JP4488504B2 - 光学用酸化ニオブ薄膜の製造方法 - Google Patents

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本発明は、スパッタリング法を用いた酸化ニオブ薄膜の製造方法であって、詳しくは、液晶表示装置等の各種画像表示装置に使用する光学用の酸化ニオブ薄膜の製造方法である。
フラットパネルディスプレイ等の各種画像表示装置において、その表示画面における表面反射を防ぐため、反射防止フィルムが広く使用されている。前記反射防止フィルムとして、例えば、屈折率の異なる2種類の薄膜(高屈折率薄膜と低屈折率薄膜)が積層された多層型の反射防止フィルムが知られている。前記高屈折率薄膜の形成材料としては、作製のし易さから、一般に、酸化チタン(Ti)が使用されているが、例えば、スパッタリング法により成膜を行う場合、成膜速度が遅く、生産性の面で問題があった。
そこで、近年では、酸化チタンと比較して約3倍の成膜速度が実現できるとして、新たに酸化ニオブ(Nb)の使用が試みられている(例えば、特許文献1)。具体的には、膜厚制御性等の点からスパッタリング法による成膜が一般的であり、ターゲット材料として、ニオブ酸化物(Nb2x)やNbメタルが使用されている。しかしながら、ニオブ酸化物は高価であり、また、一般に導通が得られないため、例えば、RF放電スパッタ成膜法を適用する必要があり、これによってはそれほど早い成膜速度は実現できない。一方、Nbメタルは比較的安価で、導通もとれるため、例えば、DC放電スパッタ成膜法が可能であり、酸化Tiの約3倍程度の成膜速度が実現できる。しかし、金属インジウム(In)と同様に、酸素ガスを導入するスパッタ法においては、ある酸素導入量で急激に成膜速度が低下し、酸化のヒステリシス(履歴現象)が生じてしまう。具体的には、図3のグラフに示すように、ある範囲の酸素導入量に対して成膜速度が急激に低下し(同図においてB領域)、前記範囲を超える酸素導入量に対して成膜速度が、略一定(同図においてA領域)となるという挙動を示すのである。このため、B領域の条件下で形成された薄膜は、例えば、膜厚や光学特性(可視光領域での吸収の有無など)にバラツキが生じるという問題がある。したがって、単に一般的なマスフローコントローラー(MFC)で酸素導入量を調整するのみである従来法では、成膜速度は遅いが、酸素導入量の変動によって成膜速度や光学特性があまり変化しないA領域の条件下で、酸化が進んだNb25に近い薄膜を形成する必要があった。
このように、Nbメタルを使用する場合、単にMFCにより酸素ガスを導入するスパッタ成膜法では、酸化Tiと比べて、コストの面ならびに生産速度の面等で優れているものの、低い成膜速度しか実現できないことから、さらなる高速化が求められている。
特開平8−283935号公報
そこで、本発明の目的は、優れた成膜速度で、光学特性に優れた酸化Nb薄膜を製造する方法の提供である。
前記目的を達成するために、本発明は、光学用酸化Nb薄膜の製造方法であって、Nbメタルをターゲットとして、マグネトロンスパッタリング法により、基材表面に酸化Nb薄膜を成膜する工程を含み、前記成膜工程において、アルゴン(Ar)雰囲気下でスパッタリングを開始し、プラズマエミッションモニタリング(PEM)法により酸素の導入量を調整し、基材表面への酸化ニオブ薄膜の成膜時のプラズマ発光強度を、スパッタリング開始時のプラズマ発光強度に対して5〜15%の範囲に制御することを特徴とする。
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、Nbメタルから発生するプラズマ発光強度をモニタリングし、発光強度に応じて導入する反応性ガスの量を調整することによって所望のプラズマ強度に制御すれば、従来よりも速い成膜速度で、良好な光学特性を有する酸化Nb薄膜を形成できることを見出し、本発明に到ったのである。
スパッタ法、特にマグネトロンスパッタ法において、Nbメタルをターゲットとして使用した場合、酸素等の反応性ガスの導入量と成膜速度との関係は、前述の図3のグラフに示すような関係となる。つまり、反応性ガス導入量が少ない場合、成膜速度は速いが、Nbがメタル状態であるため、形成される薄膜は、透過率が低い、すなわち透明性に欠ける薄膜となる。また、反応性ガス導入量が増加してある範囲に達すると(同図においてB領域)、急激に成膜速度が低下するが、形成される膜の酸化が進み、得られる薄膜の透過率も上昇する。反応性ガス導入量がさらに増加すると(同図においてA領域)、成膜速度の低下は抑制される。そして、このA領域は、成膜速度自体は低いものの、形成される薄膜は、Nb25膜に近づき、その性質は、透過率が高く、可視光領域での吸収が極めて少なく、良好な波長分散性が実現できる。したがって、従来の方法では、単にMFCによって反応性ガスを導入していたが、図3に示すように、得られる薄膜の光学特性および成膜速度が変動する領域(B領域:ヒステリシス領域)ではなく、反応性ガスの導入量が多少変動しても、成膜速度の変動が小さく、良好な光学特性の薄膜を実現できるA領域で、薄膜を形成する必要があった。そこで、本発明者らは、従来、A領域よりも成膜速度は速いものの、一定の成膜速度、良好な光学特性の薄膜を確保するためには、通常のMFCでの反応性ガス導入量の制御が極めて困難であるとして回避されていた領域Bに着目した。そして、反応性ガス導入量の制御方法として、ターゲットメタルのプラズマ発光強度が酸素導入量によって変動することを利用した、プラズマエミッションモニタリング(PEM)法を検討したのである。その結果、Nbメタルのプラズマ発光強度を測定し、前記発光強度に応じて反応性ガス導入量を制御するPEM制御によって、図3に示すようなA領域には限られず、ヒステリシス領域であるB領域を含む広い範囲においても、良好な光学特性を有する酸化Nb薄膜の成膜を可能としたのである。このような方法によれば、従来よりも速い成膜速度で酸化Nb薄膜が形成でき、且つ、形成された薄膜は、良好な光学特性、例えば、透過率が高く透明性に優れ、波長分散特性に優れる(例えば、可視光領域での吸収が極めて少なく、高い屈折率を示す)ことから、前述のような光学用途に極めて有用である。
前記PEM法とは、ターゲット金属のプラズマ発光強度を測定して、供給する反応性ガス量を制御する、従来公知の一般的な制御方法である。なお、前記プラズマ発光強度は、例えば、成膜工程において、可視または赤外線領域のある特定波長(例えば、353nm)における光の強度をプラズマ発光強度として測定できる。
以下に、PEM法による反応性ガス導入量の制御方法の一例を示す。まず、プラズマ強度をモニタリングした状態で、排気力、不活性ガス導入量、DC電力がー定の条件下、スパッタ放電を行う。そして、所望のプラズマ強度になるように、ピエゾバルブを使用したガスコントローラーで自動制御しながら反応性ガスを導入する。このように、PEM法により、プラズマの状態にあわせて反応性ガスの導入量を刻々変動させて供給することによって、プラズマ強度を指定した所望の値に安定に維持させることができるのである。なお、PEM制御を行う従来公知のガスコントローラーであれば、例えば、所望のプラズマ強度を入力すれば、自動的にガスの導入量が制御できる。このようなコントローラーとしては、市販の商品名PEM05(アルデンネ社製)等が使用できる。
本発明においては、反応性ガス導入後、反応性ガスの導入量によって成膜時のプラズマ強度を、スパッタリング開始時(即ち、反応性ガスの導入前)のプラズマ強度に対して、5〜15%の範囲に制御するのが好ましく、9〜14%の範囲に制御するのがより好ましい。
反応性ガス導入後のプラズマ強度がスパッタリング開始時のプラズマ強度に対して5〜15%の範囲であれば、十分な成膜速度を実現し、且つ、十分に優れた光学特性の酸化Nb薄膜が得られる。具体的には、プラズマ強度をこの条件に設定した場合、従来のMFC制御による成膜方法と比較して、約3倍の速度で成膜することが可能である。
本発明において、前記スパッタリング法としては、例えば、マグネトロンスパッタ法があげられ、一般的なマグネトロンスパッタ装置により行うことができる。マグネトロンスパッタ装置によれば、例えば、膜厚の制御性が良好であり、また、前述のような多層型の反射防止フィルムは、何層もの薄膜を積層する必要があるが、各層について独立に制御可能だからである。
スパッタリングは、一般に、不活性ガス雰囲気下で開始され、その後、前述のように反応性ガスが導入される。前記不活性ガスとしては、特に制限されず、一般的なガスがあげられるが、例えば、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)等であり、通常、Arガスが使用される。なお、これらのガスは、1種類でもよいし、2種類以上の混合ガスであってもよい。一方、反応性ガスとしては、Nbを酸化できれば特に制限されず、通常、酸素ガスが使用される。
スパッタリングの条件としては、特に制限されず、通常、減圧下で行われるが、成膜時の真空度は、例えば、0.1〜1.0Paであり、好ましくは0.2〜0.4Paである。成膜時の温度は特に制限されず、例えば、−10〜180℃であり、好ましくは、室温〜100℃である。また、通常、基材を搬送しながらスパッタリングを行うが、その搬送速度は、特に制限されないが、例えば、0.1〜100m/分であり、好ましくは0.5〜50m/分である。また、ターゲット面積あたりの電力密度は特に制限されず、例えば、1〜15W/cm2であり、好ましくは3〜7W/cm2である。
前記基材としては、特に制限されないが、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エポキシ樹脂、シクロオレフィン系樹脂等のポリマーフィルムや、ガラス基板やエポキシ樹脂製フィルム等のリジッド基材等があげられる。その厚みも特に制限されないが、一般に16〜200μmの範囲である。
このような製造方法によれば、前述のように、基材上に、均一な膜質である酸化Nb薄膜を形成できる。
本発明の酸化Nb薄膜は、可視光(400〜800nm)における吸光率は、いずれの波長においても、通常、±0.001の範囲であり、略0である。
また、その屈折率の波長分散特性は、例えば、正の波長分散を示し、具体的には、500nmにおける屈折率が2.3〜2.4であり、且つ700nmにおける屈折率に対する400nmにおける屈折率の割合が1.05〜1.20である。
前記酸化Nb薄膜の厚みは、特に制限されないが、例えば、反射防止用に用いるとき5〜50nmである。
本発明の酸化Nb薄膜は、例えば、前述のような光学用途に供することができる。具体例としては、多層型の反射防止フィルムにおける高屈折率薄膜として有用であり、例えば、本発明の酸化Nb薄膜と、前記酸化Nb薄膜に対して相対的に屈折率が低い低屈折率薄膜とを積層することによって、反射防止フィルムとして使用できる。なお、前記低屈折率薄膜は、本発明の酸化Nb薄膜に比べて屈折率が低ければよく、その材料等はなんら制限されない。このようにして得られる反射防止フィルムは、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、ブラウン管(CRT)等の各種画像表示装置における、表示画面の視認性を向上するために、従来公知の反射防止フィルムと同様にして使用できる。
以下に、実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。
(実施例1)
三井金属社製Nbメタルターゲット(幅150mm×長さ600mm×厚み6mm)を巻き取り式マグネトロンスパッタ成膜装置に装着し、PETフィルム基板(厚み125μm)上に、反応性スパッタ成膜を行った。具体的には、装置のチャンバー内気圧を3×10-5Paになるまで排気した後、Arガスを導入し、さらにチャンバー内気圧を0.3Paとして、6KWのDC電力でスパッタ成膜を行った。前記PETフィルムの搬送速度は1m/分とした。
また、放電プラズマ発光の強度の測定ならびに制御は、PEM制御を行うガスコントローラー(商品名PEM05:アルデンネ社製)を使用し、353nmのNbフィルターを用いて行った。具体的には、初めに、Arガスのみでプラズマ発光強度を90にあわせ、その後、自動制御により酸素を導入してプラズマ強度を8(開始時の8.9%)にまで徐々に低下させ、酸化Nb薄膜を形成した。
なお、酸化Nb薄膜の特性は、予め前記PETフィルムの一部に薄いガラス(厚み0.5mm)を貼り付けておき、前記ガラス上に形成された酸化Nb薄膜について調べた。具体的には、前記酸化Nb薄膜の膜厚は、ガラス上に形成された酸化Nb薄膜を接触式膜厚計(商品名DEKTAK3:DEKTAK社製)により測定し、屈折率および吸収率については、前記ガラス上に形成された酸化Nb薄膜を分光エリプソ測定用サンプルとして、可視光(400nm〜800nm)における波長分散性を測定した(商品名自動波長走査型エリプソメーターM-220:日本分光社製)。前記サンプルの波長分散特性を図1に、吸光率の結果を図2に示す。図1において、横軸は測定波長(nm)、縦軸は屈折率、図2において、横軸は測定波長(nm)、縦軸は吸光率をそれぞれ示す。
このようにPEM法によって所望のプラズマ発光強度に制御することにより、成膜速度約35nm/12秒を実現できた。そして、得られた酸化Nb薄膜は、可視光領域において吸収が無く、光学特性が良好であることがわかった。
(実施例2)
Arガスのみでプラズマ発光強度を初めに90にあわせた後に、自動制御により酸素を導入してプラズマ強度を13(開始時の14.4%)にまで徐々に低下させること以外は、前記実施例1と同様にして酸化Nb薄膜を形成した。このサンプルを前記実施例1と同様に評価した結果、可視光領域において吸収が無く、光学特性が良好であり、成膜速度約35nm/12秒を実現できた。なお、サンプルの波長分散特性を前述の図2にあわせて示す。
(比較例1)
酸素導入制御方法をMFC方式にした以外は、前記実施例1と同様にしてスパッタ成膜により酸化ニオブ薄膜を得た。その結果、MFCで一定量の酸素量(25SCCM(大気圧換算流量))を導入するのみでは、実施例1で得られた酸化Nb薄膜と同等な膜質の薄膜は得られなかった。さらに、酸素導入量を50SCCM(大気圧換算流量)に増加させ、前述の図3における成膜速度が安定する領域(A)で成膜を行った結果、放電が安定し、評価用サンプルとなる酸化Nb薄膜が得られた。このサンプルを前記実施例1と同様に評価した結果、可視光領域において吸収が無く、光学特性が良好であったが、成膜速度は極めて遅く、約10nm/12秒であった。なお、サンプルの波長分散特性を前述の図2にあわせて示す。
以上のように、実施例によれば、PEM法によって、プラズマの発光状態に応じて酸素導入量を調整することにより、速い成膜速度が可能となり、且つ、得られる酸化Nb薄膜も良好な光学特性を有することがわかった。これに対して、単に酸素導入量を設定したのみである比較例においては、酸素導入量を増加させて成膜速度を低下させた状態でなければ、安定に酸化Nb薄膜が得られなかった。
このように、本発明の製造方法によれば、PEM法によって、反応性ガスの導入量を調整して、所望のプラズマ発光強度に保つことにより、成膜速度を向上し、且つ、例えば、可視光領域で吸収が無く、透明で波長分散特性が良好、且つ高屈折率、すなわち良好な光学特性を有する酸化Nb薄膜を提供することができる。この酸化Nb薄膜は、例えば、多層型の反射防止フィルムの構成材料に適していることから、光学分野においても極めて有用な方法であるといえる。
本発明の実施例における酸化Nb薄膜の波長分散特性を示すグラフである。 前記実施例における酸化Nb薄膜の吸光率を示すグラフである。 従来のMFCを用いたスパッタリングにおける成膜速度と反応性ガス導入量との関係を示すグラフである。

Claims (1)

  1. 光学用酸化ニオブ薄膜の製造方法であって、
    ニオブメタルをターゲットとして、マグネトロンスパッタリング法により、基材表面に酸化ニオブ薄膜を成膜する工程を含み、
    前記成膜工程において、アルゴン(Ar)雰囲気下でスパッタリングを開始し、プラズマエミッションモニタリング(PEM)法により酸素の導入量を調整し、前記基材表面への酸化ニオブ薄膜の成膜時の前記ニオブメタルのプラズマ発光強度を、スパッタリング開始時のプラズマ発光強度に対して5〜15%の範囲に制御することを特徴とする製造方法。
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