融温度は低く、ガラス融液の粘度も低い方が好ましい。このようの状況を得るために、適宜原料を選択することができる。
本発明のガラス組成は元素分析、ラマンスペクトルおよび蛍光X線分析等の機器分析の使用により確認することができる。また、原料混合時の原料混合量からも計算により容易に理論値を算出することができる。本発明のガラス組成は理論値または実測値のいずれかが合致していればよい。
【0024】
本発明のガラスは製造後、公知の方法を用いて粒子化することができる。粒子化する方法としては、湿式および乾式等の粉砕法、分級および篩い分け等のいずれの方法においても何ら制限なく行うことができ、求める粒子の平均粒子径に応じて適宜選択することができる。例えば、ボールミルや振動ミル等の容器駆動媒体ミル、アトライター、サンドグラインダー、アニラーミル、タワーミル等の粉砕媒体撹拌ミル、ジェットミル等を用いて粒子化すればよい。また、真空、加熱および凍結等の乾燥工程を併用しても何等制限はない。
本発明のガラス粒子の平均粒子径は0.01〜30μmの範囲であり、好ましくは0.01〜10.0μmの範囲である。より好ましくは0.01〜5.0μmの範囲である。ガラス粒子の平均粒子径は歯科用組成物に必要な特性、例えば研磨性、研磨後の表面滑択性および光沢性を付与することができる。これらの特性は一般に平均粒子径が小さくなると、上記の特性が優れることが知られている。しかし、本発明のガラスは特定のガラス組成の影響により、ガラスの平均粒子径が大きくとも、優れた研磨性、研磨後の表面滑択性および光沢性を付与することも本発明の特徴である。また、ガラス粒子の形状は球状、板状、破砕状、鱗片状等の任意の形状でよく、特に何等制限はないが、より好ましくは球状である。
【0025】
また、最近では硬い無機粒子、例えばシリカ系粒子を含む歯科用組成物をう蝕処置後の歯質に形成した窩洞に充填した場合、対合歯を磨耗させることが知られる。しかし、本発明のガラス粒子を含む歯科用組成物を充填した場合は、本発明のガラス特性により対合歯を磨耗させないこともまた優れた特徴である。
本発明のガラス粒子は公知の方法により、その粒子表面を処理し、歯科用組成物に用いることができる。例えば界面活性剤、脂肪酸、有機酸、無機酸、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ポリシロキサン等が挙げられる。
これらの表面処理法は有機成分とガラス粒子表面の濡れ性を向上させ、歯科用組成物に優れた諸特性を付与する点で好ましく、その要求特性に応じて適宜表面処理を選択することができる。また、ガラス粒子を多機能化する目的でガラス粒子表面を特殊な表面処理剤および/または特殊な表面処理法を用いても何等制限はない。
また、本発明のガラス粒子を用いて公知の方法により有機−無機複合粒子を調製し、歯科用組成物に用いることもできる。例えばガラス粒子の表面を有機物でマイクロカプセル化やグラフト化する方法、ガラス粒子の表面に重合性官能基や重合性開始基を導入後ラジカル重合させる方法、予め生成したガラス粒子を含む重合体バルクを粉砕する方法および重合性単量体とガラス粒子を共存させた状態で乳化重合、懸濁重合および分散重合させ,粒子を生成させる方法等がある。これらの方法は必要に応じて適宜選択することができる。
【0026】
本発明のもう1つの態様は上記本発明のガラス粒子を含む歯科用組成物である。特に、(a)本発明のガラス粒子、(b)重合性単量体、および(c)重合開始剤を含有する歯科用組成物である。
本発明のガラス粒子を含むことにより歯科用組成物にガラスの優れた特性、例えばX線造影性、透明性、フッ素徐放性、耐久性、研磨性、耐摩耗性等を付与することができる。
【0027】
本発明のガラス粒子と共に、歯科用組成物中に使用することのできる重合性単量体は、一般に歯科用組成物として用いられている公知の単官能性および多官能性の重合性単量体のうちから使用することができる。
一般に好適に使用される代表的なものを例示すれば、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基を有する重合性単量体である。なお、本発明においては(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリロイルをもってアクリロイル基含有重合性単量体とメタクリロイル基含有重合性単量体の両者を包括的に表記する。
具体的に例示すれば次の通りである。
酸性基を有しない重合性単量体類として、
単官能性単量体:メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等のシラン化合物類、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等の窒素含有化合物、
芳香族系二官能性単量体:2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン等、
【0028】
脂肪族系二官能性単量体:2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等、
三官能性単量体:トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等、
四官能性単量体:ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等、
また、ウレタン系重合性単量体として具体的に例示すると;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;3−クロロー2−ハイドロキシプロピル(メタ)アクリレートのような水酸基を有する重合性単量体とメチルシクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルメチルベンゼン、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物との付加物から誘導される二官能性または三官能性以上のウレタン結合を有するジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記(メタ)アクリレート系重合性単量体以外に歯科用組成物の目的に応じて他の重合性単量体、例えば分子内に少なくとも1個以上の重合性基を有する単量体、オリゴマーまたはポリマーを用いても何等制限はない。また、酸性基やフルオロ基等の置換基を同一分子内に有していても何等問題はない。
【0029】
本発明において、重合性単量体とは単一成分の場合のみならず、複数の重合性単量体からなる重合性単量体の混合物も含む。また、重合性単量体の粘性が室温で極めて高い場合、または固体である場合は、低粘度の重合性単量体と組み合わせて重合性単量体の混合物として使用するのが好ましい。この組合せは2種類に限らず、3種類以上であってもよい。また、単官能性重合性単量体だけの重合体は架橋構造を有しないので、一般に重合体の機械的強度が劣る傾向にある。そのために、重合性単量体を使用する場合は、多官能性重合性単量体と共に使用するのが好ましい。重合性単量体の最も好ましい組合せは、二官能性重合性単量体の芳香族化合物を主成分として二官能性重合性単量体の脂肪族化合物と組み合わせる方法である。具体的に示すと、2,2−ビス(4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン(Bis−GMA)および/またはジメタクリロイルオキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレン−1,6−ジカーバメート(UDMA)とトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)の組合せである。
【0030】
本発明のガラス粒子を含んだ歯科組成物に歯質または卑金属接着性を付与する場合は、重合性単量体の一部または全部としてリン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸基を分子内に含有した重合性単量体を用いることが効果的である。
また、貴金属接着を向上させるには、硫黄原子を分子内に含有した重合性単量体を使用することも本発明にとって有効である。これら接着能を有する重合性単量体として、具体的に例示すれば次の通りである。
カルボン酸基含有重合性単量体:(メタ)アクリル酸、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、6−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸およびその無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸およびその無水物、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレエート、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、p−ビニル安息香酸等が挙げられる。
【0031】
リン酸基含有単量体:2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンフォスフェート等が挙げられる。
スルホン酸基含有単量体:2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシベンゼンスルホン酸、3−(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸等が挙げられる。
硫黄原子を含有する重合性単量体:トリアジンチオール基を有する(メタ)アクリレート、メルカプト基を有する(メタ)アクリレート、ポリスルフィド基を有する(メタ)アクリレート、チオリン酸基を有する(メタ)アクリレート、ジスルフィド環式基を有する(メタ)アクリレート、メルカプトジアチアゾール基を(メタ)アクリレート、チオウラシル基を有する(メタ)アクリレート、チイラン基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。これら重合性単量体は単独でまたは2種以上を混合して使用しても何等問題はない。
【0032】
本発明のガラス粒子と共に、歯科用組成物中に使用することのできる重合開始剤は特に限定されず、公知のラジカル発生剤が何等制限なく用いられる。
重合開始剤は、一般に、使用直前に混合することにより重合を開始させるもの(化学重合開始剤)、加熱や加温により重合を開始させるもの(熱重合開始剤)、光照射により重合を開始させるもの(光重合開始剤)に大別される。
化学重合開始剤としては、有機過酸化物/アミン化合物または有機過酸化物/アミン化合物/スルフィン酸塩、有機過酸化物/アミン化合物/ボレート化合物からなるレドックス型の重合開始系、酸素や水と反応して重合を開始する有機金属型の重合開始剤系が挙げられ、さらにはスルフィン酸塩類やボレート化合物類は酸性基を有する重合性単量体との反応により重合を開始させることもできる。
上記有機過酸化物として具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン、2,5−ジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエード等が挙げられる。
上記アミン化合物としては、アミン基がアリール基に結合した第二級または第三級アミンが好ましく、具体的に例示するとp−N,N’−ジメチル−トルイジン、N,N’−ジメチルアニリン、N’−β−ヒドロキシエチル−アニリン、N,N’−ジ(β−ヒドロキシエチル)−アニリン、p−N,N’−ジ(β−ヒドロキシエチル)−トルイジン、N−メチル−アニリン、p−N−メチル−トルイジン等が挙げられる。
【0033】
上記スルフィン酸塩類としては具体的に例示すると、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等が挙げられる。
上記ボレート化合物としては、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p−フロロフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩などが挙げられる。
また、上記有機金属型の重合開始剤としては、トリフェニルボラン、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物等の有機ホウ素化合物類等が挙げられる。
また加熱や加温による熱重合開始剤としては、上記有機過酸化物の他にアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物類が好適に使用される。
一方、光重合開始剤としては、光増感剤からなるもの、光増感剤/光重合促進剤等が挙げられる。
【0034】
上記光増感剤として具体的に例示すると、 ベンジル、カンファーキノン、α−ナフチル、アセトナフセン、p,p’−ジメトキシベンジル、p,p’−ジクロロベンジルアセチル、ペンタンジオン、1,2−フェナントレンキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン、ナフトキノン等のα−ジケトン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−メトキシチオキサントン、2−ヒドロキシチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、ベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド類、2−ベンジル―ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル―ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1等のα-アミノアセトフェノン類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジル(2−メトキシエチルケタール)等のケタール類、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス[2,6−ジフルオロ−3−(1−ピロリル)フェニル]−チタン、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(ペンタンフルオロフェニル)−チタン、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ジシロキシフェニル)−チタン等のチタノセン類等が挙げられる。
【0035】
上記光重合促進剤として具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、p−N,N−ジメチル−トルイジン、m−N,N−ジメチル−トルイジン、p−N,N−ジエチル−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッド、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドエチルエステル、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドアミノエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、p−N,N−ジヒドロキシエチル−トルイジン、p−ジメチルアミノフェニルアルコール、p−ジメチルアミノスチレン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2’−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等の第三級アミン類、N−フェニルグリシン等の第二級アミン類、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジバーサテート、ジオクチルスズビス(メルカプト酢酸イソオクチルエステル)塩、テトラメチル−1,3−ジアセトキシジスタノキサン等のスズ化合物類、ラウリルアルデヒド、テレフタルアルデヒド等のアルデヒド化合物類、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトベンゾオキサゾール、1−デカンチオール、チオサルチル酸等の含イオウ化合物等が挙げられる。さらに、光重合促進能の向上のために、上記光重合促進剤に加えて、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸、グルコン酸、α−オキシイソ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、ジメチロールプロピオン酸等のオキシカルボン酸類の添加が効果的である。
【0036】
これらの重合開始剤は単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
また、重合形態や重合開始剤の種類に関係なく、組み合わせて用いることもできる。
重合開始剤の添加量は、使用用途に応じて適宜選択すればよい。一般には、重合性単量体に対して0.1〜10重量部の範囲から選べば良い。
上記に述べた重合開始剤の中でも、光照射によりラジカルを発生する光重合開始剤を用いることが好ましい態様であり、空気の混入が少ない状態で歯科用組成物を重合させることができる点で最も好適に使用される。また、光重合開始剤の中でも、α−ジケトンと第三級アミンの組み合わせがより好ましく、カンファーキノンとp−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル等のアミノ基がベンゼン環に直結した芳香族アミンまたはN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート等の分子内に二重結合を有した脂肪族アミン等の組み合わせが最も好ましい。
また、使用用途に応じて他に、クマリン系、シアニン系、チアジン系等の増感色素類、ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、ジフェニルヨードニウム塩化合物等の光照射によりブレンステッド酸またはルイス酸を生成する光酸発生剤、第四級アンモニウムハライド類、遷移金属化合物類等も適宜使用することができる。
歯科用組成物として本発明のガラス粒子以外に第2のフィラーを配合することができる。第2のフィラーとしては、歯科用フィラーとして公知なもの、例えば、石英、無定形シリカ、クレー、酸化アルミニウム、タルク、雲母、カオリン、ガラス、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化カルシウム、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム等の無機物;ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステル、ナイロン等の高分子またはオリゴマー等の有機物;および有機−無機の複合物等が好適に使用できる。第2のフィラーは単独または2種以上を使用しても何等問題はない。またこの第2のフィラーは通常、公知として用いられているチタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤やシランカップリング剤で表面処理したものを使用するのがより好ましい。第2のフィラーの混合割合は、必要に応じて適宜選択でき、例えば1〜90重量部の割合となる範囲から選べばよい。
【0037】
また、歯科用組成物の中には、2−ヒドロキシ−4−メチルベンゾフェノンのような紫外線吸収剤、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,5−ジターシャリーブチル−4−メチルフェノール等の重合禁止剤、変色防止剤、抗菌剤、着色顔料、その他の従来公知の添加剤等の成分を、必要に応じて任意に添加できる。
本発明の歯科用組成物の包装形態は、特に限定されず、重合開始剤の種類、または使用目的により、1パック包装形態および2パック包装形態、またはそれ以外の形態のいずれも可能であり、用途に応じて適宜選択することができる。
【0038】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより詳細に、且つ具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
以下の実施例において採用したガラス粒子および歯科用組成物の性能評価法は次の通りである。
屈折率測定
評価目的:
ガラス粒子の屈折率を評価する。
評価方法:
トリクレジルホスフェートおよびジオクチルアジペート(いずれも大八化学工業製)を用いて任意の屈折率を有する屈折率測定用の浸液を数種類調製した。スライドガラス上に実施例1〜8および比較例2、4、7〜10で生成したガラス粒子を少量採取した後、調製した浸液を数滴滴下して均一に混合後、カバーガラスを被せて測定用試験体とした。その測定用試験体を偏光顕微鏡(ニコン社製:400倍)のステージに乗せ、ベッケ線法によりガラス粒子の屈折率(23℃)を測定した。なお、測定は同一測定試験体内での異なるガラス粒子10個について行い、その平均値を求めた。
【0039】
(2)曲げ試験
評価目的:
歯科用組成物試験体の曲げ強度を評価する。
評価方法:
調製した歯科用組成物をステンレス製金型に充填した後、両面にカバーガラスを置きガラス練板で圧接した後、光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて5ヶ所30秒間ずつ光照射を行い、硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出した後、再び同様に裏面も光照射を行い、それを試験体(25×2×2mm:直方体型)とした。その試験体を37℃、24時間水中に浸漬した後曲げ試験を行った。
曲げ試験は、インストロン万能試験機(インストロン5567,インストロン社製)を用い支点間距離20mm,クロスヘッドスピード1mm/minにて行った。なお、試験は、試験体数10個で行い、その平均値をもって評価した。
【0040】
(3)耐久性試験(長期水中浸漬後の曲げ試験)
評価目的:
歯科用組成物試験体の長期水中浸漬後における曲げ強度を評価する。
評価方法:
調製した歯科用組成物をステンレス製金型に充填した後、両面にカバーガラスを置きガラス練板で圧接した後、光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて5ヶ所30秒間ずつ光照射を行い、硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出した後、再び同様に裏面も光照射を行い、それを試験体(25×2×2mm:直方体型)とした。その試験体を37℃、3週間水中に浸漬した後曲げ試験を行った。
曲げ試験は、インストロン万能試験機(インストロン5567,インストロン社製)を用い支点間距離20mm,クロスヘッドスピード1mm/minにて行った。なお、試験は、試験体数10個で行い、その平均値をもって評価した。
【0041】
(4)フッ素徐放性試験
評価目的:
歯科用組成物試験体からのフッ素徐放量を評価する。
評価方法:
調製した歯科用組成物をステンレス製金型に充填した後、両面にカバーグラスを置きガラス練板で圧接した後、光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて6ヶ所30秒間ずつ光照射を行い、ペーストを硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出し、試験体(15φ×1mm:円盤状)とした。その試験体を5mlの蒸留水が入ったプラスチック製容器に入れ、密封後37℃恒温器中に1週間放置した。1週間放置後、容器を恒温器から取り出し、円盤状試験体から蒸留水中に溶出したフッ素量をフッ素イオン複合電極(Model 96-09:オリオンリサーチ社製)およびイオンメーター(Model 720A:オリオンリサーチ社製)を用いて測定した。測定時にイオン強度調整剤としてTISABIII(オリオンリサーチ社製)を0.5ml添加した。また検量線の作成は0.02、0.1、1、10、50ppmの標準液を用いて行った。なお、試験は、試験体数5個で行い、その平均値をもって評価した。
【0042】
(5)X線造影性試験
評価目的:
歯科用組成物試験体のX線造影性能を評価する。
評価方法:
調製した歯科用組成物をステンレス製金型に充填した後、両面にカバーグラスを置きガラス練板で圧接した後、光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて6ヶ所30秒間ずつ光照射を行い、ペーストを硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出し、試験体(15φ×2mm:円盤状)とした。その試験体と厚みの異なるアルミニウム版をX線検査装置(アサヒレントゲン社製:DCX-100N)内に設置したX線フィルム(阪神技術研究所製:DIF100)上に置き、管電圧:60KV、照射時間:0.4秒の条件にてX線を照射した。
照射後、定着液および固定液(阪神技術研究所製:DQD)を用いてX線フィルムを現像および固定化し乾燥させた。乾燥後、濃度計(コニカ社製:PDA-100)を用いて試験体と同等のX線造影性を有するアルミニウム板の厚みを求めた。なお、アルミニウム板は0.5mm間隔の異なる厚みのものを用いた。また試験は、試験体数3個で行い、その平均値をもって評価した。
【0043】
(6)衝突回転磨耗試験
評価目的:
歯科用組成物試験体の自己磨耗量および対合エナメル質磨耗量を評価する。
評価方法:
以下、図1〜3を参照して、評価方法を説明する。図面中、1は上部試験体(歯科用組成物硬化体)、2は下部試験体、3は牛歯エナメル質、4は真鍮リング、5はエポキシ樹脂を示す。
調製した歯科用組成物をステンレス製金型に充填した後、金型上部にカバーグラスを置きガラス練板で圧接した後、光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて圧接面から30秒間光照射を行い、ペーストを硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出した後、硬化物側面の両方向から同様に30秒間づつ光照射を行い、それを衝突回転磨耗試験の上部試験体(砲弾型:寸法 図1)とした。その試験体の長さをマイクロメーターを用いて測定した。
また、抜去牛前歯の歯根部を除去後、切削機具を用いて試片(5×5×3mm:直方体型)を形成した後、真鍮リング4(12φ×15mm)内に入れ、エポキシ樹脂にて包埋した。エポキシ樹脂硬化後、試験面をサンドぺーパー#600番および#1200番で研磨したエポキシ樹脂5に包埋した牛歯エナメル質3を衝突回転磨耗試験の下部試験体(図2)とした。上部および下部試験体を衝突回転磨耗試験機にそれぞれ装着し、衝突回転磨耗試験を行った。試験の要領を模式的に図3aおよび図3bに示す。図3aおよび図3bに示すように試験は衝突(図3a)および回転(図3b)を1サイクルとして行った。試験後、上部試験体の長さ寸法をマイクロメーターを用いて、下部試験体の磨耗深さをプロフィロメーター(小坂社製:SE−30H)を用いてそれぞれ測定した。上部試験体の磨耗により変化した長さの変化量を自己磨耗量とし、また、磨耗により生成した下部試験体の深さを対合エナメル質磨耗量とした。衝突回転磨耗試験は衝突荷重:7.5KgF、回転角度:±15°(往復)、サイクル:一万回、水中浸漬37℃の条件で行った。試験は試験体数6個で行い、その平均値をもって評価した。
なお、回転角度とは衝突後に、上部試験体を鉛直軸の回りに一方向、次いでその反対方向に回転させる角度をいう(図3b参照)。
【0044】
(7)透明性試験
評価目的:
歯科用組成物試験体の光透過率を評価する。
評価方法:
調製した歯科用組成物をステンレス製金型に充填した後、両面にカバーグラスを置きガラス練板で圧接した後、光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて6ヶ所30秒間ずつ光照射を行い、ペーストを硬化させた。硬化後、金型から硬化物(25φ×1mm:円盤状)を取り出し、サンドペーパー#600番および#1200番を用いて順に研磨して厚みを0.8mmに調製し、それを試験体(25φ×0.8mm:円盤状)とした。次いで、その試験体表面をバフ研磨で鏡面仕上げを行った後、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製:HM−150)にその試験体を装着し全光線透過率を測定した。なお、試験は試験体数3個で行い、その平均値をもって評価した。また、空気層の全光線透過率を100%とした。
【0045】
実施例1〜8および比較例1〜10
珪砂、カオリン、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、氷晶石、炭酸ナトリウム、炭酸ストロンチウム、フッ化アルミニウム、フッ化ナトリウム等の酸化物、炭酸物およびフッ化物等の原料を用いて、表1中の実施例1〜8および比較例1〜10の各ガラス組成が得られように理論値を算出しそれぞれの原料を秤量した。秤量した種々の原料をボールミルを用いて均一に混合し原料混合品を調製した後、その原料混合品を溶融炉中で1250〜1400℃にて溶融した。その後その融液を溶融炉から取り出し冷鋼板上、ロールまたは水中で冷却してガラスを生成した。各実施例および比較例における溶融状況および生成したガラスの外観を表1に示した。次に生成したガラスを振動ミルを用いて10時間粉砕し、平均粒子径3.0μmのガラス粒子を得た。このガラス粒子を用いて通法に従いガラスの屈折率(23℃)を測定した。その後ガラス粒子を通法に従い9重量部のγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(以下γ−MPSと称す)で表面処理を行いシラン処理ガラスフィラーとした。
【0046】
レジン組成物の調製
2,2-ビス(4−(3−メタクリロイルオキシ- 60重量部
2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン
(Bis-GMA)
トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA) 40重量部
カンファーキノン 0.3重量部
p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル 2重量部
超微粉末シリカ(増粘材) 18重量部
からなるレジン組成物を調製した。
【0047】
歯科用組成物の調製
レジン組成物100重量部に対して実施例1〜8および比較例2、4および7〜10で製造したシラン処理ガラスフィラー300重量部の割合にて混練した後、脱泡することによりペースト状の歯科用組成物A〜Nを調製した。(表1)
【0048】
試験1
調製した歯科用組成物A、C、I、JおよびNを用いて、上述した評価法に従い、曲げ試験、耐久性試験および衝突回転磨耗試験を行った。それらの試験結果を表2に示した。
試験2
調製した歯科用組成物C、D、KおよびLを用いて、上述した評価法に従い、フッ素徐放性試験を行った。それらの試験結果を表3に示した。
試験3
調製した歯科用組成物C、E、F、G、HおよびMを用いて、上述した評価法に従い、X線造影性試験および透明性試験行った。それらの試験結果を表4に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【発明の効果】
歯科用組成物に用いることができる特定のガラス組成を有する歯科充填用ガラスであり、そのガラス粒子を充填材として歯科用組成物に含むことにより、優れたX線造影性、透明性、フッ素徐放性、耐久性、研磨性および耐摩耗性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は衝突回転摩耗試験で用いた上部試験体(歯科用組成物硬化体)を示す断面図である。
【図2】図2は衝突回転摩耗試験で用いた下部試験体(牛歯エナメル質包埋)を示す断面図である。
【図3】図3は衝突回転摩耗試験の要領を示す概略図であって、(a)は衝突を示す概略図であり、(b)は回転を示す概略図である。
【符号の説明】
1:上部試験体(歯科用組成物硬化体)
2:下部試験体
3:牛歯エナメル質
4:真鍮リング
5:エポキシ樹脂
Claims (4)
- ガラス骨格を形成する元素としてSi、BおよびAlを含むフッ素含有ボロアルミノシリケートガラスで
SiO2:15.0〜35.0重量%
B2O3:5.0〜20.0重量%
Al2O3:15.0〜30.0重量%
P2O5 :0〜10.0重量%
BeO :0〜10.0重量%
MgO :0〜10.0重量%
CaO :0〜10.0重量%
SrO:25.0〜50.0重量%
Na 2 O:1.0〜10.0重量%
F:5.0〜15.0重量%
を含むガラス組成(酸化物基準)からなり、かつガラス骨格を形成するSi、BおよびAl元素のモル比(酸化物基準)が
Al2O3:SiO2:B2O3=
1.00:1.60〜2.10:0.75〜1.25
の範囲であることを特徴とする歯科充填用ガラス。 - 該ガラスの屈折率が1.45〜1.70の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の歯科充填用ガラス。
- 平均粒子径が0.01〜30μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜2いずれか1に記載の歯科充填用ガラス粒子。
- (a)請求項1〜3いずれか1に記載の歯科充填用ガラス粒子、
(b)重合性単量体、および
(c)重合触媒
を含む歯科用組成物。
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