JP4577100B2 - 高張力溶融亜鉛めっき鋼板と製造方法 - Google Patents

高張力溶融亜鉛めっき鋼板と製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、高張力溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する。特に、本発明は主として自動車の車体等のようにプレス成形、曲げ加工、スポット溶接等を施す用途に好適な高張力溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造する方法に関する。
近年、地球環境保護のため、自動車の燃費向上が求められており、自動車用鋼板においては、車体の軽量化および安全性確保のため、引張強度(TS)≧780MPaである高強度鋼板へのニーズが高まっている。しかしながら、ただ単に高強度であればよいわけではない。例えば、成形性の観点からは高い延性、良好な曲げ性が求められており、衝突性能の観点からは高降伏比が、部品精度の観点からは低降伏比が、それぞれ求められている。また、部品精度に関しては、更にTS及び降伏強度(YS)の変動を少なくすることが求められている。一方、防錆性の観点からは、溶融亜鉛めっきを施した鋼板が求められている。
一般的に鋼の強化手法としては固溶強化、析出強化および変態強化があり、これらを組み合わせることにより、所定の引張強度を達成する。これらの組合せにより、同一引張強度であっても、そのとき得られる降伏比、延性、曲げ性、溶融めっき処理性,溶融めっき密着性、スポット溶接性等が異なる。従って、自動車用途として、上述の要求性能を高度にバランスさせるには、強化手法を適正にバランスさせることが重要である。
上述の強化手法のうち、変態強化を用いると、比較的容易に高強度化を達成することができる。例えば、特許文献1には鋼板にMn、Crを添加することにより、マルテンサイトやベイナイトを生成させ、TS≧981MPaを達成している。また、特許文献2にはMn、Cr、Moを添加し、さらに冷却速度を制御することによりフェライト・ベイナイト・マルテンサイトの混合組織を得、TS≧780MPaを達成している。また、特許文献3では、焼き戻しマルテンサイトを得ることにより、曲げ加工性と高強度化を達成している。
特許文献4には、20μm以下の組織を得る技術が開示されている。
特許文献5にはTSが785MPa(80kgf/mm2)以上でYRが60%以下の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の技術が開示されている。しかしながら、YRが60%以下の場合、軽加工部の降伏点は低く、耐側突用部材等のように高い降伏比が要求される用途には不向きである。
特許文献6にはYRが80%以上の高強度溶融亜鉛めっき鋼板に関する技術が開示されているが、YRが80%以上となると、プレス成形時の部品精度の観点からは不利となる。
特許文献7にはTSが780MPa超で粒径5μm以下の超微細粒に関する技術が開示されているが、780MPa超を実現するには2回焼鈍の例しかなく、これではコスト高となる。
特許文献8には特定組成の鋼をγ域で焼鈍することにより、加工性と材質安定性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板に関する技術が開示されている。しかしながら、合金化温度が500〜600℃となっており、合金化処理を行う事による強度低下が懸念される。
特開平5-105960号公報 特開平4-173946号公報 特開平6-108152号公報 特開2001-254144号公報 特開平4-236741号公報 特開平10-273754号公報 特開2002-88447号公報 特開平5-179402号公報
ここに、特許文献1〜3の技術によると、フェライトと硬質相の混合組織とすることにより、比較的容易に高強度化が図れ、かつ組織中にフェライトが存在するので延性も比較的高い。
しかしながら、これらは変態強化を主たる強化手法として採用しているため、冷却速度等の製造条件を厳密に規定しないと、強度が大きく変化する。また、これらの文献には粒径に関する記述は無いが、発明者等の検討によると上述のような変態強化主体の場合、フェライト相および硬質相の粒径は10μm〜20μmであり、曲げ性に劣る。また、細粒化が期待できるTi、Nbを任意添加した例も示されているが、その添加量は合計で0.05wt%未満であり、超微細粒ひいては良好な曲げ性を得るには不十分である。組織の微細化について前述の特許文献4では、最小の場合でも6μmであり、良好な曲げ性を得るには不十分である。さらに特許文献6に関して発明者らの検討によると、2回焼鈍を実施すると、曲げ性が劣化する。これは、硬質第2相への元素濃化が促進されるため、軟質なフェライト相と硬質第2相との硬度差が拡大するためと考えられる。
また、溶融めっき後の合金化処理に関して詳細に検討した例はほとんどない。これらの高張力溶融めっき鋼板は用途に応じて合金化処理がされる場合とされない場合がある。しかしながら、一般に高張力鋼板は合金元素を多量に含有しているため、合金化温度が一般軟鋼に比して高くなってしまう。一般的に、変態強化を活用する場合、合金化温度が高くなると、オーステナイト等が分解してしまい、最終的に得られる変態相が減少するために強度低下が発生する。従い、この強度低下を見越して成分設計が行われている。すなわち、合金化処理を行わない溶融亜鉛めっき鋼板と合金化溶融亜鉛めっき鋼板とでは、同一強度にするためには異なる成分が必要とされる。この傾向は変態強化を大幅に活用する780MPa超級でより顕著であり、同一強度クラスの鋼板にもかかわらず、溶融亜鉛めっきと合金化溶融亜鉛めっきで異なる成分が必要となり、管理コスト増となる。
本発明の課題は、強度・延性のバランス、曲げ性、スポット溶接性、めっき密着性のいずれにも優れ、溶融亜鉛めっき鋼板と合金化溶融亜鉛めっき鋼板とで同一成分で同一強度クラスの鋼板を得ることができる溶融亜鉛めっき鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板並びにそれらの製造方法を提供することである。
本発明者らは、少量の合金添加で高い強度が得られる析出強化系に着目し、上述の各種特性を高度にバランスさせる手法を鋭意研究した結果、鋼組成と組織を適正範囲に制御することにより、上述の特性バランスを満足する鋼板が得られることを知見し、本発明を完成させた。
ここに、本発明は次の通りである。
(1)鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を備える溶融亜鉛めっき鋼板において、前記鋼板が、質量%で、C:0.06〜0.20%、Si:0.10%以下、Mn:2.0〜4.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.015%以下を含有し、さらにTi:0.500%以下およびNb:0.500%以下の群から選ばれる1種または2種を合計で0.050%以上含有するとともに、下記(1‘)式を満足し、残部がFeおよび不純物からなる鋼組成を有し、フェライトの平均結晶粒径が5.0μm以下で硬質第2相の平均粒径が5.0μm以下であり、該硬質第2相が、マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイト、またはそれらの混合物であることを特徴とする引張強度が780MPa以上の高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
0.07+(Ti+Nb)/2+(Cu+Ni)/30-(Mn/100+P+Si/2+Mo/50+Cr/100)≧0.050 ・・・(1‘)
(2)鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を備える溶融亜鉛めっき鋼板において、前記鋼板が、質量%で、C:0.06〜0.20%、Si:0.25%以下、Mn:2.0〜4.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.015%以下を含有し、さらにTi:0.500%以下およびNb:0.500%以下の群から選ばれる1種または2種を合計で0.050%以上含有し、さらに、Cu:1.5%以下およびNi:1.5%以下の群から選ばれる1種または2種を合計で0.03%以上含有するとともに,下記(1)式を満足し、残部がFeおよび不純物からなる鋼組成を有し、フェライトの平均結晶粒径が5.0μm以下で硬質第2相の平均粒径が5.0μm以下であり、該硬質第2相が、マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイト、またはそれらの混合物であることを特徴とする引張強度が780MPa以上の高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
0.07+(Ti+Nb)/2+(Cu+Ni)/30-(Mn/100+P+Si/2+Mo/50+Cr/100)>0 ・・・(1)
(3)前記鋼板の鋼組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、V:1.0%以下およびB:0.01%以下の群から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の引張強度が780MPa以上の高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の鋼組成を備える冷間圧延鋼板を、Ac3点〜950℃の温度域に5〜200s滞在させた後に溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とする引張強度が780MPa以上の高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の鋼組成を備える冷間圧延鋼板を、Ac3点〜950℃の温度域に5〜200s滞在させた後に溶融亜鉛めっきを施し、更に510℃以下で合金化処理を行うことを特徴とする引張強度が780MPa以上の高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

なお、(1)式における各元素記号はそれぞれの元素の含有量(単位:質量%)であり、積極添加を行わない場合であっても不純物として含有される含有量により算出される。
本発明により、強度・伸びバランス、曲げ性、スポット溶接性、めっき密着性を高度にバランスさせた高張力溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
さらには、780MPa以上の引張強度を有し、降伏比が60〜80%の高張力溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。また、同様な強度・伸びバランスを有する溶融亜鉛めっき鋼板と合金化溶融亜鉛めっき鋼板を同一成分で製造することができる。
本発明にかかる鋼板は、産業上、特に、自動車分野において、広範に使用可能である。
本発明にかかる鋼板の鋼組成を上述のように規定した理由について説明する。本明細書において鋼組成を規定する「%」は「質量%」である。
C:0.06-0.20%
Cは鋼の強度を確保するのに必要な元素であるので含有量の下限を0.06%とする。しかし、過度の添加は溶接性を劣化させるため、含有量の上限を0.20%とした。望ましい含有量の下限は0.07%であり、上限は0.16%である。
Si:0.10%以下または0.25%以下
Siは固溶強化元素であり、鋼板の強化に有効であるが、めっきの濡れ性を劣化させる。さらには、Siは多量に存在すると、合金化処理を遅延させるため、合金化処理温度を高くせざるを得ず、溶融亜鉛めっき鋼板の場合と合金化溶融亜鉛めっき鋼板の場合とでは、強度・延性バランスを大きく変化させてしまう。そのため良好なめっきを安定的に得て、合金化温度を高めないためには含有量の上限を0.10%とする。ただし、CuおよびNiの1種または2種を合計で0.03%以上、望ましくは0.10%以上含有させると、めっき処理性が改善されるので、そのときは含有量の上限を0.25%まで緩和させることができる。
Mn:2.0〜4.0%
Mnは変態強化による鋼の高強度化に有効な元素である。また、鋼のAc3点を下げ、好適な焼鈍温度範囲を広げる効果も有する。そのため、2.0%以上含有させる。一方、過度の添加は強度・延性バランスを劣化させるので、含有量の上限を4.0%とする。望ましい含有量の下限は2.0%であり、上限は3.0%である。
P:0.05%以下
Pは固溶強化元素であり、鋼板の強化に有効であるが、めっきの密着性及び溶接性を劣化させる。そのため、P含有量の上限を0.05%とした。望ましくは、0.025%以下である。
S:0.05%以下
Sは鋼に不可避的に含有される不純物であり、加工性、溶接性の観点からは低いほど望ましい。そのため、S含有量を0.05%以下とした。穴広げ性が要求される場合には、含有量を0.005%以下とするのが望ましい。
Sol.Al:0.1%以下
Alは鋼の脱酸のために添加することができ、この効果を得るには、Sol.Al含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、過剰に添加しても効果が飽和するのでSol.Al含有量の上限を0.1%とした。
N:0.015%以下
Nは一般には不可避的に含有されるものであるが、本発明においては、鋼板中に、Ti系、Nb系、またはTi-Nb複合系の窒化物や炭窒化物を形成させて鋼板の強度を上昇させるのに有効であるから、下限を0.0005%とすることが好ましい。一方、過度の添加は粗大なTiNまたはNbNを形成させ、靭性が劣化するので、含有量の上限は0.015%とする。
Ti:0.500%以下、Nb:0.500%以下、Ti+Nb≧0.050%
Ti、Nbは1種または2種含有され、炭化物、窒化物、または炭窒化物を形成させ、鋼板の高強度化に有効な元素である。また、焼鈍中のフェライトの再結晶を抑制する効果を有し、かつオーステナイトへの変態を促進し、焼鈍後の冷却時のフェライト変態を著しく促進させる効果を有する。また、結晶粒径を極度に微細化する効果を有する。このような効果を発現させるためには、少なくとも1種を合計で0.05%以上含有させる。また、過度に添加しても、効果が飽和するため、それぞれの含有量の上限を0.500%とした。好ましくはそれぞれの上限は0.300%である。
Cu:1.5%以下、Ni:1.5%以下、Cu+Ni≧0.03%
本発明は溶融亜鉛めっきを施すことにより耐食性を兼備させるものであるが、必要に応じて添加されるCuおよび/またはNiは表面に濃化してSiの表面濃化を抑制するため、めっき性の観点から上限を0.10%に制限されるSi含有量を0.25%まで広げる効果を有する。そのため、CuおよびNiの1種または2種の合計含有量を0.03%以上とすることが好ましい。望ましくは0.10%以上である。それぞれの含有量が1.5%を超えると効果が飽和するので、それぞれの含有量の上限は1.5%とすることが好ましい。
また、Cuには溶融めっきが施されてない端部での耐食性を向上させる作用を有するので、Cu含有量を0.03%以上とすることが好ましく、0.5%を超えるとその効果は飽和する。
Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、V:1.0%以下、B:0.01%以下
本発明は、Ti、Nbによる析出強化と、Mnによる変態強化により780MPa以上の高強度化を達成することができる。さらに高強度化し、980MPa以上とする場合、Cr、Mo、VおよびBを1種又は2種以上添加すると効果的である。高強度化するためには、Cr、MoおよびVについてはそれぞれ0.03%以上、Bについては0.0003%以上含有させることが好ましい。一方、Cr、MoおよびVについては、過度に添加すると延性を極端に劣化させるので、それぞれの含有量の上限を1.0%とする。またBについては過度に添加すると靭性が劣化するので上限を0.01%とする。
なお、Bはフェライト変態を抑制して硬質第2相の生成を助長して鋼板を強化する作用を有するが、特にMoと共に含有させると曲げ性を著しく改善させる効果を有するので、MoとBとを複合して含有させることが好ましい。
0.07+(Ti+Nb)/2+(Cu+Ni)/30-(Mn/100+P+Si/2+Mo/50+Cr/100)>0 ・・・(1)
本発明は、合金元素の添加による合金化速度の遅延をTi、Nbの多量添加およびCu、Niの添加による合金化促進により補うことができ、(1)式を満足させれば、合金化温度を510℃以下に抑制することができる。合金化温度を510℃以下に抑える事ができれば、高張力鋼板、特にTSが780MPaを超える高張力鋼板において、合金化処理を施さない場合と合金化処理を施す場合とで強度の差が小さくなり、その結果、同一成分で作り分けることが容易となり、製造管理上非常に有利である。
本発明にかかる鋼板は微細組織を有し、そのときの組織は次のように規定される。
引張強度が780MPa以上となる領域で、良好な曲げ性を実現するためには、フェライトの平均結晶粒径および硬質第2相の平均粒径をそれぞれ5.0μm以下とする。さらにそれぞれ3.0μm以下とするのが望ましい。
ここで述べている硬質第2相は、SEMレベルで観察される1〜5μmのマルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイトまたはそれらの混合物である。
本発明の場合、焼鈍中にオーステナイト粒が微細化(粒径1〜5μm)し、その後の冷却中に微細オーステナイト粒の一部が微細フェライトに変態する。残った微細オーステナイト粒のうち、あるものはベイナイトに、あるものはマルテンサイトに、あるものはマルテンサイト・オーステナイト混合物に変態する。後述する図7のSEM観察組織写真に示すように、それらを「硬質第2相」と総称する。それらの粒径はSEM観察写真から、切断法によって求めることができる。
本発明にかかる鋼板は、その製造に際しては、熱間圧延、冷間圧延、そして溶融亜鉛めっきを経て製造される。
熱間圧延条件は常法によるもので本発明においても特に制限は無い。例えば、上記のように限定された成分を有する鋼を製鋼、分塊又は連続鋳造を経てスラブとした後、常法に従って熱間圧延を行う。このとき、粗圧延後、仕上圧延前の粗バーに対して、誘導加熱等により全長の温度均一化を図ると、特性変動を抑制することができるので好ましい。また、仕上圧延はAr3点以上で行うのが望ましい。
巻取り温度については、400℃以下となると、著しく硬化し、冷間圧延が困難になるので、下限を400℃とすることが好ましい。望ましくは500℃以上である。一方、700℃を超えるとスケールロスにより歩留が悪化するので上限を700℃とすることが好ましい。
熱間圧延後に行う酸洗、冷間圧延についても常法でもよい。酸洗の前もしくは後に、0〜5%程度の軽度の圧延を行い、形状を修正すると平坦確保の点で有利となる。また、この軽度の圧延により、酸洗性が向上し、表面濃化元素の除去が促進され、溶融めっきの密着性の観点から制限されているSi、Pの好適範囲を広げる効果がある。
冷間圧延については、35〜80%の範囲で特に問題はない。ただし、圧下率を高くすると、焼鈍時のオーステナイトへの変態を促進するので、焼鈍の好適範囲を広げる効果を有する。
このようにして得られた冷間圧延鋼板は、本発明によれば、Ac3点〜950℃の温度域に5〜200s滞在させた後に溶融亜鉛めっきを施す。Ac3点〜950℃の温度域に5〜200s滞在させる均熱処理と溶融亜鉛めっき処理とは連続溶融亜鉛めっきラインで行うことが好ましい。以下、この処理を連続溶融亜鉛めっきラインで行う場合を例にとって説明する。
均熱温度がAc3点未満ではオーステナイト変態が不十分であるため所望の強度を確保することが困難となり、950℃超ではオーステナイトの粒成長が過剰に促進されて組織が粗大化するため目的とする強度や曲げ性の確保が困難となる。
本発明においては、Tiおよび/またはNbを多量に添加しているため、加工フェライトの再結晶は著しく抑制されている。そのため、加熱時にオーステナイト域まで加工歪が残存し、オーステナイトへの相変態が著しく促進される。そのためわずか5s以上の均熱により、加工フェライトからオーステナイトへ変態し、加工歪みが取り除かれる。均熱時間が5s未満では、オーステナイトへの変態が十分でないため、加工歪みが残存し、製品の延性が劣化する。
一方、均熱時間の上限は200sとする。本発明の場合、Tiおよび/またはNbを多量に添加しているため、均熱時のオーステナイトの粒成長を効果的に抑制することができる。そのため、上限としては、200sまで問題ない。ただし、生産性の観点からは、120s以内とするのが望ましい。均熱時間が200s超となると、均熱中にオーステナイトが過剰に粒成長し、微細粒ひいては、良好な曲げ性が得られなくなるので、上限を200sとする。
均熱後の冷却については、特に制限を設けないが、700℃までは40℃/s以下とするのが望ましい。40℃/s以下の冷却速度とTiおよび/またはNbの多量添加の複合効果によりフェライト変態が著しく促進され、フェライト粒径を5μm以下とすることが容易にできる。溶融亜鉛めっきに関しては、常法に従い、410〜490℃の溶融亜鉛めっき浴中に浸漬する。前述の700℃から、この410〜490℃の温度範囲までの冷却については、特に制限を設けないが、例えば、70℃/s以下であれば問題ない。また、500℃以上600℃以下の温度範囲における滞在時間を30s以上とすることにより、効果的に高強度化をはかる事ができる。一方、500℃以上600℃以下の温度範囲における滞在時間を30s以内とすることにより、高強度化を抑制する代わりに、高YR化をはかることができる。
めっき浴浸漬後については、合金化を実施しても良い。本発明の場合、(1)式を満足すれば、Tiおよび/またはNbの多量添加により、合金化処理性は非常に容易になっており、合金化処理温度は510℃以下で十分である。合金化処理温度を510℃以下とすることにより、合金化処理有無による機械的性質の差を小さくできるので、同一成分鋼板から同一機械的特性の溶融めっき鋼板と合金化溶融めっき鋼板とを製造することが可能となる。
さらに、酸洗前もしくは酸洗後の軽圧下あるいは、Cu、Niの添加により、合金化処理性が促進され、Si、Pの好適範囲を広げることができる。
本発明の具体的な作用効果を実施例に関連させて以下に説明する.
表1に示す化学成分を有する鋼を転炉で溶製し、連続鋳造により245mm厚のスラブとした。得られたスラブを表2に示す条件にて熱間圧延した。得られた熱延鋼板は酸洗し、表2に示す冷圧率で冷間圧延を行った。得られた冷延鋼板に対し、表3、図1〜図4に示す条件で、実験室にて焼鈍および溶融亜鉛めっきを行い、得られた溶融亜鉛めっき鋼板に対して、引張試験、限界曲げを調査した。その結果を表4に示す。
機械的性質は、圧延直角方向に採取したJIS Z 2201に規定されている5号試験片を用い、JIS Z 2241に規定の方法でYS、TS、Elを測定した。穴広げ率はJFS T 1001に規定の方法で測定した。
曲げ試験は、JIS Z2204に規定されている3号試験片を用い、JIS Z 2248に規定されている押し曲げ法により、180°曲げを行い、割れが発生しない限界曲げrにて評価した。
表4に示すように、本発明範囲を満たす場合、良好な強度・延性バランスと良好な曲げ性を兼ね備えている。一方、焼鈍温度が本発明範囲より低い実験No.12、13、42、43は未再結晶粒を含む混粒となり、強度・延性バランスに劣る。また、焼鈍温度が本発明より高いNo.15、44、焼鈍時間が本発明範囲より長いNo.14はフェライト粒径または硬質相粒径が5.0μmを超え、曲げ性に劣る。また、合金化温度が510℃を超えるNo.47、48、No.51〜53、No.55〜57は合金化処理を行わない場合および合金化温度が510℃以下の場合と比べて引張強度が20MPa以上も低下した。
表1、表2で得られた冷延鋼板に対し、表5、図5、図6に示す条件で、連続溶融亜鉛めっきラインにて溶融亜鉛めっきを施した後、引張試験、限界曲げ、スポット溶接性、穴広げ試験、めっき密着性を調査した。その結果を表6に示す。
スポット溶接性は、溶接電極をドーム型先端直径6mm、加圧力を3.6kN、溶接電流を7.8kA、加圧時間を30cyc、溶接時間を(板厚(mm)/0.1+3)cyc、保持時間を5cycの条件で行った。溶接後、JIS Z 3136の引張せん断試験による引張荷重(TSS)と、JIS Z 3137の十字引張試験による引張荷重(CTS)を測定し、JIS Z 3140に規定されているTSSを満たし、かつ、延性比(CTS/TSS)が0.35以上を満たすものを良好とした。
めっき密着性は、90度曲げを行った内側のめっき剥離状況により判断した。
化学成分及び製造条件が本発明範囲内であるNo.58〜83は強度・伸びバランス、曲げ性、スポット溶接性、めっき密着性に優れる。また、合金化処理の有無による引張強度の差は少ない。一方、化学成分が本発明の範囲外であるNo.84〜99は、強度・延性バランス、曲げ性、スポット溶接性、めっき密着性のいずれかが不良であった。また、(1)式を満足しないNo.96〜99の場合、合金化温度を510℃超とせざるを得ず、合金化処理の有無により20MPa以上の強度差が発生した。
図7は実験No.2で得られた供試材のSEM 観察による組織写真である。フェライト相の粒界に硬質第2相としてのマルテンサイト・オーステナイト混合物が析出しているのが分かる。
表7に示す化学成分を有する鋼を転炉で溶製し、連続鋳造により245mm厚のスラブとした。得られたスラブを用い、スラブ加熱温度1200℃、仕上温度900℃、巻取温度610℃にて板厚2.6mmまで熱間圧延を行った。続いて、酸洗し、1.4mmまで冷間圧延を行った後、表8、図5、6に示す条件で、連続溶融亜鉛めっきラインにて溶融亜鉛めっきを施し、得られためっき鋼板について引張試験、限界曲げ、スポット溶接性、穴広げ試験、めっき密着性を調査した。
その結果を表9に示す。化学成分及び製造条件が本発明範囲内であるNo.100〜111、116〜123は強度・伸びバランス、曲げ性、スポット溶接性、めっき密着性に優れる。一方、化学成分が本発明の範囲外であるNo.124、125は曲げ性が不良であった。また、(1)式を満足しないNo.112〜115及び124、125は合金化処理の有無により20MPa以上の強度差が発生した。
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実験室における溶融亜鉛めっきをシミュレートした熱処理パターンの模式的説明図である。 実験室における合金化溶融亜鉛めっきをシミュレートした熱処理パターンの模式的説明図である。 実験室における溶融亜鉛めっきをシミュレートした熱処理パターンの模式的説明図である。 実験室における合金化溶融亜鉛めっきをシミュレートした熱処理パターンの模式的説明図である。 実機連続式溶融亜鉛めっきラインの熱処理パターン例の模式的説明図である。 実機連続式合金化溶融亜鉛めっきラインの熱処理パターン例の模式的説明図である。 SEM観察組織写真である。

Claims (5)

  1. 鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を備える溶融亜鉛めっき鋼板において、前記鋼板が、質量%で、C:0.06〜0.20%、Si:0.10%以下、Mn:2.0〜4.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.015%以下を含有し、さらにTi:0.500%以下およびNb:0.500%以下の群から選ばれる1種または2種を合計で0.050%以上含有するとともに、下記(1‘)式を満足し、残部がFeおよび不純物からなる鋼組成を有し、フェライトの平均結晶粒径が5.0μm以下で硬質第2相の平均粒径が5.0μm以下であり、該硬質第2相が、マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイト、またはそれらの混合物であることを特徴とする引張強度が780MPa以上の高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
    0.07+(Ti+Nb)/2+(Cu+Ni)/30-(Mn/100+P+Si/2+Mo/50+Cr/100)≧0.050 ・・・(1‘)
  2. 鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を備える溶融亜鉛めっき鋼板において、前記鋼板が、質量%で、C:0.06〜0.20%、Si:0.25%以下、Mn:2.0〜4.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.015%以下を含有し、さらにTi:0.500%以下およびNb:0.500%以下の群から選ばれる1種または2種を合計で0.050%以上含有し、さらに、Cu:1.5%以下およびNi:1.5%以下の群から選ばれる1種または2種を合計で0.03%以上含有するとともに,下記(1)式を満足し、残部がFeおよび不純物からなる鋼組成を有し、フェライトの平均結晶粒径が5.0μm以下で硬質第2相の平均粒径が5.0μm以下であり、該硬質第2相が、マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイト、またはそれらの混合物であることを特徴とする引張強度が780MPa以上の高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
    0.07+(Ti+Nb)/2+(Cu+Ni)/30-(Mn/100+P+Si/2+Mo/50+Cr/100)>0 ・・・(1)
  3. 前記鋼板の鋼組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、V:1.0%以下およびB:0.01%以下の群から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の引張強度が780MPa以上の高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の鋼組成を備える冷間圧延鋼板を、Ac3点〜950℃の温度域に5〜200s滞在させた後に溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とする引張強度が780MPa以上の高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  5. 請求項1〜3のいずれかに記載の鋼組成を備える冷間圧延鋼板を、Ac3点〜950℃の温度域に5〜200s滞在させた後に溶融亜鉛めっきを施し、更に510℃以下で合金化処理を行うことを特徴とする引張強度が780MPa以上の高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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