JP4510309B2 - 燃料噴射弁体およびそのガス窒化処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料噴射弁体およびこれをガス窒化処理するガス窒化処理方法に関し、特に、ガス窒化処理した際に生成される燃料噴射弁体表面の白層を有効利用する対策に係わる。
【0002】
【従来の技術】
一般に、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)およびV(バナジウム)などの窒化物形成元素を多量に含むガス窒化(アンモニア純窒化)処理材は、ガス窒化処理工程においてその処理材表面に生成される白層が脆く剥離する危険性が高いため、研削などにより除去して使用されている。
【0003】
特に、燃料噴射弁体などのガス窒化処理材にあっては、ガス窒化処理工程の後に白層を熱化学的に分解除去する熱化学的分解除去工程を追加することが行われている。
【0004】
また、燃料噴射弁体などのガス窒化処理材では、白層を生じさせない特殊ガス窒化処理を施す特殊窒化法も採択されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、近年より、ディーゼルエンジンの高出力化に伴う噴口付近の温度の高温化、燃料の粗悪化傾向に伴う低温腐食の増大、排ガス規制への対応などにより、燃料噴射弁体の耐久性の向上が要求されている。その場合、上述の如き従来の窒化処理工法では、以下に示すような課題が存在している。
【0006】
つまり、白層の熱化学的分解除去では、分解窒素を外部へ放出する脱窒現象を伴うため、表層部の窒素濃度が低下する。そのため、表面硬さが低下するとともに、表面残留応力の引張応力化によって、マイクロクラックを伴い、疲労強度の低下、噴口損傷(耐エロージョン性)の増大、および低温腐食の増大を招き、耐久性並びに耐圧性が阻害されることになる。
【0007】
また、白層を生じさせない特殊窒化法では、窒化層の窒索濃度を高めることができず、耐久性の向上が期待できない。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、表層部の窒素濃度を確保し、表面硬さおよび疲労強度の向上、並びに耐久性および耐圧性を向上し得るように白層を丈夫で有効利用可能な形態にすることができる燃料噴射弁体およびそのガス窒化処理方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係わる発明が講じた解決手段は、Crを5〜6重量%、Moを1.0〜1.3重量%、Vを0.1重量%以上それぞれ含有した鋼よりなる燃料噴射弁体をガス窒化処理するガス窒化処理方法として、前記燃料噴射弁体の窒化を行う第1工程を、処理温度を525〜535°Cに設定するとともに、残留アンモニア濃度を35〜45%に設定し、且つ、そのときの処理時間を2〜4時間に設定し、次いで、前記第1工程完了後に前記燃料噴射弁体の窒素の拡散を行う第2工程を、処理温度を555〜565°Cに設定するとともに、残留アンモニア濃度を15〜25%に設定し、且つ、そのときの処理時間を14〜16時間に設定している。
【0010】
この特定事項により、高窒化硬さを得る上で、窒化物形成元素(Cr、Mo、Vなど)を総量で6重量%以上含有する高合金鋼が必要となるため、窒化性を考慮してCrを5〜6重量%含有する鋼を選定し、耐低温腐食性の面から耐硫酸性向上元素であるMoを1.0〜1.3重量%必要であると考え、これに窒化促進元素であるVを0.1重量%添加して、ガス窒化処理するようにしている。
【0011】
このとき、白層性状の改善に必要なファクタである第1工程での処理温度は、窒化処理温度に対する表面粗さの関係に基づいてカーボンフラワーの付着軽減に有効な525〜535°Cに設定されている。そして、白層中のボイド欠陥を解消する上で、残留アンモニア濃度を窒化処理温度との関係に基づいて35〜45%に大幅に低濃度化させ、処理時間も2〜4時間の短時間で行うようにしている。これにより、燃料噴射弁体の表面に生成される白層は、ボイド欠陥の発生のない比較的靭性に富むFe3N主体(Fe4N20%以下)の丈夫で緻密な層にすることが可能となり、従来法の欠点である分解窒素を外部へ放出する脱窒現象の解消によって表層部の窒素濃度の向上、表面残留応力の圧縮化によるマイクロクラックの防止によって疲労強度の向上、噴口損傷(耐エロージョン性)の向上、並びに低温腐食の低減によって耐久性および耐圧性の向上を図り得る燃料噴射弁体を提供することが可能となる。しかも、白層が緻密な層となることから、耐硫酸性能の向上を図り得る燃料噴射弁体を提供することも可能となる。さらに、ガス窒化処理工程の後に白層を分解除去するための熱化学的分解除去工程が不要となり、燃料噴射弁体のガス窒化処理方法の簡単化および処理時間の短縮化を図ることが可能となる。
【0012】
更に、前記請求項1は、第1工程完了後に、これに次いで、前記燃料噴射弁体の窒素の拡散を行う第2工程を、処理温度を555〜565°Cに設定するとともに、残留アンモニア濃度を15〜25%に設定し、且つ、そのときの処理時間を14〜16時間に設定している。これにより、ボイド欠陥の存在しないFe3 N主体(Fe4 N20%以下)の丈夫で緻密な表面窒化物層(白層)とともに、その窒化拡散層のビッカース硬さが十分に確保し得る高窒化硬さとなるように燃料噴射弁体の表面層に形成することが可能となる。
【0013】
そして、請求項2に記載したように、前記請求項1に記載の燃料噴射弁体のガス窒化処理方法を用いて処理した燃料噴射弁体は、その表面にボイド欠陥の発生がなく比較的靭性に富むFe3 N主体の丈夫で緻密な白層が生成され、従来法の欠点である脱窒現象の解消により表層部の窒素濃度の向上、マイクロクラックの防止による疲労強度の向上、耐エロージョン性の向上、低温腐食の低減による耐久性および耐圧性の向上を図ることが可能となる。しかも、第1工程完了後に第2工程で拡散を行うことで、燃料噴射弁体の窒化拡散層を十分なビッカース硬さに確保し得るような高窒化硬さを備えた機能上必要とする窒化拡散層深さにすることが可能となる。
【0014】
次に、請求項3に係わる発明が講じた解決手段は、Crを4.5〜5.5重量%、Moを0.4〜0.6重量%それぞれ含有した鋼よりなる燃料噴射弁体をガス窒化処理するガス窒化処理方法として、前記燃料噴射弁体の窒化を行う第1工程での処理温度を515〜525°Cに設定するとともに、残留アンモニア濃度を65〜70%に設定し、且つ、そのときの処理時間を5〜7時間に設定し、次いで、前記第1工程完了後に前記燃料噴射弁体の窒素の拡散を行う第2工程を、処理温度を540°Cに設定している。
【0015】
この特定事項により、靭性に富むFe4N主体の白層を得る上で、窒化物形成元素(Cr、Moなど)の含有量を総量で5〜6重量%に低減する必要があるので、高窒化硬さを確保するためには窒化硬さの低下を考慮して少なくとも550°Cの耐熱性を有する鋼が必要であり、このことから、Crを4.5〜5.5重量%含有する鋼を選定し、耐低温腐食性の面から耐硫酸性向上元素であるMoを0.4〜0.6重量%添加して、ガス窒化処理するようにしている。
【0016】
このとき、白層性状の改善に必要なファクタである第1工程での処理温度は515〜525°Cに設定され、残留アンモニア濃度を65〜70%に高濃度化したままで、処時間も5〜7時間で行うようにしている。そして、第2工程での処理温度を540°Cに設定して窒素の拡散を行っている。これにより、燃料噴射弁体の表面に生成される白層は、第1工程において生成されたFe3N(Fe4N20%以上)主体のものから、第2工程において靭性のあるFe4N(Fe3N20%以下)主体の頑丈な層に転換されることになり、転換後は十分な窒化拡散層硬さと拡散層深さとを保有するものとなる。このため、ガス窒化処理後に、放電、レーザ等により噴口加工が行われても、この噴口加工時の熱衝撃に白層が十分に絶えられ、噴口コーナー部を起点とした欠けやヘアラックの発生が防止され、ガス窒化処理後の噴口加工を円滑に行うことが可能となる。しかも、噴口加工前に白層を熱化学的に分解除去する熱化学的分解除去が不要となり、燃料噴射弁体のガス窒化処理方法の簡単化および処理時間の短縮化を図ることが可能となる。
【0017】
そして、請求項4に記載したように、前記請求項3に記載の燃料噴射弁体のガス窒化処理方法を用いて処理した燃料噴射弁体では、その表面に靭性に富むFe4 N主体の頑丈な白層が生成される。このため、ガス窒化処理後に、放電、レーザ等により噴口加工を行っても、この噴口加工時の熱衝撃に白層が十分に絶えて、噴口コーナー部を起点とした欠けやヘアラックの発生を防止し、燃料の噴霧性状を円滑に保持することが可能となる。しかも、第1工程完了後の第2工程での処理温度を540°Cに設定して拡散を行うことで、燃料噴射弁体の窒化拡散層の硬さを十分なビッカース硬さとなるような硬度(高窒化硬さ)と深さにすることが可能となる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
<第1の実施の形態>
図1は本発明の第1の実施形態に係わる燃料噴射弁体のガス窒化処理方法を用いて処理される燃料噴射弁体を示している。
【0020】
図1において、燃料噴射弁体1は、図示しない芯弁が軸線方向へ往復動自在に挿通される挿通穴(芯弁穴)11を備え、この挿通穴11の底部(図1では下端部)に芯弁を着座させる弁シート部12が設けられている。この弁シート部12よりも上側(図1では上部側)には、挿通穴11内に燃料を供給する燃料供給孔13が設けられている。また、弁シート部12よりも底部側(図1では下部側)には、芯弁の非着座時に燃料供給孔13から供給された燃料を噴射する噴口14,…が設けられている。この燃料供給孔13は、芯弁が往復動する挿通穴11の軸線方向に対し若干の傾斜角度を存して斜め方向から鋭角(たとえば10°未満)に挿通穴11に連通するようになっている。この場合、挿通穴11に対し燃料供給孔13が連通する付近の肉厚(図1に○で囲む)は、この両者(挿通穴11および燃料供給孔13)が鋭角に交わるものであるが故に、燃料噴射弁体1の高圧部中最小の厚さの薄肉部がAに形成されている。
【0021】
ここで、燃料噴射弁体1のガス窒化処理(アンモニア純窒化)方法の一例を図2に基づいて説明する。
【0022】
燃料噴射弁体1としては、高窒化硬さ(ビッカース硬さ950HV以上)を得る上で、窒化物形成元素としてのCr(クロム)、Mo(モリブデン)、V(バナジウム)等を総量として6重量%以上含有する高合金鋼を適用している。
【0023】
まず、窒化物形成元素Cr、Mo、Vのそれぞれの分量(重量%)について説明する。
【0024】
Crの含有量は、窒化性の面から4.5重量%以上を必要とするが、ビッカース硬さ950HV以上を得るためには5重量%以上が必要となる。しかし、6.0重量%を超えると、材質が脆化するため、5〜6重量%の範囲としている。
【0025】
Moの含有量は、Mo自体が耐硫酸性向上元素であることから、図3および図4に示すように、耐低温腐食性の面から1.0重量%以上が必要で、1.3重量%を超えると、材質が脆くなって好ましくないため、1.0〜1.3重量%の範囲としている。
【0026】
Vの含有量は、V自体が窒化促進元素であることから、短時間窒化(18時間)する上で、0.1重量%以上の添加が必要である。
【0027】
次に、上述の如く、Crを5〜6重量%、Moを1.0〜1.3重量%、Vを0.1重量%以上それぞれ含有した高合金鋼(燃料噴射弁体1)をガス窒化処理するガス窒化処理方法について説明する。
【0028】
まず、図2に示すように、燃料噴射弁体1の窒化を行う第1工程での処理温度を525〜535°Cに設定している。これは、図5に示すように、処理温度が535°Cを超えると、表面粗さが増加し、カーボンフラワーの剥離性および噴口14内での燃料のスムーズな流れを阻害するからであり、一方、処理温度が525°C未満では、短時間処理(2〜4時間)を行った場合に窒化硬さが低下するからである。
【0029】
さらに、第1工程での残留アンモニア濃度(NH3濃度)を35〜45%に設定している。これは、図6に示すように、残留アンモニア濃度が45%を超えると、窒素の濃縮によりボイド欠陥が白層に生成されるからであり、一方、残留アンモニア濃度が35%未満では、十分な厚さの白層が得られず、又薄肉部A(挿通穴11と燃料供給孔13との交差部)、弁シート部12や噴口14付近に要求される窒化硬さ(ビッカース硬さ950HV以上)も得られないからである。
【0030】
そして、第1工程での処理時間を2〜4時間に設定している。これは、処理時間が4時間を超えると、噴口14付近に適合するような比較的靭性に富んだFe3N主体(Fe4N20%以下)の丈夫で緻密な表面窒化物層(白層)を得ることができないからであり、一方、処理時間が2時間未満では、白層の生成が不完全なものとなり、噴口14の耐エロージョン性および耐硫酸性が阻害されるからである。
【0031】
次いで、第1工程完了後に第2工程において燃料噴射弁体1の拡散を行う。
【0032】
この第2工程では、処理温度を555〜565°Cに設定するとともに、残留アンモニア濃度を15〜25重量%に設定し、そのときの処理時間を14〜16時間に設定している。
【0033】
このように、白層性状の改善に必要なファクタである第1工程での処理温度を、窒化処理温度に対する表面粗さの関係に基づいてカーボンフラワーの付着軽減と健全な白層形成に有効な525〜535°Cに設定し、そして、白層中のボイド欠陥を解消する上で、残留アンモニア濃度を窒化処理温度との関係に基づいて35〜45重量%に大幅に低濃度化させ、処理時間も2〜4時間の短時間で行うことによりFe3N主体(Fe4N20%以下)の健全な白層を得、第2工程で処理温度を555〜565°Cと高め、残留アンモニア濃度を15〜25重量%に設定し、14〜16時間かけて窒素の拡散処理を行うことにより、図7に示すように、燃料噴射弁体1に表面窒化物層(白層)と、その表面から約0.07mmの深さまでの間でのビッカース硬さが950HV以上となる窒化拡散層とが形成されることになる。
【0034】
このような燃料噴射弁体1のガス窒化処理により、分解窒素を外部へ放出する脱窒現象を防止して表層部の窒素濃度を向上させることができ、表面残留応力の圧縮化によるマイクロクラックの防止と、表面硬さの向上とによって疲労強度を向上させることができ、又白層利用により噴口損傷(耐エロージョン性)を向上させることができ、さらに低温腐食を低減させて、耐久性および耐圧性の向上を図ることができる。特に、上記白層を利用することにより噴口14内での耐エロージョン性(損傷限界深さ0.01mm)が向上し、図8に示すように、従来品(ガス窒化処理工程の後に熱化学的分解除去工程を追加するもの)に比して、噴口14付近の耐久寿命が約1.35倍向上させることができる。
【0035】
しかも、白層が緻密な層となることから、図9に示すように、耐硫酸性能および耐低温腐食性を、従来品に比して、約2倍向上させることができる。
【0036】
さらに、ガス窒化処理工程(第2工程)の後に、白層を分解除去するための熱化学的分解除去工程が不要となり、燃料噴射弁体1のガス窒化処理方法の簡単化および処理時間の短縮化を図ることができる。
【0037】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施形態を図10に基づいて説明する。
【0038】
本実施形態では、噴口14の加工をガス窒化処理後に行うようにしている。
【0039】
燃料噴射弁体1としては、高窒化硬さ(ビッカース硬さ950HV以上)を得る上で、窒化物形成元素としてのCr(クロム)、Mo(モリブデン)等を総量で5〜6重量%含有する高合金鋼を適用している。
【0040】
まず、Crの含有量は、窒化性の面から4.5重量%以上を必要とするが、6.0重量%を超えると材質が脆化するため、4.5〜5.5重量%の範囲としている。
【0041】
Moの含有量は、燃料噴射弁体1のガス窒化処理後に噴口14加工が施される関係上、図11に示すように、ガス窒化処理に伴う脆化低減効果が十分に発揮される0.4〜0.6重量%の範囲としている。これは、この範囲を超えると、脆化低減効果が減少するからである。
【0042】
次に、上述の如く、Crを4.5〜5.5重量%、Moを0.4〜0.6重量%以上それぞれ含有した高合金鋼(燃料噴射弁体1)をガス窒化処理するガス窒化処理方法について説明する。
【0043】
まず、図12に示すように、燃料噴射弁体1の窒化を行う第1工程での処理温度を、ビッカース硬さ950HV以上の高窒化硬さを得、かつボイド欠陥のない健全なFe3N主体(Fe4Nは20%以上)の白層を6〜7時間で得る上で、515〜525°Cの範囲に設定している。これは、処理温度が525°Cを超えると、ボイド欠陥の発生が解消されるものの、高窒化硬さが得られないからであり、一方、処理温度が515°C未満では、ボイド欠陥が発生するからである。
【0044】
更に、第1工程での残留アンモニア濃度を、ビッカース硬さ950HV以上の高窒化硬さを得る上で、65〜70%に設定している。
【0045】
そして、第1工程での処理時間を6〜7時間に設定している。
【0046】
次いで、第1工程完了後に第2工程において燃料噴射弁体1の拡散を行う。
【0047】
この第2工程では、白層形態をFe3N主体からFe4N主体に転換する上で、窒素の拡散を高める必要があるため、処理温度を540°Cに設定している。これは、処理温度が540度を大きく超えると、Fe4N主体の白層が得られても高窒化硬さが得られないからであり、一方、540°Cを大きく下回ると、Fe4N主体の白層への転換が不可能となるからである。
【0048】
また、第2工程では、残留アンモニア濃度を15〜25重量%に設定し、そのときの処理時間を11〜13時間に設定している。
【0049】
このように、靭性に富むFe4N(Fe3N20%以下)の白層を得る上で、窒化物形成元素(Cr、Moなど)の含有量を総量で5〜6重量%に低減する必要があるので、高窒化硬さを確保するためには、窒化硬さの低下を考慮して少なくとも550°Cの耐熱性を有する鋼が必要であり、このことから、Crを4.5〜5.5重量%含有する高合金鋼を選定し、耐低温腐食性の面から耐硫酸性向上元素であるMoを0.4〜0.6重量%添加して、第1工程での燃料噴射弁体1の窒化を行った後、第2工程において、燃料噴射弁体1の白層形態を、処理温度を540°Cに設定して窒素の拡散を高めることで、Fe3N主体からFe4N主体となるように転換させている。
【0050】
このような燃料噴射弁体1のガス窒化処理により、燃料噴射弁体1の表面に生成される白層は、第1工程において生成されたFe3N(Fe4N20%以上)主体のものから、第2工程において靭性のあるFe4N(Fe3N20%以下)主体の靭性に富む層に転換され、この転換後においては、図13に示すように、燃料噴射弁体1の表面窒化物層(白層)の硬さ並びにその窒化拡散層のビッカース硬さが表面から約0.1mmの深さまでの間で950HV以上となるような高窒化硬さにすることができる。このため、ガス窒化処理後に、放電、レーザ等により噴口加工が行われても、この噴口14加工時の熱衝撃に白層が十分に絶えられ、噴口14コーナー部を起点とした欠けやヘアラックの発生が防止され、ガス窒化処理後の噴口加工を円滑に行うことができることになる。
【0051】
しかも、噴口14加工前に白層を熱化学的に分解除去する熱化学的分解除去が不要となり、燃料噴射弁体1のガス窒化処理方法の簡単化および処理時間の短縮化を図ることができる。
【0052】
【発明の効果】
以上のように、本発明の請求項1における燃料噴射弁体のガス窒化処理方法によれば、Crを5〜6重量%、Moを1.0〜1.3重量%、Vを0.1重量%以上それぞれ含有した鋼よりなる燃料噴射弁体を、第1工程において525〜535°Cの処理温度で、35〜45%の残留アンモニア濃度で、2〜4時間の処理時間で、ガス窒化処理することで、燃料噴射弁体の白層を、ボイド欠陥のない比較的靭性に富んだFe3N主体の丈夫で緻密な層にすることができ、脱窒現象の防止による表層部の窒素濃度の向上(硬さ向上)、マイクロクラックの防止、表面残留応力の圧縮化による疲労強度の向上、白層利用による噴口内の耐エロージョン性の向上、並びに低温腐食の低減によって耐久性および耐圧性の向上を図り得る燃料噴射弁体を提供することができる。しかも、緻密な白層によって、耐硫酸性能の向上を図り得る燃料噴射弁体を提供することもできる。さらに、ガス窒化処理工程後の熱化学的分解除去工程を不要とし、燃料噴射弁体のガス窒化処理方法の簡単化および処理時間の短縮化を図ることができる。
【0053】
これに加えて、本発明の請求項1における燃料噴射弁体のガス窒化処理方法によれば、前記第1工程完了後の第2工程において、555〜565°Cの処理温度で、15〜25%の残留アンモニア濃度で、14〜16時間の処理時間で、前記燃料噴射弁体の窒素の拡散を行うことで、ボイド欠陥の存在しないFe3 N主体の丈夫で緻密な白層とともに窒化拡散層のビッカース硬さを十分に確保し得る高窒化硬さとなるように燃料噴射弁体の表面層に形成することができる。
【0054】
そして、本発明の請求項2によると、前記請求項1に記載の燃料噴射弁体のガス窒化処理方法を用いて、前記成分を有する鋼による燃料噴射弁体を処理することで、燃料噴射弁体の表面にボイド欠陥の発生のない比較的靭性に富むFe3 N主体の丈夫で緻密な白層が生成し、表層部の窒素濃度の向上、疲労強度の向上、耐エロージョン性の向上、低温腐食の低減による耐久性および耐圧性の向上、並びに耐硫酸性能の向上を図ることができる。しかも、第1工程完了後に第2工程で拡散を行うことで、燃料噴射弁体の窒化拡散層を十分なビッカース硬さに確保し得るような高窒化硬さにすることができる
。
【0055】
次に、本発明の請求項3における燃料噴射弁体のガス窒化処理方法によれば、Crを4.5〜5.5重量%、Moを0.4〜0.6重量%それぞれ含有した鋼よりなる燃料噴射弁体を、第1工程において515〜525°Cの処理温度で、65〜70%の残留アンモニア濃度で、5〜7時間の処理時間で窒化し、次いで、この第1工程完了後における第2工程で、前記燃料噴射弁体を、540°Cの処理温度で窒素の拡散を行うことで、第1工程で生成したFe3 N主体の燃料噴射弁体の白層を、第2工程で靭性のあるFe4 N主体の頑丈な層に転換しているため、ガス窒化処理後の放電、レーザ等による噴口加工時の熱衝撃に十分に絶えることができ、噴口コーナー部を起点とした欠けやヘアラックの発生を防止してガス窒化処理後の噴口加工を円滑に行うことができる。しかも、噴口加工前の熱化学的分解除去を不要とし、燃料噴射弁体のガス窒化処理方法の簡単化および処理時間の短縮化を図ることができる。
【0056】
そして、本発明の請求項4によると、前記請求項3における燃料噴射弁体のガス窒化処理方法を用いて燃料噴射弁体を処理することで、前記成分を有する鋼による燃料噴射弁体の表面に靭性に富むFe4 N主体の頑丈な白層を生成し、ガス窒化処理後の放電、レーザ等による噴口加工時の熱衝撃に十分に絶えることができ、噴口コーナー部を起点とした欠けやヘアラックの発生を防止して燃料の噴霧性状を円滑に保持することができる。しかも、第1工程完了後の第2工程での処理温度を540°Cに設定して拡散を行うことで、燃料噴射弁体の窒化拡散層の硬さを十分なビッカース硬さとなるような高窒化硬さにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる燃料噴射弁体のガス窒化処理方法により処理される燃料噴射弁体の断面図である。
【図2】同じく燃料噴射弁体のガス窒化処理方法の第1および第2工程での条件を説明する説明図である。
【図3】同じくモリブデン添加量に対する脆化度の特性を示す特性図である。
【図4】同じくモリブデン添加量に対する腐食速度比の特性を示す特性図である。
【図5】同じく窒化処理温度に対する表面粗さの特性を示す特性図である。
【図6】同じく残留アンモニア濃度に対する処理温度の特性を示す特性図である。
【図7】同じく白層表面からの距離に対するビッカース硬さの特性を示す特性図である。
【図8】同じく従来品、本発明品および浸炭品の耐久寿命比を比較する比較図である。
【図9】同じく従来品、本発明品および浸炭品の腐食速度比を比較する比較図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係わる燃料噴射弁体のガス窒化処理方法の第1および第2工程での条件を説明する説明図である。
【図11】同じくモリブデン添加量に対する脆化度の特性を示す特性図である。
【図12】同じく残留アンモニア濃度に対する窒化温度の特性を示す特性図である。
【図13】同じく白層表面からの距離に対するビッカース硬さの特性を示す特性図である。
【符号の説明】
1 燃料噴射弁体
Claims (4)
- Crを5〜6重量%、Moを1.0〜1.3重量%、Vを0.1重量%以上それぞれ含有した鋼よりなる燃料噴射弁体をガス窒化処理するガス窒化処理方法において、
前記燃料噴射弁体の窒化を行う第1工程を、処理温度を525〜535°Cに設定するとともに、残留アンモニア濃度を35〜45%に設定し、且つ、そのときの処理時間を2〜4時間に設定し、
次いで、前記第1工程完了後に前記燃料噴射弁体の窒素の拡散を行う第2工程を、処理温度を555〜565°Cに設定するとともに、残留アンモニア濃度を15〜25%に設定し、且つ、そのときの処理時間を14〜16時間に設定していることを特徴とする燃料噴射弁体のガス窒化処理方法。 - 前記請求項1に記載の燃料噴射弁体のガス窒化処理方法を用いて処理されることを特徴とする燃料噴射弁体。
- Crを4.5〜5.5重量%、Moを0.4〜0.6重量%それぞれ含有した鋼よりなる燃料噴射弁体をガス窒化処理するガス窒化処理方法において、
前記燃料噴射弁体の窒化を行う第1工程を、処理温度を515〜525°Cに設定するとともに、残留アンモニア濃度を65〜70%に設定し、且つ、そのときの処理時間を5〜7時間に設定し、
次いで、前記第1工程完了後に前記燃料噴射弁体の窒素の拡散を行う第2工程を、処理温度を540°Cに設定していることを特徴とする燃料噴射弁体のガス窒化処理方法。 - 前記請求項3に記載の燃料噴射弁体のガス窒化処理方法を用いて処理されることを特徴とする燃料噴射弁体。
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