本発明は、内燃機関に使用するスパークプラグに関し、特に点火燃焼によって生ずる高温環境に対する耐熱性に優れ、且つ生成された燃焼性ガス等の種々の化学物質を含む環境に対する耐酸化性、耐還元性、耐腐食性及び耐火花消耗性に優れたチップを含むスパークプラグ用電極に関する。
スパークプラグは、内燃機関において燃焼室で燃料に点火するために用いられるもので、1500℃近い高温と、冷熱サイクルによる熱応力が繰り返し発生するという過酷な条件で使用されている。同時にスパークプラグは、空気と燃料との混合物の燃焼により生成する爆発空燃混合物によって、極めて激しい腐食性環境にさらされる。
ガソリンは、石油に由来する飽和炭化水素類(50〜80mass%)、芳香族炭化水素(15〜40mass%)及びオレフィン類(0〜15mass%)の混合物である。さらに様々な理由によって、ガソリン中には以下に示すような多くの添加剤が含まれている。例えば、堆積物改良剤、清浄剤及び腐食抑制剤として、ホスフェート類、燐酸塩類が添加されている。氷結防止材としてアミン塩が、オクタン価向上剤としてMMT(メチルシクロペンタディエニールマンガントニカルボニル)及び/又はMTBE(メチルターシャリブチルエーテル)及び/又はETBE(エチルターシャリブチルエーテル)を含有する化合物が、煤煙防止剤としてスルホネート類が添加されている。
その上、炭化水素系燃料と空気との完全燃焼によって、二酸化炭素、水及び窒素が生成するが、空気が少ない不完全燃焼の場合には、一酸化炭素及び水素も生成するので、燃焼室は還元性雰囲気となる。一方、空気が過多の場合には、一部の酸素が残留するので、燃焼室は酸化性雰囲気となる。このことから、内燃機関が作動している時には、燃焼室内の雰囲気が極めて大きく変動する。
このように、内燃機関の燃焼室内においては、火花放電と、ガソリンの燃焼による1500℃近い高温状態と、短時間の冷熱サイクルによる熱応力が繰り返し発生する。さらに、この1500℃近い高温の還元性又は酸化性雰囲気下で、ガソリン中に含まれる硫黄、燐及び種々の添加剤が、スパークプラグの電極を激しく攻撃する。これらのことから、スパークプラグ用電極は、1500℃以上の融点を有し加工性と耐熱性を有する材料であって、高温における耐酸化性、耐還元性及び耐腐食性に極めて優れ、火花放電に伴う消耗が少ない耐火花消耗性を有する材料により形成されている必要がある。さらにスパークプラグ用電極を形成する材料は、電気伝導度と熱伝導率が高く、純ニッケルに近似の熱膨張率を有する材料であることが望ましい。
このように高度にバランスのとれた耐熱材料としては、現在のところ貴金属しか該当するものがない。しかし、銀や金は融点が低い(銀961℃、金1063℃)ので使用できない。また、パラジウムは融点が1552℃であるが、高温で触媒作用を有するために使用することができない。したがって、使用できる貴金属としては、融点が高いルテニウム(融点:2500℃)、イリジウム(融点:2454℃)、ロジウム(融点:1966℃)及び白金(融点:1769℃)の4種類に限定される。
その中で、最近では、高温で強度を有するイリジウムを主成分としたチップ電極を用いたスパークプラグが取り扱われている。しかしイリジウムは900〜1000℃の高温域においては、揮発性の酸化物を生じて消耗しやすい性質を有しているため、酸化揮発による消耗が問題となる欠点がある。
高速連続運転することによる耐火花消耗性の低下を防止する為に、ロジウムをはじめとする貴金属をイリジウムに対して少量添加することによりイリジウム成分の酸化揮発を抑え、チップの高温耐熱性を保ちつつ耐火花消耗性を改善したスパークプラグのチップ状の電極の特許が開示されている(例えば特許文献1〜3を参照。)。
特許第2877035号公報
特許第3000955号公報
特開平10−321342号公報
また、芯材を被覆する技術として、スパークする箇所に耐熱性を持つ金属または合金の板材を溶接する技術があり、以下の先行文献等が開示されている(特許文献4を参照。)。
特開2003−229230号公報
上記のように、チップを含む電極は極めて厳しい環境で使用されるために、チップを形成する材料、このうち少なくとも放電部に面する表面の材料は、高温下での耐酸化性及び耐還元性と、燃焼によって生ずる種々の化学物質に対する耐腐食性と、更に火花放電によるエロージョンに対する耐火花消耗性とがより高いことが求められる。そしてスパークプラグを交換する時期までの長期間(例えば、20万キロメートル走行)にわたり、内燃機関の運転に耐え得る電極でなければならない。
ロジウムは貴金属の中でも高価な材料であり、従来では、ロジウムを主成分とする合金、又はイリジウム等にロジウムを多量に含有させた合金によってスパークプラグ用電極を形成させることは費用対効果から研究対象とされなかった。そこで、ロジウムの量が少なくても効果的な耐酸化性、耐還元性、耐腐食性及び耐火花消耗性を発揮させる研究が盛んに行われてきた。
しかし、20万キロメートルの走行距離やそれに伴う耐用年数を考慮すると、イリジウムを主成分とし、ロジウムの添加量を抑えた従来の合金では不十分である。そこで本発明の目的は、長期間の使用に耐えうる耐久性の高いスパークプラグ用電極をコストアップすることなしに提供することを目的とする。
本発明者らはロジウムが耐酸化性及び耐腐食性を向上させる知見を得て、この知見を基に高温耐熱性、耐還元性、耐腐食性及び耐火花消耗性が良好なイリジウムの特性と、耐酸化性及び耐腐食性が良好なロジウムの特性を複合的に引き出すことを試みた。その結果、特定の組成のロジウム−イリジウム系合金から形成された電極が、スパークプラグを交換する時期までの長期間にわたり、内燃機関の運転に耐え得ることを見出して本発明を完成させた。
すなわち本発明に係るスパークプラグ用電極は、スパークプラグの放電部に配置されるチップを含むスパークプラグ用電極において、前記チップは、1500℃以上の融点を有する金属又は合金の材料として、イリジウム、イリジウム合金、白金、白金合金、ジルコニア分散強化型白金合金、タングステン、タングステン合金、アルミナ分散強化型タングステン合金、モリブデン、モリブデン合金、TiC分散強化型モリブデン合金、ニッケル合金、SiCウイスカー分散強化型ニッケル合金から形成された芯材と、該芯材の少なくとも放電部に面する表面を物理的気相成長法で被覆した被覆層とを有し、該被覆層はロジウムを主成分として50wt%以上含有し、且つイリジウムを副成分として1〜50wt%含有し、膜厚が5〜100μmであることを特徴とする。ロジウムを主成分とすることにより、耐酸化性、耐腐食性及びスパーク時の酸化揮発による耐消耗性が更に向上し、イリジウムの含有量を1〜50wt%とすることにより、スパークプラグとしての耐消耗性を更に向上させた状態で高温耐熱性を保つ。そして20万キロメートル走行可能な耐用距離やそれに伴う耐用年数が保たれる。ロジウムとイリジウムとを含む合金を少なくとも放電部表面を被覆するだけで、十分に効果を発揮する。被覆層を形成することにより、チップ全体を本発明で使用する材料により形成した場合と比較して、ロジウムとイリジウムとを含む合金電極材料の使用量をさらに少なくすることができる。また、芯材として加工、成型しやすい材料を選択できるので、製造の歩留まりも高い。
また本発明に係るスパークプラグ用電極は、スパークプラグの放電部に配置されるチップを含むスパークプラグ用電極において、前記チップは、1500℃以上の融点を有する金属又は合金の材料として、イリジウム、白金、白金合金、ジルコニア分散強化型白金合金、タングステン、タングステン合金、アルミナ分散強化型タングステン合金、モリブデン、モリブデン合金、TiC分散強化型モリブデン合金、ニッケル合金、SiCウイスカー分散強化型ニッケル合金から形成された芯材と、該芯材の少なくとも放電部に面する表面を物理的気相成長法で被覆した被覆層とを有し、該被覆層はイリジウムを主成分として50〜64wt%含有し、且つロジウムを副成分として36〜50wt%含有し、膜厚が5〜100μmであることを特徴とする。イリジウムを主成分とすることにより、高温耐熱性を付与し、スパーク時の熱劣化を抑制する。そして、ロジウムの含有量を36〜50wt%とすることにより、スパークプラグとしての高温耐熱性を備えつつ酸化揮発による耐消耗性を付与する。これにより、20万キロメートル走行可能な耐用距離やそれに伴う耐用年数が保たれる。上記発明と同様に、被覆層を形成することにより、チップ全体を本発明で使用する材料により形成した場合と比較して、電極材料の使用量をさらに少なくすることができる。
本発明に係るスパークプラグ用電極では、前記被覆層は、芯材の外表面全体を被覆してなることが好ましい。
本発明に係るスパークプラグ用電極では、前記被覆層は、放電部に面する表面のみを被覆してなるか、又は、放電部に面する表面とこれにつながる側面を被覆してなることが好ましい。
さらに本発明に係るスパークプラグ用電極では、前記被覆層は、物理的気相成長法(PVD法)で形成された膜である場合を含む。前記被覆層は、物理的気相成長法を用いて形成することにより、緻密なロジウムとイリジウムとの合金膜を作製でき、耐酸化性及び耐腐食性が良好なロジウムの特性と、高温耐熱性、耐還元性、耐腐食性及び耐火花消耗性が良好なイリジウムの特性とを効果的に引き出すことができる。
放電部に配置するスパークプラグ用電極として、本発明のロジウムとイリジウムを含む合金のチップを用いることにより、点火燃焼による高温と燃焼性ガス等の種々の化学物質にさらされた場合においても充分な耐酸化性、耐還元性、耐腐食性及び耐火花消耗性を付与し、必要とされる高温耐熱性を備えることができる。これによりチップ状の電極の変形が起こりにくく、20万キロメートル走行可能な耐用距離やそれに伴う耐用年数が保たれる。
さらに、本発明のロジウムとイリジウムを含む合金から形成された被覆層を備えたチップは少なくとも放電部に面する表面が被覆されているので、十分に耐久性のあるスパークプラグが得られる。被覆層を形成することにより、チップ全体を本発明で使用する材料により形成した場合と比較して、電極材料の使用量をさらに少なくすることができる。また、芯材として加工、成型しやすい材料を選択できるので、製造の歩留まりも高い。
以下、本発明について詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。また、以下の実施形態及び実施例において、芯材と被覆層とを有しないスパークプラグ用電極は参考例とする。
図1に本実施形態に係るスパークプラグの放電部の一形態を示す部分拡大概略図を示す。このスパークプラグでは、接地電極3と中心電極4とが火花放電ギャップ6を有するように対向している。中心電極4の側部には絶縁体7が設けられている。中心電極4はスパークプラグの鋼芯8と導通している。中心電極4の先端部5は、テーパ状に縮径されるとともにその先端面が平坦に構成され、ここに円板状の中心電極側チップ1が先端面に配置されている。チップと先端面とは、接合面外縁部に沿ってレーザー溶接により固着されている。
一方、接地電極3の先端には、円板状の接地電極側チップ2が配置されている。接地電極側チップ2は、接地電極3の先端面に重ねあわされて、この状態で挟み付けて加圧しつつ、通電発熱する。これにより、接地電極側チップ2と接地電極3の先端との間で発熱し、接地電極側チップ2が電極母材に食い込みつつ、溶接される。
図1に示したスパークプラグにおいて、スパークプラグの放電部に配置されるチップを含むスパークプラグ用電極とは、中心電極4及び接地電極3である。図1に示したスパークプラグは、中心電極4及び接地電極3の両方にチップを配置した場合を示したが、中心電極4のみ或いは接地電極3のみにチップを設けても良い。
第1形態の中心電極側チップ1と接地電極側チップ2は、ロジウムを主成分として50wt%以上含有し、且つイリジウムを副成分として1〜50wt%含有する材料で形成されている。より好ましくは、ロジウムを主成分として50wt%以上含有し、且つイリジウムを副成分として40〜50wt%含有する材料で形成する。或いはイリジウムを主成分として50〜64wt%含有し、且つロジウムを副成分として36〜50wt%含有する材料で形成されていても良い。より好ましくはイリジウムを主成分として50〜60wt%含有し、且つロジウムを副成分として40〜50wt%含有する材料とする。電極材料は固溶させていることが好ましい。さらにロジウム−イリジウムの2成分系でチップ電極を形成しても良い。ロジウム50wt%−イリジウム50wt%の2成分系のチップ電極も含まれる。またロジウム−イリジウム系合金の特性を損なわない範囲で第3成分を添加しても良い。
上記材料でチップを形成することで、高温耐熱性、耐還元性、耐腐食性及び耐火花消耗性が良好なイリジウムの特性と、耐酸化性及び耐腐食性が良好なロジウムの特性を複合的に引き出される。すなわち、ロジウムを主成分とした場合においては、耐酸化性、耐腐食性及びスパーク時の酸化揮発による耐消耗性が更に向上し、イリジウムの含有量を1〜50wt%とすることにより、スパークプラグとしての耐火花消耗性、高温耐熱性を向上させる。また、イリジウムを主成分とした場合には、耐火花消耗性、高温耐熱性が備わってスパーク時の熱劣化を抑制し、ロジウムの含有量を36〜50wt%とすることにより、スパークプラグとしての酸化揮発による耐消耗性を付与できるので、耐用距離やそれに伴う耐用年数が保たれる。したがって従来の材料を用いた場合と比較して変形が起こりにくく、20万キロメートル走行可能な耐用距離やそれに伴う耐用年数を維持し、トータルメリットがある。
また、前記チップ状の電極の製造では、ロジウムとイリジウムとの合金を作製する上で、溶解法を用いて合金化した合金等が用いられる。
次に図2にチップの第2形態の概略図を示す。スパークプラグ用電極のチップは、導電性芯材10の外表面全体を、耐火花消耗性を有する導電性材料からなる被覆層11で被覆したものである。導電性芯材10は図2に示したような円柱形状でも、或いは不図示の球形状でも良い。球形状とする場合には、下側の半球部分を中心電極若しくは接地電極に埋没させる。円柱形状とする場合には、放電部に面する表面を平坦面にすることが好ましい。チップの耐火花消耗性はこの平坦面であるスパーク面において求められるが、導電性芯材の外表面全体を被覆層で被覆することで、導電性芯材が高温にさらされたとしても揮発等の熱劣化を抑止することができるからである。
また、別の形態として、図3にスパークプラグ用電極であるチップの別形態の縦断面概略図を示す。本実施形態のスパークプラグ用電極では、図2のチップの第2形態で示したように導電性芯材10の外表面全体に被覆層11を形成した場合の他、図3(a)のチップの第3形態で示したように円筒形の導電性芯材10の放電部に面する表面のみに被覆層11を設けても良い。また、図3(b)のチップの第4形態で示したように円筒形の導電性芯材10の放電部に面する表面とこれにつながる側面に被覆層11を設けても良い。いずれにしても、スパーク面である放電部に面する表面を少なくとも被覆層で被覆する。当該放電部に面する表面がスパークにさらされて消耗するからである。
図4に球形状の導電性芯材を用いるときの導電性芯材の形成方法の概略工程図を示した。導電性芯材を球形状に形成する場合には、まず、直径が0.2〜1.0mm程度で、深さが0.5〜0.8mm程度の円柱状の穴をカーボンプレート12に設けたものを準備する。ただし、上記に示した孔の大きさは例示である。そして、当該穴に導電性芯材の原料13を入れて(図4(a))、アーク放電で溶融し(図4(b))、これを冷却固化させ、球形状の導電性芯材14を得る(図4(c))。アーク放電により導電性芯材の原料13が溶融し、金属の表面張力により球形状となる。
図2又は図3に示した第2形態、第3形態又は第4形態に係るチップの導電性芯材10は、1500℃以上の融点を有する金属、合金等の金属材料から形成された芯材である。また被覆層11は耐火花消耗性を有する導電性材料からなり、この導電性材料としては、ロジウムを主成分として50wt%以上含有し、且つイリジウムを副成分として1〜50wt%含有する材料がある。より好ましくは、ロジウムを主成分として50wt%以上含有し、且つイリジウムを副成分として40〜50wt%含有する材料とする。或いは導電性材料を、イリジウムを主成分として50〜64wt%含有し、且つロジウムを副成分として36〜50wt%含有する材料としても良い。より好ましくはイリジウムを主成分として50〜60wt%含有し、且つロジウムを副成分として40〜50wt%含有する材料とする。被覆層の材料は固溶させていることが好ましい。さらにロジウム−イリジウムの2成分系で被覆層を形成しても良い。ロジウム50wt%−イリジウム50wt%の2成分系の被覆層も含まれる。またロジウム−イリジウム系合金の特性を損なわない範囲で第3成分を添加しても良い。被覆層11は、第2形態、第3形態又は第4形態で示したように、導電性芯材10の外表面全体を被覆している、或いは導電性芯材10の表面のうち少なくとも前記放電部に面する表面を被覆している。
被覆層11として上記導電性材料を使用した場合、ロジウムを主成分とすることにより、耐酸化性、耐腐食性及びスパーク時の酸化揮発による耐消耗性が更に向上し、イリジウムの含有量を1〜50wt%とすることにより、スパークプラグとしての耐火花消耗性、高温耐熱性を向上させる。また、イリジウムを主成分とすることにより、耐火花消耗性、高温耐熱性を備えるのでスパーク時の熱劣化が抑制され、ロジウムの含有量を36〜50wt%とすることにより、スパークプラグとしての酸化揮発による耐消耗性を備える。そして導電性芯材10の少なくともスパークする箇所にロジウムとイリジウムとの合金である上記導電性材料を被覆すれば耐火花消耗性、高温耐熱性の効果が十分に発揮され、さらに導電性芯材の全周に被覆すれば、側面における燃焼雰囲気に対する耐性、高温耐熱性も確保できる。したがって、第2形態、第3形態又は第4形態に係るチップの導電性芯材10の材料として導電性と加工性の良い廉価な材料を選択できる。
導電性芯材10の材料は、1500℃以上の融点を有する金属、合金等の金属材料で形成する必要がある。融点が1500℃より低い材料を用いると、スパークした時に芯材が軟化し、チップ状の電極の形状の変形によりロジウムとイリジウムとの合金の被覆層に応力がかかり、耐火花消耗性、高温耐熱性が確保できなくなる。
導電性芯材の材料は、1500℃以上の融点を有する加工性の良い材料で、熱膨張率ができるだけ純ニッケルに近い材料であって、且つできるだけ電気抵抗が小さく、熱伝導率の良い材料が望ましい。好適な材料としては、イリジウム、白金、タングステン又はモリブデン等の各種金属、或いは前記金属を主成分とした耐熱合金、或いはニッケル合金等の金属材料がある。
導電性芯材の材料の組成は、例えばイリジウム合金とする場合、(80mass%Ir:5mass%Rh:15mass%Pt)合金、(95mass%Ir:2mass%Rh:3mass%Ru)合金、(90mass%Ir:6mass%Rh:4mass%Re)合金、(60mass%Ir:20mass%Rh:20mass%Mo)合金、(79mass%Ir:20mass%Rh:1mass%Cr)合金、(69mass%Ir:1mass%Rh:30mass%V)合金などがある。
白金合金とする場合、(98mass%Pt:2mass%W)合金、(90mass%Pt:10mass%Ni)合金、(80mass%Pt:20mass%Ir)合金などがある。
ニッケル合金とする場合、(95mass%Ni:2mass%Mn:1.5mass%Cr:1.5mass%Si)合金、(75.5mass%Ni:15mass%Cr:8mass%Fe:1mass%Mn:0.5mass%Si)合金の他、Inconel600、Hoskins831などがある。
タングステン合金とする場合、(98mass%W:2mass%Re)合金、(80mass%W:20mass%Fe)合金及び(90mass%W:6mass%Ni:4mass%Cu)合金などがある。
モリブデン合金とする場合、(51mass%Mo:49mass%W)合金及び(25mass%Mo:75mass%W)合金などがある。
その他、ジルコニア分散強化型白金合金、SiCウイスカー分散強化型ニッケル合金、アルミナ分散強化型タングステン合金またはTiC分散強化型モリブデン合金などがある。
チップの芯材である耐熱金属及び合金の形状は、直径が0.3〜0.8mmで長さが0.5〜0.8mm程度の大きさの球状、円柱状又はリベット状のものが使用されるが、芯材として加工性の良い材料を選択することによって、チップの芯材をより小型化でき、前記芯材に耐火花消耗性、高温耐熱性を供えたロジウムとイリジウムとの合金を表面に被覆すれば、小型で耐用距離や耐用年数の長いチップ状の電極の形成が可能になる。
導電性芯材の表面に形成する被覆層の形成方法は、PVD法により形成することが好ましい。被覆層の他の形成方法としては、溶融塩メッキ等のメッキ法でも良い。
PVD法としては、例えば抵抗加熱蒸着又は電子ビーム加熱蒸着等の真空蒸着法、DCスパッタリング、高周波スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、ECRスパッタリング又はイオンビームスパッタリング等の各種スパッタリング法、高周波イオンプレーティング、活性化蒸着又はアークイオンプレーティング等の各種イオンプレーティング法、分子線エピタキシー法、レーザアブレーション法、イオン化クラスタビーム蒸着法、並びにイオンビーム蒸着法などがある。
PVD法では基本的にどの様な加工性の悪い材料でも容易に被覆層を形成することが可能であり安価である。内燃機関を始め燃焼機器に使用されるガス体の特性や機器の寿命に応じて、簡便に被覆合金を選択できる。また、溶融法では出来ない組成の金属材料を容易に被覆することが可能で、スパークプラグに利用される合金にセラミック等の分散強化材を導入したコンポジット材をも被覆が可能であり高温耐熱性を向上させることも可能である。
PVD法で形成する場合の被覆層の膜厚は、5μm以上、好ましくは10μm以上で100μm以下である。さらに好ましくは10μm以上50μm以下である。被膜厚が5μm未満の場合は、被膜の欠陥(ピンホール、薄目付被覆または不被覆など)が存在しやすいため、均一なコーティングを施さない限り、芯材を完全に保護することが難しい。このような場合、使用により芯材が早期に露出しやすいおそれがある。逆に、膜厚が100μmを超えた場合は、ロジウム及びイリジウムの使用量が増えていくので材料費が高価となるわりには特性及び効果はほとんど変わらない。
上記膜厚とする場合には、スパッタリング条件を調整して複数回に分けて成膜し、成膜ごとに熱処理することが好ましい。また、導電性芯材に被覆層を形成後、層間の密着性や接合力を強化して被覆層の剥離を防止する為に、真空中または不活性ガス中で400〜1200℃で10〜120分間加熱することによってアニーリング処理または拡散処理を行うことがより好ましい。この時、酸化等の変質を防止するために、真空中または不活性ガス中の雰囲気で熱処理を行うのが望ましい。熱処理の条件が、400℃以下の低温で10分間未満の短時間の場合には、アニーリング効果がない。一方、1200℃以上の高温で120分間以上の長時間の場合には、拡散が進行し過ぎて各被覆層の組成が変化するので望ましくない。
なお、導電性芯材の表面全体に被覆層を形成する場合には、成膜中に被成膜物を気流中に浮かせ、回転させながら成膜する。或いは成膜位置を変えて導電性芯材の外表面の全面に被覆層が形成されるまで複数回成膜する。
また、導電性芯材と被覆層との間に、導電性材料からなる中間層を設け、被覆材の剥離を抑止することもできる。
(組成による消耗量試験)
(実施例1)
ロジウムにイリジウムを1wt%定量秤取、添加し、アーク溶解法によりボタン状の鋳塊を作製し、合金化したこの鋳塊をワイヤーカット法によりφ(径)0.7mm、高さ0.5mmの円柱状の試験片にカットし、ダイヤモンドヤスリにより表面研硝を施した試験片をチップとした。内燃機関用スパークプラグを構成するニッケル合金製(75.5mass%Ni:15mass%Cr:8mass%Fe:1mass%Mn:0.5mass%Si)の中心電極の先端表面にこのチップを中心電極側チップ(例えば図1の符号1)としてレーザー溶接した。その後、1600ccの内燃機関内にこのスパークプラグを装着した後、燃料には市販のレギュラーガソリン(JIS自動車ガソリン2号)を使用して、6500rpmで1000時間実機運転を行い、試験前の形状の体積と試験後形状の体積とを測定し、消耗量及びその割合を算出した。その結果を表1に示す。なお、6500rpmで1000時間実機運転は、走行距離22万kmに相当する。
(実施例2)
イリジウムの含有量を50wt%とした以外は、実施例1と同様の条件で試験を行った。その結果を表1に示す。
(実施例3)
イリジウムにロジウムを40wt%定量秤取、添加し、アーク溶解法によりボタン状の鋳塊を作製し、合金化したこの鋳塊をワイヤーカット法によりφ0.7mm、高さ0.5mmの円柱状の試験片にカットし、ダイヤモンドヤスリにより表面研硝を施した試験片をチップとした。内燃機関用スパークプラグを構成するニッケル合金製(75.5mass%Ni:15mass%Cr:8mass%Fe:1mass%Mn:0.5mass%Si)の中心電極の先端表面にこのチップを中心電極側チップとしてレーザー溶接した。中心電極の先端表面に中心電極側チップとしてレーザー溶接した。その後、1600ccの内燃機関内にこのスパークプラグを装着した後、燃料には市販のレギュラーガソリン(JIS自動車ガソリン2号)を使用して、6500rpmで1000時間実機運転を行い、試験前の形状の体積と試験後形状の体積とを測定し、消耗量及びその割合を算出した。その結果を表1に示す。
(実施例4)
ロジウムの含有量を36wt%とした以外は、実施例3と同様の条件で試験を行った。その結果を表1に示す。
(被覆層、芯材、膜厚に関する消耗量試験)
(実施例5)
φ0.7mm、高さ0.5mmの白金の芯材をあらかじめ用意しておく。次にロジウムにイリジウムを1.0wt%定量秤取、添加し、アーク溶解法によりボタン状の鋳塊を作製し、ロジウム合金化したこの鋳塊を切削してφ50mm、高さ5mmのスパッタリングターゲットを作製し、スパッタリング装置に設置する。その後、あらかじめ用意しておいたφ0.7mm、高さ0.5mmの白金の芯材を成膜箇所に設置し、前記ロジウム合金スパッタリングターゲットをスパッタすることによって被覆層を設けた試験片を形成した。被覆層の厚みは、10μmとした。この試験片をチップとした。内燃機関用スパークプラグを構成するニッケル合金製(75.5mass%Ni:15mass%Cr:8mass%Fe:1mass%Mn:0.5mass%Si)の中心電極の先端表面にこのチップを中心電極側チップとしてレーザー溶接した。その後、1600ccの内燃機関内にこのスパークプラグを装着した後、燃料には市販のレギュラーガソリン(JIS自動車ガソリン2号)を使用して、6500rpmで1000時間実機運転を行い、試験前の形状の体積と試験後形状の体積とを測定し、消耗量及びその割合を算出した。その結果を表1に示す。
(実施例6)
イリジウムの含有量を50wt%、芯材をモリブデン、被覆層の厚みを50μmとした以外は、実施例5と同様の条件で試験を行った。その結果を表1に示す。
(実施例7)
φ0.7mm、高さ0.5mmの白金の芯材をあらかじめ用意しておく。次にイリジウムにロジウムを36wt%定量秤取、添加し、アーク溶解法によりボタン状の鋳塊を作製し、イリジウム合金化したこの鋳塊を切削してφ50mm、高さ5mmのスパッタリングターゲットを作製し、スパッタリング装置に設置する。その後、あらかじめ用意しておいたφ0.7mm、高さ0.5mmの白金の芯材を成膜箇所に設置し、前記イリジウム合金スパッタリングターゲットをスパッタすることによって被覆層を設けた試験片を形成した。被覆層の厚みは、100μmとした。この試験片をチップとした。内燃機関用スパークプラグを構成するニッケル合金製(75.5mass%Ni:15mass%Cr:8mass%Fe:1mass%Mn:0.5mass%Si)の中心電極の先端表面にこのチップを中心電極側チップとしてレーザー溶接した。その後、1600ccの内燃機関内にこのスパークプラグを装着した後、燃料には市販のレギュラーガソリン(JIS自動車ガソリン2号)を使用して、6500rpmで1000時間実機運転を行い、試験前の形状の体積と試験後形状の体積とを測定し、消耗量及びその割合を算出した。その結果を表1に示す。
(組成による消耗量試験)
(比較例1)
ロジウムをアーク溶解法によりボタン状の鋳塊を作製し、この鋳塊をワイヤーカット法によりφ0.7mm、高さ0.5mmの円柱状の試験片にカットし、ダイヤモンドヤスリにより表面研硝を施した試験片をチップとした。内燃機関用スパークプラグを構成するニッケル合金製(75.5mass%Ni:15mass%Cr:8mass%Fe:1mass%Mn:0.5mass%Si)の中心電極の先端表面にこのチップを中心電極側チップとしてレーザー溶接した。その後、1600ccの内燃機関内にこのスパークプラグを装着した後、燃料には市販のレギュラーガソリン(JIS自動車ガソリン2号)を使用して、6500rpmで1000時間実機運転を行い、試験前の形状の体積と試験後形状の体積とを測定し、消耗量及びその割合を算出した。その結果を表2に示す。
(比較例2)
イリジウムにロジウム35wt%定量秤取、添加し、アーク溶解法によりボタン状の鋳塊を作製し、イリジウム合金化したこの鋳塊をワイヤーカット法によりφ0.7mm、高さ0.5mmの円柱状の試験片にカットし、ダイヤモンドヤスリにより表面研硝を施した試験片をチップとした。内燃機関用スパークプラグを構成するニッケル合金製(75.5mass%Ni:15mass%Cr:8mass%Fe:1mass%Mn:0.5mass%Si)の中心電極の先端表面にこのチップを中心電極側チップ(例えば図1の符号1)としてレーザー溶接した。その後、1600ccの内燃機関内にこのスパークプラグを装着した後、燃料には市販のレギュラーガソリン(JIS自動車ガソリン2号)を使用して、6500rpmで1000時間実機運転を行い、試験前の形状の体積と試験後形状の体積とを測定し、消耗量及びその割合を算出した。その結果を表2に示す。
(被覆層、芯材、膜厚に関する消耗量試験)
(参考例1)
ロジウムにイリジウムを1wt%定量秤取、添加し、アーク溶解法によりボタン状の鋳塊を作製し、ロジウム合金化したこの鋳塊を切削してφ50mm、高さ5mmのスパッタリングターゲットを作製し、スパッタリング装置に設置する。その後、あらかじめ用意しておいたφ0.7mm、高さ0.5mmのモリブデンの芯材を成膜箇所に設置し、前記ロジウム合金スパッタリングターゲットをスパッタすることによって被覆層を設けた試験片を形成した。被覆層の厚みは、0.9μmとした。この試験片をチップとした。内燃機関用スパークプラグを構成するニッケル合金製(75.5mass%Ni:15mass%Cr:8mass%Fe:1mass%Mn:0.5mass%Si)の中心電極の先端表面にこのチップを中心電極側チップとしてレーザー溶接した。その後、1600ccの内燃機関内にこのスパークプラグを装着した後、燃料には市販のレギュラーガソリン(JIS自動車ガソリン2号)を使用して、6500rpmで1000時間実機運転を行い、試験前の形状の体積と試験後形状の体積とを測定し、消耗量及びその割合を算出した。その結果を表2に示す。
(参考例2)
イリジウムにロジウムを36wt%定量秤取、添加し、アーク溶解法によりボタン状の鋳塊を作製し、イリジウム合金化したこの鋳塊を切削してφ50mm、高さ5mmのスパッタリングターゲットを作製し、スパッタリング装置に設置する。その後、あらかじめ用意しておいたφ0.7mm、高さ0.5mmのタングステンの芯材を成膜箇所に設置し、前記イリジウム合金スパッタリングターゲットをスパッタすることによって被覆層を設けた試験片を形成した。被覆層の厚みは、105μmとした。この試験片をチップとした。内燃機関用スパークプラグを構成するニッケル合金製(75.5mass%Ni:15mass%Cr:8mass%Fe:1mass%Mn:0.5mass%Si)の中心電極の先端表面にこのチップを中心電極側チップとしてレーザー溶接した。その後、1600ccの内燃機関内にこのスパークプラグを装着した後、燃料には市販のレギュラーガソリン(JIS自動車ガソリン2号)を使用して、6500rpmで1000時間実機運転を行い、試験前の形状の体積と試験後形状の体積とを測定し、消耗量及びその割合を算出した。その結果を表2に示す。
実施例1〜7では、試験前に測定した体積と試験後に測定した体積との差から、消耗量は平均で0.0092mm3であり、火花による消耗率も平均で4.8%と低かった。
また、実施例5〜7の被覆層としてロジウムとイリジウムとの合金薄膜を設けたチップ状の電極においても、試験後の表面に芯材の露出が見受けられなかった為、スパークプラグとして十分な耐久性を有していた。
実施例に対し、比較例1は、試験前に測定した体積と試験後に測定した体積との差から、消耗量は0.0224mm3であり、火花による消耗率も11.7%と高かった。これは、実施例に比べイリジウムの含有量が無い為、スパークした時の熱による劣化が多くなってしまった。特にイリジウムを1wt%添加した実施例1とロジウムのみの比較例1とを比較すると、ロジウムを主成分とした場合、イリジウムを1wt%と少量添加しただけで耐消耗性を更に向上させた状態で高温耐熱性を保つことがわかる。
実施例に対し、比較例2は、試験前に測定した体積と試験後に測定した体積との差から、消耗量は0.0189mm3であり、火花による消耗率も9.9%と高かった。これは、実施例に比べロジウムの含有量が低い為、スパークした時の火花による消耗量が多くなってしまった。特にロジウムを36wt%添加した実施例4とロジウムを35wt%添加した比較例2とを比較すると、イリジウムを主成分とした場合、ロジウムを36wt%以上添加することで、ロジウム含有量36wt%を境に急激に耐消耗性が向上することがわかる。実施例3もイリジウムを主成分とし、且つロジウムが40wt%添加されているため、同様に耐消耗性が向上していることがわかる。
参考例1は、試験前に測定した体積と試験後に測定した体積との差から、消耗量は0.0329mm3であり、火花による消耗率も17.3%と高かった。被覆層の厚みが0.9μmと薄く、また試験後の表面に芯材の露出が見受けられた。被膜の欠陥を完全になくすほどに被覆層の厚みが十分でなかったと考えられる。
参考例2は、試験前に測定した体積と試験後に測定した体積との差から、消耗量は0.0113mm3であり、火花による消耗率も5.7%と実施例7と比べて遜色なかった。その為、被覆層の膜厚が100μm以上は、耐消耗性や高温耐熱性の効果の上積みが見受けられなかった。
本実施形態に係るスパークプラグの放電部の一形態を示す部分拡大概略図を示す。
チップの第2形態の概略図を示す。
チップの別形態の縦断面概略図を示し、(a)は放電部に面する表面のみに被覆層を形成した場合(第3形態)、(b)は放電部に面する表面とこれにつながる側面に被覆層を形成した場合(第4形態)を示す。
球形状の導電性芯材の形成方法を示す概略工程図であり、(a)は穴に導電性芯材の原料を入れる工程、(b)はアーク放電により導電性芯材の原料を溶融する工程、(c)は溶融し球形となった導電性芯材を冷却固化する工程、をそれぞれ示す。
符号の説明
1 中心電極側チップ
2 接地電極側チップ
3 接地電極
4 中心電極
5 先端部
6 火花放電ギャップ
7 絶縁体
8 鋼芯
10 導電性芯材
11 被覆層
12 カーボンプレート
13 導電性芯材の原料
14 球形状の導電性芯材