JP4493111B2 - 焙炒そば種子類及びそれを用いる酒類の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、そば種子類に特殊な処理を施すことにより、吸水時の粘りを低下させた焙炒そば種子類及びそれを用いる酒類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
そば種子類は、麺類や菓子などの食品素材として、古くから日本人になじみのある穀類であり、デンプン質、アミノ酸バランスのよい良質のタンパク質を豊富に含み、ミネラルを適度に含むことから健康食品としても親しまれてきた。ところが、米、麦を初め多くの穀類がそのデンプン質を糖化、発酵させて得られる酒類の原料となっているのに対し、そば種子類を原料とする酒類は世界中を見ても、僅かに日本のそば焼酎と、試験的に生産されているそば酒が認められるに過ぎない。そば焼酎にしても、宮崎県で昭和40年代後半に製造が開始されてから、わずか20年余りの歴史しかないのが実状である。したがって、消費者の嗜好が多様化している現在、従来にない酒質のそば焼酎のみならず、そば種子類を原料とする新たな酒類が求められている。
【0003】
しかしながら、そば種子類を酒類の製造原料として用いる場合、その粘りが問題となることが知られている。
そば粉に含まれるタンパク質は、可溶性タンパク質であるグロブリンとアルブミンが主成分で、そば粉に水を加えて練ると、水にふれた部分の該タンパク質が溶け、非常に高い粘性を示す〔そば・うどん技術教本[第1巻]そばの基本技術、第46頁〜第47頁、発行所(株)柴田書店、昭和59年1月20日初版発行〕。
したがって、酒類の原料として用いられるそば種子類への吸水方法としては、次の方法が知られている。そば種子類に対して30〜40%程度の撒水をして、1時間以上吸水させて、50分間程度蒸しを行う方法、及び水浸漬30分間、水切り2時間程度行って、40分間程度蒸す方法である。
しかし、これらの限定吸水工程においては、吸水操作を誤るとそば種子類に粘りが発生し、その後の原料の輸送等の操作が極めて困難になるという問題点を有しており、撒水率の厳守や撒水時の吸水ムラの防止、水浸漬時間の厳守等細心の注意が求められる。
更に、酒類を製造する方法において液化処理を行う場合には、水浸漬を兼ねて高温で長時間の酵素処理を行うのが常法であるため、その過程で粘りが発生しかくはんが困難になるという問題が生ずる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来技術にかんがみ、そば種子類へ長時間の水浸漬や多量撒水等で吸水をさせても、粘りが発生しないそば種子類及びそれを用いる新規な酒質の酒類の製造方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明を概説すれば、本発明は、抜きそばに焙炒処理を施すことにより、吸水時の粘りを低下させた焙炒抜きそばであって、該焙炒抜きそば粉末を水懸濁液となしたとき、該懸濁液の粘稠度が225cP(センチポアズ)以下であることを特徴とする、焙炒抜きそばを用いる酒類の製造方法に関する。
【0006】
本発明者らは、そば種子類を原料とする新規な酒質の酒類を提供すべく、鋭意検討した。その結果、そば種子類への焙炒処理条件を選定することにより、長時間吸水させても粘りが発生しないこと、またこの焙炒そば種子類を使用することによって新規な酒質の酒類を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
以下、本発明について具体的に説明する。まず、そば種子類としては、ファゴピラム サギッタタム ギリブ(Fagopyrum sagittatum Gilib)[普通種F.エスクレンタム メンチ(F.esculentum Moench)]、F.エマルギナタム メンチ(F.emarginatum Moench))、F.タタリカム(L)ゲルト[F.tataricum(L.)Gaertn](ダッタン種)〔食品科学大事典、第430頁、発行所(株)講談社、昭和56年11月18日第1刷発行〕等が知られているが、本発明に用いるそば種子類はこれらの種類に限定されない。また、そば種子類には、そば殻のついたもの〔玄そば〕、そば殻を除去したもの〔抜きそば〕、玄そば又は抜きそばを2〜3分割したもの、玄そば又は抜きそばを粉状にしたもの等があるが、本発明に用いるそば種子類はそば殻を除去したもの〔抜きそば〕である。
【0008】
また、焙炒処理とは、穀類等の原料を高温の熱風で短時間加熱処理する方法、及びこれと同等の効果を有する加熱処理方法をいう。
【0009】
そば種子類へ吸水させたときの粘りの程度、及び吸水させ、焙炒処理した後の消化率を、抜きそば(普通種)を水浸漬した実験例1で詳しく述べる。
〔実験例1〕
抜きそば(普通種、水分含量13.5%)を水浸漬時間を変えて、水浸漬(温度20℃)し、60分間水切りを行った。調製後の抜きそばの粘りの強さは手でさわって確認し〔触覚検査〕、粘りの程度〔粘る:(++)、少し粘る:(+)、粘らない:(−)〕を調べた。更に、それぞれの抜きそばに焙炒処理(焙炒温度290℃、焙炒時間60秒)を行い、α化度の評価として消化率を調べた。水浸漬時間の異なる抜きそばの粘りの程度と焙炒処理後の消化率を表1に示す。
【0010】
なお、消化率の測定は以下のように行った。抜きそばを粉砕し、アミラーゼ酵素製剤コクラーゼ〔三共(株)製〕1.0w/v%水溶液中で55℃、18時間消化した。消化後の固形物を90℃で24時間乾燥した後の乾物重量を測定し、次式(数1)により消化率を求めた。
【0011】
(数1)
消化率(%)=[1−(消化後の乾物重量/消化前の乾物重量)]×100
【0012】
【表1】
【0013】
表1の結果より、水浸漬した抜きそばは、10分間(水分含量35.9%)までは粘りを発生しないが、15分間(水分含量38.4%)を越えると粘りが発生し、粘りが発生したものは、その後の操作が極めて困難であった。
焙炒処理した抜きそばの消化率は、水浸漬時間が長いほど高かった。水浸漬時間が短く、粘りが発生しない条件では消化率は低く、最高で56.7%の消化率であった。消化率の低い原料からは、得られる酒類の収量が消化率に応じて少なくなり、この程度の消化率では実用に供し難い。
【0014】
次に、焙炒処理したそば種子類へ吸水したときの粘りの程度を、抜きそば(普通種)を焙炒処理した後、水浸漬した検討例1で詳しく述べる。
(検討例1)
抜きそば(普通種、水分含量13.5%)を焙炒温度、焙炒時間を変えて焙炒処理を行った。該焙炒処理した抜きそばを30分間水浸漬し、60分間水切りを行った後、粘りの程度〔粘る:(++)、少し粘る:(+)、粘らない:(−)〕を触覚検査で調べた。なお、焙炒処理条件によっては、焦げ臭の発生が認められたので、抜きそばの臭いをかぐことで焦げ臭の強さを確認して〔嗅覚検査〕、焦げ臭の程度〔焦げ臭あり:(++)、弱い焦げ臭あり(+)、焦げ臭なし:(−)〕を調べた。
焙炒処理条件とその結果を、表2(その1)、表3(その2)及び表4(その3)に示す。
【0015】
【表2】
【0016】
【表3】
【0017】
【表4】
【0018】
表2、表3及び表4に示したとおり、それぞれの焙炒温度において、ある特定の時間を越える焙炒処理を施すと、水浸漬したとき粘りが発生しないそば種子を得ることが可能であること、また粘りが発生しなくなる焙炒時間は、焙炒温度を高くするほど短くなることが確認された。焙炒処理条件と水浸漬した焙炒そば種子類の粘りの発生との関係については、後で更に詳しく説明する。
【0019】
次に、検討例1の結果を踏まえて、焙炒処理後の粘りと粘稠度の関係を更に抜きそば(普通種)を用いた検討例2で詳しく述べる。
(検討例2)
表2、表3及び表4の結果を基に、抜きそば(普通種、水分含量12.3%)に水浸漬しても粘りの発生が認められず、且つ、抜きそばへの加熱量が出来るだけ少なくなる焙炒処理条件として160℃/180秒(試験区1)、200℃/90秒(試験区2)、250℃/50秒(試験区3)を選択した。また、焙炒温度200℃では90秒処理のほかにも焙炒時間を変えて焙炒処理〔200℃/120秒(試験区4)、200℃/150秒(試験区5)、200/180秒(試験区6)〕を行った。対照として、焙炒処理をしないもの(対照区1)、水浸漬したときに少し粘りが発生する焙炒処理〔200℃/60秒(対照区2)〕を行った。これらの抜きそばを用い以下の方法でその粘稠度を測定した。
【0020】
固形分含量として132g(焙炒処理前の抜きそば150gに相当)となる量の抜きそばを粉砕して28メッシュ以下の粉末にした後、全重量が500gになるように水を混合し、均一に分散させた後、30℃、150rpm、30分間かくはんして抜きそば粉末の水懸濁液を調整した。該抜きそば粉末の水懸濁液の粘稠度を、B型粘度計〔(株)東京計器製、型式BL〕及び付属のNo.2ロータを使用して、回転数6、12、30及び60rpm、液温30℃で測定した。
別途、焙炒処理した抜きそばを30分間水浸漬、60分間水切りを行った後、粘りの程度〔粘る:(++)、少し粘る:(+)、粘らない:(−)〕を触覚検査で確認した。同時に、焙炒処理した抜きそばの焦げ臭の程度〔焦げ臭あり:(++)、弱い焦げ臭あり(+)、焦げ臭なし:(−)〕も嗅覚検査で確認した。粘りの測定結果を表5(その1)、表6(その2)に示す。
【0021】
【表5】
【0022】
【表6】
【0023】
表5、6の結果より、抜きそば粉末の水懸濁液の粘稠度は対照区1及び対照区2と比較して、試験区1から試験区6のすべての試験区で低い値を示した。
また、B型粘度計を用いて測定した各抜きそば粉末の水懸濁液の粘稠度は、ロータ回転数を変えると異なった値が得られることから、該粉末の水懸濁液は非ニュートン流体に属することが判明した。B型粘度計で非ニュートン流体の粘稠度を測定する場合、使用するロータの種類や測定時のせん断速度(回転数)を変えると、測定される粘稠度が異なってしまうので、一般的には、ロータの種類とせん断速度を特定して測定し、該測定条件と供に粘稠度を表示する。
【0024】
本発明において、そば種子類粉末の粘稠度は以下の方法で測定した値である。
〔粘稠度測定方法〕:固形分含量として132g(焙炒処理前のそば種子類150gに相当)となる量のそば種子類を28メッシュ以下に必要に応じて粉砕(そば種子類の粉状のもので28メッシュ超のものは再粉砕する)して粉末にした後、全重量が500gになるように水を混合し、均一に分散させた後、30℃、150rpm、30分間かくはんしてそば種子類粉末の水懸濁液を調整する。該そば種子類粉末の水懸濁液の粘稠度を液温30℃にて、B型粘度計〔(株)東京計器製、型式BL〕及び付属のNo.2ロータを使用して、ロータ回転数60rpmで測定する。
【0025】
表5、表6の結果より、水浸漬、水切り後の粘りが発生しない抜きそばを、前述した方法で測定したときの粘稠度は、すべて225cP(センチポアズ)以下であった。すなわち、抜きそばを粉末の水懸濁液としたときの粘稠度が225cP(センチポアズ)以下になるように焙炒条件を選定すれば、水浸漬しても粘りが発生しない焙炒そば種子類を得られることが確認された。
【0026】
次に、そば種子類を用いる酒類製造のための液化仕込みについて、抜きそば(普通種)を用いて酵素処理を行った検討例3で詳しく述べる。
(検討例3)
抜きそば(普通種、1000g、水分含量13.6%)を、前述した方法で測定した粘稠度が、225cP(センチポアズ)以下になるように焙炒処理(250℃、70秒)した後、液化を行った(試験区)。対照として、焙炒処理しない抜きそばを液化した(対照区)。
液化は、試験区、対照区共に汲水2000ml(焙炒処理で減少した水分は補充する)を45℃に昇温して、賦活剤(硫酸カルシウム1.4g、塩化ナトリウム0.32g)、少量の抜きそば(あらかじめ酵素安定化のために投入)、酵素製剤、残りの抜きそばの順に投入した。酵素製剤は、アミラーゼ酵素製剤タカラチームA〔ナガセ生化学工業(株)製〕とアミラーゼ酵素製剤XP−404〔ナガセ生化学工業(株)製〕を共に0.1w/w%(焙炒処理前の抜きそば重量に対して)添加した。抜きそばを投入後、45℃に60分間保持して、抜きそばへ吸水させ、その後毎分1℃昇温して60℃に到達後、1.5時間保持した。更に毎分1℃昇温して97℃に到達後、30分間保持した後冷却した。液化仕込み配合を表7に、液化醪の分析結果を表8に示す。また、触覚検査による液化醪の粘りの程度〔強く粘る:(+++)、粘る:(++)、少し粘る:(+)、粘らない:(−)〕も併せて示した。
【0027】
【表7】
【0028】
【表8】
【0029】
*:溶解性(%)
(数2)
溶解性(%)={1−(液化後抜きそば乾物重量/液化前抜きそば乾物重量)}×100
【0030】
焙炒処理しない抜きそばを液化した対照区の液化醪は、強い粘りが発生して、手ですくうと20cm位糸を引きながら垂れた。また、液化醪の上面付近では液の流動が止まり、かくはんがスムーズにできなかった。焙炒処理した抜きそばを液化した試験区の液化醪は、粘りの発生がなく、サラサラした液状でかくはんはスムーズに行われた。
【0031】
焙炒処理とは、特開平2−79965号公報に記載されている、原料穀物を150℃〜400℃の熱風で、数秒〜2時間未満加熱処理する方法をいうが、同等の効果を有する処理方法も本発明に含まれる。
そば種子類を焙炒処理する方法としては、例えば、そば種子類を熱風で流動させたり、放熱容器を回転させながらかくはんして、熱をそば種子類へ均一に与える方法があるが、特にこれらに限定されない。バッチ法、連続法等のいずれも採用することができるが、安定した品質の焙炒そば種子類を効率良く得るには連続法が好ましい。
焙炒処理時の加熱はガス、電気、石油等の熱源が使用でき、一定の熱風がそば種子類に供給できればよい。またセラミックス放熱体等も使用できる。
焙炒そば種子類を高温のまま放置すると、余熱の影響で物性が変化してしまうことがあるので、必要に応じて空冷等の冷却工程をとることが望ましい。
【0032】
本発明の焙炒そば種子類を得るためには、そば種子類に焙炒処理を施すことが必要である。また、該焙炒処理条件は、前述した方法で測定した粘稠度が225cP(センチポアズ)以下になるように設定することが最適である。
焙炒温度は150℃〜400℃の範囲内を選択すればよい。焙炒時間は好ましくは上記粘稠度以下になるように、使用するそばの種類、形態、水分含量、焙炒温度等に応じて適宜設定できる。但し、そば種子類は、低温では長時間、高温では低温に比較して短時間焙炒処理すると焦げ臭が発生する。該焦げ臭が好ましくない場合には、高温域での処理より低温域(150℃以上〜250℃以下)での処理が好ましい。高温(250℃超)では、吸水させても粘らない且つ焦げ臭が発生がしない焙炒時間の範囲が狭くなるが、焙炒時間を厳密に管理することにより短時間での焙炒処理が可能となる。
【0033】
参考例として、表1、表2及び表3のデータを基に、焙炒処理条件と粘りの発生及び焦げ臭の発生との関係を説明する参考図を図1に示す。横軸は焙炒温度(℃)、縦軸は焙炒時間(秒)、図中の長方形内の記号は焙炒処理、浸漬、水切り後の触覚検査による粘りの程度〔粘る:(++)、少し粘る:(+)、粘らない:(−)〕、楕円形内の記号は焙炒処理後の嗅覚検査による焦げ臭の程度〔焦げ臭あり:(++)、弱い焦げ臭あり(+)、焦げ臭なし:(−)〕を表す。下側の曲線は粘りの程度の参考境界線であり該曲線より上側は粘らない範囲を表し、上側の曲線は焦げ臭の程度の参考境界線であり該曲線より下側は焦げ臭がない範囲を表す。
【0034】
本発明の焙炒そば種子類は、吸水をさせても粘りが発生することがないので、長時間の水浸漬や多量撒水等により吸水させることが可能である。なお、焙炒処理前に吸水させる場合は、そば種子類に粘りが発生しない条件で限定吸水をさせてもよい。吸水方法としては、水浸漬法、撒水法、噴霧法等適宜選択すればよい。
【0035】
本発明の焙炒そば種子類は、長時間の水浸漬や多量撒水等で吸水をさせても粘りの発生がないので、酒類、飲食品又は麹の製造に好適に用いることができる。
【0036】
また、本発明の酒類の製造方法においては、焙炒処理によってα化していないデンプンを更にα化する必要がある場合に蒸きょう処理(常法又は加圧下で必要な時間)又は再度焙炒処理(150℃〜400℃の熱風で、数秒〜2時間未満加熱処理)を行ってもよく、また酵素製剤による液化処理を行ってもよい。本発明の焙炒そば種子類は吸水率を高めることができるので、これら後処理としての蒸きょう処理又は焙炒処理においては、そば種子類の消化率を高めることが可能である。また後処理としての蒸きょう処理においては、粘着固型化の発生がなく、後処理としての焙炒処理は、焙炒香味を更に付与できるので好適である。更に後処理としての液化処理は、液化醪に粘りが発生しないので好適である。
【0037】
本発明における酒類とは、焼酎(そば焼酎)、醸造酒(そば酒)である。焼酎の製造は原料処理、仕込み、糖化、発酵(糖化・発酵)、蒸留及び精製工程よりなる。醸造酒の製造は原料処理、仕込み、糖化、発酵(糖化・発酵)、上槽及び精製工程よりなる。
【0038】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1
抜きそば(普通種、水分含量14.0%)を焙炒温度200℃、焙炒時間100秒の条件で焙炒処理を行った。該焙炒処理した抜きそばを30分間水浸漬、60分間水切りした後、粘りの程度を触覚検査で調べたが粘りは発生しなかった。また、該焙炒処理をした抜きそばの粉末を水懸濁液となしたとき、該懸濁液の粘稠度は190cP(センチポアズ)であった。
【0040】
実施例2
実施例1と同様の方法で焙炒処理した抜きそばを30分間水浸漬、60分間水切りした後、50分間蒸きょう処理を行った(試験区1)。また、該焙炒処理した抜きそばを同様に水浸漬、水切りした後、更に焙炒温度290℃、焙炒時間55秒の条件で焙炒処理を行った(試験区2)。対照として、焙炒処理しない抜きそばを、同様に水浸漬、水切りした後、蒸きょう処理を行った(対照区)。上記処理を施した抜きそばを触覚検査で粘りの程度〔粘る:(++)、少し粘る:(+)、粘らない:(−)〕及び前述の方法で消化率を調べた。抜きそばの粘りの程度と消化率の結果を表9に示す。
【0041】
【表9】
【0042】
表9の結果より、焙炒処理をした抜きそばは、水浸漬、水切り後の水分含量が40.7%に達しても抜きそばの粘りは発生せず、また後処理として蒸きょう処理しても粘りは発生しなかった。対照区は水浸漬、水切り後粘りが発生して操作性が悪く、また蒸きょう処理後において、実生産への適用が困難視される程度の粘着固形化が発生した。更に、試験区1又は試験区2による消化率は、対照区の消化率とほぼ同等であった。試験区1又は試験区2による可溶部の全糖濃度は、対照区の全糖濃度と同等であった。
【0043】
実施例3
そば焼酎の製造を行った。二次掛原料がそばである焼酎(以下、全そば仕込みと略記する)の製造を表10に示す仕込み配合で行った。また、二次掛原料がそばと米である焼酎(以下、そば+米仕込みと略記する)の製造を表11に示す仕込み配合で行った。
【0044】
【表10】
【0045】
【表11】
【0046】
一次仕込みは、両仕込み共に、70%精白麦を常法により水浸漬、水切り、蒸きょう処理及び放冷して、白麹河内菌〔(株)河内源一郎商店製〕を接種し、麦麹を調製し、この麦麹6.3kgに汲水7.6リットル及び酵母を加え、25℃で7日間培養を行った。
【0047】
次に二次仕込み掛原料として、全そば仕込の場合は、抜きそば(普通種、水分含量13.6%)を焙炒温度250℃、焙炒時間50秒の条件で焙炒処理したものを液化して用いた。なお、該焙炒処理をした抜きそばの粉末を水懸濁液となしたとき、該懸濁液の粘稠度は220cP(センチポアズ)であった。
そば+米仕込みの場合は、粳白米(精米歩合85w/w%)と抜きそばを使用した。粳白米は焙炒処理(焙炒温度280℃、焙炒時間30秒)して用いた。抜きそばは全そば仕込みと同様の処理をしたものを液化して用いた。
各々の液化仕込み配合を表12に示した。
【0048】
【表12】
【0049】
液化は、汲水を45℃に昇温して、賦活剤(硫酸カルシウム、塩化ナトリウム)、少量の抜きそば(あらかじめ酵素安定化のために投入)、酵素製剤、残りの抜きそばの順に投入した。全量投入後、45℃に60分間保持して抜きそばを吸水させ、その後毎分1℃昇温して60℃に到達後、1.5時間保持した。更に毎分1℃昇温して97℃に到達後、30分間保持後冷却して、液化醪を調製した。液化醪の分析値を表13に示した。
【0050】
【表13】
【0051】
焙炒処理をした抜きそばの粉末を水懸濁液となしたとき、該懸濁液の粘稠度は220cP(センチポアズ)であるため、液化醪を調製する工程で、抜きそばの水浸漬に起因する粘りが全く発生することなく、液化は良好に行われた。
【0052】
次に、全そば仕込みの場合の二次仕込みは一次醪に、該液化醪56リットルと汲水(焙炒による水分減少分を考慮して)を加えた。二次仕込みとして、25℃で14日間糖化・発酵を行い、発酵終了醪を減圧蒸留(−700mmHg、初留カット約50ml、中留カットアルコール度数20v/v%)した。また、同様の方法により得られた発酵終了醪を常圧蒸留(大気圧、初留カット約50ml、中留カットアルコール度数20v/v%)した。
【0053】
そば+米仕込みの場合の二次仕込みは一次醪に、該液化醪29リットル、焙炒米及び汲水(焙炒による水分減少分を考慮して)を加え、25℃で14日間糖化・発酵を行った。発酵終了醪を全そば仕込みの場合と同様の方法で減圧蒸留を行った。また、同様の方法により得られた発酵終了醪を全そば仕込みの場合と同様の方法で常圧蒸留を行った。
両仕込みの場合の減圧蒸留及び常圧蒸留の発酵醪の分析結果と蒸留成績を表14に示す。
【0054】
【表14】
【0055】
次に、蒸留液をすべて冷却濾過して得られた焼酎、及び対照として常法により焙炒処理しない抜きそばを50分間蒸きょう処理して得られた焼酎(一次麦麹、二次掛原料そば)の官能検査を行った。官能検査は5点法(1:良〜5:悪)で行い、パネラー13名の平均値で表した。焼酎の官能検査の結果を表15(減圧蒸留)、表16(常圧蒸留)に示す。
【0056】
【表15】
【0057】
【表16】
【0058】
この結果、吸水時の粘稠度を低下させた抜きそばを液化処理をすることで製造したそば焼酎は、従来法による焼酎と比較して官能的にも良好な結果を示した。
【0059】
【発明の効果】
本発明により、吸水時の粘りを低下させた焙炒抜きそばを用いる新規な酒質の酒類の製造方法が提供できる。本発明の焙炒抜きそばは、長時間の水浸漬や多量撒水等で吸水をさせても粘りの発生がないので限定吸水させる必要がなく、作業性もよい。本発明の焙炒抜きそばを用いて酒類を製造すれば、蒸きょう処理を行っても粘着固型化がなく、液化処理を行っても粘りの発生がなく、作業性もよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】焙炒処理条件と粘りの発生及び焦げ臭の発生との関係を説明する参考図である。
Claims (2)
- 抜きそばに焙炒処理を施すことにより、吸水時の粘りを低下させた焙炒抜きそばであって、該焙炒抜きそば粉末を水懸濁液となしたとき、該懸濁液の粘稠度が225cP(センチポアズ)以下であることを特徴とする、焙炒抜きそばを用いる酒類の製造方法。
- 液化処理する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の酒類の製造方法。
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