JP4470699B2 - 水素透過膜、該水素透過膜の製造方法および該水素透過膜を備える装置 - Google Patents

水素透過膜、該水素透過膜の製造方法および該水素透過膜を備える装置 Download PDF

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Description

この発明は、水素を選択的に透過させる水素透過膜と、水素透過膜の製造方法、および、水素透過膜を備える装置に関する。
水素含有ガスから水素を抽出するために、従来、水素透過性金属を含む層を備える水素透過膜が用いられてきた。例えば、バナジウム(V)等から成る水素透過性金属ベース層の両面に、セラミックス等の水素透過性中間層を介して、パラジウム(Pd)等を含有する水素透過性金属被覆層を設けた5層構造の水素透過膜が知られている(特許文献1参照)。このような水素透過膜では、水素透過性中間層を設けることによって、金属被覆層と金属ベース層との間の金属拡散に起因する水素透過膜の性能低下を防止している。
特開平7−185277号公報
しかしながら、上記のようなセラミックスから成る水素透過性中間層は、水素を、分子の状態で透過させる。そのため、水素透過性金属ベース層と水素透過性中間層との間、あるいは、水素透過性金属被覆層と水素透過性中間層との間を水素が移動する際には、水素分子の解離反応あるいは再結合反応が必要となる。そのため、中間層は、水素透過膜全体における水素透過性能を向上させる際の妨げとなっていた。
また、金属被覆層と金属ベース層との間の金属拡散を抑える目的で両者の間に中間層を設ける構成において、上記のような水素透過性能の低下を防止するために、中間層を水素透過性を有する金属で形成する構成も考えられる。しかしながら、このように異なる組成の金属層を積層する場合には、各層間の膨張率(水素膨張および/または熱膨張による膨張率)の違いにより、水素透過膜全体の耐久性が不十分となる可能性がある。
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、水素透過膜の水素透過性能および耐久性の低下を抑えつつ、水素透過膜における金属拡散を防止することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の水素透過膜は、水素を選択的に透過させる水素透過膜であって、
バナジウム(V)を含む金属ベース層と、
パラジウム(Pd)を含む金属被覆層と、
前記金属ベース層と前記金属被覆層との間に形成された水素透過性金属から成る層であって、前記金属ベース層との接触面を含むベース層近傍領域における前記水素透過性金属の金属粒径に比べて、前記ベース層近傍領域以外の領域における前記水素透過性金属の金属粒径の方が、小さく形成されている中間層と
を備えることを要旨とする。
また、本発明の水素透過膜の製造方法は、水素を選択的に透過させる水素透過膜の製造方法であって、
(a)バナジウム(V)を含む金属ベース層を用意する工程と、
(b)前記金属ベース層上に、水素透過性金属から成る中間層を形成する工程と、
(c)前記中間層上に、パラジウム(Pd)を含む金属被覆層を形成する工程と、
を備え、
前記(b)工程は、
(b−1)前記金属ベース層上に、前記水素透過性金属から成る大粒径中間層を形成する工程と、
(b−2)前記大粒径中間層の上に、前記水素透過性金属から成る層であって、該層を構成する金属結晶の平均粒径が前記大粒径中間層よりも小さい小粒径中間層を形成する工程と
を備えることを要旨とする。
以上のように構成された本発明の水素透過膜の製造方法によれば、本発明の水素透過膜を製造することができる。本発明の水素透過膜によれば、中間層を備えるため、金属ベース層と金属被覆層との間の金属拡散を抑え、金属拡散に起因する水素透過膜の性能低下を防止することができる。ここで、中間層を、水素透過性を有する金属により形成しているため、金属ベース層と中間層との間、および中間層と金属被覆層との間を水素が移動する際に、水素分子の解離反応や結合反応を要することがない。したがって、中間層を設けることによる水素透過膜全体の水素透過性能の低下を抑えることができる。また、中間層が、結晶粒径のより大きいベース層近傍領域(大粒径中間層)と、結晶粒径のより小さい被覆層近傍領域(小粒径中間層)とを備えるため、中間層と金属ベース層との間の結合力を確保することができると共に、金属被覆層との接触面近傍では粒界密度を高くすることができる。したがって、中間層を設けることによって水素透過性能の低下を抑える効果と、水素透過膜の耐久性を向上させる効果とを、共に高めることができる。
本発明の水素透過膜の製造方法において、
前記(b−2)工程は、前記(b−1)工程に比べて、成膜時に成膜材料である前記水素透過性金属が有するエネルギがより少ない低エネルギ条件下において、前記水素透過性金属から成る層を形成することとしても良い。
成膜時に成膜材料である水素透過性金属が有するエネルギが大きいほど、金属結晶がより大きく成長することができるため、形成された水素透過性金属層の結晶粒径がより大きくなる。したがって、成膜時に成膜材料が有するエネルギ量を調節することで、結晶粒径の異なる大粒径中間層および小粒径中間層を形成することができる。このように、成膜時に成膜材料である水素透過膜が有するエネルギ量を調節可能となる成膜方法としては、PVDやCVDが挙げられる。
また、本発明の水素透過膜の製造方法において、
前記(b−2)工程は、前記大粒径中間層上に、成膜材料である前記水素透過性金属を用いて成膜する動作を、断続的に繰り返す工程としても良い。
成膜動作の休止時には金属結晶の成長を止めることができるため、成膜する動作を断続的に繰り返すことで、結晶粒径のより小さい金属結晶から成る小粒径中間層を形成することができる。
また、本発明の水素透過膜の製造方法において、
前記(b−1)工程は、前記金属ベース層上に前記水素透過性金属から成る層を形成した後に、該層にエネルギを与えて、該層を構成する金属結晶を大型化させる工程を含むこととしても良い。
水素透過性金属から成る層に対して成膜後にエネルギを与える場合にも、与えられたエネルギは結晶の成長に用いられるため、結晶粒径のより大きな金属結晶から成る大粒径中間層を形成することができる。
本発明の水素透過膜あるいは水素透過膜の製造方法において、
前記中間層を構成する前記水素透過性金属は、前記金属ベース層を構成する金属および前記金属被覆層を構成する金属よりも、金属拡散を起こし難い水素透過性金属であることとしても良い。
このような構成とすることで、金属拡散に起因する水素透過膜全体の性能低下を防止する効果を、より高めることができる。例えば、金属ベース層を構成する金属および金属被覆層を構成する金属よりも融点が高い金属であれば、上記金属拡散を起こし難い金属として用いることができる。金属ベース層を構成する金属および金属被覆層を構成する金属よりも融点が高い金属としては、タンタル(Ta)または(Nb)を含有する金属を用いることができる。
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、水素透過膜を利用した水素分離装置や、水素透過膜を利用した燃料電池などの形態で実現することが可能である。
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.水素透過膜の構造:
B.水素透過膜の製造方法:
C.第2実施例:
D.第3実施例:
E.水素透過膜を用いた装置:
F.変形例:
A.水素透過膜の構造:
図1は、本発明の第1実施例である水素透過膜10の構成の概略を表わす断面模式図である。水素透過膜10は、金属ベース層12と、金属ベース層の両面上に形成される中間層13と、各々の中間層13上に形成される金属被覆層16と、を備えている。ここで、中間層13は、金属ベース層12との接触面側に設けられた大粒径中間層14と、金属被覆層16との接触面側に設けられた小粒径中間層15との2つの層によって構成されている。すなわち、水素透過膜10は、全体では、7層構造を有している。
金属ベース層12は、バナジウム(V)、あるいはVを主要な構成成分として50%を越える割合で含むバナジウム合金など、Vを含む金属によって形成されており、優れた水素透過性を示す金属層である。
金属被覆層16は、パラジウム(Pd)、あるいはPdを主要な構成成分として50%を越える割合で含むパラジウム合金など、Pdを含む金属によって形成されている。この金属被覆層16は、水素透過膜の表面における水素分子の解離反応あるいは水素分子への結合反応を促進する活性を有する触媒層として機能する層である。
中間層13は、金属ベース層12および金属被覆層16とは異なる組成の水素透過性金属から成る層であって、具体的にはタンタル(Ta)によって形成されている。この中間層13は、金属ベース層12と金属被覆層16との間の金属拡散を防止するために設けられる層である。既述したように、中間層13は、大粒径中間層14と小粒径中間層15という2つの層から成る。大粒径中間層14は、小粒径中間層15に比べて、層を構成する金属結晶の粒径(平均粒径)が、より大きく形成されている。
B.水素透過膜の製造方法:
図2は、水素透過膜10の製造方法を表わす工程図である。水素透過膜10を製造する際には、まず、金属ベース層12となるVを含有する金属層を用意する(ステップS100)。このステップS100では、用意した金属ベース層12の表面をアルカリ溶液でエッチングして、表面に形成された酸化膜等の不純物の除去を行なっている。
ステップS100の次には、用意した金属ベース層12の両面のそれぞれに、Taから成る大粒径中間層14を形成する(ステップS110)。大粒径中間層14は、例えば、PVD法やCVD法によって形成することができる。PVD法としては、スパッタ法やイオンプレーティング、あるいは真空蒸着法を挙げることができる。このような大粒径中間層14を形成する際には、成膜材料である水素透過性金属(Ta)に結晶化のための充分なエネルギを与えて成膜を行なえば良く、成膜材料に充分なエネルギを与えて成膜することで、充分に大きな結晶粒径を有する金属結晶から成る大粒径中間層14を形成することができる。例えばPVDにより大粒径中間層14を形成する際の、成膜材料に対するエネルギ供給は、成膜の基板である金属ベース層12を加熱することによって行なうことができる。また、成膜材料が基板に衝突する際の投入エネルギを調節することによって、成膜材料に充分なエネルギを与えても良い。成膜材料に与えるエネルギ量が所定量を超えると、形成される膜を構成する金属結晶は柱状結晶となる。
その後、大粒径中間層14の上に、Taから成る小粒径中間層15を形成する(ステップS120)。小粒径中間層15も、大粒径中間層14と同様に、PVD法やCVD法によって形成すればよく、大粒径中間層14と同じ方法により、大粒径中間層14の形成に引き続いて同一の装置内で引き続き形成すればよい。小粒径中間層15を形成する際には、大粒径中間層14を形成するときよりも、成膜材料である水素透過性金属(Ta)に与えるエネルギをより少なくして成膜を行なう。これにより、大粒径中間層14よりも、平均結晶粒径がより小さい金属結晶から成る小粒径中間層15が得られる。
成膜材料に与えるエネルギをより少なくするためには、例えば、小粒径中間層15を形成する際の基板(大粒径中間層14を形成した金属ベース層12)の温度を、大粒径中間層14の形成時の基板(金属ベース層12)の温度よりも低く設定すればよい。あるいは、成膜材料が基板に衝突する際の投入エネルギがより小さくなるように成膜条件を制御すればよい。例えば成膜速度を上げることにより、個々の成膜材料(原子やイオンなど)が有するエネルギ量を少なくすることができる。また、スパッタ法やイオンプレーティングにより中間層13を形成する場合には、小粒径中間層15の成膜時に、大粒径中間層14の成膜時に比べて、チャンパ内に満たすアルゴン(Ar)ガスのガス圧を高くしてもよい。これにより、基板に到達するまでの成膜材料に、より多くのArを衝突させることができ、成膜材料のエネルギを低下させることができる。あるいは、イオンプレーティングにより中間層13を形成する場合には、小粒径中間層15の成膜時に、大粒径中間層14の成膜時に比べて、基板に印加するバイアス電圧をより低く設定しても良い。このように、成膜時に成膜材料が有するエネルギをより少なくすることで、小粒径中間層15を構成する金属結晶を、大粒径中間層14を構成する金属結晶に比べて小さくすることができる。
ステップS120で小粒径中間層15を形成すると、この小粒径中間層15上に、Pdを含有する金属被覆層16を形成し(ステップS130)、水素透過膜を完成する。金属被覆層16は、例えば、無電解メッキや電解メッキ等のメッキ処理、あるいはPVD法やCVD法によって形成することができる。
なお、水素透過膜10を製造する際には、用途に基づいて定められる要求される水素透過性能や強度に応じて、各層の厚みを設定すればよい。例えば、金属ベース層12は、10〜100μmとすることができる。また、金属被覆層16は、0.1〜1.0μmとすることができる。金属被覆層16は、既述したように触媒層として機能する層であるため、金属ベース層12に比べて薄くすることができる。また、中間層13は、金属ベース層12と金属被覆層16との間の金属拡散を防止するためにはより厚く形成することが望ましいが、両者の間に介在していれば金属拡散を防止する所定の効果が得られるため、金属被覆層16よりもさらに薄く形成しても良い。そのため、大粒径中間層14および小粒径中間層15は、各々、0.01〜10μm程度の厚みとすることができる。
本実施例の水素透過膜10によれば、水素透過性を有する金属から成る中間層13を設けることにより、金属ベース層12と金属被覆層16との間の金属拡散を抑え、金属拡散に起因する水素透過膜10の性能低下を防止することができる。ここで、中間層13を、金属ベース層12あるいは金属被覆層16と同様に、水素原子(あるいはプロトン)の状態で水素を透過させる金属により形成しているため、金属ベース層12と中間層13との間、および中間層13と金属被覆層16との間を水素が移動する際に、水素分子の解離反応や結合反応を伴うことがない。したがって、中間層13を設けることによる水素透過膜全体の水素透過性能の低下を抑えることができる。
また、中間層13において、金属ベース層12側には大粒径中間層14を形成し、金属被覆層16側には小粒径中間層15を形成することにより、水素透過膜10の水素透過性能の低下を抑える効果と、耐久性を向上させる効果とを、共に高めることができる。
ここで、中間層13を構成するTaは、水素膨張あるいは熱膨張による膨張率が比較的大きい金属であるが、これに比較して、金属被覆層16を構成するPdは、膨張率が極めて小さいという性質を有している。そのため、水素透過膜10が水素を透過させる際には、膨張率のより大きなTa層(中間層13)の、金属被覆層16との接触面近傍の領域において、大きな応力が発生する。このように金属層内で発生した応力は、一般に結晶粒界に集中する。中間層13で発生した応力の大きさが許容範囲を超える場合には、応力によって引き起こされる変形により中間層13が損傷すると考えられる。しかしながら、本実施例の中間層13では、金属被覆層16との接触面側に、結晶粒径が小さく粒界密度の高い小粒径中間層15を設けているため、金属被覆層15との接触面の近傍において、個々の粒界に集中する応力および変形を緩和することができる。したがって、中間層13と金属被覆層16との膨張率差に起因する中間層13の損傷を防止することができる。なお、Taから成る中間層13が損傷を受けたときには、この中間層13上に形成される金属被覆層16もまた損傷すると考えられるが、本実施例では中間層13の損傷を防止できることにより、中間層13上に形成される金属被覆層16の損傷を防止する効果も得られる。その結果、水素透過膜10全体の耐久性を向上させることができる。
さらに、層間の膨張率差は、中間層13と金属ベース層12との間にも見られる。すなわち、VはPdよりも膨張率が大きいため、TaとVとの膨張率差はTaとPdとの膨張率差に比べて小さいが、Taから成る中間層13では、Vを主要な成分とする金属ベース層12との接触面近傍においても、膨張率差に起因する応力や変形が生じる。ここで、本実施例では、金属ベース層12上に中間層13を形成する際に、まず最初に、より高いエネルギを成膜材料に付与することによって大粒径中間層14を形成している。成膜時に成膜材料が有するエネルギが大きいほど、エネルギが結晶の成長に利用されて結晶粒径が大きくなるが、同時に、基板を構成する金属と成膜材料とが安定した結合を結び易くなるため、新たに成膜された層の基板に対する結合力がより高くなる。したがって、成膜時のエネルギを高くして大粒径中間層14を形成することにより、中間層13と金属ベース層12との間の結合力を高めることができる。その結果、水素透過膜10が膨張して、金属ベース層12と中間層13との接触面近傍領域に、膨張率差に起因する応力が発生しても、上記した強い結合力により変形が抑えられ、中間層13と金属ベース層12との接触面近傍の損傷を防止することができる。
以上のように、中間層13と隣接する金属層との間の膨張率差に起因する水素透過膜10の損傷を抑えることにより、結果的に、水素透過膜10全体における水素透過性能の低下を防止することができる。
また、本実施例のように、中間層13の金属被覆層16側に、結晶粒径のより小さい小粒径中間層15を設ける場合には、中間層全体をより大きな結晶粒径の金属結晶で構成する場合に比べて、水素透過膜10における金属拡散を抑える効果を高めることができる。ここで、Vを含む金属ベース層とPdを含む金属被覆層とを備える水素透過膜における水素透過性能が低下する主要な原因の一つは、金属ベース層を構成するVが金属被覆層中に拡散して、金属被覆層の触媒活性を低下させることにある。本実施例では、金属被覆層16側に小粒径中間層15を設けて粒界密度を高めることにより、結果的にVが中間層13内を金属被覆層16側に向かって移動し難くなるのである。
金属拡散は、主として結晶粒界において進行するものであり、特に、結晶粒界に応力が働くときには、結晶粒界において金属拡散が進行し易くなる。すなわち、結晶粒界に働く応力が強いほど、このような粒界を介してVが移動し易くなる。本実施例では、中間層13において、金属被覆層16との接触面を含む領域を、結晶粒径の小さな小粒径中間層15として、粒界密度が高くなるように形成しているため、発生する応力は、小粒径中間層15全体の粒界に広く分散されることになる。したがって、小粒径中間層15全体に生じる応力の量は変わらなくても、個々の粒界に集中する応力を緩和することができる。その結果、小粒径中間層15では、粒界密度は高くても、粒界を介したVの移動が起こり難くなり、結果的に中間層13を介したVの金属被覆層16への拡散が抑えられ、水素透過膜10の水素透過性能の低下を抑制できる。
なお、中間層13を構成するTaは、金属ベース層12や金属被覆層16を構成する金属に比べて高融点な金属である。金属は、一般に、融点が高いほど金属拡散を起こし難いという性質を有するため、融点の高いTaによって中間層13を構成することで、水素透過膜10における金属拡散を抑える効果をより高めることができる。
C.第2実施例:
第2実施例の水素透過膜は、図1に示した第1実施例の水素透過膜10と同様の構成を有しているが、製造方法が異なっている。図3は、第2実施例の水素透過膜の製造方法を表わす工程図である。なお、以下の説明では、第2実施例の水素透過膜においても、対応する部分において、第1実施例の水素透過膜10と同じ参照番号を付すこととする。
第2実施例の水素透過膜を製造する際には、まず、図2のステップS100と同様に、金属ベース層12を用意する(ステップS200)。その後、この金属ベース層12上に、Taから成る水素透過性金属層を形成する(ステップS210)。この水素透過性金属層を形成する工程は、第1実施例で大粒径中間層14を形成したときと同様にPVD法やCVD法により行なうことができる。なお、この第2実施例では、成膜材料に与えるエネルギ量を特に調節する必要がないため、上記ステップS210では、無電解メッキや電解メッキ等のメッキ処理を行なうこととしても良い。
水素透過性金属層を形成すると、次に、この水素透過性金属層にエネルギを与えて、水素透過性金属層を構成する金属結晶の結晶粒径を大型化して、大粒径中間層14と成す(ステップS215)。金属結晶を大型化するためのエネルギ供給は、例えば、水素透過性金属層に対してレーザ照射し(いわゆるレーザアニーリング)、水素透過性金属層を局所的に加熱することにより行なえば良い。その他の方法であっても、結晶粒が成長可能であって金属の溶融温度よりも低い所定の高温にまで、水素透過性金属層を加熱可能な方法であればよい。
その後、大粒径中間層14上に、小粒径中間層15を形成する(ステップS220)。ステップS220で小粒径中間層15を形成する工程は、ステップS210における水素透過性金属層の形成と同様の工程であれば良く、平均粒径が大粒径中間層14より小さい金属結晶から成る小粒径中間層15を形成できればよい。小粒径中間層15を形成した後には、第1実施例のステップS130と同様に金属被覆層16を形成することで(ステップS230)、第2実施例の水素透過膜が完成される。
以上のように構成された第2実施例の水素透過膜によっても、第1実施例と同様の効果を得ることができる。ここで、金属結晶の粒径の大きい層を形成するということは、結晶が成長するのに充分なエネルギを与えるということであり、エネルギを与える時期が、成膜と同時であるか成膜の後であるかを問わない。いずれの場合であっても、成膜材料や一旦形成した膜にエネルギを与えることで、そのエネルギは、結晶の成長と共に、形成した膜を構成する金属と基板を構成する金属との間の結合の強化に用いられ、平均結晶粒径が大きく、且つ、基板との結合力が大きな層が得られる。したがって、第2実施例においても、小粒径中間層15における粒界密度が小さいことによる効果だけでなく、大粒径中間層14と金属ベース層12との結合力が強いことによる耐久性向上の効果が得られる。
D.第3実施例:
第3実施例の水素透過膜も、図1に示した第1実施例の水素透過膜10と同様の構成を有しているが、製造方法が異なっている。図4は、第3実施例の水素透過膜の製造方法を表わす工程図である。なお、以下の説明では、第3実施例の水素透過膜においても、対応する部分において、第1実施例の水素透過膜10と同じ参照番号を付すこととする。
第3実施例の水素透過膜を製造する際には、まず、図1のステップS100と同様に、金属ベース層12を用意する(ステップS300)。また、図1のステップS110と同様に、金属ベース層12上に、大粒径中間層14を形成する(ステップS310)。ここで、ステップS310では、第1実施例と同様に、PVD法あるいはCVD法を用い、成膜材料に充分なエネルギを与えることで、結晶粒径が充分に大きな(例えば金属結晶が柱状結晶となる程度)大粒径中間層14を形成する。
次に、大粒径中間層14上に、小粒径中間層15を形成する(ステップS320)。この小粒径中間層15を形成する工程も、ステップS310と同様に、PVD法あるいはCVD法により行なえばよい。ただし、第3実施例では、第1実施例とは異なり、小粒径中間層15を形成する際にも大粒径中間層14を形成する際と同様の大きなエネルギを成膜材料に与える。さらに、ステップS320では、所定の厚さの小粒径中間層15を形成する際に、途中で何度か(例えば、1回〜100回程度)成膜の動作を休止し、断続的に成膜を行なう。このように、断続的に成膜の動作(成膜材料を蒸着させる動作)を行なうと、休止の度に金属結晶の成長が止まるため、大粒径中間層14の形成時と同様に大きなエネルギ(例えば、そのまま休止することなく成膜を続けると、金属結晶が柱状結晶として成長するようなエネルギ)を成膜材料に与えても、平均粒径がより小さい金属結晶から成る小粒径中間層15を形成することができる。
上記のように、小粒径中間層15を形成する際に成膜の動作を中断する場合には、成膜材料を蒸着させる動作を一旦停止することに加えて、さらに、蒸着動作の停止中は、形成途中の膜の雰囲気を、蒸着中とは異なる条件としても良い。例えば、スパッタ法やイオンプレーティングにより小粒径中間層15を形成する場合には、蒸着動作の停止時には、チャンバ内の雰囲気をアルゴンガスからヘリウムガスに切り替えることとしても良い。このように蒸着中と蒸着動作停止時とで形成途中の膜の状態を切り替えることで、成膜材料(Ta)の金属結晶の成長を効率良く停止させることができる。
小粒径中間層15を形成すると、この小粒径中間層15上にさらに、第1実施例のステップS130と同様に金属被覆層16を形成することで(ステップS230)、第3実施例の水素透過膜が完成される。
以上のように構成された第3実施例の水素透過膜によっても、第1および第2実施例と同様の効果を得ることができる。
E.水素透過膜を用いた装置:
E−1.水素抽出装置:
図5は、実施例の水素透過膜10(第1実施例ないし第3実施例では、水素透過膜の構成は同様であるため、以下、これらを合わせて水素透過膜10とする)を利用した水素抽出装置20の構成を表わす断面模式図である。水素抽出装置20は、複数の水素透過膜10を積層した構造を有しており、図5では、水素透過膜10の積層に関わる構成についてのみ示している。水素抽出装置20では、積層される各水素透過膜10間に、水素透過膜10の外周部と接合する支持部22が配設されており、支持部22によって各水素透過膜10間に所定の空間が形成されている。支持部22は、水素透過膜10との接合が可能であって充分な剛性を有していればよい。例えばステンレス鋼(SUS)等の金属材料により形成することで、金属層である水素透過膜10と容易に接合可能となる。
各水素透過膜10間に形成される上記所定の空間は、水素含有ガス路24とパージガス路26とを交互に形成する。各々の水素含有ガス路24に対しては、図示しない水素含有ガス供給部より、水素抽出の対象となる水素含有ガスが供給される。また、各々のパージガス路26に対しては、図示しないパージガス供給部から、水素濃度が充分に低いパージガスが供給される。水素含有ガス路24に供給されたガス中の水素は、水素濃度差に従ってパージガス路26側へと水素透過膜10を透過することによって、水素含有ガスから抽出される。
このような水素抽出装置20によれば、水素透過膜として、耐久性に優れた実施例の水素透過膜10を用いているため、水素抽出装置20全体の耐久性を向上させることができる。また、水素透過膜10では、金属拡散に起因する水素透過性能の低下が防止されるため、このような水素透過膜10を用いることにより、水素抽出装置20全体の水素抽出性能の低下を防ぐことができる。
E−2.燃料電池:
図6は、実施例の水素透過膜10を利用した燃料電池の構成の一例を表わす断面模式図である。図6は、単セル30を表わしているが、燃料電池は、この単セル30を複数積層することによって形成される。
単セル30は、水素透過膜10と、水素透過膜10の一方の面上に形成された電解質層32と、電解質層32上に形成されたカソード電極34と、から成るMEA(Membrane Electrode Assembly)31を備えている。また、単セル30は、MEA31をさらに両側から挟持する2つのガスセパレータ36,37を備えている。水素透過膜10と、これに隣接するガスセパレータ36との間には、水素を含有する燃料ガスが通過する単セル内燃料ガス流路38が形成されている。また、カソード電極34と、これに隣接するガスセパレータ37との間には、酸素を含有する酸化ガスが通過する単セル内酸化ガス流路39が形成されている。
電解質層32は、プロトン伝導性を有する固体電解質から成る層である。電解質層32を構成する固体電解質としては、例えば、BaCeO3、SrCeO3系のセラミックスプロトン伝導体を用いることができる。この電解質層32は、水素透過膜10上に、上記固体酸化物を生成させることによって形成することができる。電解質層32を形成する方法としては、例えば、PVD、CVDなど種々の手法を用いることができる。このように電解質層32を、緻密な金属膜である水素透過膜10上に成膜することにより、電解質層32を薄膜化し、電解質層32の膜抵抗をより低減することが可能となる。これにより、従来の固体電解質型燃料電池の運転温度よりも低い温度である約200〜600℃程度で発電を行なうことが可能となる。
カソード電極34は、電気化学反応を促進する触媒活性を有する層である。本実施例では、カソード電極34として、貴金属であるPtから成る多孔質なPt層を設けている。また、単セル30において、カソード電極34とガスセパレータ37との間、あるいは水素透過膜10とガスセパレータ36との間に、導電性およびガス透過性を有する集電部をさらに設けても良い。集電部は、例えば多孔質の発泡金属や金属メッシュの板材、あるいは、カーボンクロスやカーボンペーパ、あるいはセラミックス等によって形成することができる。
ガスセパレータ36,37は、カーボンや金属などの導電性材料で形成されたガス不透過な部材である。ガスセパレータ36,37の表面には、単セル内燃料ガス流路38あるいは単セル内酸化ガス流路39を形成するための所定の凹凸形状が形成されている。実際の燃料電池では、ガスセパレータ36,37は別種の部材ではなく、その一方の面では、所定の単セル30の単セル内燃料ガス流路38を形成し、他方の面では、上記所定の単セル30に隣接する単セル30の単セル内酸化ガス流路39を形成する。あるいは、隣り合う単セル30間において、一方の単セルが備えるガスセパレータ36と他方の単セルが備えるガスセパレータ37との間に、冷媒流路を設けることとしても良い。
このような燃料電池によれば、電解質層を形成する基板である水素透過膜として、耐久性に優れた実施例の水素透過膜10を用いているため、燃料電池全体の耐久性を向上させることができる。また、実施例の水素透過膜10では、金属拡散に起因する水素透過性能の低下が防止されるため、このような水素透過膜10を用いることで、燃料電池の性能低下を防ぐことができる。
なお、図6に示す燃料電池が備える水素透過膜では、図1に示した水素透過膜10とは異なり、電解質層32と接する面には、金属被覆層16および中間層13を設けない構成とすることも可能である。
F.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
F1.変形例1:
既述したように、小粒径中間層15を構成する金属結晶の粒径は、大粒径中間層14を構成する金属結晶の粒径よりも小さければよいが、小粒径中間層15全体で金属結晶の粒径が均一である必要はない。例えば、大粒径中間層14から、金属被覆層16との接触面に向かって、小粒径中間層15を構成する金属結晶の粒径が徐々に小さくなる構成も可能である。小粒径中間層15全体で金属結晶の粒径が均一であれば、粒界にかかる応力も均一に分散されて特に望ましい。しかしながら、中間層13において、大粒径中間層14よりも粒径の小さい金属結晶で構成される層を金属被覆層16側に設けるならば、金属粒径は必ずしも均一でなくても、金属被覆層16との接触面近傍で中間層13の変形を抑える同様の効果が得られる。
F2.変形例2:
第1ないし第3実施例では、中間層13をTaにより構成したが、Taに代えてニオブ(Nb)により構成しても良い。これら5族金属は優れた水素透過性能を有するため、5族金属によって中間層13を構成すれば、中間層を設けることに起因する水素透過膜の性能低下を防止できる。また、Nbも、Taと同様に、VやPdに比べて融点の高い金属であるため、中間層13の構成金属を、金属ベース層12や金属被覆層16の構成金属よりも高融点とすることができ、金属拡散を抑える効果を高めることができる。
さらに、中間層13を、合金によって構成することとしても良い。合金を用いる場合にも、中間層13において充分な水素透過性を確保するために、また、高融点であることにより金属拡散を抑える効果を得るために、上記TaやNbを主金属として含むことが望ましい。
F3.変形例3:
既述した第1ないし第3実施例の水素透過膜では、水素透過膜を、水素透過性を有する金属薄膜の自立膜としたが、ガス透過性を有する多孔質基材上に水素透過性金属を担持させることにより水素透過膜を形成してもよい。すなわち、金属被覆層、中間層、金属ベース層、中間層、金属被覆層の順で積層された金属層を、層上の多孔質体の上に順次形成し、水素透過膜としてもよい。このように多孔質基材上に担持された水素透過膜は、例えば、図5に示した水素抽出装置において、実施例の水素透過膜10に代えて用いることができる。
水素透過膜10の構成の概略を表わす断面模式図である。 水素透過膜10の製造方法を表わす工程図である。 第2実施例の水素透過膜の製造方法を表わす工程図である。 第3実施例の水素透過膜の製造方法を表わす工程図である。 水素透過膜10を利用した水素抽出装置20の構成を表わす断面模式図である。 水素透過膜10を利用した燃料電池の構成を表わす断面模式図である。
符号の説明
10…水素透過膜
12…金属ベース層
13…中間層
14…大粒径中間層
15…小粒径中間層
16…金属被覆層
20…水素抽出装置
22…支持部
24…水素含有ガス路
26…パージガス路
30…単セル
31…MEA
32…電解質層
34…カソード電極
36,37…ガスセパレータ
38…単セル内燃料ガス流路
39…単セル内酸化ガス流路

Claims (14)

  1. 水素を選択的に透過させる水素透過膜であって、
    バナジウム(V)を含む金属ベース層と、
    パラジウム(Pd)を含む金属被覆層と、
    前記金属ベース層と前記金属被覆層との間に形成された水素透過性金属から成る層であって、前記金属ベース層との接触面を含むベース層近傍領域における前記水素透過性金属の金属粒径に比べて、前記ベース層近傍領域以外の領域における前記水素透過性金属の金属粒径の方が、小さく形成されている中間層と
    を備える水素透過膜。
  2. 請求項1記載の水素透過膜であって、
    前記中間層を構成する前記水素透過性金属は、前記金属ベース層を構成する金属および前記金属被覆層を構成する金属よりも、金属拡散を起こし難い水素透過性金属である
    水素透過膜。
  3. 請求項2記載の水素透過膜であって、
    前記中間層を構成する前記水素透過性金属は、前記金属ベース層および前記金属被覆層を構成する金属よりも、融点が高い水素透過性金属である
    水素透過膜。
  4. 請求項3記載の水素透過膜であって、
    前記中間層を構成する前記水素透過性金属は、タンタル(Ta)または(Nb)を含有する水素透過性金属である
    水素透過膜。
  5. 水素を選択的に透過させる水素透過膜の製造方法であって、
    (a)バナジウム(V)を含む金属ベース層を用意する工程と、
    (b)前記金属ベース層上に、水素透過性金属から成る中間層を形成する工程と、
    (c)前記中間層上に、パラジウム(Pd)を含む金属被覆層を形成する工程と、
    を備え、
    前記(b)工程は、
    (b−1)前記金属ベース層上に、前記水素透過性金属から成る大粒径中間層を形成する工程と、
    (b−2)前記大粒径中間層の上に、前記水素透過性金属から成る層であって、該層を構成する金属結晶の平均粒径が前記大粒径中間層よりも小さい小粒径中間層を形成する工程と
    を備える水素透過膜の製造方法。
  6. 請求項5記載の水素透過膜の製造方法であって、
    前記(b−2)工程は、前記(b−1)工程に比べて、成膜時に成膜材料である前記水素透過性金属が有するエネルギがより少ない低エネルギ条件下において、前記水素透過性金属から成る層を形成する
    水素透過膜の製造方法。
  7. 請求項6記載の水素透過膜の製造方法であって、
    前記(b)工程は、PVDまたはCVDにより前記中間層を形成する
    水素透過膜の製造方法。
  8. 請求項5記載の水素透過膜の製造方法であって、
    前記(b−2)工程は、前記大粒径中間層上に、成膜材料である前記水素透過性金属を用いて成膜する動作を、断続的に繰り返す工程である
    水素透過膜の製造方法。
  9. 請求項5記載の水素透過膜の製造方法であって、
    前記(b−1)工程は、前記金属ベース層上に前記水素透過性金属から成る層を形成した後に、該層にエネルギを与えて、該層を構成する金属結晶を大型化させる工程を含む
    水素透過膜の製造方法。
  10. 請求項5ないし9いずれか記載の水素透過膜の製造方法であって、
    前記中間層を構成する前記水素透過性金属は、前記金属ベース層を構成する金属および前記金属被覆層を構成する金属よりも、金属拡散を起こし難い水素透過性金属である
    水素透過膜の製造方法。
  11. 請求項10記載の水素透過膜の製造方法であって、
    前記中間層を構成する前記水素透過性金属は、前記金属ベース層および前記金属被覆層を構成する金属よりも、融点が高い水素透過性金属である
    水素透過膜の製造方法。
  12. 請求項11記載の水素透過膜の製造方法であって、
    前記中間層を構成する前記水素透過性金属は、タンタル(Ta)または(Nb)を含有する水素透過性金属である
    水素透過膜の製造方法。
  13. 燃料電池であって、
    プロトン伝導性を有する電解質層と、該電解質層の少なくとも一方の面上に形成された水素透過膜と、を備える電解質膜と、
    前記電解質膜の一方の面に対して、酸素を含有する酸化ガスを供給する酸化ガス供給部と、
    前記電解質膜の他方の面に対して、水素を含有する燃料ガスを供給する燃料ガス供給部と、
    を備え、
    前記水素透過膜は、請求項1ないし4いずれか記載の水素透過膜である
    燃料電池。
  14. 水素を含有する水素含有気体から水素を抽出する水素抽出装置であって、
    請求項1ないし4いずれか記載の水素透過膜と、
    前記水素透過膜の第1の面上に形成され、前記水素含有気体が通過する水素含有気体流路と、
    前記水素透過膜の第2の面上に形成され、前記水素透過膜を透過して前記水素含有気体から抽出された水素が通過する抽出水素流路と
    を備える水素抽出装置。
    水素抽出装置。
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