車両の座席に着座した乗員の身体を長尺帯状のウエビングベルトで拘束するシートベルト装置は、座席の側方で車体に固定されたウエビング巻取装置を備えている。ウエビング巻取装置は、例えば、軸方向が略車両前後方向に沿ったスプールを備えており、このスプールにウエビングベルトの長手方向基端側が係止されている。スプールはその外周部にウエビングベルトを層状に巻き取った状態で収容している。
また、ウエビング巻取装置には、ウエビングベルトを巻き取る巻取方向へスプールを付勢する捩じりコイルスプリング等の付勢部材が設けられており、この付勢部材の付勢力でウエビングベルトを巻き取って収容すると共に、乗員の身体にウエビングベルトを装着した状態では、付勢部材の付勢力でウエビングベルトの弛み等を除去している。この種のウエビング巻取装置では、付勢部材の付勢力に抗してウエビングベルトの長手方向中間部に設けられたタングプレートを引っ張ることでスプールに巻き取られたウエビングベルトを引き出し、この状態でタングプレートをウエビング巻取装置とは反対側の座席側方に設けられたバックル装置に保持させることでウエビングベルトを装着できる構造となっている。
一方、車両急減速時等において一層強力に乗員の身体を拘束するために、通常、プリテンショナが設けられており、その一例が下記特許文献1に開示されている(特許文献1ではプリテンショナをベルト予引込装置と称している)。
特許文献1に開示されたベルト予引込装置(プリテンショナ)は、シリンダの内部に摺動可能に設けられたピストンを備えている。ピストンには引張ケーブルの一端が係止されている。引張ケーブルの他端側はプーリの外周部に巻き掛けられている。プーリはベルトドラム(スプール)がベルト(ウエビングベルト)を巻き取る際の回転方向(以下、便宜上、この回転方向を「巻取方向」と称する)に回転することで、間接的にではあるがベルトドラムに同軸的に連結され、巻取方向への回転力をスプールに付与できる構造となっている。
また、ベルト予引込装置はガス発生装置を備えている。ガス発生装置は作動することでガスを発生させ、更に、発生したガスをシリンダに供給する。シリンダにガスが供給されてシリンダの内圧が上昇すると、ピストンが摺動して引張ケーブルが引っ張られる。これにより、引張ケーブルの他端側が巻き掛けられたプーリは巻取方向に回転し、ベルトドラムに連結される。
さらに、プーリの巻取方向の回転力は間接的にベルトドラムに伝えられて、ベルトドラムを巻取方向に回転させる。これにより、ベルトドラムにベルトが巻き取られ、ベルトの緩み(弛み)が解消されると共に、通常時よりも大きな拘束力で乗員の身体を拘束できる構造となっている。
一方、特許文献1に開示されたベルト引込装置(ウエビング巻取装置)のベルトドラムは中空の筒状に形成されており、その内側には捩じり棒(トーションシャフト)が配置されている。
捩じり棒はベルトドラムに対して同軸的に配置されており、捩じり棒の一端(プーリとは反対側の端部)にはロレットが形成されたキャップ片が固定されている。キャップ片のロレットはベルトドラムの内周部に噛み合った状態で一体的に固定されており、これにより、捩じり棒は一端にてベルトドラムに一体的に連結されている。
捩じり棒の他端側(プーリ側)には、締付ローラ結合機構及び締付ローラロック機構が設けられており、上記のようにプーリが巻取方向に回転すると締付ローラ結合機構の締付ローラが円筒形結合ヘッドに係合し、更に、プーリと捩じり棒の他端に設けられた結合ヘッドとの間に締付ローラが押し込まれる。これにより、プーリが捩じり棒を介してベルトドラムに連結され、更に、締付ローラロック機構のロックローラによりプーリが軸受リング上に固定され、巻取方向とは反対の引出方向へのプーリの回転が防止される。
上記のように、ベルト予引込装置が作動した後、例えば、車両急減速時の慣性により乗員の身体が略車両前方側へ移動しようとして、ベルトが引っ張られ、これにより、引出方向への高いトルクがベルトドラムに付与されると、ベルトドラムを介して捩じり棒の一端に引出方向へのトルクが付与される。
この状態では、捩じり棒の他端は締付ローラによりプーリに連結されており、しかも、ロックローラにより引出方向へのプーリの回転が防止されている。したがって、上記のように、捩じり棒の一端に引出方向へのトルクが付与されると捩じり棒の一端が他端に対して引出方向に捩じれて塑性変形する。
このように捩じり棒が塑性変形することでベルトに生ずるエネルギーが消費(吸収)されながらも僅かにウエビングベルトの引き出しが許容され、ウエビングベルトが乗員の身体に付与する力を吸収して軽減する。
特開平6−156884号公報
ところで、上記のように捩じり棒を塑性変形させるためには、捩じり棒の他端を固定しなくてはならない。このため、特許文献1に開示された構造では、締付ローラロック機構を設けている。しかしながら、このように、特別なロック機構を設けることで部品点数が増加してコスト高になってしまい、また、装置全体の構造が複雑化、大型化するという問題もある。
一方で、上記のように車両急減速時においてベルトドラムをロックしてベルトの引き出しを規制するロック機構を備えるウエビング巻取装置もあり、このロック機構で捩じり棒の他端部をロックして間接的にベルトドラムをロックする構成とすることで、捩じり棒が塑性変形する際の捩じり棒の他端部の固定機能をロック機構に付加することも充分に可能である。
しかしながら、この種のロック機構は、通常、ベルトドラムが所定の速さ以上で所定量引出方向に回転しないと作動しないため、車両が急減速状態になり乗員の身体がベルトを引っ張ってからロック機構が作動するまで僅かながらも時間がかかってしまう。
本発明は、上記事実を考慮して、車両急減速状態等に通常時よりも大きな拘束力で乗員の身体を拘束でき、しかも、格別なロック機構を設けなくてもトーションシャフトにてエネルギー吸収が可能なウエビング巻取装置を得ることが目的である。
請求項1に記載の本発明に係るウエビング巻取装置は、長尺帯状のウエビングベルトの長手方向基端部がスプールに係止され、前記スプールの軸周り方向の一方である巻取方向へ前記スプールを回転させることで前記ウエビングベルトを基端側から前記スプールに巻き取らせて前記ウエビングベルトを収納するウエビング巻取装置であって、前記スプールの軸方向に対して略同方向を軸方向とする略棒状に形成されて前記スプールの内側で前記スプールに対して同軸的に相対回転可能に設けられると共に、軸方向中間部よりも一端側の所定部位で前記スプールに一体的に連結されたトーションシャフトと、開口端及びガス流入部を有し、全体的に内気の漏洩が不能なシリンダと、前記シリンダの内側で前記シリンダの開口端側を密閉すると共に、少なくとも前記シリンダの開口端側へ所定量摺動することで前記トーションシャフトの他端部に直接又は間接的に連結され、当該連結状態で前記シリンダの開口端側へ摺動することで前記トーションシャフトの他端部を巻取方向に強制的に回転させると共に、前記シリンダの開口端側とは反対側への外力に対して前記シリンダの内圧によりロックされるピストンと、車両の急減速状態を含む所定の条件下でガスを発生させると共に、発生した前記ガスを前記シリンダ内に供給し、前記ガスの圧力で前記ピストンを前記開口端側に摺動させ、且つ、この摺動方向とは反対側への前記ピストンの移動を規制させるガス発生手段と、を備えることを特徴としている。
請求項1に記載の本発明に係るウエビング巻取装置では、スプールに巻き取られたウエビングベルトをその先端側へ引っ張って、ウエビングベルトを引き出し、更に、引き出したウエビングベルトを乗員が身体に装着することでウエビングベルトにより乗員の身体が拘束される。
また、本ウエビング巻取装置では、ウエビングベルトの装着状態で走行している車両が、例えば、急減速状態になると、ガス発生手段が作動してガス発生手段からガスが発生される。ガス発生手段にて発生したガスはシリンダ内に供給される。シリンダの内部はガス発生手段にて発生したガスが供給されることで、内圧が上昇する。
このシリンダの内圧の上昇により、シリンダに設けられたピストンがシリンダの開口端側へ摺動する。ピストンは少なくともシリンダの開口端側へ所定量摺動すると、トーションシャフトの他端部に直接又は間接的に連結される。さらに、このようにトーションシャフトの他端部に連結された状態でシリンダの内圧の上昇によりピストンが更にシリンダの開口端側へ摺動すると、ピストンはトーションシャフトの他端部を巻取方向に強制的に回転させる。
トーションシャフトは、スプールに対して同軸的に相対回転可能ではあるが、その軸方向中間部よりも一端側にてスプールに一体的に連結されているため、トーションシャフトの他端部が巻取方向に回転すると、この回転力はトーションシャフトとスプールとの連結部分を介してスプールに伝えられる。これにより、スプールが強制的に巻取方向に回転させられる。
スプールが巻取方向に強制的に回転させられることで、ウエビングベルトが基端側からスプールに巻き取られる。これにより、ウエビングベルトの僅かな緩み(弛み)であるスラックが除去されると共に、通常時よりも強い拘束力で乗員の身体がウエビングベルトに保持される。
さらに、車両急減速時における慣性で、乗員の身体が略車両前方側へ慣性移動しようとすると、乗員の身体を拘束しているウエビングベルトが乗員の身体に引っ張られる。ウエビングベルトは引っ張られることでスプールを引出方向に回転させようとする。
上記のように、トーションシャフトの軸方向中間部よりも一端側でトーションシャフトがスプールに一体的に連結されているため、スプールの引出方向への回転力はトーションシャフトのスプールとの連結部分に伝えられ、トーションシャフトを引出方向に回転させようとする。
ここで、この状態では、トーションシャフトの他端部にはピストンが直接又は間接的に連結されているため、トーションシャフトの引出方向への回転力はシリンダの内圧が上昇した際のピストンの摺動方向とは反対側へピストンを摺動させるように作用する。しかしながら、シリンダは全体的に内気の漏洩が不能に密閉され、また、シリンダの開口端もピストンにより内気の漏洩が不能に密閉されているため、シリンダの内圧が上昇した際のピストンの摺動方向とは反対側へ摺動しようとするピストンをシリンダの内部のガス圧が支持し、これにより、シリンダの内圧が上昇した際のピストンの摺動方向とは反対側へのピストンの摺動が規制され、言わば、ピストンのロック状態になる。
このように、ピストンがロック状態になることで、ピストンに直接又は間接的に連結されているトーションシャフトの他端部はロックされ、引出方向の回転が基本的に不能になる。さらに、トーションシャフトがロックされてトーションシャフトの引出方向の回転が規制されることで、トーションシャフトに一体的に連結されているスプールがロックされ、引出方向の回転が基本的に不能になる。
これにより、ウエビングベルトの引き出しが規制され、車両急減速時における乗員の身体の慣性移動が効果的に防止又は抑制される。
この状態で、車両急減速時の慣性で略車両前方側へ移動する乗員の身体が、ウエビングベルトを引っ張り、この引張力に基づいてスプールに付与される引出方向の回転力が、トーションシャフトの剛性を上回ると、この引出方向の回転力がトーションシャフトとスプールとの連結部分に作用する。
この状態では、上記のようにピストンがロックされてトーションシャフトの他端部がロックされているため、本来であれば、トーションシャフトは引出方向に回転することができない。したがって、この状態でトーションシャフトの剛性を上回る引出方向への回転力がトーションシャフトのスプールとの連結部分に作用すると、トーションシャフトの他端と上記の連結部分との間で相対回転が生じ、トーションシャフトが変形する。このトーションシャフトの変形により、ウエビングベルトが乗員の身体に付与する拘束力が弱まる。
このように、本発明に係るウエビング巻取装置では、シリンダに供給されたガスの圧力でピストンがスプールを強制的に巻取方向に回転させてウエビングベルトを巻き取ることでウエビングベルトによる拘束力を増加させ、更に、シリンダに供給されたガスの圧力でピストンをロックしてスプールの引出方向への回転を規制する。しかも、ガスの圧力でピストンをロックすることで、トーションシャフトの他端をロックし、上記のようにトーションシャフトに変形を生じさせることができる。
ここで、シリンダに供給されたガスの圧力でピストンを摺動させ、これにより、スプールを巻取方向に回転させる構造としては、所謂「プリテンショナ」が存在する。しかしながら、本発明に係るウエビング巻取装置に適用されたピストン−シリンダ機構は、全体的にシリンダの内気の漏洩が不能であり、しかも、シリンダの開口端もピストンにより内気の漏洩が不能に密閉される。このため、作動終了後にシリンダの内部に供給されたガスを、ピストンからの圧力で外部に排出できる構造を有する従来のプリテンショナとは根本的に異なり、ガス発生手段にて発生してシリンダの内部に供給されたガスがシリンダの外部に漏洩しない。これにより、本発明に係るウエビング巻取装置では、シリンダの内部のガス圧によりピストンをロックでき、ひいては、トーションシャフトの他端をロックできる。
したがって、スプールをロックするためにプリテンショナとは別に設けられていたロック機構が本発明に係るウエビング巻取装置では不要になる。このため、本発明に係るウエビング巻取装置は全体的に構造を簡素化でき、小型化が可能でコストも安価になる。
また、スプールをロックするための従来のロック機構では、スプールが所定量引出方向に回転しないとロック機構が作動しない構成である。これに対して、本発明に係るウエビング巻取装置では、シリンダに供給されたガスの圧力でピストンがロックされることでトーションシャフトがロックされる。このため、従来のロック機構とは異なり、トーションシャフトやスプールが引出方向に回転しなくてもトーションシャフトを介してスプールをロックできる。このため、従来のロック機構とは異なり、スプールに引出方向の回転力が付与されてからスプールがロックされるまでの時間を短くできる。
以上説明したように、本発明に係るウエビング巻取装置では、車両急減速状態等に通常時よりも大きな拘束力で乗員の身体を拘束でき、しかも、格別なロック機構を設けなくてもトーションシャフトを変形させて過剰な引出方向への回転力のエネルギーを吸収させることができる。
<本実施の形態の構成>
図1には本発明の一実施の形態に係るウエビング巻取装置10の全体構成が縦断面図によって示されている。
この図に示されるように、本ウエビング巻取装置10はフレーム12を備えている。フレーム12は平板状の基部14を備えており、基部14が車体の所定位置にボルト等の締結手段を含む固定手段により固定されることで本ウエビング巻取装置10が車体に取り付けられる構成となっている。
基部14の幅方向一端からは脚板16が延出されていると共に、基部14の幅方向他端からは脚板18が脚板16と同方向で且つ脚板16に対して平行に延出されている。これらの脚板16、18の間には、スプール20が配置されている。
スプール20は脚板16、18の対向方向に沿って軸方向の略円筒形状に形成されている。スプール20には、長尺帯状のウエビングベルト22の長手方向基端部が係止されており、スプール20が自らの軸心周り一方の巻取方向に回転することで、ウエビングベルト22をその基端側から外周部に巻き取り、また、この巻取状態でウエビングベルト22をその先端側へ引っ張ることでスプール20に巻き取られたウエビングベルト22が引き出される構成となっている。
スプール20にはシャフト挿通孔24がスプール20に対して同軸的に形成されている。シャフト挿通孔24の内部には、略円柱形状のトーションシャフト28がスプール20に対して同軸的且つ相対回転可能に収容されている。また、シャフト挿通孔24の脚板16側の端部はスプール20に対して同軸的に形成されたスリーブ挿通孔30の内底部にて開口している。スリーブ挿通孔30は、内径寸法がシャフト挿通孔24よりも充分に大きく、その脚板16側の端部はスプール20の脚板16側の端部にて開口している。
シャフト挿通孔24に収容されたトーションシャフト28の軸方向脚板16側は、スリーブ挿通孔30に入り込んでおり、更に、トーションシャフト28の軸方向脚板16側の端部は、スリーブ挿通孔30に挿通されたスリーブ32に一体的に連結されている。スリーブ32はスリーブ挿通孔30に挿通された状態でスプール20に機械的且つ一体的に連結されており、したがって、トーションシャフト28は、その軸方向脚板16側にてスプール20に対して機械的且つ一体的に連結されている。
スプール20及びトーションシャフト28に連結されているスリーブ32は、脚板16に形成された円孔34を貫通して脚板16の外側に突出している。また、円孔34を貫通したスリーブ32に対応して脚板16の外側にはスプリングケース36が脚板16に固定されている。スプリングケース36は、全体的に略箱形状に形成されており、その内側には渦巻きばね38が収容されている。
渦巻きばね38は、その渦巻き方向内側の端部がスリーブ32の本体部分から同軸的に延出された係止部40に一体的に固定されている。また、渦巻きばね38の渦巻き方向外側の端部はスプリングケース36に一体的に固定されている。渦巻きばね38は、スリーブ32をその軸周り一方である巻取方向に付勢しており、渦巻きばね38の付勢力がスリーブ32を介してスプール20に伝えられ、この付勢力によりウエビングベルト22がスプール20に巻き取られる構成となっている。
一方、シャフト挿通孔24の脚板18側の端部はスプール20に対して同軸的に形成されたスリーブ挿通孔42の内底部にて開口している。スリーブ挿通孔42は、内径寸法がシャフト挿通孔24よりも充分に大きく、その脚板18側の端部はスプール20の脚板18側の端部にて開口している。
シャフト挿通孔24に収容されたトーションシャフト28の軸方向脚板18側は、スリーブ挿通孔42に入り込んでおり、更に、トーションシャフト28の軸方向脚板18側の端部は、スリーブ挿通孔42に挿通されたスリーブ44に一体的に連結されている。但し、スリーブ44はスリーブ32とは異なりスリーブ挿通孔42に挿通された状態でスプール20に連結されているものの、スリーブ44はスプール20に対して同軸的に相対回転可能である。
一方、脚板18の外側には、プリテンショナ50が設けられている。
図1及び図2に示されるように、プリテンショナ50はハウジング52を備えている。ハウジング52は金属若しくは硬質の合成樹脂材によって形成されており、上記の脚板18に固定されている。
ハウジング52には回転部材としてのピニオン54が収容されている。ピニオン54は軸方向が上記の脚板16、18の対向方向とされている。ピニオン54の軸方向脚板18側には、ピニオン54よりも大径の圧接部70が設けられている。
圧接部70は外周形状がピニオン54と同軸の円形とされて軸方向脚板18側が開口した浅底の皿状(若しくは軸方向寸法が短い有底筒状)に形成されている。図3(A)に示されるように、圧接部70の内周形状は、引出方向(図3の矢印Aとは反対方向)へ向けて漸次圧接部70の軸心部分へ接近する湾曲面が、圧接部70の軸心周りに略120度毎に形成されている。
さらに、圧接部70の内側には、回転部72が圧接部70に対して同軸的に設けられている。回転部72は略円板形状とされており、脚板18に形成された円孔58を貫通してハウジング52内へ突出したスリーブ44に同軸的且つ一体的に形成されている。
また、図3(A)に示されるように、回転部72の外周部と圧接部70の内周部との間には、3個の圧接ローラ74が略120度毎に配置されている。図3(A)に示されるように、これらの圧接ローラ74は、外径寸法が圧接部70の内径寸法の最大値と回転部72の外径寸法の差よりも充分に小さく、且つ、外径寸法が圧接部70の内径寸法の最小値と回転部72の外径寸法の差よりも充分に大きい。
これらの圧接ローラ74の各々は、通常、圧接部70の内径寸法が最大となる部分に配置され、ハウジング52から突出された支持シャフト76に支持されている。上記のように、圧接ローラ74の外径寸法は、圧接部70の内径寸法の最大値と回転部72の外径寸法の差よりも充分に小さい。このため、圧接ローラ74の外周部は回転部72の外周部から離間しており、圧接ローラ74が回転部72に干渉することはない。
しかしながら、圧接部70が巻取方向(図3の矢印A方向)に回転することで、漸次内径寸法が小さくなる圧接部70の内周部が圧接ローラ74を圧接部70の軸心側に押圧して支持シャフト76を破断すると、圧接部70からの押圧力で圧接ローラ74が圧接部70の軸心側に変位する。図3(B)に示されるように、上記の圧接ローラ74の変位により圧接ローラ74が回転部72の外周部に圧接した状態では、圧接部70の内周部もまた圧接ローラ74に圧接している。
このため、圧接部70と回転部72とが圧接ローラ74を介して機械的に連結され、巻取方向への圧接部70の回転力が回転部72に伝えられ、回転部72が巻取方向へ回転する構成となっている。上記のように、回転部72はスリーブ44に同軸的且つ一体的に連結されているため、回転部72に付与された巻取方向への回転力は、スリーブ44、トーションシャフト28、及びスリーブ32を介してスプール20に伝えられる構成となっている。
さらに、このように圧接部70と回転部72とが圧接ローラ74を介して機械的に連結された状態では、圧接部70が巻取方向へ回転した際の圧接部70の回転力を回転部72に伝えられることができるため、これとは逆に、回転部72が巻取方向とは反対の引出方向に回転した際の回転力を圧接部70に伝えることもできる。
一方、ピニオン54の側方には、角棒状のラックバー60が配置されている。ラックバー60は上記のフレーム12の高さ方向に沿って長手方向とされており、その幅方向一端部にはピニオン54に噛合可能なラック歯が形成されている。
ラックバー60のラック歯は、通常、ピニオン54に噛み合っていないが、上方向へスライドすることでピニオン54にラック歯を噛み合わせることができるように配置されている。
また、プリテンショナ50はシリンダ62を備えている。シリンダ62は上端の開口部63(特許請求の範囲で言うところの「開口端」に相当)を除いて全体的に内気の漏洩が不能にした有底筒形状に形成されている。また、シリンダ62の内部にはピストン64が上下方向に摺動自在に収容されており、シリンダ62の開口部63側は、ピストン64により密閉され、開口部63からの内気の漏洩はピストン64によって防止されている。ピストン64は、その上側の端部に上記のラックバー60が一体的に連結されており、ピストン64がシリンダ62の内部で上下に摺動することで、ラックバー60が上下にスライドする。
さらに、シリンダ62の底部近傍にはジェネレータ収容部66が設けられている。ジェネレータ収容部66はシリンダ62の軸方向に対して軸方向が傾斜した略筒形状に形成されており、その軸方向一端部はシリンダ62の底部近傍でシリンダ62へ一体的に連結され、しかも、シリンダ62の底部近傍における内部と連通している(シリンダ62の底部近傍のジェネレータ収容部66との連結部分が特許請求の範囲で言うところの「ガス流入部」に相当)。なお、このジェネレータ収容部66とシリンダ62との連結部分には、ジェネレータ収容部66側からシリンダ62側への気体の流入を許容するがシリンダ62側からジェネレータ収容部66側への気体の流入は遮断する逆止弁を設けてもよい。
また、ジェネレータ収容部66の内部にはガス発生手段としてのガスジェネレータ68が収容されている。ガスジェネレータ68は全体的に外径寸法がジェネレータ収容部66の内径寸法よりも極僅かに小さな円柱形状とされており、その内部には燃焼することにより瞬時に所定量のガスを発生するガス発生剤や、このガス発生剤を着火する点火装置等(何れも図示省略)が収容されている。
点火装置は別途設けられた加速度センサへ直接或いはコンピュータ等の制御装置(何れも図示省略)を介して間接的に接続されており、加速度センサが車両急減速状態を検出することで点火装置が作動するとガス発生剤が燃焼して瞬時にガスが発生し、ガスジェネレータ68の軸方向一端部(シリンダ62側の端部)からシリンダ62の内部にガスが供給される構造となっている。
<本実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
乗員がウエビングベルト22に挿通された図示しないタングプレートを持ち、渦巻きばね38の付勢力に抗してウエビングベルト22をスプール20から引き出し、当該タングプレートを図示しないバックル装置に係合させることにより、乗員は三点式シートベルト装置のウエビング装着状態となり、乗員の身体がウエビングベルト22により拘束される。すなわち、センタピラーの上部に配設された図示しないショルダアンカからタングプレートまでのウエビングベルト22がショルダ側のウエビングベルト22となり、タングプレートからバックル装置までのウエビングベルト22がラップ側のウエビングベルト22となる。
一方、上記のウエビングベルト22を装着した状態で、プリテンショナ50の加速度センサにより車両の急減速状態が検知されると、加速度センサから出力された信号が直接、或いは、制御手段を介して間接的にガスジェネレータ68の点火装置に入力される。加速度センサからの信号が入力された点火装置は、ガスジェネレータ68のガス発生剤を燃焼させて瞬時にガスを発生させる。
ガスジェネレータ68内にて発生したガスはジェネレータ収容部66からシリンダ62内に供給される。シリンダ62内にガスが供給されることでシリンダ62内の内圧が上昇し、この内圧の上昇によりピストン64がシリンダ62の上方開口端側へ向けて押し出される。このようにしてピストン64が移動することでピストン64と一体のラックバー60がピニオン54へ噛み合い、ピニオン54を巻取方向へ回転させる。
巻取方向へのピニオン54の回転によって圧接部70が巻取方向に回転すると圧接部70の内周部が圧接ローラ74を押圧して支持シャフト76を破断させ、更に、圧接ローラ74を回転部72の外周部に圧接させて回転部72を巻取方向に回転させる(図3(B)参照)。上述したように、回転部72に付与された巻取方向への回転力は、スリーブ44、トーションシャフト28、及びスリーブ32を介してスプール20に伝えられる。
このため、このように回転部72が急激且つ強制的に巻取方向へ回転させられると、スプール20が急激に巻取方向に回転してウエビングベルト22を巻き取る。これによって、ウエビングベルト22による乗員の身体の拘束力が増加して、乗員の身体がウエビングベルト22によってそれまで(すなわち、通常時)よりも強く拘束される。
また、このような車両の急減速状態では、乗員の身体が略車両前方側へ慣性移動しようとする。乗員の身体が略車両前方側へ慣性移動しようとすると、乗員の身体を拘束するウエビングベルト22が引っ張られ、これにより、スプール22に引出方向への回転力が付与される。
このスプール22に付与された引出方向の回転力は、スリーブ32、トーションシャフト28、及びスリーブ44を介して回転部72に付与される。この状態では、図3(B)に示されるように、回転部72が圧接ローラ74を介して圧接部70に連結されているため、回転部72に付与された引出方向への回転力は圧接ローラ74を介して圧接部70に伝えられ、更に、圧接部70に伝えられた引出方向の回転力はピニオン54に伝えられる。ピニオン54は引出方向の回転力が付与されることで、ピニオン54に噛み合ったラックバー60を下降させようとする。
ここで、上述したように、シリンダ62は開口部63を除いて全体的に内気の漏洩が不能であり、しかも、シリンダ62の開口部63側は、ピストン64により密閉され、開口部63からの内気の漏洩はピストン64によって防止されている。このため、ガスジェネレータ68からシリンダ62の内部に供給されたガスはシリンダ62の外部に漏れ出ることができない。
したがって、引出方向の回転力が付与されたピニオン54によりラックバー60、ひいてはピストン64が下降しようとすると、シリンダ62の内部のガス圧(内圧)がピストン64の下降を妨げるように作用し、結果的に、ピストン64がシリンダ62内のガス圧により下方から支持され、下降しようとするピストン64、ひいては、ラックバー60がロックされる。
このように、ラックバー60がロックされてラックバー60の下降が規制されることで、ピニオン54の引出方向の回転が基本的に不能になる(すなわち、ピニオン54がロック状態になる)。これにより、圧接部70、回転部72、トーションシャフト28の引出方向の回転が規制され、結果的にスプール20の引出方向の回転が規制されてロック状態になる。
このように、スプール20の引出方向への回転が規制されることで基本的にスプール20に巻き取られているウエビングベルト22の引き出しが不能になる。このため、略車両前方側へ慣性移動しようとする乗員の身体によりウエビングベルト22が引っ張られても、基本的にはウエビングベルト22が引き出されることはなく、略車両前方側への乗員の身体の慣性移動がウエビングベルト22により効果的に抑制又は防止される。
次いで、このような状態から略車両前方側へ慣性移動しようとする乗員の身体が更に大きな力でウエビングベルト22を引っ張ろうとすると、トーションシャフト28の一端に引出方向の大きな回転力が作用する。しかしながら、この状態では、上記のように、ピストン64がシリンダ62内のガス圧により下方から支持され、下降しようとするピストン64、ひいては、ラックバー60がロックされるており、これにより、トーションシャフト28の他端では引出方向の回転が不能である(すなわち、トーションシャフト28はロックされている)。
このため、大きな引出方向の回転力がトーションシャフト28の剛性を上回っていれば、トーションシャフト28の一端が他端に対して相対回転し、トーションシャフト28にはその軸心周りに捩じり変形(塑性変形)が生じる。このトーションシャフト28の捩じり変形によって過剰な引出方向への回転力が吸収される。これにより、ウエビングベルト22が乗員身体に与える圧力を軽減できる。
ここで、本ウエビング巻取装置10のプリテンショナ50は、上記のように、ガスジェネレータ68からシリンダ62に供給されたガスの圧力でピストン64を摺動させ、これにより、スプール20を巻取方向に回転させる構造である。したがって、この点に関して言えば、従来周知のプリテンショナと同様の機能を有している。
しかしながら、本ウエビング巻取装置10に適用されたプリテンショナ50のシリンダ62は、全体的に内気の漏洩が不能であり、しかも、シリンダ62の開口端もピストン64により内気の漏洩が不能に密閉されている。これにより、ガスジェネレータ68からシリンダ62に供給されたガスは、シリンダ62の外部に漏れ出ることはなく、このガス圧によりピストン64をロックでき、ひいては、スプール20をロックできる。
すなわち、本ウエビング巻取装置10に適用されたプリテンショナ50は、作動することでスプール20を強制的に巻取方向に回転させてスプール20にウエビングベルト22を巻き取らせ、ウエビングベルト22の拘束力を増加させるという従来のプリテンショナの機能の他に、スプール20をロックして引出方向へのスプール20の回転を規制し、これにより、ウエビングベルト22の引き出しを規制したり、トーションシャフト28を捩じり変形させる際にトーションシャフト28の他端部をロックするという従来のロック機構の機能をも併せ持つ。
但し、このように従来のロック機構の機能を併せ持つにも関わらず、ロック機構としての機能専用の構造を別途設けなくてもよい。このため、従来のプリテンショナとロック機構の双方の機能を有するにも関わらず、部品点数を少なくできて構造を簡素化でき、装置全体の小型化を実現できるうえ、コストも軽減できる。
また、本ウエビング巻取装置10に適用されたプリテンショナ50が、ロック機構としての機能を発揮する際には、従来のロック機構とは異なりスプール20の引出方向の回転が不要である。すなわち、本ウエビング巻取装置10では、上記のように、ガスジェネレータ68からシリンダ62に供給されたガスの圧力でピストン64をシリンダ62の底部側から支持してロックし、これによって、トーションシャフト28の他端部、ひいてはスプール20をロックする構造である。
したがって、ガスジェネレータ68からシリンダ62にガスが供給されて、このガス圧でピストン64が上昇し、ピニオン54が巻取方向に回転して圧接ローラ74により圧接部70と回転部72とが連結された状態では、既にトーションシャフト28の他端部、ひいては、スプール20の引出方向への回転規制されている。
これにより、プリテンショナ50が作動してスプール20にウエビングベルト22を巻き取らせた状態で時間をおかずに素早くトーションシャフト28の他端部、ひいては、スプール20をロックできるという従来のロック機構よりも優れた効果を得ることができる。