JP4508724B2 - 硬質金薄膜 - Google Patents

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本発明は、硬質金薄膜、無電解金めっき液、及び硬質無電解金めっき皮膜の形成方法に関する。
電子工業分野で使用される機能性金薄膜は、その用途に応じて大きく二種類に分類される。まず、第一に、金の含有率が99.9%以上の高純度の金薄膜が挙げられる。この金薄膜は、金元素の特徴である低い硬度(Hv50〜80)を有するものであり、ワイヤーボンディング等の方法によって純金線などを接合可能であることから、半導体、IC、回路形成などの分野で用いられている。
もう一種類の金薄膜は、硬度が比較的高く、耐磨耗性に優れた皮膜であり、コネクター、リレーなど接点材料に利用されている。この様な高硬度の金薄膜は、金含有率が99.8%程度以下であり、金以外に、コバルト、ニッケル、炭素、窒素、水素などの不純物元素を添加してビッカース硬度を150〜200Hv程度まで増加させたものである。
この様な不純物元素を含む金薄膜が硬質化する理由としては、金薄膜の成長時に不純物元素が表面に吸着して、金の成長を抑制することが考えられる。この点については、金薄膜を構成する結晶粒径の差により確認されており、純度の高い金薄膜の結晶粒径が101nm以上であるのに対して、不純物元素を含む金薄膜の結晶粒径はこれを下回る大きさであり、不純物元素の存在によって結晶粒径の成長が抑制されることが認められている。
金薄膜の形成方法としては、水溶性めっき浴を用いためっき法が知られている。得られる金薄膜は、半導体、IC、回路形成などに使用される軟質金( Hv90以下)薄膜と、コネクター、リレーなど接点材料として使用される硬質金(Hv91以上)薄膜とに区別されている。
これらの内で、軟質金薄膜の形成方法としては、電解めっきによる成膜法と無電解めっきによる成膜法がある。電解めっきによる軟質金薄膜の形成方法としては、例えば、水溶性金塩と水溶性リン酸化合物を含む水溶液を用いて、60〜70℃程度の浴温で電解めっきを行うことによる成膜法が知られている。また、無電解金めっき法としては、水溶性金塩、水溶性有機酸化合物及び金イオンの還元剤を含む水溶液を用いて、80℃以上という高温度で無電解めっきを行うことによって、金の成膜反応を促進して、高純度の金薄膜を形成する方法が知られている。(下記非特許文献1参照)。
これらの方法の内では、電解めっきによる成膜法が主流であるが、無電解金めっきによる成膜法は、通電することなく成膜反応が生じ、電流分布の偏りがないため、均一で緻密な皮膜を形成可能であり、例えば、半導体パッケージや基板などの微細な部分への薄膜形成として適用されている。
一方、硬質金薄膜については、水溶性めっき浴からの薄膜形成法としては、電解めっき法による成膜法が利用されている。この方法は、水溶性金塩及び水溶性有機酸化合物を含む水溶液を用い、30℃以下という低い浴温度で電解反応を行って金の成膜反応を抑制するとともに、コバルト、ニッケル、その他の元素等を添加して、不純物元素を金薄膜中に含有させることによって、硬質金薄膜を形成する方法である(下記非特許文献2参照)。
この様な方法によって形成される硬質金薄膜は、接点材料に使用される場合が多い。この様な用途では、高硬度であることだけでなく、耐磨耗性が良好であることが要求されるが、無電解金めっき法によれば、均一で緻密な薄膜を形成できるために、耐磨耗性に優れた金薄膜が形成でき、接点材料として優れた特性を発揮できるものと期待される。しかしながら、従来の無電解金めっき法では、軟質金薄膜が得られているだけであり、硬質金薄膜は得られていない。
林忠夫他、「無電解めっき 基礎と応用」p.155(日刊工業新聞社、1994) 沖中裕、「金めっきに関する最近の話題」、金属表面技術、32、10、(1981)
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、高硬度を有すると共に、均一で緻密な状態の耐磨耗性に優れた金薄膜を提供することである。
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、無電解めっき法によって金薄膜を形成する際に、下記(1)〜(3)に示す現象が生じることを見出した。
(1)酸性又は中性で比較的低温の無電解金めっき浴から形成される金薄膜は、炭素及び窒素が微量共析するため、硬度が増加する。
(2)分子内にアミノ基を有する水溶性化合物を添加することにより、炭素及び窒素の共析量が増加し、より高硬度となる。
(3)分子内にアミノ基を有する水溶性化合物と、硫酸コバルト、硫酸ニッケル等の重金属化合物を同時に添加することで、コバルト、ニッケル等の重金属を微量共析させることができ、さらに高硬度となる。
本発明者は、これらの知見に基づいて、特定の無電解めっき液を用いて無電解めっき処理を行う場合に、従来の無電解めっき法では得られていない、硬質金薄膜が得られることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、下記の硬質無電解金めっき皮膜を提供するものである。
1. 金94.0〜99.3原子%、炭素0.3〜2.0原子%及び窒素0.3〜2.0原子%を含有する硬質金薄膜。
2. 更に、重金属を0.1〜2.0原子%含有する上記項1に記載の硬質金薄膜。
3. 重金属元素が、コバルト及びニッケルからなる群から選ばれた少なくとも一種である上記項2に記載の硬質金薄膜。
4. ビッカース硬度が100Hv以上である上記項1〜3のいずれかに記載の硬質金薄膜。
5. 水溶性金化合物、水溶性三価チタン化合物、錯化剤、及び分子内にアミノ基を有する水溶性化合物を含有する水溶液からなる硬質金薄膜形成用無電解金めっき液。
6. 錯化剤が、アミノ基を有するカルボン酸、オキシカルボン酸、及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種である上記項5に記載の無電解めっき液。
7. 分子内にアミノ基を有する水溶性化合物が、ヒドロキシアミン類、エタノールアミン類及びヒドラジン類からなる群から選ばれた少なくとも一種である上記項5又は6に記載の無電解金めっき液。
8. 水溶性金化合物0.001〜0.1mol/l、水溶性三価チタン化合物0.005〜0.5mol/l、錯化剤0.01〜1.0mol/l、及び分子内にアミノ基を有する水溶性化合物0.01〜1.0mol/lを含有する水溶液からなる上記項5〜7のいずれかに記載の無電解金めっき液。
9. 更に、アルカリ金属シアン化物を含有する上記項5〜8のいずれかに記載の無電解金めっき液。
10.更に、水溶性重金属化合物を含有する上記項5〜9のいずれかに記載の無電解金めっき液。
11.上記項5〜10のいずれかに記載の無電解金めっき浴中に被めっき物を浸漬することを特徴とする無電解金めっき方法。
12.無電解金めっき液のpHが4〜8であり、液温が40〜80℃である上記項11に記載の無電解金めっき方法。
本発明の硬質金薄膜は、金94.0〜99.3原子%、炭素0.3〜2.0原子%、及び窒素0.3〜2.0原子%を含有するものである。該硬質金薄膜には、上記した各成分の他に、更に、K、Na等の不純物成分が含まれても良い。
従来の無電解めっき法によって形成される金薄膜は、金含有量99.9原子%以上という高純度の金皮膜であり、硬度及び耐磨耗性が低いのに対して、本発明の硬質金薄膜は、膜中に炭素、窒素等が微量含まれることによって結晶の微細化が促進されており、硬度が増加すると共に、耐磨耗性が大きく向上したものである。その結果、本発明の硬質金薄膜は、ビッカース硬度が、100Hv程度以上、特に、150Hv程度以上という高い硬度であり、しかも均一で緻密な状態であることから、優れた耐磨耗性を有するものである。尚、本発明の金めっき皮膜の硬度の上限については、特に限定的ではないが、通常、200Hv程度以下である。
本発明の硬質金薄膜では、金含有量は、94.0〜99.3原子%程度であり、好ましくは、94.5〜97.0原子%である。炭素含有量は、0.3〜2.0原子%であり、好ましくは、0.5〜1.0原子%である。窒素含有量は、0.3〜2.0原子%であり、好ましくは0.5〜1.0原子%である。
本発明の硬質金薄膜は、更に、重金属を0.1〜2.0原子%程度含有することによって、より高硬度の金薄膜となる。重金属の含有量は、好ましくは0.3〜1.0原子%程度である。重金属としては、コバルト、ニッケルなどが好適な例として挙げられる。
本発明の硬質金薄膜は、水溶性金化合物、水溶性三価チタン化合物、錯化剤及び分子内にアミノ基を有する水溶性化合物を有効成分として含有する無電解金めっき液を用いて無電解めっき処理によって形成できる。
該無電解金めっき液に含まれる成分の内で、水溶性金化合物としては、一価又は三価の金を含む水溶性化合物を用いることができる。この様な金化合物としては、シアン化金(I)カリウム(KAu(CN)2)、シアン化金(III)カリウム(KAu(CN)4)、塩化金(III)ナトリウム(NaAuCl4)等を例示できる。水溶性金化合物は一種単独又は二種以上混合して用いることができる。水溶性金化合物の濃度については、特に限定的ではないが、通常、0.001〜0.1mol/l程度が好ましく、0.005〜0.05mol/l程度がより好ましい。
水溶性三価チタン化合物は、三価のチタンを含む水溶性化合物であればよい。この様な三価チタン化合物は、金イオンの還元剤として作用するものと考えられる。水溶性三価チタン化合物としては、三塩化チタン(TiCl3)、三臭化チタン(TiBr3)、硫酸チタン(Ti2(SO43)等を例示できる。水溶性三価チタン化合物は一種単独又は二種以上混合して用いることができる。水溶性三価チタン化合物の濃度についても特に限定的ではないが、通常、0.005〜0.5mol/l程度とすることが好ましく、0.01〜0.1mol/l程度程度とすることがより好ましい。
錯化剤としては、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸、グリシン、ニトリロトリ酢酸等のアミノ基を有するカルボン酸、これらの水溶性塩;乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸などのオキシカルボン酸、これらの水溶性塩などを用いることができる。錯化剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。錯化剤の濃度は、0.01〜1.0mol/l程度とすることが好ましく、0.05〜0.3mol/l程度とすることがより好ましい。
分子内にアミノ基を有する水溶性化合物(以下、「水溶性アミン化合物」ということがある)としては、少なくとも一個のアミノ基を含む水溶性有機化合物、無機化合物等を用いることができる。この様な水溶液アミン化合物を添加することによって、金めっき皮膜中の炭素共析量及び窒素共析量が増加して金の結晶粒径が低下し、硬度の増加、耐磨耗性の向上が認められる。
水溶性アミン化合物の具体例としては、ヒドロキシルアミン(NH2OH)、塩酸ヒドロキシルアミン(NH2OH・HCl)、硫酸ヒドロキシルアミン(NH2OH・H2SO4)等のヒドロキシアミン類;エタノールアミン(NH224OH)、エタノールアミン塩酸塩(NH224OH・HCl)等のエタノールアミン類;ヒドラジン((NH22 )、塩酸ヒドラジン((NH22 ・HCl)、硫酸ヒドラジン((NH22 ・H2SO4)等のヒドラジン類などを例示できる。水溶性アミン化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。水溶性アミン化合物の濃度は、0.01〜1.0mol/l程度とすることが好ましく、0.05〜0.3mol/l程度とすることがより好ましい。
上記無電解金めっき液には、更に、水溶性重金属化合物を加えることができる。水溶性重金属化合物を含む無電解めっき液を用いることによって、めっき皮膜中にこれらの重金属が共析して、重金属を含む硬質金薄膜を形成できる。この様な重金属を含む金薄膜は、重金属を含有しない金薄膜と比べて、より高い硬度を有するものとなる。
水溶性重金属化合物としては、例えば、水溶性コバルト化合物、水溶性ニッケル化合物などを用いることができる。水溶性コバルト化合物としては、硫酸コバルト、塩化コバルト、炭酸コバルト、酢酸コバルト、硫酸アンモニウムコバルト、シアン化コバルトなどを例示できる。水溶性ニッケル化合物としては、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸アンモニウムニッケル、シアン化ニッケルカリウムなどを例示できる。これらの重金属化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。水溶性重金属化合物の濃度は、0.001〜0.1mol/l程度とすることが好ましく、0.01〜0.05mol/l程度とすることがより好ましい。
上記無電解金めっき浴には、更に、シアン化カリウム、シアン化ナトリウムなどのアルカリ金属シアン化物を添加することができる。アルカリ金属シアン化物を添加することによって、めっき液の分解が抑制されて、めっき液を長期間安定に使用することが可能となる。アルカリ金属シアン化物の濃度は、0.005〜0.5mol/l程度とすることが好ましく、0.01〜0.1mol/l程度とすることがより好ましい。
上記した無電解金めっき液は、中性から酸性、好ましくはpH4〜8程度で用いればよい。
硬質金薄膜を形成する際の無電解めっき液の液温は、40〜80℃程度という比較的低温とすることが好ましい。
上記した無電解金めっき液を用いる金薄膜の形成方法は、通常の無電解めっき方法と同様でよい。一般的には、常法に従って脱脂、活性化などの前処理を行った後、被処理物をめっき液中に浸漬すればよい。
被めっき物の種類については特に限定はなく、例えば、金、銅、ニッケル、コバルト、金、パラジウム、これらの金属を含有する合金等の触媒活性を有する金属上には、直接無電解金めっきを行うことができる。また、プラスチックス、セラミックス等の触媒活性の無い素材上には、常法に従ってパラジウムなどの貴金属触媒を付与した後、無電解金めっきを行えばよい。或いは、触媒活性の無い素材上に無電解めっき、真空蒸着、スパッタリングなどの方法で触媒活性を有する金属の皮膜を形成した後、無電解金めっきを行っても良い。
上記した方法で得られる本発明の硬質金薄膜は、金94.0〜99.3原子%、炭素0.3〜2.0原子%及び窒素0.3〜2.0原子%を含有するものとなる。また、重金属化合物を含有する無電解めっき液から形成される金薄膜は、更に、重金属元素を0.1〜2.0原子%含有するものとなる。これらの無電解金めっき皮膜は、従来知られている無電解金めっき皮膜と比較して、炭素、窒素、重金属などの不純物の含有量が多く、金の含有率の低い皮膜である。該金めっき皮膜は、これらの不純物の存在によって、結晶が微細化されており、高硬度を有するものである。更に、無電解めっき法によって形成される皮膜であることから、均一性が良好であり、結晶が緻密化されていることと相俟って、優れた耐磨耗性を示すものである。
本発明の硬質金薄膜は、従来の無電解めっき法では得ることのできなかったビッカース硬度100Hv以上という高い硬度を有するものであり、耐磨耗性も良好である。
この様な本発明の硬質金薄膜は、斯かる優れた特性を利用して、例えば、複雑で微細なマイクロコネクターやマイクロリレーなどの接点材料として有効に利用することができる。
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
尚、下記の実施例では、いずれも、マグネチックスターラーによる撹拌条件下で無電解めっきを行った。被めっき物としては、厚さ0.1mmの銅板に電気めっき法によって厚さ2μmの金めっき皮膜を形成したものを用いた。
各実施例及び比較例では、硬度はマイクロビッカース硬度測定法、膜組成は蛍光X線及び誘導結合プラズマ発光分析法、膜中の炭素及び窒素含有量は燃焼法によって測定した。また、膜構造解析はX線回折法によって行った。各実施例では、形成される金めっき皮膜の膜厚がほぼ5μmとなるように制御した。
実施例1
下記組成の無電解金めっき液を用いて、後述する条件で無電解金めっき皮膜を形成した。
クエン酸カリウム 0.20 mol/l
エチレンジアミン四酢酸カリウム 0.05 mol/l
三塩化チタン 0.05 mol/l
塩酸ヒドロキシルアミン 0〜0.30 mol/l
シアン化金(I)カリウム 0.007 mol/l
シアン化カリウム 0.015 mol/l
硫酸コバルト 0〜0.05 mol/l
めっき浴のpHは20%水酸化カリウム溶液および2%塩酸で6.0に調整し、浴温は50℃に設定した。60分のめっき処理で0.5μmの金薄膜が得られた。
図1は、硫酸コバルト無添加のめっき浴を用いた場合について、塩酸ヒドロキシルアミンの添加量(mol/l)と、めっき皮膜の硬度(Hv)、結晶粒径(nm)、炭素含有量(原子%)、窒素含有量(原子%)との関係を示すグラフである。
図1から明らかなように、形成される金皮膜は、塩酸ヒドロキシルアミン濃度0.10mol/lでは、硬度Hv120、結晶粒径92nm、炭素含有量0.40原子%、窒素含有量0.41原子%であり、塩酸ヒドロキシルアミン濃度0.30mol/lでは、硬度Hv136、結晶粒径78nm、炭素含有量0.68原子%、窒素含有量0.62原子%であった。この結果から、塩酸ヒドロキシルアミンを添加剤として用いる場合に、添加量の増加とともに硬度、炭素含有量、窒素含有量が増加し、結晶粒径は小さくなることが判る。
図2は、塩酸ヒドロキシルアミンを0.2mol/l添加しためっき浴を用いた場合について、無電解金めっき皮膜中のコバルト含有量(原子%)と、硬度(Hv)、結晶粒径(nm)、炭素含有量(原子%)、窒素含有量(原子%)との関係を示すグラフである。
図2から明らかなように、めっき皮膜中のコバルト含有量が増加した場合に、硬度及び炭素含有量の増加が認められ、結晶粒径及び窒素含有量には大きな変化は認められなかった。この場合、コバルト含有量0.4原子%において、硬度Hv150、結晶粒径72nm、炭素含有量0.78原子%、窒素含有量0.72原子%という高硬度の皮膜が得られ、コバルト含有量1.0原子%では、硬度Hv153、結晶粒径72nm、炭素含有量0.80原子%、窒素含有量0.72原子%となり、更に、硬度の上昇が認められた。
実施例2
下記組成の無電解金めっき液を用いて、後述する条件で無電解金めっき皮膜を形成した。
クエン酸カリウム 0.20 mol/l
エチレンジアミン四酢酸 0.05 mol/l
三塩化チタン 0.05 mol/l
塩酸ヒドラジン 0〜0.20 mol/l
シアン化金(I)カリウム 0.007 mol/l
シアン化カリウム 0.015 mol/l
硫酸コバルト 0〜0.05 mol/l
めっき浴のpHは20%水酸化カリウム溶液および2%塩酸で6.0に調整し、浴温は50℃に設定した。60分のめっき処理で0.6μmの金薄膜が得られた。
図3は、硫酸コバルト無添加のめっき浴を用いた場合について、塩酸ヒドラジンの添加量(mol/l)と、めっき皮膜の硬度(Hv)、結晶粒径(nm)、炭素含有量(原子%)、窒素含有量(原子%)との関係を示すグラフである。
図3から明らかなように、形成される金めっき皮膜は、塩酸ヒドラジン濃度0.05mol/lでは、硬度Hv132、結晶粒径88nm、炭素含有量0.48原子%、窒素含有量0.52原子%であり、塩酸ヒドラジン濃度0.20mol/lでは、硬度Hv143、結晶粒径72nm、炭素含有量0.76原子%、窒素含有量0.72原子%であった。この結果から、塩酸ヒドラジンを添加剤として用いる場合に、添加量の増加とともに硬度、炭素含有量、窒素含有量が増加し、結晶粒径が小さくなることが判る。
図4は、塩酸ヒドラジンを0.2mol/l添加しためっき浴を用いた場合について、無電解金めっき皮膜中のコバルト含有量(原子%)と、硬度(Hv)、結晶粒径(nm)、炭素含有量(原子%)、窒素含有量(原子%)との関係を示すグラフである。
図4から明らかなように、めっき皮膜中のコバルト含有量が増加した場合に、硬度、炭素含有量の増加が認められ、結晶粒径、窒素含有量には大きな変化は認められなかった。この場合、コバルト含有量0.4原子%において、硬度Hv154、結晶粒径71nm、炭素含有量0.78原子%、窒素含有量0.73原子%という高硬度の皮膜が得られ、コバルト含有量1.0原子%では、硬度Hv162、結晶粒径70nm、炭素含有量0.84原子%、窒素含有量0.73原子%となり、更に硬度の上昇が認められた。
実施例3
下記組成の無電解金めっき浴を用い、後述する条件で無電解金めっき皮膜を形成した。
クエン酸カリウム 0.20 mol/l
エチレンジアミン四酢酸 0.10 mol/l
三塩化チタン 0.05 mol/l
塩酸ヒドラジン 0 又は0.10 mol/l
シアン化金(I)カリウム 0.007 mol/l
シアン化カリウム 0.015 mol/l
硫酸コバルト 0 又は0.03 mol/l
被めっき物として基板とリベットを用い、めっき浴のpHを20%水酸化カリウム溶液および2%塩酸で6.0に調整し、浴温を50℃に設定して、厚さ0.2μmの金めっき皮膜を形成した。
塩酸ヒドラジンと硫酸コバルトを共に含有しないめっき液を用いた場合には、形成された金めっき皮膜は、硬度Hv100、結晶粒径110nm、炭素含有量0.12原子%、窒素含有量0.22原子%であり、塩酸ヒドラジンを0.10mol/l添加し、硫酸コバルト無添加のめっき液を用いた場合には、形成された金めっき皮膜は、硬度Hv141、結晶粒径72nm、炭素含有量0.72原子%、窒素含有量0.68原子%であった。更に、塩酸ヒドラジン0.10mol/lと硫酸コバルト0.03mol/lを含有するめっき液を用いた場合には、形成された金めっき皮膜は、硬度Hv160、結晶粒径70nm、炭素含有量0.82原子%、窒素含有量0.73原子%、コバルト含有量0.60原子%であり、非常に高硬度の金めっき皮膜となった。
次いで、形成された金めっき皮膜について耐磨耗性を評価した。まず、金めっき皮膜を形成した基板とリベットを0.5Nの荷重にて接触させ、そのときの接触抵抗を測定した。次いで、リベット側を距離50μm、速度10mm/minの条件にて摺動させ、その摺動回数による接触抵抗の変化を求めた。
この試験法は、金めっき皮膜が摺動によって摩耗すると、その下地であるニッケルが露出し、接触抵抗が大きく増加することを利用して、耐磨耗性を評価する方法である。図5は、各組成(原子%)のめっき皮膜について、摺動回数と抵抗摩擦との関係を示すグラフである。
Au含有量が99.2原子%という高純度の金皮膜は摺動回数5000回以上で接触抵抗が大きく増加した。
これに対して、Au含有量95.8原子%、C含有量0.7原子%、窒素含有量0.7原子%の皮膜と、Au含有量95.5原子%、C含有量0.9原子%、窒素含有量0.7原子%、コバルト含有量0.6原子%の皮膜は、いずれも、摺動数30000回においても接触抵抗の大きな変化は認められず、十分な耐磨耗性を有するものであった。
実施例4〜13
被めっき物として、0.1mm厚の銅板、0.1mm厚のニッケル板、0.1mm厚のコバルト板、0.1mm厚の金板、0.1mm厚のパラジウム板、0.1mm厚の銅板に10μmのニッケル-リン合金薄膜を施した試片、0.1mm厚のニッケル板に10μmの金-ニッケル合金薄膜を施した試片、0.5mm厚のシリコン基板に0.1μmの銅薄膜を施した試片、1.6mm厚のガラスエポキシ基板に15μmの銅薄膜を施した試片、及び0.5mm厚のポリイミド基板に0.1μmの銅薄膜を施した試片の各試料を用いて、下記組成の無電解金めっき液中で無電解めっき皮膜を形成した。
クエン酸カリウム 0.20 mol / l
エチレンジアミン四酢酸 0.05 mol / l
三塩化チタン 0.05 mol / l
塩酸ヒドラジン 0.10 mol / l
シアン化金(I)カリウム 0.007 mol / l
シアン化カリウム 0.015 mol / l
硫酸コバルト 0.03 mol / l
めっき浴のpHは20%水酸化カリウム溶液および2%塩酸で6.0に調整し、浴温は50℃に設定した。それぞれの試片に形成された金薄膜の組成、膜厚、硬度(Hv)を表1に示す。
Figure 0004508724
無電解金めっき皮膜と電解金めっき皮膜との均一性比較試験
次に、下記の方法で、本発明方法によって得られた無電解金めっき皮膜と、電解めっき法によって形成された金めっき皮膜との均一性の比較試験を行った。
比較試験1
図6に示す断面形状を有するマイクロコネクターを被めっき物として、下記の方法で無電解金めっき皮膜と電解金めっき皮膜の均一性を評価した。被めっき物としたマイクロコネクターは、図6に示す形状のニッケル金属層2をシリコン基板1上に形成したものである。
まず、下記組成の無電解金めっき浴を用いて、無電解金めっき皮膜3を形成した。
クエン酸カリウム 0.20 mol/l
エチレンジアミン四酢酸 0.10 mol/l
塩化チタン 0.05 mol/l
塩酸ヒドラジン 0.10 mol/l
シアン化金(I)カリウム 0.007 mol/l
シアン化カリウム 0.015 mol/l
めっき浴のpHは20%水酸化カリウム溶液および2%塩酸で6.0に調整し、浴温は50℃に設定した。60分のめっき処理で0.5μmの金薄膜が得られた。この金薄膜はビッカース硬度141Hvであった。
次に同様の被めっき物に対して、下記組成の電解金めっき浴を用いて、金薄膜を形成した。
リン酸二水素カリウム 0.74 mol/l
シアン化金(I)カリウム 0.15 mol/l
めっき浴のpHは20%水酸化カリウム溶液および10%リン酸で7.0に調整し、浴温を25℃に設定して、電流密度20mA/cm2で電解めっきを行った。形成された電解金めっき薄膜のビッカース硬度は180Hvであった。
上記した方法で形成された金薄膜の内で、無電解金めっき法で形成された金薄膜は、図6のA部分とB部分の膜厚がいずれも0.6μmであり、均一性が良好であった。
一方、電解金めっき法で形成された金薄膜は、図6のA部分の膜厚が1.0μm、B部分の膜厚が0.6μmであり、膜厚の均一性が劣るものであった。
このような膜厚の均一性の相違は、無電解金めっき方法では活性な金属面に均一な金薄膜を形成できるのに対して、電解金めっき方法では電流分布の偏りが生じたため、形成される金薄膜の膜厚が不均一になることによるものと考えられる。
比較試験2
比較試験1と同様のマイクロコネクターを被めっき物として、下記組成の無電解金めっき浴を用いて、無電解金めっき皮膜を形成した。
クエン酸カリウム 0.20 mol/l
エチレンジアミン四酢酸 0.10 mol/l
三塩化チタン 0.05 mol/l
塩酸ヒドラジン 0.10 mol/l
シアン化金(I)カリウム 0.007 mol/l
シアン化カリウム 0.015 mol/l
硫酸コバルト 0.03 mol/l
めっき浴のpHは20%水酸化カリウム溶液および2%塩酸で6.0に調整し、浴温は50℃に設定した。60分のめっき処理で0.4μmの金薄膜が得られた。この金薄膜のビッカース硬度161Hvであった。
次に同様の被めっき物に対して、下記組成の電解金めっき浴を用いて、金めっき皮膜を形成した。
クエン酸カリウム 1.0 mol/l
シアン化金(I)カリウム 0.05 mol/l
硫酸コバルト 0.004 mol/l
めっき浴のpHは20%水酸化カリウム溶液および10%硫酸で3.6に調整し、浴温は30℃に設定して、電流密度5mA/cm2で電解めっきを行った。形成された電解金めっき薄膜のビッカース硬度は178Hvであった。
上記した方法で形成された金薄膜の内で、無電解金めっき法で形成された金薄膜は、図6のA部分とB部分の膜厚がいずれも0.5μmであり、均一性が良好であった。
一方、電解金めっき法で形成された金薄膜は、図6のA部分の膜厚が0.8μm、B部分の膜厚が0.5μmであり、膜厚が不均一であった。
比較試験3
比較試験1と同様のマイクロコネクターを被めっき物として、下記組成の無電解金めっき浴を用いて、無電解金めっき皮膜を形成した。
クエン酸カリウム 0.20 mol/l
エチレンジアミン四酢酸 0.10 mol/l
三塩化チタン 0.05 mol/l
塩酸ヒドラジン 0.10 mol/l
シアン化金(I)カリウム 0.007 mol/l
シアン化カリウム 0.015 mol/l
硫酸ニッケル 0.03 mol/l
めっき浴のpHは20%水酸化カリウム溶液および2%塩酸で6.0に調整し、浴温は、50℃に設定した。60分のめっき処理で0.5μmの金薄膜が得られた。この金薄膜のビッカース硬度は、152Hvであった。
次に同様の被めっき物に対して、下記組成の電解金めっき浴を用いて金めっき皮膜を形成した。
クエン酸カリウム 1.0 mol/l
シアン化金(I)カリウム 0.05 mol/l
硫酸ニッケル 0.004 mol/l
めっき浴のpHは20%水酸化カリウム溶液および10%硫酸で3.6に調整し、浴温は30℃に設定して、電流密度5mA/cm2で電解めっきを行った。形成された電解金めっき薄膜のビッカース硬度は182Hvであった。
上記した方法で形成された金薄膜の内で、無電解金めっき法で形成された金薄膜は、図6のA部分とB部分の膜厚がいずれも0.7μmであり、均一性が良好であった。
一方、電解金めっき法で形成された金薄膜は、図6のA部分の膜厚が0.9μm、B部分の膜厚が0.6μmであり、膜厚が不均一であった。
硫酸コバルト無添加のめっき浴を用いた場合について、塩酸ヒドロキシルアミンの添加量と、めっき皮膜の硬度、結晶粒径、炭素含有量、窒素含有量との関係を示すグラフ。 塩酸ヒドロキシルアミンを0.2mol/l添加しためっき浴を用いた場合について、無電解金めっき皮膜中のコバルト含有量と、硬度、結晶粒径、炭素含有量、窒素含有量との関係を示すグラフ。 硫酸コバルト無添加のめっき浴を用いた場合について、塩酸ヒドラジンの添加量と、めっき皮膜の硬度、結晶粒径、炭素含有量、窒素含有量との関係を示すグラフ 塩酸ヒドラジンを0.2mol/l添加しためっき浴を用いた場合について、コバルト含有量と、めっき皮膜の硬度、結晶粒径、炭素含有量、窒素含有量との関係を示すグラフ。 実施例3で行った耐磨耗性試験における摺動回数と接触抵抗との関係を示すグラフ。 比較試験1〜3において被めっき物として用いたマイクロコネクターの断面図。
符号の説明
1 シリコン基板、 2 ニッケル金属層、 3 金めっき皮膜

Claims (8)

  1. 金94.0〜99.3原子%、炭素0.3〜2.0原子%、窒素0.3〜2.0原子%、並びにコバルト及びニッケルからなる群から選ばれた少なくとも一種の重金属0.1〜2.0原子%を含有し、ビッカース硬度が100Hv以上である硬質金薄膜であって、
    該硬質金薄膜が、水溶性金化合物、水溶性三価チタン化合物、錯化剤、分子内にアミノ基を有する水溶性化合物、並びに水溶性コバルト化合物及び水溶性ニッケル化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の水溶性重金属化合物を含有する水溶液からなる硬質金薄膜形成用無電解金めっき液中に被めっき物を浸漬する方法で形成されたものであることを特徴とする、硬質金薄膜。
  2. 水溶性金化合物、水溶性三価チタン化合物、錯化剤、分子内にアミノ基を有する水溶性化合物、並びに水溶性コバルト化合物及び水溶性ニッケル化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の水溶性重金属化合物を含有する水溶液からなる硬質金薄膜形成用無電解金めっき液。
  3. 錯化剤が、アミノ基を有するカルボン酸、オキシカルボン酸、及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項に記載の無電解めっき液。
  4. 分子内にアミノ基を有する水溶性化合物が、ヒドロキシアミン類、エタノールアミン類及びヒドラジン類からなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項2又は3に記載の無電解金めっき液。
  5. 水溶性金化合物0.001〜0.1mol/l、水溶性三価チタン化合物0.005〜0.5mol/l、錯化剤0.01〜1.0mol/l、分子内にアミノ基を有する水溶性化合物0.01〜1.0mol/l、並びに水溶性コバルト化合物及び水溶性ニッケル化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の水溶性重金属化合物0.001〜0.1mol/lを含有する水溶液からなる請求項2〜4のいずれかに記載の無電解金めっき液。
  6. 更に、アルカリ金属シアン化物を含有する請求項2〜5のいずれかに記載の無電解金めっき液。
  7. 請求項2〜6のいずれかに記載の無電解金めっき浴中に被めっき物を浸漬することを特徴とする無電解金めっき方法。
  8. 無電解金めっき液のpHが4〜8であり、液温が40〜80℃である請求項に記載の無電解金めっき方法。
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