実施の形態1.
まず、実施の形態1が適用される車両制動システム100と電子制御ユニット200(以下、「ECU200」と表記する)の全体構成を説明し、つぎに本発明者が認識した課題を説明し、しかる後、実施の形態1における具体的な装置構成について説明する。なお、以下の説明において、ECU200単独で車両振動抑制装置と捉えてもよいし、車両制動システム100またはその一部とECU200の組合せを車両振動抑制装置と捉えてもよい。
図1は車両制動システム100とECU200の全体構成を示す。車両制動システム100は主にアクチュエータ120とアクチュエータ120以外のマスタシリンダ14などを備える。車両制動システム100は、電子制御式ブレーキシステム(ECB)であり、ブレーキペダルの操作量をセンサで検知し、最適なブレーキ油圧を算出して四輪独立してブレーキを作動させることができる。
ブレーキペダル12にはその踏み込みストロークを検出するストロークセンサ46が設けられている。マスタシリンダ14は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込み操作に応じ、作動液であるブレーキオイルを圧送する。
マスタシリンダ14には右前輪用のブレーキ油圧制御導管16および左前輪用のブレーキ油圧制御導管18の一端が接続され、これらのブレーキ油圧制御導管はそれぞれ、右前輪および左前輪の制動力を発揮する右前輪用および左前輪用のホイールシリンダ20FR、20FLに接続されている。右前輪用および左前輪用のブレーキ油圧制御導管16、18の途中には、右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FLが間挿されている。右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FLは非通電時に開状態にあり、ブレーキ操作を検出した際に閉状態に切り替わる(これを「常開型」という)電磁弁である。
また、ブレーキ油圧制御導管16、18の途中には、それぞれ右前輪側および左前輪側のマスタシリンダ液圧を計測する右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLが設けられている。運転者によってブレーキペダル12が踏まれたとき、ストロークセンサ46によりその踏み込み操作量が検出されるが、ストロークセンサ46の故障を想定し、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLによるマスタシリンダ液圧の計測によってもブレーキペダル12の踏み込み操作力が検出される。マスタシリンダ液圧を二つの圧力センサで監視するのは、フェイルセーフの観点による。
マスタシリンダ14にはリザーバタンク26が接続され、また、開閉弁23を介して、運転者の操作量や反力を創出するストロークシミュレータ24が接続される。開閉弁23は、非通電時に開状態にあり、ブレーキ操作時に開状態に切り替わる常開型の電磁弁である。リザーバタンク26には油圧給排導管28の一端が接続される。油圧給排導管28にはモータ32により駆動されるオイルポンプ34が設けられている。オイルポンプ34の吐出側は高圧導管30になっており、アキュムレータ50とリリーフバルブ53が設けられている。アキュムレータ50はオイルポンプ34によって例えば14〜22MPaという範囲(以下「制御範囲」という)の高圧にされたブレーキオイルを蓄積する。リリーフバルブ53は、アキュムレータ圧が異常に高く、例えば25MPaといった高圧になったとき開き、油圧給排導管28へ高圧のブレーキオイルを逃がす。
高圧導管30にはアキュムレータ圧を計測するアキュムレータ圧センサ51が設けられる。後述のECU200はアキュムレータ圧センサ51の出力であるアキュムレータ圧を入力し、このアキュムレータ圧が制御範囲に収まるようモータ32を制御する。
高圧導管30は、それぞれ非通電時は閉じた状態(これを「常閉型」という)にあり、必要なときにホイールシリンダの増圧用に利用される電磁流量制御弁、すなわちリニア弁である増圧弁40FR、40FL、40RR、40RLを介し、右前輪のホイールシリンダ20FR、左前輪のホイールシリンダ20FL、右後輪用のホイールシリンダ20RR、左後輪用のホイールシリンダ20RL(以下、これらを総称して「ホイールシリンダ20」という)に接続されている。以下、増圧弁40FR、40FL、40RR、40RLを総称するときは符号40を用いる。
図示しない車両の右前輪、左前輪、右後輪、左後輪には、ディスクブレーキが設けられており、それぞれホイールシリンダ20FR、20FL、20RR、20RLの駆動によりブレーキパッドをディスクに押し付けることで制動力を発揮するようになっている。
右前輪のホイールシリンダ20FRと左前輪のホイールシリンダ20FLは、必要なときに減圧用に利用される電磁流量制御弁、すなわちリニア弁である常閉型の減圧弁42FR、42FLを介して油圧給排導管28へ接続されている。また、右後輪用のホイールシリンダ20RR、左後輪用のホイールシリンダ20RLは、それぞれ常開型の減圧弁42RR、42RLを介して油圧給排導管28へ接続されている。以下、減圧弁42FR、42FL、42RR、42RLを総称するときは符号42を用いる。
右前輪、左前輪、右後輪、左後輪のホイールシリンダ20FR、20FL、20RR、20RL付近には、それぞれホイールシリンダ内の液圧を計測する右前輪用、左前輪用、右後輪用、左後輪用の圧力センサ44FR、44FL、44RR、44RLが設けられている。
ECU200は、電磁開閉弁22FR、22FL、開閉弁23、モータ32、4個の増圧弁40FR、40FL、40RR、40RL、および4個の減圧弁42FR、42FL、42RR、42RLを制御する。ECU200はマイクロコンピュータによる演算ユニット、各種制御プログラムを格納するROM、およびデータ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAMなどを備える。
詳細は図示しないが、演算ユニットには、右前輪用、左前輪用、右後輪用、左後輪用の圧力センサ44FR、44FL、44RR、44RLから、それぞれ、右前輪のホイールシリンダ20FR内の圧力信号、左前輪のホイールシリンダ20FL内の圧力信号、右後輪用のホイールシリンダ20RR内の圧力信号、左後輪用のホイールシリンダ20RL内の圧力信号(以下、総括的にホイールシリンダ液圧信号という)が入力される。さらに、演算ユニットには、ストロークセンサ46からはブレーキペダル12の踏み込みストロークを示す信号(以下ストローク信号という)が、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLからはマスタシリンダ液圧を示す信号(以下マスタシリンダ液圧信号という)が、アキュムレータ圧センサ51からはアキュムレータ圧を示す信号(以下アキュムレータ圧信号という)が入力される。
ECU200のROMは所定の制動制御フローを記憶している。演算ユニットはストローク信号とマスタシリンダ液圧信号に基づき車両の目標減速度を演算し、演算された目標減速度に基づいて各輪の目標ホイールシリンダ液圧を演算し、各輪のホイールシリンダ液圧が目標ホイールシリンダ液圧になるよう、増圧弁40および減圧弁42を制御する。
モータ32によって駆動されるオイルポンプ34は、リザーバタンク26から油圧給排導管28を通じてブレーキオイルをくみ上げ、高圧にされたブレーキオイルをアキュムレータ50に蓄積する。アキュムレータ50の高油圧は、目標ホイールシリンダ液圧に応じて増圧弁40を開閉制御することによって、各ホイールシリンダ20に供給される。
ブレーキペダル12が踏まれることによってアキュムレータ50から高油圧のブレーキオイルが消費されると、ECU200は、アキュムレータ50の圧力が常に制御範囲に収まるように、モータ32を作動させてオイルポンプを駆動し、アキュムレータ50に高圧にされたブレーキオイルを蓄積する。以下、この動作のことを「蓄圧動作」と呼ぶ。この蓄圧動作は、アキュムレータ圧センサ51の検出値にしたがって、自動的に実行される。
本願発明者は、上述したような車両制動システムにおける振動は、二つの事象に分けられることに着目した。第1は、モータやポンプの作動音やペダルの振動音などのように、車両制動システムを構成する部品そのものが振動や騒音を発生させていることである。第2は、モータまたはポンプで発生した振動や騒音が、各種構成部品を経由して車室内にまで伝達されることである。従来から、第1の事象に対処するために、振動や騒音を抑えるべくモータ回転数を予め低く設定することが実施されている。これは比較的簡単な手法であるが、モータの回転数を制限することは、車両制動システムの本来の制動性能を発揮しきれないおそれがある。また、第2の事象に対処するために、モータまたはポンプで発生した振動がなるべく車室内へ伝達されないように、モータやポンプの取り付け位置を調節したり、部品と車体の間に遮音材や防振材を設置したり、ブレーキホースのクランプ位置を調整することが実施されている。しかしながら、車両の走行による振動や車外環境の影響によって、経年的に取り付け状態が変化してしまうことがある。また、遮音材や防振材としてゴムなどの弾性材料を使用していると、長期間の使用によってゴムの硬化などの特性変化が生じ、結果として振動や騒音が当初よりも大きくなってしまうこともある。
そこで、本願発明者は、車両の走行状態を検出し、検出された走行状態に応じて、車両制動システムを構成する部品の固定強度を調整する手法を考案した。
実施の形態1では、モータまたはポンプから伝達されたブレーキペダルの振動を軽減するように、ブレーキペダルの固定強度を調整する。具体的には、ブレーキペダルをワイヤで固定し、ワイヤの張力を変化させてブレーキペダルの固定強度を調整する。
図2は、実施の形態1におけるリザーバタンク、マスタシリンダ、およびブレーキペダルの構造を示す。図中のリザーバタンク26、マスタシリンダ14、ブレーキペダル12は、図1と同様のものを詳細に示している。実施の形態1では、ブレーキペダル12の固定強度をワイヤ64で調整することができる。ワイヤ64は、ブレーキペダルが固定されている車室の壁70に、その一端が固定されている。ブレーキペダル12の中程には、ワイヤ64を引っかけるためのボルト72が締結されている。ワイヤ64のもう一端は、例えば車室のコンソール下部に設置された巻き取り装置60に巻き取られている。この巻き取り装置60は、モータ62によって駆動されてワイヤ64を巻き取ることができる。ワイヤ64は、その一端が壁70に固定され、またブレーキペダル12のボルト72に引っかけられているので、巻き取り装置60を作動させてワイヤを巻き取ることでワイヤの張力が増加し、これによってブレーキペダル12の固定強度を高めることができる。逆に、巻き取り装置60をワイヤを緩めるように作動させれば、ブレーキペダルの固定強度を低くすることができる。なお、ブレーキペダル12は、二本以上のワイヤで固定してもよい。
図3は、実施の形態1における、ECU200を中心とした機能ブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
ECU200は、車両の走行状態(例えば、加速時、減速時、後進時など)を参照してブレーキペダル固定強度を調整することで、ブレーキペダルの振動を抑制するよう動作する。車速センサ210は、図示しない車両の車輪付近に設置され、車輪の回転数をカウントすることによって車速を検出する。シフトセンサ212は、運転者の操作するシフトレバーがいずれの位置にあるかを検出するセンサであり、この実施の形態では、車両が前進しているか後進しているか、すなわちバックギアに入っているか否かを検出する。
走行状態検出部214は、車速センサ210およびシフトセンサ212から検出信号を受け取り、車両の走行状態を検出する。具体的には、車両が加速中、減速中、または後進中のいずれの状態にあるかを検出する。走行状態検出部214は、車速を微分することによって加速度を検出することができる。固定強度調整部216は、走行状態検出部214で検出された走行状態を参照して、ブレーキペダル12の固定強度を決定する。この具体的方法については後述する。固定強度調整部216は、決定した固定強度になるようにモータ62に対して出力信号を発信し、モータ62はこれにしたがって巻き取り装置60を駆動する。巻き取り装置60はワイヤ64を巻き取るかまたは緩め、これによってブレーキペダル12の固定強度が変化する。モータ62の駆動電流はフィードバック制御部218に入力され、フィードバック制御部218は適当なゲインをかけてこの信号をフィードバックする。これによって、ブレーキペダル12の固定強度を精度高く調整することができる。なお、ブレーキペダルの固定強度を高くすると、ブレーキペダルの踏み込みが重くなるという現象も発生する。これは、制動操作の確実さという点では、必ずしも好ましくない。そこで、固定強度調整部216は、この点も考慮して固定強度を決定する。
固定強度調整部216は、以下のようにしてブレーキペダル12の固定強度を調整する。
走行状態検出部214によって車両が加速中であると判定されると、固定強度調整部216はブレーキペダル12の固定強度を高めるようにモータ62を作動させる。これは、以下のような理由による。すなわち、車両の加速中は、運転者がブレーキペダルを操作する頻度は低いと考えられる。したがって、ワイヤ64の巻き取りによってブレーキ操作感が変化しても運転者に与える影響は少ない。また、ブレーキの操作頻度が低いため、車両制動システム100のアキュムレータ50が蓄圧動作に入る可能性も低く、この蓄圧動作に伴う振動を運転者が認知する可能性も低い。したがって、車両加速中は、ブレーキ操作感を特に考慮せず、ブレーキペダルの固定強度を高めて振動の抑制を優先させるのである。
走行状態検出部214によって車両が減速中であると判定されると、固定強度調整部216は、ブレーキペダル12の固定強度の調整を停止し、ワイヤ64を緩めるようにモータ62を作動させる。これによって、ブレーキペダルはワイヤ64による制約を受けない状態になる。これは、以下のような理由による。一般に、車両の減速中は、ブレーキペダルの操作頻度が高いため、車両制動システム100のアキュムレータ50が蓄圧動作に入る可能性が高い。したがって、蓄圧動作に伴う振動を運転者が認知する可能性が高いので、ブレーキペダル12の固定強度を高めてブレーキペダル12の振動を抑制することが望ましい。その一方で、ワイヤ64の巻き取りによってブレーキペダル12の操作感が変化すると、運転者に違和感を与えて制動操作の妨げになるおそれがある。そこで、この実施の形態では、車両の減速中は制動操作の妨げとなることを極力避ける方が好ましいと判断し、ブレーキペダルの振動が運転者に認知される可能性は高いものの、ブレーキペダルの固定強度を調整しないようにしたのである。
走行状態検出部214によって車両が後進中であると判定されると、固定強度調整部216は、ブレーキペダル12の固定強度を高めるようにモータ62を作動させるが、その固定強度は加速中よりも小さい値に設定する。これは、以下のような理由による。一般に、車両の後進中はブレーキペダルの操作頻度が高く、したがってワイヤ64の巻き取りによってブレーキペダル12の操作感を変化させることは好ましくない。しかしながら、車両の後進中は車速が比較的低速であるから、ブレーキ操作感が多少変化しても、運転者の制動操作に与える影響は車両減速中よりも小さいと考えられる。したがって、車両の後進中は一定程度のブレーキ操作感の変化を許容し、ブレーキペダルの固定強度を車両の加速中と減速中の中間の値に設定するのである。以上をまとめると、走行状態と固定強度の関係は、図5に示すようになる。
以上説明したように、実施の形態1によれば、車両の走行状態を検出し、この走行状態に応じてブレーキペダルの固定強度を調整するようにした。ブレーキペダルの操作頻度が低いと考えられる車両加速中においては、ブレーキペダルの固定強度を高めることで、モータまたはポンプから伝達されるブレーキペダル自身の振動を抑えることができる。一方、ブレーキペダルの操作頻度が高いと考えられる車両減速中においては、ブレーキペダルの固定強度を調整せずに通常の状態に戻すので、ブレーキペダルの振動は減らないもののブレーキ操作感が損なわれず、運転者の制動操作を妨げなくなる。このように、車両の走行状態に合わせた適切な振動抑制制御が可能になる。
実施の形態1では、ブレーキペダルの固定強度を車両の走行状態に応じて決定したが、運転者がブレーキペダル12を操作しているか否か、すなわち、運転者の足がブレーキペダルを踏み込んでいるか否かに応じて、ブレーキペダルの固定強度を決定するようにしてもよい。これについて、図4を参照して説明する。
図4は、この変形例におけるECU200を中心とした機能ブロック図である。なお、リザーバタンク、マスタシリンダ、およびブレーキペダルの構造については、上述の図2と同様であるので説明を省略する。この変形例では、車両の走行状態を検出する代わりに、ブレーキ判定部220が、運転者の足がブレーキペダル12を踏み込んでいるか否かを判定する。具体的には、運転者がブレーキペダルを踏み込んでいる場合はワイヤ64にその分の張力が発生し、それに応じたモータ62の駆動電流を検出することによって、ブレーキ判定部220はブレーキペダルの踏み込まれているか否かを判定することができる。
固定強度調整部216は、ブレーキ判定部220の判定結果に応じて、モータ62に対して出力信号を発信する。ブレーキ判定部220においてブレーキペダルが踏み込まれていると判定された場合、運転者がこの後に制動操作を継続するする可能性が高いと考えられるため、固定強度を調整してペダルの振動を抑制するよりもブレーキ操作感を持続することを優先させる。すなわち、固定強度調整部216はモータ62に対して出力信号を送信しない。ブレーキ判定部220においてブレーキペダルが踏み込まれていないと判定された場合、運転者がこの直後に制動操作に移行する可能性は低いと考えられるため、ブレーキ操作感の変化を考慮することなく、ブレーキペダル12の固定強度を変化させる。すなわち、固定強度調整部216は、モータ62に対して出力信号を発信し、巻き取り装置60を作動させワイヤ64を巻き取らせて、ブレーキペダル12の固定強度を高める。これによって、ブレーキペダル12の振動を抑制することができる。なお、ブレーキペダルの固定強度が高められているときに、ブレーキ判定部220がブレーキペダルが踏み込まれるのを検出したときは、固定強度調整部216は、直ちにモータ62に対してワイヤ64を緩めるように出力信号を発信する。これによって、固定強度が高いためにブレーキペダル12の踏み込み量が少なくなることがなく、運転者は適切な制動操作を実行することができる。
このように、車速センサ210やシフトセンサ212を使用して車両の走行状態を検出しなくても、ブレーキペダルの踏み込み状態をモータ62の駆動電流に基づいて判定することで、ブレーキ操作感を考慮した固定強度の調整を実現することができる。
実施の形態1では、車両の走行状態を加速中、減速中、後進中の3パターンに分けて固定強度を調整しているが、加速度または減速度の値に応じて固定強度を調整するようにしてもよい。この場合、予め加速度または減速度の値によって顕著なブレーキペダルの振動周波数を測定しておき、その振動を抑制するのに最適な固定強度を計算しておく。固定強度調整部216は、その計算結果にしたがった固定強度になるように、モータ62を作動させる。これによって、より効果的な振動抑制が可能になる。
実施の形態2.
実施の形態2では、モータまたはポンプで発生した振動をブレーキペダルへと伝達する経路内の部材の連結部分の固定強度を調整するようにした。
図6は、実施の形態2におけるリザーバタンクとマスタシリンダの構造を示す。ブレーキペダルは省略してある。実施の形態2では、リザーバタンク26とマスタシリンダ14の間に固定強度可変部材84が介装されている。固定強度可変部材84は、例えばゴムなどの樹脂で中空に形成され内部容積が可変に構成されており、オイル通路86に連通している。オイル通路86からオイルを供給され、またはオイルを排出することで、固定強度可変部材84の内圧を調整することができる。内圧を高めれば、固定強度可変部材84の固定強度は高くなり、内圧を低くすれば固定強度可変部材84の固定強度は小さくなる。オイル通路86の途中には圧力センサ82が設けられており、この検出値から固定強度可変部材84の内圧を知ることができる。オイル通路86は、増圧弁80および減圧弁88に接続されている。この増圧弁80および減圧弁88は、ECU200からの信号に応じて開閉可能である。オイル通路86は図示しない専用のオイルポンプに連通しており、増圧弁80を開くことで高圧のオイルの供給を受けることができる。またオイル通路86は図示しないオイルタンクにも連通しており、減圧弁88を開くことで、固定強度可変部材84内のオイルを排出することができる。なお、増圧弁80の連通先をアキュムレータ50とし、減圧弁88の連通先をリザーバタンク26にすることも可能である。
図7は、実施の形態2におけるECU200と、センサ、アクチュエータの関係を示す機能ブロック図である。走行状態検出部230は、車速センサ210から信号を受け取り、車両の走行状態が高速走行中かまたは低速走行中かを検出する。固定強度調整部232は、圧力センサ82の検出値から固定強度可変部材84の現時点の圧力を得、走行状態検出部230により検出された走行状態に応じて、固定強度可変部材84の固定強度を調整する。固定強度を高めるときは、増圧弁80に開弁信号を出し、固定強度可変部材84内にオイルを供給する。そして、圧力センサ82の検出値が目標値に到達したら、増圧弁80に閉弁信号を出す。逆に、固定強度を低下させるときは、減圧弁88に開弁信号を出し、固定強度可変部材84内のオイルを排出させる。圧力センサ82の検出値が目標値に到達したら、減圧弁88に閉弁信号を出す。
固定強度調整部232は、車両が高速走行中のときには、リザーバタンク26の安定性を確保するため、固定強度可変部材84の固定強度を高くする。車両が低速走行中のときは、リザーバタンク26の安定性は高速走行時よりは低くてもよいため、固定強度可変部材84の固定強度を低くする。固定強度可変部材84の固定強度が低いときは、リザーバタンク26の振動が固定強度可変部材84の変形によって吸収されるので、振動または騒音が抑制される。以上をまとめると、走行状態と固定強度の関係は、図8に示すようになる。
リザーバタンク26とマスタシリンダ14の間に固定強度可変部材84を設ける代わりに、モータ32またはオイルポンプ34を車体に設置する設置部分に固定強度可変部材を設けるようにしてもよい。こうすれば、モータ32やオイルポンプ34の振動を固定強度可変部材で一部吸収し車両に伝達される振動が少なくなるので、振動および騒音の抑制に効果がある。また、マスタシリンダ14と車体との接合部分に固定強度可変部材を設けるようにしてもよい。
以上説明したように、実施の形態2によれば、リザーバタンク、マスタシリンダまたはモータ間の接合部分、または車体との設置部分に、オイルの出し入れによって固定強度を変化させる固定強度可変部材を設け、車両の走行状態に応じて固定強度を可変にしたことで、振動または騒音の抑制と構造上の安定性の確保を両立することが可能となる。
従来用いられているような弾性材料によるダンパは、長期間使用していると周囲環境によって硬化したりひび割れしたりして、本来の強度または振動減衰特性を確保することが困難になるが、実施の形態2では、圧力センサ82の検出値にしたがって固定強度可変部材84にオイルを供給または排出させることで、適正な強度および振動減衰特性を長期間にわたって確保することができる。
なお、上記実施の形態では、固定強度可変部材84が専用のオイルポンプからオイルの供給を受けることを述べたが、車両制動システム100のアキュムレータ50から高圧の作動液の供給を受けて内圧を高めるように構成してもよい。
実施の形態3.
実施の形態3は、リザーバタンクとマスタシリンダとの接合状態を車両の走行状態に合わせて可変とした車両振動抑制装置である。
図9は、実施の形態3におけるリザーバタンクとマスタシリンダの構造を示す。図6と同様に、ブレーキペダルは省略してある。リザーバタンク26とマスタシリンダ14の間には、伸縮装置90が設けられている。この伸縮装置90は、図示しないアクチュエータを駆動することで伸張または収縮して、図9中の上下方向にリザーバタンク26を移動させることができる。リザーバタンク26とマスタシリンダ14とを離間させて接合状態を変化させることで、リザーバタンク26からマスタシリンダ14への振動の伝達を抑制することができる。
図10は、実施の形態3におけるECU200を中心とした機能ブロック図である。車速センサ210およびシフトセンサ212は、図3において説明したものと同様であるので同一の符号を付して説明を省略する。走行状態検出部214は、車速センサ210およびシフトセンサ212から受け取る検出信号を参照して、車両の走行状態を検出する。具体的には、車両が高速走行中(例えば、40km/h以上)、低速走行中(例えば、40km/h未満)、停止中、後進中のいずれの状態にあるかを検出する。接合状態調整部240は、車両の走行状態に応じて、リザーバタンク26とマスタシリンダ14の接合状態を調整する。接合状態調整部240は、伸縮装置90のアクチュエータに対して駆動信号を送信し、この駆動信号に応じて伸縮装置90が伸縮する。
接合状態調整部240は以下のように制御する。走行状態検出部214により車両が高速走行中と検出されたときは、接合状態調整部240は、リザーバタンク26の位置を一番低い状態、つまりリザーバタンク26がマスタシリンダ14に最も接している状態にする。車両の高速走行中にリザーバタンク26が高い位置にあると、安定性の面で問題がある。そこで、振動を抑制することはできないが、リザーバタンク26のマスタシリンダ14に対する位置を低くして、リザーバタンク26の安定性の確保を優先する。
走行状態検出部214により車両が低速走行中と検出されたとき、接合状態調整部240はリザーバタンク26の位置を高くする。つまり、リザーバタンク26をマスタシリンダ14から離した状態にする。低速走行中は、ブレーキペダルが踏まれてもリザーバタンク26やマスタシリンダ14にかかる慣性力は高速走行中よりは小さいため、リザーバタンク26を高い位置においても構造強度上の影響は少ない。また、低速走行中は、ブレーキペダルの操作頻度も高くなるので、車両制動システム100のアキュムレータ50の蓄圧動作が開始される頻度も高まり、したがって振動や騒音を防止することの効果が高くなる。そこで、リザーバタンク26のマスタシリンダ14に対する位置を高くして、振動の抑制を優先する。
走行状態検出部214により車両が停止中と検出されたときも、接合状態調整部240はリザーバタンク26の位置を高くする。停止時は、車両の走行中に発生するロードノイズがないため、モータ32やオイルポンプ34から発生する振動や騒音が運転者に認識されやすい。また、停止時は、リザーバタンク26やマスタシリンダ14にかかる慣性力を考慮する必要がないので、リザーバタンク26の位置を高くしても問題はない。
走行状態検出部214により車両が後進中と検出されたときも、接合状態調整部240はリザーバタンク26の位置を高く設定する。車両の後進中もロードノイズは小さく、また、アキュムレータの蓄圧動作が開始される可能性が高いので、停止時と同様に振動や騒音が運転者に認識されやすい。そこで、リザーバタンク26を高い位置にして、リザーバタンク26からマスタシリンダ14に伝達される振動を減らすのである。
以上説明したように、実施の形態3によれば、車両の走行状態を参照して、リザーバタンクとマスタシリンダの距離を離すことによって、リザーバタンクからマスタシリンダへの振動の伝達、ひいてはブレーキペダルに振動が伝達されることを抑制することができる。
なお、上記実施の形態3では、接合状態調整部240がリザーバタンクの位置を高低の二段階で調整することを説明したが、高中低の三段階で調整するようにしてもよい。この場合、例えば、高速走行中は低位置、低速走行中および後進中は中位置、停止時は高位置のように設定するようにしてもよい。
上記実施の形態3では、リザーバタンク26をマスタシリンダ14から離間させることを述べたが、リザーバタンク26の横方向に遊びを設けるようにしてもよい。こうすると、リザーバタンクの横振動が遊びによって吸収されるため、振動がブレーキペダルに伝達されるのを抑制することができる。この実施例を図11を参照して説明する。
車速センサ210、シフトセンサ212、走行状態検出部214は、図10と同様であるため同一の符号を付して説明を省略する。固定強度調整部242は、走行状態検出部214で検出された車両状態にしたがって、締結力可変装置244を制御する。この締結力可変装置244は、リザーバタンク26をマスタシリンダ14に締結している図示しないボルトに取り付けられ、固定強度調整部242からの信号にしたがってモータの回転によりボルトを締めるか緩めることによって、リザーバタンク26のマスタシリンダ14に対する締結力を変化させる装置である。ボルトの締結力を緩めると、リザーバタンクの左右方向の遊びが大きくなる。反対に、ボルトの締結力を高めると、リザーバタンクとマスタシリンダ間の固定強度が高くなる。
固定強度調整部242は、以下のように制御する。走行状態検出部214によって車両が高速走行中と検出されると、固定強度調整部242は、締結力可変装置244に対して締結力を高めるように指示して、リザーバタンク26の横方向の遊びを小さくする。これは、高速走行中は慣性力が大きいため、リザーバタンク26安定性を高める方が好ましいからである。
走行状態検出部214によって車両が低速走行中と検出されると、固定強度調整部242は、締結力可変装置244に対して締結力を高速走行中よりも低下させるように指示する。これは、低速走行中は車両の旋回や減速などにより生じる慣性力が高速走行中よりも小さいと考えられるため、リザーバタンク26の安定性を減らしてもよいからである。これによって、リザーバタンク26の振動が締結部分の遊びにより一部吸収されるので、マスタシリンダ14に伝達される振動を抑制することができる。
走行状態検出部214によって車両が停止中と検出されると、固定強度調整部242は、締結力可変装置244に対して締結力を低速走行中よりもさらに低下させるように指示する。停止時は、慣性力の発生がないため安定性を考慮する必要がないから、リザーバタンク26の締結部分の遊びをなるべく大きくしてリザーバタンク26の振動を吸収させるのが好ましいからである。
走行状態検出部214によって車両が後進中と検出されると、停止中と同様、車速が小さいために慣性力の発生も小さいと考えられるため、リザーバタンク26の締結部分の遊びを大きくしてリザーバタンクの振動を吸収させる。
リザーバタンクの位置の変化とリザーバタンクの固定強度の変化を組み合わせて使用してもよい。この組合せ例を図12に示す。この場合、固定強度を確保すべく、それぞれの変化の度合いについては単独で用いる場合に比べて変更する必要があるが、その程度は実験的に求めることができる。
なお、実施の形態3についても、固定強度を可変にするのはリザーバタンク26とマスタシリンダ14の間に限られない。例えば、リザーバタンク26とマスタシリンダ14の全体を上下に移動させるように構成してもよい。また、モータ32やオイルポンプ34と車体との接合部分に伸縮装置を設けて、走行状態に応じて上下に移動させるようにしてもよい。
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
実施の形態では、車両制動システム100の構成部品の固定強度を変更して振動または騒音を抑制することについて説明した。しかしながら、見方を変えると、振動が伝達される経路、つまり、モータ、オイルポンプ、ブレーキホース、リザーバタンク、マスタシリンダ、ブレーキペダルと伝達される振動経路における振動伝達特性を変更するものとして本発明を捉えることもきる。
このことを図13を参照して説明する。ECU300は、ECU200と同様に、車両制動システム100とともに備えられる。走行状態検出部302は、車速センサをはじめとする各種センサ310の検出値を参照して、車両の走行状態を検出する。伝達特性算出部308は、各種センサ310の検出値を参照して、振動の伝達経路の伝達特性を算出する。伝達特性変更部304は、走行状態を参照して、伝達特性を変更すべきか否かを判断し、変更すべきときは、固定強度調整部306に対して目標となる伝達特性を指示する。固定強度調整部306は、目標の伝達特性を達成するように、各種可変部材の固定強度を調整する。
例えば、実施の形態1であれば、ブレーキペダルの固定強度を変更することは、ブレーキペダルに仮想的なマスダンパを付加して、振動伝達経路の共振周波数と、ブレーキペダルの共振周波数とが一致しないように、振動伝達特性を変更したものと捉えることができる。
実施の形態2であれば、リザーバタンクとマスタシリンダの接合部分に固定強度変更装置を設置して、これら部品間の振動伝達特性を変更したものと捉えることができる。
実施の形態3であれば、車両の走行状態を参照してリザーバタンクの位置を変えることは、リザーバタンクとマスタシリンダ間の伝達経路を遮断することによって、振動伝達特性を変更したものと捉えることができる。
12 ブレーキペダル、 14 マスタシリンダ、 20 ホイールシリンダ、 26 リザーバタンク、 32 モータ、 34 オイルポンプ、 40 増圧弁、 42 減圧弁、 46 ストロークセンサ、 50 アキュムレータ、 51 アキュムレータ圧センサ、 53 リリーフバルブ、 60 巻き取り装置、 62 モータ、 64 ワイヤ、 72 ボルト、 80 増圧弁、 82 圧力センサ、 84 固定強度可変部材、 88 減圧弁、 90 伸縮装置、 100 車両制動システム、 120 アクチュエータ、 200、300 ECU、 210 車速センサ、 212 シフトセンサ、 214、230、302 走行状態検出部、 216、232、242、306 固定強度調整部、 218 フィードバック制御部、 220 ブレーキ判定部、 240 接合状態調整部、 244 締結力可変装置、 304 伝達特性変更部、 308 伝達特性算出部、 310 センサ。