JP4515018B2 - パルスアーク溶接の倣い制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、消耗電極式パルスアーク溶接の倣い制御方法に関し、特に、溶接トーチを左右にオシレートさせながら溶接を行いこのときの溶接電圧の変化を処理することによって溶接トーチを溶接線に倣わせる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
溶接トーチを溶接線に略直交する方向(以下、左右方向という)にオシレートさせてチップ・母材間距離の変化に伴うオシレート半周期毎の溶接電圧の差異に基づいて溶接トーチを溶接線に倣わせるパルスアーク溶接の倣い制御方法が従来から使用されている。以下、このパルスアーク溶接における倣い制御方法の従来技術について、図面を参照して説明する。
【0003】
図5は、倣い制御をしながらパルスアーク溶接を行うための溶接装置の構成図である。以下、同図を参照して説明する。
【0004】
ロボット制御装置RCは、溶接トーチ4を搭載したマニピュレータRMの動作を制御するための動作制御信号Mcを各軸のサーボモータ(図示せず)へ出力し、溶接開始信号、送給速度設定信号、溶接電圧設定信号等を含む溶接条件設定信号Wsを溶接電源装置PSへ出力し、図7で後述する溶接トーチのオシレート位置信号Opを倣い制御装置ASへ出力すると共に倣い制御装置ASから図7で後述する溶接トーチの位置ズレ信号Dpが入力される。溶接電源装置PSは、上記の溶接条件設定信号Wsに従って溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力すると共に、溶接ワイヤ1の送給速度を制御するための送給制御信号Fcをワイヤ送給モータWMへ出力する。
【0005】
マニピュレータRMは、溶接トーチ4、ワイヤ送給モータWM等を搭載し、上記の動作制御信号Mcによって予め教示された動作データ通り動作する。そして同図の場合、溶接トーチ4は溶接線の左右方向に予め定めた周期及び幅でオシレートされて、溶接ワイヤ1と母材2との間にアーク3が発生する。倣い制御装置ASは、図7で後述するように、上記の溶接電圧Vw及び上記のオシレート位置信号Opを入力として、上記のオシレートによるチップ・母材間距離の変化に伴うオシレート半周期毎の溶接電圧の差異に基づいて上記の位置ズレ信号Dpを算出して出力する。
【0006】
図6は、パルスアーク溶接における上述した溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの出力波形図である。時刻t1〜t2のピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、1パルス1溶滴移行させるための大電流値のピーク電流Ipが通電し、同図(B)に示すように、アーク負荷に応じたピーク電圧Vpが印加する。続いて時刻t2〜t3のベース期間Tb中は、溶接ワイヤを溶融させないために数十A程度のベース電流Ibを通電し、同図(B)に示すように、アーク負荷に応じたベース電圧Vbが印加する。上記のピーク期間Tp及びベース期間Tbを合わせてパルス周期Tfとなり、上記動作を繰り返し行う。また、同図(A)に示すように、ピーク電流Ip及びベース電流Ibから成る溶接電流Iwの平均値が平均溶接電流Iaとなり、同様に同図(B)に示すように、ピーク電圧Vp及びベース電圧Vbから成る溶接電圧Vwの平均値が平均溶接電圧Vaとなる。上記のパルス周期Tfは送給速度に応じて変化するが80〜300Hz程度である。一方、溶接トーチのオシレート周波数は、通常2〜20Hz程度であるので、オシレートの1周期中にはパルス周期Tfが少なくとも4周期(80/20=4)は含まれることになる。したがって、オシレートの半周期毎の平均溶接電流Ia及び平均溶接電圧Vaを正確に検出することができる。
【0007】
図7は、従来技術の倣い制御方法の原理を説明するためのオシレート位置Opと平均溶接電圧Vaとの関係図である。同図(A)はオシレート位置Opと溶接トーチ4との関係を示し、同図(B)はオシレート位置Opと平均溶接電圧Vaとの関係を示し、同図(C)は平均溶接電圧Vaの時間変化を示し、同図(D)はオシレート位置Opの時間変化を示す。同図は、同図(A)に示すように、V継手の中央部を溶接線Wcとする場合であり、オシレートの中心位置Ocが溶接線Wcと一致して位置ズレがない場合である。同図(A)は溶接方向の後方から前方を見た図であり、溶接方向に向かって溶接トーチ4が中心位置Ocより右側を移動しているときをオシレート右半周期ということにし、左側を移動しているときをオシレート左半周期ということにする。以下、同図を参照して説明する。
【0008】
▲1▼ 時刻t1〜t2の期間
時刻t1において、同図(A)に示すように、溶接トーチ4は中心位置Ocにあるので、チップ・母材間距離は最大値L1[mm]となる。時刻t2において右端位置ORに達すると、チップ・母材間距離は最小値L2[mm]になる。この期間中の平均溶接電圧Vaの変化を図8によって説明する。図8は、溶接電源装置の外部特性X1とアーク負荷特性Y1、Y2との関係図であり、横軸は平均溶接電流Iaを示し、縦軸は平均溶接電圧Vaを示す。時刻t1のときのチップ・母材間距離は最大値L1であるのでアーク負荷は重くなり特性Y1となる。したがって、時刻t1の平均溶接電圧値Vaは外部特性X1とアーク負荷特性Y1との交点であるVa1[V]となる。一方、時刻t2のチップ・母材間距離は最小値L2であるので、アーク負荷は軽くなり特性Y2に変化する。したがって、時刻t2の平均溶接電圧値Vaは外部特性X1とアーク負荷特性Y2との交点であるVa2[V]となる。すなわち、オシレート位置Opによってチップ・母材間距離が変化し、これに伴ってアーク負荷が変化して平均溶接電圧Vaの変化となって表われることになる。したがって、チップ・母材間距離に略比例して平均溶接電圧値Vaが変化するので、同図(B)に示すように、平均溶接電圧Vaは、時刻t1の中心位置OcではVa1[V]となり、時刻t2の右端位置ORではVa2[V]となる。
【0009】
▲2▼ 時刻t2〜t3の期間
同図(A)に示すように、オシレート位置Opが時刻t2の右端位置ORから時刻t3の中心位置Ocへと移動すると、同図(B)に示すように、平均溶接電圧VaはVa2[V]からVa1[V]へと変化する。
【0010】
▲3▼ 時刻t3〜t4の期間
同図(A)に示すように、オシレート位置Opが時刻t3の中心位置Ocから時刻t4の左端位置OLへと移動すると、同図(B)に示すように、平均溶接電圧VaはVa1[V]からVa2[V]へと変化する。
【0011】
▲4▼ 時刻t4〜t5の期間
同図(A)に示すように、オシレート位置Opが時刻t4の左端位置OLから時刻t5の中心位置Ocへと移動すると、同図(B)に示すように、平均溶接電圧VaはVa2[V]からVa1[V]へと変化する。
【0012】
上記の▲1▼及び▲2▼の期間がオシレート右半周期となり、上記の▲3▼及び▲4▼の期間がオシレート左半周期となる。溶接中、上記▲1▼〜▲4▼の動作を繰り返すことになる。また、平均溶接電圧Vaは、時間経過に伴って同図(C)に示すように変化し、オシレート位置Opは、時間経過に伴って同図(D)に示すように変化する。
【0013】
倣い制御の基本動作は、オシレートの中心位置Ocと溶接線Wcとの位置ズレ値Dpを算出し、この位置ズレ値Dpがゼロになるようにオシレートの中心位置Ocを左右にシフトさせて溶接線Wcに倣わせることである。以下、同図を参照して位置ズレ値Dpの算出方法について説明する。同図(C)に示すように、時刻t1〜t3のオシレート右半周期中の平均溶接電圧値Vaの積分値(以下、右半周期電圧積分値Svrという)と、時刻t3〜t5のオシレート左半周期中の平均溶接電圧値Vaの積分値(以下、左半周期電圧積分値Svlという)とを演算し、位置ズレ値Dp=Svr−Svlを算出する。同図は位置ズレがない場合であるので、Dp=Svr−Svl=0となっている。
【0014】
図9は、オシレートの中心位置Ocが溶接線Wcよりも右側に位置ズレ(以下、右位置ズレという)している場合の上記の図7に対応する図である。同図(A)〜(D)の各信号は図7と同一である。同図(C)に示すように、右半周期電圧積分値Svrは左半周期電圧積分値Svlよりも小さいので、位置ズレ値Dp=Svr−Svl<0となる。すなわち、右位置ズレしている場合には、位置ズレ値Dpの符号は負となり、その絶対値は位置ズレの距離に略比例する。同様に、左位置ズレしている場合には、位置ズレ値Dpの符号は正となり、その絶対値は位置ズレの距離と略比例する。したがって、右半周期電圧積分値Svrと左半周期電圧積分値Svlとの差異によって位置ズレ値Dpを算出することができる。
【0015】
上記の方法以外にも溶接電圧Vwを使用した位置ズレ値Dpの算出方法には種々の方法がある。例えば、上記の平均溶接電圧Vaの代りに、ピーク電圧Vp又はベース電圧Vbのみの平均値である平均ピーク電圧、平均ベース電圧を使用する方法もある。また、図7(B)及び図9(B)に示すように、平均溶接電圧値Vaが最大値となるオシレート位置Opがチップ・母材間距離が最大となる位置であり、この位置が溶接線Wcとなることを利用して位置ズレ値Dpを算出する方法もある。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術では、図8の説明の項で上述したように、オシレートによるチップ・母材間距離の変化に伴ってアーク負荷が変化し、このアーク負荷の変化に応じて溶接電圧(平均溶接電圧、平均ピーク電圧、平均ベース電圧等)が変化することを利用して位置ズレ値を算出している。したがって、従来技術では、チップ・母材間距離の変化に応じて溶接電圧が変化することが前提条件となっている。しかしながら、後述するように、溶接中には外乱となる種々のアーク現象がランダムに発生しており、これらのアーク現象に起因して溶接電圧に異常電圧が重畳することがある。この重畳した異常電圧は、チップ・母材間距離の変化に対応するアーク負荷の変化とは関係しない電圧値であるために、この異常電圧が重畳した溶接電圧によっては位置ズレ値を正確に算出することはできない。これは、オシレートによるチップ・母材間距離の変化に伴う溶接電圧の変化に、チップ・母材間距離の変化とは関係しない異常電圧が重畳することになるためである。このような異常電圧が重畳した溶接電圧によっては位置ズレ値の算出が不正確になるために、高精度な倣い制御を行うことができない。一般的に、上記の異常電圧の発生は、シールドガス中に酸化性成分が少ないほど顕著である。したがって、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを主成分とするシールドガスを使用するパルスMIG溶接では、異常電圧の発生頻度が高く、位置ズレ値の誤算出の悪影響は大きくなる。以下、アルミニウム合金のパルスMIG溶接において、異常電圧が発生する3つの典型的な例について説明する。
【0017】
▲1▼ 短絡開放直後の陰極点形成に伴う異常電圧
図10は、ベース期間中に微小短絡が発生したときの電圧・電流波形図であり、同図(A)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
パルスアーク溶接では、1回のピーク電流の通電によって1パルス1溶滴移行するように、ピーク期間を設定するのが通常である。したがって、同図に示すように、溶滴移行はピーク期間終了時点(時刻t1)の直後に行われることが多い。この溶滴移行時において、溶接ワイヤ先端の溶滴と母材とが短時間接触(微小短絡という)することがある。同図(A)に示すように、時刻t2において短絡が発生し短時間後の時刻t3において短絡が開放されると、その直後の時刻t3〜t4の間は、点線で示す通常値よりも過大な値の異常電圧が重畳することがある。この理由は、時刻t2の短絡発生によってアークがいったん消滅し、時刻t3においてアークが再点弧する。この再点弧時には、陰極点は溶接ワイヤ直下の最短距離となる溶融池上に形成される。しかし、溶融池表面の酸化皮膜は既にクリーニングされているために、陰極点は酸化皮膜のない部分に形成されることになる。このために、陰極降下電圧値が過大な値となり、異常電圧として重畳することになる。この陰極降下電圧値は、チップ・母材間距離の変化とは関係がないために、異常電圧が重畳した溶接電圧Vwによっては、位置ズレ値を正確に算出することができない。上記の陰極降下電圧値は、母材の酸化皮膜のクリーニング状態、陰極点の形成位置等によって影響されるので、その値が小さくかつ発生時間も短い場合もある。逆に、その値が大きくかつ発生時間も長い場合もある。同図(A)に示すように、異常電圧は、ベース期間中だけでなくピーク期間にかけても発生するために、平均溶接電圧値、平均ピーク電圧値又は平均ベース電圧値によっても、位置ズレ値を正確に算出することはできない。
【0018】
▲2▼ 長期短絡に伴う異常電圧
図11は、ベース期間中に長期短絡が発生したときの電圧・電流波形図であり、同図(A)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
送給速度、溶滴形成状態、溶融池振動等に起因して溶接ワイヤ先端の非溶融部が母材と短絡すると、非溶融部を溶断してアークを再点弧するには、数十msの長期間が必要となる場合がある。この長期短絡は、ベース期間中に多く発生するが、ピーク期間中にも発生する。同図(A)に示すように、時刻t1〜t2の期間中に長期短絡が発生すると、この期間中の溶接電圧値Vwは数V程度の非常に低い値となり異常電圧となる。時刻t2において短絡が開放されると、時刻t2〜t3の間、上記▲1▼項と同様の異常電圧が発生する。また、同図(B)に示すように、時刻t1〜t2の長期短絡期間中は、上記のように非溶融部の溶断を促進するために、通常値よりも大きな値のベース電流を通電するのが通常である。同図(A)に示すように、時刻t1〜t2の長期短絡期間中の異常電圧は、点線で示す通常値よりも非常に低い値であり、かつチップ・母材間距離の変化とは関係しない値であるために、この異常電圧を含む平均溶接電圧値等によっては、位置ズレ値を正確に算出することはできない。
【0019】
▲3▼ ベース期間中の陰極点の移動に伴う異常電圧
図12は、ベース期間中に陰極点が移動したときの電圧・電流波形図であり、同図(A)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
通常ベース電流値は数十Aと低いために、アークの指向性が弱くなり、ベース期間中の陰極点は酸化皮膜を求めて母材表面上をふらふらと移動しやすくなる。そして、陰極点が移動して新たに形成されるときに、母材表面の酸化皮膜の状態によって上記の陰極降下電圧値が変動することによって、溶接電圧Vwに異常電圧が重畳する場合がある。同図(A)に示すように、時刻t1〜t2の期間中に陰極点がふらふらと移動すると、この期間中の溶接電圧値Vwは変動して異常電圧となる。この異常電圧は、点線で示す通常値から変動しており、かつチップ・母材間距離とは関係しない値であるために、この異常電圧を含む平均溶接電圧値等によっては、位置ズレ値を正確に算出することはできない。
【0020】
上記のように、種々の要因によってチップ・母材間距離の変化とは関係のない異常電圧が発生すると、この異常電圧を含む平均溶接電圧値、平均ピーク電圧値又は平均ベース電圧値によっては、位置ズレ値を正確に算出することができない。このために、従来技術では、異常電圧が発生すると位置ズレ値の算出値が不正確になり倣い精度が悪くなっていた。この現象は、パルスMIG溶接において顕著であるが、パルスMAG溶接においても発生する。すなわち、パルスアーク溶接全般に発生する問題である。
【0021】
そこで、本発明では、上記の異常電圧が発生しても正確に位置ズレ値を算出することによって、倣い精度を常に高くすることができるパルスアーク溶接の倣い制御方法を提供する。
【0022】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、ピーク期間中のピーク電圧とベース期間中のベース電圧とから形成される溶接電圧を溶接ワイヤ・母材間に印加するパルスアーク溶接を使用して、溶接トーチを溶接線に略直交する方向にオシレートさせてチップ・母材間距離の変化に伴うオシレート半周期毎の前記溶接電圧の積分値が等しくなるようにオシレートの中心位置を移動させて前記溶接トーチを前記溶接線に倣わせるパルスアーク溶接の倣い制御方法において、
前記ピーク電圧を検出しこのピーク電圧検出値をピーク電圧基準値を中心値とするピーク電圧変動範囲内に制限してピーク電圧制限値を算出すると共に前記ベース電圧を検出しこのベース電圧検出値をベース電圧基準値を中心値とするベース電圧変動範囲内に制限してベース電圧制限値を算出し、前記ピーク電圧制限値及び前記ベース電圧制限値から溶接電圧制限値を形成し、前記溶接電圧の積分値に代えて前記溶接電圧制限値の積分値を使用し、
前記ピーク電圧基準値はパルス周期の開始時刻から所定パルス周期前までの前記ピーク電圧制限値を移動平均して算出され、前記ベース電圧基準値はパルス周期の開始時刻から前記所定パルス周期前までの前記ベース電圧制限値を移動平均して算出される、
ことを特徴とするパルスアーク溶接の倣い制御方法。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[実施の形態1]
本発明の実施の形態1は、ピーク電圧を予め定めたピーク電圧基準値を中心値とするピーク電圧変動範囲内に制限してピーク電圧制限値を算出し、ベース電圧を予め定めたベース電圧基準値を中心値とするベース電圧変動範囲内に制限してベース電圧制限値を算出し、オシレート半周期毎の上記ピーク電圧制限値及び/又は上記ベース電圧制限値に基づいて溶接トーチを溶接線に倣わせるパルスアーク溶接の倣い制御方法である。以下、図面を参照して説明する。
【0025】
図1は、実施の形態1の位置ズレ値算出方法を説明するための波形図であり、同図(A)は上述した図10(A)と同一の異常電圧が重畳した溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(B)は後述する溶接電圧制限値Vftの時間変化を示す。同図(B)に示すように、時刻t1〜t4のベース期間中は、ベース電圧Vbを検出し、このベース電圧Vbと予め定めたベース電圧基準値Vbcを中心値とするベース電圧変動範囲Vbc±ΔVbc内に制限してベース電圧制限値Vbfを算出する。すなわち、時刻t1〜t2のベース電圧Vbは上記のベース電圧変動範囲内の値であるのでベース電圧制限値Vbf=Vbとなり、時刻t2〜t3のベース電圧Vbは上記のベース電圧変動範囲の下限値Vbc−ΔVbc以下であるのでベース電圧制限値Vbf=Vbc−ΔVbcとなり、時刻t3〜t4のベース電圧Vbは上記のベース電圧変動範囲の上限値Vbc+ΔVbc以上であるのでベース電圧制限値Vbf=Vbc+ΔVbcとなる。したがって、ベース電圧制限値Vbfは、異常電圧を除去したオシレートによるチップ・母材間距離の変化に対応した電圧値のみとなる。
【0026】
次に、同図(B)に示すように、時刻t4〜t6のピーク期間中は、ピーク電圧Vpを検出し、このピーク電圧Vpを予め定めたピーク電圧基準値Vpcを中心値とするピーク電圧変動範囲Vpc±ΔVpc内に制限してピーク電圧制限値Vpfを算出する。すなわち、時刻t4〜t5のピーク電圧Vpは上記のピーク電圧変動範囲の上限値Vpc+ΔVpc以上であるのでピーク電圧制限値Vpf=Vpc+ΔVpcになり、時刻t5〜t6のピーク電圧Vpは上記のピーク電圧変動範囲内の値であるので、ピーク電圧制限値Vpf=Vpとなる。したがって、ピーク電圧制限値Vpfは、異常電圧を除去したオシレートによるチップ・母材間距離の変化に対応した電圧値のみとなる。
【0027】
そして、上記のピーク電圧制限値Vpfと上記のベース電圧制限値Vbfとから形成される溶接電圧制限値Vftによって平均溶接電圧値を算出し、上述したようにこの平均溶接電圧値を入力としてオシレート半周期毎の電圧積分値の差異によって位置ズレ値を算出して倣い制御を行う。このときに、平均溶接電圧値の代りに、ピーク電圧制限値Vpfの平均値である平均ピーク電圧値又はベース電圧制限値Vbfの平均値である平均ベース電圧値を使用することもできる。また、上記のピーク電圧変動範囲Vpc±ΔVpc及びベース電圧変動範囲Vbc±ΔVbcの値は、溶接ワイヤの種類、シールドガスの種類、送給速度設定信号、溶接電圧設定信号等の溶接条件に応じて、実験等により求めた適正値に予め設定する。
【0028】
図2は、実施の形態1に係る溶接装置の構成図である。同図において、倣い制御装置AS以外の構成物については、上述した図5と同一であるので同一符号を付してそれらの説明は省略する。以下、図5とは異なる一点鎖線で示す倣い制御装置AS内の各回路について図面を参照して説明する。
【0029】
電圧検出回路VDは、溶接電圧Vwを検出して電圧検出信号Vdを出力する。電圧変動範囲設定回路VCは、溶接電源装置PSからのピーク期間中はHighレベルとなりベース期間中はLowレベルとなるピーク/ベース期間信号Spbを入力として、ピーク/ベース期間信号SpbがHighレベル(ピーク期間)のときには予め定めたピーク電圧変動範囲Vpc±ΔVpcとなる電圧変動範囲設定信号Vcを出力し、Lowレベル(ベース期間)のときには予め定めたベース電圧変動範囲Vbc±ΔVbcとなる電圧変動範囲設定信号Vcを出力する。電圧制限回路VFTは、図1で上述したように、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この信号の値を上記の電圧変動範囲設定信号Vcによって定まる電圧範囲内に制限して溶接電圧制限信号Vftを出力する。位置ズレ値算出回路DPCは、上記の溶接電圧制限信号Vft及びオシレート位置信号Opを入力として、オシレート半周期毎の溶接電圧制限信号Vftの電圧積分値の差異を算出して、位置ズレ信号Dpとして出力する。ロボット制御装置RCは、この位置ズレ信号Dpに基づいてマニピュレータRMの動作を修正してオシレートの中心位置を溶接線に倣わせる。
【0030】
[実施の形態2]
本発明の実施の形態2は、実施の形態1において、ピーク電圧制限値を所定期間にわたり移動平均してピーク電圧基準値を算出し、ベース電圧制限値を上記所定期間にわたり移動平均してベース電圧基準値を算出するパルスアーク溶接の倣い制御方法である。以下、図面を参照して説明する。
【0031】
図3は、実施の形態2におけるピーク電圧基準値Vpc及びベース電圧基準値Vbcを算出する方法を説明するための溶接電圧制限信号Vftの波形図である。同図は、第n回目のパルス周期Tf(n)の開始時刻t(n)において、この第n回目のパルス周期のためのピーク電圧基準値Vpc(n)及びベース電圧基準値Vbc(n)を算出する場合である。第n−3回目〜第n−1回目のパルス周期中のピーク電圧制限値はVpf(n-3)、Vpf(n-2)、Vpf(n-1)であり、ベース電圧制限値はVbf(n-3)、Vbf(n-2)、Vbf(n-1)である。移動平均のための所定周期を時刻t(n-3)〜t(n)の期間に予め設定すると、時刻t(n)時点でのピーク電圧基準値Vpc(n)及びベース電圧基準値Vbc(n)は下式で算出することができる。
Vpc(n)=(Vpf(n-3)+Vpf(n-2)+Vpf(n-1))/3
Vbc(n)=(Vbf(n-3)+Vbf(n-2)+Vbf(n-1))/3
【0032】
上記のように実施の形態2では、ピーク電圧基準値Vpc及びベース電圧基準値Vbcの適正値を自動的に算出することができる。これら算出された基準値を使用して、上述した実施の形態1と同様にして位置ズレ値を算出し倣い制御を行うことができる。
【0033】
図4は、実施の形態2に係る溶接装置の構成図である。同図において、上述した図2と同一の構成物、回路には同一符号を付してそれらの説明は省略する。以下、図2とは異なる点線で示す電圧変動範囲算出回路VCCについて説明する。電圧変動範囲算出回路VCCは、ピーク/ベース期間信号Spb及び溶接電圧制限信号Vftを入力として、図3で上述した方法によってピーク電圧基準値Vpc(n)及びベース電圧基準値Vbc(n)を算出し、ピーク電圧変動範囲Vpc(n)±ΔVpc及びベース電圧変動範囲Vbc(n)±ΔVbcから形成される電圧変動範囲設定信号Vcを出力する。
【0034】
【発明の効果】
請求項1記載のパルスアーク溶接の倣い制御方法によれば、種々の要因によって溶接電圧に重畳する異常電圧を除去した溶接電圧制限値、ピーク電圧制限値又はベース電圧制限値に基づいて位置ズレ値を正確に算出することができるので、高精度な倣い制御を実現することができる。
【0035】
さらに、請求項2記載のパルスアーク溶接の倣い制御方法によれば、上記の効果に加えて、異常電圧を除去するためのピーク電圧変動範囲及びベース電圧変動範囲を溶接中に自動的に算出することができるので、種々の溶接条件ごとに上記両変動範囲を事前に実験等によって求める手間が不要となり、かつ、各溶接条件に最適な値に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る溶接電圧Vwに重畳した異常電圧を除去する方法を説明するための波形図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る溶接装置の構成図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係るピーク電圧基準値Vpc(n)及びベース電圧基準値Vbc(n)を算出する方法を説明するための溶接電圧制限値Vftの波形図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る溶接装置の構成図である。
【図5】従来技術における倣い制御を行うための溶接装置の構成図である。
【図6】従来技術におけるパルスアーク溶接の溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの波形図である。
【図7】従来技術における平均溶接電圧Vaを使用した位置ズレ値Dpの算出方法を説明するための位置ズレしていないときの波形図である。
【図8】従来技術における溶接電源装置の外部特性X1とアーク負荷特性Y1、Y2との関係を示す図である。
【図9】従来技術における平均溶接電圧Vaを使用した位置ズレ値Dpの算出方法を説明するための右位置ズレしているときの波形図である。
【図10】課題を説明するための短絡直後に異常電圧が重畳した溶接電圧Vwの波形図である。
【図11】課題を説明するための長期短絡時の異常電圧が重畳した溶接電圧Vwの波形図である。
【図12】課題を説明するための陰極点の移動に伴う異常電圧が重畳した溶接電圧Vwの波形図である。
【符号の説明】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
AS 倣い制御装置
Dp 位置ズレ/位置ズレ値/位置ズレ信号
DPC 位置ズレ値算出回路
Fc 送給制御信号
Ia 平均溶接電流
Ib ベース電流
Ip ピーク電流
Iw 溶接電流
Mc 動作制御信号
Oc オシレートの中心位置
OL オシレートの左端位置
Op オシレート位置/オシレート位置信号
OR オシレートの右端位置
PS 溶接電源装置
RC ロボット制御装置
RM マニピュレータ
Spb ピーク/ベース期間信号
Svl 左半周期電圧積分値
Svr 右半周期電圧積分値
Tb ベース期間
Tf パルス周期
Tp ピーク期間
Va 平均溶接電圧
Vb ベース電圧
Vbc ベース電圧基準値
Vbc±ΔVbc ベース電圧変動範囲
Vbf ベース電圧制限値
VC 電圧変動範囲設定回路
Vc 電圧変動範囲設定信号
VCC 電圧変動範囲算出回路
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
VFT 電圧制限回路
Vft 溶接電圧制限(値/信号)
Vp ピーク電圧
Vpc ピーク電圧基準値
Vpc±ΔVpc ピーク電圧変動範囲
Vpf ピーク電圧制限値
Vw 溶接電圧
Wc 溶接線
WM ワイヤ送給モータ
Ws 溶接条件設定信号
X1 外部特性
Y1 アーク負荷特性
Y2 アーク負荷特性
Claims (1)
- ピーク期間中のピーク電圧とベース期間中のベース電圧とから形成される溶接電圧を溶接ワイヤ・母材間に印加するパルスアーク溶接を使用して、溶接トーチを溶接線に略直交する方向にオシレートさせてチップ・母材間距離の変化に伴うオシレート半周期毎の前記溶接電圧の積分値が等しくなるようにオシレートの中心位置を移動させて前記溶接トーチを前記溶接線に倣わせるパルスアーク溶接の倣い制御方法において、
前記ピーク電圧を検出しこのピーク電圧検出値をピーク電圧基準値を中心値とするピーク電圧変動範囲内に制限してピーク電圧制限値を算出すると共に前記ベース電圧を検出しこのベース電圧検出値をベース電圧基準値を中心値とするベース電圧変動範囲内に制限してベース電圧制限値を算出し、前記ピーク電圧制限値及び前記ベース電圧制限値から溶接電圧制限値を形成し、前記溶接電圧の積分値に代えて前記溶接電圧制限値の積分値を使用し、
前記ピーク電圧基準値はパルス周期の開始時刻から所定パルス周期前までの前記ピーク電圧制限値を移動平均して算出され、前記ベース電圧基準値はパルス周期の開始時刻から前記所定パルス周期前までの前記ベース電圧制限値を移動平均して算出される、
ことを特徴とするパルスアーク溶接の倣い制御方法。
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