JP4577999B2 - 低C−Mn系超微細粒鋼とその製造方法 - Google Patents

低C−Mn系超微細粒鋼とその製造方法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、強度−靭性バランスに優れ、且つ均一延性にも優れた低C−Mn系超微細粒鋼に関し、更には強度−靭性バランスに優れ、且つ均一延性および延性に優れた低C−Mn系超微細粒鋼に関するものである。尚、本発明では、引張試験における最大荷重までの均一伸びを指標とした特性を「均一延性」とし、試験片破断に至るまでの全伸びを指標とした特性を「延性」ということとする。
【0002】
【従来の技術】
金属組織におけるフェライト(以下、αと示す)の結晶粒を微細化することによって、鋼の強度および靭性を同時に高めることができることから、αの結晶粒を微細化する技術がこれまで進められてきた。ところがαの結晶粒径が小さくなるに従い、強度−靭性バランスが良くなる一方で、降伏比が上昇し、細粒化による局所延性の向上以上に急激な均一延性の劣化が生ずるという問題がある。この様な状況から、従来では、均一延性を確保するためαの結晶粒径を5μm程度とするにとどまっていた。
【0003】
従って、αの結晶粒径が3.0μm以下の超微細領域においては、優れた強度−靭性バランスを確保することができるにもかかわらず、上述の様に均一延性の急激な劣化が生じて、延性も劣化してしまうこととなるため、この様な超微細粒鋼は、強度および靭性とともに成形性が要求される部位では実用化に至っていないというのが現状である。
【0004】
近年では、主相をαとし、第2相をパーライトまたはセメンタイトとしてこの第2相の体積率を増加することで、強度−延性バランスを高めることができたとの報告もなされているが、αの結晶粒径が3.0μm以下の超微細粒領域を対象とするものではない。
【0005】
特開昭55−122821号には、主相をαとし、第2相をマルテンサイト(以下、α’と示す)とすることで、低降伏比で延性に優れた鋼を得ることができたことが開示されている。しかしながらここでは、本発明で対象としている様な、降伏比が上昇して延性が急激に劣化する結晶粒超微細領域についてまでは検討していない。
【0006】
また従来より、αの結晶粒径が10μm近辺では、α’を導入することで均一延性を向上できることについて知られているが、αの結晶粒径が3μm以下の超微細結晶粒の領域で、α’が有効に働くという知見は得られていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであって、強度−靭性バランスに優れ、更に均一延性、または均一延性および延性に優れた低C−Mn系超微細粒鋼を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る低C−Mn系超微細粒鋼とは、質量%で、C:0.03〜0.25%、Mn:1.0〜3.0%を満たす鋼であって、αの平均粒径が3.0μm以下、α’の平均粒径が10.0μm以下、更にα’の体積率が15〜23%であることを要旨とするものである(以下、本発明1ということがある)。この様な超微細粒鋼を製造するに当たっては、熱間圧延に際して、まず900〜1000℃に加熱した後、800〜675℃の温度範囲内で、パス数:3以下、かつ累積圧下率:87%以上の熱間圧延を行い、その直後に急冷を行うようにすればよい。
【0009】
また、本発明の超微細粒鋼は、C:0.03〜0.25%、Mn:1.0〜3.0%を満たす鋼であって、αの平均粒径が3.0μm以下、α’の平均粒径が5.0μm以下、更にα’の体積率が15〜23%であることを要旨とするものでもある(以下、本発明2ということがある)。この様な超微細粒鋼を製造するに当たっては、熱間圧延に際して、まず900〜1000℃に加熱した後、800〜675℃の温度範囲内で、パス数:3以下、うち少なくとも1パスが圧下率87%以上である熱間圧延を行い、その直後に急冷を行うようにすればよい。
【0010】
本発明の超微細粒鋼は、更にTiおよび/またはNbを合計で0.005〜0.07%含むものであることが好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、前述した様な状況の下で、優れた強度−靭性バランスを有すると共に、優れた均一延性、あるいは均一延性および延性を発揮する超微細粒鋼の実現を目指して鋭意研究を進めた。その結果、低C−Mn系鋼にてαの結晶粒径を微細化するとともに、第2相として平均粒径および体積率を制御したα’を生成すれば、良好な強度−靭性バランスを確保することができるとともに、超微細粒鋼の課題である均一延性の向上、あるいは均一延性および延性の向上を達成できることを突き止めた。そして前記α’の平均粒径および体積率が、均一延性や延性に及ぼす定量的作用効果、および本発明の様な組織を得るための製造方法について追求を重ねた結果、本発明に想到したのである。
【0012】
以下、強度と靭性とのバランスが良好であって、更に均一延性にも優れた超微細粒鋼、あるいは強度と靭性とのバランスが良好であって、更に均一延性および延性にも優れた超微細粒鋼を得るために、本発明で金属組織や化学成分、製造条件等の要件を定めた理由について詳細に述べる。
【0013】
まず金属組織についてであるが、本発明では、優れた強度−靭性バランスを確保するためにαを平均粒径3.0μm以下の超微細粒とした場合であっても、平均粒径および体積率を本発明の如く制御したα’を第2相とすれば、強度−靭性バランスのみならず、均一延性にも優れた鋼、あるいは均一延性および延性にも優れた鋼が得られることを見出した。
【0014】
即ち本発明では、第2相であるα’の平均粒径を特に10μm以下とし、かつ体積率を15〜23%の範囲内にすれば、超微細粒鋼において有効に均一延性を向上できることが分かった。更に、このα’の粒径を5μm以下とすることで、均一延性だけでなく延性も高めることができたのである。この様に均一延性、更には延性を向上させることができた理由の詳細は不明であるが、後記実施例に示す如く、優れた均一延性を確保するにはα’の平均粒径を10μm以下、均一延性に加えて延性を確保するには5μm以下とする必要がある。
【0015】
またα’の体積率が大きくなるほど、均一延性,延性の改善効果が有効に発揮されることからα’の体積率は15%以上とする。しかしながら、α’の体積率が高すぎても、強度のみが高まって延性や均一延性が劣化し、強度−延性バランスが崩れることとなるので、α’の体積率は23%以下、好ましくは20%以下とする。
【0016】
尚、前記強度−靭性バランスをより優れたものとするには、αの平均粒径を1μm以下とすることが好ましい。
【0017】
次に本発明で化学成分を規定した理由について述べる。
【0018】
C:0.03〜0.25%
本発明の場合、鋼中C量と加熱温度によってα+γ(オーステナイト)域まで加熱した時のγ生成量が決まり、これが冷却後に生成するα’の体積率にも影響する。従って、本発明で規定する量のα’を確保するには、Cを0.03%以上添加することが必要であり、好ましくは0.05%以上である。しかし過剰に添加すると、α’生成量が多くなり過ぎて強度のみが高まり、均一延性や延性の劣化を引き起こすこととなるので、C含有量を0.25%以下、好ましくは0.20%以下に抑える。
【0019】
Mn:1.0〜3.0%
本発明で規定するα’量を確保するには、Mnを1.0%以上添加して焼入れ性を高める必要がある。しかしながら、過剰に添加して焼入れ性を高めすぎると、均一延性や延性の発現に有効なポリゴナルフェライトが生成し難くなり、代わりに硬質のベイナイト(ベイニティックフェライト)が生成して均一延性や延性の向上を妨げることとなるので、Mn含有量は3.0%以下、好ましくは2.0%以下に抑える必要がある。
【0020】
本発明における代表的な化学成分組成は以上の通りであるが、必要によってはTiおよび/またはNbを添加して、次の様な改善効果を得ることも有効である。即ち、Ti,Nbは、γの回復・再結晶を抑制するのに有効な元素であることから、合計で0.005%以上添加することが好ましく、より好ましくは合計で0.01%以上である。しかしながら、これらTi,Nbの添加量が多すぎると、TiC,NbCが析出して析出強化が生じ、延性を劣化させることとなるので、合計で0.07%以下とすることが好ましく、より好ましくは合計で0.05%以下である。
【0021】
尚、本発明鋼中に含まれる元素については、上記説明したものの他、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避不純物、更には、前記本発明の作用に悪影響を与えない範囲で他の元素を積極的に含有させることも可能である。積極添加が許容される他の元素の例としては、α’を安定的に生成して強度−均一延性バランスや強度―延性バランスを改善するのに有効なSiや、Mnと同様に焼入れ性を高める効果を有するCr,Mo,Cu,Ni,Bが挙げられる。またTi,Nbの様にγの回復・再結晶を抑制する元素としてV,Zr等が挙げられる。
【0022】
次に、本発明の超微細粒鋼を製造する有効な方法について述べる。
【0023】
良好な強度−靭性バランスに加えて、優れた均一延性を発揮しうる金属組織を得るには、熱間圧延を行うに際して、まず900〜1000℃に加熱し、次に800〜675℃の温度範囲内で、パス数:3以下、かつ累積圧下率:87%以上にて熱間圧延し、その直後に急冷を行うようにすればよい。
【0024】
前記熱間圧延を行うにあたって加熱する際の温度が低すぎると、圧延前にα+γの2相となり、圧延前の焼入れ性が不足して圧延後の組織にα’が残存しなくなるため、前記加熱温度は900℃以上、好ましくは925℃以上とする必要がある。一方、前記加熱温度が高すぎてもγ粒径が粗大化し、圧延しても組織が十分に微細化しなくなると共にα’も生成し難くなることから、前記加熱温度は1000℃以下、好ましくは975℃以下とする。
【0025】
また熱間圧延開始温度が低すぎると、前記加熱で生成したγが圧延中にパーライトやセメンタイトに変態してしまい、α’が残存し難くなると共にα’の微細化も困難となることから、圧延開始温度は675℃以上、好ましくは700℃以上で行う必要がある。一方、圧延開始温度が高すぎても、圧延によって導入される歪みが急速に回復して組織の微細化が進まないので、800℃以下、好ましくは750℃以下で行うこととする。
【0026】
熱間圧延は、パス数を3以下、好ましくは2以下とし、かつ累積圧下率を87%以上、好ましくは93%以上とすれば、本発明の如く微細なαおよびα’が得られるのである。
【0027】
本発明者らは、均一延性のみならず延性も高めることについて検討した結果、特に、前記熱間圧延をパス数3以下、かつその内の1パスを圧下率:87%以上で行うことが有効であることが分かった。この様に1パスを圧下率87%以上で行うことによって、α’が微細分散することから、均一延性のみならず延性も向上できるものと考えられる。
【0028】
本発明の超微細粒鋼を製造するにあたっては、上記熱間圧延後の冷却を急冷とする必要がある。前記冷却が徐冷の場合には、セメンタイトやパーライトが生成し、本発明で規定する平均粒径および体積率を満たす様なα’が得られないからである。急冷は水冷で行うことが好ましく、その他、オイル急冷を行うことも考えられる。
【0029】
尚、本発明は、その他の製造条件を特定するものではなく、本発明で規定する元素を含有する鋼を用い、本発明で規定する様な方法で熱間圧延を行えば、良好な強度および靭性に加えて、優れた均一延性、あるいは優れた均一延性および延性を発揮することのできる金属組織が得られるのである。
【0030】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。即ち、下記実施例では、最終製品として形状が鋼板のものを製造しているが、本発明は、最終製品の形状まで限定するものではなく、鋼板の他、線材、棒鋼、型鋼であってもよい。
【0031】
<実施例1>
C:0.17%,Si:0.44%,Mn:1.3%,Nb:0.015%,およびTi:0.01%を含む鋼材を転炉にて溶製し、50mm×50mm×300mmのスラブにした。得られたスラブを用い、熱間圧延を表1に示す加熱温度、圧延開始温度、パススケジュールで行った。圧延直後に水焼入れ(WQ)を行い鋼板を得た。
【0032】
得られた鋼板の機械的性質は、板厚2mmの試験片で引張試験を行って測定した。金属組織は、1/4t部位のSEM写真(倍率:1000倍)を3枚撮影し、画像解析によりαの平均粒径、α’の体積率および平均粒径を求めた。これらの結果を一括して表1に示す。
【0033】
【表1】
Figure 0004577999
【0034】
表1に示す実験結果より、No.3および7は、本発明1および本発明2のいずれの要件も満たすものであり、強度−均一延性バランスのみならず、強度−延性バランスにも優れていることが分かる。またNo.6は、本発明1の要件を満たしていることから、強度−均一延性バランスに優れていることが分かる。
【0035】
これに対し、No.1,2,4,5および8〜10、12は、本発明のいずれの要件も満足するものではないので、強度−均一延性バランスおよび強度−延性バランスのどちらも好ましくないものが得られた。この様な結果となった理由として、No.1,2および5では、熱間圧延における累積圧下率が87%以上でなかったことから、平均粒径の大きすぎるα’が多量に又は少量生成したことが挙げられる。No.10では、熱間圧延に際して行う加熱を低温で行ったためα’を生成させることができなかったこと、No.12では、前記加熱温度が高すぎたためにαが粗大化し、かつα’が生成しなかったことが理由として挙げられる。またNo.4では、熱間圧延開始温度が低すぎたので、規定範囲を超える平均粒径のα’が少量生成したこと、更にNo.8および9では、熱間圧延時のパス数が3を超えたのでα’が生成しなかったことが、強度−均一延性バランスや強度−延性バランスに劣ることとなった理由に挙げられる。
【0036】
<実施例2>
次に、化学成分を変化させた場合の影響を調べた。表2に示す各成分の鋼材を150kVIF(真空誘導溶解炉)で溶製して50mm×50mm×300mmのスラブを得た。得られたスラブを950℃に加熱した後、熱間圧延を、圧延開始温度700℃、パス数2、累積圧下率95%の条件で行い、直後に水焼入れ(WQ)を行って最終板厚が2.5mmの鋼板を得た。得られた鋼板の機械的特性を前記実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表2に併記する。尚、No.20では、鋼の組織がベイナイト組織になったことから、前記機械的特性を測定しなかった。
【0037】
【表2】
Figure 0004577999
【0038】
表2に示す実験結果より、No.17〜19および21は、本発明の要件を満たす鋼であり、No.17は強度−均一延性バランスに優れ、No.18,19および21は、強度−均一延性バランス、および強度−延性バランスともに優れていることが分かる。
【0039】
これに対し、No.13〜16は、本発明の要件を満足するものではないため、強度−均一延性バランス、および強度−延性バランスのどちらも好ましくないものとなった。その理由として、No.13ではC含有量が少なすぎたことから、規定する体積率を満足するだけのα’を確保することができなかったこと、No.14では、C含有量が過剰であるため平均粒径の大きすぎるα’が多量に生成したことが挙げられる。
【0040】
No.15および16では、Ti,Nb量が多過ぎたためにTiC,NbCが析出し、結果としてNo.15ではα’の体積率が減少し、No.16ではα’の体積率が減少すると共にα’の平均粒径が粗大化して、延性が劣化することとなった。
【0041】
またNo.20では、Mn含有量が過剰であることから焼入れ性が高まりすぎてベイナイトが生成し、本発明で規定する様なαおよびα’が生成されなかった。
【0042】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、規定する化学成分を満たす鋼を用い、本発明で規定する方法で製造して鋼の組織を適切に調整することによって、強度−靭性バランスに優れ、更に均一延性、あるいは均一延性および延性にも優れた超微細粒鋼を実現することができた。そして、こうした鋼材の実現により、複雑な成形加工を要する自動車の車体等に活用できることとなった他、建築、電機、機械分野における複雑な部品等にも有効に活用し得ることとなった。

Claims (5)

  1. 質量%で(以下同じ)、C:0.03〜0.25%、Si:0.44%以下、Mn:1.0〜3.0%を含有し、残部:鉄および不可避不純物である鋼であって、フェライトの平均粒径が3.0μm以下、マルテンサイトの平均粒径が10.0μm以下、更にマルテンサイトの体積率が15〜23%であることを特徴とする低C−Mn系超微細粒鋼。
  2. C:0.03〜0.25%、Si:0.44%以下、Mn:1.0〜3.0%を含有し、残部:鉄および不可避不純物である鋼であって、フェライトの平均粒径が3.0μm以下、マルテンサイトの平均粒径が5.0μm以下、更にマルテンサイトの体積率が15〜23%であることを特徴とする低C−Mn系超微細粒鋼。
  3. 更にTiおよび/またはNbを合計で0.005〜0.07%含む請求項1または2に記載の低C−Mn系超微細粒鋼。
  4. 請求項1に記載の超微細粒鋼を製造するに当たり、熱間圧延に際してまず900〜1000℃に加熱した後、800〜675℃の温度範囲内でパス数:3以下、かつ累積圧下率:87%以上の熱間圧延を行い、その直後に急冷することを特徴とする低C−Mn系超微細粒鋼の製造方法。
  5. 請求項2に記載の超微細粒鋼を製造するに当たり、熱間圧延に際してまず900〜1000℃に加熱した後、800〜675℃の温度範囲内でパス数:3以下、うち少なくとも1パスが圧下率87%以上である熱間圧延を行い、その直後に急冷することを特徴とする低C−Mn系超微細粒鋼の製造方法。
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