JP2005040098A - 酢酸耐性に関与する遺伝子 - Google Patents
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Abstract
【課題】新規な酢酸耐性遺伝子を取得し、また取得した酢酸耐性遺伝子を用いて、酢酸耐性が増強された酢酸菌を育種すること、酢酸菌に属する微生物の酢酸耐性を向上させる方法、さらに酢酸耐性が向上した酢酸菌を用いて、高酢酸濃度の食酢を効率良く製造する方法を提供すること。
【解決手段】下記の(A)又は(B)に示すタンパク質TPIをコードするDNA。(A)特定のアミノ酸配列を含むタンパク質。(B)特定のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位を含むアミノ酸配列を含み、かつ、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質。
【選択図】 なし
【解決手段】下記の(A)又は(B)に示すタンパク質TPIをコードするDNA。(A)特定のアミノ酸配列を含むタンパク質。(B)特定のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位を含むアミノ酸配列を含み、かつ、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質。
【選択図】 なし
Description
本発明は、酢酸耐性微生物に関し、より具体的には、微生物に由来する酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、該遺伝子のコピー数を増幅した微生物、及びこれらの微生物を用いて食酢を製造する方法に関する。
酢酸菌は食酢製造に広く利用されている微生物であり、特にアセトバクター属及びグルコンアセトバクター属に属する酢酸菌が工業的な酢酸発酵に利用されている。
酢酸発酵では、培地中のエタノールが酢酸菌によって酸化されて酢酸に変換され、その結果、酢酸が培地中に蓄積することになるが、酢酸は酢酸菌にとっても阻害的であり、酢酸の蓄積量が増大して培地中の酢酸濃度が高くなるにつれて酢酸菌の増殖能力や発酵能力は次第に低下する。
酢酸発酵では、培地中のエタノールが酢酸菌によって酸化されて酢酸に変換され、その結果、酢酸が培地中に蓄積することになるが、酢酸は酢酸菌にとっても阻害的であり、酢酸の蓄積量が増大して培地中の酢酸濃度が高くなるにつれて酢酸菌の増殖能力や発酵能力は次第に低下する。
そのため、酢酸発酵においては、より高い酢酸濃度でも増殖能力や発酵能力が低下しないこと、すなわち酢酸耐性の強い酢酸菌を開発することが求められており、その一手段として、酢酸耐性に関与する遺伝子(酢酸耐性遺伝子)をクローニングし、その酢酸耐性遺伝子を用いて酢酸菌を育種、改良することが試みられている。
これまでの酢酸菌の酢酸耐性遺伝子に関する知見としては、アセトバクター属の酢酸菌の酢酸耐性を変異させて酢酸感受性にした株を元の耐性に回復させることのできる相補遺伝子として、クラスターを形成する3つの遺伝子(aarA、aarB、aarC)がクローニングされていた(例えば、非特許文献1参照)。
この内、aarA遺伝子はクエン酸合成酵素をコードする遺伝子であり、又、aarC遺伝子は酢酸の資化に関係する酵素をコードする遺伝子であると推定されたが、aarB遺伝子については機能が不明であった(例えば、非特許文献2参照)。
これらの3つの酢酸耐性遺伝子を含む遺伝子断片をマルチコピープラスミドにクローニングし、アセトバクター・アセチ・サブスペシーズ・ザイリナムIFO3288(Acetobacter aceti subsp. xylinum IFO3288)株に形質転換して得られた形質転換株は、酢酸耐性の向上レベルが僅かでしかなく、また実際の酢酸発酵での能力の向上の有無については不明であった(例えば、特許文献1参照)。
一方、酢酸菌からクローニングされた膜結合型アルデヒド脱水素酵素(ALDH)をコードする遺伝子を酢酸菌に導入することによって、酢酸発酵において最終到達酢酸濃度の向上が認められた例が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、ALDHはアルデヒドを酸化する機能を有する酵素であって酢酸耐性に直接関係する酵素ではないことから、ALDHをコードする遺伝子が真に酢酸耐性遺伝子であるとは断定できないものであった。
特開平3−219878号公報
特開平2−2364号公報
Fukaya, M.ら、「ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(Journal of Bacteriology)、172巻、p.2096−2104、1990年」
Fukaya, M.ら、「ジャーナル・オブ・ファーメンテイション・アンド・バイオエンジニアリング(Journal of Fermentation and Bioengineering)、76巻、p.270−275、1993年」
以上のように、従来より酢酸菌の酢酸耐性を遺伝子レベルで解明し、高い酢酸耐性を有する実用酢酸菌の開発に成功した例は報告されていない。しかし、酢酸耐性にすぐれた酢酸菌が開発されれば、従来より高濃度の酢酸発酵が行われ、高濃度酢酸、高濃度食酢の効率的製造が可能となることから、本発明者らは、再度、酢酸菌の酢酸耐性の向上を遺伝子レベルで解明することとした。
そして、本発明者らは各方面から検討した結果、酢酸耐性を実用レベルで向上させうる機能を有するタンパク質をコードする新規な酢酸耐性遺伝子を取得し、また、取得した酢酸耐性遺伝子を用いて、より強い酢酸耐性を有する酢酸菌を育種することが重要であるとの観点にたち、酢酸菌に属する微生物由来の酢酸耐性に関与する新規な遺伝子を提供すること、及び該遺伝子を用いて微生物の酢酸耐性を向上させる方法、特に酢酸菌に属する微生物の酢酸耐性を向上させる方法、さらに酢酸耐性が向上した酢酸菌を用いて、より高酢酸濃度の食酢を効率良く製造する方法を提供することを新規技術課題として新たに設定した。
本発明者らは、酢酸存在下でも増殖し、発酵することができる酢酸菌には、他の微生物には存在しない特異的な酢酸耐性に関与する遺伝子が存在するとの仮説を立て、こうした遺伝子を用いれば、従来以上に微生物の酢酸耐性を向上させることができ、さらには高濃度の酢酸を含有する従来得ることができなかった新規食酢の効率的な製造法を開発することが可能になるとの新規着想を得た。
従来の酢酸耐性遺伝子の取得方法は、酢酸菌の酢酸感受性の変異株を相補する遺伝子をクローニングする方法などが一般的であった。
従来の酢酸耐性遺伝子の取得方法は、酢酸菌の酢酸感受性の変異株を相補する遺伝子をクローニングする方法などが一般的であった。
しかし、このような方法では産業上有用な酢酸耐性遺伝子を見出すことは困難であると考え、鋭意検討した結果、本発明者らは、酢酸菌から酢酸耐性遺伝子を見出す方法として、酢酸菌の染色体DNAライブラリーを構築し、この染色体DNAライブラリーを酢酸菌に形質転換し、通常1%程度の酢酸の存在下でしか生育できない株を、2%の酢酸の存在下でも生育可能にする遺伝子をスクリーニングすることによって取得する方法を開発した。
この方法によって、実際に食酢製造に用いられているグルコンアセトバクター属の酢酸菌から、酢酸耐性を実用レベルで向上させる機能を有する新規な酢酸耐性遺伝子をクローニングすることにはじめて成功した。
得られた酢酸耐性遺伝子は、DDBJ/EMBL/Genbank及びSWISS−PROT/PIRにおいてホモロジー検索した結果、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のトリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子やブラディリゾビウム・ヤポニカム(Bradyrhizobium japonicum)のトリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子などによって生産されるタンパク質とある程度の相同性を有しており、酢酸菌のトリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子であると推定された。
取得された酢酸菌のトリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスのトリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子とアミノ酸配列レベルで39.2%の、またブラディリゾビウム・ヤポニカムのそれとは38.8%の相同性を有しており、その相同性の程度はきわめて低いものであったことから、トリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子とはある程度似ているものの、酢酸菌に特異的な新規タンパク質(以下、「トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)」ともいう)をコードする新規遺伝子(以下、「トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)遺伝子」ともいう)であることが確認された。
また、該遺伝子をプラスミドベクターに連結して酢酸菌に形質転換し、コピー数を増幅させた形質転換株においては、顕著に酢酸耐性が向上し、その結果、エタノール存在下で該形質転換株を通気培養した場合に、増殖誘導期が短縮する上に、増殖速度、生酸速度が向上すると共に、さらに最終到達酢酸濃度が顕著に向上することなどを見出し、更に該タンパク質のアミノ酸配列、及びそれをコードする遺伝子DNAの塩基配列の決定にも成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
(1)下記の(A)又は(B)に示すタンパク質TPI。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位を含むアミノ酸配列を含み、かつ、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質。
(1)下記の(A)又は(B)に示すタンパク質TPI。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位を含むアミノ酸配列を含み、かつ、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質。
(2)下記の(A)又は(B)に示すタンパク質TPIをコードするDNA。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位を含むアミノ酸配列を含み、かつ、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位を含むアミノ酸配列を含み、かつ、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質。
(3)下記の(A)、(B)又は(C)に示すDNA。
(A)配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号340〜1197からなる塩基配列を含むDNA。
(B)配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号340〜1197からなる塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質TPIをコードするDNA。
(C)配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号340〜1197からなる塩基配列又はその一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質TPIをコードするDNA。
(A)配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号340〜1197からなる塩基配列を含むDNA。
(B)配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号340〜1197からなる塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質TPIをコードするDNA。
(C)配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号340〜1197からなる塩基配列又はその一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質TPIをコードするDNA。
(4)(2)又は(3)に記載のDNAを含む組換えベクター。
(5)(4)に記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
(6)(2)又は(3)に記載のDNAからのコピー数が細胞内において増幅されていることを特徴とする酢酸耐性が増強された微生物。
(7)微生物がアセトバクター属、又はグルコンアセトバクター属の酢酸菌である(6)に記載の微生物。
(8)(6)又は(7)記載の微生物を、アルコールを含有する培地で培養し、該培地中に酢酸を生成蓄積せしめることを特徴とする食酢の製造方法。
(9)(8)に記載の方法により得られる、酢酸を高濃度に含む食酢。
(5)(4)に記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
(6)(2)又は(3)に記載のDNAからのコピー数が細胞内において増幅されていることを特徴とする酢酸耐性が増強された微生物。
(7)微生物がアセトバクター属、又はグルコンアセトバクター属の酢酸菌である(6)に記載の微生物。
(8)(6)又は(7)記載の微生物を、アルコールを含有する培地で培養し、該培地中に酢酸を生成蓄積せしめることを特徴とする食酢の製造方法。
(9)(8)に記載の方法により得られる、酢酸を高濃度に含む食酢。
本発明により、酢酸耐性に関与する新規な遺伝子が提供される。この遺伝子を用いて、高酢酸濃度存在下での増殖機能(酢酸耐性)が向上し、高酢酸濃度の食酢を高効率で製造可能な育種株を取得することが可能である。従って、本発明は、高酢酸濃度の食酢を高効率に製造するために有用である。
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)本発明のタンパク質TPIをコードするDNAの単離及びタンパク質
本発明のDNAは、酢酸菌に由来するTPI遺伝子及び該遺伝子の調節配列をコードするものであり、また酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質TPIをコードしている(配列番号2)。
本発明のDNAは、グルコンアセトバクター・エンタニイ(Gluconacetobacter entanii)の染色体DNAから次のようにして取得することができる。
(1)本発明のタンパク質TPIをコードするDNAの単離及びタンパク質
本発明のDNAは、酢酸菌に由来するTPI遺伝子及び該遺伝子の調節配列をコードするものであり、また酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質TPIをコードしている(配列番号2)。
本発明のDNAは、グルコンアセトバクター・エンタニイ(Gluconacetobacter entanii)の染色体DNAから次のようにして取得することができる。
まず、グルコンアセトバクター・エンタニイ、例えばアセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24(Acetobacter altoacetigenes MH-24)株(独立行政法人 産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、昭和59年2月23日に、FERM BP−491として寄託されている)の染色体DNAライブラリーを調製する。なお、染色体DNAは、常法(例えば、特開昭60−9489号公報参照)により取得することができる。
次に、TPI遺伝子を単離するために、上述のように得られた染色体DNAから染色体DNAライブラリーを作製する。まず、染色体DNAを適当な制限酵素で部分分解して種々のDNA断片混合物を得る。切断反応時間などを調節して切断の程度を調節すれば、幅広い種類の制限酵素が使用できる。例えば、Sau3AIを温度30℃以上、好ましくは37℃、酵素濃度1〜10ユニット/mlで様々な時間(1分〜2時間)、染色体DNAに作用させてこれを消化する。なお、後述する実施例1においてはSau3AIを用いた。
次いで、切断された染色体DNA断片を、酢酸菌内で自律複製可能なベクターDNAに連結し、組換えベクターを作製する。具体的には、染色体DNAの切断に用いた制限酵素Sau3AIと相補的な末端塩基配列を生じさせる制限酵素(例えばBamHI)を温度30℃、酵素濃度1〜100ユニット/mlの条件下で、1時間以上ベクターDNAに作用させてこれを完全消化し、切断開裂する。
次に、上記のようにして得た染色体DNA断片混合物と切断開裂されたベクターDNAを混合し、これにT4DNAリガーゼを温度4〜16℃、酵素濃度1〜100ユニット/mlの条件下で、1時間以上、好ましくは6〜24時間作用させて組換えDNAを得る。
染色体DNAから染色体DNAライブラリーを作製する方法は当技術分野で公知であり(例えばショットガン法)、上述した方法に限定されるものではない。
染色体DNAから染色体DNAライブラリーを作製する方法は当技術分野で公知であり(例えばショットガン法)、上述した方法に限定されるものではない。
得られた組換えDNAを用いて、通常は寒天培地上で1%よりも高濃度の酢酸の存在下では増殖することのできない酢酸菌、例えばアセトバクター・アセチNo.1023(Acetobacter aceti No.1023)株(独立行政法人 産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、昭和58年6月27日に、FERM BP−2287として寄託されている)を形質転換し、その後2%酢酸含有寒天培地に塗布し、培養する。生じたコロニーを液体培地に接種して培養し、得られる菌体からプラスミドを回収することで酢酸耐性遺伝子TPIを含むDNA断片を得ることができる。
本発明のDNAとして、具体的には、配列番号1に示す塩基配列を有するDNAが挙げられ、その内、塩基番号340〜1197からなる塩基配列はコード領域であり、配列番号2に示すタンパク質をコードするものである。
配列番号1に示す塩基配列及び配列番号2に示すアミノ酸配列(配列番号1の塩基番号340〜1197に対応)は、DDBJ/EMBL/GenBank及びSWISS−PROT/PIRにおいてホモロジー検索したところ、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のトリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子とアミノ酸配列レベルで39.2%の、またブラディリゾビウム・ヤポニカム(Bradyrhizobium japonicum)のそれとは38.8%の相同性を有しており、その相同性の程度はきわめて低いものであったことから、トリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子とはある程度似ているものの、酢酸菌に特異的な新規タンパク質(タンパク質TPI)をコードする新規遺伝子(TPI遺伝子)であることが確認された。
本発明のDNAは、該DNAがコードするTPI遺伝子の塩基配列が明らかとなったので、例えば、鋳型として酢酸菌グルコンアセトバクター・エンタニイのゲノムDNAを用い、該塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプライマーに用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR反応)によって、又は該塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーションによっても得ることができる。そのようなプライマー又はプローブとしての機能を有する、TPI遺伝子の一部の配列から作製されたDNAもまた本発明のDNAに含まれる。具体的には、限定されるものではないが、配列番号3及び4に示す配列からなるDNAは、本発明においてプライマーとして使用することができる。ここで「プライマー又はプローブとしての機能を有する」とは、プライマー又はプローブとして使用することが可能な塩基配列の長さ、塩基配列の塩基組成などを有することを意味し、このようなプライマー又はプローブとして機能するDNAの設計は当業者に周知である。
DNA(オリゴヌクレオチド)の合成は、例えば、市販されている種々のDNA合成機を用いて定法に従って合成できる。また、PCR反応は、アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems)製のサーマルサイクラーGene Amp PCR System 2400を用い、TaqDNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)やKOD−Plus−(東洋紡績社製)などを使用して、定法に従って行なうことができる。
また、本発明のTPIタンパク質は、上記DNAによりコードされるものであり、具体的には配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むものである。配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質が、酢酸耐性を増強する機能を有する限り、当該アミノ酸配列において複数個、好ましくは1若しくは数個のアミノ酸に置換、欠失、挿入、付加、逆位等の変異が生じてもよい。
例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列の1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失してもよく、配列番号2に示されるアミノ酸配列に1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が付加してもよく、あるいは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したものも、本発明のタンパク質に含まれる。
上記のような変異アミノ酸配列を含む酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質をコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加し、あるいは逆位として塩基配列を改変することによっても取得することができる。また、上記のような改変されたDNAは、公知の突然変異処理によっても取得することができる。
また、部位特異的突然変異誘発法等によって本発明のDNAの変異型であって、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質をコードするものを合成することもできる。なお、DNA、すなわち遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutan-K(タカラバイオ社製)やMutan-G(タカラバイオ社製))などを用いて変異の導入が行われる。また、エラー導入PCRやDNAシャッフリング等の手法により、遺伝子の変異導入やキメラ遺伝子を構築することもできる。エラー導入PCR及びDNAシャッフリング手法は、当技術分野で公知の手法であり、例えばエラー導入PCRについてはChen K, and Arnold FH. 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 90: 5618-5622を、またDNAシャッフリングについてはStemmer, W. P. 1994, Nature, 370:389-391及びStemmer W. P., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 91: 10747-10751を参照されたい。
ここで、本発明において「酢酸耐性を増強する機能」とは、高濃度の酢酸の存在下における微生物の増殖の促進や死滅を抑制する機能を指す。上述のようにして変異を導入した遺伝子が酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質をコードするか否かは、実施例に示すように、酢酸を含有する培地での生育の有無を判別することにより確認することができる。
また、一般的にタンパク質のアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列は、種間、株間、変異体、変種間でわずかに異なることが知られているので、実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、酢酸菌全般、中でもアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の種、株、変異体、変種から得ることが可能である。
具体的には、アセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌、又は変異処理したアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌、これらの自然変異株若しくは変種から、例えば配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基配列番号340〜1197からなる塩基配列又はその一部から作製したプローブと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質をコードする核酸を単離することによっても、該タンパク質と実質的に同一の、すなわち酢酸耐性を増強する機能を保持するタンパク質をコードするDNAを得ることができる。ここでいうストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高い核酸同士、例えば70%以上の相同性を有する核酸同士がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のハイブリダイゼーションの洗浄条件、例えば1×SSCで0.1%SDSに相当する塩濃度で60℃で洗浄が行われる条件などが挙げられる。
(2)本発明の酢酸菌
本発明のDNAは、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質TPIをコードするため、本発明のDNAを利用して、高濃度酢酸存在下における増殖が促進された、すなわち酢酸耐性が増強された微生物を作製することができる。
本発明のDNAは、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質TPIをコードするため、本発明のDNAを利用して、高濃度酢酸存在下における増殖が促進された、すなわち酢酸耐性が増強された微生物を作製することができる。
微生物における酢酸耐性の増強は、例えば、組換えベクターにTPI遺伝子を連結し、該ベクターを用いて微生物を形質転換することによって、該遺伝子の細胞内でのコピー数を増幅すること、又は、該遺伝子の構造遺伝子と微生物中で効率よく機能するプロモーター配列とを連結した組換えベクターを用いて該微生物を形質転換することによって、該遺伝子からのコピー数を増幅して発現を増強することにより行うことができる。
本発明の組換えベクターは、前項「(1)本発明のタンパク質TPIをコードするDNAの単離及びタンパク質」に記載したTPIタンパク質をコードするDNAを適当なベクターに連結することにより得ることができ、形質転換体は、本発明の組換えベクターを用いてTPI遺伝子が発現し得るように宿主を形質転換することにより得ることができる。
組換えベクターとしては、宿主で自律的に増殖し得るファージミド又はプラスミドを使用することができる。プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322,pBR325,pUC118,pET16b等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110,pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13,YCp50等)などが挙げられ、ファージミドDNAとしてはλファージ(λgt10,λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルスベクター、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクター、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)などを用いて形質転換体を作製することもできる。
また、マルチコピーベクター又はトランスポゾンなどを用いて目的のDNAを宿主に導入することもでき、本発明においてはそのようなマルチコピーベクター又はトランスポゾンも本発明の組換えベクターに含まれるものとする。マルチコピーベクターとしては、pUF106(例えば、Fujiwara, M. et al., Cellulose, 1989, 153-158参照)、pMV24(例えば、Fukaya, M. et al., Appl. Environ. Microbiol., 1989, 55:171-176参照)、pTA5001(A)、pTA5001(B)(例えば、特開昭60−9488号公報参照)などが挙げられ、染色体組み込み型ベクターであるpMVL1(例えば、Okumura, H. et al., Agric. Biol. Chem., 1988, 52:3125-3129参照)も挙げられる。また、トランスポゾンとしては、MuやIS1452などが挙げられる。
ベクターに本発明のDNAを挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
本発明のDNAは、そのDNAがコードする遺伝子の機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、本発明の組換えベクターには、プロモーター、本発明のDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを連結することができる。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
また、染色体DNA上のTPI遺伝子のプロモーター配列を、アセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌中で効率よく機能する他のプロモーター配列に置き換えるには、相同組換え用のベクターを構築し、該ベクターを用いて微生物の染色体に相同組換えを起こすようにすればよい。そのようなプロモーター配列としては、例えば、大腸菌のプラスミドpBR322(タカラバイオ社製)のアンピシリン耐性遺伝子、プラスミドpHSG298(タカラバイオ社製)のカナマイシン耐性遺伝子、プラスミドpHSG396(タカラバイオ社製)のクロラムフェニコール耐性遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子などの各遺伝子のプロモーターなどの酢酸菌以外の微生物由来のプロモーター配列が挙げられる。相同組換えを行うためのベクターの構築に関しては当業者に周知である。このようにして微生物における内因性TPI遺伝子を強力なプロモーターの制御下に配置することによって、該TPI遺伝子からのコピー数が増幅され、発現が増強される。
形質転換に使用する微生物としては、導入されるDNAを発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌、乳酸菌等)、酵母やアスペルギルス属などの真菌が挙げられる。本発明においては、その増殖促進機能を増強するという目的から、微生物としては酢酸菌を使用することが好ましい。酢酸菌の中でも、アセトバクター属及びグルコンアセトバクター属に属する細菌が特に好ましい。
アセトバクター属に属する細菌として、例えば、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)が挙げられ、具体的には例えば、アセトバクター・アセチNo.1023株(FERM BP−2287)、アセトバクター・アセチ・サブスピーシーズ・ザイリナムIFO3288株(Acetobacter aceti subsp. xylinum IFO3288)を用いることができる。
また、グルコンアセトバクター属に属する細菌としては、例えば、グルコンアセトバクター・ユウロパエウスDM6160(Gluconacetobacter europaeus DSM6160)、グルコンアセトバクター・エンタニイ(Gluconacetobacter entanii)が挙げられ、具体的には例えば、アセトバクター・アルトアセチゲネスMH−24株(FERM BP−491)を用いることができる。
酢酸菌を含む細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法(例えば、Fukaya, M. et al., Agric. Biol. Chem., 1985, 49:2091-2097参照)、エレクトロポレーション法(例えば、Wong, H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1990, 87:8130-8134参照)等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などが用いられる。酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。
形質転換体は、導入する遺伝子内に構成されるマーカー遺伝子の性質を利用して選択される。例えば、ネオマイシン耐性遺伝子を用いた場合には、G418薬剤に抵抗性を示す微生物を選択する。
本発明の好ましい実施形態において、形質転換体は、少なくとも配列番号1に示す塩基配列を有する核酸を含む組換えベクターであって、例えば、酢酸菌−大腸菌シャトルベクター(マルチコピーベクター)pUF106に当該核酸を挿入した組換えベクターpTPIを、アセトバクター・アセチNo.1023(FERM BP−2287)株に導入することにより得られる(実施例参照)。
アルコール酸化能を有するアセトバクター属やグルコンアセトバクター属の酢酸菌において、上記のようにしてその酢酸耐性を増強すると、酢酸の生産量や生産効率を増大させることができる。
(3)食酢製造法
前項「(2)本発明の酢酸菌」に記載のようにして作製される、酢酸耐性を増強する機能を有する遺伝子のコピー数が増幅されたことにより酢酸耐性が選択的に増強された微生物(酢酸菌)であってアルコール酸化能を有するものは、酢酸存在下においても増殖し、さらに酢酸を生産することが可能であるため、食酢の製造に利用することができる。従って、TPI遺伝子の発現コピー数が増幅された微生物をアルコール含有培地で培養し、該培地中に酢酸を生産蓄積せしめることにより、高濃度の酢酸を含有する食酢を効率よく製造することができる。
前項「(2)本発明の酢酸菌」に記載のようにして作製される、酢酸耐性を増強する機能を有する遺伝子のコピー数が増幅されたことにより酢酸耐性が選択的に増強された微生物(酢酸菌)であってアルコール酸化能を有するものは、酢酸存在下においても増殖し、さらに酢酸を生産することが可能であるため、食酢の製造に利用することができる。従って、TPI遺伝子の発現コピー数が増幅された微生物をアルコール含有培地で培養し、該培地中に酢酸を生産蓄積せしめることにより、高濃度の酢酸を含有する食酢を効率よく製造することができる。
本発明の製造法における酢酸発酵は、従来の酢酸菌の発酵法による食酢の製造法と同様にして行なえばよく、特に限定されるものではない。酢酸発酵に使用する培地としては、炭素源、窒素源、無機物、エタノールを含有し、必要があれば使用菌株が生育に要求する栄養源を適当量含有するものであれば、合成培地でも天然培地でも良い。
炭素源としては、グルコースやスクロースをはじめとする各種炭水化物、各種有機酸が挙げられる。窒素源としては、ペプトン、発酵菌体分解物などの天然窒素源を用いることができる。
また、培養は、静置培養法、振とう培養法、通気攪拌培養法等の好気的条件下で行ない、培養温度は通常30℃で行なう。培地のpHは通常2.5〜7の範囲であり、2.7〜6.5の範囲が好ましく、各種酸、各種塩基、緩衝液等によって調製することもできる。通常1〜21日間の培養によって、培地中に高濃度の酢酸が蓄積する。
本発明によれば、微生物に対して、酢酸耐性を増強する機能を付与することができる。そして、アルコール酸化能を有する微生物、特に酢酸菌においては、高濃度酢酸存在下での増殖機能(酢酸耐性)が向上し、培地中に高濃度の酢酸を効率良く蓄積する能力を付与することができる。このようにして育種された微生物(酢酸菌)は、高濃度酢酸を含有する食酢の製造に有用である。
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)グルコンアセトバクター・エンタニイからの酢酸耐性遺伝子のクローニングと塩基配列及びアミノ酸配列の決定
(1)染色体DNAライブラリーの作製
グルコンアセトバクター・エンタニイ(Gluconacetobacter entanii)の1株であるアセトバクター・アルトアセトゲネスMH−24株(FERM BP−491)を、6%酢酸、4%エタノールを添加したYPG培地(3%グルコース、0.5%酵母エキス、0.2%ポリペプトン)で30℃にて振盪培養を行なった。培養後、培養液を遠心分離(7,500×g、10分)し、菌体を得た。得られた菌体より、特開昭60−9489号公報に記載の染色体DNA調製法に従って染色体DNAを調製した。
(実施例1)グルコンアセトバクター・エンタニイからの酢酸耐性遺伝子のクローニングと塩基配列及びアミノ酸配列の決定
(1)染色体DNAライブラリーの作製
グルコンアセトバクター・エンタニイ(Gluconacetobacter entanii)の1株であるアセトバクター・アルトアセトゲネスMH−24株(FERM BP−491)を、6%酢酸、4%エタノールを添加したYPG培地(3%グルコース、0.5%酵母エキス、0.2%ポリペプトン)で30℃にて振盪培養を行なった。培養後、培養液を遠心分離(7,500×g、10分)し、菌体を得た。得られた菌体より、特開昭60−9489号公報に記載の染色体DNA調製法に従って染色体DNAを調製した。
上記のようにして得られた染色体DNAを制限酵素Sau3AI(タカラバイオ社製)で部分消化し、また大腸菌−酢酸菌シャトルベクターpUF106を制限酵素BamHIで完全消化して、切断した。これらのDNAを適量ずつ混合し、ライゲーションキット(TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2、タカラバイオ社製)を用いて連結してグルコンアセトバクター・エンタニイの染色体DNAライブラリーを構築した。
(2)酢酸耐性遺伝子のクローニング
上記のようにして得られたグルコンアセトバクター・エンタニイの染色体DNAライブラリーを、通常は寒天培地上で酢酸濃度1%程度までしか増殖出来ないアセトバクター・アセチNo.1023株(FERM BP−2287)に形質転換した。
その後、形質転換されたアセトバクター・アセチNo.1023株を、2%酢酸、100μg/mlのアンピシリンを含むYPG寒天培地で、30℃で4日間培養した。
上記のようにして得られたグルコンアセトバクター・エンタニイの染色体DNAライブラリーを、通常は寒天培地上で酢酸濃度1%程度までしか増殖出来ないアセトバクター・アセチNo.1023株(FERM BP−2287)に形質転換した。
その後、形質転換されたアセトバクター・アセチNo.1023株を、2%酢酸、100μg/mlのアンピシリンを含むYPG寒天培地で、30℃で4日間培養した。
そこで生じたコロニーを100μg/mlのアンピシリンを含むYPG培地に接種して培養し、得られた菌体からプラスミドを回収したところ、図1に示した約3.3kbpのSau3AI断片がクローン化されたプラスミドが回収でき、このプラスミドをpTPI−1と命名した。さらに、2%酢酸を含有するYPG寒天培地でアセトバクター・アセチNo.1023株を生育可能にするDNA断片は、pTPI−1にクローン化された約3.3kbpのSau3AI断片中の約1.8kbpのPstI−HindIII断片であ
ることが確認できた。
ることが確認できた。
このようにして通常は寒天培地上で酢酸濃度1%程度までしか増殖出来ないアセトバクター・アセチNo.1023株を2%酢酸含有寒天培地でも増殖可能にする酢酸耐性遺伝子断片を取得した。
(3)クローン化されたDNA断片の塩基配列の決定
上記のクローン化されたPstI−HindIII断片をpUC19のPstI−Hi
ndIII切断部位に挿入し、該断片の塩基配列を、サンガーのダイデオキシ・チェーン・ターミネーション法によって決定した結果、配列番号1に記載した塩基配列が決定された。配列決定は両方のDNA鎖の全領域について行ない、切断点は全てオーバーラップする様にして行なった。このようにして得られた遺伝子をTPIと命名した。
上記のクローン化されたPstI−HindIII断片をpUC19のPstI−Hi
ndIII切断部位に挿入し、該断片の塩基配列を、サンガーのダイデオキシ・チェーン・ターミネーション法によって決定した結果、配列番号1に記載した塩基配列が決定された。配列決定は両方のDNA鎖の全領域について行ない、切断点は全てオーバーラップする様にして行なった。このようにして得られた遺伝子をTPIと命名した。
配列番号1に示す塩基配列中には、塩基番号340から塩基番号1197にかけて、配列番号2に示す286個のアミノ酸をコードするオープンリーディング・フレーム(ORF)の存在が確認された。
(実施例2)グルコンアセトバクター・エンタニイ由来の酢酸耐性遺伝子で形質転換した形質転換株での酢酸耐性の増強
(1)アセトバクター・アセチへの形質転換
上記のようにしてクローン化されたアセトバクター・アルトアセトゲネスMH−24株(FERM BP−491)由来の酢酸耐性遺伝子を、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用いてPCR法によって増幅した。酢酸菌−大腸菌シャトルベクターpUF106(Fujiwara, M. et al., Cellulose, 1989, 153-158参照)を制限酵素EcoRIで切断後、T4DNAポリメラーゼにより平滑末端化し、その部位に、増幅したDNA断片を、ベクター中に存在するlacプロモーターによってORFの発現制御可能な方向に挿入し、pTPIを作製した。pTPIに挿入された増幅断片の概略を図1に示した。
(1)アセトバクター・アセチへの形質転換
上記のようにしてクローン化されたアセトバクター・アルトアセトゲネスMH−24株(FERM BP−491)由来の酢酸耐性遺伝子を、KOD−Plus−(東洋紡績社製)を用いてPCR法によって増幅した。酢酸菌−大腸菌シャトルベクターpUF106(Fujiwara, M. et al., Cellulose, 1989, 153-158参照)を制限酵素EcoRIで切断後、T4DNAポリメラーゼにより平滑末端化し、その部位に、増幅したDNA断片を、ベクター中に存在するlacプロモーターによってORFの発現制御可能な方向に挿入し、pTPIを作製した。pTPIに挿入された増幅断片の概略を図1に示した。
PCR法は次のようにして実施した。すなわち、鋳型として上記酢酸菌由来のゲノムDNAを用い、プライマーとしてプライマー1(5’−TTTCCGGTCGGGCACCATAC−3’;配列番号3)及びプライマー2(5’−CGTCTTTCCAGTAGATCCCC−3’;配列番号4)を用い、下記の条件にて、PCR法を実施した。
すなわち、PCR法は94℃15秒、60℃30秒、68℃2分を1サイクルとして、30サイクル行った。
すなわち、PCR法は94℃15秒、60℃30秒、68℃2分を1サイクルとして、30サイクル行った。
このpTPIをアセトバクター・アセチNo.1023株にエレクトロポレーション法(Wong, H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1990, 87:8130-8134参照)によって形質転換した。形質転換株は100μg/mlのアンピシリン及び2%の酢酸を添加したYPG寒天培地で選択した。
選択培地上で生育したアンピシリン耐性の形質転換株について、定法によりプラスミドを抽出して解析し、酢酸耐性遺伝子を保有するプラスミドを保持していることを確認した。
(2)形質転換株の酢酸耐性
上記のようにして得られたプラスミドpTPIを有するアンピシリン耐性の形質転換株を、酢酸を添加したYPG培地での生育について、シャトルベクターpUF106のみを導入した元株アセトバクター・アセチNo.1023株と比較した。
上記のようにして得られたプラスミドpTPIを有するアンピシリン耐性の形質転換株を、酢酸を添加したYPG培地での生育について、シャトルベクターpUF106のみを導入した元株アセトバクター・アセチNo.1023株と比較した。
具体的には、エタノール3%とアンピシリン100μg/mlを含有する100mlのYPG培地と、エタノール3%、酢酸3%とアンピシリン100μg/mlを含有する100mlのYPG培地のそれぞれに、pTPIを有する形質転換株とシャトルベクターpUF106を有する元株を接種し、30℃で振とう培養(150rpm)を行ない、形質転換株と元株の酢酸添加培地での生育を660nmにおける吸光度を測定することで比較した。
その結果、図2に示すように、酢酸を含有しない培地では形質転換株及び元株はほぼ同様の増殖が可能であったのに対し、3%酢酸と3%エタノールを添加した培地では、形質転換株は増殖が可能であるのに対して、元株アセトバクター・アセチNo.1023株は増殖できないことが確認でき、酢酸耐性遺伝子の酢酸耐性増強機能が確認できた。
本発明により、酢酸耐性に関与する新規な遺伝子が提供され、さらに該遺伝子を用いてより高酢酸濃度の食酢を高効率で製造可能な育種株を取得することができ、更に、該育種株を用いたより高酢酸濃度の食酢を高効率で製造する方法の提供が可能となった。
配列番号3及び4:合成オリゴヌクレオチド
Claims (9)
- 下記の(A)又は(B)に示すタンパク質TPI。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位を含むアミノ酸配列を含み、かつ、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質。 - 下記の(A)又は(B)に示すタンパク質TPIをコードするDNA。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位を含むアミノ酸配列を含み、かつ、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質。 - 下記の(A)、(B)又は(C)に示すDNA。
(A)配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号340〜1197からなる塩基配列を含むDNA。
(B)配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号340〜1197からなる塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質TPIをコードするDNA。
(C)配列番号1に示される塩基配列のうち、塩基番号340〜1197からなる塩基配列又はその一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、酢酸耐性を増強する機能を有するタンパク質TPIをコードするDNA。 - 請求項2又は3に記載のDNAを含む組換えベクター。
- 請求項4に記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
- 請求項2又は3に記載のDNAからのコピー数が細胞内において増幅されていることを特徴とする酢酸耐性が増強された微生物。
- 微生物がアセトバクター属又はグルコンアセトバクター属に属する酢酸菌である請求項6に記載の微生物。
- 請求項6又は7記載の微生物を、アルコールを含有する培地で培養し、該培地中に酢酸を生成蓄積せしめることを特徴とする食酢の製造方法。
- 請求項8に記載の方法により得られる、酢酸を高濃度に含む食酢。
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