JP4551870B2 - 酢酸菌の増殖促進機能に関与する遺伝子及びその使用 - Google Patents
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Description
酢酸発酵では、培地中のエタノールが酢酸によって酸化されて酢酸に変換され、その結果、酢酸が培地中に蓄積することになるが、酢酸は酢酸菌にとっても阻害的であり、酢酸の蓄積量が増大して培地中の酢酸濃度が高くなるにつれて酢酸菌の増殖能力や発酵能力は次第に低下する。
特に、発酵を開始してから実際に酢酸菌の増殖が開始し、酢酸の蓄積が確認できるようになるまでの期間、すなわち増殖誘導期と呼ばれる期間は、酢酸濃度が高くなればなるほど長くなる傾向が認められている。
そのため、酢酸発酵においては、より高い酢酸濃度でも増殖誘導期をより短くすることが求められており、その一手段として、発酵液中にPQQ(4,5−ジヒドロ−4,5−ジオキソ−1H−ピロロ[2,3−f]キノリン−2,7,9−トリカルボン酸)を添加して増殖を促進し、いわゆる増殖誘導期を短縮する方法が開示されている(例えば、特開昭61−58584号公報参照)。
しかし、PQQを大量に入手することは難しく、かつ、高価であるため、工業的な規模での実施には経済的ではないと考えられていた。そこで、酢酸菌の高濃度酢酸存在下での増殖(酢酸耐性)を促進して、いわゆる増殖誘導期を短縮できる機能を有するタンパク質をコードする遺伝子(増殖促進遺伝子)をクローニングし、その増殖促進遺伝子を用いて酢酸菌を育種、改良する努力がなされてきた。
しかし、これまでに酢酸菌の増殖促進遺伝子は分離されたことがなく、このような実情から,酢酸菌の高濃度酢酸存在下での増殖(酢酸耐性)を実用レベルで促進し,増殖誘導期を短縮する機能を有するタンパク質をコードする新規な増殖促進機能を有する遺伝子の分離、及びこの増殖促進遺伝子を用いてより強い増殖機能を有する酢酸菌を育種することが望まれていた。
本発明者らは、酢酸存在下でも増殖し、発酵することができる酢酸菌には、他の微生物には存在しない特異的な増殖促進機能を有するタンパク質をコードする遺伝子が存在するとの仮説を立て、この遺伝子の単離を試みたところ、かかる新規な遺伝子を単離することに成功した。またこの増殖促進機能を有するタンパク質をコードする遺伝子を利用することによって、微生物の増殖促進機能及び酢酸耐性を向上させることができ、さらには従来得ることのできなかった高濃度の酢酸を含有する新規食酢を効率的に製造することができるという知見を得、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の(1)〜(8)である。
(1)下記の(A)又は(B)に示すタンパク質。
(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列を含み、かつ、増殖促進機能を有するタンパク質
(2)下記の(A)又は(B)に示すタンパク質をコードするDNA。
(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列を含み、かつ、増殖促進機能を有するタンパク質
(3)下記の(A)、(B)又は(C)のDNA。
(A)配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号180〜1376からなる塩基配列を含むDNA
(B)配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号180〜1376からなる塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、増殖促進機能を有するタンパク質をコードするDNA
(C)配列番号1に示された塩基配列のうち、塩基番号180〜1376からなる塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、増殖促進機能を有するタンパク質をコードするDNA
(4)上記(2)又は(3)のDNAを含む組換えベクター。
(5)上記(4)の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
(6)上記(2)又は(3)のDNAからのコピー数が細胞内において増幅されていることを特徴とする増殖促進機能が増強された微生物。
上記微生物としては、例えばアセトバクター属又はグルコンアセトバクター属に属する酢酸菌が挙げられる。
(7)上記(6)の微生物をアルコールを含有する培地で培養し、該培地中に酢酸を生成蓄積せしめることを特徴とする食酢の製造方法。
(8)上記(7)の食酢製造法により得られる、酢酸を高濃度に含む食酢。
図2は、グルコンアセトバクター・エンタニイ由来の増殖促進機能を有する遺伝子のコピー数を増幅した形質転換株の酢酸含有培地での培養経過を示す図である。
図3は、グルコンアセトバクター・エンタニイ由来の増殖促進機能に関与する遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)を示す図である。
図4は、pGI18の構築図及び制限酵素地図を示した図である。
1.増殖促進機能を有するタンパク質をコードする遺伝子の単離
本発明者らは、酢酸菌から増殖促進機能を有する遺伝子を単離する方法を開発し、そのような機能を有する遺伝子の単離を試みた。この単離方法においては、酢酸菌の染色体DNAライブラリーを構築し、この染色体DNAライブラリーを用いて酢酸菌を形質転換し、通常寒天培地上で1%の酢酸の存在下で増殖に4日を必要とする該酢酸菌を、同培地上で3日で増殖可能である酢酸菌株をスクリーニングすることによって、酢酸菌から増殖促進機能を有する遺伝子を単離する。
この方法を、実際に食酢製造に用いられているグルコンアセトバクター属の酢酸菌に適用したところ、実用レベルで高濃度酢酸存在下での増殖機能(酢酸耐性)を向上させて増殖誘導期を短縮させる増殖促進機能を向上させうる新規な増殖促進機能を有する遺伝子をクローニングすることに初めて成功した。
得られた酢酸耐性遺伝子は、DDBJ/EMBL/Genbank及びSWISS−PROT/PIRにおいてホモロジー検索した結果、大腸菌(Escherichia coli)で見出されているompA遺伝子やカウロバクター・クレセンタス(Caulobacter crescentus)のompA遺伝子などによって生産される一群のタンパク質とある程度の相同性を有しており、酢酸菌のompA遺伝子であると推定された。
また、大腸菌のompA遺伝子とはアミノ酸配列レベルで36%の、またカウロバクター・クレセンタス(Caulobacter crescentus)のompA遺伝子とはアミノ酸配列レベルで30%の相同性であり、その相同性の程度は極めて低いものであったことから、他の微生物のompA遺伝子とはある程度は似ているものの、酢酸菌に特異的な新規タンパク質(以下、タンパク質OMPAともいう)をコードする新規遺伝子(以下、ompA遺伝子ともいう)であることが確認された。
本発明において、ompA遺伝子をプラスミドベクターに連結して酢酸菌に形質転換して作製した、コピー数を増幅させた形質転換株において、顕著に酢酸耐性が向上した(実施例3参照)。さらに、この形質転換体をエタノール存在下で通気培養した場合には、その酢酸発酵能、特に増殖促進機能が著しく向上し、高濃度酢酸存在下での増殖促進(酢酸耐性)が向上して、誘導期の短縮や増殖速度の向上、増殖可能な酢酸濃度の向上などが確認された(実施例2〜4参照)。従って、ompA遺伝子が確かに増殖促進機能を有するタンパク質を有するタンパク質をコードし、該タンパク質の機能を発揮するように発現していることが確認できた。以上から、本発明者は、このompA遺伝子のコピー数を増幅させた微生物を用いることにより、高酢酸濃度の食酢を効率的に製造できると考えた。
2.本発明のDNA及びタンパク質
本発明のDNAは、酢酸菌に由来するompA遺伝子及び該遺伝子の調節配列をコードするものであり、また酢酸耐性を向上させる機能及び増殖促進機能を有するタンパク質をコードしていると推定される(配列番号2)。
本発明のDNAは、グルコンアセトバクター・エンタニイ(Gluconacetobacter entanii)の染色体DNAから次のようにして取得することができる。
まず、グルコンアセトバクター・エンタニイ、例えばアセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24(Acetobacter altoacetigenes MH−24)株(独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に1984年2月23日付(原寄託)で受託番号FERM BP−491として寄託されている)の染色体DNAライブラリーを調製する。なお、染色体DNAは、常法(例えば、特開昭60−9489号公報参照)により取得することができる。
次に、ompA遺伝子を単離するために、上述のように得られた染色体DNAから染色体DNAライブラリーを作製する。まず、染色体DNAを適当な制限酵素で部分分解して種々の断片混合物を得る。切断反応時間などを調節して切断の程度を調節すれば、幅広い種類の制限酵素が使用できる。例えば、Sau3AIを温度30℃以上、好ましくは37℃、酵素濃度1〜10ユニット/mlで様々な時間(1分〜2時間)、染色体DNAに作用させてこれを消化する。
次いで、切断された染色体DNA断片を、酢酸菌内で自律複製可能なベクターDNAに連結し、組換えベクターを作製する。具体的には、染色体DNAの切断に用いた制限酵素Sau3AIと相補的な末端塩基配列を生じさせる制限酵素(例えばBamHI)を温度30℃、酵素濃度1〜100ユニット/mlの条件下で、1時間以上ベクターDNAに作用させてこれを完全消化し、切断開裂する。
次に、上記のようにして得た染色体DNA断片混合物と切断開裂されたベクターDNAを混合し、これにT4DNAリガーゼを温度4〜16℃、酵素濃度1〜100ユニット/mlの条件下で,1時間以上、好ましくは6〜24時間作用させて組換えベクターを得る。
染色体DNAから染色体DNAライブラリーを作製する方法は当技術分野で公知であり(例えばショットガン法)、上述した方法に限定されるものではない。
得られた組換えベクターを用いて、通常は寒天培地上で1%濃度の酢酸の存在下では増殖に4日を必要とする酢酸菌、例えばアセトバクター・アセチNo.1023株(Acetobacter aceti No.1023)株(独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に1983年6月27日付(原寄託)で受託番号FERM BP−2287として寄託されている)を形質転換し、その後1%酢酸含有寒天培地に塗布し、3日間培養する。生じたコロニーを液体培地に摂取して培養し、得られる菌体からプラスミドを回収することでompA遺伝子を含むDNA断片を得ることができる。
本発明のDNAとして、具体的には、配列番号1に示す塩基配列を有するDNAが挙げられ、その内、塩基番号180〜1376からなる塩基配列はコード領域であり、配列番号2に示すタンパク質をコードするものである。
配列番号1に示す塩基配列及び配列番号2に示すアミノ酸配列(図3:配列番号1の塩基番号180〜1376に対応)は、DDBJ/EMBL/GenBank及びSWISS−PROT/PIRにおいてホモロジー検索したところ、大腸菌(Escherichia coli)のompA遺伝子とはアミノ酸配列レベルで36%の、またカウロバクター・クレセンタス(Caulobacter crescentus)のompA遺伝子とはアミノ酸配列レベルで30%の相同性を示し、タンパク質OMPAをコードする遺伝子であることが推定されたが、いずれも40%以下の低い相同性であり、これらの遺伝子とは異なる新規なものであることが明白であった。
本発明のDNAは、該DNAがコードするompA遺伝子の塩基配列が明らかとなったので、例えば、鋳型として酢酸菌グルコンアセトバクター・エンタニイのゲノムDNAを用い、該塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプライマーに用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR反応)によって、又は該塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーションによっても得ることができる。そのようなプライマー又はプローブとしての機能を有する、ompA遺伝子の一部の配列から作製されたDNAもまた本発明のDNAに含まれる。具体的には、限定されるものではないが、配列番号3及び4に示す配列からなるDNAは、本発明においてプライマーとして使用することができる。ここで「プライマー又はプローブとしての機能を有する」とは、プライマー又はプローブとして使用することが可能な塩基配列の長さ、塩基配列の塩基組成などを有することを意味し,このようなプライマー又はプローブとして機能するDNAの設計は当業者には周知である。
DNA(オリゴヌクレオチド)の合成は、例えば、市販されている種々のDNA合成機を用いて定法に従って合成できる。また、PCR反応は、アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems)製のサーマルサイクラーGene Amp PCR System 9700を用い、TaqDNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)やKOD−Plus−(東洋紡績社製)などを使用して、定法に従って行なうことができる。
また、本発明のOMPAタンパク質は、上記DNAによりコードされるものであり、具体的には配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むものである。配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質が、増殖促進機能を有する限り、当該アミノ酸配列において複数個、好ましくは1若しくは数個のアミノ酸に置換、欠失、挿入、付加、逆位等の変異が生じてもよい。
例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列の1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失してもよく、配列番号2に示されるアミノ酸配列に1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が付加してもよく、あるいは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したものも、本発明のタンパク質に含まれる。上記のような変異アミノ酸配列を含む増殖促進機能を有するタンパク質をコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加し、あるいは逆位として塩基配列を改変することによっても取得することがてきる。また、上記のような改変されたDNAは、公知の突然変異処理によっても取得することができる。
また、部位特異的突然変異誘発法等によって本発明のDNAの変異型であって、増殖促進機能を有するタンパク質をコードするものを合成することもできる。なお、DNA、すなわち遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えば、Mutan−K(タカラバイオ社製)やMutan−G(タカラバイオ社製))などを用いて変異の導入が行われる。また、エラー導入PCRやDNAシャッフリング等の手法により、遺伝子の変異導入やキメラ遺伝子を構築することもできる。エラー導入PCR及びDNAシャッフリング手法は、当技術分野で公知の手法であり、例えばエラー導入PCRについてはChen K,and Arnold FH.1993,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,90:5618−5622を、またDNAシャッフリングについてはStemmer W.P.1994,Nature,370:389−391及びStemmer W.P.,1994,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91:10747−10751を参照されたい。
ここで、本発明において「増殖促進機能」とは、酢酸の存在下における微生物の増殖を促進する機能を指し、より具体的には酢酸存在下での増殖速度が速いことや、菌体の生育量が多いこと、また、増殖あるいは酢酸発酵が可能な酢酸濃度の上限が高いことを意味し、酢酸耐性を増強する機能ともいえる。上述のようにして変異を導入した遺伝子が増殖促進機能を有するタンパク質をコードするか否かは、実施例で示されるように酢酸を含有する培地での生育の有無を判別することにより確認することができる。
また、一般的にタンパク質のアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列は、種間、株間、変異体、変種間でわずかに異なることが知られているので、実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、酢酸菌全般、中でもアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の種、株、変異体、変種から得ることが可能である。
具体的には、アセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌、又は変異処理したアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌、これらの自然変異株若しくは変種から、例えば配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基配列番号180〜1376からなる塩基配列と相補的な塩基配列の一部からなるDNA、又は塩基配列番号180〜1376からなるDNAの一部から作製したプローブとなり得る塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、増殖促進機能を有するタンパク質をコードするDNAを単離することによっても、該タンパク質と実質的に同一の、すなわち増殖促進機能を保持するタンパク質をコードするDNAを得ることができる。ここでいうストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高い核酸同士、例えば70%以上の相同性を有する核酸同士がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のハイブリダイゼーションの洗浄条件、例えば1×SSCで0.1%SDSに相当する塩濃度で60℃で洗浄が行われる条件などが挙げられる。
3.本発明の酢酸耐性微生物(増殖促進機能が増強された微生物)
本発明のDNAは、増殖促進機能を有するタンパク質OMPAをコードするため、本発明のDNAを利用して、酢酸存在下における増殖促進機能が増強された、すなわち酢酸耐性が増強された微生物を作製することができる。
微生物における増殖促進機能の増強は、例えば、組換えベクターにompA遺伝子を連結し、該ベクターを用いて微生物を形質転換することによって、該遺伝子の細胞内でのコピー数を増幅すること、又は、該遺伝子の構造遺伝子と微生物中で効率よく機能するプロモーター配列とを連結した組換えベクターを用いて該微生物を形質転換することによって、該遺伝子からのコピー数を増幅して発現を増強することにより行うことができる。
本発明の組換えベクターは、前項「2.本発明のDNA及びタンパク質」に記載したOMPAタンパク質をコードするDNAを適当なベクターに連結することにより得ることができ、形質転換体は、本発明の組換えベクターを用いてompA遺伝子が発現し得るように宿主を形質転換することにより得ることができる。
組換えベクターとしては、宿主で自律的に増殖し得るファージ又はプラスミドを使用することができる。プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322,pBR325,pUC118,pET16b等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13,YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(λgt10,λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルスベクター、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクター、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)などを用いて形質転換体を作製することもできる。
また、マルチコピーベクター又はトランスポゾンなどを用いて目的のDNAを宿主に導入することもでき、本発明においてはそのようなマルチコピーベクター又はトランスポゾンも本発明の組換えベクターに含まれるものとする。マルチコピーベクターとしては、pUF106(例えば、Fujiwara,M.et al.,Cellulose,1989,153−158参照)、pMV24(例えば、Fukaya,M.et al.,Appl.Environ.Microbiol.,1989,55:171−176参照)、pGI18(例えば、特願2003−350265号明細書;実施例3参照)、pTA5001(A)、pTA5001(B)(例えば、特開昭60−9488号公報参照)などが挙げられ、染色体組み込み型ベクターであるpMVL1(例えば、Okumura,H.et al.,Agric.Biol.Chem.,1988,52:3125−3129参照)も挙げられる。また、トランスポゾンとしては、MuやIS1452などが挙げられる。
ベクターに本発明のDNAを挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
本発明のDNAは、そのDNAがコードする遺伝子の機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、本発明の組換えベクターには、プロモーター、本発明のDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを連結することができる。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
また、染色体DNA上のompA遺伝子のプロモーター配列を、アセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌中で効率よく機能する他のプロモーター配列に置き換えるには、相同組換え用のベクターを構築し、該ベクターを用いて微生物の染色体に相同組換えを起こすようにすればよい。そのようなプロモーター配列としては、例えば、大腸菌のプラスミドpBR322(タカラバイオ社製)のアンピシリン耐性遺伝子、プラスミドpHSG298(タカラバイオ社製)のカナマイシン耐性遺伝子、プラスミドpHSG396(タカラバイオ社製)のクロラムフェニコール耐性遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子などの各遺伝子のプロモーターなどの酢酸菌以外の微生物由来のプロモーター配列が挙げられる。相同組換えを行うためのベクターの構築に関しては当業者に周知である。このようにして微生物における内因性ompA遺伝子を強力なプロモーターの制御下に配置することによって、該ompA遺伝子からのコピー数が増幅され、発現が増強される。
形質転換に使用する微生物としては、導入されるDNAを発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌、乳酸菌等)、酵母やアスペルギルス属などの真菌が挙げられる。本発明においては、その増殖促進機能を増強するという目的から、微生物としては酢酸菌を使用することが好ましい。酢酸菌の中でも、アセトバクター属及びグルコンアセトバクター属に属する細菌が好ましい。
アセトバクター属に属する細菌として、例えば、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)が挙げられ、具体的には例えば、アセトバクター・アセチNo.1023株(FERM BP−2287)、アセトバクター・アセチ・サブスピーシーズ・ザイリナムIFO3288(Acetobacter aceti subsp.xylinum IFO3288)株、アセトバクター・アセチIFO3283(Acetobacter aceti IFO3283)株を用いることができる。
また、グルコンアセトバクター属に属する細菌としては、例えば、グルコンアセトバクター・ユウロパエウスDSM6160(Gluconacetobacter europaeus DSM6160)株、グルコンアセトバクター・エンタニイ(Gluconacetobacter entanii)が挙げられ、具体的には例えば、アセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24株(FERM BP−491)を用いることができる。
酢酸菌を含む細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法(例えば、Fukaya,M.et al.,Agric.Biol.Chem.,1985,49:2091−2097参照)、エレクトロポレーション法(例えば、Wong,H.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,1990,87:8130−8134参照)等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)などが用いられる。酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。
形質転換体は、導入する遺伝子内に構成されるマーカー遺伝子の性質を利用して選択される。例えば、ネオマイシン耐性遺伝子を用いた場合には、G418薬剤に抵抗性を示す微生物を選択する。
本発明の好ましい実施形態において、形質転換体は、少なくとも配列番号1に示す塩基配列を有する核酸を含む組換えベクターであって、例えば、酢酸菌−大腸菌シャトルベクター(マルチコピーベクター)pUF106に当該核酸を挿入した組換えベクターpOMPA1を、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)No.1023(FERM BP−2287)株に導入することにより、また、酢酸菌−大腸菌シャトルベクター(マルチコピーベクター)pGI18に当該核酸を挿入した組換えベクターpOMPA2を、アセトバクター・アセチ・サブスピーシズ・ザイリナムIFO3288(Acetobacter aceti subsp.xylinum IFO3288)株に導入することにより、得られる。
アルコール酸化能を有するアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌において、上記のようにしてその増殖促進機能を増強すると、酢酸の生産量や生産効率を増大させることができる。
4.食酢製造法
前項「3.本発明の酢酸耐性微生物」に記載のようにして作製される、増殖促進機能を有する遺伝子のコピー数が増幅されたことにより増殖促進機能が選択的に増強された微生物(酢酸菌)であってアルコール酸化能を有するものは、酢酸存在下においても増殖し、さらに酢酸を生産することが可能であるため、食酢の製造に利用することができる。従って、ompA遺伝子の発現コピー数が増幅された微生物をアルコール含有培地で培養し、該培地中に酢酸を生産蓄積せしめることにより、高濃度の酢酸を含有する食酢を効率よく製造することができる。
本発明の製造法における酢酸発酵は、従来の酢酸菌の発酵法による食酢の製造法と同様にして行なえばよく、特に限定されたものではない。酢酸発酵に使用する培地としては、炭素源、窒素源、無機物、エタノールを含有し、必要があれば使用菌株が生育に要求する栄養源を適当量含有するものであれば、合成培地でも天然培地でも良い。
炭素源としては、グルコースやスクロースをはじめとする各種炭水化物、各種有機酸が挙げられる。窒素源としては、ペプトン、発酵菌体分解物などの天然窒素源を用いることができる。
また、培養は、静置培養法、振とう培養法、通気攪拌培養法等の好気的条件下で行ない、培養温度は通常30℃で行なう。培地のpHは通常2.5〜7の範囲であり、2.7〜6.5の範囲が好ましく、各種酸、各種塩基、緩衝液等によって調製することもできる。通常培養は1〜21日間行う。
ompA遺伝子のコピー数を増幅させた微生物の培養によって、培地中に高濃度の酢酸が蓄積する。また、微生物の増殖速度が向上するため、その酢酸生産速度が向上することになる。
本発明によれば、微生物に対して、増殖促進機能を付与し増強することができる。そして、アルコール酸化能を有する微生物、特に酢酸菌においては、高濃度酢酸存在下での増殖機能(酢酸耐性)が向上し、増殖誘導期が顕著に短縮して、培地中に高濃度の酢酸を効率良く蓄積する能力を付与することができる。このようにして育種された微生物(酢酸菌)は、高濃度酢酸を含有する食酢の製造に有用である。
〔実施例1〕グルコンアセトバクター・エンタニイからの増殖促進機能を有する遺伝子のクローニングと塩基配列及びアミノ酸配列の決定
(1)染色体DNAライブラリーの作製
グルコンアセトバクター・エンタニイ(Gluconacetobacter entanii)の1株であるアセトバクター・アルトアセトゲネスMH−24(Acetobacter altoacetigenes MH−24)株(FERM BP−491)を6%酢酸及び4%エタノールを添加したYPG培地(3%グルコース、0.5%酵母エキス、0.2%ポリペプトン)で30℃にて振とう培養を行なった。培養後、培養液を遠心分離(7,500×g、10分)し、菌体を得た。得られた菌体より、特開昭60−9489号公報に記載の染色体DNA調製法に従って染色体DNAを調製した。
上記のようにして得られた染色体DNAを制限酵素Sau3AI(タカラバイオ社製)で部分消化し、また大腸菌−酢酸菌シャトルベクターpUF106を制限酵素BamHIで完全消化して、切断した。これらのDNAを適量ずつ混合し、ライゲーションキット(TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2、タカラバイオ社製)を用いて連結してグルコンアセトバクター・エンタニイの染色体DNAライブラリーを構築した。
(2)増殖促進機能を有する遺伝子のクローニング
上記のようにして得られたグルコンアセトバクター・エンタニイの染色体DNAライブラリーを、通常は1%酢酸を含有する寒天培地上で増殖に4日間必要であることが知られるアセトバクター・アセチNo.1023株(FERM BP−2287)に形質転換し、1%酢酸、100μg/mlのアンピシリンを含むYPG寒天培地にて、30℃にて3日間培養した。3日で生じたコロニーを100μg/mlのアンピシリン含むYPG培地に接種して培養し、得られた菌体からプラスミドを回収したところ、図1に示した約2.3kbpのSau3AI断片がクローン化されており、このプラスミドをpS10と命名した。
このようにして通常は1%酢酸を含有する寒天培地上で増殖に4日間必要とするアセトバクター・アセチNo.1023株を、1%酢酸含有寒天培地において3日間で増殖を可能にする増殖促進機能を有する遺伝子断片を取得した。
(3)クローン化されたDNA断片の塩基配列の決定
上記のクローン化されたSau3AI断片をpUC19のBamHI部位に挿入し、該断片の塩基配列を、サンガーのダイデオキシ・チェーン・ターミネーション法よって決定した結果、配列番号1に示す塩基配列が決定された。配列決定は両方のDNA鎖の全領域について行ない、切断点は全てオーバーラップする様にして行なった。このようにして得られた遺伝子をompAと命名した。
配列番号1に示す塩基配列中には、塩基番号180から1376にかけて、配列番号2に示す399個のアミノ酸(図3)をコードするオープンリーディング・フレームの存在が確認された。
〔実施例2〕グルコンアセトバクター・エンタニイ由来の増殖促進機能を有する遺伝子で形質転換した形質転換株での誘導期の短縮効果
(1)アセトバクター・アセチへの形質転換
実施例1に従ってクローン化されたアセトバクター・アルトアセトゲネスMH−24株(FERM BP−491)由来のompA遺伝子を、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用いてPCR法により増幅し、増幅したDNA断片を酢酸菌−大腸菌シャトルベクターpUF106(例えば、Fujiwara,M.et al.,CELLULOSE,1989,153−158参照)の制限酵素SmaI切断部位に挿入したプラスミドpOMPA1を作製した。pOMPA1に挿入された増幅断片の概略を図1に示す。図1はSau3AIを用いてクローニングされたグルコンアセトバクター・エンタニイ由来の遺伝子断片(pS10)の制限酵素地図と増殖促進機能を有する遺伝子の位置,及びpOMPA1への挿入断片を示す。
PCR法は具体的には次のようにして実施した。すなわち、鋳型としてアセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24株のゲノムDNAを用い、プライマーとしてプライマー1(5’−GTTTCCCGGAATTCCCGTTTCAGCTCCTTC−3’:配列番号3)及びプライマー2(5’−ATATCTTTCAGGGCATTTGGAGGTATTCCG−3’:配列番号4)を用いて、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を使用し、下記のPCR条件にてPCRを実施した。
すなわち、PCR法は94℃15秒、60℃30秒、及び68℃1分を1サイクルとして、30サイクル実施した。
このpOMPA1をアセトバクター・アセチNo.1023株にエレクトロポレーション法(例えば、Wong,HC.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1990,87:8130−8134参照)によって形質転換した。形質転換株は100μg/mlのアンピシリン及び1%の酢酸を添加したYPG寒天培地で選択した。
選択培地上に3日で生育したアンピシリン耐性の形質転換株について、定法によりプラスミドを抽出して解析し、増殖促進機能を有する遺伝子を保有するプラスミドを保持していることを確認した。
(2)形質転換株の酢酸発酵試験
上記のようにして得られたプラスミドpOMPA1を有するアンピシリン耐性の形質転換株を、シャトルベクターpUF106のみを有する元株アセトバクター・アセチNo.1023株と、その酢酸発酵能について比較した。
具体的には、5Lのミニジャー(三ツワ理化学工業社製;KMJ−5A)を用いて、酢酸1%、エタノール4%及びアンピシリン100μg/mlを含む2.5LのYPG培地にて、30℃、400rpm、0.20vvmの通気攪拌培養を行ない、酢酸濃度3%まで発酵させた。その後、700mLの培養液をミニジャー中に残して培養液を取り出し、残った700mlに対して酢酸、エタノール及びアンピシリン100μg/mlを含む1.8LのYPG培地を添加して、酢酸3%、エタノール4%の濃度に調製し、再び酢酸発酵を開始させ、途中培地中のエタノール濃度が1%を維持するようにエタノールを添加しつつ通気攪拌培養を継続して、形質転換株と元株の酢酸発酵能を比較した。その結果を表1にまとめる。
表1の結果から、形質転換株の方が、比増殖速度が顕著に高くなり、増殖誘導期が顕著に短縮され、効率的に酢酸発酵を行なえることが確認できる。
〔実施例3〕グルコンアセトバクター・エンタニイ由来の増殖促進機能を有する遺伝子で形質転換した形質転換株の酢酸耐性の増強
(1)酢酸菌−大腸菌シャトルベクターpGI18の作製
pGI18は、アセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24(Acetobacter altoacetigenes MH−24)株(FERM BP−491)由来の約3.1kbのプラスミドpGI1とpUC18とから作製した。
すなわち、アセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24(Acetobacter altoacetigenes MH−24)株(FERM BP−491)の培養液より、菌体を集菌し、水酸化ナトリウム又はドデシル硫酸ナトリウムを用いて溶菌後、フェノール処理し、更にエタノールによりプラスミドDNAを精製した。
得られたプラスミドは、HincIIで3ヶ所、また、SfiIで1ヶ所の認識部位を有する環状二本鎖DNAプラスミドであり、プラスミド全体の長さは約3100塩基対(bp)であった。また、EcoRI、SacI、KpnI、SmaI、BamHI、XbaI、SalI、PstI、SphI及びHindIIIの認識部位は有していなかった。このプラスミドをpGI1と命名し、ベクターpGI18の作製に用いた。
上記で得られたプラスミドpGI1を、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用いてPCR法によって増幅し、AatIIで切断した。この断片をpUC18の制限酵素AatII切断部位に挿入し、プラスミドpGI18を作製した(図4)。
PCR法は具体的には次のようにして実施した。即ち、鋳型としてプラスミドpGI1を用い、プライマーとして制限酵素AatII認識部位を有するプライマーA(配列番号6)及びプライマーB(配列番号7)を用い、下記のPCR条件にて、PCRを実施した。
すなわち、PCR法は、94℃ 30秒、60℃ 30秒、及び68℃ 3分を1サイクルとして、30サイクル実施した。
図4に示すように、得られたプラスミドpGI18はpUC18及びpGI1のいずれも含有していて、全体の長さは約5800塩基対(5.8kbp)であった。
このプラスミドpGI18の塩基配列を配列番号5に示す。
(2)アセトバクター・アセチ・サブスピーシズ・ザイリナムへの形質転換
実施例1で取得したアセトバクター・アルトアセトゲネスMH−24(Acetobacter altoacetigenes MH−24)株(FERM BP−491)由来の増殖促進機能を有する遺伝子を、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用いてPCR法により増幅し、増幅したDNA断片を(1)で作製した酢酸菌−大腸菌シャトルベクターpGI18を制限酵素SmaIで切断した後、その部位に、増幅したDNA断片を挿入してプラスミドpOMPA2を作製した。pOMPA2に挿入された増幅断片の概略を図1に示した。図1はSau3AIを用いてクローニングされたグルコンアセトバクター・エンタニ由来の遺伝子断片(pS10)の制限酵素地図と増殖促進機能を有する遺伝子の位置、及びpOMPA2への挿入断片を示す。
PCR法は具体的には次のようにして実施した。すなわち、鋳型としてアセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24株のゲノムDNAを用い、プライマーとしてプライマー1(5’−GTTTCCCGGAATTCCCGTTTCAGCTCCTTC−3’:配列番号3)及びプライマー2(5’−ATATCTTTCAGGGCATTTGGAGGTATTCCG−3’:配列番号4)を用いて、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を使用し、下記のPCR条件にてPCRを実施した。
すなわち、PCR法は94℃ 15秒、60℃ 30秒、及び68℃ 1分を1サイクルとして、30サイクル実施した。
このpOMPA2をアセトバクター・アセチ・サブスピーシズ・ザイリナム(Acetobacter aceti subsp.xylinum)の1株であるアセトバクター・アセチ・サブスピーシズ・ザイリナムIFO3288(Acetobacter aceti subsp.xylinum IFO3288)株にエレクトロポレーション法(例えば、Wong,HC.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1990,87:8130−8134参照)によって形質転換した。形質転換株は100μg/mlのアンピシリン及び1%の酢酸を添加したYPG寒天培地で選択した。
選択培地上で生育したアンピシリン耐性の形質転換株について、定法によりプラスミドを抽出して解析し、酢酸耐性遺伝子を保有するプラスミドを保持していることを確認した。
(3)形質転換株の酢酸耐性
前記(2)で得られたプラスミドpOMPA2を有するアンピシリン耐性の形質転換株について、酢酸を添加したYPG培地での生育を、シャトルベクターpGI18のみを導入した元株アセトバクター・アセチ・サブスピーシズ・ザイリナムIFO3288株と比較した。
具体的には、酢酸3%、アンピシリン100μg/mlを含む100mlのYPG培地にて、30℃で振盪培養(150rpm)を行い、形質転換株と元株の酢酸添加培地での生育を660nmにおける菌休濃度を測定することで比較した。
その結果、図2に示すように、3%の酢酸添加培地において、形質転換株(白丸で示す)は増殖が可能であったのに対して、元株アセトバクター・アセチ・サブスピーシズ・ザイリナムIFO3288株(黒丸で示す)は増殖できないことが確認でき、増殖促進機能を有する遺伝子の酢酸耐性増強機能が確認できた。
〔実施例4〕グルコンアセトバクター・エンタニイ由来の増殖促進機能を有する遺伝子で形質転換した形質転換株の酢酸発酵試験
実施例3で得られたプラスミドpOMPA2を有するアンピシリン耐性の形質転換株について、シャトルベクターpGI18のみを導入した元株アセトバクター・アセチ・サブスピーシズ・ザイリナムIFO3288株と酢酸発酵能を比較した。
具体的には、5リッター容量のミニジャー(三ツワ理化学工業社製;KMJ−5A)に、酢酸濃度1%、アルコール濃度4%のYPG培地を充填し、形質転換株又は元株を0.4%接種し、発酵温度32℃で、500rpm、0.20vvmの通気攪拌培養を開始した。発酵の進行に伴って酢酸濃度が4%に上昇したところで、米糖化液17.9%、酢酸発酵液3.2%、醸造用アルコール7.8%、及び水71.1%の割合で混合して調製した原料培地(アルコール濃度7.8%、酢酸濃度0.26%)の添加を開始し、さらに酢酸濃度が7.2%に上昇するまで発酵した。
そして、酢酸濃度7.2%になったところで、その酢酸濃度を維持できるように原料培地の添加速度を調節しつつ、連続発酵を行なった。
この時の原料培地の添加速度、即ち流量(生産速度に比例する)を形質転換株の場合と元株の場合とで比較し、その結果を表2に示す。
また、形質転換株の流量を元株の酢酸濃度7.2%での連続発酵時の流量とほぼ同等にした場合の酢酸発酵能を比較し、その結果を表3に示す。
表2の結果から、連続酢酸発酵を行った場合においても、形質転換株の方が元株よりも、生産性(原料培地添加速度)が高く優れていることが分かった。
また、表3の結果から、一定の生産性(原料培地添加速度)で連続酢酸発酵を行った場合は、形質転換株の方がより高い酢酸濃度で連続酢酸発酵が可能であり、酢酸耐性が優れていることが分かった。
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許および特許出願は、その全文を参考として本明細書中にとり入れるものとする。
配列フリーテキスト
配列番号3、4、6及び7:合成オリゴヌクレオチド
Claims (8)
- 下記の(A)又は(B)に示すタンパク質。
(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列を含み、かつ、増殖促進機能を有するタンパク質 - 下記の(A)又は(B)のタンパク質をコードするDNA。
(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列を含み、かつ、増殖促進機能を有するタンパク質 - 下記の(A)又は(B)のDNA。
(A)配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号180〜1376からなる塩基配列を含むDNA
(B)配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号180〜1376からなる塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、増殖促進機能を有するタンパク質をコードするDNA - 請求項2又は3に記載のDNAを含む組換えベクター。
- 請求項4に記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
- 請求項2又は3に記載のDNAからのコピー数が細胞内において増幅されていることを特徴とする増殖促進機能が増強された微生物。
- 微生物がアセトバクター属又はグルコンアセトバクター属に属する酢酸菌である請求項6に記載の微生物。
- 請求項6又は7に記載の微生物をアルコールを含有する培地で培養し、該培地中に酢酸を生成蓄積せしめることを特徴とする食酢の製造方法。
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