JP4504540B2 - 超音波振動子及びその製法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は被洗浄物を洗浄する処理液に超音波振動を付与するために用いられる超音波振動子及びその製法に関する。
【0002】
【従来の技術】
たとえば、液晶表示装置や半導体製造装置においては、ガラス基板や半導体ウエハなどの被洗浄物を高い清浄度で洗浄することが要求される工程がある。上記被洗浄物を洗浄する方式としては、超音波振動が付与された洗浄液を用いる超音波洗浄装置が知られている。
【0003】
上記超音波洗浄装置は本体を有し、この本体には処理液を被洗浄物に向けて噴射するためのノズル体が設けられている。また、本体内には振動板及びこの振動板に取付けられた超音波振動子からなる超音波振動体が設けられている。
【0004】
上記超音波振動子には超音波発振器が接続される。この超音波発振器は所定の周波数の電力を発振し、その電力を上記超音波振動子に供給する。それによって、上記超音波振動子が超音波振動するから、その超音波振動に上記振動板が連動し、この振動板によって上記本体内に供給された処理液に超音波振動が付与されるようになっている。
【0005】
上記超音波振動子は以下のごとく製造されていた。まず、粉末状の圧電材料を所定の形状に圧縮成形する。ついで、圧縮成形された圧電材料を加熱炉で所定の温度で焼成することで、板状の圧電素子を形成する。
【0006】
焼成された圧電素子には、銀ペーストを焼き付けたり、蒸着装置やスパッたリング装置などの成膜装置などによって陰極と陽極を形成し、ついで圧電素子に圧電性を与えるために分極を行なうことで上記超音波振動子が作られる。そして、このようにして作られた超音波振動子は、接着剤によって振動板に接着固定され、上記超音波振動体が形成される。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
通常、上記超音波振動体は被洗浄物の幅寸法と同等以上の長さに形成され、この被洗浄物の幅方向を全長にわたって洗浄するようにしている。その場合、被洗浄物の幅方向の洗浄度合が均一であることが要求される。つまり、超音波振動子の長手方向に沿う音圧分布が均一であることが要求される。
【0008】
ところで、上述したように形成された超音波振動子の陰極と陽極とに電圧を印加し、幅方向中央部分の長手方向に沿う音圧分布を測定したところ、その音圧に大きなばらつきがあることが確認された。
【0009】
そこで、発明者は超音波振動子の長手方向に沿う音圧分布の均一化を図るために種々の実験を重ねた。その結果、圧電素子に設けられる電極にスリットを形成することで、音圧分布が変化することを見出した。
【0010】
したがって、この発明は、圧電素子に設けられる電極にスリットを形成することで、音圧分布の均一化を図ることができるようにした超音波振動子及びその製法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、圧電材料を所定の板状に成形した圧電素子に陰極と陽極との電極が設けられた超音波振動子において、
上記陰極を上記圧電素子の一方の面の全体と他方の面の長手方向一端部とにわたって設け、上記陽極を上記圧電素子の他方の面の長手方向一端部を除く部分に設け、
上記陰極と陽極とに電圧を印加することで上記圧電素子が発生する音圧を均一化させるためのスリットを上記陰極と陽極の少なくとも一方の電極に、この電極を分断しないよう形成したことを特徴とする超音波振動子にある。
【0012】
請求項2の発明は、上記スリットは、上記圧電素子の幅方向中心部に、長手方向ほぼ全長にわたって形成されていることを特徴とする請求項1記載の超音波振動子にある。
【0013】
請求項3の発明は、圧電材料を所定の板状に成形した圧電素子に陰極と陽極との電極が設けられる超音波振動子の製法において、
圧縮成形された圧電材料を焼成して上記圧電素子を形成する工程と、
上記圧電素子の一方の面の全体と他方の面の長手方向一端部とにわたる陰極と上記圧電素子の他方の面の長手方向一端部を除く部分に陽極を形成する工程と、
上記陰極と陽極の少なくとも一方の電極に、上記圧電素子で発生する音圧を均一化するためのスリットを上記電極を分断しないよう形成する工程と
を具備したことを特徴とする超音波振動子の製法にある。
【0014】
請求項4の発明は、上記圧電素子の所定の部位にマスクを設けてから上記陰極と陽極を形成し、ついで上記マスクを除去することで、上記スリットを形成することを特徴とする請求項3記載の超音波振動子の製法にある。
【0015】
請求項5の発明は、上記スリットは、上記圧電素子の幅方向中央部分に、長手方向ほぼ全長にわたって形成されることを特徴とする請求項3記載の超音波振動子の製法にある。
【0016】
この発明によれば、圧電素子に設けられる電極にスリットを形成することで、圧電素子に発生する音圧の分布状態を均一化する方向に調整することが可能となる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の一実施の形態を図1乃至図5を参照しながら説明する。
【0018】
図1は超音波振動子1の一般的な構成を示す。超音波振動子1は圧電材料によって形成された帯板状の圧電素子2を有する。この圧電素子2の一方の面の全体と他方の面の長手方向一端部とにわたって陰極3が連続して形成され、他方の面の一端部を除く部分には上記陰極3と電気的に絶縁されて陽極4が形成されている。
【0019】
このように形成された超音波振動子1は、その陽極4が形成された面が、タンタル、石英或いはサファイヤなどによって形成された振動板5に接着剤6によって接着固定されることで、超音波振動体7を構成している。
【0020】
上記陰極3と陽極4とには図示しない超音波発振器によって超音波電圧が供給される。それによって、上記超音波振動子1が超音波振動するから、それに振動板5が連動することになる。
【0021】
上記超音波振動子1は、図2(a)〜(d)に示す順序で製造される。図2(a)において、11は下型で、12は上型である。下型11にはキャビティ13が形成されているとともに、複数のノックアウトピン13aが設けられている。
【0022】
上記下型11のキャビティ13内には粉末状の圧電材料15を収容される。
【0023】
上記圧電材料15としては酸化鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどが用いられる。
【0024】
上記下型11のキャビティ13内に、所定量の圧電材料15を供給したならば、図2(b)に示すように上型12を閉じて圧電材料15を圧縮成形する。圧縮成形は50〜300MPaの圧力で行なわれる。それによって、圧電材料15は所定の形状、この実施の形態では帯板状に成形される。
【0025】
圧電材料15を圧縮成形したならば、図2(c)に示すように上型12を開き、ノックアウトピン13aによって突き上げる。それによって、所定形状に成形された圧電材料15を下型11のキャビティ13から取り出すことができる。
【0026】
下型11から取り出された圧電材料15は、図2(d)に示すように電気ヒータなどの熱源16を有する加熱炉17に入れて所定の温度で焼成される。焼成温度は通常、1150〜1350℃程度で行なわれる。圧電材料15は焼成することで磁器化及び緻密化された圧電素子2となる。
【0027】
圧電材料15を焼成して圧電素子2を形成したならば、その圧電素子2の上下両面に、たとえば銀ペーストを焼き付けることで、この圧電素子2の一方の面と他方の面とに図1に示すように陰極3と陽極4との電極を形成する。ついで、高電界を印加して等方性微結晶の方向を揃えて圧電性を付与する分極を行なう。
【0028】
なお、上記陰極3は、圧電素子2の一方の面の全体と、他方の面の一端部とにわたって形成されている。
【0029】
図3(a)に示すように、上記圧電素子2の上面の陽極4の幅方向中央部分には、スリット21が長手方向全長、つまり陽極4を左右に分断しないよう、陽極4の一端部を連続させた状態で形成される。
【0030】
上記スリット21は、図3(b)に示すように圧電素子2に陰極3と陽極4を焼き付ける前に、圧電素子2の陽極4が設けられる上面に、テープ状のマスク22を予め貼着しておく。つぎに、圧電素子2に電極を形成する銀ペーストを焼き付けた後、図3(c)に示すように上記マスク22を除去すれば、図3(a)に示すように圧電素子2の上面の幅方向中央部分に、長手方向全長にわたってスリット21を形成することができる。
【0031】
図4に示すグラフは、長さ170mm、幅24mm、厚さ1mmの帯板状に形成された超音波振動子1の幅方向中央部分の音圧を長手方向ほぼ全長にわたって測定した結果を示す。同図において、縦軸は音圧に相当する電圧値で、横軸は圧電素子2の一端を0としたときの長手方向の距離である。
【0032】
同図中曲線Aは陽極19の幅方向中央部分に幅5mmのスリット21を長手方向全長にわたって形成した場合で、同図中曲線Bは陽極19にスリット21が形成されていない場合である。
【0033】
スリット21が形成された曲線Aで示すこの発明の超音波振動子1と、スリット21が形成されていない曲線Bで示す従来の超音波振動子との音圧を比較すると、曲線Aで示すこの発明の超音波振動子1の幅方向中央部分における長手方向に沿う音圧分布が曲線Bで示す従来の超音波振動子の音圧分布に比べて変動が小さくなる、つまり音圧強度が平均化されることが確認された。
【0034】
下記[表1]は、図4の測定結果を示すもので、音圧に相当する電圧値の最大値と最小値との測定結果及び平均値、最大値と最小値との範囲(range)及び(範囲/最大値)%を同図のRで示す測定範囲から求めたものである。
【0035】
なお、音圧の測定は、図5に示すように容器31の開口した底部に、この開口を液密に閉塞する状態で超音波振動体7の振動板5を、超音波振動子1を下側にして取り付ける。上記容器31内には液体(水)Lを収容し、この液体に音圧プローブ32の先端部を浸漬させる。
【0036】
そして、上記超音波振動子1に電圧を印加し、音圧プローブ32を超音波振動子1の幅方向中央部分の上方において、長手方向に沿って移動させることで、超音波振動子1に発生する音圧を測定するようにした。なお、音圧プローブ32の移動は図示しないXYテーブルなどによって行う。
【0037】
上記[表1]からも明らかなように、この発明の圧電素子2によれば、従来の圧電素子よりも音圧の最大値が2304.0mVから2070.4mVに減少し、最小値が990.4mVから1242.4mVに増加した。それによって、平均値が1561,3mVから1691.3mVに増加し、最大値と最小値との差である範囲が1316.6mVから828.0mVに減少した。このことからも、陽極19にスリット21を形成することで、音圧が平均化されたことが確認された。
【0038】
【表1】
【0039】
上記一実施の形態では、スリット21を陽極19の幅方向中心部に長手方向全長にわたって形成するようにしたが、図6に示すように圧電素子2の陽極19の長手方向両端部に、幅寸法が1mm程度のスリット21aを数mm間隔で、約10mmの長さで形成して音圧分布を測定したところ、その部分の音圧を、陽極19にスリット21を形成する前に比べて低くすることができた。
【0040】
また、上記各実施の形態では陽極にスリットを形成するようにしたが、陰極に形成するようにしてもよく、さらには陰極と陽極の両方に形成するようにしてもよい。
【0041】
また、電極に形成するスリットは、電極を焼き付ける前に圧電素子にマスクを設けておくことで形成するようにしたが、電極を焼き付けた後で、その電極をレーザ光で除去することで、スリットを形成するようにしてもよい。さらに、超音波振動子の音圧を測定した結果に基いてスリットの幅や位置を決定するようにしてもよい。
【0042】
【発明の効果】
以上のようにこの発明によれば、圧電素子に設けられる電極にスリットを形成するようにしたので、超音波振動子の音圧分布の均一化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施の形態に係る超音波振動子の構成図。
【図2】超音波振動子の製造工程を示す説明図。
【図3】超音波振動子にスリットを形成する手順を説明する図。
【図4】スリットが形成されていない超音波振動子とスリットが形成された超音波振動子との音圧分布を測定したグラフ。
【図5】超音波振動子に発生する音圧を測定する説明図。
【図6】この発明の他の実施の形態を示す超音波振動子の電極に形成されたスリットを示す平面図。
【符号の説明】
3…陰極
4…陽極
21…スリット
Claims (5)
- 圧電材料を所定の板状に成形した圧電素子に陰極と陽極との電極が設けられた超音波振動子において、
上記陰極を上記圧電素子の一方の面の全体と他方の面の長手方向一端部とにわたって設け、上記陽極を上記圧電素子の他方の面の長手方向一端部を除く部分に設け、
上記陰極と陽極とに電圧を印加することで上記圧電素子が発生する音圧を均一化させるためのスリットを上記陰極と陽極の少なくとも一方の電極に、この電極を分断しないよう形成したことを特徴とする超音波振動子。 - 上記スリットは、上記圧電素子の幅方向中心部に、長手方向ほぼ全長にわたって形成されていることを特徴とする請求項1記載の超音波振動子。
- 圧電材料を所定の板状に成形した圧電素子に陰極と陽極との電極が設けられる超音波振動子の製法において、
圧縮成形された圧電材料を焼成して上記圧電素子を形成する工程と、
上記圧電素子の一方の面の全体と他方の面の長手方向一端部とにわたる陰極と上記圧電素子の他方の面の長手方向一端部を除く部分に陽極を形成する工程と、
上記陰極と陽極の少なくとも一方の電極に、上記圧電素子で発生する音圧を均一化するためのスリットを上記電極を分断しないよう形成する工程と
を具備したことを特徴とする超音波振動子の製法。 - 上記圧電素子の所定の部位にマスクを設けてから上記陰極と陽極を形成し、ついで上記マスクを除去することで、上記スリットを形成することを特徴とする請求項3記載の超音波振動子の製法。
- 上記スリットは、上記圧電素子の幅方向中央部分に、長手方向ほぼ全長にわたって形成されることを特徴とする請求項3記載の超音波振動子の製法。
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