上述したインクジェット式記録装置においては、近年の高画質化の要求に応えるために、記録ヘッドから吐出されるインク滴のサイズがますます小さくなっている。小さなサイズのインク滴は空気の粘性抵抗によって速度が急激に低下するので、縁なし印刷の際に記録媒体から外れた領域に向けて記録ヘッドから吐出されたインク滴が、吸収部材に到達せずにミスト化する可能性がある。そして、記録媒体の裏面側に回り込んだインクミストが記録媒体の裏面縁部に付着して記録媒体を汚損してしまい、とくに、記録媒体に両面印刷を施す場合や、葉書のような両面を使用する記録媒体に印刷を施す場合において問題であった。
また、記録媒体の印刷領域に対してインク滴を吐出する場合であっても、吐出モードによってはインク滴がメイン部分とサテライト部分とに分離して吐出される場合があり、サイズの大きいメイン部分は記録媒体に到達し得ても、サイズの小さいサテライト部分が記録媒体に着弾せずにミスト化する可能性がある。とりわけ、顔料インクの吐出に際してサテライト部分が発生した場合、当該サテライト部分が記録媒体に着弾せずにミスト化する傾向がある。
そして、ミスト化したインク滴は機内を汚損し、電気回路やリニアスケールへのインクミストの付着によって動作不良が発生したり、インクカートリッジに堆積してユーザーの手を汚すという問題を引き起こす。
さらに、小さなサイズのインク滴の場合、ミスト化することなく記録媒体に到達し得たとしても、速度が低下しているために着弾位置が安定せず、画質が劣化する(ボケた画像、ざらついた画像になる)恐れがあった。
小さなサイズのインク滴を記録媒体の正規の位置に確実に到達させるためには、吐出時の初速を高くする方法も考えられるが、あまり初速を高くするとインク滴が引き伸ばされてメイン部分とサテライト部分とに分離してしまう。このようにサテライト部分が発生するような状態で印刷を実行すると、メイン部分の着弾位置とサテライト部分の着弾位置とがヘッド走査方向にずれるため、記録媒体に形成されるドットが横長となり、画質のシャープさが落ちて画質が劣化する。さらに、メイン部分とサテライト部分とが個体間差や温度環境差により、或いはプラテンギャップによって合体又は分離して色目が変わってしまうという問題がある。
さらに、インク滴がメイン部分とサテライト部分とに分離する場合、メイン部分の速度は吐出時の初速の上昇に伴って上昇する傾向があるが、サテライト部分の速度は、吐出時の初速が上昇しても変化しない傾向がある。このため、吐出時の初速を高くすればするほど、メイン部分とサテライト部分との間の速度差が大きくなって、メイン部分の着弾位置とサテライト部分の着弾位置とのズレが大きくなり、上述の画質の劣化や色目の変化の問題が深刻化してしまう。
また、一般に、記録媒体を送り方向に送るための送り機構は、記録媒体を挟み込んで送るように互いに対向配置されたローラを備えている。対向配置されたローラの一方は、金属ローラ表面にアルミナを焼き付けて摩擦力を向上させた構造からなる駆動ローラであり、他方のローラはプラスチックで形成された従動ローラである。
そして、一般に、これらのローラと記録媒体との接触/剥離や、オートシートフィーダから記録媒体を供給する際の次の記録媒体とのこすり合わせ、或いは記録媒体の供給経路内での構造部材との接触などによって、印刷領域に送られた時点では記録媒体が帯電している。そして、このように記録媒体が帯電していると、上述した記録媒体裏面へのインクミストの付着が起こりやすくなる。
このような問題を解消するために、帯電した記録媒体を除電するために除電ブラシ等の除電手段を設ける方法も考えられるが、この場合、除電手段の設置位置が、必然的に、一対のローラからなる送り機構よりも、送り方向の下流側となり、送り機構から印刷領域までの距離が長くなる。このため、記録媒体の送り精度の悪化や、記録媒体の浮き上がり等の問題が発生しやすくなってしまう。また、除電ブラシにより紙等の記録媒体をこすることにより紙粉等が発生してノズルに付着し、インク滴の吐出性能が悪化するという問題もある。
また、インク滴のミスト化を防止するために何らかの手段を設けた場合、当該手段による効果を、印刷開始時から終了時まで持続させる必要がある。
本発明は、上述した事情を考慮してなされたものであって、その目的とするところは、液体噴射ヘッドから吐出された液滴のミスト化を確実に防止することができる液体噴射装置及び方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、微細な液滴を被処理物上の正規に位置に確実に着弾させることができる液体噴射装置及び方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明による液体噴射装置は、ノズル開口が形成されたノズルプレートを有し、前記ノズル開口に連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズル開口から液滴を吐出させる液体噴射ヘッドと、前記ノズルプレートと被処理物との間に電位差を発生させ、電荷を帯びた状態で前記ノズル開口から吐出された液滴に対して前記被処理物の方向へのクーロン力を作用させる電位差発生手段と、前記ノズルプレートと前記被処理物との間に電位差を発生させるための前記電位差発生手段の電圧の極性を反転させる極性反転手段と、前記極性反転手段を操作して電圧極性の反転のタイミングを制御する反転制御手段と、を備えたことを特徴とする。
また、好ましくは、前記反転制御手段は、一定の周期毎に電圧極性を反転させるように前記極性反転手段を操作する。
また、好ましくは、前記液体噴射ヘッドを走査させる走査機構をさらに有し、前記一定の周期は、前記走査機構による前記液体噴射ヘッドの走査動作の各パスに対応している。
また、好ましくは、前記反転制御手段は、前記液体噴射ヘッドからの液滴の吐出数が所定値に達した時点で電圧極性を反転させるように前記極性反転手段を操作する。
また、好ましくは、前記極性反転手段は、グランド電圧に対して極性が反転した正負逆の電圧間を切り換える。
また、好ましくは、処理中の前記被処理物を電気的に浮いた状態に保持するための保持手段と、処理中の前記被処理物の裏面側に位置する導電性部材と、をさらに有し、前記極性反転手段は、前記ノズルプレートと前記導電性部材の夫々の電圧極性を反転する。
また、好ましくは、前記液体噴射ヘッドを駆動制御して、適宜選択されたサイズの液滴を前記ノズル開口から吐出させる吐出制御手段をさらに有し、前記吐出制御手段は、液滴のメイン部分からサテライト部分が分離形成され得る吐出モードにて前記液体噴射ヘッドを駆動制御する。
また、好ましくは、前記サテライト部分は、前記電位差発生手段による前記クーロン力が作用しなければ前記被処理物の正規の位置に到達し得ない速度を有している。
また、好ましくは、前記電位差発生手段は、前記被処理物と前記ノズルプレートとの間に電圧を印加する。
また、好ましくは、前記電位差発生手段は、前記被処理物を帯電させるための帯電手段を含む。
また、好ましくは、前記帯電手段は、コロナ放電器又は帯電ブラシを含む。
また、好ましくは、前記被処理物の処理済みの領域に対応する部分から静電気を除去する除電手段を備える。
また、好ましくは、前記除電手段は、除電ブラシを有する。
また、好ましくは、前記除電ブラシは、前記被処理物の裏面に当接される。
また、好ましくは、処理中の前記被処理物を電気的に浮いた状態に保持するための保持手段と、処理中の前記被処理物の裏面側に位置する導電性部材と、をさらに有し、前記電位差発生手段は、前記ノズルプレートと前記導電性部材との間に電圧を印加する。
また、好ましくは、前記保持手段は、処理中の前記被処理物に接触する各部材の少なくとも表面に設けられた絶縁材料を有する。
また、好ましくは、前記導電性部材は、液滴を吸収し得る導電性の吸収部材である。
また、好ましくは、前記導電性の吸収部材は、非導電性原料に導電性材料を混入させて発泡形成されたものである。
また、好ましくは、前記導電性の吸収部材は、非導電性の発泡材に導電性材料をメッキにて付与したものである。
また、好ましくは、前記導電性の吸収部材は、非導電性の発泡材に、電解質液体を含浸させたものである。
また、好ましくは、前記電解質液体は、液体噴射ヘッドから噴射された液体である。
また、好ましくは、処理中の前記被処理物の裏面側に配置され、前記ノズル開口から吐出された液滴を吸収し得る吸収部材を有し、前記導電性部材は、前記吸収部材に隣接して配置されている。
また、好ましくは、前記液体噴射ヘッドに対向して配置され、前記被処理物をその裏面から支持して前記液体噴射ヘッドに対する前記被処理物の位置を規定するプラテンをさらに有し、前記吸収部材は、前記プラテンに設けられている。
上記課題を解決するために、本発明は、ノズル開口が形成されたノズルプレートを有し、前記ノズル開口に連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズル開口から液滴を吐出させる液体噴射ヘッドを用いて被処理物に対して液体を噴射させる方法であって、前記ノズルプレートと前記被処理物との間に電位差を発生させる電位差発生工程と、前記被処理物を処理するために、前記液体噴射ヘッドを駆動して前記ノズル開口から電荷を帯びた状態で液滴を吐出させる液滴吐出工程と、を備え、前記ノズルプレートと前記被処理物との間に電位差を発生させるための電圧の極性を所定のタイミングで反転させることを特徴とする。
また、好ましくは、前記ノズルプレートと前記被処理物との間に電位差を発生させるための電圧の極性を一定の周期毎に反転させる。
また、好ましくは、前記一定の周期は、液体噴射ヘッドを走査させる走査機構による前記液体噴射ヘッドの走査動作の各パスに対応している。
また、好ましくは、前記液体噴射ヘッドからの液滴の吐出数が所定値に達した時点で、前記ノズルプレートと前記被処理物との間に電位差を発生させるための電圧の極性を反転させる。
また、好ましくは、前記ノズルプレートと前記被処理物との間に電位差を発生させるための電圧の極性を反転させる際には、グランド電圧に対して極性が反転した正負逆の電圧間を切り換える。
また、好ましくは、液滴のメイン部分からサテライト部分が分離形成され得る吐出モードにて前記液体噴射ヘッドから液滴を吐出する。
また、好ましくは、前記サテライト部分は、前記被処理物の方向へのクーロン力が作用しなければ前記被処理物の正規の位置に到達し得ない速度を有している。
また、好ましくは、前記被処理物と前記ノズルプレートとの間に電圧を印加する。
また、好ましくは、帯電手段によって前記被処理物を帯電させる。
また、好ましくは、前記被処理物の処理済みの領域に対応する部分から除電手段によって静電気を除去する。
また、好ましくは、処理中の前記被処理物を電気的に浮いた状態に保持し、処理中の前記被処理物の裏面側に位置する導電性部材と前記ノズルプレートとの間に電圧を印加する。
また、好ましくは、処理中の前記被処理物の裏面側に配置され、前記ノズル開口から吐出された液滴を吸収し得る吸収部材に対して、前記電位差発生工程に先立って前記液体噴射ヘッドから液滴を吐出して前記吸収部材を前記導電性部材として使用できるようにする工程をさらに備える。
また、好ましくは、処理中の前記被処理物の裏面側に位置する導電性部材と前記ノズルプレートの夫々の電圧極性を反転させる。
以上述べたように本発明によれば、液体噴射ヘッドから吐出された液滴のミスト化を確実に防止することができる。
また、本発明によれば、小さなサイズの液滴或いはサテライト部分を、被処理物上の正規の位置に確実に着弾させることができる。
以下、本発明による液体噴射装置及び方法の実施形態としてのインクジェット式記録装置及び方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態によるインクジェット式記録装置は、ノズル開口に連通する圧力室に対応して設けられた圧力発生素子により、圧力室内のインクに圧力変動を生じさせてノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッドの一種)を備えている。圧力発生素子としては、例えば圧電振動子を用いることができる。
図1及び図2は、本実施形態によるインクジェット式記録装置の概略構成を示した斜視図であり、図3は同インクジェット式記録装置のプラテン及びその周囲を拡大して示した図である。図1中符号1はキャリッジであり、このキャリッジ1はキャリッジモータ2により駆動されるタイミングベルト3を介して、ガイド部材4に案内されてプラテン5の軸方向に往復移動されるように構成されている。プラテン5は、記録紙6(被処理物の一種)をその裏面から支持して記録ヘッド12に対する記録紙6の位置を規定する。
キャリッジ1、キャリッジモータ2、タイミングベルト3、及びガイド部材4は、インクジェット式記録ヘッド12をキャリッジ1と共にヘッド走査方向に走査させる走査機構を構成している。
インクジェット式記録ヘッド12は、複数のノズル開口165のそれぞれに連通する複数の圧力室173を有し、キャリッジ1の記録紙6に対向する側に搭載されている。また、キャリッジ1には、記録ヘッド12にインクを供給するインクカートリッジ7が着脱可能に装着されている。なお、記録ヘッド12の詳細な構造については後述する。
インクジェット式記録装置の非印刷領域であるホームポジション(図1中、右側)にはキャップ部材13が配置されており、このキャップ部材13はキャリッジ1に搭載された記録ヘッド12がホームポジションに移動した時に、記録ヘッド12のノズル形成面に押し当てられてノズル形成面との間に密閉空間を形成するように構成されている。そして、キャップ部材13の下方には、キャップ部材13により形成された密閉空間に負圧を与えるためのポンプユニット10が配置されている。
キャップ部材13の印刷領域側の近傍には、ゴムなどの弾性板を備えたワイピング手段11が記録ヘッド12の移動軌跡に対して例えば水平方向に進退できるように配置されていて、キャリッジ1がキャップ部材13側に往復移動するに際して、必要に応じて記録ヘッド12のノズル形成面を払拭することができるように構成されている。
本実施形態によるインクジェット式記録装置は、さらに、記録ヘッド12により印刷処理が行われる記録紙6をヘッド走査方向に対して直交する送り方向に間欠的に搬送する送り機構を備えている。
図3に示したように送り機構は、記録紙6を挟み込んでプラテン5上へ送るために互いに対向配置された給紙ローラ14a、14bと、印刷された記録紙6を排出するために互いに対向配置された排紙ローラ15a、15bと、を備えている。なお、給紙ローラ14a及び排紙ローラ15aは従動ローラであり、給紙ローラ14b及び排紙ローラ15bは駆動ローラである。
図3から分かるようにプラテン5には、給紙方向(送り方向)Fと平行な方向に延びる複数のインク受け縦開口5c、5d、5e、5fと、給紙方向Fに対して直交するヘッド走査方向に延びる複数のインク受け横開口5a、5bとが形成されている。
複数のインク受け縦開口5c、5d、5e、5fのうち、一対のインク受け開口5cはA3サイズの記録紙6の左右端がそれぞれ真上を通過するように配置されており、一対のインク受け開口5dはB4サイズの記録紙6の左右端がそれぞれ真上を通過するように配置されており、一対のインク受け開口5eはA4サイズの記録紙6の左右端がそれぞれ真上を通過するように配置されており、一対のインク受け開口5fはB5サイズの記録紙6の左右端がそれぞれ真上を通過するように配置されている。
また、複数のインク受け横開口5a、5bは、給紙側に配置されている給紙側インク受け開口5aと、排紙側に配置されている排紙側インク受け開口5bとからなる。
これらのインク受け開口5a、5b、5c、5d、5e、5fには、いずれも、記録ヘッド12から吐出されたインクを吸収する吸収部材16が配置されている。
図4は、本実施形態によるインクジェット式記録装置の機能ブロック図である。図4に示したようにこの記録装置はプリンタコントローラ61と、プリントエンジン62とを備えている。プリンタコントローラ61は、ホストコンピュータ(図示せず)等から印刷データ等を受信するインターフェース63と、各種データの記憶等を行うRAM64と、各種データ処理のための制御ルーチン等を記憶したROM65と、CPU等から成る制御部82と、発振回路66と、駆動信号を発生する駆動信号発生回路(駆動信号発生手段)83と、ドットパターンデータ(ビットマップデータ)に展開された印刷データや駆動信号等をプリントエンジン62に送信するためのインターフェース67とを備えている。
この他に、プリンタコントローラ61は、記録媒体の一種であるメモリカード76を着脱可能に保持し、記録媒体保持部として機能するカードスロット77と、メモリカード76に記録された情報を制御部82に送信するカードインターフェース78とを備えている。上記のメモリカード76には、駆動信号の波形に関するデータが記録されている。なお、メモリカード76以外の記録媒体としては、例えば、フロッピーディスク、ハードディスク、光磁気ディスク等も使用することができる。
そして、制御部82はコンピュータの一種であり、メモリカード76に記録された駆動信号の波形データやROM65に記録された制御ルーチン等を参照してインク滴の吐出制御を行う。
インターフェース63は、例えばキャラクタコード、グラフィック関数、イメージデータのいずれか1つのデータ又は複数のデータからなる印刷データをホストコンピュータから受信する。また、インターフェース63は、ホストコンピュータに対してビジー(BUSY)信号やアクノレッジ(ACK)信号等を出力することができる。
RAM64は、受信バッファ、中間バッファ、出力バッファ及びワークメモリ(図示せず)等として利用されるものである。受信バッファにはホストコンピュータからの印刷データが一時的に記憶され、中間バッファには中間コードデータが記憶され、出力バッファにはドットパターンデータが展開される。
ROM65は、制御部82によって実行される各種制御ルーチン、フォントデータ、及びグラフィック関数等を記憶している。
なお、このROM65には、変更されずに継続的に使用される制御ルーチン(制御プログラム)が記憶されている。そして、駆動信号の波形に関するデータ等、バージョンアップや変更が予定されるものは、上記のメモリカード76に記録される。
また、制御部82は、メモリカード76から読み取った駆動信号の波形に関するデータに基づいて駆動信号発生回路83を制御して、印刷モードに応じて所定の駆動信号を生成させる。
プリントエンジン62は、記録ヘッド12を主走査方向に駆動するステッピングモータ80、記録紙を移送する紙送りモータ81、及び記録ヘッド12の電気駆動系71とから構成されている。記録ヘッド12の電気駆動系71は、シフトレジスタ72、ラッチ回路73、レベルシフタ74、スイッチ75、及び圧電振動子161等を備えている。なお、制御部82及び駆動信号発生回路83は、圧電振動子161を駆動して圧力室173内のインクに圧力変動を生じさせ、これによりノズル開口165から記録紙6に向けてインク滴を吐出させるための駆動手段を構成する。
なお、制御部82としては、例えば単体で直接的に記録装置に接続されたホストコンピュータや、また、ネットワークを介して接続された多数のコンピュータのうちの1つのコンピュータを使用することもできる。
図5は、記録ヘッド12の駆動回路の主要部を示しており、図4中のシフトレジスタ72、ラッチ回路73、レベルシフタ74、スイッチ75、及び圧電振動子161は、それぞれ、記録ヘッド12の各ノズル開口165(図4参照)に対応した素子72A〜N、73A〜N、74A〜N、75A〜N、161A〜Nから構成されている。そして、例えばアナログスイッチとして構成される各スイッチ素子75A〜Nに加わるビットデータが「1」の場合は、駆動振動が圧電振動子161A〜Nに直接印可され、各圧電振動子161A〜Nは駆動信号の信号波形に応じて変形する。逆に、各スイッチ素子75A〜Nに加わるビットデータが「0」の場合は、各圧電振動子161A〜Nへの駆動信号が遮断され、各圧電振動子161A〜Nは直前の電荷を保持する。
図6は、図1に示したインクジェット式記録装置の記録ヘッド12の構造を示した断面図である。
この記録ヘッド12は、合成樹脂製の基台163と、この基台163の前面(図の左側に相当する)に貼着された流路ユニット164とを備えている。そして、この流路ユニット164は、ノズル開口165が穿設されたノズルプレート166と、振動板167と、流路形成板168と、シート176とから構成されている。
基台163は、前面と背面に開放された収容空間169が設けられたブロック状部材である。この収容空間169には、固定基板170に固定された圧電振動子161が収容されている。
ノズルプレート166は、副走査方向に沿って多数のノズル開口165が穿設された薄い板状部材である。各ノズル開口165は、ドット形成密度に対応した所定ピッチで開設されている。振動板167及びシート176によって、圧電振動子161が当接する厚肉部としてのアイランド部171と、このアイランド部171の周囲を囲うように設けられ、弾性を有する薄肉部172とが形成されている。
アイランド部171は、一つのノズル開口165に一つのアイランド部171が対応するように、所定ピッチで多数設けられている。
流路形成板168は、圧力室173、共通インク室174、及び、これらの圧力室173と共通インク室174とを連通するインク供給口175を形成するための開口部が設けられている。
そして、ノズルプレート166を流路形成板168の前面に配設するとともに、振動板167及びシート176を背面側に配設し、ノズルプレート166と振動板167及びシート176とにより流路形成板168を挟んだ状態で、接着等により一体化されて流路ユニット164が形成されている。
この流路ユニット164では、ノズル開口165の背面側に圧力室173が形成され、この圧力室173の背面側に振動板167のアイランド部171が位置している。また、圧力室173と共通インク室174とがインク供給口175によって連通している。
圧電振動子161の先端は、アイランド部171に背面側から当接され、この当接状態で圧電振動子161が基台163に固定されている。また、この圧電振動子161には、フレキシブルケーブルを介して駆動信号(COM)や印刷データ(SI)等が供給される。
縦振動モードの圧電振動子161は、充電されると電界と直交する方向に収縮し、放電すると電界と直交する方向に伸長する特性を有する。したがって、この記録ヘッド12では、充電されることにより圧電振動子161は後方に収縮し、この収縮に伴ってアイランド部171が後方に引き戻され、収縮していた圧力室173が膨張する。この膨張に伴って共通インク室174のインクがインク供給口175を通って圧力室173内に流入する。一方、放電することにより圧電振動子161は前方に向けて伸長し、弾性板のアイランド部171が前方に押されて圧力室173が収縮する。この収縮に伴って圧力室173内のインク圧力が高くなる。
本実施形態においては、プラテン5に設けられた吸収部材16は導電性材料を含んでおり、例えば、ポリエチレン又はポリウレタンにカーボン等の導電性材料を混入させて発泡形成されている。或いは、ポリエチレン又はポリウレタンの発泡材に導電性材料をメッキにて付与して吸収部材16を形成することもできる。或いは、ポリエチレン又はポリウレタンの発泡材にNa+、K+、Cl−、HCO3 −などのイオンを有する電解質液体を含浸させることもできる。電解質液体としてインクを用いても良い。
そして、本実施形態によるインクジェット式記録装置は、図7に示したように、記録紙6に印加する電圧を発生させるための一対の電源20A、20Bと、電源20A、20Bからの電圧を記録紙6に印加するために記録紙6の裏面に当接される当接部21と、ノズルプレート166を接地するための配線22とを備えている。一対の電源20A、20Bは、グランド電圧に対して極性が反転した正負逆の極性を備えている。これらの電源20A、20B、当接部21、及び配線22は、ノズルプレート166と記録紙6との間に電位差を発生させる電位差発生手段30を構成する。
このように電位差発生手段30によって記録紙6に電圧を印加すると共にノズルプレート166を接地することにより、図8に示したように記録紙6にプラス(又はマイナス)の電荷が誘起されると共にノズルプレート166にマイナス(又はプラス)の電荷が誘起される。これにより、図8に矢印で示したように記録紙6からノズルプレート166へ向かう電気力線が発生する。
また、ノズルプレート166にマイナス(又はプラス)の電荷が誘起されることにより、ノズル開口165のインクメニスカス部分にもマイナス(又はプラス)の電荷が誘起される。この電荷量は平行平板コンデンサの式を用いて簡単に計算することができる。インク滴は、ノズル開口165の面積分のマイナス電荷(又はプラス電荷)を持ってノズル開口165から吐出され、ノズルプレート166と記録紙6との間に発生している電界により、記録紙6の方向へのクーロン力Fを受ける。
また、本実施形態おいては、制御部82及び駆動信号発生回路83を含む上述の駆動手段は、インク滴の吐出に際して、インク滴のメイン部分からサテライト部分が分離形成され得る吐出モードにて記録ヘッド12を駆動制御することができる。この場合のサテライト部分は、電位差発生手段30によるクーロン力Fが作用しなければ記録紙6上の正規の位置に到達し得ない程度の速度を有していても良い。
そして、ノズル開口165から吐出された、電荷を帯びたインク滴は、ノズルプレート166と記録紙6との間に存在する電界により記録紙6の方向へのクーロン力Fを受けるので、インク滴或いはそのサテライト部分を記録紙6まで確実に到達させることができる。これにより、サテライト部分が記録紙6に到達できずにミスト化してしまうようなことがない。また、小さなサイズのインク滴或いはサテライト部分を、記録紙6上の正規の位置に確実に着弾させることが可能であり、印刷品質の向上を図ることができる。
さらに、本実施形態は、電源20Aと電源20Bとを切り換える極性反転手段31を備えている。この極性反転手段31は、図4に示した反転制御手段40によって操作され、印刷時に所定のタイミングで電源20Aと電源20Bとを切り換える。この反転制御手段40は、制御部82から受け取った印刷状態に関する情報に基づいて極性反転手段31を操作する。制御部82から反転制御手段40に送られる印刷情報としては、例えば、記録ヘッド12の走査動作のパスに関する情報、或いは記録ヘッド12からのインク滴の吐出数に関する情報等が挙げられる。
極性反転手段31によって電源20Aと20Bとを切り換える際の所定のタイミングとしては、例えば、一定の周期毎に電圧の極性を反転させる方法があり、好ましくは、走査機構による記録ヘッド12の走査動作の各パスに対応して切り換える。或いは、記録ヘッド12からのインク滴の吐出数が所定値に達した時点で電圧の極性を反転させることもできる。
このように本実施形態においては、ノズルプレート166と記録紙6との間に電位差を発生させるための電圧の極性を、反転制御手段40で操作される極性反転手段31によって所定のタイミングで反転させるようにしたので、帯電したインク滴が記録紙6に付着することにより記録紙6の電位が中和されて記録紙6がノズルプレート166と同電位になってしまうことを防止することができる。
即ち、ノズルプレート166と記録紙6との間に電位差を発生させるための電圧の極性を不変とした場合には、初期状態においてはノズルプレート166と記録紙6との間に電位差が生じているが、帯電したインク滴が印刷の最初のパスで記録紙6に付着すると記録紙6の電位が中和されてしまう。このため、ノズルプレート166と記録紙6との間に十分な電位差が確保できなくなり、2パス目以降では電界によるインク滴の加速効果が十分に得られない可能性がある。
これに対して本実施形態は、ノズルプレート166と記録紙6との間に電位差を発生させるための電圧の極性を極性反転手段31によって所定のタイミングで反転させるようにしたので、記録紙6の電位の中和によるインク滴の加速効果の低減を防止することができる。
また、縁あり印刷においては、先行して着弾したインク滴の電荷によって後続のインク滴、特にサテライト部分がクーロン力によってその軌道を曲げられてしまい、記録紙6の縁部の余白部分に着弾してしまう可能性があるが、本実施形態においては上述したように記録紙6に印加する電圧の極性を反転させるようにしたので、このような余白部の汚損を防止することができる。
本実施形態の一変形例としては、図9に示したように、記録紙6を帯電させるための帯電手段23によって電位差発生手段30を構成することもできる。帯電手段23は、コロナ放電器又は帯電ブラシで構成されている。帯電手段23とノズルプレート166とはグランドを共通にしており、帯電手段23により記録紙6を帯電させることにより、ノズルプレート166と記録紙6との間に電位差が形成される。
また、本変形例においては、記録紙6の印刷終了領域に対応する部分から静電気を除去するための除電手段24が、記録ヘッド12から見て記録紙6の送り方向の下流側に設けられている。この除電手段24は除電ブラシで構成されており、この除電ブラシは記録紙6の裏面に当接される。
この変形例においても、図7に示した例と同様に極性反転手段31が設けられており、この極性反転手段31によって、帯電手段23により記録紙6に帯電させる電荷の正負を、上述した所定のタイミングにて切り換えることができる。
本変形例においても、図7に示した例と同様の効果、即ち記録紙6の電位の中和によるインク滴の加速効果の低減を防止するという効果を得ることができる。
また、図10は上記実施形態の他の変形例を示している。
この変形例においては、プラテン5に設けられた吸収部材16が導電性部材から成り、電源20A、20Bからの電圧は吸収部材16に印加されるようになっている。即ち、電源20A、20Bによって、ノズルプレート166と吸収部材16との間に電位差が形成される。
さらに、本変形例においては、処理中の記録紙6を電気的に浮いた状態に保持するための保持手段が設けられている。具体的には、この保持手段は、図10に示したように処理中の記録紙6に接触する各部材、例えば給紙ローラ14a、14bの少なくとも表面に設けられた絶縁材料18a、18bを有する。
このように絶縁材料18a、18bから成る保持手段によって処理中の記録紙6を電気的に浮いた状態にすることによって、記録紙6は単に誘電体として作用することになる。このため、ノズルプレート166と吸収部材16との間に記録紙6が挿入された場合、吸収部材16から出発した電気力線は記録紙6で遮断されることなくノズルプレート166まで延びる。
また、この変形例においても、図7に示した例と同様に極性反転手段31が設けられており、この極性反転手段31によって、ノズルプレート166と導電性の吸収部材16との間に電位差を発生させるための電圧の極性を、上述した所定のタイミングで反転させることができる。
本変形例においても、図7に示した例と同様の効果、即ち記録紙6の電位の中和によるインク滴の加速効果の低減を防止するという効果を得ることができる。
また、図10に示した上記変形例においては、導電性の吸収部材16に電圧を印加するようにしたが、図11及び図12に示したように、吸収部材16の上面に導電性材料から成る格子状部材25を隣接配置して、この格子状部材25に対して電源20A、20Bからの電圧を印加することもできる。格子状部材25は、ヘッド走査方向に沿って延在する導電性部分25aと、送り方向に沿って延在する導電性部分25bと、を有する。
本変形例の場合には、必ずしも吸収部材16に導電性材料を含ませる必要はなく、例えば、スポンジ、ベルイータ等で吸収部材16を形成することができる。また、導電性の吸収部材16と導電性材料からなる部材とを併用しても良い。この場合、導電性材料からなる部材は格子状である必要はなく、ワイヤー状であっても良い。また、吸収部材16の上面ではなく下面に隣接配置しても良い。
また、この変形例においても、図7に示した例と同様に極性反転手段31が設けられており、この極性反転手段31によって、ノズルプレート166と導電性の格子状部材25との間に電位差を発生させるための電圧の極性を、上述した所定のタイミングで反転させることができる。
本変形例においても、図7に示した例と同様の効果、即ち記録紙6の電位の中和によるインク滴の加速効果の低減を防止するという効果を得ることができる。
また、上記実施形態及び上記各変形例において、電位差発生手段30により発生させる電界の向きを逆にすることもできる。即ち、図13に示したように当接部21及び配線26により、ノズルプレート166ではなく記録紙6を接地すると共に、電源20A、20Bによりノズルプレート166にマイナスの電圧を印加しても良い。
また、この変形例においても、図7に示した例と同様に極性反転手段31が設けられており、この極性反転手段31によって、ノズルプレート166と当接部21との間に電位差を発生させるための電圧の極性を、上述した所定のタイミングで反転させることができる。
本変形例においても、図7に示した例と同様の効果、即ち記録紙6の電位の中和によるインク滴の加速効果の低減を防止するという効果を得ることができる。
また、図19は、図10に示した例の一変形例を示しており、この変形例においては、ノズルプレート166と導電性部材からなる吸収部材16夫々に極性反転手段31a及び31bが設けられており、この極性反転手段31a及び31bによって、ノズルプレート166と吸収部材16との間の電位差を発生させるための電圧の極性を、上述した所定のタイミングで反転させることができる。
本変形例においては、電位差を発生させるために1個の単一極性の電源20を用いても、図10に示した例と同様の効果、即ち記録紙6の電位の中和によるインク滴の加速効果の低減を防止するという効果を得ることができ、コストダウンを図ることが出来る。