JP4516159B2 - 薬物嗜癖患者の治療のためのメラトニンの使用 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ベンゾジアゼピン系薬剤に依存性、耐性、嗜癖を示す患者の治療または予防、および多剤嗜癖患者の治療のための薬剤の製造に使用されるメラトニン、並びにそのような治療に使用される薬剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
ベンゾジアゼピン依存症は、ベンゾジアゼピンを睡眠誘発のために使用している不眠症患者、および麻薬の使用中止の過程で不安と痙撃を緩和するためにベンゾジアゼピンを常用する薬剤多剤性嗜癖者に多く発症する。また、ベンゾジアゼピンの長期投与(ベンゾジアゼピンの半減期は長い)が耐性を誘発している可能性もある。耐性が誘発されたことは使用量を増やしても効果がないことで判定されるが、その耐性誘発のメカニズムは不明である。さらに、これらの薬物の突然の使用中止の後によく起こる「反動」または「退薬」現象は、動物にもヒトにも認められるもので、それはやがて嗜癖に至る(Greenblatt,D.J,Shader,R.I.,Drug Metab.Rev.,1987,8:13-28)。1990年に実施された精神療法薬剤の使用に関する米国での国民家庭調査によれば、催眠薬の使用者の約8%は、当初に調合されている用量を使用中に次第に増やすのが普通であり、しかも、この使用者の数は、1979年に較べて25%の増加となっている。この調査により米国の国民のうちの2.6%(1979年の調査では2.4%)が、ベンゾジアゼピン系の催眠薬を使用していることが明らかになった。この数字から判断して、すでになんらかの薬剤耐性または依存症になっている患者数は56万人と推定されている。この数値には、治療用や社会的標準以外の使用および多剤の乱用は含まれていない。ベンゾジアゼピン系催眠薬に依存性を示す患者が、すぐに薬物使用を中止できるような効果的な新しい方法はいまだ報告されておらず、そのことが、麻薬常用者のリハビリテーションと回復に大きな障害となっている。
【0003】
メラトニンは、松果体の腺により夜に生産されるインドール誘導のホルモンであり、主として、概日睡眠−覚醒サイクルの媒介、および規則正しい睡眠に関係があることはよく知られている。メラトニンがベンゾジアゼピンの薬効を促進させることについてはいくつかの証拠がある(例えば、Cardinali,D.P.et al,Adv.Biochem.Psychopharm.,1986,42:155-164;Acuna Castroveijo,D.,et al,J.Pineal Res.,1986,3:101-101;Niles,L.P.et al,J.Neural Transm.70:117-124)。また、メラトニンは、マウスにおいては、ジアゼパムの不安効果(anxiolytic effects)を増強させる(Guardiola-Lemaitre,B,et al,Pharamacol.Biochem.Behav.,1992,41,405-4080)。他方、ベンゾジアゼピンは、ヒトやある種の動物においては、メラトニン合成とその分泌のGABA(ガンマ・アミノ酪酸)誘導抑制を可能にし(McIntyre I.M.et al,Biol.Psychi at.,1988,24:105-108)、ヒトにおいては、ベンゾジアゼピンは血漿メラトニンの夜間増大を抑制する働きがあり、それが日周期性メラトニン・リズムの乱れの原因となるということが言われている(Kabuto,M.et al,Endocr.Japon.,1986,33,405-414)。さらに、オキサゼパムを使用した長期治療をすると、ラットの脳における夜間のメラトニン受容体濃度の日周期性変動を変化させるが、このことは松果体切除動物にはみとめられないことが分かっている(Anis,Y.et al,J.Neural Transm.,1992,89:155-166)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
メラトニンをベンゾジアゼピン系薬剤と併用投与することにより、(1)ベンゾジアゼピン系薬剤に対する依存性、嗜癖性、耐性を患者から引き離し、(2)ベンゾジアゼピン系薬剤を要求していると診断された患者においても(そのような望ましくない症状がまだ発生していない段階の患者)、そのような症状の実際の発症を予防できる、ということが本発明において発見されたことは驚きであった。
【0005】
引用した従来技術の承認
EP−A−513702は、睡眠障害の治療において及び麻酔前の薬剤として、任意にベンゾジアゼピンの存在下でメラトニンとその誘導体を使用することを記述している。この記述によれば、ベンゾジアゼピンは比較的低い用量で投与が可能であり、このようなベンゾジアゼピンの投与により、高用量で又は長期間にわたりベンゾジアゼピン系薬剤を投与したことが関与する作用(睡眠リズムの変化、反動作用、耐性の発生)を避けることができることが記載されている。しかし、この記述には、上記の目的のために10mg以下のメラトニン又はその誘導体の用量が使用できることも、また、メラトニンが、ベンゾジアゼピン系薬剤に対してすでに依存性、耐性、嗜癖性を示している患者に有効であることについては記載されていない。
【0006】
EP−A−518468は、正常な内因性メラトニン・プロフィールを有するヒトの血漿中のプロフィールに似たプロフィールに従ってメラトニンを放出する放出制御製剤について簡単に記載している。また、任意にオキサゼパムのようなメラトニン受容体プロフィールモディファーを含む製剤が、乳幼児突然死症候群や片頭痛のようなメラトニン欠損症やメラトニン分泌異常と関連のある疾病治療に有用であると述べている。しかし、ベンゾジアゼピン系薬剤に対する嗜癖の予防と治療にメラトニンを使用することは示唆していない。
【0007】
ダイヤログ・ファイル・サプライヤ・PHIND.AN00302794,13-03-92では、例えばベンゾジアゼピンの服薬中止後の不眠症患者においては、インドール−3−ピルビン酸(IPA)が睡眠時間を増加させ、IPAの睡眠に対するこのような効果は、主に松果体の腺におけるメラトニン代謝回転の増加により仲介されると報告されている。しかし、この報告において、ベンゾジアゼピン系薬剤に対する嗜癖の予防と治療にメラトニンを使用することは示唆されていない。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の説明
本発明は、そのひとつの態様において、多剤嗜癖患者もしくはベンゾジアゼピン系薬剤に対する依存性、耐性、嗜癖性の症状がある患者の治療のため、または、ベンゾジアゼピン系薬剤の投与によれば症状が軽減されやすい状態にあると臨床上診断された患者の治療において、同時に、前記のベンゾジアゼピン系薬剤に対する依存性、耐性、嗜癖性の症状の発症を予防するための薬剤の製造におけるメラトニンの使用を提供する。
【0009】
本発明はさらに別の態様において、多剤嗜癖患者もしくはベンゾジアゼピン系薬剤に対する依存性、耐性、嗜癖性の症状がある患者の治療のため、または、ベンゾジアゼピン系薬剤の投与によれば症状が軽減されやすい状態にあると診断された患者の治療において、同時に、前記のベンゾジアゼピン系薬剤に対する依存性、耐性、嗜癖性の症状の発症を予防するために使用する、少なくとも1種類の希釈剤、担休または補助剤、並びに有効成分としてベンゾジアゼピン系薬剤およびメラトニンを含む製剤を提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
上記の薬剤は、経口、直腸、非経口、経皮投与が可能な製剤であり、少なくとも1種類の希釈剤、担体、補助剤を含み、しかも、下記特徴のうちの少なくとも1つを有する製剤である。すなわち、(i)単位的用量の剤形であり、各単位適用量に含まれるメラトニンの量が0.0025〜100mgの範囲にあり、(ii)放出制御製剤であり、その中に含まれるメラトニンが好ましくは予め決定された制御割合で放出されるものであること、(iii)少なくとも1種類のメラトニン受容体モデイファイヤー及び/又はメラトニン・プロフィール・モディファイヤーを含むこと。また、上記薬剤は、及び本発明にかかる製剤は、アルプラゾラム、クロルジアゼポキサイド、クロラゼパト、ジアゼパム、フルニトラゼパム、フルラゼパム、ハラゼパム、ロラゼパム、オキサゼパム、プラゼパム、テマゼパム、トリアゾラムの少なくとも一つから成るようなベンゾジアゼピン系薬剤を少なくとも含む。さらに、上記のベンゾジアゼピン系薬剤のうちの少なくとも一つを含む製剤もまた上記の特徴(i)、(ii)、(iii)のうちのひとつ以上を有する。
【0011】
本発明は、多剤嗜癖患者またはベンゾジアゼピン系薬剤に対する依存性、耐性、嗜癖の症状がある患者の治療に適用する場合には、少なくとも治療の初めにベンゾジアゼピン系薬剤の投与を行い、少なくともひとつの症状を軽減するだけの効果が認められる程度の量のメラトニンを併用投与する。
【0012】
上記のような治療の特有な実施例においては、ベンゾジアゼピン系薬剤かメラトニンのうちのいずれかひとつが、経口、直腸、非経口、経皮投与が可能な製剤であって、少なくとも1種類の希釈剤、担体、補助剤を含む剤形である。さらに、このベンゾジアゼピン系薬剤とメラトニンは、個別に製剤したものを別々に投与してもよいし、この両方を含む単一の製剤にして投与してもよい。
【0013】
メラトニンの投与量は、1種以上のベンゾジアゼピン系薬剤との併用投与の場合でも個別投与の場合でも、1日当たりの投与量が0.01〜100mgの範囲内が効果的であり、その剤形は、放出制御製剤がよい。実例として、1〜2mgのメラトニンを放出制御製剤の形で夜間に投与してもよい。メラトニンを、メラトニン受容体モディファイヤー又はメラトニン・プロフィール・モデイファイヤーと一緒に投与してもよい。メラトニン受容体モディファイヤーの例としては、オキサゼパムのような短期作用性のベンゾジアゼピン系薬剤があり、メラトニン・プロフィール・モディファイヤーの例としては、ベンゾジアゼピン、ベータ遮断剤、セロトニン取り込み阻害剤がある。プロフィール・モディファイヤーを使う代わりに、又はその追加として、メラトニンの投与前、投与後または投与中、患者を光に曝すことにより、メラトニンプロフィールをモディファイしてもよい。
【0014】
ここで述べられているベンゾジアゼピン系薬剤は、依存性、耐性、嗜癖の症状の原因となるものである。本発明では、そのような一般的な性質に対する先入感を排除して、例えば、上記で述べたアルプラゾラム、クロルジアゼポキサイド、クロラゼパト、ジアゼパム、フルニトラゼパム、フルラゼパム、ハラゼパム、ロラゼパム、オキサゼパム、プラゼパム、テマゼパム、トリアゾラムのうちの一つ以上がそのような薬剤として使える。
【0015】
本発明を、上記で説明したような症状の治療に適用する場合のもうひとつの別の実施例においては、上記のベンゾジアゼピン系薬剤を初めに連続投与し、メラトニンを、その治療を開始する前にすでにその患者が受け入れていたメラトニンの1日量と実質的に同じ量だけ併用投与する。本発明をそのような症状の治療に適用する場合のさらにもうひとつの実施例においては、上記のベンゾジアゼピン系薬剤をメラトニンと併用投与し、その場合のメラトニンの1日の投与量は、その治療を開始する前にすでにその患者が受け入れていたメラトニンの量よりも段階的に減らしたものにする。この実施例においては、このようにして段階的に減らした1日当たりの投与量を、例えば、予め定めた安定した投与量に達するまで、あるいは、ベンゾジアゼピン系薬剤の投与量がゼロに達するまで、連続して投与する。
【0016】
本発明の内容を予防目的で使用する場合、すなわち、ベンゾジアゼピン系薬剤の投与によれば症状が軽減されやすい状態にあると臨床上診断された患者の治療と同時に、ベンゾジアゼピン系薬剤に対する依存性、耐性、嗜癖の症状の発症を予防する場合、前記状態を軽減する有効量のベンゾジアゼピン系薬剤を投与すると同時に、そのような症状の少なくともひとつを緩和させるだけの効果のある量のメラトニンも併用投与する。上記の状態にある患者の治療へ適用される上記の種々の例は同時に発症の予防に適用されるが、これは、当業者に自明の理であるような理由により適用できない場合は例外である。例えば、この例において、ベンゾジアゼピン系薬剤による治療が絶対に不可欠であり、そのため明らかにベンゾジアゼピン系薬剤の投与量をゼロまで減らすことができないような場合である。但し、医師が決めた特別な場合においては減らすことはあるだろう。
【0017】
しかしながら、ある特別な目的のために、ベンゾジアゼピン系薬剤を、従来採用していた1日当たりの投与量でメラトニンと併用して投与することだけでなく、上記のような症状を軽減させるために、1日当たりの投与量を従来投与されていた量よりも少なくして投与することも本発明の予防のための適用の範囲内である。
【0018】
上記で説明したように、本発明の範囲には、少なくとも1種類のベンゾジアゼピン系薬剤とメラトニンを含む製剤が含まれる。ベンゾジアゼピン系薬剤は通常1日に1〜4回投与するが、その場合の1日当たりの併用メラトニンの投与量は0.01〜100mgで、主に夜間に投与する。また、この2つの薬剤が別々に投与される場合のベンゾジアゼピン系薬剤の投与量は、下記のような用量が好ましい。
【0019】
【表1】
【0020】
このように、本発明にかかる製剤は単位用量の剤形であり、各単位用量は、夜間に投与されることが好ましく、0.0025〜100mgの範囲内の量のメラトニンを含むことが好ましい。
【0021】
下記の表は、前述したような症状の認められる成人に使用するベンゾジアゼピン系薬剤の投与量を示すものである。保存、半減期、投与剤形、及び子供や幼児用の投与量に関する詳しい情報については、Goodman & Gilman著「治療薬の薬理学的基礎(The Pharmacological Basis of Therapeutics)」1985年、第7版(MacMillan Publishing)のベンゾジアゼピン系薬剤の使用に関しての引用部分(例えば352、437ページ)を参照のこと。
【0022】
【表2】
【0023】
本発明にかかる製剤の調製法および放出プロフィールは下記の通りである。
(a)2mg/錠・メラトニン(Biosynth Co.,Switzerland)及びアクリル樹脂担体(Rohm Pharma)であるオイドラジットRS100(商品名:Eudragit RS100)(製剤SR−Ms)又はオイドラジットRSPO(商品名:Eudragit RSPO)(製剤SR−Mf)と別に示したようなその他の構成成分から成る粉末材料を乾燥混合後、7mm円筒打貫たがねに入れて2540kg(2.5トン)で圧縮した。製剤SR−Msの場合の成分は、オイドラジットRS100(商品名)が48.8%、ラクトースが50%、メラトニンが1.2%、製剤SR−Mfの場合の成分は、オイドラジットRSPO(商品名)が35.3%、ラクトースが16.7%、リン化水素カルシウムが41.4%、タルクが1.3%、ステアリン酸マグネシウムが4%、メラトニンが1.3%である。製剤SR-Ms及びSR−Mfはいずれも徐放性製剤である。
【0024】
従来型の製剤(RM)は、上記製剤SR−Mfと同じような方法で調製されるが、担体としてオイドラジット(商品名)の代わりにラクトースを使用している。
【0025】
(b)まず、上記の(a)項で述べた錠剤の放出プロフィールは、37℃の蒸留水に錠剤からメラトニンを溶解させて、インビトロ(in vitro)で観察した。
表Aはその結果であるが、各間隔時間でのメラトニンの溶解量を%(6錠の平均値)で示す。
【0026】
【表3】
【0027】
(c)上記の(a)項で述べたように調製されたSR−Mf錠剤のインビボ(in vivo)でのプロフィールは、循環メラトニンレベルが探知できなくなる午前10時に、健常男性(36才)に、その錠剤を経口で2回投与して観察した。メラトニンのインビボ(in vivo)での放出量は、尿中におけるメラトニンの主要代謝産物である6−サルファトキシメラトニンを、ラジオイムノアッセイにより定量した。尿中の6−サルファトキシメラトニン量は、そのホルモンの血中の量をかなり正確に示している。表Bはその結果であり、投与した総メラトニン量のうち定量されたメラトニンを%(2錠の平均値)で示す。
【0028】
【表4】
【0029】
表Aで示されているように、インビトロでのメラトニンの放出は、放出の初期段階において有効成分が組織に吸収されるというよく知られた現象が起こるために、インビボでの放出プロフィールに結果的に類似するということは注目すべきことである。
【0030】
徐放性製剤に含まれるメラトニンの量を、例えば0.5、1、5mg/錠に変えてもよく、この場合でも、2mg/錠のメラトニンで見られた放出パターンと同じ結果が得られる。
【0031】
ヒトの体内にあるメラトニンと実質的に類似した機能をもつメラトニン類似物質があることは当業者には知られていることであるが、そのような類似物質も本発明で使用するメラトニンと化学的には同等物であることは明らかである。
【0032】
本発明によれば、一種以上のベンゾジアゼピン系薬剤を、上記で述べた量で、上記の製剤に含ませてもよい。
【0033】
下記の例により、本発明をさらに詳しく説明する。
例1
ベンゾジアゼピン系薬剤とメラトニンの長期併用投与による、脳メラトニン及びベンゾジアゼピン受容体への相互効果、並びにこれらの効果を逆転させるメラトニンの能力について検討した。雄ラットを、毎日、14時間は明るい環境に、10時間は暗い環境(5時から明るい環境で、冷白色蛍光照明下)に置いて温度24±2℃で保持した。餌と飲料水を自由に摂取できる状態で与えた。ラット(生後2カ月)を4群に分けて1群を5匹とした。そのうちの第1群(CON)のラットに、毎日14:00時に賦形剤(200μlの生理食塩水液)を腹腔内注射した。そのうちの第2群(VAL)のラットに、毎日14:00時にジアゼパム(賦形剤200μl中に1mg;Roche)を腹腔内注射した。第3群(MEL)のラットには毎日14:00時に賦形剤を注射し、この群にはメラトニンを含んだ飲料水も与えた(100μlのエタノールに4mgを溶解させたものを1リットルに希釈した)。第4群(VAL/MEL)のラットには毎日14:00時にジアゼパム(賦形剤200μl中に1mg)を注射し、この群ではメラトニンを含んだ飲料水も与えた(100μlのエタノールに4mgを溶解させたものを1リットルに希釈した)。21日後に試験を中止して、ラットの体重を測定した。VAL群(274±20g)とVAL/MEL群(239±30g)の平均体重がCON群(292±30g)又はMEL群(285±30g)の体重よりもわずかに小さいことが分かった。
【0034】
その次の日の18−19.00時に断頭した(この時には、脳内髄質橋における2−125I-ヨードメラトニンが最大量となる)。脳を素早く取り出して、Laudon,M.and Zisapel,N.,FEBS Lett,1986,197:9-12の記載のように、粗シナプトソーム・ペレット(synaptosomlpellets)を調製し、メラトニン受容体の評価を行った。ベンゾジアゼピン受容体については、Amiri,Z.ら,Brain Res.,1991,553:155-158に記載のように、3H−フルニトラゼパム(3H−FNZ)と3H−RO・15−1788の結合を測定することで評価した。結合パラメータは、平衡結合データから算出した。Bmax値は、飽和の状態における、2−1251-ヨードメラトニン、3H−FNZ又は3H−RO・15−1788の特異的結合の状態を示し、Kd値はみかけ解離定数を示す。種々の群における結合パラメータの比較を、分散の分析、続いて多様な比較のためのスチューデント・ニューマン・カールテストにより行った。P<0.05であれば有意差ありとした。3週間にわたるジアゼパムの雄ラットへの毎日の注射(1mg i.p at 16.00)により、脳内髄質橋における2−125I−ヨードメラトニン結合部位の濃度は顕著に減少したが(表1)、他方、ベンゾジアゼピン結合への有意な影響はなかった(表2)。メラトニン受容体が睡眠−覚醒サイクルの制御に関係しているとすれば、これらの結果は、ベンゾジアゼピン系薬剤の長期投与は、メラトニン応答機構およびそれに続く生理活性の減少を起こすことを示唆している。
【0035】
飲料水により3週間にわたり経口投与されたメラトニンは、脳内髄質橋における3H−RO・15−1788の結合を有意に増強させたが(表2、3)、2−125I−ヨードメラトニン結合への効果はなかった。ベンゾジアゼピン結合濃度および脳内髄質橋におけるみかけのKd値の、メラトニン治療による増加は、ラット皮質において先に観察された増大と適合し、オピオイドペプチドにより仲介されていることを示している(Gomar,M.D.et al,Neuroendocrinology 1993,4:987-990)。さらに、この結合増強が、ジアゼパムで治療した動物にも見られるという事実は、ベンゾジアゼピン結合部位ではメラトニンとベンゾジアゼピンとの間には競合が無いことを示している。
【0036】
ジアゼパムとメラトニンの両方を毎日投与することにより、脳内髄質橋における3H−RO・15−1788の結合を増強させ、同時に、この領域における2−125I−ヨードメラトニン結合に対するジアゼパム誘導の抑制作用を逆転させるという結果となった(表1、2)。これらの結果は驚くべきことであるが、その理由としては、すでに報告されている通り(Anis,Y.et al,ハムスター脳におけるメラトニン結合部位:メラトニンの影響、Molec.Cell.Endocrinol.,1989,67:121 128;Oaknin-Bendahan,S,et al,J.Basic Clin.Physiol.Pharmacol.,1992,3:253-268))、あるいは、本研究でも確認されたように、メラトニンを朝または夜間に注射した場合でも、または飲料水で経口投与した場合でも、脳内髄質橋を含む大抵の脳の領域においては、メラトニン結合部位の濃度やその濃度の日ごとの変動に影響を与えることはないからである。さらに、松果体切除は、位相位置に影響を及ぼすけれども(Oaknin-Bendahan et al.,1992,ibid)、2−125I−ヨードメラトニン結合部位における日ごとの変動を排除しない。したがって、メラトニン結合部位濃度の変化は、メラトニンによる受容体の自己調節のためではないと考えられる。
【0037】
大脳皮質においては、メラトニンは3H−RO・15−1788及び3H−FNZ結合を僅かに減少させた。また、ジアゼパム治療は、3H−RO・15−1788と3H−FNZ結合に有意な効果を与えなかったが、メラトニン仲介の結合減少を防止した(表2、3)。これらのデータから分かることは、まず第1に、ベンゾジアゼピン結合部位でのメラトニンの効果は、一般的な結合発生の抑制や促進というより、局所化されていること、第2に、メラトニン置き換え治療は、ベンゾジアゼピン系薬剤の長期投与による有害な作用を中和するということである。
【0038】
表1は、ジアゼパム及び/又はメラトニン治療をしたラットとそのような治療をしていないラットの髄質橋領域から得たシナプトソーム調製物における2−125I−ヨードメラトニン結合部位の平衡結合パラメータを、Kd値(nM)及びBmax値(μmol/mgタンパク質)のそれぞれ平均および標準偏差で示したものである。表1において、同じ文字のついている数値は、それらの間には有意な差異がないことを示している(下記の表2、3においても同様)。
【0039】
【表5】
【0040】
表2は、ジアゼパム及び/又はメラトニン治療をしたラットと、そのような治療をしていないラットの髄質橋領域から得たシナプトソーム調製物における3H−RO・15−1788結合部位の平衡結合パラメータを、Kd値(nM)及びBmax値(μmol/mgタンパク質)のぞれぞれの平均および標準偏差で示したものである。
【0041】
【表6】
【0042】
表3は、ジアゼパム又はメラトニンのラット大脳皮質膜における3H−FNZと3H−RO・15−1788結合における効果を、Kd値(nM)及びBmax値(μmol/mgタンパク質)のそれぞれ平均および標準偏差で示したものである。
【0043】
【表7】
【0044】
例2
本例では、メラトニンが、ベンゾジアゼピン系薬剤耐性の迅速な停止を促進するという驚くべき作用について説明する。対象は、2人の子供がある43才の婦人で、10年来、頻繁に起こる重度の片頭痛を伴った不眠症に悩まされている。徹底的な神経学的評価は陰性であった。精神医学上またはその他の問題もなかった。ここ数年間、バイオフィードバック法や弛緩法だけでなく、ベンゾジアゼピン系薬剤、三環系抗うつ剤および神経治療薬での治療を受けていたが、著明な症状改善は見られなかった。前年には、4〜8mgのロラゼパムを毎晩使用していた。
【0045】
テルアビブ大学の睡眠研究所で行った徹底的な心理的評価でも有意な病理的症状は認められなかった。手首につけた小さなデバイスを使用してベッドタイム睡眠−覚醒パターンを自動的にモニターするアクチグラフ・トレースを行って、睡眠の質を評価した。3日間の連続してトレースを記録し、低い効率、長い睡眠潜伏期、多い途中覚醒といった乱れた睡眠パターンが認められた。3時間ごと(36時間)に尿を採取して、血漿メラトニンの日内分泌の指標として使える、主要なメラトニン代謝物質である6−サルファトキシメラトニンの定量を行った。その結果は、6−サルファトキシメラトニンの分泌レベルが年齢が同じ対象者よりも低く、代表的なサーカディアンリズムが認められないことを示した(表4)。
【0046】
メラトニン・リズムの欠乏や乱れの治療として、メラトニン1mgを含有する錠剤の形態とした放出制御メラトニン製剤(Neurim Pharmaceuticals,Israel)の経口投与を開始した。毎日、午後8:30に1錠を投与した。それまで毎晩飲んでいたベンゾジアゼピン系薬剤の数を減らすように患者を指導した。驚いたことに、上記のメラトニン製剤を投与してから2日目で、患者はベンゾジアゼピン系催眠薬の使用を完全に止め、不眠症の顕著な改善を認めたのである。さらに、頭痛についても次第におさまっていった。3週間の治療の後、再度アクチグラフ・トレースを行った結果、睡眠パターンには著明な改善が見られた。
【0047】
治療の中止後の2週間目に、再度、尿を3時間ごとに(36時間)収集し、6−サルファトキシメラトニンの定量を行った。この結果(表4)から分かることは、尿中の6−サルファトキシメラトニンが量的に増加し、明確な夜行性ピークを示していることである。フォローアップを5カ月行い、この患者は自分の睡眠の質を正常に維持することができ、しかも頭痛も完治していることが確認された。しかし、6カ月間、治療を停止した後は睡眠の質が悪化し、メラトニン治療を再開した。
【0048】
この症例報告は、メラトニンによる治療が、生活の質がベンゾジアゼピン系催眠剤の嗜癖により悪化している多くの患者を救う突破口になり得ることを示している。さらに、外来性のメラトニンの投与は、ベンゾジアゼピン系薬剤に耐性のある患者を、早く、無症状で、中止(withdrawal)させる方法として役立つことができることを示している。
【0049】
【表8】
【0050】
例3
この例は、ベンゾジアゼピン系薬剤依存症患者の不眠症治療におけるメラトニンの長期投与の効果を示すものである。
【0051】
80才の男性Y.L.と73才の女性E.L.の2人のボランティアは、長年、不眠症および/又は夜間の頻繁な覚醒で、しかも、一度覚醒するとその後は睡眠が困難であるという症状で苦しんできた。メラトニンの尿中代謝物質である6−サルファトキシメラトニンを定量することにより、この両患者のメラトニン分泌が少ないことが判明した。両患者は、毎日就寝の前に1〜2mgのフルニトラゼパムを経口服用していた。
各患者へのフルニトラゼパムの投与を徐々に減らし、同時にメラトニン(放出制御の剤形で2mg含有)を経口で2カ月間投与することによって、フルニトラゼパムから離脱させた。その期間の終了後もずっと、各患者には同じ剤形のメラトニンを同じ用量でおよそ2年間投与し続けた。
【0052】
各患者は、睡眠がよく取りやすくなったこと、及び自覚的に睡眠の質も改善したことを認めた。特に、患者E.L.は、フルニトラゼパムの服用を停止した初期の段階で睡眠の質の改善を認め、患者Y.L.では、完全中止の2週間目に同様な効果を認めた。いずれの患者においても、フルニトラゼパムの服用を停止した初期の段階で日中の疲労感が減少し、さらに、メラトニンの服用によって、朝に疲労が残らず、だるさもないことを認めた。いずれの患者にも副作用は認められなかった。
【0053】
例4
この例は、無作為・両盲・交差試験により、ベンゾジアゼピン系薬剤の長期使用の高齢者における睡眠改善のためのメラトニン置換療法の効果を説明するものである。
【0054】
対象は、平均年齢78才(標準偏差=9.7)の8人の男性と5人の女性から成る群で、全員が睡眠誘導のために多様なベンゾジアゼピン系薬剤を使用している長期不眠症の患者であった。尿を4時間ごと15時間採取し、メラトニンの主要な尿中代謝物質である6−サルファトキシメラトニンの夜間分泌をRIAで反復して定量した。これらの患者の尿分析の結果、6−サルファトキシメラトニンの分泌量は少量で遅延性のものであった(若年成人では1分間の分泌は25μgであるのに対して、これらの患者では一晩で14μg未満であった)。この試験のプロトコルは、2つの治療期間(1期間が3週間)から成っており、この2つの期間の間に1週間のウォッシュアウト(wash-out)期間がもうけられている。この治療期間中において、患者に2mgの放出制御製剤のメラトニン錠または偽薬のいずれかを就寝してから2時間前に経口投与した。5人の患者にメラトニン治療の最初の試験期間後2ケ月間続けた。
【0055】
各治療の終了時に、患者の眠りについて、手首に取り付けたアクチグラフにより客観的に3夜連続で評価した。各対象について、記録の動きをニューラム・アルゴリズムを使用して解析し、睡眠潜伏期、睡眠効率、全睡眠時間、入眠後の覚醒、覚醒の回数について、3夜の平均として決定した。6回のウイルコクスン符号付順位検定(Wilcoxonmatched-pairs signed-ranks analyses)により、メラトニンと偽薬の治療周期ランク間には、睡眠パラメータに統計的に有意な差異があることが判明した。その結果を表5に示す。
【0056】
【表9】
【0057】
上記の結果から、メラトニン置換治療は、ベンゾジアゼピン系薬剤を使用している内因性メラトニン分泌の少ない高齢者において、睡眠の開始と持続を改善するという結論が得られる。メラトニン治療の効果は時間とともに増加するが、このことは、サーカディアン機構の再構築が起こっていることを示唆している。
Claims (12)
- ベンゾジアゼピン系薬剤に対する依存性、耐性、嗜癖性の症状がある患者におけるベンゾジアゼピンに対する嗜癖の治療のための、メラトニンを有効成分として含む薬剤であって、
メラトニンの徐放性製剤であり、少なくとも前記治療に対する有効量のメラトニンを含み、
該有効量は、5mgを超えないことを特徴とする薬剤。 - 前記薬剤は、経口、直腸、非経口または経皮投与が可能な製剤であり、少なくとも1種類の希釈剤、担体または補助剤を含む請求項1に記載の薬剤。
- 前記製剤が、
(i)単位用量の剤形であり、各単位用量に含まれるメラトニンの量が、0.0025〜5mgの範囲にあること;
(ii)放出制御製剤であり、その中に含まれるメラトニンが予め決定された制御割合で放出されるものであること、
(iii)少なくとも1種類のメラトニン受容体モデイフアイヤー及び/又はメラトニン・プロフィール・モデイフアイヤーを含むこと、
という特徴のうちの少なくとも1つを有する請求項1または2に記載の薬剤。 - 前記製剤が少なくとも1種類のベンゾジアゼピン系薬剤を更に含む請求項1〜3のいずれかに記載の薬剤。
- 前記ベンゾジアゼピン系薬剤が、アルプラゾラム、クロルジアゼポキサイド、クロラゼパト、ジアゼパム、フルニトラゼパム、フルラゼパム、ハラゼパム、ロラゼパム、オキサゼパム、プラゼパム、テマゼパム及びトリアゾラムのうちの少なくとも1種である請求項4に記載の薬剤。
- メラトニンを使用して製造された薬剤が、ベンゾジアゼピン系薬剤と併用投与されるものであり、後者は、1日当たりの投与量が予め決められた安定した投与量ですむ状態になるまで、1日当たりの投与量を漸次減量しながら投与される請求項1〜3のいずれかに記載の薬剤。
- メラトニンを使用して製造された薬剤が、ベンゾジアゼピン系薬剤と併用投与されるものであり、後者は、患者がベンゾジアゼピン系薬剤を完全に廃薬できる状態になるまで、1日当たりの投与量を漸次減量しながら投与される請求項1〜3のいずれかに記載の薬剤。
- ベンゾジアゼピン系薬剤の投与によれば症状が軽減されやすい状態にあると臨床上診断された患者を治療すると同時に、前記のベンゾジアゼピン系薬剤に対する依存性、耐性、嗜癖性の症状の発症を予防するための、メラトニンを有効成分として含む薬剤であって、
メラトニンの徐放性製剤であり、かつ少なくとも前記治療に対する有効量のメラトニンを含み、該有効量は5mgを超えないことを特徴とする薬剤。 - 前記薬剤は、経口、直腸、非経口または経皮投与が可能な製剤であり、少なくとも1種類の希釈剤、担体または補助剤を含む請求項8に記載の薬剤。
- 前記製剤が、
(i)単位用量の剤形であり、各単位用量に含まれるメラトニンの量が0.0025〜5mgの範囲にあること;
(ii)少なくとも1種類のメラトニン受容体モデイフアイヤー及び/又はメラトニン・プロフィール・モデイフアイヤーを含むこと、
という特徴のうちの少なくとも1つを有する請求項9記載の薬剤。 - 前記製剤が少なくとも1種類のベンゾジアゼピン系薬剤を更に含む請求項8〜10のいずれかに記載の薬剤。
- 前記ベンゾジアゼピン系薬剤が、アルプラゾラム、クロルジアゼポキサイド、クロラゼパト、ジアゼパム、フルニトラゼパム、フルラゼパム、ハラゼパム、ロラゼパム、オキサゼパム、プラゼパム、テマゼパム及びトリアゾラムのうちの少なくとも1種である請求項11に記載の薬剤。
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