本発明は、スタータモータを用いてエンジンを始動するエンジン始動装置に広く適用することができるが、本発明が特に必要とされるのは、ガソリンの気化が円滑に行われない極低温の環境下で使用されるエンジンを始動するエンジン始動装置においてである。
本出願人には、先に特願2006−56344号において、−20℃未満の極低温環境下で、エンジンのフリクショントルクが増大している場合でも、エンジンの圧縮行程でクランク軸にかかる最大負荷トルク(圧縮トルク)よりも出力トルクが小さい比較的小形のスタータモータを用いてエンジンの始動を可能にするエンジン始動装置を提案した。本発明は、この既提案のエンジン始動装置に適用した場合に、エンジンの始動性を更に向上させることができるという効果を得ることができる。そこで、以下の説明では、既提案のエンジン始動装置に本発明を適用した場合を例にとって、本発明の実施形態を説明することにする。
本発明者は、既提案のエンジン始動装置を開発するに先立って、エンジンの圧縮行程でクランク軸にかかる最大負荷トルク(圧縮トルク)よりも出力トルクが小さい小形のスタータモータを用いて従来技術によりエンジンを始動するようにした場合に、−20℃未満の極低温環境下でエンジンの始動を行うことができなくなる理由を探るための試験を行った。
本発明者が行った試験では、総排気量が700ccの並列2気筒4サイクルエンジンを例にとった。このエンジンにおいては、1番気筒(図においては#1と略記する。)と2番気筒(図においては#2と略記する。)との間の位相のずれがクランク角で360°であり、1番気筒と2番気筒との行程の対応関係は図15に示す通りである。同図において「吸気」、「圧縮」、「膨張」及び「排気」はそれぞれ吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を示している。また#1は1番気筒を意味し、#2は2番気筒を意味する。
特許文献1に示された実施例では、始動時にピストンが圧縮行程の上死点を乗り越えるのに必要な慣性エネルギを蓄積するために、エンジンが圧縮行程に突入する直前のクランク軸の回転速度が700〜900r/min必要であると記載されている。今回試験したエンジンにおいても、同様に、ピストンが圧縮行程に突入する直前のクランク軸の回転速度が700r/min程度必要であった。図16は、この試験において実測された始動時のエンジンの回転速度とクランク角との関係を示したものである。同図において、縦軸には回転速度をとってあり、横軸にはクランク角をとってある。
図16において横軸のクランク角は、1番気筒の圧縮行程におけるピストンの上死点(TDC)を360°にとってある。図16の曲線aは、ピストンが圧縮行程に突入する直前のクランク軸の回転速度が430r/minである場合を示し、曲線bは同回転速度が700r/minである場合を示している。図16から明らかなように、この例では、圧縮行程突入直前の回転速度が700r/minであれば、ピストンが圧縮行程の上死点を乗り越えることができているが、430r/minであると、慣性エネルギが不足して、圧縮行程の途中のほぼ330°に相当するクランク角位置θ1でピストンが跳ね返されてしまっている。
また図17は、エンジンのフリクショントルクと始動時のエンジンの温度との関係を示している。エンジンのフリクショントルク[Nm]は、常温から−20℃の範囲では比較的小さい値を示すが、エンジンの温度が−20℃未満になると、エンジンオイルの粘度の上昇等により急激に大きくなる。スタータモータは、エンジンの圧縮負荷に対して仕事をするだけでなく、このフリクショントルクに対しても仕事をしなければならない。
図18は試験に使用したエンジンに取り付けられたスタータモータの出力トルク対回転速度特性を示している。図18に示したスタータモータを用いた場合、エンジンの始動時の温度が−20℃で、フリクショントルクが4[Nm]である場合には、同モータによりクランキングを行うことにより、クランク軸をほぼ800r/minまで加速することができる。始動時にクランク軸を800r/minまで加速することができる場合には、慣性エネルギを十分に蓄積できるため、圧縮行程を支障なく完了させてエンジンを始動させることができる。
これに対し、始動時のエンジンの温度が−40℃でエンジンのフリクショントルクが20[Nm]である場合には、図18のスタータモータでクランキングを行った場合、250r/minまでしかクランク軸を加速することができない。この場合、始動開始時にクランク軸を一旦逆転させて長い助走距離を確保したとしても、慣性エネルギが十分に蓄積されないため、圧縮行程を完了させることができず、エンジンを始動することができなかった。
なお特許文献1に示されたエンジン始動装置では、ソレノイドを励磁することにより、排気バルブを強制的にリフトアップする構造のデコンプ機構を設けて、このデコンプ機構により排気バルブを開いた状態で(圧縮トルクを軽減した状態で)クランキングを行い、助走区間でクランク軸の回転速度が所定の回転数まで上昇した時点で排気バルブを閉じて圧縮行程を行わせるようにすることが提案されている。しかしながら、排気バルブを強制的に開くデコンプ機構は構造が複雑であるため、このデコンプ機構を設けると、エンジンのコストの上昇を招き、好ましくない。またエンジンの温度が極めて低く、エンジンのフリクショントルクが極めて大きい場合には、デコンプ機構により圧縮トルクがかからない状態でクランキングしても、クランク軸を十分に加速することができないため、デコンプ機構のソレノイドを非励磁にして排気バルブを閉じた時点でピストンが跳ね返され、圧縮行程を完了させることができない。
本実施形態では、従来技術が有していた上記の問題を解消して、極低温時のエンジンの始動性を向上させる。
図1は本発明に係わるエンジン始動装置を備えたエンジンシステムの構成を示したものである。同図においてENGは並列2気筒4サイクルエンジンで、このエンジンの1番気筒の燃焼サイクルと2番気筒の燃焼サイクルとの位相差は360°である。1はエンジン本体で、エンジン本体1は、内部にピストン100が設けられた2つの気筒101(図面には1番気筒のみを示してある。)と、気筒内のピストン100にコンロッド102を介して連結されたクランク軸103とを有している。
図2にも示したように、エンジン本体1は、吸気ポート104と、排気ポート105とを有し、吸気ポート104には吸気管106が接続されている。吸気管106内にはスロットルバルブ107が設けられている。吸気ポート104及び排気ポート105をそれぞれ開閉するように吸気バルブ108及び排気バルブ109が設けられている。エンジン本体のシリンダヘッド110の上部にはカムカバー111が取り付けられ、このカムカバー111の内側に、吸気バルブ108及び排気バルブ109を駆動するカム機構112を収容したカム室113が設けられている。
本実施形態では、各気筒101内とカム室113内とを連通させるように、デコンプホール115(図2参照)が設けられている。またデコンプホール115を開閉するために制御可能な電磁弁からなるデコンプバルブ116が設けられ、エンジンの始動時にデコンプバルブ116を開き、エンジンの始動後にデコンプバルブ116を閉じるようにデコンプバルブを制御するデコンプバルブ制御手段が設けられている。
なお本発明に係わる始動装置は、複数の気筒に対して共通に一つの吸気管が設けられる場合にも適用することができるが、本実施形態では、吸気管104がエンジンの各気筒毎に設けられている。
エンジンENGはまた、吸気管106を通して気筒101内に供給する混合気を生成するために燃料を噴射する燃料噴射装置と、気筒101内で圧縮された混合気に点火する点火装置と、クランク軸103を正転方向及び逆転方向に回転駆動し得るスタータモータとを備えている。
図示の例では、スロットルバルブ107よりも下流側の吸気管内または吸気ポート内に燃料を噴射するようにインジェクタ(電磁式燃料噴射弁)2(図1参照)が取り付けられている。インジェクタ2は、先端に噴射孔を有するインジェクタボディと、噴射孔を開閉するニードルバルブと、ニードルバルブを駆動するソレノイドとを有する周知のもので、そのインジェクタボディ内には、燃料タンク3内の燃料4を汲み出す燃料ポンプ5から燃料が供給されている。燃料ポンプ5からインジェクタ2に供給される燃料の圧力は、圧力調整器6により一定に保たれている。インジェクタ2のソレノイドは電子式制御ユニット(ECU)10内に設けられたインジェクタ駆動回路に接続されている。インジェクタ駆動回路は、ECU内で噴射指令信号が発生したときにインジェクタ2のソレノイドに駆動電圧を与える。インジェクタ2は、インジェクタ駆動回路からそのソレノイドに駆動電圧Vinjが与えられている間にバルブを開いて吸気管内に燃料を噴射する。インジェクタに与えられる燃料の圧力が一定に保たれる場合、燃料の噴射量は噴射時間(インジェクタのバルブを開いている時間)により管理される。
この例では、インジェクタ2と図示しないインジェクタ駆動回路と、該インジェクタ駆動回路に噴射指令を与える燃料噴射制御手段とにより燃料噴射装置が構成されている。
図1に示されているように、エンジン本体のシリンダヘッドにはまた、各気筒101内の燃焼室に先端の放電ギャップを臨ませた状態で各気筒用の点火プラグ12が取り付けられ、各気筒用の点火プラグは、各気筒用の点火コイル13の二次側に接続されている。各気筒用の点火コイル13の一次側は、ECU10内に設けられた図示しない点火回路に接続されている。点火回路は、点火指令発生部から点火指令が与えられたときに点火コイル13の一次電流I1に急激な変化を生じさせて点火コイル13の二次側に点火用の高電圧を誘起させる回路で、点火プラグ12と、点火コイル13と図示しない点火回路と、該点火回路に点火指令を与える点火指令発生部とにより、エンジンを点火する点火装置が構成されている。点火指令発生部は、エンジンの定常運転時の点火位置を演算して、演算した点火位置が検出されたときに点火指令を発生する定常時点火制御手段と、エンジンの始動時に、エンジンを始動させるために適した点火位置で点火指令を発生する始動時点火制御手段とにより構成される。
図1に示されたエンジンでは、スロットルバルブをバイパスするようにソレノイドにより操作されるISC(Idle Speed Control)バルブ120が設けられている。ECU10内にはISCバルブ120に駆動信号Viscを与えるISCバルブ駆動回路が設けられ、エンジンのアイドリング回転速度を一定に保つように、ISCバルブ120に駆動信号Viscが与えられる。
本実施形態では、エンジンの始動時にはブラシレスモータとして駆動され、エンジンが始動した後はジェネレータ(発電機)として運転される回転電機(スタータジェネレータと呼ばれる。)SGがエンジンに取り付けられ、この回転電機SGがスタータモータとして用いられる。回転電機SGは、エンジンのクランク軸103に取り付けられた回転子21と、エンジン本体のケース等に固定された固定子22とからなっている。
回転子21は、カップ状に形成された鉄製の回転子ヨーク23と、その内周に取り付けられた永久磁石24とからなっている。図示の例では、回転子ヨーク23の内周に取り付けられた永久磁石24により12極の磁石界磁が構成されている。回転子21は、その回転子ヨーク23の底壁部の中央に設けられたボス部25の内側に形成されたテーパ孔にエンジンのクランク軸103の先端のテーパ部を嵌合させて、ネジ部材によりボス部25をクランク軸103に対して締め付ける周知の取付構造により、クランク軸103に取り付けられている。
固定子22は、環状のヨーク26yの外周から18個の突極部26pを放射状に突出させた構造を有する固定子鉄心26と、固定子鉄心の一連の突極部26pに巻回されて3相結線された電機子コイル27とからなっていて、固定子鉄心26の各突極部26pの先端の磁極部が回転子の磁極部に所定のギャップを介して対向させられている。
回転子ヨーク23の外周には弧状の突起からなるリラクタrが形成され、エンジンのケース側には、このリラクタrの回転方向の前端側エッジ及び後端側エッジをそれぞれ検出して極性が異なるパルスを発生する信号発生器28が取り付けられている。また回転電機SGの固定子側には、3相の各相の電機子コイルに対してそれぞれ設定された検出位置に配置されて、回転子21の磁石界磁の各磁極の極性を検出するホールIC等のホールセンサ29uないし29wが設けられている。図1においては、3相のホールセンサ29uないし29wが回転子ヨーク23の外側に配置されているように図示されているが、実際には、3相のホールセンサ29uないし29wが回転子21の内側に配置されて、固定子22に対して固定されたプリント基板等に取り付けられている。ホールセンサの設け方は、通常の3相ブラシレスモータにおけるそれと同様である。ホールセンサ29uないし29wは、検出している磁極がN極であるときとS極であるときとでレベルが異なる電圧信号からなる位置検出信号huないしhwを出力する。位置検出信号huないしhwは、回転子21が回転しているときに矩形波状の波形を呈する。
回転電機SGの3相の電機子コイルは配線30uないし30wを通してモータ駆動/整流回路31の交流側端子に接続され、モータ駆動/整流回路31の直流側端子間にバッテリ32が接続されている。モータ駆動/整流回路31は、MOSFETやパワートランジスタなどのオンオフ制御が可能なスイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzにより3相Hブリッジの各辺を構成したブリッジ形の3相インバータ回路(モータ駆動回路)と、該インバータ回路のスイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzにそれぞれ逆並列接続されたダイオードDuないしDw及びDxないしDzにより構成されたダイオードブリッジ3相全波整流回路とを備えた周知の回路である。
回転電機SGをブラシレスモータ(スタータモータ)として動作させる際には、ホールセンサ29uないし29wの出力から検出された回転子21の回転角度位置に応じてインバータ回路のスイッチ素子がオンオフ制御されることにより、バッテリ32からインバータ回路を通して3相の電機子コイル27に、所定の相順で転流する駆動電流が供給される。
またエンジンが始動した後、回転電機SGをジェネレータとして運転する際には、電機子コイル27から得られる3相交流出力が、モータ駆動/整流回路31内の全波整流回路を通してバッテリ32と、バッテリ32の両端に接続された各種の負荷(図示せず。)とに供給される。このとき、バッテリ32の両端の電圧に応じて、インバータ回路のブリッジの上辺を構成するスイッチ素子またはブリッジ下辺を構成するスイッチ素子が同時にオンオフ制御されることにより、バッテリ32の両端の電圧が設定値を超えないように制御される。
例えば、バッテリ32の両端の電圧が設定値以下のときにはインバータ回路のHブリッジを構成するスイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzがオフ状態に保持されてモータ駆動/整流回路31内の整流回路の出力がそのままバッテリ32に印加される。また、バッテリ32の両端の電圧が設定値を超えたときには、インバータ回路のブリッジの3つの下辺(上辺でもよい)をそれぞれ構成する3つのスイッチ素子QxないしQzが同時にオン状態にされることにより、ジェネレータの3相交流出力が短絡されて、バッテリ32の両端の電圧が設定値以下に低下させられる。これらの動作の繰り返しによりバッテリ32の両端の電圧が設定値付近の値に保たれる。
また上記のような制御を行う代わりに、バッテリ32から回転電機SGの電機子コイルに、該電機子コイルの誘起電圧と周波数が等しく、かつ該電機子コイルの無負荷時の誘起電圧に対して所定の位相角を有する交流制御電圧を印加するようにインバータ回路を制御する手段を設けておいて、バッテリの両端の電圧の変化に応じてバッテリ側から電機子コイルに与える交流制御電圧の位相を、電機子コイルの無負荷誘起電圧に対して変化させることにより、回転電機の発電出力を増加または減少させて、バッテリ32の両端の電圧を設定された範囲に保つ制御を行なわせることもできる。
なおインバータ回路のブリッジの各辺を構成するスイッチ素子としてMOSFETが用いられる場合には、該MOSFETのドレインソース間に形成される寄生ダイオードを上記ダイオードDuないしDw及びDxないしDzとして用いることができる。
また図示の例では、ECU10のマイクロプロセッサにエンジンの情報を与えるために、スロットルバルブ107の位置(開度)を検出するスロットルポジションセンサ35と、スロットルバルブ107よりも下流側の吸気管内圧力を検出する圧力センサ36と、エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温度センサ37と、エンジンに吸入される空気の温度を検出する吸気温度センサ38とが設けられている。
上記のように、本実施形態では回転電機(スタータジェネレータ)SGの回転子をエンジンのクランク軸に直結して、エンジンの始動時にはこの回転電機をスタータモータとして用い、エンジンが始動した後はこの回転電機をジェネレータとして用いるが、以下に記載するエンジン始動装置についての説明では、回転電機SGをスタータモータとして動作させる際の制御を対象とするので、便宜上この回転電機SGをスタータモータと呼ぶことにする。
図3を参照すると、図1に示されたシステムの電気的な構成がブロック図で示されている。ECU10は、マイクロプロセッサ(MPU)40と、点火回路41と、インジェクタ駆動回路42と、ISCバルブ駆動回路43と、モータ駆動/整流回路31の温度を検出する温度センサ44と、マイクロプロセッサ40から与えられる指令に応じてモータ駆動/整流回路31のインバータ回路のスイッチ素子に駆動信号を与えるコントロール回路45と、デコンプバルブ116(図2参照)に駆動電流を与えるデコンプバルブ駆動回路46と、所定個数のインターフェース回路I/Fとを備えている。
マイクロプロセッサ40は、ROMに記憶された所定のプログラムを実行させることにより、エンジンを制御するために必要な各種の制御手段を構成する。図示の例では、マイクロプロセッサにエンジンの情報を与えるために、スロットルポジションセンサ35から得られるスロットルポジション信号Sa、圧力センサ36から得られる吸気管内圧力検出信号Sb、冷却水温度センサ37から得られる冷却水温検出信号Sc及び吸気温度センサ38から得られる吸気温度検出信号SdがECU10内のマイクロプロセッサにインターフェース回路I/Fを通して入力されている。またホールセンサ29uないし29wの出力信号huないしhwと、信号発生器28の出力Spとが所定のインターフェース回路I/Fを通してマイクロプロセッサ40に入力されている。
そして、ECU10内の点火回路41から点火コイル13に一次電流I1が供給され、ECU10内のインジェクタ駆動回路42からインジェクタ2に駆動電圧Vinjが与えられている。またコントロール回路45からモータ駆動/整流回路31のインバータ回路の6個のスイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzにそれぞれ駆動信号(スイッチ素子をオン状態にするための信号)SuないしSw及びSxないしSzが与えられている。
なお図3において、47はバッテリ32の出力電圧が入力された電源回路で、電源回路47は、バッテリ32の出力電圧を降圧して安定化することにより、ECU10の各部に供給する電源電圧を出力する。
本実施形態において、マイクロプロセッサ40が構成する各種の制御手段を含む制御装置の要部の構成を図4に示した。図4において、51は、キースイッチからなるスタータスイッチ等からエンジンENGの始動指令が与えられているか否かの確認と、各種のエラーがあるか否かのチェックとを行う始動指令確認・エラーチェック手段、52は始動指令確認・エラーチェック手段51によりエンジンの始動指令が与えられていることが確認され、各種のエラーがないことが確認されたときに制御モードを始動逆転駆動モードに切り替える始動逆転駆動モード切替手段、53は始動逆転駆動モード切替手段52により制御モードが始動逆転駆動モードに切り替えられたときにエンジンのクランク軸を逆転させるためにスタータモータSGを逆転方向に駆動するスタータ逆転駆動手段である。
また54はスタータモータの逆転方向への駆動を開始してからの経過時間が、エンジンの停止時にピストンが正転時の圧縮行程の下死点付近に停止した状態にあった特定の気筒内のピストンが始動逆転時設定位置に到達するのに十分な長さに設定された逆転駆動設定時間に達したか否かを判定する逆転駆動時間判定手段、55はスタータモータSGを逆転方向に駆動している過程で、上記特定の気筒内のピストンが上記始動逆転時設定位置に達したか否かを判定する逆転時クランク角位置判定手段である。
上記「始動逆転時設定位置」は、エンジンの正転時の吸気行程に相当する区間内の適宜の位置(好ましくは、正転時の吸気行程の上死点に近い位置)、またはエンジンの正転時の吸気行程に相当する区間を通り過ぎた位置に設定される。ここで、「エンジンの正転時の吸気行程に相当する区間を通り過ぎた位置」は、正転時の排気行程に相当する区間内の位置でもよく、正転時の排気行程に相当する区間を通り過ぎた位置(例えば正転時の膨張行程に相当する区間内の適宜の位置)でもよい。
更に56は、エンジンの始動指令が与えられた後最初に行われたスタータ逆転駆動手段によるスタータモータの逆転駆動が完了したときに特定の気筒に対して初回の燃料噴射を行わせ、以後点火が行われる気筒内に供給する混合気を生成するための燃料を噴射する位置として適したクランク角位置で前記燃料噴射装置に燃料噴射を行わせる始動時燃料噴射制御手段である。
本実施形態の始動時燃料噴射制御手段56は、逆転駆動時間判定手段54により経過時間が逆転駆動設定時間に達したと判定されたとき、または逆転時クランク角位置判定手段55によりクランク角位置が始動逆転時設定位置に達したと判定されたときにインジェクタ駆動回路42に噴射指令信号を与えてエンジンの特定の気筒に対して初回の燃料噴射を行わせ、以後点火が行われる気筒内に供給する混合気を生成するための燃料を噴射する位置として適したクランク角位置でインジェクタ駆動回路42に噴射指令信号を与えて燃料噴射を行わせる。
57は、スタータ逆転駆動手段53によるスタータモータの逆転駆動が完了したときに制御モードを始動正転駆動モードに切り替える始動正転駆動モード切替手段、58は、制御モードが始動正転駆動モードに切り替えられたときにスタータモータSGを正転方向に駆動するスタータ正転駆動手段である。
本実施形態の始動正転駆動モード切替手段57は、逆転駆動時間判定手段54により経過時間が逆転駆動設定時間に達したと判定されたとき、または逆転時クランク角位置判定手段55によりクランク角位置が始動逆転時設定位置に達したと判定されたときに制御モードを始動正転駆動モードに切り替えるように構成されている。
59は、スタータモータを正転駆動している過程でエンジンのクランク角位置が特定の気筒の圧縮行程の上死点位置よりも手前の位置に設定された始動正転時設定位置に達したか否かを判定する始動正転時クランク角位置判定手段、60は、始動正転時クランク角位置判定手段59によりクランク角位置が始動正転時設定位置に達したと判定された時にスタータ逆転駆動手段によるスタータモータの逆転方向への駆動が設定回数行われたか否かを判定する逆転回数判定手段である。
また61は、逆転回数判定手段60により、スタータ逆転駆動手段によるスタータモータの逆転方向への駆動が未だ設定回数行われていないと判定されたときに再度前記制御モードを始動逆転駆動モードに切り替える始動逆転駆動モード再切替手段、62は始動時点火制御手段である。
始動時点火制御手段62は、逆転回数判定手段60により、スタータ逆転駆動手段によるスタータモータの逆転方向への駆動が既に設定回数行われていると判定されたときに始動時に特定の気筒を点火するのに適したクランク角位置で点火回路41に点火信号を与えることにより点火装置に該特定の気筒での点火を行わせ、以後各気筒の始動時の点火位置として適したクランク角位置で各気筒の点火を行わせる。
スタータ正転駆動手段58は、スタータモータが正回転している過程で、クランク角位置が始動正転時設定位置に達して、逆転回数判定手段60により、スタータ逆転駆動手段によるスタータモータの逆転方向への駆動が既に設定回数行われていると判定されたときに、スタータモータの正転駆動をそのまま継続させるように構成されている。
63はエンジンの始動が完了したか否かを判定する始動完了判定手段、64は、始動完了判定手段63によりエンジンの始動が完了したと判定されたときにスタータモータSGの駆動を停止するスタータ駆動停止手段、65は、エンジンの始動指令が与えられたことが確認されたときにデコンプバルブ116を開き、始動完了判定手段63によりエンジンの始動が完了したと判定されたときにデコンプバルブ116を閉じるデコンプバルブ制御手段、66は、始動完了判定手段63によりエンジンの始動が完了したと判定されたときに制御モードを定常運転モードに切り替える定常運転モード切替手段、67はエンジンの定常運転時に燃料噴射量と点火位置との制御を行なう定常運転時制御手段である。定常時運転制御手段67は、エンジンの定常運転時に(始動後に)に各種の制御条件に対して燃料の噴射時間を演算して、演算した噴射時間の間インジェクタから燃料の噴射を行わせるようにインジェクタ駆動回路42に噴射指令信号を与える定常時燃料噴射制御手段と、エンジンの定常運転時の点火位置を演算して演算した点火位置が検出されたときに点火回路に点火指令を与える定常時点火制御手段とを備えている。
また68は、制御モードが始動逆転駆動モードに切替えられている状態、または始動正転駆動モードに切替えられている状態で、エンジンの始動指令が与えられていないことが検出されたとき、及び始動指令は与えられているが制御系に何らかのエラーがあることが検出されたときに、制御モードをエンジンストールモードに切替えるエンジンストールモード切替手段である。エンジンストールモードでは、スタータモータの駆動停止、点火指令及び噴射指令の発生の禁止等、エンジンを停止状態に保つために必要な一連の処理が行なわれる。
上記スタータ正転駆動手段57は、スタータ逆転駆動手段によるスタータモータの逆転方向への駆動が既に設定回数行われていると判定された後、スタータモータを正転駆動する過程では、特定の気筒のピストンが上死点に達する前にクランク軸が停止したときでもスタータモータを駆動し続けるように構成されている。
図4に示した例では、始動逆転駆動モード再切替手段61と、スタータ逆転駆動手段53とにより、逆転回数判定手段によりスタータモータの逆転が設定回数行われていないと判定されたときに特定の気筒内のピストンが始動逆転時設定位置に達するまでクランク軸を逆転させるスタータ再逆転駆動手段が構成される。
上記のように、スタータモータを再度逆転させる際に、クランク角位置が始動逆転時設定位置に達するまでスタータモータを逆転させるようにすると、エンジンの吸気バルブが開いている状態で特定の気筒内のピストンを上下動させることができるため、混合気の攪拌をより効果的に行わせることができる。しかし本発明は、このようにスタータモータを再逆転させる際に、クランク角位置が始動逆転時設定位置に達するまでスタータモータを逆転させる場合に限定されるものではない。特定の気筒内の混合気を攪拌するためには、該特定の気筒内でピストンを上下動させれば良いため、後記するように、スタータモータを再度逆転させる際に、特定の気筒内のピストンを下死点付近に達するまでスタータをモータを逆転駆動するようにしてもよく、また特定の気筒内のピストンを下死点の手前の適当な位置まで変位させるべく、スタータモータを逆転駆動するようにしてもよい。
以下、本発明に係わるエンジン始動装置において行われる制御の内容について説明する。
本発明に係わるエンジン始動装置においては、キースイッチの操作等によりエンジンの始動指令が与えられたときに、制御モードを始動逆転駆動モードとして、先ず始動時に最初に点火する気筒に混合気が吸入されるようにするために、スタータ逆転駆動手段53によりスタータモータSGを逆転方向に駆動し、エンジンの停止時にエンジンの正転時の圧縮行程の下死点付近に停止した状態にあった特定の気筒内のピストンが、エンジンの正転時の吸気行程に相当する区間内の適宜の位置(できるだけ吸気行程の上死点に近い位置)またはエンジンの正転時の吸気行程に相当する区間を通り過ぎた位置に達するまでエンジンのクランク軸を逆転させる。
図5(A)は、並列2気筒4サイクルエンジンの両気筒の行程の関係を示し、同図(B)はクランク軸を外部から回転させた際にクランク軸にかかる負荷トルクを示している。エンジンのクランク軸を逆転させたときには、正転時の膨張行程に相当する区間で気筒内の気体の圧縮トルクが負荷トルクとしてクランク軸に働く。並列2気筒4サイクルエンジンにおいては、図5(A)に示されているように、一方の気筒が吸気行程にあるときに他方の行程が膨張行程にあるため、始動時にスタータモータを逆転駆動して、圧縮行程の下死点付近で停止していた一方の気筒(図5に示した例では1番気筒)のピストンを正転時の吸気行程の上死点に向けて上昇させていく際に、一方の気筒では圧縮トルクが働かないが、他方の気筒(図5に示した例では2番気筒)では圧縮トルクが働く。そのため、出力トルクが小さいスタータモータを用いた場合には、圧縮行程の下死点付近で停止していた一方の気筒のピストンを、正転時の吸気行程の上死点に相当する位置に到達させることはできない。従って、並列2気筒4サイクルエンジンの場合には、クランク軸を逆転させた際に、図5(B)に示すように、一方の気筒(図示の例では1番気筒)のピストンが正転時の吸気行程に相当する区間の途中に達したところでクランク軸が停止する。
なお単気筒4サイクルエンジンの場合には、図6(A)及び(B)に示すように、スタータモータを逆転駆動した際に、クランク軸に圧縮トルクが働かないため、正転時の吸気行程の上死点に相当するクランク角位置付近までクランク軸を逆転させることは容易に行なうことができる。
本発明においては、エンジンの停止時に該エンジンの正転時の圧縮行程の下死点付近に停止した状態にあった特定の気筒内のピストンが少なくともエンジンの正転時の吸気行程に相当する区間内の位置に達するまでスタータモータを逆転方向に駆動する動作をスタータ逆転駆動手段53に行わせ、このスタータ逆転駆動手段53によるスタータモータの最初の逆転駆動が完了したところで、特定の気筒内に供給する混合気を生成するために燃料噴射装置に初回の燃料噴射を行わせた後、制御モードを正転駆動モードに切り替える。
本実施形態では、スタータモータを逆転駆動した際にスタータモータが停止する位置または該停止位置付近のクランク角位置を始動逆転時設定位置として設定しておいて、クランク角位置がこの始動逆転時設定位置に達したことが検出されたときに、図5(C)(単気筒4サイクルエンジンの場合に図6C)に示すように、インジェクタ駆動回路に噴射指令信号Vjを与えることにより、初回の燃料噴射を行わせ、次いで制御モードを正転駆動モードに切り替えてスタータモータを正転駆動する。
本実施形態では、スタータ逆転駆動手段53によるスタータモータの逆転駆動が完了したか否かを判定するため、スタータモータの逆転方向への駆動を開始してからの経過時間が、エンジンの停止時に該エンジンの正転時の圧縮行程の下死点付近に停止した状態にあった特定の気筒内のピストンがエンジンの正転時の吸気行程に相当する区間内の位置またはエンジンの正転時の吸気行程に相当する区間を通り過ぎた位置に設定された始動逆転時設定位置に到達するのに十分な長さに設定された逆転駆動設定時間に達したか否かを判定する逆転駆動時間判定手段54と、スタータモータを逆転方向に駆動している過程で、上記特定の気筒内のピストンが上記始動逆転時設定位置に達したか否かを判定する逆転時クランク角位置判定手段55とが設けられ、始動指令に応答して行われるスタータモータの初回の逆転駆動時に、逆転駆動時間判定手段54により経過時間が設定時間に達したと判定されたとき、または逆転時クランク角位置判定手段55によりクランク角位置が上記始動逆転時設定位置に達したと判定されたときに、始動時燃料噴射制御手段56により初回の燃料噴射を行わせた後、始動正転駆動モード切替手段57により、制御モードを始動正転駆動モードに切り替える。
即ち、本実施形態では、逆転駆動時間判定手段54及び逆転時クランク角位置判定手段55により、クランク角位置が特定の気筒の正転時の吸気行程に相当する区間または該区間を行きすぎた区間に設定された始動逆転時設定位置に達したことを推定(または検出)して、クランク角位置が始動逆転時設定位置に達したことが推定(または検出)されたときに初回の燃料噴射と、制御モードの始動正転駆動モードへの切り替えとを行うようにしている。
エンジンのフリクショントルクが小さく、スタータモータの出力トルクが十分に大きい場合には、スタータモータを逆転した際に、クランク角位置が始動逆転時設定位置に確実に到達することができるため、逆転駆動時間判定手段54により、経過時間が逆転駆動設定時間に達したと判定される前に、逆転時クランク角位置判定手段55により、クランク角位置が始動逆転時設定位置に達したと判定される。このように、逆転時クランク角位置判定手段55によりクランク角位置が始動逆転時設定位置に達したと判定される場合には、逆転時クランク角位置判定手段55によりクランク角位置が始動逆転時設定位置に達したと判定されたときに燃料噴射制御手段56に初回の燃料噴射を行わせ、制御モードを始動正転駆動モードに切り替える。
これに対し、エンジンのフリクショントルクが大きく、スタータモータの出力トルクが不足している場合には、クランク角位置が始動逆転時設定位置に達することができずに停止してしまうことが考えられる。この場合には、逆転駆動時間判定手段54により、スタータモータの逆転方向への駆動を開始してからの経過時間が逆転駆動設定時間に達したと判定されたときに、クランク角位置が始動逆転時設定位置付近に達していると推定して、初回の燃料噴射と制御モードの切替とを行わせる。
なお上記のように、逆転駆動時間判定手段54及び逆転時クランク角位置判定手段55を設けて、スタータモータの逆転駆動が完了する位置を推定(または検出)する代わりに、スタータモータの逆転時の回転速度を検出して、スタータモータが停止した時に初回の燃料噴射と、制御モードの正転駆動モードへの切替とを行わせるようにしても良い。
特許文献1に示された従来のエンジン始動装置でも、始動指令が与えられたときにスタータモータを逆転駆動してクランク軸を逆転させていたが、従来の始動装置において、エンジンを始動する際に一旦クランク軸を逆転させる目的は、助走距離を稼ぐことにあった。
これに対し、本実施形態において始動指令が与えられたときに先ずクランク軸を逆転させるのは、助走距離を稼ぐためではなく、続いてクランク軸を正転させるためのクランキングを行なった際に、最初に点火が行なわれる気筒に混合気が吸入されるようにするためである。即ち、本実施形態において、始動時に先ずクランク軸を逆転させるのは、始動動作開始後、最初に行われる点火に備えて燃料を噴射する機会を作るためであり、本実施形態に係わるエンジン始動装置と、従来のエンジン始動装置とでは、始動時にクランク軸を逆転させる目的が全く相違する。
上記のようにして、クランク軸を正転時の吸気行程の途中または吸気行程前に相当する位置まで逆転させ、燃料噴射装置に初回の燃料噴射を行なわせた後、制御モードを始動正転駆動モードとして、スタータ正転駆動手段58によりスタータモータSGを正転駆動する。
スタータモータSGを正転駆動すると、クランク軸が正回転し、クランク角位置が特定の気筒の圧縮行程に入る。スタータモータを正転駆動している過程で、始動正転時クランク角位置判定手段59により、クランク角位置が特定の気筒の圧縮行程の途中(上死点前の位置)に設定された始動正転時設定位置に達したと判定されたときに、逆転回数判定手段60により、スタータ逆転駆動手段53によるスタータモータの逆転駆動が設定回数行われたか否かを判定する。この判定の結果、スタータ逆転駆動手段53によるスタータモータの逆転駆動が設定回数行われていないと判定されたときには、始動逆転駆動モード再切替手段61により制御モードを再度始動逆転駆動モードに切り替え、スタータ逆転駆動手段53によるスタータモータの逆転駆動を再び行わせる。
再度行われる始動逆転駆動モードにおいて、スタータモータの逆転駆動が完了したときには、燃料噴射制御手段56による燃料噴射を行わず、始動正転駆動モード切替手段57による制御モードの始動正転駆動モードへの切り替えのみを行う。この始動正転駆動モードにおいて、スタータ正転駆動手段58によりスタータモータが正転駆動される過程で、始動正転時クランク角位置判定手段59により、クランク角位置が始動正転時設定位置に達したと判定され、逆転回数判定手段60により、スタータモータの逆転駆動が設定回数行われたと判定されたときには、スタータ正転駆動手段58によるスタータモータの正転駆動を継続させる。
スタータモータを正転駆動する際のエンジンの負荷トルクとクランク角との関係は図7に示す通りであり、スタータモータの出力トルクと回転速度との関係は図8に示す通りである。図7において横軸のクランク角は、上死点前の角度[BTDC]を示しており、図示の0°のクランク角位置がピストンの上死点に相当するクランク角位置(上死点位置という。)である。
スタータモータを正転方向に駆動すると、モータの出力トルクは、図8に示すように回転速度の上昇に伴って低くなっていくが、エンジンの負荷トルクは、図7に示すようにクランク軸が上死点位置に向けて回転していくにつれて大きくなっていく。ここで、エンジンのフリクショントルクが大きく、ピストンが圧縮行程の上死点を越えるのに十分な慣性エネルギを得る回転速度まで加速できない状況にあるときには、図16に示された曲線aのように、圧縮行程の途中でクランク軸が一旦停止してしまう。従来の始動装置では、この時点でスタータモータの駆動を停止していたが、本発明においては、スタータモータが停止した後も、該スタータモータへの通電を維持して、その駆動電流(電機子電流)が上限値を超えない範囲で、該モータの出力トルクを最大にするように制御しつつ、スタータモータの正転方向への駆動を継続する。
一般に4サイクルエンジンにおいては、圧縮行程においてピストンが圧縮行程の上死点に向けて上昇していく過程で、ピストンリングや吸排気バルブから僅かな圧縮漏れが生じるため、クランク軸が停止した後もスタータモータによりクランク軸を駆動し続けると、時間の経過に伴って圧縮トルクが減少していき、エンジンの負荷トルクが漸減していく。そのため、スタータモータがエンジンの負荷トルク(圧縮トルクとフリクショントルクとの和)に打ち勝つことができなくなって停止した後もスタータモータを駆動し続けると、圧縮漏れによる負荷トルクの漸減に伴ってピストンがゆっくりと上昇していき、クランク軸が微速で回転する。やがてクランク軸の回転角度位置が、圧縮行程の上死点に相当するクランク角位置(0°の位置)の手前にある圧縮トルク最大位置(図7に示した例では圧縮行程の上死点前30°附近の位置)を超えると、エンジンの負荷トルクが軽くなり、エンジンからスタータモータにかかる負荷が軽くなるため、クランク軸は速度を上げて回転し始める。従って、ピストンは圧縮行程の上死点を容易に越えることができる。
始動時点火制御手段62は、逆転回数判定手段60により、スタータ逆転駆動手段によるスタータモータの逆転方向への駆動が既に設定回数行われていると判定されたときに特定の気筒を点火するのに適したクランク角位置で点火装置に該特定の気筒での点火を行わせるための処理を開始し、以後各気筒の始動時の点火位置として適したクランク角位置で各気筒の点火を行わせる。
従来のエンジン始動装置においては、正転時の圧縮行程の上死点の手前の位置で始動時の最初の点火を行わせていたが、本実施形態においては、クランク軸を微速で回転させて圧縮行程の上死点を越えさせるため、最初の点火を上死点よりも進んだクランク角位置で行わせると、ピストンが押し戻されてエンジンが逆転するおそれがある。
そのため、本実施形態においては、エンジンの始動時の最初の点火を、ピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置、またはピストンの上死点に相当するクランク角位置を一定の角度(例えば10°)だけ行き過ぎた位置(正転時の膨張行程の初期のクランク角位置)で行わせるのが好ましい。
エンジンの始動時の最初の点火を、ピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置、またはピストンの上死点に相当するクランク角位置を一定の角度(例えば10°)だけ行き過ぎた位置で行わせると、ピストンが跳ね返されるのを防ぎつつ、点火された気筒内の燃料を燃焼させて膨張行程を行わせることができる。従って、クランク軸は、スタータモータの駆動力と気筒内での燃焼(爆発)により生じる回転力との合力により一気に加速して回転する。この回転により慣性エネルギを一気に蓄積して次の気筒の圧縮行程を行わせ、次いでその気筒で点火を行わせて膨張行程を行わせる。以後燃料の噴射と点火とを繰り返し行わせて、各気筒で燃焼サイクルを行わせ、これによりクランク軸の回転速度を上昇させてエンジンの始動を完了する。
上記のように、スタータモータの逆転駆動を設定回数繰り返してから、圧縮行程を完了させるべくスタータモータを正転駆動するようにすると、スタータモータの逆転駆動を繰り返す過程で特定の気筒内のピストンが上下動を繰り返して、特定の気筒内の混合気を攪拌するため、周囲温度がきわめて低い場合のように、ガソリンが気化しにくい状況でエンジンを始動する場合でも、ガソリンの気化と、気化したガソリンと空気との混合を促進させて、ガソリンと空気とが均一に混合された混合気を得ることができる。従って、始動開始後に特定の気筒で行われる初回の点火時に混合気に確実に着火して、エンジンの始動性を向上させることができる。
混合気の攪拌により、ガソリンの気化と、気化したガソリンと空気との混合を効果的に行わせるため、スタータモータの逆転駆動の設定回数は、2以上に設定するのが好ましい。即ち、スタータモータを少なくとも2回逆転駆動してから、スタータモータを正規に正転駆動して、特定の気筒(始動時に最初に点火を行う気筒)での圧縮行程を完了させるようにするのが好ましい。
図9は、発明者が行った実験で実測した始動時のクランク軸の回転速度とクランク角との間の関係を示している。この例では、逆転回数判定手段60により判定される始動逆転回数の設定値を1としている。図9の最上部に示された「#1膨張/#2吸気」などの表示は、エンジンの正転時の1番気筒と2番気筒の行程を示しており、例えば「#1膨張/#2吸気」と表示された区間は、1番気筒が膨張行程にあり、2番気筒が吸気行程にあることを意味している。図9の横軸に目盛った角度は、2番気筒の圧縮行程の上死点を0°として、この上死点に対する各クランク角位置の角度を、上死点よりも遅れた側[ATDC]を正として示したものである。
図9に示した例では、エンジンの2番気筒のピストンが正転時の圧縮行程の下死点附近のクランク角位置θaにある状態でエンジンが停止している。エンジンの停止時の温度は−40℃である。
この状態で始動指令が与えられると、図4に示されたデコンプバルブ制御手段65がデコンプバルブ116を開き、各気筒の圧縮行程での圧縮漏れが大きくなる。また始動逆転駆動モード切替手段52が制御モードを始動逆転駆動モードとするため、スタータ逆転駆動手段53がスタータモータSGを逆転方向に駆動してクランク軸を逆転させる。これにより、クランク軸は2番気筒の圧縮行程の下死点に相当するクランク角位置から正転時の2番気筒の吸気行程に相当する区間に向けて回転していく。クランク角位置が正転時の2番気筒の吸気行程に相当する区間に入ると、1番気筒では正転時の膨張行程に相当する区間に入るため、1番気筒からクランク軸に大きな負荷トルクが働く。そのためクランク軸は、2番気筒の正転時の吸気行程に相当する区間の途中のクランク角位置θbまでしか回転することができず、このクランク角位置θbで停止する。このクランク角位置θbを始動逆転時設定位置とする。本実施形態では、逆転駆動時間判定手段54により、逆転方向への駆動を開始した時刻からの経過時間が設定時間を超えたと判定されたとき、または逆転時クランク角位置判定手段55によりクランク角位置が予め設定した始動逆転時設定位置θbに一致したと判定されたときに、クランク角位置が始動逆転時設定位置(正転駆動を開始する位置)θbに達したと判定するようにしている。
この例では、クランク角位置が始動逆転時設定位置θbに達したと判定されたときに、スタータモータの駆動を停止してインジェクタ駆動電圧を確保した上で、燃料噴射制御手段59が、クランク軸を正転させた後最初に行われる点火に備えて、インジェクタ駆動回路42に噴射指令を与えることによりインジェクタから初回の燃料噴射を行わせるようにしている。
この場合、燃料の噴射が終了するまでの間スタータモータの駆動が停止しているので、クランク軸は、1番気筒の圧縮反力により押し戻され、図示のθcの位置まで移動して停止する。インジェクタからの初回の燃料噴射が終了すると、始動正転駆動モード切替手段56が制御モードを始動正転駆動モードに切り替えるため、スタータ正転駆動手段57がスタータモータSGの正転方向への駆動を開始すると同時に、点火制御手段58が始動時の点火位置の検出を開始する。
スタータ正転駆動手段57がθcの位置からスタータモータを正方向に駆動して、クランク角位置が2番気筒の圧縮行程の上死点位置(0°の位置)に近づいていくと、クランク軸に働く負荷トルクが大きくなっていくため回転速度が低下していき、負荷トルク(2番気筒の圧縮反力)が最大になるクラン角位置の手前のクランク角位置θdでクランク軸がはね返されて、θd2の位置で停止する。ここでスタータモータに駆動電流を供給し続け、該モータを正転方向に駆動し続けると、2番気筒の圧縮漏れによりクランク軸に働く負荷トルクが漸減していくため、クランク軸は再び正方向に回転し始め、クランク角位置が2番気筒の圧縮行程の上死点位置(0°の位置)の手前にある負荷トルクの最大位置を過ぎるとクランク軸が加速していく。
図9に示した例では、クランク角位置が2番気筒の上死点位置を10°だけ過ぎた位置θeを始動時の点火位置として、この点火位置を点火制御手段58により検出し、点火位置θeが検出されたときに2番気筒で最初の点火を行わせるようにしている。この点火により2番気筒で混合気が燃焼し、膨張行程が行われるため、クランク軸の回転速度は一気に加速していく。2番気筒の圧縮行程の上死点(0°の位置)からクランク軸が180°回転すると、1番気筒が圧縮行程に入るため、クランク軸に働く負荷トルクが増大する。この負荷トルクの増大により、クランク軸の回転速度が低下していくが、既に2番気筒で行われた燃焼により慣性エネルギが十分蓄積されているため、1番気筒の圧縮行程の上死点の手前でクランク軸が停止することはない。図示の例では、クランク角位置が1番気筒の圧縮行程の上死点位置を10°過ぎたクランク角位置θfで1番気筒の最初の点火が行われている。
なおフリクショントルクが大きいときには、1番気筒の圧縮行程の上死点位置の手前でもクランク軸が停止することがあり得るが、その場合でも、スタータ正転駆動手段57はスタータモータを駆動し続けるため、圧縮漏れによる負荷トルクの漸減を利用してクランク軸を再び回転させることができ、クランク角位置θfでの点火は支障なく行われる。
上記のようにして2番気筒及び1番気筒での点火が繰り返されることにより、エンジンの回転速度は次第に上昇していき、やがてスタータモータの駆動を止めてもエンジンは回転を維持し得るようになり、エンジンの始動が完了する。始動完了判定手段63が、エンジンの始動が完了したと判定すると、スタータ駆動停止手段64がスタータモータSGの駆動を停止する。またこのとき定常運転モード切替手段66が制御モードを定常運転モードに切り替えるため、定常運転時制御手段67が点火装置の制御及び燃料噴射装置の制御を定常運転時の制御に移行させる。またこのときデコンプバルブ制御手段65がデコンプバルブ116を閉じて、定常運転時にデコンプホールがエンジンの出力に影響を及ぼすのを防止する。
なおエンジンが自力で回転し得るようになったか否かの判定(エンジンの始動が完了したか否かの判定)は、クランク軸が予め設定した始動判定値を越える平均回転速度で設定回数回転したことを確認することにより行うことができる。
上記の制御において、スタータモータを逆転方向に駆動した際に、クランク軸の回転角度位置が目標とする始動逆転時設定位置θbに達したか否かを判定するためには、エンジンのクランク角位置の情報を必要とする。また始動時の点火位置θeを検出する際にも、クランク角位置の情報を必要とする。更に、各気筒に対して燃料噴射を行なうクランク角位置を検出する際にも、エンジンのクランク角位置の情報が必要になる。また定常運転時の制御においては、演算された点火位置の検出を行なう際、及び燃料噴射開始位置を定める際にエンジンのクランク角位置の情報が必要である。
従来のエンジン用制御装置では、エンジンと共に回転する回転子に設けられたリラクタを検出してパルス信号を発生する信号発生器の出力からエンジンのクランク角情報を得ることが多かったが、この種の信号発生器は、クランク軸の回転速度が低いときに波高値が高いパルスを発生することができないため、エンジンの極低速時に(例えば200r/min以下で)クランク角情報を得る信号源としては最適ではない。
そこで、本実施形態においては、スタータジェネレータSGに設けられている3相のホールセンサ29uないし29wが出力する検出信号からクランク角情報を得ることを基本とし、ホールセンサの出力から検出される回転角度位置が、エンジンのいずれのクランク角位置に対応するかを識別するためにのみ信号発生器28の出力パルスを用いている。
回転電機SGの回転子として12極(6対極)の磁石回転子が用いられる場合に、3相のホールセンサ29uないし29wとしてホールICを用いると、センサ29uないし29wがそれぞれ発生する位置検出信号huないしhwの波形は、図10の(C)ないし(E)のようになり、クランク角が10°変化する毎に位置検出信号huないしhwのいずれかが、高レベル(Hレベル)から低レベル(Lレベル)への変化または低レベルから高レベルへの変化を示す。本実施形態では、これらの位置検出信号huないしhwのHレベル及びLレベルをそれぞれ「1」及び「0」で表して、位置検出信号のレベルのパターンの変化から、10°の区間を1区間として、一連の区間を検出し、これらの区間がエンジンのいずれのクランク角位置に対応するかを、信号発生器28の出力パルスを用いて識別する。
本実施形態では、始動時に信号発生器28ができるだけ波高値が高いパルスを発生することができるようにするために、ピストンが下死点付近にある、エンジンの負荷トルクが比較的軽い区間で信号発生器28がリラクタrを検出してパルスを発生するようにしている。具体的には、図10(B)に示すように、2番気筒の圧縮行程の上死点前200°の位置及び160°の位置で信号発生器28がリラクタrの回転方向の前端側エッジ及び後端側エッジをそれぞれ検出して、正極性のパルスSp1及び負極性のパルスSp2を発生するように、信号発生器28が配置されている。
信号発生器28が出力するパルスSp1及びSp2から、ホールセンサの出力パターンの変化により検出される一連の区間がそれぞれエンジンのいずれのクランク角位置に対応するかを識別する。図示の例では、図10の一番下に示したように、信号発生器28がパルスSp1を発生した直後に検出される10°の区間(位置検出信号hu,hv,hwのパターンが0,1,1となった位置から0,0,1となる位置までの区間)に「20」の区間番号をつけ、以後ホールセンサの出力のパターンが切り替わる毎に、区間番号を1ずつ増減させて、クランク軸が2回転する間に検出される72個の区間に1ないし72の区間番号をつけるようにしている。
ホールセンサの出力のパターンの変化から検出される一連の区間とエンジンの現在のクランク角位置との関係を一度識別することができれば、以後はホールセンサの出力のパターンが切り替わる毎に区間番号を増減させることにより、各区間とエンジンのクランク角位置との対応関係を維持することができる。
図4に示した制御装置において、始動時から定常運転状態に移行する際の制御モードの切替を制御するためにマイクロプロセッサに実行させるタスク処理のアルゴリズムを示すフローチャートを図11及び図12に示した。
マイクロプロセッサは、その電源が確立している状態にあるときに、図11のタスク処理を微小時間間隔で繰り返し実行して、制御モードの切替を管理する。図示のアルゴリズムによる場合には、先ずステップS1で現在の制御モードがエンジン停止時の制御モード(エンジンストールモード)であるか否かを判定する。その結果、エンジンストールモードであると判定されたときには、次いでステップS2で始動指令が与えられたか否かを判定する。その結果、始動指令が与えられていないと判定されたときには、以後何もしないでこのタスクを終了し、始動指令が与えられていると判定されたときには、ステップS3に移行して各種のエラー(センサの異常など)がないか否かをチェックする。その結果エラーがあると判定されたときには、以後何もしないでこのタスクを終了し、エラーがないと判定されたときには、ステップS4で制御モードを始動逆転駆動モードに切替えてこのタスクを終了する。
マイクロプロセッサは、制御モードが始動逆転駆動モードに切り替えられたときに起動する別のタスク処理により、デコンプバルブ116を開くとともに、回転電機SGをブラシレスモータとして動作させて、その回転子を逆転方向に回転させるように、回転電機SGの三相の電機子コイルへの通電を制御する。
図11のタスクのステップS1で現在の制御モードがエンジンストールモードでないと判定されたときには、ステップS5に移行して現在の制御モードが始動逆転駆動モードであるか否かを判定する。その結果、始動逆転駆動モードであると判定されたときには、ステップS6で始動指令が与えられているか否かを判定し、始動指令が与えられている場合には、ステップS7に移行して各種エラーがあるか否かを判定する。その結果エラーがない場合には、ステップS8で、スタータモータの逆転方向への駆動を開始した後、逆転駆動設定時間が経過したか否かを判定する。ステップS8で逆転駆動設定時間が経過していないと判定されたときには、ステップS9で現在のクランク角位置(区間番号)が正転時の吸気行程に相当する区間の途中の位置または正転時の吸気行程開始前の位置に相当する位置に設定された始動逆転時設定位置θbまで戻ったか否かを判定する。その結果、現在のクランク角位置が始動逆転時設定位置θbまで戻っていないと判定されたときには、以後何もしないでこのタスクを終了する。
ステップS8で逆転駆動設定時間が経過していると判定されたとき、及びステップS9で現在のクランク角位置が始動逆転時設定位置であると判定されたときには、ステップS10に移行して、初回の燃料噴射を行わせるための始動用噴射実行処理が完了したか否かを判定する。その結果、始動用噴射実行処理が完了していないと判定されたときには、ステップS11で始動用噴射実行処理を行わせ、特定の気筒に対して初回の燃料噴射を行わせる。
ステップS11の始動用噴射実行処理が完了したとき、またはステップS10で始動用噴射実行処理が完了していると判定されたときにステップS12に移行して制御モードを始動正転駆動モードに切り替え、このタスクを終了する。
ステップS11で始動用の初回の燃料噴射を行う始動用噴射実行処理は、ステップS8で逆転駆動設定時間が経過していると判定された時、及びステップS9で現在のクランク角位置が始動逆転時設定位置であると判定された時に起動する別のタスク処理により行われる。
またステップS12で制御モードが始動正転駆動モードに切り替えられると、回転電機SGの回転子を正転させるようにその電機子コイルへの通電を制御する図示しないタスク処理が起動し、スタータモータが正転方向に駆動される。
ステップS6で始動指令が与えられていないと判定されたとき、及びステップS7でエラーがあると判定されたときには、ステップS13に移行して制御モードをエンジンストールモードとする。制御モードがエンジンストールモードに切り替えられると、図示しないタスクが起動して、スタータモータの駆動停止、点火指令及び噴射指令の発生の禁止等、エンジンを停止状態に保つために必要な一連の処理を行なう。
ステップS5で現在の制御モードが始動逆転駆動モードでないと判定されたときには、ステップS14に進んで現在の制御モードが始動正転駆動モードであるか否かを判定する。この判定の結果、制御モードが始動正転駆動モードであると判定されたときには、ステップS15で始動指令が与えられているか否かを判定し、始動指令が与えられている場合には、ステップS16で各種のエラーがあるか否かを判定する。その結果、エラーがないと判定されたときにはステップS17でクランク角位置が、特定の気筒の圧縮行程の上死点よりも前の位置に設定された始動正転時設定位置まで正転したか否かを判定する。ステップS17でクランク角位置が、始動正転時設定位置まで正転していないと判定されたときには以後何もしないでこのタスクを終了する。ステップS17でクランク角位置が、始動正転時設定位置まで正転していると判定されたときには、ステップS18に進んで始動逆転駆動モードでのスタータモータの逆転駆動が2回以上(設定回数以上)行われたか否かを判定する。その結果、スタータモータの逆転駆動が未だ2回以上行われていないと判定されたときには、ステップS19に進んで制御モードを再度始動逆転駆動モードに切り替えて、このタスクを終了する。
ステップS18でスタータモータの逆転駆動が既に2回以上行われていると判定されたときには、ステップS20に移行して特定の気筒の始動時の点火位置として適したクランク角位置(本実施形態では、特定の気筒のピストンの上死点に相応する上死点位置または上死点を僅かに過ぎた位置)で点火を行わせるための始動時点火制御を開始させる。次いでステップS21で始動完了判定が成立しているか否かを判定し、成立している場合には、ステップS22で制御モードを定常運転モードとしてこのタスクを終了する。
ステップS15で始動指令が与えられていないと判定されたとき及びステップS16で各種のエラーがあると判定されたときにはステップS23に移行して制御モードをエンジンストールモードに切り替える。またステップS14で現在の制御モードが始動正転駆動モードでないと判定されたときには、ステップS24に進んで定常運転モードにおける制御モードの切替を行わせる。
定常運転モードでは、図11に示された処理とは別のタスク処理により、デコンプバルブ116を閉じるための処理を行うとともに、燃料噴射装置及び点火装置をそれぞれ制御する定常時燃料噴射制御手段及び定常時点火制御手段を構成するための処理を実行する。燃料噴射制御手段は、各種の制御条件に対して所定の空燃比を得るために必要な燃料噴射量を演算し、吸気行程開始直前のクランク角位置などの適宜の噴射開始位置で、演算した量の燃料を噴射するために必要な信号幅を有する噴射指令をインジェクタ駆動回路42に与える。
また定常時点火制御手段は、各種の制御条件に対してエンジンの点火位置を演算する点火位置演算手段と、演算された点火位置を検出するための手段とを備えていて、点火位置演算手段が演算した点火位置を検出したときに点火回路41に点火指令信号を与えて点火動作を行わせる。点火位置演算手段は、クランク軸が予め定めた基準クランク角位置から点火位置まで現在の回転速度で回転するのに要する時間を、点火位置検出用計時データとして演算する。そして、予め定めた基準クランク角位置(区間番号)が検出されたときに演算された点火位置検出用計時データの計測を開始し、この計時データの計測が完了したときに点火回路41に点火指令信号を与えて点火動作を行わせる。またエンジンのアイドル回転速度を一定に保つようにISCバルブ駆動回路43からISCバルブ120に駆動電圧Viscを与えて、該ISCバルブを制御する。
図11のステップS12で制御モードが始動正転駆動モードに切替えられると、図12の割込み処理が許可され、ホールセンサ29uないし29wの出力信号のパターンが切り替わる毎に(区間番号が変わる毎に)、図12の割り込み処理が実行される。図12の割込み処理により、圧縮行程の上死点に相当するクランク角位置または圧縮行程の上死点よりも僅かに遅れたクランク角位置を始動時の点火位置として検出して、この点火位置で始動時の点火動作を行わせる。図12に示された例では、圧縮行程の上死点を始動時の点火位置としている。
図12の割り込み処理では、先ずステップS101で始動用燃料噴射が完了しているか否かを判定する。その結果、始動用燃料噴射が完了していないと判定されたときには、以後何もしないでこの処理を終了する。始動用燃料噴射が完了していると判定されたときには、ステップS102に進んで制御モードが始動正転駆動モードであるか否かを判定する。その結果、始動正転駆動モードでない場合には、以後何もしないでこの処理を終了し、始動正転駆動モードである場合には、ステップS103に進んで現在のクランク角位置(区間番号)は点火コイル13への通電を開始する通電開始位置であるか否かを判定する。その結果、通電開始位置であると判定されたときにはステップS104に進んで点火コイル13の一次コイルへの通電を開始してこの処理を終了する。ステップS103で現在のクランク角位置(区間番号)が通電開始位置でないと判定されたときには、ステップS105に移行して点火コイルの一次コイルへの通電が行われているか否かを判定する。その結果通電が行われていないと判定されたときには以後何もしないでこの処理を終了し、通電が行われていると判定されたときにはステップS106に移行して現在のクランク角位置が始動時の点火位置(この例では圧縮行程の上死点TDC)であるか否かを判定する。ステップS106で現在のクランク角位置が始動時の点火位置ではないと判定されたときには、以後何もしないでこの処理を終了し、現在のクランク角位置が始動時の点火位置であると判定されたときには、ステップS107の点火実行処理を実行する。ステップS107の点火実行処理では、点火コイル13の一次電流の通電を停止させて点火コイルの二次コイルに点火用高電圧を誘起させ、これにより点火プラグで火花放電を生じさせてエンジンを点火する。
本実施形態では、図11のステップS2,S3及びS15,S16により、始動指令確認・エラーチェック手段51が構成され、図11のステップS1ないしS4により始動逆転駆動モード切替手段52が構成される。またステップS8及びS9によりそれぞれ逆転駆動時間判定手段54及び逆転時クランク角位置判定手段55が構成され、ステップS11により始動時燃料噴射制御手段56が構成される。更にステップS12により始動正転駆動モード切替手段57が構成され、ステップS17により始動正転時クランク角位置判定手段59が構成される。またステップS18により逆転回数判定手段60が構成され、ステップS19により始動逆転駆動モード再切り替え手段61が構成される。更にステップS21により始動完了判定手段63が、またステップS22により定常運転モード切替手段66がそれぞれ構成され、図11のステップS6,S7,S13及びS15,S16,S23によりエンジンストールモード切替手段68が構成される。また図12の処理により始動時点火制御手段62が構成される。
図13は、始動時から定常運転状態に移行する際の制御モードの切替を制御するためにマイクロプロセッサに実行させるタスク処理の他のアルゴリズムを示すフローチャートである。図11に示した例では、ステップS18において、スタータモータの逆転駆動が2回以上行われたか否かを判定しているが、図13に示した例では、ステップS18′において、スタータモータの逆転駆動が設定回数以上行われたか否かを判定するようにしている。その他の点は、図11に示した例と同様である。
図13に示した例では、特定の気筒内の混合気の攪拌を行う際のスタータモータの逆転駆動の回数を任意に設定できるようにしている。スタータモータの逆転駆動の設定回数は、周囲温度が低かったり、気圧が高かったりしてガソリンが気化しにくい場合に多くし、周囲温度が比較的高ったり、気圧が低かったりしてガソリンが気化し易い場合に少なくするようにするのが好ましい。そのため、スタータモータの逆転駆動の設定回数は、エンジンの始動時の冷却水温度や吸気温度あるいは大気圧に応じてを変換させることが好ましい。
図14は始動時から定常運転状態に移行する際の制御モードの切替を制御するためにマイクロプロセッサに実行させるタスク処理の更に他のアルゴリズムの例を示したものである。図14に示した例では、ステップS7で各種のエラーがあるか否かのチェックをした後、エラーがないと判定されたときにステップS25を実行して、クランク角位置が圧縮行程にあるか否かを判定する。その結果、クランク角位置が圧縮行程にあると判定された場合には、ステップS26において、モータの駆動を停止し、特定の気筒内の圧力を利用してピストンを押し戻すことによりスタータモータを逆転させる。またステップS25においてクランク角位置が圧縮行程内にないと判定された場合には、ステップ27においてモータを逆転駆動する。
ステップS26またはステップS27を実行した後、ステップS8′に進んで、スタータモータの逆転駆動を停止するタイミングが到来しているか否かを判定する。ステップS8′においては、ステップS26でスタータモータの駆動を停止する処理が行われたときに、スタータモータの駆動を停止してからの経過時間が設定時間(駆動停止設定時間)に達したか否かを判定する。その結果、スタータモータの駆動を停止してからの経過時間が駆動停止設定時間に達していない場合には、ステップS9に移行し、スタータモータの駆動を停止してからの経過時間が駆動停止設定時間に達しているときにはステップS10に移行する。
ステップS8′ではまた、ステップS27でモータを逆転駆動する処理が行われたときに、スタータモータの逆転駆動を開始してからの経過時間が逆転駆動設定時間に達したか否かを判定する。その結果、スタータモータの逆転駆動を開始してからの経過時間が逆転駆動設定時間に達してないと判定されたときには、ステップS9に移行し、スタータモータの逆転駆動を開始してからの経過時間が逆転駆動設定時間に達していると判定されたときには、ステップS10に移行する。
図14に示したアルゴリズムによる場合、始動指令が与えられたときにスタータモータを最初に逆転駆動する際には、クランク角位置が圧縮行程内にないため、ステップS27が実行されてスタータモータが逆転駆動される。このときステップS8′では、スタータモータの逆転駆動を開始してからの経過時間が設定時間(逆転駆動設定時間)に達したか否かの判定が行われ、スタータモータの逆転駆動を開始してからの経過時間が逆転駆動設定時間に達してないと判定されたときには、ステップS9でクランク軸が特定の気筒の正転時の吸気行程に相当する区間内に設定された始動逆転時設定位置まで逆転したか否かの判定が行われる。ステップS8′でスタータモータの逆転駆動を開始してからの経過時間が逆転駆動設定時間に達したと判定されたとき、またはステップS9でクランク軸が特定の気筒の正転時の吸気行程に相当する区間内に設定された始動逆転時設定位置まで逆転したと判定されたときにステップS10が実行されて始動時の初回の燃料噴射が既に行われたか否かが判定される。このとき、初回の燃料噴射は既に行われているので、ステップS11は実行されず、燃料噴射は行われない。
また始動正転駆動モードでクランク軸が特定の気筒の圧縮行程の上死点よりも手前の位置に設定された始動正転時設定位置に達した際に、ステップS18で始動逆転駆動モードが2回以上行われていないと判定され、ステップS19で始動逆転駆動モードに再度切り替えられた場合には、クランク角位置が圧縮行程内にあるため、ステップS26が実行され、スタータモータの電気的な駆動を停止するための処理が行われる。このとき特定の気筒内のピストンが該気筒内の圧力により押し戻されるため、スタータモータは、特定の気筒内の圧力により逆転駆動され、特定の気筒内のピストンが下死点付近に達したところで停止する。このときステップS8′では、スタータモータの駆動を停止してからの経過時間が駆動停止設定時間に達したか否かを判定し、スタータモータを駆動を停止してからの経過時間が駆動停止設定時間に達していないと判定されたときにステップS9を実行させる。このときクランク軸は始動逆転時設定位置までは達することができないため、ステップS9では、クランク角位置が設定位置に達していないと判定される。ステップS8′でスタータモータの駆動を停止してからの経過時間が駆動停止設定時間に達していると判定されたときにステップS10が実行され、初回の燃料噴射が既に実行されたか否かを判定する。このとき、初回の燃料噴射は既に行われているので、ステップS11は実行されず、燃料噴射は行われない。その他の点は図11に示した例と同様である。
図14に示した例では、始動指令に応答して初回のスタータモータの逆転駆動が行われる際には、クランク軸が特定の気筒の正転時の吸気行程に相当する区間に設定された始動逆転時設定位置まで逆転させられる。スタータモータの2回目の逆転(再逆転)は、スタータモータの電気的な駆動を停止させて、圧縮行程にある特定の気筒内の圧力によりピストンを押し戻すことにより行われる。
スタータモータの電気的な駆動を停止して、圧縮行程にある特定の気筒内の圧力によりピストンを押し戻すことによってスタータモータの再逆転駆動を行った場合、スタータモータの再逆転駆動が完了した時点で、クランク軸が特定の気筒の圧縮行程の下死点付近に達する場合もあり、特定の気筒の圧縮行程の下死点よりも手前の位置で停止する場合もあるが、本発明において、スタータモータの再逆転駆動を行うのは、混合気が供給されている特定の気筒内でピストンを上下動させて混合気を攪拌するためであり、そのためには該特定の気筒内でピストンを上下動させればよいので、スタータモータの2回目以降の逆転駆動が終了した時点でのクランク軸の停止位置は任意である。スタータモータを再逆転駆動するスタータ再逆転駆動手段は、逆転回数判定手段によりスタータモータの逆転が設定回数行われていないと判定されたときに特定の気筒内のピストンを圧縮行程の下死点側に変位させるべくスタータモータを逆転させるように構成されていればよい。
上記のように、スタータモータを逆転させる際に、スタータモータの駆動を停止して、圧縮行程にある特定の気筒内の圧力を利用してスタータモータを逆転させるようにすると、バッテリの消耗を抑え、スタータモータを駆動する回路のスイッチ素子での発熱を抑えつつ、スタータモータの逆転駆動を行わせることができる。
上記の実施形態のように、エンジンのシリンダヘッドにデコンプホールを設けておくと、ピストンが圧縮行程の上死点に向けてゆっくりと変位していく過程で、気筒内の混合気がデコンプホールを通して抜けるため、圧縮漏れによる圧縮トルクの低下を促して、ピストンが短時間で圧縮トルク最大位置を越えるようにすることができ、エンジンの始動性を向上させることができる。しかしながら、エンジンにおいては、必ずピストンリングや吸排気バルブから僅かな圧縮漏れがあるため、多くの場合、デコンプホールを特に設けなくても、本発明の始動装置を機能させることができる。
デコンプホールを設ける場合、上記の実施形態のように、該デコンプホールを開閉するデコンプバルブを設けて、エンジンの始動が完了した後はデコンプホールを閉じるようにするのが好ましいが、デコンプホールの内径が十分に小さい場合には、定常運転時にデコンプホールを通して漏れるガスの量は極僅かであり、デコンプホールがエンジンの定常運転時の出力に及ぼす影響は僅かであるため、デコンプバルブを省略してもよい。
上記の実施形態では、並列2気筒4サイクルエンジンを始動する場合を例にとったが、単気筒4サイクルエンジンや、3気筒以上の多気筒4サイクルエンジンを始動する場合にも本発明を適用することができるのはもちろんである。
上記の実施形態では、始動逆転時設定位置θbで初回の燃料噴射を行なわせているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、始動逆転時設定位置θbよりも正転側に多少位相が進んだ位置で初回の燃料噴射を行なわせるようにしてもよい。
上記の実施形態では、極低温状態でエンジンを始動する際に、エンジンからスタータモータにかかる圧縮トルクとフリクショントルクとの和よりも出力トルクが小さい小形のスタータモータを用いて、スタータモータの逆転駆動が設定回数行われた後に、スタータモータを正転駆動する過程で、クランク軸が停止した場合でも、スタータモータを駆動し続けることにより、圧縮行程を完了させるようにしているが、スタータモータとして出力トルクが十分に大きいものを用いて、極低温時の始動の際にも特定の気筒の圧縮行程を問題なく終了させることができる場合にも本発明を適用することができるのはもちろんである。
上記の実施形態では、エンジンの始動時に先ずスタータモータを逆転駆動してから正転駆動して特定の気筒の最初の圧縮行程を完了させる場合を例にとったが、エンジンの通常の始動時には、スタータモータを逆転駆動することなく、いきなり正転駆動することによりエンジンを始動するようにしたエンジン始動装置にも本発明を適用することができる。このようなエンジン始動装置に本発明を適用する場合には、ガソリンが気化し難い状況での始動、例えば極低温時の始動の際に、特別の始動モードを選択し得るようにしておいて、この始動モードが選択されときにのみ、エンジンの始動時に先ずクランク角位置が特定の気筒(エンジンの停止時にピストンが圧縮行程の下死点付近にあった気筒)の正転時の吸気行程に相当する区間に設定された始動逆転時設定位置付近に達するまでスタータモータを逆転させて、特定の気筒に対して初回の燃料噴射を行わせ、次いで特定の気筒での最初の点火を行うのに先立って該特定の気筒内の混合気を攪拌するために、スタータモータの回転方向を反転させる動作を設定回数行わせるようにスタータモータを制御する。
上記の実施形態では、エンジンに燃料を供給する燃料供給手段として、燃料噴射装置を用いているが、燃料供給手段として気化器を用いるエンジンにも本発明を適用することができる。