JP4697385B2 - イオン交換膜、膜/電極接合体、燃料電池 - Google Patents

イオン交換膜、膜/電極接合体、燃料電池 Download PDF

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Description

本発明は、直接メタノール型燃料電池に適したイオン交換膜、直接メタノール型燃料電池として特性に優れる膜 /電極接合体及び燃料電池に関する。
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも高分子固体電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有するため、電気自動車や分散発電などの電源装置としての開発が進んできている。固体高分子形燃料電池の中でも、燃料としてメタノールを直接供給するダイレクトメタノール形燃料電池は、特に小型化が可能であるためパーソナルコンピューターや携帯機器の電源などの用途に向けた開発が進んでいる。
高分子固体電解質膜には通常プロトン伝導性のイオン交換樹脂を含む膜が使用される。高分子固体電解質膜にはプロトン伝導性以外にも、燃料の水素などの透過を防ぐ燃料透過抑止性や機械的強度などの特性が必要である。このような高分子固体電解質膜としては、例えば米国デュポン社製ナフィオン(登録商標)に代表されるようなスルホン酸基を導入したパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む膜が知られている。
ダイレクトメタノール形燃料電池はメタノール水溶液を燃料として用いるが、メタノールが膜を透過して空気極に移行すると出力の低下を起こす。そのためメタノール透過性の大きいパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー膜をダイレクトメタノール形燃料電池に用いる場合、高濃度のメタノール水溶液を用いるとメタノールの透過量が大きくなり、出力の低下が著しいという問題があった。そこで、メタノールの透過性が小さい非パーフルオロカーボンスルホン酸系のイオン交換膜が検討されている。(例えば特許文献1〜3参照)
特開2003−288916号公報 特開2003−331868号公報 米国特許出願公開第2002/0091225号明細書
しかしながら、これらの炭化水素系イオン交換膜は、パーフルオロカーボンスルホン酸系イオン交換膜よりもメタノール透過性は小さくなるものの、燃料電池としたときの性能は十分といえるものではなく、さらに優れたイオン交換膜が求められている。
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、ダイレクトメタノール形燃料電池に適したイオン交換膜及び膜/電極接合体、及び性能の優れるダイレクトメタノール形燃料電池の提供を課題とするものである。
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、ついに本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、
(1) 25℃における5mol/Lのメタノール水溶液に対するメタノール透過速度(M)及び透過係数(C)、イオン交換容量(I)、並びに80℃、相対湿度95%RHにおけるプロトン伝導性(σ)が、以下の数式(1)〜(4)を満たし、化学式(4)とともに化学式(5)で示される構成成分を含むポリアリーレンエーテル系化合物からなる
ことを特徴とするイオン交換膜。
M≦3.0 数式(1)
C<0.065×(I^3) 数式(2)
σ≧0.02×(I^3) 数式(3)
1≦I≦2.3 数式(4)
M:濃度が5mol/Lのメタノール水溶液に対する25℃でのメタノール透過速度
(mmol・m-2・sec-1)
C:濃度が5mol/Lのメタノール水溶液に対する25℃でのメタノール透過係数
(mmol・m-1・sec-1)
I:イオン交換容量(meq/g)
σ:80℃、相対湿度95%RHにおける導電率(S/cm)
Figure 0004697385
化学式(4)
Figure 0004697385
化学式(5)
ただし、XはH又は1価のカチオン種を示す。
(2) (1) に記載のイオン交換膜を用いた膜/電極接合体。
(3) (1)〜(2)のいずれかに記載のイオン交換膜を用いた燃料電池。
(4) メタノールを燃料とすることを特徴とする(3)に記載の燃料電池。
である。
本発明によるイオン交換膜は、ダイレクトメタノール形燃料電池に用いた場合に、高濃度のメタノール水溶液を燃料として用いて出力の低下が小さいという利点を有している。そのため、本発明のイオン交換膜を用いた燃料電池によって、エネルギーの利用効率をより高めることが可能になる。
以下、本発明を詳細に説明する。
イオン交換膜の特性の中でも燃料電池の性能に大きく影響するものとして、イオン交換容量、メタノール透過速度、メタノール透過係数、プロトン伝導性を挙げることができる。これらの特性は複雑に関連しており、ポリマー構造や膜の厚みなど様々な要因が関係している。本発明者らが鋭意研究した結果、優れた特性を有するダイレクトメタノール形燃料電池を得るためには、上記の四つの特性が特定の関係を満たすイオン交換膜を用いることが有効であることが分かった。
まず、25℃における5mol/Lのメタノール水溶液に対するメタノール透過速度Mは、3mmol・m−2・sec−1以下であることが必要である。これよりも大きければ膜を透過するメタノールによる電位の低下が著しくなり出力が低下するとともに、発電反応の寄与しないメタノール量が増大しエネルギー変換効率が低下してしまう。Mは、2mmol・m−2・sec−1以下であることがより好ましく、1.5mmol・m−2・sec−1以下であることがさらに好ましい。
次に25℃における5mol/Lのメタノール水溶液に対するメタノール透過係数Cは数式(2)の関係を満たす必要がある。メタノール透過速度は、メタノール透過係数と膜厚によって決まるが、透過係数が数式(2)の右辺よりも小さくない大きいと、必要なメタノール阻止性能を得るために膜厚を著しく大きくする必要が生じ、製造が著しく困難になってしまう。また、80℃、相対湿度95RH%における導電率で表されるプロトン伝導性σは、数式(3)の右辺よりも大きくないと、膜の抵抗が増大し出力低下の原因となる。メタノール透過係数Cとプロトン伝導性σは、いずれもイオン交換容量Iが大きくなるとそれぞれ大きくなるため、C、σ、Iが式(2)及び(3)を同時に満たす膜によって、燃料電池として優れた特性を得ることができる。また、このような特性を有する膜であるためには、イオン交換容量Iは式(4)の範囲であることが必要である。Iが1meq/gよりも小さいと、メタノール透過性を抑制できるが、プロトン伝導性が低下して大きな出力を得ることができなくなる。また、Iが2.3meq/gよりも大きいとプロトン伝導性は大きくなるものの、膜が水溶性になったり、膨潤が著しくなったりして、イオン交換膜としての使用が困難になる場合がある。Iは、1.2〜2.2meq/gの範囲 であることが好ましく、1.4〜2.0meq/gの範囲であることがさらに好ましい。このように出力の向上とメタノール透過の抑制性は相反する課題であるが、本発明の範囲内にあるイオン交換膜は、特性のバランスが取れており、燃料電池のイオン交換膜として好適に用いることができ、特にダイレクトメタノール形燃料電池に適している。
本発明のイオン交換膜を構成するポリマーの例としては、 芳香族系のポリマーとして、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン 等の構成成分の少なくとも1種を含むポリマーに、スルホン酸基、 及びそれらの誘導体の少なくとも1種が導入されているポリマーの中で、特性が数式(1)〜(4)を満たすものを挙げることができる。なお、ここでいうポリスルホン、ポエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有しているポリマーの総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含む
上記のポリマーのうち、芳香環上にスルホン酸基を持つポリマーは、上記例のような骨格を持つポリマーに対して適当なスルホン化剤を反応させることにより得ることができる。このようなスルホン化剤としては、例えば、芳香族環含有ポリマーにスルホン酸基を導入する例として報告されている、濃硫酸や発煙硫酸を使用するもの(例えば、Solid State Ionics,106,P.219(1998))、クロル硫酸を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.295(1984))、無水硫酸錯体を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.721(1984)、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,23,P.1231(1985))等が有効である。本発明のスルホン酸基含有芳香族ポリアリーレンエーテル化合物を得るためには、これらの試薬を用い、それぞれのポリマーに応じた反応条件を選定することにより実施することができる。また、特許第2884189号に記載のスルホン化剤等を用いることも可能である。
また、上記のポリマーは、重合に用いるモノマーの中の少なくとも1種に酸性基を含むモノマーを用いて合成することもできる。 芳香族ジハライドと芳香族ジオールから合成されるポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンなどは、モノマーの少なくとも1種にスルホン酸基含有芳香族ジハライドやスルホン酸基含有芳香族ジオールを用いることで合成することができる。この際、スルホン酸基含有ジオールを用いるよりも、スルホン酸基含有ジハライドを用いる方が、重合度が高くなりやすいとともに、得られた酸性基含有ポリマーの熱安定性が高くなるので好ましいといえる。
本発明におけるポリマーは、スルホン酸基含有ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリエーテルケトン系ポリマーなどのポリアリーレンエーテル系化合物である
さらに本発明におけるイオン交換膜を構成する材料として特に適しているポリマーとして、これらのポリアリーレンエーテル系化合物のうち、化学式(4)とともに化学式(5)で示される構成成分を含むものを挙げることができる。
また、本発明におけるポリアリーレンエーテル系化合物においては化学式(4)及び化学式(5)で示される以外の構造単位が含まれていてもかまわない。このとき、化学式(4)又は化学式(5)で示される以外の構造単位は本発明におけるポリアリーレンエーテルの50重量%以下であることが好ましい。50質量%以下とすることにより、本発明におけるポリアリーレンエーテル系化合物の特性を活かした組成物とすることができる。
本発明におけるポリアリーレンエーテル系化合物においては、化学式(4)で表される構造単位は全体の10〜60モル%の範囲にあることが好ましく、さらに20〜50モル%であることがさらに好ましい。10モル%よりも小さいとプロトン伝導性が小さくなりすぎて好ましくなく、50モル%よりも大きいと水溶性を示したり膨潤性が大きくなりすぎたりして好ましくない。
本発明におけるポリアリーレンエーテル系化合物としては、化学式(4)とともに化学式(5)で示される構成成分を含む 。ビフェニレン構造を有していることによりメタノールやその水溶液中での寸法安定性や、メタノールの透過抑止性能に優れるとともに、フィルムの強靱性も高いものとなる。
Figure 0004697385
化学式(4)

Figure 0004697385
化学式(5)
ただし、XはH又は1価のカチオン種を示す。
本発明における化学式(4)及び化学式(5)で表される構造単位からなるポリアリーレンエーテル系化合物においては、化学式(4)で表される構造単位は全体の18〜58モル%の範囲にあることが好ましく、さらに20〜40モル%であることがさらに好ましい。10モル%よりも小さいとプロトン伝導性が小さくなりすぎて好ましくなく、58モル%よりも大きいと水溶性を示したり膨潤性が大きくなりすぎたりして好ましくない。
本発明におけるポリアリーレンエーテル系化合物は、化学式(6)及び化学式(7)で表される化合物をモノマーとして含む芳香族求核置換反応により重合することができる。化学式(6)で表される化合物の具体例としては、3,3'−ジスルホ−4,4'−ジクロロジフェニルスルホン、 3,3'−ジスルホ−4,4'−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3'−ジスルホ−4,4'−ジフルオロジフェニルスルホン、及びそれらのスルホン酸基が1価カチオン種との塩になったもの等が挙げられる。1価カチオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに制限される訳ではない。化学式(7)で表される化合物としては、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、 等を挙げることができる。
Figure 0004697385
化学式(6)
Figure 0004697385
化学式(7)
ただし、Yはスルホン基 、Xは1価のカチオン種、Zは塩素又はフッ素を示す。本発明において、上記2,6−ジクロロベンゾニトリル は、 良好なイオン伝導性、耐熱性、加工性及び寸法安定性を達成することができる。その理由としては 反応性に優れるとともに、小さな繰り返し単位を構成することで分子全体の構造をより硬いものとしていると考えられている。
上述の芳香族求核置換反応において、化学式(6)、(7)で表される化合物とともに各種活性化ジフルオロ芳香族化合物やジクロロ芳香族化合物をモノマーとして併用することもできる。これらの化合物例としては、4,4'−ジクロロジフェニルスルホン、4,
4'−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4'−ジフルオロベンゾフェノン、4,4'−
ジクロロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル等が挙げられるがこれらに制限されることなく、芳香族求核置換反応に活性のある他の芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジニトロ化合物、芳香族ジシアノ化合物なども使用することができる。
本発明におけるポリアリーレンエーテル系化合物を芳香族求核置換反応により重合する場合、化学式(6)及び化学式(7)で表せる化合物を含む活性化ジフルオロ芳香族化合物及び/又はジクロロ芳香族化合物と芳香族ジオール類を塩基性化合物の存在下で反応させることで重合体を得ることができる。重合は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられるが、芳香族ジオール類を活性なフェノキシド構造にしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用することもできる。芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50重量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5重量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50重量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることによって、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。また副生する塩類を濾過によって取り除いてポリマー溶液を得ることもできる。
また、本発明におけるポリアリーレンエーテル系化合物は、後で述べる方法により測定したポリマー対数粘度が0.1以上であることが好ましい。対数粘度が0.1よりも小さいと、イオン交換膜として成形したときに、膜が脆くなりやすくなる。還元比粘度は、0.3以上であることがさらに好ましい。一方、還元比粘度が5を超えると、ポリマーの溶解が困難になるなど、加工性での問題が出てくるので好ましくない。なお、対数粘度を測定する溶媒としては、一般にN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒を使用することができるが、これらに溶解性が低い場合には濃硫酸を用いて測定することもできる。
本発明におけるイオン交換膜は任意の厚みにすることができるが、20μm以下だと所定の特性を満たすことが困難になるので20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、300μm以上になると製造が困難になるため、300μm以下であることが好ましい。
本発明におけるポリアリーレンエーテル系化合物は、単体として使用することができるが、他のポリマーとの組み合わせによる樹脂組成物として使用することもできる。これらのポリマーとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン12などのポリアミド類、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル類、ポリメチルアクリレート、ポリアクリル酸エステル類などのアクリレート系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやジエン系ポリマーを含む各種ポリオレフィン、ポリウレタン系樹脂、酢酸セルロース、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリアリレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾールなどの芳香族系ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂等、特に制限はない。ポリベンズイミダゾールやポリビニルピリジンなどの塩基性ポリマーとの樹脂組成物は、ポリマー寸法性の向上のために好ましい組み合わせといえる、これらの塩基性ポリマー中に、さらにスルホン酸基を導入しておくと、組成物の加工性がより好ましいものとなる。これら樹脂組成物として使用する場合には、本発明のスルホン酸基含有ポリアリーレンエーテル系化合物は、樹脂組成物全体の50質量%以上100質量%未満含まれていることが好ましい。より好ましくは70質量%以上100質量%未満である。本発明のスルホン酸基含有ポリアリーレンエーテル系化合物の含有量が樹脂組成物全体の50重量%未満の場合には、この樹脂組成物を含むイオン交換膜のスルホン酸基濃度が低くなり良好なイオン伝導性が得られない傾向にあり、また、スルホン酸基を含有するユニットが非連続相となり伝導するイオンの移動度が低下する傾向にある。なお、本発明の組成物は、必要に応じて、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤、などの各種添加剤を含んでいても良い。
本発明におけるポリアリーレンエーテル系化合物及びその樹脂組成物は、押し出し、圧延又はキャストなど任意の方法でイオン交換膜とすることができる。中でも適当な溶媒に溶解した溶液から成形することが好ましい。この溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミドなどの非プロトン性極性溶媒や、メタノール、エタノール等のアルコール類から適切なものを選ぶことができるがこれらに限定されるものではない。これらの溶媒は、可能な範囲で複数を混合して使用してもよい。溶液中の化合物濃度は0.1〜50重量%の範囲であることが好ましい。溶液中の化合物濃度が0.1重量%未満であると良好な成形物を得るのが困難となる傾向にあり、50重量%を超えると加工性が悪化する傾向にある。溶液から成形体を得る方法は従来から公知の方法を用いて行うことができる。例えば、加熱、減圧乾燥、化合物を溶解する溶媒と混和することができる化合物非溶媒への浸漬等によって、溶媒を除去し成形体を得ることができる。溶媒が、有機溶媒の場合には、加熱又は減圧乾燥によって溶媒を留去させることが好ましい。この際、必要に応じて他の化合物と複合された形で成形することもできる。溶解挙動が類似する化合物と組み合わせた場合には、良好な成形ができる点で好ましい。このようにして得られた成形体中のスルホン酸基はカチオン種との塩の形のものを含んでいても良いが、必要に応じて酸処理することによりフリーのスルホン酸基に変換することもできる。
本発明におけるポリアリーレンエーテル系化合物及びその樹脂組成物からイオン交換膜を成形する手法として最も好ましいのは、溶液からのキャストであり、キャストした溶液から上記のように溶媒を除去してイオン交換膜を得ることができる。当該溶液としてはN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒を用いた溶液や、場合によってはアルコール系溶媒等も挙げることができる。溶媒の除去は、乾燥によることがイオン交換膜の均一性からは好ましい。また、化合物や溶媒の分解や変質を避けるため、減圧下できるだけ低い温度で乾燥することもできる。また、溶液の粘度が高い場合には、基板や溶液を加熱して高温でキャストすると溶液の粘度が低下して容易にキャストすることができる。キャストする際の溶液の厚みは特に制限されないが、10〜2000μmであることが好ましい。より好ましくは50〜1500μmである。溶液の厚みが10μmよりも薄いとイオン交換膜としての形態を保てなくなる傾向にあり、2000μmよりも厚いと不均一な高分子電解質膜ができやすくなる傾向にある。溶液のキャスト厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、アプリケーター、ドクターブレードなどを用いて一定の厚みにしたり、ガラスシャーレなどを用いてキャスト面積を一定にして溶液の量や濃度で厚みを制御することができる。キャストした溶液は、溶媒の除去速度を調整することでより均一な膜を得ることができる。例えば、加熱する場合には最初の段階では低温にして蒸発速度を下げたりすることができる。また、水などの非溶媒に浸漬する場合には、溶液を空気中や不活性ガス中に適当な時間放置しておくなどして化合物の凝固速度を調整することができる。イオン交換膜として使用する場合、膜中のスルホン酸基は金属塩になっているものを含んでいても良いが、適当な酸処理によりフリーのスルホン酸に変換することもできる。この場合、硫酸、塩酸、等の水溶液中に加熱下あるいは加熱せずに膜を浸漬処理することで行うことも効果的である。
本発明の膜/電極接合体は、本発明のイオン交換膜を電極と接合することによって得ることができる。この接合体の作製方法としては、従来から公知の方法を用いて行うことができ、例えば、電極表面に接着剤を塗布しイオン交換膜と電極とを接着する方法又はイオン交換膜と電極とを加熱加圧する方法等がある。この中でも本発明におけるポリアリーレンエーテル系化合物及びその樹脂組成物を主成分とした接着剤を電極表面に塗布して接着する方法が好ましい。イオン交換膜と電極との接着性が向上し、また、イオン交換膜のプロトン伝導性を損なうことが少なくなると考えられるためである。
本発明の燃料電池は、本発明のイオン交換膜又は膜/電極接合体を用いて作製することができる。本発明のイオン交換膜は、メタノールを燃料とするダイレクトメタノール型燃料電池に適しているが、ジメチルエーテル、水素など他の物質を燃料として用いる燃料電池にも好適に用いることができ、電解膜、分離膜など、イオン交換膜として公知の任意の用途に用いることができる。
以下本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。なお、各種測定は次のように行った。
溶液粘度:ポリマー粉末を0.5g/dlの濃度でN−メチルピロリドンに溶解し、30℃の恒温槽中でウベローデ型粘度計を用いて粘度測定を行い、対数粘度ln[ta/tb]/c)で評価した(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度)。
導電率:自作測定用プローブ(テフロン(登録商標)製)上で短冊状膜試料の表面に白金線(直径:0.2mm)を押しあて、80℃、相対湿度95%の恒温・恒湿オーブン(株式会社ナガノ科学機械製作所、LH−20−01)中に試料を保持し、白金線間のインピーダンスをSOLARTRON社1250FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定した。極間距離を変化させて測定し、極間距離とC−Cプロットから見積もられる抵抗測定値をプロットした勾配から以下の式により膜と白金線間の接触抵抗をキャンセルした導電率を算出した。
導電率[S/cm]=1/膜幅[cm]×膜厚[cm]×抵抗極間勾配[Ω/cm]
メタノール透過速度(M):イオン交換膜の液体燃料透過速度はメタノールの透過速度として、以下の方法で測定した。25℃に調整した5M(モル/リットル)のメタノール水溶液に24時間浸漬したイオン交換膜をH型セルに挟み込み、セルの片側に100mlの5Mメタノール水溶液を、他方のセルに100mlの超純水(18MΩ・cm)を注入し、25℃で両側のセルを撹拌しながら、イオン交換膜を通って超純水中に拡散してくるメタノール量をガスクロマトグラフを用いて測定することで算出した(イオン交換膜の面積は、2.0cm2)。
メタノール透過係数(C):上記の方法で測定したメタノール透過速度と膜厚から以下の式により求めた。
メタノール透過係数[μmol・m−1・sec−1]=メタノール透過速度[mmol・m−2・sec−1]×膜厚[μm]×1000
発電評価:Pt/Ru触媒担持カーボン(田中貴金属工業株式会社TEC61E54)に少量の超純水及びイソプロピルアルコールを加えて湿らせた後、デュポン社製20%ナフィオン溶液(品番:SE−20192)を、Pt/Ru触媒担持カーボンとナフィオンの重量比が2.5:1になるように加えた。次いで撹拌してアノード用触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、ガス拡散層となる東レ製カーボンペーパーTGPH−060に白金の付着量が2mg/cm2になるようにスクリーン印刷により塗布乾燥して、アノード用電極触媒層付きカーボンペーパーを作製した。また、Pt触媒担持カーボン(田中貴金属工業株式会社TEC10V40E)に少量の超純水及びイソプロピルアルコールを加えて湿らせた後、デュポン社製20%ナフィオン溶液(品番:SE−20192)を、Pt触媒担持カーボンとナフィオンの重量比が2.5:1となるように加え、撹拌してカソード用触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、撥水加工を施した東レ製カーボンペーパーTGPH−060に白金の付着量が1mg/cm2となるように塗布・乾燥して、カソード用電極触媒層付きカーボンペーパーを作製した。上記2種類の電極触媒層付きカーボンペーパーの間に、膜試料を、電極触媒層が膜試料に接するように挟み、ホットプレス法により130℃、8MPaにて3分間加圧、加熱することにより、膜−電極接合体とした。この接合体をElectrochem社製評価用燃料電池セルFC25−02SPに組み込み、燃料電池発電試験機(株式会社東陽テクニカ製)を用いて発電試験を行った。発電は、セル温度40℃で、アノード及びカソードにそれぞれ40℃に調整した高純度酸素ガス(80ml/min)と、5又は10mol/Lのメタノール水溶液(1.5ml/min)とを供給しながら行った。電流密度が0.01A/cm2における出力電圧を用いて、メタノール水溶液の濃度を変えたときの出力低下を評価した。
イオン交換容量(I):100℃で1時間乾燥し、窒素雰囲気下室温で一晩放置した試料の重量をはかり、水酸化ナトリウム水溶液と撹拌処理した後、塩酸水溶液による逆滴定でイオン交換容量を求めた。
[実施例]
実施例1
3,3'−ジスルホ−4,4'−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩(略号:S−DCDPS)80.074g(0.163mol)、2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN)57.967g(0.337mol)、4,4'−ビフェノール93.
105g(0.500mol)、炭酸カリウム76.016g(0.550mol)、モレキュラーシーブ52.0gを2000ml四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。562mlのN−メチル−2−ピロリドン(略号:NMP)を入れて、150℃で30分撹拌した後、反応温度を195−200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた(約7時間)。放冷の後、沈降しているモレキュラーシーブを除いて水中にストランド状に沈殿させた。得られたポリマーは、沸騰水中で1時間洗浄した後、乾燥した。ポリマーの対数粘度は1.44を示した。
ポリマー10gをNMP30mlに溶解し、ホットプレート上ガラス板に約1000μm厚にキャストして150℃で4時間乾燥してフィルムを得た。得られたフィルムは室温の純水に1時間浸漬した後、2mol/Lの硫酸水溶液に2時間浸漬した。その後、洗浄水が中性になるまでフィルムを純水で洗浄し、空気中に放置して乾燥して、イオン交換膜を得た。得られたイオン交換膜について評価を行った。
実施例2〜3
S−DCDPSとDCBNのモル比、及びキャスト厚みを変更した他は、実施例1と同様にして各種イオン交換膜を作製し評価を行った。
比較例1〜2
S−DCDPSとDCBNのモル比、及びキャスト厚みを変更した他は、実施例1と同様にして各種イオン交換膜を作製し評価を行った。
比較例3〜4
DCBNの代わりに、4,4'−ジクロロジフェニルスルホン(略号:DCDPS)を
用い、S−DCDPSとDCDPSのモル比、及びキャスト厚みを変更した他は、実施例1と同様にして公知の構造で本発明の範囲外の各種イオン交換膜を作製し評価を行った。
比較例5〜6
市販のイオン交換膜であるナフィオン(商品名)112及びナフィオン(商品名)117について各種評価を行った。
実施例及び比較例のイオン交換膜の評価結果を表1に示す。
Figure 0004697385
表1からわかるように実施例1〜3のイオン交換膜は、メタノール水溶液濃度が大きくなっても出力電圧が高く、低下の度合いも小さく優れていることが分かる。それに対して、比較例1のようにイオン交換容量が本発明の範囲よりも小さいイオン交換膜は、電圧低下は小さいが出力電圧の絶対値が低いため好ましくない。また、比較例2のようにイオン交換容量が本発明の範囲よりも大きいイオン交換膜は、出力電圧の絶対値は実施例と同等であるものの出力低下が著しいため好ましくない。また、ポリマー組成の異なり、メタノール透過係数が本発明の範囲外である比較例3や4では、出力低下が大きいか高濃度のメタノール水溶液を用いたときの出力電圧が低いため好ましくない。また、市販のイオン交換膜である比較例5又は6では、出力低下が大きく、また、高濃度のメタノール水溶液を用いたときの出力電圧が実施例に劣るため好ましくない。これらのことから、本発明の実施例のイオン交換膜は、従来の技術である比較例のイオン交換膜に比べて、ダイレクトメタノール形燃料電池に用いたときに、メタノール水溶液濃度を大きくしたときの出力低下が少なく、かつ出力電圧が大きいという利点を有する優れたものであることが分かる。
本発明のイオン交換膜は、ダイレクトメタノール形燃料電池に用いたときに、メタノール水溶液濃度を大きくしたときの出力低下が少なく、かつ出力電圧が大きいという利点を有する優れたものである、モバイル用途等各種の用途で有効に利用可能である。

Claims (4)

  1. 25℃における5mol/Lのメタノール水溶液に対するメタノール透過速度(M)及び透過係数(C)、イオン交換容量(I)、並びに80℃、相対湿度95%RHにおけるプロトン伝導性(σ)が、以下の数式(1)〜(4)を満たし、化学式(4)とともに化学式(5)で示される構成成分を含むポリアリーレンエーテル系化合物からなることを特徴とするイオン交換膜。
    M≦3.0 数式(1)
    C<0.065×(I^3) 数式(2)
    σ≧0.02×(I^3) 数式(3)
    1≦I≦2.3 数式(4)
    M:濃度が5mol/Lのメタノール水溶液に対する25℃でのメタノール透過速度(mmol・m-2・sec-1)
    C:濃度が5mol/Lのメタノール水溶液に対する25℃でのメタノール透過係数(mmol・m-1・sec-1)
    I:イオン交換容量(meq/g)
    σ:80℃、相対湿度95%RHにおける導電率(S/cm)
    Figure 0004697385

    化学式(4)
    Figure 0004697385

    化学式(5)
    ただし、XはH又は1価のカチオン種を示す。
  2. 請求項に記載のイオン交換膜を用いた膜/電極接合体。
  3. 請求項に記載のイオン交換膜を用いた燃料電池。
  4. メタノールを燃料とすることを特徴とする請求項に記載の燃料電池。
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