JP4541527B2 - 防舷材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、船舶等の接岸時や係留時に緩衝材として用いられる防舷材に関するものである。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
船舶を岸壁に接岸する際、あるいは接岸した船舶を岸壁に係留する際などに生じる衝撃や摩擦等から船舶と岸壁の双方を保護することを目的として、一般に、岸壁と船体の両方または一方には防舷材が設置される。
防舷材は、船舶に対して十分な緩衝作用を示すことが必要であるため、その主な構成材料としては、ゴムが広く用いられる。さらに最近では、ゴム防舷材のゴム表面と船舶とが直接に接触しないように、当該ゴム防舷材の受衝面を他の材料からなる表面層で保護する処理が施される。
【0003】
その主な目的は、
(i) ゴム防舷材本体の表面を表面層で覆うことによって、船舶と防舷材本体との直接の接触を避けてゴムの磨耗を防ぎ、防舷材自体の寿命を長くすること、
(ii) ゴム防舷材本体の表面に、摩擦係数が小さく耐衝撃性に優れた樹脂からなる表面層を設けることで、船舶の接岸時にかかる圧縮力や、係留時にかかる摩擦力を分散・軽減させて、例えば防舷材を岸壁に固定するボルト部分に過大な圧力が加わるなどして防舷材自体が破損するのを防止すること、
(iii) 防舷材本体を形成するゴム中に充填材として含有されるカーボンブラックによって、当該ゴムと接触する船体を黒く汚すことのないようにすること、
等にある。
【0004】
上記処理が施された防舷材の具体例として、特開平5−59711号公報には、ゴム防舷材本体の少なくとも受衝面に、重量平均分子量が50万以上の超高分子量ポリエチレン(以下、「UHMW−PE」という。)からなる表面層を直接に積層、一体化したものが開示されている。
かかる防舷材は、UHMW−PEの板を、ゴム防舷材本体のもとになる未加硫のゴムコンパウンドとともに型に仕込み、加熱してゴムを加硫させるとともに、ゴム防舷材本体と表面層とを加硫接着することで製造される。
【0005】
この際、上記公報においては、ゴムを十分に加硫させるとともに、ゴム防舷材本体と表面層とを強固に接着するために、加硫の条件として130〜150℃、5〜20kgf/cmの高温、高圧が要求されている。
しかし防舷材のような大型の部材を製造する際に、その全体を上記の温度までほぼ均一に加熱するのは難しく、上記の範囲より温度の低い部分を生じやすい。そして、特にUHMW−PEからなる表面層と、ゴム防舷材本体との接着部において温度の低い部分を生じると、必然的に両者の接合強度が低下するため、表面層の耐久性が悪化するおそれがある。
【0006】
ゴムとUHMW−PEとの接着方法を開示する特開平7−100931号公報においては、両者をより強固に接着するために145〜155℃、10〜30kgf/cmの条件をクリアすることを要求している。
しかし上記の温度はUHMW−PEの融点を超えることから、上記の条件で防舷材を製造した際には表面層が変形して外観不良を招くことも懸念される。
特開平11−93141号公報には、これらの問題を解決するために、表面層のもとになるUHMW−PEの板と、それよりも薄いゴムの板とをあらかじめ145〜160℃、2〜30kg/cm2の高温、高圧下で接着したのち、この積層体を、ゴム防舷材本体のもとになるゴムコンパウンドとともに型に仕込み、再び同程度の条件で加熱してゴムを加硫させることで、ゴム防舷材本体と表面層とを、加硫接着することが開示されている。
【0007】
かかる防舷材においては、上記ゴムの板が、UHMW−PEの板に比べて薄く、ゴム防舷材本体に比べて極めて薄いことから、たとえ製造する防舷材が大型であるためUHMW−PEの板の表面積が大きくても、当該UHMW−PEの板とゴムの板とを、その全体に亘って130℃以上の高温に加熱することが容易であり、両者はより強固に接着される。またゴムの板とゴム防舷材本体とは同種のゴムで形成されることから、防舷材の製造時に、たとえその一部が必要な加硫温度に達せず、温度の低い部分を生じたとしても、この両者もより強固に加硫接着される。
【0008】
したがって超高分子ポリエチレンからなる表面層が、薄いゴムの板の働きによってより強固に、ゴム防舷材本体に積層、一体化された防舷材が得られる。
しかしこの構成では、上記のようにUHMW−PEの板とゴムの板とを接着する工程と、この積層体を、ゴムコンパウンドとともに加硫して防舷材を製造する工程の2工程に加えて、さらにUHMW−PEの粒子〔ペレット状もしくはパウダー(クラム)状〕を加熱、加圧してプレス成形することによって表面層を形成する工程の3工程で、いずれも130℃を超える高温に加熱する必要があり、加熱のために多大な時間とエネルギーとを要することになるため製造工程が煩雑になって、製造コストが増大するという問題がある。
【0009】
また、上記のものを含めて従来の防舷材はいずれも、UHMW−PEの板とゴムとを加硫接着しているため、UHMW−PEの板からなる表面層が偏摩耗したり割れたりした際に交換が容易でないという問題もある。
本発明の目的は、UHMW−PEからなる表面層が、簡易な工程でもって、しかもより強固に、ゴム防舷材本体に積層、一体化されており、しかもこの表面層を簡単に交換することもできる、新規な防舷材を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ゴム防舷材本体と、UHMW−PEからなる表面層とを、ゴムに対して高い親和性と良好な加硫接着性とを有する、熱可塑性エラストマーからなる中間層を介して積層、一体化することを見出した。
すなわちゴム防舷材本体と表面層とを、熱可塑性エラストマーの中間層を介して加硫接着したときは、当該熱可塑性エラストマーが、通常は110℃以上というこれまでよりも低い温度でゴムと良好に、しかも強固に加硫接着されるため、
(a) 表面層を、ゴムコンパウンドとともに、従来同様の条件下で加硫して防舷材を製造する際に、たとえ加硫温度より低い部分が生じても、両者の間に挟まれた熱可塑性エラストマーの中間層の働きによって、これまでのような接着不良を生じることなく強固に接合でき、しかも
(b) 多大な時間とエネルギーとを要する高温加熱を、上記の防舷材を製造するための加硫工程と、それに先立つ表面層のプレス成形工程のみにして製造工程を簡略化できるとともに、
(c) 表面層が偏摩耗などを生じた際には、加熱して熱可塑性エラストマーの中間層を溶かすだけで古い表面層をはがすことができ、しかもはがしたあとに、熱可塑性エラストマーの中間層を介して再度、新たな表面層を加硫接着するだけで積層、一体化できるため交換が容易になる、
という新たな事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る防舷材は、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、およびエチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種の加硫性のゴムと加硫系薬剤とを配合したゴムコンパウンドからなるゴム防舷材本体と、当該ゴム防舷材本体の少なくとも受衝面に配置された表面層とを備え、前記表面層が、超高分子量ポリエチレンの層であって、前記ゴム防舷材本体との間に、S−EP系熱可塑性エラストマー、およびS−EP−S系熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種の熱可塑性エラストマーからなる中間層を介して積層、一体化されたことを特徴とするものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の防舷材について説明する。
〔UHMW−PE〕
本発明の防舷材のうち表面層は、前記のようにUHMW−PEにて形成される。UHMW−PEの中でも、耐磨耗性、耐衝撃性、耐候性等に優れるという観点から、粘度法による重量平均分子量が50万以上であるUHMW−PEを用いるのが好ましい。また表面層の耐衝撃性等をより一層、優れたものとするためには、UHMW−PEの重量平均分子量は、上記範囲内でも300万以上であるのが最適である。
【0013】
表面層を形成するUHMW-PEには、通常、樹脂加工物に添加されるような配合剤を含有していてもよい。かかる配合剤としては、例えば架橋剤、軟化剤、老化防止剤、加工助剤、紫外線劣化防止剤等が挙げられ、これらは従来公知の種々のものを用いることができる
【0014】
〔熱可塑性エラストマー〕
中間層を形成する熱可塑性エラストマーとしては、ハードセグメントであるポリスチレンブロック(S)と、ソフトセグメントであるポリ(エチレン−プロピレン)ブロック(EP)とを組み合わせた、S−EP系熱可塑性エラストマー、およびS−EP−S系熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種(クラレ社製の商品名「セプトン」シリーズなど)が用いられる。
【0015】
〔ゴム〕
ゴム防舷材本体を形成するゴムとしては、天然ゴム(NR)、あるいは合成ゴムの中から、単独もしくはブレンドしたものが用いられる。合成ゴムとしてはスチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(EPDM)が用いられる。
【0016】
ゴムには、加硫剤、加硫促進剤等の加硫系薬剤を配合する。また、通常に添加されるその他のゴム用配合剤を配合していてもよく、その例としては充填剤(例えば、カーボンブラック、シリカ、クレー等)、軟化剤、老化防止剤、加工助剤等が挙げられる。
このうち加硫剤としては、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄等の硫黄のほか、例えばアルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂、熱反応性フェノール樹脂、アルキル−フェノールホルムアルデヒド樹脂、臭素化アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂等の樹脂加硫剤を用いることもできる。
【0017】
加硫促進剤には、従来公知の種々のものが使用可能である。他の添加剤としては、例えば着色剤等があげられる。
〔表面層および中間層〕
前述したように熱可塑性エラストマーは、ゴム防舷材本体を形成するゴムに対して良好な親和性、加硫接着性を有するものの、基本的に、UHMW−PEとは接着しない。
【0018】
そこで請求項2に記載したように、UHMW−PEと熱可塑性エラストマーとを、それぞれ粒子状〔ペレット状もしくはパウダー(クラム)状〕のままで層状に敷き並べて積層し、加熱、加圧してプレス成形することによって、表面層と中間層との積層体を作製するのが好ましい。この方法によると、両層の界面では両樹脂が入り組んだ構造を呈するため、いわゆるアンカー(投錨)効果によって、両層の接着性を実用レベルに向上することができる。
【0019】
なおこの際、成形性を向上するとともに、両層の界面で両樹脂が入り組んだ構造をスムースに形成するためには、互いのメルトフローレート(MFR)が近いUHMW−PEと熱可塑性エラストマーとを選択して組み合わせるのが好ましい。
上記のようにして形成した表面層、および中間層の性状等は特に限定されない。しかし表面層の表面は、前述した、船舶の接岸時にかかる圧縮力や、係留時にかかる摩擦力を分散・軽減させるという、表面層本来の機能を考慮すると、ASTM D1894の規定に基づいて測定した動摩擦係数μが0.3以下、特に0.2以下であるのが好ましい。
【0020】
また表面層の厚みは特に限定されないが、通常は2mm以上、とりわけ5mm以上で、かつ100mm以下、とりわけ70mm以下であるのが好ましい。また防舷材本体を形成する各部(受衝面を有する頂部や、それを支える脚部など)の厚みに対して10%以下とするのが好ましい。
一方、中間層の厚みも特に限定されないが、あまり厚くなると中間層全体を十分に加熱させることができなくなり、薄すぎると中間層として十分に機能しなくなるため、通常は10mm以下、とりわけ5mm以下で、かつ0.5mm以上、とりわけ1mm以上であるのが好ましい。
【0021】
〔防舷材の製造〕
本発明の防舷材を製造するにあたっては、まず防舷材の形状に対応する型の、防舷材の受衝部に相当する所定の位置に、上記表面層と中間層の積層体を、表面層が外側、中間層がゴムと接する内側となるように敷き詰める。それとともに、ゴム防舷材本体を形成するための、例えばシート状のゴムコンパウンドを上記型内に敷き詰め、積み重ねて充てんする。
【0022】
シート状のゴムコンパウンドは、前記のゴムを素練りし、これに加硫剤、加硫促進剤その他の添加剤を、ゴム防舷材本体に求められる特性(圧縮性等)に適した組成比にて配合して混練したのちシート状に押し出し、作業上適当な大きさおよび形にカットすることによって得られる。
こうして防舷材の原型を作製し、次いでこれを、型ごと缶加硫機やプレス加硫機によって加熱、加圧して加硫し、冷却したのち脱型することによって防舷材が製造される。
【0023】
【実施例】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を説明する。
実施例1
〔積層体の作製〕
UHMW−PE〔重量平均分子量500万、融点135℃、MFR0.08g/10分〕のパウダーと、スチレン系熱可塑性エラストマー〔前出のクラレ社製セプトン2003、MFR0.1g/10分〕のパウダーとを、それぞれ層状に敷き並べて積層し、プレス温度200℃、プレス時間10分間の条件で加熱、加圧してプレス成形したのち急冷して、表面層と中間層との積層体を作製した。表面層の厚みは50mm、中間層の厚みは2mmであった。
【0024】
〔ゴムコンパウンドの作製〕
天然ゴムとSBRとを、重量比で50:50の割合で混合し、素練りした基材ゴム50重量部に下記の各成分を配合し、混練したのち押し出してシート状のゴムコンパウンドを作製した。
(成 分) (重量部)
天然ゴム 25
SBR 25
カーボンブラック 35
硫黄 1
添加剤 14
(添加剤の内訳は老化防止剤、ワックス、酸化亜鉛、および加硫促進剤)
〔防舷材の製造〕
全高800mm、受衝面である頂部幅920mm、底部幅1900mm、全長2000mmの、縦型の防舷材を製造することとし、それに対応した型を用意した。
【0025】
次いで前記積層体を、防舷材の、受衝部の寸法に対応する幅920mm、長さ2000mmにカットして、上記型の受衝部に相当する位置に、表面層が外側、中間層がゴムと接する内側となるように敷き詰めた。
次に、前記ゴムコンパウンドを作業上適当な大きさおよび形にカットしながら上記型内に敷き詰め、積み重ねて充てんした後、型ごと缶加硫機内に収容して、缶内温度145℃、加硫時間9時間の条件で加硫して防舷材を製造した。
【0026】
この際、中間層付近の温度を、熱電対を用いて測定したところ、その到達最高温度は115℃であった。
〔はく離試験〕
加硫後、型から取り出した防舷材から、日本工業規格JIS K6256「加硫ゴムの接着試験方法」所載の第4項「布と加硫ゴムのはく離試験」で規定された短冊状試験片の形状に対応した試験片を切り出し、上記試験方法に準じて、ゴム防舷材本体を形成するゴムと、表面層とのはく離試験を行った。その結果、はく離面は、ゴムもしくは中間層のいずれかの層自体が破壊する材料破壊であり、各層の接着性は良好であることが確認された。
【0027】
比較例1
積層体に代えて、UHMW−PEのパウダーのみを同条件でプレス成形して作製した、中間層を有しない単層の表面層のみを、積層体と同寸法にカットして、型の、受衝部に相当する位置に敷き詰めたこと以外は実施例1と同様にして防舷材を製造した。
加硫後、型から取り出した防舷材から、上記と同じ試験片を切り出して、同様にゴム防舷材本体を形成するゴムと、表面層とのはく離試験を行ったところ、はく離面は両者の界面であり、両層の接着性は不良であることが確認された。

Claims (3)

  1. 天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、およびエチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種の加硫性のゴムと加硫系薬剤とを配合したゴムコンパウンドからなるゴム防舷材本体と、当該ゴム防舷材本体の少なくとも受衝面に配置された表面層とを備え、前記表面層が、超高分子量ポリエチレンの層であって、前記ゴム防舷材本体との間に、S−EP系熱可塑性エラストマー、およびS−EP−S系熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種の熱可塑性エラストマーからなる中間層を介して積層、一体化されたことを特徴とする防舷材。
  2. 超高分子量ポリエチレンの粒子と、熱可塑性エラストマーの粒子とをそれぞれ層状に敷き並べて積層し、加熱、加圧することによって作製された、表面層と中間層との積層体を、ゴム防舷材本体のもとになるゴムコンパウンドとともに型に仕込み、加熱してゴムを加硫させるとともに、ゴム防舷材本体と表面層とを、中間層を介して加硫接着して形成されたことを特徴とする請求項1記載の防舷材。
  3. 超高分子量ポリエチレンが、重量平均分子量50万以上のポリエチレンであることを特徴とする請求項1記載の防舷材。
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