JP4518864B2 - 新規な4−ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、その酵素をコードするポリヌクレオチド、その製造方法、およびこれを利用した芳香族化合物の製造方法 - Google Patents

新規な4−ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、その酵素をコードするポリヌクレオチド、その製造方法、およびこれを利用した芳香族化合物の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、新規な4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、該酵素をコードするポリヌクレオチド、並びに、該酵素またはポリヌクレオチドを利用した芳香族カルボン酸及び芳香族アルコールの製造方法に関する。
4-ヒドロキシ安息香酸は、従来、工業的にはフェノールを原料として製造されている。すなわち、フェノールをカリウム塩として脱水後、加圧、加熱条件下で二酸化炭素と化学的に反応させる方法により製造されている。しかしながら、この方法は工程が複雑であり、高温、高圧下で大量の有機溶媒を用いるため爆発などの危険が伴うほか環境への影響も無視できない。
一方、微生物培養環境においてフェノールが4-ヒドロキシ安息香酸に変換されたという報告もある。これらの報告では、いずれも偏性嫌気性細菌によるフェノールの嫌気的分解代謝産物として4-ヒドロキシ安息香酸の存在が推測されている(非特許文献1〜3参照)。また、芳香族化合物から芳香族カルボン酸を生成する能力を有する微生物を用いた芳香族化合物の製造方法も知られている(特許文献1)が、該方法では僅かな芳香族カルボン酸が生成するのみで、その収率は低く、蓄積濃度も低いので芳香族化合物の工業的製造には不向きである。
また、従来、4-ヒドロキシ安息香酸を脱炭酸する酵素としては、Clostridium hydroxybenzoicumからの4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の精製及び遺伝子クローニング、また該酵素の性質について報告されている(非特許文献4及び5)。また、Clostridium属細菌様菌株からも4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素が精製されており、その性質が報告されている(非特許文献6)。前者の酵素は、分子量350 kDa、サブユニット分子量57 kDa、4-ヒドロキシ安息香酸についてのKm値が0.40 mMであり、後者は分子量420 kDa、サブユニット分子量119 kDaである。
特開平9-313193号公報 P.J.Chapmanら, Biodegradation (1990) 1:65-74 G.Fuchsら, Arch Microbiol (1987) 148:213-7 J.Winterら, Appl Microbiol Biotechnol (1989) 30:318-24 Eur. J. Biochem. (1995) 229:77-82 J. Bacteriol. (1999) 181:5119-22 Can. J. Biochem. (2000) 46:856-9
本発明は、芳香族カルボン酸製造において、生成物を収率良く与えることができる製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、経済的に優れ、且つ、簡便な方法で芳香族カルボン酸を得る方法として、4-ヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してフェノールを生成する酵素を異種微生物により高発現させ、得られた高活性な遺伝子組換え菌を用いることによりフェノールから4-ヒドロキシ安息香酸を効率的に生産することができるのではないかと考え、鋭意研究を行った。研究の結果、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)が、4-ヒドロキシ安息香酸を脱炭酸する活性を有することを見出した。そこで、本菌株中に存在する4-ヒドロキシ安息香酸の脱炭酸に関与する酵素に関する研究を進めた。即ち、本菌株の無細胞抽出液から、4-ヒドロキシ安息香酸を脱炭酸する酵素を電気泳動的に単一のバンドになるまで精製し、その諸性質を明らかにした。その結果、本酵素が、分子量372 kDa、サブユニット分子量60 kDaであり、4-ヒドロキシ安息香酸に対するKm値が70.4 mMであり、公知のClostridium hydroxybenzoicum及びClostridium属細菌様菌株からの4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素とは異なる、4-ヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸する新規な4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素であることを見出した。
更に、本酵素をコードするDNAを単離し、該DNAを利用して本酵素を高発現する組換え菌を造成し、本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、該酵素をコードするポリヌクレオチド、該酵素の製造方法、並びに、これらの酵素及びポリヌクレオチドの用途に関する。
本発明はより具体的には、
[1]下記(a)乃至(d)の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチド。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列の563番目から1987番目までの塩基を含むポリヌクレオチド
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
[2]芳香族ヒドロキシカルボン酸を脱炭酸し、芳香族アルコールを生成する作用、および/または芳香族アルコールに炭酸付与して芳香族ヒドロキシカルボン酸を生成する作用を有する4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素をコードする、上記[1]記載のポリヌクレオチド。
[3]上記[1]または[2]に記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質。
[4]下記(1)および(2)の理化学的性状を有する4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素。
(1)作用
(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸を脱炭酸し、芳香族アルコールを生成する。
(b)芳香族アルコールに炭酸付与して芳香族ヒドロキシカルボン酸を生成する。
(2)基質特異性
(a)4-ヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してフェノールを生成する。
(b)3,4-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してカテコールを生成する。
(c)フェノールに炭酸付加して4-ヒドロキシ安息香酸を生成する。
(d)カテコールに炭酸付加して3,4-ジヒドロキシ安息香酸を生成する。
[5]更に付加的に、下記(3)および(4)の理化学的性状を有する上記[4]に記載の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素。
(3)至適pH
pH6.5-7.0。
(4)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量が約58,000、ゲルろ過による分子量が約370,000である。
[6]上記[1]または[2]に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
[7]上記[1]もしくは[2]に記載のポリヌクレオチド、または上記[6]に記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換体。
[8]上記[3]に記載のタンパク質、上記[4]もしくは[5]に記載の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、または該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞を芳香族アルコールに作用させ、芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造する、芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法。
[9]上記[3]に記載のタンパク質、上記[4]もしくは[5]に記載の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、または該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞を芳香族ヒドロキシカルボン酸に作用させ、芳香族アルコールを製造する、芳香族アルコールの製造方法。
本発明は、微生物を利用する芳香族化合物を原料とした芳香族カルボン酸および芳香族アルコールの製造方法に関する。4-ヒドロキシ安息香酸をはじめとする芳香族カルボン酸、芳香族アルコールは合成樹脂、合成繊維、染顔料等の原料、あるいは食品、化粧品、医薬品用の防腐剤の原料として用いられ、産業上有用な化合物である。
1.ポリヌクレオチド
本発明は、新規な4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドに関する。ここで、本発明における「脱炭酸酵素」とは、カルボン酸から炭酸が除去される脱炭酸反応を触媒する酵素を意味する。さらに本発明の酵素は、アルコールに対する炭酸付加活性を有し、炭酸過剰条件下においては、脱炭酸反応の逆反応を触媒することができる。従って本発明における「脱炭酸酵素」は、前記脱炭酸反応の逆反応である炭酸を付加する炭酸付加反応をも触媒する作用を有する。
本発明において、ポリヌクレオチドは、DNAおよびRNA等の天然のポリヌクレオチドに加え、人工的なヌクレオチド誘導体を含む人工的な分子であることもできる。また本発明のポリヌクレオチドは、DNA-RNAのキメラ分子であることもできる。また、本発明のポリヌクレオチドは、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素をコードするコード鎖のみからなる一本鎖であっても、該コード鎖とその相補鎖とからなる二本鎖構造を持つものであってもよい。
本発明の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドとして、例えば、今回、実施例9および10において決定された、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)P240株からクローニングされた遺伝子を挙げることができる。該遺伝子は、配列番号:1に示す塩基配列の563番目から1987番目までの塩基を含むものである。配列番号:1に示す塩基配列は、配列番号:2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードしており、このアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、本発明のポリヌクレオチドの好ましい態様を構成する。
なお、エンテロバクター・クロアカエP240株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターより受託拒否された。そこで、本株の特許法施行規則第27条の3に定められる分譲については、出願人が保証する。
本発明のポリヌクレオチドには、エンテロバクター・クロアカエP240株からクローニングされた遺伝子に加え、該遺伝子のホモログも含まれる。このような遺伝子のホモログとしては、配列番号:1に記載の塩基配列の563番目から1987番目までの塩基を含むポリヌクレオチドが挙げられる。例えば、配列番号:1に記載の配列が挙げられる。その他、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドに加え、その読み枠に影響しないよう適当な制御配列を含むポリヌクレオチド、適当なペプチド配列により修飾された4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、好適な例として挙げることができる。
また、本発明のポリヌクレオチドに含まれるホモログとしては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。このようなポリヌクレオチドには、配列番号:1に示す塩基配列の563番目から1987番目までの塩基を含む遺伝子に加え、遺伝暗号の縮重により配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするが、配列番号:1の塩基配列とは異なる塩基配列からなるポリヌクレオチドが包含される。
今回、配列番号:1の塩基配列を有する4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子が得られたが、そのアルタナティブアイソフォーム及びアレリック変異体が存在する可能性もある。このようなアイソフォーム及びアレリック変異体も本発明のポリヌクレオチドのホモログとして挙げられる。これらのホモログは、例えば、配列番号:1の塩基配列を有するポリヌクレオチドをプローブとして、または該配列を元に作製したプローブを利用して、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、酵素生産株であるエンテロバクター・クロアカエ及び他生物種等の染色体DNA、またはcDNAライブラリーから得ることができる。また、配列番号:1の塩基配列を元にPCR用のプライマーを設計し、酵素生産株の染色体DNAまたはcDNAライブラリーを鋳型としてPCRを行うことによっても、本発明のポリヌクレオチドを得ることができる。また、PCRにより得られたDNA断片の塩基配列を解析し、該配列を元に既知のDNAを外側に伸長させるためのPCRプライマーを設計し、酵素生産株の染色体DNAを適当な制限酵素で消化後、自己環化反応によりDNAを鋳型とし逆PCR(Genetics(1988)120: 621-3)を行うことにより、または、RACE法(Rapid Amplification of cDNA End;「PCR実験マニュアル」HBJ出版局,p25-33)等により本発明のポリヌクレオチドを得ることも可能である。
また、本発明におけるポリヌクレオチドのホモログは、配列番号:1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるポリヌクレオチドであって、かつ、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドも含む。本発明において、「4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性」とは、4-ヒドロキシ安息香酸を脱炭酸する活性であるが、好ましくは、エンテロバクター・クロアカエP240株からクローニングされた4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の以下の活性を指す。
(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸を脱炭酸し、芳香族アルコールを生成する活性、及び/または
(b)芳香族アルコールに炭酸付与して芳香族ヒドロキシカルボン酸を生成する活性。
さらに好ましくは、
(a)4-ヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してフェノールを生成する活性、
(b)3,4-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してカテコールを生成する活性、
(c)フェノールに炭酸付加して4-ヒドロキシ安息香酸を生成する活性、及び/または
(d)カテコールに炭酸付加して3,4-ジヒドロキシ安息香酸を生成する活性
を指す。
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるポリヌクレオチドとは、配列番号:1に記載中の任意の少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、例えば40、60または100個の連続した配列を有するポリヌクレオチドをプローブとし、例えばECL direct nucleic acid labeling and detection system(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、マニュアルに記載の条件(例えば、wash:42℃、0.5×SSCを含むprimary wash buffer)においてハイブリダイズするポリヌクレオチドを指す。より具体的な「ストリンジェントな条件」とは、例えば、通常、42℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、さらに好ましくは、65℃、0.1×SSCおよび0.1%SDSの条件であるが、これらの条件に特に制限されない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としてはこれら温度、塩濃度に加えプローブ濃度、プローブの長さ、反応時間を含む複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Press(1989)、特にSection9.47-9.58)、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley&Sons(1987-1997)、特にSection6.3-6.4)、「DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach 2nd ed.」(Oxford University(1995)、特にSection2.10)等を参照することができる。
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるポリヌクレオチドとして、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%以上のホモロジーを有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。本発明において、ホモロジーは、Lipman-Pearson法(Science (1985)227:1435-41)によるプログラムを用いて計算した値を表す。そして、タンパク質のホモロジー検索は、例えばSWISS-PROT、PIR、DAD等のタンパク質のアミノ酸配列に関するデータベース、DDBJ、EMBLまたはGenBank等のDNAに関するデータベース、及びDNA配列を元にした予想アミノ酸配列に関するデータベース等を対象に、BLAST、FASTA等のプログラムを利用して、例えば、インターネット(例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)を通じて行うことができる。このような高いホモロジーを有するタンパク質同士は、同じまたは類似した活性を有する可能性が高い。そこで、本発明のポリヌクレオチドには、配列番号:2記載のアミノ酸配列に対して高いホモロジー(例えば、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上)を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが包含される。
実際に、配列番号:2記載のアミノ酸配列を用いてGENES及びSWISS-PROTを対象にBLASTプログラムを用いてホモロジー検索を行った結果、エンテロバクター・クロアカエP240株からクローニングされた4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素にホモロジーを有するタンパク質として、以下のものが検索された:
(1) Prf:2621347D: E. coli DEC 12e
yclC (hypothetical protein, unknown)
J Bacteriol (2000) 182(19):5381-90
MutS-rpoS analysis
460/475=96.8%
(2) Pir:T44997: E. coli O157:H7
YclC (Probable 4-hydroxybenzoate decarboxylase)
460/475=96.8%
mutS-rpoS analysis
(3) prf:2621347T: E. coli DEC 9f
yclC (hypothetical protein, unknown)
J Bacteriol (2000) 182(19):5381-90
MutS-rpoS analysis
459/475=96.6%
(4)prf:2621347K: E. coli DEC 1a
yclC (hypothetical protein, unknown)
J Bacteriol (2000) 182(19):5381-90
MutS-rpoS analysis
459/475=96.6%
(5)tr:08ZMG0: Salmonella typhimurium LT2
putative 3-polyprenyl-4-hydoxybenzoate decarboxylase
Nature (2001) 413:852-6
Complete genome sequence
457/475=96.2%
(6)pir: AE0855: Salmonella enterica subsp. Enterica serovar strain CT18
conserved hypothetical protein STY3047
Nature (2001) 413:848-52
Complete genome sequence
456/475=96.0%
(7)tr:Q8VNT0: Enterobacter cloacae CETC960
putative yclC protein (fragment)
Curr Microbiol (2003) 46(5):365-70
Analysis of rpoS-slyA
331/333=99.4%
(8)tr:Q8VNT0: Kluyvera citrophila
putative yclC protein (fragment)
Curr Microbiol (2003) 46(5):365-70
Analysis of rpoS-yclC
321/333=96.4%
(9)tr: Q83JY4: Shigella flexneri 2a strain 301
conserver hypothetical protein (putative 4-hydroxybenzoate decarboxylase)
Nucleic Acids Res (2002) 30:4432-41
Complete genome analysis
302/316=95.6%
さらに、本発明のポリヌクレオチドのホモログとしては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。当業者であれば、配列番号:1記載のポリヌクレオチドに部位特異的変異導入法(Nucleic Acids Res (1982) 10:6487;Methods in Enzymol (1983) 100:448;Molecular Cloning 2nd Edt., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);PCR A Practical Approach, IRL Press(1991) pp.200)などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することにより、このようなポリヌクレオチドのホモログを得ることが可能である。
タンパク質においてアミノ酸残基の置換を行う場合、特に、側鎖の化学的性質が類似したアミノ酸による置換、いわゆる保存的なアミノ酸置換を行うことが好ましい。アミノ酸は、それらの側鎖の化学的性質に従い、例えば、次のように分類される:(1)中性疎水性側鎖(アラニン、トリプトファン、バリン、フェニルアラニン、プロリン、メチオニン、ロイシン);(2)中性極性側鎖(アスパラギン、グリシン、グルタミン、システイン、セリン、チロシン、トレオニン);(3)塩基性側鎖(アルギニン、ヒスチジン、リシン);(4)酸性側鎖(アスパラギン酸、グルタミン酸);(5)脂肪族側鎖(アラニン、イソロイシン、グリシン、バリン、ロイシン);(6)脂肪族水酸基側鎖(セリン、トレオニン);(7)アミン含有側鎖(アスパラギン、アルギニン、グルタミン、ヒスチジン、リシン);(8)芳香族側鎖(チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン);(9)硫黄含有側鎖(システイン、メチオニン)。
本発明のポリヌクレオチドのホモログには、上述のように、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失されたアミノ酸配列からなり、かつ、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが含まれる。このような欠失を含むポリヌクレオチドには、配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質の「一部分」をコードするポリヌクレオチドが包含される。
このようなコードするアミノ酸配列における欠失・置換・付加及び/または挿入により改変により定義されるタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、該ポリヌクレオチドがコードするタンパク質が、元のタンパク質の生物学的活性を維持していればよい。ここで、生物学的活性の維持とは、元の酵素が触媒する少なくとも一つの反応を触媒する能力を保持していればよく、また、必ずしも天然タンパク質と同じ活性レベルを指すわけではなく、その活性レベルは元のレベルより高くても、または多少低くなっていてもよい。
本発明のポリヌクレオチドには、天然よりクローニングされたゲノムDNA、及びcDNAの他、合成によって得られるポリヌクレオチドも含まれる。本発明のポリヌクレオチドは、例えば、配列番号:1に記載の配列情報を元に、周知の手法により合成することができる。
2.4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素
本発明は、新規の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を提供するものである。本発明の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素は、好ましくは、上述の本発明のポリヌクレオチドによりコードされるものである。
また、本発明の酵素は、以下の理化学的性状を有するものである。
(1)作用
(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸を脱炭酸し、芳香族アルコールを生成する。
(b)芳香族アルコールに炭酸付与して芳香族ヒドロキシカルボン酸を生成する。
(2)基質特異性
(a)4-ヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してフェノールを生成する。
(b)3,4-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してカテコールを生成する。
(c)フェノールに炭酸付加して4-ヒドロキシ安息香酸を生成する。
(d)カテコールに炭酸付加して3,4-ジヒドロキシ安息香酸を生成する。
更に好ましくは、本発明の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素は、付加的に、下記(3)および(4)の理化学的性状を有する。
(3)至適pH
pH6.5-7.0
(4)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量が約58,000、ゲルろ過による分子量が約370,000。
本発明の酵素は、例えば、エンテロバクター・クロアカエP240株から精製することができる。該微生物は、LB培地等の細菌の培養に用いられる一般的な培地で培養可能である。本発明の酵素の精製は、例えば、次のようにして行うことができる。まず、十分に増殖させた後に菌体を回収し、必要に応じ、2-メルカプトエタノールまたはフェニルメタンフルホニルフルオリド等の還元剤、およびプロテアーゼ阻害剤を加えた緩衝液中で破砕して無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液から、タンパク質の溶解度による分画(例えば、有機溶媒による沈澱、硫安等による塩析)、陽イオン交換、陰イオン交換、ゲルろ過、疎水性等のクロマトグラフィー、キレート、色素、抗体等を用いたアフィニティークロマトグラフィー等、タンパク質の精製において慣用の方法を適宜組み合せ、本発明の酵素を精製することができる。例えば、実施例1において示されるように、塩析、DEAEセファセルを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー、フェニル-セファロースを用いた疎水クロマトグラフィー、およびブチル-セファロースを用いた疎水クロマトグラフィーを経て、エンテロバクター・クロアカエP240株由来の酵素を電気泳動的に単一バンドにまで精製することができる。
本発明において、精製途中および精製後の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の活性は、例えば、次のようにして確認することができる。
まず、4-ヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してフェノールを生成する活性を測定するためには、基本反応液体積1 ml中に、4-ヒドロキシ安息香酸200mM、リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)100mM及び酵素液を入れ、30℃で1分間反応させる。次に、メタノールを0.5 ml添加して反応を停止させ、HPLC分析で生成するフェノールを定量する。HPLC分析は、例えば、Waters Spherisorb S5ODS2 (4.6×150 mm)カラムを用い、移動相を10mMリン酸緩衝液(pH2.5)/アセトニトリル=4/1として行い、検出を210nm、流速は1ml/minとすることができる。ここで、酵素1ユニットは、1分間の反応により1μmolのフェノールを生成することができる酵素量と定義される。また、タンパク質の定量は、バイオラッド製タンパク質アッセイキットを用いた色素結合法により行うことができる。
一方、フェノールへの炭酸固定反応は、Wieser et al. (Eur J Biochem(1998)257:495-9)にしたがって、気密密閉容器内で行うことができる。反応液体積を2 mlとし、15 mMのフェノール、3Mの炭酸水素カリウム、100 mMのリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)、および酵素液を入れ、反応をフェノールの添加で開始し、20℃に加温する。2 mlのメタノールの添加で反応を停止させ、12,000xgで10分間遠心分離した後、上清をHPLC分析し、4-ヒドロキシ安息香酸の生成を検出する。
また、本発明の酵素は遺伝子工学的な手法及び化学的な合成法によっても得ることができる。例えば、細胞を含まない試験管内でのタンパク質の製造方法としてin vitroトランスレーション(Dasso and Jackson, Nucleic Acids Res(1989)17:3129-44)が知られており、本発明のタンパク質を得るのに利用することができる。また、本発明のポリヌクレオチドを適当な発現ベクターに組込み、該発現ベクターが発現される宿主に形質転換し、該宿主細胞より所望のタンパク質を得ることもできる。このような宿主-ベクター系によりタンパク質を産生する方法については、以下の「3.組換えベクター及び形質転換体」の項において詳述する。
遺伝子工学的な手法により製造されたタンパク質は、タンパク質が宿主細胞外に分泌される場合には培地を、宿主がトランスジェニック生物の場合にはその体液を、そして細胞内に産生される場合には細胞を溶解した溶解物より回収する。タンパク質の精製は、該タンパク質を天然において産生する細胞から精製する場合と同様に、公知の塩析、蒸留、各種クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、ゲル濾過、限外濾過、再結晶、酸抽出、透析、免疫沈降、溶媒沈澱、溶媒抽出、硫安またはエタノール沈澱等の精製手法を組み合せ、適宜行うことができる。クロマトグラフィーとしては、アフィニティー、アニオンまたはカチオン交換等のイオン交換、逆相、吸着、ゲル濾過、疎水性、ヒドロキシアパタイト、ホスホセルロース、レクチンクロマトグラフィー等を、HPLC及びFPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。また、本発明のタンパク質をGST等との融合タンパク質として発現させることにより、グルタチオンカラムを用いて容易に所望のタンパク質を分離することができる。その他、ヒスチジンタグを付加したタンパク質とすることにより、ニッケルカラムを用いた精製法が利用できる。このような融合タンパク質としてタンパク質を産生させた場合には、必要に応じ精製後にトロンビンまたはファクターXa等を用いて不要な部分の切断を行う手法も公知である。本発明のタンパク質の精製は、上述のエンテロバクター・クロアカエP240株から精製を参考にして適宜行うことができる。
3.組換えベクター及び形質転換体
本発明のポリヌクレオチドを公知の発現ベクターに挿入することにより、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素発現ベクターが提供される。即ち本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む組換えベクターに関する。適当なベクターとして、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ等の種々のベクターを挙げることができる(Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Press(1989); Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley&Sons(1987)参照)。本発明の好ましいベクターとしては、これに限定されるわけではないが、例えば、大腸菌における発現ベクターpSE420Dに4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子を発現可能に挿入したpK4EC等が挙げられる。
組換えベクターの構築は、分子生物学、生物工学及び遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができる(Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Press(1989); Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley&Sons(1987)参照)。微生物等を宿主として、本発明のポリヌクレオチドを発現させるためには、まず、当該微生物中において安定に存在するプラスミドベクターまたはファージベクター中に該DNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる必要がある。そのためには、転写・翻訳を制御するユニットにあたるプロモーターを本発明のポリヌクレオチドの5’側上流に、そして好ましくはターミネーターを3’側下流に、それぞれ組込む。このプロモーター及びターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能するものを選択する必要がある。各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター及びターミネーター等の制御配列は、「微生物学基礎講座8遺伝子工学」(共立出版)、また特に酵母に関しては、Adv Biochem Eng (1990) 43:75-102及びYeast (1992) 8:423-88等に詳細に記述されており、参照できる。その他、必要に応じて、エンハンサー、オペレーター配列、開始シグナル、ポリアデニル化シグナル、リボソーム結合部位等の転写及び/または翻訳に必要な制御配列をグ組んでいてもよい。本発明のベクターは、好ましくは、挿入された本発明のポリヌクレオチドの発現に必要とされる制御配列の全ての構成成分を含むものである。さらに、本発明のベクターは、該ベクターの導入された宿主細胞の選択を可能ならしめるマーカーを含んでいてもよい。また、必要に応じ、宿主細胞内で発現されたタンパク質を小胞体内腔、グラム陰性菌を宿主とする場合にはペリプラズム内、または細胞外へと移行させる為に必要とされるシグナルペプチドをコードする配列を本発明のポリヌクレオチドに付加してもよい。シグナルペプチドは、選択した宿主において認識されるものであればよく、宿主にとって異種由来のものであってもよい。さらに必要に応じ、本発明のポリヌクレオチドのベクターへの導入に当たって、リンカー、開始コドン(ATG)、終止コドン(TAA、TAGまたはTGA)等を付加してもよい。
本発明のポリヌクレオチドを発現させるための宿主は、該ポリヌクレオチドを含む組換えベクターにより形質転換され得、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を有するタンパク質を発現することができる生物であれば特に制限されない。本発明は、本発明のポリヌクレオチド、または本発明のベクターにより形質転換された形質転換体を提供する。本発明の形質転換体の対象となる微生物としては、例えば以下のような微生物を示すことができる。
(1)宿主ベクター系の開発されている細菌
・エシェリヒア(Escherichia)属
・バチルス(Bacillus)属
・シュードモナス(Pseudomonas)属
・セラチア(Serratia)属
・ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属
・コリネバクテリイウム(Corynebacterium)属
・ストレプトコッカス(Streptococcus)属
・ラクトバチルス(Lactobacillus)属など
(2)宿主ベクター系の開発されている放線菌
・ロドコッカス(Rhodococcus)属
・ストレプトマイセス(Streptomyces)属など
(3)宿主ベクター系の開発されている酵母
・サッカロマイセス(Saccharomyces)属
・クライベロマイセス(Kluyveromyces)属
・シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属
・チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属
・ヤロウイア(Yarrowia)属
・トリコスポロン(Trichosporon)属
・ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属
・ピキア(Pichia)属
・キャンディダ(Candida)属など
(4)宿主ベクター系の開発されているカビ
・ノイロスポラ(Neurospora)属
・アスペルギルス(Aspergillus)属
・セファロスポリウム(Cephalosporium)属
・トリコデルマ(Trichoderma)属など
例えばエシェリヒア属、特に大腸菌(Escherichia coli)においては、プラスミドベクターとして、pBR、pUC系プラスミドを利用でき、lac(β-ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、trc (lac、trpの融合)、λファージ PL、PR等に由来するプロモーターが利用できる。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーターを用いることができる。特に、市販のpSE420(Invitrogen製)のマルチクローニングサイトを一部改変したベクターpSE420D(特開2000-189170に記載)は、エシェリヒア属細菌を宿主とした場合の好適なベクターである。
バチルス属においては、ベクターとしてpUB110系プラスミド、pC194系プラスミド等が利用可能であり、これらのベクターを利用した場合、本発明のポリヌクレオチドを宿主染色体にインテグレートすることもできる。また、プロモーター、ターミネーターとしては、apr(アルカリプロテアーゼ)、npr(中性プロテアーゼ)、amy(α-アミラーゼ)等が利用できる。
シュードモナス属においては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)等で宿主ベクター系が開発されている。トルエン化合物の分解に関与するプラスミドTOLプラスミドを基本にした広宿主域ベクター(RSF1010等に由来する自律的複製に必要な遺伝子を含む)pKT240等が利用可能であり、プロモーター・ターミネーターとして、リパーゼ(特開平5-284973)遺伝子由来のものが利用できる。
ブレビバクテリウム属、特にブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)においては、pAJ43(Gene (1985) 39:281)等のプラスミドベクターが利用可能である。プロモーター・ターミネーターとしては、大腸菌で使用されているプロモーター、ターミネーターがそのまま利用可能である。
コリネバクテリウム属、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、pCS11(特開昭57-183799)、pCB101(Mol Gen Genet (1984)196:175等のプラスミドベクターが利用可能である。
ストレプトコッカス属においては、pHV1301(FEMS Microbiol Lett (1985) 26:239)、pGK1(Appl Environ Microbiol (1985) 50:94)等がプラスミドベクターとして利用可能である。
ラクトバチルス属においては、ストレプトコッカス属用に開発されたpAMβ1(J Bacteriol (1979) 137: 614)等がベクターとして利用可能であり、プロモーターとしては、大腸菌で利用されているものが利用可能である。
ロドコッカス属においては、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)から単離されたプラスミドベクターが使用可能である (J Gen Microbiol (1992) 138:1003)。
ストレプトマイセス属においては、HopwoodらのGenetic Manipulation of Streptomyces: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratories (1985)に記載の方法に従って、プラスミドを構築することができる。特に、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)においては、pIJ486 (Mol Gen Genet (1986) 203: 468-78)、pKC1064(Gene (1991) 103:97-9)、pUWL-KS (Gene (1995) 165:149-50)が使用できる。また、ストレプトマイセス・バージニア(Streptomyces virginiae)においても、同様のプラスミドを使用することができる(Actinomycetol (1997) 11:46-53)。
サッカロマイセス属、特にサッカロマイセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae)においては、YRp系、YEp系、YCp系、YIp系プラスミドが利用可能である。また、染色体内に多コピー存在するリボソームDNAとの相同組み換えを利用したインテグレーションベクター(EP537456等)は、多コピーで遺伝子を導入でき、かつ安定に遺伝子を保持できるため極めて有用である。また、ADH(アルコール脱水素酵素)、GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素)、PHO(酸性フォスファターゼ)、GAL(β-ガラクトシダーゼ)、PGK(ホスホグリセレートキナーゼ)、ENO(エノラーゼ)等のプロモーター・ターミネーターが利用可能である。
クライベロマイセス属、特にクライベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)においては、サッカロマイセス・セレビジアエ由来2μm系プラスミド、pKD1系プラスミド(J Bacteriol (1981) 145:382-90)、キラー活性に関与するpGKl1由来プラスミド、クライベロマイセス属における自律増殖遺伝子KARS系プラスミド、リボソームDNA等との相同組み換えにより染色体中にインテグレート可能なベクタープラスミド(EP537456等)等が利用可能である。また、ADH、PGK等に由来するプロモーター・ターミネーターが利用可能である。
シゾサッカロマイセス属においては、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)由来のARS (自律複製に関与する遺伝子)及びサッカロマイセス・セレビジアエ由来の栄養要求性を相補する選択マーカーを含むプラスミドベクターが利用可能である(Mol Cell Biol (1986) 6:80)。また、シゾサッカロマイセス・ポンベ由来のADHプロモーター等が利用できる(EMBO J (1987) 6:729)。特に、pAUR224は、宝酒造から市販されており容易に利用できる。
チゴサッカロマイセス属においては、チゴサッカロマイセス・ロウキシ(Zygosaccharomyces rouxii)由来のpSB3(Nucleic Acids Res. 13:4267(1985))等に由来するプラスミドベクターが利用可能であり、サッカロマイセス・セレビジアエ由来 PHO5 プロモーター、及びチゴサッカロマイセス・ロウキシ由来 GAP-Zr(グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素)のプロモーター(Agri Biol Chem (1990) 54:2521)等が利用可能である。
ピキア属においては、ピキア・アンガスタ(Pichia angusta;旧名:ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha))を用いた宿主ベクター系が開発されている。ベクターとしては、ピキア・アンガスタ由来自律複製に関与する遺伝子(HARS1、HARS2)も利用可能であるが、比較的不安定であるため、染色体への多コピーインテグレーションが有効である(Yeast (1991) 7:431-43)。また、メタノール等で誘導されるAOX(アルコールオキシダーゼ)、FDH(ギ酸脱水素酵素)のプロモーター等が利用可能である。また、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等について、ピキア由来自律複製に関与する遺伝子 (PARS1、 PARS2)等を利用した宿主ベクター系が開発されており(Mol Cell Biol (1985) 5:3376)、高濃度培養とメタノールで誘導可能なAOX等の強いプロモーターが利用できる(Nucleic Acids Res (1987) 15:3859)。
キャンディダ属においては、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・ウチルス(Candida utilis)等について宿主ベクター系が開発されている。キャンディダ・マルトーサにおいては、キャンディダ・マルトーサ由来ARSがクローニングされ(Agri Biol Chem (1987) 51:1587)、これを利用したベクターが開発されている。また、キャンディダ・ウチルスにおいては、染色体インテグレートタイプのベクターでは、強力なプロモーターが開発されている(特開平08-173170)。
アスペルギルス属においては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリジー(Aspergillus oryzae)等が最もよく研究されている。これらを宿主とするプラスミドが利用可能であり、染色体への所望遺伝子のインテグレーションを行うことができる。菌体外プロテアーゼ及びアミラーゼ由来のプロモーターも利用可能である(Trends in Biotechnology (1989) 7:283-7)。
トリコデルマ属においては、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)を利用した宿主ベクター系が開発されており、菌体外セルラーゼ遺伝子由来プロモーター等が利用できる(Biotechnology (1989) 7:596-603)。
また、微生物以外でも、植物及び動物を宿主とする様々な宿主ベクター系が開発されている。例えば、大量に異種タンパク質を発現させる系として、蚕を用いた昆虫ベクター系(Nature (1985) 315:592-4)、並びに、菜種、トウモロコシ及びジャガイモ等の植物ベクター系が開発されており、好適に利用できる。
ベクターへの本発明のポリヌクレオチドの導入は、制限酵素サイトを利用したリガーゼ反応により行うことができる(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley&Sons(1987) Section 11.4-11.11; Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Press(1989) Section 5.61-5.63)。また、使用する宿主のコドン使用頻度を考慮し、必要に応じ本発明のポリヌクレオチド配列の改変を行い、発現効率の高いベクターを設計するようにしてもよい(Grantham et al., Nucleic Acids Res (1981) 9:r43-74)。
上述のように、様々な細胞が宿主細胞株として確立されている。そして、各細胞株に適した発現ベクターの導入法も公知であり、当業者であれば、各選択した宿主細胞に好適な導入法を選択することができる。例えば、原核細胞については、カルシウム処理、エレクトポレーションによる形質転換等が知られている。また、植物細胞については、アグロバクテリウムを用いた方法が公知であり、哺乳動物細胞についてはリン酸カルシウム沈降法を例示することができる。本発明は特にこれらの方法に限定されるわけではなく、選択した宿主に応じ、その他公知の核マイクロインジェクション、プロトプラスト融合、DEAE-デキストラン法、細胞融合、電気パルス穿孔法、リポフェクタミン法(GIBCO BRL)、FuGENE6試薬(Boehringer-Mannheim)を用いた方法をはじめとする種々の公知の方法により発現ベクターの導入を行うことができる。
以上のようにして本発明のポリヌクレオチドを含む組換えベクターにより形質転換された形質転換体を培養することにより、本発明の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を有するタンパク質を製造することができる。よって、本発明の好ましい一態様として、本発明の上記形質転換体を培養する工程を含む、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の製造方法が提供される。形質転換体の培養方法は特に限定されず、選択した各宿主細胞の生育に適し、かつ、本発明の酵素の生産に最も適した培地、温度、時間等の条件を選択することが望ましい。例えば、大腸菌を宿主とした本発明の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の製造方法が実施例12に記載されており、大腸菌を宿主とする場合には、それらの条件を参照することができる。
4.芳香族化合物の製造方法
本発明は、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を利用した芳香族化合物の製造方法に関する。具体的には、本発明のポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質、本発明の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、または、タンパク質または酵素に代え、これらを産生する細胞を反応溶液に作用させ、所望の生産物を製造する方法に関する。これは、本発明において同定された4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の脱炭酸または芳香族アルコールへの炭酸付加活性を利用した方法であり、反応基質として芳香族アルコールを使用した場合には、芳香族ヒドロキシカルボン酸が産生され、逆に、芳香族ヒドロキシカルボン酸を基質とした場合には、芳香族アルコールを製造することができる。
本発明による芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法における芳香族アルコールとしてはフェノール、カテコール等が好適に用いられ、それにより、4-ヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸等を製造することができる。また、芳香族アルコールの製造における芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸または3,4-ジヒドロキシ安息香酸を用い、それぞれフェノールまたはカテコールを製造することができる。
ここで、本発明のポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質、及び本発明の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素には、精製及び粗精製されたタンパク質及び酵素が含まれる。即ち、該タンパク質または酵素を産生する細胞の処理物、培養上清等であってもよい。一方、本発明において使用するこれらを産生する細胞としては、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素産生能を有するものであればよく、天然において該酵素を産生する微生物、及び遺伝子操作技術の利用により作製された酵素生産能を獲得した形質転換株が含まれる。微生物の処理物には、具体的には界面活性剤またはトルエン等による有機溶媒処理によって細胞膜の透過性を変化させた微生物、ガラスビーズ若しくは酵素処理によって菌体を破砕した無細胞抽出液、及びそれを部分精製したもの等が含まれる。
必要に応じ、本発明のタンパク質、酵素、または細胞は、その酵素活性を妨げない固相に固定化し、バイオリアクターとして利用してもよい。この場合、触媒となるタンパク質、酵素または細胞を不溶性の担体に結合することにより、生産物の分離が容易となる。物理的吸着法、イオン結合法、共有結合法、及び生化学的特異結合法を含む担体結合法、架橋法、または包括法(格子型、マイクロカプセル型等)等の固定化法により、本発明のタンパク質、酵素または細胞等を固定化することができる。担体結合法における担体としては、これらに限定されるわけではないが、多糖(セルロース、アガロース等)、無機物質(多孔質ガラス、金属酸化物等)、合成高分子(ポリアクリルアミド、ポリスチレン樹脂等)を例示することができる。架橋法における架橋剤としては、グルタルアルデヒド、O=N=C-(CH2)3-C=N=O等が挙げられる。包括法における包括剤としては、例えば、多糖(アルギン酸、カラギーナン等)、ポリアクリルアミド、ENT、PU、ナイロン等が公知であり、本発明においても利用可能である。このような方法により固定化された酵素等は、必要に応じカラム等に詰めて用いることもできる。
これら酵素分子、または酵素を産生する微生物、若しくはその処理物・培養物等を反応溶液と接触させ、目的とする酵素反応を行わせることによって、芳香族化合物の製造を行うことができる。本発明の反応は、水中、水に溶解しにくい有機溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n-ヘキサン、メチルイソブチルケトン、メチルターシャリーブチルエステル等)、もしくは該有機溶媒と水性媒体との2相系、水と水に溶解する有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、アセトン、ジメチルスルホキシド等)との混合系、または超臨界流体(例えば、超臨界炭酸ガス中)中で行うことができる。
本発明の反応は、反応温度4〜60℃、好ましくは15〜37℃、pH3〜11、好ましくはpH6.5〜7、基質濃度0.01〜50%、好ましくは0.1〜20%、さらに好ましくは0.1〜10%で行うことができる。また、基質は、反応開始時に一括して添加することも可能であるが、反応液中の基質濃度が高くなりすぎないように連続的、または非連続的に添加することが望ましい。
本発明の方法により製造された芳香族化合物は、必要に応じ、菌体(細胞)及び・またはタンパク質の遠心分離、膜処理等による分離、さらに溶媒抽出、蒸留等を適当に組み合わせることにより精製することができる。例えば、4-ヒドロキシ安息香酸が生産物であれば、微生物菌体を含む反応液を遠心分離し、微生物菌体を除いた後、pHを酸性にして酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、ヘキサン、ベンゼン、メチルイソブチルケトン、メチルターシャリーブチルエーテル、ブタノール等で抽出する。その後、抽出液を減圧濃縮することにより採取することができる。さらに反応生成物の純度を上げるには、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等を行ってもよい。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1] 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の精製
1. 酵素の安定化条件
培養菌体を10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、超音波発生装置(久保田制作所、モデル201M)を用いて、100Wで20分間処理し、12,000 xgで30分間遠心分離し、得られた上清を無細胞抽出液とした。無細胞抽出液を4℃で保存し、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性の安定性を評価したところ、遠心分離直後の活性を100%とした場合に、4時間後には18%にまで活性が失われた。そこで、酵素活性を安定化する緩衝液を検討した。
10 mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)にジチオスレイトール、Na2S2O5、Na2S2O3、Na2S2O4、チオグリコール酸ナトリウムをそれぞれ5mM添加し、培養菌体を懸濁後に超音波破砕し、得られた無細胞抽出液中の脱炭酸酵素活性を評価した。
遠心分離後の活性を基準として4時間後の活性を評価したところ、Na2S2O5で60%、ジチオスレイトールで53%、Na2S2O3およびNa2S2O4では40%の活性が認められた。チオグリコール酸ナトリウムでは効果は認められなかった。
安定化が認められた化合物の濃度条件と、組み合せ効果を検討した結果、還元剤としてジチオスレイトール5mM、Na2S2O5 20mMを含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で最も安定化されることが確認されたため、この緩衝液を酵素精製に用いる緩衝液とした(以下の精製ステップの記述では、還元剤とpHに関する記載を省略し、緩衝液濃度のみを示した)。
2. 精製
精製には5mMジチオスレイトールおよび20mMチオ硫酸ナトリウムを含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を、標準緩衝液として用いた。酵素精製のための菌体は、エンテロバクター・クロアカエP240株を2Lの培地(4-アセトアミド安息香酸2g/L、ペプトン40g/L、ソルビトール40g/L、リン酸水素二カリウム2g/L、硫酸マグネシウム七水和物0.5g/L、pH8.0)で28℃、7時間振とう培養した後、遠心分離により調製した。得られた湿菌体を標準緩衝液で懸濁し、久保田商事社製超音波破砕装置M201により100Wで20分間破砕後、遠心分離により菌体残渣を除去し、無細胞抽出液を得た。無細胞抽出液に硫安が30%飽和となる量を添加し、生じた沈殿を遠心分離により除去した後、硫安を60%飽和量となるように添加し、遠心分離により4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を含む沈殿画分を得た。この沈殿を標準緩衝液に懸濁し、同緩衝液で透析した。
透析後の酵素液を標準緩衝液で平衡化したDEAEセファレセルカラム(23×450mm)に添加し、0.1M塩化カリウムを含む標準緩衝液で不用なタンパク質を溶出させた後、酵素活性を0.2M塩化カリウム含有の標準緩衝液で溶出させた。
酵素液に硫安を20%飽和となるように添加し、20%飽和量の硫安を含む標準緩衝液で平衡化したフェニルセファロースCL-4Bカラム(20×250mm)に添加した。10%飽和濃度の硫安を含む標準緩衝液で不用なタンパク質を溶出させた後、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性は標準緩衝液で溶出され、活性画分を回収した。
回収した活性画分に硫安を20%飽和となるように添加し、20%飽和量の硫安を含む標準緩衝液で平衡化したブチルトヨパール650Mカラム(20×80mm)に添加した。酵素活性は非吸着画分に認められた。この画分を、SDS-PAGEにより解析した結果、本酵素のみの単一バンドであった(図1)。
精製酵素の比活性は17.8U/mgであった。精製の要約を表1に示す。
[表1]
[実施例2] 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の分子量測定
実施例1で得られた酵素のサブユニット分子量をSDS-PAGEにより求めた結果、約58,000であった。また、TSK G-3000SWのゲルろ過カラムを用いて分子量を測定したところ、約372,000であった。従って、本酵素は6量体であると推定された。
[実施例3] 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の至適pH
100mMのクエン酸ナトリウム緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、トリス塩酸緩衝液、およびグリシン-NaOH緩衝液を用いてpHを変化させて、実施例1で得られた酵素の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸活性を調べた。各pHにおける活性を、最大活性を100とした相対活性で表す(図2)。至適pH(80%以上の相対活性を示したpH範囲)は6.5〜7.0であった。
[実施例4] 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の至適温度
実施例1で得られた酵素を標準反応条件のうち温度だけを変化させて、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸活性を測定した。各温度における活性を、最大活性を100とした相対活性で表す(図3)。至適温度(80%以上の相対活性を示した温度範囲)は30〜40℃であった。
[実施例5] 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の基質特異性
実施例1で得られた酵素をモノヒドロキシ安息香酸、ジヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシ安息香酸等と反応させ、その脱炭酸反応の活性を調べた。各活性を、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸活性を100とした相対活性で表す(表2)。なお、それぞれの基質濃度は20mMとして測定した。
[表2]4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の基質特異性
[実施例6] 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を用いた4-ヒドロキシ安息香酸の合成
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0、20mMフェノール、3M炭酸水素カリウム、10Uの4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を含む反応液1mLを2mL容量の反応容器に入れ、密栓して20℃で30分反応させた。その結果、2.5mMの4-ヒドロキシ安息香酸が合成された。この時の反応収率は約13%であった。
[実施例7] 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素のN末端アミノ酸配列
実施例1で得られた酵素を用いて、プロテインシーケンサーによりN末端アミノ酸配列を解析した。決定されたアミノ酸配列を配列番号:3に示す。
[実施例8] エンテロバクター・クロアカエP240からの染色体DNAの精製
エンテロバクター・クロアカエP240を肉エキス5g/L、ポリペプトン5g/L、酵母エキス0.5g/L、塩化ナトリウム2g/Lからなる培地(pH7.0)を用いて28℃で1日間培養し、菌体を調製した。菌体からの染色体DNAの精製は、Meth Cell Biol (1975) 29:39-44に記載の方法により行った。
[実施例9] 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子のコア領域のクローニング
N末端のアミノ酸配列からセンスプライマーを合成した。センスプライマーの塩基配列を配列番号:4(EC4-N)に示す。また、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)PYR2910のピロール-2-カルボン酸脱炭酸酵素(日本生物工学会平成13年度大会講演要旨集p.141、セラチイア・グリメッシィ(Serratia grimesii)IFO13537のピロール-2-カルボン酸脱炭酸酵素(日本農芸化学会平成14年度大会講演要旨集p.303)、アースロバクター・ニコチアナエ(Arthrobacter nicotianae)FI1612のインドール-3-カルボン酸脱炭酸酵素(日本生物工学会平成14年度大会講演要旨集p.99)、クロストリディウム・ヒドロキシベンゾイカム(Clostridium hydroxybenzoicum)の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素(Accession No.: emb.AF128880)の一次構造をアライメント解析し、保存性が高い配列を見いだし、アンチセンスプライマーを2種類合成した。保存性が認められたアミノ酸配列を配列番号:5に示す。合成したアチセンスプライマーの配列を配列番号:6(EC4-C1)、及び7(EC4-C2)に示す。
センスプライマーEC4-Nを100pmol、アンチセンスプライマーとしてEC4-C1あるいはEC4-C2のいずれかを100pmol、エンテロバクター・クロアカエP240由来染色体DNA 100ng、dNTP 20nmol、Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造製)、Taq DNAポリメラーゼ用緩衝液(宝酒造製)を含む0.1mLの反応液を用い、変性(94℃、60秒)、アニーリング(50℃、90秒)、伸長反応(72℃、60秒)を30サイクル、PCRサーマルサイクラーMP(宝酒造製)を用いて行った。
PCR反応液の一部をアガロースゲル電気泳動により解析した結果、プライマーEC4-NとEC4-C2を用いた場合に760bpの増幅断片が確認され、この断片をRECOCHIP(宝酒造製)を用いて精製した。次に、得られたDNA断片をTakara Ligation Kitを用いてpT7Blue(Novagen製)にライゲーションし、大腸菌DH5αを形質転換した。続いて、形質転換株をアンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地(1%バクト-トリプトン、0.5%バクト−酵母エキス、1%塩化ナトリウム、以下、LB培地と略す)プレート上で生育させ、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン製)によりプラスミドを精製し、pT4ECpとした。
精製したプラスミドを用いて、挿入DNAの塩基配列を解析した。DNA塩基配列の解析には、Thermo Sequenase Cy5.5 Terminator cycle Sequencing kit(アマシャムファルマシアバイオテク製)を用いて反応を行い、Long-Read Tower DNAシーケンサー(アマシャムファルマシアバイオテク製)により分析した。決定されたコア領域の塩基配列を配列番号:8に示す。
[実施例10] 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子のコア領域上流塩基配列の解析
実施例9において得られた760bpの増幅断片の精製標品を、DIGラベリングキット(ロッシュ製)を用いて標識した。エンテロバクター・クロアカエP240由来染色体DNAをSacIIまたはHindIIIで完全消化し、得られた消化物の一部をアガロースゲル電気泳動後、ナイロンメンブレン(ロッシュ製)に転写した。続いて、DIG標識したDNA断片と60℃で一晩ハイブリダイズさせ、60℃で洗浄し、DIGディテクションキット(ロッシュ製)を用いて化学発光をFuji RXフィルムで検出した。SacIIおよびHindIIIで消化した染色体DNAに対して、それぞれ3.3kbpおよび9.7kbpの陽性バンドが各々検出された。エンテロバクター・クロアカエP240由来染色体DNAをSacIIまたはHindIIIによって完全消化して得られたDNA断片をアガロースゲル電気泳動し、SacII消化物では約3.3kbp、HindIII消化物では9.7kbpのDNA断片をRECOCHIP(宝酒造製)を用いて精製した。得られたDNA断片は、SacIIまたはHindIIIで消化したpBluescript II SK(+)にそれぞれTAKARA Ligation Kitを用いてライゲーションし、大腸菌DH5αを形質転換した。得られた形質転換体をアンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地上で生育させた後、Molecular Cloning(Cold Spring Harbor laboratory Press, Cold Spring Harbor, 1989)に記載の方法に従い、DIG標識したDNA断片を用いてコロニーハイブリダイゼーションを行い、SacIIおよびHindIII消化した染色体DNAからそれぞれ陽性クローンを取得した。その結果、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子のORF配列を決定することができた。決定したDNA配列を配列番号:1に、該塩基配列から予想されるアミノ酸配列番号を配列番号:2に示す。
[実施例11] 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子を発現するプラスミドpE4ECの構築
実施例9において得られたエンテロロバクター・クロアカエP240の染色体DNA 100ng、dNTP20nmol、センスプライマーp240pT-N(GGGGGGGATCCATATGGCATTTGATGATTT(配列番号:9))100pmol、アンチセンスプライマーp240pT-C(GGGGGAATTCCACCTCAATTTGCTCATC(配列番号:10))100pmol、Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造製)、Taq DNAポリメラーゼ用緩衝液(宝酒造製)を含む0.1mLの反応液を用い、変性(94℃、60秒)、アニーリング(50℃、90秒)、伸長反応(72℃、60秒)を30サイクル、PCRサーマルサイクラーMP(宝酒造製)を用いて行った。約1.5kbpの増幅断片をRECOCHIP(宝酒造製)を用いて精製した後、制限酵素EcoRIとNdeIで消化し、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子を含むDNA断片をTakara Ligation Kit(宝酒造製)を用いてpET21a(+)にライゲーションした。その結果、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子の発現が可能なプラスミドpE4ECを得た。
[実施例12] 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の活性確認
1. 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の活性測定
4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子を発現するプラスミドpE4ECで形質転換した大腸菌BL21(DE3)株を50μg/mLのアンピシリンを含むLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%バクトー酵母エキス、1%塩化ナトリウム)に植菌し、37℃で4時間培養し、0.1mMのイソプロピルチオガラクトシドを加え、さらに20℃で8時間培養を行った。続いて、菌体を遠心分離により集菌した後、5mMジチオスレイトールおよび20mMチオ硫酸ナトリウムを含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、超音波により菌体を破砕した。遠心分離により得られた上清を無細胞抽出液とした。
反応液体積1mL中に、4-ヒドロキシ安息香酸200mM、リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)100mMおよび無細胞抽出液を入れ、30℃で1分間反応させた。メタノールを0.5ml添加して反応を停止させ、HPLC分析で生成するフェノールを定量した。HPLC分析には、Waters Spherisorb S5ODS2 (4.6×150 mm)カラムを用い、移動相を10mMリン酸緩衝液(pH 2.5)/アセトニトリル=4/1とした。検出は210nmで行い、流速は1ml/minとした。酵素1ユニットは、反応で1分間に1μmolのフェノールを生成することができる酵素量と定義した。
その結果、4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子を発現するプラスミドpE4ECで形質転換されていない大腸菌BL21(DE3)株では活性は全く認められなかったが、形質転換体は7.8U/mgの4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を有することが確認された。
[実施例13] 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素(精製標品)を用いた炭酸固定反応
1. 基本反応条件
反応液体積は2mlとし、フェノール50mM、リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)100mM、炭酸水素カリウム 3M(粉末で添加)、酵素液を添加して、20℃で反応を行った。4mlのメタノールと2mlの4N塩酸を添加して反応を停止させた。
2. pHの影響
酵素624ユニットを用いて緩衝液をリン酸カリウムpH6から8まで変えて反応を15時間行った結果、変換率の大きな変化は認められなかったが、pH7.0で最大変換率が得られた。
3. 温度の影響
酵素824ユニットを用いて反応温度を4、10、20および30℃として1時間反応を行った場合、変換率はそれぞれ5.3、5.3、5.9および5.2%であった。
4. CO 2 源の影響
酵素267ユニットを用いて、市販の炭酸水を反応系に40%(v/v)(反応液2mlのうち0.8mlを炭酸水とした)添加し、1時間反応を行った。
炭酸水素カリウム3Mのみの場合:2.3%変換率
炭酸水40%(v/v)のみの場合:2.7%変換率
両者の併用:5.0%変換率
5. 加圧条件での反応
酵素829ユニットを用い、TAIATSU TECHNO社製の耐圧容器内に反応液を入れ、CO2ガスで5atmまたは10atmまで加圧して反応を1時間行った。
常圧(1 atm):3.4%変換率
5 atm:4.1%変換率
10 atm:4.4%変換率
6. フェノール濃度の影響
フェノール濃度を変えて反応を3時間行った。高濃度では変換率が添加するのは、フェノールによる変性が原因と推定される。結果を表3に示す。
[表3]
-------------------------
フェノール(mM) 変換率(%)
-------------------------
1 9.7
2 8.2
3 8.9
4 6.9
5 6.9
10 6.0
20 4.5
30 2.7
-------------------------
7. 反応の時間変化
反応の進行を3時間まで経時的に測定した。結果を表4に示す。
[表4]
8. カテコールへの炭酸固定反応
フェノール20mMの代わりにカテコール20mMを基質として用い、反応を3時間行なうと、3.72mMの3,4-ジヒドロキシ安息香酸が合成された(変換率は18.6%)。
[実施例14] 形質転換体を用いた4-ヒドロキシ安息香酸の合成
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、20mMフェノール、3M炭酸水素カリウム、実施例12において形質転換体から得た無細胞抽出液(10Uの4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を含む)からなる反応液1mLを2mL容量の反応容器に入れ、密栓して20℃で30分反応させた。その結果、2.3mMの4-ヒドロキシ安息香酸が合成された。この時の反応収率は約12%であった。
本発明により、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)中に存在する4-ヒドロキシ安息香酸を脱炭酸する酵素が、新規な4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素であることを見出された。本酵素は、炭酸付加反応においてフェノールに炭酸付与して4-ヒドロキシ安息香酸を生成する。本発明では、更に、本酵素をコードするDNAを単離し、本酵素を高発現する形質転換体を造成した。本発明の酵素及び該酵素を産生する細胞は、芳香族化合物を原料とした芳香族カルボン酸及び芳香族アルコールの製造に利用することができる。本発明の酵素及び該酵素を産生する細胞を用いて製造される4-ヒドロキシ安息香酸をはじめとする芳香族カルボン酸、芳香族アルコールは、合成樹脂、合成繊維、染顔料等の原料、及び食品、化粧品、医薬品用の防腐剤の原料として用いられ、産業上有用な化合物である。
塩析、並びに、DEAEセファレルカラム、フェニルセファロースカラムおよびブチルトヨパールカラムを用いたクロマトグラフィーにより精製した活性画分をSDS-PAGEにより解析した結果を示す電気泳動写真である。この結果から、得られた酵素のサブユニット分子量は、約58,000であると推定された。 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の至適pHを示すグラフである。図中、縦軸は、pH=7.0の100mMリン酸カリウム緩衝液を用いた時の活性を100とした相対活性を示し、横軸はpHを示す。また、白丸は100mMクエン酸ナトリウム緩衝液、白三角は100mM酢酸ナトリウム緩衝液、白四角は100mM燐酸カリウム緩衝液、バツ印は100mMトリス塩緩衝液、および米印は100mMグリシン-NaOH緩衝液を用いて得られた結果を示す。本酵素の至適pHは、pH6.5〜7.0であった。 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の至適温度を示すグラフである。図中、縦軸は、最大活性を100とした相対活性を示し、横軸は温度を示す。本酵素の至適温度は、30〜40℃であった。

Claims (2)

  1. 下記(a)乃至(d)のポリヌクレオチドがコードするタンパク質、または該タンパク質を産生する細胞をフェノールまたはカテコールに作用させ、それぞれ4-ヒドロキシ安息香酸または3,4-ジヒドロキシ安息香酸を製造する、該4-ヒドロキシ安息香酸または3,4-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法。
    (a)配列番号:1に記載の塩基配列の563番目から1987番目までの塩基を含むポリヌクレオチド
    (b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド
    (c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質であって、フェノールまたはカテコールに炭酸付与してそれぞれ4-ヒドロキシ安息香酸または3,4-ジヒドロキシ安息香酸を生成する作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
    (d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、フェノールまたはカテコールに炭酸付与してそれぞれ4-ヒドロキシ安息香酸または3,4-ジヒドロキシ安息香酸を生成する作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
  2. 下記(a)乃至(d)のポリヌクレオチドがコードするタンパク質 または該タンパク質を産生する細胞を4-ヒドロキシ安息香酸または3,4-ジヒドロキシ安息香酸に作用させ、それぞれフェノールまたはカテコールを製造する、該フェノールまたはカテコールの製造方法。
    (a)配列番号:1に記載の塩基配列の563番目から1987番目までの塩基を含むポリヌクレオチド
    (b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド
    (c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質であって、4-ヒドロキシ安息香酸または3,4-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸し、それぞれフェノールまたはカテコールを生成する作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
    (d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、4-ヒドロキシ安息香酸または3,4-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸し、それぞれフェノールまたはカテコールを生成する作用を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
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