JP4558149B2 - 炭素繊維用サイズ剤、炭素繊維のサイジング方法、サイジング処理された炭素繊維並びにそれを含むシート状物及び繊維強化複合材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭素繊維用サイズ剤、炭素繊維のサイジング方法、サイジング処理された炭素繊維並びにこの炭素繊維を含むシート状物及び繊維強化複合材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
繊維強化複合材料の1つに、炭素繊維からなる強化材とマトリックス樹脂とによる樹脂組成物を成形してなる成形品があり、この繊維強化複合材料を得るためのマトリックス樹脂としてエポキシ樹脂が広く使用されている。また、エポキシ樹脂以外にも、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂などのラジカル重合系樹脂を含む多くの樹脂が用いられている。
【0003】
この繊維強化複合材料からなる成形品の強化材として使用されている炭素繊維は、その化学組成の約90重量%以上が炭素からなる繊維であり、再生セルロース、ポリアクリロニトリル(PAN)、ピッチ等を出発原料として得られるものであって、例えば、高強度炭素繊維や高弾性炭素繊維等に区分されている。
かかる炭素繊維は、軽量であり、しかも比強度及び比弾性率において特に優れた性質を有しており、更に耐熱性や耐薬品性にも優れていることから、繊維強化複合材料の強化材として極めて有効であり、広範囲に亙る用途の繊維強化複合材料に使用されている。
【0004】
強化材としての炭素繊維とマトリックス樹脂とからなる炭素繊維強化樹脂組成物を得る際に炭素繊維にマトリックス樹脂を含浸させる方法としては、離型紙上に薄くマトリックス樹脂を塗布した上に炭素繊維を一方向に並べるプリプレグ法や、樹脂浴中に炭素繊維を通過させるディッピング法等がある。
また、織機により織布に加工した後の炭素繊維織布にマトリックス樹脂を含浸させて炭素繊維強化樹脂組成物とすることもできる。このような炭素繊維織布強化樹脂組成物を得る方法としては、離型紙上に薄くマトリックス樹脂を塗布した上にこの炭素繊維織布を重ねるプリプレグ法や、樹脂浴中に炭素繊維織布を通過させるディッピング法等がある。
【0005】
品質の高い繊維強化複合材料を工業的に安定に成形し得るようにするためには、炭素繊維にマトリックス樹脂を含浸させる含浸工程において、数千本のフィラメントからなる炭素繊維束とマトリックス樹脂の含浸が容易にそして完全に行なえるようにすることが必要である。
しかしながら、炭素繊維は伸度が小さくかつ脆い性質を有するために、機械的摩擦等によって毛羽が発生し易く、しかもマトリックス樹脂に対する濡れ性に乏しい。このため、強化材として使用する炭素繊維に上記の如き優れた性質を十分に発揮させることができず、これを改善するために、従来から、繊維強化複合材料の強化材に使用する炭素繊維に対してサイズ剤による処理が施されている。
【0006】
すなわち、炭素繊維にサイズ剤による処理を施すことにより、炭素繊維の取扱い性を向上させるとともに、マトリックス樹脂に対する濡れ性を向上させ、これによって炭素繊維を強化材とする繊維強化複合材料からなる成形品の品質の向上が図られており、このようなサイジング剤として多種の化合物が用いられている。
【0007】
このような炭素繊維に使用されるサイズ剤として、例えば、ポリグリシジルエーテル類などを用いるもの(特公昭57−15229号公報等参照)(以下「サイズ剤1」と略記する)や、エポキシ樹脂と、不飽和二塩基酸とビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物との縮合物と、単環フェノール及び多環フェノール類から選ばれるフェノール類のアルキレンオキシド付加物とを必須成分とするもの(特開昭53−52796号公報、特開平7−19738号公報:以下「サイズ剤2」と略記する)、またエポキシ樹脂、単環又は多環フェノール類のアルキレンオキシド付加物、並びに不飽和二塩基酸もしくはそのエステル形成性誘導体とビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物との酸価が40以下のポリエステル縮合物からなるもの(特開平10−60779号公報:以下「サイズ剤3」と略記する)などの種々のものが提案されている。
【0008】
上記サイズ剤1は、その使用に際し、含浸性や界面接着力などに優れているという利点を有している。サイズ剤2は、マトリックス樹脂、特に不飽和ポリエステル樹脂との接着性を向上させることができ、またエポキシ樹脂をマトリックス樹脂として用いた場合に硬化条件の変動による炭素繊維強化樹脂組成物の物性が変動するという従来からの問題点を低減できる優れたサイズ剤である。また、サイズ剤3は、経時的に安定で、解舒性に優れ、かつ、不飽和ポリエステルとの接着性が良好なサイズ剤である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、サイズ剤1は、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂などのラジカル重合系樹脂に対する接着性が十分ではなく、これらの樹脂を炭素繊維強化樹脂組成物のマトリックス樹脂として使用するには不適当である。また、サイズ剤2および3は、サイズ剤1に比較してラジカル重合系樹脂に対する接着性に優れてはいるが、まだ十分ではなく、それらの樹脂を炭素繊維強化樹脂組成物のマトリックス樹脂として使用するにはなお問題がある。
【0010】
従って、本発明は、上記の如き従来技術の問題点を解決し、炭素繊維に対して、安定した工程通過性と良好な樹脂含浸性を与えることができ、さらにエポキシ樹脂だけでなく、特にアクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などのラジカル重合系樹脂による樹脂含浸性及びこれらの樹脂との接着性を向上させ、さらに安定した物性改善効果を与えることのできる炭素繊維用サイズ剤を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、上記のサイズ剤を用いてサイジングを行なう炭素繊維のサイジング方法、このサイズ剤によってサイジング処理された炭素繊維、このサイジング処理された炭素繊維を含むシート状物、及びこのサイジング処理された炭素繊維又はこの炭素繊維を含むシート状物を強化材として含む繊維強化複合材料を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、(1)ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物(A)と不飽和二塩基酸とのエステルであって、その酸価が50以上であるエステル化合物、(2)ビスフェノール類のジエポキシ化合物及びビスフェノール類のアルキレンオキシド付加ジエポキシ化合物(B)のいずれか一方又は両方と不飽和一塩基酸とのエステルであって、分子の主鎖の片方の端部に不飽和基を有し、他方の端部にエポキシ基をそれぞれ有するエステル化合物、及び(3)平滑剤を必須成分として含む炭素繊維用サイズ剤を提供する。
【0013】
また、本発明は、上記炭素繊維用サイズ剤により炭素繊維を処理することを含む炭素繊維のサイジング方法、この炭素繊維用サイズ剤で処理され、その必須成分化合物が炭素繊維の表面に付着されている、サイジング処理された炭素繊維、このサイジング処理された炭素繊維を含むシート状物、及びこのサイジング処理された炭素繊維又はこのサイジング処理された炭素繊維含むシート状物を強化材として含む繊維強化複合材料を提供する。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の炭素繊維用サイズ剤は、上述したように、(1)ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物(A)と不飽和二塩基酸とのエステルであって、その酸価が50以上であるエステル化合物と、(2)ビスフェノール類のジエポキシ化合物及びビスフェノール類のアルキレンオキシド付加ジエポキシ化合物(B)のいずれか一方又は両方と不飽和一塩基酸とのエステルであって、分子の主鎖の片方の端部に不飽和基を有し、他方の端部にエポキシ基をそれぞれ有するエステル化合物と、及び(3)平滑剤とを必須成分として含むものである。
【0015】
本発明に用いられる上記エステル化合物(1)及び(2)は、ビスフェノール類の骨格を有するため、剛直である。また、分子内にエステル結合を有しているため、強い極性をもち、各種マトリックス樹脂との親和性に優れ、これらの樹脂との濡れ性を著しく向上させることができる。
さらに、エステル化合物(2)は、分子の主鎖の片方の端部に不飽和基を有し、他方の端部にエポキシ基をそれぞれ有していることから、マトリックス樹脂、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂などのラジカル重合系樹脂と炭素繊維とを強力に結合させることができ、その結果優れた界面接着性を発現させることができる。
【0016】
また、エステル化合物(1)の酸価は50以上である。このことから、エステル化合物(1)は、分子量1000程度で、一方の末端にカルボキシル基を有する化合物を主要構成成分とするものであり、このような化合物はマトリックス樹脂との相溶性が非常に優れたものとなり、その結果優れた濡れ性を炭素繊維に付与することができる。
【0017】
エステル化合物(1)を形成するビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物(A)は、ビスフェノール類にエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを2〜4モル付加したものであるのが好ましい。ビスフェノール類にエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを5モル以上付加したものでは、ビスフェノール類が本来有する分子鎖の剛直性が失われ、マトリックス樹脂との親和性が悪化することがある。より好ましくは、ビスフェノール類にエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを2モル付加したものである。これらのビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物(A)は、単独でもよく、また複数の化合物を混合したものであってもよい。
【0018】
ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物(A)とエステルを形成する不飽和二塩基酸は、炭素数が4〜6の脂肪族(系)であるのが好ましい。芳香族(系)の不飽和二塩基酸を用いると、得られるエステル化合物の融点が高く、マトリックス樹脂との溶解性が悪くなり、その結果良好な濡れ性を発現させることができないことがある。一方、炭素数が7個以上の脂肪族(系)不飽和二塩基酸を用いると、得られるエステル化合物の剛直性が失われ、マトリックス樹脂との親和性が低下することがある。エステル化合物(2)を形成するビスフェノール類のアルキレンオキシド付加ジエポキシ化合物(B)においても、上述した理由から、ビスフェノール類にエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを2〜4モル付加したものであることが好ましい。より好ましくは、ビスフェノール類にエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドを2モル付加したものである。
【0019】
ここで不飽和一塩基酸としては、いずれも特に限定なく用いることができるが、不飽和基に結合しているアルキル基が嵩高くないこと、形成されるエステル化合物の主鎖の剛直性を低下させないことから、アクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。
本発明の炭素繊維用サイズ剤において、上記エステル化合物(1)及び(2)の量は、サイズ剤を構成する全成分の重量に対して51重量%以上であるのが好ましい。51重量%未満では、目的とする樹脂含浸性、界面接着性、耐擦過性能を十分に発現させることができないことがある。より好ましくは60重量%以上である。
【0020】
上記エステル化合物(1)及び(2)以外の成分として使用できるものとしては、特に限定されるものではないが、必須エステル化合物成分(1)及び(2)を合成する際の原料である、ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物(A)、ビスフェノール類のエポキシ化合物、ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加ジエポキシ化合物(B)などを挙げることができる。
【0021】
また、ビスフェノール類のエポキシ化合物以外のフェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ジフェニル型などのエポキシ樹脂をかかる成分として用いることもできる。
ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物(A)、ビスフェノール類のエポキシ化合物、ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加ジエポキシ化合物(B)に用いられる、ビスフェノール類は、特に限定されるものではなく、ビスフェノールF型、ビスフェノールA型、ビスフェノールS型などの化合物が挙げられる。
【0022】
また、ビスフェノール類のエポキシ化合物、ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加ジエポキシ化合物(B)のエポキシ基としては、特に限定されるものではなく、例えば、グリシジル基、環式脂肪族エポキシ基などがある。ここで、環式脂肪族エポキシ基は、以下のような構造を有するものである。
【0023】
【化1】
【0024】
上記の如き化合物を構成成分として含む炭素繊維用サイズ剤においては、その構成成分である各タイプの化合物は、それらの各タイプの化合物のうちから1種を選定して単独で用いられてもよく、あるいはそれらの各タイプの化合物のうちの複数の化合物の混合物として用いられてもよい。
本発明のサイズ剤に用いることのできる平滑剤としては、高級脂肪族系エーテル型ポリオキシエチレン付加物、高級脂肪酸ポリオキシエチレン付加物、多価アルコールの高級脂肪酸エステル類、多価アルコールの高級脂肪酸エステル類ポリオキシエチレン付加物などから選ばれるものであり、室温で液状の化合物であるのが好ましい。
【0025】
高級脂肪酸ポリオキシエチレン付加物としては、モノエステルタイプのもの、両末端を封鎖されたジエステルタイプのものなどがある。また、多価アルコールの高級脂肪酸エステル類を構成する多価アルコール類としては、グリセリン、ソルビタン、ソルビット、ペンタエリスリット等が挙げられる。また、高級脂肪酸とのエステルとしても、モノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステルなどの多価アルコール類の構造に対応してポリエステルのタイプを選ぶことができる。
【0026】
室温で液状である平滑剤は、炭素繊維束を硬くせずに平滑性をより高度に付与できるので、好ましい。液状の上記平滑剤化合物としては、例えば、高級アルコールや高級脂肪酸のアルキル基が、オレイル基などのような不飽和結合を有するものやイソステアリル基のような分枝構造を有するもの、あるいはラウリル基などの炭素数が10〜14程度のものが挙げられる。
【0027】
また、このような平滑剤のサイズ剤中における配合量は、乳化剤等を含めた構成成分の重量に対して0.5〜20重量%であるのが好ましく、より好ましくは1〜10重量%である。
本発明のサイズ剤は、上記した各構成成分を水に分散させてなる水分散液として用いられるのが好ましい。一般に、炭素繊維用サイズ剤は、これを炭素繊維に付与する際には、水、またはアセトンなどの有機溶剤に分散、溶解させた、サイズ剤液として使用されるのであるが、水に分散させた水エマルジョン系として用いる方が、アセトンなどの有機溶剤に溶解させた場合と比較して、工業的にも、また安全性の面からも優れているため好ましい。
【0028】
本発明の炭素繊維用サイズ剤を水に分散させてなるサイズ剤液を調製する際には、その分散液の安定性のため、乳化剤として界面活性剤を用いるのが好ましい。ここで使用される界面活性剤としては、ノニオン系、カチオン系、アニオン系のいずれのものであってもよい。
ノニオン系界面活性剤は、これを用いたサイズ剤液で処理した炭素繊維を用いて強化樹脂組成物を形成する場合には、プリプレグ状態で優れた貯蔵安定性が得られ、また熱可塑性樹脂との複合化を行う場合には、トラブルの発生要因となる塩類を有していないことから扱いやすく、好ましい。
【0029】
本発明においてノニオン系界面活性剤は特に限定されるものではないが、有用なノニオン系界面活性剤としては、高級アルコールエーテル型ポリオキシエチレン付加物、高級脂肪酸型ポリオキシエチレン付加物、アルキルフェニルエーテル型ポリオキシエチレン付加物、PO/EOブロック型ポリエーテル型化合物などを用いることができる。特に、アルキルフェニルエーテル型ポリオキシエチレン付加物やPO/EOブロック型ポリエーテル型化合物は、本発明で用いられるエステル化合物(1)および(2)を乳化する性能が高く、より好ましい。
【0030】
また、アニオン系界面活性剤としても、特に限定はなく、例えば、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩などが挙げられるが、これらのカチオン種としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属イオンに比較してアンモニウムイオンタイプのものがより好ましい。これはアルカリ金属やアルカリ土類金属イオンが繊維強化複合材料に混入すると、その熱安定性が低下するからである。
【0031】
炭素繊維用サイズ剤中に含まれる乳化剤の配合量は、この乳化剤を含むサイズ剤の構成成分の全重量の5〜30重量%であるのが好ましく、より好ましくは10〜25重量%である。この範囲においては、それを使用して得られるサイズ剤液の安定性がよく、かつ、サイズ剤の効果に悪影響を与えることがなく、好ましい。この乳化剤の配合量が上記範囲より少ない場合には、得られるサイズ剤液の安定性が悪く、不都合が生じることがある。一方、上記範囲より多い場合には、得られるサイズ剤液で炭素繊維を処理する際に、炭素繊維の表面が乳化剤で被覆されるという不都合が生じて、サイズ剤が有効に作用することができなくなり、炭素繊維の界面接着性向上効果に対して悪影響を与えることがある。
【0032】
このような炭素繊維用サイズ剤を水に分散させてなるサイズ剤液は、水エマルジョン系とすることによって、工業的にも、また安全性の面からも優れたものとすることができることは上述したが、このサイズ剤液は、乳化剤を使用しているため、エステル化合物を安定に水中に分散させることができて、良好な液安定性を有する取扱いのしやすいものとすることができる。
【0033】
本発明の炭素繊維用サイズ剤により処理された炭素繊維は、上記炭素繊維用サイズ剤または上記サイズ剤液を用いてその表面を処理したものである。
処理される炭素繊維は、ピッチ、レーヨンあるいはポリアクリロニトリルなどのいずれの原料物質から得られたものであってもよい。また、それらは、例えば、高強度タイプ(低弾性率炭素繊維)、中高弾性炭素繊維および超高弾性炭素繊維などのいずれの種類のものでもよい。
【0034】
炭素繊維に付着させる上記炭素繊維用サイズ剤の付着量は、炭素繊維の重量に対して0.1〜5重量%であるのが好ましく、より好ましくは0.2〜3.0重量%である。この範囲の付着量であれば、炭素繊維に対してサイズ剤の効果を十分に付与することができる。この炭素繊維用サイズ剤の付着量が0.1重量%未満では、炭素繊維の収束性、耐擦過性が十分に得られないため、機械的摩擦などによって毛羽が発生することがあり、好ましくない。また、樹脂との濡れ性、界面接着力が不十分となるため、得られる炭素繊維強化樹脂組成物が良好な力学的特性を得ることができないなどの不都合が生じることがある。一方、5.0重量%を超える場合には、炭素繊維束の収束性が強すぎることにより、炭素繊維束の開繊性が悪くなって、マトリックス樹脂との複合化の際に束内部への樹脂の含浸が阻害されることになるなどの不都合が生じることがある。
【0035】
上述のような炭素繊維用サイズ剤の付着した炭素繊維を製造するには、ローラー浸漬法、ローラー接触法などの一般に工業的に用いられている方法などによって行うことができる。その際には、上記した如きサイズ剤液を使用して炭素繊維の表面に前記炭素繊維用サイズ剤を付着させることができる。ここで、炭素繊維に対する炭素繊維用サイズ剤の付着量は、サイズ剤液の濃度調整や、絞り量調整などの通過工程における処理条件の調整によって調節することができる。
【0036】
このようにして得られる炭素繊維用サイズ剤の付着した炭素繊維は、続いて乾燥処理され、サイズ剤を付着させる際に同時に付着したサイズ剤液に含まれていた水や有機溶媒などが除去され、炭素繊維強化樹脂組成物を形成するために使用されるものとなる。
ここでの乾燥処理は、熱風、熱板、加熱ローラー、各種赤外線ヒーターなどによって行われる。
【0037】
このような炭素繊維は、上記サイズ剤液を用いて炭素繊維の表面を処理し、これを繊維表面に付着させることによって、炭素繊維用サイズ剤の効果が付与されたものである。したがって、この上記炭素繊維は、炭素繊維用サイズ剤の効果によって、機械的摩擦などによる毛羽などが発生しにくく、さらにマトリックス樹脂に対する濡れ性や接着性に優れた炭素繊維となる。
【0038】
かかる炭素繊維を含む本発明の炭素繊維シート状物は、サイズ剤で処理された上記炭素繊維を用いたことを特徴とするものであり、織布、一方向配列シート、不織布、マット等、又はこれらを組み合わせたものであってよい。
織布において織り組織は、特に限定はされず、平織り、綾織り、朱子織りなどの外、これらの組織を変化させたものであってもよい。また、緯糸、経糸ともに上記炭素繊維からなっていてもよく、また他の炭素繊維あるいは炭素繊維以外の繊維との混織であってもよい。炭素繊維以外の繊維としては、硝子繊維、チラノ繊維、SiC繊維などの無機繊維、アラミド、ポリエステル、PP、ナイロン、ポリイミド、ビニロンなどの有機繊維などを用いることができる。
【0039】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物は、サイズ剤液で処理された上記炭素繊維を用いたことを特徴とするものである。この場合、上記炭素繊維は、マトリックス樹脂と複合化され、一方向プリプレグ、クロスプリプレグ、トウプレグ、短繊維強化樹脂含浸シート、短繊維マット強化樹脂含浸シートなどを形成する炭素繊維強化樹脂組成物を構成する。
【0040】
ここで使用されるマトリックス樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ラジカル重合系樹脂であるアクリル樹脂、ビニルポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが使用される。また、熱可塑性アクリル樹脂などであってもよい。さらに、一般に用いられているエポキシ樹脂などであってもよい。
【0041】
このような炭素繊維強化樹脂組成物を製造するには、一般に、通常行われている方法を採用することができ、例えば、ホットメルト法、溶剤法、シラップ法、又はシートモールドコンパウンド(SMC)などに用いられる増粘樹脂法などの方法を挙げることができる。製造に際しては、上記サイズ剤液で処理された炭素繊維を用い、これを上記マトリックス樹脂で含浸する。
【0042】
このような炭素繊維強化樹脂組成物においては、前記サイズ剤で処理された炭素繊維を用いているため、マトリックス樹脂として、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などのラジカル重合系樹脂などを使用することができ、また上記サイズ剤の主要成分であるエステル化合物は炭素繊維及びマトリックス樹脂と強靭に接着することから、炭素繊維とマトリックス樹脂の界面接着力が強く、良好な力学的特性を示すものとすることができる。
【0043】
【実施例】
以下本発明の炭素繊維用サイズ剤、炭素繊維のサイジング方法、サイジング処理された炭素繊維、この炭素繊維によるシート状物、及びサイジング処理された炭素繊維又はこの炭素繊維によるシート状物を強化材とする繊維強化複合材料についてのより具体的な構成を、実施例に基づいて説明する。
【0044】
また、積層板の機械的特性の評価法である0°および90°曲げ試験をASTM−D−790に、また層間せん断試験をASTM−D−2344に準拠して実施した。
実施例1
サイズ剤の調製
ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物と無水マレイン酸を反応させて、酸価55のエステル化合物(A1)を得た。また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP828、油化シェル製)とメタクリル酸を反応させて、EP828/EP828片末端メタクリル変性エポキシ樹脂(ハーフエステル)/EP828両末端メタクリル変性エポキシ樹脂(ジエステル)の混合比1/2/1の混合物(B1)を得た。
【0045】
上記エステル化合物(A1)/上記混合物(B1)/イソステアリルエチレンオキサイド6モル付加エーテル/プルロニックタイプのノニオン系界面活性剤F88(旭電化製)=55/20/5/20の質量比率で混合し、転相乳化により水への乳化を実施し、乳化剤を含めて2.5質量%のサイズ剤水分散液を調製した。次いで、サイジング未処理の炭素繊維束TR50SX(三菱レイヨン製パイロフィル、フィラメント数12000本、ストランド強度5,000MPa、ストランド弾性率242GPa)を、上記の水分散液中にローラー浸漬した後、更に熱風乾燥してからボビンに巻き取ることにより、炭素繊維に対するサイズ剤の付着量1.1質量%のサイジング処理された炭素繊維束のボビン巻きを得た。
【0046】
次いで、離型紙上にBステージ化したエポキシ樹脂(三菱レイヨン製#350)を塗布してあるホットメルトシートの上に、上記のボビンから巻き出した炭素繊維束の63本を並列に引き揃えて配置してエポキシ樹脂を含浸させるとともに、その上に保護フィルムを積層することにより、樹脂含有量約30重量%、炭素繊維目付100g/m2 、幅500mmの一方向引揃え(UD)プリプレグを作製した。
【0047】
上記のUDプリプレグの製造工程中でのボビンからの炭素繊維束の解舒・巻き出しは非常に安定しており、糸切れや毛羽の発生等は全くなかった。また、各炭素繊維束は、擦過バーを通過して均一に開繊しており、その表面には樹脂の未含浸部に起因する色斑等が無く、非常に平滑な外観のUDプリプレグが得られた。
また、擦過バーに粘着物等の付着は全くなかった。このUDプリプレグから保護フィルムを剥がすと急速に樹脂の吸い込みが生じ、これによって炭素繊維の優れた樹脂含浸性を確認することができた。
【0048】
更に、このUDプリプレグを使用して厚み2mmのUD積層板を成形した後、この積層板を試験に付したところ、142MPaの90°曲げ強度及び92MPaの層間せん断強度が得られ、優れた機械特性を具備していることが確認された。
実施例2
実施例1の手法を繰り返して、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物と無水マレイン酸とのエステル化合物(A1)とEP828/EP828片末端メタクリル変性エポキシ樹脂(ハーフエステル)/EP828両末端メタクリル変性エポキシ樹脂(ジエステル)の混合比1/2/1の混合物(B1)を得た。次に、上記エステル化合物(A1)/上記混合物(B1)/イソステアリルエチレンオキサイド6モル付加エーテル/アニオン系乳化剤(三井サイティク製、NPES3030P)=55/25/5/15の質量比率で混合し、乳化剤を含めて2.0質量%のサイズ剤水分散液を調製した。
【0049】
実施例1で使用したものと同じサイジング未処理炭素繊維束を、上記のサイズ剤水分散液中にローラー浸漬した後、更に熱風乾燥してからボビンに巻き取ることにより、炭素繊維に対するサイズ剤の付着量1.1質量%のサイジング処理された炭素繊維束のボビン巻きを得た。
次いで、離型紙上にBステージ化したエポキシ樹脂(三菱レイヨン製#350)を塗布してあるホットメルトシートの上に、上記のボビンから巻き出した炭素繊維束の63本を並列に配置してエポキシ樹脂を含浸させるとともに、その上に保護フィルムを積層することにより、樹脂含有量約30重量%、炭素繊維目付100g/m2 、幅500mmのUDプリプレグを作製した。
【0050】
上記のUDプリプレグの製造工程中でのボビンからの炭素繊維束の巻き出しは非常に安定しており、糸切れや毛羽の発生等は全くなかった。また、各炭素繊維束は、擦過バーを通過して均一に開繊しており、その表面には樹脂の未含浸部に起因する色斑等が無く、非常にフラットな外観のUDプリプレグが得られた。また、擦過バーに粘着物等の付着は全くなかった。このUDプリプレグから保護フィルムを剥がすと急速に樹脂の吸い込みが生じ、これによって炭素繊維の優れた樹脂含浸性を確認することができた。
【0051】
更に、このUDプリプレグを使用して厚み2mmのUD積層板を成形した後、この積層板を試験に付したところ、138MPaの90°曲げ強度及び94MPaの層間せん断強度が得られ、優れた機械特性を具備していることが確認された。
実施例3
実施例1の手法を繰り返して、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物と無水マレイン酸とのエステル化合物(A1)を得た。次に、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド2モル付加グリシジルエーテルタイプのエポキシ樹脂とメタクリル酸を反応させて、前記エポキシ樹脂/片末端メタクリル変性エポキシ樹脂(ハーフエステル)/両末端メタクリル変性エポキシ樹脂(ジエステル)の混合比1/2/1の混合物(B2)を得た。次に、上記エステル化合物(A1)/上記混合物(B2)/イソステアリルエチレンオキサイド6モル付加エーテル/プルロニックタイプのノニオン系界面活性剤F88=57/20/3/20の質量比率で混合し、乳化剤を含めて1.9質量%のサイズ剤水分散液を調製した。
【0052】
実施例1で使用したものと同じサイジング未処理炭素繊維束を、上記のサイジング剤水分散液中にローラー浸漬した後、更に熱風乾燥してからボビンに巻き取ることにより、炭素繊維に対するサイズ剤の付着量1.0質量%のサイジング処理された炭素繊維束のボビン巻きを得た。
次いで、実施例1と同様にして、エポキシ樹脂(三菱レイヨン製#350)を含浸させ、樹脂含有量約30重量%、炭素繊維目付100g/m2 、幅500mmのUDプリプレグを作製した。
【0053】
上記のUDプリプレグの製造工程中でのボビンからの炭素繊維束の巻き出しは非常に安定しており、糸切れや毛羽の発生等は全くなかった。また、各炭素繊維束は、擦過バーを通過して均一に開繊しており、その表面には樹脂の未含浸部に起因する色斑等が無く、非常にフラットな外観のUDプリプレグが得られた。また、擦過バーに粘着物等の付着は全くなかった。このUDプリプレグから保護フィルムを剥がすと急速に樹脂の吸い込みが生じ、これによって炭素繊維の優れた樹脂含浸性を確認することができた。
【0054】
更に、このUDプリプレグを使用して厚み2mmのUD積層板を成形した後、この積層板を90°曲げ試験に付したところ、135MPaの強度及びILSSでの91MPaの強度が得られ、優れた機械特性を具備していることが確認された。
実施例4
実施例1と同様にして、エステル化合物(A1)と混合物(B1)を得た。次に、プルロニックタイプのノニオン系界面活性剤F88を乳化剤として用いて、上記エステル化合物(A1)/上記混合物(B1)/ジイソステアレートポリオキシエチレン(CDIS−400、日本サーファクタント工業製)/F88=55/20/5/20の質量比率で混合し、乳化剤を含めて2.8質量%のサイズ剤水分散液を調整した。
【0055】
実施例1と同様にして、サイジング未処理のフィラメント数3,000本の炭素繊維束TR30SX(三菱レイヨン製、パイロフィル、ストランド強度4300MPa、ストランド弾性率240GPa)を、上記のサイズ水分散液中にローラー浸漬した後、更に熱風乾燥してからボビンに巻き取ることにより、炭素繊維に対するサイジング剤の付着量1.3質量%のサイジング処理された炭素繊維束のボビン巻きを得た。
【0056】
次いで、上記の炭素繊維束を使用した緯糸12.5本/インチと経糸12.5本/インチとによる炭素繊維目付200g/m2 の平織りクロスを、20mm/分の速度で織成したところ、この製織工程中においてはボビンからの炭素繊維束の解舒・巻き出し及び他の擦過部での糸切れや毛羽の発生が認められなかった。
次に、メタクリルシラップ(メチルアクリレートプレポリマー液)を含浸させて、繊維体積含有率VF 44%のシート状コンポジット材料を作製し、これらを8枚重ね、加熱、加圧して積層板を作製し、これを試験体とした。
【0057】
この試験体に対して、0°曲げ試験、断面の観察、さらに破断断面の走査型電子顕微鏡による観察(以下「SEM観察」と略記する)を行った。その結果、0°曲げ強度は810MPaであり、曲げ弾性率は46GPaであった。また、断面には、ボイド、未含浸部は全く確認されなかった。さらに、SEM観察から、樹脂の凝集破壊様式が確認された。
【0058】
実施例5
実施例4と同様な平織りクロスを用い、実施例1と同様にして得たエポキシ樹脂フィルム(三菱レイヨン製#350)上にこの平織りクロスを重ね、加圧、加熱して樹脂を含浸させ、樹脂含有量約40重量%、幅1000mmのクロスプリプレグを作製した。
【0059】
このクロスプリプレグから保護フィルムを剥がすと急速に樹脂の吸い込みが生じ、これによって炭素繊維の優れた樹脂含浸性を確認することができた。
更に、このクロスプリプレグを使用して厚み2mmのクロス積層板を成形した後、この積層板を0°曲げ試験に付したところ、950MPaの強度、54GPaの弾性率が得られ、優れた機械特性を具備することが確認された。
【0060】
実施例6
実施例4と同様な平織りクロスを10枚積層して型にセットした。次に、ビニルエステル樹脂(ネオポール8260、日本ユピカ製)に過酸化物系重合開始剤(パーメックN、日本油脂製)1部、ナフテン酸コバルト0.5部添加して、レジントランスファーモールディング成形(RTM)法により室温にて含浸させ、続いて60℃で2時間、そして120℃で2時間で加熱硬化させて、積層板を作製した。
【0061】
室温でのRTMによる樹脂含浸の観察から、クロス層間での樹脂流は生じず、均一に含浸する様子が観察され、これによって炭素繊維の優れた樹脂含浸性を確認することができた。
更に、このクロスプリプレグを使用して厚み2mmのクロス積層板を成形した後、この積層板を0°曲げ試験に付したところ、820MPaの強度、42GPaの弾性率が得られ、優れた機械特性を具備することが確認された。
【0062】
比較例1(エステル化合物(2)を含まない例)
実施例1の手法を繰り返して、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物と無水マレイン酸とのエステル化合物(A1)を得た。次に、このエステル化合物(A1)/ビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP828)/ノニオン系界面活性剤(F88)=45/35/20の質量比率で混合し、乳化剤を含めて1.9質量%のサイズ剤水分散液を調製した。
【0063】
サイズ剤組成が異なる以外は実施例4と同様にして調製したサイズ剤水分散液で処理し、フィラメント数3,000本の炭素繊維束を得たのち、200g/m2 目付けの平織りクロスを作製した。このクロスにアクリルシラップを含浸させ、繊維体積含有率VF 47%のシート状コンポジット材料を作製し、これらを8枚重ね、加熱、加圧して積層板を作製し、これを試験体とした。この試験体に対して、0°曲げ試験、断面の観察、さらに破断断面のSEM観察を行った。その結果、0°曲げ強度は550MPaであり、曲げ弾性率は46GPaであった。また、断面には、少量のボイド、未含浸部が確認された。さらに、SEM観察から、炭素繊維と樹脂との界面の剥離があきらかに確認された。
【0064】
比較例2(平滑剤を含まない例)
実施例1の手法を繰り返して、ビスフェノールAのエチレンオキサイド6モル付加物と無水マレイン酸とのエステル化合物を得た。次に、実施例1と同様に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP828 油化シェル製)とメタクリル酸を反応させて、混合物(B1)を得た。続いて、実施例1と同様にして、サイズ剤水分散液を調製した。
【0065】
このサイズ剤で処理された炭素繊維を用いて、実施例1と同様にして#350をマトリックスとしたUDプリプレグを作製した。UDプリプレグの製造工程中でのボビンからの炭素繊維束の解舒・巻き出しは非常に安定しており、糸切れや毛羽の発生等は全くなかった。また、各炭素繊維束は、擦過バーを通過して均一に開繊しており、その表面には樹脂の未含浸部に起因する色斑等が無く、非常にフラットな外観のUDプリプレグが得られた。しかしながら、このUDプリプレグから保護フィルムを剥がしたところ、樹脂の吸い込み速度が遅く、このことは炭素繊維の樹脂含浸性が十分でないことを示していた。
【0066】
比較例3(エステル化合物(1)を含まない例)
実施例1の手法を用いて、ビスフェノールAのエチレンオキサイド25モルとフタル酸のエステル化合物(酸価20)を得た。次に、実施例1と同様にして、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP828、油化シェル製)とメタクリル酸を反応させ混合物(B1)を得た。続いて、実施例1と同様にして、サイズ剤水分散液を調製した。
【0067】
このサイズ剤で0.8重量%付着処理された炭素繊維を用いて、実施例1と同様にして#350をマトリックスとしたUDプリプレグを作製した。UDプリプレグの製造工程中でのボビンからの炭素繊維束の巻き出しは安定しており、糸切れや毛羽の発生等はなかった。又各炭素繊維束は、擦過バーを通過して均一に開繊しており、その表面には樹脂の未含浸部に起因する色斑等が無く、非常にフラットな外観のUDプリプレグが得られた。しかしながら、このUDプリプレグから保護フィルムを剥がしたところ、樹脂の吸い込み速度が遅く、このことは炭素繊維の樹脂含浸性が十分でないことを示していた。
【0068】
比較例4(エステル化合物(2)を含まない例)
実施例1の手法を用いて、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モルと無水マレイン酸のエステル化合物(A1)を得た。次に、ビスフェノールAのエチレンオキサイド6モル付加グリシジルエーテルタイプのエポキシ樹脂とメタクリル酸を反応させ、両末端メタクリル変性エポキシ樹脂(ジエステル)を得た。
【0069】
次に、エステル化合物(A1)/前記化合物/F88=30/50/20の質量比率で混合しとして、乳化剤を含めて2.0質量%のサイジング剤水分散液を調整した。このサイズ剤を1.1重量%付着処理された炭素繊維を用いて、実施例1と同様にして#350をマトリックスとしたUDプリプレグを作製した。UDプリプレグの製造工程中でのボビンからの炭素繊維束の解舒・巻き出しは非常に安定しており、糸切れや毛羽の発生等は全くなかった。又各炭素繊維束は、擦過バーを通過して均一に開繊しており、その表面には樹脂の未含浸部に起因する色斑等が無く、非常にフラットな外観のUDプリプレグが得られた。しかしながら、このUDプリプレグから保護フィルムを剥がしたところ、樹脂の吸い込み速度が遅く、このことは炭素繊維の樹脂含浸性が十分でないことを示していた。
【0070】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の炭素繊維用サイズ剤は、酸価50以上の特殊なエステルと末端にエポキシ基と不飽和基をそれぞれ有するハーフエステルとを必須成分として含んでおり、エポキシ樹脂だけでなく、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などのラジカル重合系樹脂などのマトリックス樹脂に対しても優れた親和性を有し、このサイズ剤で処理された炭素繊維と前記マトリックス樹脂の濡れ性を向上させることができる。
【0071】
また、本発明のサイズ剤液は、前記炭素繊維用サイズ剤を界面活性剤を使用して水に溶解あるいは分散させてなるものであるので、炭素繊維用サイズ剤の効果を付与する処理に際して、工業的にもまた安全性の面からも優れたものとすることができ、また良好な溶液安定性を有する取扱いのしやすいものとすることができる。
【0072】
さらに、本発明の炭素繊維は、上記サイズ剤液を使用して炭素繊維の表面を処理し、前記炭素繊維用サイズ剤を付着させたものであるので、上記炭素繊維用サイズ剤の効果が付与されているため、その効果によって、機械的摩擦などによる毛羽などが発生しにくく、さらにマトリックス樹脂に対する濡れ性や接着性に優れたものとすることができる。
【0073】
さらに、本発明の炭素繊維強化樹脂組成物は、それに使用する炭素繊維を、本発明の炭素繊維用サイズ剤または炭素繊維用サイズ剤を水に分散させてなるサイズ剤液を用いて処理したものとしているので、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面に強い接着力を得ることができることから、優れた力学的特性を有するものとすることができる。
Claims (9)
- (1)エチレンオキシド又はプロピレンオキシドを2〜4モル付加したものであるビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物(A)と不飽和二塩基酸とのエステルであって、その酸価が50以上であるエステル化合物、
(2)ビスフェノール類のジエポキシ化合物及びビスフェノール類のアルキレンオキシド付加ジエポキシ化合物(B)のいずれか一方又は両方と不飽和一塩基酸とのエステルであって、分子の主鎖の片方の端部に不飽和基を有し、他方の端部にエポキシ基をそれぞれ有するエステル化合物、及び
(3)高級脂肪族系エーテル型ポリオキシエチレン付加物、高級脂肪酸ポリオキシエチレン付加物、多価アルコールの高級脂肪酸エステル類及び多価アルコールの高級脂肪酸エステル類のポリオキシエチレン付加物からなる群から選ばれ、かつ、室温で液状の化合物である平滑剤
を必須成分として含む炭素繊維用サイズ剤。 - 不飽和二塩基酸が炭素数4〜6の脂肪族系化合物である、請求項1記載の炭素繊維用サイズ剤。
- ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加ジエポキシ化合物(B)が、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドを2〜4モル付加したものである、請求項1又は2記載の炭素繊維用サイズ剤。
- エステル化合物(1)及び(2)をサイズ剤を構成する全成分の重量に対して51重量%以上の量で含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維用サイズ剤。
- サイズ剤を構成する成分が乳化剤を含む全成分の重量に対して5〜30重量%の乳化剤により水中に分散されている、請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維用サイズ剤。
- 請求項1〜5のいずれかに記載した炭素繊維用サイズ剤を含む水分散液により炭素繊維を処理することを含む炭素繊維のサイジング方法。
- 請求項1〜5のいずれかに記載した炭素繊維用サイズ剤で処理され、炭素繊維用サイズ剤が炭素繊維の表面に付着されている、サイジング処理された炭素繊維。
- 炭素繊維用サイズ剤の付着量が炭素繊維重量に対して0.1〜5重量%の範囲である、請求項7に記載のサイジング処理された炭素繊維。
- 請求項7又は8に記載の炭素繊維又は前記炭素繊維を含むシート状物を強化材として含む繊維強化複合材料。
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