本発明のタンパク質としては、配列表の配列番号2,6,10,14,18,22,又は26に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質や、配列表の配列番号2,6,10,14,18,22,又は26に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、酢酸存在下での増殖促進機能を有するタンパク質や、配列表の配列番号2,6,10,14,18,22,又は26に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ酢酸存在下での増殖促進機能を有するタンパク質であれば特に制限されず、本発明において、「酢酸存在下での増殖促進機能を有するタンパク質」とは、当該タンパク質をコードするDNAをアセトバクター・アセチNo.1023株にエレクトロポレーション法によって形質転換した形質転換株を、エタノール3%と酢酸3%とを含有する100mlのYPG培地に接種し、30℃で振とう培養(150rpm)を5日間行ない、形質転換株が生育した酢酸添加YPG培地の660nmにおける吸光度を測定した値が、未形質転換の元株(親株)の場合と比較して、2倍以上の値を示す当該タンパク質をいう。
また、本発明のDNAとしては、配列表の配列番号2,6,10,14,18,22,又は26に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAや、配列表の配列番号2,6,10,14,18,22,又は26に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、酢酸存在下での増殖促進機能を有するタンパク質をコードするDNAや、配列表の配列番号2,6,10,14,18,22,又は26に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ酢酸存在下での増殖促進機能を有するタンパク質をコードするDNAや、配列表の配列番号1(塩基番号213〜764),5(塩基番号231〜836),9(塩基番号201〜578),13(塩基番号240〜731),17(塩基番号201〜761),21(塩基番号193〜642),又は25(塩基番号228〜773)の塩基配列からなるDNAや、配列表の配列番号1(塩基番号213〜764),5(塩基番号231〜836),9(塩基番号201〜578),13(塩基番号240〜731),17(塩基番号201〜761),21(塩基番号193〜642),又は25(塩基番号228〜773)の塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、酢酸存在下での増殖促進機能を有するタンパク質をコードするDNAや、配列表の配列番号1(塩基番号213〜764),5(塩基番号231〜836),9(塩基番号201〜578),13(塩基番号240〜731),17(塩基番号201〜761),21(塩基番号193〜642),又は25(塩基番号228〜773)の塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、酢酸存在下での増殖促進機能を有するタンパク質をコードするDNAや、配列表の配列番号1(塩基番号213〜764),5(塩基番号231〜836),9(塩基番号201〜578),13(塩基番号240〜731),17(塩基番号201〜761),21(塩基番号193〜642),又は25(塩基番号228〜773)の塩基配列において、1若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、付加又は逆位された塩基配列からなり、かつ酢酸存在下での酢酸存在下での増殖促進機能を有するタンパク質をコードするDNAであれば特に制限されず、例えば、上記の「配列番号1(塩基番号213〜764)」などの表記は、「配列番号1に示される塩基配列のうち塩基番号213〜764」を意味する。
このように、本発明の酢酸存在下での増殖促進機能を有するタンパク質をコードするDNAは、コードされるタンパク質の酢酸耐性を増強する機能が損なわれない限り、1又は複数の位置で1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加された、あるいは逆位とされたタンパク質をコードするものであってもよい。このような酢酸存在下での増殖促進機能を有するタンパク質と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加し、あるいは逆位として塩基配列を改変することによっても取得することができる。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている突然変異処理によっても取得することができる。さらに、一般的にタンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードする塩基配列は、種間、株間、変異体、変種間でわずかに異なることが知られているので、実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、酢酸菌全般、中でもアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の種、株、変異体、変種から得ることが可能である。
上記「1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列を意味する。また、上記「1若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、付加又は逆位された塩基配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数の塩基が置換、欠失、挿入、付加又は逆位された塩基配列を意味する。
例えば、これら1若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、付加又は逆位された塩基配列からなるDNA(変異DNA)は、上記のように、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法により作製することもできる。具体的には、配列表の配列番号1(塩基番号213〜764),5(塩基番号231〜836),9(塩基番号201〜578),13(塩基番号240〜731),17(塩基番号201〜761),21(塩基番号193〜642),又は25(塩基番号228〜773)に示される塩基配列からなるDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的な手法等を用いて、これらDNAに変異を導入することにより、変異DNAを取得することができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラークローニング第2版、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38,John Wiley & Sons (1987-1997)等に記載の方法に準じて行うことができる。この変異DNAを適切な発現系を用いて発現させることにより、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加又は逆位されたアミノ酸配列からなるタンパク質を得ることができる。
上記「配列番号2,6,10,14,18,22,又は26に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列」とは、配列番号2,6,10,14,18,22,又は26に示されるアミノ酸配列との相同性が85%以上であれば特に制限されるものではなく、例えば、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上であることを意味する。
上記「ストリジェントな条件下」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、具体的には、50〜70%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である65℃、1×SSC、0.1%SDS、又は0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件を挙げることができる。また、上記「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA」とは、DNA又はRNAなどの核酸をプローブとして使用し、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味し、具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAまたは該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍程度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAをあげることができる。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989.(以後 "モレキュラークローニング第2版" と略す)等に記載されている方法に準じて行うことができる。
例えば、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げることができ、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAを好適に例示することができる。
本発明のDNAの取得方法や調製方法は特に限定されるものでなく、本明細書中に開示した配列番号1,5,9,13,17,21,又は25に示される塩基配列情報又は配列番号2,6,10,14,18,22,又は26に示されるアミノ酸配列情報に基づいて適当なブローブやプライマーを調製し、それらを用いて当該DNAが存在することが予測されるcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより目的のDNAを単離したり、常法に従って化学合成により調製することができる。
例えば、アセトバクター属やグルコンアセトバクター属に属する酢酸菌より、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、次いで、このライブラリーから、本発明の遺伝子DNAに特有の適当なプローブを用いて所望クローンを選抜することにより、本発明の遺伝子DNAを取得することができる。また、これらの酢酸菌からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニングなどはいずれも常法に従って実施することができる。本発明の遺伝子DNAをcDNAライブラリーからスクリーニングする方法は、例えば、モレキュラークローニング第2版に記載の方法等、当業者により常用される方法を挙げることができる。
具体的には、本発明の配列番号1,5,9,13,17,21,又は25に示される塩基配列からなるDNAは、グルコンアセトバクター・エンタニイ(Gluconacetobacter entanii)の染色体DNAから次のようにして取得することができる。まず、グルコンアセトバクター・エンタニイ、例えばアセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24(Acetobacter altoacetigenes MH-24)株(FERM BP−491)の染色体DNAライブラリーを調製する。なお、染色体DNAは、常法(例えば、特開昭60−9489号公報参照)により取得する。次に得られた染色体DNAから増殖促進機能を有する遺伝子を単離するために、染色体DNAライブラリーを作製する。まず、染色体DNAを適当な制限酵素で部分分解して種々の断片混合物を得る。切断反応時間などを調節して切断の程度を調節すれば、幅広い種類の制限酵素が使用できる。例えば、Sau3AIを温度30℃以上、好ましくは37℃、酵素濃度1〜10ユニット/mlで様々な時間(1分〜2時間)、染色体DNAに作用させてこれを消化する。次いで、切断された染色体DNA断片を、酢酸菌内で自律複製可能なベクターDNAに連結し、組換えベクターを作製する。具体的には、染色体DNAの切断に用いた制限酵素Sau3AIと相補的な末端塩基配列を生じさせる制限酵素、例えばBamHIを温度30℃、酵素濃度1〜100ユニット/mlの条件下で、1時間以上ベクターDNAに作用させてこれを完全消化し、切断開裂する。次に、上記のようにして得た染色体DNA断片混合物と切断開裂されたベクターDNAを混合し、これにT4DNAリガーゼを温度4〜16℃、酵素濃度1〜100ユニット/mlの条件下で1時間以上、好ましくは6〜24時間作用させて組換えベクターを得る。得られた組換えベクターのDNAを、大腸菌JM109コンピテントセルと混合し、0℃下で10分間放置後、42℃で45秒間加温して、細胞内に取り込ませる。これにSOC培地を添加し、1時間振とう培養後、アンピシリン100μg/mlを含むLB寒天平板培地上に広げて、37℃で1晩培養し、この平板培地上で、白色のコロニーを作る菌を形質転換体として選択し、さらに得られた形質転換株の中から、酢酸耐性を有するタンパク質として同定したタンパク質のN末アミノ酸配列から作製した遺伝子をDNAプローブとし、ジゴキシゲニンでラベルしたコロニーハイブリダイゼーションを行ない、ポジティブな形質転換株を得る。
また、上記配列表の配列番号2,6,10,14,18,22,又は26に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、酢酸存在下での増殖促進機能を有するタンパク質をコードするDNAや、配列表の配列番号2,6,10,14,18,22,又は26に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ酢酸存在下での増殖促進機能を有するタンパク質をコードするDNAなどからなる本発明の変異遺伝子又は相同遺伝子としては、配列番号1,5,9,13,17,21,若しくは25に示される塩基配列又はその一部を有するDNA断片を利用し、他の酢酸菌等より、該DNAのホモログを適当な条件下でスクリーニングすることにより単離することができる。その他、前述の変異DNAの作製方法により調製することもできる。
例えば、アセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌、又は変異処理したアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌、これらの自然変異株若しくは変種から、例えば配列表の配列番号1(塩基番号213〜764),5(塩基番号231〜836),9(塩基番号201〜578),13(塩基番号240〜731),17(塩基番号201〜761),21(塩基番号193〜642),又は25(塩基番号228〜773)に示される塩基配列、又はその一部から作製したプローブと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、増殖促進機能を有するタンパク質をコードするDNAを単離することによっても、該タンパク質と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得ることができる。
本発明のタンパク質の取得・調製方法は特に限定されず、天然由来のタンパク質でも、化学合成したタンパク質でも、遺伝子組換え技術により作製した組み換えタンパク質の何れでもよい。天然由来のタンパク質を取得する場合には、かかるタンパク質を発現している微生物細胞からタンパク質の単離・精製方法を適宜組み合わせることにより、本発明のタンパク質を取得することができる。化学合成によりタンパク質を調製する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBOC法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って本発明のタンパク質を合成することができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して本発明のタンパク質を合成することもできる。遺伝子組換え技術によりタンパク質を調製する場合には、該タンパク質をコードする塩基配列からなるDNAを好適な発現系に導入することにより本発明のタンパク質を調製することができる。これらの中でも、比較的容易な操作でかつ大量に調製することが可能な遺伝子組換え技術による調製が好ましい。
例えば、遺伝子組換え技術によって、本発明のタンパク質を調製する場合、かかるタンパク質を細胞培養物から回収し精製するには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法、好ましくは、高速液体クロマトグラフィーが用いられる。特に、アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、本発明のタンパク質に対するモノクローナル抗体等の抗体を結合させたカラムや、上記本発明のタンパク質に通常のペプチドタグを付加した場合は、このペプチドタグに親和性のある物質を結合したカラムを用いることにより、これらのタンパク質の精製物を得ることができる。
さらに、配列番号2,6,10,14,18,22,又は26に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位とされたアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2,6,10,14,18,22,又は26に示されるアミノ酸配列と85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号2,6,10,14,18,22,又は26に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列の一例を示す配列番号1(塩基番号213〜764),5(塩基番号231〜836),9(塩基番号201〜578),13(塩基番号240〜731),17(塩基番号201〜761),21(塩基番号193〜642),又は25(塩基番号228〜773)に示される塩基配列の情報に基づいて当業者であれば適宜調製又は取得することができる。例えば、配列番号1(塩基番号213〜764),5(塩基番号231〜836),9(塩基番号201〜578),13(塩基番号240〜731),17(塩基番号201〜761),21(塩基番号193〜642),又は25(塩基番号228〜773)に示される塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプライマーに用いるポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR反応)によって、あるいは該塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーションによって、アセトバクター属やグルコンアセトバクター属に属する酢酸菌、あるいはそれら以外の酢酸菌より、該DNAのホモログを適当な条件下でスクリーニングすることにより単離することができる。このホモログDNAの全長DNAをクローニング後、発現ベクターに組み込み適当な宿主で発現させることにより、該ホモログDNAによりコードされるタンパク質を製造することができる。
オリゴヌクレオチドの合成は、例えば、市販されている種々のDNA合成機を用いて定法に従って合成できる。また、PCR反応は、アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems)製のサーマルサイクラーGene Amp PCR System 2400を用い、TaqDNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)やKOD−Plus−(東洋紡績社製)などを使用して、定法に従って行なうことができる。
上記本発明のタンパク質とマーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させて融合タンパク質とすることもできる。マーカータンパク質としては、従来知られているマーカータンパク質であれば特に制限されるものではなく、例えば、アルカリフォスファターゼ、HRP等の酵素、抗体のFc領域、GFP等の蛍光物質などを具体的に挙げることができ、またペプチドタグとしては、HA、FLAG、Myc等のエピトープタグや、GST、マルトース結合タンパク質、ビオチン化ペプチド、オリゴヒスチジン等の親和性タグなどの従来知られているペプチドタグを具体的に例示することができる。かかる融合タンパク質は、常法により作製することができ、Ni−NTAとHisタグの親和性を利用した本発明のタンパク質の精製や、本発明のタンパク質の検出や、本発明のタンパク質に対する抗体の定量や、その他当該分野の研究用試薬としても有用である。
本発明の組換えベクターとしては、前記本発明のDNAを1種以上含み、かつ酢酸存在下での増殖促進機能を有するタンパク質を発現することができる組換えベクターであれば特に制限されず、本発明の組換えベクターは、本発明のDNAを発現ベクターに適切にインテグレイトすることにより構築することができる。かかる発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製可能であるものや、あるいは宿主細胞の染色体中へ組込み可能であるものが好ましく、また、本発明のDNAを発現できる位置にプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等の制御配列を含有しているものを好適に使用することができる。
細菌用の発現ベクターとしては、例えば、酢酸菌―大腸菌シャトルベクター(マルチコピーベクター)pGI18(例えば、特開2005−110597号公報参照)、pMV24(例えば、特開昭61−58584号公報参照)、pTA5001(A)、pTA5001(B)(例えば、特開昭60−9488号公報参照)、pMVL1(例えば、「アグリカルチュラル・アンド・バイオロジカル・ケミストリー(Agricaltural and Biological Chemistry)」、52巻、3125−3129頁、1988年参照)の他、pBTrP2、pBTac1、pBTac2(いずれもべ一リンガーマンハイム社より市販)、pKK233−2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX−1(Promega社製)、pQE−8(QIAGEN社製)、pQE−30(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58−110600)、pKYP200〔Agrc.Biol.Chem., 48, 669(1984)〕、PLSA1〔Agrc. Blo1. Chem., 53, 277(1989)〕、pGEL1〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 4306 (1985)〕、pBluescrlptII SK+、pBluescriptII SK(−)(Stratagene社製)、pTrS30(FERMBP-5407)、pTrS32(FERM BP-5408)、pGEX(Pharmacia社製)、pET−3(Novagen社製)、pTerm2(US4686191、US4939094、US5160735)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pUC18〔Gene, 33, 103(1985)〕、pUC19〔Gene, 33, 103(1985)〕、pSTV28(タカラバイオ社製)、pSTV29(タカラバイオ社製)、pUC118(タカラバイオ社製)、pQE−30(QIAGEN社製)等が挙げられる。細菌用のプロモーターとしては、例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、SP01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーター等を挙げることができる。
本発明の形質転換体としては、上記本発明の組換えベクターを含み、かつ酢酸存在下での増殖促進機能を有するタンパク質を発現することができる宿主細胞であれば特に制限されず、上記宿主細胞としては、細菌、酵母、昆虫細胞、動植物細胞を挙げることができるが細菌が好ましく、中でもアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌が特に好ましいが、アセトバクター属やグルコンアセトバクター属以外の酢酸菌の他、エッシェリヒア(Escherichia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、バチラス(Bacillus)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、セラチア(Serratia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アースロバクター(Arthrobacter)属、エルウニア(Erwinia)属、メチロバクテリウム(Methylobacterium)属、ロドバクター(Rhodobacter)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、ザイモモナス(Zymomonas)属等に属する微生物を挙げることができる。細菌宿主へ組換えベクターを導入する方法としては、塩化カルシュウム法(例えば、「アグリカルチュラル・アンド・バイオロジカル・ケミストリー(Agricaltural and Biological Chemistry)」、49巻、2091−2097頁、1985年参照)やエレクトロポレーション法(「プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・オブ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」、87巻、8130−8134頁、1990年参照)、プロトプラスト法等を挙げることができる。本発明の好適な形質転換体として、酢酸菌―大腸菌シャトルベクター(マルチコピーベクター)pGI18にDNA断片を挿入してなる組換えベクターをアセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)No.1023株(FERM BP−2287)に導入することにより得られる形質転換体を具体的に例示することができる。
本発明の微生物としては、前記本発明のDNAの中から選ばれる1又は2以上のDNAの細胞内でのコピー数が増幅されたことにより、酢酸存在下での増殖促進機能が増強された微生物であれば特に制限されるものではなく、酢酸存在下での増殖促進機能が増強されたアセトバクター属、又はグルコンアセトバクター属の酢酸菌が特に好ましいが、アセトバクター属やグルコンアセトバクター属以外の酢酸菌の他、エッシェリヒア属、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、バチラス属、ミクロバクテリウム属、セラチア属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属、アースロバクター属、エルウニア属、メチロバクテリウム属、ロドバクター属、ストレプトミセス属、ザイモモナス属等に属する微生物を挙げることもできる。
上記アセトバクター属に属する酢酸菌として具体的には、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)が挙げられ、アセトバクター・アセチNo.1023(Acetobacter aceti No.1023)株(特許生物寄託センター(宛名:茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に平成元年2月13日、受託番号:FERM BP−2287として寄託)を好適に例示することができる。また、グルコンアセトバクター属に属する酢酸菌として具体的には、グルコンアセトバクター・エンタニイ(Gluconacetobacter entanii)が挙げられ、現在特許生物寄託センター(宛名:茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM BP−491として寄託されている(寄託日:昭和59年2月23日)アセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24(Acetobacter altoacetigenes MH-24)株を好適に例示することができる。
アルコール酸化能を有するアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌において酢酸耐性を増強すると、酢酸の生産量や生産効率を増大させることができる。増殖促進機能の増強は、例えば増殖促進機能を有する遺伝子の細胞内のコピー数を増幅すること、あるいは、該遺伝子の構造遺伝子を含むDNA断片をアセトバクター属細菌中で効率よく機能するプロモーター配列に連結して得られる組換えDNAを用いて、アセトバクター属細菌等を形質転換することによって増強することができる。また、染色体DNA上の該遺伝子のプロモーター配列を、アセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌中で効率よく機能する他のプロモーター配列、例えば大腸菌のプラスミドpBR322(タカラバイオ社製)のアンピシリン耐性遺伝子、プラスミドpHSG298(タカラバイオ社製)のカナマイシン耐性遺伝子、プラスミドpHSG396(タカラバイオ社製)のクロラムフェニコール耐性遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子などの各遺伝子のプロモーターなどの酢酸菌以外の微生物由来のプロモーター配列に置き換えることによっても高濃度酢酸存在下での増殖促進機能を増強することができる。そして、遺伝子の細胞内コピー数の増幅は、該遺伝子を保持するマルチコピーベクターをアセトバクター属酢酸菌の細胞に導入することによって行なうことができる。すなわち、該遺伝子を保持するプラスミド、トランスポゾン等をアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌の細胞に導入することによって行なうことができる。マルチコピーベクターとしては、pGI18やpMV24、pTA5001(A)、pTA5001(B)などが挙げられ、染色体組み込み型ベクターであるpMVL1も挙げられる。また、トランスポゾンとしては、MuやIS1452などを挙げることができる。
本発明の食酢の製造方法としては、上記本発明の微生物を、アルコールを含有する培地で培養し、該培地中に酢酸を生成蓄積せしめる方法であれば特に制限されず、上記微生物としては、アセトバクター属、又はグルコンアセトバクター属の酢酸菌が特に好ましい。例えば、高濃度酢酸存在下での増殖促進機能を有する遺伝子のコピー数が増幅されたことにより増殖促進機能が選択的に増強されたアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌であってアルコール酸化能を有する本発明の微生物を、アルコール含有培地で培養し、該培地中に酢酸を生産蓄積せしめることにより、高濃度の酢酸を含有する食酢を効率よく製造することができる。また、本発明の食酢の製造方法における酢酸発酵は、従来の酢酸菌の発酵法による食酢の製造法と同様にして行えばよく、酢酸発酵に使用する培地としては、炭素源、窒素源、無機物、エタノールを含有し、必要があれば使用菌株が生育に要求する栄養源を適当量含有するものであれば、合成培地でも天然培地でもよい。上記炭素源としては、グルコースやシュークロースをはじめとする各種炭水化物、各種有機酸が挙げられる。窒素源としては、ペプトン、発酵菌体分解物などの天然窒素源を用いることができる。また、培養は、静置培養法、振とう培養法、通気攪拌培養法等の好気的条件下で行ない、培養温度は通常30℃で行なう。培地のpHは通常2.5〜7の範囲であり、2.7〜6.5の範囲が好ましく、各種酸、各種塩基、緩衝液等によって調製することもできる。通常1〜21日間の培養によって、培地中に高濃度の酢酸を蓄積させることができる。
また、本発明は、上記本発明の食酢の製造方法により得られる食酢にも関する。
以下に、実施例等を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は、これら実施例等により限定されるものではない。
グルコンアセトバクター・エンタニイからの増殖促進機能を有するタンパク質をコードする遺伝子DNAのクローニングと塩基配列及びアミノ酸配列の決定
(1)酢酸安定タンパク質の同定
グルコンアセトバクター・エンタニイ(Gluconacetobacter entanii)の1株であるアセトバクター・アルトアセトゲネスMH−24(Acetobacter altoacetigenes MH-24)株(FERM BP−491として寄託)の菌体をフレンチプレスにて破砕を行ない、破砕液は遠心分離(7,500×g、10分)により未破砕菌体などを取り除き、上清液を得た。上清液から酢酸に対して安定なタンパク質を抽出する為に、pH4.0に調整した酢酸を最終濃度1Mになるように上清に添加し、酢酸の添加により不溶性となったタンパク質を遠心分離(7,500×g、10分)により除去し、酢酸存在下でも可溶性で、酢酸に対して安定なタンパク質を含有する上澄液を得た。
得られた上澄液を、一次元目が等電点pI3〜10(7cm、pH3〜10、BIO−RAD社製)の等電点電気泳動を行ない、二次元目がSDS−PAGE(パジェル5−12.5%グラジエントゲル)の電気泳動を行った。得られたSDS−PAGEのゲルからセミドライ式(AE−6677、Atto社製)でウェスタンブロッティングを行ないPVDF膜(Sequi−blot PVDH membrane、Atto社製)に転写を行なった。その結果、表1に示されるように、スポットAAR1からAAR10までの主な10スポットが検出され、PVDF膜に転写されたそれぞれのスポットを切り出し、アミノ酸シークエンサー(Applied Biosystems社製)により各スポットのN末アミノ酸配列の同定を行なった。該10スポットの等電点、分子量、N末端側アミノ酸配列について、表1にまとめた。
(2)染色体DNAライブラリーの作製
グルコンアセトバクター・エンタニイの1株であるアセトバクター・アルトアセトゲネスMH−24株(FERM BP−491)を6%酢酸、4%エタノールを添加したYPG培地(3%グルコース、0.5%酵母エキス、0.2%ポリペプトン)で30℃にて振とう培養を行なった。培養後、培養液を遠心分離(7,500×g、10分)し、菌体を得た。得られた菌体より、染色体DNA調製法(例えば、特開昭60−9489号公報参照)により、染色体DNAを調製した。
上記のようにして得られた染色体DNAを制限酵素Sau3AI(タカラバイオ社製)で部分消化し、また大腸菌−酢酸菌シャトルベクターpGI18を制限酵素BamHIで完全消化して切断した。これらのDNAを適量ずつ混合し、ライゲーションキット(Takara DNA Ligation Kit Ver.2、タカラバイオ社製)を用いて連結して、大腸菌JM109株に形質転換し、100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地で選択した。出現したコロニーを、上記(1)において同定したアミノ酸配列をもとにして作製し、ジゴキシゲニンでラベルしたプローブ(表2)を用い、コロニーハイブリダイゼーションを行ないポジティブな形質転換体7株(AAR1〜AAR7)を得た。
(3)クローン化されたDNA断片の塩基配列の決定
1.スポットAAR1について
上記のクローン化されたSau3AI断片をpUC19のBamHI部位に挿入し、該断片の塩基配列を、サンガーのダイデオキシ・チェーン・ターミネーション法よって決定した結果、配列番号1に記載した塩基配列が決定された。配列決定は両方のDNA鎖の全領域について行ない、切断点は全てオーバーラップする様にして行なった。
配列番号1に示される塩基配列中には、塩基番号213から塩基番号764にかけて、配列番号2に記載したような184個のアミノ酸(図2)をコードするオープンリーディング・フレームの存在が確認された。なお、配列番号1の塩基番号213〜764からなる塩基配列を含むDNAは、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)のPPIaseと79%の相同性があり、そのPPIaseは細胞内でタンパク質の折りたたみやシャペロン様の働きをしていると考えられるが、これまでのところ該遺伝子が増殖促進機能と関係していることは全く知られていない。
また、配列番号2に記載のタンパク質のN末端側のアミノ酸配列はMet−Asp−Arg−Gly−Arg−Leu−Ser−Gly−Pro−Valであり、先にアミノ酸シークエンスにより決定した該タンパク質のN末端側のアミノ酸配列と一致することが確認された。
2.スポットAAR2について
上記のクローン化されたSau3AI断片をpUC19のBamHI部位に挿入し、該断片の塩基配列を、サンガーのダイデオキシ・チェーン・ターミネーション法よって決定した結果、配列番号5に記載した塩基配列が決定された。配列決定は両方のDNA鎖の全領域について行ない、切断点は全てオーバーラップする様にして行なった。
配列番号5に示される塩基配列中には、塩基番号231から塩基番号836にかけて、配列番号6に記載したような202個のアミノ酸(図6)をコードするオープンリーディング・フレームの存在が確認された。なお、配列番号5の塩基番号231〜836からなる塩基配列を含むDNAは、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)のSODと80%の相同性を示しており、そのSODは抗酸化機能に関与していると考えられるが、増殖促進機能と関係していることは全く知られていない。
また、配列番号6に記載のタンパク質のN末端側のアミノ酸配列はMet−Ala−Phe−Glu−Leu−Pro−Ser−Leu−Pro−Pheであり、先にアミノ酸シークエンスにより決定した該タンパク質のN末端側のアミノ酸配列と一致することが確認された。
3.スポットAAR3について
上記のクローン化されたSau3AI断片をpUC19のBamHI部位に挿入し、該断片の塩基配列を、サンガーのダイデオキシ・チェーン・ターミネーション法よって決定した結果、配列番号9に記載した塩基配列が決定された。配列決定は両方のDNA鎖の全領域について行ない、切断点は全てオーバーラップする様にして行なった。
配列番号9に示される塩基配列中には、塩基番号201から塩基番号578にかけて、配列番号10に記載したような126個のアミノ酸(図10)をコードするオープンリーディング・フレームの存在が確認された。
また、配列番号10に記載のタンパク質のN末端側のアミノ酸配列はMet−Ser−Tyr−Val−Asp−Pro−Ala−Trp−Tyr−Valであり、先にアミノ酸シークエンスにより決定した該タンパク質のN末端側のアミノ酸配列と一致することが確認された。なお、塩基番号201〜578からなる塩基配列を含むDNAは、磁性細菌(Magnetospirillum magnetotacticum)の遺伝子とアミノ酸配列レベルで28%の、またアンモニア酸化細菌(Nitrosomonas europaea)の遺伝子とはアミノ酸配列レベルで23%の相同性を示し、タンパク質をコードする遺伝子であることが推定されたが、その相同性の程度は極めて低いものであったことから、酢酸菌に特異的な新規タンパク質をコードする新規遺伝子UNKであることが確認された。
4.スポットAAR4について
上記のクローン化されたSau3AI断片をpUC19のBamHI部位に挿入し、該断片の塩基配列を、サンガーのダイデオキシ・チェーン・ターミネーション法よって決定した結果、配列番号13に記載した塩基配列が決定された。配列決定は両方のDNA鎖の全領域について行ない、切断点は全てオーバーラップする様にして行なった。
配列番号13に示される塩基配列中には、塩基番号240から塩基番号731にかけて、配列番号14に記載したような164個のアミノ酸(図14)をコードするオープンリーディング・フレームの存在が確認された。また、配列番号14に記載のタンパク質のN末端側のアミノ酸配列はMet−Thr−Phe−Thr−Leu−Thr−Ser−Arg−Ser−Pheであり、先にアミノ酸シークエンスにより決定した該タンパク質のN末端側のアミノ酸配列と一致することが確認された。
なお、塩基番号240〜731からなる塩基配列を含むDNAは、大腸菌(Escherichia coli)のybhB遺伝子とアミノ酸配列レベルで63%の、また赤痢菌(Shigella flexneri)の遺伝子とはアミノ酸配列レベルで62%の相同性を示し、タンパク質をコードする遺伝子であることが推定されたが、他の微生物でも機能が分かっておらず、また該遺伝子が増殖促進機能と関係していることは全く知られていない。
5.スポットAAR5について
上記のクローン化されたSau3AI断片をpUC19のBamHI部位に挿入し、該断片の塩基配列を、サンガーのダイデオキシ・チェーン・ターミネーション法よって決定した結果、配列番号17に記載した塩基配列が決定された。配列決定は両方のDNA鎖の全領域について行ない、切断点は全てオーバーラップする様にして行なった。
配列番号17に示される塩基配列中には、塩基番号201から塩基番号761にかけて、配列番号18に記載したような187個のアミノ酸(図18)をコードするオープンリーディング・フレームの存在が確認された。また、配列番号18に記載のタンパク質のN末端側のアミノ酸配列はMet−Ala−Arg−Ile−Asn−Ser−Ser−Leu−Lys−Proであり、先にアミノ酸シークエンスにより決定した該タンパク質のN末端側のアミノ酸配列と一致することが確認された。
なお、塩基番号201〜761からなる塩基配列を含むDNAは、シュードモナス・シリンジャエ(Pseudomonas syringae)のアルキルハイドロパーオキサイド還元酵素(alkyl hydroperoxide reductase)(以下、AHDと称する場合もある)の遺伝子とアミノ酸配列レベルで74%の、またカウロバクター・クレセンタス(Caulobacter crescentus)の該遺伝子とはアミノ酸配列レベルで67%の相同性を示していた。一般にAHDは過酸化物代謝に関与していると考えられているが、該遺伝子が高濃度酢酸存在下での増殖促進機能に関与していることは全く知られていない。
6.スポットAAR6について
上記のクローン化されたSau3AI断片をpUC19のBamHI部位に挿入し、該断片の塩基配列を、サンガーのダイデオキシ・チェーン・ターミネーション法よって決定した結果、配列番号21に記載した塩基配列が決定された。配列決定は両方のDNA鎖の全領域について行ない、切断点は全てオーバーラップする様にして行なった。
配列番号21に示される塩基配列中には、塩基番号193から塩基番号642にかけて、配列番号22に記載したような150個のアミノ酸(図22)をコードするオープンリーディング・フレームの存在が確認された。また、配列番号22に記載のタンパク質のN末端側のアミノ酸配列はMet−Ser−Gly−Ala−Arg−Gln−Lys−Lys−Arg−Argであり、先にアミノ酸シークエンスにより決定した該タンパク質のN末端側のアミノ酸配列と一致することが確認された。
なお、塩基番号193〜642からなる塩基配列を含むDNAは、ブラディリゾビューム・ジャポニカム(Bradyrhizobium japonicum)の機能未知タンパク質(hypothetical protein)(以下、UNK2と称する場合もある)の遺伝子とアミノ酸配列レベルで46%の、またメソリゾビューム・ロッティ(Mesorhizobium loti)の遺伝子とはアミノ酸配列レベルで50%の相同性を示しており、タンパク質をコードする遺伝子であることが推定されたが、タンパク質の機能がわかっておらず、該遺伝子が高濃度酢酸存在下での増殖促進機能に関与していることは全く知られていない。
7.スポットAAR7について
上記のクローン化されたSau3AI断片をpUC19のBamHI部位に挿入し、該断片の塩基配列を、サンガーのダイデオキシ・チェーン・ターミネーション法よって決定した結果、配列番号25に記載した塩基配列が決定された。配列決定は両方のDNA鎖の全領域について行ない、切断点は全てオーバーラップする様にして行なった。
配列番号25に示される塩基配列中には、塩基番号228から塩基番号773にかけて、配列番号26に記載したような182個のアミノ酸(図26)をコードするオープンリーディング・フレームの存在が確認された。また、配列番号26に記載のタンパク質のN末端側のアミノ酸配列はMet−Glu−Tyr−Pro−Met−Ser−Asp−Leu−Ile−Valであり、先にアミノ酸シークエンスにより決定した該タンパク質のN末端側のアミノ酸配列と一致することが確認された。
なお、塩基番号228〜773からなる塩基配列を含むDNAは、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)の機能未知タンパク質(hypothetical protein)(以下、UNK3と称する場合もある)遺伝子とアミノ酸配列レベルで61%の、またシノリゾビウム・メリロッティ(Sinorhizobium meliloti)の遺伝子とはアミノ酸配列レベルで66%の相同性を示し、タンパク質をコードする遺伝子であることが推定されたが、タンパク質の機能がわかっておらず、該遺伝子が高濃度酢酸存在下での増殖促進機能に関与していることは全く知られていない。
グルコンアセトバクター・エンタニイ由来の増殖促進機能を有する遺伝子で形質転換した形質転換株での増殖促進効果(その1)
(1)アセトバクター・アセチへの形質転換
上記のようにしてクローン化されたアセトバクター・アルトアセトゲネスMH−24株(FERM BP−491)由来のDNA断片のうち、スポットAAR1において得られたDNAをKOD−Plus−(東洋紡績社製)を用いてPCR法により増幅し、増幅したDNA断片を酢酸菌−大腸菌シャトルベクターpGI18の制限酵素SmaI切断部位に挿入したプラスミドpPPIを作製した。プラスミドに挿入された増幅断片の概略を図1に示す。
PCR法は具体的には次のようにして実施した。すなわち、鋳型としてアセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24株のゲノムDNAを用い、プライマーとしてプライマー1(その塩基配列を図3に示す)及びプライマー2(その塩基配列を図4に示す)を用いて、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を使用し、94℃ 15秒、60℃ 30秒、68℃ 30秒を1サイクルとして、30サイクルというPCR条件にてPCRを実施した。
このpPPIをアセトバクター・アセチNo.1023株にエレクトロポレーション法(例えば、「プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・オブ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」、87巻、8130−8134頁、1990年参照)によって形質転換した。形質転換株は100μg/mlのアンピシリン及び1%の酢酸を添加したYPG寒天培地で選択した。選択培地上で生育したアンピシリン耐性の形質転換株について、定法によりプラスミドを抽出して解析し、増殖促進機能を有する遺伝子を保有するプラスミドを保持していることを確認した。
(2)形質転換株の増殖促進機能
上記のようにして得られたプラスミドを有するアンピシリン耐性の形質転換株を、酢酸を添加したYPG培地での生育について、シャトルベクターpGI18のみを導入した元株と比較した。
具体的には、エタノール3%、酢酸3%とアンピシリン100μg/mlを含有する100mlのYPG培地に、形質転換株とシャトルベクターpGI18を有する元株をそれぞれ2株ずつ接種し、30℃で振とう培養(150rpm)を行ない、形質転換株と元株の酢酸添加培地での生育を660nmにおける吸光度を測定した値の平均値を比較した。
その結果、図29に示すように、形質転換株は増殖が可能であるのに対して、元株は増殖できないことが確認でき、スポットAAR1において得られたDNAの増殖促進機能が確認できた。
グルコンアセトバクター・エンタニイ由来の増殖促進機能を有する遺伝子で形質転換した形質転換株での増殖促進効果(その2)
スポットAAR2において得られたDNAを用い、プライマーとしてプライマー3(その塩基配列を図7に示す)及びプライマー4(その塩基配列を図8に示す)を用いる以外は実施例2と同様に行い、プラスミドpSODを作製した。プラスミドに挿入された増幅断片の概略を図5に示す。
実施例2と同様にして、このpSODをアセトバクター・アセチNo.1023株にエレクトロポレーション法によって形質転換した形質転換株が増殖促進機能を有する遺伝子を保有するプラスミドを保持していることを確認した後、実施例2と同様にして、形質転換株と元株の酢酸添加培地での生育を660nmにおける吸光度を測定した値の平均値を比較した。その結果、図30に示すように、形質転換株は増殖が可能であるのに対して、元株は増殖できないことが確認でき、スポットAAR2において得られたDNAの増殖促進機能が確認できた。
グルコンアセトバクター・エンタニイ由来の増殖促進機能を有する遺伝子で形質転換した形質転換株での増殖促進効果(その3)
スポットAAR3において得られたDNAを用い、プライマーとしてプライマー5(その塩基配列を図11に示す)及びプライマー6(その塩基配列を図12に示す)を用いる以外は実施例2と同様に行い、プラスミドpUNKを作製した。プラスミドに挿入された増幅断片の概略を図9に示す。
実施例2と同様にして、このpUNKをアセトバクター・アセチNo.1023株にエレクトロポレーション法によって形質転換した形質転換株が増殖促進機能を有する遺伝子を保有するプラスミドを保持していることを確認した後、実施例2と同様にして、形質転換株と元株の酢酸添加培地での生育を660nmにおける吸光度を測定した値の平均値を比較した。その結果、図31に示すように、形質転換株は増殖が可能であるのに対して、元株は増殖できないことが確認でき、スポットAAR3において得られたDNAの増殖促進機能が確認できた。
グルコンアセトバクター・エンタニイ由来の増殖促進機能を有する遺伝子で形質転換した形質転換株での増殖促進効果(その4)
(1)アセトバクター・アセチへの形質転換
スポットAAR4において得られたDNAを用い、プライマーとしてプライマー7(その塩基配列を図15に示す)及びプライマー8(その塩基配列を図16に示す)を用いる以外は実施例2と同様に行い、プラスミドpYBHを作製した。プラスミドに挿入された増幅断片の概略を図13に示す。
実施例2と同様にして、このpYBHをアセトバクター・アセチNo.1023株にエレクトロポレーション法によって形質転換した形質転換株が増殖促進機能を有する遺伝子を保有するプラスミドを保持していることを確認した後、実施例2と同様にして、形質転換株と元株の酢酸添加培地での生育を660nmにおける吸光度を測定した値の平均値を比較した。その結果、図32に示すように、形質転換株は増殖が可能であるのに対して、元株は増殖できないことが確認でき、スポットAAR4において得られたDNAの増殖促進機能が確認できた。
グルコンアセトバクター・エンタニイ由来の増殖促進機能を有する遺伝子で形質転換した形質転換株での増殖促進効果(その5)
スポットAAR5において得られたDNAを用い、プライマーとしてプライマー9(その塩基配列を図19に示す)及びプライマー10(その塩基配列を図20に示す)を用いる以外は実施例2と同様に行い、プラスミドpAHRを作製した。プラスミドに挿入された増幅断片の概略を図17に示す。
実施例2と同様にして、このpAHRをアセトバクター・アセチNo.1023株にエレクトロポレーション法によって形質転換した形質転換株が増殖促進機能を有する遺伝子を保有するプラスミドを保持していることを確認した後、実施例2と同様にして、形質転換株と元株の酢酸添加培地での生育を660nmにおける吸光度を測定した値の平均値を比較した。その結果、図33に示すように、形質転換株は増殖が可能であるのに対して、元株は増殖できないことが確認でき、スポットAAR5において得られたDNAの増殖促進機能が確認できた。
グルコンアセトバクター・エンタニイ由来の増殖促進機能を有する遺伝子で形質転換した形質転換株での増殖促進効果(その6)
スポットAAR6において得られたDNAを用い、プライマーとしてプライマー11(その塩基配列を図23に示す)及びプライマー12(その塩基配列を図24に示す)を用いる以外は実施例2と同様に行い、プラスミドpUNK2を作製した。プラスミドに挿入された増幅断片の概略を図21に示す。
実施例2と同様にして、このpUNK2をアセトバクター・アセチNo.1023株にエレクトロポレーション法によって形質転換した形質転換株が増殖促進機能を有する遺伝子を保有するプラスミドを保持していることを確認した後、実施例2と同様にして、形質転換株と元株の酢酸添加培地での生育を660nmにおける吸光度を測定した値の平均値を比較した。その結果、図34に示すように、形質転換株は増殖が可能であるのに対して、元株は増殖できないことが確認でき、スポットAAR6において得られたDNAの増殖促進機能が確認できた。
グルコンアセトバクター・エンタニイ由来の増殖促進機能を有する遺伝子で形質転換した形質転換株での増殖促進効果(その7)
スポットAAR7において得られたDNAを用い、プライマーとしてプライマー13(その塩基配列を図27に示す)及びプライマー14(その塩基配列を図28に示す)を用いる以外は実施例2と同様に行い、プラスミドpUNK3を作製した。プラスミドに挿入された増幅断片の概略を図25に示す。
実施例2と同様にして、このpUNK3をアセトバクター・アセチNo.1023株にエレクトロポレーション法によって形質転換した形質転換株が増殖促進機能を有する遺伝子を保有するプラスミドを保持していることを確認した後、実施例2と同様にして、形質転換株と元株の酢酸添加培地での生育を660nmにおける吸光度を測定した値の平均値を比較した。その結果、図35に示すように、形質転換株は増殖が可能であるのに対して、元株は増殖できないことが確認でき、スポットAAR7において得られたDNAの増殖促進機能が確認できた。