JP4470099B2 - 酸性基含有ポリベンズイミダゾール系化合物およびその組成物 - Google Patents

酸性基含有ポリベンズイミダゾール系化合物およびその組成物 Download PDF

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Description

本発明は、特定の組成を持つ酸性基含有ポリベンズイミダゾール系化合物を構成成分とする高分子電解質膜として有用な化合物に関するものである。
液体電解質のかわりに高分子固体電解質をイオン伝導体として用いる電気化学的装置の例として、水電解槽や燃料電池を挙げることができる。これらに用いられる高分子膜は、カチオン交換膜としてプロトン導電率とともに化学的、熱的、電気化学的および力学的に十分安定なものでなくてはならない。このため、長期にわたり使用できるものとしては、主に米デュポン社製の「ナフィオン(登録商標)」を代表例とするパーフルオロカーボンスルホン酸膜が使用されてきた。しかしながら、100℃を越える条件で運転しようとすると、膜の含水率が急激に落ちるほか、膜の軟化も顕著となり燃料電池として十分な性能を発揮することはできない。また、膜のコストが高すぎることも燃料電池技術の確立の障害として指摘されている。さらに、水電解槽への使用においては生成ガスの拡散現象による電流効率の損失も問題とされている。
このような欠点を克服するため、芳香族環含有ポリマーにスルホン酸基を導入した高分子電解質膜が種々検討されている。この中で、高耐熱、高耐久性のポリマーとして知られるポリベンズイミダゾールなどの芳香族ポリアゾール系のポリマーにスルホン酸基やホスホン酸基を導入して上記目的に利用することが考えられる。このようなポリマー構造として、スルホン酸を含有したポリベンズイミダゾールについては、例えば非特許文献1における3,3’−ジアミノベンジジンと3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸または2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸から合成するものが、特許文献1では1,2,4,5−ベンゼンテトラミンと2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸を主成分として合成するものが報告されている。しかしこれらの報告では、スルホン酸含有ポリベンズイミダゾールの溶解性や耐熱性などには注意が向けられているが、電解質膜用途などスルホン酸基が持つ電気化学的特性について顧みられることはなかった。特に、これらの物は、耐熱性、耐溶剤性、機械的特性とイオン伝導特性を両立させる点で劣り、高分子電解質膜などに使用するには不適であった。
また、スルホン酸基よりは耐熱性に優れると考えられるホスホン酸基を有する芳香族ポリマーについて、固体高分子電解質としての応用という視点から着目したものはあまりみられないが、4,4’−(2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチリデン)ビス(2−アミノフェノール)からなるポリベンズオキサゾールにおいて、ジカルボン酸成分の5〜50%を3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸とするポリマーが報告されており(特許文献2)、溶解性の良さと複合材料としての可能性に着目しているが、燃料電池用途の固体高分子電解質としては考慮されることはなかった。実際、このポリマーはアルコール溶解性が特徴であり、メタノールを燃料とする燃料電池用の固体高分子電解質として使用することに適さないことは明白である。また、イオン伝導性も低い値しか示さないことからも、燃料電池用の固体高分子電解質には適さないと言える。
最近、スルホン酸基やホスホン酸基が含有するポリベンズイミダゾール系ポリマーによる高分子電解質膜の報告がみられる(例えば、特許文献3)。これらのポリマーは80℃付近でのプロトン伝導性はさほど大きくないが、高温での伝導性発現が期待される物である。しかし、酸性基としてスルホン酸基を導入した構造のポリマーは有機溶媒への溶解性がよいので加工性に優れるものの、プロトン伝導性があまり高くならない傾向がある。一方、酸性基としてホスホン酸基を導入した構造のポリマーは、酸性基量を増やすことでプロトン伝導性を高くできる傾向がうかがえるが、同時に有機溶媒への溶解性が低下してしまう傾向がある。このため、酸性基含有ポリベンズイミダゾール系ポリマーが基本的に有する優れた安定性を活かして、さらにプロトン伝導性を発現する手法として、酸性化合物や酸性基含有ポリマーとの組成物にする手法も報告されているが(例えば、特許文献4,5)、上述のようなポリベンズイミダゾール系ポリマーが持つ加工性とプロトン伝導性の相反する傾向を両立することにはならないので、プロトン伝導性を犠牲にして加工性のよりポリマー構造を選定するか、加工性を犠牲にしてプロトン伝導性のポテンシャルが高い構造を選定することが必要であった。
USP−5312895号公報 USP5,498,784号公報 国際特許公開番号WO02−38650 特開2003−327,825号公報 特開2003−327,826号公報 ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス(Journal of Polymer Science Polymer Chemistry、1977年、15巻、P.1309
本発明の目的は、高温使用可能な高分子電解質膜として期待される酸性基含有ポリベンズイミダゾール系化合物において、有機溶媒への溶解性を有していることで優れた加工性を示すとともにプロトン伝導性においても高い特性を示すことのできる酸性基含有ポリベンズイミダゾール系化合物を提供することである。
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の芳香環上にスルホン酸基およびホスホン酸基を特定の割合で有するポリベンズイミダゾール系化合物により、上記目的が達成されることを見いだすに至った。
すなわち本発明は、下記(1)〜(11)により達成される。
(1)下記の式(1)で示される構成成分と下記の式(2)示される構成成分を60:40〜80:20のモル比で含む共重合体を含むことを特徴とするポリベンズイミダゾール系化合物。
Figure 0004470099
Figure 0004470099
ただし、式(1)においては、m1は1から4の整数を表し、R1はイミダゾール環を形成できる4価の芳香族結合ユニットを、R2はポリマー鎖を形成する2価の芳香族結合ユニットを表し、R1およびR2はいずれも芳香環の単環であっても複数の芳香環の結合体あるいは縮合環であっても良く、安定な置換基を有していても良い。Xはホスホン酸基を、Yはスルホン酸基を表し、それらの一部が塩構造となっていても良い。
(2)下記の式(3)で示される構成成分と下記の式(4)で示される構成成分を60:40〜80:20のモル比で含む共重合体を含むことを特徴とする第1の発明に記載のポリベンズイミダゾール系化合物。
Figure 0004470099
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ただし、式(3)および式(4)においては、m2は1から4の整数を表し、Arはポリマー鎖を形成する2価の芳香族結合ユニットを表し、Zは直接結合、−O−、−SO2−、−S−、−CH2−、−C(CH32−、−C(CF32−、−OPhO−より群から選ばれる1種以上であり、Phは2価の芳香族結合ユニットを表すものとする。
(3)第1の発明に記載の化合物を50〜100質量%含むことを特徴とする組成物。
(4)酸性基含有化合物を含むことを特徴とする第3の発明に記載の組成物。
(5)酸性基含有ポリマーを含むことを特徴とする第3の発明に記載の組成物。
(6)第1の発明に記載の化合物を含有することを特徴とするイオン伝導膜。
(7)第6の発明に記載のイオン伝導膜と電極とを含有することを特徴とする複合体。
(8)第7の発明に記載の複合体を含有することを特徴とする燃料電池。
(9)第1の発明に記載の化合物を含有することを特徴とする接着剤。
(10)第1の発明に記載の化合物と溶剤とを含有する溶液を、キャスト厚が10〜1000μmの範囲となるようにキャストする工程と、キャストした溶液を乾燥させる工程とを含むことを特徴とする第6の発明に記載のイオン伝導膜の製造方法。
(11)使用する溶剤がN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドから選ばれることを特徴とする第10の発明に記載のイオン伝導膜の製造方法。
本発明の酸性基含有ポリベンズイミダゾールは、優れた加工性と高いプロトン伝導性を兼ね備えた高分子電解質膜となる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における酸性基含有ポリベンズイミダゾール系化合物は、下記の式(1)で示される構成成分と下記の式(2)で示される構成成分を含んでいることを特徴としている。
Figure 0004470099
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ただし、式(1)においては、m1は1から4の整数を表す。m1が0であるユニットは十分なプロトン伝導性を示す能力が無く、m1が5以上であるユニットはポリマーの耐水性を低下させてしまうためである。ただし、上記(1)、(2)のユニットを含む構造であれば、部分的にm1が0や5以上のユニットが共存していても問題はない。また、R1はイミダゾール環を形成できる4価の芳香族結合ユニットを、R2はポリマー鎖を形成する2価の芳香族結合ユニットを表し、R1およびR2はいずれも芳香環の単環であっても複数の芳香環の結合体あるいは縮合環であっても良く、安定な置換基を有していても良い。Xはホスホン酸基を、Yはスルホン酸基を表し、それらの一部が塩構造となっていても良い。具体的な塩構造としてはとしては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩の他、各種金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などをあげることができるが、これらに限定されることはない。
本発明において上記の式(1)と上記の式(2)の存在比が60:40〜80:20のモル比でであることにより、加工性とプロトン伝導性共に優れた性能を示すことができる。式(1)の存在比が60モル%よりも少ない場合には、プロトン伝導性が十分に高くならない傾向があり、式(1)の存在比が80モル%よりも多い場合には、ポリマーの有機溶媒への溶解性が悪くなる傾向がある。上記の式(1)と上記の式(2)の存在比は、65:35〜75:25の範囲であることがより好ましい。
上記の式(1)および上記の式(2)で示す構造を含む本発明の酸性基含有ポリベンズイミダゾール系化合物を合成する経路は特には限定されないが、通常は化合物中のイミダゾール環を形成し得る芳香族テトラミン類およびそれらの誘導体よりなる群から選ばれる一種以上の化合物と、芳香族ジカルボン酸およびその誘導体よりなる群から選ばれる一種以上の化合物との反応により合成することができる。その際、使用するジカルボン酸の中にスルホン酸基やホスホン酸基、またはそれらの塩を含有するジカルボン酸を使用することで、得られるポリベンズイミダゾール中にスルホン酸基およびホスホン酸基を導入することができる。スルホン酸基やホスホン酸基を含むジカルボン酸はそれぞれ一種以上組み合わせて使用することが出来る。
ここで、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物の構成要素であるベンズイミダゾール系結合ユニットや、スルホン酸基および/またはホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸結合ユニットや、スルホン酸基もホスホン酸基も有さない芳香族ジカルボン酸結合ユニットや、その他の結合ユニットは、ランダム重合および/または交互的重合により結合していることが好ましい。また、これらの重合形式は一種に限られず、二種以上の重合形式が同一の化合物中で並存していてもよい。
上記の式(1)で示される構成成分と上記の式(2)で示される構成成分を含むポリベンズイミダゾール系化合物のうち、下記の式(3)で示される構成成分と下記の式(4)で示される構成成分を結合ユニットを60:40〜80:20のモル比で含む共重合体を含むものが特に好ましい。
Figure 0004470099
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ただし、式(3)および式(4)においては、m2は1から4の整数を表す。m1が0であるユニットは十分なプロトン伝導性を示す能力が無く、m1が5以上であるユニットはポリマーの耐水性を低下させてしまうためである。ただし、上記(1)、(2)のユニットを含む構造であれば、部分的にm1が0や5以上のユニットが共存していても問題はない。Arは2価の芳香族結合ユニットを表し、Zは直接結合、−O−、−SO2−、−S−、−CH2−、−C(CH32−、−C(CF32−、−OPhO−より群から選ばれる1種以上であり、Phは2価の芳香族結合ユニットを表すものとする。
本発明において上記の式(1)と上記の式(2)の存在比が60:40〜80:20のモル比でであることにより、加工性とプロトン伝導性共に優れた性能を示すことができる。式(1)の存在比が60モル%よりも少ない場合には、プロトン伝導性が十分に高くならない傾向があり、式(1)の存在比が80モル%よりも多い場合には、ポリマーの有機溶媒への溶解性が悪くなる傾向がある。上記の式(1)と上記の式(2)の存在比は、65:35〜75:25の範囲であることがより好ましい。
上記の式(2)で示される構成成分を含むスルホン酸基含有ポリベンズイミダゾール構造を与える芳香族テトラミンの具体例としては、特に限定されるものではないが、たとえば、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン、3,3’−ジアミノベンジジン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルチオエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジアミノフェニル)メタン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼン、などおよびこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、式(4)で表される結合ユニットを形成することができる、3,3’−ジアミノベンジジン,3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼンおよびこれらの誘導体が特に好ましい。
これらの芳香族テトラミン類の誘導体の具体例としては、塩酸、硫酸、リン酸などの酸との塩などを挙げることができる。また、これらの化合物は単独で使用してもよいが、同時に複数使用することもできる。さらに、これらの化合物は、必要に応じて塩化すず(II)や亜リン酸化合物などの公知の酸化防止剤を含んでいてもよい。
上述の式(2)の構造を与えるスルホン酸基含有ジカルボン酸は、芳香族系ジカルボン酸中に1個から4個のスルホン酸基を含有するものを選択することができるが、具体例としては、例えば、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸、2,5−ジカルボキシ−1,4−ベンゼンジスルホン酸、4,6−ジカルボキシ−1,3−ベンゼンジスルホン酸、2,2’−ジスルホ−4,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ジスルホ−4,4’−ビフェニルジカルボン酸、等のスルホン酸含有ジカルボン酸及びこれらの誘導体を挙げることができる。誘導体としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩や、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などをあげることができる。スルホン酸基含有ジカルボン酸の構造は特にこれらに限定されることはない。上述の式(1)におけるm1は、1から4の整数より選ばれる。m1が5以上であると、ポリマーの耐水性が低下する傾向が出てくるので好ましくない。
スルホン酸基を含有するジカルボン酸の純度は特に制限されるものではないが、98%以上が好ましく、99%以上がより好ましい。スルホン酸基を含有するジカルボン酸を原料として重合されたポリイミダゾールは、スルホン酸基を含有しないジカルボン酸を用いた場合に比べて、重合度が低くなる傾向が見られるため、スルホン酸基を含有するジカルボン酸はできるだけ純度が高いものを用いることが好ましい。スルホン酸基含有ジカルボン酸とともにスルホン酸基を含有しないジカルボン酸を使用する場合、スルホン酸基含有ジカルボン酸を全ジカルボン酸中の20モル%以上とすることでスルホン酸の効果を明確にすることができる。スルホン酸のきわだった効果を引き出すためには、50モル%以上であることがさらに好ましい。スルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の含有率が20モル%未満の場合には、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物の導電率が低下して固体高分子電解質の材料として適さないものとなる傾向がある。
上記の式(1)で示されるホスホン酸基含有ポリイミダゾール構造を与える芳香族テトラミンの具体例としては、特に限定されるものではないが、たとえば、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン、3,3’−ジアミノベンジジン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルチオエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジアミノフェニル)メタン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼン、などおよびこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、上記の式(3)で表される結合ユニットを形成することが出来る、3,3’−ジアミノベンジジン,3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルチオエーテル、ビス(3,4−ジアミノフェニル)メタン、1,4−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼンおよびこれらの誘導体が特に好ましい。
これらの芳香族テトラミン類の誘導体の具体例としては、塩酸、硫酸、リン酸などの酸との塩などを挙げることができる。また、これらの化合物は単独で使用してもよいが、同時に複数使用することもできる。さらに、これらの化合物は、必要に応じて塩化すず(II)や亜リン酸化合物などの公知の酸化防止剤を含んでいてもよい。
上記の式(1)で示されるホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物を合成する際に用いるホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸およびその誘導体としては、特に限定されるものではなく、芳香族ジカルボン酸骨格中に1個から4個のホスホン酸基を有する化合物を好適に使用することができる。具体例としては、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ビスホスホノテレフタル酸、4,6−ビスホスホノイソフタル酸などのホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸およびこれらの誘導体を挙げることができる。芳香族ジカルボン酸骨格中に5個以上のホスホン酸基を有すると、ポリマーの耐水性が低下する傾向が出てくるので好ましくない。
ここで、これらのホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸のホスホン酸誘導体としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩や、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などをあげることができる。また、これらの化合物は単独で使用してもよいが、同時に複数使用することもできる。さらに、これらの化合物は、必要に応じて塩化すず(II)や亜リン酸化合物などの公知の酸化防止剤を含んでいてもよい。
そして、ホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の構造はこれらに限定されることはないが、ここに示したようなフェニルホスホン酸基型のホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸が好ましい。
本発明のポリベンズイミダゾール系化合物の合成に用いる、ホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の純度は特に限定されるものではないが、97%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。ホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸を原料として重合されたポリベンズイミダゾール系化合物は、スルホン酸基およびホスホン酸基を有さない芳香族ジカルボン酸を原料として用いた場合に比べて、重合度が低くなる傾向が見られるため、ホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸はできるだけ純度が高いものを用いることが好ましい。すなわち、芳香族ジカルボン酸の純度が97%未満の場合には、得られるポリベンズイミダゾール系化合物の重合度が低下して固体高分子電解質の材料として適さないものとなる傾向がある。
上記のホスホン酸基とスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸を混合して使用することができるが、スルホン酸基およびホスホン酸基を含有しない芳香族ジカルボン酸とともに共重合反応することにより、本発明の酸性基を有するポリベンズイミダゾール系化合物を合成してもよい。この際使用できるスルホン酸基およびホスホン酸基を有さない芳香族ジカルボン酸としては、特に限定されるものではないが、たとえば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ターフェニルジカルボン酸、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどのポリエステル原料として報告されている一般的な芳香族ジカルボン酸を使用することができる。
また、これらの化合物は単独で使用してもよいが、同時に複数使用することもできる。さらに、これらの化合物は、必要に応じて塩化すず(II)や亜リン酸化合物などの公知の酸化防止剤を含んでいてもよい。
本発明のポリベンズイミダゾール系化合物の合成において、ホスホン酸基やスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸とともにスルホン酸基およびホスホン酸基を有さない芳香族ジカルボン酸を使用する場合、全芳香族ジカルボン酸中におけるホスホン酸基やスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の含有率を20モル%以上となるように配合することで、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物がホスホン酸基を有することによる優れた効果を明確にすることができる。また、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物のきわだった効果を引き出すためには、ホスホン酸基およびスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の含有率を50モル%以上となるように配合することがさらに好ましい。ホスホン酸基およびスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の含有率が20モル%未満の場合には、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物の導電率が低下して固体高分子電解質の材料として適さないものとなる傾向がある。
上述の芳香族テトラミン類およびそれらの誘導体よりなる群から選ばれる一種以上の化合物と、芳香族ジカルボン酸およびその誘導体よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを用いて、スルホン酸基および/またはホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物を合成する方法は、特に限定されるものではないが、たとえば、J.F.Wolfe,Encyclopedia of Polymer Science and Engineering,2nd Ed.,Vol.11,P.601(1988)に記載されるようなポリリン酸を溶媒とする脱水、環化重合により合成することができる。また、ポリリン酸のかわりにメタンスルホン酸/五酸化リン混合溶媒系を用いた同様の機構による重合を適用することもできる。なお、熱安定性の高いポリベンズイミダゾール系化合物を合成するには、一般によく使用されるポリリン酸を用いた重合が好ましい。
さらに、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物を得るには、たとえば、適当な有機溶媒中や混合原料モノマー融体の形での反応でポリアミド構造などを有する前駆体ポリマーを合成しておき、その後の適当な熱処理などによる環化反応で目的のポリベンズイミダゾール構造に変換する方法なども使用することができる。
また、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物を合成する際の反応時間は、個々の原料モノマーの組み合わせにより最適な反応時間があるので一概には規定できないが、従来報告されているような長時間をかけた反応では、スルホン酸基やホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸などの原料モノマーを含む系では、得られたポリベンズイミダゾール系化合物の熱安定性が低下してしまう場合もあり、この場合には反応時間を本発明の効果の得られる範囲で短くすることが好ましい。このように反応時間を短くすることにより、スルホン酸基およびホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物も熱安定性の高い状態で得ることができる。
そして、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物を合成する際の反応温度は、個々の原料モノマーの組み合わせにより最適な反応温度があるので一概には規定できないが、従来報告されているような高温による反応では、スルホン酸基やホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸などの原料モノマーを含む系では、得られたポリベンズイミダゾール系化合物へのスルホン酸基やホスホン酸基の導入量の制御が不能となる場合もあり、この場合には反応温度を本発明の効果の得られる範囲で低くすることが好ましい。このように反応温度を低くすることにより、酸性基の量が多いポリベンズイミダゾール系化合物へのスルホン酸基やホスホン酸基の導入量の制御を可能とすることができる。
また、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物の合成後においては繰り返し単位を構成することになる原料モノマーが複数の種類からなる場合には、該繰返し単位同士はランダム重合および/または交互的重合により結合していることで、高分子電解質膜の材料として安定した性能を示す特徴を持つ。ここで、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物をランダム重合および/または交互的重合の重合形式により合成するには、すべてのモノマー原料を重合初期から当量性を合わせた配合割合で仕込んでおく方法で作ることが好ましい。
なお、ポリベンズイミダゾール系化合物をランダム重合や交互的重合ではなくブロック重合により合成することもできるが、その際には、当量性をずらした配合割合のモノマー原料の仕込み条件で第一成分のオリゴマーを合成し、さらにモノマー原料を追加して第二成分も含めて当量性が合う形に配合割合を調整した上で重合を行なうことが好ましい。
本発明のスルホン酸基およびホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物の分子量は、特に限定されるものではないが、1,000以上であることが好ましく、3,000以上であればより好ましい。また、この分子量は1,000,000以下であることが好ましく、200,000以下であればより好ましい。この分子量が1,000未満の場合には、粘度の低下によりポリベンズイミダゾール系化合物から良好な性質を備えた成形物を得ることが困難となる。また、この分子量が1,000,000を超えると粘度の上昇によりポリベンズイミダゾール系化合物を成形することが困難になる。また、本発明のスルホン酸基およびホスホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物の分子量は、実質的にはメタンスルホン酸中で測定した場合の対数粘度で評価することができる。そして、この対数粘度は0.25以上であることが好ましく、特に0.40以上であればより好ましい。また、この対数粘度は10以下であることが好ましく、特に8以下であればより好ましい。この対数粘度が0.25未満の場合には、粘度の低下によりポリベンズイミダゾール系化合物から良好な性質を備えた成形物を得ることが困難となる。また、この分子量が10を超えると粘度の上昇によりポリベンズイミダゾール系化合物を成形することが困難になる。
本発明の酸性基を有するポリベンズイミダゾール系化合物は、樹脂組成物中に主成分として配合されていても好適に使用することができる。樹脂組成物として本発明の酸性基含有ポリベンズイミダゾールとともに使用できるポリマーとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン12などのポリアミド類、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル類、ポリメチルアクリレート、ポリアクリル酸エステル類などのアクリレート系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやジエン系ポリマーを含む各種ポリオレフィン、ポリウレタン系樹脂、酢酸セルロース、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリアリレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾールなどの芳香族系ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂等、特に制限はない。これら樹脂組成物として使用する場合には、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物は、樹脂組成物全体の50重量%以上100重量%未満含まれていることが好ましい。より好ましくは70重量%以上100重量%未満である。本発明のポリベンズイミダゾール系化合物の含有量が樹脂組成物全体の50重量%未満の場合には、この樹脂組成物を含むイオン伝導膜の酸性基濃度が低くなり良好なイオン伝導性が得られない傾向にあり、また、酸性基を含有するユニットが非連続相となり伝導するイオンの移動度が低下する傾向にある。なお、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物およびその組成物は、必要に応じて、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤、などの各種添加剤を含んでいても良い。
本発明の酸性基含有ポリベンズイミダゾール化合物は、他の酸性基含有ポリマーとの樹脂組成物として使用することもできる。この際使用できる酸性基含有ポリマー化合物としては、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物との組成物としてフィルム形成能を有するものであり、そのポリマー中に、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基などの酸性基やそれらの誘導体を含んでいるものであれば特に構造が限定されるものではない。酸性基含有ポリマー中に含まれる酸性基量は、0.5〜4.0当量/kgであることが好ましい。酸性基量が0.5当量/kgよりも少ないと、十分高いイオン伝導特性を示さない傾向にあり、4.0当量/kgよりも多いと、含水時の膨潤が大きくなりすぎるため、高分子電解質膜として使用するのに適さなくなる。
本発明に使用される酸性基含有ポリマーの例として、下記の式(5)で表されるパーフルオロエチレン共重合体が挙げられる。
Figure 0004470099

この共重合体は、例えば、テトラフルオロエチレンと末端にスルホニルフルオライド基を有するパーフルオロビニルエーテルの共重合体を加水分解してスルホン酸基としたスルホン化ポリマー、あるいは、このスルホン酸基の一部または全部がカルボキシル基に置換された形のカルボキシル化ポリマーである。上記一般式(5)中、xは1〜30、yは10〜2,000、mは0〜10、nは1〜10の数であるものが好ましい。ここで、xが1未満では、水溶性となってしまう。一方、30を超えると、プロトン伝導度が低下する。また、yが10未満では、プロトン伝導度が低下する。一方、2,000を超えると、機械的強度が低下する。さらに、mが10を超えると、プロトン伝導度が低下する。さらに、nが5を超えると、プロトン伝導度が低下する。また、上記一般式(1)中、Pは、−SO3 Qまたは−COOQであり、ここで、Qは、水素原子またはナトリウムもしくはカリウムなどのアルカリ金属原子、4級アンモニウム、テトラアルキルアンモニウム等である。具体例としては、米国・デュポン社製のナフィオン、米国・ダウケミカル社製の通称Dow膜、旭化成工業(株)製のアシプレックス(Aciplex)、旭硝子(株)製のフレミオン(Flemion)などが挙げられる。
またこの他の酸性基含有ポリマーの例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリ(トリフルオロスチレン)スルホン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリビニルスルホン酸成分の少なくとも1種を含むアイオノマーが挙げられる。さらに、芳香族系のポリマーとして、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリフェニルキノキサリン、ポリアリールケトン、ポリエーテルケトン、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリイミド等の構成成分の少なくとも1種を含むポリマーに、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、およびそれらの誘導体の少なくとも1種が導入されているポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有しているポリマーの総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含むとともに、特定のポリマー構造に限定するものではない。
本発明の酸性基含有ポリベンズイミダゾール化合物は、無機および/または有機の酸性化合物を含む組成物として使用することもできる。ここで使用できる無機酸としては、リン酸、ポリリン酸、硫酸、硝酸、フッ酸、塩酸、臭化水素酸およびそれらの誘導体が挙げられる。また、有機酸としては、有機スルホン酸、有機ホスホン酸が使用される。有機スルホン酸の具体的な例としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、オクチルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、セチルスルホン酸、スルホコハク酸、スルホグルタル酸、スルホアジピン酸、スルホピメリン酸、スルホスベリン酸、スルホアゼライン酸、スルホセバシン酸を始めとするアルキルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロピルスルホン酸、等のパーフルオロアルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、1,3−ベンゼンジスルホン酸、トルエンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、2−メチル−5−イソプロピルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、クロロベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、トリクロロベンゼンスルホン酸、ニトロトルエンスルホン酸、ニトロベンゼンスルホン酸、スルホ安息香酸、等の芳香族スルホン酸、およびこれらの誘導体を挙げることができるが、これらに限定されることなく各種構造の有機スルホン酸を使用することが出来る。有機ホスホン酸の具体的な例としては、フェニルホスホン酸、1,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸等の芳香族系ホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸等の脂肪族系ホスホン酸、およびこれらの誘導体を挙げることができるが、これらに限定されることなく各種構造の有機ホスホン酸を使用することが出来る。
本発明の樹脂組成物に使用される無機酸および/または有機酸は、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物とともに混合して使用されるが、その使用割合はポリベンズイミダゾール系化合物中の窒素原子1モルに対して、無機酸および/または有機酸が0.1〜5モルである場合に、特に優れたイオン伝導特性を長期にわたって維持する特性を示す。0.1モルより使用割合が少ない場合は、イオン伝導度が十分に高い値を示さない傾向が現れ始め、5モルより使用割合が多い場合には、長期使用に伴いイオン伝導度の低下する割合が多くなる傾向が現れ始める。
本発明のポリベンズイミダゾール系化合物や本発明のポリベンズイミダゾール系化合物を含む組成物は、重合溶液、単離したポリマー、および再溶解させたポリマー溶液等から押し出し、紡糸、圧延、キャストなど任意の方法で繊維やフィルムに成形することができる。これらの成形過程の中では、適当な溶媒に溶解した溶液から成形することが好ましい。溶解する溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミドなど非プロトン極性溶媒や、ポリリン酸、メタンスルホン酸、硫酸、トリフルオロ酢酸などの強酸から適切なものを選ぶことができるがこれらに限定されるものではない。これらのうち、特に有機溶媒系から成形することが好ましい。特に本発明のポリベンズイミダゾールが良好に溶解するN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒として選定することが好ましい。これらの溶媒は、可能な範囲で複数を混合して使用してもよい。また、溶解性を向上させる手段として、臭化リチウム、塩化リチウム、塩化アルミニウムなどのルイス酸を有機溶媒に添加したものを溶媒としてもよい。溶液中のポリマー濃度は0.1〜50重量%の範囲であることが好ましい。低すぎると成形性が悪化し、高すぎると加工性が悪化する。
溶液から成形体を得る方法は公知の方法を用いることができる。例えば加熱、減圧乾燥、ポリマーを溶解する溶媒と混和できるポリマー非溶媒への浸漬などによって、溶媒を除去し本発明のポリベンズイミダゾールやそれを含む組成物の成形体を得ることができる。溶媒が有機溶媒の場合は、加熱又は減圧乾燥で溶媒を留去させることが好ましい。溶媒が強酸の場合には、水、メタノール、アセトンなどに浸漬することが好ましい。
本発明の酸性基含有ポリベンズイミダゾール系化合物やそれを含む組成物は、高温高湿下での寸法安定に優れているとともに、イオン伝導性にも優れており、フィルム、膜状にして燃料電池などのイオン交換膜として使用するのに適している。さらに、本発明の組成物は溶解性に優れていることから、本発明のイオン伝導膜と電極との接合体を作製するときのバインダー樹脂等の接着剤として利用することもできる。
本発明のポリベンズイミダゾール化合物とそれよりなる組成物を含む膜を成形する好ましい方法は、溶液からのキャストである。キャストした溶液から前記のように溶媒を除去して膜を得ることができる。溶媒の除去は、乾燥することが膜の均一性からは好ましい。また、ポリマーや溶媒の分解や変質をさけるため、減圧下でできるだけ低い温度で乾燥することもできる。キャストする基板には、ガラス板、テフロン(R)板、金属板、ポリマーシートなどを用いることができる。溶液の粘度が高い場合には、基板や溶液を加熱して高温でキャストすると溶液の粘度が低下して容易にキャストすることができる。キャストする際の溶液の厚みは特に制限されないが、10〜1000μmであることが好ましい。薄すぎると膜としての形態を保てなくなり、厚すぎると不均一な膜ができやすくなる。より好ましくは100〜500μmである。溶液のキャスト厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、アプリケーター、ドクターブレードなどを用いて一定の厚みにしたり、ガラスシャーレなどを用いてキャスト面積を一定にして溶液の量や濃度で厚みを制御することができる。キャストした溶液は、溶媒の除去速度を調整することでより均一な膜を得ることができる。例えば、加熱する場合には最初の段階では低温にして蒸発速度を下げたりすることができる。また、水などの非溶媒に浸漬する場合には、溶液を空気中や不活性ガス中に適当な時間放置しておくなどしてポリマーの凝固速度を調整することができる。本発明の膜は目的に応じて任意の膜厚にすることができるが、イオン伝導性の面からはできるだけ薄いことが好ましい。具体的には200μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、20μm以下であることが最も好ましい。
本発明のイオン伝導膜は、メタノールを燃料とするダイレクトメタノール型燃料電池にも有用であることが特徴である。平均厚さ50μmの膜を作製し、5Mメタノール水溶液を用いて25℃で測定したメタノール透過速度が7mmol/m2・sec以下の値を示すイオン伝導膜が好ましい(測定法については後述する)。メタノール透過速度は4mmol/m2・sec以下であればさらに好ましく、1mmol/m2・sec以下であればより好ましい。このようなメタノール透過性を示すときに特に優れた発電特性を示すためである。なお、膜厚が異なるとメタノール透過速度は一般に大きく異なる傾向を示す。このためメタノール透過性評価は平均厚み50μmの試料を作成して評価しているが、実際に燃料電池用イオン伝導膜として使用する際には、特に膜厚を限定しているわけではない。平均厚み50μmの膜とは、実質上は平均厚み48μmから平均厚み52μmの範囲に入っているものを示すものとする。
また、上述した本発明のイオン伝導膜またはフィルム等を電極に設置することによって、本発明のイオン伝導膜またはフィルム等と電極との接合体を得ることができる。この接合体の作製方法としては、従来から公知の方法を用いて行うことができ、例えば、電極表面に接着剤を塗布しイオン伝導膜と電極とを接着する方法またはイオン伝導膜と電極とを加熱加圧する方法等がある。
上述したイオン伝導膜またはフィルム等と電極との接合体を用いて、燃料電池を作製することもできる。本発明のイオン伝導膜またはフィルム等は、耐熱性、加工性、イオン伝導性および寸法安定性に優れているため、高温での運転にも耐えることができ、作製が容易で、良好な出力を有する燃料電池を提供することができる。また、メタノールを直接燃料とする燃料電池として使用することも好ましい。
以下本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。なお、各種測定は次のように行った。
溶液粘度:ポリベンズイミダゾール系化合物は、ポリマー粉末を0.5g/dlの濃度でメタンスルホン酸に溶解し、30℃の恒温槽中でオストワルド粘度計を用いて粘度測定を行い、対数粘度[ln(ta/tb)]/cで評価した(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度)。
TGA:島津製作所製熱重量測定計(TGA-50)を用い、アルゴン雰囲気中、昇温速度10℃/minで測定を行った(途中、150℃で30分保持して水分を十分除去する)。
イオン伝導性測定:自作測定用プローブ(テフロン(R)製)上で短冊状膜試料の表面に白金線(直径:0.2mm)を押しあて、80℃95%RHの恒温・恒湿オーブン(株式会社ナガノ科学機械製作所、LH−20−01)中に試料を保持し、白金線間のインピーダンスをSOLARTRON社1250FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定した。極間距離を変化させて測定し、極間距離とC−Cプロットから見積もられる抵抗測定値をプロットした勾配から以下の式により膜と白金線間の接触抵抗をキャンセルした導電率を算出した。
導電率[S/cm]=1/膜幅[cm]x膜厚[cm]x抵抗極間勾配[Ω/cm]
メタノール透過速度:イオン交換膜の液体燃料透過速度はメタノールの透過速度として、以下の方法で測定した。25℃に調整した5M(モル/リットル)のメタノール水溶液に24時間浸漬した平均厚み50μmのイオン交換膜(平均厚みが48μmから52μmの範囲に入っているものを平均厚み50μmの膜とする)をH型セルに挟み込み、セルの片側に100mlの5Mメタノール水溶液を、他方のセルに100mlの超純水(18MΩ・cm)を注入し、25℃で両側のセルを撹拌しながら、イオン交換膜を通って超純水中に拡散してくるメタノール量をガスクロマトグラフを用いて測定することで算出した(イオン交換膜の面積は、2.0cm2)。
引張試験:常態での引張試験は東洋ボールドウィン製テンシロンUTMIIを、水中での引張試験は東洋ボールドウィン製テンシロンUTMIIIを用いて、大きさを揃えて切り出したフィルム片を用いて測定した。
実施例1
3,3’,4,4‘−テトラアミノジフェニルスルホン(略号:TAS)1.830g(6.575x10-3mole)、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸モノナトリウム(略号:STA、純度99%)0.529g(1.973x10-3mole)、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸(略号:DCP、純度98%)1.133g(4.602x10-3mole)、ポリリン酸(五酸化リン含量75%)24.98g、五酸化リン20.02gを重合容器に量り取る。窒素を流し、オイルバス上ゆっくり撹拌しながら100℃まで昇温 する。100℃で1時間保持した後、150℃に昇温 して1時間、200℃に昇温 して5時間重合した。重合終了後放冷し、水を加えて重合物を取り出し、家庭用ミキサーを用いてpH試験紙中性になるまで水洗を繰り返した。得られたポリマーは80℃で終夜減圧乾燥した。ポリマーの対数粘度は、1.15を示した。本酸性基含有ポリベンズイミダゾールポリマーをTSP70と称する。
得られたポリマー1gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)10gにオイルバス上で溶解し、ホットプレート上ガラス板にキャストし、フィルム状になるまでNMPを留去した後、水中に一晩以上浸漬した。得られたフィルムは、希硫酸(濃硫酸6ml、水300ml)中で1時間沸騰水処理して塩をはずした後、純水でさらに1時間煮沸することで酸成分を除去した。得られたフィルムのIRスペクトルを図1に示す。本フィルムのイオン伝導性を測定したところ、0.0055S/cmの値を示し、メタノール透過速度は1.7mmol/m2・secを示した。本フィルムの熱重量測定による3%重量減少温度(200℃での試料重量を基準にして測定)は460℃であった。1cm角に切り出した本フィルムを100℃熱水に1時間浸漬したが、フィルム形態は良好に保持されていた。また、本フィルムの引張り試験を行ったところ、弾性率、強度、伸度は、常態では3.1GPa、63MPa、4%、水中では240MPa、11MPa、11%であった。
実施例2
実施例1において、STAとDCPの混合比を変えて共重合体を合成した。実施例1と同様の手法で評価した結果を表1に示す。
比較例1
実施例1において、STAとDCPの混合比を変えて共重合体を合成した。実施例1と同様の手法で評価した結果を表1に示す。
Figure 0004470099
比較例2
実施例1において、STAのかわりにテレフタル酸(略号:TPA)を用い、DCP:TPA=100:0、85:15、66:34のポリマーを合成した(得られたポリマーは、それぞれTTP100、TTP85,TTP66と略す)。対数粘度は、それぞれ0.90、0.48、0.83であった。各ポリマーをNMPと共に加熱して溶解を試みたが、TTP66以外は溶解しなかった。NMPに溶解したTTP66は、実施例1と同様にして製膜したが、得られたフィルムの導電率は0.00007S/cmであった。TTP100をベンジルアルコールにテトラメチルアンモニウムクロリドを添加した溶媒に溶かすことでフィルムを作製した。得られた均一性にやや劣るフィルムは実施例1で得られたフィルムと同様の硫酸水溶液処理以降の工程を実施し、導電率を測定したところ0.004S/cmの値を示した。
比較例3
実施例1において、DCPを用いずSTAのみでポリマーを合成した。得られたポリマーはNMPに可溶で、良好なキャストフィルムを作製することができたが、導電率は0.0001S/cmであった。
実施例3
実施例1において、TAS1.830g(6.575x10-3mole)のかわりに、TAS1.464g(5.260x10-3mole)、3,3’−ジアミノベンジジン0.281g(1.312x10-3mole)を用いてポリマーを合成した。得られたポリマーはNMP溶液から良好に製膜でき、導電率は0.0028を示した。
実施例4
実施例1で得られたフィルムを、40%リン酸水溶液に5時間浸漬後、メタノールで洗浄し、80℃で減圧乾燥したところ、ポリマー中の窒素原子あたり1.9個のリン酸が含浸されたフィルムを得ることが出来た。このフィルムの導電率はは0.02S/cmを示した。
実施例5
3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩(略号:S−DCDPS)4.5199g(0.00920mole)、2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN)4.3108g(0.01501mole)、4,4’−ビフェノール4.5086g(0.02421mole)、炭酸カリウム3.8484g(0.02784mole)、モレキュラーシーブ2.61gを100ml四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。35mlのNMPを入れて、150℃で一時間撹拌した後、反応温度を195−200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた(約5時間)。放冷の後、沈降しているモレキュラーシーブを除いて水中にストランド状に沈殿させた。得られたポリマーは、沸騰水中で1時間洗浄した後、乾燥した。ポリマーの対数粘度は1.12を示した。ポリマー4gをNMP10gに溶解し、実施例1で得られたポリマー1gを10gのNMPに溶解した溶液と混合した。得られた混合液は、ホットプレート上ガラス板に約200μm厚にキャストし、フィルム状になるまでNMPを留去した後、水中に一晩以上浸漬した。得られたフィルムは、希硫酸(濃硫酸6ml、水300ml)中で1時間沸騰水処理して塩をはずした後、純水でさらに1時間煮沸することで酸成分を除去した。本フィルムのイオン伝導性を測定したところ、0.039S/cmの値を示した。1cm角に切り出した本フィルムを100℃熱水に1時間浸漬したが、フィルム形態は良好に保持されていた。
本発明のポリベンズイミダゾール系化合物により、イオン伝導性とともに加工性の良さを両立しながら、耐熱性、加工性、機械特性、寸法安定性および物質透過抑制性に優れた、高分子電解質材料を提供することができる。これらは、イオン伝導膜として、水素やメタノールを原料として使用する燃料電池や水電解槽に使うことができるが、各種電池用電解質、表示素子、センサー、バインダー類、添加剤などとして利用することも期待される。
実施例1で得られたフィルムのIRスペクトルである。

Claims (11)

  1. 下記の式(1)で示される構成成分と下記の式(2)示される構成成分を含むポリベンズイミダゾール共重合体で、式(1)で示される構成成分と式(2)で示される構成成分の量比が60:40〜80:20のモル比であることを特徴とするポリベンズイミダゾール系共重合体
    Figure 0004470099
    Figure 0004470099
    ただし、式(1)においては、m1は1から4の整数を表し、R1はイミダゾール環を形成できる4価の芳香族結合ユニットを、R2はポリマー鎖を形成する2価の芳香族結合ユニットを表し、R1およびR2はいずれも芳香環の単環であっても複数の芳香環の結合体あるいは縮合環であっても良く、安定な置換基を有していても良い。Xはホスホン酸基を、Yはスルホン酸基を表し、それらの一部が塩構造となっていても良い。
  2. 下記の式(3)で示される構成成分と下記の式(4)で示される構成成分を60:40〜80:20のモル比で含む ことを特徴とする請求項1に記載のポリベンズイミダゾール系共重合体
    Figure 0004470099
    Figure 0004470099
    ただし、式(3)および式(4)においては、m2は1から4の整数を表し、Arはポリマー鎖を形成する2価の芳香族結合ユニットを表し、Zは直接結合、−O−、−SO2−、−S−、−CH2−、−C(CH32−、−C(CF32−、−OPhO−より群から選ばれる1種以上であり、Phは2価の芳香族結合ユニットを表すものとする。
  3. 請求項1に記載の共重合体を50〜100質量%含むことを特徴とする組成物。
  4. 酸性基含有化合物を含むことを特徴とする請求項3に記載の組成物。
  5. 酸性基含有ポリマーを含むことを特徴とする請求項3に記載の組成物。
  6. 請求項1に記載の共重合体を含有することを特徴とするイオン伝導膜。
  7. 請求項6に記載のイオン伝導膜と電極とを含有することを特徴とする複合体。
  8. 請求項7に記載の複合体を含有することを特徴とする燃料電池。
  9. 請求項1に記載の共重合体を含有することを特徴とする接着剤。
  10. 請求項1に記載の共重合体と溶剤とを含有する溶液を、キャスト厚が10〜1000μmの範囲となるようにキャストする工程と、キャストした溶液を乾燥させる工程とを含むことを特徴とする請求項6に記載のイオン伝導膜の製造方法。
  11. 使用する溶剤がN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドから選ばれることを特徴とする請求項10に記載のイオン伝導膜の製造方法。
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