JP4548339B2 - 高グルタミン・グルタミン酸含有ポリペプチド混合物及びその製造法 - Google Patents

高グルタミン・グルタミン酸含有ポリペプチド混合物及びその製造法 Download PDF

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Description

本発明は大豆種子貯蔵蛋白質から高Glx含有ポリペプチド混合物と、これにLysとArgの豊富なペプチドが含まれるポリペプチド混合物を提供するものである。
植物種子を原料とした高Glx含有ペプチドの製造については、小麦グルテンからのものが報告されているに過ぎず(非特許文献1)、大豆蛋白からの製造の試みは全くなされていなかった。しかしながら、小麦グルテンからのものについても、これに含まれるGlxが殆どグルタミンであるため、分子量の大きい水可溶性の高Glx含有ポリペプチドは得られず、従って、水可溶性の高Glx含有ペプチドは分子量の小さいオリゴペプチドで、Asx,Lys,Argを豊富に含むものではなかった。一方、大豆蛋白質からのペプチドの製造については、プロテアーゼ分解が主に中性〜酸性領域、37〜50℃、5〜6時間であったため、分解が不完全であったのに加え、混在するエキソペプチダーゼの作用もあって、高Glx含有ポリペプチドの集積が少なく、他のペプチドとの分別の試みもなされていなかった。
特開平10−101576号公報 鈴江 緑衣朗:「たんぱく質・アミノ酸」,臨床栄養,Vol.80,No.3,289−294(1992). F.L.Sabastiani,et al.:Plant Mol.Bio.,15,197−201(1990). N.C.Nielsen et al.:Plant cell,1,313−328(1989).
本発明はグルタミンとグルタミン酸の豊富な水溶性の高分子量ポリペプチドを高い収量で得ることを目的とした。
本発明者らはこれらの問題を解決するために種々検討を行った。本発明者等は、大豆種子の貯蔵蛋白質は食品としてアミノ酸バランスのよい水溶性蛋白質で、292個のアミノ酸残基からなる酸性サブユニットと185個のアミノ酸残基からなる塩基性サブユニットから構成されるグリシニンと626個のアミノ酸残基から成るコングリシニンの会合体でグルタミン・グルタミン酸及び疎水性アミノ酸の連続した配列が随所に存在し、これらの間にLysとArgが点在する特徴あるアミノ酸配列を有することに着眼した。
本発明者らは、この大豆蛋白質の特徴あるアミノ酸配列より、分子量の大きい高Glx含有ポリペプチド混合物を簡便に収量よく製造するために、Glxを多く含む領域のペプチド結合は切断せず、他のペプチド結合を切断するようなプロテアーゼと、それによる分解の条件を選定することが重要で、さらに不完全分解によって残存する分子量の大きい画分を高Glx含有ポリペプチド混合物から分別し、さらに多量に存在する低分子量のペプチドを除去することにより目的のポリペプチドを得ることが出来る知見を得て本発明を完成するに到った。
即ち、本発明は、大豆蛋白原料をプロテアーゼで処理し、疎水性アミノ酸の豊富な未分解の高分子画分を沈殿として除去する第1工程、残りの溶液にエタノールを添加して沈殿画分を得る第2工程を経て、該沈殿画分を乾燥することを特徴とする高グルタミン・グルタミン酸(Glx)含有ポリペプチド混合物の製造法である。
プロテアーゼ処理はアルカリ域を保持しながら基質特異性の低いプロテアーゼで加水分解することが好ましい。第1工程における未分解高分子画分の沈殿除去は酸性pH調節及び/又はエタノールの添加によることが好ましい。第2工程の後にゲル濾過により低分子ペプチドを除去することが好ましい。
また、本発明は、大豆蛋白由来であって、分子量が1〜13kDa、Glxの含有量が27.4〜27.8mol%であり,Asx,Lys,Argの含量がそれぞれ11〜13,9〜11,11〜15mol%である高Glx含有ポリペプチド混合物(アスパラギンかアスパラギン酸か不明の際はAsxと略する)である。また、本発明は、大豆蛋白由来であって、分子量が6〜13kDa、Glxの含量が37〜39mol%、Asxの含量が15.4〜16.2mol%である高Glx含有ポリペプチド混合物である。
本発明に係わるポリペプチド混合物は、大豆蛋白質由来のグルタミン・グルタミン酸の豊富なポリペプチド混合物で、多くの−COOH基を有し、水にも50%エタノールにも可溶な両親媒性であるため、新しい機能素材としての開発が期待できる。またエタノール沈殿法で得られた標品は、Glxに加え、人の生理作用に重要な働きをもつAsx,Lys,Argを多く含み、更なる酵素分解による生理機能性ペプチドの作出や、アミノ酸サプリメントとしての有効利用が期待できる。
本発明に用いる大豆蛋白原料としては分離大豆蛋白質や脱脂豆乳が好ましいが、脱脂大豆でも用いることが出来る。しかしながら、後者の場合は蛋白質以外の成分を多量に含むため、プロテアーゼによる分解度が悪く、またプロテアーゼ分解物からの未分解高分子画分の沈殿除去が酸性pH調節のみでは不充分で、エタノールの添加を必要とした。大豆蛋白原料に水を加えて攪拌し、pHをアルカリ領域に調節した後、プロテアーゼを加えて酵素分解を開始するが、この場合、蛋白質は完全に溶解させる必要はなく(分解中に溶解する)、加える水の量は蛋白原料の5〜20倍、好ましくは9〜10倍がよい。
本発明に用いるプロテアーゼとしては、アルカリ側に最適pHを持ち、高温で安定であり、ほとんどのペプチド結合を分解できる、基質特異性の低いプロテアーゼが好ましく、例えばBacillus
subutilis由来のアルカリプロテアーゼであるビオブラーゼなどを用いることが出来る。
大豆蛋白原料をプロテアーゼで処理する態様として、プロテアーゼ処理をアルカリ域を保持しながら基質特異性の低いプロテアーゼで加水分解することが好ましい。通常、大豆蛋白をアルカリ域で酵素分解すると加水分解が進むにつれてpHが低下し微酸性域に移行してしまう。本発明においてはアルカリ域を保ちながら酵素分解することによって目的のグルタミン酸の豊富な高分子のポリペプチドを得ることが出来る。微酸性域に移行したままで酵素分解を続けると低分子のオリゴペプチドにまで加水分解されるだけでなく、グルタミン酸の豊富なペプチド画分を得ることが困難となる。
かかるアルカリ域としてはpH7.5〜10、好ましくはpH8〜9.5、より好ましくはpH8.5〜9.0が適当である。このpH調節には苛性ソーダ溶液などのアルカリ金属水酸化物を用いることも出来るが、アンモニア溶液(例えば5%溶液)などの有機アルカリを用いることが出来る。例えば、アンモニア溶液を用いると高濃度を使用できるので緩衝能が大きく、pH調節の頻度が少なくて済むことに加え、分解後の減圧濃縮により分解液から容易に除去でき、中和による塩の生成を避けることが出来る。
プロテアーゼ分解の温度は、分解過程における雑菌による汚染を避けるために高い方が望ましく、例えば、ビオブラーゼの場合、pH9で安定である45〜55℃を用いることが好適である。分解時間としては分解によるpHの低下が無くなるまで行うことが好ましく、大豆蛋白原料に対して1/100重量の酵素を用いた場合15〜20時間とすることが出来る。
この酵素分解によって、大部分の蛋白質が小さいペプチドにまで分解されるが、大豆蛋白質中に存在する疎水性アミノ酸に富む固い高次構造部分は分解されにくく、分子量の大きいポリペプチドとして残存するので、目的とする高Glx含有ポリペプチドと分別することが出来る。
即ち、第1工程において、疎水性アミノ酸の豊富な未分解の高分子画分を沈殿として除去することが出来る。この未分解高分子画分の沈殿除去は酸性pH調節及び/又はエタノールの添加によって行うことが出来る。
このようにすると未分解の疎水性高分子ポリペプチドは沈殿するが、グルタミン酸の豊富な高Glx含有ポリペプチドは溶液中に残るため、両者を分別できる。
未分解の疎水性高分子ポリペプチドを沈殿させる酸性pH調節は、大豆蛋白の等電点近傍にすることが好ましく、例えば、pH3.5〜5.5、好ましくはpH4.0〜5.0が適当である。
沈殿の程度は用いる蛋白原料(例えば分離大豆蛋白、濃縮大豆蛋白、豆乳、脱脂大豆など)により異なり、大豆蛋白の割合が低くなるほど沈殿度が悪くなるため、この場合はさらにエタノール添加をすることが好ましい。
エタノール添加により沈殿物と溶液を分別する場合、未分解の疎水性高分子ポリペプチドを沈殿させるエタノール濃度は、pHによって異なり、中性の場合は酸性の場合より高いエタノール濃度を必要とするが、中和した分解液にエタノールを加える場合、50%エタノール濃度までの低い濃度で殆ど沈殿するので、エタノール濃度は50%以下とすることが出来る。大豆蛋白の割合が高い分離大豆蛋白を用いる場合でかつ等電点付近であればアルコールはほとんど必要とせず、等電点以外でも、大豆蛋白割合の高い分離大豆蛋白を用いる場合エタノール濃度は20%〜50%で未分解の疎水性高分子ポリペプチドを沈殿させることが出来る。
未分解の疎水性高分子ポリペプチドを沈殿として除去した第1工程の後、残りの溶液にさらにエタノールを加えると高Glx含有ポリペプチドを沈殿させることが出来る。加えるエタノールの量は溶液のエタノール濃度が70〜80%となるように加えることが好ましい。エタノールの濃度が低いと目的の高Glx含有ポリペプチドの収率が低下し、高いと低分子ペプチドまで沈殿してしまい目的の高Glx含有ポリペプチドの純度が低下する。
このようにして得られた高Glx含有ポリペプチドは、分子量が1〜13kDaでGlxの含有が27.4〜27.8mol%(大豆蛋白質のGlx含有量より約8%高い)であり,Asx,Lys,Argの含量がそれぞれ11〜13,9〜11,11〜15mol%である高Glx含有ポリペプチド混合物とすることができる。
第2工程の後にゲル濾過により低分子ペプチドを除去することが出来る。ゲル濾過剤としては、分子量3,000〜15,000を分画できるものであればよく、例えばBio Gel P−10やSephadex
G−50などを用いることが出来る。エタノールによって沈殿した高Glx含有ポリペプチドはエタノールを蒸散するなどして除去した後、該高Glx含有ポリペプチドに含まれる分子量の異なるペプチドをゲル濾過によって分画した場合分子量が6〜13kDaでGlxの含量が37〜39mol%、アスパラギン酸・アスパラギン(Asx)の含量が15.4〜16.2mol%である高Glx含有ポリペプチド混合物とすることが出来る。分子量の大きい画分ほどGlxを多く含み、そのGlx含量は39mol%まで上昇させることができる。なお、透析による分画では、高分子量画分(内液)と低分子量画分(外液)のGlx含量は殆ど同じで、ゲル濾過のような効果は認められない。
以上のように、ゲル濾過によって低分子画分を除去した高Glx含有ポリペプチド混合物は37〜39mol%のGlxを含み、Asxも15.4〜16.2mol%と高い値を示したが、LysとArgの含量はゲル濾過によって、それぞれ4.34〜4.71と4.67〜5.77mol%に減少し、事実、高Lys(23.37%mol%)含有画分と高Arg(27.93mol%)含有画分が低分子量領域に得られる。
以下、実施例ににより本発明の実施態様を説明する。
[実施例1]
分離大豆蛋白質(SPI)(不二製油(株)製「フジプロ−R」)300gに脱イオン水を加えて31とし、5%アンモニア溶液でpH9に調整した後ビオブラーゼ6gを加え、攪拌しながら50℃恒温槽中、同アンモニア溶液でpH9に調節しながら20時間インキュベートした。遠心分離して得られた上清をロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮した後、凍結乾燥し、241g(収量=80.1%)のSPI−ビオブラーゼ分解物を得た。
SPI−ビオブラーゼ分解物50gを含む水溶液250mlに250mlのエタノールを加え、生じた沈殿を遠心分離によって除去した後、上清に70%濃度にまでエタノールを添加した。生じた沈殿を50〜70%EtOH−Ppt画分として遠心分離により分離し、さらに上清に80%濃度にまでエタノールを加え、生じた沈殿を70〜80%EtOH−Ppt画分とて遠心分離した。これらを脱イオン水に溶解して凍結乾燥した結果それぞれ15.1g〔収量=31.6%〕と6.1g(収量=12.2%)でいずれもAsx,Lys,Argを多く含む高Glx含有ポリペプチドであった。それらのアミノ酸組成を表1に示す。
Figure 0004548339
Figure 0004548339
得られた50〜70%EtOH−Ppt画分20mgを脱イオン水に溶解して遠心分離後、上清をBio Gel P−10カラム(1.8×20cm)に供し、脱イオン水で展開した結果、図1に示すように、2つの画分に分かれた。最初に溶出される分子量の大きい画分(画分1)のアミノ酸組成を表1に示すが、ゲル濾過により低分子成分が除去された結果、Glxの含量が著しく高い高Glx含有ポリペプチド混合物が得られた。
[実施例2]
分離大豆蛋白質200gに脱イオン水を加えて2lとし、アンモニア溶液でpHを9にした後、ビオブラーゼ4gを加え、50℃で20時間インキュベートした。分解液を減圧濃縮により1lまで濃縮した後、酢酸を加えてpHを5に調節して氷冷し、生じた沈殿を遠心分離によって除去した。先ず、得られた上清に同容量のエタノールを加えて冷却し、生じた沈殿をSPIからのpH5/0〜50%EtOH−Ppt画分とし遠心分離し、次いで上清に70%濃度になるまでエタノールを加え、生じた沈殿をSPIからのpH5/50〜70%EtOH−Ppt画分として分離した。脱イオン水に溶解後、凍結乾燥した結果18.9g〔収量=9.5%〕のpH5/0〜50%EtOH−Ppt画分と47.4g(収量=23.7%)のpH5/50〜70%EtOH−Ppt画分が得られ、表1に示すように、いずれもLysとArgを多く含む高Glx含有ポリペプチド混合物であった。
[実施例3]
ヘキサン脱脂大豆粉末300gに脱イオン水を加えホモゲナイズし(約31)、5%アンモニア溶液でpH9に調節した後、3gビオブラーゼを加え、50℃で20時間分解した。遠心濾過して得られた濾液を減圧濃縮した後、凍結乾燥し188gの脱脂大豆−ビオブラーゼ分解物を得た。10gの分解物に脱イオンス水100mlを加え、酢酸にてpHを5に調節して冷却した後、生じた沈殿を遠心分離によって除去した。得られた上清に同容量のエタノールを加え、生じた沈殿を脱脂大豆からのpH5/0〜50%EtOH−Ppt画分とし、さらに70%濃度までエタノールを加え、生じた沈殿を脱脂大豆からのpH5/50〜70%EtOH−Ppt画分として分離した。
両画分をBio Gel P−10カラムを用いたゲル濾過に供し、0.1%アンモニア溶液で展開した結果、図2に示すような2〜4個のピークが得られた。それらのアミノ酸組成を調べた結果、表2に示すように、高Glx含有ポリペプチドはpH5/0〜50%EtOH−Ppt画分には含まれず、pH5/50〜70%EtOH−Ppt画分の高分子画分(画分1)に含まれることがわかった。またその低分子画分(画分3と画分4)はそれぞれ高いLysとArg含量を示し、これらを含むペプチドが分子量の大きい高Glx含有ポリペプチドと共存していたことがわかった。
Figure 0004548339
Figure 0004548339
分離大豆蛋白質のビオブラーゼ分解物から分画した50〜70%EtOH−PptのBio Gel P−10〔1.8×20cm〕によるゲル濾過パターンを示す。展開溶媒は脱イオン水。 脱脂大豆のビオブラーゼ分解物をpH5に調節し、生じた沈殿を除去した上清から分画した0〜50%EtOH−Ppt画分(A)と50〜70%EtOH−Ppt画分(B)のBio Gel P−10〔2×35cm〕によるゲル濾過パターンを示す。展開溶媒は0.1%アンモニア溶液。

Claims (3)

  1. 大豆蛋白原料をプロテアーゼで処理する際、pH7.5〜10のアルカリ域を保持しながら加水分解し、加水分解後の溶液を、pH3.5〜5.5の酸性pH調節及び/又は、エタノール濃度が50%以下になるようにエタノール添加することにより、疎水性アミノ酸の豊富な未分解の高分子画分を沈殿として除去する第1工程、残りの溶液にエタノール濃度が70〜80%となるようにエタノールを添加して沈殿画分を得る第2工程を経て、該沈殿画分を乾燥することを特徴とする高グルタミン・グルタミン酸(Glx)含有ポリペプチド混合物の製造法。
  2. プロテアーゼ処理が、基質特異性の低いプロテアーゼで加水分解する請求項1の製造法。
  3. 第2工程の後にゲル濾過により低分子ペプチドを除去する請求項1又は請求項2の製造法。
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