JP4517520B2 - 2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸の製造方法 - Google Patents

2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、飼料添加物等として有用な2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸の製造方法に関する。詳しくは、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを硫酸存在下に水和、加水分解反応させることにより、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸の製造方法として、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを水和反応させ、生成した2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドを加水分解反応させる方法が知られている。例えば、特公平5−1787号公報には、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを硫酸存在下に水和、加水分解反応させた後、反応液から2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸をイソブチルメチルケトンのような有機溶媒で抽出する方法が記載されている。また、米国特許第4912257号明細書には、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを硫酸存在下に水和、加水分解反応させた後、反応液をアンモニアで中和することにより油水分離させ、油層から2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸を回収する方法が記載されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特公平5−1787号公報の方法では、多量の有機溶媒を用いるため、コストの増加や容積効率の低下を招くと共に、製品や排水からの有機溶媒の除去操作を必要とする。また、上記米国特許第4912257号明細書に記載の方法では、有機溶媒を用いる必要がないものの、油水の分液性が悪く、回収効率が十分でない。さらに、上記いずれの方法も、硫酸の使用量が比較的多く、また硫酸の中和に用いるアンモニア等の塩基の使用量も多くなるため、コストの増加を招く。本発明の目的は、上記問題点を解決して、低コストで操作性良く2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸を製造する方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、鋭意検討の結果、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを硫酸存在下に水和反応、加水分解反応させる際、硫酸および水の使用量を特定の範囲とすることにより、得られた反応液を、有機溶媒やアンモニアのような他の成分と混合しなくとも、分液性良く2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸を含む油層と水層とに分離することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、(A):2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを硫酸存在下に水和反応させる工程、
(B):工程(A)で得られた反応液中に含まれる2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドを硫酸存在下に加水分解反応させる工程、および
(C):工程(B)で得られた反応液を2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸を含む油層と水層とに分離する工程
を含み、工程(A)および(B)における硫酸の合計使用量が2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル1モルに対して0.55〜0.85モルの範囲であり、工程(A)および(B)における水の合計使用量が2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル100重量部に対して60〜120重量部の範囲である、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸の製造方法に係るものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明においては、原料として2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを用い、これを硫酸存在下に水和反応させることにより、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドを含む反応液を得[工程(A)]、次いで該反応液中の2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドを硫酸存在下に加水分解反応させることにより、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸を含む反応液を得る[工程(B)]。原料の2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルは、例えば、アクロレインをメチルメルカプタンと反応させて、3−メチルチオプロピオンアルデヒドとし、これをシアン化水素と反応させることにより、調製することができる。
【0007】
工程(A)および(B)における硫酸の合計使用量は、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル1モルに対して、0.55モル以上、好ましくは0.6モル以上であり、また、0.85モル以下、好ましくは0.8モル以下である。該使用量が0.55モル未満であると、工程(A)および(B)の反応速度が十分でない。一方、該使用量が0.85モルを越えると、工程(B)の反応液の油水分離性が低下すると共に、コスト高となる。
【0008】
上記工程(A)および(B)における硫酸の合計使用量とは、工程(A)において反応系内に加える硫酸の量と、工程(B)において工程(A)で得られた反応液に含まれる硫酸の追加分として反応系内に加える硫酸の量との和に相当するものであるが、前者が上記所定の範囲内にあれば、後者は0であってもよい。好ましくは、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル1モルに対して、前者が0.55〜0.85モルの範囲であり、また後者が0〜0.3モルの範囲である。
【0009】
工程(A)および(B)における水の合計使用量は、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル100重量部に対して、60重量部以上、好ましくは65重量部以上であり、また、120重量部以下、好ましくは100重量部以下である。該使用量が60重量部未満であると、工程(B)の反応速度が十分でないと共に、工程(B)の反応液中の塩の析出量が多くなり操作性が十分でない。一方、該使用量が120重量部を越えると、工程(B)の反応液の油水分離性が低下する。
【0010】
上記工程(A)および(B)における水の合計使用量とは、工程(A)において反応系内に加える水の量と、工程(B)において工程(A)で得られた反応液に含まれる水の追加分として反応系内に加える水の量との和に相当するものであるが、前者が上記所定の範囲内にあれば、後者は0であってもよい。好ましくは、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル100重量部に対して、前者が15〜80重量部の範囲であり、また後者が40〜105重量部の範囲である。
【0011】
工程(A)の反応は、反応速度の観点から、硫酸の中に2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを供給することにより行うのが好ましく、このとき、水は、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを供給する前に硫酸と混合しておいてもよいし、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルと共に硫酸の中に供給してもよいし、一部を2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを供給する前に硫酸と混合しておき、一部を2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルと共に硫酸の中に供給してもよい。工程(A)の反応温度は、通常40〜70℃の範囲であり、反応時間は、通常1〜3時間の範囲である。工程(A)の反応は、通常、常圧付近で行われるが、必要に応じて加圧または減圧条件下に行ってもよい。
【0012】
工程(B)の反応は、通常、工程(A)で得られた反応液を、必要に応じて、水および/または硫酸と混合した後、工程(A)より高い温度で処理することにより行われる。工程(B)の反応温度は、通常90〜130℃の範囲であり、反応時間は、通常2〜6時間の範囲である。工程(B)の反応も、通常、常圧付近で行われるが、必要に応じて、加圧または減圧条件下に行ってもよい。
【0013】
工程(B)で得られた反応液を、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸を含む油層と水層とに分離することにより、油層として2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸を取り出すことができる[工程(C)]。該反応液中に、重硫酸アンモニウムや硫酸アンモニウムが析出している場合、そのまま油水分離させてもよいが、分液性の観点から、加温してこれらの析出物を溶解させるのが好ましく、また、析出物が存在しない場合でも、加温することにより分液性を高めることができる。油水分離の際の温度は、通常30〜120℃、好ましくは70〜110℃の範囲である。
【0014】
工程(C)で分離された油層中には、工程(A)〜(C)の条件により異なるが、通常、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸の他に、水、硫酸アンモニウム、重硫酸アンモニウム等が含まれる。該油層からさらに高濃度の2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸を得る操作としては、油層をアンモニアと混合して重硫酸アンモニウムを硫酸アンモニウムに中和した後、得られた混合液から析出した硫酸アンモニウム等の不溶物を濾過やデカンテーション等により除去するのが好ましい[工程(D)]。不溶物を除去する前に、該混合液を濃縮して水分を除去することにより、より多くの不溶物を析出させることができ、水分および硫酸アンモニウムの含量が低減された2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸を得ることができる。
【0015】
不溶物の除去を濾過により行う場合は、濾過性の観点から加温するのが好ましく、濾過温度は通常50〜90℃の範囲である。また、不溶物の除去をデカンテーションにより行う場合、静置や遠心分離により十分に不溶物を沈降させるのが好ましい。
【0016】
濾過やデカンテーション等により除去された不溶物には、通常、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸が表面に付着していたり、内部に含まれているので、この2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸を回収するために、該不溶物の少なくとも一部を、工程(D)に循環するのが好ましい。この場合、不溶物を水で洗浄して2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸を溶出させ、得られる洗液を循環させてもよい。
【0017】
【実施例】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、硫酸イオンの分析は、イオンクロマトグラフィーにより行い、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸の分析は、液体クロマトグラフィーにより行い、水分の分析は、カールフィッシャー法により行った。
【0018】
実施例1
2重量%の水を含む硫酸60g[硫酸58.8g(0.6モル)、水1.2g]の中に、攪拌下、24重量%の水を含む2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル172.6g[2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル131.2g(1モル)、水41.4g]を、50℃にて30分かけて滴下した後、50℃にて3時間保持した。この水和反応液に水79.6gを加え(水の合計使用量は122.2gとなる)、115℃にて6時間攪拌した。得られた加水分解反応液を放冷し、90℃にて油層と水層とに分離した。油層は含水2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸であった。油層中の硫酸イオン濃度、水層中の2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸濃度、および水層から塩が析出した温度を表1に示す。
【0019】
参考例1
実施例1で得られた油層および水層を混合して加水分解反応液を再調製し、水を添加した。この液を115℃にて攪拌した後、放冷し、90℃にて油層と水層とに再分離した。さらに、得られた油層および水層に対し、上記操作を繰り返して行った。それぞれの操作における、水の添加量(通算)、油層中の硫酸イオン濃度、水層中の2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸濃度、および水層から塩が析出した温度を表1に示す。
【0020】
【表1】
Figure 0004517520
【0021】
実施例2
2重量%の水を含む硫酸70g[硫酸68.6g(0.7モル)、水1.4g]の中に、攪拌下、24重量%の水を含む2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル172.6g[2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル131.2g(1モル)、水41.4g]を、50℃にて30分かけて滴下した後、50℃にて2時間保持した。この水和反応液に水67.3gを加え(水の合計使用量は110.1gとなる)、115℃にて4時間攪拌した。得られた加水分解反応液を放冷し、90℃にて油層と水層とに分離した。油層は含水2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸であった。油層中の硫酸イオン濃度、水層中の2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸濃度、および水層から塩が析出した温度を表2に示す。
【0022】
参考例2
参考例1において、実施例1で得られた油層および水層の代わりに、実施例2で得られた油層および水層を用いた以外は、参考例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0023】
【表2】
Figure 0004517520
【0024】
実施例3
2重量%の水を含む硫酸80g[硫酸78.4g(0.8モル)、水1.6g]の中に、攪拌下、24重量%の水を含む2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル172.6g[2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル131.2g(1モル)、水41.4g]を、50℃にて30分かけて滴下した後、50℃にて1時間保持した。この水和反応液に水59.9gを加え(水の合計使用量は102.9gとなる)、115℃にて3時間攪拌した。得られた加水分解反応液を放冷し、90℃にて油層と水層とに分離した。油層は含水2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸であった。油層中の硫酸イオン濃度、水層中の2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸濃度、および水層から塩が析出した温度を表3に示す。
【0025】
参考例3
参考例1において、実施例1で得られた油層および水層の代わりに、実施例3で得られた油層および水層を用いた以外は、参考例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0026】
【表3】
Figure 0004517520
【0027】
実施例4
2重量%の水を含む硫酸70g[硫酸68.6g(0.6モル)、水1.4g]の中に、攪拌下、20重量%の水を含む2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル164g[2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル131.2g(1モル)、水32.8g]を、50℃にて30分かけて滴下した後、50℃にて2時間保持した。この水和反応液に水90gを加え(水の合計使用量は124.2gとなる)、115℃にて6時間攪拌した。得られた加水分解反応液を放冷し、70℃にて油層と水層とに分離した。油層を25重量%アンモニア水溶液6.8gと混合し、水分が1重量%以下になるまで減圧濃縮した後、グラスフィルターで濾過した。濾液に2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸濃度が89重量%(電位差滴定基準)となるように水を添加し、製品とした。また、濾過残渣については、水10gで洗浄し、得られた洗浄液を次回の操作に使用した。
【0028】
次に上の操作を繰り返すが、油層を25重量%アンモニア水溶液6.8gと混合した後、さらに前回得られた洗浄液と混合し、その他は上と同様にして製品を得た。さらにもう一度、2回目の操作を繰り返して、製品を得た。1回目、2回目、3回目で得られた製品中の硫酸イオン濃度および水分を表4に示す。
【0029】
【表4】
Figure 0004517520
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば、低コストで操作性の良い方法で、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸を製造することができる。

Claims (2)

  1. (A):2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを硫酸存在下に水和反応させる工程、
    (B):工程(A)で得られた反応液中に含まれる2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドを硫酸存在下に加水分解反応させる工程、および
    (C):工程(B)で得られた反応液を2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸を含む油層と水層とに分離し、油層を回収する工程
    を含み、工程(A)および(B)における硫酸の合計使用量が2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル1モルに対して0.55〜0.85モルの範囲であり、工程(A)および(B)における水の合計使用量が2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル100重量部に対して60〜120重量部の範囲であることを特徴とする2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸の製造方法。
  2. (D):工程(C)で回収された油層をアンモニアと混合し、得られた混合液から不溶物を除去する工程
    を含む請求項1記載の製造方法。
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