本発明のインクジェット記録装置は、それぞれがノズルに連通した複数の圧力室が形成された流路ユニットと、それぞれが前記圧力室に対向する複数の個別電極と、インク吐出に係る前記圧力室に対向しない予備電極と、前記複数の個別電極及び前記予備電極に跨って形成された共通電極と、前記複数の個別電極及び前記予備電極と前記共通電極とによって挟まれた圧電シートとを有するアクチュエータユニットとを備えている。そして、所定電位に保持された基準信号を生成すると共に、生成された基準信号を前記共通電極に供給する基準信号供給手段と、前記基準信号が前記共通電極に供給されているときに、電位が変動するインク吐出信号を画像データに基づいて生成すると共に、生成されたインク吐出信号を各個別電極に供給する吐出信号供給手段と、前記基準信号が前記共通電極に供給されているときに、電位が変動する予備加熱信号を生成すると共に、生成された予備加熱信号を前記予備電極に供給する予備加熱信号供給手段とをさらに備えている。また、前記アクチュエータユニットが前記予備電極を複数有しており、前記予備加熱信号供給手段が、複数の前記予備電極の中の一部だけに予備加熱信号を供給する。
これにより、共通電極に基準信号が供給されているときに、予備電極に予備加熱信号が供給され、アクチュエータユニットの予備電極近傍部分から発生した熱、及び、予備加熱信号供給手段の一部で生じた輻射熱によって流路ユニットが温められる。そのため、流路ユニットの周囲の温度低下によって流路ユニット内の高粘度化したインクを低粘度化することができる。したがって、環境温度の変化に伴うインク吐出特性の変動を抑えることができる。また、複数の前記予備電極の中の一部だけに予備加熱信号を供給することで、消費電力を低下させることが可能になる。
このとき、前記予備加熱信号供給手段は、予備加熱信号が供給される前記予備電極の数を徐々に減少させてもよい。これにより、流路ユニットが温められるに連れて選択された予備電極を減少させることが可能になるので、消費電力をより低下させることが可能になる。
また、このとき、前記流路ユニットには、前記圧力室に供給されるインクが供給されるインク供給口と、前記インク供給口から供給されたインクが貯溜されると共に複数の前記圧力室に連通した共通インク室とが形成されており、前記予備加熱信号供給手段が、前記共通インク室に沿って配置された複数の前記予備電極のうち、少なくとも前記インク供給口に最も近い前記予備電極に予備加熱信号を供給してもよい。これにより、流路ユニットにおいてインク供給口側(共通インク室の上流側)を効果的に温めることが可能になる。そのため、流路ユニット内のインクがインク吐出によって消費されるに連れて温められたインクを流路ユニット内に行きわたらせることが可能になる。
また、このとき、前記予備加熱信号供給手段が、複数の前記予備電極のうち、少なくとも吐出信号及び予備加熱信号を生成する電子部品から最も離れた前記予備電極に予備加熱信号を供給してもよい。これにより、流路ユニット全体をバランスよく温めることが可能になる。したがって、流路ユニット内のインクがほぼ均一に温められる。
また、このとき、前記複数の圧力室が、マトリクス状に二次元配列されており、前記複数の個別電極の各配列方向に関して最も外側にある前記個別電極から前記配列方向外側に離隔した位置にそれぞれ形成された前記予備電極が、前記複数の個別電極を取り囲んでおり、前記流路ユニットにはインクが貯溜される複数の共通インク室が形成されていると共に、前記複数の圧力室のそれぞれが前記ノズルとは反対側においていずれかの前記共通インク室に連通しており、前記吐出信号供給手段が、一又は複数の前記個別電極からなる同じ前記共通インク室に関連した複数の個別電極群のそれぞれについて、前記吐出信号を供給するか否かを選択することが可能であり、前記予備加熱信号供給手段が、一又は複数の前記予備電極からなる同じ前記共通インク室に関連した複数の予備電極群のうち、前記吐出信号供給手段が前記吐出信号を供給することを選択した前記個別電極群に対応する前記予備電極群のみについて、前記予備加熱信号を供給してもよい。これにより、各共通インク室と関連した複数の個別電極群のいずれかを選択することで、選択された個別電極群に対応する予備電極群に予備加熱信号が供給される。そのため、選択された個別電極群に関連した共通インク室内のインクを優先的に温めることが可能になるとともに、消費電力が低下する。
また、このとき、前記複数の圧力室が、マトリクス状に二次元配列されており、複数の前記予備電極が、前記複数の個別電極を取り囲んでいてもよい。これにより、多数の圧力室がマトリクス状に二次元配列されている場合においても、インク吐出特性の変動を抑えることができる。
また、このとき、複数の前記予備電極が、前記アクチュエータユニット上に配置された導電部材を介して互いに電気的に接続されていてもよい。これにより、一つの予備電極に予備加熱信号を供給するだけで複数の予備電極にも予備加熱信号を供給することが可能になる。したがって、予備加熱信号供給手段の構成が簡易となる。
また、このとき、前記導電部材、前記個別電極及び前記予備電極が、前記アクチュエータユニットにおいて前記流路ユニットに接する面とは反対側の面上に形成されており、この面上において前記個別電極及び前記予備電極のさらに外側には前記共通電極に電気的に接続された表面電極が形成されていてもよい。これにより、同一平面上において個別電極と表面電極との間に予備電極が形成されるので、個別電極と表面電極とがマイグレーションに起因して電気的に接続されるのを防止することができる。
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の第1実施形態によるカラーインクジェットプリンタの内部構成を描いた概略斜視図である。図1において、カラーインクジェットプリンタ1内には、ヘッドユニット2が配置されている。ヘッドユニット2のホルダ3には、マゼンタ、イエロー、シアン、ブラックの4色のインクを貯溜するインクタンク4と4色のインクを吐出するインクジェットヘッド5(図3参照)とが固着されている。ホルダ3は、駆動機構10により直線方向(主走査方向)に往復移動するキャリッジ11に固着されている。記録媒体たる用紙Pを搬送する搬送手段としてのプラテンローラ18は、その軸線がキャリッジ11の往復移動方向に沿うように配置され、インクジェットヘッド5と対向している。
キャリッジ11は、プラテンローラ18の支軸と平行に配設されるガイド軸12及びガイド板13によって摺動自在に支持されている。ガイド軸12の両端部の近傍には、プーリー14,15が支持され、これらプーリー14,15の間に無端ベルト16が架け渡されている。キャリッジ11は、この無端ベルト16の適宜の位置に固定されている。
このような駆動機構10の構成において、一方のプーリー14がモータ17の駆動により正逆回転すると、キャリッジ11がガイド軸12及びガイド板13に沿って直線方向に往復移動するため、これに伴ってヘッドユニット2も往復移動する。
用紙Pは、インクジェットプリンタ1の側方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙され、インクジェットヘッド5とプラテンローラ18との間の空間に導かれて、インクジェットヘッド5から吐出されるインクにより印刷が施された後に排紙される。なお、図1においては、用紙Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
また、インクジェットプリンタ1内には、図1中左下方に示すパージ機構20(メンテナンスユニット)が設けられている。パージ機構20は、パージキャップ21でインクジェットヘッド5の下面の一部を覆ってインクジェットヘッド5の内部に溜まる気泡やゴミなどを含んだ不良インクを強制的に吸引して除去するためのものである。
パージキャップ21には、上方に向かって開口した凹部21aが形成されている。パージキャップ21は、カム22の回転により上下方向に移動可能となっている。つまり、インクジェットヘッド5がパージキャップ21に対向する位置に配置されたときに、カム22の回転により、パージキャップ21の凹部21aを囲む側壁の先端をインクジェットヘッド5のインク吐出面40a(図3参照)に当接することで、パージキャップ21の凹部21a内が閉鎖空間となる。この状態で、ポンプ23(減圧手段)が駆動され閉鎖空間が減圧されることで、インクジェットヘッド5内のインクがノズル53(図7参照)からパージキャップ21内に吸引される。こうして、吸引されたインクを廃インク溜め24に廃棄することでインクジェットヘッド5の復旧を行うようにしている。なお、図1に示す4つのキャップ25は、印刷が終了してリセット位置(パージ機構20に対向する位置)に戻されるキャリッジ11上のインクジェットヘッド5のノズル53をすべて覆って、インクの乾燥を防止するためのものである。
図2は、図1に示すヘッドユニット2の斜視図である。図3は、図2のIII−III線における断面図であり、ヘッドユニット2を構成するホルダ3にインクタンク4及びインクジェットヘッド5が組み付けられた状態を示している。図4は、図3に示すインクジェットヘッド5にフレームが接着された状態を示す斜視図である。ヘッドユニット2は、図2に示すように、略直方体形状を有するホルダ3と、ホルダ3内に配置されたインクタンク4と、インクタンク4の下方に配置されたインクジェットヘッド5とを備えている。
インクタンク4には、図3中左方からマゼンタ、イエロー、シアン、ブラックのインクが順にそれぞれ貯留された4つのインク室6が形成されている。インク室6は、対応するチューブ29(図2参照)と接続されており、各色のインクが供給されるようになっている。インクタンク4は、平面矩形形状のフレーム30に組み付けられている。このフレーム30は、ホルダ3に紫外線硬化型接着剤31で固着されている。このフレーム30には、アクチュエータユニット42が窓32内に配置されるようにしてインクジェットヘッド5が固着されている。
インクジェットヘッド5は、それぞれの色ごとに複数のインク流路が形成された流路ユニット41と流路ユニット41の上面にエポキシ系の熱硬化性接着剤によって接着されたアクチュエータユニット42とで構成されたヘッド本体40と、ヘッド本体40の上方に接合されたフレキシブルプリント配線板(FPC)50とを含んでいる。図4に示すように、流路ユニット41及びアクチュエータユニット42はともに、長方形平面形状を有する複数の薄板を積層して構成され、インクタンク4の下方に配置されている。流路ユニット41の上面には、アクチュエータユニット42を避けて、平面形状が楕円形状の4つのインク供給口41a(図5参照)が形成されている。フレーム30には、フレーム30に形成された貫通孔33と流路ユニット41に形成されたインク供給口41aとがそれぞれ連なるようにして流路ユニット41が接着されている。この構成により、インクタンク4内のインクが、インクタンク4のインク導出口7及びフレーム30の貫通孔33を通ってそれぞれに対応する流路ユニット41のインク供給口41aから流路ユニット41内に供給される。
図3に示すように、ヘッド本体40は、インク吐出面40aが外部に露出するようにホルダ3の段付き状の窓8aに配置されている。ホルダ3と流路ユニット41との隙間には、シール剤35が配置されている。なお、ヘッド本体40の底面は微小径を有する多数のノズル53が配列されたインク吐出面40aとなっている。
アクチュエータユニット42の上面に接合されたFPC50は、図3に示すように主走査方向の一方に引き出されるとともに、屈曲しながら上方に引き出されている。また、アクチュエータユニット42に接合されたFPC50は、スポンジなどの弾性部材27を介してインクタンク4の側面に沿うように引き出され、このFPC50上にドライバIC51が設置されている。一方で、FPC50は、ドライバIC51から出力された吐出信号、スタンバイ信号、基準信号及び予備加熱信号をアクチュエータユニット42に伝達するように、ハンダ付けによって電気的にアクチュエータユニット42に接合されている。なお、FPC50上には、温度センサ55(図5参照)が配置されており、インクジェットヘッド5近傍の周囲温度を計測している。これにより、インクジェットヘッド内のインクの温度が、どの程度の温度状態であるかをしることが可能となる。
FPC50の基端は、インクジェットプリンタ1内に設けられた制御部101(図11参照)に接続されている。後述するように、制御部101は、各ノズル53からのインク吐出量を順次指示する印刷信号、周縁電極65の駆動を順次指示する周縁電極駆動信号、互いに異なる3種類のインク吐出量に対応した3つの波形パターン信号、スタンバイ電位(例えば20V)と称される正電位に保持された高電位信号、高電位信号よりも低い正電位(例えば3.3V)に保持された低電位信号、及び、接地電位に保持された基準信号をドライバIC51に供給する。そして、ドライバIC51は、これらの信号に基づいて、スタンバイ電位と接地電位とを交互に繰り返す吐出信号及び予備加熱信号を対応する各個別電極60及び各周縁電極65について生成する。
図3において、ホルダ3のドライバIC51に対向する側壁には、ドライバIC51の熱を外部に放散する為の窓8bが形成されている。さらに、ドライバIC51と窓8bとの間には、略直方体形状のアルミ板からなるヒートシンク28が配置されている。さらに、ドライバIC51は、間にFPC50を挟んで弾性部材27によりヒートシンク28に対して押圧されている。これらヒートシンク28及び窓8bにより、ドライバIC51で発生した過剰な熱を効率的に散逸させることができる。これにより、ドライバIC51の過剰な発熱による故障を防ぐことができる。また、窓8b内には、ホルダ3の側壁とヒートシンク28の隙間を埋めるためのシール剤36が配置されており、ヘッドユニット2内にゴミやインクが外部から侵入することを防いでいる。
図5は、インクジェットヘッド5の平面図である。図5に示すように、インクジェットヘッド5のヘッド本体40は、流路ユニット41の長手方向(副走査方向)に延在した矩形平面形状を有している。図5において、流路ユニット41内には、流路ユニット41の長手方向に沿って互いに平行に延在した4つのマニホールド(共通インク室)45が形成されている。これらマニホールド45には、流路ユニット41の4つのインク供給口41aを通じてインクタンク4のインク室6からそれぞれインクが供給される。本実施の形態では、図5中の4つのマニホールド45は上方から下方に向かって順にマゼンタ、イエロー、シア及びブラックに対応するマニホールド45M,45Y,45C,45Kとなっている。これら4つのマニホールド45M,45Y,45C,45Kのうち、3つのマニホールド45M,45Y,45Cは流路ユニット41の幅方向(主走査方向)において等間隔に配置されており、マニホールド45Kは、3つのマニホールド45M,45Y,45Cの配置間隔より大きい間隔でマニホールド45Cから離隔された位置(図5中流路ユニット41の下方位置)に形成されている。また、流路ユニット41の上面であって4つのインク供給口41aを覆う位置には、フィルタ44が配置されている。フィルタ44は、各インク供給口41aと重なる位置に複数の微小孔が形成されている。これにより、インクタンク4から流路ユニット41内に供給されるインク中のゴミなどがフィルタ44によって捕獲される。
流路ユニット41の上面には、平面形状が長方形形状のアクチュエータユニット42が、インク供給口41aを避けたほぼ中央部分に接着されている。アクチュエータユニット42に対向する流路ユニット41の接着領域には、マトリクス状に配列された多数の圧力室46(図7参照)が形成されている。言い換えると、アクチュエータユニット42はすべての圧力室46に跨る寸法を有している。
図6は、図5内に描かれた一点鎖線で囲まれた領域の拡大図である。流路ユニット41には、複数の圧力室46がマニホールド45の延在方向(配列方向A)と平行に配列された16本の圧力室列47が形成されている。図6に示すように、16本の圧力室列47は、マニホールド45Cとマニホールド45Kとの間の境界部38を挟んで、隣接した12本の集団と4本の集団と分けられている。複数の圧力室46は、流路ユニット41において1つの配列パターンが形成されるように規則的に配列されている。
流路ユニット41に形成された圧力室46は、角部にアールが施された略菱形の平面形状を有しており、その長い方の対角線は流路ユニット41の幅方向(主走査方向)に平行である。各圧力室46の一端はノズル53に連通しており、他端はアパーチャ54を介してマニホールド45に連通している。これにより、各マニホールド45には、ノズル53に連通して圧力室46ごとに形成された多数の個別インク流路9(図7参照)が接続されている。図6には、図面を分かりやすくするために流路ユニット41内にあって破線で描くべき圧力室46、アパーチャ54及びノズル53等を実線で描いている。
図7は、個別インク流路を示す断面図であり、図6に示すVII−VVII線に沿った断面図である。図7から分かるように、各ノズル53は、圧力室46及びアパーチャ(すなわち絞り)54を介してマニホールド45と連通している。すなわち、マニホールド45の出口からアパーチャ54、圧力室46を経てノズル53に至る1つの流路が構成されている。このようにして、ヘッド本体40には、個別インク流路9が圧力室46ごとに形成されている。
ヘッド本体40は、流路ユニット41とアクチュエータユニット42とを含んでいる。このうち、流路ユニット41は、上から、キャビティプレート81、ベースプレート82、アパーチャプレート83、サプライプレート84、マニホールドプレート85〜88及びノズルプレート89の合計9枚のシート材が積層された積層構造となっている。
アクチュエータユニット42は、後で詳述するように、4枚の圧電シート91〜94(図8参照)の積層体である。4枚の圧電シート91〜94のうちの最上層だけが電界印加時に活性部となる部分を有する層(以下、単に「活性部を有する層」というように記する)とされ、残り3層が活性部を有しない非活性層とされたものである。なお、活性部を有する層となる総数は、要求されるアクチュエータユニット42の変位量に応じて適宜決められるものであり、本実施の形態のように1層に限るものではない。すなわち、複数層積層することもできる。
キャビティプレート81は、圧力室46を構成するほぼ菱形の孔が、アクチュエータユニット42の貼付範囲(接着領域)内に多数設けられた金属プレートである。ベースプレート82は、キャビティプレート81の1つの圧力室46について、圧力室46とアパーチャ54との連絡孔及び圧力室46からノズル53への連絡孔がそれぞれ設けられた金属プレートである。
アパーチャプレート83は、キャビティプレート81の1つの圧力室46について、アパーチャ54となる孔のほかに圧力室46からノズル53への連絡孔がそれぞれ設けられた金属プレートである。サプライプレート84は、キャビティプレート81の1つの圧力室46について、アパーチャ54とマニホールド45との連絡孔及び圧力室46からノズル53への連絡孔がそれぞれ設けられた金属プレートである。マニホールドプレート85〜88は、マニホールド45に加えて、キャビティプレート81の1つの圧力室46について、圧力室46からノズル53への連絡孔がそれぞれ設けられた金属プレートである。ノズルプレート89は、キャビティプレート81の1つの圧力室46について、ノズル53がそれぞれ設けられた金属プレートである。
これら9枚のシート81〜89とアクチュエータユニット42は、図7に示すような個別インク流路9が形成されるように、互いに位置合わせして積層されている。この個別インク流路9は、マニホールド45からまず上方へ向かい、アパーチャ54において水平に延在し、それからさらに上方に向かい、圧力室46において再び水平に延在し、それからしばらくアパーチャ54から離れる方向に斜め下方に向かってから垂直下方にノズル53へと向かう。
図7から明らかなように、各プレートの積層方向において圧力室46とアパーチャ54とは異なるレベルに設けられている。これにより、図6に示すように、アクチュエータユニット42に対向した流路ユニット41内において、1つの圧力室46と連通したアパーチャ54を、当該圧力室46に隣接する別の圧力室46と平面視で同じ位置に配置することが可能となっている。この結果、圧力室46同士が密着して高密度に配列されるため、比較的小さな占有面積のインクジェットヘッド5により高解像度の画像印刷が実現される。
図6に戻って、各圧力室46は、その長い対角線の一端においてノズル53に連通していると共に、長い対角線の他端においてアパーチャ54を介してマニホールド45に連通している。後述するように、アクチュエータユニット42上には、平面形状がほぼひし形で圧力室46よりも一回り小さい個別電極60(図8参照)が、圧力室46と対向するようにマトリクス状に配列されている。さらに、アクチュエータユニット42上には、個別電極60と同じ平面形状及び平面サイズの周縁電極65が、複数の個別電極60を取り囲むように配置されている。なお、図6には、図面を簡略にするために、複数の個別電極60及び周縁電極65のうちの幾つかだけを描いているとともに、個別電極60のみハッチングを施している。
配列方向A及び配列方向Bの2方向にマトリクス状に隣接配置された圧力室46は、配列方向Aに沿って解像度に対応した間隙に配置されている。配列方向Aは、流路ユニット41の長手方向であって、圧力室46の短い方の対角線と平行である。配列方向Bは、配列方向Aと鈍角θをなす圧力室46の一斜辺方向である。本実施の形態では、各圧力室列47に属する圧力室46に連通するノズル53が配列方向Aに関して37.5dpiに相当する距離ずつ離隔している。各ノズル53の配列方向Aに延びる直線に対する射影点は、印字解像度である150dpiに相当する間隔ずつ離隔している。これは、後述する4つの圧力室列群内で相対位置関係が同じ4つのノズル53は、配列方向Aに延びる直線上の同じ位置に射影されるからである。なお、すべてのノズル53の射影した点の位置が重ならないようにすれば、ノズル53の射影点の間隔を600dpiに相当する間隔ずつ離隔させることができるが、本実施の形態では色ごと(圧力室列群ごと)に複数のノズル53を4つの集団に分け、さらに各集団におけるノズル53の射影点の間隔が600dpiの1/4倍の解像度(150dpi)に相当する間隔としている。このような解像度に対応して隣接する圧力室46は配列方向Aに沿って37.5dpiに相当する距離ずつ離隔している。また、圧力室46は、流路ユニット41の接着領域内において、配列方向Bに沿って境界部38を挟むようにして16個並べられているとともに、図6の紙面に対して垂直な方向から見て、配列方向Cに沿って境界部38を挟むようにして8個並べられている。
マトリクス状に配置された多数の圧力室46は、図6に示す配列方向Aに沿って、複数の圧力室列47を形成している。複数の圧力室列47は、図6の紙面に対して垂直な方向から見て、各マニホールド45との相対位置に応じて、第1の圧力室列47a、第2の圧力室列47b、第3の圧力室列47c、及び、第4の圧力室列47dに分けられる。これら第1〜第4の圧力室列47a〜47dは、流路ユニット41の幅方向(主走査方向)における一方から他方(図6中下方から上方)に向けて、47c→47a→47d→47b→47c→47a→・・・47bという順番で周期的に4個ずつ配置されている。これら周期的に配置されて隣接した第1〜第4の圧力室列47が1つの圧力室列群(圧力室群)48を形成している。そのため、流路ユニット41の接着領域には、4つの圧力室列群48が形成されている。
各圧力室列群48に属するすべての圧力室46は、同じマニホールド45とそれぞれアパーチャ54を介して連通している。つまり、各圧力室列群48はマニホールド45毎に形成されているため、4つの圧力室列群48は4色のインクに対応する圧力室列群48M,48Y,48C,48Kとなっている。これら4つの圧力室列群48M,48Y,48C,48Kのそれぞれに属する圧力室46がアクチュエータユニット42によって容積変化されることで4色のインクを各圧力室列群48に属する圧力室46と連通したノズル53から吐出することが可能になる。
図6に示すように圧力室列群48の第1の圧力室列47aを構成する圧力室46a及び第3の圧力室列47cを構成する圧力室46cにおいては、図6の紙面に対して垂直な方向から見て、配列方向Cに関して、ノズル53が図6の紙面下側に偏在している。そして、ノズル53が、それぞれ対応する圧力室46の下端部の左側付近と隣接している。一方、第2の圧力室列47bを構成する圧力室46b及び第4の圧力室列47dを構成する圧力室46dにおいては、配列方向Cに関して、ノズル53が図6の紙面上側に偏在している。そして、ノズル53が、それぞれ対応する圧力室46の上端部の右側付近と隣接している。第1及び第4の圧力室列47a、47dにおいては、図6の紙面に対して垂直な方向から見て、圧力室46a、46dの半分以上の領域が、マニホールド45と重なっている。第2及び第3の圧力室列47b、47cにおいては、図6の紙面に対して垂直な方向から見て、圧力室46b、46cのほぼ全領域が、マニホールド45と重なっていない。そのため、いずれの圧力室列47に属する圧力室46についてもこれに連通するノズル53がマニホールド45と重ならないようにしつつ、マニホールド45の幅を可能な限り広くして各圧力室46にインクを円滑に供給することが可能となっている。
また、流路ユニット41のインク吐出面40aにおいて、ノズル53が境界部38と対向する位置に形成されていないため、インク吐出面40aにはブラック色のインクを吐出する複数のノズル53によって構成されたブラック領域と、マゼンタ、イエロー及びシアン色のインクを吐出する複数のノズル53によって構成された有彩色領域とに分けられることになる。
このように、インク吐出面40aにおいて境界部38と対向する領域を挟んで有彩色領域とブラック領域とに分けられることで、ブラックインクが吐出される複数のノズル53と有彩色インクが吐出される複数のノズル53とが離隔された構成となる。そのため、流路ユニット41のインク吐出面40aのメンテナンス時において、ブラックインクと有彩色インクとの混色を抑制することができる。つまり、インク吐出面40aのメンテナンスは、板状の弾性部材からなるブレード(図示せず)でインク吐出面40aに付着した各色のインクを拭き取る。ブラック領域と有彩色領域とが近接していると、ブラックインクがブレードに沿って有彩色領域に移動し、有彩色インクを吐出するノズル53の出口付近にブラックインクが残留してブラックインクと有彩色インクとが混色を起こしてしまう。しかし、本実施の形態のように、ブラック領域と有彩色領域とが離隔されることで、インク吐出時のメンテナンス時にブラックインクがブレードに沿って移動しても有彩色領域にまで到達しにくくなり、ブラックインクと有彩色インクとの混色が起こりにくくなる。
次に、アクチュエータユニット42及びFPC50の構成について説明する。アクチュエータユニット42上には、圧力室46と同じ配列パターンで配置された複数の個別電極60と、複数の個別電極60を取り囲むように配置された複数の周縁電極65とが形成されている。各個別電極60は、平面視において圧力室46と対向する位置に配置されている。複数の個別電極60及び複数の周縁電極65は、両者を区別のないものと考えたときに、流路ユニット41において1つの配列パターンが形成されるように規則的に等間隔に配列されている。なお、複数の個別電極60どうしは、隣接する個別電極60どうしが同時にインク吐出するために駆動されても、互いの個別電極60の駆動によるインク吐出に影響しにくい、いわゆるクロストークの影響を受けにくい間隔となっている。これにより、周縁電極65が個別電極60間の距離と同じ距離だけ隣接した個別電極60と離隔されているので、周縁電極65が後述のように駆動されても、その駆動の影響が隣接した個別電極60の駆動によるインク吐出に影響しにくくなっている。加えて、周縁電極65は複数の個別電極60を取り囲むように外側に配置されているので、周縁電極65の駆動の影響においても一部の方向に限定される。つまり、複数の個別電極60の内側に周縁電極65が配置さていると、周縁電極65の駆動の影響は周囲の個別電極60のすべてに影響する可能性があるが、本発明においてはそれがない。したがって、クロストークの影響をさらに抑制することが可能になる。
図8は、アクチュエータユニット42を示しており、(a)は図7における一点鎖線で囲まれた部分の拡大図であり、(b)は個別電極の平面図である。図9は、アクチュエータユニット46の部分拡大平面図である。図10は、図5に示すインクジェットヘッド5の部分拡大平面図である。なお、図9においては、個別電極60にのみハッチングを施し、周縁電極65と区別しやすくしている。また、図10には、図面を分かりやすくするために破線で描くべき配線パターン112、信号線56及び端子113などを実線で描いている。図8(a)、(b)に示すように、個別電極60は、平面視において圧力室46の平面領域内に形成された主電極領域61aと、主電極領域61aにつながっており且つ圧力室46の平面領域外に形成された補助電極領域61bとから構成されている。
図8(a)に示すように、アクチュエータユニット46は、それぞれ厚みが15μm程度で同じになるように形成された4枚の圧電シート91,92,93,94を含んでいる。これら圧電シート91〜94は、複数の圧力室46に跨って配置されるように連続した層状の平板(連続平板層)となっている。圧電シート91〜94が連続平板層として複数の圧力室46に跨って配置されることで、例えばスクリーン印刷技術を用いることにより圧電シート91上に個別電極60及び周縁電極65を高密度に配置することが可能となっている。そのため、各個別電極60に対向する圧力室46をも高密度に配置することが可能となって、高解像度画像の印刷ができるようになる。圧電シート91〜94は、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなるものである。
最上層の圧電シート91上に形成された個別電極60の主電極領域61aは、図8(b)に示すように、圧力室46とほぼ相似である略菱形の平面形状を有している。補助電極領域61bは、主電極領域61aの一方の鋭角部から圧力室46の長い方の対角線と平行な方向(すなわち、配列方向C)に延出されている。補助電極領域61bの先端には、円形のランド62が設けられている。図8(b)に示すように、ランド62は、キャビティプレート81において圧力室46が形成されていない領域に対向している。ランド62は、例えばガラスフリットを含む金からなり、図8(a)に示すように、補助電極領域61bにおける先端表面上に形成されている。また、周縁電極65は、図9に示すように、個別電極60と同じ構成を有している。つまり、周縁電極65は、略菱形の平面形状の主電極領域66aと、主電極領域66aにつながった補助電極領域66bとを有し、補助電極領域66bの先端上にランド67が設けられている。
図9に示すように、キャビティプレート81の圧力室46の配列態様に対応して、複数の個別電極60は配列方向A(副走査方向)に沿って互いに平行に配列された複数の個別電極列63を形成している。複数の個別電極列63は圧力室列47a〜47dのそれぞれに対応するように個別電極列63a〜63dに分けられている。さらに、これら個別電極列63a〜63dを1つの群として、4つの圧力室列群48に対応する4つの個別電極列群64M,64Y,64C,64Kが形成されている。なお、本実施の形態において、4つの個別電極列群64のうち、図9において上方に位置する2つの個別電極列群64M,64Yに属する個別電極60の補助電極領域61bが上方側に配置されており、他の2つの個別電極列群64C,64Kに属する個別電極60の補助電極領域61bが下方側に配置されている。
複数の周縁電極65は、配列方向A及び配列方向C(主走査方向)に沿って平行に配列された複数の周縁電極列68,69を形成している。つまり、複数の周縁電極65は、個別電極列群64Cと個別電極列群64Kとの間にある互いに隣接した4列の周縁電極列68と、この互いに隣接した4列の周縁電極列68との間で3つの個別電極列群64M,64Y,64Cと1つの個別電極列群64Kとをそれぞれ挟む位置に配列された2列の周縁電極列68と、各個別電極列63の配列方向Aの両端部外側にそれぞれ位置する2列の周縁電極列69とを構成するように配列されている。
また、複数の周縁電極65は、1つの個別電極列群64Kの周囲を取り囲む無彩色用周縁電極群97と、3つの個別電極列群64M,64Y,64Cの周囲を取り囲む有彩色用周縁電極群98と、両電極群97,98との間に配置され前述の周縁電極列68のうちの内側の2列がなす境界用周縁電極群99とを構成している。つまり、無彩色用周縁電極群97は、図9において、最も下方に位置する周縁電極列68に属する周縁電極65と、隣接した4列のうちの下方に位置する周縁電極列68に属する周縁電極65と、これら2列の周縁電極列68間に存在する周縁電極列69に属する周縁電極65とによって構成されている。有彩色用周縁電極群98は、図9において、最も上方に位置する周縁電極列68に属する周縁電極65と、隣接した4列のうちの上方に位置する周縁電極列68に属する周縁電極65と、これら2列の周縁電極列68間に存在する周縁電極列69に属する周縁電極65とによって構成されている。
また、複数の周縁電極65の補助電極領域66bは、隣接する個別電極60の補助電極領域61bと同方向を向くように形成されている。例えば、図9に示すように、最も上方に位置する周縁電極列68では、これに属する周縁電極65の補助電極領域66bが、隣接する個別電極60と同様に、図9中上方に配置されている。逆に、最も下方に位置する周縁電極68では、その補助電極領域66bが図9中下方に配置されている。さらに、各個別電極列63の配列方向Aの延長線上に位置する周縁電極65においても、これに隣接する個別電極60と同様にそれぞれの補助電極領域66bが配置されている。そのため、周縁電極列69は、隣接する個別電極60に対応して、互いに反対方向に配置された補助電極領域66bを有する2種類の周縁電極68から構成されている。
図9に示すように、複数の周縁電極65は、アクチュエータユニット42の上面上に形成された導電部材75,76によってそれぞれ連結されている。このうち、導電部材75は、個別電極列群64Kを取り囲むように配設されている。この導電部材75は、全体的には無彩色用周縁電極群97に属する周縁電極65を連結するものである。さらに、導電部材75は、境界用周縁電極群99の下側に配列された周縁電極65とも連結している。また、導電部材75は、無彩色用周縁電極群97に属する周縁電極65に関して、これと隣接する個別電極60から最も離れた領域どうしを連結するように形成されている。
導電部材76も導電部材75と同様に、有彩色用周縁電極群98を構成する周縁電極65を電気的に連結し、境界用周縁電極群99の上方側に配列された周縁電極65とも連結している。また、導電部材76は、有彩色用周縁電極群98に属する周縁電極65に関して、これと隣接する個別電極60から最も離れた領域どうしを連結するように形成されている。
アクチュエータユニット42の上面には、図9に示すように、配列方向Cに沿って断続的に形成された表面電極70が周縁電極列69の外側近傍に形成されている。表面電極70は、アクチュエータユニット42の厚み方向に貫通したスルーホール(図示せず)内に充填された導体を介して後述の共通電極72と電気的に接続されている。また、複数の表面電極70のうち、図9中最も下方に位置する表面電極70には、FPC50と電気的に接続されるランド71が形成されている。このランド71も上述したランド62,67と同じ材料から構成されている。
図8(a)に戻って、最上層の圧電シート91とその下側の圧電シート92との間には、圧電シート91と同じ外形及び略2μmの厚みを有する共通電極72が介在している。個別電極60、周縁電極65及び共通電極72は共に、例えばAg−Pd系などの金属材料からなる。
圧電シート91において、複数の個別電極60及び複数の周縁電極65とそれぞれ対向する領域は、同じ方向で同じ程度の大きさに分極が施された状態になっている。つまり、インクジェットヘッド5の製造時に、共通電極72を接地電位に保持し、個別電極60と周縁電極65とに同じ高い正電位(例えば、40V程度の電位)を与えて分極処理が行われているとする。これにより、圧電シート91において分極した領域の分極方向は、圧電シート91の厚み方向と平行であって個別電極60及び周縁電極65から共通電極72に向かう方向となっている。なお、分極方向を逆方向にする場合は、個別電極60及び周縁電極65を接地電位とし、共通電極72に高い正電位を与えればよい。
FPC50は、図8(a)に示すように、ベースフィルム111と、その下面に形成された配線パターン112及び信号線56(図10参照)と、ベースフィルム111の下面のほぼ全体を覆うカバーフィルム115とを含んでいる。図10に示すように、配線パターン112は、複数の個別電極60のそれぞれと電気的に接続される複数の個別配線117と、複数の周縁電極65と導電部材75,76毎にそれぞれ電気的に接続される複数の周縁配線118と、表面電極70と電気的に接続される共通配線119とを有している。個別配線117、周縁配線118及び共通配線119はともに、FPC50の延在方向に沿って延在しており、それらの基端側がドライバIC51に電気的に接続されている。
また、FPC50のベースフィルム111上には、温度センサ55が配置されている。温度センサ55は、アクチュエータユニット42と対向する領域に隣接し、流路ユニット41と対向する領域に配置されている。つまり、温度センサ55は、流路ユニット41の周囲温度を計測することが可能になっている。流路ユニット41の周囲温度は、インクの温度を反映したものとなっている。信号線56は、温度センサ55と接続されており、FPC50の延在方向に沿って延在しつつ、FPC50の基端において制御部101と電気的に接続されている。
カバーフィルム115には、各配線117〜119の先端と対向する位置に貫通孔116がそれぞれ形成されている。ベースフィルム111、各配線117〜119、及び、カバーフィルム115は、各貫通孔116の中心と各配線117〜119の中心線とが対応し、各配線117〜119の先端外周縁部分がカバーフィルム115に覆われるように、互いに位置合わせして積層されている。FPC50の複数の端子113は、各貫通孔116を介して、配線117〜119とそれぞれ接続されている。
ベースフィルム111及びカバーフィルム115は、いずれも絶縁性を有するシート部材である。本実施の形態において、ベースフィルム111はポリイミド樹脂からなり、カバーフィルム115は感光性材料からなる。このようにカバーフィルム115を感光性材料から構成することで、多数の貫通孔116を形成するのが容易になる。
また、配線パターン112の各配線117〜119及び信号線56は、銅箔により形成されている。端子113は、例えばニッケルなどの導電性材料から構成されている。端子113は、貫通孔116を塞ぐと共に、貫通孔116の外側周縁を覆い、カバーフィルム115の下面より若干突出して形成されている。
図10に示すように、複数の端子113は、各個別電極60のランド62、周縁電極65のランド67及び表面電極70のランド71とにそれぞれ対向する位置に配置されている。これら端子113がランド62,67,71と半田114によって接合されることで、個別配線117が個別電極60と、周縁配線118が周縁電極65と、共通配線119が表面電極70を介して共通電極72と電気的に接続される。この構成により、ドライバIC51から各配線117〜119を介して吐出信号、スタンバイ信号、予備加熱信号及び基準信号が対応する個別電極60、周縁電極65及び共通電極72に供給される。
次に、アクチュエータユニット42の駆動方法について述べる。アクチュエータユニット42における圧電シート91の分極方向は上述したようにその厚み方向である。つまり、アクチュエータユニット42は、上側の1枚の圧電シート91を活性層が存在する層とし且つ下側の3枚の圧電シート92〜94を非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプの構成となっている。したがって、個別電極60を基準となる電位、例えば、接地電位に対して正又は負の所定電位とすると、電界と分極方向とが同方向であれば圧電シート91中の個別電極60及び共通電極72とに挟まれた電界印加部分が活性層として働き、圧電横効果により分極方向と直角方向に縮む。一方、圧電シート92〜94は、電界の影響を受けないため自発的には縮まないので、上層の圧電シート91と下層の圧電シート92〜94との間で、分極方向と垂直な方向に変形しようとする(ユニモルフ変形)。このとき、圧電シート91〜94の下面は圧力室46を区画するキャビティプレート81の上面に固定されているので、結果的に圧電シート91〜94は圧力室46側へ凸になるように変形する。このため、圧力室10の容積が低下して、インクの圧力が上昇し、ノズル53からインク滴が吐出される。その後、個別電極60を共通電極72と同じ電位に戻すと、圧電シート91〜94は元の形状になって圧力室46の容積が元の容積に戻るので、インクをマニホールド45側から吸い込む。
本実施の形態において、実際の駆動手順は、予め個別電極60をスタンバイ電位に保持しておき、圧力室46の容積を減少させておく。そして、吐出要求がある毎に個別電極60のみを接地電位とする。このとき、圧電シート91〜94が元の形状に戻り、圧力室46の容積が初期状態と比較して増大するので、圧力室46内に負圧が発生する。さらに、個別インク流路9内を負圧の圧力波が伝搬し、インクがマニホールド45側から圧力室46内に吸い込まれる。その後、正圧となった圧力波が圧力室46の中央に戻ってくるタイミングで、再び個別電極60をスタンバイ電位にする。これにより、圧電シート91〜94が圧力室46側へ凸となるように変形し、圧力室46の容積低下により圧力室46内の圧力が上昇し、インク滴が吐出される。つまり、インク滴を吐出させるため、スタンバイ電位→接地電位→スタンバイ電位となる吐出信号を個別電極60に供給することになる。
また、階調印刷においては、ノズル53から連続的に吐出されて用紙上で実質的に1ドットを形成するインク滴の数、つまりインク量(体積)で階調表現が行われる。このため、指定された階調度に対応する回数のインク吐出を、指定されたドット領域に対応するノズル53から1回又は連続して複数回行う。一般に、インク吐出を連続して行う場合は、インク滴を吐出させるために供給するパルスとパルスとの間隔をAL(Acoustic Length)とすることが好ましい。これにより、先に吐出されたインク滴を吐出させるときに発生した圧力の残余圧力波と、後に吐出させるインク滴を吐出させるときに発生する圧力の圧力波との周期が一致し、これらが重畳してインク滴を吐出するため圧力が増幅する。本実施の形態においては、後述するようにノズル53からのインク滴の連続吐出回数を3回以下の任意の回数とすることが可能であり、これにより階調表現が実現されている。なお、階調表現として、白点状の画素が要求されたときには、この画素が形成される位置でインクを吐出しない。そのため、このような画素を形成するタイミングでは、対応する個別電極60はスタンバイ電位に保持されたままである。
また、周縁電極65、圧電シート91及び共通電極72の配置関係は、個別電極60、圧電シート91及び共通電極72の配置関係と同様な関係である。個別電極60に電位を印加する場合と同様に、周縁電極65に正又は負の所定電位を印加すると、圧電横効果により分極方向と直角方向に縮もうとする。しかし、圧電シート91〜94の周縁電極65と対向する領域は、圧力室46と対向しておらずキャビティプレート81と接合されているため、特に変形することはない。このように周縁電極65を駆動(結果的に圧電シート91〜94が変形しない駆動)することで、周縁電極65近傍が発熱する。なお、周縁電極65近傍では、個別電極60近傍のように変形することで投入された電気エネルギーが機械エネルギーに変換されることがない分、発熱量が多くなる。もちろん、個別電極60近傍でも、投入エネルギーがすべて変形に費やされるわけではなく、一部は熱の発生のために消費される。つまり、これら周縁電極65及び個別電極60による発熱によって、インクジェットヘッド5を温めることが可能になり、その内部のインクも温めることができる。
続いて、インクジェットプリンタ1の制御について以下に説明する。図11は、インクジェットプリンタ1の制御構成を示すブロック図である。図12は、インクジェットヘッド5に与えられる各信号に対応する波形パターンを描いた図である。図11に示すように、インクジェットプリンタ1の内部には、制御部101が設けられている。制御部101は、演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行するプログラム及びプログラムに使用されるデータが記憶されているROM(Read Only Memory)と、プログラム実行時にデータを一時記憶するためのRAM(Random Access Memory)とを備えており、これらによって以下に説明する各機能部が構築されている。
制御部101は、PC100からの印刷データに基づいて動作するものであり、図11に示すように、通信部102と、動作制御部103と、印刷制御部104とを備えている。このうち、通信部102は、PC100との通信を行うものである。PC100から送信される印刷データには画像データと動作データとが含まれている。通信部102は、動作データを動作制御部103に出力し、画像データを印刷制御部104に出力する。動作制御部103は、PC100及び印刷制御部104からの指示に基づいて、プーリ14を駆動するモータ17、プラテンローラ18を駆動するモータ、カム22及びポンプ23などを駆動制御する。
制御部101には電源108及び温度センサ55が接続されている。温度センサ55は、インクジェットヘッド5近傍の周囲温度を計測している。電源108は、スタンバイ電位に保持された高電位信号、接地電位に保持された基準信号、及び、高電位信号よりも低い正電位に保持された低電位信号の3つの信号に必要な電圧を商用交流電源から生成し、制御部101に供給する。本実施の形態では、高電位信号134用の20V、低電位信号用の3.3V及び接地電位が電源108により生成される。なお、基準信号用の配線は、高電位信号と低電位信号とのそれぞれについて1つずつ設けられてもよい。
印刷制御部104は、画像データを記憶するための画像データ記憶部105と、個別電極60や周縁電極65に供給される駆動信号波形を記憶する波形パターン記憶部106と、個別電極60に供給される信号を制御する印刷信号生成部107と、周縁電極65に供給される信号を制御する周縁電極駆動信号生成部120と、測定温度により個別電極60及び周縁電極65への信号の供給状態を切り換える温度判定部(温度判定手段)121と、パージ動作に対応して周縁電極65への信号の供給状態を制御する判断部(判断手段)122とを備えている。
画像データ記憶部101には、画像データを構成する各画素の階調値(8ビット(256階調))のビットマップデータがマゼンタ、イエロー、シアン、ブラックの各色毎に記憶される。波形パターン記憶部106は、個別電極60にのみ供給される吐出信号の波形パターンを示す3種類の波形パターン信号131〜133(図12(a)〜(c)参照)と、周縁電極65に供給される予備加熱信号の波形パターン信号136(図12(f)参照)とを記憶している。
印刷信号生成部107は、温度判定部121の判定結果及び画像データ記憶部105に記憶された色毎のデータに基づいて、各ノズル53からのインク吐出量(連続インク吐出回数)を順次指示する印刷信号を生成する。この印刷信号は、ドライバIC51に対して出力される信号である。この信号には、画像データがインクの吐出を要求しておれば、そのインク吐出量に対応する波形パターン信号131〜133を選択させる指示情報が含まれている。また、インクの不吐出が要求されておれば、電源108の供給する低電位信号をドライバIC51に選択させる指示情報が含まれている。この低電位信号の選択指示は、実際にインク吐出動作を開始する直前にも出され、インクジェットヘッド5をスタンバイ状態にする。また、この印刷信号生成部107は、プリンタ本体の電源スイッチが「ON」になった当初は、電源108の供給する基準信号をドライバIC51に選択させる信号を生成する。
周縁電極駆動信号生成部120は、温度判定部121の判定結果に基づいて周縁電極65の駆動による流路ユニット41の加熱必要性の有無を順次指示する周縁電極駆動信号を生成する。測定温度が所定温度以上であれば、電源108の供給する基準信号をドライバIC51に選択させる信号を生成する。一方、所定温度未満であれば、予備加熱信号に対応する波形パターン信号136をドライバIC51に選択させる信号を生成する。また、判断部122がパージ処理が進行中と判断したときにも、波形パターン信号136をドライバIC51に選択させる信号を生成する。ところで、画像データにはその印刷内容が白黒印字なのかカラー印字なのかを区別する情報が含まれている。これに対応して、波形パターン信号136の選択指示信号には、対象とする周縁電極群97,98のいずれを選択するかに関する情報が含まれている。すなわち、白黒印字が行われているときには、予備加熱のために駆動する対象が無彩色用周縁電極群94であり、カラー印字が行われるときには、これに加えて有彩色用周縁電極群98も対象となるような選択情報が含められている。なお、印刷信号は2ビットのシリアル信号であり、周縁電極駆動信号は1ビットのシリアル信号である。
温度判定部121は、温度センサ55によって計測された温度が所定温度未満かどうかを判定する。所定温度以上であれば印刷信号生成部107での印刷信号の生成を許可し、周縁電極駆動信号生成部120で生成される周縁電極駆動信号によって流路ユニット41の予備加熱(周縁電極65の駆動)が必要でない旨を指示するようにする。一方、温度判定部121は、所定温度未満であれば、印刷信号生成部107での印刷信号の生成を許可せずに、周縁電極駆動信号によって流路ユニット41の予備加熱(周縁電極65の駆動)が必要である旨を指示するようにする。
判断部122は、動作制御部103の制御によりパージ機構20が稼働中かどうかを判断する。つまり、動作制御部103は、PC100からの信号内にパージ信号が含まれているときに、モータ17を駆動し、インクジェットヘッド5をパージ機構20のパージキャップ21に対向する位置に配置させる。そして、カム22によりパージキャップ21をインク吐出面40aに接触させる。この状態で、ポンプ23を駆動してノズル53からインクを強制的に吸引する。このようなパージ時には、判断部122がノズル53からインクが強制排出されていると判断し、周縁電極駆動信号生成部120で生成される周縁電極駆動信号によって流路ユニット41の予備加熱(周縁電極65の駆動)が必要である旨を指示するようにする。すると、ドライバIC51が周縁電極65に対して後述のように予備加熱信号を生成して供給する。これにより、周縁電極65の周辺が温められ、内部のインクも温められる。この温められたインクは流路ユニット41内に行きわたるので、パージ後に速やかにインク吐出をすることが可能になる。つまり、インクタンク4に供給されるインクカートリッジ内のインクが、インク温度が低く高粘度化していても、流路ユニット41内に高粘度化したインクが供給された段階で温められインク吐出に適した粘度にされる。
図12(a)〜(c)には、階調制御用の3種類の波形パターン信号131〜133が示されており、図12(d)には、高電位信号134(後述するスタンバイ信号に等しい)が示されており、図12(e)には、基準信号135が示されており、図12(f)には、周縁電極65を駆動するときの予備加熱信号の波形パターン信号136が示されている。なお、縦軸は電位を、横軸は時刻をそれぞれ示している。
図12(a)に示す波形パターン信号131は、印刷用紙上においてインク滴1滴分のドットを形成するために用いられる。図12(b)に示す波形パターン信号132は、印刷用紙上においてインク滴2滴分のドットを形成するために用いられる。図12(c)に示す波形パターン信号133は、印刷用紙上においてインク滴3滴分のドットを形成するために用いられる。図12(a)〜(c)に示す波形パターン信号131〜133において、ハイレベル電位は例えば3.3Vである。そして、後述するように、波形パターン信号131〜133は、ドライバIC51において、ハイレベル電位が20Vとなるように増幅される。
図12(a)〜(c)に示すように、波形パターン信号131〜133はともに、パルス幅及びパルス間が実質的にALとなっており、さらに最後のパルスがインク吐出後に個別インク流路9内に残留する圧力を除去するためのキャンセルパルスとなっている。キャンセルパルスは、残留圧力と正負が反転した新たな圧力を個別インク流路9に発生させる。これにより、残留圧力が相殺される。
図12(f)に示す波形パターン信号136は、ハイレベル電位(3.3V)と接地電位とを交互に繰り返す波形パターンとなっている。そして、後述するように、波形パターン信号136は、ドライバIC51において、ハイレベル電位が20Vとなるように増幅される。このように波形パターン信号136が増幅されることによって、予備加熱信号が生成される。波形パターン信号136のパルス幅は任意の値とすることができる。波形パターン信号136の周波数を上げるほど、インク昇温効果が高くなる。
図11に示すように、印刷制御部104は、FPC50上のドライバIC51と接続されている。印刷制御部104は、印刷信号生成部107が生成した印刷信号、周縁電極駆動信号生成部120が生成した周縁電極駆動信号、及び、波形パターン記憶部106に記憶された4つの波形パターン信号131〜133,136と共に、電源108が生成した低電位信号、高電位信号134及び基準信号135をドライバIC51に供給する。ドライバIC51は、基準信号135(接地電位)を常に共通配線119を介して共通電極72に供給する。このドライバIC51は、波形選択部141と信号生成部142とを含んでいる。波形選択部141は、印刷信号に基づいて、プリンタ本体の電源スイッチが「ON」にされた当初は、電源108から供給される基準信号を選択する。さらに印刷を実行するときには、各個別電極60に供給すべき波形パターンを、3つの波形パターン信号131〜133及び低電位信号の4つの信号中から順次選択する。また、波形選択部141は、周縁電極駆動信号に基づいて、無彩色用周縁電極群97及び有彩色用周縁電極群98に供給すべき波形パターンを、波形パターン信号136及び基準信号135の2つの信号の中から順次選択する。
信号生成部142は、各個別電極60について印刷信号に基づいて上記5つの信号の中から波形選択部141が選択した信号を、そのハイレベル電位が20Vとなるように高電位信号134を用いて変調増幅する。ドライバIC51は、このようにして生成された信号を、FPC50の個別配線117を介して対応する各個別電極60に供給する。さらに、信号生成部142は、吐出信号が個別電極60に供給され始めるまで、低電位信号をそのハイレベル電位が20Vとなるように高電位信号134を用いて増幅することでスタンバイ信号を生成し、生成されたスタンバイ信号をすべての個別電極60に供給する。
また、信号生成部142は、無彩色用周縁電極群97及び有彩色用周縁電極群98について周縁電極駆動信号に基づいて上記2つの信号の中から波形選択部141が選択した信号を、そのハイレベル電位が20Vとなるように高電位信号134を用いて変調増幅する。なお、基準信号135は増幅されない。ドライバIC51は、このようにして生成された予備加熱信号又は基準信号135を、FPC50の周縁配線118を介して無彩色用周縁電極群97及び有彩色用周縁電極群98に供給する。このとき、全色のインクが吐出されるようなカラー印刷が後に行われる時においては、すべての周縁電極65に予備加熱信号が供給され、ブラックインクだけが吐出されるような単色印刷が後に行われる時においては、無彩色用周縁電極群97だけに予備加熱信号が供給される。つまり、信号生成部142は、予備加熱信号を無彩色用周縁電極群97及び有彩色用周縁電極群98に選択的に供給することが可能になっている。これにより、予備加熱信号をすべての周縁電極65に供給する必要がなくなるので、消費電力が小さくなる。加えて、無彩色用周縁電極群97に囲まれた個別電極60に関連したマニホールド45K、又は、有彩色用周縁電極群98に囲まれた個別電極60に関連したマニホールド45M,45Y,45C内のインクを優先的に温めることが可能になる。
続いて、インクジェットヘッド5を所定温度以上に温めるときの動作フローについて、以下に説明する。図13は、本発明の第1実施形態によるインクジェットプリンタのインクジェットヘッド5を温めるときのタイミングを示す動作フロー図である。図13に示すように、ステップ1(S1)において、インクジェットプリンタ1の電源を「ON」にする。この時点で、電源108は上述の高電位信号、基準信号及び低電位信号を生成し、制御部101に供給を開始する。これとともに、画像データにより実際に印刷動作が始められるまで、印刷信号生成部107の指示によって、ドライバIC51はすべての個別電極60に対して基準信号を供給する。そして、ステップ2(S2)において、温度センサ55がインクジェットヘッド5近傍の周囲温度を測定し、温度検知を行う。次いで、ステップ3(S3)において、温度センサ55で計測された温度が所定温度以上であるか否かを温度判定部121が判定する。このとき、温度判定部121が、測定温度は所定温度以上であると判定すると、いつでも印刷を始めてもよい状態にあるので、通信部102を介して画像データが供給されれば、これに対応した印刷信号の生成を可能にする信号を印刷信号生成部107に出力する。また、周縁電極駆動信号生成部120に対して、温度判定部121は周縁電極65による予備加熱を行わない旨の信号を出力させる。これにより、本実施の形態では、周縁電極駆動信号生成部120は、例えば、ローレベルの信号をドライバIC51に出力することになる。ドライバIC51は、各周縁電極65に対して基準信号を供給する。この後、ステップ4(S4)に進む。このように周縁電極65に基準信号が与えられていることで、周縁電極65が浮遊電位にならない。
ステップ4において、制御部101がPC100から印刷データを受信しているか否かが判断される。受信していなければステップ2に戻り、再度、温度センサ55でインクジェットヘッド5近傍の周囲温度の測定が行われる。この間、すべての個別電極60及び周縁電極65は接地電位に保持されている。一方、ステップ4(S4)において、制御部101がPC100から印刷データを受信している場合、実際にインク吐出による印刷動作を開始する前の準備として、すべての個別電極60に対してスタンバイ電位を供給する。これにより、予め圧力室46の容積を減少させた状態にアクチュエータ(圧電シート91〜94)を変形させる。さらに、このとき生じる圧力波が所定値以下の強さに収まるのを待つ。つまり、少なくともこのような所定時間のスタンバイ状態にインクジェットヘッド5を保持する。
本実施の形態では、温度センサ55の他に、時間を計測するタイマー57を備えている。このタイマー57は、前回の吐出動作が終了してから今回の吐出動作が開始されるまでの非吐出時間を計測する。また、タイマー57は、制御部101に接続されており、動作制御部103に対して非吐出時間に対応した時間情報信号を出力している。一方、動作制御部103は、常に予め決められた時間(基準時間)と非吐出時間とを比較している。この非吐出時間が基準時間を超したとき、この時点から最初の吐出動作を始める直前にパージ動作を開始する。この場合のパージ動作は、吐出動作に優先して行われる。このとき、動作制御部103からは、パージ動作開始を意味する信号が印刷制御部104に送られる。この信号の送信タイミングは、ちょうどインクジェットヘッド5がスタンバイ状態にあるときに対応している。この時点で、判断部122は、パージ機構20が強制吸引中であると判断するとともに、周縁電極駆動信号生成部120に対して、予備加熱が必要を意味する周縁電極駆動信号の出力を指示する。これに対応して、ドライバIC51が、予備加熱信号を生成し、対象となる周縁電極65に供給する。この供給は、少なくともパージ動作が完了するまで継続される。この間、判断部122は、印刷信号生成部107に対して現状を維持することを指示する信号を出力する。つまり、ドライバIC51によるスタンバイ電圧の供給が継続される。なお、パージ動作中の電力消費を抑制するという観点からは、すべての個別電極60に対して基準信号が供給されるようにしてもよい。この場合には、パージ動作が完了したときに、再度各個別電極60に対してスタンバイ電圧を供給する。この後、ステップ5(S5)に進む。
ステップ5において、通信部102からの画像データを印刷制御部104が受信している場合、印刷信号生成部107からドライバIC51に印刷信号が供給され、印刷が開始される。このとき、動作制御部103は、通信部102からの動作データと印刷制御部104からの画像データとに応じた信号を受信しており、それら信号に応じてヘッドユニット2の駆動機構10、印刷用紙Pの搬送機構などをインク吐出に同期して駆動させる。こうして、所望画像が用紙に印刷される。
一方、ステップ3において、温度センサ55で計測された温度が所定温度未満であれば、インクの粘度が高くなっており、すぐには印刷を始められない。本実施の形態では、温度判定部121が、印刷信号の生成を不可能とする信号を印刷信号生成部107に出力する。一方、周縁電極駆動信号生成部120に対しては、周縁電極65による予備加熱を行わせる旨の信号を出力させる。これに対応して、周縁電極駆動信号生成部120は、ハイレベルの信号をドライバIC51に出力することになる。なお、この信号には、印刷内容(白黒あるいはカラー)に応じて周縁電極群97,98の選択形態を指示する情報も含まれている。この後、ステップ6(S6)に進む。
ステップ6において、印刷制御部104が、周縁電極駆動信号生成部120で生成された周縁電極65の駆動による流路ユニット41の加熱が必要である旨を指示する周縁電極駆動信号をドライバIC51に供給する。周縁電極駆動信号が供給されたドライバIC51では、波形選択部141により選択された波形パターン信号136を高電位信号134を用いて変調増幅する。これより生成された予備加熱信号を周縁電極65に供給する。予備加熱信号が供給された周縁電極65は、圧電シート91〜94を変形させようと駆動する(実際には、圧電シート91〜94の周縁電極65に対向する領域はキャビティプレート81に接合されているので変形しない)。このとき、周縁電極65の近傍が発熱し、圧電シート91〜94を介して流路ユニット41を温める。なお、印刷内容によっては、無彩色周縁電極群97の近隣だけが温められる。また、ドライバIC51も駆動中は発熱する。この輻射熱によっても、ヘッド本体40が温められる。そして、ステップ2に戻り、再度温度センサ55によってインクジェットヘッド5近傍の周囲温度を計測する。こうして、温度センサ55によって計測された温度が所定温度以上になるまで、ステップ2、ステップ3及びステップ6がループ上に繰り返し行われる。
変形例として、ステップ5中において、ステップ6で行われるように周縁電極65に予備加熱信号を供給して、インクジェットヘッド5近傍の周囲温度を上昇させてもよい。こうすることで、ステップ5における用紙への印刷中にインクジェットヘッド5近傍の周囲温度の低下を抑制することができる。
以上のように、本実施の形態のインクジェットプリンタ1によると、周縁電極65に予備加熱信号が供給されることで、周縁電極65近傍が発熱し、その熱によってヘッド本体40が温められる。加えて、ドライバIC51が周縁電極65に予備加熱信号を供給しているときにも発熱するため、ドライバIC51の輻射熱によってヘッド本体40が温められる。こうして、インクジェットヘッド5近傍の周囲の温度低下によって流路ユニット41内の高粘度化したインクを吐出特性を阻害しない程まで低粘度化することができる。したがって、環境温度の変化に伴うインク吐出特性の変動を抑えることができる。また、インクジェットヘッド5近傍の周囲温度が温度センサ55によって計測されており、その周囲温度に応じて周縁電極65に予備加熱信号が供給されることになるため、流路ユニット41を確実に所定温度以上に温めることが可能になる。したがって、インク吐出特性の変動をより抑えることができる。また、温度センサ55で計測した周囲温度が所定温度以上のときは、周縁電極65に予備加熱信号を特に供給しないので、消費電力が低下する。
また、周縁電極65に予備加熱信号が供給されていないときに、周縁電極65には基準信号135が供給されているので、周縁電極65が浮遊電位にならない。仮に、周縁電極65に基準信号135を与えずに隣接した個別電極60に電位を与えると、周縁電極65やこれに接続された周縁配線118などが個別配線117の電位や個別電極60からの電界の影響を受けて、周縁電極65が不安定な浮遊電位になる可能性がある。そのため、ときとして意図しない圧電シート91〜94の変形が生じ、インク吐出に悪影響を与える。しかし、本実施の形態では、周縁電極65に基準信号135が供給されているので、周縁電極65が浮遊電位なることに起因した吐出への悪影響が生じにくくなる。その結果、吐出性能が安定したものとなる。
また、多数の圧力室46がマトリクス状に二次元配列されている場合においても、上述のようにヘッド本体40を温めることが可能になるので、インク吐出特性の変動を抑えることができる。また、複数の周縁電極65が導電部材75,76によって連結されているので、各導電部材75,76に連結された複数の周縁電極65のうち、1つの周縁電極65に予備加熱信号を供給するだけで、各導電部材75,76に連結された複数の周縁電極65に予備加熱信号を供給することが可能になる。したがって、FPC50の周縁配線本数が少なくなり、FPC50の構成が簡易となる。
また、アクチュエータユニット21の上面(圧電シート91上)には、配列方向Aの一端部側に、個別電極60とで周縁電極65を挟むようにして表面電極70が形成されている。つまり、同一平面上において個別電極60と表面電極70との間に周縁電極65が形成されている。そのため、個別電極60と表面電極70とがマイグレーションに起因して電気的に接続されるのを防止することができる。これは、共通電極72に基準信号135を供給して接地電位としたときに表面電極70も接地電位となる。そして、この状態で個別電極60にスタンバイ信号や吐出信号を供給しても、個別電極60と表面電極70との間には、周縁電極65が存在するので、個別電極60と表面電極70との間に直接的なマイグレーションが生じなくなる。これにより、個別電極60と表面電極70とが直接電気的に接続されることがなくなる。
また、周縁電極65は、境界部38と対向する領域にも複数配置されているので、ヘッド本体40を温めやすくなる。したがって、流路ユニット41内のインクを素早く温めることが可能になる。
続いて、上述した第1実施形態におけるアクチュエータユニット42上に形成された周縁電極65とは配置形態及びその数が異なった第2及び第3実施形態について以下に説明する。図14は、第2実施形態によるインクジェットプリンタにおけるヘッド本体140の部分拡大平面図である。図15は、第3実施形態によるインクジェットプリンタにおけるヘッド本体240の部分拡大平面図である。なお、上述したものと同様なものについては同符号で示し説明を省略する。また、図15においては、FPC250及びドライバIC251を一点鎖線で示す。
第2実施形態においては、図14に示すように、アクチュエータユニット152上に形成された複数の周縁電極165の配置密度が流路ユニット41のインク供給口41aに最も近い領域で最大となっている。つまり、複数の周縁電極165がマニホールドの延在方向に沿って配列された周縁電極列168において、インク供給口41aから離れるに連れて周縁電極165の離隔距離が大きくなるように、隣接する周縁電極165の数が減少している。なお、周縁電極165の数に対応しただけの周縁配線がFPCに形成されており、複数の周縁配線と複数の周縁電極165とがそれぞれ独立して接続されている。このように複数の周縁電極165を第1実施形態の周縁電極65の数よりも少なく配列させることで、すべての周縁電極168に予備加熱信号を供給しても第1実施形態におけるすべての周縁電極65に予備加熱信号を供給するよりも消費電極が低下することになる。加えて、すべての周縁電極165に予備加熱信号を供給したときに、流路ユニット41のインク供給口41a側が流路ユニット41の他の部位に比べて温められることになる。これにより、周縁電極165に予備加熱信号が供給されているときに、流路ユニット41内のインクがインク吐出によって消費されるに連れて温められたインクがマニホールドの上流側から下流側に流れていくことになる。したがって、温められたインクを流路ユニット41内に行きわたらせることが可能になる。
第3実施形態においては、図15に示すように、アクチュエータユニット242上に形成された複数の周縁電極265の配置密度が図15中左端部の領域で最大となっている。つまり、複数の周縁電極265の数がアクチュエータユニット242上において図15中左方から右方に向かって徐々に減少している。また、アクチュエータユニット242上には、図15に示すように、FPC250が配置されており、上述したFPC50と同様に図中右方に向かって引き出されている。つまり、ドライバIC251がヘッド本体240の図15中左端部と最も離れていることになり、その離れた部分(アクチュエータユニット242の左端部)において複数の周縁電極265の配置密度が最大となっている。なお、周縁電極265の数に対応した周縁配線がFPC250に形成されており、複数の周縁配線と複数の周縁電極265とがそれぞれ独立して接続されている。このように複数の周縁電極265を第1実施形態の周縁電極65の数よりも少なく配列させることで、すべての周縁電極265に予備加熱信号を供給しても第1実施形態におけるすべての周縁電極65に予備加熱信号を供給するよりも消費電力が低下することになる。加えて、すべての周縁電極265に予備加熱信号を供給したときに、流路ユニット41の左側端部が周縁電極265により流路ユニット41の他の部位に比べてより温められることになる。これにより、ドライバIC251の輻射熱によって温められる流路ユニット41の右側端部と左側端部との温度差を複数の周縁電極265によってほぼ均一にすることが可能になる。したがって、流路ユニット41内のインクがほぼ均一に温められることになる。
続いて、FPCに複数の周縁電極65の数に対応するだけの周縁配線を形成し、周縁配線と周縁電極65とをそれぞれ独立させて接続すると共に、周縁電極65に供給する予備加熱信号を選択的に供給する形態が第1実施形態と異なった第4実施形態について以下に説明する。図16は、第4実施形態におけるアクチュエータユニットの部分拡大平面図である。上述した第1実施形態と同様なものついては、同符号で示し説明を省略する。
第4実施形態においては、複数の周縁電極65が導電部材75,76によって互いに連結されておらず、各周縁電極65がFPCに形成された複数の周縁配線と独立して接続されているだけで、その他は上述したインクジェットヘッド5と同じ構成となっている。このように周縁電極65と周縁配線とが独立して接続されることで、個々の周縁電極65に予備加熱信号を供給して制御することが可能となる。本実施の形態では、図16に示すように、アクチュエータユニット21の平面領域において、複数の区画領域T1〜T18を形成し、複数の周縁電極65を区画領域内に属するものごとに予備加熱信号を供給する形態であってもよい。なお、複数の区画領域と重なる周縁電極65は、重なる面積が大きい区画領域に属しているものとする。
区画領域T1〜T6に属する周縁電極65だけに予備加熱信号を供給すれば、上述した第2実施形態と同様な効果を得ることが可能となる。また、区画領域T1,T7,T13に属する周縁電極65だけに予備加熱信号を供給すれば、上述した第3実施形態と同様な効果を得ることが可能となる。また、温度センサ55によって計測された温度が所定温度より低い場合に、すべての周縁電極65(区画領域T1〜T18に属する周縁電極65及び図示していない周縁電極65)に予備加熱信号を供給することが可能になると共に、ある程度、流路ユニット41が温められてきたときに、上述のように区画領域T1〜T6又は区画領域T1,T7,T13に属する周縁電極65だけに予備加熱信号を供給するように、それら以外の区画領域に属する周縁電極65への予備加熱信号の供給を徐々に減少させることも可能になる。そして、温度センサ55によって計測された温度が所定温度以上になった段階ですべての周縁電極65に基準信号を供給する。このような供給形態によって、消費電力をより低下させることが可能になる。以上のように第4実施形態においては、周縁電極65への予備加熱信号の供給形態を変えるだけで上述のような効果を第1実施形態における効果と合わせ持つことになる。
続いて、所定時間が経過する度に周縁電極65に予備加熱信号を供給する第5実施形態について以下に説明する。図17は、第5実施形態におけるインクジェットプリンタの制御構成を示すブロック図である。
第5実施形態において、図17に示すように、インクジェットプリンタには、温度センサ55の代わりにカウンタ355が印刷制御部104に接続されている。印刷制御部104には、温度判定部121の代わりに経過時間判定部321を備えている。カウンタ355は、個別電極60に吐出信号が供給されていない時間をカウントする。経過時間判定部321は、カウンタ355によってカウントされた経過時間が所定時間を超えたかどうかを判定し、所定時間を超えていなければ印刷信号生成部107での印刷信号の生成を許可し、周縁電極駆動信号生成部120で生成される周縁電極駆動信号が周縁電極65の駆動による流路ユニット41の加熱が必要でない旨を指示するようにする。一方、経過時間判定部321は、カウンタ355によってカウントされた経過時間が所定時間を超えていれば、印刷信号生成部107での印刷信号の生成を許可せずに、周縁電極駆動信号生成部120で生成される周縁電極駆動信号が周縁電極65の駆動による流路ユニット41の加熱が必要である旨を指示するようにする。なお、経過時間判定部321は、周縁電極駆動信号生成部120で生成される周縁電極駆動信号が周縁電極65の駆動による流路ユニット41の加熱が必要である旨を指示した後、一定時間が経過してからリセット信号をカウンタ355に発信し、カウンタ355の経過時間をリセットしてゼロに戻す。カウンタ355がゼロに戻った時点で周縁電極65への予備加熱信号の供給も終了する。このように個別電極60の駆動によるインク吐出がされていない間において、カウンタ355でカウントされた経過時間が所定時間に達する度に周縁電極65に予備加熱信号を供給し、流路ユニット41が温められるので、流路ユニット41内のインクがほとんど高粘度化することがなくなる。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述した第1〜第5実施形態においては、温度センサ55又はカウンタ355及び温度判定部121又は経過時間判定部321がインクジェットプリンタに設けられているが、これらが設けられていなくてもよい。つまり、複数の周縁電極65のうちの少なくとも一部に予備加熱信号が供給されることで、流路ユニット41が温められインクの高粘度化を抑制することが可能になる。したがって、インク吐出特性の変動が抑えることができる。また、パージ機構20でインクジェットヘッド内のインクを強制排出しているときに加熱信号を周縁電極65に供給していなくてもよい。また、複数の周縁電極が複数の個別電極を取り囲んでいなくてもよい。さらに、隣接する圧力室間が比較的に離れている場合においては、周縁電極を個別電極間に配置していてもよい。これにより、複数の個別電極が構成する個別電極群の内側から流路ユニットを温めることが可能になる。また、アクチュエータユニット42上には、表面電極70が形成されていなくてもよい。上述したインクジェットプリンタは、ヘッドが往復移動するシリアルプリンタであるが、ヘッドが固定されたラインプリンタでもよい。また、圧力室が一方向にだけ配列されたヘッドにも適用可能である。上述した実施の形態では、電源108、制御部101、ドライバIC51及びFPC50が吐出信号供給手段、予備加熱信号供給手段及び基準信号供給手段を構成しているが、これら3つの手段は別の部材から構成されていてもよい。
上述した本実施の形態による個別電極60と周縁電極65とが同じ平面形状及び平面サイズに形成されていなくてもよい。また、複数の圧力室46がマトリクス状に形成されていなくてもよい。また、導電部材75,76が周縁電極65において個別電極60から最も離隔した領域どうしを連結していなくてもよい。また、流路ユニット41に複数のマニホールド45を形成していなくてもよいし、複数の圧力室46が圧力室列群48を構成していなくてもよい。
また、上述した第1〜第4実施形態においては、個別電極60に供給する吐出信号のハイレベル電位を温度センサ55で計測した温度に応じて段階的に上昇させていてもよい。この場合は、それぞれの電位が異なる複数の高電位信号をドライバICに供給し、温度センサ55で計測した温度に応じて、選択された波形パターン信号131〜133のハイレベル電位を適宜、いずれかの高電位信号を用いて変調増幅させることで可能になる。こうすることで、インク吐出特性の変動をより一層抑えることができる。