JP4471877B2 - プラズマ表面処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は被処理物の表面物性を物理的ないし化学的に改質し、成膜するプラズマ表面処理方法に関する。
従来のプラズマ表面処理方法として、ダイナミックミキシング法またはイオンビーム支援成膜法が知られている。また、プラズマイオン注入・成膜法(非特許文献1)も知られている。これは、真空容器内に生成されたプラズマ中に被処理物を浸し、被処理物に負の電圧パルス(10kV〜100kV)を加える。プラズマ中のイオンがプラズマと被処理物との間に形成されるイオンシースの電界で加速され、被処理物の内部に注入され、被処理物の表面物性が改質される(プラズマイオン注入法)。
このプラズマイオン注入法において、金属アークやスパッタリングなどによって固体元素がプラズマに導入される場合は、イオン注入用電圧パルスの休止期間にこれら固体元素が被処理物表面に堆積し成膜する。前記のダイナミックミキシング効果で膜の密着性、緻密性が向上するとされている(プラズマイオン注入・成膜法)。
更に、本発明者が既に提案したプラズマ表面処理方法(特許文献1)では、接地電位に保持された被処理物に対してプラズマを正電位にバイアスする正パルスバイアス法が示されている。即ち、この既に出願した発明は、図15に示すように、接地された真空容器2の内部に、別に設けたプラズマ発生用電源7及びプラズマ発生用アンテナ又は電極6によってプラズマ3を発生させる。真空容器2の壁の一部が絶縁性包囲体乃至は真空容器から絶縁された導電性包囲体12で覆われる。プラズマ発生法は、熱陰極を用いた直流アーク放電、高周波容量結合放電、高周波誘導結合放電、マイクロ波放電、ECR放電等が用いられる。
導電性の支持体又は運動・移動機構10に支持されるか、直接容器の底部に置かれた被処理物1がこのプラズマ3の中に浸される。被処理物1及び支持体等10は接地電位にある。真空容器2内に正パルスを印加するための電極(陽極)11を真空フィードスルー8及び支持体を介して挿入する。陽極11は真空容器2外で正の電圧パルスを発生する高電圧パルス発生器(高電圧パルスモジュレータ)9に接続される。高電圧パルス発生器9は、パルスの振幅、時間幅、繰り返し周波数が可変であり、正電圧パルスを連続して発生することができる。更に、パルスの立ち上がり時間あるいは立ち下がり時間等の波形を制御することも行われる。
高電圧パルス発生器9から被処理物1に対して正のパルス電圧を印加すると、プラズマ3と被処理物1の間にイオンシース4が形成される。イオンシース4は被処理物1の表面全体をほぼ一様に覆うことを特徴とする。プラズマ内の電荷Qの正イオン5はイオンシース4内の電界で加速され、印加された電圧Vにほぼ等しい運動エネルギーQVを持って被処理物1の表面に達する。
ここで、印加パルス電圧が数百ボルト乃至数千ボルトの時は、正イオン5は被処理物1の表面に堆積して被膜を形成し、被処理物1の表面を改質する、所謂、イオンプレーティング法となり、印加パルス電圧が10kV乃至100kVの時は、正イオン5が被処理物1の内部に注入され、被処理物1の表面を改質する、所謂、プラズマイオン注入法となる。
「プラズマイオン注入法とその応用」電気学会技術報告第60号,2001年、第36頁〜第59頁 特開平2004−31461号公報
従来のダイナミックミキシング法またはイオンビーム支援成膜法は、イオンビームの強い指向性のため、パイプや精密金型、機械部品、刃物などの3次元形状物の処理は困難であった。(課題1)
プラズマイオン注入・成膜法の問題点は、被処理物に直接高電圧を印加するため、支持機構に高電圧絶縁が必要になり設計がより複雑になる。また、処理中およびその前後に被処理物を回転・移動することは困難で、被処理物の操作に著しく自由度を欠き、更に、被処理物上あるいはその近傍に処理をモニタ(イオン電流、イオンエネルギー、膜厚、温度など)するための測定器や温度制御のための加熱・冷却装置、そして補助プラズマ源等を設置することが困難であった。(課題2)
本発明者が既に提案した、プラズマ表面処理方法及び装置の発明には、プラズマイオン注入処理のみが開示され、プラズマイオン注入と成膜の複合処理については何ら示されてなく、ましてや成膜時に膜質を向上する処理についても示されていない。(課題3)
また、被処理物の包囲体の材料に関する課題として、正パルスバイアス法では容器壁が被処理物と同じ陰極として機能するため、プラズマに正バイアスを印加するには、包囲体によって容器壁の一部ないしは全部を覆い、容器壁に流れる電流を減らさねばならない。そのために、包囲体として石英やセラミックスなどの絶縁体を用いることができるが、これらは固く、容器壁や被処理物の形状に合わせてその形状をフレキシブルに調整することができない。また、プラズマに触れた場合、スパッタリング現象などで表層の原子がプラズマに混入し、プラズマを汚染することが懸念された。(課題4)
更に、小型の3次元形状基材の均質な表面処理に関する課題として、従来のプラズマイオン注入法では複雑な表面形状を有する3次元形状物でも一様に表面処理できるとしているが、しかし現実には、被処理物の凹凸のスケール長(例えば、パイプや穴の直径、トレンチの幅など)が、表面に形成されるイオンシースの厚さの2倍より十分大きい場合に限られる。
即ち、比較的大型の被処理物なら一様に処理できるが、この条件を満たさない被処理物では、図16に示すように、等価的にプラズマ領域が凹部の外に出てしまうために、注入されるイオン量が減少し、凹部がシースで埋まってしまう(注:シースは正イオンで満たされているが、シース内のイオン密度はプラズマ内のイオン密度の数十分の1と圧倒的に少ない)、またエネルギーは印加電圧相当分より下がってしまう。
また凹部の内面への一様なイオン注入も望めない。例えば、典型的に1010/cm3 のプラズマに20kVの電圧を加えると、シース厚さは少なくとも15mmとなり直径30mm以下のパイプ内面へのイオン注入は困難である。
ここで、プラズマ密度を増加すればシース厚さは密度の平方根に反比例して減少する。例えば、密度1011/cm3 なら厚さは4.7mmに、1012/cm3 なら1.5mmになる。そしてプラズマはパイプの中に浸入することができる。但し、このような高密度プラズマを生成・維持(定常プラズマを用いたプロセスの場合)するのはなおさら困難である。まず、大電力のプラズマ発生装置が必要である。高密度プラズマは同時に熱量が大きいので容器壁や被処理物に多大の熱負荷がかかり、急激な温度上昇を招くと同時に深刻な問題がある。
イオンを加速する高電圧パルス発生器の出力電流はプラズマ密度に比例する。例えば、表面積600cm2(1辺が10cm)のステンレス鋼の立方体を20kVのアルゴンイオン(質量数40)で照射する時、プラズマ密度が1010/cm3 なら、全イオン電流は6.8A、2次電子まで考慮すると、37Aになる。もし密度が1011/cm3 になると、それぞれ68A、370Aである。そのために大電力で高価な高電圧パルス発生器が必要になり、極めて非現実的である。要するに、イオンシースの厚さがプラズマ密度の平方根に反比例するために、小型の3次元形状物の一様なプラズマイオン注入、プラズマ表面処理には困難があった。(課題5)
更に、正パルスバイアス法の成立条件に関する課題として、プラズマに正電位をバイアスするには一定の条件が必要である。先の特許出願でも条件の式が導かれているが、これは容器壁と被処理物の材料が同一で、かつ被処理物が1つの場合であって、極めて限定された条件下の式である。被処理物が複数でそれぞれの材料が異なる場合、加えて容器壁の材料が場所によって異なる場合などのより複雑な条件に対応できない。それ故、実用性を有する、より広範な条件下で適用できる正パルスバイアス法の条件式を導く必要がある。(課題6)
そこで、本発明はイオン注入により被処理物表面に混合層を形成し、その上に成膜して表面改質膜の付着強度、耐摩耗性、寿命を向上すると共に、3次元形状物を処理できるプラズマ表面処理方法及び装置を実現することを目的とする。
本願発明者は、上述の課題を解決するために鋭意研究の結果、上述の課題1〜課題6が原理的に解決されることを知見し、この知見に基づいて本発明のプラズマ表面処理方法及び装置を実現したものである。上記各課題の解決手段を以下に示す。
(1)課題1、2、3に対する解決手段
正バイアス法を基本に、被処理物を接地電位に保持する。外部から挿入する陽極に正の電圧パルスと直流電圧を同時に加える。こうして、プラズマイオン注入による混合層の形成とイオン支援成膜の複合によって、密着性、緻密性、結晶性のより高い膜を接地電位にある被処理物に形成できる。そして処理中に被処理物を運動、操作する自由度も確保される。連続一貫処理システムが構築しやすくなる。ここで被処理物に負の直流電圧を加えても前述した成膜時のイオン衝撃効果を得ることができる。
(2)課題4に対する解決手段
被処理物と容器壁の間にあって、被処理物を囲み、又は容器壁を覆う包囲体の役目は、プラズマから容器壁に流れる電流の一部乃至は全部を阻止し、前述の正パルスバイアス条件を達成させることにある。従って、包囲体は、容器壁から電気的に絶縁されていれば、導体であって差し支えない。更に、包囲体は分割されても差し支えない。例えば、ステンレス鋼の薄板を成形して容器壁に内張したり、被処理物の形に合わせて成形して被処理物を取り囲むように(但し、包囲体と被処理物の間には表面処理に十分な量のプラズマが存在できること)設置することは適切である。これらの薄板は絶縁性の支持体を介して容器壁などに取り付けられる。絶縁性支持体はプラズマと容器壁の間にかかる高電圧に対して十分な耐力を持つものとする。支持体の表面に導電性堆積物が付着して表面が汚損されると、支持体の電気絶縁性、耐電圧性が損なわれるので、包囲体と支持体は汚染物が届きにくく、付着しにくい構造にするなど設計に工夫する必要がある。
(3)課題5に対する解決手段
パイプの内面、およびトレンチ、穴の側面、底面など、従来のプラズマイオン注入法では処理が困難な部位に近接して小面積の小型陽極を設置し、局所的にパルスプラズマを発生させて、イオンを被処理物内に加速・注入する。即ち、正パルスバイアス・プラズマイオン注入を被処理物上の小面積で局所的、選択的に行う。その際、正パルスバイアス電圧によって直接ガスをイオン化する方法を用いる。これを「パルスグロー放電」という。パルスグロー放電では、プラズマ源が不要になる。正パルスバイアスがプラズマ生成とイオン注入の両方の役割を果たす。具体的に局所正パルスバイアス法が可能となるパラメータ領域、即ち、被処理物と陽極の最近接距離d[mm]、容器内ガス圧P[Pa]、陽極電圧VA [kV]、電圧パルス幅tp [μs]、陽極の形状、寸法、表面積SA [m2]、材質を規定する。
まず、距離dを0.5〜10mm、望ましくは2〜5mmとする。プロセス用のガスも含め容器内のガス圧Pは、陽極バイアス電圧で加速された正イオンが距離dの間に中性粒子と衝突しない程度に低くなければならない。これはイオンの平均自由行程をλ[mm]とすると、λ>dと表すことができる。一方λ=kT/(Pσ)なので、結局Pd<kT/σが必要である。ここで、k=1.38×10-23[J/K]はボルツマン定数、T[K]は絶対温度、σ[m2]はイオンとガスを構成する中性粒子との衝突断面積である。
例として、アルゴンを取り上げる(アルゴンは実際の注入・成膜プロセスの原料ガスではないが、ここでは参考として)。σ=8×10-192(この値は断面積の最大値、エネルギー10keV以上では、これの2〜3分の1になる)より、P[Pa]×d[mm]<5.1となる。即ち、d=0.5mmのとき、P<10.2Pa、そして、d=10mmのときにはP<0.51Paが必要である。即ち、比較的低ガス圧でのプロセスになる。更に、条件P[Pa]×d[mm]<5.1と陽極電圧10kVを組み合わせると、パッシェンの火花放電開始条件を満たさない可能性がある。
そこで、本件の局所正パルスバイアスを実施する際には、もし、正パルスバイアスのみでパルスグロー放電が発生しない場合には、あらかじめ別のプラズマ発生装置にて定常プラズマを発生し、被処理物の周囲に放電の種となる電子を供給しておくことが効果的である。このプラズマは火花放電の種を供給することが目的なので、10kVで確実に放電が生起すれば良く、ごく低密度で差し支えない。
次に、陽極電圧VAは従来法と同程度に10kV〜100kVとする。電圧パルス幅tpは2つの要因で決定される。パルス幅を大きくすると注入されるイオン数を増やすことができる。しかし、やがて被処理物の表面からアーク放電が進展して大電流が流れ、所謂シースの破壊が起こる。このときシースに電圧がかからなくなるのでイオン注入は不可能になる。アーク放電に遷移する前に電圧パルスを切る必要がある。このアーク放電への遷移が電圧パルス幅の最大値を決定する。
次にパルス幅の最小値を決定する。シース内のイオンが被処理物内に注入される時間は1μsより十分短い(具体的にはイオンプラズマ振動周期程度の時間)。一方、電圧パルスの立ち上がりでは、被処理物と陽極間の静電容量のために変位電流が流れる。この変位電流はイオン注入に何ら寄与しないので、パルス幅は変位電流の持続時間約1μsより長くなければならない。結局パルス幅は1μs〜10μs、望ましくは2μs〜5μsである。但し、アーク遷移時間(実際には処理条件に合わせて実験的に決める)よりは短く設定される。
次に陽極の形状、寸法、表面積SA[m2]、材質を決める。形状は、陽極から被処理物に向かう電界が直線的で一様になる平行平板が望ましいが、実用には球や円柱電極も使いやすい。寸法はパイプやトレンチの内部、および穴に内部に挿入できて、被処理物面との間に上記dの距離を保てる程の大きさである。更に、表面積SA[m2]を設定することで自ずと決まってくる。
これらの陽極は接続線を介して高電圧パルス発生器に接続される。接続線の外側はセラミックスなどの絶縁体で覆われ、電流が流れないように処理されている。陽極面積SA [m2]を大きくすると、一時に処理できる被処理物の面積が増える。概ねSA の1〜10倍の面積が処理されると考えられるが、これは陽極形状や距離dによって変わるので実際には実験的に決める必要がある。
イオン注入処理を継続しながら被処理物を移動機構等を介して移動させることによって、被処理物の所望の領域全体を処理することができる。一方、陽極面積の上限は高電圧パルス発生器の最大出力電流値で制限される。高電圧パルス発生器の出力電流は陽極面積SA[m2]に比例することに注意する。陽極の材質としては、ステンレス鋼の他タングステン、タンタル、モリブデン等耐熱性の高い金属材料を広く使用することができる。
陽極にはイオン衝撃によるスパッタリングは起こらないが、表面が酸化して一部絶縁性に転じる可能性がある。絶縁膜が形成されると陽極の実効面積が減少してしまうので甚だ都合が悪い。陽極の表面に酸化しにくい金や白金などの貴金属をコーティングしたり、定期的に陽極を負バイアスしてイオン衝撃でスパッタクリーニングすることは酸化膜の除去に大変効果がある。
局部パルスバイアス法のプロセスの流れをまとめると次のようになる。陽極に10kV〜100kVの正の電圧パルスを加え、被処理物との間で局所的な放電を行うと、ギャップ(距離d)間にパルス放電が起こり、1011〜1012/cm3の高密度プラズマが容易に発生できる。そして被処理物の表面にイオンシースが形成され、プラズマ内のイオンが加速されて被処理物に注入される。プラズマ密度が高いのでイオン電流密度は大きいが、プラズマが局所的で電流の流れる実効面積が小さいので全放電電流は低く抑えられる。
こうして高電圧パルス発生器の出力電流定格を低く抑えることができる。パルス幅を10μs以下、望ましくは5μs以下にすることによってアーク遷移を抑止し、シースに電圧が確実に掛かる。ガス圧力はイオンの平均自由行程λがギャップ長dより長くなるように設定される。これはイオンの運動エネルギーを保存するために必要である。距離dにも依るが概ね0.1Pa−10Paが動作圧力になる。この動作圧力には室温で気相のプロセスガスの他、室温で固相の金属等の物質の蒸気圧も含まれる。
局所パルスバイアス法によって、例えば、直径10mmのパイプの内面処理も可能になる。但し、これは局所的なイオン注入なので、パイプの内面やトレンチの側面、底面の全面を処理するときは被処理物が接地電位にあることを利用して、自動移動機構等を利用して被処理物を移動させながら、この局所イオン注入を続ける必要がある。一度に処理できる被処理物の面積、パルス発生器出力電流値はパルス電圧の振幅VA、時間幅tp、ガス圧P、ギャップ間隔d、陽極の形状と面積SAで変わるので、上述の指針を基に適切な条件を探索しておくことが肝要である。
こうして、比較的小型の複雑形状物の一様な表面処理のために望ましい一貫プロセスは以下のようになろう。まず、従来法で困難な内面乃至は凹部の特定の領域を、前述の局所パルスバイアス法と被処理物の操作で選択的に処理する。これは前処理と見なされる。次に、「解決手段(2)」で述べた、低密度大容量プラズマを用いた正パルスバイアス・プラズマイオン注入&成膜法によって被処理物外面へのイオン注入、混合層形成、そして被処理物内外面へのイオン支援成膜を同時進行させる。こうして比較的小型の複雑形状物の内外面に混合層を有する密着性の高い膜を形成することができる。
(4)課題6に対する解決手段
処理物が複数でそれぞれの材料が異なる場合、加えて容器壁の材料が場所によって異なる場合などより複雑、かつ広範な条件下で適用できる正パルスバイアス法の条件式を導く。陽極も一般的には分割されていて差し支えない。基本はプラズマ診断で多用されるラングミュアプローブである。図6にモデルの概要図を示す。
まず、接地電位にある被処理物の面積と2次電子放出係数をそれぞれ、ST1[m2],γT1,ST2[m2],γT2,ST3[m2],γT3………STl[m2],γTl,同じく接地電位にある容器壁の材質の異なる部分の面積と2次電子放出係数をそれぞれSW1[m2],γW1, SW2[m2],γW2, SW3[m2],γW3 ……SWm[m2],γWmと仮定する.次に分割された陽極の面積をSA1[m2], SA2[m2], SA3[m2] ………SAn[m2]と仮定する。
陽極での2次電子放出は考えなくて良い。電流の連続性から、陽極を流れる全電流I A [A] と陰極及び容器壁を流れる全電流IK[A]、そして直流電源(電圧VA)を流れる電流I[A] は互いに等しい。即ち、
I=IA =IK (1)
である。ここで、IA は以下のように表される。
Figure 0004471877

ここで、SA[m2]は陽極の総面積、Jes[A/m2]=(1/4)enveは電子飽和電流密度、Ies[A]=SAesは電子飽和電流、VP[V] はプラズマ電位、VA[V] は陽極電圧、n[m-3] はプラズマの電子密度、ve=(8kT e /πme)1/2[m/s]は電子の平均熱速度、Te[K]は電子温度、me=0.911×10-30kgは電子の質量である。次に被処理物に流れる電流をIT[A] とすると、次式のようになる。
Figure 0004471877
ここで、Jis=0.61enuBはイオン飽和電流密度、uB=(Te/mi1/2[m/s]はボーム速度、mi[kg]はイオンの質量である。また容器壁に流れる電流をIW[A]とすると、次式のようになる。
Figure 0004471877
結局、IK =IT +IW より、次式のようになる。
Figure 0004471877
ここで、
Figure 0004471877

を実効陰極面積と呼ぶことにする。
こうして(1)式は次のように変形できる。
Figure 0004471877
正パルスバイアス法、乃至は局所正パルスバイアス法が成立するためには、プラズマ電位が陽極の電位以上にならなければならないので、VP−VA ≧0 が要求される。従って本方式の成立条件は、(7)式から、
I≦Ies (8)
となる。
しかし正パルスバイアス法の基礎実験によると、(8)式の条件は幾分緩和されて、成立条件は、
I≦αIes (9)
となる。ここでαは無次元の係数で、α=1.0−1.5、望ましくは1.0である。即ち、
被処理物の数や材質などに無関係に、正パルスバイアス法および局所正パルスバイアス法に共通に適用できる成立条件は、(9)式である。言葉で表せば、陽極を流れる電流Iは、同じ陽極に流れうる電子飽和電流Iesのα倍以下でなくてはならない。(9)式は、(7)式を使って、別の形に表現することができる。
Figure 0004471877
(10)式は(9)式に等価な、面積比の条件を与える。但し、SA,SK はそれぞれ(2)式と(6)式で定義された実効面積であることに注意する。
以上のように、本発明のプラズマ表面処理方法及び装置は、プラズマイオン注入による混合層の形成と成膜を複合したプラズマイオン注入・成膜法によって、被処理物表面に密着性の高い膜を形成できる。その際正バイアス法を採用することによって、処理中の被処理物の回転、移動など操作の自由度を付与することができる。
また、上記方式では容器壁の一部を電気的に絶縁することが必要だが、その包囲体として絶縁体の他に、加工・成形が容易で汚染にも強い金属薄板を使えるようにした。比較的小型の被処理物の凹部はプラズマイオン注入法でも処理が難しいが、これを可能にする局所正パルスバイアス法を発明した。これによってパイプの内面やトレンチの底面など従来法では困難な部位に選択的にイオン注入し、混合層を形成できる。
更に、パルスバイアス法、局所正パルスバイアス法が成立するための普遍的で見通しの良い条件式を導くことができたことにより、本方式に必要な陽極の設計、陽極面積の決定などが容易に行えるようになった。
本発明は、イオン注入により被処理物表面に混合層を形成、その上に成膜するプラズマイオン注入法と成膜の複合化により、表面改質膜の付着強度、耐摩耗性、寿命が向上し、更に、パイプや精密金型、ギヤ、刃物など、比較的小型の3次元形状物の処理を可能にし、被処理物の回転・移動等が容易になって高スループットの連続一貫プロセスを構築し易くする。また、被処理物上にプロセスモニタ装置や補助プラズマ源等を設置することをより容易にした。
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明である正パルスバイアスを特徴とするプラズマイオン注入・成膜法の基本構成と動作を図1を用いて説明する。図15と同一物には同じ符号を付している。接地された真空容器2の内部に、別に設けたプラズマ発生用電源7及びプラズマ発生用アンテナ又は電極6によってプラズマ3を発生させる。プラズマ発生法は、熱陰極を用いた直流アーク放電、高周波容量結合放電、高周波誘導結合放電、マイクロ波放電、ECR放電等が用いられる。
導電性の支持体又は運動・移動機構10に支持されるか、直接容器の底部に置かれた被処理物1がこのプラズマ3の中に浸される。被処理物1及び支持体等10は接地電位にある。被処理物1のプラズマに接する面積をST 、真空容器壁のプラズマに接し、電流が流れる面積がSW となる。即ち、真空容器壁の一部が絶縁性包囲体乃至は真空容器から絶縁された導電性包囲体12で覆われる場合は、覆われていない残りの面積がSW となる。こうして陰極面積SK は、
K =ST +SW (11)
と表される。
真空容器2内に正パルスを印加するための電極(陽極)11を真空フィードスルー及び支持体8を介して挿入する。陽極面積SA は条件式(9)乃至は(10)を満たすように設定される。更に、陽極11は真空容器2外で正の電圧パルスを発生する高電圧パルス発生器(高電圧パルス発生器)9と直流バイアス電源13に接続される。高電圧パルス発生器9は、パルスの振幅、時間幅、繰り返し周波数が可変であり、正電圧パルスを連続して発生することができる。更に、パルスの立ち上がり時間あるいは立ち下がり時間等の波形を制御することも行われる。ここで、コンデンサ16は直流バイアス電圧が高電圧パルス発生器9に加わって障害を及ぼさないよう、直流遮断のために設けるもので、パルス発生器9に十分な対策が施されていれば省略することができる。
また、インダクタ14とコンデンサ15はパルス発生器9からの高電圧パルスが直流バイアス電源13に障害を及ぼさないよう、電圧パルス(高周波成分を含む)の遮断のために設けるもので、直流バイアス電源13に十分な対策が施されていれば省略することができる。更に、パルス発生器9が直流バイアス電圧の出力機能を具備していれば、直流バイアス電源13、インダクタ14、コンデンサ15、16を省くことができる。更に、陽極11とフィードスルー8を分割し、高電圧パルスと直流バイアスを別々に印加しても差し支えない。
高電圧パルス発生器9から陽極11に10kV乃至100kVの正の電圧パルスを印加すると、プラズマ3と被処理物1の間にイオンシース4が形成される。イオンシース4は被処理物1の表面全体をほぼ一様に覆うことを特徴とする。プラズマ内の電荷Qの正イオン5はイオンシース4内の電界で加速され、印加された電圧Vにほぼ等しい運動エネルギーQVを持って被処理物1の表面に達する。
ここで、印加パルス電圧が数百ボルト乃至数千ボルトの時は、正イオン5は被処理物1の表面に堆積して被膜を形成し、被処理物1の表面を改質する、所謂、イオンプレーティング法となり、印加パルス電圧が10kV乃至100kVの時は、正イオン5が被処理物1の内部に注入され、被処理物1を構成する元素と混ざり合って、図4に示すように、混合層が形成される。その深さはイオン5の種類とエネルギー、被処理物1の材質に依存するが、概ね数十ナノメートルから数百ナノメートルの間である。このように、イオン注入により被処理物表面に混合層を形成し、その上に成膜するので表面改質膜の付着強度、耐摩耗性、寿命を向上させることができる。
次に、本発明の第2の実施形態を図2に示す。基本構成は図1と同じであり、図1と同一物には同じ符号を付している。パルス発生器9と直流バイアス電源13をパルストランス17で結合した例である。コンデンサ15は、直流電源13にパルス電圧がかかるのを防ぐためのものである。この実施例では、パルストランス17の巻き数比を変えることによって、陽極11に加えるパルス電圧の最大定格を容易に変化できる。またパルストランス17で極性変換することによって負極性のパルス発生器を利用することが可能になる。
次に、本発明の第3の実施形態を図3に示す。図15と同一物には同じ符号を付している。接地された真空容器2の内部に、被処理物1が導電性の支持体又は運動・移動機構10に支持されるか、直接容器の底部に置かれ、別に設けたプラズマ発生用電源7及びプラズマ発生用アンテナ又は電極6によってプラズマ3を発生させる。この被処理物1はプラズマ3の中に浸される。被処理物1及び支持体等10は接地電位にする。被処理物1を取り囲み、真空容器2から絶縁された導電性包囲体を、図1、図2のものとは異なり、陽極11で構成する。その結果、図1、図2の電気絶縁された包囲体12は省略できる。何故ならば、この包囲体形の陽極11は絶縁性の包囲体の役割を兼るからである。
これにより、表面処理装置が簡素化され、容器内の有効な処理空間の体積が増える。また。大きな陽極11を設置しても、陽極11と被処理物1を流れる電流は連続性から等しくなるので、電流は基材の面積ST で決まり陽極面積SA には依存しない。従って、陽極の面積SA は最大限に大きくでき、被処理物ごとに処理面積ST が変化しても、陽極面積SA を調整・変更する必要がない。換言すれば、全ての被処理物に対応可能な陽極を構成することができる。
更に、包囲体形の陽極11は同時に真空容器2の内面も覆うことになるので、成膜時に金属系の蒸気原子が付着して表面が汚染されることを防ぎ、真空容器2の壁の汚れを防ぐことができる防汚構造となる。同じ装置を用いて異なる元素を用いた表面処理を行うとき、真空容器2の表面の洗浄が必要になるが、この実施例のものでは、包囲体形の陽極11を交換するだけでよいので、作業を大いに簡素化することができる。
次に、本発明の特徴を明らかにするために、陽極乃至は被処理物に印加される電圧波形を比較する。図5(A)は本発明の正パルスバイアスを特徴とするプラズマイオン注入・成膜法の電圧波形、図5(B)は従来法である正パルスバイアス・プラズマイオン注入法の電圧波形、そして、図5(C)は従来法であるプラズマイオン注入法の電圧波形である。
図5(A)で陽極に印加されるパルスバイアスの波高値26は10kV〜100kV、時間幅24は2μs 〜10μs、直流バイアスの電圧値27は100V〜1000Vである。繰り返し周波数fは概ね1kH〜10kHであり、このときデューティー比は最大0.01〜0.1になる。繰り返し周波数fを上げた方が処理に要する時間が短縮できるが、以下に述べる理由で10kH程度に制限される。それは注入によって被処理物の周囲からイオンが失われ、これが再び回復するまでに有限の時間を要するからである。
この時間はプラズマ密度、被処理物の形状、バイアス電圧の大きさ等によって変わるが,高電圧パルス発生器の設計上の観点からも繰り返し周波数の上限を10kH程度とすることは合理的である。イオン注入間の時間25に、陽極に印加するために100V〜1000Vの直流バイアス27を印加すると、被処理物1とプラズマ3との間に薄いイオンシースが形成され、イオン5が100eV乃至1000eVの運動エネルギーを持って被処理物1の堆積膜に入射する。
これらのイオン5は、堆積膜表層の原子に衝突して運動量を与え、格子振動を励起して原子の再配置を促すので、原子が規則的に配列するようになり、堆積膜の緻密性、結晶性が向上する、所謂、被処理物の表面にイオン支援成膜を行う。この効果はイオン衝撃を加えながら成膜するときに現れる特異な効果であり、従来法(プラズマイオン注入法あるいは正パルスバイアスを特徴とするプラズマイオン注入法)での単なる真空蒸着ではこの効果を期待できない。
その際、成膜対象は室温で固相のものである。スパッタ源やアーク蒸発源、電子ビーム蒸発源から一種乃至は多種の金属原子を導入することができる。例えば、窒素(N)プラズマ内にチタン(Ti)、アルミニウム(Al)を導入してTiN、AlNの硬質膜を成膜したり、炭素(C)プラズマ内にチタン、アルミニウムを導入してTiC、AlC硬質膜を成膜できる。あるいは炭化水素ガスからプラズマを生成し、成膜すると被処理物の表面に固くて潤滑性の高いダイヤモンド様炭素(DLC)コーティングを施すことができる。他に被処理物の表面に付着強度の高い純金属膜を形成する応用も考えられる。
一方、図5(B)及び図5(C)の従来法でも時間25に真空蒸着膜は形成されるが、被処理物に直流バイアス27が印加されておらず、エネルギー100eV〜1000eVのイオン衝撃によるマイグレーション効果(格子振動を励起して堆積直後の非平衡な原子配位を平衡配位に緩和させる)が期待できないので、緻密で結晶性の高い膜を得ることが難しい。
次に、本発明で利用される導電性包囲体の第1の実施例を図7に示す。この例では、金属のような導体薄板を真空容器2の形状に合わせて成形し、導電性包囲体12を絶縁性支持体18で支持した上で、ジョイント19で真空容器2に固定する。支持体の数は1乃至複数である。その際、支持体の表面にプラズマや蒸気原子等が堆積して汚損すると、支持体表面の沿面耐電圧が下がり、プラズマと真空容器の間にかかる正パルスバイアス電圧を支えられなくなるので、この例では二重管の防汚構造を取っている。
導電性包囲体12の第2の実施例を図8に示す。導電性包囲体12を絶縁性支持体18で支持する。この例では、導電性包囲体12と真空容器2との間をできるだけ狭くし、プラズマや蒸気原子が浸入して絶縁体表面を汚損することのないように工夫している。絶縁体の長さも短くなるが、表面に波形の凹凸をつけて沿面耐電圧が下がらないように工夫する(高電圧碍子の構造が参考になる。)支持体18の数は1乃至複数である。
導電性包囲体の第3の実施例を図9に示す。これは図8に示す第2の実施例の変形である。この例では、導電性包囲体12は複数に分割されており、それぞれの包囲体12が個別に絶縁性支持体18で真空容器2に支持される。尚、支持体18の構造は、例えば図7又は図8に示されるものと同様である。
次に、本発明の一実施形態である局所正パルスバイアス法の第1の実施例を図10に示す。この実施例は、被処理物1である接地された導電性パイプの中に小型の円柱状の陽極11を挿入し、パイプの内面を処理(プラズマイオン注入)する例である。その動作を図10を用いて説明する。但し、図10に示されていない真空容器、プラズマ発生装置等は、共通な構成である図1を参照する。
接地された真空容器2の内部に、別に設けたプラズマ発生用電源7及びプラズマ発生用アンテナ又は電極6によって、プラズマを発生させる。このプラズマは後の局所パルス放電の種となる電子を供給するためのもので、ごく低密度のプラズマである(もし種となる電子の供給なしに局所放電が起こるならこのプラズマは省略して良い。)。このプラズマ発生法は熱陰極を用いた直流アーク放電、高周波容量結合放電、高周波誘導結合放電、マイクロ波放電、ECR放電等が用いられる。
導電性の支持体又は運動・移動機構10に支持されるか、直接容器2の底部に置かれた被処理物(本実施例では導電性のパイプ)1がこのプラズマの中に浸される。被処理物1及び支持体等10は接地電位にある。真空容器2の壁は絶縁性包囲体又は真空容器2から絶縁された導電性包囲体12で覆われている。真空容器2内に局所正パルスバイアスを印加するための陽極11を真空フィードスルー8を介して挿入する。
陽極11は、21はパイプの内面との距離dであり、dの値が0.5〜10mm、望ましくは2〜5mmになるよう設定され、また先端の円柱部分の陽極11を除いて絶縁管20で覆われているものとする。更に陽極11は真空容器2の外で高電圧パルス発生器(高電圧パルスモジュレータ)9に接続される。高電圧パルス発生器9はパルスの振幅、時間幅、繰り返し周波数が可変であり、正電圧パルスを連続して発生することができる。更にパルスの立ち上がり時間あるいは立ち下がり時間等の波形を制御することも行われる。
ここで高電圧パルス発生器9から陽極11に10kV乃至100kVの正の電圧パルスを印加すると、陽極11と被処理物(パイプ)1の内面との間で局所プラズマ3が発生する。更にプラズマ3と被処理物1の間にイオンシース4が形成される。プラズマ3とイオンシース4は被処理物1の内面の一部(面積ST)のみを覆うことを特徴とする。いま、陽極面積をSA とするとSAは面積比ST/SAが局所バイアスの条件式(9)乃至(10)を満たすように調整されるものとする。尚、高電圧パルス発生器9に、図1及び図2、図3に示されるように、正の直流バイアス電圧を印加するための直流電源13を付加することも行なわれる。
ここで、陽極11から真空容器2の壁に流れる電流は無視できる(等価的にSW=0)とした。尚、ガス圧は概ね0.1Pa〜10Paであって、イオンシース4で加速されるイオンの平均自由行程λがλ>dを満たす程度に低く設定する。更にガス圧は局所放電で生成されるプラズマ3の密度を制御する。プラズマ密度は概ねガス圧に比例する。このガス圧には室温で気相のプセスガスの他、室温で固相の金属等の物質の蒸気圧も含まれる。
プラズマ内の電荷Qの正イオン5はイオンシース4の電界で加速され、印加された電圧VA に等しい運動エネルギーQVA を持って被処理物1の表面に達する。ここでイオンは被処理物1の内部に注入され、被処理物1を構成する元素と混ざり合って、混合層が形成される。その深さはイオンの種類とエネルギー、被処理物1の材質に依存するが、概ね数十ナノメートルから数百ナノメートルの間である。尚、正のパルスバイアス電圧に加えて正の直流電圧が重畳される場合には、イオン注入の休止時間(図5(A)の25)にイオン支援成膜が行なわれ、緻密性、密着性に優れた膜を形成できる。
局所正パルスバイアス法では、一度に処理できる被処理物1の面積は限られるので、移動機構を利用して被処理物1を移動させながらイオン注入処理を行い、被処理物1の内面全体を一様に処理することが適切である。ガスの種類については、例えば被処理物1の内面を窒化処理で硬くする場合や、最終的にTiN、AlN等を成膜する場合は窒素ガスを用いる。DLC成膜なら炭化水素系ガス(CH4、C22)を用いる。
最後に、本局所正パルスバイアス法で被処理物1の内面処理を完了したら、引き続き図1又は図2、図3に示した正パルスバイアスを特徴とするプラズマイオン注入・成膜法で被処理物1の外面を一様に処理することが効果的である。
次に、局所正パルスバイアス法の第2の実施例を図11に示す。この実施例は、接地された湾曲パイプ(被処理物)1の内面を処理する例である。陽極11は円柱状で容易に湾曲する構造になっている。陽極11はパイプ1の内面との距離を一定に保つよう、複数個の絶縁性支持体23で支持されている。この支持体の一部はガスを通すために除去されている。陽極の他端は外側が絶縁被覆された導線22に接続されている。注入処理の手順はほぼ実施例1(図10)と同様である。プラズマ3で注入処理を実施しながら、接地された湾曲パイプ(被処理物)1を一定速度で移動させる。
図12は接地されたトレンチ(被処理物)1を球状陽極11で処理する例である。陽極11は外側が絶縁被覆された導線22に接続されている。陽極11とトレンチ1の底面及び側面の間でパルスプラズマ3が発生する。この例では被処理物1を前後に往復運動させながら下に移動させることによって、トレンチ1の内面全体を処理できる。
図13は刃先やウエッジなど、鋭利な部分を選択的に処理する例である。接地された被処理物1の先端と平板ないし円板陽極11との距離を前述のdとする。プラズマ3は被処理物1の先端部に集中し、そこでのイオンシース4の厚さは極めて薄くなる。そして被処理物1の表面に垂直にイオンが加速されるので、従来法では処理が難しい刃先のような鋭利な部分でもイオン注入処理が可能になる。尚、陽極11は外側が絶縁被覆された導線22に接続されている。
次に、連続一貫プラズマ表面処理プロセスを構成する実施形態を図14により説明する。図中、1aは未処理物(原料)、1bは被処理物(表面処理中)、1cは既処理物(製品)、2aは真空容器(据え付け・粗排気用)、2bは真空容器(処理室)、2cは真空容器(取り出し用)、3はプラズマ、6はプラズマ発生用アンテナ又は電極、7はプラズマ発生用電源、8は真空フィードスルー、9は正電圧パルス発生器又は正電圧パルスモジュレータ、11は正パルスバイアス印加電極(陽極)、30は移送機構、31は支持機構、32aは据え付け室ハッチ、32bは処理室入口ハッチ、32cは処理室出口ハッチ、32dは取り出し室ハッチ、33は真空ポンプである。尚、9の正電圧パルス発生器又は正電圧パルスモジュレータに、図1および図2、図3に示されるように、正の直流バイアス電圧を印加するための直流電源を付加することも行なわれる。
このように、被処理物を接地電位に置けるので、被処理物の支持・回転・移動等の自由度が高く、連続一貫プロセスなどフレキシブルなプロセスを構築できる。そして、この真空容器2内に被処理物1の運動機構又は移送機構30を導入して、処理を順次に行なうことにより、連続一貫してプラズマ表面処理を行なうことができ、プラズマ表面処理の著しい生産性向上を期待できる。このプラズマ表面処理とは正パルスバイアスを特徴とするプラズマイオン注入乃至プラズマイオン注入・成膜の複合処理である。
本発明のプラズマ表面処理方法は、プラズマイオン注入法と成膜を複合化、基材表面に混合層を形成、その上に成膜され表面改質膜の付着強度、耐摩耗性、寿命が向上するので、通常の形状の被処理物のみならず、パイプや精密金型,ギヤ,刃物など,比較的小型の3次元形状物の内面の処理にも適用できる。
本発明のプラズマ表面処理方法の第1の実施形態図。 本発明のプラズマ表面処理方法の第2の実施形態図。 本発明のプラズマ表面処理方法の第3の実施形態図。 本発明の混合層を利用した成膜状態図。 陽極乃至は被処理物に印加される電圧波形の比較図。 正パルスバイアス法のモデル概要図。 導電性包囲体の第1の実施形態図。 導電性包囲体の第2の実施形態図。 導電性包囲体の第3の実施形態図。 局所正パルスバイアス法の第1の実施形態図。 局所正パルスバイアス法の第2の実施形態図。 局所正パルスバイアス法の第3の実施形態図。 局所正パルスバイアス法の第4の実施形態図。 連続一貫プラズマ表面処理プロセスを構成する実施形態図。 従来のプラズマ表面処理方法及び装置の実施形態図。 従来の正パルスバイアスイオン注入法では被処理物の凹部の一様処理が困難であることを説明する図。
符号の説明
1 被処理物
2 真空容器(導電性)
3 プラズマ
4 イオンシース
5 正イオン
6 プラズマ発生用アンテナ又は電極
7 プラズマ発生用電源
8 真空フィードスルー及び支持体
9 高電圧パルス発生器又は高電圧パルスモジュレータ
10 導電性の支持体又は運動・移動機構
11 陽極
12 絶縁性包囲体乃至は真空容器から絶縁された導電性包囲体
13 直流バイアス電源
14 インダクタ
15,16 コンデンサ
17 パルストランス
18 絶縁性支持体
19 ジョイント
20 絶縁管
22 外側が絶縁被覆された導線
23 絶縁性支持体
30 移送機構
31 支持機構
32 ハッチ
33 真空ポンプ

Claims (4)

  1. 接地された真空容器壁の一部が絶縁性包囲体又は真空容器から絶縁された導電性包囲体で覆われた内部で、接地電位に保たれた被処理物(基材)の周囲に正電位にバイアスされたプラズマを発生させ、前記被処理物とプラズマの間にイオンシースを形成させ、プラズマ内のイオンをイオンシース内の電界によって加速し、前記被処理物の表面に堆積、ないしは前記被処理物の内部にイオン注入させ、被処理物の表面物性を物理的ないし化学的に改質することを特徴とするプラズマ表面処理法にあって、特にプラズマをバイアスするために外部から挿入される陽極に、プラズマイオン注入用の正のパルス電圧と、イオン支援成膜用の正の直流電圧を同時に印加して、被処理物との密着性が高く、緻密で欠陥の少ない膜を形成することを特徴とするプラズマ表面処理方法。
  2. 前記プラズマイオン注入用の正のパルス電圧は10kV乃至100kV、時間幅は2μs〜10μs、繰り返し周波数は1kHz〜10kHzであり、前記イオン支援成膜用の正の直流電圧は100V乃至1000Vであることを特徴とする請求項1記載のプラズマ表面処理方法。
  3. 接地電位に保たれた被処理物が、導電性パイプの場合は内面に小型の円柱状の陽極を、又は湾曲パイプの場合には内面に円柱状で容易に湾曲する構造の陽極を、又はトレンチの場合には球状陽極を、又は刃先やウエッジなどの場合には鋭利な部分を平板ないし円板陽極を、夫々必要に応じて選択して、被処理物上の小面積で局所的に正パルスバイアス法による表面処理をすることを特徴とする請求項1記載のプラズマ表面処理方法。
  4. 陽極に正のパルス電圧と正の直流電圧を同時に印加する正パルスバイ
    アス法において、プラズマを局所的に正バイアスするために必要な条件は、Iは正バイアス用の陽極に流れる全電流、Iesは同じ陽極に流れる電子飽和電流とすると、I≦1.5 Iesの関係であることを特徴とする請求項1記載のプラズマ表面処理方法。
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