JP4719535B2 - 2,6−ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、その酵素をコードするポリヌクレオチド、その製造方法、およびこれを利用した多価アルコ−ル芳香族化合物の製造方法 - Google Patents
2,6−ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、その酵素をコードするポリヌクレオチド、その製造方法、およびこれを利用した多価アルコ−ル芳香族化合物の製造方法 Download PDFInfo
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Description
非特許文献2:2,3-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の精製と性質、活性中心残基の同定、ペプチド配列解析;
非特許文献3:Aspergillus nigerの2,3-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の精製と性質、精製酵素のペプチド分取とプロテインシーケンシングのデータ;
非特許文献4:A. oryzaeの酵素を用いた2,3-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の精製と性質;
非特許文献5:酵母由来の2,3-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素;
非特許文献6:Clostridium hydroxybenzoicumからの4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の精製と性質、遺伝子クローニング(特に精製と性質、N末端アミノ酸配列の解析、反応の可逆性);
非特許文献7:Clostridium hydroxybenzoicumからの4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の遺伝子クローニングと一次構造解析;
非特許文献8:Clostridium hydroxybenzoicum由来の3,4-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の知見(酵素の精製と性質、N末端アミノ酸配列の解析、反応の可逆性);
非特許文献9:プロトカテク酸の代謝における炭酸固定活性の関与;
本発明者らは、この2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素タンパク質をコードする遺伝子を大腸菌にクローニングし、その塩基配列を解析した。その結果、驚くべきことに、Pandoraea sp. 12B-2由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素タンパク質をコードする遺伝子は、これまでに報告されている4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素タンパク質、および3,4-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素タンパク質をコードする遺伝子との相同性の低い、全く新規な遺伝子であることが分かった。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするポリヌクレオチド、および
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と75%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
〔2〕機能的に同等なタンパク質が、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を脱炭酸し、芳香族多価アルコ−ルを生成する作用、および芳香族多価アルコ−ルに炭酸付加して多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を生成する作用の、いずれか、または両方を有する蛋白質である、〔1〕に記載のポリヌクレオチド。
〔3〕〔1〕に記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質。
〔4〕下記(1)および(2)の理化学的性状を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素;
(1)作用
(a) 多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を脱炭酸し、芳香族多価アルコ−ルを生成する、
(b) 芳香族多価アルコ−ルに炭酸付加して多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を生成する、
(2)基質特異性
(a) 2,6-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸して1,3-ジヒドロキシベンゼンを生成する、
(b) 2,3-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してカテコールを生成する、
(c) 1,3-ジヒドロキシベンゼンに炭酸付加して2,6-ジヒドロキシ安息香酸と2,4-ジヒドロキシ安息香酸を生成する、
(d) カテコールに炭酸付加して2,3-ジヒドロキシ安息香酸を生成する。
〔5〕更に付加的に、下記(3)および(4)の理化学的性状を有する〔4〕に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素;
(3)至適pH
pH5.0-11.0;
(4)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量が約37,000、
ゲルろ過による分子量が約100,000である。
〔6〕〔1〕に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
〔7〕〔1〕に記載のポリヌクレオチド、または〔6〕に記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換体。
〔8〕〔3〕に記載のタンパク質、〔4〕に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、または該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞を芳香族多価アルコールに作用させ、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を回収する工程を含む、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸の製造方法。
〔9〕〔3〕に記載のタンパク質、〔4〕に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、および該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞からなる群から選択される酵素活性物質を多価アルコ−ル芳香族カルボン酸に作用させ、芳香族多価アルコールを回収する工程を含む、芳香族多価アルコールの製造方法。
〔10〕アセトンの存在下で、〔3〕に記載のタンパク質、〔4〕に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、および該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞からなる群から選択される酵素活性物質を多価アルコ−ル芳香族カルボン酸に作用させる工程を含む、〔9〕に記載の方法。
〔11〕反応溶液中に、5〜30%のアセトンを共存させる〔10〕に記載の方法。
〔12〕パンドレア属に由来する〔4〕に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素。
〔13〕受託番号FERM P-20641として寄託されたパンドレア sp. 12B-2株に由来する〔4〕に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素。
〔14〕受託番号FERM P-20641として寄託されたパンドレア sp. 12B-2株を培養し、培養物から2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を回収する工程を含む、〔4〕に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の製造方法。
更に酵素による反応は、穏やかな条件下で効率的に進む。そのため、従来の製造方法が高温・高圧条件下という危険な方法であったのに対して、本発明に基づく製造方法は安全である。また従来の製造方法では反応収率が33%程度であったが、本発明の製造方法は50−60%と反応収率が良く、工業的な利用において有利である。
20 mM 2,6-ジヒドロキシ安息香酸、
100 mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)、および
酵素液
反応を30℃で15分間行い、0.1 mlの2 N塩酸を添加して反応を停止させ、生成物を解析する。たとえば、反応液中に蓄積した1,3-ジヒドロキシベンゼンをHPLCで分析することができる。酵素の1ユニットは1分間で1μmolの1,3-ジヒドロキシベンゼンの生成を触媒する酵素量と定義される。同様の条件で、基質として加えられるヒドロキシ安息香酸を置き換えることにより、その他の基質に対する作用を評価することもできる。酵素タンパク質は、バイオラッド製タンパク質アッセイキットを用いた色素結合法により定量することができる。
15 mM 1,3-ジヒドロキシベンゼン、
3 M 炭酸水素カリウム、
100 mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)、および
酵素液
炭酸固定反応は1,3-ジヒドロキシベンゼンの添加で開始し、20℃に加温した。2 mlのメタノールの添加で反応を停止させ、反応液に含まれる2,6-ジヒドロキシ安息香酸がHPLCで分析される。
(1)作用
(a) 多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を脱炭酸し、芳香族多価アルコ−ルを生成する、
(b) 芳香族多価アルコ−ルに炭酸付加して多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を生成する、
(2)基質特異性
(a) 2,6-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸して1,3-ジヒドロキシベンゼンを生成する、
(b) 2,3-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してカテコールを生成する、
(c) 1,3-ジヒドロキシベンゼンに炭酸付加して2,6-ジヒドロキシ安息香酸と2,4-ジヒドロキシ安息香酸を生成する、
(d) カテコールに炭酸付加して2,3-ジヒドロキシ安息香酸を生成する。
(3)至適pH
pH5.0-11.0;
(4)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量が約37,000、
ゲルろ過による分子量が約100,000である。
(a)寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号中央第6(郵便番号305-8566)
(b)寄託日 平成17年8月25日
(c)受託番号 FERM P-20641
Pandoraea pnomenusa 99.6%、
Pandoraea pulmonicola 99.5%、
Pandoraea sputorum 98.9%、および
Pandoraea apista strain LMG16407 99.3%
これらの知見に基づいて、本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を遺伝子工学的に得ることができる。すなわち本発明は、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を有する下記(a)-(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質を提供する。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするポリヌクレオチド
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と75%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド
より具体的な「ストリンジェントな条件」とは、65℃、0.1×SSCおよび0.1%SDSの条件である。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。
配列番号:1に記載の塩基配列を元にPCR用のプライマーを設計し、酵素生産株の染色体DNAもしくは、cDNAライブラリーを鋳型としてPCRを行うことにより本発明のDNAを得ることができる。
さらに、得られたDNA断片をプローブとして、酵素生産株の染色体DNAの制限酵素消化物をファージ、プラスミドなどに導入し、大腸菌を形質転換して得られたライブラリーやcDNAライブラリーを利用して、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーションなどにより、本発明のポリヌクレオチドを得ることができる。
なお本発明のポリヌクレオチドは、以上のような方法によってクローニングされたゲノムDNA、あるいはcDNAの他、合成によって得ることもできる。このようにして単離されたポリヌクレオチドは、本発明に含まれる。
本発明において、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等とは、当該タンパク質が2,6-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸活性を有することを意味する。当業者であれば、配列番号:1記載のDNAに部位特異的変異導入法(Nucleic Acid Res. 10,pp.6487 (1982) , Methods in Enzymol.100,pp.448 (1983), Molecular Cloning 2ndEdt., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989) , PCR A Practical Approach IRL Press pp.200 (1991) )などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することにより2,6-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素のホモログをコードするポリヌクレオチドを得ることができる。該2,6-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素のホモログをコードするポリヌクレオチドを宿主に導入して発現させることにより、配列番号:2に記載の2,6-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素のホモログを得ることが可能である。
一般にタンパク質の機能の維持のためには、置換するアミノ酸は、置換前のアミノ酸と類似の性質を有するアミノ酸であることが好ましい。このようなアミノ酸残基の置換は、保存的置換と呼ばれている。例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe、Trpは、共に非極性アミノ酸に分類されるため、互いに似た性質を有する。また、非荷電性アミノ酸としては、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、Glnが挙げられる。また、酸性アミノ酸としては、AspおよびGluが挙げられる。また、塩基性アミノ酸としては、Lys、Arg、Hisが挙げられる。これらの各グループ内のアミノ酸置換は許容される。
バチルス(Bacillus)属
シュードモナス(Pseudomonas)属
セラチア(Serratia)属
ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属
コリネバクテリイウム(Corynebacterium)属
ストレプトコッカス(Streptococcus)属
ラクトバチルス(Lactobacillus)属など宿主ベクター系の開発されている細菌
ロドコッカス(Rhodococcus)属
ストレプトマイセス(Streptomyces)属など宿主ベクター系の開発されている放線菌
サッカロマイセス(Saccharomyces)属
クライベロマイセス(Kluyveromyces)属
シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属
チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属
ヤロウイア(Yarrowia)属
トリコスポロン(Trichosporon)属
ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属
ピキア(Pichia)属
キャンディダ(Candida)属などの宿主ベクター系の開発されている酵母
ノイロスポラ(Neurospora)属
アスペルギルス(Aspergillus)属
セファロスポリウム(Cephalosporium)属
トリコデルマ(Trichoderma)属などの宿主ベクター系の開発されているカビ
i).前記理化学的性状(1)および(2)を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素;
ii).前記(a)-(b)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質;
iii).iの2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、またはiiの蛋白質を産生する細胞;
iv).iの2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、iiの蛋白質、またはiiiの細胞の処理物
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
パンドラエア12B-2株 (Pandoraea sp. 12B-2)を0.5Lの培地で28℃で2日間振とう培養して酵素精製のために菌体とした。培地組成は次のとおりである。
2,6-ジヒドロキシ安息香酸 5g/L、
アスパラギン酸 1g/L、
酵母エキス 20g/L、
塩化ナトリウム 2g/L、
リン酸水素二カリウム 2g/L、
硫酸マグネシウム七水和物 0.5g/L
pH7.0
得られた湿菌体を1mMジチオスレイトールを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、久保田商事社製超音波破砕装置M201により100Wで20分間破砕後、遠心分離により菌体残渣を除去し、無細胞抽出液を得た。無細胞抽出液に硫安が30%飽和となる量を添加し、生じた沈殿を遠心分離により除去した後、硫安を60%飽和量となるように添加し、遠心分離により2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を含む沈殿画分を得た。この沈殿を1mMジチオスレイトールを含む10mMリン酸カリウム緩衝液に懸濁し、同緩衝液で透析した。
−表1−
================================================================
ステップ タンパク質 酵素活性 比活性
(mg) (U) (U/mg)
================================================================
無細胞抽出液 575 13.2 0.023
硫安分画 270 8.45 0.031
DEAEセファセル 30.4 3.84 0.126
フェニルセファロースCL-4B 12.1 1.78 0.147
================================================================
酵素反応:
20mMの2,6-ジヒドロキシ安息香酸を含む100mMのリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)1mlに酵素あるいはその粗精製物を加え、30℃で15分間インキュベートした。反応後2N塩酸を0.1ml添加して反応を停止させた。反応液を遠心分離した後、生成した1,3-ジヒドロキシベンゼンをHPLCで定量した。HPLC分析条件は次のとおりである。
カラム:Waters Spherisorb S5IDS2(4.6×150 mm)カラム
移動相:10mMリン酸緩衝液(pH 2.8)/アセトニトリル=22:3
検出:272 nm
流速:1ml/min
タンパク質量は、バイオラッド製タンパク質アッセイキットを用いた色素結合法により定量した。
実施例1で得られた酵素のサブユニット分子量をSDS-PAGEにより求めた結果、約37,000であった。また、TSK G-3000SWのゲルろ過カラムを用いて分子量を測定したところ、約100,000であった。この結果から、実施例1で得られた酵素は2〜4の複数のサブユニットで構成されるサブユニット構造を有すると推定された。
実施例1で得られた酵素の、種々のpHにおける2,6-ジヒドロキシ安息香酸の脱炭酸活性を調べた。以下の緩衝液を用いてpHを変化させて、各pHにおける酵素活性を測定した。酵素活性の測定条件は、緩衝液として次の緩衝液を用いるほかは、実施例1に記載の標準測定条件にしたがった。
○:100mMクエン酸ナトリウム緩衝液 (pH2-6)、
△:100mM酢酸ナトリウム緩衝液 (pH2-6)、
□:100mMリン酸カリウム緩衝液 (pH6-8)、
×:100mMトリス塩緩衝液 (pH7-9)、および
*:100mMグリシン-NaOH緩衝液 (pH9-11)
得られた酵素活性を、最大活性を100とした相対活性で表し、図2に示した。至適pH(80%以上の相対活性を示したpH範囲)は5-11であった。
実施例1で得られた酵素の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の脱炭酸活性を、温度を変えて調べた。酵素活性の測定条件は、インキュベーション温度を変化させるほかは、実施例1に記載の標準測定条件にしたがった。各温度における活性を、30℃での活性を100とした相対活性で表し、図3に示した。最大活性は60℃で認められた。
実施例1で得られた酵素の種々のpHにおける安定性を調べた。以下の緩衝液を用いてpHを変化させて、緩衝液中で30℃20分間加温した後、2,6-ジヒドロキシ安息香酸の脱炭酸活性を測定した。酵素活性の測定条件は、緩衝液として次の緩衝液を用いるほかは、実施例1に記載の標準測定条件にしたがった。
○:50mMクエン酸ナトリウム緩衝液 (pH2-6)、
△:50mM酢酸ナトリウム緩衝液 (pH2-6)、
□:50mMリン酸カリウム緩衝液 (pH6-8)、
×:50mMトリス塩緩衝液 (pH7-9)、および
*:50mMグリシン-NaOH緩衝液 (pH9-11)
各pHにおける酵素のpH安定性をリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で処理した時の活性を100とした相対活性で表し、図4に示した。80%以上の残存活性を示したpH範囲は5-10であった。
実施例1で得られた酵素の温度安定性を調べた。酵素を、0-70℃の温度範囲で20分間処理した後、2,6-ジヒドロキシ安息香酸の脱炭酸活性を測定した。酵素活性の測定条件は、種々の温度で処理された酵素を用いるほかは、実施例1に記載の標準測定条件にしたがった。各温度に対する酵素の熱安定性を、30℃で処理した時の活性を100とした相対活性で表し、図5に示した。80%以上の活性を示した温度範囲は0-50℃であった。
実施例1で得られた酵素の基質特異性を調べた。酵素を表2に示すような基質化合物と反応させ、その脱炭酸反応の活性を測定した。酵素活性の測定条件は、基質として2,6-ジヒドロキシ安息香酸に代えて表2に記載の各化合物(29mM)を加える他は、実施例1に記載の標準測定条件にしたがった。2,6-ジヒドロキシ安息香酸の脱炭酸活性を100とする相対活性で酵素活性を表し、表2(2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の基質特異性)に示した。なお、それぞれの基質濃度を50mMとして測定した。表2中、「trace」とは痕跡量の生成物が検出がされたことを示す。
=====================================
基質 相対活性
(%)
=====================================
2,6-ジヒドロキシ安息香酸 100
安息香酸 0
2-ヒドロキシ安息香酸 0
3-ヒドロキシ安息香酸 trace
4-ヒドロキシ安息香酸 trace
2,3-ジヒドロキシ安息香酸 140
2,4-ジヒドロキシ安息香酸 trace
3,4-ジヒドロキシ安息香酸 0
2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸 0
3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸 0
テレフタル酸 0
バニリン酸 0
4-メトキシ安息香酸 0
4-アミノ安息香酸 0
=====================================
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、3Mの1,3-ジヒドロキシベンゼン、3M炭酸水素カリウム、1Uの2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を含む反応液1mLを2mL容の反応容器に入れ、密閉して30℃で168時間反応させた。その結果、1.44Mの2,6-ジヒドロキシ安息香酸が合成された。この時の反応収率は48%であった。
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、200mMの1,3-ジヒドロキシベンゼン、3M炭酸水素カリウム、1Uの2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、0.1mLあるいは0.2mLのアセトンを含む反応液1mLを2mL容の反応容器に入れ、密閉して30℃で72時間反応させた。2,6-ジヒドロキシ安息香酸の生成濃度の時間変化を図6に示した。アセトンの添加は2,6-ジヒドロキシ安息香酸の合成速度を高めた。
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、100mMカテコール、3M炭酸水素カリウム、1Uの2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を含む反応液1mLを2mL容の反応容器に入れ、密閉して30℃で48時間反応させた。その結果、32mMの2,3-ジヒドロキシ安息香酸が合成された。この時の反応収率は32%であった。
(1)Pandoraea sp. 12B-2の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子のクローニング
精製酵素のN末端アミノ酸配列(TFKHTYKIALEEHFAIEETVQDSAGFVPQS)(配列番号:3)からPCR用のセンスプライマーをデザインした。一方アンチセンスプライマーはAgrobacterium tumefaciens IAM12048の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素とそのホモログ(相同性40%以上のタンパク質)において保存されていたアミノ酸配列に基づいてデザインした。Pandoraea sp. 12B-2から調製したゲノムDNAを鋳型としたPCRで、644 bpの増幅断片を得た。
センスプライマー :5'-GARCAYTTYGCNATNGARGA-3'(配列番号:4)
アンチセンスプライマー:5'-ARNCCYTCNCCCATRTGNCC-3'(配列番号:5)
Pandoraea sp. 12B-2の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の一次構造は、Agrobacterium tumefaciens IAM12048およびRhizobium radiobacter MTP-10005の同酵素との相同性はそれぞれ71%および72%であった。また、Agrobacterium tumefaciens C58の機能未同定タンパク質と72%の相同性を示した。機能同定されている他の酵素としてはPseudomonas paucimobilis5-カルボキシバニリン酸脱炭酸酵素と37%の相同性を示す程度であった。40〜50%台の相同性を示すタンパク質群は機能未同定のものであった。
2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子領域を、ゲノムDNAを鋳型として、次のプライマーを使ってPCRで増幅した。
センスプライマー(小文字はNdeIリンカー配列):
5'-GGGGGGGATCcatatgACATTCAAGGCAAC -3'(配列番号:6)、および
アンチセンスプライマー(小文字はEcoRIリンカー配列):
5'-GGGGgaattcAGCGTGCCGGCATTTCAC-3'、(配列番号:7)
増幅した断片をNdeIおよびEcoRIで消化し、発現用ベクターpET-21a(+)のNdeI/EcoRIギャップへライゲーションした。得られたプラスミドをE. coli BL21(DE3)へ形質転換し、平板培地上で得られた形質転換体を50 μg/mlのアンピシリンを含むLB液体培地に植菌し、37℃で15時間振とう培養した後、IPTGを1 mMを添加して28℃で9時間さらに培養した。得られた菌体を集菌し、細胞破砕後にSDS-PAGEでタンパク質の発現を確認した(図7)。5〜40μLの無細胞抽出液をSDS-PAGEの分析サンプルとした。50mLの培養液に含まれる菌体を1.5mLの0.85%食塩水に懸濁し、超音波で破砕後、遠心分離して得られた上清(酵素液)を無細胞抽出液とした。
形質転換体を用いた1,3-ジヒドロキシベンゼンからの2,6-ジヒドロキシ安息香酸への変換反応でも、Pandoraea sp. 12B-2の菌体あるいは酵素を用いた場合と同じ反応特性を示し、変換率も同程度に達する。
Claims (12)
- 下記(a)-(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするポリヌクレオチド、および
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有する、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするポリヌクレオチド。 - 機能的に同等なタンパク質が、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を脱炭酸し、芳香族多価アルコ−ルを生成する作用、および芳香族多価アルコ−ルに炭酸付加して多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を生成する作用の、いずれか、または両方を有する蛋白質である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
- 請求項1に記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質。
- 下記(1)から(4)の理化学的性状を有し、パンドレア属に由来する2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素;
(1)作用
(a) 多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を脱炭酸し、芳香族多価アルコ−ルを生成する、
(b) 芳香族多価アルコ−ルに炭酸付加して多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を生成する、
(2)基質特異性
(a) 2,6-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸して1,3-ジヒドロキシベンゼンを生成する、
(b) 2,3-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してカテコールを生成する、
(c) 1,3-ジヒドロキシベンゼンに炭酸付加して2,6-ジヒドロキシ安息香酸と2,4-ジヒドロキシ安息香酸を生成する、
(d) カテコールに炭酸付加して2,3-ジヒドロキシ安息香酸を生成する、
(3)至適pH
pH5.0-11.0、
(4)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量が37,000、
ゲルろ過による分子量が100,000である。 - 請求項1に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
- 請求項1に記載のポリヌクレオチド、または請求項5に記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換体。
- 請求項3に記載のタンパク質、請求項4に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、または該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞を芳香族多価アルコールに作用させ、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を回収する工程を含む、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸の製造方法。
- 請求項3に記載のタンパク質、請求項4に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、および該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞からなる群から選択される酵素活性物質を多価アルコ−ル芳香族カルボン酸に作用させ、芳香族多価アルコールを回収する工程を含む、芳香族多価アルコールの製造方法。
- アセトンの存在下で、請求項3に記載のタンパク質、請求項4に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、および該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞からなる群から選択される酵素活性物質を芳香族多価アルコールに作用させる工程を含む、請求項7に記載の方法。
- 反応溶液中に、5〜30%のアセトンを共存させる請求項9に記載の方法。
- 受託番号FERM P-20641として寄託されたパンドレア sp. 12B-2株に由来する請求項4に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素。
- 受託番号FERM P-20641として寄託されたパンドレア sp. 12B-2株を培養し、培養物から2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を回収する工程を含む、請求項4に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の製造方法。
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