JP4719535B2 - 2,6−ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、その酵素をコードするポリヌクレオチド、その製造方法、およびこれを利用した多価アルコ−ル芳香族化合物の製造方法 - Google Patents

2,6−ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、その酵素をコードするポリヌクレオチド、その製造方法、およびこれを利用した多価アルコ−ル芳香族化合物の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸の製造に有用である新規な2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、そのタンパク質をコードするDNA、該酵素の製造方法、該酵素を用いたヒドロキシカルボン酸を製造する方法に関する。
多価アルコ−ル芳香族カルボン酸は、医薬、あるいは農薬の中間体、液晶、感熱紙、リソグラフプレ−ト等の原料として用いられる産業上有用な化合物である。例えば、2,6-ジヒドロキシ安息香酸は種々の医薬品や稲、トウモロコシ、小麦用の除草剤の原料として重要な物質である。
従来、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸は、工業的には主に芳香族多価アルコ−ルを原料としてコルベ−シュミット法による炭酸化反応により製造されている。コルベ−シュミット法による炭酸化反応とは、芳香族多価アルコ−ルの金属塩に炭酸ガスを高温高圧下で反応させる方法である。しかし、この製造方法は高温・高圧条件下で行われるために危険が伴う。また生成する多価アルコ−ル芳香族カルボン酸は、さまざまな位置にカルボン酸が付加した化合物の混合物である。そのため、目的とする化合物を得るためには、別途煩雑な分離精製工程が必要となる。目的とする多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を化学合成により選択的に製造する方法が種々検討されているが、実用化には至っていない。
化学的な合成方法に代わる、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸の選択的な製造方法として、酵素を利用する方法が研究されている。たとえば、桐村らは、土壌から新たに分離されたAgrobacterium tumefaciensの菌体反応による多価アルコ−ル芳香族カルボン酸の生産を試みた。そして当該細菌から、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を精製し、その諸性質を報告した(非特許文献1参照)。しかしながら現在に至るまでに、その遺伝子はクローニングされておらず、異種微生物での高発現も報告されていない。
また、従来のジヒドロキシ安息香酸の合成方法では、α体やβ体の副生を伴い、γ体である2,6-ジヒドロキシ安息香酸の選択的な合成は困難であった。ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素について、その他に次のような知見が得られている。
非特許文献2:2,3-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の精製と性質、活性中心残基の同定、ペプチド配列解析;
非特許文献3:Aspergillus nigerの2,3-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の精製と性質、精製酵素のペプチド分取とプロテインシーケンシングのデータ;
非特許文献4:A. oryzaeの酵素を用いた2,3-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の精製と性質;
非特許文献5:酵母由来の2,3-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素;
非特許文献6:Clostridium hydroxybenzoicumからの4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の精製と性質、遺伝子クローニング(特に精製と性質、N末端アミノ酸配列の解析、反応の可逆性);
非特許文献7:Clostridium hydroxybenzoicumからの4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の遺伝子クローニングと一次構造解析;
非特許文献8:Clostridium hydroxybenzoicum由来の3,4-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の知見(酵素の精製と性質、N末端アミノ酸配列の解析、反応の可逆性);
非特許文献9:プロトカテク酸の代謝における炭酸固定活性の関与;
また、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)を用いた2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法(特許文献1参照)が知られている。しかしこの報告における反応収率は33%と低く、圧力下における反応例の記載はない。
一方、微生物培養環境においてフェノールが4-ヒドロキシ安息香酸に変換されたという報告もある。これらの報告では、いずれも偏性嫌気性細菌によるフェノールの嫌気的分解代謝産物として4-ヒドロキシ安息香酸の存在が推測されている(非特許文献10〜12参照)。あるいはClostridium属細菌様菌株からも4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素が精製されており、その性質が報告されている(非特許文献13)。更に本発明者らも、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)由来の4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の単離に成功した(非特許文献14)。その他、リゾビウム属MTP-10005株 (Rhizobium sp. TP-10005)を用いた2,6-ジヒドロキシ安息香酸の製造方法が公知である(特許文献3)。しかし当該反応を触媒する酵素は単離されていない。また、リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobiumradiobacter)からは、レゾルシノールからγ−レゾルシンを選択的に合成する酵素が単離された(特許文献4)。
特開2001-46093号公報 特開平9-313193号公報 特開2005-65554号公報 特開2005-118002号公報 桐村ら、平成15年度日本生物工学会大会要旨集、p.216 Kamath AV,外2名著、「Enzyme-catalysed non-oxidative decarboxylation of aromatic acids: I. Purification and spectroscopic properties of 2,3 dihydroxybenzoic acid decarboxylase from Aspergillus niger.」、Biochem. Biophys. Res. Commun.、1987年、Vol.145、p.586-595 Santha R,外3名著、「2,3-Dihydroxybenzoic acid decarboxylase from Aspergillus niger. A novel decarboxylase.」、Eur. J. Biochem.、1995年、Vol.230、p.104-110 Santha R, 外2名著、「Identification of the active-site peptide of 2,3-dihydroxybenzoic acid decarboxylase from Aspergillus oryzae.」、Biochim. Biophys. Acta.、1996年、Vol.1293、p.191-200 Anderson JJ,およびDagley S.著、「Catabolism of tryptophan, anthranilate, and 2,3-dihydroxybenzoate in Trichosporon cutaneum.」、J. Bacteriol.、1981年、Vol.146、p.291-297 He Z,およびWiegel J.著、「Purification and characterization of an oxygen-sensitive reversible 4-hydroxybenzoate decarboxylase from Clostridium hydroxybenzoicum.」、Eur. J. Biochem.、1995年、p.77-82 Huang J, 外2名著、「Cloning, characterization, and expression of a novel gene encoding a reversible 4-hydroxybenzoate decarboxylase from Clostridium hydroxybenzoicum.」、J. Bacteriol.、1999年、Vol.181、p.5119-5122 He Z,およびWiegel J.著、「Purification and characterization of an oxygen-sensitive, reversible 3,4-dihydroxybenzoate decarboxylase from Clostridium hydroxybenzoicum.」、J. Bacteriol.、1996年、Vol.178、p.3539-3543 Gorny N,およびSchink B.著、「Anaerobic degradation of catechol by Desulfobacterium sp. strain Cat2 proceeds via carboxylation to protocatechuate.」、Appl. Environ. Microbiol.、1994年、Vol.60、p.3396-3400 P.J.Chapmanら, Biodegradation (1990) 1:65-74 G.Fuchsら, Arch Microbiol (1987) 148:213-7 J.Winterら, Appl Microbiol Biotechnol (1989) 30:318-24 Can. J. Biochem. (2000) 46:856-9 長澤ら、平成16年度日本農芸化学会大会要旨集、p.148
本発明は、多価アルコールに炭酸を付加して、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を生成する2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素タンパク質をコードする新規なポリヌクレオチドを提供することを課題とする。さらに、本発明は、該ポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換された形質転換体や2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を利用して、多価アルコ−ル芳香族化合物を製造する方法の提供を課題とする。
本発明者らは、多価アルコ−ルに広く作用し、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を生成する高活性な酵素をスクリーニングした結果、Pandoraea sp. 12B-2がこのような特徴を持つ2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を生産することを見いだした。
本発明者らは、この2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素タンパク質をコードする遺伝子を大腸菌にクローニングし、その塩基配列を解析した。その結果、驚くべきことに、Pandoraea sp. 12B-2由来の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素タンパク質をコードする遺伝子は、これまでに報告されている4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素タンパク質、および3,4-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素タンパク質をコードする遺伝子との相同性の低い、全く新規な遺伝子であることが分かった。
すなわち本発明は、以下のポリヌクレオチド、それによってコードされるタンパク質、あるいは新規な2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素に関する。更に本発明は、これらタンパク質あるいは2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を利用する、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸、または芳香族多価アルコールを製造する方法に関する。
〔1〕下記(a)-(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするポリヌクレオチド、および
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と75%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
〔2〕機能的に同等なタンパク質が、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を脱炭酸し、芳香族多価アルコ−ルを生成する作用、および芳香族多価アルコ−ルに炭酸付加して多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を生成する作用の、いずれか、または両方を有する蛋白質である、〔1〕に記載のポリヌクレオチド。
〔3〕〔1〕に記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質。
〔4〕下記(1)および(2)の理化学的性状を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素;
(1)作用
(a) 多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を脱炭酸し、芳香族多価アルコ−ルを生成する、
(b) 芳香族多価アルコ−ルに炭酸付加して多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を生成する、
(2)基質特異性
(a) 2,6-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸して1,3-ジヒドロキシベンゼンを生成する、
(b) 2,3-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してカテコールを生成する、
(c) 1,3-ジヒドロキシベンゼンに炭酸付加して2,6-ジヒドロキシ安息香酸と2,4-ジヒドロキシ安息香酸を生成する、
(d) カテコールに炭酸付加して2,3-ジヒドロキシ安息香酸を生成する。
〔5〕更に付加的に、下記(3)および(4)の理化学的性状を有する〔4〕に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素;
(3)至適pH
pH5.0-11.0;
(4)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量が約37,000、
ゲルろ過による分子量が約100,000である。
〔6〕〔1〕に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
〔7〕〔1〕に記載のポリヌクレオチド、または〔6〕に記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換体。
〔8〕〔3〕に記載のタンパク質、〔4〕に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、または該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞を芳香族多価アルコールに作用させ、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を回収する工程を含む、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸の製造方法。
〔9〕〔3〕に記載のタンパク質、〔4〕に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、および該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞からなる群から選択される酵素活性物質を多価アルコ−ル芳香族カルボン酸に作用させ、芳香族多価アルコールを回収する工程を含む、芳香族多価アルコールの製造方法。
〔10〕アセトンの存在下で、〔3〕に記載のタンパク質、〔4〕に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、および該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞からなる群から選択される酵素活性物質を多価アルコ−ル芳香族カルボン酸に作用させる工程を含む、〔9〕に記載の方法。
〔11〕反応溶液中に、5〜30%のアセトンを共存させる〔10〕に記載の方法。
〔12〕パンドレア属に由来する〔4〕に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素。
〔13〕受番号FERM P-20641として寄託されたパンドレア sp. 12B-2株に由来する〔4〕に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素。
〔14〕受番号FERM P-20641として寄託されたパンドレア sp. 12B-2株を培養し、培養物から2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を回収する工程を含む、〔4〕に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の製造方法。
本発明により、新規な2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、並びにそれをコードするポリヌクレオチドが提供された。本発明によって提供された酵素は、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸、あるいは芳香族多価アルコールの製造に有用である。また、該酵素を発現可能に保持した形質転換体もまた、これらの化合物の製造に利用することができる。
本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素は、炭酸付加反応の選択性が高い。したがって、該酵素を用いることによって2,6-ジヒドロキシ安息香酸を選択的に合成することができるため、工業的な利用において有利である。
更に酵素による反応は、穏やかな条件下で効率的に進む。そのため、従来の製造方法が高温・高圧条件下という危険な方法であったのに対して、本発明に基づく製造方法は安全である。また従来の製造方法では反応収率が33%程度であったが、本発明の製造方法は50−60%と反応収率が良く、工業的な利用において有利である。
本発明において、「脱炭酸酵素」とは、脱炭酸反応、すなわちカルボン酸から炭酸が除去される脱炭酸反応を触媒する酵素を意味する。加えて「脱炭酸酵素」は、アルコールに対する炭酸付加活性を有し、炭酸過剰条件下においては、脱炭酸反応の逆反応を触媒することができる。従って本発明における「脱炭酸酵素」は、前記脱炭酸反応の逆反応である炭酸を付加する炭酸付加反応を触媒する作用を有する。
タンパク質の「脱炭酸酵素」活性は、公知の方法によって評価することができる。たとえば2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の活性は、次の条件の下で測定することができる。まず反応液(1ml)の組成を以下に示す。
20 mM 2,6-ジヒドロキシ安息香酸、
100 mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)、および
酵素液
反応を30℃で15分間行い、0.1 mlの2 N塩酸を添加して反応を停止させ、生成物を解析する。たとえば、反応液中に蓄積した1,3-ジヒドロキシベンゼンをHPLCで分析することができる。酵素の1ユニットは1分間で1μmolの1,3-ジヒドロキシベンゼンの生成を触媒する酵素量と定義される。同様の条件で、基質として加えられるヒドロキシ安息香酸を置き換えることにより、その他の基質に対する作用を評価することもできる。酵素タンパク質は、バイオラッド製タンパク質アッセイキットを用いた色素結合法により定量することができる。
他方、1,3-ジヒドロキシベンゼンへの炭酸固定反応は、たとえば文献(Wieser et al., Carbon dioxide fixation of reversible pyrrole-2-carboxylate decarboxylase from Bacillus megaterium PYR2910, Eur. J. Biochem., 257, 495-499 (1998))に記載の方法に従って気密密閉容器内で実施することができる。炭酸固定反応の反応液(2 ml)の組成を以下に例示する。
15 mM 1,3-ジヒドロキシベンゼン、
3 M 炭酸水素カリウム、
100 mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)、および
酵素液
炭酸固定反応は1,3-ジヒドロキシベンゼンの添加で開始し、20℃に加温した。2 mlのメタノールの添加で反応を停止させ、反応液に含まれる2,6-ジヒドロキシ安息香酸がHPLCで分析される。
本発明は、下記(1)および(2)の理化学的性状を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を提供する。
(1)作用
(a) 多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を脱炭酸し、芳香族多価アルコ−ルを生成する、
(b) 芳香族多価アルコ−ルに炭酸付加して多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を生成する、
(2)基質特異性
(a) 2,6-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸して1,3-ジヒドロキシベンゼンを生成する、
(b) 2,3-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してカテコールを生成する、
(c) 1,3-ジヒドロキシベンゼンに炭酸付加して2,6-ジヒドロキシ安息香酸と2,4-ジヒドロキシ安息香酸を生成する、
(d) カテコールに炭酸付加して2,3-ジヒドロキシ安息香酸を生成する。
本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素には、更に付加的に、下記(3)および(4)の理化学的性状を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素が含まれる。
(3)至適pH
pH5.0-11.0;
(4)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量が約37,000、
ゲルろ過による分子量が約100,000である。
本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素は、該酵素を産生する微生物から通常の蛋白質の精製方法により、精製することができる。上記微生物は、細菌の培養に用いられる一般的な培地で培養される。培地には、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を誘導するための化合物を添加することができる。たとえば、2,6-ジヒドロキシ安息香酸等を酵素の誘導剤として用いることができる。
該酵素を産生する微生物は、十分に増殖させた後に菌体を回収し、適当な緩衝液中で、破砕して無細胞抽出液とする。緩衝液には、2-メルカプトエタノール(2-mercaptoethanol)等の還元剤や、フェニルメタンスルホニルフルオリド(phenylmethansulfonyl fluoride; PMFS)のようなプロテアーゼ阻害剤を加えることができる。得られた無細胞抽出液から、蛋白質の溶解度による分画や各種のクロマトグラフィーなどを適宜組み合わせることにより、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を精製することができる。
蛋白質の溶解度による分画方法としては、例えばアセトンやジメチルスルホキシドのような有機溶媒による沈澱や硫安による塩析等を利用することができる。一方クロマトグラフィーには、陽イオン交換、陰イオン交換、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィーや、キレート、色素、抗体などを用いた多くのアフィニティクロマトグラフィーが公知である。より具体的には、例えば、フェニル-トヨパールを用いた疎水クロマトグラフィー、DEAE-セファロースを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー、ブチル-トヨパールを用いた疎水クロマトグラフィー、ブルー-セファロースを用いたアフィニティークロマトグラフィー、スーパーデックス200を用いたゲルろ過等を経て、本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を電気泳動的にほぼ単一バンドまで精製することができる。
微生物としては、たとえばパンドレア属(Pandoraea sp.)に属する微生物を用いることができる。より具体的には、Pandoraea sp. 12B-2は、本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の産生菌として望ましい微生物である。Pandoraea sp. 12B-2は、受託番号FERM P-20641として特許微生物寄託センターに寄託されている。
パンドレア sp. 12B-2(Pandoraea sp. 12B-2)の寄託:
(a)寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号中央第6(郵便番号305-8566)
(b)寄託日 平成17年8月25日
(c)受番号 FERM P-20641
パンドレア sp. 12B-2の16s rDNAの塩基配列は配列番号:8のとおりであった。当該塩基配列を公知のrDNAの塩基配列と比較したところ、次に示すような相同性が確認された。更にrDNAの塩基配列に基づいて既知の微生物との遺伝的な関係を示す系統樹を作成した(図8)。パンドレア sp. 12B-2は、Pandoraea pnomenusaと極めて近縁の種であると推定された。
Pandoraea pnomenusa 99.6%、
Pandoraea pulmonicola 99.5%、
Pandoraea sputorum 98.9%、および
Pandoraea apista strain LMG16407 99.3%
パンドレア sp. 12B-2の16s rDNAの塩基配列は配列番号:8のとおりであった。したがって、16s rDNAに配列番号:8に記載の塩基配列を含む微生物は、本発明の、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の産生菌として望ましい微生物である。すなわち本発明は、16s rDNAに配列番号:8に記載の塩基配列を含む微生物に由来し、(1)および(2)、あるいは(1)-(4)に記載の理化学的性状を有する、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を提供する。微生物の16s rDNAの塩基配列は、公知の方法によって決定することができる。
Pandoraea sp. 12B-2から得ることができる本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素は、前記理化学的性状(1)-(4)を有する新規な酵素である。構造的には、理化学的性状(4)に記載したとおり、SDS-PAGEによって決定された分子量約37,000、およびゲルろ過によって決定された分子量約100,000を有する蛋白質である。パンドレア sp. 12B-2から単離された2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素のアミノ酸配列(330アミノ酸残基)を、配列番号:2に示した。
これらの知見に基づいて、本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を遺伝子工学的に得ることができる。すなわち本発明は、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を有する下記(a)-(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質を提供する。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするポリヌクレオチド
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と75%以上の相同性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド
本発明の蛋白質は、本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドを単離し、遺伝子組み換え技術を利用して、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を発現させることができる。本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドは、たとえば、以下のような方法によって単離することができる。
本発明は、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素タンパク質をコードするポリヌクレオチドおよびそのホモログに関する。本発明において、ポリヌクレオチドは、DNAやRNAのような天然に存在するポリヌクレオチドであることもできるし、人工的に合成されたヌクレオチド誘導体を含むポリヌクレオチドであっても良い。また本発明のポリヌクレオチドは、DNA-RNAのキメラ分子であってもよい。
本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、たとえば配列番号:1に示す塩基配列を含む。配列番号:1に示す塩基配列は、配列番号:2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質をコードしており、このアミノ酸配列を含むタンパク質は、本発明による2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の好ましい態様を構成する。
本発明のポリヌクレオチドとして、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列に1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。当業者であれば、配列番号:1記載のDNAに部位特異的変異導入法(Nucleic Acid Res. 10,pp.6487 (1982) , Methods in Enzymol.100,pp.448 (1983), Molecular Cloning 2ndEdt., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989) , PCR A Practical Approach IRL Press pp.200 (1991))などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することができる。
本発明において、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸活性を有するタンパク質をコードするこれらのポリヌクレオチドは、特に配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対するホモログと言う。ホモログは、変異の導入の他、配列番号:1に記載された塩基配列に基づいて他の生物からPCRクローニングやハイブリダイズによって単離することもできる。たとえば配列番号:1に記載の塩基配列は、Pandoraea sp. 12B-2より単離された遺伝子の塩基配列である。
また、本発明のポリヌクレオチドには、配列番号:1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズできるポリヌクレオチドが含まれる。ストリンジェントな条件でハイブリダイズできるポリヌクレオチドとは、配列番号:1に記載中の任意の少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、例えば40、60または100個の連続した配列を一つまたは複数選択したDNAをプローブDNAとし、例えばECL direct nucleic acid labeling and detection system (Amersham Pharmaica Biotech社製)を用いて、マニュアルに記載の条件(例えば、wash:42℃、0.5x SSCを含むprimary wash buffer)において、ハイブリダイズするポリヌクレオチドを指す。
より具体的な「ストリンジェントな条件」とは、65℃、0.1×SSCおよび0.1%SDSの条件である。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。
さらに、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%以上、あるいは95%以上、更には98%以上のホモロジーを有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。タンパク質のホモロジー検索は、例えばSWISS-PROT, PIR,DADなどのタンパク質のアミノ酸配列に関するデータベースや DDBJ、EMBL、あるいはGene-BankなどのDNA配列に関するデータベース、DNA配列を元にした予想アミノ酸配列に関するデータベースなどを対象に、BLAST、FASTAなどのプログラムを利用して、例えば、インターネットを通じて行うことができる。
本発明の2,6-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドは、例えば、以下のような方法によって単離することができる。
配列番号:1に記載の塩基配列を元にPCR用のプライマーを設計し、酵素生産株の染色体DNAもしくは、cDNAライブラリーを鋳型としてPCRを行うことにより本発明のDNAを得ることができる。
さらに、得られたDNA断片をプローブとして、酵素生産株の染色体DNAの制限酵素消化物をファージ、プラスミドなどに導入し、大腸菌を形質転換して得られたライブラリーやcDNAライブラリーを利用して、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーションなどにより、本発明のポリヌクレオチドを得ることができる。
また、PCRにより得られたDNA断片の塩基配列を解析し、得られた配列から、既知のDNAの外側に伸長させるためのPCRプライマーを設計し、酵素生産株の染色体DNAを適当な制限酵素で消化後、自己環化反応によりDNAを鋳型として逆PCRを行うことにより(Genetics 120, 621-623 (1988))、また、RACE法(Rapid Amplification of cDNA End、「PCR実験マニュアル」p25-33, HBJ出版局)などにより本発明のポリヌクレオチドを得ることも可能である。
なお本発明のポリヌクレオチドは、以上のような方法によってクローニングされたゲノムDNA、あるいはcDNAの他、合成によって得ることもできる。このようにして単離されたポリヌクレオチドは、本発明に含まれる。
すなわち本発明は、単離されたポリヌクレオチドを含む。単離されたポリヌクレオチドとは、天然に存在するポリヌクレオチドとは異なる形態で存在するポリヌクレオチドを言う。たとえば、ベクターや他の生物のゲノムにインテグレートされたポリヌクレオチドは、単離されたポリヌクレオチドに含まれる。あるいは、cDNA、PCR産物、あるいは制限酵素の切断断片として得られた本発明のポリヌクレオチドは、単離されたポリヌクレオチドである。あるいは融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの一部として利用されたポリヌクレオチドも、単離されたポリヌクレオチドに含まれる。
単離されたポリヌクレオチドとは、天然に存在するポリヌクレオチドとは異なる形態で存在するポリヌクレオチドを言う。たとえば、ベクターや他の生物のゲノムにインテグレートされたポリヌクレオチドは、単離されたポリヌクレオチドに含まれる。あるいは、cDNA、PCR産物、あるいは制限酵素の切断断片として得られた本発明のポリヌクレオチドは、単離されたポリヌクレオチドである。あるいは融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの一部として利用されたポリヌクレオチドも、単離されたポリヌクレオチドに含まれる。
本発明のポリヌクレオチドは、本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の遺伝子工学的な製造に有用である。あるいは本発明のポリヌクレオチドによって、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸の製造に有用な2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を有する微生物を遺伝子工学的に作り出すことができる。
また本発明は、本発明のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を提供する。本発明のタンパク質としては、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、および、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質のホモログが挙げられる。
本発明の2,6-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素のホモログとは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列に1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を意味する。
本発明において、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等とは、当該タンパク質が2,6-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸活性を有することを意味する。当業者であれば、配列番号:1記載のDNAに部位特異的変異導入法(Nucleic Acid Res. 10,pp.6487 (1982) , Methods in Enzymol.100,pp.448 (1983), Molecular Cloning 2ndEdt., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989) , PCR A Practical Approach IRL Press pp.200 (1991) )などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することにより2,6-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素のホモログをコードするポリヌクレオチドを得ることができる。該2,6-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素のホモログをコードするポリヌクレオチドを宿主に導入して発現させることにより、配列番号:2に記載の2,6-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素のホモログを得ることが可能である。
配列番号:2に記載のアミノ酸配列(330アミノ酸残基)において、50以下、好ましくは30以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは10以下、あるいは5以下のアミノ酸残基の変異は許容される。あるいは、たとえば20%以下、具体的には10%、好ましくは5%以下、より好ましくは3%、更には2%以下のアミノ酸残基の変異は許容される。
一般にタンパク質の機能の維持のためには、置換するアミノ酸は、置換前のアミノ酸と類似の性質を有するアミノ酸であることが好ましい。このようなアミノ酸残基の置換は、保存的置換と呼ばれている。例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe、Trpは、共に非極性アミノ酸に分類されるため、互いに似た性質を有する。また、非荷電性アミノ酸としては、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、Glnが挙げられる。また、酸性アミノ酸としては、AspおよびGluが挙げられる。また、塩基性アミノ酸としては、Lys、Arg、Hisが挙げられる。これらの各グループ内のアミノ酸置換は許容される。
さらに、本発明の2,6-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素のホモログとは、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%以上、たとえば95%以上、あるいは98%以上のホモロジーを有するタンパク質をいう。
本発明において2,6-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、あるいはそのホモログは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等な活性を有する限り、付加的なアミノ酸配列を結合することができる。たとえば、ヒスチジンタグやHAタグのような、タグ配列を付加することができる。あるいは、他のタンパク質との融合タンパク質とすることもできる。また本発明の2,6-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、あるいはそのホモログは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等な活性を有する限り、断片であってもよい
本発明の2,6-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を有するタンパク質は、実質的に純粋なタンパク質とすることができる。本発明において、実質的に純粋なタンパク質とは、他の生物学的な分子を実質的に含まないことを言う。より具体的には、実質的に純粋なタンパク質とは、乾燥重量で、通常75%以上、あるいは80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上の純度を有する。タンパク質の純度を決定する方法は公知である。具体的には、各種カラムクロマトグラフィー、あるいはSDS−PAGE等の電気泳動分析によって、タンパク質の純度を知ることができる。
また本発明は、本発明のポリヌクレオチドが挿入された組換えベクターを提供する。例えば、上記のようにして単離された、本発明による2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素タンパク質をコードするポリヌクレオチドを公知の発現ベクターに挿入することにより、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素発現ベクターが提供される。また、この発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養することにより、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を形質転換体より得ることができる。すなわち本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む組換えベクターにより形質転換された形質転換体を培養し、その培養物から2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素タンパク質を回収する工程を含む、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の製造方法が含まれる。
本発明において2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を発現させるために、形質転換の対象となる微生物は、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターにより形質転換され、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を発現することができる微生物であれば特に制限はない。利用可能な微生物としては、たとえば以下のような微生物を示すことができる。
エシェリヒア(Escherichia)属
バチルス(Bacillus)属
シュードモナス(Pseudomonas)属
セラチア(Serratia)属
ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属
コリネバクテリイウム(Corynebacterium)属
ストレプトコッカス(Streptococcus)属
ラクトバチルス(Lactobacillus)属など宿主ベクター系の開発されている細菌
ロドコッカス(Rhodococcus)属
ストレプトマイセス(Streptomyces)属など宿主ベクター系の開発されている放線菌
サッカロマイセス(Saccharomyces)属
クライベロマイセス(Kluyveromyces)属
シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属
チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属
ヤロウイア(Yarrowia)属
トリコスポロン(Trichosporon)属
ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属
ピキア(Pichia)属
キャンディダ(Candida)属などの宿主ベクター系の開発されている酵母
ノイロスポラ(Neurospora)属
アスペルギルス(Aspergillus)属
セファロスポリウム(Cephalosporium)属
トリコデルマ(Trichoderma)属などの宿主ベクター系の開発されているカビ
形質転換体の作製のための手順および宿主に適合した組換えベクターの構築は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができる(例えば、Sambrookら、モレキュラー・クローニング、Cold Spring Harbor Laboratories)。微生物中などにおいて、本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子を発現させるためには、まず微生物中において安定に存在するプラスミドベクターやファージベクター中に、本発明のDNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる必要がある。そのためには、転写・翻訳を制御するユニットにあたるプロモーターを本発明のDNA鎖の5'-側上流に、より好ましくはターミネーターを3'-側下流に、それぞれ組み込めばよい。このプロモーター、ターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能することが知られているプロモーター、ターミネーターを用いる必要がある。これら各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネータ−などに関して「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」、特に酵母に関しては、Adv. Biochem. Eng. 43, 75-102 (1990)、Yeast 8, 423-488 (1992)などに詳細に記述されている。
例えばエシェリヒア属、特に大腸菌エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)においては、プラスミドベクターとして、pBR、pUC系プラスミドを利用でき、lac(β−ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、trc(lac、trpの融合)、λファージPL、PRなどに由来するプロモーターなどが利用できる。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーターなどを用いることができる。これらの中で、市販のpSE420(Invitrogen製)のマルチクローニングサイトを一部改変したベクターpSE420D(特開2000-189170に記載)が好適に利用できる。
バチルス属においては、ベクターとしてpUB110系プラスミド、pC194系プラスミドなどが利用可能であり、染色体にインテグレートすることもできる。また、プロモーター、ターミネーターとしてapr(アルカリプロテアーゼ)、npr(中性プロテアーゼ)、amy(α−アミラーゼ)などが利用できる。
シュードモナス属においては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)などで宿主ベクター系が開発されている。トルエン化合物の分解に関与するプラスミドTOLプラスミドを基本にした広宿主域ベクター(RSF1010などに由来する自律的複製に必要な遺伝子を含む)pKT240などが利用可能であり、プロモーター、ターミネーターとして、リパーゼ(特開平5-284973)遺伝子などが利用できる。
ブレビバクテリウム属、特にブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)においては、pAJ43(Gene 39, 281 (1985))などのプラスミドベクターが利用可能である。プロモーター、ターミネーターとしては、大腸菌で使用されているプロモーター、ターミネーターがそのまま利用可能である。
コリネバクテリウム属、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、pCS11(特開昭57-183799)、pCB101(Mol. Gen. Genet. 196, 175 (1984))などのプラスミドベクターが利用可能である。
ストレプトコッカス(Streptococcus)属においては、pHV1301(FEMS Microbiol. Lett. 26, 239 (1985))、pGK1(Appl. Environ. Microbiol. 50, 94 (1985))などがプラスミドベクターとして利用可能である。
ラクトバチルス(Lactobacillus)属においては、ストレプトコッカス属用に開発されたpAMβ1(J. Bacteriol. 137, 614 (1979))などが利用可能であり、プロモーターとして大腸菌で利用されているものが利用可能である。
ロドコッカス(Rhodococcus)属においては、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)から単離されたプラスミドベクターが使用可能である(J. Gen. Microbiol. 138,1003 (1992))。
ストレプトマイセス(Streptomyces)属においては、HopwoodらのGenetic Manipulation of Streptomyces: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratories (1985)に記載の方法に従って、プラスミドを構築することができる。特に、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)においては、pIJ486(Mol. Gen. Genet. 203, 468-478, 1986)、pKC1064(Gene 103,97-99 (1991))、pUWL-KS (Gene 165,149-150 (1995))が使用できる。また、ストレプトマイセス・バージニア(Streptomyces virginiae)においても、同様のプラスミドを使用することができる(Actinomycetol. 11, 46-53 (1997))。
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、特にサッカロマイセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae)においては、YRp系、YEp系、YCp系、YIp系プラスミドが利用できる。たとえば染色体内に多コピー存在するリボソームDNAとの相同組み換えを利用したインテグレーションベクター(EP 537456など)は、多コピーで遺伝子を導入でき、かつ安定に遺伝子を保持できるため極めて有用である。また、ADH(アルコール脱水素酵素)、GAPDH(グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素)、PHO(酸性フォスファターゼ)、GAL(β−ガラクトシダーゼ)、PGK(ホスホグリセレートキナーゼ)、ENO(エノラーゼ)などのプロモーター、ターミネーターが利用可能である。
クライベロマイセス属、特にクライベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)においては、サッカロマイセス・セレビジアエ由来2μm系プラスミド、pKD1系プラスミド(J. Bacteriol. 145, 382-390 (1981))、キラー活性に関与するpGKl1由来プラスミド、クライベロマイセス属における自律増殖遺伝子KARS系プラスミド、リボソームDNAなどとの相同組み換えにより染色体中にインテグレート可能なベクタープラスミド(EP 537456など)などが利用可能である。また、ADH、PGKなどに由来するプロモーター、ターミネーターが利用可能である。
シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属においては、シゾサッカロマイセス・ポンベ由来のARS(自律複製に関与する遺伝子)及びサッカロマイセス・セレビジアエ由来の栄養要求性を相補する選択マーカーを含むプラスミドベクターが利用可能である(Mol. Cell. Biol. 6, 80 (1986))。また、シゾサッカロマイセス・ポンベ由来のADHプロモーターなどが利用できる(EMBO J. 6, 729 (1987))。特に、pAUR224は、宝酒造から市販されており容易に利用できる。
チゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)においては、チゴサッカロマイセス・ロウキシ(Zygosaccharomyces rouxii)由来のpSB3(Nucleic Acids Res. 13, 4267 (1985))などに由来するプラスミドベクターが利用可能であり、サッカロマイセス・セレビジアエ由来 PHO5プロモーターや、チゴサッカロマイセス・ロウキシ由来 GAP-Zr(グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素)のプロモーター(Agri. Biol. Chem. 54, 2521 (1990))などが利用可能である。
ピキア(Pichia)属においては、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などにピキア由来自律複製に関与する遺伝子(PARS1、PARS2)などを利用した宿主ベクター系が開発されており(Mol. Cell. Biol. 5, 3376 (1985))、高濃度培養とメタノールで誘導可能なAOXなど強いプロモーターが利用できる(Nucleic Acids Res. 15, 3859 (1987))。また、ピキア・アンガスタ(Pichia angusta、旧名ハンゼヌラ・ポリモルファ Hansenula polymorpha)において宿主ベクター系が開発されている。ベクターとしては、ピキア・アンガスタ由来自律複製に関与する遺伝子(HARS1、HARS2)も利用可能であるが、比較的不安定であるため、染色体への多コピーインテグレーションが有効である(Yeast 7, 431-443 (1991))。また、メタノールなどで誘導されるAOX(アルコールオキシダーゼ)、FDH(ギ酸脱水素酵素)のプロモーターなどが利用可能である。
キャンディダ(Candida)属においては、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・ウチルス(Candida utilis)などにおいて宿主ベクター系が開発されている。キャンディダ・マルトーサにおいてはキャンディダ・マルトーサ由来ARSがクローニングされ(Agri. Biol. Chem. 51, 51, 1587 (1987))、これを利用したベクターが開発されている。また、キャンディダ・ウチルスにおいては、染色体インテグレートタイプのベクターは強力なプロモーターが開発されている(特開平08-173170)。
アスペルギルス(Aspergillus)属においては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリジー(Aspergillus oryzae)などが、カビの中で最もよく研究されており、プラスミドや染色体へのインテグレーションが利用可能であり、菌体外プロテアーゼやアミラーゼ由来のプロモーターが利用可能である(Trends in Biotechnology 7, 283-287 (1989))。
トリコデルマ(Trichoderma)属においては、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)を利用したホストベクター系が開発され、菌体外セルラーゼ遺伝子由来プロモーターなどが利用できる(Biotechnology 7, 596-603 (1989))。
また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が開発されており、特に蚕を用いた昆虫(Nature 315, 592-594 (1985))や菜種、トウモロコシ、ジャガイモなどの植物中に大量に異種タンパク質を発現させる系が開発されており、好適に利用できる。
本発明によって提供された2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、あるいは当該酵素活性を有する形質転換体は、アルコールの炭酸付加による多価アルコ−ル芳香族カルボン酸の製造に利用することができる。すなわち本発明は、本発明による2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を有する酵素活性物質を芳香族多価アルコールに作用させ、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を回収する工程を含む、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸の製造方法に関する。本発明において、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を有する酵素活性物質とは、たとえば次の酵素、蛋白質、それらを産生する細胞、およびそれらの処理物を含む。
i).前記理化学的性状(1)および(2)を有する2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素;
ii).前記(a)-(b)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質;
iii).iの2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、またはiiの蛋白質を産生する細胞;
iv).iの2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、iiの蛋白質、またはiiiの細胞の処理物
本発明による多価アルコ−ル芳香族カルボン酸の製造方法において、原料となるアルコールとしては、例えばレソルシノール、カテコール、ハイドロキノンなどをあげることができる。
本発明によって提供された2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、あるいは当該酵素活性を有する形質転換体は、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸への炭酸付加による芳香族アルコールの製造に有用である。すなわち本発明は、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、または該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞を多価アルコ−ル芳香族カルボン酸に作用させ、芳香族多価アルコールを回収する工程を含む、芳香族多価アルコールの製造方法に関する。本発明による芳香族多価アルコールの製造方法において、基質とすることができる多価アルコ−ル芳香族カルボン酸としては例えば、2,6-ジヒドロキシ安息香酸、2,3-ジヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。
本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素は、炭酸付加反応の選択性が高いところから、工業的な利用において有利である。本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、または該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞を反応溶液と接触させることにより、目的とする酵素反応を行わせることができる。本発明の製造方法において、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の由来は限定されない。すなわち配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、またはそれと機能的に同等なタンパク質は、本発明の製造方法に用いることができる。このようなタンパク質は、たとえば、先に述べたような、遺伝子工学的な手法により得ることができる。あるいは、Pandoraea sp. 12B-2などの、Pandoraea属微生物から単離された天然の酵素タンパク質を利用することもできる。
また本発明の製造方法において、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素タンパク質若しくは酵素を産生する細胞とは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、またはそれと機能的に同等なタンパク質を発現する任意の細胞を言う。たとえば、これらのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に保持した形質転換細胞は、本発明の製造方法における好ましい細胞である。本発明における細胞には、当該細胞の処理物であって、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を維持した処理物が含まれる。微生物の処理物には、具体的には界面活性剤やトルエンなどの有機溶媒処理によって細胞膜の透過性を変化させた微生物、あるいはガラスビーズや酵素処理によって菌体を破砕した無細胞抽出液やそれを部分精製したものなどが含まれる。
酵素や細胞と反応溶液の接触形態は、限定されない。反応溶液は、基質を酵素活性の発現に望ましい環境を与える適当な溶媒に溶解したものである。本発明の形質転換体並びにその処理物を用いた炭酸付加反応もしくは脱炭酸反応は、水中もしくは水に溶解しにくい有機溶媒、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n-ヘキサン、メチルイソブチルケトン、メチルt-ブチルエーテルなどの有機溶媒中、もしくは、エタノールやアセトン、ジメチルスルホキシド等の水性媒体との2相混合系、或るいは、超臨界炭酸ガス中において行うことができる。本発明の炭酸付加反応もしくは脱炭酸反応には、固定化酵素、膜リアクター等を利用することもできる。
後に述べるように、アセトンは本発明の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素による酵素反応を促進した。したがって、アセトンを添加した反応溶液は、本発明における好ましい反応溶液である。反応溶液におけるアセトンの添加量は、基質化合物の種類と濃度、酵素あるいは酵素活性物質の使用量などに応じて適宜調節することができる。たとえば、反応溶液に対して、1〜50%(v/v)、通常2〜30%(v/v)、好ましくは5〜25%(v/v)、たとえば10〜20%(v/v)のアセトンを反応溶液に添加することができる。
本発明のアルコールの炭酸付加により生成する多価アルコ−ル芳香族カルボン酸、脱炭酸反応により生成する芳香族アルコールは、反応液から菌体、タンパク質を分離した後、適宜精製することができる。菌体やタンパク質は、遠心分離、あるいは膜処理等により反応液から分離される。多価アルコ−ル芳香族カルボン酸または芳香族アルコールは、溶媒抽出、蒸留、イオン交換クロマトグラフィー、晶析等を適当に組み合わせることにより精製される。
具体的には、反応液をろ過、遠心分離等により処理して固形物を除去した後、得られた溶液に塩酸や硫酸等の酸溶液を加えて酸性化することにより、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を回収することができる。例えば、2,6-ジヒドロキシ安息香酸では、微生物菌体を含む反応液を遠心分離し、微生物菌体をのぞいた後、その上清に酸を添加することによりpHを2以下にし、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、ヘキサン、メチルイソブチルケトン、メチルt-ブチルエーテルなどの溶媒を添加して、2,6-ジヒドロキシ安息香酸を溶媒層に抽出する。これを相分離後、エバポレーターにより濃縮し、結晶化することにより、純度の高い2,6-ジヒドロキシ安息香酸を精製することができる。
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例1]2,6-ジヒドロキアシ安息香酸脱炭酸酵素の精製
パンドラエア12B-2株 (Pandoraea sp. 12B-2)を0.5Lの培地で28℃で2日間振とう培養して酵素精製のために菌体とした。培地組成は次のとおりである。
2,6-ジヒドロキシ安息香酸 5g/L、
アスパラギン酸 1g/L、
酵母エキス 20g/L、
塩化ナトリウム 2g/L、
リン酸水素二カリウム 2g/L、
硫酸マグネシウム七水和物 0.5g/L
pH7.0
得られた湿菌体を1mMジチオスレイトールを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、久保田商事社製超音波破砕装置M201により100Wで20分間破砕後、遠心分離により菌体残渣を除去し、無細胞抽出液を得た。無細胞抽出液に硫安が30%飽和となる量を添加し、生じた沈殿を遠心分離により除去した後、硫安を60%飽和量となるように添加し、遠心分離により2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を含む沈殿画分を得た。この沈殿を1mMジチオスレイトールを含む10mMリン酸カリウム緩衝液に懸濁し、同緩衝液で透析した。
透析後の酵素液を1mMジチオスレイトールを含む10mMリン酸カリウム緩衝液で平衡化したDEAEセファセルカラム(20×130mm)にチャージした。0.1M塩化カリウムと1mMジチオスレイトールを含む10mMリン酸カリウム緩衝液で不要なタンパク質を溶出させた。次いで酵素活性画分を、0.2M塩化カリウムと1mMジチオスレイトールを含む10mMリン酸カリウム緩衝液で溶出させた。
酵素液に硫安を20%飽和となるように添加し、20%飽和濃度の硫安を含む1mMジチオスレイトールを含む10mMリン酸カリウム緩衝液で平衡化したフェニルセファロースCL-4Bカラム(20×50mm)にチャージした。5%飽和濃度の硫安を含む1mMジチオスレイトールを含む10mMリン酸カリウム緩衝液で不要なタンパク質を溶出させた。次いで、1mMジチオスレイトールを含む10mMリン酸カリウム緩衝液で溶出し、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性が検出された画分を回収した。この画分を、ドデシル硫酸ナトリウムーポリアクリルアミドゲル電気泳動(以下、SDS-PAGEと省略する)により解析した結果、目的とする酵素が単一のバンドとして検出された(図1)。
精製酵素の比活性は0.147U/mgであった。精製の要約を表1に示す。
−表1−
================================================================
ステップ タンパク質 酵素活性 比活性
(mg) (U) (U/mg)
================================================================
無細胞抽出液 575 13.2 0.023
硫安分画 270 8.45 0.031
DEAEセファセル 30.4 3.84 0.126
フェニルセファロースCL-4B 12.1 1.78 0.147
================================================================
酵素活性は次の条件(以下「標準測定条件」と記載する)で測定した。
酵素反応:
20mMの2,6-ジヒドロキシ安息香酸を含む100mMのリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)1mlに酵素あるいはその粗精製物を加え、30℃で15分間インキュベートした。反応後2N塩酸を0.1ml添加して反応を停止させた。反応液を遠心分離した後、生成した1,3-ジヒドロキシベンゼンをHPLCで定量した。HPLC分析条件は次のとおりである。
カラム:Waters Spherisorb S5IDS2(4.6×150 mm)カラム
移動相:10mMリン酸緩衝液(pH 2.8)/アセトニトリル=22:3
検出:272 nm
流速:1ml/min
タンパク質量は、バイオラッド製タンパク質アッセイキットを用いた色素結合法により定量した。
[実施例2]2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の分子量測定
実施例1で得られた酵素のサブユニット分子量をSDS-PAGEにより求めた結果、約37,000であった。また、TSK G-3000SWのゲルろ過カラムを用いて分子量を測定したところ、約100,000であった。この結果から、実施例1で得られた酵素は2〜4の複数のサブユニットで構成されるサブユニット構造を有すると推定された。
[実施例3]2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の至適pH
実施例1で得られた酵素の、種々のpHにおける2,6-ジヒドロキシ安息香酸の脱炭酸活性を調べた。以下の緩衝液を用いてpHを変化させて、各pHにおける酵素活性を測定した。酵素活性の測定条件は、緩衝液として次の緩衝液を用いるほかは、実施例1に記載の標準測定条件にしたがった。
○:100mMクエン酸ナトリウム緩衝液 (pH2-6)、
△:100mM酢酸ナトリウム緩衝液 (pH2-6)、
□:100mMリン酸カリウム緩衝液 (pH6-8)、
×:100mMトリス塩緩衝液 (pH7-9)、および
*:100mMグリシン-NaOH緩衝液 (pH9-11)
得られた酵素活性を、最大活性を100とした相対活性で表し、図2に示した。至適pH(80%以上の相対活性を示したpH範囲)は5-11であった。
[実施例4]2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の至適温度
実施例1で得られた酵素の2,6-ジヒドロキシ安息香酸の脱炭酸活性を、温度を変えて調べた。酵素活性の測定条件は、インキュベーション温度を変化させるほかは、実施例1に記載の標準測定条件にしたがった。各温度における活性を、30℃での活性を100とした相対活性で表し、図3に示した。最大活性は60℃で認められた。
[実施例5]2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素のpH安定性
実施例1で得られた酵素の種々のpHにおける安定性を調べた。以下の緩衝液を用いてpHを変化させて、緩衝液中で30℃20分間加温した後、2,6-ジヒドロキシ安息香酸の脱炭酸活性を測定した。酵素活性の測定条件は、緩衝液として次の緩衝液を用いるほかは、実施例1に記載の標準測定条件にしたがった。
○:50mMクエン酸ナトリウム緩衝液 (pH2-6)、
△:50mM酢酸ナトリウム緩衝液 (pH2-6)、
□:50mMリン酸カリウム緩衝液 (pH6-8)、
×:50mMトリス塩緩衝液 (pH7-9)、および
*:50mMグリシン-NaOH緩衝液 (pH9-11)
各pHにおける酵素のpH安定性をリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で処理した時の活性を100とした相対活性で表し、図4に示した。80%以上の残存活性を示したpH範囲は5-10であった。
[実施例6]2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の温度安定性
実施例1で得られた酵素の温度安定性を調べた。酵素を、0-70℃の温度範囲で20分間処理した後、2,6-ジヒドロキシ安息香酸の脱炭酸活性を測定した。酵素活性の測定条件は、種々の温度で処理された酵素を用いるほかは、実施例1に記載の標準測定条件にしたがった。各温度に対する酵素の熱安定性を、30℃で処理した時の活性を100とした相対活性で表し、図5に示した。80%以上の活性を示した温度範囲は0-50℃であった。
[実施例7]2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の基質特異性
実施例1で得られた酵素の基質特異性を調べた。酵素を表2に示すような基質化合物と反応させ、その脱炭酸反応の活性を測定した。酵素活性の測定条件は、基質として2,6-ジヒドロキシ安息香酸に代えて表2に記載の各化合物(29mM)を加える他は、実施例1に記載の標準測定条件にしたがった。2,6-ジヒドロキシ安息香酸の脱炭酸活性を100とする相対活性で酵素活性を表し、表2(2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の基質特異性)に示した。なお、それぞれの基質濃度を50mMとして測定した。表2中、「trace」とは痕跡量の生成物が検出がされたことを示す。
−表2−
=====================================
基質 相対活性
(%)
=====================================
2,6-ジヒドロキシ安息香酸 100
安息香酸 0
2-ヒドロキシ安息香酸 0
3-ヒドロキシ安息香酸 trace
4-ヒドロキシ安息香酸 trace
2,3-ジヒドロキシ安息香酸 140
2,4-ジヒドロキシ安息香酸 trace
3,4-ジヒドロキシ安息香酸 0
2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸 0
3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸 0
テレフタル酸 0
バニリン酸 0
4-メトキシ安息香酸 0
4-アミノ安息香酸 0
=====================================
[実施例8]2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を用いた2,6-ジヒドロキシ安息香酸の合成
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、3Mの1,3-ジヒドロキシベンゼン、3M炭酸水素カリウム、1Uの2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を含む反応液1mLを2mL容の反応容器に入れ、密閉して30℃で168時間反応させた。その結果、1.44Mの2,6-ジヒドロキシ安息香酸が合成された。この時の反応収率は48%であった。
[実施例9]2,6-ジヒドロキシ安息香酸合成へのアセトンの添加効果
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、200mMの1,3-ジヒドロキシベンゼン、3M炭酸水素カリウム、1Uの2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、0.1mLあるいは0.2mLのアセトンを含む反応液1mLを2mL容の反応容器に入れ、密閉して30℃で72時間反応させた。2,6-ジヒドロキシ安息香酸の生成濃度の時間変化を図6に示した。アセトンの添加は2,6-ジヒドロキシ安息香酸の合成速度を高めた。
[実施例10]2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を用いた2,3-ジヒドロキシ安息香酸の合成
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、100mMカテコール、3M炭酸水素カリウム、1Uの2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を含む反応液1mLを2mL容の反応容器に入れ、密閉して30℃で48時間反応させた。その結果、32mMの2,3-ジヒドロキシ安息香酸が合成された。この時の反応収率は32%であった。
以下、酵素遺伝子のクローニングと発現に関するデータを項目ごとに列記する。
(1)Pandoraea sp. 12B-2の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子のクローニング
精製酵素のN末端アミノ酸配列(TFKHTYKIALEEHFAIEETVQDSAGFVPQS)(配列番号:3)からPCR用のセンスプライマーをデザインした。一方アンチセンスプライマーはAgrobacterium tumefaciens IAM12048の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素とそのホモログ(相同性40%以上のタンパク質)において保存されていたアミノ酸配列に基づいてデザインした。Pandoraea sp. 12B-2から調製したゲノムDNAを鋳型としたPCRで、644 bpの増幅断片を得た。
センスプライマー :5'-GARCAYTTYGCNATNGARGA-3'(配列番号:4)
アンチセンスプライマー:5'-ARNCCYTCNCCCATRTGNCC-3'(配列番号:5)
この増幅断片をランダムプライミング法でジゴキシゲニン標識したものをプローブDNAとして用い、ゲノミックサザンブロット解析を行った。EcoRIで消化したゲノムDNAにおいて、約5 kbpの陽性シグナルが認められ、EcoRIでの消化断片をpBluescript SK(+)にライゲーションし、大腸菌DH5aに形質転換してゲノムライブラリーを構築した。コロニーハイブリダイゼーションにより陽性クローンを取得した。陽性クローンを用いた塩基配列解析から、遺伝子塩基配列と酵素一次構造を得た(配列番号:1)。酵素タンパク質は330アミノ酸残基から構成されていた(配列番号:2)。
(2)Pandoraea sp. 12B-2の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の一次構造解析
Pandoraea sp. 12B-2の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の一次構造は、Agrobacterium tumefaciens IAM12048およびRhizobium radiobacter MTP-10005の同酵素との相同性はそれぞれ71%および72%であった。また、Agrobacterium tumefaciens C58の機能未同定タンパク質と72%の相同性を示した。機能同定されている他の酵素としてはPseudomonas paucimobilis5-カルボキシバニリン酸脱炭酸酵素と37%の相同性を示す程度であった。40〜50%台の相同性を示すタンパク質群は機能未同定のものであった。
(3)大腸菌における2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子の発現と組換え体による2,6-ジヒドロキシ安息香酸の合成反応
2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子領域を、ゲノムDNAを鋳型として、次のプライマーを使ってPCRで増幅した。
センスプライマー(小文字はNdeIリンカー配列):
5'-GGGGGGGATCcatatgACATTCAAGGCAAC -3'(配列番号:6)、および
アンチセンスプライマー(小文字はEcoRIリンカー配列):
5'-GGGGgaattcAGCGTGCCGGCATTTCAC-3'、(配列番号:7)
増幅した断片をNdeIおよびEcoRIで消化し、発現用ベクターpET-21a(+)のNdeI/EcoRIギャップへライゲーションした。得られたプラスミドをE. coli BL21(DE3)へ形質転換し、平板培地上で得られた形質転換体を50 μg/mlのアンピシリンを含むLB液体培地に植菌し、37℃で15時間振とう培養した後、IPTGを1 mMを添加して28℃で9時間さらに培養した。得られた菌体を集菌し、細胞破砕後にSDS-PAGEでタンパク質の発現を確認した(図7)。5〜40μLの無細胞抽出液をSDS-PAGEの分析サンプルとした。50mLの培養液に含まれる菌体を1.5mLの0.85%食塩水に懸濁し、超音波で破砕後、遠心分離して得られた上清(酵素液)を無細胞抽出液とした。
形質転換体の休止菌体を用いて2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素活性を評価した。生育菌体を0.85%塩化ナトリウム溶液に懸濁し、20 mMの2,6-ジヒドロキシ安息香酸、100 mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)を含む反応液で、30℃で20分間反応させた。比較のため、Pandoraea sp 12B-2の培養菌体を用いた活性値も測定した。生育度(610nmにおける吸光度;以下OD610と省略する)が1.0の培養液1 mlから得られる菌体を用いた時の活性を指標として、形質転換体では11.6 (nmol/min・ml・OD610)の活性が認められ、Pandoraea sp. 12B-2では3.63 (nmol/min・ml・OD610)であった。
形質転換体を用いた1,3-ジヒドロキシベンゼンからの2,6-ジヒドロキシ安息香酸への変換反応でも、Pandoraea sp. 12B-2の菌体あるいは酵素を用いた場合と同じ反応特性を示し、変換率も同程度に達する。
本発明により、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を効率的に、かつ安全に製造することができる。多価アルコ−ル芳香族カルボン酸は、医薬、あるいは農薬の中間体、液晶、感熱紙、リソグラフプレ−ト等の原料として用いられる産業上有用な化合物である。例えば、2,6-ジヒドロキシ安息香酸は種々の医薬品や稲、トウモロコシ、小麦用の除草剤の原料として重要な物質である。
2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素について、塩析、並びに、DEAEセファレルカラム、フェニルセファロースカラムを用いたクロマトグラフィーにより精製した活性画分を、SDS-PAGEにより解析した結果を示す電気泳動写真である。レーン左は精製した活性画分、右が分子量マーカーの結果である。 2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の至適pHを示すグラフである。図中、縦軸は、pH=7.0の100mMリン酸カリウム緩衝液を用いた時の活性を100とした相対活性を示し、横軸はpHを示す。グラフの各シンボルは、それぞれ次の条件を示す。本酵素の至適pHは、pH5.0〜11.0であった。 ○:100mMクエン酸ナトリウム緩衝液、 △:100mM酢酸ナトリウム緩衝液、 □:100mMリン酸カリウム緩衝液、 ×:100mMトリス塩緩衝液、および *:100mMグリシン-NaOH緩衝液 2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の至適温度を示すグラフである。図中、縦軸は、最大活性を100とした相対活性を示し、横軸は温度を示す。本酵素の至適温度は、30〜40℃であった。 2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素のpH安定性を示すグラフである。図中、縦軸は、各pHに対する酵素のpH安定性をリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で処理した時の活性を100とした相対活性を示し、横軸はpHを示す。グラフの各シンボルは、それぞれ次の条件を示す。80%以上の残存活性を示したpH範囲は5-10であった。 ○:50mMクエン酸ナトリウム緩衝液 (pH2-6)、 △:50mM酢酸ナトリウム緩衝液 (pH2-6)、 □:50mMリン酸カリウム緩衝液 (pH6-8)、 ×:50mMトリス塩緩衝液 (pH7-9)、および *:50mMグリシン-NaOH緩衝液 (pH9-11) 2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の温度安定性を示すグラフである。図中、縦軸は、各温度に対する酵素の熱安定性を30℃で処理した時の活性を100とした相対活性を示し、横軸は温度を示す。80%以上の活性を示した温度範囲は0-50℃であった。 2,6-ジヒドロキシ安息香酸の生成濃度の時間変化を示すグラフである。0.1mLあるいは0.2mLのアセトンを含む反応液1mLを添加し、生成濃度を測定した。図中、縦軸は、2,6-ジヒドロキシ安息香酸の生成濃度を示し、横軸は時間を示す。アセトンの添加は2,6-ジヒドロキシ安息香酸の合成速度を高めた。 大腸菌における2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素遺伝子の発現について、SDS-PAGEにより解析した結果を示す電気泳動写真である。PCRで増幅した断片を発現用ベクターpET-21a(+)のNdeI/EcoRIギャップへライゲーションし、形質転換体の細胞破砕後にSDS-PAGEでタンパク質の発現を確認した。図中、(1)〜(4)は、それぞれ、5、10、20、および40μLの無細胞抽出液を分析した結果である。 16s rDNAの塩基配列(配列番号:8)に基づいて作成された、パンドレア sp. 12B-2と既知の微生物との遺伝的な関係を示す系統樹である。スケールバーは塩基置換率(substitution/site)を表す。

Claims (12)

  1. 下記(a)-(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
    (a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
    (b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
    (c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
    (d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするポリヌクレオチド、および
    (e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有する、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
  2. 機能的に同等なタンパク質が、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を脱炭酸し、芳香族多価アルコ−ルを生成する作用、および芳香族多価アルコ−ルに炭酸付加して多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を生成する作用の、いずれか、または両方を有する蛋白質である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
  3. 請求項1に記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質。
  4. 下記(1)から(4)の理化学的性状を有し、パンドレア属に由来する2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素;
    (1)作用
    (a) 多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を脱炭酸し、芳香族多価アルコ−ルを生成する、
    (b) 芳香族多価アルコ−ルに炭酸付加して多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を生成する、
    (2)基質特異性
    (a) 2,6-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸して1,3-ジヒドロキシベンゼンを生成する、
    (b) 2,3-ジヒドロキシ安息香酸を脱炭酸してカテコールを生成する、
    (c) 1,3-ジヒドロキシベンゼンに炭酸付加して2,6-ジヒドロキシ安息香酸と2,4-ジヒドロキシ安息香酸を生成する、
    (d) カテコールに炭酸付加して2,3-ジヒドロキシ安息香酸を生成する、
    (3)至適pH
    pH5.0-11.0、
    (4)分子量
    ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量が37,000、
    ゲルろ過による分子量が100,000である。
  5. 請求項1に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
  6. 請求項1に記載のポリヌクレオチド、または請求項5に記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換体。
  7. 請求項3に記載のタンパク質、請求項4に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、または該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞を芳香族多価アルコールに作用させ、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸を回収する工程を含む、多価アルコ−ル芳香族カルボン酸の製造方法。
  8. 請求項3に記載のタンパク質、請求項4に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、および該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞からなる群から選択される酵素活性物質を多価アルコ−ル芳香族カルボン酸に作用させ、芳香族多価アルコールを回収する工程を含む、芳香族多価アルコールの製造方法。
  9. アセトンの存在下で、請求項3に記載のタンパク質、請求項4に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素、および該タンパク質若しくは酵素を産生する細胞からなる群から選択される酵素活性物質を芳香族多価アルコールに作用させる工程を含む、請求項に記載の方法。
  10. 反応溶液中に、5〜30%のアセトンを共存させる請求項9に記載の方法。
  11. 受託番号FERM P-20641として寄託されたパンドレア sp. 12B-2株に由来する請求項4に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素。
  12. 受託番号FERM P-20641として寄託されたパンドレア sp. 12B-2株を培養し、培養物から2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を回収する工程を含む、請求項4に記載の2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素の製造方法。
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