近年、2.4GHz帯または5GHz帯を用いた高速無線アクセスシステムとして、IEEE802.11g規格、IEEE802.11a規格などの普及が目覚しい。これらのシステムでは、マルチパスフェージング環境での特性を安定化させるための技術である直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式を用い、最大で54Mbpsの伝送速度を実現している。ただし、ここでの伝送速度とは、物理レイヤ上での伝送速度であり、実際には、MAC(Medium Access Control)レイヤでの伝送効率が50〜70%程度であるため、実際のスループットの上限値は、30Mbps程度である。
一方で、有線LANの世界では、Ethernet(登録商標)の100Base−Tインタフェースを始め、各家庭にも光ファイバを用いたFTTH(Fiber to the home)の普及から、100Mbpsの高速回線の提供が普及しており、無線LANの世界においても更なる伝送速度の高速化が求められている。
そのための技術としては、MIMO技術が有力である。このMIMO技術とは、送信局側において複数の送信アンテナから同一チャネル上で異なる独立な信号を送信し、受信局側において同じく複数のアンテナを用いて信号を受信し、各送信アンテナ/受信アンテナ間の伝達関数行列を求め、この行列を用いて送信局側で各アンテナから送信した独立な信号を推定し、データを再生するものである。
ここで、N本の送信アンテナを用いてN系統の信号を送信し、M本のアンテナを用いて信号を受信する場合を考える。まず、送受信局の各アンテナ間に、M×N個の伝送のパスが存在し、第i送信アンテナから送信され第j受信アンテナで受信される場合の伝達関数をhj,iとし、これを第(j,i)成分とするM行N列の行列をHと表記する。さらに、第i送信アンテナからの送信信号をtiとし(t1,t2,t3,…,tN)を成分とする列ベクトルをTx、第j受信アンテナでの受信信号をrjとし(r1,r2,r3,…,rM)を成分とする列ベクトルをRx、第j受信アンテナの熱雑音をnjとし(n1,n2,n3,…,nM)を成分とする列ベクトルをnと表記する。
この場合、次式(1)で示される関係が成り立つ。
したがって、受信局側で受信した受信信号Rxをもとに、送信信号Txを推定する技術が求められている。
このMIMO通信においては、伝搬路の情報を利用して、その伝搬路に対して最適な状況で信号を送信することにより、最も効率的に通信を行うことができる。例えば、固有モードSDM(Space Division Multiplexing)方式を用いたMIMO伝送においては、信号の伝送方向のMIMOチャネルの伝達関数行列Hを送信局側で取得できた場合に、この伝達関数行列Hに対応した送信信号の最適化を行う(例えば、特許文献1参照)。具体的には、伝達関数行列Hとそのエルミート共役な行列HH(右肩の「H」の記号はエルミート共役を表す)の積を対角化可能なユニタリ行列Uを取得し、このユニタリ行列Uで送信信号を変換して信号を送信する。このユニタリ行列Uと伝達関数行列Hとの間には、次式(2)が成り立つ。
ここで、右辺の行列Λは、対角成分のみが値を持ち、その他の成分がゼロである対角行列である。このような特徴を持つユニタリ行列Uを列ベクトルTxに作用させて信号を送信することにより、式(1)は、次式(3)に示すように変換される。
この変換により、送信信号は、MIMOチャネル毎に直交化され、受信局側での処理において簡易なZF(Zero Forcing)方式を用いた場合であっても、各送信信号をMIMOチャネル毎のSNR特性が良好になるように調整される。また、このユニタリ行列の各列ベクトルは、送信信号である列ベクトルTxを各送信アンテナに分配する際の各アンテナに乗算する係数(以降、「送信ウエイト」と呼ぶ)を与える。この送信ウエイトを用いることで、各MIMOチャネル毎に直交したビーム形成を行い、それぞれのビーム(固有ビーム)に相当するチャネルの利得がその固有ベクトルの固有値となる。したがって、全MIMOチャネルのチャネル容量Cの上限は、次式(4)で与えられる。
ここで、Bは帯域幅、Piは第i番のMIMOチャネルの総送信電力、σ2は雑音電力の分散値を意味する。この式(4)から、どの程度の伝送レートの伝送モード(ここではQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、64QAM(Quadrature Amplitude Modulation)等の変調方式と誤り訂正の符号化率との組み合わせにより規定されるモードを「伝送モード」と定義する)を適用可能か、また、さらにどの程度の数のMIMOチャネルを多重化できるかが推定できる。
ちなみに、式(4)の中の送信電力Piは、全てのMIMOチャネルに共通の値である必要はなく、また、各MIMOチャネル毎に伝送モードを変更しても構わない。一般に、注水定理と呼ばれる手法を用いることで、この送信電力Piの値を最適化することが可能である。この中で、Pi=0となるMIMOチャネルが存在した場合、そのチャネルは、実際の伝搬には用いずに、他のMIMOチャネルに電力を配分した方が効率的であることを意味している。つまり、MIMOの多重数を元々の上限値よりも少なく設定することになる。このようにして、多重化するMIMOチャネルの最適値を判定することも可能である。
上述した固有モードSDM技術は、送信局側で指向性を持った送信ビームを形成し、空間上で多重化する信号を受信局側で効率的に信号分離できるようにするものである。ここで、通常のMIMO通信、すなわち、1つの送信局と1つの受信局との間で通信を行うことをシングルユーザMIMOと呼ぶ。無線LANや、携帯電話等を例に見れば、基地局は、サイズ的に比較的大きく、端末局側は、ポータブルな端末であり、そのサイズは基地局よりも大幅に小さい。
このような小型端末の中に、MIMO通信のための複数のアンテナを実装しても、アンテナ間の間隔が短く、アンテナ相関が非常に大きくなってしまう。この場合、式(4)における固有値λiの値は、小さくなる傾向にあり、実際に通信に利用できるMIMOチャネル数は、それほど多くはない。このようなケースにおいて、1つ1つの端末との間では、空間多重するMIMOチャネル数を少なくする一方、複数の異なる端末と同時に同一周波数チャネルで通信するマルチユーザMIMO通信が有効である。
図10は、マルチユーザMIMOシステムの構成例を示すブロック図である。同図において、101は基地局(BS:Base Station)、102〜104は端末局(MS:Mobile Station)を示し、端末局102を端末局#1(MS1)、端末局103を端末局#2(MS2)、端末局104を端末局#3(MS3)とする。実際に1つの基地局が収容する端末局数は多数であるが、その中の数局を選び出し(図では端末局#1〜#3(102〜104))、通信を行う。
各端末局102〜104(MS#1〜#3)は、基地局101と比較して送受信アンテナ数が一般的に少ない。例えば、基地局101から端末局102〜104(MS#1〜#3)方向への通信(ダウンリンク)を行う場合を考える。基地局101は、多数のアンテナを用いて、複数の指向性ビームを形成する。例えば、各端末局102〜104(MS#1〜#3)に対して、それぞれ3つのMIMOチャネルを割り当て、全体としては、9系統の信号系列を送信する場合を考える。
その際、端末局102(MS#1)に対して送信する信号は、端末局103(MS#2)および端末局104(MS#3)方向には、指向性利得が極端に低くなるように調整し、この結果として端末局103(MS#2)および端末局104(MS#3)への干渉を抑制する。同様に、端末局103(MS#2)に対して送信する信号は、端末局102(MS#1)および端末局104(MS#3)方向には、指向性利得が極端に低くなるように調整する。同様の処理を端末局104(MS#3)にも施す。
このように指向性制御を行う理由は、例えば、端末局102(MS#1)においては、端末局103(MS#2)および端末局104(MS#3)で受信した信号の情報を知る術がないので、端末局間での協調的な受信処理ができないためである。つまり、3本しかない端末局102(MS#1)のみの受信処理において、9系統の全ての信号系列を信号分離することは非常に厳しい。そこで、各端末局102〜104(MS#1〜MS#3)には、他の端末局宛の信号が受信されないように、送信側である基地局101で干渉分離を事前に行う。
以上が既存のマルチユーザMIMOシステムの概要である。次に、指向性ビームの形成方法について、以下に説明を加える。例えば、図10において、端末局102(MS#1)の第1受信アンテナと基地局101の第jアンテナとの間の伝達関数をh1jと表記することにする。基地局101のj=1〜9の全てのアンテナに関する伝達関数を用い、行ベクトルh1を(h11,h12,h13,…,h18,h19)と表記する。同様に、端末局102(MS#1)の第2受信アンテナ、第3受信アンテナと基地局101との伝達関数をh2jおよびh3jとし、対応する行ベクトルh2およびh3を(h21,h22,h23,…,h28,h29)、(h3l,h32,h33,…,h38,h39)とする。
端末局103(MS#2)、端末局104(MS#3)の受信アンテナにも同様の連番を付与し、行ベクトルh4〜h9を、(h41,h42,h43,…,h48,h49)〜(h91,h92,h93,…,h98,h99)とする。加えて、基地局101が送信する9系統の信号をt1〜t9と表記し、これを成分とする列ベクトルをTx[all]=(t1,t2,t3,…,t8,t9)Tと表記する。ここで、右肩のTの文字は、べクトル、行列の転置を表す。また、同様に、端末局102〜104(MS#1〜#3)の9本のアンテナでの受信信号をr1〜r9と表記し、これを成分とする列ベクトルをRx[all]=(r1,r2,r3,…,r8,r9)Tと表記する。最後に、行ベクトルh1〜h9(第1から第9行成分とする行列)を、全体伝達関数行列H[all]と表記する。
このように表記した場合、システム全体としては、次式(5)の関係が成り立つ。
これは、シングルユーザMIMOにおける式(1)に対応する。同様に、式(3)に示すような送信指向性制御を行うため、9行9列の送信ウエイト行列Wを導入し、式(3)を、次式(6)に示すように書き換える。
さらに、送信ウエイト行列Wを列ベクトルw1〜w9に分解し、W=(w1,w2,w3,…,w8,w9)と表記すると、次式(7)に示すように表せる。
ここで、例えば、6つの行ベクトルh4〜h9と3つの列ベクトルw1〜w3との乗算(各成分の乗算したものの総和、複素ベクトルの場合は内積とは異なる)が全てゼロになるように、w1〜w3を選ぶことを考える。同様に、行ベクトルh1〜h3およびh7〜h9と列ベクトルw4〜w6との乗算、行ベクトルh1〜h6と列ベクトルw7〜w9との乗算の全てがゼロになるように選ぶことにする。これにより、式(7)に示す9行9列の行列は、3行3列の9個の部分行列を用いて表記すると、次式(8)のように表すことができる。
ここで、部分行列H[1]、H[2]、H[3]は、3行3列の行列であり、部分行列0は、成分が全てゼロの3行3列の行列である。このような条件を満たす変換行列Wを選択することで、式(8)は、次式(9)、(10)、(11)の3つの関係式に分解できる。
ここで、Tx[1]=(tl,t2,t3)T、Tx[2]=(t4,t5,t6)T、Tx[3]=(t7,t8,t9)T、Rx[1]=(r1,r2,r3)T、Rx[2]=(r4,r5,r6)T、Rx[3]=(r7,r8,r9)Tとした。このようにして、3つのシングルユーザMIMO通信とみなすことができるようになる。
次に、送信ウエイトベクトルw1〜w9の決定方法の例を説明する。以下の手順で送信ウエイトを求めることができる(例えば、非特許文献1参照)。まず、端末局102(MS#1)に対する送信ウエイトベクトルの求め方を説明する。
全体伝達関数行列H[all]から端末局102(MS#1)宛ての成分を除いた行列と、端末局102(MS#1)宛ての成分のみで構成される部分とに分け、次式(12)、(13)のように定義する。
まず、式(12)を特異値分解すると、次式(14)で表すことができる。
ここで、右側のユニタリ行列を2つの領域に分け、非ゼロの固有値を持つ空間に相当する左側の部分(チルダ(〜)V1 (1))と、それ以外の部分空間に相当する右側の部分(チルダ(〜)V1 (0))とに分ける。これらの行列の意味するところは、右側の行列(チルダ(〜)V1 (0))の列ベクトルを送信ウエイトとして用いた場合には、端末局103(MS#2)及び端末局104(MS#3)には干渉を及ぼさない。すなわち、ヌルが向けられていることを意味する。さらに、この空間内のうち、有益な方向に向けて信号を送信するため、この部分空間内の固有モードである固有ベクトルを求める。このため、この右側の部分空間を、式(13)の右からかけたものをさらに特異値分解すると、次式(15)で表わされる。
前述した場合と同様、右側のユニタリ行列を2つの領域に分け、非ゼロの固有値を持つ空間に相当する左側の部分(V1 (1))と、それ以外の部分空間に相当する右側の部分(V1 (0))に分ける。この左側の部分空間(V1 (1))の列ベクトルは端末局103(MS#2)及び端末局104(MS#3)に直交させた部分空間における固有ベクトルに相当する。全ての固有ベクトルを用いて信号を送信する場合には、送信ウエイトは、次式(16)で表すことができる。
ここでは、3系統の信号系列を送信するために、3つの送信ウエイトベクトルw1〜w3を求めたが、空間多重する信号系列数がこれより少ない場合には、この中のw1とw2のみ、ないしは、w1のみを用いればよい。数式的には、V1 (1)の左側から(つまり、式(15)の固有値の大きい方から)所定の数だけ選べばよい。また、送信電力制御を行うのであれば、この送信ウエイト行列のさらに右側から電力配分の行列を作用させても良い。
以上が端末局102(MS#1)に対する送信ウエイトであるが、同様にして端末局103(MS#2)および端末局104(MS#3)宛てのウエイトも求めることが可能である。
以上、従来技術による送信ウエイト行列の求め方である。
次に、図11は、従来技術における基地局101による送信ウエイト行列Wの算出方法を説明するフローチャートである。まず、送信ウエイト行列の算出にあたり、全端末への伝達関数行列Hkを取得する(ステップS102)。次に、宛先とする端末に通し番号を付与し、その番号をkと表記した場合、まず、kを初期化する(ステップS103)。さらに、kをカウントアップし(ステップS104)、着目しているk=1に対応した端末局102(MS#1)に対する部分伝達関数行列(Hk)を抽出し(ステップS105:上記式(13)に相当)、それ以外の宛先の端末局の部分伝達関数行列(チルダ(〜)Hk)を抽出する(ステップS106:上記式(12)に相当)。
次に、部分伝達関数行列(チルダ(〜)Hk)を特異値分解し(上記式(14)に相当)、特異値がゼロの部分空間を張る基底ベクトルを列ベクトルとする部分空間の行列としてチルダ(〜)Vk(0)を求める(ステップS107)。これに先ほどの部分伝達関数行列(Hk)を乗算し、Hk・チルダ(〜)Vk(0)を得る(ステップS108)。さらに、Hk・チルダ(〜)Vk(0)を特異値分解し、特異値が非ゼロの部分空間を張る基底ベクトルを列ベクトルとする部分空間の行列としてVk(1)を求める(ステップS109:上記式(15)に相当)。これと先のチルダ(〜)Vk(0)を乗算し、端末局102(MS#1)に対する送信ウエイトとして、チルダ(〜)Vk(0)・Vk(1)を得る(ステップS110)。
以上の処理は、k=1の時には、端末局102(MS#1)に対する処理となるが、全ての端末局に対する送信ウエイトを求めるために、全端末に対する処理を実施済みか否かを判定し(ステップS111)、残りの端末局があれば、ステップS104〜S110を繰り返す。一方、全ての宛先の端末局の送信ウエイトベクトルを決定済みであれば、送信ウエイトベクトル{wi}を各列ベクトルとする行列として送信ウエイト行列Wを決定し(ステップS112)、処理を完了する(ステップS113)。
なお、上記ステップS109において、非ゼロの固有ベクトルの全てを用いてデータの送信を行わない場合には、実際に端末局#kに対して空間多重を行う信号系列数だけ固有ベクトルを選択してVk (1)とすれば良い。
また、ここまでの説明では、全てシングルキャリアのシステムを仮定し、送信ウエイト行列は1つだけ求めれば良かった。現在、MIMO技術は、無線LAN等で注目を集めているが、IEEE802.11a、IEEE802.11g等の標準規格の無線LANでは、マルチキャリアを用いたOFDM変調方式を採用している。OFDM変調方式を用いるマルチユーザMIMOシステムの場合には、上述した処理を全てのサブキャリアにおいて個別に実施する必要がある。
以上説明したように、従来技術によりマルチユーザMIMO通信が実現可能であるが、実際の運用においては、信号の伝送方向のMIMOチャネルの伝達関数行列Hを送信局側で取得するにあたり、MIMOチャネルの伝達関数情報のフィードバックの遅延時間が問題となる。
例えば、図11に示した従来技術における送信ウエイト行列Wを算出するフローを実施するに当たり、ステップS102にて取得する各端末の伝達関数行列の算出時刻と、ステップS112の送信ウエイト行列を生成する時刻との間には若干の遅延がある。更に、実際に、この送信ウエイトを用いてデータを送信するのは更に後になる。
通常、基地局と端末局との間のMIMOチャネルの伝達関数行列Hをフィードバックするためには、そのための制御情報を交換するための帯域が必要であり、このフィードバックに伴う帯域のロスを抑えるために、フィードバックの周期は比較的長めに設定される。例えば、この周期が10ms周期であったとするならば、データを送信するために用いる送信ウエイトは、10msも過去の情報を用いて求めることになる。
しかしながら、マルチパス環境においては、時間と共にチャネルは大きく変動し、その結果として各端末局間の送信信号は、互いの端末において干渉信号となる。つまり、式(8)における非対角ブロックのゼロ行列部分に、次式(17)で示すように、干渉成分I[i,j]が発生する。
ここで、干渉成分I[i,j]は、第j端末から第i端末局への干渉を表す行列であり、各端末局毎に複数の信号系列を同時に空間多重するために行列形式となっている。つまり、式(9)〜式(11)は、次式(18)〜式(20)のようになり、相互干渉が発生する。
ここで、チャネルの時間変動を送信側で予測することは不可能である。一方で、受信側において各端末局宛の信号の相互干渉が発生した場合、各端末局が備えるアンテナの本数は、空間多重する信号系列の総数よりも少なくなるため、線形処理等の比較的簡易な方法で相互干渉を除去することはできない。
したがって、マルチユーザMIMO伝送の受信端末局側において発生するチャネルの時変動に伴う相互干渉の問題を解決するために、チャネルの時変動に伴う相互干渉が小さくなるような送信指向性制御ないしは端末局への空間多重方法が求められている。
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、マルチユーザMIMO通信を行う際の端末局側において、時変動等の影響で他局宛ての干渉信号が漏れ込みやすいような状況であっても、時変動の影響を受け難い条件を選択することでき、安定したマルチユーザMIMO伝送を実現することができる無線通信方法を提供することにある。
上述した課題を解決するために、本発明は、1つの第1の無線局と複数の第2の無線局により構成され、前記第1の無線局は、複数本のアンテナで構成される第1のアンテナ群を備え、前記第2の無線局は、1本以上のアンテナで構成される第2のアンテナ群を備え、前記第1の無線局の前記第1のアンテナ群及び前記第2の無線局の全て、または、その一部の備える前記第2のアンテナ群により構成されるMIMO(Multiple Input Multiple Output)チャネルを介して、前記複数の第2の無線局に対して同時に複数の信号系統を同一周波数チャネル及び同一時刻に空間多重して通信する無線通信方法において、前記第1の無線局は、前記第1のアンテナ群と前記複数の第2のアンテナ群との間のMIMOチャネルの各伝達関数情報を取得する伝達関数情報取得ステップと、前記取得した伝達関数情報により構成される前記第1の無線局と前記第2の無線局との間の伝達関数行列Hのエルミート共役HHと該行列の積であるHHHで与えられる行列の非ゼロの固有値に対する1つ、または、複数の固有ベクトルのいずれかを取得する固有ベクトル取得ステップと、前記取得した固有ベクトルを記憶する固有ベクトル記憶ステップと、新規に取得した固有ベクトルと前記固有ベクトル記憶ステップにて記憶した過去の固有ベクトルとの間の時間相関を算出する第1の時間相関取得ステップと、各固有ベクトルの時間的な変動の大小を、前記第1の時間相関取得ステップで求めた時間相関に対するしきい値、または、複数回の時間相関の平均値に対するしきい値との大小比較により判定する第1の時間変動判定ステップと、前記複数の第2の無線局の各第2のアンテナ群と前記第1のアンテナ群との間の伝達関数情報から得られた前記固有ベクトルの中から前記第1の時間変動判定ステップにおいて、前記しきい値よりも大きな時間相関が得られた固有ベクトルを選択し、該固有ベクトルに基づいて、空間多重する各信号系列を前記第1のアンテナ群の各々のアンテナから送信する際に乗算する係数である送信ウエイトを算出する送信ウエイト算出ステップと、各信号系列と前記第1のアンテナ群の各々のアンテナの組み合わせ毎の送信ウエイトを成分として構成される送信ウエイト行列を、空間多重する各信号系列を成分とする送信信号ベクトルに乗算する送信信号生成ステップと、前記乗算の結果を前記第1のアンテナ群の各アンテナを介して送信する送信ステップとを含むことを特徴とする無線通信方法である。
上記発明は、従来技術とは、伝達関数行列Hのエルミート共役HHと該行列の積であるHHHで与えられる行列の非ゼロの固有値に対する1つ、または、複数の固有ベクトルのいずれかを取得する固有ベクトル取得ステップと、前記取得した固有ベクトルを記憶する固有ベクトル記憶ステップと、新規に取得した固有ベクトルと前記固有ベクトル記憶ステップにて記憶した過去の固有ベクトルとの間の時間相関を算出する第1の時間相関取得ステップと、各固有ベクトルの時間的な変動の大小を、前記第1の時間相関取得ステップで求めた時間相関に対するしきい値、または、複数回の時間相関の平均値に対するしきい値との大小比較により判定する第1の時間変動判定ステップと、を実施する点で異なる。
これは、従来は、複数の第二の無線局に対して同時に複数の信号系統を同一周波数チャネル及び同一時刻に空間多重してMIMO通信する際に用いる送信ウエイトを算出する前に、当該第二の無線局への信号伝送に利用可能な送信ウエイトに関するベクトルの部分空間を、同時に空間多重する各第二の無線局間に対して干渉を与えないように直交化して求めるのに対し、本発明は、固有ベクトル毎に時間変動の程度を把握し、時間変動の小さな部分空間に限定して信号の送信を行うことで、チャネルの時間変動に伴う他の第二の無線局宛の信号からの干渉を抑制するためのひとつの方法を与えるものである。
上述した課題を解決するために、本発明は、1つの第1の無線局と複数の第2の無線局により構成され、前記第1の無線局は、複数本のアンテナで構成される第1のアンテナ群を備え、前記第2の無線局は、1本以上のアンテナで構成される第2のアンテナ群を備え、前記第1の無線局の前記第1のアンテナ群及び前記第2の無線局の全て、または、その一部の備える前記第2のアンテナ群により構成されるMIMO(Multiple Input Multiple Output)チャネルを介して、前記複数の第2の無線局に対して同時に複数の信号系統を同一周波数チャネル及び同一時刻に空間多重して通信するOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)変調方式を用いた無線通信方法において、前記第1の無線局は、OFDM変調方式における各サブキャリアについて、前記第1のアンテナ群と前記複数の第2のアンテナ群との間のMIMOチャネルの各伝達関数情報を取得する伝達関数情報取得ステップと、前記取得した伝達関数情報により構成される前記第1の無線局と前記第2の無線局との間の伝達関数行列Hのエルミート共役HHと該行列の積であるHHHで与えられる行列の非ゼロの固有値に対する1つ、または、複数の固有ベクトルのいずれかを取得する固有ベクトル取得ステップと、前記取得した固有ベクトルを記憶する固有ベクトル記憶ステップと、新規に取得した固有ベクトルと前記固有ベクトル記憶ステップにて記憶した過去の固有ベクトルとの間の時間相関を算出する第1の時間相関取得ステップと、各固有ベクトルの時間的な変動の大小を、前記第1の時間相関取得ステップで求めた時間相関に対するしきい値、または、複数回の該時間相関の平均値に対するしきい値との大小比較により判定する第1の時間変動判定ステップと、前記複数の第2の無線局の各第2のアンテナ群と前記第1のアンテナ群との間の伝達関数情報から得られた前記固有ベクトルの中から前記第1の時間変動判定ステップにおいて、前記しきい値よりも大きな時間相関が得られた固有ベクトルを選択し、該固有ベクトルに基づいて、空間多重する各信号系列を前記第1のアンテナ群の各々のアンテナから送信する際に乗算する係数である送信ウエイトを算出する送信ウエイト算出ステップと、各信号系列と前記第1のアンテナ群の各々のアンテナの組み合わせ毎の送信ウエイトを成分として構成される送信ウエイト行列を、空間多重する各信号系列を成分とする送信信号ベクトルに乗算する送信信号生成ステップと、前記送信信号生成ステップで生成された信号を全サブキャリアに渡って合成した信号を前記第1のアンテナ群の各アンテナを介して送信する送信ステップと、を実施することを特徴とする無線通信方法である。
これは、本発明を、OFDM変調方式を用いる無線通信システムに拡張するためのひとつの方法を与えるものである。
上述した課題を解決するために、本発明は、1つの第1の無線局と複数の第2の無線局により構成され、前記第1の無線局は、複数本のアンテナで構成される第1のアンテナ群を備え、前記第2の無線局は、1本以上のアンテナで構成される第2のアンテナ群を備え、前記第1の無線局の前記第1のアンテナ群及び前記第2の無線局の全て、または、その一部の備える前記第2のアンテナ群により構成されるMIMO(Multiple Input Multiple Output)チャネルを介して、前記複数の第2の無線局に対して同時に複数の信号系統を同一周波数チャネル及び同一時刻に空間多重して通信するOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)変調方式を用いた無線通信方法において、前記第1の無線局は、OFDM変調方式における各サブキャリアについて、前記第1のアンテナ群と前記複数の第2のアンテナ群との間のMIMOチャネルの各伝達関数情報を取得する伝達関数情報取得ステップと、前記取得した伝達関数情報により構成される前記第1の無線局と前記第2の無線局との間の伝達関数行列Hのエルミート共役HHと該行列の積であるHHHで与えられる行列の非ゼロの固有値に対する1つ、または、複数の固有ベクトルのいずれかを取得する固有ベクトル取得ステップと、前記取得した固有ベクトルを記憶する固有ベクトル記憶ステップと、新規に取得した固有ベクトルと前記固有ベクトル記憶ステップにて記憶した過去の固有ベクトルとの間の時間相関を算出する第1の時間相関取得ステップと、各サブキャリア毎に求めた各固有ベクトルの時間相関値を全サブキャリアに渡って加算または平均化し、全帯域時間相関値を取得する全帯域時間相関取得ステップと、各固有ベクトルの時間的な変動の大小を、前記全帯域時間相関値、または、複数回の全帯域時間相関値の平均値に対するしきい値との大小比較により判定する第2の時間変動判定ステップと、前記複数の第2の無線局の各第2のアンテナ群と前記第1のアンテナ群との間の伝達関数情報から得られた前記固有ベクトルの中から前記第2の時間変動判定ステップにおいて、前記しきい値よりも大きな時間相関が得られた番号の固有ベクトルを選択し、該固有ベクトルに基づいて、空間多重する各信号系列を前記第1のアンテナ群の各々のアンテナから送信する際に乗算する係数である送信ウエイトを算出する第2の送信ウエイト算出ステップと、各信号系列と前記第1のアンテナ群の各々のアンテナの組み合わせ毎の送信ウエイトを成分として構成される送信ウエイト行列を、空間多重する各信号系列を成分とする送信信号ベクトルに乗算する送信信号生成ステップと、前記送信信号生成ステップで得られた信号を全サブキャリアに渡り合成した信号を前記第1のアンテナ群の各アンテナを介して送信する送信ステップとを含むことを特徴とする無線通信方法である。
これは、本発明を、OFDM変調方式を用いる無線通信システムに拡張するためのひとつの方法を与えるものである。
上述した課題を解決するために、本発明は、1つの第1の無線局と複数の第2の無線局により構成され、前記第1の無線局は、複数本のアンテナで構成される第1のアンテナ群を備え、前記第2の無線局は、1本以上のアンテナで構成される第2のアンテナ群を備え、前記第1の無線局の前記第1のアンテナ群及び前記第2の無線局の全て、または、その一部の備える前記第2のアンテナ群により構成されるMIMO(Multiple Input Multiple Output)チャネルを介して、前記複数の第2の無線局に対して同時に複数の信号系統を同一周波数チャネル及び同一時刻に空間多重して通信するOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)変調方式を用いた無線通信方法において、前記第1の無線局は、OFDM変調方式における各サブキャリアについて、前記第1のアンテナ群と前記複数の第2のアンテナ群との間のMIMOチャネルの各伝達関数情報を取得する伝達関数情報取得ステップと、前記取得した伝達関数情報により構成される前記第1の無線局と前記第2の無線局との間の伝達関数行列Hのエルミート共役HHと該行列の積であるHHHで与えられる行列の非ゼロの固有値に対する1つ、または、複数の固有ベクトルのいずれかを取得する固有ベクトル取得ステップと、前記伝達関数情報取得ステップにおいて取得した伝達関数情報を全サブキャリアに渡り各成分毎に加算した情報、または、該情報をサブキャリア数で除算した情報である平均伝達関数情報を取得する伝達関数情報加算ステップと、前記平均伝達関数情報により構成される前記第1の無線局と前記第2の無線局との間の平均伝達関数行列H’のエルミート共役H’Hと該行列の積であるH’HH’で与えられる行列の非ゼロの固有値に対する1つ、または、複数の固有ベクトルのいずれかを取得する平均固有ベクトル取得ステップと、前記取得した平均固有ベクトルを記憶する平均固有ベクトル記憶ステップと、新規に取得した平均固有ベクトルと前記平均固有ベクトル記憶ステップにて記憶した過去の平均固有ベクトルとの間の時間相関を算出する第3の時間相関取得ステップと、各平均固有ベクトルの時間的な変動の大小を、前記時間相関値、または、複数回の時間相関値の平均値に対するしきい値との大小比較により判定する第3の時間変動判定ステップと、前記複数の第2の無線局の各第2のアンテナ群と前記第1のアンテナ群との間の伝達関数情報から得られた前記固有ベクトルの中から前記第3の時間変動判定ステップにおいて、前記しきい値よりも大きな時間相関が得られた番号の固有ベクトルを選択し、該固有ベクトルに基づいて、空間多重する各信号系列を前記第1のアンテナ群の各々のアンテナから送信する際に乗算する係数である送信ウエイトを算出する第3の送信ウエイト算出ステップと、各信号系列と前記第1のアンテナ群の各々のアンテナの組み合わせ毎の送信ウエイトを成分として構成される送信ウエイト行列を、空間多重する各信号系列を成分とする送信信号ベクトルに乗算する送信信号生成ステップと前記送信信号生成ステップで得られた信号を全サブキャリアに渡って合成した信号を前記第1のアンテナ群の各アンテナを介して送信する送信ステップとを含むことを特徴とする無線通信方法である。
これは、本発明を、OFDM変調方式を用いる無線通信システムに拡張するためのひとつの方法を与えるものである。
本発明は、上記の発明において、前記第1の無線局は、前記複数の第2の無線局との間で同時に複数の信号系統を同一周波数チャネル及び同一時刻に空間多重してMIMO通信を行う際に、前記第1の時間変動判定ステップ、または、前記第2の時間変動判定ステップ、または、前記第3の時間変動判定ステップにて、時間変動が小さいと判定された固有ベクトルの数を、前記第2の無線局に対して同時に空間多重可能な信号系統数の上限として管理する第1の空間多重信号系統数判定ステップを更に含むことを特徴とする。
これは、複数の前記第二の無線局との間で同時に複数の信号系統を同一周波数チャネルおよび同一時刻に空間多重してMIMO通信を行う際に、チャネルの時間変動に伴う他の第二の無線局宛の信号からの干渉を抑制するための、当該第二の無線局に対し同時に空間多重可能な信号系統数の上限を制限するひとつの方法を与えるものである。
本発明は、上記の発明において、前記第1の無線局は、前記複数の第2の無線局との間で同時に複数の信号系統を同一周波数チャネル及び同一時刻に空間多重してMIMO通信を行う際に、前記第1の時間変動判定ステップ、または、前記第2の時間変動判定ステップ、または、前記第3の時間変動判定ステップを、前記固有値または特異値の絶対値の大きい方から順番に実施し、いずれかの固有ベクトルの時間変動が大きいと判定されるまでの間に、時間変動が小さいと判定された固有ベクトルの数を、前記第2の無線局に対して同時に空間多重可能な信号系統数の上限として管理する第2の空間多重信号系統数判定ステップを更に含むことを特徴とする。
これは、複数の前記第二の無線局との間で同時に複数の信号系統を同一周波数チャネル
および同一時刻に空間多重してMIMO通信を行う際に、チャネルの時間変動に伴う他の
第二の無線局宛の信号からの干渉を抑制するための、当該第二の無線局に対し同時に空間
多重可能な信号系統数の上限を制限するひとつの方法を与えるものである。
本発明は、上記の発明において、前記第1の空間多重信号系統数判定ステップ、または、前記第2の空間多重信号系統数判定ステップは、前記第2の無線局に対して同時に空間多重可能な信号系統数の上限値がゼロであった場合には、他の第2の無線局との間で同時に複数の信号系統を、同一周波数チャネル及び同一時刻に空間多重してMIMO通信を行わない無線局として管理することを特徴とする。
これは、複数の前記第二の無線局との間で同時に複数の信号系統を同一周波数チャネルおよび同一時刻に空間多重してMIMO通信を行う際に、チャネルの時間変動に伴う他の第二の無線局宛の信号からの干渉を抑制するための、当該第二の無線局に対し同時に空間多重可能な信号系統数の上限を制限するひとつの方法を与えるものである。
本発明は、上記の発明において、前記送信ウエイト算出ステップは、前記伝達関数情報により構成される伝達関数行列の代わりに、前記第1の時間変動判定ステップ、または、第2の時間変動判定ステップ、または、第3の時間変動判定ステップにおいて、時間変動が小さいと判定された固有ベクトルの各成分により構成される行列である換算伝達関数行列に基づいて、送信ウエイトを算出することを特徴とする。
これは、複数の前記第二の無線局との間で同時に複数の信号系統を同一周波数チャネルおよび同一時刻に空間多重してMIMO通信を行う際に、チャネルの時間変動に伴う他の第二の無線局宛の信号からの干渉を抑制するための、当該第二の無線局に対し同時に空間多重可能な信号系統数の上限を制限するひとつの方法を与えるものである。
この発明によれば、第1の無線局は、第1のアンテナ群と複数の第2のアンテナ群との間のMIMOチャネルの各伝達関数情報を取得し、取得した伝達関数情報により構成される第1の無線局と第2の無線局との間の伝達関数行列Hのエルミート共役HHと該行列の積であるHHHで与えられる行列の非ゼロの固有値に対する1つ、または、複数の固有ベクトルのいずれかを取得し、取得した固有ベクトルを記憶し、新規に取得した固有ベクトルと記憶した過去の固有ベクトルとの間の時間相関を算出し、各固有ベクトルの時間的な変動の大小を、時間相関に対するしきい値、または、複数回の時間相関の平均値に対するしきい値との大小比較により判定し、複数の第2の無線局の各第2のアンテナ群と第1のアンテナ群との間の伝達関数情報に基づいて、空間多重する各信号系列を第1のアンテナ群の各々のアンテナから送信する際に乗算する係数である送信ウエイトを算出し、各信号系列と第1のアンテナ群の各々のアンテナの組み合わせ毎の送信ウエイトを成分として構成される送信ウエイト行列を、空間多重する各信号系列を成分とする送信信号ベクトルに乗算し、該乗算結果を第1のアンテナ群の各アンテナを介して送信する。したがって、マルチユーザMIMO通信を行う際の端末局側において、時変動等の影響で他局宛の干渉信号が漏れ込みやすいような状況においても、時変動の影響を受け難い条件を選択することができ、安定したマルチユーザMIMO伝送を実現することができるという利点が得られる。
また、本発明によれば、第1の無線局は、OFDM変調方式における各サブキャリアについて、第1のアンテナ群と複数の第2のアンテナ群との間のMIMOチャネルの各伝達関数情報を取得し、取得した伝達関数情報により構成される第1の無線局と第2の無線局との間の伝達関数行列Hのエルミート共役HHと該行列の積であるHHHで与えられる行列の非ゼロの固有値に対する1つ、または、複数の固有ベクトルのいずれかを取得し、取得した固有ベクトルを記憶し、新規に取得した固有ベクトルと記憶した過去の固有ベクトルとの間の時間相関を算出し、各固有ベクトルの時間的な変動の大小を、時間相関に対するしきい値、または、複数回の該時間相関の平均値に対するしきい値との大小比較により判定し、複数の第2の無線局の各第2のアンテナ群と第1のアンテナ群との間の伝達関数情報に基づいて、空間多重する各信号系列を第1のアンテナ群の各々のアンテナから送信する際に乗算する係数である送信ウエイトを算出し、各信号系列と第1のアンテナ群の各々のアンテナの組み合わせ毎の送信ウエイトを成分として構成される送信ウエイト行列を、空間多重する各信号系列を成分とする送信信号ベクトルに乗算し、そして、該乗算信号を全サブキャリアに渡って合成した信号を前記第1のアンテナ群の各アンテナを介して送信する。したがって、マルチユーザMIMO通信を行う際の端末局側において、時変動等の影響で他局宛の干渉信号が漏れ込みやすいような状況においても、時変動の影響を受け難い条件を選択することができ、安定したマルチユーザMIMO伝送を実現することができるという利点が得られる。
また、本発明によれば、第1の無線局は、OFDM変調方式における各サブキャリアについて、第1のアンテナ群と複数の第2のアンテナ群との間のMIMOチャネルの各伝達関数情報を取得し、取得した伝達関数情報により構成される第1の無線局と第2の無線局との間の伝達関数行列Hのエルミート共役HHと該行列の積であるHHHで与えられる行列の非ゼロの固有値に対する1つ、または、複数の固有ベクトルのいずれかを取得し、取得した固有ベクトルを記憶し、新規に取得した固有ベクトルと記憶した過去の固有ベクトルとの間の時間相関を算出し、複数の第2の無線局の各第2のアンテナ群と第1のアンテナ群との間の伝達関数情報に基づいて、空間多重する各信号系列を第1のアンテナ群の各々のアンテナから送信する際に乗算する係数である送信ウエイトを算出し、各信号系列と第1のアンテナ群の各々のアンテナの組み合わせ毎の送信ウエイトを成分として構成される送信ウエイト行列を、空間多重する各信号系列を成分とする送信信号ベクトルに乗算し、各サブキャリア毎に求めた各固有ベクトルの時間相関値を全サブキャリアに渡って加算または平均化し、全帯域時間相関値を取得し、各固有ベクトルの時間的な変動の大小を、全帯域時間相関値、または、複数回の全帯域時間相関値の平均値に対するしきい値との大小比較により判定し、そして、乗算により得られた信号を全サブキャリアに渡って合成した信号を前記第1のアンテナ群の各アンテナを介して送信する。したがって、マルチユーザMIMO通信を行う際の端末局側において、時変動等の影響で他局宛の干渉信号が漏れ込みやすいような状況においても、時変動の影響を受け難い条件を選択することができ、安定したマルチユーザMIMO伝送を実現することができるという利点が得られる。
また、本発明によれば、第1の無線局は、OFDM変調方式における各サブキャリアについて、第1のアンテナ群と複数の第2のアンテナ群との間のMIMOチャネルの各伝達関数情報を取得し、取得した伝達関数情報により構成される第1の無線局と第2の無線局との間の伝達関数行列Hのエルミート共役HHと該行列の積であるHHHで与えられる行列の非ゼロの固有値に対する1つ、または、複数の固有ベクトルのいずれかを取得し、複数の第2の無線局の各第2のアンテナ群と第1のアンテナ群との間の伝達関数情報に基づいて、空間多重する各信号系列を第1のアンテナ群の各々のアンテナから送信する際に乗算する係数である送信ウエイトを算出し、各信号系列と第1のアンテナ群の各々のアンテナの組み合わせ毎の送信ウエイトを成分として構成される送信ウエイト行列を、空間多重する各信号系列を成分とする送信信号ベクトルに乗算し、取得した伝達関数情報を全サブキャリアに渡り各成分毎に加算した情報、または、該情報をサブキャリア数で除算した情報である平均伝達関数情報を取得し、平均伝達関数情報により構成される第1の無線局と第2の無線局との間の平均伝達関数行列H’のエルミート共役H’Hと該行列の積であるH’HH’で与えられる行列の非ゼロの固有値に対する1つ、または、複数の固有ベクトルのいずれかを取得し、取得した固有ベクトルを記憶し、新規に取得した固有ベクトルと記憶した過去の固有ベクトルとの間の時間相関を算出し、各固有ベクトルの時間的な変動の大小を、時間相関値、または、複数回の時間相関値の平均値に対するしきい値との大小比較により判定し、そして、乗算により得られた信号を全サブキャリアに渡って合成した信号を第1のアンテナ群の各アンテナを介して送信する。したがって、マルチユーザMIMO通信を行う際の端末局側において、時変動等の影響で他局宛の干渉信号が漏れ込みやすいような状況においても、時変動の影響を受け難い条件を選択することができ、安定したマルチユーザMIMO伝送を実現することができるという利点が得られる。
また、本発明によれば、第1の無線局は、複数の第2の無線局との間で同時に複数の信号系統を同一周波数チャネル及び同一時刻に空間多重して通信を行う際に、時間変動が小さいと判定された固有ベクトルの数を、第2の無線局に対して同時に空間多重可能な信号系統数の上限として管理する。したがって、マルチユーザMIMO通信を行う際の端末局側において、時変動等の影響で他局宛の干渉信号が漏れ込みやすいような状況においても、時変動の影響を受け難い条件を選択することができ、安定したマルチユーザMIMO伝送を実現することができるという利点が得られる。
また、本発明によれば、第1の無線局は、複数の第2の無線局との間で同時に複数の信号系統を同一周波数チャネル及び同一時刻に空間多重して通信を行う際に、時間変動判定を、固有値または特異値の絶対値の小さい方から順番に実施し、いずれかの固有ベクトルの時間変動が大きいと判定されるまでの間に、時間変動が小さいと判定された固有ベクトルの数を、第2の無線局に対して同時に空間多重可能な信号系統数の上限として管理する。したがって、マルチユーザMIMO通信を行う際の端末局側において、時変動等の影響で他局宛の干渉信号が漏れ込みやすいような状況においても、時変動の影響を受け難い条件を選択することができ、安定したマルチユーザMIMO伝送を実現することができるという利点が得られる。
また、本発明によれば、第2の無線局に対して同時に空間多重可能な信号系統数の上限値がゼロであった場合には、他の第2の無線局との間で同時に複数の信号系統を、同一周波数チャネル及び同一時刻に空間多重して通信を行わない無線局として管理する。したがって、マルチユーザMIMO通信を行う際の端末局側において、時変動等の影響で他局宛の干渉信号が漏れ込みやすいような状況においても、時変動の影響を受け難い条件を選択することができ、安定したマルチユーザMIMO伝送を実現することができるという利点が得られる。
また、本発明によれば、伝達関数情報により構成される伝達関数行列の代わりに、時間変動が小さいと判定された固有ベクトルの各成分により構成される行列である換算伝達関数行列に基づいて、送信ウエイトを算出する。したがって、マルチユーザMIMO通信を行う際の端末局側において、時変動等の影響で他局宛の干渉信号が漏れ込みやすいような状況においても、時変動の影響を受け難い条件を選択することができ、安定したマルチユーザMIMO伝送を実現することができるという利点が得られる。
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
まず、本発明の基本動作について説明する。
以下においては、一例として、図10に示すような基地局側に9本のアンテナを備え、3本のアンテナを備えた端末局が複数存在する場合について説明する。
まず、基地局101は、定期的に、各端末局102〜104(MS#1〜#3)に対する伝達関数行列を取得する。この伝達関数行列を「定期的に取得する」とは、例えば、10ms程度(任意の間隔で良い)の間隔で、少なくとも1回は各端末との間でデータまたは制御情報に関する通信を行い、その際に伝達関数に関する情報を取得することを意味する。
一般的には、携帯端末のように、端末装置自体の場所や、向きが時間的に動くものの場合には、この間隔は短く、逆に固定ないしは準固定の端末装置で、周りの環境変動のみがチャネルの時変動の要因となるようなシステムでは、この間隔は長く設定可能である。また、様々な形態の端末が混在する場合には、各端末局毎に時変動の状況を把握し、その時変動の程度に合わせて、この周期を端末毎に個別に設定しても構わない。
このようにして、定期的に取得した伝達関数情報をもとに、式(13)に相当する着目した端末局と基地局の間の伝達関数行列に対し、次式(21)、(22)に従って、SVD(特異値)分解を定期的に行う。
ここで、元の伝達関数行列H1は、3行9列の行列であり、式(21)におけるU’kは3行3列、Dkは3行9列、V’kは9行9列の行列である。この行列V’kを構成する9個のベクトルvj (k)は9次元の列ベクトルであり、右特異ベクトルと呼ばれる。これは、言い換えると、行列Hk HHkの非ゼロの固有ベクトルでもある。以降の説明では、これらの行列を固有ベクトルと表現して説明を行う。また、行列Dkが3行9列であることから、この行列のランクは最大で3であり、非ゼロの特異値をとり得るのは、固有ベクトルv1 (k)からベクトルv3 (k)までである。
このようにして、定期的に求めた固有ベクトルv1 (k)からv3 (k)に対し、前回の固有ベクトルとの間の時間相関をとる。この際、特異値の絶対値ないしは固有値の大小の入れ替わりにより、固有ベクトルの対応が一致しない場合もあるが、その場合には、各ベクトルの相関から対応を判定し、対応する固有ベクトル同士の時間相関を見ればよい。ここでの時間相関とは、時刻tにおけるベクトルをvj (k)[t]とした場合、時刻t=−δtと時刻t=0との間のベクトルの内積の絶対値として、次式(23)のように表される。
一般に、MIMOチャネルの理解においては、送信局と受信局との間には、各固有ベクトルの方向に独立な伝送路が存在し、それぞれの固有値が各伝送路の利得であると理解される。この固有ベクトルの時間相関は、固有ベクトル毎に異なり、時間相関が非常に小さな固有ベクトルもあれば、大きく時変動し、時間相関が小さい固有ベクトルもある。この傾向は、継続的に時間相関C[k,j]をモニタしていれば判定可能であり、ある程度の時間(例えば、10回分に相当する時間)に渡って時間相関の平均をとり、その値が所定のしきい値よりも大きいか小さいかで判定する。
OFDM変調方式を用いる場合には、各サブキャリアの第j固有ベクトルの時間相関に対して全サブキャリアで総和をとり、その値に対し、しきい値に対する大小判定を行っても良い。あるいは、全サブキャリアについて固有ベクトルを平均化し、その平均化した固有ベクトルに対して過去の固有ベクトルとの間で式(23)の時間相関をとり、しきい値との大小判定しても良い。
このようにして、時変動の少ない安定した固有ベクトルがいずれであるかを判定し、その固有ベクトルの個数を空間多重する信号系列の上限とする。選択された固有ベクトルの数が、空間多重を行う信号系列数よりも多い場合には、固有値が大きい方から所定の数だけ固有ベクトルを選択する。そして、選択された固有ベクトルで張られる部分空間を利用して送信ウエイトを設定する。
次に、このようにして選択された固有ベクトルを用いて送信ウエイトベクトルを求める際の手順を、図10に示した簡単な例を参照して説明する。特に簡単のため、図10において、各端末局102〜104(MS#1〜#3)において第1及び第2固有ベクトルの時間相関がしきい値以上であり、第3固有ベクトルの時間相関がしきい値以下である場合を仮定して送信ウエイトの求め方を説明する。前述したように、時変動の大きい第3固有ベクトルに対応する伝送路は用いないことを反映するため、まず、各端末局102〜104(MS#1〜#3)の伝達関数行列を時変動の小さな固有ベクトルの部分空間に限定した換算伝達関数を求める。この換算伝達関数行列は、次式(24)で定義する。
該式(24)が式(13)に対応し、同様に式(12)に対応する式は、次式(25)のように変換される。
つまり、H’k以外の換算伝達関数行列を縦に並べて得られる行列である。以降の処理は、HkをH’kに、チルダ(〜)Hkをチルダ(〜)H’kに置き換えて、式(14)から式(16)を同様に行えばよい。注意すべき点は、各換算伝達関数行列は、2つの固有ベクトルで形成しているため、式(15)において、非ゼロの固有値は、2つのみとなり、結果的に式(16)で与えられる各端末局宛の信号に関する送信ウエイトは、w1及びw2の2つのベクトルで構成されることになる。これらの送信ウエイトを各端末局に対して実施し、その結果として全体の送信ウエイト行列が得られる。
ちなみに、式(21)に対し、式(22)の時間相関を小さくする右特異ベクトルに対応した左特異ベクトルにより構成される行列を左から乗算し、次式(26)で求められる行列を式(24)の換算伝達関数行列とみなすことも可能である。
ここで、uj (k)は、時間相関を小さくする右特異ベクトルに対応した左特異ベクトル、λj *は、特異ベクトルに対応した特異値の複素共役値を表す。つまり、これは、元々の式(24)の換算伝達関数行列の各列ベクトルに、その特異値の複素共役な定数を乗算したものであり、本質的には、同一の性質を備えている。つまり、式(24)の各列ベクトルに個別の定数を乗算した換算伝達関数行列は、それぞれは等価な行列として、以後の説明では、式(24)に従う行列を用いて説明を行う。
なお、図10の例では、3つの端末局102〜104(MS#1〜#3)に対し、各2つの信号系列を空間多重し、合計で6多重としたが、基地局101側のアンテナ数は9本であり、更なる空間多重を行うことも可能である。例えば、第4の端末局に2系統の空間多重を、第5の端末局に1系統の空間多重をさらに追加することも可能である。但し、この場合には、式(24)及び式(25)に遡り、空間多重する全ての端末局を考慮して上述の処理を実施することになる。
以下、上述した処理内容について説明を行う。
図1は、本発明の第1実施形態による基地局101において実行される、第1の端末局の換算伝達関数行列取得を説明するためのフローチャートである。本発明においては、基地局101と端末局102〜104(MS#1〜#3)は定期的に伝達関数情報を定期的に取得しており、その都度、図11に示す送信ウエイトの算出処理の前処理として以下の処理を実施するものとする。基地局101は、定期的ないしはある端末局との伝達関数情報のフィードバックを行った等のトリガが与えられると、処理を開始し(ステップS1)、端末局の伝達関数行列を取得し、これをハット(^)Hkとおく(ステップS2)。
次に、基地局101は、この伝達関数行列を特異値分解し(ステップS3)、非ゼロの特異値に対応する右特異ベクトル(これは行列ハット(^)Hk H・ハット(^)Hkの非ゼロの固有ベクトルと等しいため、以降の説明では、固有ベクトルと呼ぶ)を抽出する(ステップS4)。さらに、基地局101は、前回に行った特異値分解の際の固有ベクトルを読み出し(ステップS5)、各固有値毎の時間相関を求める(ステップS6)。ここで、基地局101は、次回の処理に備えて新規の固有ベクトルをメモリに記憶する(ステップS7)。その後、ステップS6で求めた時間相関が所定のしきい値以上である固有ベクトルを選択し(ステップS8)、送信ウエイトを求める際に用いる伝達関数行列である換算伝達関数行列を記録して(ステップS9)、当該前処理を終了する(ステップS10)。
図2は、本発明の第1実施形態による基地局101において実行される、第2の端末局の換算伝達関数行列取得を説明するためのフローチャートである。なお、図1に対応する部分には同一の符合を付け説明を省略する。図1に示す、第1の端末局の換算伝達関数行列取得のフローチャートでは、最新の時間相関情報を元にステップS8において、しきい値の判定を行ったが、統計的な傾向を用いて判定する場合には、過去N回(Nは任意の正の整数)の時間相関を平均化して行うことが好ましい。この場合には、ステップS6で行った時間相関の情報は、過去に行ったものもメモリに記録し(ステップS11)、ステップS7の処理の後に過去N回の時間相関の平均値を求め(ステップS12)、この平均値としての時間相関を元にステップS8を実行すれば良い。
図3は、本発明の第1実施形態による基地局101において実行される、第3の端末局の換算伝達関数行列取得を説明するためのフローチャートである。なお、図1に対応する部分には同一の符合を付け説明を省略する。一般に、各非ゼロの固有ベクトルは、時間と共に連続的に変化するが、それぞれの固有ベクトルの固有値ないしは特異値の絶対値も同様に変化するために、その固有値ないしは特異値の絶対値の大小関係が入れ替わることがある。
例えば、第2固有ベクトルが時間と共に第3固有ベクトルになり、第3固有ベクトルが第2固有ベクトルになることがある。これは、固有ベクトルの番号付けを固有値の大きさの順に設定しているためであり、その入れ替わりの瞬間、第2固有ベクトル及び第3固有ベクトルの時間相関が急激に小さくなる。そのような場合でも、旧第2固有ベクトルと新第3固有ベクトルとの時間相関は十分に大きいことがある。このような場合には、先の実施例の判定においては有効な固有ベクトルとみなすべきである。
そのためには、基地局101は、ステップS6の後、急激に時間相関が変化した固有ベクトルを検索し(ステップS14)、急激に変化した固有ベクトルが複数存在するか否かを判定する(ステップS15)。そして、急激に変化した固有ベクトルが複数存在する場合には、それらの固有ベクトルの対応を入れ替えて、その組み合わせ毎に時間相関を再度算出し(ステップS16)、時間相関が小さくなる組み合わせで固有ベクトル及び時間相関の対応を確定する(ステップS17)。一方、ステップS15の判定でNoであった場合、あるいはステップS17の後、前述したステップS7に復帰して処理を継続する。
図4は、本発明の第1実施形態による基地局101において実行される、第4の端末局の換算伝達関数行列取得を説明するためのフローチャートである。先の説明では、シングルキャリアの場合を想定して説明を行ったが、例えば、OFDM変調方式などを用いる場合には、各サブキャリア毎に伝達関数行列が異なり、それぞれに同様の処理を行う必要がある。
具体的には、基地局101は、処理を開始すると(ステップS21)、端末局102〜104(MS#1〜#3)の各サブキャリアの伝達関数行列を取得する(ステップS22)。次に、各サブキャリアの伝達関数行列を特異値分解し(ステップS23)、非ゼロの固有値に対応する固有ベクトル(正確には、非ゼロの特異値に対応する右特異ベクトル)を抽出する(ステップS24)。さらに、前回行った特異値分解の際の各サブキャリアの固有ベクトルを読み出し(ステップS25)、各サブキャリアの各固有値毎の時間相関を求める(ステップS26)。ここで、次回の処理に備えて新規の各サブキャリアの固有ベクトルをメモリに記憶する(ステップS27)。その後、ステップS26で求めた時間相関が所定のしきい値以上である固有ベクトルを各サブキャリア毎に選択し(ステップS28)、送信ウエイトを求める際に用いる伝達関数行列である換算伝達関数行列を各サブキャリア毎に記録して(ステップS29)、当該前処理を終了する(ステップS30)。
図5は、本発明の第1実施形態による基地局101において実行される、第5の端末局の換算伝達関数行列取得を説明するためのフローチャートである。なお、図4に対応する処理には同一の符合を付けている。図4において説明した処理では、各サブキャリア毎に選択される固有ベクトルの数が異なることがありえたが、各種処理、特に、MACレイヤの処理や、他の端末との空間多重の組合せ判定においては、サブキャリア毎に空間多重する信号系統数が変わるのは好ましくない場合が多い。そのような場合には、どの固有ベクトルを選択するかを個別のサブキャリアで判定するのではなく、全サブキャリアで総合的に判定することが好ましい。そのための実現方法としては、例えば、ステップS27の後、各固有ベクトル毎に全サブキャリアの時間相関を平均化し(ステップS31)、その平均化した時間相関がしきい値以上の固有ベクトルを選択し(ステップS32)、ステップS29に戻るという手順が挙げられる。
図6は、本発明の第1実施形態による基地局101において実行される、第6の端末局の換算伝達関数行列取得を説明するためのフローチャートである。なお、図1、図4に対応する処理には同一の符合を付けている。前述した図5で示した例以外にも、全サブキャリアの伝達関数行列を平均化ないしは各成分の総和をとり、この単一の行列に対して同様の処理を実施することも可能である。
この場合、端末局102〜104(MS#1〜#3)の各サブキャリアの伝達関数行列を取得するステップS22の後、伝達関数行列の各成分を全サブキャリアで平均化(あるいは総和を取る)し(ステップS33)、これを用いて処理を進めることも可能である。この場合、伝達関数行列は1つとなるため、シングルキャリアの場合と同様に、ステップS3からステップS7を続けて実施する。その後、全サブキャリアで平均化した伝達関数行列の固有ベクトルの時間相関がしきい値以上のものを選択する(ステップS34)。
このようにして、全サブキャリア共通で選択された固有ベクトルが求まった後、基地局101は、各サブキャリアの伝達関数行列の特異値分解を行い(ステップS35)、ステップS34で求めた固有ベクトル(厳密には、右特異値ベクトル)に対応した固有ベクトルを選択し、各サブキャリアの換算伝達関数行列を求め、記録する(ステップS29)。
一般的な傾向としては、各サブキャリアの伝達関数行列に対し、第1固有値は、全サブキャリアで類似の値を有し、さらに、その固有ベクトルも相関が強いことが多く、そのような場合に、例えば、全ての端末局が第1固有ベクトルのみを利用するような運用を想定すると、上述したように、処理を簡単化することができる。
以上が第1実施形態として、図11に示した送信ウエイトの算出処理の前処理に相当する処理に関する説明である。なお、第1実施形態の説明の中で、ステップS8、ステップS28、ステップS32に示した、時間相関がしきい値以上の固有ベクトルの選択処理の実現方法としては、2種類の選択肢が考えられる。以下、上記2種類の選択肢について第2実施形態として説明する。
図7は、本発明の第2実施形態による基地局101において実行される、第1の固有ベクトル選択処理を説明するためのフローチャートである。基地局101は、上述したステップS8、ステップS28、ステップS32のいずれかの処理が開始されると(ステップS36)、カウンタ値としてjをリセットし(ステップS37)、jをカウントアップしながら(ステップS38)、第j固有ベクトルの時間相関がしきい値以上であるかを判定する(ステップS39)。そして、しきい値以上の場合には、第j固有ベクトルを選択し(ステップS40)、さらに、非ゼロの固有値を有する残りの固有ベクトルが存在するか否かを判定し(ステップS41)、残りがある場合には、ステップS38に戻る。一方、ステップS39で、しきい値以下であった場合、あるいはステップS41で残りの固有ベクトルがない場合には、当該処理を終了する(ステップS42)。
この処理の特徴は、ある固有ベクトルの時間相関が小さい場合には、それ以降の固有ベクトルの判定を行わずに打ち切る点にある。これは、複数の信号系列の空間多重を行う際には、固有値(あるいは特異値の絶対値)が大きい場合に有効であるため、効率の悪い小さな固有ベクトルを敢えて利用しないという方針に基づいている。
図8は、本発明の第2実施形態による基地局101において実行される、第2の固有ベクトル選択処理を説明するためのフローチャートである。図7と異なる点は、ステップS39でしきい値以下の固有ベクトルが検出された場合に、ステップS41に移行する点である。これは、固有値が小さくても、時変動の小さな固有ベクトルを積極的に用いるという方針に基づいている。
なお、図7及び図8において、ステップS41では、全ての非ゼロの固有値の固有ベクトルを検索するとしたが、最初から固有値の大きい方から所定の数の固有ベクトルに限定して判定を行うことも可能である。これは、例えば、全ての端末局の空間多重する信号系統数に上限を設け、全て、第1固有ベクトルしか用いないという場合に適用される。
上述した第1及び第2実施形態では、図11に示す送信ウエイトの算出処理の前処理として、各端末局毎に空間多重する信号系統数、すなわち、利用する固有ベクトルの数を求めた。しかしながら、ある端末局に関しては、この値がゼロである(すなわち、選択された固有ベクトルが存在しない)ケースが存在し得る。このような場合の処理として、図9に、本発明の第3実施形態におけるマルチユーザMIMO適用判定処理を説明するためのフローチャートを示す。図1乃至図8に示すような処理を実施した後、当該処理を実行する(ステップS43)。まず、時間相関がしきい値以上の固有ベクトルの有無を判定し(ステップS44)、選択された固有ベクトルがない場合には、その端末局をマルチユーザMIMO適用外の端末として管理する(ステップS45)。一方、選択された固有ベクトルがある場合には、その端末局をマルチユーザMIMO適用対象の端末として管理する(ステップS46)。
以上の管理を行い、その後、マルチユーザMIMO伝送における同時に空間多重を行う端末局の組み合わせを選択する際には、ステップS46において、マルチユーザMIMO適用対象の端末として管理された端末局の中から選択し、組み合わせを決定し、それらの組み合わせに対して、図11に示す送信ウエイトを算出して通信を行う。この結果、時変動の影響を受けやすい端末は、基地局と端末局間で1対1の通信を行うことになる。
なお、ここでのマルチユーザMIMO適用対象か否かの判定は、基本的には、チャネルの時変動の影響を受けるダウンリンク(基地局から端末局方向の通信)に関するものであり、ここでマルチユーザMIMO適用外とした端末であっても、アップリンク(端末局から基地局方向の通信)においては、マルチユーザMIMO通信を適用してもかなわない。また、各端末局は、時間的に動きがある時間帯と動きがない時間帯が存在するため、図9に示すマルチユーザMIMOの適用判定や、図1乃至図8までの固有ベクトルの選択は、逐次変わり得るものである。よって、このような判定を伝達関数情報の取得時などに定期的に行い、逐次最新の条件に従って運用する。
なお、式(24)及び式(25)に示したように、本発明においては、送信ウエイトを求める際に用いる各端末の伝達関数行列は、本来の伝達関数行列から換算伝達関数行列に置き換えられている。したがって、上述した説明の中では、図1乃至図9は、全て図11に対する前処理と説明した。しかしながら、厳密に言えば、図11における伝達関数行列は、全て換算伝達関数行列に置き換えられた処理に変更されており、そのような処理に対する前処理に相当する。しかしながら、伝達関数行列と換算伝達関数行列との対応を除けば、本発明の送信ウエイト算出手順は、図11の処理手順と全て共通であり、実施例としての説明は省略する。
さらに、上述した実施形態を説明するための図中においては、アンテナの本数など、各種パラメータを特定の条件を例に取り説明を行ったが、当然ながら、その他の一般的なパラメータによって実施可能である。すなわち、上述した実施形態は、全て本発明を例示的に示すものであって、限定的に示すものではなく、本発明は、他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
上述した実施形態によれば、マルチユーザMIMO通信を行う際の端末局側において、時変動等の影響で他局宛の干渉信号が漏れ込みやすいような状況においても、時変動の影響を受け難い条件を選択することができ、安定したマルチユーザMIMO伝送を実現することが可能となる。
また、マルチユーザMIMO通信を行う際の端末局側において、時変動等の影響で十分に他局宛の干渉信号が除去できない場合において、空間多重を行う全体の信号系列数よりも端末の受信アンテナ本数が少なくても、他局宛の干渉信号を的確に推定し、干渉をキャンセルすることで、自局宛の信号の受信特性を向上させることができる。
なお、上述した実施形態においては、アンテナの本数など、各種パラメータを特定の条件に仮定して説明を行ったが、当然ながらその他の一般的なパラメータによって実施可能である。また、複数の端末局の中で、同時に空間多重を行う端末局が固定的な場合であっても、あるいは、時間と共に適応的に一部のユーザを選択してマルチユーザMIMO通信を行う場合であっても、本発明は適用可能である。
すなわち、上述した実施形態は、全て本発明を例示的に示すものであって、限定的に示すものではなく、本発明は、他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。したがって、本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
なお、上述の基地局101、端末局102〜104は内部に、コンピュータシステムを有する構成としてもよい。そして、上述した処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。
さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。