JP4510259B2 - 記録装置及び温度推定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は記録装置及び温度推定方法に関し、特に、インクジェット記録ヘッドを搭載した記録装置及びそのインクジェット記録ヘッドの温度推定を行う温度推定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、オフィスや家庭におけるパーソナルコンピュータやワードプロセッサ、ファクシミリ等の普及により、これらの機器の情報出力機器として様々な記録方式のプリンタが開発されている。その中でもインクジェット方式は、カラー対応が容易で、動作時の騒音が低く、また多種多様の記録媒体に対して高品位のプリントが可能であり、さらに小型である等の利点があるために、オフィスや家庭でのパーソナル・ユースにも最適である。
【0003】
さて、記録媒体に付着したインク滴はその記録媒体上で広がりドットを形成する。そのドットの集合体により画像が形成される。ひとつのドットの面積はインク滴の大きさ、すなわちインク吐出量に大きく依存する。そのため、インクジェット方式において高画質な画像を記録するには、インク吐出量を制御することが最も重要となる。
【0004】
インク吐出量はインクの温度ないしはインクジェット記録ヘッドの温度との相関が強く、温度の増加に伴って吐出量も増加する。このため、記録ヘッドないしはインク温度を管理することが高品質な画像を記録する上で重要な技術課題となっている。
【0005】
熱エネルギーをインク液滴の吐出エネルギーとして利用する方式を採用したインクジェット記録ヘッドの温度を取得する手段としては、その記録ヘッドに温度センサを設けることが一般的である。このような場合、検出した温度に対応する電気信号を増幅ないし変調する手段やノイズ対策手段の付加等によって記録ヘッドの価格が上昇したり、実際に測定を行いたい記録ヘッドの構成要素(例えば、発熱素子など)と温度センサの配設位置との距離に起因した温度勾配による影響が問題となる。
【0006】
そこで、本出願人は、プリンタ装置もしくはインクジェット記録ヘッドの周辺の温度をセンサ等で取得する手段と、インクジェット記録ヘッドに単位時間当たりに投入される熱量からインクジェット記録ヘッドの昇温を推定する手段とによりインクジェット記録ヘッドの温度を取得する方式を、特開平5−208505号公報および特開平7−125216号公報において提案している。
【0007】
一方、最近のインクジェット記録ヘッドには、複数のヒータボードを1つのベースプレート上に貼り合せて、ノズル数の増加と記録ヘッドの小型化の両立を図ったものがある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上記のような1つのベースプレートに複数のヒータボードを設けたインクジェット記録ヘッドでは、単位時間当たりに投入される熱量からインクジェット記録ヘッドの昇温を推定してその温度を取得するという方式が未だに採用されておらず、また、上述の公報などで提案されている1つのベースプレートに単一のヒータボードを設けた構成の記録ヘッドにおいて用いられる温度取得方法をそのまま適用することはできない。
【0009】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、共通のベース基板に複数の回路基板を設けた構成の記録ヘッドにおいて高精度に温度推定を行い、この温度推定に基づいて適切な記録制御を行うことができる記録装置、及び温度推定方法を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明の記録装置は以下のような構成からなる。
【0011】
即ち、熱エネルギーによりインクを吐出するための記録素子を夫々に備える第1及び第2の回路基板を共通のベース基板に備えた記録ヘッドを用いて記録を行う記録装置であって、駆動パルスを印加することにより前記第1及び第2の回路基板夫々に備えられた記録素子を駆動する駆動手段と、前記第1及び第2の回路基板夫々に印加される駆動パルスの数を計数する計数手段と、前記計数手段による計数結果に基づいて、前記共通ベース基板の温度変化、前記第1の回路基板と前記共通ベース基板との温度変化の差分、及び前記第2の回路基板と前記共通ベース基板との温度変化の差分を推定し、当該推定結果に基づいて、前記第1及び第2の回路基板夫々の温度変化を推定する推定手段とを有することを特徴とする記録装置を備える。
【0012】
さらに、前記推定手段によって推定された温度変化に基づいて、前記駆動パルスを変調して前記記録素子を駆動する変調駆動手段を備えることが望ましい。
ここで、前記推定手段による温度変化の推定は所定時間間隔毎に行うことが望ましい。
【0016】
また、別の実施態様として、前記計数手段は、(1)第1の時間間隔で前記第1の回路基板に印加された駆動パルスの数を計数し、(2)第1の時間間隔よりも長い第2の時間間隔で第1の回路基板に印加された駆動パルスの数を計数し、(3)第1の時間間隔で第2の回路基板に印加された駆動パルスの数を計数し、(4)第2の時間間隔で第2の回路基板に印加された駆動パルスの数を計数して、温度推定を行なうこともできる。
【0019】
さて、前記変調駆動手段は、推定された第1及び第2の回路基板の温度変化夫々に基づいて、ダブルパルス制御により第1及び第2の回路基板の記録素子を駆動することが望ましい。
【0022】
さらに、前記記録ヘッドの周囲温度を検出し、その検出される周囲温度に基づいて、記録素子の駆動を制御することが好ましい。
【0023】
またさらに、前記第1及び第2の回路基板の温度を一定温度範囲に維持するための保温用ヒータと、検出される記録ヘッドの周囲温度に基づいて、前記保温用ヒータを駆動する手段とを備えても良い。
【0024】
従って、前記推定手段では、保温用ヒータの駆動によって発生する熱量を考慮して、温度変化の推定を行うことが望ましい。
【0025】
また他の発明に従えば、熱エネルギーによりインクを吐出するための記録素子を夫々に備える第1及び第2の回路基板を共通のベース基板に備えた記録ヘッドの温度を推定する温度推定方法であって、駆動パルスを印加することにより前記第1及び第2の回路基板夫々に備えられた複数の記録素子を駆動する駆動工程と、前記第1及び第2の回路基板夫々に印加される駆動パルスの数を計数する計数工程と、前記計数工程における計数結果に基づいて、前記共通ベース基板の温度変化と、前記第1の回路基板と前記共通ベース基板との温度変化の差分と、前記第2の回路基板と前記共通ベース基板との温度変化の差分とを推定する第1の推定工程と、前記第1の推定工程における推定結果に基づいて、前記第1及び第2の回路基板夫々の温度変化を推定する第2の推定工程とを有することを特徴とする温度推定方法を備える。
【0027】
【発明の実施の形態】
本明細書において、「プリント」(以下においては「記録」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚しうるように顕在化したものであるか否かを問わず、記録媒体上に液体を付与することによって広く画像、模様、パターン等を形成する、またはその記録媒体の加工を行う場合も言うものとする。
【0028】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられている紙のみならず、広く布、プラスチックフィルム,金属板等、記録ヘッドから吐出されるインクを受容可能なものも言うものとする。
【0029】
さらに、「インク」とは、上記「プリント」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって画像、模様、パターン等の形成、または記録媒体の加工に供されうる液体を言うものとする。
【0030】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。
【0031】
図1は本発明の代表的な実施形態である交換可能なインクカートリッジを用いるインクジェットプリンタの機械的構成を示す図である。図1では、プリンタのフロントカバーを取り外して、装置構成が見えるようにした状態を示している。
【0032】
図1において、1は交換式のインクカートリッジで、インクカートリッジ1はインクを収容する交換可能なインクタンクと記録ヘッドとを備えている。2はキャリッジユニットで、インクカートリッジ1を装着して左右方向に移動して記録を行う。3はインクカートリッジ1を固定するためのホルダであり、カートリッジ固定レバー4に連動して作動する。即ち、インクカートリッジ1がキャリッジユニット2に装着された後、カートリッジ固定レバー4を回転することでインクカートリッジ1をキャリッジユニット2に圧着するように構成されている。これによりインクカートリッジ1の位置決めと、インクカートリッジ1とキャリッジユニット2との間の電気的なコンタクトを得ることができる。5は電気信号をキャリッジユニット2に伝えるためのフレキシブルケーブルである。6はキャリッジモータで、その回転によりキャリッジユニット2を主走査方向に往復動作させる。7はキャリッジベルトで、キャリッジモータ6によって移動するように駆動され、キャリッジユニット2を左右方向に移動させる。8はキャリッジユニット2を摺動可能に支持するためのガイドシャフトである。9はキャリッジユニット2のホームポジションを決めるためのフォトカプラを備えるホームポジションセンサである。10はホームポジションを検出するために用いられる遮光板で、キャリッジユニット2がホームポジションに到達すると、キャリッジユニット2に設けられたフォトカプラへの光が遮光される。これにより、キャリッジユニット2がホームポジションに到達したことが検知される。12は、インクカートリッジ1に含まれる記録ヘッドの回復機構等を含むホームポジションユニットである。13は記録媒体を排紙するための排紙ローラで、拍車ユニット(不図示)とで記録媒体を挟み込み、その記録媒体を記録装置外へ排出させる。14はLFユニットで、記録媒体を決められた量だけ副走査方向へ搬送する。
【0033】
図2は、インクカートリッジ1の詳細図である。
【0034】
図2において、15はBk(ブラック)インクを貯溜する交換可能なインクタンク、16はC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロ)の各色剤のインクを貯溜する交換可能なインクタンクである。17はインクカートリッジ1と連結してインクを供給する部分となるインクタンク16のインク供給口、18は同様にインクタンク15のインク供給口である。インク供給口17、18は、供給管20に連結されて記録ヘッド21にインクを供給するように構成されている。19は前述のフレキシブルケーブル5と接続され、記録データに基づく信号を記録ヘッド21に伝える様に構成されている電気コンタクトである。
【0035】
また、図2において、記録ヘッド21の前面に図示されている4つの線は各々、インクを吐出するインク吐出ノズルのノズル列であり、各ノズル列から、Bk(ブラック)インク、C(シアン)インク、M(マゼンタ)インク、Y(イエロ)インクが吐出される。
【0036】
図3は記録ヘッド21で使用するヒータボードの概略構成例を示す模式図である。
【0037】
まず、図3において、4000はベースプレートであり、ヒータボードを貼り付ける基板の役割とヒータボードの排熱機能部材(ヒートシンク)としての役割を担っている。通常、このベースプレートは、アルミニウムもしくはセラミックで形成されている。
【0038】
4001、4002はヒータボードであり、概略同一の構成をとり、通常、シリコンウェハチップである。また、この実施形態では4001をヒータボードA、4002をヒータボードBという。4003〜4006は夫々、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロインクの吐出用ヒータ群である。4010、4011は夫々ヒータボードを所定温度にまで加熱・保温するためのヒータ(以下、サブヒータという)であり、ヒータボードAの長手方向の両端部に設けられている。4012、4013もヒータボードBに設けられたサブヒータである。
【0039】
4014、4015は各ヒータボードのヒータの抵抗特性を検出してその特性ないしランクに適した駆動を行うために用いられるヒータ(以下、ランクヒータという)である。
【0040】
以上のような吐出用ヒータ群4003、4004、サブヒータ4010、4011、及び、ランクヒータ4014は、同一の半導体成膜プロセスで形成され、また、吐出用ヒータ群4005、4006、サブヒータ4012、4013、及び、ランクヒータ4015は、同一の半導体成膜プロセスで形成されている。従って、ヒータボードAとヒータボードBは同じ工程の半導体成膜プロセスで形成ではあるが、同時に行われたものとは限らず、ヒータの抵抗特性が異なる可能性もある。
【0041】
これら吐出用ヒータ群4003〜4006は図2に示す4つのノズル列に対応して配置される。
【0042】
また、4007a〜4007dはヒータドライバ回路であり、夫々各ノズル列に対応した吐出用ヒータ群の列に沿っての両側に配置される。4008a〜4008dは吐出用ヒータ群を制御する際に用いるシフトレジスタ回路であり、夫々各ノズル列に対応した吐出用ヒータ群の列方向の両端に配置される。
【0043】
これらヒータドライバ回路4007a〜4007d、シフトレジスタ回路4008a〜4008dも半導体製造プロセスで形成されている。4009はキャリジユニット2側の電気接点部とのコンタクトをなす電気接点部を含む配線基板とヒータボード上の配線とをボンディングワイヤ等で結線するための端子群でありヒータボードA、Bの各両端に配置する。
【0044】
図4は記録ヘッド21の概略構成を示す模式的側断面図である。
【0045】
図4において、5102、5104、5106、及び5108は吐出用のインクを受容する共通液室で、ヒータボード4001、4002を半導体プロセスで形成された面の裏面を異方性エッチングで形成したものでり、各吐出用ヒータ群4003、4004、4005、及び4006に対応した液路群のそれぞれに連通し、かつ異なる色のインクの混合が生じないよう分離或いは区画されている。5003、5005は吐出用ヒータ群4003の構成要素であり、吐出口5004、吐出口5006乃至これらに連通する液路に対応し、共通液室5102の両側に配置される吐出ヒータ部である。
【0046】
なお、吐出用ヒータ群4004、4005、及び4006も同様の構成をもつので、その説明は省略する。
【0047】
5101、5103、5105、5107はベースプレート4000に形成され、共通液室5102、5104、5106、及び5108と共に共通液室を構成する。5001及び5002はインク流路およびノズルを形成したオリフィスプレートで、通常、耐熱性の樹脂で形成される。
【0048】
また、Pは記録媒体である。
【0049】
図5は図1に示したインクジェットプリンタにおける制御回路の概略構成を示すブロック図である。
【0050】
図5において、800はマイクロコンピュータ形態のCPU801、後述する制御シーケンスに対応したプログラムや所要のテーブルその他の固定データを格納したROM803、び画像データを展開する領域や作業用の領域等を設けたRAM805などで構成されるコントローラであり、後述する制御シーケンス等を実行する。810は画像データの供給源となるホストコンピュータ(或いは、画像読取りのリーダなど)であり、画像データ、コマンド、ステータス信号等をインタフェース(I/F)812を介してコントローラ800と送受信する。
【0051】
また、820は電源スイッチ822、プリント開始を指令するためのスイッチ824および吸引回復の起動を指示するための回復スイッチ826等、操作者による指令入力を受容するスイッチ群、830はホームポジションを検出するためのフォトカラプ9、環境温度を検出するためにプリンタの適宜の箇所に設けられた温度センサ5024等、装置状態を検出するためのセンサ群である。
【0052】
840はプリントデータ等に応じて記録ヘッド21の吐出ヒータを駆動するためのヘッドドライバ、852はキャリッジモータ6を駆動するモータドライバ、860は記録媒体Pを搬送するために用いられる搬送モータ、854はそのモータドライバである。
【0053】
次に以上の構成の記録ヘッドを搭載したプリンタが実行する温度推定処理とその処理に基づく記録制御について説明する。
【0054】
図6は温度推定演算処理の手順を示すフローチャートである。
【0055】
図6に示す各処理ブロックはコントローラ800が行う処理手順として構成することもできるし、少なくとも一部を論理回路を用いたハードウェアにて構成することもできる。
【0056】
この実施形態では、ヒータボードAの昇温(ΔTA)とヒータボードBとの昇温(ΔTB)を、記録ヘッド21の構成部材の熱容量および熱伝導性等により定まる例えば6個の熱時定数(i=1,2,3、j=4,5,6)に対応した昇温ΔTAi、ΔTBiおよび、ΔTjで管理する。昇温(ΔTj)はベースプレートの昇温を離散的に管理するもので、昇温(ΔTAi)はベースプレートとヒータボードAの昇温の差分を離散的に管理するもので、昇温(ΔTBi)はベースプレートとヒータボードBの昇温の差分を離散的に管理するものである。
【0057】
即ち、各々ヒータボードの昇温を個別の3個の熱時定数別の昇温と、これらに共通の個別の3個の熱時定数別の昇温に分割して離散的に管理する。
【0058】
ここで、ヒータボードAの昇温(ΔTA)は式(1)から得ることができる。
【0059】
ΔTA=ΔTA1+ΔTA2+ΔTA3+ΔT4+ΔT5+ΔT6 …(1)
この処理は図6におけるステップS1007、S1008、S1032、S1033、S1033、S1034、S1009、及びS1010で実行される。
【0060】
一方、ヒータボードBの昇温(ΔTB)は式(2)から得ることができる。
【0061】
ΔTB=ΔTB1+ΔTB2+ΔTB3+ΔT4+ΔT5+ΔT6 …(2)
この処理は図6におけるステップS1021、S1022、S1032、S1033、S1034、S1023、及びS1024で実行される。
【0062】
また、ヒータボードAの発熱素子に対する所定時間当たりの投入エネルギーをヒータボードAの各熱時定数別の昇温とベースプレートの各熱時定数別の昇温に変換する。同様にヒータボードBの発熱素子に対する所定時間当たりの投入エネルギーをヒータボードBの各熱時定数別の昇温とベースプレートの各熱時定数別の昇温に変換する。これは、ヒータボードAへの投入エネルギーとヒータボードBへの投入エネルギーは、互いに直接関与しないことを意味する。言いかえるとこれはヒータボードAとヒータボードBはベースプレート以外には、熱伝導性の低い空気もしくは部材を介してしか熱の関与が無く、この実施形態でのプリンタに要求される精度に対して十分無視できる程小さいことを意味している。これにより、ベースプレートはヒータボードAへの投入エネルギーによる昇温、及び、ヒータボードBへの投入エネルギーによる昇温の合計が各熱時定数別の昇温になる。
【0063】
ヒータボードA、ヒータボードB、及び、ベースプレートの各時定数の温度の単位時間当たりの放熱による降温を演算したものと、各熱時定数別の昇温を足し合わせて得たものが各ヒータボード及びベースプレートの温度となる。
【0064】
以下温度推定演算処理に必要な単位時間間隔を50msecとして説明する。
【0065】
最初にヒータボードAから説明する。
【0066】
まず、ステップS1003ではこの単位時間間隔におけるヒータボードAの温度上昇分を得るためにその所定時間間隔におけるドット形成の回数を計測する。なお、この実施形態で用いる記録ヘッド21ではインク各色について同形のヒータを用いて同じインク吐出量が得られるようにしているので、ヒート回数のカウントをインク色毎に分けて行わなくてもよい。
【0067】
ここで、ドット形成の回数のカウントを行った所定時間間隔におけるヒータボードAの使用駆動パルス(パルス波形、パルス幅、パルス高さ等の要素を含む)とヒータボードAのヘッドランクAとから各ドットカウント値を補正する補正テーブルを設定しておく。これは、使用駆動パルスとヘッドランクAとによって投入されるエネルギ量ーを算定できるようにするためである。ヘッドランクAはヒータボードAの上に配されたランクヒータ4014の抵抗値により決定することができる。即ち、ランクヒータ4014は吐出用ヒータと同時に半導体成膜プロセスにより形成されるものであるので、ランクヒータ4014の抵抗値を検出することで同時形成に係る吐出用ヒータの特性を推定できるのである。
【0068】
次に、ステップS1004における補正では、例えば、次のように設定することができる。
【0069】
記録ヘッドの製造分布の中心となる抵抗を持つヘッドのランクを中心と考え、中心ランクに属する記録ヘッドのヒータボード上に形成されている吐出用ヒータを用い、これに所定の基準幅を有するパルスを印加してヒート動作を行わせたときの値を“100”とし、この中心ランクにおける消費電力との比を各ランクにおける補正値として設定する。
【0070】
ここで、吐出用ヒータへの印加電圧をVh、ヒータのヒートパルス幅をPwとし、ヒータの長さ及び幅を夫々、Lh及びWh、ヒータの厚みをd、比電気抵抗をσとすると、消費電力(W)は、式(3)のようになる。
【0071】
W=Vh×Vh×Pw/{(σ/d)×(Lh/Wh)}) …(3)
成膜時の条件のばらつきによって変動するパラメータにおいて支配的なものはヒータの厚み(d)とその抵抗率(σ)である。また、ランクヒータの長さ及び幅を夫々、Lr及びWr、厚みをd、比電気抵抗をσとすると、抵抗値(Rr)は、式(4)のようになる。
【0072】
Rr=(σ/d)×(Lr/Wr) …(4)
従って、単位厚さ当たりの比電気抵抗(σ/d)は式(5)のようになる。
【0073】
σ/d=Rr×(Wr/Lr) …(5)
従って、式(3)で表される消費電力(W)は、式(6)のようになる。
【0074】
W=Vh×Vh×Pw/{Rr×(Wr/Lr)×(Lh/Wh)}…(6)
そこで、中心ランクのランクヒータ抵抗値をRinit、基準パルス幅をPinitとし、式(6)から式(7)に示すような関係を導入できる。
【0075】
100=a×Vh×Vh×Pinit/{Rinit×(Wr/Lr)
×(Lh/Wh)} …(7)
従って、式(7)で導入した定数aは式(8)のようにして求められる。
【0076】
a=100/[Vh×Vh×Pinit/{Rinit×(Wr/Lr)
×(Lh/Wh)}] …(8)
補正値(KA)は、式(6)を考慮すると、式(9)のように考えられる。
【0077】
KA=a×Vh×Vh×Pw/{Rr×(Wr/Lr)
×(Lh/Wh)} …(9)
従って、式(8)を代入すると、式(10)が得られる。
【0078】
KA=100×(Pw/Pinit)×(Rinit/Rr) …(10)
このようにして得られた補正値(KA)を用いて、ステップS1004では、ステップS1003で得られたドットカウントに対して式(12)に示すような補正を行えばよい。
【0079】
(補正後のドットカウント値)=(ドットカウント値)×(KA/100) …(11)
この実施形態では、ヒート動作の消費電力の比に対応する補正値を設定しているが、これは単位時間に消費される電力と単位時間に時定数(i)をもつ昇温に寄与する増加分(ΔQAi)との対応付けが簡略化できるからである。
【0080】
即ち、単位時間当たりのヒータボードAのヒート数(HA)により、その単位時間当たりの昇温増加分(ΔQAi)は、各時定数毎の関数(FAi)を用いて式(12)の関係から求める。
【0081】
ΔQAi=FAi(KA×HA) …(12)
ここで用いる各時定数毎の関数(FAi)はルックアップテーブル(LUT)の形で保持することがコントローラの処理負荷を軽減する上で好ましい。同様にしてヒータボードAが寄与するベースプレートへの昇温(ΔQAj)は、各時定数毎の関数(FAj)を用いて式(13)の関係から求める。関数(FAj)もLUTの形式で保持することが良い。
【0082】
ΔQAj=FAj(KA×HA) …(13)
これらの処理はステップS1005、S1006、S1011、及びS1013で実行される。
【0083】
また、ヒータボードBに関しても同様の処理を行うことができる。
【0084】
まず、ステップS1017ではこの単位時間間隔におけるヒータボードBの温度上昇分を得るためにその所定時間間隔におけるドット形成の回数を計測する。続く、ステップS1018では、ヒータボードAに対して得られたのと同様な方法で得られた補正値(KB)を用いて、ステップS1017で得られたドットカウントに対して式(14)に示すような補正を行えばよい。
【0085】
(補正後のドットカウント値)=(ドットカウント値)×(KA/100) …(14)
次に、ステップS1019、S1020、S1026、及びS1027において以下の処理を実行する。即ち、単位時間当たりのヒータボードBのヒート数(HB)およびヒータボードBの補正値(KB)により、その単位時間当たりの昇温増加分(ΔQBi)は、各時定数毎の関数(FBi)を用いて式(15)の関係から求める。
【0086】
ΔQBi=FBi(KB×HB) …(15)
一方、ヒータボードBが寄与するベースプレートへの昇温(ΔQBj)は、各時定数毎の関数(FBj)を用いて式(16)の関係から求める。
【0087】
ΔQBj=FBj(KB×HB) …(16)
以上のようにして求めた単位時間当たりの昇温増加分ΔQAi、ΔQAj、ΔQBi、及びΔQBjと前回までの記録ヘッドの昇温を用いて現時点での記録ヘッド昇温を求める。
【0088】
まず、ヒータボードAによる記録ヘッドの昇温(ΔTAi)は、ステップS1000、S1001、S1002、及びS1007で求められる。
【0089】
即ち、ヒータボードAが寄与する前回までの記録ヘッドの昇温をΔTAi(n−1)とすると、現時点での記録ヘッドの昇温(ΔTAi(n))は式(17)から求められる。
【0090】
ΔTAi(n)=ΔTAi(n−1)×DAi+ΔQAi …(17)
ここで、DAiはヒータボードAの各時定数毎に用いる係数であり、便宜的に降温係数と称する。この係数は、記録ヘッドに熱量が投入されない場合は記録ヘッドの温度を減少(降温)させるのに寄与する係数となる。この係数の値は0<DAi<1である。
【0091】
同様にして、ヒータボードBによる記録ヘッドの昇温(ΔTBi)は、ステップS1014、S1015、S1016、及びS1021で求められる。ヒータボードBの前回までの記録ヘッドの昇温をΔTBi(n−1)、降温係数をDBiとすると、現時点での記録ヘッド昇温(ΔTBi(n))は式(18)から求められる。
【0092】
ΔTBi(n)=ΔTBi(n−1)×DBi+ΔQBi …(18)
一方、ステップS1028〜S1032では、ベースプレートによる記録ヘッドの昇温(ΔTj)を求める。
【0093】
即ち、ベースプレートによる前回までの記録ヘッドの昇温をΔTj(n−1)、降温係数をDjとすると、現時点での記録ヘッド昇温(ΔTj(n))は式(19)で求められる。
【0094】
ΔTj(n)=ΔTj(n−1)×Dj+ΔQAj+ΔQBj …(19)
そして、ステップS1007で得られるヒータボードAの寄与によって得られる昇温分(ΔTAi)をステップS1008で時定数iに対して加算したものと、ステップS1032で得られるベースプレートの寄与によって得られる昇温分(ΔTj)をステップS1033で時定数jに対して加算したもの(ΔTbase)をステップS1009で加算することにより、記録ヘッドのヒータボードAの昇温(ΔTA)とする。即ち、式(20)及び(21)に従う処理を行う。
【0095】
Δm=ΔTA1+ΔTA2+ΔTA3+ΔTbase …(20)
ΔTbase=ΔTA4十ΔTA5+ΔTA6 …(21)
同様にして、ステップS1021で得られるヒータボードBの寄与による昇温分(ΔTBi)をステップS1022で時定数iに対して加算したものと、ステップS1034で得られるΔTbaseをステップS1023で加算することにより、記録ヘッドのヒータボードBの昇温(ΔTB)とする。即ち、式(22)に従う処理を行う。
【0096】
ΔTB=ΔTB1+ΔTB2+ΔTB3+ΔTbase …(22)
これらの処理で求めたΔTA、ΔTBとステップS1035で検出した環境温度とにより、ステップS1025及びS1026では夫々、各ヒータボードで使用するパルスを適切に選択するようにPWM制御を行う。
【0097】
ここで、PWM制御としては、ヒートパルスをシングルパルスとしてそのパルス幅を変調するものとすることもできるが、ダブルパルスを用いたPWM駆動(以下、単にPWM駆動という)によりインク吐出量が温度変化に対しても一定になるように制御しても良い。
【0098】
次に、PMW駆動について簡単に説明する。
【0099】
図7はダブルパルスの信号波形を示す図である。
【0100】
図7において、Vopは吐出ヒータに印加される駆動電圧、P1はプレパルスのパルス幅、P2はインターバルタイム、P3はメインパルスのパルス幅である。また、T1、T2、T3は夫々、プレパルスの立ちあがり時刻を起点(t=0)とするP1、P2、P3の幅を決めるための時刻を示している。
【0101】
PWM駆動によるインク吐出量制御には、大きく分けて2方法ある。
【0102】
1つはT2とT3を固定してT1を変調するプレパルス幅変調駆動法であり、もう1つはT1及び(T3−T2)を一定にして(T2−T1)を変調するインターバル幅変調駆動法である。
【0103】
図8はプレパルス幅変調駆動法に従う制御によるインク吐出量の変化を示す図である。
【0104】
図8に示すように、T1の増加(即ち、P1の増加)に伴ってインク吐出量は増加し、ひとつのピークを越えるとそれが減少して、P1のパルスによってインクに発泡を起こす領域(P1発泡領域)に入る。この駆動法の場合、T1の設定領域を最適化することでT1の変調に対する吐出量の変化に線形性を持たせることが可能であり、制御が容易となる。
【0105】
図9はインターバル幅変調駆動法に従う制御によるインク吐出量の変化を示す図である。
【0106】
図9に示すように、インターバルタイム(P2)の増加に伴ってインク吐出量は増加し、ある地点で発泡しなくなる領域(不吐出領域)に入る。この駆動法は、記録ヘッドの昇温が深刻な問題となり、高温域ではシングルパルスでパルス幅を短くし、記録ヘッドに投入するエネルギーを減少させて昇温を抑制する制御を行う場合、温度の上昇に対して(T2−T1)を減少させ、(T2−T1)=0の時点よりさらにT1を小さくすることで前記の制御を実行できるため、パルス波形を連続性を保ちつつ変調を行うことが可能である。
【0107】
この実施形態はいずれの駆動法でも後述するように適用可能であり、両者を併用した駆動方法に対しても同様の方法で適用である。
【0108】
なお、インクが低温である場合、低温によるインク吐出量減少分をPWM駆動によるインク吐出量増加分のみで補うには限界があり、保温用ヒータを駆動してインク温度を昇温させてその吐出量を増加をはかるようにする。
【0109】
この場合、各ヒータボードにおける保温用ヒータおける昇温影響を演算する必要がある。以下、保温用ヒータおける昇温影響について説明する。
【0110】
まず、温度推定の所定時間間隔内における保温用ヒータによる消費電力を計測し、この消費電力より各ヒータボード及びベースプレートへ寄与する熱量変換する。
【0111】
即ち、ヒータボードAでの保温用ヒータの消費電力をWA、ヒータボードBでの保温用ヒータの消費電力をWBとし、各時定数毎の関数GAi、GBi、GAj及びGBjを用いると、式(12)、式(13)、式(15)、及び、式(16)は式(23)〜式(26)に置き換えられる。
【0112】
ΔQAi=FAi(KA×HA)+GAi(WA) …(23)
ΔQAj=FAj(KA×HA)+GAj(WA) …(24)
ΔQBi=FBi(KB×HB)+GBi(WA) …(25)
ΔQBj=FBj(KB×HB)+GBj(WA) …(26)
以上の式に従って、関数GAi、GBi、GAj及びGBjをルックアップテーブル(LUT)として保持することで、保温用ヒータによる熱の影響を考慮して温度推定を行うことが可能である。
【0113】
図10は上述した保温用ヒータの影響を考慮した制御を行って得られる記録ヘッド内のインク温度(T)とインク吐出量(Vd)との関係を示す図である。
【0114】
図10に示されているように、インク温度がT<T0である場合は保温領域に属するので、サブヒータ4005、4006により記録ヘッドを加熱し、記録ヘッドの温度を一定以上に保温するよう制御する。従って、インク温度(T)に応じたインク吐出量制御であるPWM制御はT≧T0以上で行うことになる。
【0115】
図10においてPWM制御領域として示した温度範囲がインク吐出量を安定化できる温度範囲であり、この実施形態では記録ヘッドのインク温度(T)が24〜54℃の範囲である。図10では、このPWM制御領域において、プレパルス幅を11ステップで変化させた場合の記録ヘッドのインク温度とインク吐出量の関係を示しており、記録ヘッドのインク温度が変化してもそのインク温度に応じて温度ステップ幅(ΔT)毎にプレパルス幅を変えることにより、目標のインク吐出量Vd0に対してΔVの幅で吐出量を制御できる。
【0116】
さらに、この実施形態では、記録ヘッドの製造ばらつきによりヒータの抵抗値がヘッド個々によって異なり吐出に必用な投入エネルギが異なることを考慮し、前述したように記録ヘッドをランク分けし、ステップS1011およびステップS1026によりこのランクに応じてPWM制御に用いるパルス群を決定する。
【0117】
従って以上説明した実施形態に従えば、記録ヘッドのヒータボードAの昇温(ΔTA)および記録ヘッドのヒータボードBの昇温(ΔTB)と検出された環境温度とに従って、ヒートパルスを設定し、さらに、これらの昇温の推定を行うときに用いる補正値についても、それぞれのヘッドランクに応じた補正値を設定して用いるのでより正確な温度推定がなされ、これに基づいたPWM制御が実行される。このようにして、インクの安定した吐出が可能となる。
【0118】
【他の実施形態】
前述の実施形態では時定数毎に昇温の差分を離散的に管理したが、この実施形態では時定数が近いものどうしに分類を行い、さらに所定時間間隔における昇温の影響とその昇温影響の時間経過による減少とをLUTで管理する例について説明する。なお、ここでも図3に示すような1つのベースプレート上にヒータボードAとヒータボードBの2つのヒータボードを備えた構成の記録ヘッドを用いることにする。
【0119】
この実施形態ににおける温度推定では、熱時定数を長いもの(以下、ロングレンジという)と、短いもの(以下、ショートレンジという)とに分類する。そして、ロングレンジでは所定時間間隔(Δtl)を1秒間、ショートレンジでは所定時間間隔(Δts)を50ミリ秒間とし、LUTはそれぞれのレンジに対応したものを備えるものとする。
【0120】
各レンジのLUTは、所定時間間隔(ロングレンジでは1秒間、ショートレンジでは50ミリ秒間)における各ヒータボードのヒート数と、そのヒート数に対応した各ヒータボード及びベースプレートへの昇温寄与分およびヒート後の所定経過時間内での昇温寄与分との関連を示すテーブルとなる。この実施形態におけるその所定経過時間は、ロングレンジに関しては512秒、ショートレンジに関しては10秒までとしてその時間内の関係をLUTで管理する。
【0121】
即ち、ロングレンジのLUTは、経過時間tl=L×Δtl(Lは整数、0≦L<512)におけるヒータボードAのヒート数(HAL)による昇温影響分をΔTal、経過時間tlにおけるヒータボードBのヒート数(HBL)による昇温影響分をΔTblとした場合、式(27)、式(28)の関数に相当する。
【0122】
ΔTal=FAL(HAL,L×Δtl) …(27)
ΔTbl=FBL(HBL,L×Δtl) …(28)
一方、ショートレンジのLUTは、経過時間ts=S×Δts(Sは整数、0≦S<20)におけるヒータボードAのヒート数(HAS)による昇温影響分をΔTas、経過時間tsにおけるヒータボードBのヒート数(HBS)による昇温影響分をΔTbsとした場合、式(29)、式(30)の関数に相当する。
【0123】
ΔTas=FAS(HAS,S×Δts) …(29)
ΔTbs=FBS(HBS,S×Δts) …(30)
そして、これらの式の関数が表す演算テーブルを用いて1つのベースプレートに2つのヒータボードAとヒータボードBを備える構成の記録ヘッドに適用できるようにする。
【0124】
図11はこの実施形態に従う温度推定演算処理の手順を示すフローチャートである。図11に示す各処理ブロックはコントローラ800が行う処理手順として構成することもできるし、少なくとも一部を論理回路を用いたハードウェアにて構成することもできる。
【0125】
なお、図11に示すフローチャートにおいて、図6のフローチャートで示したのと同じ処理ステップは同じステップ参照番号を付し、その説明は省略する。
【0126】
さて、この実施形態における温度推定ではショートレンジに関するヒータボードAとセータボードBの履歴を記憶する構成をとる。この履歴として、経過時間が0秒から10秒未満のヒートカウントを50ミリ秒間隔で記憶する。即ち、各200個のヒートカウント値を記憶する。経過時間をts(=S×Δts)秒(S=0,1,…,199)とし、ヒータボードAに関して記憶したヒートカウント値の配列をHAS[S]とすると、ステップS2000で得られるヒートカウント値(HAS)をステップS1004で補正した後、ステップS2002では式(31)と式(32)に従う処理をnを1ずつ減少させながら、199から1まで行う。
【0127】
HAS[n]=HAS[n−1] …(31)
HAS[0]=HAS …(32)
同様にして、ヒータボードBに関して記憶したヒートカウント値の配列をHBS[S]とすると、ステップS2015で得られるヒートカウント値(HBS)をステップS1018で補正した後、ステップS2017では式(33)と式(34)に従う処理をnを1ずつ減少させながら、199から1まで行う。
【0128】
HBS[n]=HBS[n−1] …(33)
HBS[0]=HBS …(34)
一方、この実施形態ではロングレンジ用の1秒間のヒート回数を蓄積するカウンタをヒータボードA及びとータボードBに対してそれぞれ保持する。このヒータボードAに対するカウンタのカウント値を(HAL)、ヒータボードBに対するカウンタのカウント値を(HBL)とする。
【0129】
このカウントはヒータボードAとヒータボードBに関し、ステップS2005およびS2020において、式(35)と式(36)とを用いて実行する。
【0130】
HAL=HAL+HAS …(35)
HBL=HBL+HBS …(36)
この処理を20回行ったときのカウンタの値が1秒間のヒートカウント値となるので、この処理を20回行ったときに、ステップS2006及びS2021の処理が実行されることになる。
【0131】
次に、ステップS2007及びS2022の処理が実行される。
【0132】
まず、経過時間をtl(=L×Δtl)秒(L=0,1,2,…,511)とし、ヒータボードAに対して記憶したヒートカウント値の配列をHAL[L]とすると、ステップS2006で得られるヒートカウント値(HAL)に対し、式(37)と式(38)に従う処理を、nを511から1ずつ減少させて1まで行う。
【0133】
HAL[n]=HAL[n−1] …(37)
HAL[0]=HAL …(38)
その後、カウント値(HAL)をクリア(=0)する。
【0134】
同様に、ヒータボードBに対して記憶したヒートカウント値の配列をHBL[L]とすると、ステップS2021で得られるヒートカウント値(HBL)に対し、式(39)と式(40)に従う処理を、nを511から1ずつ減少させて1まで行う。
【0135】
HBL[n]=HBL[n−1] …(39)
HBL[0]=HBL …(40)
その後、カウント値(HBL)をクリア(=0)する。
【0136】
次に、ステップS2002及びS2017において記憶された履歴と、ショートレンジのLUTとを用いて、処理はステップS2003〜S2004及びステップS2018〜S2019においてそれぞれ、式(41)と式(42)とに従う演算を行う。
【0137】
ΔTAS=FAS(HAS[0],0)
+FAS(HAS[1],1)+…
…+FAS(HAS[199],199) …(41)
ΔTBS=FBS(HBS[0],0)
+FBS(HBS[1],1)+…
…+FBS(HBS[199],199) …(42)
ここで、ΔTASはベースプレートとヒータボードAの昇温の差分であり、ΔTBSはベースプレートとヒータボードBの昇温の差分である。
【0138】
一方、ステップS2007及びS2022において記憶された履歴と、ロングレンジのLUTとを用いて、ステップS2008〜S2009及びステップS2023〜S2024においてそれぞれ、式(43)と式(44)とに従う演算を行う。
【0139】
ΔTAL=FAL(HAL[0],0)
+FAL(HAL[1],1)+…
…+FAL(HAL[199],199) …(43)
ΔTBL=FBL(HBL[0],0)
+FBL(HBL[1],1)+…
…+FBL(HBL[199],199) …(44)
ここで、ΔTALはヒータボードAがベースプレートに寄与している昇温の差分であり、ΔTBLはヒータボードBがベースプレートに寄与している昇温の差分である。
【0140】
以上の処理により、ステップS2030とステップS1034で、式(45)に従う演算を行うことでベースプレートの昇温(ΔTbase)が得られる。
【0141】
ΔTbase=ΔTAL+ΔTBL …(45)
これらの処理で得られたΔTAS、ΔTBSおよびΔTbaseをステップS1009及びステップS1023において、式(46)及び式(47)に従う加算を行うことで、ヒータボードAおよびヒータボードBの昇温が得られる。
【0142】
ΔTA=ΔTAS+ΔTbase …(46)
ΔTB=ΔTBS+ΔTbase …(47)
従って以上説明した実施形態に従えば、熱時定数をロングレンジとショートレンジとに分類し、夫々において昇温の寄与分を推定し、最後にこれらを加算することで、各ヒータボードの昇温を推定することができる。
【0143】
なお以上説明した実施形態では、1つのベースプレートに2つのヒータボードを設けた記録ヘッドを例としたが、本発明はこれによって限定されるものではなく、例えば、1つのベースプレートに3つ以上のヒータボードを設けた構成の記録ヘッドにも適用できる。
【0144】
即ち、ベースプレートの昇温を離散的に管理するものと、各ヒータボードのベースプレートとの昇温の差分を離散的に管理するもので温度推定手段を構成し、これにより上述した実施形態で用いた演算方法をそのまま用いることができる。
【0145】
また、以上説明した実施形態では複数のヒータボードを同形状であると考えたが、本発明はこれによって限定されるものではなく、例えば、これらのヒータボードが異なる形状であっても、これらのヒータボード夫々について、パラメータおよび関数(テーブル等)の変更、また離散的に管理する時定数の数の変更により容易に対応することができる。
【0146】
また、ヒータボード上のヒータのサイズが異なる場合や、一つのノズルに対して複数のヒータを備えた構成に対しても容易に対応することができる。
【0147】
また、以上の例において具体的にあげた値はすべて例示であって、適宜の値を用いることができるのは勿論である。
【0148】
なお、以上の実施形態において、記録ヘッドから吐出される液滴はインクであるとして説明し、さらにインクタンクに収容される液体はインクであるとして説明したが、その収容物はインクに限定されるものではない。例えば、記録画像の定着性や耐水性を高めたり、その画像品質を高めたりするために記録媒体に対して吐出される処理液のようなものがインクタンクに収容されていても良い。
【0149】
以上の実施形態は、特にインクジェット記録方式の中でも、インク吐出を行わせるために利用されるエネルギーとして熱エネルギーを発生する手段(例えば電気熱変換体やレーザ光等)を備え、前記熱エネルギーによりインクの状態変化を生起させる方式を用いることにより記録の高密度化、高精細化が達成できる。
【0150】
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4723129号明細書、同第4740796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式はいわゆるオンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、液体(インク)が保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも1つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に1対1で対応した液体(インク)内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介して液体(インク)を吐出させて、少なくとも1つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状をすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れた液体(インク)の吐出が達成でき、より好ましい。
【0151】
このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4463359号明細書、同第4345262号明細書に記載されているようなものが適している。なお、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4313124号明細書に記載されている条件を採用すると、さらに優れた記録を行うことができる。
【0152】
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電気熱変換体の組み合わせ構成(直線状液流路または直角液流路)の他に熱作用面が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4558333号明細書、米国特許第4459600号明細書を用いた構成も本発明に含まれるものである。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通するスロットを電気熱変換体の吐出部とする構成を開示する特開昭59−123670号公報や熱エネルギーの圧力波を吸収する開口を吐出部に対応させる構成を開示する特開昭59−138461号公報に基づいた構成としても良い。
【0153】
さらに、記録装置が記録できる最大記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドとしては、上述した明細書に開示されているような複数記録ヘッドの組み合わせによってその長さを満たす構成や、一体的に形成された1個の記録ヘッドとしての構成のいずれでもよい。
【0154】
加えて、上記の実施形態で説明した記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドのみならず、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッドを用いてもよい。
【0155】
また、以上説明した記録装置の構成に、記録ヘッドに対する回復手段、予備的な手段等を付加することは記録動作を一層安定にできるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧あるいは吸引手段、電気熱変換体あるいはこれとは別の加熱素子あるいはこれらの組み合わせによる予備加熱手段などがある。また、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードを備えることも安定した記録を行うために有効である。
【0156】
さらに、記録装置の記録モードとしては黒色等の主流色のみの記録モードだけではなく、記録ヘッドを一体的に構成するか複数個の組み合わせによってでも良いが、異なる色の複色カラー、または混色によるフルカラーの少なくとも1つを備えた装置とすることもできる。
【0157】
以上説明した実施の形態においては、インクが液体であることを前提として説明しているが、室温やそれ以下で固化するインクであっても、室温で軟化もしくは液化するものを用いても良く、あるいはインクジェット方式ではインク自体を30°C以上70°C以下の範囲内で温度調整を行ってインクの粘性を安定吐出範囲にあるように温度制御するものが一般的であるから、使用記録信号付与時にインクが液状をなすものであればよい。
【0158】
加えて、積極的に熱エネルギーによる昇温をインクの固形状態から液体状態への状態変化のエネルギーとして使用せしめることで積極的に防止するため、またはインクの蒸発を防止するため、放置状態で固化し加熱によって液化するインクを用いても良い。いずれにしても熱エネルギーの記録信号に応じた付与によってインクが液化し、液状インクが吐出されるものや、記録媒体に到達する時点では既に固化し始めるもの等のような、熱エネルギーの付与によって初めて液化する性質のインクを使用する場合も本発明は適用可能である。このような場合インクは、特開昭54−56847号公報あるいは特開昭60−71260号公報に記載されるような、多孔質シート凹部または貫通孔に液状または固形物として保持された状態で、電気熱変換体に対して対向するような形態としてもよい。本発明においては、上述した各インクに対して最も有効なものは、上述した膜沸騰方式を実行するものである。
【0159】
さらに加えて、本発明に係る記録装置の形態としては、コンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末として一体または別体に設けられるものの他、リーダ等と組み合わせた複写装置、さらには送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を取るものであっても良い。
【0160】
なお、本発明は、複数の機器(例えば、ホストコンピュータ、インタフェース機器、リーダ、プリンタなど)から構成されるシステムに適用しても、一つの機器からなる装置(例えば、複写機、ファクシミリ装置など)に適用してもよい。
【0161】
また、本発明の目的は、前述した実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体(または記録媒体)を、システムあるいは装置に供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成されることは言うまでもない。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。また、コンピュータが読み出したプログラムコードを実行することにより、前述した実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているオペレーティングシステム(OS)などが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0162】
さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張カードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張カードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0163】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、共通のベース基板に複数の回路基板を備えた構成の記録ヘッドにおいても、高精度に温度推定を行えるようになるとともに、これに基づいて記録ヘッドの適切な記録制御を行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の代表的な実施形態である交換可能なインクカートリッジを用いるインクジェットプリンタの機械的構成を示す図である。
【図2】インクカートリッジ1の詳細図である。
【図3】記録ヘッド21で使用するヒータボードの概略構成例を示す模式図である。
【図4】記録ヘッド21の概略構成を示す模式的側断面図である。
【図5】図1に示したインクジェットプリンタにおける制御回路の概略構成を示すブロック図である。
【図6】温度推定演算処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】ダブルパルスの信号波形を示す図である。
【図8】プレパルス幅変調駆動法に従う制御によるインク吐出量の変化を示す図である。
【図9】インターバル幅変調駆動法に従う制御によるインク吐出量の変化を示す図である。
【図10】保温用ヒータの影響を考慮した制御を行って得られる記録ヘッド内のインク温度(T)とインク吐出量(Vd)との関係を示す図である。
【図11】他の実施形態に従う温度推定演算処理の手順を示すフローチャートである。
Claims (10)
- 熱エネルギーによりインクを吐出するための記録素子を夫々に備える第1及び第2の回路基板を共通のベース基板に備えた記録ヘッドを用いて記録を行う記録装置であって、
駆動パルスを印加することにより前記第1及び第2の回路基板夫々に備えられた記録素子を駆動する駆動手段と、
前記第1及び第2の回路基板夫々に印加される駆動パルスの数を計数する計数手段と、
前記計数手段による計数結果に基づいて、前記共通ベース基板の温度変化、前記第1の回路基板と前記共通ベース基板との温度変化の差分、及び前記第2の回路基板と前記共通ベース基板との温度変化の差分を推定し、当該推定結果に基づいて、前記第1及び第2の回路基板夫々の温度変化を推定する推定手段とを有することを特徴とする記録装置。 - 前記推定手段によって推定された温度変化に基づいて、前記駆動パルスを変調して前記記録素子を駆動する変調駆動手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
- 前記推定手段による温度変化の推定は所定時間間隔毎に行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の記録装置。
- 前記計数手段は、
第1の時間間隔で前記第1の回路基板に印加された駆動パルスの数を計数する第1のパルス計数手段と、
前記第1の時間間隔よりも長い第2の時間間隔で前記第1の回路基板に印加された駆動パルスの数を計数する第2のパルス計数手段と、
前記第1の時間間隔で前記第2の回路基板に印加された駆動パルスの数を計数する第3のパルス計数手段と、
前記第2の時間間隔で前記第2の回路基板に印加された駆動パルスの数を計数する第4のパルス計数手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。 - 前記推定手段は、複数の熱時定数に夫々対応する、前記共通ベース基板の温度変化、前記第1の回路基板と前記共通ベース基板との温度変化の差分、及び前記第2の回路基板と前記共通ベース基板との温度変化の差分を推定することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
- 前記変調駆動手段は、前記推定手段によって推定された前記第1及び第2の回路基板の温度変化夫々に基づいて、ダブルパルス制御により前記第1及び第2の回路基板の記録素子を駆動することを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
- 前記記録ヘッドの周囲温度を検出する検出手段をさらに有し、
前記変調駆動手段は、前記検出手段によって検出される周囲温度に基づいて、前記記録素子の駆動を制御することを特徴とする請求項2に記載の記録装置。 - 前記第1及び第2の回路基板の温度を一定温度範囲に維持するための保温用ヒータと、
前記検出手段によって検出される周囲温度に基づいて、前記保温用ヒータを駆動する保温用ヒータ駆動手段とをさらに有することを特徴とする請求項7に記載の記録装置。 - 前記推定手段は、前記保温用ヒータの駆動によって発生する熱量を考慮して、温度変化の推定を行うことを特徴とする請求項8に記載の記録装置。
- 熱エネルギーによりインクを吐出するための記録素子を夫々に備える第1及び第2の回路基板を共通のベース基板に備えた記録ヘッドの温度を推定する温度推定方法であって、
駆動パルスを印加することにより前記第1及び第2の回路基板夫々に備えられた複数の記録素子を駆動する駆動工程と、
前記第1及び第2の回路基板夫々に印加される駆動パルスの数を計数する計数工程と、
前記計数工程における計数結果に基づいて、前記共通ベース基板の温度変化と、前記第1の回路基板と前記共通ベース基板との温度変化の差分と、前記第2の回路基板と前記共通ベース基板との温度変化の差分とを推定する第1の推定工程と、
前記第1の推定工程における推定結果に基づいて、前記第1及び第2の回路基板夫々の温度変化を推定する第2の推定工程とを有することを特徴とする温度推定方法。
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