JP4572281B2 - 撥水処理をした油水分離フィルターとその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、油水混合液から油(特に、水分含有率の低い油)を効率よく回収するために用いられる油水分離フィルター及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
食品製造、繊維処理、機械加工、石油精製などの廃液処理、また事故などによる河川、海洋などへの油の流出による油回収作業として、油水混合液を油と水とに分離する処理が行われている。
【0003】
従来の分離方法としては、比重分離、加圧浮上分離、遠心分離、吸着分離、電気的方法などが行われてきた。また、最近では高濃度分離が可能であり且つ省エネルギーの点で有利な逆浸透法、限外濾過法、精密濾過法が注目されている。特にセラミック質材料の化学的、機械的安定性から以下のような様々な方法が開示されている。
【0004】
特開平1−139107号公報には、アルミナ製の多孔質セラミックスから成る筒状多層構造体のフィルタを用いた油水分離装置が開示されている。
特開平6−15164号公報には、シリコーン系のオイル等を用いて撥水処理をした中空セラミック粒よりなる吸油材が開示されており、前記中空セラミック粒は、ポリスチロールの球形発泡体にシリカ、アルミナ等の粘土質を含む無機質を被覆し、造粒、乾燥、焼成して得る旨が記載されている。
【0005】
特開平7−60277号公報には、汚水に浮かべて水面の汚れや油膜を処理する汚水浄化用中空セラミックボールが開示されている。
特開平8−52305号公報には、多数の細孔を有するセラミックスから成ると共にカップリング剤から成る撥水親油膜が形成された濾過膜を備えて、油水混合液から水分含有率の低い油を回収するために用いられる油水分離用濾過器が開示されている。
【0006】
また、これまで油水分離用として用いられるセラミックフィルターには、セラミック粒子を焼結し、気孔を残して得られるフィルター、あるいは、セラミック粒子が含まれるスラリーを樹脂製のスポンジに含浸し焼結して得られるセラミックフォームがある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来のセラミックフィルターのうちで撥水処理をしていないものは、濾過された液体の中に油の微粒子が混入することを防止することができなかったので、水分含有率の低い油を回収することが極めて困難であり、油水分離フィルターとして十分に使用することはできなかった。
【0008】
また、特開平6−15164号公報や特開平8−52305号公報に記載のセラミックフィルターは、撥水処理をしたフィルターであるが、フィルター内部への水の微粒子が侵入しやすいので、目詰まりを起こしやすい。そのため、目詰まりを起こした場合の洗浄や目詰まりを起こす前のフィルターの定期的な洗浄の回数が多く、フィルターの保守が煩雑になる、という問題点があった。
さらに、シリコーン系のオイル等で撥水処理をしたフィルターの中には、使用中に前記オイルがフィルターから脱離して、フィルターが目詰まりするという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記従来のセラミックフィルターとは全く異なる新規な油水分離フィルター及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、フィルターの洗浄回数を低減し、保守しやすいと共に、使用中におけるシリコーン系のオイルの脱離によるフィルターの目詰まりがない油水分離フィルター及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、次の▲1▼〜▲3▼の知見により本発明を完成するに至った。
▲1▼従来のフィルターは、表面積が小さく、気孔率が40%程度と低いため、油水混合液から油を十分に分離することができないこと。
▲2▼無機質結合剤形成原料粉末(例えば、窒化ホウ素粉末)を捕集した無機質繊維(例えば、実質的に非晶質のシリカ繊維)の凝集体を含む成形体を、前記無機質結合剤形成原料粉末と前記無機質繊維が反応する最低温度以上の温度で焼成することにより、比表面積が高く、撥水剤に対して結合性を有する反応基の数が多い(単位体積あたりの例えば−OH基の数が多い)高気孔焼成体を得ることができること。
【0011】
▲3▼前記高気孔焼成体の前記反応基に撥水剤を結合することにより、油を通過させ水を遮断するのに十分な親油性を有する部分(油水混合液との接触部分)を形成して得られたフィルターは、フィルターの濾過方向内部へ水の微粒子が進入しにくいと共に油を良好に通過させることができ目詰まりしにくく洗浄回数を著しく低減することができること。
【0012】
即ち、本発明の第1の視点によれば、無機質繊維と前記無機質繊維を結合する無機質結合剤を含有して成る高気孔体を有し、
少なくとも油水混合液との接触部分は、撥水剤に対して結合性を有する前記高気孔体の反応基に結合する撥水剤を、油を通過させ水を遮断するのに十分な程度有する油水分離フィルターにより、上記目的を達成することができる。この油水分離フィルターは、次のようにすることができる。
【0013】
前記反応基を水酸基にし、前記撥水剤をシランカップリング剤にすることができる。
前記シランカップリング剤は、メチルトリメトキシシラン、ポリジメチルシロキサン、フルオロアルキルシラン、テトラエトキシシラン、フルオロアルキルシラン、ヘキサメチルジシラザン、トリメトキシシラン、ジメチルエトキシシランのうちの1種以上にすることができる。
前記高気孔体は、3次元網目構造の高気孔体にすることができる。
前記接触部分の撥水剤が結合する高気孔体の部分は、前記接触部分が油を通過させ水を遮断するのに十分な比表面積を有するものにすることができる。
【0014】
前記比表面積を0.6m2/g以上にすることができる。
前記高気孔体の気孔率を80体積%以上にすることができる。
前記高気孔体の曲げ強度を8kgf/cm2以上にすることができる。
前記無機質繊維は、実質的に非晶質のシリカ繊維を主たる無機質繊維として含むものにすることができる。
前記無機質繊維は、さらに、アルミナ繊維、アルミノシリケート繊維、アルミノボロシリケート繊維のうちの1種以上を補強用無機質繊維として含むものにすることができる。
【0015】
前記無機質結合剤は、実質的に非晶質のシリカ繊維の結晶化を抑制する結晶化抑制剤の粉末と無機質繊維との反応生成物を含むものにすることができる。
前記結晶化抑制剤の粉末は、(a)非金属ホウ化物、(b)ジルコニウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(c)クロムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(d)イットリウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(e)バナジウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(f)ランタノイド系元素の窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物のうちの少なくとも1種を含有する粉末にすることができる。
【0016】
また、本発明の第2の視点によれば、撥水剤に対して結合性を有する高気孔体の反応基に撥水剤を結合して、油を通過させ水を遮断するのに十分な親油性を有する油水混合液接触部分を形成する撥水剤結合工程を含み、
前記高気孔体として、無機質結合剤形成原料粉末を捕集した無機質繊維の凝集体を含む成形体を、前記無機質結合剤形成原料粉末と前記無機質繊維が反応する最低温度以上の温度で焼成して得られた高気孔体を用いる油水分離フィルターの製造方法により、上記目的を達成することができる。この油水分離フィルターの製造方法は、次のようにすることができる。
【0017】
前記反応基を水酸基にし、前記撥水剤としてシランカップリング剤を用いることができる。
前記シランカップリング剤として、メチルトリメトキシシラン、ポリジメチルシロキサン、フルオロアルキルシラン、テトラエトキシシラン、フルオロアルキルシラン、ヘキサメチルジシラザン、トリメトキシシラン、ジメチルエトキシシランのうちの1種以上を用いるができる。
前記凝集体として、無機質結合剤形成原料粉末と無機質繊維が分散する分散液のpHを調整して得られた凝集体を用いることができる。
前記分散液として、pH3以上の弱酸性の分散液を用いることができる。
【0018】
前記成形体として、前記凝集体を真空成形して得られる成形体を用いることができる。
前記分散液をpH4〜10に調整し、pH3以上の弱酸性の分散液に分散していた無機質繊維の凝集の程度を変化させることによって、焼成後に得られる高気孔体の気孔率を制御することができる。
前記分散液を、前記焼成工程の焼成後に得られる高気孔体の気孔率に対応するpH4〜10の範囲内の所定pHに調整することができる。
前記無機質繊維として、実質的に非晶質のシリカ繊維を主原料として含有する無機質繊維を用いることができる。
【0019】
前記無機質結合剤形成原料粉末として、(a)ホウ素酸化物形成原料、(b)ジルコニウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(c)クロムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(d)イットリウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(e)バナジウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(f)ランタノイド系元素の窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物のうちの少なくとも1種の粉末を用いることができる。
【0020】
セラミックスには、撥水剤に対して結合性を有する反応基(例えば、−OH基等)が存在する。セラミックスの親油性を高めるためには、フィルター表面に存在する前記反応基を増やしてより多くの撥水剤を結合させることが考えられるが、セラミックスの表面の前記反応基は通常ほぼ一定であるため、本発明では高気孔体であるフィルターの比表面積を高めることにより、単位体積あたりの前記反応基の数を増加させて撥水剤を結合し、フィルターの油水混合液との接触部分の親油性を高めて、フィルターの濾過方向内部への水の進入距離を小さくしようとするものである。そこで、本発明の油水分離フィルターは、フィルターの比表面積を高め、気孔率を高めるため、無機質繊維を用いた上記高気孔体を採用することにした。
なお、本発明において数値範囲の記載は、両端値のみならず、その中に含まれる全ての任意の中間値を含むものとする。
【0021】
【発明の実施の形態】
〔油水分離フィルター〕
本発明の油水分離フィルターは、無機質繊維と前記無機質繊維を結合する無機質結合剤を含有して成る高気孔体を含むものである。そして、前記高気孔体の少なくとも油水混合液との接触部分は、撥水剤に対して結合性を有する前記高気孔体の反応基に結合する撥水剤を、油を通過させ水を遮断するのに十分な程度有する部分である。
【0022】
好ましくは、前記油水混合液との接触部分は、油を通過させ水を遮断するのに十分な程度で、前記高気孔体の反応基に結合する撥水剤が、前記高気孔体を被覆する部分である。より好ましくは、前記油水混合液との接触部分は、油を通過させ水を遮断するのに十分な程度で、前記高気孔体の反応基に結合する撥水剤が、前記高気孔体を被覆する被覆膜を形成している部分である。前記撥水剤の被覆膜の厚さは、好ましくは0.1μm以下(より好ましくは0.05μm以下)である。
【0023】
特に好ましくは、前記油水混合液との接触部分は、水との接触角が90°以上(より好ましくは100°以上、さらに好ましくは110°以上)の撥水性を有する部分である。なお、前記高気孔体の形状は、例えばチューブ状、板状、お椀形にすることができる。
【0024】
前記高気孔体は、好ましくは3次元網目構造(特に、無機質繊維が複雑に絡み合った3次元網目構造)の高気孔体である。本発明の油水分離フィルターは、このような高気孔体に撥水剤を結合させて成るもののみにすることができるが、必要に応じて前記高気孔体を保持あるいは保護する支持体を具備することができる。前記支持体は、例えば、セラミックス、樹脂及び金属のうちの1種以上の材料から成るもの(例えば、油水混合液を通過させない低気孔性ないし実質的に無気孔性のもの)から適宜選択することができる。
【0025】
本発明の油水分離フィルターにおける前記高気孔体の油水混合液と接触しない部分は、油を通過させ水を遮断するのに十分な親油性にする必要はないが、油水混合液と接触しない部分を含めた前記高気孔体の全表面(気孔の内面も含む)を撥水剤で被覆して、油を通過させ水を遮断するのに十分な親油性にすることができる。
【0026】
[油水分離フィルターの特性]
〈比表面積〉
油水分離フィルターにおける前記接触部分の撥水剤が結合する前記高気孔体の部分は、好ましくは、撥水剤の結合により、油を通過させ水を遮断するのに十分な程度の親油性になる比表面積を有するようにする。前記比表面積は、0.05m2/g以上にすることができ、好ましくは0.08m2/g以上であり、より好ましくは0.1m2/g以上(さらに好ましくは0.2m2/g以上、よりさらに好ましくは0.3m2/g以上、特に好ましくは0.4m2/g以上)であり、0.6m2/g程度以上までにすることができる。
【0027】
このため前記高気孔体の単位体積あたりの反応基(撥水剤に対して結合性を有する反応基、例えば−OH基等)の数が多くなっているので、撥水剤の結合により親油性を高くすることができる。従って、水を通過させにくくすることができるため、十分な油水分離が可能となる。なお、セラミック粒子を焼結させて得られたフィルターあるいはセラミックフォームの比表面積は、一般的に0.06m2/g程度までである。
【0028】
〈気孔率及び嵩密度〉
油水分離フィルターにおける前記高気孔体の気孔率は、好ましくは70〜97体積%(より好ましくは75〜97体積%、さらに好ましくは80〜95体積%)にすることができる。気孔率が80体積%以上と極めて高い場合には、油水分離フィルター体積あたりの処理量は、従来のもの(例えば、セラミック粒子を焼結して得られたもの等)よりも大きい。
【0029】
また、気孔の径は、数μm以上にすることができ、実用上の点から5μm以上、10〜100μmにすることができ、例えば平均細孔径40〜50μmにすることができる。なお、前記高気孔体は、例えば、水銀圧入法等の気孔径測定法により測定された場合、気孔の孔径分布がそろっているものにすることができる。
【0030】
油水分離フィルターにおける前記高気孔体の嵩密度は、好ましくは0.15g/cm3以下(より好ましくは0.12〜0.08g/cm3、さらに好ましくは0.11〜0.09g/cm3)にすることができる。
【0031】
〈強度〉
油水分離フィルターにおける前記高気孔体の曲げ強度は、5kgf/cm2以上にすることができ、好ましくは8kgf/cm2以上(より好ましくは10kgf/cm2以上)であり、10〜15kgf/cm2程度までの高い曲げ強度にすることができる。このため、板状、円筒状などの形状を油水分離フィルターに付与して、従来の装置の中に組み込んでの連続使用にも十分耐え得る。
【0032】
油水分離フィルターにおける前記高気孔体の引張り強度は、高さ方向の引張り強度が2.5kgf/cm2(およそ0.245MPa)以上(好ましくは0.294MPa以上)である。ここで、高さ方向の引張り強度における「高さ方向」とは、成形時における加圧方向のことであり、通常は、成形に用いるプレス装置の軸方向のことをいう。例えば、プレス装置により得られた成形体のプレス面に対して直交する方向である。
【0033】
[無機質繊維]
本発明の油水分離フィルターの前記高気孔体における無機質繊維の全重量の好ましくは60〜100重量%(より好ましくは60〜90重量%)を実質的に非晶質のシリカ繊維にすることができる。前記高気孔体における実質的に非晶質のシリカ繊維以外の無機質繊維は、アルミナ繊維、アルミノシリケート繊維、アルミノボロシリケート繊維等のような、実質的に非晶質のシリカ繊維と併用した場合に前記非晶質のシリカ繊維を補強することができる無機質補強繊維のうちの1種以上の無機質繊維にすることができる。また、前記高気孔体における無機質繊維に含まれている全てのシリカ繊維を、実質的に非晶質のシリカ繊維にすることができる。
【0034】
[無機質結合剤]
無機質結合剤は、無機質繊維を結合する。無機質結合剤は、好ましくは、実質的に非晶質のシリカ繊維の結晶化を抑制する結晶化抑制剤の粉末と無機質繊維との反応生成物を含む。実質的に非晶質とは、X線回折的に非晶質のみから構成されていることである。即ち、X線回折法によって結晶が確認できないことである。図2は、非晶質のシリカ繊維を含むフィルターのX線回折法によるパターンであるが、例えば、この図2に示すとおりであり、X線回折の結果からは特徴的なピークの存在を見いだせず、シリカ繊維の結晶化は抑制されていると解される。前記反応生成物は、好ましくは、前記結晶化抑制剤の粉末が無機質繊維と反応して、無機質繊維との界面に生成した反応生成物である。この反応生成物を介して無機質繊維と無機質繊維の間は融着している。
【0035】
より好ましくは、無機質繊維と無機質結合剤が三次元結節状網状に結合して、即ち、無機質繊維と無機質繊維の交点ないし接点で無機質結合剤を介して互いに結合し(少なくとも、接点では必ず結節を有するように結合し)、三次元結節状網状体を形成している。
【0036】
無機質結合剤は、より好ましくは、次の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び(f)のうちの少なくとも1種の粉末と無機質繊維との反応生成物を含有する。即ち、(a)非金属ホウ化物の粉末、(b)ジルコニウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物の各粉末、(c)クロムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物の各粉末、(d)イットリウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物の各粉末、(e)バナジウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物の各粉末、(f)ランタノイド系元素の窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物の各粉末のうちの少なくとも1種の粉末と無機質繊維との反応生成物である。
【0037】
ランタノイド系元素とは、原子番号57のランタンと、原子番号58のセリウムから原子番号71のルテチウムを含めた15元素のことである。前記粉末は、好ましくは1400℃以下(より好ましくは900〜1400℃、さらに好ましくは900〜1200℃)で酸化反応を起こす粒度を有するものである。
【0038】
非金属ホウ化物の粉末は、好ましくは水に溶解しない非金属系のホウ化物であり、より好ましくはホウ素酸化物を形成する粉末である。かかる非金属ホウ化物としては、例えば窒化ホウ素(BN)、炭化ホウ素(B4C)、ホウ化珪素(SiB4、SiB6)等がある。好ましくは、窒化ホウ素を用いる。窒化ホウ素としては、六方晶窒化ホウ素、立方晶窒化ホウ素、正方晶窒化ホウ素を用いることができるが、好ましくは安価な六方晶窒化ホウ素を用いる。
【0039】
[油水分離フィルターの分離対象]
本発明の油水分離フィルターの分離対象は、油水混合液、即ち、油と水の混合液であり、特に、食品製造、繊維処理、機械加工、石油精製などの際の廃液や、事故などによる河川水、海洋水などと油の混合物のような、油と水を含む各種の油水混合液である。ここで、「水」は、水に溶解する水以外の水溶性媒体を包含する。なお、油及び水以外の各種の不溶性含有物を含む油水混合液に対しても適用できるが、必要であれば、油及び水以外の不溶性含有物を取り除いた油水混合液に適用することができる。
【0040】
好適な分離対象は、水の含有率よりも油の含有率が高い油水混合液であり、油100重量部に対して好ましくは水10重量部以下(より好ましくは水5重量部以下、さらに好ましくは水1重量部以下)を含有する油水混合液である。
【0041】
本発明の油水分離フィルターは、研削砥石を用いて金属等を研削する研削加工の際に使用した後の、極微量の水を含む使用済みの研削油(油水混合液)から極微量の水を分離して研削油を再生する用途に対して特に効果的に適用することができる。
【0042】
〔油水分離フィルターの製造方法〕
本発明の油水分離フィルターの製造方法は、撥水剤に対して結合性を有する高気孔体の反応基に撥水剤を結合して、油を通過させ水を遮断するのに十分な親油性を有する油水混合液接触部分を形成する撥水剤結合工程を含む。そして、前記高気孔体として、無機質結合剤形成原料粉末を捕集した無機質繊維の凝集体を含む成形体を、前記無機質結合剤形成原料粉末と前記無機質繊維が反応する最低温度以上の温度で焼成して得られた高気孔体を用いる。本発明の油水分離フィルターの製造方法は、前記撥水剤結合工程の前に前記高気孔体を得るための焼成工程を設けることができる。
【0043】
[撥水剤結合工程]
撥水剤としては、前記高気孔体の反応基に結合することができるものを用いることができる。好ましくは、撥水剤としては、水との接触角が90°以上(より好ましくは100°以上、さらに好ましくは110°以上)の撥水性を有し、前記高気孔体の反応基に結合することができるものを用いる。
【0044】
前記反応基としては例えば水酸基(−OH基)があり、この水酸基には、撥水剤であるシランカップリング剤を結合させることができる。
【0045】
ここで、カップリング剤とは、一般に、共有結合によって異種物質間の界面を制御して、その異種物質を相互に結合させるものである。シランカップリング剤は、撥水剤に対して結合性を有する無機材料の反応基(例えば、水酸基)に結合することができる。
前記シランカップリング剤として、好ましくは、メチルトリメトキシシラン、ポリジメチルシロキサン、フルオロアルキルシラン、テトラエトキシシラン、フルオロアルキルシラン、ヘキサメチルジシラザン、トリメトキシシラン、ジメチルエトキシシランのうちの1種以上を用いる。
【0046】
前記高気孔体の反応基にシランカップリング剤等の撥水剤を結合する手段としては、例えば、シランカップリング剤等の撥水剤の加水分解溶液(シランカップリング剤等の撥水剤を水に溶解させ、加水分解させて得られた溶液)に、本発明で特定する前記高気孔体を浸して取り出し、水分を取り除き、乾燥する手段がある。前記溶液におけるシランカップリング剤の濃度は、好ましくは0.1〜10重量%(より好ましくは0.1〜5重量%)にする。乾燥する際の温度は、好ましくは100〜130℃(より好ましくは120〜130℃)にする。上記手段により、前記高気孔体の反応基にシランカップリング剤等の撥水剤を結合させて厚さが均一で薄い(0.1μm以下)被覆膜(撥水剤の被覆膜)を形成することができる。撥水剤は、高気孔体100重量部に対して、好ましくは0.5〜5重量部(より好ましくは1〜3重量部)結合させることができる。
【0047】
[焼成工程]
焼成工程は、無機質結合剤形成原料粉末を捕集した無機質繊維の凝集体を含む成形体を、前記無機質結合剤形成原料粉末と前記無機質繊維が反応する最低温度以上の温度で焼成して高気孔体(無機質繊維と前記無機質繊維を結合する無機質結合剤を含有して成る高気孔体)を得る工程である。
前記無機質結合剤形成原料粉末と前記無機質繊維が反応する最低温度以上の温度は、好ましくは1200℃以上(より好ましくは1200〜1400℃、さらに好ましくは1200〜1300℃、特に好ましくは1250〜1350℃)である。
【0048】
[成形工程]
無機質結合剤形成原料粉末を捕集した無機質繊維の凝集体を含む成形体は、前記凝集体(必要であれば、前記凝集体100重量に対して好ましくは有機質結合剤0〜50重量部、より好ましくは5〜30重量部を混合して得られた混合物)を成形して(好ましくは真空成形して)得ることができる。前記凝集体における、無機質結合剤形成原料粉末の重量は、無機質繊維の全重量に対して、好ましくは3〜7.5重量%(より好ましくは3〜6重量%、さらに好ましくは3〜5重量%)にする。前記成形体は、そのまま放置して自然乾燥させることができるが、好ましくは80〜110℃(より好ましくは90〜110℃)で強制的に乾燥することができる。本発明の油水分離フィルターの製造方法は、このような成形工程及び乾燥工程を前記焼成工程の前に設けることができる。
【0049】
[凝集工程]
前記凝集体は、無機質結合剤形成原料粉末と無機質繊維が分散する分散液(好ましくは弱酸性の分散液)のpHを調整して得ることができる。好ましくは、前記分散液をpH4〜10に調整し、前記無機質繊維の凝集の程度を変化させることによって、焼成後に得られる高気孔体の気孔率を制御することができる。凝集させる際のpHが高いほど、焼成後に得られる高気孔体の密度は小さくなる。
【0050】
前記分散液をpH4に調整することにより、4mm以上(4〜7mm程度)の径の凝集体を得ることができる。前記分散液をpH10に調整することにより、30mm以下(通常は20〜25mm、場合によっては30mm程度)の径の凝集体を得ることができる。このような凝集体を多数集積し、成形し(好ましくは真空成形して)、成形体を得ることができる。
【0051】
pH4未満の場合は、凝集体の径は4mmよりも小さくなり凝集体の効果が小さくなる。pH10を越える場合は、凝集体の径が30mmを越える場合が多く、凝集体がほぐれすぎる傾向があり凝集体の効果が小さくなる。なお、pH5〜9に調整することにより、10〜20mmの径の凝集体を得ることができる。
【0052】
好ましくは、前記分散液を、前記焼成工程の焼成後に得られる高気孔体の気孔率に対応するpH4〜10の範囲内の所定pHに調整する。本発明の油水分離フィルターの製造方法は、このような凝集工程を前記成形工程の前に設けることができる。
【0053】
[使用する材料]
前記無機質繊維として、好ましくは、実質的に非晶質のシリカ繊維を主原料として(好ましくは60〜100重量%、より好ましくは60〜90重量%、さらに好ましくは70〜90重量%)含有する無機質繊維を用いる。実質的に非晶質のシリカ繊維としては、好ましくはSiO2を99重量%以上含有するものを用いる。前記無機質繊維は、さらに、アルミナ繊維、アルミノシリケート繊維、アルミノボロシリケート繊維等のような、実質的に非晶質のシリカ繊維と併用した場合に実質的に非晶質のシリカ繊維を補強することができる補強用無機質繊維を副原料として含むことができる。
【0054】
無機質結合剤形成原料粉末としては、好ましくは、(a)ホウ素酸化物形成原料粉末、(b)ジルコニウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(c)クロムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(d)イットリウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(e)バナジウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(f)ランタノイド系元素の窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物のうちの少なくとも1種の粉末を用いる。ランタノイド系元素とは、既述のものである。
【0055】
ホウ素酸化物形成原料粉末としては、水に溶解しない非金属系のホウ化物を用いることができ、かかるホウ化物としては例えば窒化ホウ素(BN)、炭化ホウ素(B4C)、ホウ化珪素(SiB4、SiB6)等がある。好ましくは、窒化ホウ素を用いる。窒化ホウ素としては、六方晶窒化ホウ素、立方晶窒化ホウ素、正方晶窒化ホウ素を用いることができるが、好ましくは安価な六方晶窒化ホウ素を用いる。
【0056】
[好適な製造方法]
次に、無機質結合剤形成原料粉末として非金属系のホウ素化合物粉末を用いる場合の油水分離用フィルターの好適な製造方法について説明する。
【0057】
本発明の油水分離用フィルターにおける高気孔体は、好ましくは、無機質繊維とホウ素化合物粉末を水中で分散、混合して、ホウ素化合物粉末を捕集した無機質繊維の凝集体を得て、前記凝集体を真空成形し、乾燥後1200〜1400℃の温度で焼成することで製造することができる。
【0058】
上記無機質繊維は高気孔体への撥水剤結合量をより高めるという点から、シリカ質の無機質繊維が選択されるべきである。通常、シリカ繊維は他の無機質繊維より単位表面積あたりの−OH基が多いためである。また、高温で使用する場合には、ガラス転移点のあるシリカガラス質繊維ではなく、好ましくは、シリカ非晶質繊維(実質的に非晶質のシリカ繊維、以下同様。)にする。
【0059】
しかし、シリカ非晶質繊維は繊維自体の強度が弱いため、アルミナ繊維、アルミノシリケート繊維、アルミノボロシリケート繊維のうち1つ又は複数の繊維を補強用無機質繊維として添加することが強度向上に好ましい。また、シリカ非晶質繊維は加熱されると結晶化し、クリストバライトとなり繊維自体がもろくなる。そのため、焼成後もシリカ非晶質繊維を非晶質のまま保持する必要がある場合には、結晶抑制剤としてホウ素化合物を添加する。ホウ素化合物はシリカ及びアルミナとアルミノボロシリケートを生成することから無機質繊維間を融着させることを可能とする。
【0060】
ホウ素化合物としては様々な化合物があるが、金属ホウ化物はシリカ非晶質繊維を結晶化させる可能性があるのみならず、ボロシリケート、アルミノボロシリケートのガラス化温度を変化させ、無機質繊維間の融着を阻害するため望ましくない。非金属系のホウ化物としては、酸化ホウ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、ホウ化珪素などが知られているが、酸化ホウ素は水溶性があり、水中での分散、混合を伴う製造方法には適していない。窒化ホウ素、炭化ホウ素、ホウ化珪素は、いずれのものも使用できるが、入手のしやすさから窒化ホウ素の方が望ましい。
【0061】
無機質繊維の直径は0.65〜10μmが望ましい。0.65μmよりも細い場合は強度が低くなり、10μmよりも太すぎるとフィルターにおける高気孔体の細孔径が大きくなり、油中に分散した水の微粒子が通りやすくなるため油水分離が困難となる。シリカ非晶質繊維としては径が例えば1〜2.5μmのものを、アルミナ繊維等の補強用無機質繊維としては径が例えば1〜3.5μmのものをそれぞれ用いることができる。繊維の長さは特に制限はないが、1〜30mm程度が望ましい。シリカ非晶質繊維と補強用無機質繊維との割合は、−OH基がより多く付いているシリカ非晶質繊維を90〜60重量%とすべきである。
【0062】
無機質結合剤形成原料粉末として添加する窒化ホウ素粉末の粒度は、1200〜1400℃で焼成する際に酸化し、無機質繊維とボロシリケート、又はアルミノボロシリケートを生成させ、無機質繊維の界面を融着させなければならないため、900〜1200℃(より好ましくは1000〜1200℃、さらに好ましくは1100〜1200℃)付近で酸化反応を起こす程度の粒度が望ましい。
【0063】
窒化ホウ素粉末が900℃よりも低温で酸化反応を起こすと、無機質繊維と反応する前に窒化ホウ素粉末が酸化して生成した酸化ホウ素が昇華し、所定量よりもホウ素量が不足するため強度低下が起こる。また、1200℃よりも高い温度で酸化する窒化ホウ素粉末では、窒化ホウ素粉末の酸化が起こる前に、無機質繊維の結晶化が起こる。窒化ホウ素粉末は扁平な形状をしているため測定方法により平均粒径は大きく異なるので、使用する窒化ホウ素粉末の粒度は酸化反応を引き起こす温度から決定すべきである。
【0064】
窒化ホウ素粉末は、無機質繊維の全重量に対して好ましくは約3〜7.5重量%添加する。3重量%未満では無機質繊維間の融着が悪く、強度が不足する傾向がある。一方7.5重量%よりも多くの窒化ホウ素粉末等のホウ素化合物粉末を添加しても強度上昇は確認できないためである。
【0065】
無機繊維質はそのまま水中に分散させることは困難であるので、一旦、pH1〜2程度の強酸水溶液中に攪拌モータにて1〜2時間分散させ、無機質繊維表面に親水基を吸着させる。強酸水溶液を除去した後、水を加え無機質繊維を15〜30分程度攪拌モータで攪拌する。その後、加えた水を除去し、再度水を加え無機質繊維を15〜30分程度攪拌モータで攪拌すれば水中に均質に分散できる。
【0066】
水を加え攪拌した後、一旦水を除去するのは、無機質繊維、特にシリカ非晶質繊維は強酸水溶液中に長時間分散させておくと溶解が開始するためであり、無機質繊維を分散させる水溶液のpHを3〜6程度にする必要があるからである。2回の脱水でpHが3より大きくならない場合pHが3よりも大きくなるまで同様の操作を行う。この時に用いる水は水道水でも構わないが脱イオン水の方が好ましい。
【0067】
シリカ非晶質繊維を用いる場合には、水道水中のナトリウム、カリウム、マグネシウムといったアルカリ金属及びアルカリ土類金属がシリカ非晶質繊維の結晶化を促進するため、脱イオン水を使用するべきである。強酸水溶液中及び水中に無機質繊維を分散させる際には、無機質繊維全体を1〜3重量%程度の含有率になるように分散させることが望ましい。分散させる際の無機質繊維の重量割合を大きくすると、分散させる攪拌モータの出力を大きくすることが必要であり、分散中に無機質繊維を短く折ってしまい、強度を低下させる可能性がある。
【0068】
窒化ホウ素は攪拌モータと超音波洗浄機を用いてpH3〜6の水溶液中に分散させておく。これは1つには窒化ホウ素が弱酸性域で分散が良好であるためであり、もう一つは分散させた無機質繊維懸濁液に合わせるためである。窒化ホウ素の分散は、pH3〜6の水溶液に対し1.5〜2.0重量%の含有率とすることが望ましい。このようにpH3〜6の水溶液中に窒化ホウ素粉末を分散させて得られた窒化ホウ素粉末懸濁液を、無機質繊維を分散させたpHが3よりも大きい水溶液中に加え、30分間程度混合する。
【0069】
無機質繊維はpH3〜6の弱酸性域で水中に分散されているが、無機質繊維はpHをアルカリ側に変化させる(分散時のpHの値よりもpHの値を大きくする)ことで分散状態から凝集状態へと変化し、窒化ホウ素粉末を捕集した無機質繊維の凝集体を得ることができる。
【0070】
凝集した前記無機質繊維は脱水・成形時に緩衝材料のように抵抗として働くため、前記無機質繊維の凝集度合いを変化させることにより、成形時の抵抗の度合いを変化させ、充填の度合いを変化させることができる。この結果、フィルターにおける高気孔体の気孔率、強度を、希望するものにコントロール(制御)することが可能である。
【0071】
また、成形中においては、無機質繊維の凝集体単位で成形させることができるため、無機質繊維の配向を抑制できる。通常、抄造といった成形方法を用いる場合には、加圧方向に繊維が配向してしまい、厚さ方向の引張強度が低いといった問題点があったが、本発明では配向を抑制できるため、フィルターにおける高気孔体の方向性をなくし、強度を高くすることを可能とした。
【0072】
この様な配向を抑制するには懸濁液を成形前にpH4以上に調整すればよいが、好ましくはpH4〜10である。pHを10以上にしても抑制効果は変わらないが、廃液の処理等のように工程が煩雑になるためpHを10以下とすることが好ましい。
【0073】
pH調整に用いられるpH調整剤は、アンモニア水、又は酢酸アンモニウムなどが好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属水酸化物はシリカ非晶質繊維を結晶化させ、前記高気孔体の強度を著しく低下させてしまうため望ましくない。
【0074】
pH制御を行った無機質繊維とホウ素化合物粉末の混合懸濁液は、真空成形により脱水、成形する。その後、成形体を80〜110℃で乾燥し、窒化ホウ素が酸化し、無機質繊維と反応する温度以上の1200〜1400℃(好ましくは1300〜1400℃)で焼成する。昇温速度は成形体内部まで均一な温度になるように選択し、1時間で100〜250℃昇温させる程度、即ち100〜250℃/hr.(好ましくは100〜200℃/hr.)程度が望ましい。最高温度での保持時間は1〜2時間程度で良い。焼成時の雰囲気は窒化ホウ素の酸化を促進するため、酸化雰囲気が好ましい。
【0075】
得られた高気孔体にポリジメチルシロキサン、フルオロアルキルシラン、テトラエトキシシランなどのシランカップリング剤を用いて撥水処理を施す。これらのカップリング材は高気孔体表面に存在する−OH基と化学結合するため、薄く均一で強固な膜(撥水性を有する膜)が形成される。ここで撥水性とは水との接触角が90℃以上であることをいう。
【0076】
【実施例】
[実施例1〜4]
シリカ非晶質繊維(米国Shuller社製Q-Fiber、純度:99.7wt%SiO2、真比重:2.0g/cm3、繊維の平均径:2μm)600gをpH1の塩酸水溶液35l中に攪拌モータを用いて分散させ、強酸水溶液を除去した。強酸水溶液を除去したシリカ非晶質繊維に脱イオン交換水を35l加え攪拌モータで20分間分散し、分散液を除去するという一連の操作を2回繰り返した。
【0077】
アルミナ繊維(英国ICI社製SAFFIL、純度:96wt%Al2O3、真比重:3.2g/cm3、繊維の平均径:3μm)150gもpH1の塩酸水溶液25l中に攪拌モータを用いて分散させ、強酸水溶液を除去した。強酸水溶液を除去したアルミナ繊維もシリカ非晶質繊維と同様に脱イオン水を25l加え攪拌モーターで20分間分散し、分散液を除去するという一連の操作を2回繰り返した。
【0078】
このシリカ非晶質繊維とアルミナ繊維を混合し、六方晶窒化ホウ素粉末(電気化学工業(株)製デンカボロンナイトライド、平均粒径:7.3μm、酸化温度:950℃)31.2gを分散させた水溶液を1.5l加え攪拌モータで30分混合した後、濃アンモニア水(28%NH3)で4.3〜9.0の各pH(pH9.0、7.0、5.0及び4.3)に調整し、シリカ非晶質繊維、アルミナ繊維及び窒化ホウ素粉末から成る凝集体を得た。
【0079】
pH調整後、有効口径36cm×36cmの真空成型機で脱水して縦36cm×横36cmの成形体を得て、この成形体をさらに高さ8.5cmまで加圧し、得られた成形体を100℃で乾燥した。乾燥後、成形体を大気雰囲気中で1300℃、1.5時間焼成し、実施例1〜4の高気孔体を得た。得られた実施例1〜4の各々の高気孔体の気孔率(体積%)及び曲げ強度(kgf/cm2)を表1に示す。また、各々の高気孔体の気孔径は、実施例1のものが58μmであり、実施例2のものが56μmであり、実施例3のものが56μmであり、実施例4のものが54μmであった。
【0080】
【表1】
【0081】
表1には、シリカ非晶質繊維76.8重量%、アルミナ繊維19.2重量%、窒化ホウ素4重量%で調合し、成形直前のpHを変えて得られた各高気孔体の気孔率と曲げ強度を示している。通常、多孔質体のフィルターの気孔率を変化させるためには、調合の変更、成形時の加圧力の変更により行っていたが、本発明の方法によれば、pHのみを変化させるだけで原料の調合、製造方法を変えることなく気孔率を所望の値に変更することができる。
【0082】
実施例1の多孔質体のXRD(X線回折法)パターンを図2に示す。補強用に用いたアルミナ繊維のコランダムのピークは確認できるが、クリストバライトのピークは確認できなかった。
【0083】
pH3.5〜4.0の水に可溶であるシランカップリング剤を、pH3.5の水に0.5重量%溶液となるように溶解させ、加水分解させた。この溶液に表1に示した実施例1〜4の高気孔体を浸し、水分を十分取り除いた後、130℃で乾燥した。これにより、本発明の撥水処理を施した油水分離フィルターを得た。
得られたフィルターは、使用してもカップリング剤による目詰まりのないものであった。使用したシランカップリング剤は、メチルトリメトキシシラン(東レ・ダウ・コーニングシリコーン(株)、品番SZ6070)である。
【0084】
[比較例]
比較例として、アルミナ粒子(#320)をホウ珪酸ガラスで結合させた粒子結合型フィルターを作製した。このフィルターは、気孔率が40%、平均細孔径が10μmであった。このフィルターに実施例と同様にして撥水処理を施した。
【0085】
〈水進入距離の測定〉
撥水処理をしたフィルター(実施例、比較例とも)を50mm×100mm×20mmの板状に加工した。また、サラダ油100mlに青く着色したイオン交換水10mlを加え、攪拌機で十分攪拌させ、油水混合液を作製した。使用したサラダ油の粘度は、4.12cP(B型粘度計による測定)であった。
【0086】
加工したフィルターを油水混合液に1cm入れ、真空デシケータの中に入れ、減圧することで強制的にフィルターへ油水混合液を吸着させた。約1時間減圧後、水が含まれている部分の距離を測定した。水進入距離の測定結果は、図3に示すように、実施例1が1.0mm、実施例2が1.1mm、実施例3が1.2mm、実施例4が1.2mm、比較例が4.7mmである。
【0087】
油水混合液に前記フィルターを入れた場合、若干の水分がフィルター内部に侵入するが、従来のフィルターは表面積が低いため、撥水処理を施しても、単位体積あたりの撥水基が本発明品(実施例1〜4)より少なく、気孔率が低い。従って、従来のフィルターと本発明品とを比較すると、図1に示すように水分の進入する距離が異なってくる。
【0088】
本発明は、比表面積を高め、気孔率を高めた高気孔体を撥水処理することにより、フィルター内部へ水が進入する距離を極めて小さくしようとするものである。このため、本発明では、上述のように無機質繊維を用い、前記繊維が複雑に絡み合った3次元網目構造の高気孔体を使用した。前記高気孔体の比表面積は、0.6m2/gであり、粒子を焼結させたフィルターあるいはセラミックフォームの0.06m2/gよりはるかに大きい。また、気孔率は80体積%以上となり、従来の40%より大きい。したがって、水をほとんど吸収することがないため、油水分離が可能となる。また、このように気孔率が高いため、セラミックフィルター体積あたりの処理量も従来より大きい。
【0089】
さらに、従来から無機繊維のフェルト、マットの成形体は存在するが、本発明のフィルターは、3次元網目構造を有するため、高い気孔率を持つにもかかわらず、曲げ強度で10kgf/cm2以上と高い強度を持つ。このため、板状、円筒状などの形状を付与して、従来の装置の中に組み込んで連続使用する場合にも十分耐えうる。
【0090】
【発明の効果】
請求項1〜12の油水分離フィルターは、無機質繊維と前記無機質繊維を結合する無機質結合剤を含有して成る高気孔体を有し、
少なくとも油水混合液との接触部分は、撥水剤に対して結合性を有する前記高気孔体の反応基に結合する撥水剤を、油を通過させ水を遮断するのに十分な程度有するので、次の基本的効果を奏することができる。
【0091】
油水混合液を良好に分離することができる。即ち、油水混合液(特に、水の含有率が油の含有率よりも著しく小さい油水混合液)を水と油に良好に分離することができる。特に、濾過された液体(油性成分)の中に水の微粒子が混入することを防止して、油水混合液から油を良好に分離して、水分含有率が著しく低いか又は水分を実質的に含有しない油を得ることができる。
【0092】
また、フィルターの濾過方向内部に水が進入しにくい(水の進入する距離が小さい)ので、油水混合液の分離能力が高いと共に、高い分離能力を発揮する期間が長いので、フィルターの洗浄回数を低減することができ、保守しやすい。特に、本発明のフィルターをクロスフロー方式の濾過装置に設置した場合、逆洗等の洗浄回数を減らすことが可能となり、能率よく油水混合液を分離処理することができる。
【0093】
さらに、前記高気孔体を含有するので、気孔率が高いため油水混合液の処理能力(油水分離能力)が高く、短時間で大量の油水混合液を処理することができる。よって、油(特に、水分含有率が著しく低い油、あるいは水分を実質的に含有しない油)を極めて効率よく回収することができる。従って、本発明の油水分離フィルターを使用する装置をコンパクトにすることも可能である。
【0094】
その上、使用中におけるシリコーン系のオイル等の撥水剤の脱離によるフィルターの目詰まりなしに油水混合液を分離することができる。
【0095】
請求項2〜12の油水分離フィルターは、請求項1の構成に加えてそれぞれの各請求項に記載の構成をさらに具備するので、上記基本的な効果がより一層顕著である。
【0096】
請求項13〜22の油水分離フィルターの製造方法は、撥水剤に対して結合性を有する高気孔体の反応基に撥水剤を結合して、油を通過させ水を遮断するのに十分な親油性を有する油水混合液接触部分を形成する撥水剤結合工程を含み、
前記高気孔体として、無機質結合剤形成原料粉末を捕集した無機質繊維の凝集体を含む成形体を、前記無機質結合剤形成原料粉末と前記無機質繊維が反応する最低温度以上の温度で焼成して得られた高気孔体を用いるので、本発明の油水分離フィルターを簡単に製造することができるという基本的な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のフィルターと比較例のフィルターについての、水の進入している距離の比較を示す模式図である。
【図2】非晶質のシリカ繊維を含む本発明の実施例のフィルターのX線回折法によるパターンを示す図である。
【図3】本発明の実施例と比較例のフィルターの水進入距離の測定結果を示すグラフである。
Claims (22)
- 無機質繊維と前記無機質繊維を結合する無機質結合剤を含有して成る高気孔体を有し、
少なくとも油水混合液との接触部分は、撥水剤に対して結合性を有する前記高気孔体の反応基に結合する撥水剤を、油を通過させ水を遮断するのに十分な程度有することを特徴とする油水分離フィルター。 - 前記反応基は水酸基であり、前記撥水剤はシランカップリング剤であることを特徴とする請求項1に記載の油水分離フィルター。
- 前記シランカップリング剤は、メチルトリメトキシシラン、ポリジメチルシロキサン、フルオロアルキルシラン、テトラエトキシシラン、フルオロアルキルシラン、ヘキサメチルジシラザン、トリメトキシシラン、ジメチルエトキシシランのうちの1種以上であることを特徴とする請求項2に記載の油水分離フィルター。
- 前記高気孔体は、3次元網目構造の高気孔体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の油水分離フィルター。
- 前記接触部分の撥水剤が結合する高気孔体の部分は、前記接触部分が油を通過させ水を遮断するのに十分な比表面積を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の油水分離フィルター。
- 前記比表面積は、0.6m2/g以上であることを特徴とする請求項5に記載の油水分離フィルター。
- 前記高気孔体は、気孔率が80体積%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の油水分離フィルター。
- 前記高気孔体は、曲げ強度が8kgf/cm2以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の油水分離フィルター。
- 前記無機質繊維は、実質的に非晶質のシリカ繊維を主たる無機質繊維として含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の油水分離フィルター。
- 前記無機質繊維は、さらに、アルミナ繊維、アルミノシリケート繊維、アルミノボロシリケート繊維のうちの1種以上を補強用無機質繊維として含むことを特徴とする請求項9に記載の油水分離フィルター。
- 前記無機質結合剤は、実質的に非晶質のシリカ繊維の結晶化を抑制する結晶化抑制剤の粉末と無機質繊維との反応生成物を含むことを特徴とする請求項9〜10のいずれかに記載の油水分離フィルター。
- 前記結晶化抑制剤の粉末は、(a)非金属ホウ化物、(b)ジルコニウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(c)クロムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(d)イットリウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(e)バナジウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(f)ランタノイド系元素の窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物のうちの少なくとも1種を含有する粉末であることを特徴とする請求項11に記載の油水分離フィルター。
- 撥水剤に対して結合性を有する高気孔体の反応基に撥水剤を結合して、油を通過させ水を遮断するのに十分な親油性を有する油水混合液接触部分を形成する撥水剤結合工程を含み、
前記高気孔体として、無機質結合剤形成原料粉末を捕集した無機質繊維の凝集体を含む成形体を、前記無機質結合剤形成原料粉末と前記無機質繊維が反応する最低温度以上の温度で焼成して得られた高気孔体を用いることを特徴とする油水分離フィルターの製造方法。 - 前記反応基は水酸基であり、前記撥水剤としてシランカップリング剤を用いることを特徴とする請求項13に記載の油水分離フィルターの製造方法。
- 前記シランカップリング剤として、メチルトリメトキシシラン、ポリジメチルシロキサン、フルオロアルキルシラン、テトラエトキシシラン、フルオロアルキルシラン、ヘキサメチルジシラザン、トリメトキシシラン、ジメチルエトキシシランのうちの1種以上を用いることを特徴とする請求項14に記載の油水分離フィルターの製造方法。
- 前記凝集体として、無機質結合剤形成原料粉末と無機質繊維が分散する分散液のpHを調整して得られた凝集体を用いることを特徴とする請求項13に記載の油水分離フィルターの製造方法。
- 前記分散液として、pH3以上の弱酸性の分散液を用いることを特徴とする請求項16に記載の油水分離フィルターの製造方法。
- 前記成形体として、前記凝集体を真空成形して得られる成形体を用いることを特徴とする請求項13〜17のいずれかに記載の油水分離フィルターの製造方法。
- 前記分散液をpH4〜10に調整し、pH3以上の弱酸性の分散液に分散していた無機質繊維の凝集の程度を変化させることによって、焼成後に得られる高気孔体の気孔率を制御することを特徴とする請求項16〜18のいずれかに記載の油水分離フィルターの製造方法。
- 前記分散液を、前記焼成工程の焼成後に得られる高気孔体の気孔率に対応するpH4〜10の範囲内の所定pHに調整することを特徴とする請求項16〜19のいずれかに記載の油水分離フィルターの製造方法。
- 前記無機質繊維として、実質的に非晶質のシリカ繊維を主原料として含有する無機質繊維を用いることを特徴とする請求項16〜20のいずれかに記載の油水分離フィルターの製造方法。
- 前記無機質結合剤形成原料粉末として、(a)ホウ素酸化物形成原料、(b)ジルコニウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(c)クロムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(d)イットリウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(e)バナジウムの窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物、(f)ランタノイド系元素の窒化物、硝酸塩、炭酸塩及び硼化物のうちの少なくとも1種の粉末を用いることを特徴とする請求項13〜21のいずれかに記載の油水分離フィルターの製造方法。
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