JP6492869B2 - 溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板とその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板とその製造方法に関する。特に、本発明は、主としてプレス加工される自動車用鋼板を対象とした高強度冷延鋼板であって、400N/mm2クラス以上の強度を有し、高い伸びと高い降伏応力を有する溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板及びその製造方法に関するものである。
高強度鋼板に対し加工性を向上させる要求が年々高まってきている。衝撃吸収部材の材料として用いる高強度鋼板を例に取ってみると、部品形状を作りこむための加工性と、衝撃吸収特性を高めるための高強度化との両立が求められている。
車体用高強度鋼板においては、乗員を保護するために、衝撃吸収部材の変形量を抑制しつつ衝突時の吸収エネルギーを増加させうる性能が要求される。この要求に対応するには、非特許文献1に示されるように、衝撃吸収部材の材料として用いる鋼板の降伏応力を増加させることが有効である。
一般的に、鋼板の降伏応力を増加させる場合には、引張強度を高める。しかし、鋼板の高強度化は、加工性の劣化を招く。このため、高強度化を図った鋼板は、複雑な形状の部品への適用が困難な材料となる。
また、同一強度を有する鋼板の降伏応力を高める手法として、Ti、Nbなどを添加することによる析出強化を用いる方法が報告されている。しかし、析出強化を用いた鋼板は、同一強度の鋼板の中では加工性が低く、降伏応力と加工性の両立させることは困難である。
これに対して、特許文献1には、転位を多く含む未再結晶フェライトを均一に分散させることで、高い降伏応力と加工性を両立する技術が報告されている。また、特許文献1には、再結晶フェライトと未再結晶フェライトの圧延方向の長さの比を制御することが提案されている。
特許文献2には、未再結晶組織を有する化成処理性と加工性の良好な冷延鋼板が報告されている。
また、特許文献3には、硬質第2相より軟質である未再結晶フェライトを活用することにより、局部延性を向上させるとともに、冷延鋼板のヤング率を向上させる技術が報告されている。
また、特許文献4には、未再結晶フェライトを活用してヤング率とランクフォード値(r値)を高める技術が報告されている。
一方で、加工性(伸び)の改善に関わる技術としては、フェライト・マルテンサイト組織からなるDual Phase鋼板(DP鋼板)が知られている。DP鋼板は、軟質なフェライト相と硬質なマルテンサイト相の複合組織で構成されている。DP鋼は衝撃吸収特性にも優れるということが知られている一方で、降伏応力が低いためその効果を十分に活かし切れていない。
これに対し、近年では、冷延鋼板においても、再度、連続焼鈍を実施することで、加工性を確保するとともに、DP鋼板が本来有する衝撃吸収特性を活用できることが報告されている。
例えば、特許文献5では、DP鋼に低温域での熱処理を加え、マルテンサイトを焼戻すことでDP鋼の穴拡げ性と2次加工割れ性を高める技術が報告されている。
また、特許文献6、特許文献7でも420〜650℃の中間温度にてマルテンサイトの焼戻しを行う技術が提案され、YPの上昇が得られている。
特開2008−156680号公報 特開昭62−161938号公報 特開2008−106352号公報 特開2009−114523号公報 特開2005−146379号公報 特開平9−263883号公報 特開平9−263884号公報
自動車技術会 春季学術講演会論文集、昭和48年、P60
上記のとおり、近年では、強度と加工性を両立させるべく様々な検討、開発はなされている。
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、確かに高い降伏応力と加工性を両立させうる技術が開示されてまいるものの、近年では更なる加工性の向上が要求されてきており、当該要望に応えるには、特許文献1に記載の技術では不十分である。
また、特許文献2に記載の技術は、もともと加工性の高い極低C材に特化した技術であり、一般的な低炭素鋼で同様の効果が得られるものではない。
また、特許文献3に記載の技術では、局部延性の改善は期待できても、未再結晶フェライトの結晶粒の延性が乏しいため、伸び(加工性)の改善は期待できない。
また、特許文献4に記載の技術は、比較的軟質な未再結晶フェライトを活用する技術ではあるものの、伸びの改善に関わる技術ではなく、加工性を向上させる観点からは不十分である。
また、特許文献5〜7の技術は、延性の更なる向上が望める技術ではないうえ、焼戻されたマルテンサイトを持つDP鋼は疲労特性の低下が懸念される。また、DP鋼は強度確保と組織制御のため、C添加量および合金元素の添加量が多いことから溶接性などに劣位である。
このように、高強度冷延鋼板に対しては、様々な手法によって加工性の向上を目的とした検討・開発がなされてはいるものの、強度と加工性を両立させ、かつ溶接性をも確保する技術は未だ確立されていないのが現状である。
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、高い伸びと高い降伏応力とを有する溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板およびその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、未再結晶フェライトに着目し、DP鋼において未再結晶フェライトの硬さを最大限に利用する方策について、鋭意検討を重ねた。
その結果、金属組織に含まれる未再結晶フェライト相の面積率を20%未満にし、かつ、マルテンサイト組織と近接させることで伸びを大幅に増大でき、さらに未再結晶フェライト相の強度の寄与を利用して、同一強度と比較した際、鋼中の添加元素を低減できることから、スポット溶接性を高めることが可能であることを見出した。
また、本発明者らは、未再結晶フェライトを適度に含有している金属組織を有する高強度冷延鋼板を製造する方法について検討した。その結果、熱延鋼板に酸洗を行った後、冷延率を最適化したうえ、焼鈍温度を、成分組成、熱延鋼板の結晶粒径、冷間圧延での圧延率によって決定される再結晶温度(再結晶完了温度)以下、再結晶温度−30℃以上の最高温度とすることで未再結晶粒制御が可能であり、さらにその後の冷却条件の最適化により、マルテンサイトの形成および配列制御が可能であることを見出した。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1) 質量%で、
C :0.03%以上、0.35%以下、
Si:0.01%以上、2.00%以下、
Mn:0.3%以上、4.0%以下、
P :0.001%以上、0.100%以下、
S :0.0005%以上、0.050%以下、
N :0.0005%以上、0.010%以下、
Al:0.01%以上、2.00%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
金属組織において、面積率で、未再結晶フェライト相を2%以上、20%未満含有し、マルテンサイト組織、焼戻しマルテンサイト組織のうち1種または2種を合計で5%以上、60%未満含有し、
引張強度に対する降伏応力の比である降伏比YRが0.7以上で、降伏応力と伸びとの積が13000N/mm ・%以上であり、前記未再結晶フェライト相の結晶粒のうち、個数比で60%以上の粒が、前記マルテンサイト組織または前記焼戻しマルテンサイト相と、1μm以内の間隔で接し、下記(1)式で表されるCeq.が下記(2)式を満たすことを特徴とする溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板。
Ceq.=C+Si/30+Mn/20+P*2+S*4・・・(1)
0.17≦Ceq.≦0.53・・・(2)
(2) さらに、質量%で
Cr:0.05%以上、3.0%以下、
Mo:0.05%以上、1.0%以下、
Ni:0.05%以上、3.0%以下、
Cu:0.05%以上、3.0%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記(1)に記載の溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板。
(3) さらに、質量%で、
Nb:0.005%以上、0.30%以下、
Ti:0.005%以上、0.30%以下、
V :0.01%以上、0.50%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板。
(4) さらに、質量%で、
B:0.0001%以上、0.100%以下を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板。
(5) さらに、鋼中に質量%で、
Ca:0.0005%以上、0.010%以下、
Mg:0.0005%以上、0.010%以下、
Zr:0.0005%以上、0.010%以下、
REM:0.0005%以上、0.010%以下
の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板。
(6) さらに、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板。
(7) 上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の高強度冷延鋼板の製造方法であって、鋳造スラブを1100℃以上に加熱し、熱間圧延を実施し、酸洗を行った後、30%以上の圧延率で冷間圧延を行い、得られた冷延鋼板を再結晶温度以下、再結晶温度−30℃以上の最高温度にて焼鈍する冷延板焼鈍工程を行った後、平均冷却速度を1℃/秒以上、200℃/秒以下として350℃以下の冷却停止温度まで冷却する冷却工程を行う際、700℃から400℃までの温度域では、平均冷却速度を5℃/s以上とすることを特徴とする溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
(8) 前記冷延板焼鈍工程において、前記最高温度で30秒以上、300秒以下保持することを特徴とする上記(7)に記載の溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
(9) 前記冷却工程の後に、溶融亜鉛めっきを施し、合金化処理を行うことを特徴とする上記(7)または(8)に記載の溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法
本発明によれば、高い伸びと高い降伏応力とを有し溶接性および加工性に優れた高強度冷延鋼板を提供できる。
また本発明の高強度冷延鋼板は、例えば、加工が困難なことから溶接を必要と、さらに衝突吸収特性が要求されるような衝撃吸収部材の材料等などに好適である。また、本発明の高強度冷延鋼板は、例えば、衝撃吸収部材など自動車用部材の材料として用いることで、車体の軽量化、部品の一体成形化、加工工程の合理化が可能であり、燃費の向上、製造コストの低減を図ることができる。したがって、本発明は、工業的価値が大なるものである。
CeqとYP*Elとの関係を説明するグラフである。
以下、本発明の高強度冷延鋼板およびその製造方法について詳細に説明する。
従来、未再結晶フェライトは、加工性が望まれる鋼板の特性を制御するために利用されることはほとんどなかった。これは、鋼板の金属組織に未再結晶フェライトが含まれていると、鋼板の延性が著しく劣化することに起因する。一方で、建材分野や食用缶の分野では未再結晶フェライトの硬質なフェライトとしての価値は、古くから認識されており、未再結晶フェライトは、低コストで鋼板の強度を高める手段として利用されてきた。
加工性を高める観点からは、DP(Dual Phase(二相))鋼は変態硬質相(マルテンサイト、ベイナイトなど)を加工性の高いフェライト相に分散させることで、加工性と強度を両立させる技術が提案されている。これは、延性に優れるフェライト相(軟質相)の特徴を活かしつつ、変態硬質相の存在により、効率的に鋼の強化を図ることで達成される。しかしながら上述したように、DP鋼は降伏応力が低いという問題がある。
本発明では、硬質相として、マルテンサイト組織に加えて、未再結晶フェライト相を利用する。
未再結晶フェライト相とマルテンサイト組織は相または組織を形成している粒の硬さ、延性などの特徴が大きく異なるため、未再結晶フェライト相とマルテンサイト組織の配列、面積率などで材質が大きく変わりうる。
したがって、従来の硬質相としてマルテンサイト組織を単独で利用する場合の知見から、未再結晶フェライト相を利用する際の条件は、容易に推測し得ない。加えて、未再結晶フェライト相を活用することで、比較的低いDP鋼の降伏応力(YP)も増加する。
本発明は、硬質相としてマルテンサイト組織に加えて、未再結晶フェライトを活用すべく、未再結晶フェライト相の分散制御の最適条件を明らかにしたことによりなされたものである。本発明者らは、DP鋼に未再結晶フェライトの硬さを最大限に利用しつつ、伸びと降伏応力を高める方策について、鋭意検討を重ねた。その結果、降伏応力は、金属組織に含まれる未再結晶フェライトの面積率と1次相関があることが分かった。すなわち、未再結晶フェライト相の面積率が高い程、降伏応力が高くなることが分かった。そして、未再結晶フェライト相の面積率を2%以上とすることで、優れた降伏応力が得られることを見出した。
一方で、伸びは、未再結晶フェライトの面積率に対して臨界値が存在し、面積率を20%未満に制御することで大幅に増加することを見出した。
加えて、マルテンサイト組織と未再結晶フェライト相が1μm以内に隣接することで、マルテンサイト組織の硬さに起因する変形の不均一化の効果により、隣接する未再結晶フェライト相の変形が抑えられ、さらに高い伸びが得られることを見出した。
上記のとおり、本発明の高強度冷延鋼板は、未再結晶フェライト相の面積率と、マルテンサイト組織と隣接して生成させることにより、鋼板の伸びと降伏応力のバランスを向上させる。これによって、同一強度を有する鋼板と比べ、合金添加量を低減できるため、下記式(1)にて算出される溶接性の指標であるCeq.を下げることができる。
Ceq.=C+Si/30+Mn/20+P*2+S*4 ・・・(1)
また本発明の高強度冷延鋼板の製造方法では、冷間圧延の圧延率を制御するとともに、焼鈍工程における最高温度を、成分組成、熱延鋼板の結晶粒径、冷間圧延での圧延率により決まる再結晶温度に準じて厳密に制御する。さらにその後の冷却条件の最適化によって、未再結晶フェライト相の面積率を所望の範囲とし、未再結晶フェライト相とマルテンサイト組織とを隣接して生成させることが可能となる。
本発明の高強度冷延鋼板の厚みは、特に限定されないが、0.1〜3.0mmの薄鋼板であることが好ましい。厚みが上記範囲である高強度薄鋼板は、薄板製造ラインを用いて容易に製造できる。
以下、本発明の一実施形態である高強度冷延鋼板(以下、単に鋼板とも称する。)の各構成要件について、詳細に説明する。
まず、鋼板特性の限定理由について述べる。
本実施形態の高強度冷延鋼板は、引張強度に対する降伏応力の比(降伏応力(N/mm)/引張強度(N/mm))である降伏比(YR)が0.7以上であり、降伏応力と伸びとの積(降伏応力(N/mm)×伸び(%))であるYP*Elが13000以上である。
YRが高いほど、同一引張強度での降伏応力(YP)が高い。引張強度の増加は、伸びの低下を引き起こすため、単純に引張強度を高めるのではなく、同一引張強度であっても降伏点を高めたほうが、鋼板を衝撃吸収部材の材料として用いた場合に、部材の衝撃吸収特性を効果的に高める技術となりうる。
YRが0.7未満では、引張強度に対して降伏応力が低いため、伸びと降伏応力を高いレベルで両立することが困難となる。また、引張強度と降伏応力との差が低い(YRが高い)ことは、低ひずみ域の応力が高いことを意味している。低ひずみ域の応力が高いことは、鋼板を衝撃吸収部材の材料として用いた場合に、部材の衝撃吸収特性の上昇に大きく寄与する。したがって、YRは0.7以上とすることが好ましい。また、YRは、0.99以下であることが好ましい。
本発明の高強度冷延鋼板は、YRが0.7以上であり、かつYP*Elが13000以上である必要がある。
YP(降伏応力)の低い鋼板は、衝撃吸収特性に優れた形状に加工することで衝撃吸収特性を満たす部材(部品)とすることが可能になる。しかし、部材が衝撃吸収特性に劣る形状であったり、El(伸び)が不足して衝撃吸収特性に優れた形状に加工できなかったりする場合、鋼板(材料)のYPを高くする必要がある。すなわち、YP*Elの高い鋼板を用いることが、部品としての衝撃吸収特性を効果的に高めることにつながる。このような部品としての特性は、衝撃吸収特性に限るものではなく、疲労特性や強度特性においても同様である。
YP*Elが13000未満であると、材質の降伏応力と伸びのいずれかが不足するため、鋼板を用いた部品の特性を効果的に高めることができない。特に、高い部品特性が必要な場合は、YP*Elが13500以上あることが望ましい。
次に、本実施形態の高強度冷延鋼板の成分組成の限定理由について述べる。以下、特に断らない限り、%は質量%を意味する。
Cは、鋼の強化に寄与する。C含有量は、強度を確保するために0.03%以上必要であり、0.04%以上であることが好ましい。一方で、Cの増加はCeqの増加につながり、溶接性を著しく低下させる他、加工性も劣化する。C含有量が0.35%を超えると、第2相としてベイナイトやパーライト、マルテンサイトが多量に発生し、これらが未再結晶フェライトと相互に影響して伸びが低下する。また、C含有量が0.35%を超えると、有害な炭化物(セメンタイト)の生成により穴広げ性が著しく低下する。このため、C含有量は0.35%以下とする。但し、溶接性の改善にはC含有量を0.25%以下とすることが望ましい。
Siは、固溶強化により鋼の強度を高めるうえ、延性の低下が少ない。したがって、Siは、鋼の強度を高めるために有効な元素である。また、Siは、有害な炭化物の生成を抑え、加工性の改善にも効果がある。炭化物の生成を抑える作用は、Alによって代替えも可能である。以上から、Siは0.01%以上添加することが望ましい。特に0.10%以上のAlを添加しない場合は、0.30%以上のSiを添加することが望ましい。ただし、Si含有量が多すぎると、化成処理性が低下するほか、溶接性も劣化する。このため、Si含有量は2.00%を上限とする。
Alは、前述のSiと同様、有害な炭化物の生成を抑え、伸びを向上するために有効な元素である。従来、Alは脱酸に必要な元素であり、0.01〜0.07%程度添加してきた。低Si系鋼においてAlを多量に添加することにより、延性を劣化させることなく、化成処理性を改善できることを見出した。しかし、Al含有量が多すぎると、延性向上の効果が飽和してしまうばかりか、化成処理性が劣化する。このため、Al含有量は2.00%を上限とし、特に化成処理の厳しい条件では1.00%を上限とすることが望ましい。十分な脱酸のためには、Alを0.01%以上添加する必要がある。
Mnは、強度確保に必要な元素である。また、Mnは、再結晶を遅らせて未再結晶フェライトの生成に寄与する。この効果を得るためには、Mn含有量を0.3%以上とする必要がある。しかし、Mnを多量に添加すると、ミクロ偏析、マクロ偏析が起こりやすくなり、伸びを劣化させ、溶接性の低下も引き起こすため、Mn含有量は4.0%を上限とする。
Pは、鋼板の強度を上げる元素であり、Cuと同時添加することにより耐腐食性を向上させる元素である。しかし、P含有量が高いと、溶接性、加工性、靭性の劣化を引き起こす。これより、P含有量は0.100%以下とする。特に、耐食性が問題とならない場合には、加工性を重視して、P含有量を0.030%以下とすることが望ましい。しかし、P含有量を低減させるには、脱Pコストがかかるため、経済性の観点から下限を0.001%とする。
Sは、MnS等の硫化物を形成し、割れの起点となり、加工性のうち穴拡げ性を低減させる元素であり、全伸びを著しく低下させる。したがって、S含有量は0.050%以下とする必要がある。但し、S含有量を0.0005%未満にするためには、脱硫コストが高くなる。このため、S含有量を0.0005%以上とする。
Nは、加工性を劣化させる元素である。また、NとともにTiおよび/またはNbが添加された場合には、TiN、NbNの生成によりTi、Nbの添加効果を発揮させるための有効量が低減する上、生成した窒化物が、伸びおよび穴拡げ性を低下させる。このため、N含有量は、少ない方がよい。上記の制約から、N含有量は0.010%以下とする。脱Nコストの観点から、N含有量の下限を0.0005%とする。
本発明の高強度冷延鋼板は、上記成分組成を有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるが、さらに、必要に応じて以下の元素を含有してもよい。
Ti、Nb、Vは、いずれも炭化物を形成し、強度の増加に有効である。この効果を有効に発揮させるためには、Ti、Nb、Vの1種または2種以上を添加することが好ましい。また、Ti、Nb、Vは、再結晶を遅らせ、未再結晶フェライトの形成に寄与する。これらの効果を得るためには、Tiは0.005%以上、Nbは0.005%以上、Vは0.01%以上の添加が好ましい。しかし、Ti、Nb、Vの添加が過度になると、析出強化により伸びが劣化する。このため、Tiの含有量は0.30%以下、Nbの含有量は0.30%以下、Vの含有量は0.50%以下とすることが好ましい。
Ca、Mg、Zr、REMは、硫化物系の介在物の形状を制御し、加工性の向上に有効な元素である。この効果を有効に発揮させるためには、Ca、Mg、Zr、REMの1種または2種以上を添加することが好ましく、各々の元素は0.0005%以上添加する好ましい。一方、多量の添加は、逆に鋼の清浄度を悪化させるため、伸びの低下につながる。これより、Ca、Mg、Zr、REMの1種または2種以上を含有する場合、各々の添加量の上限を0.010%とすることが好ましい。
また、さらにCr、Mo、Ni、Cuの1種又は2種以上を添加してもよい。
Cuは、Pとの複合添加により、耐腐食性を向上する元素である。この効果を得るためには、Cuを0.05%以上添加することが望ましい。但し、多量のCuの添加は、焼き入れ性が強くなりすぎ、延性が低下する。このため、Cu含有量の上限を3.0%とすることが望ましい。
Niは、単独では焼き入れ性を増加させマルテンサイトの形成に寄与する。また、Cuを添加したときの熱間割れを抑制する元素である。これらの効果を得るためには、Niを0.05%以上添加することが望ましい。但し、多量のNiの添加は、Cu同様に焼き入れ性が強くなりすぎるため、延性が低下する。このため、Ni含有量の上限を3.0%とすることが望ましい。
Moは、セメンタイトの生成を抑制し、強度に寄与するほか、穴拡げ性を向上させるのに有効な元素である。この効果を得るためには、Moを0.05%以上添加することが望ましい。但し、Moは焼き入れ性を高める能力が高く、Moを過剰に添加すると急激に延性が低下する。このため、Mo含有量の上限を1.0%とすることが望ましい。
CrもVと同様に炭化物を形成し、強度確保に寄与する元素である。この効果を得るためには、Crを0.05%以上添加することが望ましい。但し、Crは、焼き入れ性を高める元素であり、多量に添加すると伸びが低減する。そこで、Cr含有量の上限を3.0%とすることが望ましい。
Bは、Mnと同様に強度に寄与する元素である。この効果を得るためには、B含有量を0.0001%以上とすることが望ましい。但し、Bも焼き入れ性を高める元素であるため、多量に添加すると延性が低下する。このため、B含有量の上限を0.100%とすることが望ましい。
本発明の高強度冷延鋼板は、上述してきた元素以外は、Fe及び不可避的不純物からなるが、以上説明した各元素の他にも、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることが出来る。
次に、本発明の高強度冷延鋼板の金属組織について説明する。
本発明において、重要な構成のひとつが未再結晶フェライト相の面積率である。鋼板の伸びを確保する点では、未再結晶フェライト相は少ない程よい。ただし、鋼板の伸びは、未再結晶フェライト相の面積率と1次関数の相関関係にはならず、未再結晶フェライト相の面積率が20%未満になると大幅に増加する。
一方で、鋼板の降伏応力は、未再結晶フェライト相の面積率が低下するにしたがって、ほぼ1次関数の相関関係で低下する。
よって、鋼板の降伏応力と伸びのバランスを高めるために、金属組織の含有する未再結晶フェライト相の面積率は2%以上、20%未満とする。特に、高い伸びを有する鋼板が望まれる場合は、未再結晶フェライト相の面積率を15%以下することが望ましい。また、降伏応力が強く望まれる部材用途に用いる鋼板である場合には、未再結晶フェライト相の面積率を5%以上とすることが望ましい。
上記の未再結晶フェライト相の面積率が鋼板の伸びに与える影響については明らかとなっていないが、未再結晶フェライト相の面積率を高くするような製造条件では、未再結晶フェライト相の各粒の長軸長さが大きくなりやすく、連結率も高くなりやすい。また、長手方向に伸びた延性の低い未再結晶フェライトの粒はボイド発生の起点となりやすく、延性を著しく低下させていると考えられる。
このような場合、未再結晶フェライト相の結晶粒(未再結晶粒)とマルテンサイト組織の配置を制御することにより延性が改善できる。すなわち、未再結晶粒とマルテンサイト組織のブロックが1μm以内の位置に隣接する、すなわち未再結晶粒とマルテンサイト組織のブロックの間隔を1μm以内とすることで、マルテンサイトの硬さに起因するひずみの不均一化で未再結晶粒へのひずみが抑制され、割れの起点になりにくくすることが可能である。この効果を得るには、未再結晶粒の個数比で60%以上の粒がマルテンサイト組織のブロックと1μm以内に隣接している必要がある。すなわち、マルテンサイト組織と隣接する未再結晶粒(隣接粒)が、全未再結晶粒に対し、個数比で60%以上とする。なお、隣接するマルテンサイトは焼き入れままのマルテンサイトでも焼き戻しを加えた焼き戻しマルテンサイトでも効果は同等である。
また、本発明の高強度冷延鋼板は、硬質相として、マルテンサイト組織も利用する。
マルテンサイト組織は降伏応力を低下させるため、過剰に生成させることはYRの低下を招く。一方、上述したように、マルテンサイト組織と未再結晶粒とを隣接させることで、マルテンサイトの硬さに起因するひずみの不均一化によって未再結晶粒へのひずみが抑制され、割れの起点になりにくくする効果を有する。これらのことから、マルテンサイト、焼戻しマルテンサイトのうち1種または2種の合計で5%以上、60%未満含有させる。
「未再結晶フェライト相の面積率の算出方法」
本発明の高強度冷延鋼板に含まれる未再結晶フェライト相の面積率は、以下に示す方法により求めることができる。
鋼板から圧延方向に平行な板厚断面を観察面として試料を採取し、観察面を研磨、ナイタールエッチ、必要に応じてレペラーエッチを行ってから光学顕微鏡で観察し、写真を撮影する。得られた顕微鏡写真を画像解析することによって、フェライト相と、フェライト相以外とを区別して、フェライト相の面積率を算出する。なお、フェライト相の面積率は、顕微鏡写真の1つの視野を縦200μm横200μm以上の面積とし、視野の異なる10以上の顕微鏡写真をそれぞれ画像解析してフェライト相の面積率を算出し、これを平均することにより求める。
また、鋼板を機械研磨等によって所定の板厚まで減厚し、電解研磨等によって歪みを除去すると同時に、板厚1/4面が測定面となるように試料を作製する。作成した試料の測定面について、電子後方散乱解析像(Electron back scattering pattern、EBSPという。)における結晶方位測定データを得る。EBSPは、試料の各結晶粒内で5点以上測定する。EBSPの各測定結果から得られた結晶方位測定データは、ピクセルとして出力される。
次に、得られた結晶方位測定データをKernel Average Misorientation(KAM)法で解析し、フェライト相に含まれる未再結晶フェライトを判別し、フェライト相中の未再結晶フェライトの面積率を算出する。KAM法では、隣接したピクセル(測定点)との結晶方位差を定量的に示すことができる。本発明では、隣接する測定点との平均結晶方位差が1°以上である粒を未再結晶フェライトと定義する。
次に、高強度冷延鋼板の金属組織中のフェライト相の面積率と、フェライト相中に含まれる未再結晶フェライトの面積率とを用いて、金属組織中の未再結晶フェライトの面積率を算出する。
なお、本発明は、未再結晶フェライト相を最大限に活用する発明であり、本発明の高強度冷延鋼板の金属組織において、未再結晶フェライト相、マルテンサイト組織以外の相、組織については、特に制約を設けるものではなく、フェライト相、ベイナイト組織、パーライト組織が存在していてもよい。すなわち、本発明は、金属組織において、上記構成を有する未再結晶フェライト相、マルテンサイト組織を生成させることが重要であり、残部の金属組織は特に限定せずとも本発明の効果を十分に発揮できる。
「マルテンサイト組織と隣接する未再結晶粒(隣接粒)の比率の算出方法」
上記方法にて観測した未再結晶フェライト相の複数の結晶粒において、SEM観察にて観察されたマルテンサイトとの間隔(距離)を画像解析にて測定し、その間隔が1μm以内である未再結晶粒を隣接粒とする。
本発明の高強度冷延鋼板は、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層を有していてもよい。鋼板表面に亜鉛めっき層を付与することで、耐食性が向上する。溶融亜鉛めっき層は、ZnとAlとを含み、Fe含有量を13%未満に制限したものであることが好ましい。溶融亜鉛めっき層中のFe含有量が13%未満であると、めっき密着性、成形性、穴拡げ性に優れる。Fe含有量が13%以上であると、溶融亜鉛めっき層自体の密着性が損なわれる。このため、鋼板を加工する際に溶融亜鉛めっき層が破壊・脱落し、金型に付着することで、疵の原因となる。
また溶融亜鉛めっき層は、合金化されていてもよい。合金化された溶融亜鉛めっき層では、合金化処理によって溶融亜鉛めっき層中にFeが取り込まれているため、優れたスポット溶接性および塗装性が得られる。合金化された溶融亜鉛めっき層では、Fe含有量は7%以上であることが好ましい。Fe含有量が7%未満では、合金化処理を行うことによるスポット溶接性の向上効果が不十分となる場合がある。
なお、合金化されていない溶融亜鉛めっき層では、Fe含有量が13%未満であれば、7%未満であっても溶融亜鉛めっき層を有することによる効果に影響はなく、0%であってもよい。
めっき付着量については、特に制約は設けないが、耐食性の観点から片面付着量で5g/m以上であることが望ましい。
本発明の高強度冷延鋼板では、溶融亜鉛めっき層上に、塗装性、溶接性を改善する目的で上層めっきを施してもよい。また、本発明の高強度冷延鋼板では、溶融亜鉛めっき層上に、各種の処理、例えば、クロメート処理、りん酸塩処理、潤滑性向上処理、溶接性向上処理等を施してもよい。
次に、本発明の高強度冷延鋼板の製造方法について説明する。
本発明の高強度冷延鋼板を製造するには、まず、上記の成分組成からなる鋳造スラブを用意する。次いで、鋳造スラブを直接または一旦冷却した後、1100℃以上に加熱し、熱間圧延を実施する。
本実施形態では、熱間圧延を行う前に、鋳造スラブの均質化および炭窒化物の溶解のために1100℃以上に加熱する熱処理を行う。この鋳造スラブの熱処理は、鋳造スラブを鋳造した後の高温のままの鋳造スラブに直接行ってもよいし、鋳造後に一旦冷却した鋳造スラブを再加熱して行ってもよい。
鋳造スラブの熱処理温度が1100℃未満では、鋳造スラブの均質化および炭窒化物の溶解が不十分となり、強度の低下や加工性の低下を起こす。一方、鋳造スラブの熱処理温度が1300℃を超えると、製造コストが増加するとともに、生産性が低下する。また、熱処理温度が1300℃を超えると、初期のオーステナイト粒径が大きくなることで最終的に混粒になりやすくなり、延性が低下する恐れがある。そこで、鋳造スラブの熱処理温度は、1100℃以上とする必要があり、1300℃未満が望ましい。
熱間圧延の仕上げ温度がAr点を下回ると、冷間圧延での割れを誘発し、材質の低下が懸念されるため、Ar点以上の温度で仕上げ圧延を行うことが望ましい。
熱間圧延後に得られた熱延鋼板は、酸洗にてスケール層を除去した後、冷間圧延を行う。
冷間圧延は30%以上の圧延率で行う。冷間圧延での圧延率が30%未満であると、再結晶核の形成が起こりにくく、回復粒の粗大化によって粒成長が始まる。このため、再結晶が不十分となり、未再結晶フェライトの面積率が20%未満である金属組織を得ることが困難となる。またさらに、未再結晶粒の強度が十分に得られないため、強化への寄与得られない。なお、冷間圧延での圧延率は、未再結晶フェライトの面積率を小さくして鋼板の伸びをより一層向上させるために、40%以上であることが好ましい。
次に、得られた冷延鋼板を再結晶温度以下、(再結晶温度−30)℃以上の最高温度にて焼鈍する冷延板焼鈍工程を行う。
冷延板焼鈍工程は、本発明の高強度冷延鋼板の金属組織を作りこむうえで、最も重要な工程である。冷延板焼鈍工程における最大到達温度(最高温度)は、再結晶温度に対して管理される。すなわち、最大到達温度を、再結晶温度以下、(再結晶温度−30)℃以上とする必要がある。最大到達温度が、再結晶温度を超えると、未再結晶フェライト相を残存させることが困難となる。最大到達温度は、未再結晶フェライトの面積率を確保しやすくするために、再結晶温度の−10℃以下であることがより好ましい。また、最大到達温度が、再結晶温度−30℃未満であると、未再結晶フェライト相が残存しすぎて伸びの著しい劣化が起こる。
再結晶温度は、再結晶温度を変化させる主な因子である、成分組成、熱延鋼板の結晶粒径、冷間圧延での圧延率によって、以下に示す方法により、予め決定される。
「再結晶温度の算出方法」
所定の成分組成、熱延鋼板の結晶粒径、冷間圧延での圧延率で作成した冷延鋼板(冷延まま材)を、ディラトメータにて10℃/sの昇温速度で加熱し、種々の到達温度に達したところで冷却を行って試験体とする。本実施形態では、到達温度を10℃以下のピッチで変化させて、到達温度の異なる複数の試験体を作成する。得られた各試験体の未再結晶フェライト相の面積率を、上述した「未再結晶フェライト相の面積率の算出方法」を用いて調べる。そして、再結晶フェライト相の面積率が98%以上であった試験体の到達温度の最高温度を、再結晶温度とする。
なお、再結晶温度を決定する際には、精度が確認されていて、鋼板の未再結晶フェライト相の面積率と対応している物理モデルを用いて、上記の複数の試験体のうちの一部または全部の未再結晶フェライト相の面積率を算出してもよいし、再結晶温度を算出してもよい。
また、複数の試験体の未再結晶フェライト相の面積率に基づいて、成分組成、熱延鋼板の結晶粒径、冷間圧延での圧延率のいずれかの条件(例えば、成分組成)と再結晶温度との関係を示すマップを作成し、これを用いて再結晶温度を決定してもよいし、上記のいずれか1以上の条件と再結晶温度との経験式を作成し、これを用いて再結晶温度を決定してもよい。
本実施形態では、冷延板焼鈍工程において、前述の最高温度で30秒以上、300秒以下保持することが好ましい。最高温度で30秒以上保持することにより、未再結晶フェライト粒のうち、マルテンサイト組織と隣接していない粒の比率が低減する。一方、最高温度での保持時間が、300秒を超えても、未再結晶フェライト粒とマルテンサイト組織との隣接性は飽和する上、生産性が低下して製造コストが増大するため、好ましくない。
本実施形態では、冷延板焼鈍工程を行った後、1℃/秒以上、200℃/秒以下の平均冷却速度で350℃以下まで冷却する冷却工程を行う。
この冷却工程では、冷却中の組織変化による材質劣化を抑制するため、1℃/秒以上の平均速度で冷却する必要がある。また、200℃/秒を超える平均冷却速度としても、高強度冷延鋼板の特性が大きく変わることはなく、冷却停止温度の精度の低下および冷却コストの増大を生み出す。このため、平均冷却速度の上限を200℃/秒とする。
また、この冷却工程のうち、700℃から400℃まで変態ノーズにかかる温度域においては、平均冷却速度を5℃/s以上とする必要がある。これは、組織中のマルテンサイトを十分に確保するうえで重要である他、パーライトの過剰な形成による延性劣化を抑制することができる。延性を高く保つためには10℃/s以上が望ましい。なお、700℃から400℃間の平均冷却速度は実測によって求めても良いが、計算や経験による推測値であっても、精度が高いものであれば構わない。例えば、実測値にて補正された計算値を用いることが出来る。
またこの冷却工程では、冷却停止温度を350℃以下とする。冷却停止温度が350℃を超えるとパーライまたはベイナイトの過剰な形成により、強度を効率的に得られなくなる上、高強度冷延鋼板の伸びが著しく劣化する。
さらに本実施形態では、冷却工程の後に、鋼板表面に溶融亜鉛めっきを施してもよい。このことにより、表面に溶融亜鉛めっき層を有する高強度冷延鋼板が得られる。
さらに、本実施形態では、溶融亜鉛めっきを施した後に、合金化処理を行ってもよい。合金化処理を行う場合には、600℃以下の温度で行うことが好ましい。合金化処理の温度を600℃以下とした場合、冷却工程後の鋼板の金属組織が、合金化処理を行うことによって変化することを抑制でき、好ましい。
次に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。
表1に示す成分組成の鋼を溶製し、常法に従い連続鋳造法により鋳造スラブとした。
表1において、符号A〜Lの鋼は、成分組成が本発明を満たしている。符号aの鋼はCとCaの含有量、符号bの鋼はMnとPの含有量、符号cの鋼はNbの含有量、符号dの鋼はCの含有量、符号eの鋼はSiとSの含有量、符号fの鋼はNとTiの含有量が、それぞれ本発明の範囲外である。
表2および表3における鋼の符号は、アルファベットが表1に示す鋼の種類を表し、数字が実施例の番号を表す。例えば「A1」とあるのは、表1の鋼Aを用いた1番目の実施例であることを意味する。
表1〜3においては、本発明範囲から外れる数値にアンダーラインを付している。
表1に示す成分組成の鋳造スラブを、加熱し、熱間圧延、酸洗、冷間圧延し、冷延板焼鈍工程、冷却工程を行って、板厚1.4mmの鋼板を得た。なお、熱間圧延の仕上げ圧延においては、表2に示す「Ar3(℃)」以上の温度にて行った。
表2に、鋳造スラブ加熱温度(加熱温度)、冷間圧延の圧延率(冷延率)、冷延板焼鈍工程の「再結晶温度−最高到達温度(最高温度)」、最高温度での保持時間、冷却工程での平均冷却速度(冷却速度)、700℃〜400℃間の平均冷却速度(冷却速度)、冷却停止温度を示す。
次に、得られた鋼板に、0.5%のスキンパス圧延を行い、一部の鋼板については、常法に従って溶融亜鉛めっきを施し、溶融亜鉛めっきを施したものの一部には溶融亜鉛めっきに浸漬した後に600℃以下の温度で合金化処理を行って、供試体とした。
表2に、溶融亜鉛めっき層の有無を示す。なお、「*」印を付した試験No.B3、D3、G1は、合金化処理を施した例である。
各供試体について、JIS Z2241に準拠して機械特性(YP(降伏応力)、TS(引張強度)、El(伸び)、YR(降伏応力YP/引張強度TS)、TS*El、YP*El(降伏応力×伸び))を評価した。その結果を表3に示す。
また、供試体について、上述した方法を用いて、未再結晶フェライト相の面積率(未再結晶フェライト分率)、マルテンサイト相と焼戻しマルテンサイト相の総相分率(マルテンサイト相の合計相分率)、マルテンサイトと隣接する未再結晶粒の個数分率(隣接粒比率)を調べた結果を表3に示す。
表3に示すように、本発明を満たす供試体(表3の備考における発明鋼1および発明鋼2)は、本発明を満たさない供試体(表3の備考における比較鋼)と比べて、優れたYP*Elを示した。このことから、本発明によれば、400N/mm2クラス以上の強度を有し、かつ優れた加工性(伸び)と高い降伏応力とを備えた高強度冷延鋼板が得られることが分かった。
更に、冷延板焼鈍工程における保持時間を30〜300秒とし、隣接粒比率が60%以上であって供試体(表3の備考における発明鋼1)は、更に優れたYP*Elを示した。
一方、比較鋼は、YP*Elが発明鋼1および発明鋼2と比較して劣位であった。
また、図1に、成分範囲が本発明の範囲にある鋼Aから鋼Lについて、Ceq.に対するYP*Elを示す。
本発明鋼1は本発明鋼2より高いYP*Elを示し、また、本発明鋼は比較鋼に比べ、溶接性の指標であるCeq.に対して高いYP*Elを示すことがわかる。
Figure 0006492869
Figure 0006492869
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Claims (9)

  1. 質量%で、
    C :0.03%以上、0.35%以下、
    Si:0.01%以上、2.00%以下、
    Mn:0.3%以上、4.0%以下、
    P :0.001%以上、0.100%以下、
    S :0.0005%以上、0.050%以下、
    N :0.0005%以上、0.010%以下、
    Al:0.01%以上、2.00%以下
    を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
    金属組織において、面積率で、未再結晶フェライト相を2%以上、20%未満含有し、マルテンサイト組織、焼戻しマルテンサイト組織のうち1種または2種を合計で5%以上、60%未満含有し、
    引張強度に対する降伏応力の比である降伏比YRが0.7以上で、降伏応力と伸びとの積が13000N/mm ・%以上であり、
    前記未再結晶フェライト相の結晶粒のうち、個数比で60%以上の粒が、前記マルテンサイト組織または前記焼戻しマルテンサイト相と、1μm以内の間隔で接し、下記(1)式で表されるCeq.が下記(2)式を満たすことを特徴とする溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板。
    Ceq.=C+Si/30+Mn/20+P*2+S*4・・・(1)
    0.17≦Ceq.≦0.53・・・(2)
  2. さらに、質量%で
    Cr:0.05%以上、3.0%以下、
    Mo:0.05%以上、1.0%以下、
    Ni:0.05%以上、3.0%以下、
    Cu:0.05%以上、3.0%以下
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板。
  3. さらに、質量%で、
    Nb:0.005%以上、0.30%以下、
    Ti:0.005%以上、0.30%以下、
    V :0.01%以上、0.50%以下
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板。
  4. さらに、質量%で、
    B:0.0001%以上、0.100%以下を含有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板。
  5. さらに、鋼中に質量%で、
    Ca:0.0005%以上、0.010%以下、
    Mg:0.0005%以上、0.010%以下、
    Zr:0.0005%以上、0.010%以下、
    REM:0.0005%以上、0.010%以下
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板。
  6. さらに、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板。
  7. 請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の高強度冷延鋼板の製造方法であって、鋳造スラブを1100℃以上に加熱し、熱間圧延を実施し、酸洗を行った後、30%以上の圧延率で冷間圧延を行い、得られた冷延鋼板を再結晶温度以下、再結晶温度−30℃以上の最高温度にて焼鈍する冷延板焼鈍工程を行った後、平均冷却速度を1℃/秒以上、200℃/秒以下として350℃以下の冷却停止温度まで冷却する冷却工程を行う際、700℃から400℃までの温度域では、平均冷却速度を5℃/s以上とすることを特徴とする溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
  8. 前記冷延板焼鈍工程において、前記最高温度で30秒以上、300秒以下保持することを特徴とする請求項7に記載の溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
  9. 前記冷却工程の後に、溶融亜鉛めっきを施し、合金化処理を行うことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の溶接性と加工性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
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