JP2010229420A - 歯科用表面改質有機複合フィラー - Google Patents

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Abstract

【課題】歯科用複合材料に、優れた研磨性、表面滑沢性および光沢性等の特性と共に、且つ優れた機械的強度、耐久性および安定したペースト操作性を共に付与することのできる有機複合フィラーおよびその製造方法ならびにそれを含む歯科用組成物を提供する。
【解決手段】有機−無機重合体粒子または有機重合体粒子の表面が無機質皮膜で被覆された有機複合フィラー。水を含む水性媒体中に分散した有機−無機重合体粒子または有機重合体粒子の存在下で、シラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物を加水分解または部分加水分解し縮合させる、またはシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物をオルガノシラン化合物、オルガノシラン化合物の低縮合物および金属化合物のうち少なくとも一つの共存下で加水分解または部分加水分解し、共縮合させそれら粒子の表面に無機質皮膜を形成させる上記複合フィラーの製造方法。上記有機複合フィラーを含む歯科用組成物。
【選択図】なし

Description

本発明は有機高分子材料をレジンマトリックスとする組成物、特に歯科用組成物中に充填材として使用するのに好適な有機複合フィラー、およびその製造方法に関する。
歯科分野で近年多用されている複合修復材には以下のような特性が求められている。咀嚼時の高い咬合圧に耐え得る機械的強度、過酷な条件下での耐久性、歯質と同程度の熱膨張率、重合硬化時に歯質からの剥離を防ぐための低重合収縮率等の機械的特性、天然歯に適合する色調及び透明性、研磨時に認められる表面滑沢性および光沢性等の光学的特性、さらには非毒性、非溶解性および低吸水性等の生体親和性などが挙げられる。また、特に最近では、歯質を強化および二次う蝕を抑制するフッ素徐放性や治療後のう蝕の再発状況を確認し歯質のエナメル質と識別できるエックス線造影性等も要求されてきている。
従来から歯牙欠損部の修復や補綴、人工歯根、その他の用途に重合可能な重合性単量体、重合開始剤および無機物、有機物または有機−無機複合物等の充填材等により構成される複合修復材が使用されている。これら構成成分の中でも充填材に関しては、これまで多くの報告がある。これは複合修復材中に占める充填材の割合が多いことから充填材の特性が複合修復材の特性に影響を与えるものと考えられているからである。
初期の複合修復材に用いられていた充填材は、平均粒子径が数μmから数百μmのα―石英や種々のガラスで、大きな塊を粉砕して製造した破砕型充填材が主流であった。これらの充填材を用いた場合、適度な粘度と操作性、機械的強度、少ない重合収縮、歯牙に近い熱膨張係数等の諸性質を複合修復材に付与することができる。
しかし、平均粒子径が大きいことに由来して、研磨性が良好ではなく、特に研磨後の表面平滑性や表面光沢性に劣る等の欠点がある。この問題を解決するために、平均粒子径をできるだけ細かくしようとする試みがなされているが、未だ不十分である。
この欠点を克服するために、熱分解法や気相反応法により合成された平均粒子径0.01〜0.1μmの超微粒子、例えば噴霧熱分解法シリカやヒュームドシリカを充填材として用いた複合修復材が提案されており、これらはMFRという一般略称で広く愛用されてきた。この複合修復材は研磨性が良好で、且つ表面平滑性や表面光沢性に優れる。しかし、これら超微粒子を重合性単量体中に分散させた時、比表面積が大きいことから、得られるペーストの粘稠度が非常に上がり、このため充填量を非常に低く抑えなければならない。このため複合修復材の機械的特性、特に曲げ強度が劣ったものになる。また、ペーストが硬化する時の重合収縮が比較的大きいこと、また硬化物の熱膨張係数も非常に大きくなるなどの問題点も有していた。
他の充填材としては有機金属化合物から出発するゾル-ゲル法等の溶液反応から合成された粒度分布が狭く球状で、且つ平均粒子径が0.1μmから数μmのシリカまたはシリカ複合酸化物等が挙げられる。これら充填材は、特開昭59−101409号公報等に開示されている。この充填材は乾燥工程で凝集を生じることから充填材への表面処理が均一に行えず、機械的強度や吸水による材料劣化等の耐久性に問題がある。
そこで、それぞれの充填材の長所を合わせ持たせようという考えのもとに、超微粒子シリカと比較的大きな無機充填材を組合わせたハイブリッド型の複合修復材が提案されている。例えば、特開昭57―82303号公報、特表昭57−500150号公報、特開昭61−148109号公報等に開示されている。しかし、これらハイブリッド型では機械的特性の向上は充分であるものの、ペーストが粘って操作性が悪いこと、さらに仕上げ研磨後の平滑さがMFRに比較すると不足していること等が問題である。
最近では、研磨性や表面滑択性等の光学的特性に焦点を当てた充填材がいくつか提案されており、例えば有機−無機複合充填材または複合充填材と一般に呼ばれるものがある。これらは無機粒子を重合可能な単量体と予め混合して、一度重合させた後、その重合物を粉砕して複合充填材としたものである。特開昭54−107187号公報には無機粒子として超微粒子シリカを用いた複合充填材が開示されているが、超微粒子シリカの比表面積が大きいことにより、複合充填材中に占める割合が少なくなり、その結果この複合充填材を含む複合修復材の表面硬度が低く、熱膨張係数が大きくなるなどの欠点を有している。また特公平3−12043号公報には無機粒子として平均粒子径が0.1〜1.0μmで且つ球形であるシリカおよびシリカと結合可能な他の元素との複合無機酸化物、特開平8−143747号公報には無機粒子として平均粒子径が0.01〜0.1μmの範囲である二酸化珪素および周期律表第II族〜第IV族元素の複合酸化物、特開平5−194135号公報には無機粒子として平均粒子径が0.1〜5.0μmのガラス粉末、をそれぞれ含んだ複合修復材が開示されている。これらは充填材中の無機成分含有量の割合を増加させることにより表面硬度および熱膨張係数等の問題点は解消できるものの、機械的特性の向上はほとんどない。また、特公平6−62687号公報には複合充填材に3官能性または2官能性重合性単量体を用いることにより充填材表面に二重結合を残存させた複合充填材が、特開平7−196430号公報には平均粒子径が1μm以下の無機粒子を凝集させ、熱処理した凝集体を含んだ複合充填材がそれぞれ開示されている。しかし、これらは機械的特性の向上を目的としているものの、その効果は未だ不十分である。そこで、機械的特性の向上を目的として複合修復材中に複合充填材および他の無機充填材を用いた複合修復材が開示されている。特公平7−91170号公報にはガラス粉末、超微粒子シリカおよび複合充填材が、特開平9−194674号公報には複合充填材および無機酸化物の凝集粒子をそれぞれ含む複合修復材が開示されている。しかし、これらは無機系充填材を用いたことによる欠点もあり、複合修復材に必要なすべての諸特性において決して満足できるものではなかった。
以上述べたように、複合充填材は、仕上げ研磨後の表面滑沢性および光沢性等の光学的特性は優れているものの、複合充填材に対する表面処理の効果が不十分で、樹脂成分との濡れ性が悪くなり機械的特性または操作性に大きな問題を抱えていた。複合充填材表面は無機成分が少なく、ほとんどが有機成分であること。また、無機成分が現れていても複合充填材を製造する際、無機粒子は既にシランカップリング剤等を用いて表面処理されている。そのため、複合充填材粒子への表面処理効果が十分発揮できなくなり、機械的特性が得られないものと考えられる。また、表面処理が均一かつ効率よく行われていない場合、複合修復材の硬化前の状態であるペーストの操作性および硬化後の複合修復材の耐久性等にも影響を及ぼす。今までの複合充填材の表面処理においてはそのほとんどが物理的な表面処理剤の吸着に留まっていた。ペーストの操作性はフィラー表面とレジンマトリックスとの濡れ性が重要な要素であるが、物理吸着の場合経時的に表面処理剤がフィラー表面から離れるために濡れ性が変化、つまり操作性が悪くなる傾向があった。また、その硬化体においても、そのフィラー表面とレジンマトリックスとの界面に微少な隙間が生じ、この空間に水が浸透することから耐久性等に問題が生じていた。これらのように、従来から複合充填材の特徴である優れた研磨性、特に研磨後の表面滑沢性および光沢性等を有し、且つ表面処理剤が効果的に作用し、優れた機械的特性、耐久性および安定した操作性を付与できる有機複合フィラーはなかった。
特開昭59−101409号公報 特開昭57―82303号公報 特表昭57−500150号公報 特開昭61−148109号公報 特開昭54−107187号公報 特公平3−12043号公報 特開平8−143747号公報 特開平5−194135号公報 特公平6−62687号公報 特開平7−196430号公報 特公平7−91170号公報 特開平9−194674号公報
本発明の目的は、歯冠材料、充填材料、補綴材料および接着材料等の歯科用分野において用いられる歯科用組成物に使用することのできる充填材であって、特に充填材料として要求される研磨性が良好であり、且つ研磨後の表面滑沢性および光沢性等の特性を損なうことなく、優れた機械的強度、耐久性およびペーストの安定した操作性をともに付与することのできる有機複合フィラーおよびその製造方法を提供することである。
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究した結果、有機−無機重合体粒子または有機重合体粒子の表面を無機質皮膜で被覆した有機複合フィラーを提供することにより、この課題を解決するに至った。すなわち、本発明者らは本願において以下の発明を提供する。
有機−無機重合体粒子または有機重合体粒子の表面が無機質皮膜で被覆され、
無機質皮膜が一般式(I):
Figure 2010229420
(式中、ZはRO-またはOCN-、Xはハロゲン、YはOH-、Rは炭素数が8以下の有機基、n、mおよびLは0〜4の整数であって、n+m+L=4である)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物の加水分解または部分加水分解された縮合物である有機複合フィラーを提供する。
また、無機質皮膜が一般式(I)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物を
一般式(II):
Figure 2010229420

(式中、ZはR1O-またはOCN-、Xはハロゲン、YはOH-、R1は炭素数が8以下の有機基、R2は有機基、a、bおよびcは0〜3の整数、pは1〜3の整数であって、a+b+c+p=4である)で表されるオルガノシラン化合物および/またはオルガノシラン化合物の低縮合物の共存下で、加水分解または部分加水分解された共縮合物である有機複合フィラーを提供する。
さらに、無機質皮膜が一般式(I)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物を、金属化合物の共存下で、加水分解または部分加水分解された共縮合物である有機複合フィラーを提供する。
さらに、無機質皮膜が一般式(I)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物を、一般式(II)で表されるオルガノシラン化合物および/またはオルガノシラン化合物の低縮合物および金属化合物の共存下で、加水分解または部分加水分解された共縮合物である有機複合フィラーを提供する。
また、本発明は、
有機−無機重合体粒子または有機重合体粒子を、水性媒体中で均一に分散させ分散体を調製する工程、
得られた分散体中の有機−無機重合体粒子または有機重合体粒子の表面に無機質皮膜を形成する工程、
無機質皮膜を形成した粒子を分離および/または熱処理する工程、および
熱処理造粒体を一次粒子に解砕する工程、を含む上記有機複合フィラーの製造方法を提供する。
さらに詳しくは、本発明の無機質皮膜を形成する工程が、水性媒体中に分散した有機−無機重合体粒子または有機重合体粒子の存在下で
一般式(I):
Figure 2010229420
(式中、ZはRO-またはOCN-、Xはハロゲン、YはOH-、Rは炭素数が8以下の有機基、n、mおよびLは0〜4の整数であって、n+m+L=4である)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物を加水分解または部分加水分解し縮合する工程、
または一般式(I)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物を、一般式(II):
Figure 2010229420
(式中、ZはR1O-またはOCN-、Xはハロゲン、YはOH-、R1は炭素数が8以下の有機基、R2は有機基、a、bおよびcは0〜3の整数、pは1〜3の整数であって、a+b+c+p=4である)で表されるオルガノシラン化合物、そのオルガノシラン化合物の低縮合物、および金属化合物のうち少なくとも1つの共存下で、加水分解または部分加水分解し共縮合する工程を含むことを特徴とする上記の有機複合フィラーの製造方法を提供する。
最後に(a)本発明の有機複合フィラー、(b)重合性単量体、および(c)重合開始剤、を含有してなる歯科用組成物を提供する。
上記本発明により有機−無機重合体粒子または有機重合体粒子の表面が無機質皮膜で被覆されることにより以下の諸効果がもたらされる。
(1)従来の有機−無機重合体粒子または有機重合体粒子表面は無機成分が少なく、ほとんどが有機成分であるため、シランカップリング剤等の表面処理剤が効果的に作用しないが、本発明の有機複合フィラーは無機質皮膜で被覆されているためにシランカップリング剤等の表面処理剤が効果的に作用することができ、レジンマトリックス中に均一に分散することができる。
(2)本発明の有機複合フィラーを歯科用組成物中に充填材として用いた場合、有機−無機重合体粒子または有機重合体粒子の優れた研磨性、特に研磨後の表面滑沢性および光沢性を有し、且つ優れた機械的特性および耐久性や安定したペースト操作性を付与することができる。
(3)被覆された無機質皮膜に重金属元素を含むことにより、補足的にX線造影性を付与することができる。
(4)さらには、歯科用組成物において、充填材として本発明の有機複合フィラーを配合することにより、優れた研磨性、特に表面滑沢性および光沢性等の特性を有し、且つ優れた機械的強度、耐久性および安定した操作性を付与することができる。
本発明の有機複合フィラーは、有機−無機重合体粒子または有機重合体粒子の表面が無機質皮膜で被覆されたものであり、本発明の有機複合フィラーを含む歯科用組成物、例えば歯科用充填材料に有機−無機重合体粒子または有機重合体粒子の優れた研磨性、特に研磨後の表面滑沢性および光沢性を有し、且つ優れた機械的特性および耐久性や安定したペースト操作性をも付与することができる。
本発明の有機複合フィラーに用いられる有機−無機重合体粒子または有機重合体粒子は特に限定されず、公知のものが使用できる。
有機重合体粒子は重合性基を有する単量体を重合させることによって得ることができ、また有機重合体粒子の製造方法においても特に制限はない。例えば重合性単量体の乳化重合、懸濁重合および分散重合等のいずれの方法でもよく、また、予め生成した重合体バルクを粉砕する方法でも行なうことができる。
有機重合体粒子を形成する重合性単量体としては、具体的に例示すると、スチレン、α−メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、ジビニルベンゼン等の不飽和芳香族類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エステル類;アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。特に好ましくは、歯科分野で既に公知の後述する重合性単量体である。これらの重合性単量体は単独もしくは複数組合わせて用いることができる。
有機重合体粒子自体の耐衝撃性、耐熱性および耐溶剤性等を向上させるためには、架橋性単量体つまり重合性基を2個以上有する重合性単量体を用いることが好ましい。また、有機重合体粒子の表面に反応性の二重結合をより多く残存させるためには、重合性基を1分子中に3個以上有する単量体から生成する、あるいは重合性基を1分子中に3個以上有する単量体と重合性基を1分子中に2個以上有する単量体の混合物から生成することができる。
また、本発明においては有機重合体粒子中に無機粒子を含有した有機−無機重合体粒子を用いることが最も好ましい態様である。有機-無機重合体粒子中に含有させる無機粒子としては、特に制限はなく公知のものが使用できる。無機粒子の形状は球状、針状、板状、破砕状、鱗片状等の任意の粒子形状で良く特に限定されない。また、無機粒子の種類も特に限定されない。無機粒子を具体的に例示すると、石英、無定形シリカ、アルミニウムシリケート、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、種々のガラス類(溶融法によるガラス、ゾルゲル法による合成ガラス、気相反応により生成したガラスなどを含む)、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、クレー、雲母、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、ゼオライト、フッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム等が挙げられる。これらの無機粒子は単独もしくは複数組合わせて用いることができる。これらの中でも有機重合体粒子中に含まれる無機粒子としてはストロンチウム、バリウム、ランタン等の重金属および/またはフッ素を含むアルミノシリケートガラス、ボロシリケート、アルミノボレート、ボロアルミノシリケートガラス等が好ましい。これら無機粒子の平均粒子径は0.01〜10μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.01〜2.0μmの範囲である。
また、研磨性、特に研磨後の表面滑沢性や光沢性を付与する観点からは、無機粒子として一次粒子が0.1μm以下の超微粒子シリカまたは他の金属酸化物を用いることが好ましい態様である。
有機−無機重合体粒子の製造方法においても、特に制限はなく、いずれの方法も採用することができる。例えば、無機粒子の表面を有機物でのマイクロカプセル化やグラフト化する方法または無機粒子の表面に重合性官能基や重合性開始基を導入後ラジカル重合させる方法等があるが、ここでは歯科分野において有機複合フィラーの製造方法として公知である一般的な有機−無機重合体粒子の製造方法について述べる。
まず、重合性単量体、無機粒子および重合開始剤を乳鉢、ニーダー、ロールおよび雷カイ機等を用いて機械的に混練してぺーストを調製する。重合開始剤は特に限定されず、公知のラジカル発生剤が何等制限なく使用することができる。例えば、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルホウ素等の有機金属化合物等が好適である。重合開始剤の添加量は、重合性単量体に対して0.1〜10重量部の範囲から適宜選択すればよい。また、無機粒子の混合量は、10〜80重量部の範囲が好ましく、より好ましくは40〜60重量部の範囲である。この範囲未満の場合は、有機−無機重合体粒子の機械的強度、表面硬度および熱膨張係数等に、一方、この範囲を超える場合は、有機−無機重合体粒子中における無機粒子の分散性低下による機械的強度および研磨性等にそれぞれ問題が生じる。
次に、このペーストを加熱プレス等の適切な重合設備を用いて重合させる。重合温度は、重合開始剤の分解温度に応じて適宜選択すればよいが、20〜250℃の範囲が好ましく、より好ましくは60〜200℃の範囲である。重合時間は重合物の重合状態および残存未反応モノマー量等を考慮に入れ適宜決めればよい。また、一般に重合は重合物が変色しないように窒素やアルゴンのような不活性ガス雰囲気下で行うこともできる。重合は大気圧下の重合で十分であるが、必要に応じて、加圧下でも行うことができる。また、ペーストの調製および重合を加圧ニーダー等の混練機を用いて同時に行うことができる。
次に、この重合物を粉砕して有機−無機重合体粒子を得る。粉砕方法は特に限定されないが、当該分野で一般に採用されている方法で行うことができる。例えば、ボールミルや振動ミル等の容器駆動媒体ミル、ハンマーミルやターボミル等の高速回転ミル、サンドグライダーやアトライター等の媒体攪拌ミルが挙げられ、必要な平均粒子径に応じて適宜選定できる。また、粉砕時に粉砕物が着色しないように不活性ガス雰囲気下またはアルコール等の溶媒中で行うこともできる。また、酸化防止剤、例えば、ハイドロキノンモノメチルエーテル等の公知のフェノール類を添加して粉砕することもできる。粉砕した有機−無機重合体粒子の平均粒子径は1〜100μmの範囲が好ましい。より好ましくは3〜50μm、さらに好ましくは5〜30μmである。
このようにして得られた所望の平均粒子径を有する有機−無機重合体粒子は、次のようにして、その表面に無機質皮膜を形成する。所望の平均粒子径に粉砕された有機−無機重合体粒子を水性媒体中に均一に分散させる。無機質皮膜の形成工程において重要なことは水性媒体中で有機−無機重合体粒子を均一に分散させることである。そのため水溶性およびアルコール可溶性の高分子および/または界面活性剤を分散性改良剤として添加することが望ましい。それら分散性改良剤としては、使用する水性媒体に可溶性のものであれば何等、制限なく使用することができる。具体的に例示すると、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダ、ナフタレンスルホン酸ソーダ、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ、ドデシル硫酸ソーダ等が挙げられる。より好ましくは、ポリビニルピロリドン、ドデシル硫酸ソーダ等である。これらは単独で、または2種以上を混合して使用してもよい。分散方法は特に限定されないが、当該分野で一般に採用されている方法で行うことができる。例えば、万能混合撹拌機、プラネタリーミキサー等のスラリー状のものを撹拌できる撹拌機を用いて行うことができる。分散状態が悪い場合は、必要に応じてディゾルバーやホモジナイザー等の分散機も併用または前処理として使用することができる。より好ましくは、分散および攪拌が同時にできる分散機である。
得られた有機−無機重合体粒子を含む水性分散体中に、一般式(I):
Figure 2010229420
(式中、ZはRO-またはOCN-、Xはハロゲン、YはOH-、Rは炭素数が8以下の有機基、n、mおよびLは0〜4の整数であって、n+m+L=4である)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物を添加し、これを系中で加水分解または部分加水分解して、これらを縮合させ無機質皮膜を形成する。
または、一般式(I)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物を、一般式(II):
Figure 2010229420
(式中、ZはR1O-またはOCN-、Xはハロゲン、YはOH-、R1は炭素数が8以下の有機基、R2は有機基、a、bおよびcは0〜3の整数、pは1〜3の整数であって、a+b+c+p=4である)で表されるオルガノシラン化合物、オルガノシラン化合物の低縮合物、および金属化合物のうち少なくとも1つの共存下で、加水分解または部分加水分解して、これらを共縮合させ無機質皮膜を形成する。
上記無機質皮膜の形成において添加する化合物の形態は特に制限はなく、単量体、単量体が部分加水分解して低(共)縮合した低(共)縮合物(オリゴマー)およびそれらの混合物のいずれの形態でも用いることができる。
水性分散体中への添加方法に関しては特に制限はなく、添加する化合物を別々にまたは予め混合して、一括または断続的に分割して添加することができる。しかし、添加の均一性を高めるために、水性分散体に相溶する有機溶媒を用いて添加する化合物を希釈し断続的に分割して添加する方法が好ましい。
また、無機質皮膜の形成に低(共)縮合物(オリゴマー)を用いる場合、その形状には何等制限はないが、三次元状よりは直鎖状の形状の方が好ましい。またその重合度においても大き過ぎると有機−無機重合体粒子表面への(共)縮合反応性が劣り、無機質皮膜の形成が悪くなることがある。
また無機質皮膜の別の形成方法としては、上記の無機質皮膜の前駆体を含む溶液を予め調製し、その溶液中に有機−無機重合体粒子を含む水性分散体を添加し均一に分散させた状態で皮膜を形成する方法でも何等制限はない。
一般式(I)で表されるシラン化合物または一般式(II)で表されるオルガノシラン化合物において、Zは加水分解によりシラノール基を生成し得るRO基、R1O基またはOCN基、Xはハロゲン、YはOH基を示す。RまたはR1は炭素数が8以下の有機基を表す。具体的には、Rはメチル、エチル、2-クロロエチル、アリル、アミノエチル、プロピル、イソペンチル、ヘキシル、2-メトキシエチル、フェニル、m-ニトロフェニル、2,4-ジクロロフェニル等のアルキル基またはアルキル誘導体基が挙げられるが、加水分解速度や無機質皮膜内でのカーボン残留などから、好ましくはメチルおよびエチルであり、ハロゲンは塩素、臭素が挙げられ、好ましくは塩素である。
また、一般式(II)中のR2は有機基であれば特に制限はないが、有機基の主鎖が短いものの方が無機質皮膜の構造的な強度を維持できる点で好ましい。
一般式(I)で表されるシラン化合物を具体的に例示すると、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラアリロキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラキス(2−エチルヘキシロキシ)シラン、トリメトキシクロロシラン、トリエトキシクロロシラン、トリイソプロポキシクロロシラン、トリメトキシヒドロキシシラン、ジエトキシジクロロシラン、テトラフェノキシシラン、テトラクロロシラン、水酸化ケイ素(酸化ケイ素水和物)、テトライソシアネートシラン、エトキシシラントリイソシアネート等が挙げられ、これらの中でもテトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランが好ましい。また、一般式(I)で表されるシラン化合物の低縮合物であることがさらに好ましい。例えば、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランを部分加水分解して縮合された低縮合シラン化合物である。
これらの化合物は単独または複数組合わせて使用することができる。
一般式(II)で表されるオルガノシラン化合物を具体的に例示すると、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、トリメチルシリルイソシアネート、ビニルシリルトリイソシアネート、フェニルシリルトリイソシアネート等が挙げられる。また、これらオルガノシラン化合物の低縮合物も使用することができる。
これらオルガノシラン化合物の中でも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニル(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が好ましく、より好ましくはγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランである。
これらの化合物は単独または複数組合わせて使用することができる。
また、金属化合物としては単独で加水分解または部分加水分解し、縮合して無機質皮膜の骨格を形成するものや、無機質皮膜の骨格を形成する他の化合物との共存下で修飾的に骨格に対し寄与するもののいずれにおいても特に制限なく使用することができる。それら金属化合物を具体的に例示すると、金属ハロゲン化物、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属アンモニウム塩、有機金属化合物、アルコキシ金属化合物またはこれら金属化合物の誘導体等が挙げられる。金属化合物は単独または2種以上を混合して使用することができる。これら金属化合物を構成する金属元素としては、周期律表第I族〜第V族の各元素が挙げられる。また、これら金属化合物の中でも単独で加水分解・縮合して三次元的な骨格を形成できる周期律表第III族〜第V族の金属元素からなる金属化合物が好ましい。さらに好ましくは、ZrまたはTiからなる金属化合物である。これら2種の金属元素からなる金属化合物を共存させて無機質皮膜を形成させた本発明の有機複合フィラーを歯科用組成物の充填材として用いた場合、その組成物に補足的ではあるがX線造影性を付与することができる。ZrまたはTiからなる金属化合物を具体的に例示すると、四塩化チタン、硫酸チタニル、メチルトリクロロチタン、ジメチルジクロロチタン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシテタン、テトライソブトキシチタン、テトラ(2−エチルヘキシロキシ)チタン、ジエトキシジブトキシチタン、イソプロポキシチタントリオクタレート、ジイソプロポキシチタンジアクリレート、トリブトキシチタンステアレート、四塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムラクテート、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム等が挙げられる。また上記金属化合物の誘導体を使用することもできる。金属化合物の誘導体としては、例えば、ハロゲン、NO3、SO4、アルコキシ基、アシロキシ基等の加水分解基の一部をジカルボン酸基、オキシカルボン酸基、β―ジケトン基、β―ケトエステル基、β―ジエステル基、アルカノールアミン基等のキレート化合物を形成しうる基で置換した金属化合物が挙げられる。また、金属化合物を部分加水分解し低縮合して得られた低縮合金属化合物(オリゴマーまたはポリマー)も用いることができる。
上記水性分散体中に添加した化合物の加水分解または部分加水分解は比較的低速の撹拌状態下で行われる。攪拌温度は10℃から100℃の範囲、より好ましくは25℃から50℃の範囲であり、水性媒体の沸点以下の温度であれば何等問題はない。撹拌時間は通常数分から数十時間、より好ましくは30分〜24時間の範囲であり、添加する化合物の種類または添加量、重合体粒子の種類、平均粒子径およびその水性分散体中に占める割合、水性媒体の種類および水性分散体中に占める割合等により、適宜調整することができる。撹拌は特別な方法を必要とするものではなく、当該分野で通常に使用されている設備を採用して行うことができる。例えば、万能混合撹拌機やプラネタリーミキサー等のスラリー状のものを撹拌できる撹拌機を用いて撹拌すればよい。
また、加水分解または部分加水分解および(共)縮合の速度を制御するために、酸およびアルカリ、有機金属化合物、金属アルコキシド、金属キレート化合物等のゾル−ゲル触媒の添加は好ましい態様である。触媒として具体的に例示すると、塩酸、酢酸、硝酸、ギ酸、硫酸、リン酸等の無機酸、パラトルエンスルホン酸、安息香酸、フタル酸、マレイン酸等の有機酸、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等のアルカリ触媒が挙げられる。
また無機質皮膜の形成工程に用いる水性媒体としては、水および/または水と相溶する有機溶媒であれば何等制限なく使用することができる。有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類およびエーテル類から適宜選択することができる。これら溶媒は無機質皮膜の形成工程において用いる種々の化合物の相溶性を向上させるためだけでなく、熱処理工程において有機複合フィラーの凝集性を軽減させ、より解砕性を向上させる多大な効果がある。これら溶媒を具体的に例示すると、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトン等のケトン類が挙げられる。これらの溶媒は、単独または2種以上を使用してもよい。好ましくは、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールが好適に使用される。
上記無機質皮膜の形成工程における有機−無機重合体粒子、水性媒体および添加する化合物等の水性分散体中に占める割合は、特に限定されるものではない。水性媒体は水および/または水と相溶する有機溶媒からなる。水の混合割合は添加する化合物が加水分解または部分加水分解し(共)縮合される量であれば特に限定されないが、添加する化合物が有する加水分解基に対する水のモル比が0.5以上になるように混合するのが好ましい。該モル比は、より好ましくは1以上であり、さらに好ましくは2以上である。
水と相溶する有機溶媒の混合割合は有機−無機重合体粒子が水性分散体中で均一に分散される量および添加する化合物が均一に加水分解または部分加水分解し(共)縮合される量であれば特に制限はない。また、添加する化合物の量は無機質皮膜の形成方法や有機−無機重合体粒子の種類および平均粒子径等に応じて適宜選択でき、有機−無機重合体粒子100重量部に対してSiO2換算量(シラン化合物単独またはシラン化合物およびオルガノシラン化合物の混合物)で0.1〜20.0重量部の範囲である。好ましくは0.1〜10.0重量部の範囲であり、より好ましくは0.1〜5.0重量部の範囲である。また、シラン化合物
およびオルガノシラン化合物との共存下で無機質皮膜を形成する場合の共存割合はSiO2換算量の重量比でシラン化合物:オルガノシラン化合物=99:1〜20:80、好ましくは99:1〜30:70、さらに好ましくは99:1〜40:60である。また、金属化合物の共存下で無機質皮膜を形成する場合は添加する化合物の全SiO2換算量100重量部に対して金属化合物の金属酸化物換算量が0.1〜500重量部で共存させることができ、より好ましくは0.1〜200重量部の範囲である。また、無機質皮膜の形成において前述したように水性分散体中に触媒を添加することもでき、その添加量は添加する化合物100重量部に対し0〜10.0重量部が好ましく、より好ましくは0〜5.0重量部である。
次に、このようにして得られた有機−無機重合体粒子の表面に無機質皮膜を形成した有機−無機重合体粒子を水性分散体中から分離する。分離する方法は、常法によることができ、遠心分離、再沈、限外ろ過等により分離および精製することができる。また、加熱、真空および凍結等の乾燥方法を用いて水性分散体中から、水性媒体を除去して分離することもできる。分離した後、有機−無機重合体粒子表面に形成された無機質皮膜を熱処理により強化する。この熱処理は箱型の熱風乾燥機やロータリーキルン等の熱源装置を用いて静置方式や回転方式により行うことができる。また、箱型の熱風乾燥機を用いた場合は、水性媒体の除去および無機質皮膜の強化を同時に行うことができる。熱処理は無機質皮膜構造にひずみを与えないよう、低温で行う必要がある。
熱処理温度は、有機−無機重合体粒子に炭化等の悪影響を与えない程度に、適宜選択することができる。熱処理温度は10℃から200℃の範囲、より好ましくは40〜150℃の範囲である。温度がこの範囲より低い場合は、水性媒体の除去が不十分であり、またこの範囲より高い場合は、水性媒体が急激に揮発し、無機質皮膜内に欠陥が生じたり、粒子表面から剥離したりする恐れがある。熱処理時間は用いた設備等の能力にもよるため、適宜選択する必要があり、特に制限はない。
以上のように熱処理により有機−無機重合体粒子表面に無機質皮膜が形成された熱処理造粒体が得られる。この熱処理造粒体は粒子の凝集物ではあるが、単なる粒子の凝集物ではなく、個々の粒子の境界面には(共)縮合により形成された無機質皮膜が介在している。従って、次の工程としてこの熱処理造粒体を解砕すると、その表面が無機質皮膜で被覆された個々の有機−無機重合体粒子、即ち本発明の有機複合フィラーが得られる。熱処理造粒体の解砕は、せん断力または衝撃力を加えることにより容易に可能であり、解砕方法としては、例えばヘンシェルミキサー、クロスロータリーミキサー、スーパーミキサー、乳鉢等を用いて行うことができる。
こうして得られた本発明の有機複合フィラーは、その表面が無機質皮膜で被覆されている。表面に無機質皮膜を被覆した有機複合フィラーの平均粒子径および粒度分布はレーザー回折式粒度測定機により確認できる。その結果、有機−無機重合体粒子の平均粒子径および単分散の粒度分布と同じであり、均一に分散した状態で粉末化されていることが認められた。これらの分散状態は電子顕微鏡観察においても確認できる。また、この有機複合フィラーの比表面積はBET法によって測定することができ、無機質皮膜の形成により比表面積が増大していることが認められる。また、無機質皮膜表面には多数のOH基が存在しているにもかかわらず、本発明の有機複合フィラーの流動性または分散性が良好であるのは皮膜表面の凹凸により、粒子間の接触が点接触であるためと考えられる。また、この有機複合フィラーを歯科用組成物として用いると、無機質皮膜表面の凹凸に樹脂成分が侵入し、嵌合効果により、機械的特性が向上することが認められた。
また、この有機複合フィラーを高充填するためには、
一般式(II):
Figure 2010229420
(式中、ZはR1O-またはOCN-、Xはハロゲン、YはOH-、R1は炭素数が8以下の有機基、R2は有機基、pは1〜3の整数、a、bおよびcはいずれも0〜3の整数であって、a+b+c+p=4である)
で表されるオルガノシラン化合物で無機質皮膜をさらに処理することが効果的である。この結果、有機複合フィラーの高充填が可能になり、歯科組成物として必要な諸特性を満たすことができる。
一般式(II)で表されるオルガノシラン化合物を具体的に例示すると、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン等が挙げられる。
これらオルガノシラン化合物の中でも歯科分野でシランカップリング剤として公知の化合物であるビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニル(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。より好ましくはγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランである。これらのオルガノシラン化合物は単独でまたは複数併用して使用することができる。
これらのオルガノシラン化合物により、樹脂成分との親和性が高められたのは、無機質皮膜上に存在する多数のOH基との反応により、オルガノシラン化合物が、効率よく、且つ均一に表面処理されたためである。
本発明のもう1つの態様は上記本発明の有機複合フィラーを含む歯科用組成物である。特に、(a)本発明の有機複合フィラー、(b)重合性単量体および(c)重合開始剤を含有する歯科用組成物である。
本発明の有機複合フィラーは有機高分子材料を主成分とするレジンマトリックス中に、その表面に有する無機質皮膜の存在によって、非凝集状態で均一分散することができるとともに、有機マトリックスとの高い親和性によって組成物硬化体は優れた物性を発現するという特徴を有する。さらに、本発明の有機複合フィラーを充填材として含む歯科用組成物の硬化体は、優れた研磨性、特に研磨後の表面滑沢性および光沢性、機械的特性および耐久性を有している。この優れた特性は、有機複合フィラーの表面に存在する無機質皮膜とレジンマトリックス中へ分散するにあたって添加されるオルガノシラン化合物との作用により、フィラーが強い親和性をもってマトリックスと相互作用を有するとともに、レジンマトリックスが無機質皮膜の表面にある凹凸に侵入した嵌合効果によってもたらされるためであると考えられる。
本発明の有機複合フィラーとともに、歯科用組成物中に使用することのできる重合性単量体は、一般に歯科用組成物として用いられている公知の単官能性および多官能性の重合性単量体のうちから使用することができる。
一般に好適に使用される代表的なものを例示すれば、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基を有する重合性単量体である。なお、本発明においては(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリロイルをもってアクリロイル基含有重合性単量体とメタクリロイル基含有重合性単量体の両者を包括的に表記する。
具体的に例示すれば次の通りである。
酸性基を有しない重合性単量体類として、
単官能性単量体:メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等のシラン化合物類、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等の窒素含有化合物、
芳香族系二官能性単量体:2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン等、
脂肪族系二官能性単量体:2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート等、
三官能性単量体:トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等、
四官能性単量体:ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等、
また、ウレタン系重合性単量体として具体的に例示すると;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;3−クロロー2−ハイドロキシプロピル(メタ)アクリレートのような水酸基を有する重合性単量体とメチルシクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルメチルベンゼン、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物との付加物から誘導される二官能性または三官能性以上のウレタン結合を有するジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記(メタ)アクリレート系重合性単量体以外に歯科用組成物の目的に応じて他の重合性単量体、例えば分子内に少なくとも1個以上の重合性基を有する単量体、オリゴマーまたはポリマーを用いても何等制限はない。また、酸性基やフルオロ基等の置換基を同一分子内に有していても何等問題はない。
本発明において、重合性単量体とは単一成分の場合のみならず、複数の重合性単量体からなる重合性単量体の混合物も含む。また、重合性単量体の粘性が室温で極めて高い場合、または固体である場合は、低粘度の重合性単量体と組合せ重合性単量体の混合物として使用するのが好ましい。この組合せは2種類に限らず、3種類以上であってもよい。また、単官能性重合性単量体だけの重合体は架橋構造を有しないので、一般に重合体の機械的強度が劣る傾向にある。そのために、重合性単量体を使用する場合は、多官能性重合性単量体とともに使用するのが好ましい。重合性単量体の最も好ましい組合せは、二官能性重合性単量体の芳香族化合物を主成分として二官能性重合性単量体の脂肪族化合物と組合わせる方法である。具体的に示すと、2,2−ビス(4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン(Bis−GMA)とトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)の組合せである。
本発明の有機複合フィラーを含んだ歯科組成物に歯質または卑金属接着性を付与する場合は、重合性単量体の一部または全部としてリン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸基を分子内に含有した重合性単量体を用いることが効果的である。また、貴金属接着性を付与させるには、硫黄原子を分子内に含有した重合性単量体を使用することも本発明にとって有効である。これらに対し接着能を有する重合性単量体として、具体的に例示すれば次の通りである。
カルボン酸基含有重合性単量体:(メタ)アクリル酸、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、6−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸およびその無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸およびその無水物、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレエート、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、p−ビニル安息香酸等が挙げられる。
リン酸基含有単量体:2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンフォスフェート等が挙げられる。
スルホン酸基含有単量体:2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシベンゼンスルホン酸、3−(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸等が挙げられる。
硫黄原子を含有する重合性単量体:トリアジンチオール基を有する(メタ)アクリレート、メルカプト基を有する(メタ)アクリレート、ポリスルフィド基を有する(メタ)アクリレート、チオリン酸基を有する(メタ)アクリレート、ジスルフィド環式基を有する(メタ)アクリレート、メルカプトジアチアゾール基を(メタ)アクリレート、チオウラシル基を有する(メタ)アクリレート、チイラン基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。これら重合性単量体は単独または2種以上を混合して使用しても何等問題はない。
本発明の有機複合フィラーとともに、歯科用組成物中に使用することのできる重合開始剤は特に限定されず、公知のラジカル発生剤が何等制限なく用いられる。
重合開始剤は一般に使用直前に混合することにより重合を開始させるもの(化学重合開始剤)、加熱や加温により重合を開始させるもの(熱重合開始剤)、光照射により重合を開始させるもの(光重合開始剤)に大別される。
化学重合開始剤としては、有機過酸化物/アミン化合物または有機過酸化物/アミン化合物/スルフィン酸塩、有機過酸化物/アミン化合物/ボレート化合物からなるレドックス型の重合開始系、酸素や水と反応して重合を開始する有機金属型の重合開始剤系が挙げられ、さらにはスルフィン酸塩類やボレート化合物類は酸性基を有する重合性単量体との反応により重合を開始させることもできる。
上記有機過酸化物として具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン、2,5−ジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエード等が挙げられる。
上記アミン化合物としては、アミン基がアリール基に結合した第二級または第三級アミンが好ましく、具体的に例示するとp−N,N’−ジメチル−トルイジン、N,N’−ジメチルアニリン、N’−β−ヒドロキシエチル−アニリン、N,N’−ジ(β−ヒドロキシエチル)−アニリン、p−N,N’−ジ(β−ヒドロキシエチル)−トルイジン、N−メチル−アニリン、p−N−メチル−トルイジン等が挙げられる。
上記スルフィン酸塩類としては具体的に例示すると、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等が挙げられる。
上記ボレート化合物としては、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p−フロロフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩などが挙げられる。
また、上記有機金属型の重合開始剤としては、トリフェニルボラン、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物等の有機ホウ素化合物類等が挙げられる。
また加熱や加温による熱重合開始剤としては、上記有機過酸化物の他にアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物類が好適に使用される。
一方、光重合開始剤としては、光増感剤からなるもの、光増感剤/光重合促進剤等が挙げられる。
上記光増感剤として具体的に例示すると、 ベンジル、カンファーキノン、α−ナフチル、アセトナフセン、p,p’−ジメトキシベンジル、p,p’−ジクロロベンジルアセチル、ペンタンジオン、1,2−フェナントレンキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン、ナフトキノン等のα−ジケトン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−メトキシチオキサントン、2−ヒドロキシチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、ベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド類、2−ベンジル―ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル―ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1等のα-アミノアセトフェノン類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジル(2−メトキシエチルケタール)等のケタール類、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス[2,6−ジフルオロ−3−(1−ピロリル)フェニル]−チタン、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(ペンタンフルオロフェニル)−チタン、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ジシロキシフェニル)−チタン等のチタノセン類が挙げられる。
上記光重合促進剤として具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、p−N,N−ジメチル−トルイジン、m−N,N−ジメチル−トルイジン、p−N,N−ジエチル−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッド、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドエチルエステル、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドアミノエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、p−N,N−ジヒドロキシエチル−トルイジン、p−ジメチルアミノフェニルアルコール、p−ジメチルアミノスチレン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2’−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等の第三級アミン類、N−フェニルグリシン等の第二級アミン類、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジバーサテート、ジオクチルスズビス(メルカプト酢酸イソオクチルエステル)塩、テトラメチル−1,3−ジアセトキシジスタノキサン等のスズ化合物類、ラウリルアルデヒド、テレフタルアルデヒド等のアルデヒド化合物類、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトベンゾオキサゾール、1−デカンチオール、チオサルチル酸等の含イオウ化合物等が挙げられる。さらに、光重合促進能の向上のために、上記光重合促進剤に加えて、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸、グルコン酸、α−オキシイソ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、ジメチロールプロピオン酸等のオキシカルボン酸類の添加が効果的である。
これらの重合開始剤は単独または2種以上を混合して用いることができる。また、重合形態や重合開始剤の種類に関係なく、組合わせて用いることもできる。
重合開始剤の添加量は、使用用途に応じて適宜選択すればよい。一般には、重合性単量体に対して0.1〜10重量部の範囲から選べばよい。
上記に述べた重合開始剤の中でも、光照射によりラジカルを発生する光重合開始剤を用いることが好ましい態様であり、空気の混入が少ない状態で歯科用組成物を重合させることができる点で最も好適に使用される。また、光重合開始剤の中でも、α−ジケトンと第三級アミンの組合せがより好ましく、カンファーキノンとp−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル等のアミノ基がベンゼン環に直結した芳香族アミンまたはN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート等の分子内に二重結合を有した脂肪族アミン等の組合せが最も好ましい。
また、使用用途に応じて他に、クマリン系、シアニン系、チアジン系等の増感色素類、ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、ジフェニルヨードニウム塩化合物等の光照射によりブレンステッド酸またはルイス酸を生成する光酸発生剤、第四級アンモニウムハライド類、遷移金属化合物類等も適宜使用することができる。
歯科用組成物として本発明の有機複合フィラー以外に第2のフィラーを配合することができる。第2のフィラーとしては、歯科用フィラーとして公知なもの、例えば、石英、無定形シリカ、クレー、酸化アルミニウム、タルク、雲母、カオリン、ガラス、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化カルシウム、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム等の無機物;ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステル、ナイロン等の高分子またはオリゴマー等の有機物;および有機−無機の複合物等が好適に使用できる。第2のフィラーは単独または2種以上を使用しても何等問題はない。またこの第2のフィラーは通常、公知として用いられているチタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤やシランカップリング剤で表面処理したものを使用するのがより好ましい。第2のフィラーの混合割合は、必要に応じて適宜選択でき、例えば1〜90重量部の割合となる範囲から選べばよい。
また、歯科用組成物の中には、2−ヒドロキシ−4−メチルベンゾフェノンのような紫外線吸収剤、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,5−ジタ−シャリ−ブチル−4−メチルフェノール等の重合禁止剤、変色防止剤、抗菌材、着色顔料、その他の従来公知の添加剤等の成分を、必要に応じて任意に添加できる。
本発明の歯科用組成物の包装形態は、特に限定されず、重合開始剤の種類、または使用目的により、1パック包装形態および2パック包装形態、またはそれ以外の形態のいずれも可能であり、用途に応じて適宜選択することができる。
以下、実施例により本発明をより詳細に、且つ具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
以下の実施例において採用した歯科用組成物の性能評価法は次の通りである。
(1)曲げ試験
評価目的:
歯科用組成物試験体の曲げ強度および曲げ弾性率を評価する。
評価方法:
調製した歯科用組成物をステンレス製金型に充填した後、両面にカバーガラスを置きガラス練板で圧接した後、光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて5ヶ所30秒間ずつ光照射を行い、硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出した後、再び同様に裏面も光照射を行い、それを試験体(25×2×2mm:直方体型)とした。その試験体を37℃、24時間水中に浸漬した後曲げ試験を行った。
曲げ試験は、インストロン万能試験機(インストロン5567,インストロン社製)を用い支点間距離20mm,クロスヘッドスピード1mm/minにて行った。
なお、試験は試験体数10個で行い、その平均値をもって評価した。
(2)耐久性試験(長期水中浸漬後の曲げ試験)
評価目的:
歯科用組成物試験体の長期水中浸漬後における曲げ強度および曲げ弾性率を評価する。
評価方法:
調製した歯科用組成物をステンレス製金型に充填した後、両面にカバーガラスを置きガラス練板で圧接した後、光重合照射器(グリップライトII:松風社製)を用いて5ヶ所30秒間ずつ光照射を行い、硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出した後、再び同様に裏面も光照射を行い、それを試験体(25×2×2mm:直方体型)とした。その試験体を37℃、1ヶ月水中に浸漬した後曲げ試験を行った。
曲げ試験は、インストロン万能試験機(インストロン5567,インストロン社製)を用い支点間距離20mm,クロスヘッドスピード1mm/minにて行った。
なお、試験は試験体数10個で行い、その平均値をもって評価した。
実施例1
(有機−無機重合体粒子Aの製造)
超微粒子シリカ(日本アエロジル社製、商品名:アエロジルOX−50)を通法に従い、8重量部のγ‐メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(以下γ‐MPSと略す)で表面処理を行い、超微粒子フィラーとした。
次に、N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス[2−(アミノカルボキシ)エタノール]メタクリレート(以下、UDMAと略す) 70重量部、トリエチレングリコールジメタクリレート(以下、TEGDMAと略す) 30重量部、過酸化ベンゾイル(以下、BPOと略す) 0.5重量部からなる混合物 50重量部に、上記超微粒子フィラー 50重量部を混合して均一に混練した。その後、窒素雰囲気下、100℃にて24時間加熱して硬化させたものを粉砕および分級することにより、平均粒子径が22μmの有機−無機重合体粒子Aを得た。
(無機質皮膜の形成)
T.K.ハイビスミックスの容器中にエタノール700重量部、蒸留水100重量部と少量の塩酸を入れた後、そこに上記有機−無機重合体粒子A150重量部を投入して、40℃〜50℃の温度で均一に攪拌した。その系中に、シラン化合物の低縮合物(三菱化学社製、商品名:MS51SG1(SiO2含量16%、重合度2〜6))26.0重量部を断続的に滴下し、10時間反応させた。反応終了後、エタノールおよび蒸留水を除去した後、熱処理および解砕を経て、粉末を得た。さらにこの粉末を通法に従い、3重量部のγ‐MPSで表面処理を行い、表面改質有機複合フィラーAを得た。
(歯科用組成物の調製)
UDMA70重量部、TEGDAMA30重量部、カンファーキノン(以下、CQと略す) 0.3重量部、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル(以下、DMABEと略す) 2重量部からなるレジン組成物30重量部に対して、表面改質有機複合フィラーA 65重量部、超微粒子フィラー 5重量部を、それぞれ充填材として混合し混練することにより、ペースト状の歯科用組成物A−1を調製した。
実施例2
実施例1の無機質皮膜の形成時においてシラン化合物の低縮合物に加え、γ―MPS 4.3重量部を添加した以外は実施例1と同様に行い、表面改質有機複合フィラーBを得た。また、この表面改質有機複合フィラーBを用いて実施例1と同様にペースト状の歯科用組成物A−2を調製した。
実施例3
実施例1の無機質皮膜の形成時においてシラン化合物の低縮合物に加え、ジルコニウムn−プロポキシド(松本製薬工業製、商品名:オルガチックスZA−40(ZrO2全量28.0%)) 10.7重量部を添加した以外は実施例1と同様に行い、表面改質有機複合フィラーCを得た。また、この表面改質有機複合フィラーCを用いて実施例1同様にペースト状の歯科用組成物A−3を調製した。
実施例4
(有機−無機重合体粒子Bの製造)
平均粒子径1μmのバリウムボロアルミナシリケートガラス(ショット社製、商品名:GM−27884)を通法に従い、9重量部のγ‐MPSで表面処理を行い、バリウムガラスフィラーとした。
次に、UDMA70重量部、TEGDMA30重量部、BPO 0.5重量部からなる混合物50重量部に、上記バリウムガラスフィラー50重量部を混合し均一に混練した。その後窒素雰囲気下、100℃にて24時間加熱して硬化させたものを粉砕および分級することにより、平均粒子径が22μmの粉末である有機−無機重合体粒子Bを得た。
(無機質皮膜の形成)
T.K.ハイビスミックスの容器中にエタノール700重量部、蒸留水100重量部と少量の塩酸を入れた後、そこに上記有機−無機重合体粒子B150重量部を投入し、40℃〜50℃の温度で均一に攪拌した。その系中に、シラン化合物の低縮合物(三菱化学社製、商品名:MS51SG1(SiO2含量16%、重合度2〜6))26.0重量部を断続的に滴下し、10時間反応させた。反応終了後、エタノールおよび蒸留水を除去した後、熱処理および解砕を経て、粉末を得た。さらにこの粉末を通法に従い、3重量部のγ‐MPSで表面処理を行い、表面改質有機複合フィラーDを得た。
(歯科用組成物の調製)
2,2-ビス(4−(3−メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン(Bis-GMA) 60重量部、TEGDMA 40重量部、CQ0.3重量部、DMABE 2重量部からなるレジン組成物30重量部に対して、表面改質有機複合フィラーD65重量部、超微粒子フィラー 5重量部をそれぞれ充填材として混合し混練することにより、ペースト状の歯科用組成物A−4を調製した。
実施例5
実施例4の無機質皮膜の形成時に用いたシラン化合物の低縮合物量を39.0重量部にし、ジルコニウムn−プロポキシド(松本製薬工業製、商品名:オルガチックスZA−40(ZrO2全量28.0%))16.1重量部を添加した以外は実施例4と同様に行い、表面改質有機複合フィラーEを得た。また、この表面改質有機複合フィラーEを用いて実施例4と同様にペースト状の歯科用組成物A−5を調製した。
比較例1および2
実施例1および4で作製した有機−無機重合体粒子AおよびBを用いて、通法に従い、3重量部のγ‐MPSで表面理を行い、シラン処理有機−無機重合体粒子1および2を得た。これらのフィラーを用いて、実施例1および実施例4と同様に行いペースト状の歯科用組成物A−6および7を調製した。
上記で調製したペースト状の歯科用組成物A−1〜A−7を用いて曲げ試験および耐久性試験を行った。その結果を表1に示す。
Figure 2010229420

Claims (7)

  1. 有機重合体粒子の表面が無機質皮膜で被覆され、
    無機質皮膜が、
    (1)一般式(I):
    Figure 2010229420
    (式中、ZはRO-またはOCN-、Xはハロゲン、YはOH-、Rは炭素数が8以下の有機基、n、mおよびLは0〜4の整数であって、n+m+L=4である)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物の加水分解または部分加水分解された縮合物、
    (2)前記一般式(I)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物を、
    一般式(II):
    Figure 2010229420
    (式中、ZはR1O-またはOCN-、Xはハロゲン、YはOH-、R1は炭素数が8以下の有機基、R2は有機基、a、bおよびcは0〜3の整数、pは1〜3の整数であって、a+b+c+p=4である)で表されるオルガノシラン化合物および/またはオルガノシラン化合物の低縮合物の共存下で、加水分解または部分加水分解された共縮合物、
    (3)前記一般式(I)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物を、金属化合物の共存下で、加水分解または部分加水分解された共縮合物、または
    (4)前記一般式(I)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物を、前記一般式(II)で表されるオルガノシラン化合物および/またはオルガノシラン化合物の低縮合物および金属化合物の共存下で、加水分解または部分加水分解された共縮合物である有機複合フィラー。
  2. (1)有機重合体粒子を、水性媒体中に分散させ分散体を調製する工程、(2)得られた分散体中の粒子表面に無機質皮膜を形成する工程、(3)無機質皮膜を形成した粒子を分離および/または熱処理する工程、および(4)熱処理造粒体を1次粒子に解砕する工程を含む請求項1記載の有機複合フィラーの製造方法。
  3. 無機質皮膜を形成する工程が、
    水性媒体中に分散した有機重合体粒子の存在下で、一般式(I):
    Figure 2010229420
    (式中、ZはRO-またはOCN-、Xはハロゲン、YはOH-、Rは炭素数が8以下の有機基、n、mおよびLは0〜4の整数であって、n+m+L=4である)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物を、加水分解または部分加水分解し縮合する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の有機複合フィラーを製造するための請求項2記載の製造方法。
  4. 無機質皮膜を形成する工程が、
    前記一般式(I)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物を、一般式(II):
    Figure 2010229420
    (式中、ZはR1O-またはOCN-、Xはハロゲン、YはOH-、R1は炭素数が8以下の有機基、R2は有機基、a、bおよびcは0〜3の整数、pは1〜3の整数であって、a+b+c+p=4である)で表されるオルガノシラン化合物および/またはオルガノシラン化合物の低縮合物の共存下で、加水分解または部分加水分解し共縮合する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の有機複合フィラーを製造するための請求項2記載の製造方法。
  5. 無機質皮膜を形成する工程が、前記一般式(I)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物を、金属化合物の共存下で、加水分解または部分加水分解し共縮合する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の有機複合フィラーを製造するための請求項2記載の製造方法。
  6. 無機質皮膜を形成する工程が、前記一般式(I)で表されるシラン化合物および/またはシラン化合物の低縮合物を、前記一般式(II)で表されるオルガノシラン化合物および/またはオルガノシラン化合物の低縮合物および金属化合物の共存下で、加水分解または部分加水分解し共縮合する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の有機複合フィラーを製造するための請求項2記載の製造方法。
  7. (a)請求項1に記載の有機複合フィラー、および請求項2〜6に記載の製造方法で得られる有機複合フィラーのうちいずれか1つの有機複合フィラー、(b)重合性単量体、および(c)重合開始剤、を含有してなる歯科用組成物。
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