JP4518864B2 - 新規な4−ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、その酵素をコードするポリヌクレオチド、その製造方法、およびこれを利用した芳香族化合物の製造方法 - Google Patents
新規な4−ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、その酵素をコードするポリヌクレオチド、その製造方法、およびこれを利用した芳香族化合物の製造方法 Download PDFInfo
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Description
[1]下記(a)乃至(d)の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチド。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列の563番目から1987番目までの塩基を含むポリヌクレオチド
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
[2]芳香族ヒドロキシカルボン酸を脱炭酸し、芳香族アルコールを生成する作用、および/または芳香族アルコールに炭酸付与して芳香族ヒドロキシカルボン酸を生成する作用を有する4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素をコードする、上記[1]記載のポリヌクレオチド。
[3]上記[1]または[2]に記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質。
[4]下記(1)および(2)の理化学的性状を有する4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素。
(1)作用
(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸を脱炭酸し、芳香族アルコールを生成する。
(b)芳香族アルコールに炭酸付与して芳香族ヒドロキシカルボン酸を生成する。
(2)基質特異性
(a)4-ヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してフェノールを生成する。
(b)3,4-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してカテコールを生成する。
(c)フェノールに炭酸付加して4-ヒドロキシ安息香酸を生成する。
(d)カテコールに炭酸付加して3,4-ジヒドロキシ安息香酸を生成する。
[5]更に付加的に、下記(3)および(4)の理化学的性状を有する上記[4]に記載の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素。
(3)至適pH
pH6.5-7.0。
(4)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量が約58,000、ゲルろ過による分子量が約370,000である。
[6]上記[1]または[2]に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
[7]上記[1]もしくは[2]に記載のポリヌクレオチド、または上記[6]に記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換体。
[8]上記[3]に記載のタンパク質、上記[4]もしくは[5]に記載の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、または該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞を芳香族アルコールに作用させ、芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造する、芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法。
[9]上記[3]に記載のタンパク質、上記[4]もしくは[5]に記載の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、または該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞を芳香族ヒドロキシカルボン酸に作用させ、芳香族アルコールを製造する、芳香族アルコールの製造方法。
本発明は、新規な4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドに関する。ここで、本発明における「脱炭酸酵素」とは、カルボン酸から炭酸が除去される脱炭酸反応を触媒する酵素を意味する。さらに本発明の酵素は、アルコールに対する炭酸付加活性を有し、炭酸過剰条件下においては、脱炭酸反応の逆反応を触媒することができる。従って本発明における「脱炭酸酵素」は、前記脱炭酸反応の逆反応である炭酸を付加する炭酸付加反応をも触媒する作用を有する。
(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸を脱炭酸し、芳香族アルコールを生成する活性、及び/または
(b)芳香族アルコールに炭酸付与して芳香族ヒドロキシカルボン酸を生成する活性。
さらに好ましくは、
(a)4-ヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してフェノールを生成する活性、
(b)3,4-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してカテコールを生成する活性、
(c)フェノールに炭酸付加して4-ヒドロキシ安息香酸を生成する活性、及び/または
(d)カテコールに炭酸付加して3,4-ジヒドロキシ安息香酸を生成する活性
を指す。
(1) Prf:2621347D: E. coli DEC 12e
yclC (hypothetical protein, unknown)
J Bacteriol (2000) 182(19):5381-90
MutS-rpoS analysis
460/475=96.8%
(2) Pir:T44997: E. coli O157:H7
YclC (Probable 4-hydroxybenzoate decarboxylase)
460/475=96.8%
mutS-rpoS analysis
(3) prf:2621347T: E. coli DEC 9f
yclC (hypothetical protein, unknown)
J Bacteriol (2000) 182(19):5381-90
MutS-rpoS analysis
459/475=96.6%
(4)prf:2621347K: E. coli DEC 1a
yclC (hypothetical protein, unknown)
J Bacteriol (2000) 182(19):5381-90
MutS-rpoS analysis
459/475=96.6%
(5)tr:08ZMG0: Salmonella typhimurium LT2
putative 3-polyprenyl-4-hydoxybenzoate decarboxylase
Nature (2001) 413:852-6
Complete genome sequence
457/475=96.2%
(6)pir: AE0855: Salmonella enterica subsp. Enterica serovar strain CT18
conserved hypothetical protein STY3047
Nature (2001) 413:848-52
Complete genome sequence
456/475=96.0%
(7)tr:Q8VNT0: Enterobacter cloacae CETC960
putative yclC protein (fragment)
Curr Microbiol (2003) 46(5):365-70
Analysis of rpoS-slyA
331/333=99.4%
(8)tr:Q8VNT0: Kluyvera citrophila
putative yclC protein (fragment)
Curr Microbiol (2003) 46(5):365-70
Analysis of rpoS-yclC
321/333=96.4%
(9)tr: Q83JY4: Shigella flexneri 2a strain 301
conserver hypothetical protein (putative 4-hydroxybenzoate decarboxylase)
Nucleic Acids Res (2002) 30:4432-41
Complete genome analysis
302/316=95.6%
本発明は、新規の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を提供するものである。本発明の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素は、好ましくは、上述の本発明のポリヌクレオチドによりコードされるものである。
(1)作用
(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸を脱炭酸し、芳香族アルコールを生成する。
(b)芳香族アルコールに炭酸付与して芳香族ヒドロキシカルボン酸を生成する。
(2)基質特異性
(a)4-ヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してフェノールを生成する。
(b)3,4-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してカテコールを生成する。
(c)フェノールに炭酸付加して4-ヒドロキシ安息香酸を生成する。
(d)カテコールに炭酸付加して3,4-ジヒドロキシ安息香酸を生成する。
更に好ましくは、本発明の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素は、付加的に、下記(3)および(4)の理化学的性状を有する。
(3)至適pH
pH6.5-7.0
(4)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量が約58,000、ゲルろ過による分子量が約370,000。
まず、4-ヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してフェノールを生成する活性を測定するためには、基本反応液体積1 ml中に、4-ヒドロキシ安息香酸200mM、リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)100mM及び酵素液を入れ、30℃で1分間反応させる。次に、メタノールを0.5 ml添加して反応を停止させ、HPLC分析で生成するフェノールを定量する。HPLC分析は、例えば、Waters Spherisorb S5ODS2 (4.6×150 mm)カラムを用い、移動相を10mMリン酸緩衝液(pH2.5)/アセトニトリル=4/1として行い、検出を210nm、流速は1ml/minとすることができる。ここで、酵素1ユニットは、1分間の反応により1μmolのフェノールを生成することができる酵素量と定義される。また、タンパク質の定量は、バイオラッド製タンパク質アッセイキットを用いた色素結合法により行うことができる。
本発明のポリヌクレオチドを公知の発現ベクターに挿入することにより、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素発現ベクターが提供される。即ち本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む組換えベクターに関する。適当なベクターとして、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ等の種々のベクターを挙げることができる(Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Press(1989); Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley&Sons(1987)参照)。本発明の好ましいベクターとしては、これに限定されるわけではないが、例えば、大腸菌における発現ベクターpSE420Dに4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子を発現可能に挿入したpK4EC等が挙げられる。
(1)宿主ベクター系の開発されている細菌
・エシェリヒア(Escherichia)属
・バチルス(Bacillus)属
・シュードモナス(Pseudomonas)属
・セラチア(Serratia)属
・ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属
・コリネバクテリイウム(Corynebacterium)属
・ストレプトコッカス(Streptococcus)属
・ラクトバチルス(Lactobacillus)属など
(2)宿主ベクター系の開発されている放線菌
・ロドコッカス(Rhodococcus)属
・ストレプトマイセス(Streptomyces)属など
(3)宿主ベクター系の開発されている酵母
・サッカロマイセス(Saccharomyces)属
・クライベロマイセス(Kluyveromyces)属
・シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属
・チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属
・ヤロウイア(Yarrowia)属
・トリコスポロン(Trichosporon)属
・ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属
・ピキア(Pichia)属
・キャンディダ(Candida)属など
(4)宿主ベクター系の開発されているカビ
・ノイロスポラ(Neurospora)属
・アスペルギルス(Aspergillus)属
・セファロスポリウム(Cephalosporium)属
・トリコデルマ(Trichoderma)属など
本発明は、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を利用した芳香族化合物の製造方法に関する。具体的には、本発明のポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質、本発明の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、または、タンパク質または酵素に代え、これらを産生する細胞を反応溶液に作用させ、所望の生産物を製造する方法に関する。これは、本発明において同定された4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の脱炭酸または芳香族アルコールへの炭酸付加活性を利用した方法であり、反応基質として芳香族アルコールを使用した場合には、芳香族ヒドロキシカルボン酸が産生され、逆に、芳香族ヒドロキシカルボン酸を基質とした場合には、芳香族アルコールを製造することができる。
[実施例1] 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の精製
1. 酵素の安定化条件
培養菌体を10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、超音波発生装置(久保田制作所、モデル201M)を用いて、100Wで20分間処理し、12,000 xgで30分間遠心分離し、得られた上清を無細胞抽出液とした。無細胞抽出液を4℃で保存し、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性の安定性を評価したところ、遠心分離直後の活性を100%とした場合に、4時間後には18%にまで活性が失われた。そこで、酵素活性を安定化する緩衝液を検討した。
遠心分離後の活性を基準として4時間後の活性を評価したところ、Na2S2O5で60%、ジチオスレイトールで53%、Na2S2O3およびNa2S2O4では40%の活性が認められた。チオグリコール酸ナトリウムでは効果は認められなかった。
安定化が認められた化合物の濃度条件と、組み合せ効果を検討した結果、還元剤としてジチオスレイトール5mM、Na2S2O5 20mMを含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で最も安定化されることが確認されたため、この緩衝液を酵素精製に用いる緩衝液とした(以下の精製ステップの記述では、還元剤とpHに関する記載を省略し、緩衝液濃度のみを示した)。
精製には5mMジチオスレイトールおよび20mMチオ硫酸ナトリウムを含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を、標準緩衝液として用いた。酵素精製のための菌体は、エンテロバクター・クロアカエP240株を2Lの培地(4-アセトアミド安息香酸2g/L、ペプトン40g/L、ソルビトール40g/L、リン酸水素二カリウム2g/L、硫酸マグネシウム七水和物0.5g/L、pH8.0)で28℃、7時間振とう培養した後、遠心分離により調製した。得られた湿菌体を標準緩衝液で懸濁し、久保田商事社製超音波破砕装置M201により100Wで20分間破砕後、遠心分離により菌体残渣を除去し、無細胞抽出液を得た。無細胞抽出液に硫安が30%飽和となる量を添加し、生じた沈殿を遠心分離により除去した後、硫安を60%飽和量となるように添加し、遠心分離により4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を含む沈殿画分を得た。この沈殿を標準緩衝液に懸濁し、同緩衝液で透析した。
[表1]
実施例1で得られた酵素のサブユニット分子量をSDS-PAGEにより求めた結果、約58,000であった。また、TSK G-3000SWのゲルろ過カラムを用いて分子量を測定したところ、約372,000であった。従って、本酵素は6量体であると推定された。
100mMのクエン酸ナトリウム緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、トリス塩酸緩衝液、およびグリシン-NaOH緩衝液を用いてpHを変化させて、実施例1で得られた酵素の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸活性を調べた。各pHにおける活性を、最大活性を100とした相対活性で表す(図2)。至適pH(80%以上の相対活性を示したpH範囲)は6.5〜7.0であった。
実施例1で得られた酵素を標準反応条件のうち温度だけを変化させて、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸活性を測定した。各温度における活性を、最大活性を100とした相対活性で表す(図3)。至適温度(80%以上の相対活性を示した温度範囲)は30〜40℃であった。
実施例1で得られた酵素をモノヒドロキシ安息香酸、ジヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシ安息香酸等と反応させ、その脱炭酸反応の活性を調べた。各活性を、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸活性を100とした相対活性で表す(表2)。なお、それぞれの基質濃度は20mMとして測定した。
[表2]4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の基質特異性
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0、20mMフェノール、3M炭酸水素カリウム、10Uの4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を含む反応液1mLを2mL容量の反応容器に入れ、密栓して20℃で30分反応させた。その結果、2.5mMの4-ヒドロキシ安息香酸が合成された。この時の反応収率は約13%であった。
実施例1で得られた酵素を用いて、プロテインシーケンサーによりN末端アミノ酸配列を解析した。決定されたアミノ酸配列を配列番号:3に示す。
エンテロバクター・クロアカエP240を肉エキス5g/L、ポリペプトン5g/L、酵母エキス0.5g/L、塩化ナトリウム2g/Lからなる培地(pH7.0)を用いて28℃で1日間培養し、菌体を調製した。菌体からの染色体DNAの精製は、Meth Cell Biol (1975) 29:39-44に記載の方法により行った。
N末端のアミノ酸配列からセンスプライマーを合成した。センスプライマーの塩基配列を配列番号:4(EC4-N)に示す。また、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)PYR2910のピロール-2-カルボン酸脱炭酸酵素(日本生物工学会平成13年度大会講演要旨集p.141、セラチイア・グリメッシィ(Serratia grimesii)IFO13537のピロール-2-カルボン酸脱炭酸酵素(日本農芸化学会平成14年度大会講演要旨集p.303)、アースロバクター・ニコチアナエ(Arthrobacter nicotianae)FI1612のインドール-3-カルボン酸脱炭酸酵素(日本生物工学会平成14年度大会講演要旨集p.99)、クロストリディウム・ヒドロキシベンゾイカム(Clostridium hydroxybenzoicum)の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素(Accession No.: emb.AF128880)の一次構造をアライメント解析し、保存性が高い配列を見いだし、アンチセンスプライマーを2種類合成した。保存性が認められたアミノ酸配列を配列番号:5に示す。合成したアチセンスプライマーの配列を配列番号:6(EC4-C1)、及び7(EC4-C2)に示す。
実施例9において得られた760bpの増幅断片の精製標品を、DIGラベリングキット(ロッシュ製)を用いて標識した。エンテロバクター・クロアカエP240由来染色体DNAをSacIIまたはHindIIIで完全消化し、得られた消化物の一部をアガロースゲル電気泳動後、ナイロンメンブレン(ロッシュ製)に転写した。続いて、DIG標識したDNA断片と60℃で一晩ハイブリダイズさせ、60℃で洗浄し、DIGディテクションキット(ロッシュ製)を用いて化学発光をFuji RXフィルムで検出した。SacIIおよびHindIIIで消化した染色体DNAに対して、それぞれ3.3kbpおよび9.7kbpの陽性バンドが各々検出された。エンテロバクター・クロアカエP240由来染色体DNAをSacIIまたはHindIIIによって完全消化して得られたDNA断片をアガロースゲル電気泳動し、SacII消化物では約3.3kbp、HindIII消化物では9.7kbpのDNA断片をRECOCHIP(宝酒造製)を用いて精製した。得られたDNA断片は、SacIIまたはHindIIIで消化したpBluescript II SK(+)にそれぞれTAKARA Ligation Kitを用いてライゲーションし、大腸菌DH5αを形質転換した。得られた形質転換体をアンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地上で生育させた後、Molecular Cloning(Cold Spring Harbor laboratory Press, Cold Spring Harbor, 1989)に記載の方法に従い、DIG標識したDNA断片を用いてコロニーハイブリダイゼーションを行い、SacIIおよびHindIII消化した染色体DNAからそれぞれ陽性クローンを取得した。その結果、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子のORF配列を決定することができた。決定したDNA配列を配列番号:1に、該塩基配列から予想されるアミノ酸配列番号を配列番号:2に示す。
実施例9において得られたエンテロロバクター・クロアカエP240の染色体DNA 100ng、dNTP20nmol、センスプライマーp240pT-N(GGGGGGGATCCATATGGCATTTGATGATTT(配列番号:9))100pmol、アンチセンスプライマーp240pT-C(GGGGGAATTCCACCTCAATTTGCTCATC(配列番号:10))100pmol、Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造製)、Taq DNAポリメラーゼ用緩衝液(宝酒造製)を含む0.1mLの反応液を用い、変性(94℃、60秒)、アニーリング(50℃、90秒)、伸長反応(72℃、60秒)を30サイクル、PCRサーマルサイクラーMP(宝酒造製)を用いて行った。約1.5kbpの増幅断片をRECOCHIP(宝酒造製)を用いて精製した後、制限酵素EcoRIとNdeIで消化し、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子を含むDNA断片をTakara Ligation Kit(宝酒造製)を用いてpET21a(+)にライゲーションした。その結果、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子の発現が可能なプラスミドpE4ECを得た。
1. 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の活性測定
4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子を発現するプラスミドpE4ECで形質転換した大腸菌BL21(DE3)株を50μg/mLのアンピシリンを含むLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%バクトー酵母エキス、1%塩化ナトリウム)に植菌し、37℃で4時間培養し、0.1mMのイソプロピルチオガラクトシドを加え、さらに20℃で8時間培養を行った。続いて、菌体を遠心分離により集菌した後、5mMジチオスレイトールおよび20mMチオ硫酸ナトリウムを含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、超音波により菌体を破砕した。遠心分離により得られた上清を無細胞抽出液とした。
1. 基本反応条件
反応液体積は2mlとし、フェノール50mM、リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)100mM、炭酸水素カリウム 3M(粉末で添加)、酵素液を添加して、20℃で反応を行った。4mlのメタノールと2mlの4N塩酸を添加して反応を停止させた。
酵素624ユニットを用いて緩衝液をリン酸カリウムpH6から8まで変えて反応を15時間行った結果、変換率の大きな変化は認められなかったが、pH7.0で最大変換率が得られた。
酵素824ユニットを用いて反応温度を4、10、20および30℃として1時間反応を行った場合、変換率はそれぞれ5.3、5.3、5.9および5.2%であった。
酵素267ユニットを用いて、市販の炭酸水を反応系に40%(v/v)(反応液2mlのうち0.8mlを炭酸水とした)添加し、1時間反応を行った。
炭酸水素カリウム3Mのみの場合:2.3%変換率
炭酸水40%(v/v)のみの場合:2.7%変換率
両者の併用:5.0%変換率
酵素829ユニットを用い、TAIATSU TECHNO社製の耐圧容器内に反応液を入れ、CO2ガスで5atmまたは10atmまで加圧して反応を1時間行った。
常圧(1 atm):3.4%変換率
5 atm:4.1%変換率
10 atm:4.4%変換率
フェノール濃度を変えて反応を3時間行った。高濃度では変換率が添加するのは、フェノールによる変性が原因と推定される。結果を表3に示す。
[表3]
-------------------------
フェノール(mM) 変換率(%)
-------------------------
1 9.7
2 8.2
3 8.9
4 6.9
5 6.9
10 6.0
20 4.5
30 2.7
-------------------------
反応の進行を3時間まで経時的に測定した。結果を表4に示す。
[表4]
フェノール20mMの代わりにカテコール20mMを基質として用い、反応を3時間行なうと、3.72mMの3,4-ジヒドロキシ安息香酸が合成された(変換率は18.6%)。
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、20mMフェノール、3M炭酸水素カリウム、実施例12において形質転換体から得た無細胞抽出液(10Uの4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を含む)からなる反応液1mLを2mL容量の反応容器に入れ、密栓して20℃で30分反応させた。その結果、2.3mMの4-ヒドロキシ安息香酸が合成された。この時の反応収率は約12%であった。
Claims (2)
- 下記(a)乃至(d)のポリヌクレオチドがコードするタンパク質、または該タンパク質を産生する細胞をフェノールまたはカテコールに作用させ、それぞれ4-ヒドロキシ安息香酸または3,4-ジヒドロキシ安息香酸を製造する、該4-ヒドロキシ安息香酸または3,4-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列の563番目から1987番目までの塩基を含むポリヌクレオチド
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質であって、フェノールまたはカテコールに炭酸付与してそれぞれ4-ヒドロキシ安息香酸または3,4-ジヒドロキシ安息香酸を生成する作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、フェノールまたはカテコールに炭酸付与してそれぞれ4-ヒドロキシ安息香酸または3,4-ジヒドロキシ安息香酸を生成する作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド - 下記(a)乃至(d)のポリヌクレオチドがコードするタンパク質 または該タンパク質を産生する細胞を4-ヒドロキシ安息香酸または3,4-ジヒドロキシ安息香酸に作用させ、それぞれフェノールまたはカテコールを製造する、該フェノールまたはカテコールの製造方法。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列の563番目から1987番目までの塩基を含むポリヌクレオチド
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質であって、4-ヒドロキシ安息香酸または3,4-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸し、それぞれフェノールまたはカテコールを生成する作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、4-ヒドロキシ安息香酸または3,4-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸し、それぞれフェノールまたはカテコールを生成する作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
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